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特開2023-31298溶融シリカからの慣性センサ用MEMS構造の製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031298
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】溶融シリカからの慣性センサ用MEMS構造の製造
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/5783 20120101AFI20230301BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20230301BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
G01C19/5783
B81C1/00
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132171
(22)【出願日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】21275116
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】508296554
【氏名又は名称】アトランティック・イナーシャル・システムズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Atlantic Inertial Systems Limited
【住所又は居所原語表記】Clittaford Road, Southway, Plymouth, PL6 6DE, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ポール フェル
(72)【発明者】
【氏名】イアン マイケル スターランド
(72)【発明者】
【氏名】トレーシー アン ホーク
【テーマコード(参考)】
2F105
3C081
【Fターム(参考)】
2F105BB15
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA21
3C081BA22
3C081BA32
3C081BA41
3C081BA48
3C081BA54
3C081BA55
3C081BA75
3C081CA02
3C081CA05
3C081CA14
3C081CA15
3C081CA17
3C081CA21
3C081CA32
3C081CA33
3C081DA03
3C081DA05
3C081DA06
3C081DA30
3C081DA43
3C081EA02
(57)【要約】
【課題】溶融シリカMEMSデバイスを形成するための溶融シリカに対する処理技術を改善する。
【解決手段】溶融シリカから慣性センサ用MEMS構造を形成するための方法は、溶融シリカ基板(400)の第1の表面の1つ以上の選択領域上に伝導層(401)を堆積させることと、溶融シリカ基板(400)の領域を、レーザ照射によって、慣性センサ用MEMS構造の特徴物を規定するパターンで照明することと、を含む。マスキング層(404)を、少なくとも、伝導層(401)を堆積させた溶融シリカ基板(400)の第1の表面の1つ以上の選択領域上に堆積させることを、溶融シリカ基板(400)の照明領域が露出したままとなるように行う。溶融シリカ基板(400)の露出領域の第1のエッチングを行って、慣性センサ用MEMS構造の特徴物(415)を規定するパターンを選択的にエッチングする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融シリカから慣性センサ用MEMS構造を形成するための方法であって、
溶融シリカ基板の第1の表面の1つ以上の選択領域上に伝導層を堆積させることと、
前記溶融シリカ基板の領域を、レーザ照射によってあるパターンで照明することであって、前記パターンは前記慣性センサ用MEMS構造の特徴物を規定する、前記照射することと、
少なくとも、前記伝導層を堆積させた前記溶融シリカ基板の前記第1の表面の前記1つ以上の選択領域上に、マスキング層を堆積させることであって、前記マスキング層の堆積は、前記溶融シリカ基板の前記照明領域が露出したままとなるように行う、前記堆積させることと、
前記溶融シリカ基板の前記露出領域の第1のエッチングを行って、前記慣性センサ用MEMS構造の特徴物を規定する前記パターンを選択的にエッチングすることと、を含む方法。
【請求項2】
前記レーザ照射は円偏光を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2のエッチングを行うことをさらに含み、前記第2のエッチングの継続時間は前記第1のエッチングよりも著しく短い、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パターンは前記慣性センサ用MEMS構造の特徴物を3次元で規定する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記伝導層は少なくとも1つのアライメント要素を含み、前記方法は、前記少なくとも1つのアライメント要素を用いてレーザ照射の供給源を位置合わせするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
溶融シリカを含む支持基板に前記MEMS構造を接合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記伝導層を堆積させることは、慣性センサにおける検知動作を可能にするために前記MEMS構造の前記伝導層内にトランスデューサを形成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
慣性センサ用MEMS構造であって、
溶融シリカ基板であって、平面振動構造と、剛性マウントと、複数の従順な支持体であって、前記平面振動構造と前記剛性マウントとの間を延びて前記平面振動構造をXY平面内で支持することにより、前記平面振動構造が前記剛性マウントに対して前記XY平面内で振動できるようにする前記複数の従順な支持体と、を含む前記溶融シリカ基板と、
前記溶融シリカ基板の第1の表面の1つ以上の選択領域上に形成された伝導層と、を含み、
前記伝導層は、前記平面振動構造上に配列されて前記XY平面内で電気的に接続された複数のトランスデューサを規定し、前記複数のトランスデューサは、使用時に、前記平面振動構造に面内電気励起を印加して前記電気励起に応じて前記平面振動構造が前記XY平面内で振動するようにし、前記XY平面内での前記平面振動構造の振動から生じる面内の動きを検知する、MEMS構造。
【請求項9】
前記トランスデューサは、前記平面振動構造の表面上に形成された伝導性トラッキングを含む、請求項8に記載のMEMS構造。
【請求項10】
前記伝導層は第1の伝導層と第2の圧電材料層とを含む、請求項8に記載のMEMS構造。
【請求項11】
前記平面振動構造、剛性の外部マウント、及び複数の従順な支持体を含む前記MEMS構造の特徴物を規定する選択的レーザエッチングプロセスの間に用いるように前記伝導層内に形成された少なくとも1つのアライメント要素をさらに含む、請求項8に記載のMEMS構造。
【請求項12】
前記MEMS構造に接合された支持基板をさらに含み、前記支持基板は溶融シリカを含む、請求項8に記載のMEMS構造。
【請求項13】
前記溶融シリカ基板は円形である、請求項8に記載のMEMS構造。
【請求項14】
前記溶融シリカ基板から形成された支持構造であって、前記マウントから前記XY平面の外へ延びて前記XY平面の下方のスペースを規定する前記支持構造をさらに含む、請求項8に記載のMEMS構造。
【請求項15】
請求項14に記載の前記MEMS構造を含む慣性センサであって、前記平面振動構造は環状共振器であり、
(i)前記慣性センサは、さらに磁気回路を含む誘導慣性センサであり、前記磁気回路は、前記平面振動構造の前記XY平面に垂直な磁界を発生させるように構成されているか、または
(ii)前記慣性センサは圧電慣性センサである、慣性センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶融シリカから形成された慣性センサ用MEMS構造、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS慣性センサは、最も一般的にはシリコンウェハ基板から製造される。近年、慣性センサ応用にとって有用な材料特性を有する溶融シリカからのMEMSデバイスの製造を可能にする技術の開発に多大な努力が払われている。詳細には、溶融シリカは熱膨張係数が小さい。これは機械的安定性の目的に対して特に有益である。この特性は、共振器デバイスにおいて非常に低レベルの熱弾性減衰を達成する上で、またより典型的なシリコンバージョンと比べたときに非常に高いQ値を有する共振器構造の実現を可能にする上で、重要な要因である。高いQ値は、コリオリジャイロスコープにとって特に有用である。なぜならば、それは、1/Qまたは1/Qとしてスケール変更するバイアス誤差の多くを駆動する主な要因だからである。
【0003】
MEMSデバイスは通常、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)技術を用いてシリコン基板から製造する。近年、誘導結合プラズマ(ICP)の使用に基づいて溶融シリカ基板からMEMSデバイスを製造する同様の技術の開発に多大な努力が払われている。これらは、溶融シリカ基板を通して滑らかな側壁を伴う高アスペクト比のトレンチをエッチングする技術の開発に焦点が置かれている。対象とする応用の多くでは、100μm厚を超える基板を用いる必要がある。
【0004】
しかし、溶融シリカのICPエッチングはいくつかの欠点を示している。たとえば、溶融シリカは非常に弾力性が高い材料であるため、エッチレート(通常は最大で1μm/分)がシリコンの場合よりも著しく遅くなる傾向がある。用途によっては20μm/分を超えるレートが達成されている。溶融シリカのエッチングを通して現時点で達成可能なトレンチアスペクト比も、シリコンの場合よりもいくらか低い。現時点で、溶融シリカの場合は5:1~10:1のトレンチアスペクト比が達成可能であるが、シリコンの場合は最大値が100:1を超える可能性がある。
【0005】
溶融シリカのICPエッチングは、適合性のあるマスキング材料の特性によっても限定される。それによって、シリコンのDRIEに使用するものと比べて選択性が限定されるだけである。選択性が低いため、同等なエッチング深さでは、溶融シリカの場合の方がシリコンエッチングの場合よりも厚いマスキング層が必要である。このように選択性が低いことは、エッチング深さ要求が増すにつれてますます問題となる。なぜならば、マスキング層の厚さは、エッチングする必要がある溶融シリカ基板の厚さのかなりの割合となる必要があるからである。この結果、熱膨張係数(c.t.e.)が、溶融シリカ(c.t.e.は約0.5ppm)と(通常は金属製の)マスク材料(c.t.e.は著しく高い(たとえばAlのc.t.e.は約21-24ppm))との間で大きく不一致であることに起因する問題が生じる可能性がある。大きく不一致であることによって、メタライズされたウェハー内に著しい応力が誘起され得るため、結果としてウェハー湾曲が引き起こされ、そのため、たとえばウェハーをクランプするときに問題が生じる可能性がある。
【0006】
また溶融シリカのICPエッチングによって、スパッタリングされたシリカ材料の再堆積も生じ得るため、エッチング欠陥が生じる可能性がある。この材料の堆積物はエッチングチャンバの側壁上にも蓄積し得るため、性能が低下し、頻繁なクリーニングを必要とする可能性がある。この結果、機器可用性が制限され、したがって溶融シリカデバイスの全体的な生産効率が制限される。
【0007】
したがって、溶融シリカウェハー内に細くて高アスペクト比の垂直トレンチを作製して、平面共振器構造を作製することができ、ウェハー反りに伴う問題を回避して高生産性を有する処理技術が求められている。
【0008】
本開示は、溶融シリカMEMSデバイスを形成するための溶融シリカに対する処理技術の改善に関する。
【発明の概要】
【0009】
本開示の第1の態様によれば、溶融シリカから慣性センサ用MEMS構造を形成するための方法であって、
溶融シリカ基板の第1の表面の1つ以上の選択領域上に伝導層を堆積させることと、
溶融シリカ基板の領域を、レーザ照射によってあるパターンで照明することであって、パターンは慣性センサ用MEMS構造の特徴物を規定する、照明することと、
少なくとも、伝導層を堆積させた溶融シリカ基板の第1の表面の1つ以上の選択領域上に、マスキング層を堆積させることであって、マスキング層の堆積は、溶融シリカ基板の照明領域が露出したままとなるように行う、堆積させることと、
溶融シリカ基板の露出領域の第1のエッチングを行って、慣性センサ用MEMS構造の特徴物を規定するパターンを選択的にエッチングすることと、を含む方法が提供される。
【0010】
本開示によれば、溶融シリカ基板をレーザ照射で照明することによって、溶融シリカ基板の照明領域を、MEMS構造の物理的特徴物を規定するパターンで選択的にエッチングすることができる。これにより、溶融シリカから、慣性センサ用MEMS構造であって、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)及び誘導結合プラズマ(ICP)エッチングなどの従来技術を用いて実現できるものよりも高いアスペクト比を有する物理的特徴物を有するものを製造することができる。溶融シリカから形成されるMEMS構造は、シリコンから形成される同様のMEMS構造のものよりも著しく低いレベルの熱弾性減衰を示し、はるかに高いQ値を実現することができる。MEMS構造の特徴物には、慣性測定で用いる櫛形構造または振動構造を含めてもよい。
【0011】
また本明細書で説明する方法は、他の手段では容易に実現することができないMEMSダイ形状の作製に適用することができて有利である。これは、レーザによって照明されるパターンを変えて、MEMS構造を囲む溶融シリカ基板内にダイ形状が規定されるようにすることによって、実現することができる。たとえば、MEMS構造が環状共振器である場合、MEMSダイ形状に起因して生じる非対称を効果的になくす最適形状は、環状共振器の対称性に一致する円形ダイである。こうして、いくつかの例では、パターンはさらに、MEMS構造を囲む溶融シリカ基板内に円形MEMSダイを規定する。このような例では、溶融シリカ基板の露出領域の第1のエッチングを行うことによって、慣性センサ用MEMS構造及び円形MEMSダイの特徴物を規定するパターンを選択的にエッチングする。
【0012】
レーザパラメータは、レーザ照射による照明によって、溶融シリカ基板のアブレーションを引き起こすことなく溶融シリカ基板の材料構造を変更するように、選択してもよい。レーザによって生じる材料構造の変更には、溶融シリカ基板内のレーザ照射を受けた領域に微小なクラックが形成されることが含まれ得る。微小なクラックの形成によって、溶融シリカ基板のエッチングが促進され、エッチレートの増加が起きる。エッチレートが増加する量はクラックの並びに依存し得る。一様なエッチレートを実現するために、クラックをランダムに並べることが好ましい。このようなランダムに並んだクラックは、円偏光を用いるときに形成され得る。したがって、いくつかの例ではレーザ照射は円偏光を含む。
【0013】
いくつかの例では第1のエッチングを行うことは、溶融シリカ基板を化学エッチング液に少なくとも部分的に浸漬することを含む。いくつかの例では化学エッチング液はKOHまたはHFである。しかし、いくつかの例では、第1のエッチングを行うことは、溶融シリカ基板の超音波加工を行うことを含み得る。いくつかの例では、第1のエッチングを行うことは、溶融シリカ基板をパウダーブラスティングすることを含み得る。
【0014】
いくつかの例では、本方法はさらに、第2のエッチングを行うことを含む。第2のエッチングの継続時間は第1のエッチングよりも著しく短い。短い継続時間の第2のエッチングを行うことによって、第1のエッチングの結果として生じ得る表面上の表面粗さが減り得る。したがって、第1のエッチングの後にHFエッチング中で短い第2のエッチングを行うことによって、第1のエッチングのみの後で可能なものよりも均一な表面が実現し得る。第2のエッチングを行うことは、第1のエッチングをKOHを用いて行った場合か、または第1のエッチングを溶融シリカ基板の超音波加工またはパウダーブラスティングを用いて行った場合に、特に有用であり得る。なぜならば、これらの方法によって、高レベルの表面粗さがもたらされ得るからである。
【0015】
いくつかの例では、レーザを溶融シリカ基板上でその位置及び/または焦点距離を調整することによってスキャンして、溶融シリカ基板の材料構造を必要なパターンで変更してもよい。したがって、いくつかの例では、溶融シリカ基板をレーザ照射によってあるパターンで照明することは、レーザの焦点を調整することを含む。
【0016】
レーザは、溶融シリカが光学的に透明である波長を有するように、選択してもよい。したがって、レーザの焦点を、溶融シリカ基板内にあるように調整してもよい。このように、パターンを、溶融シリカ基板の深さの全体にわたって特徴物を規定するように選択してもよい。したがって、いくつかの例では、パターンは慣性センサ用MEMS構造の特徴物を3次元で規定する。特徴物は、慣性感知機能をもたらすMEMS構造の物理的特徴物であってもよい。
【0017】
いくつかの例では、MEMS構造の特徴物は、慣性センサに対する移動構造、たとえば、櫛形フィンガー、または慣性センサに対する振動構造、たとえば、円筒、チューニングフォーク、ディスク、リングなどを規定してもよい。1組の例では、特徴物は、平面振動構造と、剛性の外部マウントと、複数の従順な支持体であって、平面振動構造と剛性の外部マウントとの間を延びて平面振動構造をXY平面内で支持する複数の従順な支持体と、を含む。平面振動構造は、たとえば環状共振器であってもよい。
【0018】
いくつかの例では、伝導層は、溶融シリカ基板上に形成されたアライメント要素を含んでいてもよい。アライメント要素を用いてレーザパターンを正確に位置合わせして、伝導層内に形成された伝導性要素が、パターンによって規定された溶融シリカ基板の下に横たわる特徴物と位置合わせされることを確実にしてもよい。したがって、いくつかの例では、伝導層は少なくとも1つのアライメント要素を含み、本方法はさらに、少なくとも1つのアライメント要素を用いてレーザ照射源を位置合わせするステップを含む。
【0019】
いくつかの例では、MEMS構造を基板に接合して、MEMS構造を、たとえばパッケージされた慣性センサ内で支持してもよい。いくつかの例では、本方法は、MEMS構造を支持基板に接合することをさらに含んでいてもよい。このような例では、基板を、MEMS構造と基板との間の熱膨張係数の差を最小限にするように選択してもよい。これは、MEMS構造と同じ材料から基板を形成することによって実現し得る。したがって、いくつかの例では、支持基板は溶融シリカを含む。
【0020】
いくつかの例では、MEMS構造及び支持構造を共通の溶融シリカ基板から形成することを、共通の溶融シリカ基板が適切な寸法を有するという条件で行ってもよい。このような例では、本方法はさらに、MEMS構造に対する、下に横たわる支持構造を、たとえば、共通の溶融シリカ基板のエッチングによって形成することを含んでいてもよい。支持構造を、たとえば慣性センサパッケージ内のMEMS構造の付近に追加コンポーネントを位置させることができるように、形成してもよい。支持構造を、たとえば溶融シリカ基板の真下に突出部を形成することによって、MEMS構造の選択領域の真下にコンポーネントを位置させられ得るように、形成してもよい。したがって、いくつかの例では、本方法はさらに、溶融シリカ基板から支持構造を形成することであって、支持構造は溶融シリカ基板の第1の表面に実質的に垂直な方向に延びる、形成することを含む。
【0021】
伝導層の選択領域上にマスキング層を堆積させることによって、MEMS構造の特徴物を覆う伝導性領域が形成される。さらに、マスキング層を、これらの選択領域が溶融シリカ基板の第1の表面上に1つ以上の伝導性要素を規定するように成形してもよい。前述したアライメント要素を伝導性要素の一部として形成してもよい。伝導性要素は、慣性センサ内に任意の所望の機能をもたらすことを目的としてもよい。たとえば、1つ以上の伝導性要素が、慣性センサにおける電気接続を可能にするための伝導性トラックを形成してもよい。たとえば、1つ以上の伝導性要素が、慣性センサにおける検知及び/または駆動動作を可能にするためにトランスデューサを形成してもよい。
【0022】
慣性センサ内でMEMS構造が効果的に機能するように、トランスデューサをMEMS構造の表面上に形成して、トランスデューサが検知及び/または駆動機能を行えるようにしてもよい。慣性センサ内で用いるとき、トランスデューサを、電気励起を印加し及び/またはMEMS構造の動きを検知するように構成してもよい。したがって、いくつかの例では、伝導層を堆積させるステップは、慣性センサにおける(たとえば、少なくとも)検知動作を可能にするためにMEMS構造の伝導層内にトランスデューサを形成することを含んでいてもよい。これは、たとえば、選択領域上への伝導層の好適なパターニングによって実現され得る。
【0023】
いくつかの例では、MEMS構造は、誘導検知を用いる慣性センサ内で用いるように構成されている。このような例では、MEMS構造上に形成されたトランスデューサは、磁界中のトランスデューサ(したがって、MEMS構造)の動きによって誘起される電圧の変化をトランスデューサを用いて検知できるように、伝導性トラッキングを含んでいてもよい。このような例では、伝導層内にトランスデューサを形成することは、溶融シリカ基板の第1の表面の選択領域のうちの少なくとも1つの上に伝導性トラッキングを形成することを含んでもよい。
【0024】
いくつかの例では、MEMS構造は、圧電検知及び力付与を用いる慣性センサ内で用いるように構成されている。このような例では、MEMS構造上に形成されたトランスデューサは圧電材料を含んで、電荷流がトランスデューサのいくつかの中にそれらの変形に応じて誘起されることができるようにしてもよい。トランスデューサが圧電材料を含んでいると、トランスデューサの動きによって電荷流が誘起され得て、MEMS構造の動きを検出することができる。またMEMS構造は、圧電トランスデューサを分離するように電圧が印加されたときに力を加えるように構成されている。したがって、いくつかの例では、伝導層を堆積させることは、圧電材料層を堆積させることをさらに含み、伝導層内にトランスデューサを形成することは、溶融シリカ基板の第1の表面の選択領域のうちの少なくとも1つの上に圧電電極を形成することを含む。圧電電極は、検知及び/または力付与電極として用いるように構成してもよい。
【0025】
本開示の第2の態様によれば、慣性センサ用MEMS構造であって、
溶融シリカ基板であって、平面振動構造と、剛性マウントと、複数の従順な支持体であって、平面振動構造と剛性マウントとの間を延びて平面振動構造をXY平面内で支持することにより、平面振動構造が剛性マウントに対してXY平面内で振動できるようにする複数の従順な支持体と、を含む溶融シリカ基板と、
溶融シリカ基板の第1の表面の1つ以上の選択領域上に形成された伝導層と、を含み、
伝導層は、平面振動構造上に配列されてXY平面内で電気的に接続された複数のトランスデューサを規定し、複数のトランスデューサは、使用時に、平面振動構造に面内電気励起を印加して電気励起に応じて平面振動構造がXY平面内で振動するようにし、面内を検知する、MEMS構造が提供される。
【0026】
本明細書で開示するMEMS構造は、溶融シリカから形成されて有利である。溶融シリカは、シリコンから形成される同等のデバイスと比べて材料特性の向上をもたらす。溶融シリカは、シリコンよりも熱膨張係数が小さいため、機械的安定性の向上をもたらす。本明細書で開示する溶融シリカMEMS構造は、シリコンから形成される同様のMEMS構造のものよりも著しく低いレベルの熱弾性減衰を示し、はるかに高いQ値を実現することができる。溶融シリカ基板上に伝導層を形成することによって、トランスデューサを面内配置で規定することができ、MEMS構造を単層で、単一の溶融シリカ基板から形成することができる。この面内配置は、従来技術の溶融シリカMEMS構造(たとえば、WO2017/025752に記載されたもの)とは異なる。この文献では、容量性ジャイロスコープであって、第1の層の平面リング上に形成された第1の組の電極トラックを含み、第1の組の電極トラックは、第2の層の対向面上に形成された第2の組の軸方向にずれた電極と互いに噛み合い、第2の組の電極は、平面リング構造に垂直な軸方向においてギャップだけリングから離間に配置されている、容量性ジャイロスコープについて説明している。
【0027】
電気励起を印加してMEMS構造の動きを検知するように配置されたトランスデューサの性質は、MEMS構造を用いる慣性センサのデザインに依存し得る。たとえば、MEMS構造が誘導検知を用いた慣性センサ用である場合、トランスデューサを、MEMS構造が圧電検知及び力付与を用いた慣性センサ用である場合とは異なって形成してもよい。
【0028】
したがって、いくつかの例では、MEMS構造は、誘導検知を用いる慣性センサ内で用いるように構成されている。このような例では、トランスデューサは、平面振動構造の表面上に形成された伝導性トラッキングを含んでいてもよい。たとえば、トランスデューサは、XY平面内の平面振動構造の表面上に形成された誘導電極の組を含んでいてもよい。このような例では、トランスデューサを用いて、磁界中のトランスデューサ(したがって、MEMS構造)の動きによって誘起される電圧の変化を検知してもよい。
【0029】
いくつかの例では、MEMS構造は、圧電検知及び力付与を用いる慣性センサ内で用いるように構成されている。このような例では、伝導層は第1の伝導層と第2の圧電材料層とを含んでいてもよい。たとえば、トランスデューサは、XY平面内の平面振動構造の表面上に形成された圧電電極の組を含んでいてもよい。いくつかのこのような例では、MEMS構造はさらに、第3の伝導層(好ましくは、第2の圧電材料層の第1の伝導層とは反対側に配置されている)を含んでいてもよい(すなわち、圧電材料層は2つの他の伝導(たとえば金属)層の間に挟まれている)。第1の伝導層、第2の圧電材料層、及び第3の伝導層を溶融シリカ基板上に積層配置で形成してもよい。圧電材料層を含む例では、電荷流が、MEMS構造上に形成されたトランスデューサのいくつかの中に、それらの変形に応じて誘起される可能性がある。このような電荷流は、トランスデューサの動きによって誘起され得て、MEMS構造を含む慣性センサにおいてMEMS構造の動きを検出することができる。このような例では、MEMS構造のトランスデューサを、圧電トランスデューサを分離するように電圧が印加されたときに力を加えるように構成してもよい。
【0030】
いくつかの例では、MEMS構造はさらに、平面振動構造、剛性の外部マウント、及び複数の従順な支持体を含むMEMS構造の特徴物を規定するために、選択的レーザエッチングプロセスの間に用いるように伝導層内に形成された少なくとも1つのアライメント要素を含む。このような例では、伝導層が形成された領域がMEMS構造の特徴物と正しく位置合わせされることを確実にするように、アライメント要素を用いてレーザパターンを正確に位置合わせしてもよい。たとえば、アライメント要素を用いて、伝導層内に規定されたトランスデューサが溶融シリカ基板上の他の場所ではなくて平面振動構造上に配置されることを確実にしてもよい。
【0031】
いくつかの例では、MEMS構造を基板に接合して、MEMS構造を、たとえばパッケージされた慣性センサ内で支持してもよい。したがって、いくつかの例では、MEMS構造は、MEMS構造に接合された支持基板を含んでいてもよい。このような例では、支持基板を、MEMS構造と基板との間の熱膨張係数の差を最小限にするように選択してもよい。これは、MEMS構造と同じ材料から基板を形成することによって実現し得る。したがって、いくつかの例では、支持基板は溶融シリカを含む。
【0032】
陽極接合を用いて溶融シリカの層を接着することは可能ではないため、MEMS構造を支持基板に接合する例では、代替的な接合プロセスを用いなければならない。したがって、いくつかの例では、接着性材料の介在層によって支持基板をMEMS構造に接合する。いくつかのこのような例では、接着性材料の介在層はエポキシ接着層を含んでいてもよい。
【0033】
いくつかの例では、MEMS構造及び支持構造の両方を共通の溶融シリカ基板から形成することを、共通の溶融シリカ基板が適切な寸法を有するという条件で行ってもよい。このような例では、単一の共通の溶融シリカ基板を、平面振動構造とその下に横たわる支持構造との両方を含む溶融シリカ基板を形成するように処理してもよい。支持構造を、たとえば慣性センサパッケージ内のMEMS構造の付近に追加コンポーネントをより容易に位置させることができるように、形成してもよい。たとえば、誘導タイプの慣性センサでは、磁気回路の1つ以上の部品(たとえば、環状の上部ポールピース、円板形状の下部ポールピース、または円板形状の永久磁石)を収容するために、スペースが必要であり得る。したがって、支持構造を、たとえば溶融シリカ基板の真下に突出部を形成することによって追加コンポーネントを配置することができるスペースがMEMS構造のXY平面の下方に存在するように、形成してもよい。したがって、いくつかの例では、溶融シリカ基板は、溶融シリカ基板から形成された支持構造であって、マウントからXY平面の外へ延びてXY平面の下方のスペースを規定する支持構造を含んでいる。
【0034】
平面振動構造は、MEMS構造を用いる慣性センサのデザインに応じて種々の形態を取り得る。いくつかの例では、たとえば、MEMSセンサが角速度センサ用である場合、平面振動構造は環状共振器を含んでいてもよい。代替的な例として、MEMS構造が加速度計用である場合、平面振動構造は、複数の突出部を含む吊るされた試験質量を含んでいてもよい。複数の突出部は、マウントから延びる複数の対応する突出部と互いに噛み合っている。
【0035】
慣性センサ用MEMS構造が環状共振器である場合、MEMSダイ形状に起因して生じる非対称を効果的になくす最適形状は、環状共振器の対称性に一致する円形ダイである。したがって、いくつかの例では、溶融シリカ基板は円形であってもよい。このような円形の溶融シリカ基板を、前述で開示した方法を用いて形成してもよい。いくつかのこのような例では、支持基板及び/または支持構造は、MEMS構造内の応力をさらに減らすために円形であってもよい。
【0036】
本開示の別の態様によれば、前述したようなMEMS構造を含む誘導慣性センサであって、トランスデューサは、平面振動構造の表面上に形成された伝導性トラッキングを含み、さらに、平面振動構造のXY平面に垂直な磁界を発生させるように構成された磁気回路を含む誘導慣性センサが提供される。
【0037】
いくつかの例では、誘導慣性センサは、複数のトランスデューサに対するXY平面内の複数の電気接続を含んでいる。
【0038】
本開示の別の態様によれば、前述したようなMEMS構造を含む圧電慣性センサであって、トランスデューサは、XY平面内の平面振動構造の表面上に形成された圧電電極の組を含む圧電慣性センサが提供される。
【0039】
いくつかの例では、圧電慣性センサは、複数のトランスデューサに対するXY平面内の複数の電気接続を含む。
【0040】
少なくともいくつかの例では、慣性センサは、複数の非容量性トランスデューサに対するXY平面内の複数の電気接続を含む。
【0041】
本明細書で説明するいずれかの態様または例の特徴物を、必要に応じて、本明細書で説明するいずれかの他の態様または例に適用してもよい。種々の例または一連の例を参照する場合、これらは必ずしも別個ではなく、重複する場合があることを理解されたい。
【0042】
次に1つ以上の非限定的な例について、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】従来技術から知られているリングMEMS構造のシリコン層を概略的に例示する。
図2】従来技術による完全に組み立てられた誘導ジャイロスコープを概略的に例示する。
図3】従来技術によるシリコンから誘導ジャイロスコープを形成するための典型的な製造プロセスを示す。
図4】本開示の第1の例による溶融シリカから誘導ジャイロスコープを形成するための製造プロセスを示す。
図5】本開示の第2の例による溶融シリカから誘導ジャイロスコープを形成するための製造プロセスを示す。
図6A】本開示の第3の例による溶融シリカから圧電ジャイロスコープを形成するための製造プロセスを示す。
図6B】本開示の第3の例による溶融シリカから圧電ジャイロスコープを形成するための製造プロセスを示す図である。
図7】本開示の例によるリングMEMS構造の溶融シリカ層を概略的に例示する。
図8】本開示の例による接続構造を伴う溶融シリカMEMSのウェハーの一部を概略的に例示する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1に、従来技術から知られている慣性センサ用の環状のMEMS構造のシリコン層1の平面図を示す。環状のMEMS構造のシリコン層1は、リング共振器構造2の形態の平面振動構造を含み、その上面には、伝導性トラッキングを含む複数のトランスデューサ5が特定の場所に形成されている。リング共振器構造2は、複数の従順な脚部構造3によって、剛性マウント4に柔軟に取り付けられている。
【0045】
シリコン層1を含む完全に組み立てられた誘導ジャイロスコープ12の概略断面図を、図2に示す。シリコン層1の剛性マウント4は、ガラスから形成された基台構造6に接合されている。基台構造6自体は、やはりガラスから形成された支持構造7に接合されている。磁気回路8(円板形状の下部ポールピース11、円板形状の永久磁石10、及び環状の上部ポールピース9を含む)も、支持構造7に接合されている。
【0046】
磁気回路8は、リング共振器構造2に沿ってリングの平面に垂直にフォーカスされた磁界が得られるように配置されている。リング共振器構造2の特定のセグメントの上面上のトランスデューサ5に交流信号を加えてローレンツ力を印加し、リング共振器構造2の振動運動を制御する。磁界内のリング共振器構造2の部分の動きによって、リング共振器構造2の残りのリングセグメント内の動きを示す信号が誘起される。
【0047】
リング共振器構造2の特定のセグメントにおいて交流信号を印加することによって、リング共振器構造2を1次の振動モードで振動させることができる。角速度Ωにおける回転が、リング共振器構造2の平面に垂直な軸の周りに印加されると、コリオリ力がエネルギーを2次の振動モードに結合する。振動の振幅は、印加される角速度に比例する。磁界中のリング共振器構造2の結果として得られる動きによって、残りのリングセグメント内に信号が誘起される。この信号を用いて、印加された回転速度を決定することができる。
【0048】
従来技術によりシリコン基板から完全に組み立てられた誘導ジャイロスコープ12を形成するための典型的な製造プロセスを、図3に例示する。
【0049】
ステップ101において、製造プロセスは、厚さ約100μmを有するシリコン基板200から始まる。ステップ102において、シリコン基板200の上面上に薄い絶縁酸化物層201を形成する。薄い絶縁酸化物層201は、真下の伝導性シリコン基板200に以後に接地できるように特定の場所に設けられた孔202を含む。
【0050】
薄い絶縁酸化物層201を形成したら、次に薄い金属層203を薄い絶縁酸化物層201及び孔202上に堆積させる(ステップ103)。薄い金属層203をパターニングして、伝導性要素(たとえば、トランスデューサ214及び完成デバイス用の電気接続)を形成する。次にフォトレジスト層(図示せず)を薄い金属層203上に堆積し(ステップ104)、パターニングして、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)プロセスによってその後にエッチングすべき領域を規定する。このステップでは、エッチングを行って誘導ジャイロスコープ12のMEMS構造を規定する前に、シリコン基板200を支持ウェハー(図3には示さず)に一時的に接合する。このエッチングステップによって、シリコン基板200の全厚を通して領域205内に細くて(10μm~30μm)高アスペクト比のトレンチ(通常は10:1~3:1)を形成して、リング共振器構造204、剛性の外部フレーム206、及び複数の従順な支持体(図3には示さず)を規定し、リング共振器構造204を剛性の外部フレーム206に付ける。
【0051】
その後に、シリコン層200を支持ウェハーから取り除く。その時点で、従順な支持体間のシリコン部分とリング共振器構造204内部の部分とは支持されていないため、取り除かれる。
【0052】
ステップ105において、フォトレジスト層を取り除いた後で、シリコン基板200を基台構造207に陽極接合する。基台構造207は、リング共振器204及び従順な支持体の位置の下に空洞が設けられるように、また磁気回路213のコンポーネントを配置するための貫通孔が設けられるように、構成されている。
【0053】
ステップ106において、支持構造208(その上面に円板形状の下部ポールピース210がマウントされている)を、薄いエポキシ層209によって、基台構造207及び以前に陽極接合したシリコン基板200に接合して、円板形状の下部ポールピース210が、シリコンリング共振器構造204及び従順な支持体の下の基台構造207内にある孔の中心に位置合わせされるようにする。
【0054】
ステップ107において、磁気回路213の残りのコンポーネント(円板形状の永久磁石211及び環状の上部ポールピース212を含む)をその後に接着剤で接合して、デバイス組立てを完了し、図2に示すものと同等の誘導ジャイロスコープ12を完成させる。
【0055】
図3に示す従来技術プロセスを、溶融シリカからのMEMS構造の製造において実施することは、シリコンからの場合よりも著しく困難である。なぜならば、十分に高いアスペクト比を伴う特徴物を実現するために、厚い金属マスキング層を用いる必要があるからである。このような層を付与すると、溶融シリカ基板内に著しい応力が生じて、ウェハー反りを引き起こす場合がある。加えて、図3に示すプロセスを溶融シリカにそのまま適用することはできない。なぜならば、溶融シリカとシリコンとの間の材料特性の違いに起因して、プロセスに対する変更が必要だからである。たとえば、溶融シリカは、シリコンとは異なり、絶縁材料であるため、酸化物層の形成は必要ではない。さらに、シリコン基板200とガラス基台構造207とを共に接合するために用いる陽極接合プロセスは、ガラス中のNa+イオンの存在に依拠するものだが、溶融シリカを用いるときには適用できない。
【0056】
しかし、出願人らは、図3に示すものに代わる処理ステップを用いて、溶融シリカから、シリコンのDRIEを用いて実現されるものと同等のアスペクト比を伴う慣性センサ用MEMS構造を製造することができると認識している。溶融シリカからこのような構造を形成することは、シリコンから形成される同様のMEMS構造のものよりも著しく低いレベルの熱弾性減衰を示し、はるかに高いQ値を実現することができるという利点がある。
【0057】
詳細には、出願人らは、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)及び誘導結合プラズマ(ICP)エッチングなどの従来技術を用いて溶融シリカに対して現時点で達成できるものよりも高いアスペクト比を伴う慣性センサ用の溶融シリカMEMS構造を製造するために用いることができる選択的レーザエッチング(SLE)プロセスを開発した。
【0058】
本明細書で説明するSLEプロセスは、溶融シリカ基板の選択領域上に超短パルスレーザビームをフォーカスすることを伴う。この領域は次に、エッチング液を用いて優先的に取り除くことができる。以下で説明するように、溶融シリカ基板上でレーザをスキャンする、MEMS構造の特徴物を照明パターンによって規定することができる。溶融シリカ基板はその後、化学エッチング液を用いて選択的に取り除く。たとえば、レーザを、共振器構造のリング及び脚部特徴物の縁部の周りにトレンチを規定するパターンでスキャンすることができる。これをその後、化学エッチング液を用いて取り除いて、規定された特徴物を3次元で残すことができる。溶融シリカは、このプロセスに対して用いるレーザの波長において透明であるが、高強度であるために、レーザ照射は、非線形吸収プロセスに起因して焦点で吸収される。これによって、材料内の非常に局所的な領域において急速な内部加熱及びその後の急冷が誘起される。この結果、数ミクロンの焦点サイズ上で溶融シリカ材料が永続的に変更される。
【0059】
使用するレーザのパラメータは、溶融シリカ基板の材料構造の変更(アブレーションではない)が起こるように、選択する。2種類の材料変更が観察される。これらのうち第1は、レーザの焦点領域の付近での密度の増加に対応付けられる材料構造内の変化である。第2は、同じ領域での微小なクラックの形成である。これらの変化の結果として、レーザ処理にさらされた領域内の溶融シリカは、好適なエッチング液(たとえば、HFまたはKOH溶液)内でのエッチングの影響を、初期状態の未変更のバルク溶融シリカ材料と比べて著しく増大したエッチレートで受けやすくなる。処理済みと未処理の溶融シリカの比較エッチレート(選択性)は、100:1(HF)及び>1000:1(KOH)の高さであり得る。
【0060】
レーザによって形成されたクラックは、エッチング液に簡単にアクセスして、エッチングすべき領域内に侵入できるようになるため、有用である。しかし、クラックの特性はレーザの偏光に依存している。直線偏光レーザを用いた場合、クラックの方位は、偏光方向及びレーザビーム方向に垂直になる傾向がある。円偏光の場合、クラック方位は本質的に、よりランダムである。エッチング液の浸透は主に、クラックの性質に依存している。慣性センサ用のMEMSデバイスに関して、何らかの特定の横方向にクラックが並ぶことは、トレンチの方向が共振器構造の周りで変化するために、有害となる可能性がある。したがって、円偏光を用いることが好ましい。円偏光は、ランダムに並んだクラックを生成する。このようなランダムに並んだクラックによって、すべての方向に均一なエッチングが得られ、したがって、結果としてのトレンチ幅(それ故、共振器寸法)が全体構造にわたって均一となる。
【0061】
次に、溶融シリカから慣性センサ用のMEMSデバイスを形成するためのプロセスについて、図4~8を参照して説明する。
【0062】
図4に、本開示の第1の例による溶融シリカ誘導ジャイロスコープ420の製造方法のプロセスフロー図を示す。
【0063】
ステップ301において、プロセスは、厚さ約100μmを有する溶融シリカ基板400から始まる。
【0064】
ステップ302において、伝導性たとえば金属層401を含む伝導層を、溶融シリカ基板400の表面上の選択領域内に堆積させる。堆積は、従来のシリコンデバイスに対して図3のステップ103で示したものと同等の方法で行って、金属層401内に伝導性要素(トランスデューサ414及び完成デバイス用の電気接続401a、401bを含む)が形成されるようにする。しかし、前述したように、溶融シリカは絶縁体であるため、従来のシリコンデバイスの製造で用いた表面酸化物層形成ステップ102は必要ではない。加えて、酸化ケイ素表面層上で行ったメタライゼーションプロセスとは対照的に、溶融シリカ基板400上に形成された金属層401の伝導性要素は、アライメント要素402を含む。アライメント要素402は、リング共振器構造(その機能については後述する)の形態の平面振動構造が形成される場所を囲む外部フレーム領域上に形成される。
【0065】
金属層401内に形成された伝導性要素(たとえば、トランスデューサ414)と、エッチング作製すべきMEMS構造の特徴物(たとえば、リング共振器)との間の正確な位置合わせは重要である。アライメント要素402は、レーザパターンを金属層401のパターンに正確に位置合わせする働きをする。このアライメント要素402は、MEMS構造のバッチ製造に対して特に有用である。なぜならば、金属層401内の伝導性要素は、ウェハーレベルプロセスを用いてパターニングされるが、同じウェハー上の複数のデバイスに対してレーザ処理を連続して行い得るからである。ウェハー上に形成された各MEMS構造上にアライメント要素402を設けることで、各MEMS構造のリング共振器構造と金属層401の伝導性要素401a、401b、414との間の最適なレーザ位置合わせが可能になる。
【0066】
アライメント要素402を用いて、レーザを、金属層401内に堆積された他の伝導性要素401a、401b、414に位置合わせして、表面上で、溶融シリカ基板400の深さを通してスキャンして(ステップ303)、領域403(トレンチを後にエッチングすべき)を規定する。これらのトレンチは、リング共振器415及び従順な脚部(図4には示さず)の特徴物を規定する。従順な脚部は、リング共振器415を、溶融シリカ基板400の残りの部分によって規定されたマウント(すなわち外部フレーム)416に取り付ける。前述したように、レーザ照射は、スキャニング中に焦点で吸収されて、焦点において溶融シリカ基板400の変更を生じさせる。レーザを適切にスキャンすることによって、したがって、リング及び脚部構造の縁部の周りにトレンチを形成すべき領域403を規定して、エッチングの影響をより受けやすくすることができる。
【0067】
溶融シリカ基板400をエッチングして、レーザ照射を受けた材料を優先的に取り除く前に、金属層401内に形成された伝導性要素401a、401b、402、414を、マスキング層によって、レーザ処理された溶融シリカをトレンチ領域403から取り除くために用いるエッチング液から保護しなければならない。これは、以下に概説する2つのプロセスのうちの1つによって実現し得る。
【0068】
第1のプロセス(ステップ304aに示す)では、KOH及びHF耐性の保護コーティング材料404(たとえば、SXAR-PC5000/41、Allresistによって製造)を、溶融シリカ基板400及び金属層401の表面にマスキング層として付与する。こうして、ステップ304aに示すように、金属層401が保護され、トレンチをエッチングすべき領域403が露出するように、レジスト層を堆積及びパターニングする。第1のマスクを用いて金属層401のアライメント要素402を選択的に露出させる一方で、溶融シリカ基板400及び金属層401の残りの部分を保護コーティング材料404によって保護されたままにする。次に、アライメント要素402を用いて第2のマスクを位置合わせする。第2のマスクは、保護コーティング材料404を、エッチングすべきレーザ処理領域を規定するパターンで露出させるために用いる。
【0069】
代替プロセスでは、溶融シリカ基板400の最上部を、単一のマスキング層としての保護コーティング材料404によって完全に保護して、溶融シリカ基板400の下側をエッチング液にさらしたままにする(ステップ304bに示す)。したがって、金属層401内に形成された伝導性要素401a、401b、402、414はエッチングされず、SLE処理された材料を片面エッチングを用いて取り除き得る。このアプローチを用いると、アライメント要素402を露出させることも、保護コーティング材料404の層をパターニングすることも必要でないため、いくつかの処理ステップがなくなる。したがって、このプロセスの不利な点は、エッチングの完了までにより時間がかかることである。しかし、選択性が高いため、垂直に近いトレンチ壁プロファイルが依然として実現され得る。
【0070】
ステップ304a、304bのどちらを用いるかには関係なく、ステップ305において、トレンチをエッチングして、トレンチが形成された領域403(ステップ303に見られる)から材料を、好適なエッチング液(たとえば、HFまたはKOH)を用いて取り除く。エッチングが完了した後で、保護コーティング材料404を取り除く。したがって、これらのトレンチによって、MEMS構造の物理的特徴物(この例では、リング共振器415及び従順な脚部(図4には示さず)の)が規定される。従順な脚部は、リング共振器415を、溶融シリカ基板400の残りの部分によって規定されたマウント416に取り付ける。ステップ305に見られるように、ステップ302で所定の位置に位置合わせされたトランスデューサ414がここでは、リング共振器415の上面上に配置されている。
【0071】
ステップ306において、溶融シリカ基板400を、エポキシ層405を用いて、支持基板(以下では基台406と言う)に接合する。支持基板はガラスから形成してもよい。前述したように、シリコン基板からMEMSデバイスを形成するときに用いる陽極接合プロセス(ガラス中のNa+イオンの存在に依拠する)は、溶融シリカを用いるときには適用できない。その代わりに、図3のステップ106に示すように、シリコンMEMS構造のガラス基台構造とガラス支持構造とを接合するために用いるのと同じエポキシ接着プロセスを用いて、溶融シリカ基板400を好都合に接合する。
【0072】
これには、溶融シリカ基板400の下面と基台406の上面との間に薄いエポキシ層405を付与することを伴う。シリコンから形成される従来技術のMEMSデバイス内で用いる基台層は通常、Tempaxガラスから形成される。Tempaxガラスの熱膨張係数(c.t.e.)は、シリコンのそれと同様である。しかし、溶融シリカのc.t.e.はシリコンよりも著しく低く、Tempax層のそれとあまり良く一致しない。したがって、図4に示す基台406をガラスの代わりに溶融シリカから形成して、温度に対する膨張率の不一致に起因して生じる応力及び歪みをなくすようにしてもよい。
【0073】
ステップ307において、溶融シリカ基板400が接合された基台406自体を、円板形状の下部ポールピース408が取り付けられた下部の支持基板407に、図3に示す従来技術のデバイス製造プロセスのステップ106に関連して説明したものと同等の方法でエポキシ接合する。こうして、溶融シリカ基板400は、基台406と下部の支持体407とを含む支持基板によって支持される。下部の支持基板407は、ガラスから形成してもよいし、または溶融シリカから製造して、支持基板406、407の2つの層の間での温度に対する膨張率の不一致に起因して生じる応力及び歪みを減らすようにしてもよい。
【0074】
ステップ308において、永久磁石409と環状の上部ポールピース410(円板形状の下部ポールピース408と組み合わされると磁気回路411を構成する)とを、図3に示すシリコンデバイス製造プロセスのステップ107に関連して説明したものと同等の方法で組み立てて、誘導ジャイロスコープ420を構成する。
【0075】
出願人は、正しく処理されれば、支持基板及びMEMS構造は、適切な寸法の単一の溶融シリカ基板から形成され得ると認識している。これは、MEMSデバイス層と1つ以上の支持基板層との間のエポキシ接着に対する要求がなくなるため有利である。
【0076】
それ自体の支持構造を含むMEMS構造を共通の溶融シリカ基板からこのようして形成することについて、図5に示すプロセスフロー図を参照して以下に説明する。図では、慣性センサ用の溶融シリカMEMS構造を製造する方法の第2の例について説明している。
【0077】
図5に、支持構造及びMEMS構造が単一の溶融シリカ基板600から形成される溶融シリカ誘導ジャイロスコープ620を製造するためのプロセスフロー図を示す。
【0078】
ステップ501において、プロセスは、厚さ約400μmを有する溶融シリカ基板600から始まる。これは、共振器構造が形成される溶融シリカ基板とその下に横たわる支持構造との合体厚さに対応する。これらは厚さがそれぞれ、約100μm及び約300μmである。
【0079】
ステップ502において、マスク層601a(たとえば、ポリシリコン、または金上のクロム層であってもよい)を、溶融シリカ基板600の裏側表面上に堆積させる。溶融シリカ基板600の表側もマスク層601bによって同様に保護されるが、特定のパターニングは必要ではない。
【0080】
ステップ503において、溶融シリカ基板600をHF溶液中でエッチングして、溶融シリカ基板600の露出領域を均一にエッチングして円形空洞603を形成する。エッチングの継続時間は、円形空洞603の深さが約300μmとなるように、また溶融シリカ基板600の残りの部分が、慣性センサ用MEMS構造を後に形成することができる100μm厚の層を含むように、選択する。
【0081】
HFエッチングは等方性であるため、溶融シリカ基板600内の結果としての円形空洞603は、曲線状の側壁を伴う滑らかな基部を有する。したがって、円形空洞603の直径は、溶融シリカ基板600の上面に向かって大きくなる。いくつかの例では、円形空洞603のエッチレートは、図4に示す領域403内にトレンチを製造するために用いたものと同じSLE処理を適用することによって著しく高められ得る。具体的には、ステップ503で円形空洞603をエッチングする前に、円形空洞603を形成すべき領域にSLEレーザを用いて照明して、以後のエッチングの影響をより受けやすくし得る。これによって、(曲線状ではなく)垂直の空洞側壁を形成することができ得るが、これを実現するために著しいさらなるレーザ処理時間が必要となる。
【0082】
円形空洞603を形成するために用いてもよい代替技術としては、超音波加工及びパウダーブラスティングが挙げられる。これらのプロセスは、より表面が粗くてそれほど均一ではない空洞をもたらし得る。これは、何らかの表面損傷になる傾向があり、溶融シリカ表面が共振器構造の一部である場合には望ましくない。しかし出願人は、表面粗さの高さに起因する問題は、円形空洞603が形成された後に短いHFエッチングを行って、表面材料を取り除き、粗さ及び損傷領域を減らすことによって対処され得ると認識している。第2の短いエッチングをこのように行うことによって、第1のHFまたはKOHエッチングだけの場合と比べて表面がより均一になり得るため、このステップを、本明細書で説明するエッチングステップのうちのいずれかの後に行って、エッチングされた特徴物の表面品質が改善され得るため、有利である。第2のエッチングは、第1のエッチングをKOHを用いて行った場合、または代替的なエッチングプロセス(たとえば、超音波加工またはパウダーブラスティング)を用いた場合に、特に有用であり得る。なぜならば、これらの方法は、HFエッチングを用いて達成されるものよりも表面粗さが高い結果となり得るからである。
【0083】
次に、マスク層601a、601bを取り除いて、事前に空洞が作られた基板600を残す。基板600は、最終的にMEMS構造のマウントを形成する基板の領域から延びる支持構造600a(この例では環状)によって支持される。事前に空洞が作られた基板600と支持構造600aとの組み合わせは、図4に示す基台406と溶融シリカ基板400との組み合わせと、構造が類似している。
【0084】
以後の金属堆積、レーザ処理、及びトレンチ形成プロセスをステップ504~508で行い、事前に空洞が作られた溶融シリカ基板600の上面上で、図4に関連して前述したように進める。
【0085】
こうして、ステップ504において、伝導性たとえば金属層604を、図4に示すステップ302に関連して説明したものと同等の方法で、溶融シリカ基板600の表面上に堆積及びパターニングする。図4に関連して説明したように、金属層604を堆積させて、種々の伝導性要素(トランスデューサ614及び完成デバイス用の電気接続604a、bを含む)を形成する。また金属層604は、リング共振器構造の形態の平面振動構造が形成される領域を囲む外部マウント(たとえばフレーム)領域上に形成されたアライメント要素605を含む。
【0086】
ステップ505において、レーザを、アライメント要素605を用いて金属層604のパターニングに位置合わせし、シリカ基板600の表面上でスキャンして、レーザ照射を受ける領域内で溶融シリカ基板600の材料構造の変更を生じさせるトレンチを形成すべき領域606を規定する。領域606内に形成されたトレンチは、リング共振器615及び従順な脚部(図5には示さず)を規定する。従順な脚部は、リング共振器615を、溶融シリカ基板600の残りの部分によって規定されたマウント616に取り付ける。結果はステップ507で見られる。
【0087】
溶融シリカ基板600をエッチングしてレーザ照射を受けた材料を優先的に取り除く前に、レーザ処理された溶融シリカ層600をトレンチ領域から取り除くために用いるエッチング液から、金属層604を保護する。
【0088】
前述したように、これは、図4のステップ304a及び304bで示すものと同等な2つのプロセスのうちの1つを用いて実現され得る。
【0089】
図5のステップ506で示す例では、KOH及びHF耐性の保護コーティング材料607(たとえば、SXAR-PC5000/41、Allresistによって製造)を、溶融シリカ基板600及び金属層604の表面に付与する。こうして、ステップ506に示すように、選択領域上に堆積された金属層604が保護され、トレンチをエッチングすべき領域606が露出するように、マスキング層を堆積及びパターニングする。第1のマスクを用いて、金属層604のアライメント要素605を選択的に露出させる一方で、溶融シリカ基板600及び金属層604の残りの部分を保護コーティング材料607によって保護されたままにする。次に、アライメント要素605を用いて第2のマスクを位置合わせする。第2のマスクは、保護コーティング材料607を、エッチングすべきレーザ処理領域を規定するパターンに露出させるために用いる。
【0090】
図5には示さないが、図4のステップ304bに示すものと同等の片面エッチングプロセスを代替的に適用してもよいことを理解されたい。
【0091】
ステップ507では、領域606において、好適なエッチング液(たとえば、HFまたはKOH)を用いてトレンチをエッチングし、その後にレジスト材料を取り除く。
【0092】
ステップ508において、溶融シリカ基板600の支持構造600aを、エポキシ層612を用いて、円板形状の下部ポールピース608が取り付けられた支持基板613に、図4に示す第1の例のプロセスのステップ307に関連して説明したものと同等の方法で接合する。また支持基板613を溶融シリカから製造して、溶融シリカ基板600と支持基板613との間の温度に対する膨張率の不一致に起因して生じる応力及び歪みを減らすようにしてもよい。この後に、永久磁石609及び環状の上部ポールピース610を組み立てて、磁気回路611を、図4に示すプロセスのステップ308に関連して説明したものと同等の方法で構成して、誘導ジャイロスコープ620を形成する。
【0093】
図4及び5は、本明細書で説明するSLEプロセスを、溶融シリカから誘導ジャイロスコープを製造することに適用できることを示している。しかし、SLEを用いた同様の処理を用いて、他のタイプの慣性センサデバイス用のMEMS構造も製造できることに理解されたい。この例を図6A及び6Bに例示する。ここでは、SLE処理を用いることによって溶融シリカから圧電ジャイロスコープを形成するために用いることができる処理ステップを示す。
【0094】
図6A及び6Bに、本開示の第3の例により溶融シリカ圧電ジャイロスコープ720を製造する方法のプロセスフロー図を示す。
【0095】
ステップ701において、プロセスは、厚さ約100μmを有する溶融シリカ基板800から始まる。
【0096】
ステップ702において、第1の伝導性たとえば金属層801(10nmのチタン及び100nmのプラチナを含む)を、溶融シリカ基板800の上面上に堆積させる。次に、圧電フィルム(たとえば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT))の薄層802(約3μm厚)を、金属層801の上に堆積させる(ステップ703)。
【0097】
ステップ704において、第2の金属層803(たとえば、100nmのプラチナを含み得る)を、PZTフィルム802の表面上に堆積及びパターニングして、図4に示すステップ302に示すものと同等の方法で処理する。第1の金属層801、PZT層802、及び第2の金属層803は共に、溶融シリカ基板800の上に堆積された伝導層を構成する。第2の金属層803をパターニングして、種々の伝導性要素(アライメント要素804、伝導性トラッキング803a、b、及びトランスデューサ814を含む)を形成する(ステップ704に示す)。この例では、トランスデューサ814は、その下に横たわる圧電フィルム802と組み合わさって、溶融シリカ基板800の表面上の圧電電極を構成する。
【0098】
ステップ705では、領域805b(その真下に溶融シリカ層800内のトレンチが最終的に形成される)ならびに領域805aにおいてPZT層802を選択的に取り除いて、底部金属電極層801に対して電気接触を形成することができる。これを実現するために、フォトレジスト層(図示せず)をPZT層802上に堆積させ、第1のパターンで露出させて、反応性イオンエッチング(RIE)プロセスによってPZT層をエッチングすべき第1の組の領域(すなわち、領域805a、805b)を規定する。次にエッチングプロセスを行って、領域805a及び805b内のPZT層802を通して細いトレンチを形成する。これによって、領域805a内の底部金属電極を以後の電気接触用に露出させ、領域805bをさらなるエッチング用に備える。次に、フォトレジスト層を第2のパターンで露出して、底部金属電極層801を反応性イオンエッチングプロセスによってエッチングすべき第2の組の領域(すなわち、領域805b)を規定する。次に、領域805bにおいてRIEを用いて底部金属電極層801をエッチングして、その下に横たわる溶融シリカ基板800を露出させ、領域806において溶融シリカ基板800を通してトレンチをその後にエッチングできるようにする。ステップ705においてフォトレジスト層(図示せず)が露出する第1及び第2のパターンは、次のステップでレーザ照明に対して用いるパターンとは同じではないことを理解されたい。
【0099】
ステップ706において、レーザを、溶融シリカ層800内のトレンチを形成すべき領域806上でスキャンして、これらの領域が化学エッチングの影響を受けやすくなるようにする。これは、レーザを、第2の金属層803内に形成されたパターンに、アライメント要素804を用いて位置合わせすることと、レーザを表面上で及び溶融シリカ基板800の深さを通してスキャンして、MEMS構造の特徴物(たとえば、リング共振器815の形態の平面振動構造、及び従順な脚部(図6Aには示さず))を規定するためにその後にトレンチをエッチングすべき領域806を規定することとによって実現する。従順な脚部は、リング共振器815を、溶融シリカ基板800の残りの部分によって規定されたマウント816に取り付ける(ステップ708に見られる)。
【0100】
このようなエッチングステップが行える前に、第2の金属層803及びPZT層802内に形成された特徴物を、トレンチを形成すべき領域806からレーザ処理された溶融シリカを取り除くために用いるエッチング液から保護しなければならない。誘導ジャイロスコープの製造に関連して前述したように、これは、以下で概説する2つのプロセスのうちの1つによって実現され得る。
【0101】
第1のプロセス(ステップ707a1及び707a2で示す)では、KOH及びHF耐性の保護コーティング材料807(たとえば、SXAR-PC5000/41、Allresistによって製造)を、溶融シリカ基板800の表面とその表面上に形成された金属及びPZT層とに付与する。このマスキング層807を、その下に横たわる金属及びPZT層が保護され、トレンチをエッチングすべき領域808が露出するように、パターニングする。第1のマスクを用いて、第2の金属層803のアライメント要素804を露出させる一方で、溶融シリカ基板800及び第2の金属層803の残りの部分を保護コーティング材料807によって保護されたままにする。アライメント要素804を用いて第2のマスクを位置合わせする。第2のマスクは、保護コーティング材料807を、エッチングすべきレーザ処理領域808(ステップ707a2に示す)を規定するパターンに露出させるために用いる。
【0102】
代替プロセス(ステップ707bに示す)では、溶融シリカ基板800の最上部を保護コーティング材料807によって完全にマスキングして、溶融シリカ基板800の下側をエッチング液にさらしたままにする。したがって、金属及びPZT層内に形成された特徴物はエッチングされず、SLE処理された材料を溶融シリカ基板800の片面エッチングを用いて取り除き得る。このアプローチを用いると、アライメント要素804を露出させることも、保護コーティング材料807の層をパターニングすることも必要でないため、いくつかの処理ステップがなくなる。しかし、前述したように、このようにエッチングすることは、ステップ707a1及び707a2で示すプロセスを用いる場合よりも、完了までにより時間がかかる。
【0103】
ステップ707a1~707a2、または707bのどちらを用いるかには関係なく、溶融シリカ基板800を通るトレンチをその後にエッチングして(ステップ708)、好適なエッチング液(たとえば、HFまたはKOH)を用いて領域806から材料を取り除く。このエッチングステップが完了した後で、保護コーティング材料807を取り除く。
【0104】
ステップ709において、溶融シリカ基板800を、エポキシ層809を用いて支持基板(以下では、基台810と言う)に接合する。エポキシ層809を、溶融シリカ基板800の下面と基台810の上面との間に配置する。図4及び5に示す誘導ジャイロスコープに関連して前述したように、図示した基台810を溶融シリカから形成して、温度に対する膨張率の不一致に起因して生じる応力及び歪みをなくすようにしてもよい。
【0105】
また本明細書で説明するSLEプロセスを用いて、溶融シリカから慣性センサ用MEMS構造を製造するためのさらなる好都合な選択肢を得ることができる。
【0106】
前述した共振器デバイス内の円形の共振器構造の場合、典型的なダイシングされたMEMSチップの四角形状は、2つの動作cos2θモードの摂動の差に起因して、性能に悪影響を与える可能性がある。この摂動は、種々の材料間の熱膨張係数の差に起因して、支持基板(複数可)及び外部パッケージングから共振器内に結合する避けられない応力及び歪みに起因して生じる。ダイシングされたチップの四角形状は、cos2θモードパラメータに異なる影響を与える非対称応力を誘起し得るため、特に有害である。シリコンから製造された従来技術のセンサでは、このような効果を最小限にするために対抗策を用いてもよい。たとえば、US9709401では、製造するにはさらなる処理ステップが必要となる八角形状のガラス基台を用いることについて説明している。
【0107】
出願人は、前述したSLEプロセスを、他の手段では容易に実現できないMEMSダイ形状を作製するために有利に適用することができると認識している。具体的には、出願人は、選択的レーザエッチングに対して用いるレーザをスキャンして、MEMSダイ形状の範囲を規定する複雑なトレンチ配置を生成することができると認識している。これは、慣性感知用のMEMS構造を作製するのと同じ処理ステップの間に行うことができるため、さらなる処理ステップは必要ではない。
【0108】
リング共振器構造の場合、MEMSダイ形状に起因して生じる非対称を効果的になくす最適形状は、円形共振器の対称性に一致する円形ダイである。
【0109】
共振器が形成されるこのような円形MEMSダイの例を図7に例示する。図は、本開示の例による慣性センサ用MEMS構造の溶融シリカ層800の平面図を示す。図7に示すMEMS構造はリング共振器801を含む。リング共振器801は、多くの従順な脚部構造803によって、溶融シリカから形成された剛性の円形の外部フレーム状マウント805(共振器構造801を支持する)に柔軟に取り付けられている。
【0110】
単一ウェハー上に複数のMEMSデバイス(たとえば、リング共振器801)が形成されている場合、最終パッケージ内に組み立てる直前まで単一ウェハー上にMEMSデバイスを維持することが有用である。これは、図8に例示するように、各ダイの周りに不完全な円形トレンチを形成することによって実現され得る。
【0111】
図8に、単一の溶融シリカウェハーから形成された複数の円形ダイ900(リング共振器901が形成されている)を示す。円形ダイ900は、各MEMS構造901の周りの不完全な円形トレンチをエッチングした結果に形成された短い未エッチング部分902によって接続されている。こうして、円形ダイ900はそれぞれ、90°角距離にある短い未エッチング部分902によって接続されている。
【0112】
従来、未エッチング部分902は、個々のダイをパッケージング用に分離するために、最終的なウェハーダイシングステップにおいて解放することができる。この結果、円対称性は多少低下するが、残存する望ましくない非対称は、四角形のダイに対するものから実質的に減少する。
【0113】
当業者であれば分かるように、本開示は、その1つ以上の具体例を説明することによって例示されているが、これらの態様には限定されず、添付の特許請求の範囲内で多くの変形及び変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8