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特開2023-3131最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003131
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20221228BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G05B13/02 D
G05B11/36 501Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104118
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】大西 祐太
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】西室 勇岐
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA27
5H004GB01
5H004KC08
5H004KC44
(57)【要約】

【課題】 複数の操作量を最適化する極値制御を適切に動作させる制御装置を提供する。
【解決手段】 実施形態による最適値探索制御装置は、第1操作量u1を振動させる第1信号を生成する第1信号生成部202、206と、評価関数値の勾配を正規化する第1正規化処理部209と、を含み、第1信号により第1操作量u1を振動させたことによる評価関数値の応答に基づいて、評価関数値が最適値となる第1操作量u1の動作点を探索する第1探索制御部200と、第2操作量u2を振動させる信号であって第1信号と異なる第2信号を生成する第2信号生成部302、306と、評価関数値の勾配を正規化する第2正規化処理部309と、を含み、第2信号により第2操作量u2を振動させたことによる評価関数値の応答に基づいて、評価関数値が最適値となる第2操作量u2の動作点を探索する第2探索制御部300と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1操作量と第2操作量とを少なくとも含む複数の操作量を入力とし、一つの評価関数値を出力する任意の対象プロセスに適用される装置であって、
リアルタイムで計測される前記評価関数値を入力とし、前記第1操作量を振動させる第1信号を生成する第1信号生成部と、前記評価関数値の勾配を正規化する第1正規化処理部と、を含み、前記第1信号により前記第1操作量を振動させたことによる前記評価関数値の応答に基づいて、前記評価関数値が最適値となる前記第1操作量の動作点を探索する第1探索制御部と、
前記評価関数値を入力とし、前記第2操作量を振動させる信号であって前記第1信号と異なる第2信号を生成する第2信号生成部と、前記評価関数値の勾配を正規化する第2正規化処理部と、を含み、前記第2信号により前記第2操作量を振動させたことによる前記評価関数値の応答に基づいて、前記評価関数値が最適値となる前記第2操作量の動作点を探索する第2探索制御部と、を備えた、最適値探索制御装置。
【請求項2】
前記第1信号と前記第2信号とは周期的に振動する信号であって、互いに位相が異なる、請求項1記載の最適値探索制御装置。
【請求項3】
前記第1信号と前記第2信号とは周期的に振動する信号であって、互いに周期が異なる、請求項1記載の最適値探索制御装置。
【請求項4】
前記第1信号は、第1振動期間において振動し、第1休止期間において一定値となる信号であって、
前記第2信号は、第2振動期間において振動し、第2休止期間において一定値となる信号であって、
第1振動期間は前記第2休止期間に含まれ、前記第2振動期間は前記第1休止期間に含まれる、請求項1記載の最適値探索制御装置。
【請求項5】
第1操作量と第2操作量とを少なくとも含む複数の操作量を入力とし、一つの評価関数値を出力する任意の対象プロセスに適用され、
リアルタイムで計測される前記評価関数値を取得し、
前記評価関数値が最適値となる前記第1操作量および前記第2操作量の動作点を探索する方法であって、
前記第1操作量の動作点を探索することは、前記第1操作量を振動させる第1信号を生成するとともに、前記評価関数値の勾配を正規化し、前記第1信号により前記第1操作量を振動させたことによる前記評価関数値の応答に基づいて、前記評価関数値が最適値となる前記第1操作量の動作点を探索し、
前記第2操作量の動作点を探索することは、前記第2操作量を振動させる信号であって前記第1信号と異なる第2信号を生成し、前記評価関数値の勾配を正規化し、前記第2信号により前記第2操作量を振動させたことによる前記評価関数値の応答に基づいて、前記評価関数値が最適値となる前記第2操作量の動作点を探索する、最適値探索制御方法。
【請求項6】
コンピュータに請求項5に記載の最適値探索制御方法を実行させる、最適値探索制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラント制御の方法として、極値制御と呼ばれる技術が注目されている。極値制御は、プラントの複雑なモデルを用いないモデルフリーのリアルタイム最適制御技術であり、最適化(最小化あるいは最大化)したい評価関数(コスト関数、性能指標)の値を直接計測できるオンラインセンサー情報から計算し、評価関数値を(局所)最適値(局所最小値=極小値もしくは局所最大値=極大値)に維持する様に、操作量を変化させながら適応的に探索するものである。
【0003】
すなわち、最大化(極大化)もしくは最小化(極小化)したいプラントの性能指標を表す評価関数値をオンラインで計測する。評価関数は、例えば、プラントの複数の出力値に対して、所定の係数をかけ合わせて足し合わせた一元化指標で定義され、評価関数値の低減方向を探索することが、それぞれの出力がすべて低減する(低い値でバランスする)操作量の方向を自動で探索していくことに相当する。極値制御は、単一の入出力を特徴とするものが一般的であり、主に、最適化したい操作量は一つであるプラントに対して適用可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-33140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、プラントによっては、複数の操作量によって、運用が決まっている場合がある。このような場合に対して極値制御を適用すると、プラント運用全体を最適化する制御が実現できる(操作量の探索が可能となる)見込みがある。しかし、従来の極値制御は、単一の操作量を最適化するものになっているため、そのまま複数の操作量を最適化するように構成を組み替えても適切な制御が得られる保証はなく、プラント全体の最適化ではなく部分的な最適化に陥る可能性もあった。これは、従来の極値制御では起こりえなかった、複数の操作量を最適化する極値制御特有の課題が発生するためであり、これらの課題を解決しなければ、複数の操作量を最適化する極値制御において、適切な挙動が得られなかった。
【0006】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、複数の操作量を最適化する極値制御を適切に動作させる最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による最適値探索制御装置は、第1操作量と第2操作量とを少なくとも含む複数の操作量を入力とし、一つの評価関数値を出力する任意の対象プロセスに適用される装置であって、リアルタイムで計測される前記評価関数値を入力とし、前記第1操作量を振動させる第1信号を生成する第1信号生成部と、前記評価関数値の勾配を正規化する第1正規化処理部と、を含み、前記第1信号により前記第1操作量を振動させたことによる前記評価関数値の応答に基づいて、前記評価関数値が最適値となる前記第1操作量の動作点を探索する第1極値探索部と、前記評価関数値を入力とし、前記第2操作量を振動させる信号であって前記第1信号と異なる第2信号を生成する第2信号生成部と、前記評価関数値の勾配を正規化する第2正規化処理部と、を含み、前記第2信号により前記第2操作量を振動させたことによる前記評価関数値の応答に基づいて、前記評価関数値が最適値となる前記第2操作量の動作点を探索する第2極値探索部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態の最適値探索制御装置において用いられるディザー信号の一例を概略的に示す図である。
図3図3は、第1実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
図4図4は、第1実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
図5図5は、第1比較例の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図6図6は、第2比較例の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図7図7は、第2比較例の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
図8図8は、第2比較例の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
図9図9は、第2実施形態の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図10図10は、第1実施形態の最適値探索制御装置において用いられるディザー信号の一例を概略的に示す図である。
図11図11は、第2実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
図12図12は、第2実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
図13図13は、第3実施形態の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図14図14は、第3実施形態の最適値探索制御装置において用いられるディザー信号の一例を概略的に示す図である。
図15図15は、第3実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
図16図16は、第3実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムについて、図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
本実施形態の最適値探索制御装置は、プラント101からリアルタイムで計測される評価関数yの値を用いて、プラント101へ入力する複数の操作量u1、u2を最適化する。
【0010】
最適化制御の手法として極値制御は、操作量の変化に応じた評価関数値の変化に基づいて、評価関数の最適値を適応的に探索する制御手法である。評価関数値は、制御対象プロセスの制御量に基づいて決定される指標値であり、評価量と制御量との関係は所定の関数によって表される。この評価関数は、制御量に基づくものであれば任意の評価基準に基づいて設定されてよい。また評価量は制御量そのものであってもよい。極値制御における制御対象プロセスでは、評価関数は操作量に対して未知の関数であり得る。
【0011】
極値制御では、例えば、ディザー信号によって操作量を継続的に振動させ、評価関数値の変化(増減)を観測する。ディザー信号は、正弦波で与えられることが多いが、正弦波に限定されるものではない。操作量の変化に対する評価関数値の変化に基づいて、評価関数値が最適値に近づくような方向に操作量を変化させる。このような操作量の変化を繰り返すことによって評価関数の最適値を探索していく。
【0012】
最適値探索制御装置は、第1操作量u1を最適化する第1探索制御部200と、第2操作量u2を最適化する第2探索制御部300と、を備えている。
第1探索制御部200は、ハイパスフィルタ(HPF:High-Pass Filter)201と、第1信号生成部と、乗算器203と、ローパスフィルタ(LPF:Low-Pass Filter)204と、積分器205と、乗算器207と、加算器208と、正規化処理部(第1正規化処理部)209と、を含む。第1信号生成部は、第1ディザー信号発生器206と、第2ディザー信号発生器202と、を含む。
【0013】
ハイパスフィルタ201は、プラント101からフィードバックされた評価関数yからその最適値に応じた一定値のバイアスを除去することができる。
第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202は、操作量u1、u2に加える摂動信号(ディザー信号)を出力する。第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202は、評価関数値に変動を与えることができる。
【0014】
第1ディザー信号発生器206から出力された信号は、乗算器207にて振幅aを乗じた後に加算器208に入力される。第2ディザー信号発生器202から出力された信号は、乗算器203に入力される。乗算器203は、ハイパスフィルタ201を通過した評価関数yにティザー信号を掛け合わせたものを出力する。
【0015】
本実施形態では、第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202は、第1振動期間と第1休止期間を含むディザー信号を出力する。第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202が出力するディザー信号は、例えば、一波長分の正弦波を出力する第1振動期間と、一波長分の第1休止期間とを交互に繰り返す信号である。このような信号の印加の方法は、「サイクリック」法と呼ばれており、以下の説明において、本実施形態におけるディザー信号をサイクリック正弦波と言う。
【0016】
第1ディザー信号発生器206から出力される信号の波形と、第2ディザー信号発生器202から出力される信号の波形とは、プラント101における時間遅れやむだ時間を無視することが出来れば同一波形に設定することができる。プラント101に時間遅れやむだ時間がある場合には、所定の位相補償やむだ時間補償を組み込むことによって、第1ディザー信号発生器206から出力される正弦波の波形と、第2ディザー信号発生器202から出力される正弦波の波形とが異なってもよい。第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202が同じディザー信号を出力する場合には、最適値探索制御装置は1つのディザー信号発生器を備え、1つのディザー信号発生器から乗算器203および乗算器207にディザー信号を出力するように構成されてもよい。
【0017】
ローパスフィルタ204は、乗算器203の出力から低周波成分を抽出する役割を持ち、これより、評価関数値が増加したのか減少したのかが分かる。
正規化処理部209は、ローパスフィルタ204によって抽出された評価関数yの低周波成分の勾配を正規化する。正規化処理部209における正規化処理については後に詳細に説明する。
【0018】
積分器205は、正規化処理部209による正規化処理後の評価関数yを積分することによって、評価関数値を最適値に近づけるために動かすべき操作量の方向を推定する推定器として機能する。
加算器208は、積分器205から出力された値と、乗算器207から出力されたディザー信号とを加算して、第1操作量u1としてプラント101へ出力する。
【0019】
第2探索制御部300は、ハイパスフィルタ301と、第2信号生成部と、乗算器303と、ローパスフィルタ304と、積分器205と、乗算器307と、加算器308と、正規化処理部(第2正規化処理部)309と、を含む。第2信号生成部は、第3ディザー信号発生器306と、第4ディザー信号発生器302と、を含む。
【0020】
本実施形態では、第2探索制御部300は、第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302から出力されるディザー信号(第2信号)が、第1ディザー信号発生器202および第2ディザー信号発生器206から出力されるディザー信号(第1信号)と異なり、第2信号は、例えば第1信号に対して振動するタイミング(若しくは休止するタイミング)がずれた信号である。
ハイパスフィルタ301は、プラント101からフィードバックされた評価関数yからその最適値に応じた一定値のバイアスを除去することができる。
【0021】
第3ディザー信号発生器306および第3ディザー信号発生器302は、操作量u2に加える摂動信号(ディザー信号)を出力する。第3ディザー信号発生器306から出力された信号は、乗算器307にて振幅aを乗じた後に加算器308に入力される。第4ディザー信号発生器302から出力された信号は、乗算器303に入力される。乗算器303は、ハイパスフィルタ301を通過した評価関数yにティザー信号を掛け合わせたものを出力する。
【0022】
第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302は、第2振動期間と第2休止期間とを含むディザー信号を出力する。第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202が出力するディザー信号は、例えば、一波長分の正弦波を出力する第2振動期間と、一波長分の第2休止期間とを交互に繰り返すサイクリック正弦波である。
【0023】
第3ディザー信号発生器302から出力される信号の波形と、第4ディザー信号発生器306から出力される信号の波形とは、プラントにおける時間遅れやむだ時間を無視することが出来れば同一波形に設定することができる。プラントに時間遅れやむだ時間がある場合には、所定の位相補償やむだ時間補償を組み込むことによって、第3ディザー信号発生器306から出力される信号の波形と、第4ディザー信号発生器302から出力される信号の波形とが異なってもよい。第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302が同じディザー信号を出力する場合には、最適値探索制御装置は1つのディザー信号発生器を備え、1つのディザー信号発生器から乗算器203および乗算器207にディザー信号を出力するように構成されてもよい。
【0024】
図2は、第1実施形態の最適値探索制御装置において用いられるディザー信号の一例を概略的に示す図である。
ここでは、第1操作量u1に印加されるディザー信号(第1信号)の波形と、第2操作量u2に印加されるディザー信号(第2信号)の波形とを示している。本実施形態では、第1操作量u1に印加される第1信号の振動する期間および休止する期間と、第2操作量u2に印加される第2信号の振動する期間および休止する期間とのタイミングがずれている。
【0025】
すなわち、第1信号は第1休止期間T1を含み、第2信号は第2休止期間T2を含んでいる。第1信号の波形は、第2休止期間T2の少なくとも一部で正弦波形となり、第1休止期間T1では振動しない一定の値(=0)である。第2信号の波形は、第1休止期間T1の少なくとも一部において正弦波形であり、第2休止期間T2では振動しない一定の値(=0)である。
【0026】
本実施形態では、第1信号の第1休止期間T1は、第2信号の正弦波(振動波形)の一波長分の期間である。第2信号の第2休止期間T2は、第1信号の正弦波(振動波形)の一波長分の期間である。したがって、第1信号と第2信号との振動波形として同一周期の正弦波を設定しても、印加のタイミングが異なるため、一方の操作量の変化を抽出するタイミングで、他方の操作量による変化を排除することが可能となる。
【0027】
なお、操作量u1、u2の各々に印加するディザー信号の印加時間(振動期間)、また休止する時間は任意に決めてもよい。例えば、一方の操作量に印加するディザー信号が振動している期間は、他方の操作量に印加するディザー信号の停止期間となるように設定されればよい。
【0028】
また、本実施形態では、第1デ信号および第2信号の振動波形を正弦波としたが、ディザー信号として採用できる波形は正弦波に限定されるものではなく、例えば、余弦波、矩形波、三角波、ノコギリ波など、周期的な振動を起こす励振信号であれば、どのような信号でも採用することができる。そして、第1操作量u1の最適化に用いられる第1信号と第2操作量u2の最適化に用いられる第2信号とが振動する期間がずれるように設定すればよい。
【0029】
さらに、本実施形態では、2つの操作量u1、u2の最適化を行う極値制御アルゴリズムについて説明したが、3つ以上の操作量を最適化する場合においても同様に、それぞれの最適化に用いるディザー信号が振動する期間を互いにずらすことにより、2つの操作量u1、u2を動かすことによる応答が干渉することを回避できる。この場合には、複数の操作量それぞれに印加するディザー信号の振動する振動期間と休止期間とを、操作量の数に応じて設定する必要がある。
【0030】
ローパスフィルタ304は、乗算器303の出力から低周波成分を抽出する役割を持ち、これより、評価関数値が増加したのか減少したのかが分かる。
正規化処理部309は、ローパスフィルタ304によって抽出された評価関数yの低周波成分の勾配を正規化する。正規化処理部309における正規化処理については後に詳細に説明する。
【0031】
積分器305は、正規化処理部309による正規化処理後の評価関数yを積分することによって、評価関数値を最適値に近づけるために動かすべき操作量の方向を推定する推定器として機能する。
加算器308は、積分器305から出力された値と、乗算器307から出力されたディザー信号とを加算して、第2操作量u2としてプラント101へ出力する。
【0032】
次に、正規化処理部209、309で行われる正規化処理について説明する。
正規化処理部209、309は、ローパスフィルタ204、304によって抽出された評価関数yの低周波成分の勾配を正規化するための正規化処理を行う。本実施形態において、例えば評価関数の低周波成分の勾配情報がG[t]であるとすると、正規化した評価関数の勾配情報Gn[t]は、Gn[t]=G[t]/|G[t]|と表される。
この働きにより、正規化した勾配情報Gn[t]は常に-1以上1以下(-1≦Gn[t]≦1)となり、評価関数の勾配が過大な値を取ることを防ぐことが可能である。
【0033】
なお、正規化処理部209、309において、状況に応じて勾配の大きさが変化する際に、勾配の大きさが過大になる事を回避し、勾配の大きさをある一定上にさせないようにすることができれば、上記正規化処理以外であっても同様の効果が得られる。例えば、上記の正規化処理部209、309は信号の絶対値の大きさを1未満にする正規化処理を行うが、これ以外にも、任意の定数αなどを設定し、信号の絶対値がその値(定数α)未満になる正規化処理を行うように構成されてもよい。
【0034】
操作量u1を最適化する極値制御アルゴリズムの勾配情報成分をG1[t](評価関数の勾配の操作量u1による成分)、正規化した評価関数の勾配情報をGn1[t]、操作量u2を最適化する極値制御アルゴリズムの勾配情報をG2[t](評価関数の勾配の操作量u2による成分)、正規化した評価関数の勾配情報をGn2[t]、とすると、それぞれの正規化信号は、下記のように表される。
【0035】
Gn1[t]=k1G1[t]/|G1[t]+ε1|
Gn2[t]=k2G2[t]/|G2[t]+ε2|
ここで、ε1およびε2はゼロ割を防ぐために設けた値である。k1、k2は、以下の関係式に従う任意の係数である。
k1+k2=1
【0036】
これは、評価関数yが操作量u1成分と操作量u2成分の2乗和で構成されるとしたときに、評価関数yの勾配の正規化信号を作り出すための処理である。なお、上述のように、評価関数の勾配を所定の定数α以内に収めるようにする場合には、上式の右辺をαとする(k1+k2=α)。
【0037】
3つ以上の操作量を用いた評価関数の極値制御においても同様に、最適化した操作量の数だけ、評価関数の勾配情報の成分を求めて適用すれば同様の効果が得られる。なお、操作量を最適化する極値制御アルゴリズムにおいて、各係数の2乗和が1(または定数α)となるように設定する。
【0038】
さらに、以上の正規化の手法としては、いわゆるソフトサイン関数を用いた正規化処理であるが、この他に、例えばシグモイド関数、ゴンぺルツ関数、逆正接関数(arctan)、グーテルマン関数、関数x/(ε+x(1/p)などによって、正規化処理を行ってもよい。
【0039】
これらの関数は、-1から1の間で滑らかに変化する関数(定数α以内に抑える場合には-αからαの間で変化する関数)であって、同様の特性の関数であれば正規化処理に用いることができる。例えば、任意の単調増加関数に、上下限リミットを付加した関数を用いて上記の正規化処理を実現してもよい。
【0040】
次に、本実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムの効果について説明する。
図3および図4は、第1実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
【0041】
ここでは、評価関数yの最小値が最適動作点であり、第1操作量u1の最適値は2、操作量u2の最適値は5である例について説明する。図3は、時間軸に沿って、第1操作量u1についての最適値探索結果の一例を示している。図4は、時間軸に沿って、第2操作量u2についての最適値探索結果の一例を示している。
【0042】
本シミュレーション結果によれば、第1実施形態の最適値探索制御装置により、第1操作量u1と第2操作量u2とが互いに干渉せず、また過渡的に操作量の急激な変化を生じさせずに、所定の時間で最適値に収束させることができることが分かる。上記より、本実施形態のアルゴリズムを適用することにより、多変数極値制御における収束速度の適切なコントロールが可能となる。
すなわち、本実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムによれば、複数の操作量を最適化する極値制御を適切に動作させることができる。
【0043】
以下に、比較例の最適値探索制御装置の動作と比較して、本実施形態の効果を更に説明する。
図5は、第1比較例の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
【0044】
本比較例の最適値探索制御装置の評価関数値は一つであり、複数の操作量u1、u2の運用条件によって決まるものである。本比較例の最適値探索制御装置は、第1操作量u1に印加するディザー信号と第2操作量u2に印加するディザー信号とが同じ波形である点と、正規化処理部209、309を備えない点とにおいて、上述の第1実施形態の最適値探索制御装置と相違している。
【0045】
本比較例の最適値探索制御装置は、操作量u1を最適化する第1探索制御部200と、第1探索制御部200と同様の機能をもつ第2探索制御部300とを備え、第1探索制御部200と第2探索制御部300とがプラント101に並列に接続されている。
【0046】
先ず一つの操作量を最適化する極値制御において、未知の評価関数と操作量との関係が、下側に凸の二次関数形状である場合に最適な操作量(評価関数が最小となる操作量)を探索する場合の例について説明する。
【0047】
ディザー信号によって操作量を駆動しながら、評価関数が最小となる操作量を探索していく最適化の過程において、操作量の動作点によって挙動が異なる。操作量と評価関数との関係は未知であるため、次に操作量を動かす方向を求めるためには、操作量にディザー信号を加え、その結果得られる評価関数の応答を知る必要がある。
【0048】
例えば、操作量がある動作点Aにある場合には、操作量を上げると評価関数値が下がる関係にあるとする。そのため、この動作点Aで操作量を正弦波で駆動すると、その結果得られる評価関数の応答は、操作量の動きと逆位相となる。一方で、操作量が他の動作点Bにある場合には、操作量を上げると評価関数値が上がる関係にあるとする。そのため、この動作点Bで操作量を正弦波で駆動すると、その結果得られる評価関数の応答は操作量の動きと同位相となる。
【0049】
この操作量の動きに対する評価関数の応答の情報は、乗算器203、303において、評価関数の値にディザー信号を掛け合わせた信号が、ローパスフィルタ204、304を通過した結果により得られる。この部分の信号は主に評価関数の勾配情報に相当しており、操作量を動かす方向の情報とともに、どの程度操作量を動かせばよいかの程度(大きさ)の情報も抽出している。
このようにして、操作量に付加したディザー信号と、その応答波形である評価関数の形状から、次に動かすべき操作量の方向とその大きさとの情報を得る仕組みとなっている。
【0050】
一方で、比較例の最適値探索制御装置では、二つの操作量u1、u2がプラント101の入力となっており、プラント101から一つの評価関数値が出力される。例えば、本比較例の最適値探索制御装置により、二つの操作量u1、u2によって形成される評価関数の最小値を目指す場合を考える。なお、この例でも第1操作量u1、第2操作量u2および評価関数の関係は事前に把握することはできないため、操作量u1、u2のそれぞれを振りながらそれに伴う評価関数の応答波形に基づいて、最小となる操作量u1、u2を探索していくことになる。
【0051】
例えば、第1操作量u1、第2操作量u2の動作点が任意の位置にある場合に、第1操作量u1に対しては、評価関数が逆位相の関係にあり、第2操作量u2に関しては評価関数が同位相の関係にあるとする。このとき、例えば第1操作量u1および第2操作量u2のディザー信号の波形を同一波形として、正弦波に設定した場合、時間遅延などが無ければ、第1操作量u1に対する評価関数の応答と、第2操作量u2に対する評価関数の応答とが逆応答となるため、複数の操作量u1、u2の動きによる評価関数の応答が打ち消し合い、応答波形が消失してしまう可能性がある。
【0052】
このような状況が起こると、評価関数の応答から、第1操作量u1および第2操作量u2を次に動かすべき方向と大きさとの情報が抽出できなくなる。そのため、動作点によっては、最適値が停止する事象が発生する可能性があった。この現象は操作量u1、u2間の応答の干渉が生じているために起こっており、操作量u1、u2に加えるディザー信号の波形を変えることで、干渉を回避することができる。例えば、第1実施形態のように操作量u1、u2に加えるディザー信号の波形を設定することにより、上記事象が発生することを回避できる。
【0053】
図6は、第2比較例の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
本比較例の最適値探索制御装置の評価関数値は一つであり、複数の操作量u1、u2の運用条件によって決まるものである。本比較例の最適値探索制御装置は、正規化処理部209、309を備えない点において、上述の第1実施形態の最適値探索制御装置と相違している。
【0054】
本比較例の最適値探索制御装置は、操作量u1を最適化する第1探索制御部200と、第1探索制御部200と同様の機能をもつ第2探索制御部300とを備え、第1探索制御部200と第2探索制御部300とがプラント101に並列に接続されている。
【0055】
本比較例の最適値探索制御装置では、第1実施形態と同様に、第1信号と第2信号とで、振動期間と休止期間とが互いにずれているように設定されている。したがって、本実施形態では、第1操作量u1の応答と、第2操作量u2の応答との間で干渉が生じることを回避することができる。
【0056】
一方で、例えば、本比較例の最適値探索制御装置により、二つの操作量u1、u2によって形成される評価関数の最小値を目指す場合、制御開始直後に、操作量u1、u2が急激に変化する場合があった。
【0057】
図7および図8は、第2比較例の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
ここでは、評価関数yの最小値が最適動作点であり、第1操作量u1の最適値は2、操作量u2の最適値は5である例について説明する。図7は、時間軸に沿って、第1操作量u1についての最適値探索結果の一例を示している。図8は、時間軸に沿って、第2操作量u2についての最適値探索結果の一例を示している。
【0058】
本シミュレーション結果によれば、第2比較例の最適値探索制御装置により、第1操作量u1と第2操作量u2とは、互いに干渉することなく最終的に最適値に収束することができた。しかしながら、第1操作量u1と第2操作量u2とは、制御開始直後(例えば図7および図8のA1、A3)に急激に変化し、その後緩やかに最適値に収束している(例えば図7および図8のA2、A4)傾向がみられた。本比較例の最適値探索制御装置を実際にプラントに適用することを想定すると、このような制御開始直後の大幅な操作量の変化はプラントを運用する上で好ましくなく、また最適な運用条件に収束するために多大な時間を要してしまう。
【0059】
このような傾向は、極値制御が、評価関数の勾配情報をもとに第1操作量u1および第2操作量u2を動かしているために、多変数極値制御において評価関数の勾配が動作点によって変化する影響を受けているためである。なお極値制御において、積分ゲインの大きさを変更することで、例えば、制御開始直後の急激な操作量の変化をなだらかにすることは原理的に可能である。しかしながら、積分ゲインの大きさを変更すると、第1操作量u1および第2操作量u2の動作点が評価関数の値(勾配)が小さい領域に移った後の挙動がさらに緩やかな変化となり、最適な操作量付近への収束により多大な時間を要す結果となる。また、極値制御では、積分ゲインをリアルタイムで変更する指針がないため、極値制御の収束速度を適切にコントロールすることは困難であった。
【0060】
これに対し、例えば第1実施形態の最適値探索制御装置では、正規化処理部209、309により評価関数の勾配の大きさを正規化することができる。このことにより、第1実施形態の最適値探索制御装置によれば、積分ゲインをリアルタイムで変化させることなく、適切に収束速度のコントロールが可能となる。
【0061】
上記のように、第1実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムによれば、複数の操作量を最適化する極値制御を適切に動作させることができる。
【0062】
次に、第2実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムについて図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
図9は、第2実施形態の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
本実施形態の最適値探索制御装置は、第1操作量u1を最適化する第1探索制御部200と、第2操作量u2を最適化する第2探索制御部300と、を備え、プラント101から得られる評価関数yを用いて、プラント101へ入力する複数の操作量u1、u2を最適化する。本実施形態の最適値探索制御装置は、第1操作量u1に印加する第1信号と、第2操作量u2に印加する第2信号とが上述の第1実施形態と異なっている。
【0064】
第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202は、操作量u1、u2に加える摂動信号(ディザー信号)を出力する。第1ディザー信号発生器206から出力された信号は、乗算器203に入力される。第2ディザー信号発生器202から出力された信号は、乗算器207にて振幅aを乗じた後に加算器208に入力される。乗算器203は、ハイパスフィルタ201を通過した評価関数yにティザー信号を掛け合わせたものを出力する。
【0065】
本実施形態では、第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202は、正弦波をディザー信号として出力する。第1ディザー信号発生器206から出力される正弦波の波形と、第2ディザー信号発生器202から出力される正弦波の波形とは、プラント101における時間遅れやむだ時間を無視することが出来れば同一波形に設定することができる。プラント101に時間遅れやむだ時間がある場合には、所定の位相補償やむだ時間補償を組み込むことによって、第1ディザー信号発生器206から出力される正弦波の波形と、第2ディザー信号発生器202から出力される正弦波の波形が異なってもよい。第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202が同じディザー信号を出力する場合には、最適値探索制御装置は1つのディザー信号発生器を備え、1つのディザー信号発生器から乗算器203および乗算器207にディザー信号を出力するように構成されてもよい。
【0066】
本実施形態では、第2探索制御部300は、第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302から出力されるディザー信号(第2信号)が、第1ディザー信号発生器202および第2ディザー信号発生器206から出力されるディザー信号(第1信号)と異なる信号であり、第2信号は、例えば第1信号に対して位相がずれた信号である。
【0067】
第3ディザー信号発生器306および第3ディザー信号発生器302は、操作量u2に加える摂動信号(ディザー信号)を出力する。第3ディザー信号発生器306から出力された信号は、乗算器303に入力される。第4ディザー信号発生器302から出力された信号は、乗算器307にて振幅aを乗じた後に加算器308に入力される。乗算器303は、ハイパスフィルタ301を通過した評価関数yにティザー信号を掛け合わせたものを出力する。
【0068】
第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302は、ディザー信号として余弦波を出力する。第3ディザー信号発生器302から出力される余弦波の波形と、第4ディザー信号発生器306から出力される余弦波の波形とは、プラントにおける時間遅れやむだ時間を無視することが出来れば同一波形に設定することができる。プラントに時間遅れやむだ時間がある場合には、所定の位相補償やむだ時間補償を組み込むことによって、第3ディザー信号発生器306から出力される余弦波の波形と、第4ディザー信号発生器302から出力される余弦波の波形が異なってもよい。第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302が同じディザー信号を出力する場合には、最適値探索制御装置は1つのディザー信号発生器を備え、1つのディザー信号発生器から乗算器203および乗算器207にディザー信号を出力するように構成されてもよい。
【0069】
図10は、第1実施形態の最適値探索制御装置において用いられるディザー信号の一例を概略的に示す図である。
本実施形態の最適値探索制御装置では、第1操作量u1の最適化に用いられるディザー信号と第2操作量u2の最適化に用いられるディザー信号との位相差は90°である。本実施形態では、複数の操作量の各々に対するディザー信号の位相をずらすことによって、複数の操作量u1、u2の応答が干渉することを抑制している。なお、複数の操作量の各々に対するディザー信号の位相差は90°に限定されるものではなく、効果的に非干渉を図ることができれば、いかなる位相差を設けても構わない。
【0070】
また、本実施形態では、第1操作量u1の最適化に用いられるディザー信号を正弦波とし、第2操作量u2の最適化に用いられるディザー信号を余弦波としているが、第2操作量u2の最適化に用いられるディザー信号を正弦波と設定してもよく、その場合には、第1操作量u1の最適化に用いられるディザー信号を余弦波に設定してもよい。
【0071】
さらに、ディザー信号として採用できる波形は正弦波と余弦波とに限定されるものではなく、例えば、矩形波、三角波、ノコギリ波など、周期的な振動を起こす励振信号であれば、どのような信号でも採用することができる。そして、第1操作量u1の最適化に用いられるディザー信号と第2操作量u2の最適化に用いられるディザー信号とに位相差が生じるように設定すればよい。
【0072】
さらに、本実施形態では、2つの操作量u1、u2の最適化を行う極値制御アルゴリズムについて説明したが、3つ以上の操作量を最適化する場合においても同様に、それぞれの最適化に用いるディザー信号の位相を互いにずらすことにより、2つの操作量u1、u2の各々を動かすことによる応答が干渉することを回避できる。この場合には、複数の操作量に印加するディザー信号の位相差を、操作量の数に応じて設定する必要がある。
次に、本実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムの効果について説明する。
【0073】
図11および図12は、第2実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
ここでは、評価関数yの最小値が最適動作点であり、第1操作量u1の最適値は2、操作量u2の最適値は5である例について説明する。図11は、時間軸に沿って、第1操作量u1についての最適値探索結果の一例を示している。図12は、時間軸に沿って、第2操作量u2についての最適値探索結果の一例を示している。
【0074】
本シミュレーション結果によれば、第2実施形態の最適値探索制御装置により、第1操作量u1と第2操作量u2とが互いに干渉せず、また過渡的に操作量の急激な変化を生じさせずに、所定の時間で最適値に収束させることができることが分かる。上記より、本実施形態のアルゴリズムを適用することにより、多変数極値制御における収束速度の適切なコントロールが可能となる。
すなわち、本実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムによれば、複数の操作量を最適化する極値制御を適切に動作させることができる。
【0075】
次に、第3実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムについて図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0076】
図13は、第3実施形態の最適値探索制御装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
本実施形態の最適値探索制御装置は、第1操作量u1を最適化する第1探索制御部200と、第2操作量u2を最適化する第2探索制御部300と、を備え、プラント101から得られる評価関数yを用いて、プラント101へ入力する複数の操作量u1、u2を最適化する。本実施形態の最適値探索制御装置は、第1操作量u1に印加する第1信号と、第2操作量u2に印加する第2信号とが上述の第1実施形態および第2実施形態と異なっている。
【0077】
第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202は、操作量u1、u2に加える摂動信号(ディザー信号)を出力する。第1ディザー信号発生器206から出力された信号は、乗算器203に入力される。第2ディザー信号発生器202から出力された信号は、乗算器207にて振幅aを乗じた後に加算器208に入力される。乗算器203は、ハイパスフィルタ201を通過した評価関数yにティザー信号を掛け合わせたものを出力する。
【0078】
本実施形態では、第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202は、正弦波をディザー信号として出力する。第1ディザー信号発生器206から出力される正弦波の波形と、第2ディザー信号発生器202から出力される正弦波の波形とは、プラント101における時間遅れやむだ時間を無視することが出来れば同一波形に設定することができる。プラント101に時間遅れやむだ時間がある場合には、所定の位相補償やむだ時間補償を組み込むことによって、第1ディザー信号発生器206から出力される正弦波の波形と、第2ディザー信号発生器202から出力される正弦波の波形が異なってもよい。第1ディザー信号発生器206および第2ディザー信号発生器202が同じディザー信号を出力する場合には、最適値探索制御装置は1つのディザー信号発生器を備え、1つのディザー信号発生器から乗算器203および乗算器207にディザー信号を出力するように構成されてもよい。
【0079】
本実施形態では、第2探索制御部300は、第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302から出力されるディザー信号(第2信号)が、第1ディザー信号発生器202および第2ディザー信号発生器206から出力されるディザー信号(第1信号)と異なる信号であり、第2信号は、例えば第1信号に対して周期が異なる正弦波である。
【0080】
第3ディザー信号発生器306および第3ディザー信号発生器302は、操作量u2に加える摂動信号(ディザー信号)を出力する。第3ディザー信号発生器306から出力された信号は、乗算器303に入力される。第4ディザー信号発生器302から出力された信号は、乗算器307にて振幅aを乗じた後に加算器308に入力される。乗算器303は、ハイパスフィルタ301を通過した評価関数yにティザー信号を掛け合わせたものを出力する。
【0081】
第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302は、ディザー信号として正弦波を出力する。第3ディザー信号発生器302から出力される正弦波の波形と、第4ディザー信号発生器306から出力される正弦波の波形とは、プラントにおける時間遅れやむだ時間を無視することが出来れば同一波形に設定することができる。プラントに時間遅れやむだ時間がある場合には、所定の位相補償やむだ時間補償を組み込むことによって、第3ディザー信号発生器306から出力される正弦波の波形と、第4ディザー信号発生器302から出力される正弦波の波形が異なってもよい。第3ディザー信号発生器306および第4ディザー信号発生器302が同じディザー信号を出力する場合には、最適値探索制御装置は1つのディザー信号発生器を備え、1つのディザー信号発生器から乗算器203および乗算器207にディザー信号を出力するように構成されてもよい。
【0082】
図14は、第3実施形態の最適値探索制御装置において用いられるディザー信号の一例を概略的に示す図である。
本実施形態の最適値探索制御装置では、第1操作量u1の最適化に用いられるディザー信号の周期は、第2操作量u2の最適化に用いられるディザー信号の周期よりも短く設定されている。本実施形態では、複数の操作量u1、u2の各々に対して異なる周期のディザー信号を印加することによって、複数の操作量u1、u2の応答が干渉することを抑制している。第1信号と第2信号とを、同一の波形となるように設定した場合、上述の第1比較例のように複数の操作量u1、u2の応答間の干渉が生じてしまうが、例えば、一方のディザー信号の周期を他方よりも長く設定することで、応答が干渉することを回避できる。例えば、第1信号の正弦波の周期をTAとし、第2信号の正弦波の周期をTBとしたとき、TB=10×TAとなるように設定することにより、複数の操作量u1、u2の応答間の干渉を回避することができた。
【0083】
また、本実施形態では、第1操作量u1に印加されるディザー信号および第2操作量u2に印加されるディザー信号を正弦波としているが、これに限定されるものではない。ディザー信号として採用できる波形は正弦波に限定されるものではなく、例えば、余弦波、矩形波、三角波、ノコギリ波など、周期的な振動を起こす励振信号であれば、どのような信号でも採用することができる。そして、第1操作量u1に印加されるディザー信号と第2操作量u2に印加されるディザー信号との周期が異なるように設定すればよい。
【0084】
さらに、本実施形態では、2つの操作量u1、u2の最適化を行う極値制御アルゴリズムについて説明したが、3つ以上の操作量を最適化する場合においても同様に、それぞれの最適化に用いるディザー信号の周期を互いにずらすことにより、2つの操作量u1、u2の各々を動かすことによる応答が干渉することを回避できる。この場合には、複数の操作量に印加するディザー信号の周期を、操作量の数に応じて設定する必要がある。
【0085】
次に、本実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムの効果について説明する。
図15および図16は、第3実施形態の最適値探索制御装置により複数の操作量の最適化をシミュレーションした結果の一例である。
【0086】
ここでは、評価関数yの最小値が最適動作点であり、第1操作量u1の最適値は2、操作量u2の最適値は5である例について説明する。図15は、時間軸に沿って、第1操作量u1についての最適値探索結果の一例を示している。図16は、時間軸に沿って、第2操作量u2についての最適値探索結果の一例を示している。
【0087】
本シミュレーション結果によれば、第3実施形態の最適値探索制御装置により、第1操作量u1と第2操作量u2とが互いに干渉せず、また過渡的に操作量の急激な変化を生じさせずに、所定の時間で最適値に収束させることができることが分かる。上記より、本実施形態のアルゴリズムを適用することにより、多変数極値制御における収束速度の適切なコントロールが可能となる。
すなわち、本実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、および、最適値探索制御プログラムによれば、複数の操作量を最適化する極値制御を適切に動作させることができる。
【0088】
上述した各実施形態の最適値探索制御装置において、上述の機能はハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアによって実現されてもよい。また、最適値探索制御装置の機能をソフトウェアによって実現する場合には、最適値探索制御装置は、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリと、を備え得る。また、最適値探索制御装置は、複数の操作量各々に印加されるディザー信号や正規化処理機能などの設定情報を、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置に記憶し、その記憶装置から設定情報を取得するように構成されてもよい。また、この場合、最適値探索制御装置は、ディザー信号や正規化処理の変更操作を受け付ける入力部と、その入力に応じてディザー信号や正規化処理の設定情報を更新する設定更新部と、を備えるように構成されてもよい。さらに、この場合、最適値探索制御装置は、設定情報の内容を表示する表示部を備えるように構成されてもよい。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
101…プラント、200…第1探索制御部、201…ハイパスフィルタ、202…ディザー信号発生器、203…乗算器、204…ローパスフィルタ、205…積分器、206…ディザー信号発生器、207…乗算器、208…加算器、209…正規化処理部、300…探索制御部、301…ハイパスフィルタ、302…ディザー信号発生器、303…乗算器、304…ローパスフィルタ、305…積分器、306…ディザー信号発生器、307…乗算器、308…加算器、309…正規化処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16