(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003134
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】耐震補強用架構の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/14 20060101AFI20221228BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20221228BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
E04G21/14
E04H9/02 311
E04H9/02 301
E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104122
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】重松 義弘
(72)【発明者】
【氏名】滝口 純一
(72)【発明者】
【氏名】笠間 喜紀
(72)【発明者】
【氏名】土田 尭章
【テーマコード(参考)】
2E139
2E174
2E176
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC04
2E139AC06
2E139AC26
2E139AC27
2E139AD01
2E139AD04
2E139BA02
2E139BA14
2E139BA19
2E139BA23
2E139BD16
2E174AA01
2E174BA03
2E174CA04
2E174DA14
2E174DA32
2E176AA07
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】 施工場所の制約が少なく、簡便かつ低コストで、工期を短縮することが可能な耐震補強用架構の施工方法を提供する。
【解決手段】 建築物1の地上階より上の階の外壁に耐震補強用架構3を設置する耐震補強用架構の施工方法であって、耐震補強用架構の設置階より下の階の側面に支持部材2を固定する工程と、該支持部材の上に前記耐震補強用架構を載置し、建築物の所定の部位に固定する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の地上階より上の階の外壁に耐震補強用架構を設置する耐震補強用架構の施工方法であって、
前記耐震補強用架構の設置階より下の階の側面に支持部材を固定する工程と、
該支持部材の上に前記耐震補強用架構を載置し、建築物の所定の部位に固定する工程を含むことを特徴とする耐震補強用架構の施工方法。
【請求項2】
前記支持部材の上面に油圧ジャッキを配設し、該油圧ジャッキの上に前記耐震補強用架構を載置することを特徴とする請求項1に記載の耐震補強用架構の施工方法。
【請求項3】
前記支持部材が、上端部にスチフナが設けられているH形鋼であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震補強用架構の施工方法。
【請求項4】
前記耐震補強用架構の上に、さらに他の耐震補強用架構を固定する工程を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐震補強用架構の施工方法。
【請求項5】
前記鋼製フレームに前記耐震補強用架構を固定する工程の後、前記支持部材を撤去する工程を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の耐震補強用架構の施工方法。
【請求項6】
前記耐震補強用架構を建築物の所定の部位に固定する工程が、
前記支持部材の上に鋼製フレームを載置して、該鋼製フレームを建築物の所定の部位に固定する工程と、前記鋼製フレームに制震ブレースを固定する工程とを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の耐震補強用架構の施工方法。
【請求項7】
前記鋼製フレームの上に、さらに他の鋼製フレームを載置し各々の鋼製フレームに制震ブレースを固定する工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の耐震補強用架構の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強用架構の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存の建築物の中間階から耐震補強用架構を施工する場合、
図6に示すように、受けとなるコンクリート基礎6を構築し、該コンクリート基礎6の上に1階部分から設置階まで鉄骨建て方により仮設の架台7を構築し、架台7の上に耐震補強用架構3を配設して、その後に架台7を撤去する方法により耐震補強用架構3の施工を行っていた。
【0003】
このような従来の耐震補強用架構3の施工方法では、1階から仮設の架台7を組むことで安全に耐震補強用架構3の設置を行うことができる半面、基礎6の構築や架台7の構築に時間と労力がかかるという問題があった。
【0004】
特に、道路の道幅が狭く、電柱、電線がありラフタークレーン等の設置ができず、また、施工する耐震補強用架構のセット数が多いなど多くの制約を受けるような場合には、鉄骨建て方による仮設架台の設計が複雑になるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そして、上記の多くの問題により工期が延びたり、架台も想定以上の規模となり、コストの面でも懸念される。
【0006】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、施工場所の制約が少なく、簡便かつ低コストで、工期を短縮することが可能な耐震補強用架構の施工方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の耐震補強用架構の施工方法は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0008】
第1に、本発明の耐震補強用架構の施工方法は、建築物の地上階より上の階の外壁に耐震補強用架構を設置する耐震補強用架構の施工方法であって、前記耐震補強用架構の設置階より下の階の側面に支持部材を固定する工程と、該支持部材の上に前記耐震補強用架構を載置し、建築物の所定の部位に固定する工程を含むことを特徴とする。
第2に、上記第1の発明の耐震補強用架構の施工方法において、前記支持部材の上面に油圧ジャッキを配設し、該油圧ジャッキの上に前記耐震補強用架構を載置することが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明の耐震補強用架構の施工方法において、前記支持部材が、上端部にスチフナが設けられているH形鋼であることが好ましい。
第4に、上記第1から第3の発明の耐震補強用架構の施工方法において、前記耐震補強用架構の上に、さらに他の耐震補強用架構を固定する工程を含むことが好ましい。
第5に、上記第1から第4の発明の耐震補強用架構の施工方法において、前記鋼製フレームに前記耐震補強用架構を固定する工程の後、前記支持部材を撤去する工程を含むことが好ましい。
第6に、上記第1から第5の発明の耐震補強用架構の施工方法において、前記耐震補強用架構を建築物の所定の部位に固定する工程が、前記支持部材の上に鋼製フレームを載置して、該鋼製フレームを建築物の所定の部位に固定する工程と、前記鋼製フレームに制震ブレースを固定する工程とを含むことが好ましい。
第7に、上記第6の発明の耐震補強用架構の施工方法において、前記鋼製フレームの上に、さらに他の鋼製フレームを載置し各々の鋼製フレームに制震ブレースを固定する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐震補強用架構の施工方法によれば、基礎の構築を行うことなく、最小限の架台の構築により、施工場所の制約が少なく、簡便かつ低コストで、工期を短縮することが可能な耐震補強用架構の施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る耐震補強用架構の施工方法の一実施形態についての概略説明図であり、(A)は支持部材を固定した状態を示し、(B)は支持部材の上に鋼製フレームを載置して固定した状態を示し、(C)は鋼製フレームに制震ブレースを固定した状態を示す概略図である。
【
図2】支持部材の上に鋼製フレームを載置して固定した状態を示す側面概略図である。
【
図3】支持部材として山留材を加工したH形鋼を用いて壁面に固定した状態を示す概略図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【
図5】実施例で用いた支持部材を建築物の側面に固定した状態を示す実物写真である。
【
図6】従来の耐震補強用架構の施工状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための形態をあげて、図面により本発明の耐震補強用架構の施工方法を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る耐震補強用架構の施工方法の一実施形態についての概略説明図である。
【0012】
本発明の耐震補強用架構の施工方法は、建築物1の地上階より上の階の外壁に耐震補強用架構3を設置する耐震補強用架構の施工方法であり、耐震補強用架構3の設置階より下の階の側面に支持部材2を固定する工程と、該支持部材2の上に耐震補強用架構3を固定する工程とを含む施工方法である。
【0013】
本発明の耐震補強用架構の施工方法が適用可能な建築物1としては、2階以上の階層を有する建築物であれば特に限定はなく、一般家庭用一戸建て建築物からマンション、高層ビル等まで適用が可能である。また、本発明の耐震補強用架構の施工方法では、地上階より上の階の外壁に耐震補強用架構3を設置することを前提としている。
【0014】
また、本発明における耐震補強用架構3は、壁面11に後付け施工可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、鋼製フレーム4の内側に制震ブレース5を固定した構成の耐震補強用架構等を好適に用いることができる。
【0015】
図1に示す実施形態の耐震補強用架構3の施工方法は、鋼製フレーム4の内側に制震ブレース5を固定した構成の耐震補強用架構3の施工方法であり、本実施形態では、まず、耐震補強用架構3の設置階より下の階の側面の所定の位置に支持部材2を固定する(
図1(A))。ここで、耐震補強用架構3の設置階より下の階の側面の所定の位置とは、例えば、2階に耐震補強用架構3を設置する場合には、1階の天井梁位置に支持部材2の上端部が位置する場所を意味する。即ち、支持部材2の上に鋼製フレーム4を載置した際に、鋼製フレーム4が所定の高さとなる位置である。
【0016】
支持部材2の固定位置は、施工条件に応じて適宜決定することができるが、通常、建築物1の壁面11や既存柱である。また、例えば
図2に示すように耐震補強用架構3をバルコニーの先端部に施工する場合には、トラス型の支持部材2をバルコニーの先端から突出させて、鋼製フレーム4を支持できる幅で固定する。
【0017】
また、支持部材2の固定に際しては、次工程で支持部材2の上面に鋼製フレーム4及び制震ブレース5の重量が掛るため、支持部材2自体がこれらの重量を支持可能な強度を有するとともに、支持部材2を建築物1の側面に強固に固定する必要がある。支持部材2自体は、上記の条件を備えた強度を有していれば、その形状は特に限定されるものではなく、例えば、角型鋼、H形鋼、溝形鋼等、また、棚状に組んだ支持部材2を例示することができる。これらの中でも、
図3、
図5に示すような、一般的に山留材として使用される、スチフナ22を設けたH形鋼21を所定の長さに加工した支持部材2を好適に用いることができる。
【0018】
鋼製フレーム4及び制震ブレース5の重量を支持可能に支持部材2を固定する方法としては、建築物1の側面に予めあと施工アンカー23を施工しておき、該アンカーに支持部材2をボルト24により緊結して固定する方法を採用することが好ましい。なお、緊結するあと施工アンカー23の本数は、設計上、アンカー1本辺りの耐力を低減し、さらに安全性を確保するように設定する。また、支持部材2の固定位置の決定は、建築物1の構造が鉄骨鉄筋コンクリート造の場合、内設されている鉄骨の位置、向き等を考慮して、あと施工アンカー23の干渉に十分注意して検討することが考慮される。
【0019】
次に、支持部材2の上に鋼製フレーム4を載置して、該鋼製フレーム4を建築物の所定の部位に固定する(
図1(B))。鋼製フレーム4は、柱状の縦鋼材41と梁状の横鋼材42からなる矩形のフレームであり、その内側に制震ブレース5を固定する部材である。支持部材2への鋼製フレーム4の載置は、予め矩形に組んだ鋼製フレーム4をクレーン等を用いて支持部材2の上に載置してもよいし、支持部材2にフレームにする前の縦鋼材41又は横鋼材42を載置し、そこに横鋼材42又は縦鋼材41を固定して支持部材2の上でフレームに組み上げてもよい。
【0020】
次に、支持部材2の上に載置した鋼製フレーム4を建築物1の側面に固定する。鋼製フレーム4の固定は、あと施工アンカー23とボルト24による緊結等により行われる。なお、本発明の耐震補強用架構の施工方法においては、支持部材2の上面に油圧ジャッキ25を配設し、該油圧ジャッキ25の上に鋼製フレーム4を載置することが好ましい。これにより、鋼製フレーム4を建築物1の側面に固定する際に、鋼製フレーム4の位置の微調整を容易に行うことが可能となる。
【0021】
次に建築物1の側面に固定した鋼製フレーム4に制震ブレース5を固定する。制震ブレース5は鋼製フレーム4内に筋交い状に固定する。筋交い状の固定は、設計に応じて鋼製フレーム4内の対角線に/状、X状、又はV字状に固定することができる。なお、制震ブレース5は単なる直線状一体の鋼材であってもよいが、制震ブレース5の端部又は中間部にダンパーを設けた構成の制震ブレース5であってもよい。制震ブレース5に設けるダンパーとしては、摩擦ダンパー、鋼製ダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、ゴム製ダンパー等を例示することができ、鋼製ダンパーとしては軸降伏型ダンパー、曲げ降伏型ダンパー、せん断降伏型ダンパー等を挙げることができる。これらの中でも摩擦ダンパーは金属同士の摩擦を利用したダンパーであり、オイル等を使用していないため、ダンパーの劣化が殆どなく特に好ましい。制震ブレース5にダンパーを設けることにより、地震のエネルギーを効率よく熱に変換(吸収)することで、地震時の建築物1の揺れをより軽減することができる。
【0022】
また、本実施形態においては、鋼製フレーム4の上に、さらに他の鋼製フレーム4を載置又は構築し各々の鋼製フレーム4に制震ブレース5を固定することができる。この場合、支持部材2の上に構築した鋼製フレーム4に制震ブレース5を固定した後に他の鋼製フレーム4を載置又は構築してもよいし、制震ブレース5を固定する前段階の鋼製フレーム4の上に他の鋼製フレーム4を載置又は構築し、順次、或いは最後に纏めて制震ブレース5を固定するようにしてもよい。これにより、複数階に渡って効率よく制震ブレース5を設置することが可能となる。
【0023】
上記一連の工程により、本実施形態の耐震補強用架構の施工は完了するが、本発明においては、耐震補強用架構3を設置した後、必要に応じて支持部材2を撤去することができる。
【0024】
以上、本発明の耐震補強用架構の施工方法を実施形態に基づいて説明したが、本発明の耐震補強用架構の施工方法は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0025】
例えば、上記実施形態では、鋼製フレーム4を縦鋼材41と横鋼材42からなる1ユニットの鋼製フレーム4として配設したが、支持部材2の上に複数階に渡る長さの縦鋼材41を載置して、それに各階毎に横鋼材42を接続して梯子状の鋼製フレーム4を構築することもできる。
【実施例0026】
以下、本発明の耐震補強用架構の施工方法を実施例を挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0027】
以下の工事概要で本発明の施工方法を用いて耐震補強用架構の施工を行った。
工事概要:耐震補強工事
構造種別:鉄骨鉄筋コンクリート造+鉄筋コンクリート造(X,Y方向とも耐震壁付きラーメン架構)
構造階数:地下1階、地上10階
用途:共同住宅
耐震ブレース施工:制震ブレース33セット
構造スリット・新設耐震壁補強
耐震ブレース施工階:2階~10階
【0028】
<施工手順>
まず、
図4に示すように、一階部の既存柱に支持部材2を5基固定した。支持部材2は、山留材として用いられるH形鋼をサイズ(H-400×400×13×21)に加工したものを用いた。取り付けは、
図3、
図5に示すように、壁面11にあと施工アンカー23を5本×2列(計10本)施工し、これに支持部材2をボルト24で緊結して固定した。
【0029】
次に、支持部材2の上に油圧ジャッキ25を据付けて、その上に鋼製フレーム42種を構築して建築物1の側面に固定し、その内側に制震ブレース5を取り付けた。これを上階に向けて繰り返して耐震補強用架構3の施工し、最後に支持部材2を撤去して施工を完了した。なお、鋼製フレーム4及び制震ブレース5は、屋上に組んだホイストクレーンにより鉄骨建て方で行った。
【0030】
<施工結果>
本施工においては、施工側の道幅が狭く、かつ電柱、電線もあり、ラフタークレーンが設置できないという制約を受けた上に、施工する耐震補強用架構のセット数も多いという悪条件であるため、通常は、幅が狭い道側に受けとなる基礎を施工し、その上に仮設架台を設置して、幅が広い道側に大型クレーンを設置し、建築物越しに鉄骨建て方で耐震補強用架構の施工を行う。しかしながら、このような施工では非常に時間と労力、コストがかかる。
【0031】
これに対して、上記実施例の本発明の耐震補強用架構の施工方法による工事では、無駄な基礎工事を省くことができ、さらに、消火ポンプ等の既存設備の盛替え、切り回しが必要無くなったことにより、支持部材2の製作、固定施工も短期間で行うことができ、従来の施工予定期間から実働で約10日程度短縮することができた。
【0032】
また、耐震補強用架構3の施工を屋上に組んだホイストクレーンによる鉄骨建て方に変更したことで、コストも大幅に削減することができた。
【0033】
これらの結果から、本発明の耐震補強用架構の施工方法によれば、基礎の構築を行うことなく、最小限の架台の構築により、施工場所の制約が少なく、簡便かつ低コストで、工期を短縮することが可能となることが確認された。