(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031340
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】セラミックス複合体
(51)【国際特許分類】
C30B 33/00 20060101AFI20230302BHJP
C30B 29/22 20060101ALI20230302BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20230302BHJP
C30B 33/04 20060101ALI20230302BHJP
C30B 15/24 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
C30B33/00
C30B29/22 A
C30B33/02
C30B33/04
C30B15/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136771
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古滝 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 祥太
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB04
4G077BC01
4G077BC24
4G077CF03
4G077FE17
4G077FE20
4G077FH08
4G077HA20
(57)【要約】
【課題】サーモクロミズムとフォトクロミズムを両方併せ持つセラミックスの提供。
【解決手段】セラミックス複合体は、少なくともY
3Al
5O
12相及びAl
2O
3相の2つの酸化物相をラメラ構造として有すると共に、Hfが0.1at%含有されている。セラミックス複合体が、室温から少なくとも200℃に加熱される事により、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が増加すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が減少する。次に、波長365nm以上505nm以下の何れかの光が照射される事により、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が減少すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が増加する。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともY3Al5O12相及びAl2O3相の2つの酸化物相をラメラ構造として有し、
Hfが0.1at% 含有されており、
室温から少なくとも200℃ に加熱される事により、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が増加すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が減少し、
次に、波長365nm以上505nm以下の何れかの光が照射される事により、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が減少すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が増加する、セラミックス複合体。
【請求項2】
前記光の波長が、365nm、375nm、405nm、450nm、505nmの何れかで ある請求項1に記載のセラミックス複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱等の温度変化により、物品の色や光学特定が変化する現象をサーモクロミズムと呼び、温度変化を視覚による色変化から認識する事が出来る。
【0003】
また光の照射により、物品の色が変化する現象をフォトクロミズムと呼び、光照射の有無を視覚による色変化から認識する事が出来る。
【0004】
サーモクロミズムを有する材料として、例えば特許文献1に示されるセラミック体が挙げられる。特許文献1のセラミック体は、M1-xLxTiO3と遷移金属化合物との混合物の焼成物から成る。MがBa、Sr、Ca、Mg、Lがランタノイド元素、xが0~1.0である。また遷移金属化合物はFe、Mn、Cu、Co、Cr、Niから選ばれた少なくとも1つの元素の化合物であり、遷移金属化合物がM1-xLxTiO31モルに対して0.001~1.0モル含まれている。
【0005】
またフォトクロミズムを有する材料として、例えば特許文献2に示されるセラミック材料が挙げられる。特許文献2には、ポリシラザン及びハロゲン化銀を含むフォトクロミック塗料が示されており、このフォトクロミック塗料を基材に塗布後、塗料がセラミック化されてフォトクロミック材料が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-141112号公報
【特許文献2】特開平08-231899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、サーモクロミズムとフォトクロミズムを両方併せ持ち、温度変化と光照射有無を両方検知可能なセラミックスは無かった。従って、温度変化と光照射有無を両方検知する為には、サーモクロミズムとフォトクロミズムをそれぞれ有する2つの異なる材料を、1つの検知装置に搭載しなければならず、装置の小型化を阻害していた。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、サーモクロミズムとフォトクロミズムを両方併せ持つセラミックスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する為に、本発明ではセラミックスとして、セラミックス複合体を提供する。本発明のセラミックス複合体は、少なくともY3Al5O12相及びAl2O3相の2つの酸化物相をラメラ構造として有し、Hfが0.1at%含有されており、室温から少なくとも200℃に加熱される事により、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が増加すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が減少し、次に、波長365nm以上505nm以下の何れかの光が照射される事により、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が減少すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が増加する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセラミックス複合体に依れば、サーモクロミズムとフォトクロミズムを両方併せ持つ事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】EFG法によるセラミックス複合体の製造装置を示す概略構成図である。
【
図2】(a)本発明の実施形態に係るダイの一例を模式的に示す平面図である。(b)同図(a)の正面図である。(c)同図(a)の側面図である。
【
図3】(a)本発明の実施形態に係る種結晶の一例を示す説明図である。(b)本発明の実施形態に係る種結晶の他の例を示す説明図である。(c)本発明の実施形態に係る種結晶の更に他の例を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施形態における種結晶と仕切り板との位置関係を模式的に示す斜視図である。
【
図5】(a)本発明の実施形態における種結晶と仕切り板との位置関係を模式的に示す正面図である。(b)本発明の実施形態における、種結晶の一部を溶融する様子を示す正面図である。
【
図6】(a)本発明の実施形態に係る種結晶において、下辺が櫛歯形状の種結晶を示す説明図である。(b)本発明の実施形態に係る種結晶において、下辺が鋸形形状の種結晶を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るセラミックス複合体のスプレディング工程を模式的に示す斜視図である。
【
図8】EFG法により得られる、本発明の実施形態に係る複数のセラミックス複合体を部分的に示す斜視図である。
【
図9】EFG法によって得られた本発明の実施形態及び実施例に係るセラミックス複合体の表面を示す、顕微鏡写真である。
【
図10】EFG法によるセラミックス複合体の成長工程の別形態を示す斜視図である。
【
図11】本発明の実施形態及び実施例に係るセラミックス複合体の、室温に於ける外観色を示す写真である。
【
図12】本発明の実施形態及び実施例に係るセラミックス複合体を、200℃に加熱した時の外観色を示す写真である。
【
図13】本発明の実施形態及び実施例に係るセラミックス複合体の、光源(3000K)下に於ける反射スペクトル強度を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施形態及び実施例に係るセラミックス複合体の、蛍光灯(可視光照射)下に於ける反射スペクトル強度を示すグラフである。
【
図15】本発明の実施形態及び実施例に係るセラミックス複合体の、光源(3000K)下に於ける反射スペクトル強度を示す、光源比のグラフである。
【
図16】本発明の実施形態及び実施例に係るセラミックス複合体の、蛍光灯(可視光照射)下に於ける反射スペクトル強度を示す、光源比のグラフである。
【
図17】本発明の実施例に係るセラミックス複合体の表面の一部を、室温から200°に加熱した時の外観色を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施の形態の第一の特徴は、少なくともY3Al5O12相及びAl2O3相の2つの酸化物相をラメラ構造として有し、Hfが0.1at%含有されており、室温から少なくとも200℃に加熱される事により、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が増加すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が減少し、次に、波長365nm以上505nm以下の何れかの光が照射される事により、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が減少すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が増加するセラミックス複合体と云う事である。
【0013】
また第二の特徴は、光の波長が、365nm、375nm、405nm、450nm、505nmの何れかであると云う事である。
【0014】
これらの構成に依れば、本発明に係るセラミックス複合体は、サーモクロミズムとフォトクロミズムを両方併せ持つ事が可能となる。
【0015】
なお本発明で室温とは、外部から加熱も冷却もされていない状態を指し、摂氏1℃以上30℃以下の温度範囲を指す。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、各図を適宜参照して、詳細に説明する。各図に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。なお、本実施形態ではセラミックスとして、セラミックス複合体を説明する。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1から
図8は、本発明の実施形態に係る複数のセラミックス複合体及びその製造方法について説明する図である。
【0018】
図1に示すように、セラミックス複合体の製造装置1は、セラミックス複合体2を育成する育成容器3と、育成したセラミックス複合体2を引き上げる引き上げ容器4とから構成され、EFG(Edge-defined Film-fed. Growth)法によりセラミックス複合体2を育成成長する。
【0019】
育成容器3は、坩堝5、坩堝駆動部6、ヒータ7、電極8、ダイ9、及び断熱材10を備える。坩堝5はモリブデン製またはタングステン製であり、原料を溶融する。坩堝駆動部6は、坩堝5をその鉛直方向を軸として回転させる。ヒータ7は坩堝5を加熱する。また、電極8はヒータ7を通電する。ダイ9は坩堝5内に設置され、セラミックス複合体2を引き上げる際の原料融液(以下、必要に応じて単に「融液」と表記)21の液面形状を決定する。また断熱材10は、坩堝5とヒータ7とダイ9を取り囲んでいる。
【0020】
更に育成容器3は、雰囲気ガス導入口11と排気口12を備える。雰囲気ガス導入口11は、雰囲気ガスとして例えばアルゴンガスを育成容器3内に導入するための導入口であり、坩堝5やヒータ7、及びダイ9の酸化消耗を防止する。一方、排気口12は育成容器3内を排気するために備えられる。
【0021】
引き上げ容器4は、シャフト13、シャフト駆動部14、ゲートバルブ15、及び基板出入口16を備え、種結晶17から育成成長した複数の平板形状のセラミックス複合体2を引き上げる。シャフト13は種結晶17を保持する。またシャフト駆動部14は、シャフト13を坩堝5に向けて昇降させると共に、その昇降方向を軸としてシャフト13を回転させる。ゲートバルブ15は育成容器3と引き上げ容器4とを仕切る。また基板出入口16は、種結晶17を出し入れする。
【0022】
なお製造装置1は図示されない制御部も有しており、この制御部により坩堝駆動部6及びシャフト駆動部14の回転を制御する。
【0023】
次に、ダイ9について説明する。ダイ9はモリブデン製であり、
図2に示すように多数の仕切り板18を有する。
図2ではダイの一例として、仕切り板18が30枚であり、ダイ9が15個形成されている場合を示している。仕切り板18は同一の平板形状を有し、微小間隙(スリット)19を形成するように互いに平行に配置されて、1つのダイ9を形成している。スリット19は、ダイ9のほぼ全幅に亘って設けられる。また複数のダイ9は同一形状を有すると共に、その長手方向が互いに平行となるように所定の間隔で並列に配置されているため、複数のスリット19が設けられることとなる。各仕切り板18の上部は斜面30が形成されており、互いの斜面30が向かい合わせで配置されることで、鋭角の開口部20が形成されている。またスリット19は融液21を毛細管現象によって、各ダイ9の下端から開口部20に上昇させる役割を有している。
図2及び
図3内の記号tは、ダイ9の厚みを指す。また
図2内の記号Dは、各ダイ9間の間隙を指す。また
図3の記号Tは、種結晶17の厚みを指す。
【0024】
坩堝5内に投入される原料は、坩堝5の温度上昇に基づいて溶融(原料メルト)し、融液21となる。この融液21の一部は、ダイ9のスリット19に浸入し、前記のように毛細管現象に基づいてスリット19内を上昇し開口部20から露出して、開口部20で原料融液溜まり22が形成される(
図5(a)参照)。EFG法では、原料融液溜まり(以下、必要に応じて「融液溜まり」と表記)22で形成される融液面の形状に従って、セラミックス複合体2が成長する。
図2に示したダイ9では、融液面の形状は細長い長方形となるので、平板形状のセラミックス複合体2が製造される。
【0025】
次に、種結晶17について説明する。
図1、
図4、及び
図5に示すように本実施形態では、種結晶17として平板形状のセラミックス複合体製の基板を用いる。更に、種結晶17の平面方向とダイ9の長手方向は、互いに90°の角度で以て直交となるように、種結晶17が配置される。また、種結晶17とセラミックス複合体2も90°の角度で以て直交するので、
図1ではセラミックス複合体2の側面を示している。なお、
図3と
図4の引き出し番号28は、種結晶17の結晶面である。
【0026】
種結晶17は、シャフト13の下部の基板保持具(図示せず)との接触面積が大きいと、熱膨張率の差による応力のため変形し、場合によっては破損してしまう。反対に熱膨張率の差により種結晶17の固定が緩む場合もある。従って、種結晶17と基板保持具との接触面積は小さい方が好ましい。また、種結晶17は基板保持具に確実に固定できる基板形状の必要がある。
【0027】
図3は種結晶17の基板形状の一例を示した図である。このうち、同図(a)及び(b)は、種結晶17の上部に切り欠き部23を設けたものである。この切り欠き部23を利用して、例えば2カ所の切り欠き部23の下側からU字形の基板保持具を差し込んで、接触面積を小さくしつつ確実に種結晶17を保持することが可能となる。
【0028】
また、
図3(c)に示したように、種結晶17内側に切り欠き穴24を設けても良い。この切り欠き穴24を利用して、例えば2カ所の切り欠き穴24に係止爪を差し込んで、基板保持具と種結晶17との接触面積を小さくしつつ、確実に種結晶17を保持することが可能となる。
【0029】
次に、前記製造装置1を使用したセラミックス複合体2の製造方法を説明する。最初にセラミックス複合体の原料である、造粒された原料粉末(一例として、酸化アルミニウムを63.44重量%、酸化イットリウムを36.23重量%、酸化ハフニウムを0.33重量%含んだ粉末)をダイ9が収納された坩堝5に所定量投入して充填する。原料粉末には、製造しようとするセラミックス複合体の純度又は組成に応じて、上記以外の化合物や元素が含まれていてもよい。
【0030】
続いて、坩堝5やヒータ7若しくはダイ9を酸化消耗させないために、育成容器3内をアルゴンガスで置換し、酸素濃度を所定値以下とする。
【0031】
次に、ヒータ7で加熱して坩堝5を所定の温度とし、原料粉末を溶融する。酸化アルミニウムの融点は2050℃から2072℃程度なので、坩堝5の加熱温度はその融点以上の温度(例えば2100℃)に設定する。加熱後しばらくすると原料粉末が溶融して、原料の融液21が用意される。更に融液21の一部はダイ9のスリット19を毛細管現象により上昇してダイ9の表面に達し、スリット19上部に融液溜まり22が形成される。
【0032】
次に
図4及び
図5に示すように、スリット19上部の融液溜まり22の長手方向に対して垂直な角度に種結晶17を保持しつつ降下させ、種結晶17を融液溜まり22の融液面に接触させる。なお、種結晶17は、予め基板出入口16から引き上げ容器4内に導入しておく。
図4ではスリット19や開口部20の見易さを優先するため、融液21と融液溜まり22の図示を省略している。
【0033】
図4は、種結晶17と仕切り板18との位置関係を示した図である。前記の通り、種結晶17の平面方向を仕切り板18の長手方向と直交させることにより、種結晶17と融液21との接触面積を小さくすることが可能となる。従って、種結晶17の接触部分が融液21となじみ、育成成長されるセラミックス複合体2に結晶欠陥が生じにくくなる。
【0034】
種結晶17を融液面に接触させる際に、種結晶17の下部を仕切り板18の上部に接触させて溶融しても良い。
図5(b)は、種結晶17の一部を溶融する様子を示した図である。このように種結晶17の一部を溶融することで、種結晶17と融液21との温度差を速やかに解消することができ、セラミックス複合体2での結晶欠陥の発生を更に低減することが可能となる。
【0035】
続いて基板保持具を所望の上昇速度で引き上げて、種結晶17の引き上げを開始する。具体的にはシャフト13により基板保持具を所望の速度で上昇させる。
【0036】
なお、ダイ9の開口部20に対する種結晶の位置合わせをより容易にするため、種結晶17の下辺に凹凸を設けてもよい。
図6は、種結晶17の下辺の形状を例示した図であり、同図(a)は下辺が櫛歯形状の場合を、同図(b)では鋸形形状の場合を示している。
【0037】
この凹凸の間隔は、開口部20の間隔に合わせ、凸部分を融液溜まり22の中心に合わせる。凸部分を設けることで凸部分をセラミックス複合体2の成長開始点とすることができ、セラミックス複合体2がより容易に形成可能となる。なお、凹凸の形状は
図6に示したものには限定されず、例えば波形の凹凸形状であっても良い。
【0038】
基板保持具を所望の速度で上昇させ、種結晶17を中心に
図7に示すようにセラミックス複合体2をダイ9の長手方向に拡幅するように結晶成長させる(スプレディング)。セラミックス複合体2が、ダイ9の全幅(仕切り板18の端)まで拡幅すると(フルスプレッド)、ダイ9の全幅と同程度の幅を有する、面積の広い平板形状のセラミックス複合体2が育成される(直胴工程)。
図7は、スプレディング工程によりセラミックス複合体2の幅が広がる様子を示した模式図である。幅の広いセラミックス複合体2が得られることにより、セラミックス複合体製品の歩留まりが向上する。
【0039】
スプレディング工程により、ダイ9の全幅までセラミックス複合体2を成長させた後、
図8に示すようにダイ9の全幅と同程度の一定幅を有する、平板形状の直胴部分26を所望の速度(約100mm/時)で所望の長さ(直胴長さ)まで引き上げる引き上げ工程を実施し、平板形状のセラミックス複合体2を得る。
【0040】
引き上げ工程の期間中には、スリット19の上部に形成されている融液溜まり22での融液21の界面温度が一定となるように、ヒータ7等を用いて温度制御する。セラミックス複合体2は、融液溜まり22まで上昇してきた融液21が種結晶17やネック25、直胴部分26と接触して引き上げられながら冷却されることで成長する。したがって、融液溜まり22の温度を一定に管理することで、セラミックス複合体2の成長期間において結晶の成長条件を同等に保つことができ、セラミックス複合体2全域にわたって均一なラメラ構造を形成することができる。
【0041】
この後、得られたセラミックス複合体2を放冷し、ゲートバルブ15を空け、引き上げ容器4側に移動して、基板出入口16から取り出す。得られた平板形状のセラミックス複合体2の外観を
図8に示す。直胴長さは特に限定されないが、2インチ以上(50.8mm以上)が好ましい。
【0042】
また
図10に示すように、ダイ9の全幅と種結晶17の幅を同一とし、種結晶17の全幅と同じ幅でセラミックス複合体2を育成成長させても良い。なお
図10でもスリット19の見易さを優先するため、融液21と融液溜まり22の図示を省略している。
【0043】
以上説明したような製造装置1、種結晶17、及びダイ9を用いることにより、共通の種結晶17から複数のセラミックス複合体2を同時に製造することが出来る。従って、一枚当たりのセラミックス複合体2の製造コストを下げることが可能となる。
【0044】
またEFG法では、複数のセラミックス複合体2を育成成長する。従って、複数のセラミックス複合体2が均一に冷却及び放冷される事で、ばらつきの無い均一なラメラ構造を得ることが出来る。
【0045】
従って、種結晶17、及び仕切り板18を含めたダイ9は、精密に位置決めする必要がある。よって
図1に示したように製造装置1は、ダイ9を設置する坩堝5を回転する坩堝駆動部6、及びその回転を制御する制御部(図示せず)が設けられている。またシャフト13に関しても、シャフト13を回転するシャフト駆動部14、及びその回転を制御する制御部(図示せず)が設けられている。即ち、ダイ9に対する種結晶17の位置決めは、制御部によりシャフト13又は坩堝5を回転させて調整する。なお、種結晶17とダイ9との精密な位置決めについては、各仕切り板18の斜面30の一部を切り欠いたダイ9を使用することによっても行うことが出来る。
【0046】
図9は、上述したEFG法によって得られたセラミックス複合体2の表面を示す顕微鏡写真である。
図9中に写真で示されている範囲は、1辺が129μmの正方形である。
図9に示すように、本発明のセラミックス複合体2は、第1相であるY
3Al
5O
12相と、第2相であるAl
2O
3相が共晶として存在しており、第1相と第2相が相互に立体的に絡み合ったラメラ構造を有している。本発明では、原料に酸化ハフニウムを0.33重量%添加する事により、製造されたセラミックス複合体2の酸化物相には金属酸化物としてHfO
2を含有し、含有量はHfで0.005at%以上0.5at%以下である。
図9に於いて、濃色で示された領域がY
3Al
5O
12相であり、淡色で示された領域がAl
2O
3相である。また、第1相および第2相は、島状に独立して分離したものが少なく、三次元方向に連続した領域を有している。
【0047】
またセラミックス複合体2に含まれるY3Al5O12相の組成比は、共晶組成近傍の19.72±2.00mol%である。Y3Al5O12相の組成比がこの範囲を外れると、Al2O3相との共晶でラメラ構造を均一に形成することが困難である。
【0048】
またセラミックス複合体2は、上述したようにEFG法を用いて製造されているため、坩堝5の材料であるモリブデン(Mo)またはタングステン(W)が微量に融液21に溶け出してセラミックス複合体2に取り込まれる。したがって、セラミックス複合体2には、上記Y3Al5O12相とAl2O3相、HfO2の他に、微量のMoまたはWが含有されている。
【0049】
セラミックス複合体2に含有されるMoまたはWの量は、好ましくは1mol・ppm以上30000mol・ppm以下の範囲であり、さらに好ましくは100mol・ppm以上3000mol・ppm以下の範囲である。EFG法を用いたセラミックス複合体2の製造では、坩堝5の材料が融液21に溶け出すことを完全に防止することが不可能であり、MoまたはWの含有量を1mol・ppm未満とすることは非常に困難である。また、MoまたはWの含有量を30000mol・ppmを超えて大きくすると、Y3Al5O12相やAl2O3相の結晶性が悪化するため好ましくない。MoまたはWの含有量を100mol・ppm以上3000mol・ppm以下に設定すると、これら問題点が解消される。したがって、セラミックス複合体2に含有されるMoまたはWの含有量を少なくとも1mol・ppm以上30000mol・ppm以下とする。
【0050】
坩堝5としてMoまたはW以外の材料を用いると、融点が低いため坩堝5の材料が融液21に溶け出す量が増加し、セラミックス複合体2に含有される坩堝5由来の元素含有量が増加するため、好ましくない。また坩堝5を構成する材料として、MoまたはW以外の融点が高い材料を用いることは、原料の融液21との反応性や、坩堝5の成形性等の問題があり好ましくない。したがって、EFG法を用いてセラミックス複合体2を製造し、Y3Al5O12相とAl2O3相のラメラ構造を微細化するためには、セラミックス複合体2にMoまたはWが上記範囲で含まれていることが重要である。
【0051】
セラミックス複合体2の形状やサイズは限定されないが、セラミックス複合体2への作業性の悪化防止の点から、幅が0.5mm以上300mm以下で長さが10mm以上1000mm以下の方形状、または直径が0.5mm以上2mm以下の形状が望ましい。上述したように本実施形態のセラミックス複合体2はEFG法を用いて製造するため、ダイ9の幅と引き上げる長さを大きくすることで、容易に大面積のセラミックス複合体2を得ることが可能である。
【0052】
また、セラミックス複合体2の厚みは限定されないが、0.1mm以上4.0mm以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.5mm以上2.0mm以下の範囲である。セラミックス複合体2の厚みが0.1mm未満である場合には、EFG法では育成制御が困難になり、製造誤差による厚みの影響や、面内での厚みムラの影響が大きくなる。また、セラミックス複合体2に含まれるY3Al5O12相の熱伝導率がAl2O3相の1/4程度しかないため、結晶を厚くすると放熱性が悪化し、表面と内部で温度差が生じやすくなる。よって、セラミックス複合体2の厚みが4.0mmより大きい場合には、EFG法による引き上げ時に厚さ方向における外側と内側との温度差が生じやすくなり、コロニー構造が発生しやすくなり、ラメラ間隔の均一性が損なわれるため好ましくない。また、Y3Al5O12相とAl2O3相の界面密度が不均一になるため好ましくない。
【0053】
図11は、本実施形態に係るセラミックス複合体の、室温に於ける外観色を示す写真である。
図13は、本実施形態に係るセラミックス複合体の、光源(3000K)下に於ける反射スペクトル強度を示すグラフである。また
図14は、本実施形態に係るセラミックス複合体の、蛍光灯(可視光照射)下に於ける反射スペクトル強度を示すグラフである。また
図15は、本実施形態に係るセラミックス複合体の、光源(3000K)下に於ける反射スペクトル強度を示す、光源比のグラフである。また
図16は、本実施形態に係るセラミックス複合体の、蛍光灯(可視光照射)下に於ける反射スペクトル強度を示す、光源比のグラフである。
【0054】
図13乃至
図16の縦軸は本実施形態のセラミックス複合体が示す反射スペクトル強度(%)を示し、同各図の横軸は波長(nm)を示す。
【0055】
また、
図13の比較的細い実線で表されるグラフ線は本実施形態のセラミックス複合体を光源(3000K)下に置いた状態であり、太い実線は本実施形態のセラミックス複合体を200℃に加熱した状態であり、破線は本実施形態のセラミックス複合体を室温下に置いた状態を、それぞれ示す。
【0056】
また、
図14の比較的細い実線で表されるグラフ線は本実施形態のセラミックス複合体を蛍光灯(可視光照射)下に置いた状態であり、太い実線は本実施形態のセラミックス複合体を200℃に加熱した状態であり、破線は本実施形態のセラミックス複合体を室温下に置いた状態を、それぞれ示す。
【0057】
また、
図15の実線で表されるグラフ線は本実施形態のセラミックス複合体を200℃に加熱した状態であり、破線は本実施形態のセラミックス複合体を室温下に置いた状態を、それぞれ示す。
【0058】
また、
図16の実線で表されるグラフ線は本実施形態のセラミックス複合体を200℃に加熱した状態であり、破線は本実施形態のセラミックス複合体を室温下に置いた状態を、それぞれ示す。
【0059】
本実施形態のセラミックス複合体は、室温では
図14の反射スペクトル強度グラフに示す様に、波長425nm以上430nm以下と、625nm以上630nm以下での反射スペクトル強度が0.5%以上を示す。更に
図15と
図16に示す様に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度に比べて大きい。
【0060】
なお本発明で室温とは、外部から加熱も冷却もされていない状態を指し、摂氏1℃以上30℃以下の温度範囲を指す。この温度範囲内に、本実施形態のセラミックス複合体が置かれた状態での反射スペクトル強度が、
図13~
図16内の室温での反射スペクトル強度である。
【0061】
室温下に置かれ、加熱される前のセラミックス複合体は、
図14に示す様に波長425nm以上430nm以下と、625nm以上630nm以下に、反射スペクトル強度のピークを有し、それ以外の波長帯域では光吸収を有する。従って、本実施形態のセラミックス複合体は、広波長帯域で光吸収が認められる。更に、
図15と
図16に示す様に、425nm以上485nm以下の紫色から青色可視光波長帯域の反射スペクトル強度が、波長625nm以上780nm以下の赤色可視光波長帯域での反射スペクトル強度に比べて大きい。
【0062】
図14より、425nm以上430nm以下と625nm以上630nm以下を除く、可視光波長帯域全体に光吸収を有すると共に、
図15と
図16に示す反射スペクトル強度により、室温下に置かれた本実施形態のセラミックス複合体は、目視では淡い藍色又は淡い灰青色に認識される。
【0063】
次に、本実施形態のセラミックス複合体が、室温から200℃まで加熱された時の外観色を、
図12に示す。また
図13~
図16に、200℃まで加熱されたセラミックス複合体が示す反射スペクトル強度を、それぞれ示す。
【0064】
本実施形態に係るセラミックス複合体が、室温から200℃まで加熱されると、
図13~
図16に示す様に、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が増加すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が減少する。更に
図14に示す様に、波長625nm以上650nm以下の赤色可視光波長帯域での反射スペクトル強度が2.0%以上を示す。
【0065】
200℃に加熱されたセラミックス複合体は、波長625nm以上780nm以下の赤色可視光波長帯域の吸収は弱くなり、波長425nm以上485nm以下の紫色から青色可視光波長帯域の吸収が強くなる。更に、
図13~
図16に示す加熱に伴う反射スペクトル強度の変化が生じる。以上から、200℃に加熱された本実施形態のセラミックス複合体は、目視では淡いピンク色に認識される。
【0066】
なお、前記加熱温度として200℃を示したが、少なくとも200℃で且つ350℃までの加熱であっても良い。また前記加熱温度の下限値は、150℃以上であっても良い。150℃以上350℃以下の加熱により、本発明のセラミックス複合体に於いて、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が増加すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が減少されている。
【0067】
本発明のセラミックス複合体では、室温から、150℃以上350℃以下までの加熱に伴う、反射スペクトル強度及び外観色の変更を、サーモクロミズムとする。
【0068】
セラミックス複合体の加熱方法は、150℃以上350℃以下に加熱された接着剤を使用した加工用治具への貼り付けによる加熱方法が挙げられる。
【0069】
加熱に伴い、外観色が変化したセラミックス複合体を、そのまま遮光された状態に置くと、変化した外観色が保持される。本発明のセラミックス複合体は、150℃以上350℃以下まで加熱後に前記室温まで温度降下させても、遮光された状態では外観色は元には戻らない。従って150℃以上350℃以下まで加熱後に、室温までの温度降下のみでは、本発明に係るセラミックス複合体の外観色は変化せず、元の色に戻らないものの、本発明ではサーモクロミズムを有すると定義する。
【0070】
次に、目視で淡いピンク色となった本発明のセラミックス複合体の状態で、波長365nm以上505nm以下の何れかの波長を有する光を、セラミックス複合体に照射する。すると、
図13~
図16に示す様に、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が減少すると共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が増加する。更に
図14に示す様に、波長425nm以上430nm以下と、625nm以上630nm以下での反射スペクトル強度が0.5%以上となる。
【0071】
なお、波長365nm以上505nm以下の何れかの波長を有する光として、紫外線光や、可視光を照射可能な蛍光灯、LED光源、LD光源等が挙げられる。
【0072】
更にセラミックス複合体に照射される光の波長は、365nm、375nm、405nm、450nm、505nmの何れかが、より好ましい。即ち、紫外線光(365nm380nm未満)か、青色~緑色の可視光での単色光源である。より好ましい理由として、光の照射によりセラミックス複合体の外観色が、数秒で元の色である淡い藍色又は淡い灰青色に戻る事が可能となる為である。即ち光の照射により、セラミックス複合体に於ける反射スペクトル強度が、数秒で
図13~
図16に示される室温の反射スペクトル強度と変化する。
【0073】
紫外線光源(ブラックライト)や、可視光源(白熱電球、蛍光灯、LED光源、LD光源)、及び太陽光には、365nm~505nmの波長を有している。従って、前記のような単色光源で無くても、含まれる光強度に依るが、本発明のセラミックス複合体の外観色は、0.1時間(6分)~24時間程度で、元の色である淡い藍色又は淡い灰青色に戻る。
【0074】
本発明のセラミックス複合体では、前記光の照射に伴う、反射スペクトル強度及び外観色の変更を、フォトクロミズムとする。前記の通り、紫外線光や青色~緑色可視光、又は蛍光灯、LED光源、LD光源を本発明のセラミックス複合体に照射する事で、時間の長短はあるもののセラミックス複合体の外観色が変化するので、本発明ではフォトクロミズムを有すると定義する。
【0075】
350℃までの加熱なら、加熱後に前記光の照射を繰り返しても、本発明に係るセラミックス複合体は、繰り返し外観色が変化する。
【0076】
以上から、本発明に係るセラミックス複合体は、サーモクロミズムとフォトクロミズムを両方併せ持つ事が可能となる。
【0077】
本発明のセラミックス複合体の用途としては、種々考えられる。例えば、電気炉内の温度マーカとしてサーモクロミズムを有する材料を使用する場合、150℃以上350℃以下の温度環境で使用した本発明のセラミックス複合体を、波長365nm以上505nm以下の光の照射により瞬時に数秒で元の状態に戻して再利用する事が可能となる。なお、明るい室内に放置しても、波長365nm以上505nm以下の光により、元の外観色(淡い藍色又は淡い灰青色)に30分~1時間程度で戻り再利用可能となる。
【0078】
また他の用途としては、150℃以上350℃以下の温度で使用する実験器具や調理器具等の、少なくとも一部に使用可能である。一例として本発明のセラミックス複合体を、調理器具(例えばてんぷら鍋)の一部に用いる事で、セラミックス複合体のサーモクロミズムによる外観色変化により、油の温度が150℃以上か否かを、目視で確認可能となる。更に、実験器具や調理器具の使用後、紫外線光照射による殺菌が行われたか否かを、セラミックス複合体のフォトクロミズムによる外観色変化により、目視で確認可能となる。
【0079】
また表1に、本発明に係るセラミックス複合体の色度Lab測定結果を示す。
【0080】
【0081】
表1より室温下に置かれ、外観色が淡い前記藍色又は淡い前記灰青色を示すセラミックス複合体に光源(3000K)から光を照射すると、Lab表色系における明度Lは74.5~75程度、色度aは-1.6~-1.5程度、色度bは-4.0~-3.9程度を示し、色差ΔEは17~18程度となる。
【0082】
また表1より室温下に置かれ、外観色が淡い前記藍色又は淡い前記灰青色を示すセラミックス複合体に蛍光灯から可視光線を照射すると、Lab表色系における明度Lは7.8~8程度、色度aは-1.7~-1.6程度、色度bは-0.07~-0.06程度を示し、色差ΔEは15~16程度となる。
【0083】
一方、表1より200℃まで加熱され、外観色が淡い前記ピンク色を示すセラミックス複合体に光源(3000K)から光を照射すると、Lab表色系における明度Lは84.1~84.2程度、色度aは8.5~8.6程度、色度bは6.7~6.8程度を示し、色差ΔEは17~18程度となる。
【0084】
また、表1より200℃まで加熱され、外観色が淡い前記藍色又は淡い前記灰青色を示すセラミックス複合体に蛍光灯から可視光線を照射すると、Lab表色系における明度Lは13.0~13.1程度、色度aは8.8~8.9程度、色度bは10.2~10.3程度を示し、色差ΔEは15~16程度となる。
【0085】
色度のばらつきは、特性のばらつきを示していると考えられる為、色度を上記範囲に調整できる事は好ましい。
【0086】
更に、表1より本発明に係るセラミックス複合体は、色差ΔEを12.0以上にする事が出来る。色差ΔEは、以下の式で表すことができる。ΔE=((ΔL)×2+(Δa)×2+(Δb)×2)×(1/2)である。ここで、ΔL、Δa、Δbは、それぞれセラミックス複合体の明度L、色度a、色度bの差の最大値である。セラミックス複合体の所定数の測定箇所について明度L、色度a、色度bを測定し、その差の最大を求めて色差ΔEを算出する。本発明のセラミックス複合体では、上記のようにして求めた色差ΔEは、全て12.0以上となる。このように色差ΔEを12.0以上とする事が可能となり、別の色系統に色変化したと結論付けられる。
【0087】
以下に本発明に係る実施例を説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例0088】
本実施例のセラミックス複合体を、
図1~
図6に示すEFG法による製造装置を用いて前記実施形態の各製造工程を経て作製した。以下、前記実施形態と重複する説明は省略又は簡略化すると共に、同一の引き出し番号を用いる。更に、新たに説明が必要な箇所を重点的に説明する。
【0089】
坩堝5はMo製とし、原料粉末(酸化アルミニウムを63.44重量%、酸化イットリウムを36.23重量%、酸化ハフニウムを0.33重量%含んだ粉末)をダイ9が収納された坩堝5に所定量投入し、加熱して融液21及び融液溜まり22を用意した。
【0090】
次に、セラミックス複合体製の種結晶17を融液溜まり22に接触させ、引き上げてセラミックス複合体2を作製した。作製されたセラミックス複合体2の表面を顕微鏡で観察したところ、
図9の観察像が得られた。
【0091】
セラミックス複合体2の酸化物相には金属酸化物としてHfO2を含有し、含有量は、Hfで0.1at%であった。
【0092】
本実施例に係るセラミックス複合体は、室温では
図14の反射スペクトル強度グラフに示す様に、波長425nm以上430nm以下と、625nm以上630nm以下での反射スペクトル強度が0.5%以上であった。更に
図15と
図16に示す様に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度に比べて大きかった。
【0093】
室温下に置かれ、加熱される前のセラミックス複合体は、
図14に示す様に波長425nm以上430nm以下と、625nm以上630nm以下に、反射スペクトル強度のピークを有し、それ以外の波長帯域では光吸収を有した。従って、本実施例のセラミックス複合体は、目視では淡い藍色又は淡い灰青色に認識された。
【0094】
次に、本実施例に係るセラミックス複合体が、室温から200℃まで加熱されると、
図13~
図16に示す様に、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が増加したと共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が減少した。更に
図14に示す様に、波長625nm以上650nm以下の赤色可視光波長帯域での反射スペクトル強度が2.0%以上を示した。
【0095】
200℃に加熱されたセラミックス複合体は、波長625nm以上780nm以下の赤色可視光波長帯域の吸収は弱くなり、波長425nm以上485nm以下の紫色から青色可視光波長帯域の吸収が強くなった。従って、200℃に加熱された本実施例のセラミックス複合体は、目視では淡いピンク色に認識された。
【0096】
本実施例のセラミックス複合体の加熱方法は、200℃に加熱された接着剤(ワックス)を使用した加工用治具への貼り付けによる加熱方法であった。
【0097】
加熱に伴い、外観色が変化したセラミックス複合体を、そのまま遮光された状態に置くと、2週間経っても淡いピンク色の外観色が保持される事が観察された。
【0098】
次に、目視で淡いピンク色となった本実施例のセラミックス複合体の状態で、波長375nmの波長を有する紫外線光と、450nmの波長を有する青色可視光を、セラミックス複合体に照射した。すると、
図13~
図16に示す様に、波長625nm以上780nm以下での反射スペクトル強度が減少したと共に、425nm以上485nm以下の反射スペクトル強度が増加した。更に
図14に示す様に、波長425nm以上430nm以下と、625nm以上630nm以下での反射スペクトル強度が0.5%以上となった。即ち、紫外線光又は青色可視光の照射により、セラミックス複合体の外観色が、数秒で元の色である淡い藍色又は淡い灰青色に戻る事が確認された。
【0099】
比較の為、
図17に示す様に、セラミックス複合体の試料を4個用意し、何れの試料もその一部に前記紫外線光を照射した。その結果
図17に示す様に、左上試料の試料は真ん中部分のみ、右上試料は対角線で右斜め上部分、左下試料は右半分、右下試料は上半分が、淡いピンク色から、淡い藍色又は淡い灰青色に戻った事が確認された。
【0100】
また、本実施例に係るセラミックス複合体のLab表色系における明度L、色度a、色度b、色差ΔEは、表1に示す通りである。本実施例のセラミックス複合体では、上記のようにして求めた色差ΔEは、全て12.0以上となり、別の色系統に色変化したと結論付けられる。
【0101】
更に別の実施例として、目視で淡いピンク色となったセラミックス複合体に、蛍光灯から可視光波長を有する光を照射した。すると、セラミックス複合体の外観色が、1時間で元の色である淡い藍色又は淡い灰青色に戻る事が確認された。