(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031379
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/02 20060101AFI20230302BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
F02D19/02 C
F02D19/02 F
F02M21/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136818
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】佐古 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 良胤
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 新吾
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 護
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AB15
3G092CA03
3G092FA24
(57)【要約】
【課題】過濃混合気を部分酸化反応させて改質ガスを生成する改質気筒を有するものであって、エンジンの給気温度や給気湿度等の外的環境が変動した場合にも、改質気筒と通常気筒とを含む全体での正味熱効率を極大点近傍に維持する。
【解決手段】改質気筒40dにて生成された改質ガスKにおける任意のガス成分の濃度であるガス成分濃度を測定する改質ガス成分濃度測定部Sと、改質気筒40dにおける空気過剰率を改質ガスKが生成される所定の範囲で制御する空気過剰率制御を実行する制御装置50を備え、制御装置50は、空気過剰率制御において、改質ガス成分濃度測定部Sにて測定されたガス成分濃度に基づいて、改質気筒40dにおける空気過剰率を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒のうち少なくとも一部を、燃料と燃焼用空気とを含む混合気の少なくとも一部を部分酸化反応させて燃料よりも燃焼速度の速い燃焼促進性ガスを含む改質ガスへ改質する改質気筒として働かせ、複数の前記気筒の残部を、前記改質気筒にて改質された前記改質ガスが導かれる通常気筒として働かせることが可能なエンジンシステムにおいて、
前記改質気筒にて生成された前記改質ガスにおける前記燃焼促進性ガス及び未燃炭化水素のうちの少なくとも一つのガス成分の濃度であるガス成分濃度を測定する改質ガス成分濃度測定部と、
前記改質気筒における空気過剰率を前記改質ガスが生成される所定の範囲で制御する空気過剰率制御を実行する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記空気過剰率制御において、前記改質ガス成分濃度測定部にて測定された前記ガス成分濃度に基づいて、前記改質気筒における前記空気過剰率を制御するエンジンシステム。
【請求項2】
前記改質ガス成分濃度測定部として、前記改質ガスにおける前記燃焼促進性ガスの濃度を測定する燃焼促進性ガス濃度測定部を備え、
前記制御装置は、前記空気過剰率制御において、前記燃焼促進性ガス濃度測定部にて測定された前記燃焼促進性ガスの濃度が最大化するように、前記改質気筒における前記空気過剰率を制御する請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記空気過剰率制御は、前記改質気筒の前記空気過剰率を、任意に変更可能な基準空気過剰率に追従する形態で制御するものであり、
前記制御装置は、前記基準空気過剰率から所定の判定変化量の前記空気過剰率を減少する空気過剰率減少制御を実行可能に構成され、
前記制御装置は、前記空気過剰率減少制御を実行する前後での前記燃焼促進性ガス濃度測定部にて測定される前記燃焼促進性ガスの濃度変化量が正である場合に、前記基準空気過剰率を減少制御し、前記燃焼促進性ガスの前記濃度変化量が負である場合に、前記基準空気過剰率を増加制御する請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記空気過剰率制御は、前記改質気筒の前記空気過剰率を、任意に変更可能な基準空気過剰率に追従する形態で制御するものであり、
前記制御装置は、前記基準空気過剰率から所定の判定変化量の前記空気過剰率を増加する空気過剰率増加制御を実行可能に構成され、
前記制御装置は、前記空気過剰率増加制御を実行する前後での前記燃焼促進性ガス濃度測定部にて測定される前記燃焼促進性ガスの濃度変化量が正である場合に、前記基準空気過剰率を増加制御し、前記燃焼促進性ガスの前記濃度変化量が負である場合に、前記基準空気過剰率を減少制御する請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記改質ガス成分濃度測定部として、前記改質ガスにおける前記未燃炭化水素の濃度を測定する未燃炭化水素濃度測定部を備え、
前記空気過剰率制御は、前記改質気筒の前記空気過剰率を、任意に変更可能な基準空気過剰率に追従する形態で制御するものであり、
前記制御装置は、前記基準空気過剰率から所定の判定変化量の前記空気過剰率を減少する空気過剰率減少制御、又は前記基準空気過剰率から所定の判定変化量の前記空気過剰率を増加する空気過剰率増加制御を実行可能に構成され、
前記制御装置は、前記空気過剰率減少制御又は前記空気過剰率増加制御を実行する前後での前記未燃炭化水素濃度測定部にて測定される前記未燃炭化水素の濃度変化量の絶対値が所定の判定濃度変化量を超えている場合に前記基準空気過剰率を増加制御し、前記未燃炭化水素の前記濃度変化量の絶対値が所定の前記判定濃度変化量以下の場合に、前記基準空気過剰率を減少制御する請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項6】
少なくとも前記通常気筒へ導かれる燃料を供給する第1燃料供給部と、前記改質気筒へ導かれる燃料を供給する第2燃料供給部とを各別に備え、
前記制御装置は、前記第2燃料供給部による燃料供給量を調整して前記改質気筒における前記空気過剰率を、前記改質ガスが生成される所定の範囲で制御する前記空気過剰率制御を実行している状態で、前記第2燃料供給部によるすべての前記改質気筒への総燃料供給量に対する前記第1燃料供給部によるすべての前記通常気筒への総燃料供給量の比である燃料比を低下する燃料比低下制御を実行しているときに、
前記空気過剰率制御において、前記改質ガス成分濃度測定部にて測定された前記ガス成分濃度に基づいて、前記改質気筒における前記空気過剰率を制御する請求項1~5の何れか一項に記載のエンジンシステム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記空気過剰率制御において、前記改質ガス成分濃度測定部にて測定された前記ガス成分濃度に基づいて、前記改質気筒における前記空気過剰率を制御している状態で、前記通常気筒へ前記燃料として前記改質ガスのみを導く改質ガス運転を実行する請求項1~6の何れか一項に記載のエンジンシステム。
【請求項8】
複数の前記気筒として少なくとも1つの前記改質気筒を備える改質エンジンと、複数の前記気筒として前記通常気筒を備える外部出力エンジンとを備える請求項1~7の何れか一項に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の気筒のうち少なくとも一部を、燃料と燃焼用空気とを含む混合気の少なくとも一部を部分酸化反応させて燃料よりも燃焼速度の速い燃焼促進性ガスを含む改質ガスへ改質する改質気筒として働かせ、複数の前記気筒の残部を、前記改質気筒にて改質された前記改質ガスが導かれる通常気筒として働かせることが可能なエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンシステムとして、燃料と燃焼用空気とを含む混合気を燃焼する燃焼室を有する通常気筒を少なくとも1つ備えると共に、混合気の少なくとも一部を燃焼室にて部分酸化反応させて燃料よりも燃焼速度の速い燃焼促進性ガスを含む改質ガスへ改質する改質気筒を少なくとも一つ備え、改質気筒にて改質された改質ガスを、少なくとも通常気筒へ導くものが知られている(特許文献1を参照)。
改質気筒では、例えば、メタンを主成分とする燃料を含む過濃混合気を部分酸化反応させることで、水素等の燃焼速度の速い燃焼促進性ガスを含む改質ガスを生成することができる。そして、当該改質ガスを通常気筒へ導くことで、例えば、通常気筒の燃焼室での火花伝播速度を上昇させ、失火や燃焼変動を低下できると共に、燃焼促進性ガスの燃焼による熱効率の向上が期待できる。
一方で、従来、エンジンを所望の熱効率にて運転するべく、排気路を通流する排ガスの酸素濃度を計測するラムダセンサを有し、当該ラムダセンサの出力を用いて、燃焼室での空気過剰率が所定の空気過剰率となるよう制御するエンジンシステムが知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-94930号公報
【特許文献2】特開2007-278070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示のエンジンシステムにおいて、エンジンを所望の熱効率で運転するには、例えば、上記特許文献2に開示の技術の如く、複数の気筒からの燃焼排ガスが通流する排気路にラムダセンサを設け、当該ラムダセンサの計測結果に基づいて、エンジンの運転を制御する構成が考えられる。しかしながら、上記特許文献1に開示のエンジンシステムにおいては、改質気筒では燃焼促進性ガスを含む改質ガスを生成するため、空気過剰率が1より小さく設定されており、当該改質気筒からの改質ガスをラムダセンサにて計測しても、雰囲気の温度や湿度の変化に伴う改質ガスとしての水素等の濃度の変化を的確に捉えることが難しく、当該値に基づいてエンジンの運転を制御することが困難であった。このため、上記特許文献1に開示のエンジンシステムを、高い熱効率で運転するための新たな技術の開発が望まれていた。
特に、上述の如く、改質気筒を備えたエンジンシステムにおいて、エンジンの給気温度や給気湿度等の外的環境が変動した場合にも、エンジンの熱効率を高い値に維持する技術については、開示も示唆もされておらず改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、過濃混合気を部分酸化反応させて改質ガスを生成する改質気筒を有するものであって、エンジンの給気温度や給気湿度等の外的環境が変動した場合にも、改質気筒と通常気筒とを含む全体での正味熱効率を極大点近傍に維持可能なエンジンシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためのエンジンシステムは、複数の気筒のうち少なくとも一部を、燃料と燃焼用空気とを含む混合気の少なくとも一部を部分酸化反応させて燃料よりも燃焼速度の速い燃焼促進性ガスを含む改質ガスへ改質する改質気筒として働かせ、複数の前記気筒の残部を、前記改質気筒にて改質された前記改質ガスが導かれる通常気筒として働かせることが可能なエンジンシステムであって、その特徴構成は、
前記改質気筒にて生成された前記改質ガスにおける前記燃焼促進性ガス及び未燃炭化水素のうちの少なくとも一つのガス成分の濃度であるガス成分濃度を測定する改質ガス成分濃度測定部と、
前記改質気筒における空気過剰率を前記改質ガスが生成される所定の範囲で制御する空気過剰率制御を実行する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記空気過剰率制御において、前記改質ガス成分濃度測定部にて測定された前記ガス成分濃度に基づいて、前記改質気筒における前記空気過剰率を制御する点にある。
【0007】
本発明の発明者らは、鋭意研究した結果、
図3に示すように、上述の空気過剰率制御を実行した場合、改質気筒の空気過剰率を1から所定のピーク空気過剰率(
図3では、λαで示される範囲に含まれる値)まで減少させるのに従って、改質ガスにおける燃焼促進性ガスとしての水素及び一酸化炭素の濃度が徐々に上昇し、所定のピーク空気過剰率を超えて減少させると、改質ガスにおける燃焼促進性ガスとしての水素及び一酸化炭素の濃度が徐々に減少するという知見を得た。
更に、
図5に示すように、改質気筒を含むエンジンの正味熱効率は、改質気筒の空気過剰率を1から所定のピーク空気過剰率近傍まで減少させるのに従って徐々に上昇し、所定のピーク空気過剰率近傍を超えて減少させると徐々に減少するという知見を得た。
即ち、
図3、5に示される結果から、改質気筒において空気過剰率を変化させたときに、改質気筒を含むエンジンの正味熱効率は、改質気筒にて生成される燃焼促進性ガスの濃度と、正の相関を有すると推定される。
尚、当該実験では、通常気筒及び改質気筒のストロークボア比(ストローク/ボア)、排気量、機関回転速度は、通常のエンジンにて一般的に用いられる値に調整した。
【0008】
上記特徴構成によれば、制御装置は、改質気筒における空気過剰率を改質ガスが生成される所定の範囲で制御する空気過剰率制御において、改質ガス成分濃度測定部にて測定されたガス成分濃度に基づいて、改質気筒における空気過剰率を制御するから、例えば、制御装置は、エンジンの正味熱効率と高い相関を有すると推定される改質ガス成分濃度(例えば、水素、一酸化炭素等の濃度)が高くなるようフィードバック制御することで、エンジンの正味熱効率を、改質気筒での空気過剰率の制御による極大点に維持しながら運転し得る。
特に、当該制御は、給気温度や給気湿度等のエンジンの外的環境が変化した場合であっても、当該外的環境の変化を反映した改質ガス成分濃度に基づいた制御を実行して、エンジンの正味熱効率を極大点に維持することができるから、エンジンの外的環境の変化に強い制御となる。
【0009】
以上より、過濃混合気を部分酸化反応させて改質ガスを生成する改質気筒を有するものであって、エンジンの給気温度や給気湿度等の外的環境が変動した場合にも、改質気筒と通常気筒とを含む全体での正味熱効率を極大点近傍に維持する制御を実行可能なエンジンシステムを提供できる。
【0010】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記改質ガス成分濃度測定部として、前記改質ガスにおける前記燃焼促進性ガスの濃度を測定する燃焼促進性ガス濃度測定部を備え、
前記制御装置は、前記空気過剰率制御において、前記燃焼促進性ガス濃度測定部にて測定された前記燃焼促進性ガスの濃度が最大化するように、前記改質気筒における前記空気過剰率を制御する点にある。
【0011】
上記特徴構成の如く、制御装置が、空気過剰率制御において、燃焼促進性ガス測定部にて測定された燃焼促進性ガスの濃度が最大化するように、改質気筒における空気過剰率を制御することで、
図3、5に示すように、改質ガスにおける燃焼促進性ガスの濃度を増加させ、当該燃焼促進性ガスの濃度と正の相関を有する通常気筒での正味熱効率を極大点で運転し得る。
【0012】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記空気過剰率制御は、前記改質気筒の前記空気過剰率を、任意に変更可能な基準空気過剰率に追従する形態で制御するものであり、
前記制御装置は、前記基準空気過剰率から所定の判定変化量の前記空気過剰率を減少する空気過剰率減少制御を実行可能に構成され、
前記制御装置は、前記空気過剰率減少制御を実行する前後での前記燃焼促進性ガス濃度測定部にて測定される前記燃焼促進性ガスの濃度変化量が正である場合に、前記基準空気過剰率を減少制御し、前記燃焼促進性ガスの前記濃度変化量が負である場合に、前記基準空気過剰率を増加制御する点にある。
【0013】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記空気過剰率制御は、前記改質気筒の前記空気過剰率を、任意に変更可能な基準空気過剰率に追従する形態で制御するものであり、
前記制御装置は、前記基準空気過剰率から所定の判定変化量の前記空気過剰率を増加する空気過剰率増加制御を実行可能に構成され、
前記制御装置は、前記空気過剰率増加制御を実行する前後での前記燃焼促進性ガス濃度測定部にて測定される前記燃焼促進性ガスの濃度変化量が正である場合に、前記基準空気過剰率を増加制御し、前記燃焼促進性ガスの前記濃度変化量が負である場合に、前記基準空気過剰率を減少制御する点にある。
【0014】
上記特徴構成の如く、基準空気過剰率から判定変化量の空気過剰率を減少する空気過剰率減少制御、又は基準空気過剰率から判定変化量の空気過剰率を増加する空気過剰率増加制御を実行することで、実行時点において空気過剰率を変動させたときの燃焼促進性ガスの濃度変化傾向が把握できるから、当該濃度変化傾向に基づいて基準空気過剰率を変更することで、当該基準空気過剰率を、燃焼促進性ガスの濃度を最大化するピーク空気過剰率に近づけることができる。
そして、空気過剰率減少制御又は空気過剰率増加制御を、所定時間毎に連続して実行することで、基準空気過剰率を、燃焼促進性ガスの濃度を最大化するピーク空気過剰率に維持することができ、これにより、エンジンの正味熱効率を極大化する運転を継続できる。
【0015】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記改質ガス成分濃度測定部として、前記改質ガスにおける前記未燃炭化水素の濃度を測定する未燃炭化水素濃度測定部を備え、
前記空気過剰率制御は、前記改質気筒の前記空気過剰率を、任意に変更可能な基準空気過剰率に追従する形態で制御するものであり、
前記制御装置は、前記基準空気過剰率から所定の判定変化量の前記空気過剰率を減少する空気過剰率減少制御、又は前記基準空気過剰率から所定の判定変化量の前記空気過剰率を増加する空気過剰率増加制御を実行可能に構成され、
前記制御装置は、前記空気過剰率減少制御又は前記空気過剰率増加制御を実行する前後での前記未燃炭化水素濃度測定部にて測定される前記未燃炭化水素の濃度変化量の絶対値が所定の判定濃度変化量を超えている場合に前記基準空気過剰率を増加制御し、前記未燃炭化水素の前記濃度変化量の絶対値が所定の前記判定濃度変化量以下の場合に、前記基準空気過剰率を減少制御する点にある。
【0016】
発明者らは、
図4に示すように、空気過剰率制御により、改質気筒の空気過剰率を変動させた場合、空気過剰率が減少するのに従って、改質ガスにおける未燃炭化水素の濃度が徐々に増加し、特に、
図5も併せると、改質ガスにおける未燃炭化水素の濃度は、エンジンの正味熱効率が最大化する空気過剰率よりも小さい側にて、その濃度変化率(空気過剰率の変化に対する未燃炭化水素の濃度変化量)が大きく増大していることがわかる。
当該知見に基づく上記特徴構成によれば、制御装置が、制御装置は、空気過剰率減少制御又は空気過剰率増加制御を実行する前後での未燃炭化水素濃度測定部にて測定される未燃炭化水素の濃度変化量の絶対値が所定の判定濃度変化量を超えている場合に基準空気過剰率を増加制御し、未燃炭化水素の濃度変化量の絶対値が所定の判定濃度変化量以下の場合に、基準空気過剰率を減少制御することで、所定の判定変化量だけ空気過剰率を変化させたときの所定の判定濃度変化量を適切に設定することで、基準空気過剰率を、エンジンの正味熱効率を極大化する空気過剰率に設定することができる。
【0017】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
少なくとも前記通常気筒へ導かれる燃料を供給する第1燃料供給部と、前記改質気筒へ導かれる燃料を供給する第2燃料供給部とを各別に備え、
前記制御装置は、前記第2燃料供給部による燃料供給量を調整して前記改質気筒における前記空気過剰率を、前記改質ガスが生成される所定の範囲で制御する前記空気過剰率制御を実行している状態で、前記第2燃料供給部によるすべての前記改質気筒への総燃料供給量に対する前記第1燃料供給部によるすべての前記通常気筒への総燃料供給量の比である燃料比を低下する燃料比低下制御を実行しているときに、
前記空気過剰率制御において、前記改質ガス成分濃度測定部にて測定された前記ガス成分濃度に基づいて、前記改質気筒における前記空気過剰率を制御する点にある。
【0018】
本発明の発明者らは、改質気筒への総燃料供給量に対するすべての通常気筒への総燃料供給量の比である燃料比を低下する、即ち、通常気筒の燃料として改質ガス由来のものを増加することで、エンジンの正味熱効率を向上できることを見出している。
そこで、上記特徴構成によれば、燃料比低下制御に基づく正味熱効率の向上に加え、改質ガス成分濃度測定部にて測定されたガス成分濃度に基づく改質気筒における空気過剰率の制御により、正味熱効率の向上を図り得るので、より一層のエンジンの正味熱効率の向上を期待できる。
【0019】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
前記制御装置は、前記空気過剰率制御において、前記改質ガス成分濃度測定部にて測定された前記ガス成分濃度に基づいて、前記改質気筒における前記空気過剰率を制御している状態で、前記通常気筒へ前記燃料として前記改質ガスのみを導く改質ガス運転を実行する点にある。
【0020】
上述したように、通常気筒の燃料として改質ガス(燃焼促進性ガス)の割合を増加することで、エンジンの正味熱効率を向上できるので、上記特徴構成の如く、通常気筒へ燃料として改質ガスのみを導く改質ガス運転を実行することで、エンジンの正味熱効率を向上できることに加え、改質ガス成分濃度測定部にて測定されたガス成分濃度に基づく改質気筒における空気過剰率の制御を実行することによっても、エンジンの正味熱効率の向上を図り得るから、より一層のエンジンの正味熱効率の向上を期待できる。
【0021】
エンジンシステムの更なる特徴構成は、
複数の前記気筒として少なくとも1つの前記改質気筒を備える改質エンジンと、複数の前記気筒として前記通常気筒を備える外部出力エンジンとを備える点にある。
【0022】
本発明のエンジンシステムは、上記特徴構成の如く、改質気筒を備える改質エンジンと、当該改質気筒から改質ガスが導かれる通常気筒を備える外部出力エンジンとを各別に備える構成であっても、これまで説明してきた効果を好適に発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態に係るエンジンシステムの概略構成図である。
【
図2】正味熱効率の極大点追従制御の制御を示すフロー図である。
【
図3】改質気筒での空気過剰率毎の改質ガスにおける水素・一酸化炭素の濃度を示すグラフ図である。
【
図4】改質気筒での空気過剰率毎の改質ガスにおける未燃炭化水素・メタンの濃度を示すグラフ図である。
【
図5】改質気筒での空気過剰率毎のエンジン全体での正味熱効率を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態に係るエンジンシステム100は、過濃混合気を部分酸化反応させて改質ガスを生成する改質気筒を有するものであって、エンジンの給気温度や給気湿度等の外的環境が変動した場合にも、改質気筒と通常気筒とを含む全体での正味熱効率を極大点近傍に維持可能なものに関する。
以下、当該エンジンシステム100について、図面に基づいて説明する。
【0025】
実施形態に係るエンジンシステム100は、
図1に示すように、エンジン本体40に、都市ガス13A等(メタンを主成分とする炭化水素ガスの一例)の燃料Fと燃焼用空気Aとを含む新気(混合気M)を燃焼する通常気筒40a、40b、40cと、混合気Mの少なくとも一部を部分酸化反応させて燃料Fよりも燃焼速度の速い燃焼促進性ガスを含む改質ガスKへ改質する改質気筒40dとを備え、通常気筒40a、40b、40cへ導かれる燃料を供給する第1燃料供給部と、改質気筒40dへ導かれる燃料を供給する第2燃料供給部とを各別に備え、改質気筒40dにて改質された改質ガスKを、少なくとも通常気筒40a、40b、40cへ導く(当該実施形態では通常気筒40a、40b、40cのみへ導く)ものである。
尚、改質気筒40dでは、以下の〔式1〕にて示される水蒸気改質や、〔式2〕にて示される水性ガスシフト反応も進行する。
【0026】
CH4+H20→CO+3H2・・・〔式1〕
【0027】
CO+H20→CO2+H2・・・・〔式2〕
【0028】
以下、
図1に基づいて、実施形態に係るエンジンシステム100について説明する。
当該実施形態のエンジンシステム100は、ターボ過給式エンジンとして構成されており、少なくとも1つ以上(当該実施形態では3つ)の通常気筒40a、40b、40cと、少なくとも1つ以上(当該実施形態では1つ)の改質気筒40dとを備えている。更には、エンジンの運転状態を検出するセンサ等の測定結果が入力され、その入力信号に基づいてターボ過給式エンジンの運転を制御するハードウェア群とソフトウェア群とから構成されているエンジンコントロールユニット(以下、制御装置50と呼ぶ)を備えている。
【0029】
この種のエンジンシステム100は、詳細な図示は省略するが、給気本管20から通常気筒40a、40b、40cの燃焼室(図示せず)へ給気弁(図示せず)を介して給気した混合気Mを、ピストンの上昇により圧縮した状態で点火プラグ(図示せず)にて火花点火して燃焼・膨張させることで、ピストンを押し下げて回転軸(図示せず)から回転動力を出力すると共に、燃焼により発生した排ガスEは、通常気筒40a、40b、40cの燃焼室から排気弁(図示せず)を介して排気路27に押し出され、外部へ排出される。
尚、詳細については後述するが、給気本管20から供給される燃焼用空気Aは、改質気筒用給気支管20dを通じて改質気筒40dにも供給され、改質気筒40dでもピストンを押し下げて回転軸から回転動力を出力する。ただし、当該改質気筒40dにて排ガスとして生成される改質ガスKは、外部へ排出されることなく、そのすべてが改質ガス通流路28を介して給気本管20へ戻され、通常気筒40a、40b、40cへ導かれることとなる。
【0030】
給気本管20には、燃焼用空気Aを浄化するエアクリーナ21、燃焼用空気Aに燃料Fを適切な比率(空燃比)で混合するベンチュリー式のミキサ14、開度調整により通常気筒40a、40b、40cへの混合気Mの給気量を調整可能な通常気筒用スロットル弁23が、その上流側から記載の順に設けられている。
即ち、給気本管20において、ミキサ14で燃料Fと燃焼用空気Aとを混合して生成された混合気Mは、通常気筒用スロットル弁23を介して所定の流量に調整されて、通常気筒40a、40b、40cの燃焼室へ導入される。
【0031】
給気本管20からミキサ14の上流側で分岐する改質気筒用給気支管20dには、燃焼用空気Aを圧縮する過給機30としてのコンプレッサ31、当該コンプレッサ31の昇圧により昇温した燃焼用空気Aを冷却するインタークーラ22、開度調整により改質気筒40dへの混合気Mの給気量を調整可能な改質気筒用スロットル弁25、燃焼用空気Aに燃料Fを適切な比率(空燃比)で混合するベンチュリー式のミキサ16が、その上流側から記載の順に設けられている。
【0032】
ミキサ14に燃料Fを導く第1燃料供給路11には、ミキサ14の上流側の給気本管20における燃焼用空気Aの圧力と第1燃料供給路11における燃料Fの圧力差を一定に保つ差圧レギュレータ12、ミキサ14を介して通常気筒40a、40b、40cの燃焼室へ供給される燃料Fの供給量を調整する第1燃料流量制御弁13が設けられている。即ち、第1燃料供給路11、差圧レギュレータ12、ミキサ14、及び第1燃料流量制御弁13が、第1燃料供給部として機能する。
【0033】
過給機30は、通常気筒40a、40b、40cに接続される排気路27に設けられるタービン32に、通常気筒40a、40b、40cから排出される排ガスEを供給し、タービン32に連結される状態で改質気筒用給気支管20dに設けられるコンプレッサ31により、改質気筒40dの燃焼室に給気される混合気Mを圧縮するターボ式の過給機30として構成されている。即ち、当該過給機30は、排気路27を通流する排ガスEの運動エネルギによりタービン32を回転させ、当該タービン32の回転力により改質気筒用給気支管20dを通流する燃焼用空気Aを圧縮して、改質気筒40dの燃焼室へ供給する、所謂、過給を行う。
つまり、当該実施形態においては、過給機30は、改質気筒40dへ導かれる燃焼用空気Aのみを過給する。
【0034】
給気本管20は、エアクリーナ21の下流側において、通常気筒40a、40b、40cの夫々へ燃焼用空気Aを導く複数の通常気筒用給気支管20a、20b、20cに接続される給気本管20と、改質気筒40dへ燃焼用空気Aを導く改質気筒用給気支管20dに分岐されている。
改質気筒40dは、自身の燃焼室Nにおいて、混合気Mの一部を部分酸化反応させて、燃料F(例えば、メタン)よりも燃焼速度の速い水素及び一酸化炭素等の燃焼促進性ガスを含む改質ガスKを生成するように構成されている。ここで、水素及び一酸化炭素は、メタン及び空気を混合して燃焼する場合、空気過剰率が1より小さい燃料過濃領域(例えば、
図3ではλαで示す空気過剰率領域)に、その発生量のピークがあることが知られている。
そこで、当該実施形態にあっては、改質気筒40dの燃料室において燃料過濃状態で混合気Mを燃焼させるべく、改質気筒40dへ混合気Mを供給する改質気筒用給気支管20dに、ベンチュリー式のミキサ16を介する形態で燃料Fを供給する第2燃料供給路29が接続されており、当該第2燃料供給路29には、燃料Fの流量を制御する第2燃料流量制御弁15が設けられている。第2燃料供給路29の第2燃料流量制御弁15の上流側には、燃料Fの供給圧を給気本管20のコンプレッサ31出口の過給圧まで昇圧するべく、圧縮機(図示せず)等が設けられている。
更に、改質気筒40dには、改質気筒40dにて改質された改質ガスKを通流する改質ガス通流路28が接続されており、当該改質ガス通流路28の下流端が、給気本管20の通常気筒用スロットル弁23の下流側に接続されている。即ち、当該実施形態にあっては、改質ガスKは、そのすべてが通常気筒40a、40b、40cに導かれるように構成されている。
制御装置50は、改質気筒40dにおける空気過剰率が改質ガスKが生成される所定の範囲となるように、即ち、改質気筒40dでの混合気Mの空気過剰率が1より小さくなるように、第2燃料流量制御弁15の開度を制御する空気過剰率制御を実行する。つまり、第2燃料供給路29、ミキサ16、及び第2燃料流量制御弁15が、第2燃料供給部として機能する。
【0035】
エンジン本体40の回転軸(図示せず)には、運転状態検出部41として、回転軸(図示せず)の回転数を計測する回転数センサが設けられている。
更に、エンジン本体40の回転軸(図示せず)には、運転状態検出部41として、当該回転軸のトルクを計測するトルク計測センサが設けられており、制御装置50は、例えば、回転数センサにて計測されるエンジン回転数と、トルク計測センサにて計測されるトルクに基づいて計算されるエンジン出力が、目標出力となるように、第1燃料流量制御弁13、第2燃料流量制御弁15、通常気筒用スロットル弁23、並びに改質気筒用スロットル弁25の開度を制御する。
【0036】
本発明の発明者らは、鋭意研究した結果、
図3に示すように、上述の空気過剰率制御を実行した場合、改質気筒40dの空気過剰率を1から所定のピーク空気過剰率(
図3では、λαで示される範囲に含まれる値)まで減少させるのに従って、改質ガスKにおける燃焼促進性ガスとしての水素及び一酸化炭素の濃度が徐々に上昇し、ピーク空気過剰率を超えて減少させると、改質ガスKにおける燃焼促進性ガスとしての水素及び一酸化炭素の濃度が徐々に減少するという知見を得た。
更に、
図5に示すように、改質気筒40dを含むエンジン本体40の正味熱効率は、改質気筒40dの空気過剰率を1からピーク空気過剰率近傍まで減少させるのに従って徐々に上昇し、ピーク空気過剰率近傍を超えて減少させると徐々に減少するという知見を得た。
即ち、
図3、5に示される結果から、改質気筒40dにおいて空気過剰率を変化させたときに、改質気筒40dを含むエンジン本体40の正味熱効率は、改質気筒40dにて生成される燃焼促進性ガスの濃度と、正の相関を有すると推定される。
【0037】
そこで、当該実施形態に係るエンジンシステム100は、改質気筒40dと通常気筒40a、40b、40cとを含む全体での正味熱効率を極大点近傍に維持するべく、以下の構成を備えている。
当該エンジンシステム100は、改質気筒40dにて生成された改質ガスKにおける燃焼促進性ガスである水素の濃度を測定する水素センサS(改質ガス成分濃度測定部、燃焼促進性ガス濃度測定部の一例)を改質ガス通流路28で改質気筒40dの出口に備え、制御装置50は、空気過剰率制御において、水素センサSにて測定された水素濃度に基づいて、改質気筒40dにおける空気過剰率を制御するものであり、換言すると、当該制御装置50は、空気過剰率制御において、水素センサSにて測定された水素の濃度が最大化するように、改質気筒40dにおける空気過剰率を制御する形態で、エンジン本体40の正味熱効率を、改質気筒40dの空気過剰率の制御による極大点に維持するものである。
【0038】
以下、当該制御の具体的制御の流れに関し、
図2の制御フローに基づいて説明を追加する。当該制御は、改質気筒40dの空気過剰率を、改質ガスKにおける水素の濃度が最大となる値に維持して、エンジン本体40の正味熱効率の極大点に維持するものである。
【0039】
当該制御では、エンジン本体40が所定の目標出力で運転されている場合において、制御装置50は、まず、改質気筒40dの空気過剰率を任意に設定可能な基準空気過剰率に追従する形態で制御するものとする。
制御装置50は、まずもって、第2燃料供給部を制御して改質気筒40dの空気過剰率を所定の任意の基準空気過剰率(当該ステップでは、例えば、1未満の最大値(例えば、0.95))に設定する(#01)。
【0040】
制御装置50は、改質気筒40dの空気過剰率が、当該基準空気過剰率に設定されている時点、即ち、後述する空気過剰率減少制御が実行される前の時点において、水素センサSにて水素(燃焼促進性ガスの一例)の濃度λC1を測定し記憶する。(#02)。
次に、制御装置50は、基準空気過剰率に設定される改質気筒40dの空気過剰率を、所定の判定変化量λJ(例えば、0.05程度の値)だけ減少する空気過剰率減少制御を実行し(#03)、当該空気過剰率減少制御の後の時点において、水素センサSにて水素(燃焼促進性ガスの一例)の濃度λC2を測定し記憶する(#04)。
【0041】
次に、制御装置50は、空気過剰率減少制御を実行する前後での水素の濃度変化量が負である場合(λC2-λC1<0:#05)、基準空気過剰率を減少制御量Δλ(例えば、0.05程度の値)だけ増加し(#06)、空気過剰率減少制御を実行する前後での水素の濃度変化量が正である場合(λC2-λC1>0:#07)、基準空気過剰率を減少制御量Δλ(例えば、0.05程度の値)だけ減少する(#08)。
【0042】
ここで、減少制御量Δλ(絶対値)は、上述の所定の判定変化量λJ(絶対値)以下に設定される。
【0043】
#02~#08の処理を所定の時間毎に連続して実行することにより、改質ガスKにおける水素濃度が最大となるよう、改質気筒40dの空気過剰率(基準空気過剰率)が制御され、当該改質気筒40dでの空気過剰率制御に基づくエンジン本体40の全体での正味熱効率を最大点に維持することができる。
【0044】
更に、本願の発明者らは、空気過剰率制御を実行している状態で、すべての改質気筒40dへの総燃料供給量に対するすべての通常気筒40a、40b、40cへの総燃料供給量の比である燃料比を低下する燃料比低下制御において、燃料比を低下するほどエンジン本体40の正味熱効率が向上するという知見を得ている。
そこで、制御装置50は、第2燃料供給部による燃料供給量を調整して改質気筒40dにおいて空気過剰率制御を実行している状態で、第2燃料供給部によるすべての改質気筒40dへの総燃料供給量に対する第1燃料供給部によるすべての通常気筒40a、40b、40cへの総燃料供給量の比である燃料比を低下する燃料比低下制御を実行しているときに、水素センサSにて測定される水素濃度に基づいて、改質気筒40dの空気過剰率を制御する。
当該制御により、燃料比低下制御に基づく正味熱効率の向上に加え、水素センサSにて測定された水素濃度に基づく改質気筒40dにおける空気過剰率の制御により、正味熱効率の向上を図ることができるから、より一層のエンジンの正味熱効率の向上を期待できる。
【0045】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、改質ガス成分濃度測定部として、改質ガスKにおける燃焼促進性ガスとしての水素の濃度を測定する水素センサSを備える構成例を示したが、燃焼促進性ガスとしての一酸化炭素の濃度を測定する一酸化炭素センサを備える構成を採用しても構わない。更には、改質ガス成分濃度測定部として、改質ガスKにおける燃焼促進性ガスの濃度ではなく、メタン等の未燃炭化水素の濃度を測定する未燃炭化水素センサを備える構成を採用しても構わない。
また、水素センサ、一酸化炭素センサ、未燃炭化水素センサのうち、複数を備える構成を採用しても構わない。
【0046】
(2)上記実施形態において、エンジン本体40の正味熱効率の極大点に維持する制御に関し、制御装置50は、基準空気過剰率に設定される改質気筒40dの空気過剰率を、所定の判定変化量λJ(例えば、0.05程度の値)だけ減少する空気過剰率減少制御を実行する構成例を示したが、空気過剰率を増加する空気過剰率増加制御を実行する構成であっても、本発明の目的を良好に達成できる。
即ち、制御装置50は、基準空気過剰率から所定の判定変化量の空気過剰率を増加する空気過剰率増加制御を実行可能に構成され、制御装置50は、空気過剰率増加制御を実行する前後での水素センサSにて測定される水素の濃度変化量が正である場合に、基準空気過剰率を増加制御し、水素の濃度変化量が負である場合に、基準空気過剰率を減少制御する構成であっても構わない。
【0047】
(3)上記実施形態において、改質ガス成分濃度測定部として、メタン等の未燃炭化水素の濃度を測定する未燃炭化水素センサ(未燃炭化水素濃度測定部の一例:図示せず)を備える場合、エンジン本体40の正味熱効率を極大点に維持するべく、上記実施形態の正味熱効率の極大点制御に替えて、以下の制御を実行することが好ましい。
即ち、空気過剰率制御は、改質気筒40dの空気過剰率を、任意に変更可能な基準空気過剰率に追従する形態で制御するものであり、制御装置50は、基準空気過剰率から、所定の判定変化量の空気過剰率を減少する空気過剰率減少制御、又は所定の判定変化量の空気過剰率を増加する空気過剰率増加制御を実行可能に構成される。
そして、制御装置50は、空気過剰率減少制御又は空気過剰率増加制御を実行する前後での未燃炭化水素濃度センサにて測定される未燃炭化水素の濃度変化量の絶対値が所定の判定濃度変化量を超えている場合に基準空気過剰率を増加制御し、未燃炭化水素の濃度変化量の絶対値が所定の判定濃度変化量以下の場合に、基準空気過剰率を減少制御する。
当該制御は、発明者らが、未燃炭化水素センサにより計測される改質ガスKにおける未燃炭化水素の濃度変化量の絶対値が、
図4、5に示されるように、エンジン本体40の正味熱効率が最大点近傍になる付近において、急激に大きくなることに鑑みて、完成したものである。
【0048】
(4)上記実施形態において、改質ガス成分濃度測定部としての水素センサSは、改質ガス通流路28の改質気筒40dの出口に設けられるものとしたが、改質ガス通流路28に改質ガスKの改質を促進する触媒(図示せず)を設ける場合、水素センサSは当該触媒の下流側に設けることが好ましい。
【0049】
(5)上記実施形態において、通常気筒の数は、1つ以上であればいくつであっても構わないし、改質気筒の数も、1つ以上であればいくつであっても、本発明の機能を良好に発揮できる。
【0050】
(6)上記実施形態では、一のエンジン本体40に対して、改質気筒40dと、当該改質気筒40dにて生成された改質ガスKが導かれる通常気筒40a、40b、40cとを設ける構成例を示した。
当該構成に変えて、図示は省略するが、少なくとも1の改質気筒を備える改質エンジンと、当該改質エンジンの改質気筒にて生成された改質ガスが導かれる通常気筒を有する外部出力エンジンとを備える構成を採用することができる。
当該構成にあっても、上記実施形態にて説明した制御装置50が実行する各種制御を実行して、その効果を良好に発揮できる。
【0051】
(7)制御装置50は、燃料比低減制御において、酸素含有ガス供給制御を実行している状態で、燃料比を零として通常気筒へ40a、40b、40cへ燃料として改質ガスKのみを導く改質ガス運転を実行することもできる。
この場合、第1燃料供給部としての第1燃料供給路11、差圧レギュレータ12、第1燃料流量制御弁13、ミキサ14は、省略することができる。
【0052】
(8)改質ガス通流路28は、改質気筒40dの排気ポート28aと、通常気筒40a、40b、40cに新気を供給する通常気筒用給気支管20a、20b、20cの少なくとも1つ以上に接続される構成を採用しても構わない。
【0053】
(9)上記実施形態では、エンジンシステム100が過給機30を備える例を示したが、当該過給機30を備えない構成であっても、本発明の目的は良好に達成される。
尚、上述の如く、過給機30を設けない構成にあっては、改質気筒用給気支管20dは、過給圧まで昇圧されていないため、第2燃料供給部としてミキサ16に供給される燃料Fの圧力を昇圧する必要がなく、昇圧のための圧縮機等を備えない簡易でコンパクトな構成にすることができる。ちなみに、この場合、ミキサ16から改質気筒用給気支管20dへ供給される燃料Fの圧力は、通常の給気圧力に設定される。
更に、上記実施形態では、過給機30として、ターボ式のものを備える例を示したが、スーパーチャージャ式のものとしても構わない。
また、上記実施形態では、過給機30として、単一のコンプレッサ31と単一のタービン32とを備える、所謂、一段過給の例を示したが、別に、二段以上の多段過給としても構わない。
【0054】
(10)上記実施形態にあっては、燃料Fは、都市ガス13Aとしたが、本発明の本質的意味からは、ガス燃料に限らずガソリン等の液体燃料であっても構わない。
【0055】
(11)上記実施形態では、燃料Fは、ベンチュリー式にて供給される構成を示したが、改質気筒用給気支管20dへ噴射する構成や、改質気筒40dへ直接噴射する構成を採用することができる。この場合、燃料Fの噴射量を調整して空気過剰率を制御できる。
【0056】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のエンジンシステムは、過濃混合気を部分酸化反応させて改質ガスを生成する改質気筒を有するものであって、エンジンの給気温度や給気湿度等の外的環境が変動した場合にも、改質気筒と通常気筒とを含む全体での正味熱効率を極大点近傍に維持可能なものとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
40 :エンジン本体
40a :通常気筒
40b :通常気筒
40c :通常気筒
40d :改質気筒
50 :制御装置
S :水素センサ
100 :エンジンシステム
A :燃焼用空気
E :排ガス
F :燃料
K :改質ガス
M :混合気