IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 時空化学株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人弘前大学の特許一覧

特開2023-3146VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法
<>
  • 特開-VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法 図1
  • 特開-VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法 図2
  • 特開-VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法 図3
  • 特開-VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法 図4
  • 特開-VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003146
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/34 20060101AFI20221228BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20221228BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20221228BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20221228BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
B01J23/34 A
B01J37/34 ZAB
B01J37/16
B01J37/08
B01D53/86 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104147
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 佩芬
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】趙 井崗
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA21
4D148AB01
4D148AC06
4D148BA28X
4D148BA41X
4D148BB01
4D148BB17
4D148DA03
4D148DA20
4G169AA02
4G169BA21C
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06B
4G169BC03B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BE08C
4G169CA01
4G169CA11
4G169CA15
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EC02X
4G169EC02Y
4G169EC03X
4G169EC03Y
4G169EC06X
4G169EC06Y
4G169EC07X
4G169EC07Y
4G169EC10X
4G169EC10Y
4G169EC14Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FB30
4G169FB46
4G169FB78
4G169FC01
(57)【要約】
【課題】製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去できるVOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法を提供する。
【解決手段】本発明のVOC除去触媒は、BET比表面積が10~200m/gであるMnO(xは1以上、2以下の数)を含有する。本発明の製造方法は、マンガン源を含む原料液Aと、還元剤を含む原料液Cとを混合することで反応液を得る工程1と、前記工程1で得られた反応液にマイクロ波を照射して懸濁液を得る工程2と、前記工程2で得られた懸濁液から分離した固形分を焼成処理する工程3とを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOC除去触媒であって、
BET比表面積が10~200m/gであるMnO(xは1以上、2以下の数)を含有する、VOC除去触媒。
【請求項2】
前記MnOのLog微分細孔容積分布曲線において、最大ピークでの細孔直径をD(nm)としたとき、1≦D≦10である、請求項1に記載のVOC除去触媒。
【請求項3】
前記MnOの積算細孔容積分布曲線において、前記細孔直径D(nm)での積算細孔容積をV(cm/g)としたとき、0.05≦V≦0.5である、請求項2に記載のVOC除去触媒。
【請求項4】
前記MnOは粒子状である、請求項1~3のいずれか1項に記載のVOC除去触媒。
【請求項5】
マンガン源を含む原料液Aと、還元剤を含む原料液Cとを混合することで反応液を得る工程1と、
前記工程1で得られた反応液にマイクロ波を照射して懸濁液を得る工程2と、
前記工程2で得られた懸濁液から分離した固形分を焼成処理する工程3と
を備える、VOC除去触媒の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤が、カルボン酸化合物及び/又はビタミンCである、請求項5に記載のVOC除去触媒の製造方法。
【請求項7】
前記カルボン酸化合物が、クエン酸、ギ酸、及び、酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のVOC除去触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のVOC除去触媒、若しくは、請求項5~7のいずれか1項に記載の製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称であり、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、メタノール及びジクロロメタン等が知られている。このようなVOCは、溶剤、接着剤、化学品原料等に広く利用されている反面、VOCは、光化学オキシダント、あるいは、浮遊粒子状物質(SPM)の原因になると指摘されていることから、大気汚染防止法によりその排出量が厳しく規制されている。このため、VOC排出量をさらなる低減すべく、VOCをより効率良く除去する技術の確立が望まれている。
【0003】
VOCを除去する技術としては、触媒酸化による方法が知られている。この方法では、比較的低温でVOC除去が行われる点で最も有望であると考えられている。触媒酸化による方法では、主に遷移金属酸化物が使用されることから、貴金属触媒と比較してコスト面でも有利であり、この観点から遷移金属酸化物の触媒性能を向上させる研究が広く行われている。例えば、特許文献1には、酸化マンガン(IV)を含む材料により、VOCを効率的に除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-147131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のVOC除去触媒は、低温環境化においてはVOCの除去性能が未だ十分ではなく、また、製造にも時間を要するという問題点もあり、実用化を考えると総合的には依然として課題を有するものであった。このような観点から、容易に製造でき、低温であっても効率よくVOCを除去することができる触媒の開発が望まれているのが現状である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができるVOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の酸化マンガンをVOC除去触媒の必須成分とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
VOC除去触媒であって、
BET比表面積が10~200m/gであるMnO(xは1以上、2以下の数)を含有する、VOC除去触媒。
項2
前記MnOのLog微分細孔容積分布曲線において、最大ピークでの細孔直径をD(nm)としたとき、1≦D≦10である、項1に記載のVOC除去触媒。
項3
前記MnOの積算細孔容積分布曲線において、前記細孔直径D(nm)での積算細孔容積をV(cm/g)としたとき、0.05≦V≦0.5である、項2に記載のVOC除去触媒。
項4
前記MnOは粒子状である、項1~3のいずれか1項に記載のVOC除去触媒。
項5
マンガン源を含む原料液Aと、還元剤を含む原料液Cとを混合することで反応液を得る工程1と、
前記工程1で得られた反応液にマイクロ波を照射して懸濁液を得る工程2と、
前記工程2で得られた懸濁液から分離した固形分を焼成処理する工程3と
を備える、VOC除去触媒の製造方法。
項6
前記還元剤が、カルボン酸化合物及び/又はビタミンCである、項5に記載のVOC除去触媒の製造方法。
項7
前記カルボン酸化合物が、クエン酸、ギ酸、及び、酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項6に記載のVOC除去触媒の製造方法。
項8
項1~4のいずれか1項に記載のVOC除去触媒、若しくは、項5~7のいずれか1項に記載の製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のVOC除去触媒は、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】VOC除去触媒の評価試験方法のフローを示す概略図である。
図2】実施例1~4及び比較例1で得た触媒のSEM画像を示す。
図3】実施例1~4及び比較例1で得た触媒のXRDスペクトルを示す。
図4】(a)は、実施例1~4及び比較例1で得られた触媒のガス吸着法(BET法)による比表面積測定結果を、(b)は細孔分布曲線(Log微分細孔容積分布)を示す。
図5】実施例及び比較例で得られた触媒によるVOC除去試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.VOC除去触媒
本発明のVOC除去触媒は、BET比表面積が10~200m/gであるMnO(xは1以上、2以下の数)を含有する。本発明でいうBET比表面積は、液体窒素の沸点温度における窒素吸着等温線から、相対圧0.1以下の吸着量をもとにBET法により算出した値を意味する。
【0012】
本発明のVOC除去触媒は、マンガンの酸化物、即ち、前記MnO(xは1以上、2以下の数)の比表面積が前記範囲であることで、MnO中に豊富な欠陥構造が形成されやすく、これによって、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。すなわち、本発明のVOC除去触媒を用いると、従来よりも低い温度領域でVOCを分解したとしても、高い効率でVOCを除去することができる。また、本発明のVOC除去触媒は容易に製造することができる。
【0013】
MnOにおいて、xは1以上、2以下の数である限り特に限定されない。また、xは1であってもよいし、2であってもよい。具体的にMnOは、MnO、Mn、Mn、MnOが例示される。本発明のVOC除去触媒に含まれるMnOは、これらの1種のみを含むことができ、あるいは、2種以上を含むこともできる。
【0014】
MnOのBET比表面積が10m/g未満である場合、前記欠陥構造が不十分になると共にMnOの凝集が強くなって、VOC除去効率が低下し、また、MnOのBET比表面積が200m/gを超えると、前記欠陥構造が多くなりすぎるので、低温でのVOC除去効率が低下する。MnOのBET比表面積は20m/g以上であることが好ましく、30m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることがさらに好ましく、50m/g以上であることが特に好ましい。また、MnOのBET比表面積は195m/g以下であることが好ましく、190m/g以下であることがより好ましく、185m/g以下であることがさらに好ましい。
【0015】
MnOのBET比表面積を所望の範囲に調節する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができ、中でも、後記する工程1~3によって、MnOを得る方法では、MnOのBET比表面積を所望の範囲に調節しやすい。
【0016】
本発明の一態様では、前記MnOのLog微分細孔容積分布曲線において最大ピークでの細孔直径をD(nm)としたとき、1≦D≦10であることが好ましい。この場合、本発明のVOC除去触媒は、より低温であっても効率よくVOCを除去することができ、VOC除去効率に優れるものとなりやすい。
【0017】
前記細孔直径D(nm)の値は、2以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましく、3以上であることが特に好ましい。また、前記細孔直径D(nm)の値は、9以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましく、7以下であることが特に好ましい。
【0018】
MnOの前記細孔直径D(nm)を所望の範囲に調節する方法は特に限定されない。中でも、後記する工程1~3によって、MnOを得る方法では、MnOの前記細孔直径D(nm)を所望の範囲に調節しやすい。
【0019】
前記MnOのLog微分細孔容積分布曲線は、窒素分子吸着法により導き出すことができる。具体的に、測定試料を300℃で12時間真空脱気した後、-198℃で窒素分子を吸着させることで、前記MnOのLog微分細孔容積分布曲線を導き出すことができる。当該曲線は、Nova4200 equipment(Quantachrome Inc., USA)により導き出すことができる。
【0020】
また、本発明では、MnOの積算細孔容積分布曲線において、前記細孔直径D(nm)での積算細孔容積をV(cm/g)としたとき、0.05≦V≦0.5であることが好ましい。この場合、本発明のVOC除去触媒は、より低温であっても効率よくVOCを除去することができ、VOC除去効率に優れるものとなりやすい。MnOの積算細孔容積分布曲線は、前記Log微分細孔容積分布曲線に基づき、BJH法によって導き出すことができる。
【0021】
前記積算細孔容積V(cm/g)の値は、0.07以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、前記積算細孔容積V(cm/g)の値は、0.4以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。
【0022】
MnOの前記積算細孔容積V(cm/g)を所望の範囲に調節する方法は特に限定されず、中でも、後記する工程1~3によって、MnOを得る方法では、MnOの積算細孔容積V(cm/g)を所望の範囲に調節しやすい。
【0023】
本発明のVOC除去触媒に含まれるMnOの形状は特に限定されず、例えば、粒子状とすることができる。MnOの形状が粒子状である場合、球状であってもよいし、不定形状等の非球状であってもよい。
【0024】
MnOの形状が粒子状である場合、その平均粒子径も特に限定されず、例えば、1~1000nm、好ましくは、10~500nmとすることができる。ここでいうMnOの平均粒子径は、電極の走査型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0025】
MnOは、結晶性であってもよいし、非晶性であってもよい。MnOは、結晶化度が低いことが好ましく、これにより、MnOが多くの酸素空孔を有するので、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。
【0026】
本発明のVOC除去触媒は、本発明の効果が阻害されない程度である限り、MnO以外の他の成分(例えば、他の元素、化合物、添加剤等)を含有することもできる。本発明のVOC触媒は、MnOのみで形成されていてもよく、この場合において、VOC触媒に含まれ得る不可避的な元素、成分等を含むことは許容される。本発明のVOC触媒は、MnOを60質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
【0027】
本発明のVOC除去触媒は、例えば、粉末状であり、その他、顆粒状、塊状等、種々の形態とすることができる。
【0028】
本発明のVOC除去触媒において、マンガン(Mn)元素の含有割合は、例えば、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましい。また、本発明のVOC除去触媒において、マンガン(Mn)元素の含有割合は、例えば、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
【0029】
本発明のVOC除去触媒において、酸素元素の含有割合は、例えば、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、本発明のVOC除去触媒において、酸素元素の含有割合は、例えば、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明のVOC除去触媒において、マンガン及び酸素以外の元素の含有割合は、例えば、10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。
【0031】
本発明のVOC除去触媒の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の種々の方法により製造することができる。具体的には、後記する工程1、工程2及び工程3を備える製造方法により、本発明のVOC除去触媒を製造することができる。
【0032】
2.VOC除去触媒の製造方法
本発明のVOC除去触媒の製造方法は、下記の工程1、工程2及び工程3を備える。
工程1:マンガン源を含む原料液Aと、還元剤を含む原料液Cとを混合することで反応液を得る工程。
工程2:前記工程1で得られた反応液にマイクロ波を照射して懸濁液を得る工程。
工程3:前記工程2で得られた懸濁液から分離した固形分を焼成処理する工程。
【0033】
(工程1)
工程1では、マンガン源を含む原料液Aと、還元剤を含む原料液Cとの混合処理を行うことで反応液を得る。
【0034】
工程1において使用するマンガン源を含む原料液Aは、マンガン源が溶媒に溶解又は分散している。マンガン源としては、マンガン単体であってもよいし、マンガンを含む化合物であってもよいが、マンガンを含む化合物であることが好ましい。
【0035】
マンガンを含む化合物の種類は特に限定されず、例えば、マンガンを含む各種無機化合物を挙げることができる。マンガンを含む無機化合物としては、例えば、過マンガン酸塩、マンガンの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができ、中でも、マンガンを含む無機化合物は、過マンガン酸塩であることが好ましい。具体的な過マンガン酸塩として、過マンガン酸カリウム(KMnO、KMnO等)を挙げることができる。
【0036】
その他、マンガンを含む化合物は、マンガンを含む各種有機化合物を挙げることもでき、例えば、マンガンの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0037】
なお、マンガンを含む化合物は、異なる2種以上のアニオンを含むこともできる(例えば、硫酸アンモニウムマンガン等)。
【0038】
VOC触媒の製造が容易になりやいという点で、マンガン源は、過マンガン酸カリウム(KMnO)を使用することが特に好ましい。
【0039】
工程1において使用する還元剤を含む原料液Cは、還元剤が溶媒に溶解又は分散している。
【0040】
還元剤の種類は特に限定されず、例えば、公知の還元剤を広く使用することができる。具体的には、還元剤として、カルボン酸化合物及び/又はビタミンCを挙げることができる。カルボン酸化合物としては、還元作用を有する種々の化合物を挙げることができ、例えば、クエン酸、ギ酸、及び、酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。低温でのVOC除去効率に優れ、また、触媒表面のエッチング作用を発揮しやすいという点で、還元剤はクエン酸であることが好ましい。
【0041】
還元剤は1種単独で使用することができ、あるいは、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0042】
原料液A及び原料液Cは、いずれも溶媒を含むことができる。溶媒の種類は特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール等の炭素数1~4のアルコール;及びこれらの混合溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;N-メチルピロリドン等のピロリドン系溶媒等が使用できる。工程1での反応が進行しやすいという点で、原料液A及び原料液Cに含まれる溶媒は、水及び前記アルコール、又はこれらの混合溶媒であることが好ましく、水であることがさらに好ましい。原料液A及び原料液Cに含まれる溶媒は互いに同一であってもよいし、一部またはすべてが異なっていてもよく、いずれも水であることがさらに好ましい。
【0043】
原料液Aにおいて、マンガン源の濃度は特に限定されない。例えば、原料液A中のマンガンの濃度は、1×10-4~2M、好ましくは1×10-3~1M、さらに好ましくは1×10-2~0.1Mとすることができる。
【0044】
原料液Cにおいて、還元剤の濃度は特に限定されない。例えば、原料液C中の還元剤の濃度は、1×10-4~10M、好ましくは1×10-3~8M、さらに好ましくは1×10-2~5Mとすることができる。
【0045】
工程1において、原料液Cの使用量は特に限定されない。例えば、原料液C中の還元剤とマンガンのモル比(還元剤:マンガン)が1:0.1~1:5となるように原料液Cの量を調節することができる。
【0046】
工程1において、原料液Aと原料液Cとを混合処理する方法は特に限定されない。一例としては、攪拌されている原料液Cに原料液Aを添加することで混合処理を行うことができる。この場合、原料液Aを原料液Cに添加することができる。原料液Aの原料液Cへの添加速度は特に限定されず、例えば、0.1~500mL/min供給速度、好ましくは1~100mL/min供給速度で供給することができる。
【0047】
原料液Aと原料液Cとの混合処理において、混合時の温度は特に限定されず、例えば、5~40℃、好ましくは室温付近(例えば、15~30℃)とすることができる。混合処理の時間も特に限定されず、混合時の温度に応じて適宜設定することが可能である。
【0048】
原料液Aと原料液Cとを混合処理することで、マンガン源及び還元剤が反応し、反応液が得られる。斯かる反応液は、例えば、黒褐色又は茶褐色等の溶液又は分散液(好ましくは分散液)である。
【0049】
(工程2)
工程2は、前記工程1で得られた反応液にマイクロ波を照射するための工程である。マイクロ波を照射するために使用する装置は特に限定されず、公知のマイクロ波照射装置を広く使用することができる。
【0050】
マイクロ波の照射条件も特に限定されない。例えば、マイクロ波照射装置における設定電力は、得られるMnOxが所望の比表面積、前記細孔直径D及び前記積算細孔容積Vを有しやすいという点で、500~1500Wとすることができ、好ましくは600~100Wであり、また、700Wとすることもできる。マイクロ波は各電力の1~100%の電力でマイクロ波を照射することができる。マイクロ波の照射時間Tは電力等に応じて適宜設定することができ、比表面積、前記細孔直径D及び前記積算細孔容積Vを有しやすいという点で、Tは1~120分とすることができる。マイクロ波照射中の反応液の温度は、反応液の沸点に応じて適宜設定することができ、例えば、反応液の溶媒が水である場合は100℃である。
【0051】
また、マイクロ波の照射中の反応液の温度制御を容易にするために、マイクロ波照射は一定の間隔を空けて行うことが好ましい。具体的には、マイクロ波を設定の電力に到達するまでX(秒)の時間をかけて照射した後、次いで、X(秒)の時間をかけて電力を0Wまで下げる、というサイクルを繰り返す。このサイクルを繰り返して、トータル時間が前記Tになるまでマイクロ波照射を行うことができる。なお、本明細書においてXをサイクル数ということがある。サイクル数Xは1~10秒であることが好ましく、2~8秒であることが好ましい。
【0052】
反応液にマイクロ波を照射するにあたって、反応液を収容するための容器は特に制限はないが、例えば、市販の透明なガラス容器、ビーカー、フラスコ等を使用することができる。マイクロ波の照射は、例えば、反応液を密閉状態にして空気雰囲気下で行うことができる。
【0053】
工程2でのマイクロ波照射によって、懸濁液が得られる。得られた懸濁液は適宜の分離手段や精製手段によって固液分離することができる。固液分離により得た固形分は、必要に応じて乾燥処理を行うことができる。
【0054】
(工程3)
工程3は、工程2で得られた懸濁液から分離した固形分を焼成処理するための工程である。斯かる焼成処理により、目的物であるマグネシウムの酸化物を含むVOC除去触媒が得られる。
【0055】
工程3において、焼成処理の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、200℃以上とすることができる。また、焼成で得られるVOC触媒中の酸化マンガンの結晶化度が低くなりやすいという点で、焼成処理の温度は、600℃以下とすることが好ましい。好ましい焼成温度は250~480℃、より好ましい焼成温度は290~450℃、さらに好ましい焼成温度は300~400℃である。
【0056】
焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。工程3において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、適宜設定することができ、例えば、1~10℃/分である。
【0057】
焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成処理を行うことである。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0058】
工程3での焼成処理によって、例えば、残存している還元剤等が除去され、目的のVOC除去触媒として得ることができる。得られるVOC除去触媒は、前述のMnOを含有する。
【0059】
上記工程1~3を備える製造方法によれば、簡便な工程で容易に本発明のVOC除去触媒を得ることができ、しかも、得られたVOC除去触媒は、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。
【0060】
3.VOC除去方法
本発明のVOC除去方法は、前述のVOC除去触媒、又は、前記工程1、前記工程2及び工程3を備える製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを燃焼する工程を備える。
【0061】
例えば、VOC除去触媒を容器内に収容し、該容器にトルエン等のVOCを導入し、所定の温度で処理することで、VOCを燃焼する。これにより、VOCを除去することができる。必要に応じて、容器内には窒素及び酸素の一方又は両方を流入させることができ、窒素及び酸素の一方又は両方の存在下でVOCを燃焼させることができる。
【0062】
VOCの除去にあたり、使用する容器の種類は特に限定されず、例えば、VOCの触媒
燃焼で使用される公知の容器を広く使用することができる。容器内でのVOCの処理温度
は特に限定されず、公知のVOCの除去のために設定される処理温度と同様とすることが
できる。特に本発明では、上記VOC除去触媒を使用することで、低温であってもVOC
除去効率に優れる。
【実施例0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
0.1Mクエン酸水溶液(原料液C)を攪拌しつつ、0.2mMKMnO水溶液(原料液A)を10mL/minの供給速度で前記原料液Cに滴下した(工程1)。この滴下によって得られた茶黒色の反応液に空気雰囲気中でマイクロ波を10分間照射することで懸濁液を得た(工程2)。この工程2でのマイクロ波の照射では、マイクロ波装置としては、国計測工業株式会社製「μReactor Ex型」を使用し、電力を100%、サイクルを3秒とした。工程2で得られた懸濁液の遠心分離により固形分を回収し、得られた固形分を脱イオン水で3回洗浄した後、60℃で12時間乾燥させた。次いで、乾燥させた固形分をマッフル炉で空気雰囲気下、5℃/分の加熱速度で350℃まで加熱し、この温度で4時間保持することで焼成処理を行った(工程3)。この工程3によって、MnO(xは1以上2以下であった)を得た。得られた酸化マンガンを「Mn-MW-10min」と表記した。
【0065】
(実施例2)
工程において、マイクロ波を30分間の照射に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で酸化マンガンを得た。得られた酸化マンガンを「Mn-MW-30min」と表記した。
【0066】
(実施例3)
工程において、マイクロ波を60分間の照射に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で酸化マンガンを得た。得られた酸化マンガンを「Mn-MW-60min」と表記した。
【0067】
(実施例4)
工程において、マイクロ波を120分間の照射に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で酸化マンガンを得た。得られた酸化マンガンを「Mn-MW-120min」と表記した。
【0068】
(比較例1)
0.1Mクエン酸水溶液(原料液C)を攪拌しつつ、0.2mMKMnO水溶液(原料液A)を10mL/minの供給速度で前記原料液Cに滴下した(工程1)。この滴下によって得られた茶黒色の反応液を100℃で120分間にわたって加熱処理をすることで懸濁液を得た。得られた懸濁液の遠心分離により固形分を回収し、得られた固形分を脱イオン水で3回洗浄した後、60℃で12時間乾燥させた。次いで、乾燥させた固形分をマッフル炉で空気雰囲気下、5℃/分の加熱速度で350℃まで加熱し、この温度で3時間保持することで焼成処理を行った。この焼成処理によって得られた酸化マンガンを「Mn-aging100℃」と表記した。
【0069】
<評価方法>
(VOC除去試験)
図1に示す概略フローにより、各実施例で得たVOC除去触媒のトルエン除去試験を行った。この試験では、容器内にVOC除去触媒を石英ウールで挟み込むように充填し、そこへトルエンを所定の流速で流入させて反応させることで、トルエンを除去するようにした。図2に示すように、容器は、酸素ボンベ及び窒素ボンベと連結しており、容器内に酸素及び窒素を流入できるようにしている。トルエン除去試験の条件として、内径8mmのガラス反応器を使用し、そこへVOC除去触媒の充填量を50mgとし、容器内のトルエン濃度を1000体積ppmとなるようにした。また、容器内へのキャリアー用窒素ガス流量を35cm/min、トルエン導入用窒素ガス流量を5cm/min、酸素ガス流量を10cm/minとした。容器内での反応温度を130~300℃の範囲の種々の温度に調節して、トルエン除去特性を評価した。なお、130~200℃の範囲では10℃毎に3回サンプリングをし、200~250℃の範囲では5℃毎に3回サンプリングをし、260~300℃の範囲では10℃毎に3回サンプリングをした。VOC濃度の測定は、島津製作所社製「GC-2014ガスクロマトグラフ」を使用した。また、容器出口から排出される二酸化炭素濃度をHORIBA社製FT-IRガス分析装置「FG-120」を使用して計測した。
【0070】
図2は、実施例1~4及び比較例1で得た触媒のSEM画像を示している。実施例1~4及び比較例1で得た触媒の形状の対比から、マイクロ波を照射して得られた実施例1~4で得た触媒は、比較例1よりも粒子サイズが小さく、球状のナノ粒子を形成していることが明らかとなった。
【0071】
【表1】
【0072】
表1は、EDS分析によって、実施例1~4及び比較例1で得た触媒の各元素分析を行った結果を示している。
【0073】
図3は、実施例1~4及び比較例1で得た触媒のXRDスペクトルを示している。XRDスペクトルにおいて、ピーク強度(特に36~40°の(211)面ピーク)は、マイクロ波照射が60分までは照射時間が長くなるにつれて増大することが認められた。(211)面のメインピークは、ピーク分裂の開始を示しており、各サンプル間でピークシフトが見られなかったことから、格子転位の開始に変化がないことが確認された。またXRDスペクトルにおいて、マイクロ波処理することで、KMnとKMnのピーク(それぞれ図3中、菱形及びハート型で表記)が現れ、マイクロ波処理後に新しい相が生成されたことも示唆された。
【0074】
図4(a)は、実施例1~4及び比較例1で得られた触媒のガス吸着法(BET法)による比表面積測定結果を、図4(b)は細孔分布曲線(Log微分細孔容積分布)を示している。
【0075】
表2は、図4(a)及び(b)の結果をまとめたものであり、具体的に各触媒のBET比表面積、細孔直径D及び細孔直径Dにおける積算細孔容積Vを示している。
【0076】
【表2】
【0077】
図5は、実施例1~4及び比較例1で得られた触媒によるVOC除去試験の結果を示している。具体的に図5は、温度(X軸)とトルエン除去率(Y軸)との関係を示すプロットである。また、図5のグラフ中には、各触媒のトルエンの50%分解温度(T50%)、90%分解温度(T90%)、100%分解温度(T100%)の値を挿入している。
【0078】
【表3】
【0079】
図5及び表3の結果から、各実施例で得られたVOC除去触媒は、比較例1よりも優れたVOC除去性能を有していることがわかる。
【0080】
以上より、各実施例で得られたVOC除去触媒は、代表的なVOC物質の一種であるトルエンの触媒燃焼の触媒として好適に使用できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5