(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031476
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】ダブルナット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16B 39/18 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
F16B39/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136978
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】399117567
【氏名又は名称】堀内 政晴
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】堀内 政晴
(57)【要約】
【課題】第1ナットと第2ナットが強固に一体化されるとともに、優れたゆるみ止め機構を発揮することができる簡易な構造のダブルナットを提供する。
【解決手段】本ダブルナット1は、第1ナット4と、第2ナット7と、を備え、第1ナットには、第1ネジ孔3に対して偏心した円筒状の凸部8が設けられており、第2ナットには、第2ネジ孔6に対して偏心し且つ凸部と嵌合する凹部9が設けられている。そして、凸部の外周面及び凹部の内周面のうちの少なくとも一方には、突起12が一体に形成されており、突起による凹部に対する凸部の圧入嵌合によって、第1ナットと第2ナットとが両者の間に所定の隙間S1が形成された状態で一体化されている。さらに、所定の隙間は、一体化された各ナットをボルト2に螺合した状態で、第1ナットに対して第2ナットを1/2回転以下の回転量で締め付けることができる値に設定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトに螺合可能な第1ネジ孔が形成された第1ナットと、前記ボルトに螺合可能な第2ネジ孔が形成された第2ナットと、を備え、前記第1ナットには、その軸心が前記第1ネジ孔の軸心に対して偏心した円筒状の凸部が設けられており、前記第2ナットには、その軸心が前記第2ネジ孔の軸心に対して偏心し且つ前記凸部と嵌合する凹部が設けられているダブルナットであって、
前記凸部の外周面及び前記凹部の内周面のうちの少なくとも一方には、突起が一体に形成されており、
前記突起による前記凹部に対する前記凸部の圧入嵌合によって、前記第1ナットと前記第2ナットとが両者の間に所定の隙間が形成され且つ前記第1ネジ孔と前記第2ネジ孔の各軸心が一致した状態で一体化されており、
前記所定の隙間は、一体化された前記第1ナット及び前記第2ナットを前記ボルトに螺合した状態で、前記第1ナットに対して前記第2ナットを1/2回転以下の回転量で締め付けることができる値に設定されていることを特徴とするダブルナット。
【請求項2】
前記第1ナットには、前記凸部の偏心位置を示す第1マーキング部が形成されており、
前記第2ナットには、前記凹部の偏心位置を示す第2マーキング部が形成されており、
前記第1マーキング部と前記第2マーキング部とが位置合わせされた状態で前記第1ナットと前記第2ナットとが一体化されている請求項1に記載のダブルナット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダブルナットの製造方法であって、
冷間鍛造及び/又は切削加工により、第1中心孔及びその軸心が前記第1中心孔の軸心に対して偏心した前記凸部が形成された第1ナット中間体を形成する第1ナット中間体形成工程と、
冷間鍛造及び/又は切削加工により、第2中心孔及びその軸心が前記第2中心孔の軸心に対して偏心した前記凹部が形成された第2ナット中間体を形成する第2ナット中間体形成工程と、
前記凸部の外周面及び前記凹部の内周面のうちの少なくとも一方に設けられた前記突起による前記凹部に対する前記凸部の圧入嵌合によって、前記第1ナット中間体と前記第2ナット中間体とを両者の間に前記所定の隙間が形成され且つ前記第1中心孔と前記第2中心孔の各軸心が一致した状態で一体化させる一体化工程と、
一体化された前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体をホルダに保持した状態で、タッピング装置により、前記第1中心孔に前記第1ネジ孔を形成して前記第1ナットをなすとともに、前記第2中心孔に前記第2ネジ孔を形成して前記第2ナットをなすネジ孔形成工程と、を備えることを特徴とするダブルナットの製造方法。
【請求項4】
前記第1ナット中間体形成工程は、前記凸部の偏心位置を示す第1マーキング部が形成された前記第1ナット中間体を形成し、
前記第2ナット中間体形成工程は、前記凹部の偏心位置を示す第2マーキング部が形成された前記第2ナット中間体を形成し、
前記一体化工程は、前記第1マーキング部と前記第2マーキング部とが位置合わせされた状態で前記第1ナット中間体と前記第2ナット中間体とを一体化させる請求項3に記載のダブルナット。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のダブルナットの製造方法であって、
冷間鍛造及び/又は切削加工により、第1中心孔及びその軸心が前記第1中心孔の軸心に対して偏心した前記凸部が形成された第1ナット中間体を形成する第1ナット中間体形成工程と、
冷間鍛造及び/又は切削加工により、第2中心孔及びその軸心が前記第2中心孔の軸心に対して偏心した前記凹部が形成された第2ナット中間体を形成する第2ナット中間体形成工程と、
前記第1中心孔の軸心と前記第2中心孔の軸心とが平行となるように前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体を並べてホルダに保持する保持工程と、
前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体の並び方向に前記ホルダをスライドさせて前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体を加工位置に順次位置させることで、タッピング装置により、前記第1中心孔に前記第1ネジ孔を形成するとともに前記第2中心孔に前記第2ネジ孔を形成するネジ孔形成工程と、
前記ホルダから取り出した前記第1ナット中間体に表面処理を施して前記第1ナットをなすとともに、前記ホルダから取り出した前記第2ナット中間体に表面処理を施して前記第2ナットをなす表面処理工程と、
前記凸部の外周面及び前記凹部の内周面のうちの少なくとも一方に設けられた前記突起による前記凹部に対する前記凸部の圧入嵌合によって、前記第1ナットと前記第2ナットとを両者の間に前記所定の隙間が形成され且つ前記第1ネジ孔と前記第2ネジ孔の各軸心が一致した状態で一体化させる一体化工程と、を備えることを特徴とするダブルナットの製造方法。
【請求項6】
前記第1ナット中間体形成工程は、前記凸部の偏心位置を示す第1マーキング部が形成された前記第1ナット中間体を形成し、
前記第2ナット中間体形成工程は、前記凹部の偏心位置を示す第2マーキング部が形成された前記第2ナット中間体を形成し、
前記保持工程は、前記第1ナット中間体が前記加工位置に位置したときの前記第1マーキング部と、前記第2ナット中間体が前記加工位置に位置したときの前記第2マーキング部と、が位置合わせされるように前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体を前記ホルダに保持し、
前記一体化工程は、前記第1マーキング部と前記第2マーキング部とが位置合わせされた状態で前記第1ナットと前記第2ナットとを一体化させる請求項5に記載のダブルナットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブルナット及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、一体化された第1ナット及び第2ナットを備えるダブルナット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のダブルナットとして、凹部を有する第1ナットと、凹部と嵌合する凸部を有する第2ナットと、を備えるものが一般に知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、凸部及び凹部の各軸心がネジ孔の軸心に対して偏心することが記載されている(第2図参照)。これにより、ボルトに対してダブルナットを螺合して締め上げた後に、第1ナットに対して第2ナットを締め付けることで、軸直角方向に強力なロック力が発生して優れたゆるみ止め効果が発揮される。
また、特許文献1には、凹部と凸部の嵌合(摩擦接触)により両ナットを一体化させることが記載されている(明細書の3頁左上欄の5~7行目を参照)。これにより、各ナットを一体物として取り扱うことで、ダブルナットのボルトに対する取付性やダブルナットの保管性等が高められる。
さらに、特許文献1には、各ナットの軸端面の間の隙間に軟鋼板を設けることが記載されている(明細書の3頁右下欄の6~13行目を参照)。これにより、両ナットの相対的な回転(締めすぎな回転)を規制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された技術では、凹部と凸部の嵌合(摩擦接触)により両ナットを一体化させているので、寸法精度によっては凹部と凸部が完全に嵌合せず両ナットを一体化できない恐れがある。一方、係止手段を用いる他の形態(特許文献1の第9図参照)では、部品点数が多く、複雑な構造となる。さらに、特許文献1に記載された技術では、各ナットの軸端面の間の隙間に軟鋼板を設けているので、部品点数が多く、複雑な構造となる。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、第1ナットと第2ナットが強固に一体化されるとともに、優れたゆるみ止め機構を発揮することができる簡易な構造のダブルナット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
1.ボルトに螺合可能な第1ネジ孔が形成された第1ナットと、前記ボルトに螺合可能な第2ネジ孔が形成された第2ナットと、を備え、前記第1ナットには、その軸心が前記第1ネジ孔の軸心に対して偏心した円筒状の凸部が設けられており、前記第2ナットには、その軸心が前記第2ネジ孔の軸心に対して偏心し且つ前記凸部と嵌合する凹部が設けられているダブルナットであって、
前記凸部の外周面及び前記凹部の内周面のうちの少なくとも一方には、突起が一体に形成されており、
前記突起による前記凹部に対する前記凸部の圧入嵌合によって、前記第1ナットと前記第2ナットとが両者の間に所定の隙間が形成され且つ前記第1ネジ孔と前記第2ネジ孔の各軸心が一致した状態で一体化されており、
前記所定の隙間は、一体化された前記第1ナット及び前記第2ナットを前記ボルトに螺合した状態で、前記第1ナットに対して前記第2ナットを1/2回転以下の回転量で締め付けることができる値に設定されていることを特徴とするダブルナット。
2.前記第1ナットには、前記凸部の偏心位置を示す第1マーキング部が形成されており、
前記第2ナットには、前記凹部の偏心位置を示す第2マーキング部が形成されており、
前記第1マーキング部と前記第2マーキング部とが位置合わせされた状態で前記第1ナットと前記第2ナットとが一体化されている上記1.に記載のダブルナット。
3.上記1.又は2.に記載のダブルナットの製造方法であって、
冷間鍛造及び/又は切削加工により、第1中心孔及びその軸心が前記第1中心孔の軸心に対して偏心した前記凸部が形成された第1ナット中間体を形成する第1ナット中間体形成工程と、
冷間鍛造及び/又は切削加工により、第2中心孔及びその軸心が前記第2中心孔の軸心に対して偏心した前記凹部が形成された第2ナット中間体を形成する第2ナット中間体形成工程と、
前記凸部の外周面及び前記凹部の内周面のうちの少なくとも一方に設けられた前記突起による前記凹部に対する前記凸部の圧入嵌合によって、前記第1ナット中間体と前記第2ナット中間体とを両者の間に前記所定の隙間が形成され且つ前記第1中心孔と前記第2中心孔の各軸心が一致した状態で一体化させる一体化工程と、
一体化された前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体をホルダに保持した状態で、タッピング装置により、前記第1中心孔に前記第1ネジ孔を形成して前記第1ナットをなすとともに、前記第2中心孔に前記第2ネジ孔を形成して前記第2ナットをなすネジ孔形成工程と、を備えることを特徴とするダブルナットの製造方法。
4.前記第1ナット中間体形成工程は、前記凸部の偏心位置を示す第1マーキング部が形成された前記第1ナット中間体を形成し、
前記第2ナット中間体形成工程は、前記凹部の偏心位置を示す第2マーキング部が形成された前記第2ナット中間体を形成し、
前記一体化工程は、前記第1マーキング部と前記第2マーキング部とが位置合わせされた状態で前記第1ナット中間体と前記第2ナット中間体とを一体化させる上記3.に記載のダブルナット。
5.上記1.又は2.に記載のダブルナットの製造方法であって、
冷間鍛造及び/又は切削加工により、第1中心孔及びその軸心が前記第1中心孔の軸心に対して偏心した前記凸部が形成された第1ナット中間体を形成する第1ナット中間体形成工程と、
冷間鍛造及び/又は切削加工により、第2中心孔及びその軸心が前記第2中心孔の軸心に対して偏心した前記凹部が形成された第2ナット中間体を形成する第2ナット中間体形成工程と、
前記第1中心孔の軸心と前記第2中心孔の軸心とが平行となるように前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体を並べてホルダに保持する保持工程と、
前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体の並び方向に前記ホルダをスライドさせて前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体を加工位置に順次位置させることで、タッピング装置により、前記第1中心孔に前記第1ネジ孔を形成するとともに前記第2中心孔に前記第2ネジ孔を形成するネジ孔形成工程と、
前記ホルダから取り出した前記第1ナット中間体に表面処理を施して前記第1ナットをなすとともに、前記ホルダから取り出した前記第2ナット中間体に表面処理を施して前記第2ナットをなす表面処理工程と、
前記凸部の外周面及び前記凹部の内周面のうちの少なくとも一方に設けられた前記突起による前記凹部に対する前記凸部の圧入嵌合によって、前記第1ナットと前記第2ナットとを両者の間に前記所定の隙間が形成され且つ前記第1ネジ孔と前記第2ネジ孔の各軸心が一致した状態で一体化させる一体化工程と、を備えることを特徴とするダブルナットの製造方法。
6.前記第1ナット中間体形成工程は、前記凸部の偏心位置を示す第1マーキング部が形成された前記第1ナット中間体を形成し、
前記第2ナット中間体形成工程は、前記凹部の偏心位置を示す第2マーキング部が形成された前記第2ナット中間体を形成し、
前記保持工程は、前記第1ナット中間体が前記加工位置に位置したときの前記第1マーキング部と、前記第2ナット中間体が前記加工位置に位置したときの前記第2マーキング部と、が位置合わせされるように前記第1ナット中間体及び前記第2ナット中間体を前記ホルダに保持し、
前記一体化工程は、前記第1マーキング部と前記第2マーキング部とが位置合わせされた状態で前記第1ナットと前記第2ナットとを一体化させる上記5.に記載のダブルナットの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のダブルナットによると、凸部の外周面及び凹部の内周面のうちの少なくとも一方には、突起が一体に形成されており、突起による凹部に対する凸部の圧入嵌合によって、第1ナットと第2ナットとが両者の間に所定の隙間が形成され且つ第1ネジ孔と第2ネジ孔の各軸心が一致した状態で一体化されており、所定の隙間は、一体化された第1ナット及び第2ナットをボルトに螺合した状態で、第1ナットに対して第2ナットを1/2回転以下の回転量で締め付けることができる値に設定されている。これにより、突起による凸部及び凹部の圧入嵌合により第1ナットと第2ナットが強固に一体化される。そのため、各ナットを一体物として取り扱うことで、ダブルナットのボルトに対する取付性やダブルナットの保管性等が高められる。また、従来のように第1ナットと第2ナットの間に軟鋼板を設けていないので、簡易な構造とすることができる。さらに、一体化された第1ナット及び第2ナットをボルトに螺合して締め上げた後に、第1ナットに対して第2ナットを1/2回転以下の回転量で回転させて締め付けることで、偏心した凸部及び凹部の噛み合いにより軸直角方向に強力なロック力が発生して優れたゆるみ止め機能が発揮される。
【0008】
本発明のダブルナットの製造方法によると、冷間鍛造及び/又は切削加工により、第1中心孔及びその軸心が第1中心孔の軸心に対して偏心した凸部が形成された第1ナット中間体を形成する第1ナット中間体形成工程と、冷間鍛造及び/又は切削加工により、第2中心孔及びその軸心が第2中心孔の軸心に対して偏心した凹部が形成された第2ナット中間体を形成する第2ナット中間体形成工程と、凸部の外周面及び凹部の内周面のうちの少なくとも一方に設けられた突起による凹部に対する凸部の圧入嵌合によって、第1ナット中間体と第2ナット中間体とを両者の間に所定の隙間が形成され且つ第1中心孔と第2中心孔の各軸心が一致した状態で一体化させる一体化工程と、一体化された第1ナット中間体及び第2ナット中間体をホルダに保持した状態で、タッピング装置により、第1中心孔に第1ネジ孔を形成して第1ナットをなすとともに、第2中心孔に第2ネジ孔を形成して第2ナットをなすネジ孔形成工程と、を備える。これにより、第1ナットと第2ナットが強固に一体化されるとともに、優れたゆるみ止め機構を発揮することができる簡易な構造のダブルナットを好適に製造することができる。
【0009】
他の本発明のダブルナットの製造方法によると、冷間鍛造及び/又は切削加工により、第1中心孔及びその軸心が第1中心孔の軸心に対して偏心した凸部が形成された第1ナット中間体を形成する第1ナット中間体形成工程と、冷間鍛造及び/又は切削加工により、第2中心孔及びその軸心が第2中心孔の軸心に対して偏心した凹部が形成された第2ナット中間体を形成する第2ナット中間体形成工程と、第1中心孔の軸心と第2中心孔の軸心とが平行となるように第1ナット中間体及び第2ナット中間体を並べてホルダに保持する保持工程と、第1ナット中間体及び第2ナット中間体の並び方向にホルダをスライドさせて第1ナット中間体及び第2ナット中間体を加工位置に順次位置させることで、タッピング装置により、第1中心孔に第1ネジ孔を形成するとともに第2中心孔に第2ネジ孔を形成するネジ孔形成工程と、ホルダから取り出した第1ナット中間体に表面処理を施して第1ナットをなすとともに、ホルダから取り出した第2ナット中間体に表面処理を施して第2ナットをなす表面処理工程と、凸部の外周面及び凹部の内周面のうちの少なくとも一方に設けられた突起による凹部に対する凸部の圧入嵌合によって、第1ナットと第2ナットとを両者の間に所定の隙間が形成され且つ第1ネジ孔と第2ネジ孔の各軸心が一致した状態で一体化させる一体化工程と、を備える。これにより、表面処理が施された第1ナットと第2ナットが強固に一体化されるとともに、優れたゆるみ止め機構を発揮することができる簡易な構造のダブルナットを好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】実施例に係るダブルナットを説明するための説明図であり、(a)は平面図を示し、(b)はb矢視図を示す。
【
図5】他の形態に係るダブルナットを説明するための説明図である。
【
図6】実施例に係るダブルナットの使用方法を説明するための説明図であり、(a)はボルトに対してダブルナットを締め上げた状態を示し、(b)は第1ナットに対して第2ナットを締め付けた状態を示す。
【
図7】実施例に係るダブルナットの製造方法(第1ナット中間体形成工程)を説明するための説明図であり、(a)は第1ナット中間体の縦断面図を示し、(b)はb矢視図を示す。
【
図8】実施例に係るダブルナットの製造方法(第2ナット中間体形成工程)を説明するための説明図であり、(a)は第2ナット中間体の縦断面図を示し、(b)はb矢視図を示す。
【
図9】実施例に係るダブルナットの製造方法(ネジ形成工程)を説明するための説明図である。
【
図10】他の形態に係るダブルナットの製造方法(保持工程及びネジ形成工程)を説明するための説明図であり、(a)は第1ナット中間体が加工位置に位置した状態を示し、(b)は第2ナット中間体が加工位置に位置した状態を示す。
【
図11】更なる他の形態に係るダブルナットの製造方法(保持工程及びネジ形成工程)を説明するための説明図である。
【
図12】更なる他の形態に係るダブルナットを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
<ダブルナット>
本実施形態に係るダブルナット1は、例えば、
図1~
図3に示すように、ボルト2に螺合可能な第1ネジ孔3が形成された第1ナット4と、ボルト2に螺合可能な第2ネジ孔6が形成された第2ナット7と、を備え、第1ナット4には、その軸心8aが第1ネジ孔3の軸心3aに対して偏心した円筒状の凸部8が設けられており、第2ナット7には、その軸心9aが第2ネジ孔6の軸心6aに対して偏心し且つ凸部8と嵌合する凹部9が設けられている。そして、凸部8の外周面及び凹部9の内周面のうちの少なくとも一方には、突起12が一体に形成されており、突起12による凹部9に対する凸部8の圧入嵌合によって、第1ナット4と第2ナット7とが両者4、7の間に所定の隙間S1が形成され且つ第1ネジ孔3と第2ネジ孔6の各軸心3a、6aが一致した状態で一体化されている。さらに、所定の隙間S1は、一体化された第1ナット4及び第2ナット7をボルト2に螺合した状態で、第1ナット4に対して第2ナット7を1/2回転以下の回転量で締め付けることができる値に設定されている(
図6参照)。
【0013】
第1ナット4は、第1ネジ孔3及び凸部8が形成されている限り、その材質、形状、大きさ等は特に問わない。凸部8の外周面には、例えば、突起12が形成されていることができる(
図2参照)。突起12の大きさ、個数、配置形態等は特に問わない。
第2ナット7は、第2ネジ孔6及び凹部9が形成されている限り、その材質、形状、大きさ等は特に問わない。凹部9の内周面には、例えば、突起12が形成されていることができる(
図12参照)。突起12の大きさ、個数、配置形態等は特に問わない。
【0014】
所定の隙間S1は、例えば、第1ナット4に対して第2ナット7を1/4回転以上(好ましくは3/8回転以上)で且つ1/2回転以下の回転量で締め付けることができる値に設定されていることができる。これにより、偏心した凸部8及び凹部9の噛み合いにより軸直角方向に更に強力なロック力を作用させることができる。さらに、所定の隙間S1は、例えば、凸部8の先端面と凹部9の底面との間に形成されていてもよいし(
図2参照)、第1ナット4及び第2ナット7の各軸端面4a、7aの間に形成されていてもよい(
図12参照)。
【0015】
本実施形態に係るダブルナット1としては、例えば、
図4及び
図5に示すように、第1ナット4には、凸部8の偏心位置を示す第1マーキング部16が形成されており、第2ナット7には、凹部9の偏心位置を示す第2マーキング部17が形成されており、第1マーキング部16と第2マーキング部17とが位置合わせされた状態で第1ナット4と第2ナット7とが一体化されている形態が挙げられる。
本形態によると、凸部8及び凹部9の各偏心位置を容易に位置合わせでき、第1ナット4及び第2ナット7を適正な位置で一体化することができる。さらに、第1及び第2マーキング部16、17により第1及び第2ナット4、7が適正な位置であるかを容易に確認することができる。
【0016】
第1マーキング部16の種類、配置形態等は特に問わない。第1マーキング部16は、シール貼付や塗装等により構成されていてもよいが、加工性及び視認性等の観点から、凸状又は凹状に形成された部位により構成されていることが好ましい。さらに、第1マーキング部16は、例えば、第1ナット4の軸端面4aに形成されていてもよいし、第1ナット4の外周面に形成されていてもよい。
第2マーキング部17の種類、配置形態等は特に問わない。第2マーキング部17は、シール貼付や塗装等により構成されていてもよいが、加工性及び視認性等の観点から、凸状又は凹状に形成された部位により構成されていることが好ましい。さらに、第2マーキング部17は、例えば、第2ナット7の軸端面7aに形成されていてもよいし、第2ナット7の外周面に形成されていてもよい。
【0017】
<ダブルナットの製造方法A>
本実施形態に係るダブルナットの製造方法Aは、例えば、
図7~
図9に示すように、上記のダブルナット1の製造方法であって、冷間鍛造及び/又は切削加工により、第1中心孔3A及びその軸心が第1中心孔3Aの軸心に対して偏心した凸部8が形成された第1ナット中間体4Aを形成する第1ナット中間体形成工程(
図7参照)と、冷間鍛造及び/又は切削加工により、第2中心孔6A及びその軸心が第2中心孔6Aの軸心に対して偏心した凹部9が形成された第2ナット中間体7Aを形成する第2ナット中間体形成工程(
図8参照)と、凸部8の外周面及び凹部9の内周面のうちの少なくとも一方に設けられた突起12による凹部9に対する凸部8の圧入嵌合によって、第1ナット中間体4Aと第2ナット中間体7Aとを両者4A、7Aの間に所定の隙間S1が形成され且つ第1中心孔3Aと第2中心孔6Aの各軸心が一致した状態で一体化させる一体化工程(
図9参照)と、一体化された第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aをホルダ19に保持した状態で、タッピング装置21により、第1中心孔3Aに第1ネジ孔3を形成して第1ナット4をなすとともに、第2中心孔6Aに第2ネジ孔6を形成して第2ナット7をなすネジ孔形成工程(
図9参照)と、を備える。
【0018】
本実施形態に係るダブルナットの製造方法Aとしては、例えば、第1ナット中間体形成工程(
図7参照)は、凸部8の偏心位置を示す第1マーキング部16が形成された第1ナット中間体4Aを形成し、第2ナット中間体形成工程(
図8参照)は、凹部9の偏心位置を示す第2マーキング部17が形成された第2ナット中間体7Aを形成し、一体化工程は、第1マーキング部16と第2マーキング部17とが位置合わせされた状態で第1ナット中間体4Aと第2ナット中間体7Aとを一体化させる形態が挙げられる。
本形態によると、凸部8及び凹部9の各偏心位置を容易に位置合わせでき、第1ナット4及び第2ナット7を適正な位置で一体化することができる。さらに、第1及び第2マーキング部16、17により第1及び第2ナット4、7が適正な位置であるかを容易に確認することができる。
【0019】
本実施形態に係るダブルナットの製造方法Aとしては、例えば、
図9に示すように、ホルダ19には、第1ナット中間体4Aの軸端面と第2ナット中間体7Aの軸端面との間に形成される隙間S2に入り込む状態と隙間S2から退避する状態とに変位可能な可動片45が設けられている形態が挙げられる。
本形態によると、可動片45が隙間S2に入り込むことによりネジ形成中に隙間S2(即ち隙間S1)を適正な値に維持することができる。
【0020】
本実施形態に係るダブルナットの製造方法Aとしては、例えば、
図9に示すように、タッピング装置21は、駆動モータ26、駆動モータ26により回転される第1スピンドル軸27、第1スピンドル軸27に対して軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転不能に設けられて先端にタップ28が取り付けられる第2スピンドル軸29、及び第2スピンドル軸29を回転自在に支持する支持体30を有するスピンドルユニット22と、支持体30に取り付けられるスライダ31、及びスライダ31と螺合するとともにボルト2と同じピッチを有するボールネジ軸32を有する送り機構23と、駆動モータ26の駆動力をボールネジ軸32に伝達してボールネジ軸32を回転させる伝達機構24と、を備える形態が挙げられる。
本形態によると、駆動モータ26、送り機構23及び伝達機構24の作動により、第2スピンドル軸29が回転しながら軸方向に移動することでタップ28により中心孔3A、6Aにネジ孔3、6が形成される。
【0021】
<ダブルナットの製造方法B>
本実施形態に係るダブルナットの製造方法Bは、例えば、
図7、
図8及び
図10に示すように、上記のダブルナット1の製造方法であって、冷間鍛造及び/又は切削加工により、第1中心孔3A及びその軸心が第1中心孔3Aの軸心に対して偏心した凸部8が形成された第1ナット中間体4Aを形成する第1ナット中間体形成工程(
図7参照)と、冷間鍛造及び/又は切削加工により、第2中心孔6A及びその軸心が第2中心孔6Aの軸心に対して偏心した凹部9が形成された第2ナット中間体7Aを形成する第2ナット中間体形成工程(
図8参照)と、第1中心孔3Aの軸心と第2中心孔6Aの軸心とが平行となるように第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aを並べてホルダ19に保持する保持工程(
図10参照)と、第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aの並び方向Pにホルダ19をスライドさせて第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aを加工位置A1に順次位置させることで、タッピング装置21により、第1中心孔3Aに第1ネジ孔3を形成するとともに第2中心孔6Aに第2ネジ孔6を形成するネジ孔形成工程(
図10参照)と、ホルダ19から取り出した第1ナット中間体4Aに表面処理を施して第1ナット4をなすとともに、ホルダ19から取り出した第2ナット中間体7Aに表面処理を施して第2ナット7をなす表面処理工程と、凸部8の外周面及び凹部9の内周面のうちの少なくとも一方に設けられた突起12による凹部9に対する凸部8の圧入嵌合によって、第1ナット4と第2ナット7とを両者4、7の間に所定の隙間S1が形成され且つ第1ネジ孔3と第2ネジ孔6の各軸心3a、6aが一致した状態で一体化させる一体化工程と、を備える。
【0022】
本実施形態に係るダブルナットの製造方法Bとしては、例えば、第1ナット中間体形成工程(
図7参照)は、凸部8の偏心位置を示す第1マーキング部16が形成された第1ナット中間体4Aを形成し、第2ナット中間体形成工程(
図8参照)は、凹部9の偏心位置を示す第2マーキング部17が形成された第2ナット中間体7Aを形成し、保持工程(
図10)は、第1ナット中間体4Aが加工位置A1に位置したときの第1マーキング部16と、第2ナット中間体7Aが加工位置A1に位置したときの第2マーキング部17と、が位置合わせされるように第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aをホルダ19に保持し、一体化工程は、第1マーキング部16と第2マーキング部17とが位置合わせされた状態で第1ナット4と第2ナット7とを一体化させる形態が挙げられる。
本形態によると、凸部8及び凹部9の各偏心位置を容易に位置合わせでき、第1ナット4及び第2ナット7を適正な位置で一体化することができる。さらに、第1及び第2マーキング部16、17により第1及び第2ナット4、7が適正な位置であるかを容易に確認することができる。
【0023】
本実施形態に係るダブルナットの製造方法Bとしては、例えば、
図10に示すように、ホルダ19は、第1ナット中間体4Aを保持する第1ホルダ42と、第2ナット中間体7Aを保持する第2ホルダ43と、を備え、第1ホルダ42及び第2ホルダ43は、タッピング装置21の作動に応じてナット中間体4A、7Aの並び方向Pに交互にスライドされる形態が挙げられる。
本形態によると、ホルダ42、43に対するナット中間体4A、7Aの保持及び取出しを容易に行うことができる。
【0024】
本実施形態に係るダブルナットの製造方法Bとしては、例えば、
図9に示すように、タッピング装置21は、駆動モータ26、駆動モータ26により回転される第1スピンドル軸27、第1スピンドル軸27に対して軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転不能に設けられて先端にタップ28が取り付けられる第2スピンドル軸29、及び第2スピンドル軸29を回転自在に支持する支持体30を有するスピンドルユニット22と、支持体30に取り付けられるスライダ31、及びスライダ31と螺合するとともにボルト2と同じピッチを有するボールネジ軸32を有する送り機構23と、駆動モータ26の駆動力をボールネジ軸32に伝達してボールネジ軸32を回転させる伝達機構24と、を備える形態が挙げられる。
本形態によると、駆動モータ26、送り機構23及び伝達機構24の作動により、第2スピンドル軸29が回転しながら軸方向に移動することでタップ28により中心孔3A、6Aにネジ孔3、6が形成される。
【0025】
なお、上記実施形態で記載した各構成の符号は、以下の実施例に記載の具体的構成との対応関係を示すものである。
【実施例0026】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
【0027】
本実施例に係るダブルナット1は、
図1~
図3に示すように、ボルト2に螺合可能な第1ネジ孔3が形成された第1ナット4と、ボルト2に螺合可能な第2ネジ孔6が形成された第2ナット7と、を備えている。この第1ナット4には、その軸心8aが第1ネジ孔3の軸心3aに対して偏心した円筒状の凸部8が設けられている。さらに、第2ナット7には、その軸心9aが第2ネジ孔6の軸心6aに対して偏心し且つ凸部8と嵌合する凹部9が設けられている。この凹部9の底面は円形に形成されている。
なお、ボルト2は、被締付部材10を貫通するネジ部2aと、ネジ部2aに螺合されるダブルナット1との間で被締付部材10を挟持する頭部2bと、を備えている(
図6参照)。
【0028】
第1ナット4は、図示しない回転工具(例えば、各種のレンチ、スパナ等)が係合する正多角形(具体的に正六角形)の外周部11を有している。また、第1ネジ孔3は、ボルト2のネジ部2aのピッチと一致するピッチを有している。また、第1ネジ孔3は、その軸心3aが第1ナット4の外周部11の軸心11aと一致するように配置されている。さらに、凸部8の外周面には、凹部9に対して凸部8を圧入嵌合させるための突起12が形成されている。
【0029】
第2ナット7は、図示しない回転工具(例えば、各種のレンチ、スパナ等)が係合する正多角形(具体的に正六角形)の外周部14を有している。また、第2ネジ孔6は、ボルト2のネジ部2aのピッチと一致するピッチを有している。また、第2ネジ孔6は、その軸心6aが第2ナット7の外周部14の軸心14aと一致するように配置されている。
なお、第1ナット4の外周部11と第2ナット7の外周部14は同じ大きさの形状に形成されている(
図1参照)。さらに、凸部8の第1ネジ孔3に対する偏心量b1と凹部9の第2ネジ孔6に対する偏心量b2とは同じ値とされている(
図2参照)。
【0030】
図2に示すように、突起12による凹部9に対する凸部8の圧入嵌合によって、第1ナット4と第2ナット7とが両者4、7の間に所定の隙間S1が形成され且つ第1ネジ孔3と第2ネジ孔6の各軸心3a、6aが一致した状態で一体化されている。この隙間S1は、凸部8の先端面と凹部9の底面との間に形成されている。さらに、隙間S1は、一体化された第1ナット4及び第2ナット7をボルト2に螺合した状態で、第1ナット4に対して第2ナット7を1/2回転より僅かに小さな回転量で締め付けることができる値(具体的にボルト2の1/2ピッチより僅かに小さな値)に設定されている(
図6参照)。さらに、第1ナット4の軸端面4aと第2ナット7の軸端面7aの間には、隙間S1よりも大きな隙間S2が形成されている。この隙間S2を介して後述のマーキング部16、17を容易に視認することができる。
【0031】
図4に示すように、第1ナット4(具体的に第1ナット4の軸端面4a)には、凸部8の偏心位置を示す凹状の第1マーキング部16が形成されている。この第1マーキング部16は、第1ナット4の円周方向において凸部8の偏心量が最大となる位置に配置されている。また、第2ナット7(具体的に第2ナット7の軸端面7a)には、凹部9の偏心位置を示す凹状の第2マーキング部17が形成されている。この第2マーキング部17は、第2ナット7の円周方向において凹部9の偏心量が最大となる位置に配置されている。これら第1マーキング部16と第2マーキング部17とがナット4、7の円周方向において位置合わせされた状態で第1ナット4と第2ナット7とが一体化されている。
【0032】
次に、上記構成のダブルナット1の使用方法について説明する。
図6(a)に示すように、被締付部材10を貫通したボルト2のネジ部2aに、ダブルナット1(即ち、一体化された第1ナット4及び第2ナット7)を螺合して隙間S1を維持した状態で締め上げる。その後、
図6(b)に示すように、第1ナット4に対して第2ナット7を締め付けると、第1ナット4に対して第2ナット7が1/2回転より僅かに小さな回転量で回転されたときに、隙間S1がなくなり凸部8の先端面と凹部9の底面とが当接して各ナット4、7の相対的な回転(締めすぎな回転)が規制される。このとき、偏心した凸部8及び凹部9の噛み合いにより軸直角方向に強力なロック力Fが発生する。
【0033】
以上より、本実施例のダブルナット1によると、凸部8の外周面には、突起12が一体に形成されており、突起12による凹部9に対する凸部8の圧入嵌合によって、第1ナット4と第2ナット7とが両者4、7の間に所定の隙間S1が形成され且つ第1ネジ孔3と第2ネジ孔6の各軸心3a、6aが一致した状態で一体化されており、所定の隙間S1は、一体化された第1ナット4及び第2ナット7をボルト2に螺合した状態で、第1ナット4に対して第2ナット7を1/2回転以下の回転量で締め付けることができる値に設定されている。これにより、突起12による凸部8及び凹部9の圧入嵌合により第1ナット4と第2ナット7が強固に一体化される。そのため、各ナット4、7を一体物として取り扱うことで、ダブルナット1のボルト2に対する取付性やダブルナット1の保管性等が高められる。また、従来のように第1ナット4と第2ナット7の間に軟鋼板を設けていないので、簡易な構造とすることができる。さらに、一体化された第1ナット4及び第2ナット7をボルト2に螺合して締め上げた後に、第1ナット4に対して第2ナット7を1/2回転より僅かに小さな回転量で回転させて締め付けることで、偏心した凸部8及び凹部9の噛み合いにより軸直角方向に強力なロック力Fが発生して優れたゆるみ止め機能が発揮される。
【0034】
さらに、本実施例では、第1ナット4には第1マーキング部16が形成されており、第2ナット7には第2マーキング部17が形成されており、第1マーキング部16と第2マーキング部17とが位置合わせされた状態で第1ナット4と第2ナット7とが一体化されている。これにより、凸部8及び凹部9の各偏心位置を容易に位置合わせでき、第1ナット4及び第2ナット7を適正な位置で一体化することができる。さらに、第1及び第2マーキング部16、17により第1及び第2ナット4、7が適正な位置であるかを容易に確認することができる。
【0035】
次に、上記構成のダブルナット1の製造方法について説明する。本製造方法は、第1ナット中間体形成工程、第2ナット中間体形成工程、一体化工程及びネジ孔形成工程を備えている。
【0036】
第1ナット中間体形成工程は、
図7に示すように、冷間鍛造により、第1中心孔3A及びその軸心が第1中心孔3Aの軸心に対して偏心した凸部8が形成された第1ナット中間体4Aを形成する工程である。この第1ナット中間体形成工程では、凸部8の偏心位置を示す第1マーキング部16が形成された第1ナット中間体4Aが形成される。さらに、第1ナット中間体形成工程では、凸部8の外周面に突起12が形成された第1ナット中間体4Aが形成される。
【0037】
第2ナット中間体形成工程は、
図8に示すように、冷間鍛造により、第2中心孔6A及びその軸心が第2中心孔6Aの軸心に対して偏心した凹部9が形成された第2ナット中間体7Aを形成する工程である。この第2ナット中間体形成工程では、凹部9の偏心位置を示す第2マーキング部17が形成された第2ナット中間体7Aが形成される。
【0038】
一体化工程は、
図9に示すように、突起12による凹部9に対する凸部8の圧入嵌合によって、第1ナット中間体4Aと第2ナット中間体7Aとを両者4A、7Aの間に所定の隙間S1が形成され且つ第1中心孔3Aと第2中心孔6Aの各軸心が一致した状態で一体化させる工程である。この一体化工程では、第1マーキング部16と第2マーキング部17とがナット中間体4A、7Aの円周方向において位置合わせされた状態で第1ナット中間体4Aと第2ナット中間体7Aとが一体化される。
なお、一体化工程は、例えば、専用機等により自動で行われてもよいし、人手により行われてもよい。
【0039】
ネジ孔形成工程は、
図9に示すように、一体化された第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aをホルダ19に保持した状態で、タッピング装置21により、第1中心孔3Aに第1ネジ孔3を形成して第1ナット4をなすとともに、第2中心孔6Aに第2ネジ孔6を形成して第2ナット7をなす工程である。このホルダ19には、第1ナット中間体4Aの軸端面と第2ナット中間体7Aの軸端面との間に形成される隙間S2に入り込む状態と隙間S2から退避する状態とに変位可能な可動片45が設けられている。この可動片45が隙間S2に入り込むことによりネジ形成中に隙間S2(即ち隙間S1)が適正な値に維持される。
なお、ナット中間体4A、7Aのホルダ19への保持は、専用機等により自動で行われてもよいし、人手により行われてもよい。
【0040】
タッピング装置21は、
図9に示すように、スピンドルユニット22、送り機構23及び伝達機構24を備えている。このスピンドルユニット22は、駆動モータ26と、駆動モータ26により回転される第1スピンドル軸27と、スプライン結合等により第1スピンドル軸27に対して軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転不能に設けられて先端にタップ28が取り付けられる第2スピンドル軸29と、第2スピンドル軸29を回転自在に支持する支持体30と、を有している。また、送り機構23は、支持体30に取り付けられるスライダ31と、スライダ31と螺合するとともにボルト2と同じピッチを有するボールネジ軸32と、を有している。さらに、伝達機構24(例えば、ギヤ伝達機構等)は、駆動モータ26の駆動力をボールネジ軸32に伝達してボールネジ軸32を回転させる。本タッピング装置21によると、駆動モータ26、送り機構23及び伝達機構24の作動により、第2スピンドル軸29が回転しながら軸方向に移動することでタップ28により中心孔3A、6Aにネジ孔3、6が形成される。
【0041】
以上より、本実施例のダブルナット1の製造方法によると、特定の第1ナット中間体形成工程、第2ナット中間体形成工程、一体化工程及びネジ孔形成工程を備える。これにより、第1ナット4と第2ナット7が強固に一体化されるとともに、優れたゆるみ止め機構を発揮することができる簡易な構造のダブルナット1を好適に製造することができる。
【0042】
次に、上記構成のダブルナット1の他の製造方法について説明する。本製造方法は、第1ナット中間体形成工程、第2ナット中間体形成工程、保持工程、ネジ孔形成工程、表面処理工程及び一体化工程を備えている。
【0043】
第1ナット中間体形成工程は、
図7に示すように、冷間鍛造により、第1中心孔3A及びその軸心が第1中心孔3Aの軸心に対して偏心した凸部8が形成された第1ナット中間体4Aを形成する工程である。この第1ナット中間体形成工程では、凸部8の偏心位置を示す第1マーキング部16が形成された第1ナット中間体4Aが形成される。さらに、第1ナット中間体形成工程では、凸部8の外周面に突起12が形成された第1ナット中間体4Aが形成される。
【0044】
第2ナット中間体形成工程は、
図8に示すように、冷間鍛造により、第2中心孔6A及びその軸心が第2中心孔6Aの軸心に対して偏心した凹部9が形成された第2ナット中間体7Aを形成する工程である。この第2ナット中間体形成工程では、凹部9の偏心位置を示す第2マーキング部17が形成された第2ナット中間体7Aが形成される。
【0045】
保持工程は、
図10に示すように、第1中心孔3Aの軸心と第2中心孔6Aの軸心とが平行となるように第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aを左右方向に並べてホルダ19に保持する工程である。この保持工程では、第1ナット中間体4Aが後述の加工位置A1に位置したときの第1マーキング部16と、第2ナット中間体7Aが後述の加工位置A1に位置したときの第2マーキング部17と、がナット中間体4A、7Aの円周方向において位置合わせされるように第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aがホルダ19に保持される。さらに、保持工程では、後述の加工位置A1に位置した第1ナット中間体4Aと後述の加工位置A1に位置した第2ナット中間体7Aとにおいて、両者4A、7Aの間に所定の隙間S1が形成され且つ第1中心孔3Aと第2中心孔6Aの各軸心が一致するように第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aがホルダ19に保持される。
なお、ナット中間体4A、7Aのホルダ19への保持は、例えば、専用機等により自動で行われてもよいし、人手により行われてもよい。
【0046】
ホルダ19は、第1ナット中間体4Aを保持する第1ホルダ42と、第2ナット中間体7Aを保持する第2ホルダ43と、を備えている。これら第1ホルダ42及び第2ホルダ43は、タッピング装置21の作動に応じてナット中間体4A、7Aの並び方向Pに交互にスライドされる。第1ホルダ42のスライドにより第1ナット中間体4Aがタッピング装置21(
図9参照)のタップ26の直下となる加工位置A1と加工位置A1から離れた退避位置(図示省略)との間で変位される。さらに、第2ホルダ43のスライドにより第2ナット中間体7Aがタッピング装置21のタップ26の直下となる加工位置A1と加工位置A1から離れた退避位置(図示省略)との間で変位される。
【0047】
ネジ孔形成工程は、
図10に示すように、ナット中間体4A、7Aの並び方向Pに第1ホルダ42及び第2ホルダ43を交互にスライドさせて第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aを加工位置A1に順次位置させることで、タッピング装置21により、第1中心孔3Aに第1ネジ孔3を形成するとともに第2中心孔6Aに第2ネジ孔6を形成する工程である。なお、ネジ孔3、6の形成順序は特に問わない。
【0048】
表面処理工程は、第1ホルダ42から取り出した第1ナット中間体4Aに表面処理を施して第1ナット4をなすとともに、第2ホルダ43から取り出した第2ナット中間体7Aに表面処理を施して第2ナット7をなす工程である。
なお、表面処理としては、例えば、電気メッキ、化成処理、溶融メッキ、塗装焼付等が挙げられる。
【0049】
一体化工程は、突起12による凹部9に対する凸部8の圧入嵌合によって、第1ナット4と第2ナット7とを両者4、7の間に所定の隙間S1が形成され且つ第1ネジ孔3と第2ネジ孔6の各軸心3a、6aが一致した状態で一体化させる工程である。この一体化工程では、第1マーキング部16と第2マーキング部17とがナット4、7の円周方向において位置合わせされた状態で第1ナット4と第2ナット7とが一体化される。
なお、一体化工程は、例えば、専用機等により自動で行われてもよいし、人手により行われてもよい。
【0050】
以上より、本実施例の他のダブルナット1の製造方法によると、特定の第1ナット中間体形成工程、第2ナット中間体形成工程、保持工程、ネジ孔形成工程、表面処理工程及び一体化工程を備える。これにより、表面処理が施された第1ナット4と第2ナット7が強固に一体化されるとともに、優れたゆるみ止め機構を発揮することができる簡易な構造のダブルナット1を好適に製造することができる。
【0051】
尚、本発明においては、上記実施例等に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。すなわち、上記実施例では、マーキング部16、17を備えるダブルナット1を例示したが、これに限定されず、例えば、マーキング部16、17を備えないダブルナット1としてもよい。
【0052】
また、上記実施例では、凸部8の外周面に突起12を形成する形態を例示したが、これに限定されず、例えば、
図12に示すように、凹部9の内周面に突起12を形成する形態としてもよい。この場合、例えば、第2ナット中間体形成工程では、凹部9の内周面に突起12が形成された第2ナット中間体7Aが形成される。
さらに、例えば、凸部8の外周面及び凹部9の内周面に突起12を形成する形態としてもよい。この場合、例えば、第1ナット中間体形成工程では、凸部8の外周面に突起12が形成された第1ナット中間体4Aが形成され、第2ナット中間体形成工程では、凹部9の内周面に突起12が形成された第2ナット中間体7Aが形成される。
【0053】
また、上記実施例では、凸部8の先端面と凹部9の底面との間に隙間S1を形成する形態を例示したが、これに限定されず、例えば、
図12に示すように、第1ナット4の軸端面4aと第2ナット7の軸端面7aとの間に隙間S1を形成する形態としてもよい。
また、上記実施例では、異なる大きさの隙間S1、S2を例示したが、これに限定されず、例えば、同じ大きさの隙間S1、S2としてもよい。
【0054】
また、上記実施例では、各ナット4、7の軸端面4a、7aに形成される各マーキング部16、17を例示したが、これに限定されず、例えば、
図5に示すように、各ナット4、7の外周面に形成される各マーキング部16、17としてもよい。
さらに、各マーキング部16、17の配置場所が異なっていてもよい。例えば、第1マーキング部16が第1ナット4の軸端面4aに形成され、第2マーキング部17が第2ナット7の外周面に形成されていてもよい。
【0055】
また、上記実施例では、冷間鍛造によりナット中間体4A、7Aを形成するナット中間体形成工程を例示したが、これに限定されず、例えば、切削加工によりナット中間体4A、7Aを形成するナット中間体形成工程としてもよい。
さらに、例えば、冷間鍛造及び切削加工によりナット中間体4A、7Aを形成するナット中間体形成工程としてもよい。
【0056】
さらに、上記実施例では、第1ホルダ42に第1ナット中間体4Aを保持し、第2ホルダ43に第2ナット中間体7Aを保持し、各ホルダ42、43のスライドにより各ネジ孔3、6を所定の順序で形成する形態を例示したが、これに限定されず、例えば、
図11に示すように、単一のホルダ19に第1ナット中間体4A及び第2ナット中間体7Aを左右方向に並べて保持し、ホルダ19のスライドにより各ネジ孔3、6を所定の順序で形成する形態としてもよい。
【0057】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
1;ダブルナット、2;ボルト、3;第1ネジ孔、3a;軸心、3A;第1中心孔、4;第1ナット、4A;第1ナット中間体、6;第2ネジ孔、6a;軸心、6A;第2中心孔、7;第2ナット、7A;第2ナット中間体、8;凸部、9;凹部、12;突起、16;第1マーキング部、17;第2マーキング部、19;ホルダ、21;タッピング装置、22;スピンドルユニット、23;送り機構、24;伝達機構、26;駆動モータ、27;第1スピンドル軸、28;タップ、29;第2スピンドル軸、30;支持体、31;スライダ、32;ボールネジ軸、A1;加工位置、P;並び方向、S1;所定の隙間。