(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031492
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/14 20060101AFI20230302BHJP
H02M 1/12 20060101ALI20230302BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20230302BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
H02M1/14
H02M1/12
H02M7/48 M
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137014
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木田 喜啓
(72)【発明者】
【氏名】杉田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】古川 達也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 識由
(72)【発明者】
【氏名】望月 悠史
(72)【発明者】
【氏名】赤木 信介
【テーマコード(参考)】
5H505
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H505BB05
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA01
5H505HA05
5H505HA06
5H505HA10
5H505HB02
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ29
5H505KK06
5H505LL22
5H505LL41
5H505PP02
5H740BA11
5H740BB05
5H740BB09
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740MM11
5H740NN02
5H740NN17
5H770AA05
5H770BA01
5H770CA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770GA17
5H770HA02Z
5H770HA07Z
5H770JA17Z
5H770KA01W
5H770LA00Z
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】コモンモード電流のピーク値やモータのシャフト電圧のピーク値を抑制する。
【解決手段】ベアリングを介してケースにより回転自在に支持されるシャフトに固定されるロータ、三相巻線を有するステータを備えるモータと、直流電源と、直流電源に正極側電力ラインおよび負極側電力ラインを介して接続されると共に三相巻線に三相電力ラインを介して接続され、複数のスイッチング素子のスイッチングにより直流電源からの直流電力を三相交流電力に変換して三相巻線に供給するインバータと、を備える駆動装置であって、正極側電力ラインに接続された第1コンデンサと、負極側電力ラインに接続されると共に第1コンデンサに接続された第2コンデンサと、第1コンデンサおよび第2コンデンサの接続点に接続されると共にケースと等電位の基準電位部に接続された抵抗素子とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリングを介してケースにより回転自在に支持されるシャフトに固定されるロータ、三相巻線を有するステータを備えるモータと、
直流電源と、
前記直流電源に正極側電力ラインおよび負極側電力ラインを介して接続されると共に前記三相巻線に三相電力ラインを介して接続され、複数のスイッチング素子のスイッチングにより前記直流電源からの直流電力を三相交流電力に変換して前記三相巻線に供給するインバータと、
を備える駆動装置であって、
前記正極側電力ラインに接続された第1コンデンサと、
前記負極側電力ラインに接続されると共に前記第1コンデンサに接続された第2コンデンサと、
前記第1コンデンサおよび前記第2コンデンサの接続点に接続されると共に前記ケースと等電位の基準電位部に接続された抵抗素子と、
を備える駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動装置であって、
前記接続点および前記基準電位部に対して前記抵抗素子に並列に接続されたスイッチと、
前記三相電力ラインでコモンモード電流を検出するコモンモード電流検出部と、
前記コモンモード電流検出部からの信号に基づいて前記スイッチをオンオフするスイッチ制御部と、
を更に備える駆動装置。
【請求項3】
請求項2記載の駆動装置であって、
前記スイッチ制御部は、前記コモンモード電流の共振期間については、前記スイッチをオフにし、前記共振期間以外については、前記スイッチをオンにする、
駆動装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の駆動装置であって、
前記スイッチ制御部は、前記モータの回転数が所定回転数範囲内であるときには、前記スイッチをオンで保持する、
駆動装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のうちの何れか1つの請求項に記載の駆動装置であって、
前記コモンモード電流検出部は、前記モータと前記インバータとを接続する三相電力ラインを包囲する磁性体部と、前記磁性体部に巻回された巻線とを有する、
駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動装置としては、モータと、交流電源と、交流電源からの交流電力を直流電力に変換する整流器と、整流器からの直流電力を三相交流電力に変換してモータの三相巻線に供給するインバータと、インバータの出力側に接続されたコモンモードキャンセラと、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。コモンモードキャンセラは、インバータの出力側の三相ケーブルにスター結線されてコモンモードを検出する第1コンデンサと、スター結線の中性点により得られるコモンモード電圧を電力増幅するエミッタホロワ回路と、エミッタホロワ回路の出力が第2コンデンサを介して入力される一次側コイルおよび三相ケーブルに設けられた二次側コイルを有するコモンモードトランスとを備える。このコモンモードキャンセラは、第1コンデンサにより検出されたコモンモード電圧により、エミッタホロワ回路のスイッチング素子がオンオフしてコモンモード電圧と同一の大きさで逆極性の電圧を発生し、コモンモードトランスによりこの電圧をインバータの出力に重畳させてコモンモード電圧を相殺することにより、コモンモード電流が流れるのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のコモンモードキャンセラは、インバータとモータとを接続する三相ケーブルにコモンモードトランスの二次側コイルを設ける必要がある。このため、コモンモードキャンセラひいてはこれを備える駆動装置が大型になりやすい。これを踏まえて、上述の構成とは異なる構成で、コモンモード電流のピーク値やモータのシャフト電圧のピーク値を抑制することが求められている。
【0005】
本発明の駆動装置は、コモンモード電流のピーク値やモータのシャフト電圧のピーク値を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の駆動装置は、
ベアリングを介してケースにより回転自在に支持されるシャフトに固定されるロータ、三相巻線を有するステータを備えるモータと、
直流電源と、
前記直流電源に正極側電力ラインおよび負極側電力ラインを介して接続されると共に前記三相巻線に三相電力ラインを介して接続され、複数のスイッチング素子のスイッチングにより前記直流電源からの直流電力を三相交流電力に変換して前記三相巻線に供給するインバータと、
を備える駆動装置であって、
前記正極側電力ラインに接続された第1コンデンサと、
前記負極側電力ラインに接続されると共に前記第1コンデンサに接続された第2コンデンサと、
前記第1コンデンサおよび前記第2コンデンサの接続点に接続されると共に前記ケースと等電位の基準電位部に接続された抵抗素子と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
本発明の駆動装置では、正極側電力ラインに接続された第1コンデンサと、負極側電力ラインに接続されると共に第1コンデンサに接続された第2コンデンサと、第1コンデンサおよび第2コンデンサの接続点に接続されると共にケースと等電位の基準電位部に接続された抵抗素子とを備える。第1コンデンサ、第2コンデンサ、抵抗素子を備えない場合、インバータのスイッチング素子のスイッチングに伴って発生するコモンモード電流は、モータの三相巻線や、三相巻線と基準電位部との間の第1寄生容量などを介して基準電位部に至り、基準電位部と直流電源の正極端子との間の第2寄生容量や正極側電力ラインを介してインバータに戻ると共に基準電位部と直流電源の負極端子との間の第3寄生容量や負極側電力ラインを介してインバータに戻る。これに対して、本発明の駆動装置では、第1コンデンサ、第2コンデンサ、抵抗素子を備えることにより、基準電位部のコモンモード電流は、第2寄生容量、正極側電力ラインの経路や、第3寄生容量、負極側電力ラインの経路に加えて、抵抗素子、第1コンデンサ、正極側電力ラインの経路や、抵抗素子、第2コンデンサ、負極側電力ラインの経路にも分散して流れてインバータに戻る。コモンモード電流の一部が抵抗素子を流れて減衰されることにより、コモンモード電流の共振の鋭さ(Q値)を小さくすることができる。この結果、コモンモード電流のピーク値や、モータのシャフト電圧(基準電位部の電位に対するシャフトの電位)のピーク値を抑制することができる。
【0009】
本発明の駆動装置において、前記接続点および前記基準電位部に対して前記抵抗素子に並列に接続されたスイッチと、前記三相電力ラインでコモンモード電流を検出するコモンモード電流検出部と、前記コモンモード電流検出部からの信号に基づいて前記スイッチをオンオフするスイッチ制御部とを更に備えるものとしてもよい。こうすれば、スイッチがオフのときには、上述の効果を奏することができる。一方、スイッチがオンのときには、基準電位部のコモンモード電流のうち第1コンデンサや第2コンデンサを流れる割合を大きくして、第2寄生容量や第3寄生容量を流れる割合を小さくすることができる。この結果、コモンモード電流が直流電源側に流れるのを抑制することができる。
【0010】
この場合、前記スイッチ制御部は、前記コモンモード電流の共振期間については、前記スイッチをオフにし、前記共振期間以外については、前記スイッチをオンにするものとしてもよい。また、前記スイッチ制御部は、前記モータの回転数が所定回転数範囲内であるときには、前記スイッチをオンで保持するものとしてもよい。前記所定回転数範囲は、前記コモンモード電流のピーク値が所定値以下になる範囲や、モータのシャフト電圧のピーク値が所定値以下になる範囲であるものとしてもよい。さらに、前記コモンモード電流検出部は、前記モータと前記インバータとを接続する三相電力ラインを包囲する磁性体部と、前記磁性体部に巻回された巻線とを有するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例としての駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】本発明の一実施例としての駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。
【
図3】駆動装置20が備えるコモンモード電流調節部40の構成の概略を示す構成図である。
【
図4】比較例の駆動装置20Bの構成の概略を示す構図である。
【
図5】所定期間におけるモータ22のシャフト電圧の各周波数成分の一例を示す説明図である。
【
図6】モータ22の相電圧およびシャフト電圧とスイッチ44の状態とインバータ30の出力側のコモンモード電流との様子の一例を示す説明図である。
【
図7】所定期間におけるモータ22のシャフト電圧の各周波数成分の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例0013】
図1および
図2は、本発明の一実施例としての駆動装置20の構成の概略を示す構成図であり、
図3は、駆動装置20が備えるコモンモード電流調節部40の構成の概略を示す構成図である。なお、
図1では、コモンモード電流調節部40の図示を省略した。実施例の駆動装置20は、電気自動車やハイブリッド車に搭載され、
図1や
図2に示すように、モータ22と、インバータ30と、直流電源としてのバッテリ34と、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)39と、コモンモード電流調節部40とを備える。
【0014】
モータ22は、同期発電電動機として構成されており、ステータコアに三相巻線22u,22v,22wが巻回されたステータ22sと、ロータコアに永久磁石が埋め込まれたロータ22rとを有する。ロータ22rは、シャフト23に固定されており、シャフト23は、ベアリングBrを介して金属製のケース60により回転自在に支持されており、ケース60は、金属製の車体62に固定されている。ステータ22sの三相巻線22u,22v,22wとロータ22rとの間には、寄生容量24u,24v,24wを有し、三相巻線22u,22v,22wの中性点とケース60や車体62などによる接地としての基準電位部64との間には、寄生容量25を有し、シャフト23と基準電位部64との間には、寄生容量26を有する。寄生容量26は、主として、ベアリングBrにより形成されている。
【0015】
インバータ30は、モータ22の三相巻線22u,22v,22wに電力ライン28u,28v,28wを介して接続されていると共にバッテリ34に正極側電力ライン32pおよび負極側電力ライン32nを介して接続されている。インバータ30は、6個のスイッチング素子S11~S16と、6個のスイッチング素子S11~S16のそれぞれに並列に接続された6個のダイオードD11~D16とを有する。スイッチング素子S11~S16は、例えばIGBTとして構成されており、それぞれ、正極側電力ライン32pおよび負極側電力ライン32nに対してソース側とシンク側になるように2個ずつペアで配置されている。また、スイッチング素子S11~S16の対となるスイッチング素子の接続点の各々には、モータ22の三相巻線22u,22v,22wの各々が接続されている。このインバータ30は、スイッチング素子S11~S16のスイッチングにより、バッテリ34からの直流電力を三相交流電力に変換してモータ22(三相巻線22u,22v,22w)に供給する。これにより、回転磁界が形成され、モータ22(ロータ22r)が回転駆動される。正極側電力ライン32pおよび負極側電力ライン32nは、それぞれ寄生インダクタンスを有する。
【0016】
バッテリ34は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、上述したように、正極側電力ライン32pおよび負極側電力ライン32nを介してインバータ30に接続されている。バッテリ34の正極端子と基準電位部64との間には、寄生容量35を有し、バッテリ34の負極端子と基準電位部64との間には、寄生容量36を有する。
【0017】
ECU39は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。ECU39には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。ECU39に入力される信号としては、例えば、モータ22のロータ22r(シャフト23)の回転位置を検出する回転位置センサ(例えばレゾルバ)23aからの回転位置θmや、モータ22の各相の電流を検出する電流センサ23u,23vからの相電流Iu,Ivを挙げることができる。ECU39からは、インバータ30のスイッチング素子S11~S16へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。ECU39は、回転位置センサ23aからのモータ22のロータ22r(シャフト23)の回転位置θmに基づいてモータ22の電気角θeや回転数Nmを演算している。
【0018】
コモンモード電流調節部40は、
図2や
図3に示すように、コンデンサ41,42と、抵抗素子43と、スイッチ44と、コモンモード電流検出部46と、スイッチ制御部50とを備える。コンデンサ41の一方の端子は、正極側電力ライン32pに接続されており、コンデンサ42の一方の端子は、負極側電力ライン32nに接続されており、コンデンサ41の他方の端子とコンデンサ42の他方の端子とは、互いに接続されている。抵抗素子43の一方の端子は、コンデンサ41,42の互いの接続点に接続されており、抵抗素子43の他方の端子は、基準電位部64に接続されている。スイッチ44は、例えばMOSFETやIGBTとして構成されており、コンデンサ41,42の互いの接続点と基準電位部64とに対して抵抗素子43に並列に接続されている。
【0019】
コモンモード電流検出部46は、
図3に示すように、磁性体により形成されると共に電力ライン28u,28v,28wを包囲する環状(例えば、矩形環状)の環状部47と、環状部47に巻回される巻線48とを有する。巻線48の一方の端子は、スイッチ制御部50のダイオード51に接続されており、他方の端子は、基準電位部64に接続されている。電力ライン28u,28v,28wを1次側、巻線48を2次側として考えることができる。コモンモード電流検出部46では、インバータ30のスイッチング素子S11~S16のスイッチングに伴って発生するコモンモード電流が電力ライン28u,28v,28wに流れるときに、環状部47に磁界が形成され、巻線48の両端子間に電圧が発生する。
【0020】
スイッチ制御部50は、
図3に示すように、ダイオード51と、コンデンサ52と、抵抗素子53と、コンパレータ54と、抵抗素子55とを備える。ダイオード51のアノードは、コモンモード電流検出部46の巻線48の一方の端子に接続されており、ダイオード51のカソードは、コンパレータ54の入力端子に接続されている。コンデンサ52および抵抗素子53は、ダイオード51のカソードおよびコンパレータ54の入力端子と、基準電位部64および巻線48の他方の端子とに対して、互いに並列に接続されている。コンパレータ54は、ダイオード51やコンデンサ52、抵抗素子53に接続される第1入力端子と、閾値電位が入力される第2入力端子と、抵抗素子55を介してスイッチ44に接続される出力端子とを有する。このコンパレータ54は、スイッチ44がオンのときに、スイッチング素子S11~S16のスイッチングに伴って発生するコモンモード電流により巻線48の両端子間の電圧が高くなって、第1入力端子の電位(ダイオード51やコンデンサ52、抵抗素子53側の電位)が第2入力端子の電位(閾値電位)以上に至ると、出力端子の電位をLo電位とすることによりスイッチ44をオフとする。このとき、コンデンサ52に電荷が蓄えられる。その後に、巻線48の両端子間の電圧が低下すると共にコンデンサ52の電荷が放電され、第1入力端子の電位が第2入力端子の電位未満に至ると、出力端子の電位をHi電位とすることによりスイッチ44をオンとする。このようにして、スイッチ44がオンオフする。閾値電位は、コモンモード電流調節部40の仕様などに基づいて適宜調節される。
【0021】
次に、こうして構成された実施例の駆動装置20の動作について説明する。
図4は、比較例の駆動装置20Bの構成の概略を示す構図である。比較例の駆動装置20Bは、コモンモード電流調節部40を備えない点で、実施例の駆動装置20とは異なる。最初に、実施例および比較例の駆動装置20,20Bにおけるインバータ30の制御について説明する。実施例および比較例において、ECU39は、モータ22の電気角θeを用いてモータ22のU相、V相の電流Iu,Ivをd軸およびq軸の電流Id,Iqに座標変換(3相-2相変換)すると共に、モータ22のトルク指令Tm*に基づいてd軸およびq軸の電流指令Id*,Iq*を設定する。続いて、d軸およびq軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*との差分が打ち消されるようにd軸およびq軸の電圧指令Vd*,Vq*を設定し、モータ22の電気角θeを用いてd軸およびq軸の電圧指令Vd*,Vq*をU相、V相、W相の電圧指令Vu、Vv*,Vw*に座標変換(2相-3相変換)する。そして、U相、V相、W相の電圧指令Vu、Vv*,Vw*と三角波(搬送波)とを用いてインバータ30のスイッチング素子S11~S16のPWM信号を生成し、生成したスイッチング素子S11~S16のPWM信号を用いてスイッチング素子S11~S16のスイッチング制御を行なう。
【0022】
比較例の駆動装置20Bでは、インバータ30のスイッチング素子S11~S16のスイッチングに伴って発生するコモンモード電流は、三相電力ライン28u,28v,28w、モータ22の三相巻線22u,22v,22wに流れ、中性点、寄生容量25の経路と、寄生容量24u,24v,24w、ロータ22r、シャフト23、寄生容量26の経路と、に分散して流れて基準電位部64に至る。そして、寄生容量35,36、バッテリ34、正極側電力ライン32pおよび負極側電力ライン32nを介してインバータ30に戻る。このコモンモード電流の伝搬経路に含まれる静電容量成分および寄生容量成分により、伝搬経路の共振周波数で、インバータ30の出力側でコモンモード電流の比較的大きいピーク値が発生し、同様に、モータ22のシャフト電圧(接地すなわち基準電位部64の電位に対するシャフト23の電位)にも比較的大きいピーク値が発生してしまう。
【0023】
これに対して、実施例の駆動装置20では、コモンモード電流調節部40のスイッチ44がオフのときには、基準電位部64のコモンモード電流は、寄生容量35,36、バッテリ34、正極側電力ライン32pおよび負極側電力ライン32nの経路と、抵抗素子43、コンデンサ41,42、正極側電力ライン32pおよび負極側電力ライン32nの経路と、に分散して流れてインバータ30に戻る。コモンモード電流の一部が抵抗素子43を流れて減衰されることにより、コモンモード電流の共振の鋭さ(Q値)を小さくすることができる。この結果、コモンモード電流のピーク値や、モータ22のシャフト電圧のピーク値を抑制することができる。
【0024】
図5は、所定期間におけるモータ22のシャフト電圧の各周波数成分の一例を示す説明図である。
図5は、発明者らによる解析結果の一例であり、所定期間をインバータ30の制御におけるPWM信号(三角波)の1周期とし、横軸を線形軸とすると共に縦軸を対数軸とした。
図5中、実線は実施例の駆動装置20でスイッチ44をオフで保持したときの結果を示し、破線は比較例の駆動装置20Bの結果を示す。図示するように、周波数が値f1付近で、比較例ではモータ22のシャフト電圧のピーク値(極大値)が発生しているのに対し、実施例ではモータ22のシャフト電圧のピーク値を抑制できていることが解る。ここで、周波数f1は、上述の伝搬経路の共振周波数に相当する。
【0025】
また、実施例の駆動装置20では、スイッチ44がオンのときには、基準電位部64のコモンモード電流のうち、コンデンサ41,42を流れる割合を大きくし、寄生容量35,36を流れる割合を小さくすることができる。この結果、コモンモード電流がバッテリ34側に流れる程度を低減することができる。
【0026】
図6は、モータ22の相電圧およびシャフト電圧とスイッチ44の状態とインバータ30の出力側のコモンモード電流との様子の一例を示す説明図である。
図6中、モータ22の相電圧については、実施例および比較例の様子が共通であり、モータ22のシャフト電圧およびインバータ30の出力側のコモンモード電流については、実線が実施例の様子を示すと共に点線が比較例の様子を示し、スイッチ44の状態については実施例の様子のみである。比較例では、インバータ30のスイッチング素子S11,S14のスイッチングによってモータ22のU相の相電圧が低下したときに、これに伴ってインバータ30の出力側のコモンモード電流が比較的大きく変動して(コモンモード電流の共振が発生して)モータ22のシャフト電圧が比較的大きく変動し、その後にコモンモード電流やシャフト電圧が収束している。発明者らは、解析により、コモンモード電流の共振周波数付近で、コモンモード電流やシャフト電圧の変動が顕著に大きくなることを確認した。これに対して、実施例では、モータ22のU相の相電圧が低下したときに、これに伴ってインバータ30の出力側のコモンモード電流が負側に大きくなる(コモンモード電流の共振が発生する)と、スイッチ44がオフになり、基準電位部64のコモンモード電流の一部が抵抗素子43を流れて減衰されることにより、コモンモード電流が大きく変動するのを抑制し、モータ22のシャフト電圧が大きく変動するのを抑制することができる。その後に、コモンモード電流が収束する頃に、スイッチ44がオンになる。したがって、コモンモード電流の共振期間についてはスイッチ44をオフとし、共振期間以外についてはスイッチ44をオンとしていると考えることもできる。
【0027】
以上説明した実施例の駆動装置20では、一方の端子が正極側電力ライン32pに接続されたコンデンサ41と、一方の端子が負極側電力ライン32nに接続されると共に他方の端子がコンデンサ41の他方の端子に接続されたコンデンサ42と、コンデンサ41,42の接続点と基準電位部64とに接続された抵抗素子43とを備える。これにより、コモンモード電流の一部が抵抗素子43を流れて減衰されることにより、コモンモード電流の共振の鋭さ(Q値)を小さくすることができる。この結果、コモンモード電流のピーク値や、モータ22のシャフト電圧のピーク値を抑制することができる。
【0028】
実施例の駆動装置20では、スイッチ制御部50は、モータ22の回転数Nmに拘わらずに、コモンモード電流検出部46からの信号に基づいてスイッチ44をオンオフするものとした。しかし、モータ22の回転数Nmが閾値Nmref以上であるときには、コモンモード電流検出部46からの信号に基づいてスイッチ44をオンオフし、モータ22の回転数Nmが閾値Nmref未満であるときには、スイッチ44をオンで保持するものとしてもよい。
図7は、上述の所定期間におけるモータ22のシャフト電圧の各周波数成分の一例を示す説明図である。
図7は、実施例の駆動装置20でスイッチ44をオフで保持したときの発明者らによる解析結果の一例であり、所定期間をインバータ30の制御におけるPWM信号(三角波)の1周期とし、横軸を線形軸とすると共に縦軸を対数軸とした。
図7中、実線はモータ22の回転数Nmが値Nm1のときの結果を示し、破線はモータ22の回転数Nmが値Nm1よりも低い値Nm2のときの結果を示す。図示するように、モータ22の回転数Nmが低いときに高いときに比して、モータ22のシャフト電圧の各周波数成分が小さくなっていることが解る。これは、モータ22の回転数Nmが低いほど、寄生容量26の容量値が大きくなって、シャフト23と基準電位部64との間のインピーダンスが小さくなり、シャフト電圧が低くなりやすいためであると考えられる。これを踏まえて、この変形例では、モータ22の回転数Nmが閾値Nmref未満であるときには、スイッチ44をオンで保持するものとした。これにより、コモンモード電流がバッテリ34側に流れる程度を低減することができる。閾値Nmrefとしては、例えば、コモンモード電流のピーク値が所定値以下になる回転数範囲の上限値や、モータ22のシャフト電圧のピーク値が所定値以下になる回転数範囲の上限値などが用いられる。
【0029】
実施例の駆動装置20では、コモンモード電流調節部40は、コンデンサ41,42と抵抗素子43とスイッチ44とコモンモード電流検出部46とスイッチ制御部50とを備えるものとした。しかし、コモンモード電流調節部40は、コンデンサ41,42と抵抗素子43とを備えるものであればよく、スイッチ44とコモンモード電流検出部46とスイッチ制御部50とを備えないものとしてもよい。
【0030】
実施例の駆動装置20では、スイッチ制御部50を、ダイオード51とコンデンサ52と抵抗素子53とコンパレータ54と抵抗素子55とを含んでハード構成により実現するものとした。しかし、スイッチ制御部50は、コモンモード電流検出部46からの信号に基づいてスイッチ44をオンオフするものであればよく、ソフトウェアがインストールされたマイクロコンピュータ(マイコン)や、ASICなどにより実現するものとしてもよい。
【0031】
実施例の駆動装置20では、スイッチング素子S11~S16のスイッチングによりバッテリ34からの直流電力を三相交流電力に変換してモータ22(三相巻線22u,22v,22w)に供給するインバータ30を備えるものとした。しかし、これに加えて、バッテリ34からの電力を昇圧してインバータ30に供給可能な昇圧コンバータを更に備えるものとしてもよい。
【0032】
実施例の駆動装置20では、直流電源として、バッテリ34を備えるものとしたが、これに代えて、キャパシタを備えるものとしてもよい。
【0033】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ22が「モータ」に相当し、バッテリ34が「直流電源」に相当し、インバータ30が「インバータ」に相当し、コンデンサ41が「第1コンデンサ」に相当し、コンデンサ42が「第2コンデンサ」に相当し、抵抗素子43が「抵抗素子」に相当する。スイッチ44が「スイッチ」に相当し、スイッチ制御部50が「スイッチ制御部」に相当する。コモンモード電流検出部46が「コモンモード電流検出部」に相当する。
【0034】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0035】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
20,20B 駆動装置、22 モータ、22r ロータ、22s ステータ、22u,22v,22w 三相巻線、23 シャフト、23a 回転位置センサ、23u,23v 電流センサ、24 インバータ、24u,24v,24w,25,26,35,36 寄生容量、28u,28v,28w 電力ライン、30 インバータ、32n 負極側電力ライン、32p 正極側電力ライン、34 バッテリ、38 抵抗素子、39 ECU、40 コモンモード電流調節部、41,42 コンデンサ、43 抵抗素子、44 スイッチ、46 コモンモード電流検出部、47 環状部、48 巻線、50 スイッチ制御部、51 ダイオード、52 コンデンサ、53,55 抵抗素子、54 コンパレータ、60 ケース、62 車体、64 基準電位部。