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特開2023-31518追尾装置、追尾システム、追尾方法および追尾方法のプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031518
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】追尾装置、追尾システム、追尾方法および追尾方法のプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/66 20060101AFI20230302BHJP
   G01S 3/808 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
G01S15/66
G01S3/808
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137048
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 学
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AB11
5J083AC29
5J083AC40
5J083AD18
5J083BC02
5J083BE58
5J083BE60
5J083CA07
5J083CA10
5J083CA12
(57)【要約】
【課題】複数の追尾対象を、正しく追尾することができる追尾装置などを得る。
【解決手段】複数の追尾対象に係る信号による尤度関数に基づいて、複数の追尾対象に対応する複数の追尾部は、それぞれ、対応する追尾対象の方位における方位変化率を推定する方位変化率推定値を算出する方位変化率推定部509と、方位変化率推定値に基づいて、方位変化率に基づく方位変化率重みを生成する重み生成部510と、方位変化率重みを尤度関数に重畳した重み尤度関数を生成する重み付与部502と、重み尤度関数から事後確率分布を生成する処理を行うベイズ推定計算部503と、事前確率分布を生成する処理を行うマルコフ更新部507と、事後確率分布に基づいて、追尾対象を検出する処理を行う検出判定部504と、追尾対象にID番号を付与するID付与部505と、事後確率分布に基づいて、追尾対象の方位を推定する方位推定部506とを有するものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の追尾対象に係る信号を観測した観測値データから尤度を算出し、方位に基づく尤度関数を生成する処理を行う尤度生成部と、
前記尤度関数に基づいて、複数の前記追尾対象のうち、1の前記追尾対象に対応して、前記追尾対象の有無および方位をそれぞれ判定する複数の追尾部とを有するデータ処理装置を備え、
各々の前記追尾部は、
対応する前記追尾対象の方位における方位変化率を推定する方位変化率推定処理を行って方位変化率推定値を算出する方位変化率推定部と、
前記方位変化率推定値に基づいて、前記方位変化率に基づく重み付けを行う方位変化率重みを生成する重み生成部と、
前記方位変化率重みを前記尤度関数に重畳した重み尤度関数を生成する重み付与部と、
前記重み尤度関数から事後確率分布を生成する処理を行うベイズ推定計算部と、
事前確率分布を生成する処理を行うマルコフ更新部と、
前記事後確率分布に基づいて、前記追尾対象の有無を判定して前記追尾対象を検出する処理を行う検出判定部と、
前記検出判定部が検出した前記追尾対象にID番号を付与するID付与部と、
前記事後確率分布に基づいて、前記追尾対象の方位を推定して推定方位を算出する方位推定部と
を有する追尾装置。
【請求項2】
前記方位変化率推定部は、前記マルコフ更新部が生成した前記事前確率分布に基づいて前記方位変化率推定処理を行う請求項1に記載の追尾装置。
【請求項3】
前記方位変化率推定部は、前記ベイズ推定計算部が生成した前記事後確率分布に基づいて前記方位変化率推定処理を行う請求項1に記載の追尾装置。
【請求項4】
前記重み生成部は、前記方位推定部が推定した前記推定方位および前記方位変化率推定部が推定した前記方位変化率推定値の時系列に係るデータから、前記方位変化率重みを生成する請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の追尾装置。
【請求項5】
各々の前記追尾部は、
前記尤度生成部が生成した前記尤度関数から最大の前記尤度を最大尤度として抽出するピーク尤度抽出部と、
あらかじめ設定された設定周期分の前記最大尤度の平均を算出し、前記ベイズ推定計算部の処理に用いる適用尤度および前記適用尤度に対応する適用方位を計算する適用尤度再計算部と、
前記適用尤度および前記適用方位に基づいて、前記尤度関数を再生成する尤度関数再生成部と
を備える請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の追尾装置。
【請求項6】
前記適用尤度再計算部は、前記追尾開始後の一定時間経過後は、前記設定周期分の前記適用尤度の平均を算出し、前記ベイズ推定計算部の処理に用いる前記適用尤度および前記適用尤度に対応する前記適用方位を計算する請求項5に記載の追尾装置。
【請求項7】
複数の受波器および前記受波器が受波した信号をデジタルデータ化した観測値データを生成する信号変換装置を有する受波器アレイと、
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の追尾装置と
を備える追尾システム。
【請求項8】
複数の追尾対象に係る信号を観測した観測値データから算出された方位に係る尤度関数に基づいて、各々の前記追尾対象を追尾する追尾方法であって、
対応する前記追尾対象の方位における方位変化率を推定する方位変化率推定処理を行って方位変化率推定値を算出する工程と、
前記方位変化率推定値に基づいて、前記方位変化率に基づく重み付けを行う方位変化率重みを生成する工程と、
前記方位変化率重みを前記尤度関数に重畳した重み尤度関数を生成する工程と、
前記重み尤度関数から事後確率分布を生成する処理を行う工程と、
事前確率分布を生成する処理を行う工程と、
前記事後確率分布に基づいて、前記追尾対象の有無を判定して前記追尾対象を検出する処理を行う工程と、
検出した前記追尾対象にID番号を付与する工程と、
前記事後確率分布に基づいて、前記追尾対象の方位を推定して推定方位を算出する工程と
を有する追尾方法。
【請求項9】
複数の追尾対象に係る信号を観測した観測値データから算出された方位に係る尤度関数に基づいて、各々の前記追尾対象を追尾する追尾方法のプログラムであって、
対応する前記追尾対象の方位における方位変化率を推定する方位変化率推定処理を行って方位変化率推定値を算出する工程と、
前記方位変化率推定値に基づいて、前記方位変化率に基づく重み付けを行う方位変化率重みを生成する工程と、
前記方位変化率重みを前記尤度関数に重畳した重み尤度関数を生成する工程と、
前記重み尤度関数から事後確率分布を生成する処理を行う工程と、
事前確率分布を生成する処理を行う工程と、
前記事後確率分布に基づいて、前記追尾対象の有無を判定して前記追尾対象を検出する処理を行う工程と、
検出した前記追尾対象にID番号を付与する工程と、
前記事後確率分布に基づいて、前記追尾対象の方位を推定して推定方位を算出する工程と
をコンピュータに行わせる追尾方法のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この技術は、信号に基づいて、追尾対象を追尾する追尾装置、追尾システム、追尾方法および追尾方法のプログラムに関する。特に、複数の追尾対象の追尾に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、雑音が存在する環境において、追尾対象となる物体などが発する信号などに基づいて、状態量空間に対し、追尾対象が存在する状態量を推定し、推定に基づく追尾を行う追尾装置が知られている。追尾装置は、たとえば、追尾対象が放射する音波を信号として、音波の到来方向および周波数の時間変化などを推定する処理を行って追尾を行う。追尾対象が存在する状態量は、音波の到来方向および音波の周波数などに対応する(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】R.E.Bethel and G.J.Paras,“A PDF Multitarget Tracker”,IEEE Transactions on Aerospace and Electronic Systems,vol.30,NO.2,April 1994,p.386-403
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
追尾対象が複数あるときは、複数の追尾器がそれぞれの追尾対象を追尾する。ここで、複数の追尾対象における方位が近接している場合、各追尾器は、ある時刻において得られた推定方位がどの追尾対象に対応したものであるかを自動で判断することができなかった。このため、異なる追尾対象を追尾している複数の追尾器が、複数の追尾対象が方位的に交差した後、同じ追尾対象の方位を推定してしまい、追尾する可能性があった。
【0005】
そこで、複数の追尾対象を正しく追尾することができる追尾装置などの実現が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示に係る追尾装置は、複数の追尾対象に係る信号を観測した観測値データから尤度を算出し、方位に基づく尤度関数を生成する処理を行う尤度生成部と、尤度関数に基づいて、複数の追尾対象のうち、1の追尾対象に対応して、追尾対象の有無および方位をそれぞれ判定する複数の追尾部とを有するデータ処理装置を備え、各々の追尾部は、対応する追尾対象の方位における方位変化率を推定する方位変化率推定処理を行って方位変化率推定値を算出する方位変化率推定部と、方位変化率推定値に基づいて、方位変化率に基づく重み付けを行う方位変化率重みを生成する重み生成部と、方位変化率重みを尤度関数に重畳した重み尤度関数を生成する重み付与部と、重み尤度関数から事後確率分布を生成する処理を行うベイズ推定計算部と、事前確率分布を生成する処理を行うマルコフ更新部と、事後確率分布に基づいて、追尾対象の有無を判定して追尾対象を検出する処理を行う検出判定部と、検出判定部が検出した追尾対象にID番号を付与するID付与部と、事後確率分布に基づいて、追尾対象の方位を推定して推定方位値を算出する方位推定部とを有するものである。
【0007】
また、この開示に係る追尾システムは、複数の受波器および受波器が受波した信号をデジタルデータ化した観測値データを生成する信号変換装置を有する受波器アレイと、上記記載の追尾装置とを備えるものである。
【0008】
また、この開示に係る追尾方法は、複数の追尾対象に係る信号を観測した観測値データから算出された方位に係る尤度関数に基づいて、各々の追尾対象を追尾する追尾方法であって、対応する追尾対象の方位における方位変化率を推定する方位変化率推定処理を行って方位変化率推定値を算出する工程と、方位変化率推定値に基づいて、方位変化率に基づく重み付けを行う方位変化率重みを生成する工程と、方位変化率重みを尤度関数に重畳した重み尤度関数を生成する工程と、重み尤度関数から事後確率分布を生成する処理を行う工程と、事前確率分布を生成する処理を行う工程と、事後確率分布に基づいて、追尾対象の有無を判定して追尾対象を検出する処理を行う工程と、検出した追尾対象にID番号を付与する工程と、事後確率分布に基づいて、追尾対象の方位を推定して推定方位値を算出する工程とを有するものである。
【0009】
また、この開示に係る追尾方法のプログラムは、複数の追尾対象に係る信号を観測した観測値データから算出された方位に係る尤度関数に基づいて、各々の追尾対象を追尾する追尾方法のプログラムであって、対応する追尾対象の方位における方位変化率を推定する方位変化率推定処理を行って方位変化率推定値を算出する工程と、方位変化率推定値に基づいて、方位変化率に基づく重み付けを行う方位変化率重みを生成する工程と、方位変化率重みを尤度関数に重畳した重み尤度関数を生成する工程と、重み尤度関数から事後確率分布を生成する処理を行う工程と、事前確率分布を生成する処理を行う工程と、事後確率分布に基づいて、追尾対象の有無を判定して追尾対象を検出する処理を行う工程と、検出した追尾対象にID番号を付与する工程と、事後確率分布に基づいて、追尾対象の方位を推定して推定方位値を算出する工程とをコンピュータに行わせるものである。
【発明の効果】
【0010】
この開示によれば、方位変化率推定部が算出した方位変化率推定値に基づいて、重み生成部が方位変化率重みを生成する。そして、重み付与部が方位変化率重みを尤度関数に重畳し、方位の変化に係る方位変化率に基づく重み付けを行った重み尤度関数に基づいて、ベイズ推定計算部が事後確率分布の算出などを行って、検出判定部および方位推定部が追尾対象の検出および方位を推定する。このため、方位の変化を含む確率分布を算出することができ、複数の追尾対象を正しく追尾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る追尾装置100を中心とする追尾システムの構成を示す図である。
図2】実施の形態1に係る追尾部500の構成を示す図である。
図3】実施の形態1におけるマスク処理部501がマスク処理に用いるマスクの一例を示す図である。
図4】実施の形態1に係る重み生成部510の重み処理について説明する図である。
図5】実施の形態1に係るデータ処理装置110における処理の流れの一例を説明する図である。
図6】2つの目標における方位が交差する状況を示す図である。
図7】複数の目標が交差するときの、各追尾部500によって追尾する目標における方位の時間推移の一例を示す図である。
図8】誤追尾が生じたときの各追尾部500におけるマスク尤度関数lm,i (θ)を示す図である。
図9】実施の形態1に係る効果を説明する図である。
図10】実施の形態2に係る追尾部500の構成を示す図である。
図11】実施の形態3に係る追尾部500の構成を示す図である。
図12】実施の形態3におけるピーク尤度抽出部512の処理について説明する図である。
図13】実施の形態3における適用尤度再計算部513の処理について説明する図である。
図14】実施の形態3における尤度関数再生成部514が処理した再生成尤度関数について説明する図である。
図15】実施の形態3の追尾装置100の効果を説明する図である。
図16】実施の形態4に係る追尾部500の構成を示す図である。
図17】実施の形態4の追尾装置100の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態に係る追尾装置などについて、図面などを参照しながら説明する。以下の図面において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、以下に記載する実施の形態の全文において共通することとする。また、図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。そして、明細書全文に表わされている構成要素の形態は、あくまでも例示であって、明細書に記載された形態に限定するものではない。明細書に記載された機器がすべて含まれていなくてもよい場合がある。特に構成要素の組み合わせは、各実施の形態における組み合わせのみに限定するものではなく、他の実施の形態に記載した構成要素を別の実施の形態に適用することができる。また、添字で区別などしている複数の同種の機器などについて、特に区別したり、特定したりする必要がない場合には、符号、添字などを省略して記載する場合がある。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る追尾装置100を中心とする追尾システムの構成を示す図である。実施の形態1における追尾システムの説明においては、追尾対象となる目標の追尾に用いる信号として、音波による音波信号を例に説明する。ここで、以下では、音源となる追尾対象を目標として表す。音波信号には、目標から得られる音響信号となる音波の他に、雑音となる音波も含まれる。ここで、実施の形態1の追尾システムは、音源となる2つの目標Aおよび目標Bを追尾する場合を想定して説明する。
【0014】
実施の形態1における追尾システムは、追尾装置100、マイクアレイ200および通信線300を備える。図1に示すように、マイクアレイ200は、受波した音波信号を電気信号に変換する複数のマイク210-1~マイク210-nを、列状など任意の形状に配列させた受波器アレイである。また、マイクアレイ200は、信号変換装置220および信号送信装置230を有する。信号変換装置220は、各マイク210が受波した音波信号を、周期的にサンプリング処理および符号化処理などを行って、デジタルデータ化した処理対象データである観測値データに変換し、データの生成処理を行う。信号送信装置230は、観測値データを含む信号を送信する。
【0015】
通信線300は、マイクアレイ200と追尾装置100との間を通信接続する線である。ここで、通信線300は、専用線として通信を行うものとするが、これに限定するものではない。たとえば、一般的に用いられている電気通信回線を介して、マイクアレイ200から追尾装置100に信号を送るようにしてもよい。また、通信線300は、有線または無線でもよい。
【0016】
追尾装置100は、観測値データに基づいて、対象の追尾に係る処理を行う装置である。実施の形態1における追尾装置100は、データ処理装置110、記憶装置120、信号入力装置130および信号出力装置140を有する。信号入力装置130は、通信線300を介してマイクアレイ200から送られる信号に基づいて、信号内のデータをデータ処理装置110が処理できる観測値データに変換処理する。また、信号出力装置140は、データ処および検出判定結果のデータを含む信号を生成して外部の装置(図示せず)に送信処理する。ここで、実施の形態1においては、追尾装置100が、信号入力装置130および信号出力装置140を有しているが、追尾装置100以外の装置が有していてもよい。
【0017】
また、実施の形態1における追尾装置100が備える記憶装置120は、データ処理装置110が処理に用いるデータを、一時的または長期的に記憶する。ここで、後述するように、データ処理装置110は複数の追尾部500を有している。ここでは、記憶装置120は、複数の追尾部500におけるデータ、パラメータなどをまとめて記憶しておくものとする。ただし、これに限定するものではない。追尾部500毎に独立して記憶装置120を備えてもよい。ここで、各追尾部500がそれぞれ処理を行うために必要とするデータ、パラメータなどに係る値が異なる場合がある。
【0018】
実施の形態1の追尾装置100が備えるデータ処理装置110は、音波信号に係る観測値データに基づいて、複数の目標における推定方位θおよび各目標に付されたID番号のデータを生成処理する。データ処理装置110は、尤度生成部400および、複数の追尾部500を有する。図1では、データ処理装置110は、2つの追尾部500-1および追尾部500-2を有する。各追尾部500は、基本的に同じ構成および同じ処理を行う。データ処理装置110内の各部は、演算、判定などの処理を行って、データ処理装置110の処理における各種データの生成などを行う。
【0019】
ここで、追尾装置100のデータ処理装置110は、通常、たとえば、CPU(Central Processing Unit)を中心とするコンピュータなどの制御演算処理を行う装置で構成されている。そして、通常、データ処理装置110は、各部が行う信号処理方法の手順を、あらかじめプログラム化したものを実行して、各部の処理を実現する。ここで、たとえば、記憶装置120が、プログラムのデータを有する。ただし、これに限定するものではなく、各部を別個に専用機器(ハードウェア)で構成してもよい。
【0020】
また、記憶装置120は、データを一時的に記憶できるランダムアクセスメモリ(RAM)などの揮発性記憶装置(図示せず)およびハードディスクドライブなどの不揮発性の補助記憶装置(図示せず)を有する。不揮発性の補助記憶装置は、ソリッドステートドライブ、データを長期的に記憶できるフラッシュメモリなどでもよい。ここで、追尾装置100は、データ処理装置110および記憶装置120の各部の処理を実行するハードウェアが異なる位置に配置され、各部が通信を行って、追尾装置100としての処理動作を行う構成であってもよい。また、追尾部500は、追尾器として独立した装置であってもよい。
【0021】
尤度生成部400は、マイクアレイ200が受波した音波信号に係る観測値データに基づき、複数の方位における尤度を生成し、方位θをパラメータ変数とする尤度関数l(θ)を算出する。ここで、tは、時刻(t=1,2,…)を表すものとし、時刻tから時刻t+1の間はデータ処理装置110の処理周期となる。そして、実施の形態1の追尾装置100は、ある時刻tにおける観測値データを処理する場合について説明する。尤度生成部400は、たとえば、ビームフォーミングにより、複数の方位に対して同時に指向性を形成する。そして、尤度生成部400は、各方位における音のパワー値を並べて処理し、得られたデータを、尤度関数l(θ)とする。ここでは、尤度生成部400は、ビームフォーミングを用いた尤度関数l(θ)のデータを生成するものとするが、これに限定するものではない。たとえば、音源となる目標方位の分布を仮定することで、目標の瞬時的な推定方位θの周辺に係る尤度関数l(θ)を計算するなどして、尤度関数l(θ)を生成する他の技術を利用することが可能である。
【0022】
図2は、実施の形態1に係る追尾部500の構成を示す図である。各追尾部500は、尤度生成部400が生成した尤度関数l(θ)に基づいて、それぞれ対応する目標の推定方位θおよびID番号をデータとして生成処理する。実施の形態1における各追尾部500は、マスク処理部501、重み付与部502、ベイズ推定計算部503、マルコフ更新部507、マスク生成部508、検出判定部504、ID付与部505、方位変化率推定部509、重み生成部510および方位推定部506を有する。
【0023】
図3は、実施の形態1におけるマスク処理部501がマスク処理に用いるマスクの一例を示す図である。マスク処理部501は、尤度生成部400が生成した尤度関数l(θ)に、後述するマスク生成部508が生成した図3(a)のようなマスクを重畳するマスク処理を行って、マスク尤度関数lm,i (θ)を生成する。ここで、iは、追尾部500を区別する番号である。マスク処理は、図3(b)のような尤度関数l(θ)に対し、図3(c)に示すように、特定の範囲(方幅θmask)の方位における尤度以外の尤度を抑制する処理である。ここで、マスク処理部501は、後述するマスク記憶部522に記憶された、後述するマスク生成部508が時刻tよりも1周期前となる時刻t-1に生成したマスクを用いて処理を行う。時刻t=1における処理の際にマスク処理部501が用いるマスクの初期値は、あらかじめ設定されていない場合は、たとえば、マスクによって方位と尤度との関係が変化しないように、全ての方位について、たとえば1などの同じ値を重畳する。一方、あらかじめ方位などが設定されている場合は、マスクの初期値は、事前に設定されたマスクに基づく値にする。マスク尤度関数lm,i (θ)は、重み付与部502が行う処理において、データとして用いられる。
【0024】
重み付与部502は、マスク処理部501がマスク処理して生成したマスク尤度関数lm,i (θ)に、後述する重み生成部510が生成した方位変化率重みw(θ’)を重畳する重み付け処理を行って、重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)を生成する。重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)は、ベイズ推定計算部503が行う処理において、データとして用いられる。ここで、θ’は、方位変化率を表す。重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)は、方位θと方位変化率θ’とをパラメータ(変数)とするベクトルとなる。
【0025】
ベイズ推定計算部503は、重み付与部502の処理に係る重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)および後述するマルコフ更新部507の処理に係る事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)に基づいて演算処理を行い、事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)を算出する。また、ベイズ推定計算部503は、目標の判定および方位推定用に、事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)を方位θ毎に方位変化率方向に加算した方位事後確率分布Pposterior,i (θ)を算出する。ベイズ推定計算部503が生成した事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)は、マルコフ更新部507が行う処理において、データとして用いられる。また、ベイズ推定計算部503が生成した方位事後確率分布Pposterior,i (θ)は、方位推定部506および検出判定部504が行う処理において、データとして用いられる。
【0026】
ベイズ推定計算部503が演算処理の際に用いる事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)は、後述する事前確率バッファ部521が記憶する、時刻tよりも1周期前(時刻t-1)における事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)である。ここで、時刻t=1における処理の際にベイズ推定計算部503が用いる事前確率分布Pprior,i 1|0(θ)の初期値は、一般に、あらかじめ設定されていない場合は、対象とする全ての方位θおよび方位変化率θ’について、事前確率分布における状態空間の刻み数をNgとしたときに、1/Ngとして、等確率となる値にする。一方、あらかじめ設定されている場合は、事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)の初期値は、事前設定に基づく任意の分布となる値にする。
【0027】
検出判定部504は、ベイズ推定計算部503が算出した事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)に基づいて、音源となる目標の有無を判定する判定処理を行う。
【0028】
ID付与部505は、検出判定部504が判定した目標にID番号を付与する処理を行う。ここで、連続して検出判定部504が目標ありと判定している間は、ID付与部505は、同じID番号の付与を続ける。また、目標なしと判定していた検出判定部504が目標ありと判定したときは、ID付与部505は、新たなID番号を付与する。ID番号は、数字、文字、記号など、識別できるものであればよい。
【0029】
マルコフ更新部507は、ベイズ推定計算部503が算出した事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)に基づいて、時刻tにおける事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ,θ’)を算出する。マルコフ更新部507が算出した事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ,θ’)は、マスク生成部508および方位変化率推定部509の処理において用いられる。また、事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ,θ’)は、後述する事前確率バッファ部521に記憶される。事前確率バッファ部521に記憶された事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ,θ’)は、ベイズ推定計算部503において、時刻tの1周期後(時刻t+1)の処理において、1周期前(時刻t)における事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)として用いられる。
【0030】
マスク生成部508は、重み付き平均での方位θの期待値計算、事前確率が最大となる方位θt+1|tを推定などし、時刻t+1における目標の方位θを推定する。そして、マスク生成部508は、推定した方位θt+1|tに基づき、時刻t+1における方位を基準とする方幅θmaskにおいては、ある値(たとえば、1)を設定し、それ以外の方位には、ある値よりも低い値(たとえば、0)を設定したマスクを生成する。マスク生成部508が生成したマスクのデータは、後述するマスク記憶部522に記憶され、次周期において、マスク処理部501が行うマスク処理に用いられる。
【0031】
方位変化率推定部509は、対象とする目標に対して方位変化率θ’を推定した方位変化率推定値θ’を算出する方位変化率推定処理を行う。
【0032】
重み生成部510は、方位変化率推定部509が処理した方位変化率推定値θ’および調整パラメータ記憶部524に記憶された設定調整パラメータσ θsetに基づいて、次周期(時刻t+1)の処理で用いる方位変化率重みw(θ’)を算出する。重み生成部510が生成した方位変化率重みw(θ’)のデータは、重み記憶部523に記憶され、次周期において、重み付与部502が行う重み付け処理に用いられる。
【0033】
そして、方位推定部506は、ベイズ推定計算部503が演算処理して生成した事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)に基づき、音響信号が発せられる音源(目標)の方位を推定した推定方位θを算出する方位推定処理を行う。ここで、方位推定部506が行う方位推定処理は、MAP推定、重み付き平均などの技術を利用して行われる処理である。
【0034】
また、追尾部500において、処理に必要なデータは記憶装置120に記憶される。ここでは、特に、事前確率バッファ部521、マスク記憶部522、重み記憶部523および調整パラメータ記憶部524に、対応するデータが記憶されるものとする。ここで、事前確率バッファ部521、マスク記憶部522、重み記憶部523および調整パラメータ記憶部524は、記憶装置120が有しているが、説明の都合上、以下においては、追尾部500の一部として説明する。
【0035】
事前確率バッファ部521は、マルコフ更新部507が演算した時刻tにおける事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ)を1周期分記憶する。前述したように、事前確率バッファ部521に記憶された事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ,θ’)は、時刻t+1における追尾装置100の処理に事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)として用いられる。
【0036】
マスク記憶部522は、マスク生成部508が生成したマスクを1周期分記憶する。マスク記憶部522に記憶されたマスクは、時刻t+1におけるマスク処理部501のマスク処理に用いられる。
【0037】
重み記憶部523は、重み生成部510が生成した方位変化率重みw(θ’)を1周期分記憶する。重み記憶部523に記憶された方位変化率重みw(θ’)は、時刻t+1における重み付与部502の処理に用いられる。
【0038】
また、調整パラメータ記憶部524は、あらかじめ設定された設定調整パラメータσ θsetをデータとして記憶する。設定調整パラメータσ θsetは、重み生成部510の1周期前における処理により得られた方位変化率重みw(θ’)の方位変化率θ’の方向の広がりを調整するパラメータである。ここで、設定調整パラメータσ θsetを小さい設定にすると、2つの目標が交差する方位における方位変化率θ’の区別を、より容易に行うことができる。しかし、各目標の方位変化率θ’に関する推定精度は低下する。そこで、設定調整パラメータσ θsetは、方位変化率θ’と方位変化率θ’の推定精度とのトレードオフを考慮して、事前にパラメータの値が設定される。たとえば、2つの目標の方位変化率θ’について区別する能力を重視する場合には、事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)および事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)における方位変化率θ’の刻み幅で設定調整パラメータσ θsetを設定する。
【0039】
次に、実施の形態1における追尾装置100が備えるデータ処理装置110の処理について説明する。ここでは、主として時刻tにおける追尾部500の処理について説明する。ここで、追尾対象とする目標を異ならせるため、マスク処理部501が用いるマスクの初期値が異なるが、各追尾部500において同じ処理が行われる。まず、時刻tに用いられる時刻t-1における方位変化率推定部509および重み生成部510における処理について先に説明する。
【0040】
方位変化率推定部509は、マルコフ更新部507の処理により得られた事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)を方位方向に加算して方位変化率θ’に関する方位変化率事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ’)を計算する。そして、方位変化率推定部509は、方位変化率事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ’)について、重み付き平均での方位変化率θ’の期待値計算による推定処理または事前確率が最大となる方位変化率θ’の推定処理を行って、時刻tにおける方位変化率推定値θ’を算出する。ここで、方位変化率推定部509は、方位変化率事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ’)を計算して方位変化率推定値θ’を算出したが、これに限定するものではない。事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)に関して、方位θおよび方位変化率θ’の空間で、重み付き平均での方位変化率θ’の期待値計算による推定処理または事前確率が最大となる方位変化率θ’の推定処理を行って方位変化率推定値θ’を算出してもよい。
【0041】
図4は、実施の形態1に係る重み生成部510の重み処理について説明する図である。重み生成部510は、方位変化率推定部509が処理した方位変化率θ’および調整パラメータ記憶部524に記憶された設定調整パラメータσ θsetに基づいて、(1)式で表される方位変化率重みw(θ’)を算出する重み処理を行う。重み生成部510は、(1)式に基づく演算を行うことにより、図4に示すように、方位変化率θ’に応じて値が異なる方位変化率重みw(θ’)を生成する。
【0042】
【数1】
【0043】
図5は、実施の形態1に係るデータ処理装置110における処理の流れの一例を説明する図である。主として、尤度生成部400が生成した尤度関数l(θ)に基づく各追尾部500の処理について説明する。尤度生成部400は、マイクアレイ200が受波した音響信号に係る観測値データに基づき、前述したように、複数の方位における尤度を生成し、尤度関数l(θ)を算出し、生成する(ステップS0)。
【0044】
マスク処理部501は、尤度生成部400が生成した尤度関数l(θ)に、マスク記憶部522に記憶されたマスクに基づいて、マスク尤度関数lm,i (θ)を生成する(ステップS1)。
【0045】
重み付与部502は、マスク処理部501がマスク処理して生成したマスク尤度関数lm,i (θ)と重み生成部510が生成した方位変化率重みw(θ’)とを用いて、(2)式に基づく演算を行い、重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)を生成する(ステップS2)。
【0046】
【数2】
【0047】
ここで、方位変化率重みw(θ’)は方位変化率θ’に関するベクトルである。また、マスク尤度関数lm,i (θ)は、方位θに関するベクトルである。(2)式では、方位変化率θ’と方位θとに関するすべてのベクトルの要素の組み合わせを乗算した結果が、行列である重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)となる。
【0048】
ベイズ推定計算部503は、重み付与部502の処理に係る重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)および事前確率バッファ部521に記憶された事前確率分布Pprior,i t|t-1(θ,θ’)を用いて、(3)式により事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)を算出する。また、ベイズ推定計算部503は、(4)式により、事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)を方位θ毎に方位変化率方向に加算した方位事後確率分布Pposterior,i (θ)を算出する(ステップS3)。
【0049】
【数3】
【0050】
【数4】
【0051】
検出判定部504は、ベイズ推定計算部503の処理により得られた方位事後確率分布Pposterior,i (θ)に基づいて、音源となる目標の有無を判定する判定処理を行う(ステップS4)。そして、ID付与部505は、検出判定部504が判定した目標に対して、ID番号を付与する処理を行う(ステップS5)。
【0052】
また、方位推定部506は、ベイズ推定計算部503の処理により得られた方位事後確率分布Pposterior,i (θ)に基づいて、音響信号が発せられる音源(目標)の方位を推定した推定方位θを生成する(ステップS6)。
【0053】
ここで、検出判定部504および方位推定部506は、ベイズ推定計算部503が事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)から算出した方位事後確率分布Pposterior,it(θ)に基づいて処理を行ったが、これに限定するものではない。検出判定部504および方位推定部506は、ベイズ推定計算部503が算出した事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)に関して、方位θおよび方位変化率θ’の空間で、ピークを検出するなどして、処理を行ってもよい。
【0054】
次に、マルコフ更新部507の処理について説明する。マルコフ更新部507は、ベイズ推定計算部503の処理により得られた事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)に基づいて、時刻tにおける事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ,θ’)を算出し、生成する(ステップS7)。事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ,θ’)は、事前確率バッファ部521に記憶される。
【0055】
また、方位変化率推定部509は、前述したように、マルコフ更新部507の処理により得られた事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ,θ’)を方位方向に加算して、方位変化率θ’に関する方位変化率事前確率分布Pprior,i t+1|t(θ’)を計算する(ステップS8)。
【0056】
そして、重み生成部510は、方位変化率推定部509が処理した方位変化率θ’および調整パラメータ記憶部524に記憶された設定調整パラメータσ θsetに基づいて、重み処理を行い、方位変化率重みw(θ’)を生成する(ステップS9)。
【0057】
図6は、2つの目標における方位が交差する状況を示す図である。図6に示すように、マイクアレイ200の位置から見たときに、音源となる2つの目標は、それぞれ相対する方向に移動する。
【0058】
図7は、複数の目標が交差するときの、各追尾部500によって追尾する目標における方位の時間推移の一例を示す図である。図7(a)は、目標を正しく追尾できているときの各追尾部500による目標の推定方位θを示す。また、図7(b)は、誤追尾が生じたときの各追尾部500による目標の推定方位θを示す。図7に示すaは別々の方位に離れた目標Aと目標Bとが徐々に近づいていく状況である。また、bは、2つの目標で方位的にすれ違って、2つの目標の方位が重っている状況である。そして、cの状況は、すれ違った後に、2つの目標が徐々に離れていく状況である。
【0059】
図8は、誤追尾が生じたときの各追尾部500におけるマスク尤度関数lm,i (θ)を示す図である。図8(a)は、図7(a)におけるa状況での追尾部500-1および追尾部500-2におけるマスク尤度関数lm,i (θ)を示す。図8(b)は、図7(a)におけるbの状況での追尾部500-1および追尾部500-2におけるマスク尤度関数lm,i (θ)を示す。図8(c)は、図7(a)におけるcの状況での追尾部500-1および追尾部500-2におけるマスク尤度関数lm,i (θ)を示す。図8(a)に示すように、目標が離れた状態であれば、マスク尤度関数lm,i (θ)において、各目標によるピークとなる尤度の方位はそれぞれ異なる。一方、図8(b)におけるマスク尤度関数lm,i (θ)については、2つの目標の尤度が含まれ、尤度のピークを1つに抑制できないことになる。
【0060】
ベイズ推定計算部503が、図8(b)のマスク尤度関数lm,i (θ)に基づく処理を行うと、結果として、追尾部500-2における事後確率分布におけるピークは、目標Aの位置となる。その事後確率分布を用いて処理を行うマルコフ更新部507が算出する事前確率分布も、目標Aでピークを有することになる。この結果、図7(b)に示すように、目標が交差した後、追尾部500-2は、目標Bではなく、追尾部500-1と同じ目標Aの追尾を始めることになる。
【0061】
図9は、実施の形態1に係る効果を説明する図である。実施の形態1の追尾装置100によれば、重み生成部510が方位変化率推定部509により得られた方位変化率推定値θ’から方位変化率重みw(θ’)を算出する。そして、重み付与部502が、方位変化率重みw(θ’)に基いて重み付けを行った重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)を生成する。
【0062】
図9(a)に示すように、図7に示すaの状況においては、目標Aは、正方向に方位が変化する。このため、目標Aを追尾している追尾部500-1における重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)は、正の方位変化率θ’に関する尤度が高くなる。一方、目標Bは負方向に方位が変化する。このため、目標Bを追尾している追尾部500-2における重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)は、負の方位変化率θ’に関する尤度が高くなる。
【0063】
また、図9(b)に示すように、図7に示すbの状況においては、追尾部500-1および追尾部500-2は、ともに、方位θに関して目標Aおよび目標Bの音響信号が合成された重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)が、それぞれの方位変化率θ’に対して生成することになる。その結果、各追尾部500においてベイズ推定計算部503の処理に係る事後確率分布Pposterior,i (θ,θ’)も、目標Aおよび目標Bに係るそれぞれの方位変化率θ’を反映したものになる。
【0064】
そして、図7に示すcの状況においては、目標Aと目標Bとは、時間とともに方位θが離れる。このため、図9(c)に示すように、各追尾部500における重み尤度関数Lw,i (θ,θ’)は、追尾している目標の方位θおよび方位変化率θ’を反映したものとなる。したがって、実施の形態1における追尾システムの追尾装置100は、複数の目標が交差するような場合においても、複数の目標を正確に追尾することができる。
【0065】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2に係る追尾部500の構成を示す図である。図10において、マスク処理部501、重み付与部502、ベイズ推定計算部503、マルコフ更新部507、マスク生成部508、検出判定部504、ID付与部505および方位変化率推定部509については、実施の形態1で説明したことと同様の処理などを行う。
【0066】
ここで、実施の形態2の追尾装置100においては、方位推定部506が推定処理して得られた推定方位θは、信号出力されるだけでなく、後述する推定方位バッファ部526にデータとして記憶される。また、重み生成部510は、後述する誤差標準偏差計算部511が処理して得られた誤差標準偏差σθおよび調整パラメータ記憶部524に記憶された調整パラメータkに基づいて、次周期(時刻t+1)の処理で用いる方位変化率重みw(θ’)を算出する。そして、実施の形態2において、調整パラメータ記憶部524が記憶する調整パラメータkは、方位変化率θ’に関する誤差標準偏差σθを、方位変化率重みw(θ’)の広がりに反映する度合いを調整するパラメータである。
【0067】
また、図10に示すように、実施の形態2においては追尾装置100の各追尾部500は、誤差標準偏差計算部511を有する。また、実施の形態2の追尾装置100は、推定方位変化率バッファ部525および推定方位バッファ部526を記憶装置120に有する。
【0068】
推定方位変化率バッファ部525は、方位変化率推定部509が処理して得られた方位変化率θ’を、データとして1周期分記憶する。ここで、推定方位変化率バッファ部525は、時刻t-Tθ+1から時刻tまでのTθ周期分の方位変化率θ’をデータとして記憶する。
【0069】
また、推定方位バッファ部526は、方位推定部506の方位推定処理により得られた推定方位θをデータとして記憶する。ここで、推定方位バッファ部526は、時刻t-Tθから時刻tまでのTθ+1周期分の推定方位θをデータとして記憶する。
【0070】
誤差標準偏差計算部511は、推定方位バッファ部526に記憶された推定方位θおよび推定方位変化率バッファ部525に記憶された方位変化率θ’を用いて、(5)式および(6)式に基づく演算処理を行い、方位変化率θ’に関する誤差標準偏差σθ’を算出する。ここで、(6)式におけるΔTprocは、推定方位θを算出する時間周期である。誤差標準偏差計算部511は、(6)式により、単位時間あたりの方位変化の大きさである方位変化率θ’を計算することになる。
【0071】
【数5】
【0072】
【数6】
【0073】
重み生成部510は、(7)式に基づいて演算処理を行い、方位変化率重みw(θ’)を生成する。方位変化率重みw(θ’)のデータは、重み記憶部523に記憶され、次周期において、方位変化率重みw(θ’)として、重み付与部502が行う重み付け処理に用いられる。
【0074】
【数7】
【0075】
たとえば、実施の形態1の追尾装置100においては、重み生成部510は、調整パラメータ記憶部524に記憶された設定調整パラメータσ θsetにより、方位変化率θ’に関する方位変化率重みw(θ’)の広がりを決定する。ここで、設定調整パラメータσ θsetにより、方位変化率重みw(θ’)の広がりが小さくなるように設定すると、ある時刻における追尾装置100の処理の際に、方位変化率推定値θ’が目標の方位変化率θ’が実際と大きく異なってしまうと、その後の計算における方位変化率θ’が正しくなくなる可能性がある。一方で、方位変化率重みw(θ’)の広がりが大きくなるように設定すると、複数の目標を方位変化率θ’で区別しにくくなり、複数の目標が交差する際に、正しく追尾することができない可能性がある。
【0076】
一方、実施の形態2の追尾装置100においては、方位変化率θ’の推定値と音源となる目標の実際の方位変化率θ’の差異の大きさと調整パラメータkとの積に応じて、方位変化率θ’に関する方位変化率重みw(θ’)を自動的に調整することができる。具体的には、方位変化率θ’の推定値と目標の実際の方位変化率θ’の差異が大きくなるほど、方位変化率θ’に関する方位変化率重みw(θ’)は広くなり、方位変化率θ’の推定値と目標の実際の方位変化率θ’の差異が小さくなるほど、方位変化率θ’に関する方位変化率重みw(θ’)は狭くなるように自動的に調整することができる。その結果として、方位変化率θ’を高精度の推定および複数の目標の正確な追尾を行うことができる。
【0077】
実施の形態3.
図11は、実施の形態3に係る追尾部500の構成を示す図である。図11において、図10と同じ符号を付しているものについては、実施の形態1および実施の形態2で説明したことと同様の処理などを行う。
【0078】
図11に示すように、実施の形態3における追尾装置100の追尾部500は、ピーク尤度抽出部512、適用尤度再計算部513、尤度関数再生成部514を有する。また、また、実施の形態3の追尾部500は、最大尤度バッファ部527および方位尤度幅パラメータ記憶部528を記憶装置120に有する。
【0079】
最大尤度バッファ部527は、後述するピーク尤度抽出部512が抽出して得られた最大尤度lpeakを、設定分(時刻t-Tlmaxから時刻tまでのTlmax分)、データとして記憶する。また、方位尤度幅パラメータ記憶部528は、方位尤度幅パラメータをデータとして記憶する。方位尤度幅パラメータは、ベイズ推定計算部503で用いる尤度の方位方向における広がりを調整するパラメータである。
【0080】
ピーク尤度抽出部512は、マスク処理部501が生成したマスク尤度関数lm,i (θ)のうち、最大の尤度である最大尤度lpeakを抽出し、ピーク尤度が抽出された方位θを最大方位θpeakとする処理を行う。ピーク尤度抽出部512が抽出した最大尤度lpeakは、適用尤度再計算部513が行う処理において、データとして用いられる。また、ピーク尤度抽出部512が抽出した最大尤度lpeakは、最大尤度バッファ部527にデータとして記憶される。
【0081】
適用尤度再計算部513は、最大尤度バッファ部527が記憶する設定分の最大尤度lpeakおよびピーク尤度抽出部512の処理により得られた最大尤度lpeakおよび最大方位θpeakに基づいて処理を行い、ベイズ推定計算部503で用いる適用尤度と適用尤度に対応する方適用位とを生成する。
【0082】
尤度関数再生成部514は、適用尤度再計算部513が処理して得られた適用尤度と適用方位および方位尤度幅パラメータ記憶部528が記憶する方位尤度幅パラメータに基づき、尤度関数を再度計算して、再生成尤度関数を生成する。
【0083】
次に、実施の形態3の追尾装置100における追尾部500の処理についてさらに説明する。ここでは、特に、ピーク尤度抽出部512、適用尤度再計算部513および尤度関数再生成部514の処理について説明する。
【0084】
ピーク尤度抽出部512は、(8)式に基づいて、最大尤度lpeakおよび最大方位θpeakを生成する。ここで、関数findpeaksは、最大となるピーク(極大値)を検出する関数である。[lpeak,i ,θpeak,i ]は、最大尤度lpeakおよび最大尤度lpeakに対応した最大方位θpeakが降順に格納される。そして、ピーク尤度抽出部512は、[lpeak,i ,θpeak,i ]のうち、ピークとなる最大尤度lpeakを、最大尤度バッファ部527にデータとして記憶する。
【0085】
【数8】
【0086】
図12は、実施の形態3におけるピーク尤度抽出部512の処理について説明する図である。図12(a)は、複数の目標(ここでは2つ)が図7のaに示す状態であるときの、それぞれの目標を追尾する追尾部500におけるマスク尤度関数lm,i (θ)と最大尤度lpeakとの関係を示す。図12(a)に示すように、2つの目標の方位が離れていれば、追尾部500-1のピーク尤度抽出部512は、目標Aからの音響信号に係るピークとなる最大尤度lpeak,1 (A)を抽出する。また、追尾部500-2のピーク尤度抽出部512は、目標Bからの音響信号に係るピークとなる最大尤度lpeak,2 (B)を抽出する。そして、各追尾部500の抽出により得られた最大尤度lpeakは、それぞれ最大尤度バッファ部527にデータとして記憶される。
【0087】
一方、図12(b)は、複数の目標が図7のbに示す状態であるときの、それぞれの目標を追尾する追尾部500におけるマスク尤度関数lm,i (θ)と最大尤度lpeakとの関係を示す。図12(b)に示すように、2つの目標の方位が近接していれば、追尾部500-1は、2つの目標からの音響信号に係る最大尤度lpeak,1 (A)および最大尤度lpeak,1 (B)を抽出する。また、追尾部500-2も、最大尤度lpeak,2 (A)および最大尤度lpeak,2 (B)を抽出する。
【0088】
次に、適用尤度再計算部513は、最大尤度バッファ部527が記憶する設定分の最大尤度lpeakおよびピーク尤度抽出部512の処理により得られた最大尤度lpeakおよび最大方位θpeakに基づいて処理を行う。まず、適用尤度再計算部513は、(9)式に基づいて、設定周期分であるTlmax分の最大尤度の平均値μl,i を算出する。
【0089】
【数9】
【0090】
適用尤度再計算部513は、さらに、最大尤度lpeakおよび最大方位θpeak並びに平均値μl,i を用いて、(10)式に基づいて適用尤度lre_aplly,i および(11)式に基づいて適用方位θre_aplly,i を算出する。ここで、(10)式および(11)式におけるipeak.apply,iは、(12)式で表される。
【0091】
【数10】
【0092】
【数11】
【0093】
【数12】
【0094】
図13は、実施の形態3における適用尤度再計算部513の処理について説明する図である。図13の上側に示すように、たとえば、追尾部500-1の適用尤度再計算部513は、最大尤度バッファ部527が記憶する設定時刻分の時系列による最大尤度lpeakに基づいて、最大尤度lpeak,1 (A)および最大尤度lpeak,1 (B)のうち、最大尤度lpeak,1 (A)および最大尤度lpeak,1 (A)に対応する最大方位θpeakを生成することができる。
【0095】
一方、図13の下側に示すように、追尾部500-2の適用尤度再計算部513は、最大尤度バッファ部527が記憶する設定時刻分の最大尤度に基づいて、最大尤度lpeak,2 (B)および最大尤度lpeak,2 (B)に対応する最大方位θpeakを生成することができる。
【0096】
このように、適用尤度再計算部513は、マスク尤度関数lm,i (θ)における最大尤度の大きさではなく、最大尤度バッファ部527が記憶する過去の最大尤度に近い方の最大尤度lpeakおよび最大方位θpeakを生成する。結果的に、図13(b)において、追尾部500-1の適用尤度再計算部513は、[lpeak,1 ,θpeak,1 ]を再計算し、追尾部500-2の適用尤度再計算部513は、[lpeak,2 ,θpeak,2 ]を再計算する。
【0097】
図14は、実施の形態3における尤度関数再生成部514が処理した再生成尤度関数について説明する図である。図14(a)は、マスク尤度関数を示す。図14(b)は、再生成尤度関数を示す。尤度関数再生成部514は、適用尤度再計算部513の処理により得られた適用尤度および適用尤度に対応する適用方位および方位尤度幅パラメータ記憶部528が記憶する方位尤度幅パラメータを用いて、(13)式に基づいて計算して再生成尤度関数lre,i (θ)を生成する。
【0098】
【数13】
【0099】
重み付与部502は、適用尤度再計算部513の処理により得られた再生成尤度関数および重み生成部510の処理により得られた方位変化率重みw(θ’)を用いて、(14)式に基づいて重畳する重み付け処理を行って、重み尤度関数Lre_w,i (θ,θ’)を生成する。ここで、w(θ’)は、方位変化率θ’に関するベクトルである。また、lre,i (θ)lre,i (θ)は、方位θに関するベクトルである。重み付与部502は、(14)式に基づいて、すべてのθとθ’との組合せについて乗算し、その結果を要素とする行列として配列する。
【0100】
【数14】
【0101】
以上のように、実施の形態3における追尾装置100によれば、ピーク尤度抽出部512が抽出した最大尤度lpeakのデータを、最大尤度バッファ部527が設定分記憶する。また、適用尤度再計算部513が、適用尤度を生成する。そして、尤度関数再生成部514が、適用尤度に基づいて、再生成尤度関数を生成する。したがって、各追尾部500は、マスク尤度関数lm,i (θ)による瞬時の尤度でベイズ推定を行うのではなく、過去の最大尤度lpeakの分布から追尾対象の目標の尤度として尤もらしい尤度のピークを適用尤度とし、再生成した再生成尤度関数によりベイズ推定を行う。これにより、図7(b)に示す複数の目標が交差した直後のように、目標の方位が近接する状況において、マスク尤度関数lm,i (θ)では区別できずに合成されてしまう複数の目標による最大尤度lpeakから、たとえば、追尾部500-1は、図14に示すように、本来の追尾対象である目標Aに対する尤度の関数を生成することができる。
【0102】
図15は、実施の形態3の追尾装置100の効果を説明する図である。実施の形態3の追尾装置100においては、図15に示すように、各追尾部500は、追尾対象となる目標のそれぞれの方位、方位変化率に対応した尤度関数に基づく処理を行うことができる。その結果として、複数の目標が交差する状況を含む追尾における追尾能力を向上させることができる。
【0103】
実施の形態4.
図16は、実施の形態4に係る追尾部500の構成を示す図である。図16において、図11などと同じ符号を付しているものについては、実施の形態1~実施の形態3で説明したことと同様の処理などを行う。
【0104】
図16に示すように、実施の形態4における追尾装置100の追尾部500は、実施の形態3の最大尤度バッファ部527の代わりに、適用尤度バッファ部529を記憶装置120に有する。適用尤度バッファ部529は、適用尤度再計算部513の処理により得られた適用尤度を、設定分(時刻t-Tlapplyから時刻tまでのTlapply分)、データとして記憶する。ここで、適用尤度バッファ部529は、目標の追尾開始をしてから一定時間までの間は、ピーク尤度抽出部512が抽出して得られた最大尤度lpeakをデータとして記憶し、一定時間経過後は、適用尤度をデータとして記憶していく。
【0105】
次に、実施の形態3の追尾部500の処理についてさらに説明する。ここでは、特に、適用尤度再計算部513の処理を中心に説明する。適用尤度再計算部513は、適用尤度バッファ部529が記憶する設定分の最大尤度lpeakおよびピーク尤度抽出部512の処理により得られた最大尤度lpeakおよび最大方位θpeakに基づいて処理を行う。まず、適用尤度再計算部513は、(15)式に基づいて、Tlapply分の最大尤度lpeakの平均値μlapply,i を算出する。
【0106】
【数15】
【0107】
適用尤度再計算部513は、さらに、最大尤度lpeakおよび最大方位θpeak並びに平均値μtを用いて、前述した(10)式に基づいて適用尤度および(11)式に基づいて適用方位を算出する。ここで、実施の形態4において、(10)式および(11)式におけるipeak.apply,iは、(16)式で表される。
【0108】
【数16】
【0109】
適用尤度再計算部513は、目標の追尾開始をしてから一定時間経過後に、適用尤度バッファ部529に処理した適用尤度をデータとして記憶する。
【0110】
図17は、実施の形態4の追尾装置100の効果を説明する図である。まず、実施の形態3のように、最大尤度lpeakが最大尤度バッファ部527に記憶される場合について説明する。複数の目標において、方位θが近接する状況にある場合、図17(a)のように、目標Bに係る処理を行っている追尾部500-2の最大尤度バッファ部527においても、目標Aに係る最大尤度lpeak,2 (A)が記憶されることになる。この結果、2つの目標が近接する時間が長くなると、2つの目標が交差した後、追尾部500-2の処理には、目標Aに係る尤度が処理に用いられ、目標Bの正確な方位推定などの妨げとなる可能性がある。
【0111】
そこで、実施の形態4の追尾装置100は、適用尤度バッファ部529に適用尤度をデータとして記憶するようにした。このため、適用尤度再計算部513で再計算して得られた適用尤度を適用尤度バッファ部529に記憶することで、適用尤度再計算部513の計算に用いるデータに、異なる目標に係る尤度のデータが含まれなくなる。このため、図17(b)のように、たとえば、追尾部500-2が追尾していない目標Aに係る尤度に基づいて、適用尤度再計算部513が適用尤度を再計算することを防止することができる。その結果として、複数の目標が交差する状況を含む追尾における追尾能力をさらに向上させることができる。
【0112】
実施の形態5.
上述した実施の形態1および実施の形態2の追尾装置100においては、方位変化率推定部509は、マルコフ更新部507が算出した事前確率分布Pprior,it+1|t(θ)に基づいて処理を行ったが、これに限定するものではない。方位変化率推定部509は、ベイズ推定計算部503が算出した事後確率分布Pposteriort(θ)に基づいて処理を行ってもよい。
【0113】
実施の形態1および実施の形態2において説明した重み生成部510について、実施の形態1における(2)式および実施の形態2における(8)式ではガウス分布にしたがった形状を用いるものとしたが、これに限定するものではない。ガウス分布に限らず、事前に想定できる分布であれば適用することができる。また、推定方位バッファ部526に記憶された推定方位θの時間差分によって得られた方位変化率に基づいて、方位変化率の分布を推定し、適用することもできる。
【0114】
また、実施の形態3における方位尤度幅パラメータ記憶部528の方位尤度幅パラメータはあらかじめ設定されるパラメータであるものとしたが、これに限定するものではない。たとえば、ピーク尤度抽出部512の処理により得られた最大方位θpeakのばらつきから方位尤度幅パラメータを設定して、方位尤度幅パラメータとしてもよい。
【0115】
上述の実施の形態1~実施の形態4では、データ処理装置110は、2つの追尾部500を有し、2つの目標を追尾するものとしたが、これに限定するものではない。追尾部500の数を増やすことで、3以上の目標の追尾に対応することができる。
【0116】
上述の実施の形態1~実施の形態4における追尾装置100は、マイクアレイ200のマイク210が受波した音波信号に基づいて目標を追尾した。ここで、マイクアレイ200は、パッシブソーナーに搭載されることを想定するものであったが、これに限定するものはない。音波を放射し、目標から反射した音波を音響信号とするアクティブソーナーにおいても、適用することができる。また、RADER(Radio Detecting and Ranging)、LIDAR(Light Detection and Ranging)などにより得られた信号にも適用することができる。
【符号の説明】
【0117】
100 追尾装置
110 データ処理装置
120 記憶装置
130 信号入力装置
140 信号出力装置
200 マイクアレイ
210,210-1~210-n マイク
220 信号変換装置
230 信号送信装置
300 通信線
400 尤度生成部
500,500-1,500-2 追尾部
501 マスク処理部
502 重み付与部
503 ベイズ推定計算部
504 検出判定部
505 ID付与部
506 方位推定部
507 マルコフ更新部
508 マスク生成部
509 方位変化率推定部
510 重み生成部
511 誤差標準偏差計算部
512 ピーク尤度抽出部
513 適用尤度再計算部
514 尤度関数再生成部
521 事前確率バッファ部
522 マスク記憶部
523 重み記憶部
524 調整パラメータ記憶部
525 推定方位変化率バッファ部
526 推定方位バッファ部
527 最大尤度バッファ部
528 方位尤度幅パラメータ記憶部
529 適用尤度バッファ部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17