(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031623
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】タイル剥離検知器
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20230302BHJP
G01H 11/08 20060101ALI20230302BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230302BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
G01N29/24
G01H11/08
E04G23/02 A
G01N29/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137233
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】國見 敬
(72)【発明者】
【氏名】井▲崎▼ 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大典
(72)【発明者】
【氏名】西井 朋也
(72)【発明者】
【氏名】岸本 豪太
【テーマコード(参考)】
2E176
2G047
2G064
【Fターム(参考)】
2E176BB01
2E176BB05
2E176BB38
2G047AA09
2G047AA10
2G047AB04
2G047BA03
2G047BB04
2G047BC09
2G047CA01
2G047EA12
2G047GA01
2G047GB12
2G047GB23
2G047GF06
2G047GG12
2G064AB22
2G064BA07
2G064BA08
2G064BA21
2G064BD18
2G064BD62
2G064DD23
(57)【要約】
【課題】タイル剥離の検査時間を短縮する。
【解決手段】タイル剥離検知器60は、加振用圧電振動板により振動発生用電気信号から発生させた振動をタイルTへ加える加振センサ10Aと、タイルTから加振センサ10Aにより加えられた振動を受け、この振動を受振用圧電振動板により受振電気信号へ変換する受振センサ10Bと、加振センサ10A及び受振センサ10Bが固定されるベース部と、振動発生用電気信号を加振センサ10Aへ印加する振動入力部66と、受振センサ10Bから受ける受振電気信号を解析する解析部74とを含み、加振センサ10Aと受振センサ10Bとの少なくとも一方がベース部に複数固定されている。これにより、加振センサ10Aと複数の受振センサ10Bとの間や、複数の加振センサ10Aと受振センサ10Bとの間を同時に検査することができ、タイルT剥離の検査時間を短縮することができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に利用されているタイルの剥離を検知するタイル剥離検知器であって、
振動発生用電気信号を受けて振動を発生する加振用圧電振動板を有し、該加振用圧電振動板により発生させた振動を前記タイルへ加える加振センサと、
受振用圧電振動板を有し、前記タイルから前記加振センサにより加えられた振動を受けて、該振動を前記受振用圧電振動板によって受振電気信号へと変換する受振センサと、
前記加振センサ及び前記受振センサが固定されるベース部と、
前記振動発生用電気信号を前記加振センサへ印加する振動入力部と、
前記受振センサから受ける前記受振電気信号を解析する解析部と、を含み、
前記加振センサと前記受振センサとの少なくとも一方が、前記ベース部に複数固定されていることを特徴とするタイル剥離検知器。
【請求項2】
前記振動入力部は、前記振動発生用電気信号として、単発のパルス波を繰り返し印加するものであることを特徴とする請求項1記載のタイル剥離検知器。
【請求項3】
前記振動入力部は、前記パルス波として正弦半波を印加するものであることを特徴とする請求項2記載のタイル剥離検知器。
【請求項4】
前記加振センサと前記受振センサとの一方のセンサが、前記ベース部の平面視での中央近傍に1つ固定され、前記加振センサと前記受振センサとの他方のセンサが、前記一方のセンサを囲むようにして前記ベース部に複数固定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のタイル剥離検知器。
【請求項5】
前記加振センサと前記受振センサとの双方が、ダンパ部材を介して前記ベース部に固定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のタイル剥離検知器。
【請求項6】
前記振動入力部は、前記振動発生用電気信号を発生する信号発生器と、前記振動発生用電気信号を増幅するパワーアンプとを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のタイル剥離検知器。
【請求項7】
前記解析部は、前記受振電気信号を増幅するチャージアンプと、増幅された前記受振電気信号をアナログからデジタルへ変換するAD変換器と、該AD変換器の出力結果をFFT解析するFFT解析部と、を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のタイル剥離検知器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に利用されているセメントモルタル張りや有機系接着張りなどのタイルの剥離を検知するタイル剥離検知器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物のタイルの剥離を検知する方法として、人力による打音診断で検知する方法や、振動を発生する検査装置を利用したものが挙げられる。例えば、振動を発生する従来の検査装置では、2つの振動センサを使用して、一方の振動センサからタイルに加えた振動を他方の振動センサで受け、その振動の伝搬状況を用いてタイルの剥離を検知していた。この際、一方の振動センサでは、周波数がシフトするスウィープ波の電気信号から振動を発生させていた。なお、近年では、光ファイバセンサを利用してタイルの剥離を検知する方法も発案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、振動を発生する従来の検査装置は、2つの振動センサ間に位置するタイルの一部分の剥離を検知するものであるため、検査対象のタイルの大きさや形状に合わせて検査装置の位置や向きを変えながら、1枚のタイルに対して複数回検査を行う必要があり、時間がかかるものであった。更に、スウィープ波の電気信号から振動を発生させているため、振動発生の継続時間を長くして、単位時間当たりの特定周波数の出力エネルギーを増大させることが好ましいが、これも検査時間が長くなる要因になっていた。また、人力による打音診断で検知する方法にも、時間や精度の点において改善の余地がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイル剥離の検査時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)建築物に利用されているタイルの剥離を検知するタイル剥離検知器であって、振動発生用電気信号を受けて振動を発生する加振用圧電振動板を有し、該加振用圧電振動板により発生させた振動を前記タイルへ加える加振センサと、受振用圧電振動板を有し、前記タイルから前記加振センサにより加えられた振動を受けて、該振動を前記受振用圧電振動板によって受振電気信号へと変換する受振センサと、前記加振センサ及び前記受振センサが固定されるベース部と、前記振動発生用電気信号を前記加振センサへ印加する振動入力部と、前記受振センサから受ける前記受振電気信号を解析する解析部と、を含み、前記加振センサと前記受振センサとの少なくとも一方が、前記ベース部に複数固定されているタイル剥離検知器(請求項1)。
【0007】
本項に記載のタイル剥離検知器は、タイルの剥離検査などに用いられるものであって、加振センサ、受振センサ、ベース部、振動入力部、及び解析部を含んでいる。加振センサは、加振用圧電振動板を有しており、振動入力部により印加される振動発生用電気信号から加振用圧電振動板によって振動を発生し、その振動をタイルへ加えるためのものであって、ベース部へ固定される。受振センサは、受振用圧電振動板を有しており、上記のように加振センサによりタイルへ加えられた振動をタイルを介して受けて、タイルから受けた振動を受振用圧電振動板によって受振電気信号へと変換するものであって、加振センサと同様にベース部へ固定される。すなわち、加振センサ及び受振センサは、ベース部に固定された状態で、タイルに対して同時に当接されて使用される。
【0008】
解析部は、受振センサからの受振電気信号、換言すれば、加振センサにより加えられてタイル内を伝搬し、受振センサにより受けられた振動から変換された電気信号を解析するものである。ここで、加振センサからタイルへ加えられた振動は、タイルがその接着先から剥離せずに接着している箇所においては、タイルから接着先へと伝搬するため、受振センサにより受けられる振動エネルギーが大幅に減少する。これに対し、タイルが接着先から剥離している箇所において、加振センサからタイルへ加えられた振動は、接着先へはほとんど伝搬せずにタイル内を伝搬するため、受振センサにより損失が少ない状態で受けられる。解析部では、これらのことを考慮しながら、受振センサから受けた受振電気信号を解析して、タイル剥離の有無の判定などを行う。
【0009】
そして、本項に記載のタイル剥離検知器は、加振センサと受振センサとの少なくとも一方が、ベース部に複数固定されているものである。このため、例えば受振センサが複数固定されている場合は、加振センサからタイルへ加えられた振動が複数の受振センサの各々によって受けられ、それらが個別に解析部により分析される。また、加振センサが複数固定されている場合は、複数の加振センサの各々からタイルへ加えられた振動が受振センサによって受けられ、それらが個別に解析部により分析される。これにより、加振センサと複数の受振センサとの間や、複数の加振センサと受振センサとの間が、同時に検査されることになるため、タイル剥離の検査時間が大幅に短縮されるものである。しかも、加振センサ及び受振センサの数量や配置が、検査対象のタイルの形状や大きさに合わせた数量及び配置に設定されることで、タイル全面が網羅されるため、検査時間が短縮されながら、タイル剥離の判定精度が向上されるものである。更に、タイルの剥離検知と同様の原理で、タイル内を伝搬する振動の変化から、タイルの罅割れを検知するものである。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記振動入力部は、前記振動発生用電気信号として、単発のパルス波を繰り返し印加するものであるタイル剥離検知器(請求項2)。
本項に記載のタイル剥離検知器は、振動入力部から加振センサへ印加される振動発生用電気信号として、単発のパルス波が繰り返し印加されるものである。これにより、スウィープ波の電気信号を印加する場合と異なり、継続時間を長くする必要がなく、また、解析部では適切なタイミングのパルス波による振動を解析すればよいため、検査時間がより一層短縮されるものとなる。
【0011】
(3)上記(2)項において、前記振動入力部は、前記パルス波として正弦半波を印加するものであるタイル剥離検知器(請求項3)。
本項に記載のタイル剥離検知器は、振動入力部から加振センサへ繰り返し印加されるパルス波として、正弦半波(ハーフサイン波)が印加されるものである。ここで、加振センサへ印加されるパルス波には、使用する周波数帯域の中で可能な限り大きな加振力と平坦な周波数特性とが必要になるが、正弦半波は、例えば矩形波パルスや2乗正弦波パルスといった他の形状のパルスと比較して、低駆動電圧及び継続時間の長さの点で有利であり、また、周波数のサンプリング位置による変動が少ないものである。従って、パルス波として正弦半波を利用することで、使用電圧を抑制しながら、タイル剥離の判定精度のより一層の向上を図るものである。
【0012】
(4)上記(1)から(3)項において、前記加振センサと前記受振センサとの一方のセンサが、前記ベース部の平面視での中央近傍に1つ固定され、前記加振センサと前記受振センサとの他方のセンサが、前記一方のセンサを囲むようにして前記ベース部に複数固定されているタイル剥離検知器(請求項4)。
本項に記載のタイル剥離検知器は、タイルへ振動を加えるための加振センサと、タイルから振動を受けるための受振センサとのうち、いずれか一方のセンサが、ベース部の平面視における中央近傍に1つ固定されたものである。更に、加振センサと受振センサとのうち、上記の一方と異なる他方のセンサが、中央近傍に固定された一方のセンサを囲むようにしてベース部に複数固定されている。
【0013】
これにより、ベース部の中央近傍に加振センサが固定される場合は、加振センサからタイルへ加えられた振動が、そのタイルの振動が加えられた部分を囲うような位置で複数の受振センサの各々によって受けられる。また、ベース部の中央近傍に受振センサが固定される場合は、複数の加振センサの各々によってタイルへ加えられた振動が、複数の加振センサに囲われたそれらの中央近傍位置で受振センサによって受けられる。いずれの場合においても、一方のセンサを囲う複数の他方のセンサの配置位置により規定される領域全体が同時に検査されることになるため、効率よくタイル剥離の検査が行われ、更なる時間短縮が期待されるものである。更に、上述した複数の他方のセンサにより規定される領域が、検査対象の1枚のタイル全体を略覆うように、加振センサや受振センサの配置間隔が設定されることで、タイルに対するタイル剥離検知器の位置変えなどが行われる必要なく、1枚のタイルが一度で検査されるため、より効率よく検査が行われるものとなる。
【0014】
(5)上記(1)から(4)項において、前記加振センサと前記受振センサとの双方が、ダンパ部材を介して前記ベース部に固定されているタイル剥離検知器(請求項5)。
本項に記載のタイル剥離検知器は、加振センサ及び受振センサの双方が、ダンパ部材を介してベース部に固定されているものである。ここで、加振センサにより発生された振動は、タイルを経由して受振センサによって受けられるべきものであるが、タイル経由ではなくベース部を伝わって受振センサにより受けられて干渉する虞がある。そこで、上記のようにダンパ部材が使用されることで、加振センサからベース部へ伝わる振動と、ベース部から受振センサへ伝わる振動との双方が抑制されるため、ベース部を介した振動の干渉が防止されるものである。
【0015】
(6)上記(1)から(5)項において、前記振動入力部は、前記振動発生用電気信号を発生する信号発生器と、前記振動発生用電気信号を増幅するパワーアンプとを含むタイル剥離検知器(請求項6)。
本項に記載のタイル剥離検知器は、振動入力部が、振動発生用電気信号を発生する信号発生器と、振動発生用電気信号を増幅するパワーアンプとを含み、信号発生器により発生させてパワーアンプによって増幅させた振動発生用電気信号を、加振センサへ印加するものである。これにより、例えば、複数の加振センサや複数の受振センサがベース部に搭載されることに起因して、従来よりも小型化された加振センサを使用する場合でも、それに対応して小型化された加振用圧電振動板において、検査に必要な大きさの振動が発生し得るレベルの振動発生用電気信号が印加されるものとなる。
【0016】
(7)上記(1)から(6)項において、前記解析部は、前記受振電気信号を増幅するチャージアンプと、増幅された前記受振電気信号をアナログからデジタルへ変換するAD変換器と、該AD変換器の出力結果をFFT解析するFFT解析部と、を含むタイル剥離検知器(請求項7)。
本項に記載のタイル剥離検知器は、解析部が、チャージアンプ、AD変換器、及びFFT解析部を含み、受振センサから受けた受振電気信号を、まずはチャージアンプによって増幅させるものである。ここで、例えば、複数の加振センサや複数の受振センサがベース部に搭載されることに起因して、従来よりも小型化された受振センサを使用する場合に、それに対応して小型化された受振用圧電振動板を使用すると、受振センサから得られる電気信号がレベル不足になることが想定される。そこで、上記のようにチャージアンプが用いられることで、検査に必要なレベルまで受振電気信号が増幅されるものである。そして、チャージアンプにおいて増幅された受振電気信号は、AD変換器においてアナログからデジタルへ変換された後、FFT解析部によりFFT解析される。これにより、受振電気信号が周波数成分に分解され、周波数成分毎の大きさが把握されるため、タイル剥離の有無が精度よく判定されるものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記のような構成であるため、タイル剥離の検査時間を短縮することが可能となる。また、タイルの剥離検知と同様の原理で、タイルの罅割れを検知することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器で使用する加振センサの構造の一例を示すイメージ構造図である。
【
図2】
図1の加振センサの圧電振動板近傍の拡大図である。
【
図3】加振センサの圧電振動板の電気的接続を示すイメージ図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器で使用する受振センサの構造の一例を示すイメージ構造図である。
【
図5】
図4の受振センサの圧電振動板近傍の拡大図である。
【
図6】受振センサの圧電振動板の電気的接続を示すイメージ図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器の構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図8】
図7のタイル剥離検知器の加振センサ及び受振センサの配置例を示す平面図及びイメージ断面図である。
【
図9】
図7のタイル剥離検知器の振動入力部から入力するパルス波の例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1~
図6は、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60で使用する振動センサ10(加振センサ10A、受振センサ10B)の構造を示し、
図7は、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60の構成を概略的に示している。まず、
図1~
図6を参照して、振動センサ10の構造について説明する。
【0020】
図1に示されている振動センサ10は、タイルT(
図7参照)へ振動を加える加振センサ10Aとして使用されるものであって、後述するベース部62へネジ止めなどで固定された状態で図示されている。
図1(a)は加振センサ10Aの平面図、
図1(b)は加振センサ10Aを側方から視て一部を破断したイメージ断面図である。図示のように、加振センサ10Aは、振動伝達子12、圧電振動板18、ケース体32、摺動部材50、スプリング52、第1ダンパ部材54、及び第2ダンパ部材56を含んでいる。
【0021】
ケース体32は、加振センサ10Aの他の構成要素の大部分を収容するものであって、円筒状の壁部40の両開口端に、平面視円形の蓋部34及び底部44がネジ止めなどで接続された構成を有しており、それらで囲まれた収容空間が内部に形成されている。また、蓋部34には振動伝達子12用の突出孔36が、底部44には後述する配線28用などの貫通孔(図示略)が、それぞれ形成されている。ケース体32は、例えば各種の樹脂などで形成され、特に取り付け先のベース部62との間に介在する底部44は、例えばゴムなどの弾性を有する材料で形成されることで、振動センサ10とベース部62との間の振動の伝達を抑制するダンパ部材(第3ダンパ部材)44として機能するようになっている。なお、振動センサ10をベース部62へ固定するための取付ネジを、ベース部62及びケース体32の底部44へのみ挿通させることで、底部44により取付ネジをフローティングしてもよい。また、これに限定されるものではないが、ケース体32の外径は、例えば24mm程度である。
【0022】
振動伝達子12は、
図2にも図示されているように、先端が丸みを帯びた円錐状の先端部14、先端部14の下端に接続された円柱部15、及び円柱部15の下端に接続されて円柱部15より径が大きい円板部16を有し、円板部16を貫通して円柱部15まで延びる円柱状の内部空間が形成されている。加振センサ10Aの振動伝達子12は、その先端部14がタイルTへ当接された状態で、後述するように圧電振動板18により発生された振動をタイルTへ伝達するものである。更に、振動伝達子12は、上記のような形状であることで、圧電振動板18とタイルTとの音響インピーダンスを整合する役割も果たしている。振動伝達子12は、例えば導電性を有する金属などの材料で形成される。
【0023】
また、振動伝達子12は、ケース体32の内部において、後述するようにスプリング52によって
図1(b)における上方へと付勢されており、その円柱部15の一部及び先端部14が、ケース体32の蓋部34に設けられた突出孔36から、ケース体32の外部へと突出している。すなわち、突出孔36は、円柱部15の外径より大きく、且つ、円板部16の外径よりも小さい内径を有している。このような状態で、円板部16の上面と蓋部34の突出孔36の縁部36aとの間には、第2ダンパ部材56が介在している。第2ダンパ部材56は、本実施形態では円板部16側に取り付けられて円柱部15が挿通された環状のものであり、振動伝達子12と共に
図1(b)における上下方向へ移動するようになっている。第2ダンパ部材56は、例えばゴムなどの弾性を有する材料で形成されており、振動伝達子12と蓋部34(ケース体32)との間の振動の伝達を抑制するようになっている。
【0024】
圧電振動板18は、ここでは加振用圧電振動板18とも呼称し、
図2に示すように、2枚の圧電振動板18a、18bが、金属電極板24を挟んで接続された構成を有している。すなわち、
図3も参照して、本実施形態において、2枚の圧電振動板18a、18bは、各々がセラミック板20と金属板22とを有し、双方のセラミック板20側が向かい合わせで、金属電極板24に対して電気的及び物理的に接続されている。また、圧電振動板18aの金属板22と圧電振動板18bの金属板22とが、接続部25を介して電気的に接続されている。なお、2枚の圧電振動板18a、18bの各々には、コスト低減の観点から市販の圧電振動板を使用することが望ましく、また、これに限定されるものではないが、圧電振動板18a、18bの外径は12mm程度である。
【0025】
そして、2本の配線28が、金属電極板24と一方の金属板22(本実施形態では圧電振動板18bの金属板22)とに半田付けなどで接続されることで、2枚の圧電振動板18a、18bのセラミック板20側と金属板22側とに、対となる2つの電位(
図3では「+」「-」と図示)が付加されるようになっている。このとき、金属板22側には、グランド電位が付加される。また、2枚の圧電振動板18a、18bのうち、図中上方に位置する圧電振動板18aの金属板22には、例えばペースト半田やエポキシ系接着剤などにより、振動伝達子12の円板部16が電気的及び物理的に接続されている。このため、振動伝達子12には、一方の配線28及び金属板22を介して、グランド電位が付加されるようになっている。
【0026】
図1及び
図2を参照して、加振用圧電振動板18の図中下側(圧電振動板18b側)には、第1ダンパ部材54が配置されている。本実施形態の第1ダンパ部材54は、
図2に示すように、紙面と直交する方向に2つ割りにされた第1部材54aと、円筒状の第2部材54bとで構成されている。第2部材54bの下方には、円環状のシム57が配置されている。そして、
図2に図示された、振動伝達子12、第2ダンパ部材56、加振用圧電振動板18、第1ダンパ部材54、及びシム57は、
図1に示すように、第1ダンパ部材54及びシム57がカップ状の摺動部材50に収容されることで、摺動部材50を介して、ケース体32の内部を摺動面40aに沿って図中上下方向に摺動可能になっている。
【0027】
また、摺動部材50とケース体32の底部44との間において、スプリング52は、
図2に図示された部材を摺動部材50と共に、図中上方向へと付勢するように設置されている。このため、通常状態において、振動伝達子12は、第2ダンパ部材56を挟んでケース体32の蓋部34へと押し付けられている。また、上述したような位置に配置された第1ダンパ部材54は、例えばゴムなどの弾性を有する材料で形成されることで、圧電振動板18と摺動部材50との間、換言すれば圧電振動板18とケース体32との間の、振動の伝達を抑制するようになっている。
【0028】
上記のような構成の加振センサ10Aは、振動伝達子12の先端部14がタイルTへ当接された状態で、配線28を介して圧電振動板18に振動発生用の電気信号が印加されると、圧電振動板18により振動が発生される。すると、発生した振動が、圧電振動板18に物理的に接続された振動伝達子12を介してタイルTへと伝達され、タイルTへ振動が加えられるものである。ここで、
図1及び
図2を参照して、圧電振動板18へ接続される配線28は、例えば、圧電振動板18から、2つ割りの第1部材54aの割れ目、円筒状の第2部材54bの中心孔、円環状のシム57の中心孔、摺動部材50に設けられた貫通孔、及び底部44に設けられた貫通孔などを通って、ケース体32の内部から外部へとルーティングされる。
【0029】
次に、
図4~
図6に図示された、タイルTから振動を受ける受振センサ10Bとして使用される振動センサ10について説明する。しかしながら、受振センサ10Bは、
図1~
図3に示した加振センサ10Aと、圧電振動板18の構成のみが異なるものである。このため、ここでは圧電振動板18に関する点について説明することとし、加振センサ10Aと同様の構成部分については説明を省略する。
受振センサ10Bの圧電振動板18は、ここでは受振用圧電振動板18とも呼称し、
図5及び
図6に示すように、1枚の圧電振動板18で構成されている。そして、2本の配線28が、その1枚の圧電振動板18のセラミック板20側と金属板22側とに半田付けなどで接続されることで、それらに対となる2つの電位(
図6では「+」「-」と図示)が付加されるようになっている。このとき、金属板22側には、グランド電位が付加される。
【0030】
また、受振用圧電振動板18の金属板22には、例えば銀ペーストとエポキシ系接着剤又は導電性接着剤などにより、振動伝達子12の円板部16が電気的及び物理的に接続されている。このため、振動伝達子12には、一方の配線28及び金属板22を介して、グランド電位が付加される。受振用圧電振動板18の図中下側には、第1ダンパ部材54とシム57とが配置されている。このような構成の受振センサ10Bは、振動伝達子12の先端部14がタイルTへ当接された状態で、タイルTが振動していると、その振動が振動伝達子12へ伝わり、更に振動伝達子12と物理的に接続された圧電振動板18へと伝達される。すると、伝達された振動が、圧電振動板18によって電気信号へと変換され、それが受振電気信号として配線28を介して取り出されるものである。
【0031】
続いて、
図7を参照して、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60について説明する。図示のように、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60は、建築物に利用されているタイルTの剥離を検知するものであり、振動入力部66、複数の振動センサ10、及び解析部74を含んでいる。複数の振動センサ10は、本実施形態では、1つの加振センサ10Aと、6つの受振センサ10Bとを含んでいる。加振センサ10Aは、
図1~
図3に関連して説明したように、振動伝達子12がタイルTへ当接された状態で、タイルTへ振動を加えるためのものであり、受振センサ10Bは、
図4~
図6に関連して説明したように、振動伝達子12がタイルTへ当接された状態で、タイルTから振動を受けるためのものである。
【0032】
上述した複数の振動センサ10は、例えば
図8に示すような位置関係で、板状のベース部62に固定される。すなわち、
図8(b)で確認できるように、1つの加振センサ10Aが、平面視で長方形をなすベース部62の中央近傍に固定され、その加振センサ10Aを囲うようにして、6つの受振センサ10Bが配置されている。より詳しくは、1つ加振センサ10A及び6つの受振センサ10Bが、略等間隔で加振センサ10Aを中心とした千鳥格子状に配置されている。このような配置は、
図8(b)に二点鎖線で示されているような大きさ及び形状のタイルTに適合されたものであり、これに限定されるものではないが、そのタイルTの大きさは例えば95mm×45mmである。これに対応するベース部62の大きさの例として、
図8(b)に示される横幅Wが約130mm、縦幅Dが約95mmである。
【0033】
また、加振センサ10A及び受振センサ10Bの各々は、第3ダンパ部材(ケース体32の底部)44を介して、ネジ止めなどによってベース部62へ固定されている。ベース部62には、その複数の振動センサ10が取り付けられた面とは反対側の面の両端部に、コの字状の2つの把持部材86が取り付けられている。なお、
図8(a)には、
図8(b)における上下方向の中心近傍でのイメージ断面を示し、
図8(c)には、
図8(b)における左右方向の中心近傍でのイメージ断面を示しているが、各振動センサ10の内部の図示は省略している。
【0034】
図7に戻り、振動入力部66は、加振センサ10Aへ振動発生用の電気信号を印加するためのものであって、本実施形態では、信号発生器68及びパワーアンプ70を含んでいる。信号発生器68は、振動発生用の電気信号を発生するものであり、本実施形態ではそのような電気信号として、例えば
図9に示すような正弦半波(ハーフサイン波)90の単発のパルス波を繰り返し発生する。これらに限定されるものではないが、正弦半波90は、例えば周波数が14kHz、出力電圧が10Vp-p、デューティサイクルが80msである。また、パワーアンプ70は、信号発生器68により発生させた電気信号を増幅させるものであって、例えば信号発生器68で10Vp-pの電気信号が発生された場合、それを50Vp-p~100Vp-p程度まで増幅させる。そして、このように増幅された振動発生用の電気信号が、配線28などを介して加振センサ10Aへと印加される。信号発生器68及びパワーアンプ70には、任意の信号発生装置及びパワーアンプを使用してよい。
【0035】
解析部74は、受振センサ10Bの各々から配線28などを介して受ける電気信号を解析するためのものであって、本実施形態では、チャージアンプ76、AD変換器78、FFT解析部80、及び表示部82を含んでいる。チャージアンプ76は、受振センサ10Bから受ける受振電気信号を増幅させるものであって、解析に必要な電圧まで受振電気信号を増幅させる。このとき、ハイパスフィルタを用いて、生活振動などの低い周波数成分を除去するようにしてもよい。また、受振センサ10Bからチャージアンプ76までの経路やチャージアンプ76には、可能な限りのノイズ対策を施すことが好ましい。チャージアンプ76には、多チャンネルの任意のチャージアンプを使用してよい。
【0036】
AD変換器78は、チャージアンプ76によって増幅された受振電気信号を、アナログ信号からデジタル信号へと変換するものであり、後述するFFT解析に必要なサンプリングレート及び分解能で変換を行う。例えば、信号発生器68で周波数14kHzの正弦半波90を発生させていた場合は、40kHz程度でサンプリングを行い、分解能は16bit程度でよい。また、AD変換器78は、複数の受振センサ10Bからの受振電気信号がチャージアンプ76によって増幅された各々の信号をAD変換するため、上記のような性能を有する多チャンネルの任意のAD変換装置が使用される。
【0037】
FFT解析部80は、AD変換器78によってデジタル信号へと変換された受振電気信号をFFT解析するものであって、例えばFFT解析を行うソフトウェアがインストールされた任意のコンピュータで構成される。FFT解析では、AD変換器78からのデジタル信号を高速フーリエ変換により周波数成分に分解し、その結果のピーク周波数及びピーク電圧から、タイルTの剥離状況を推察する。また、FFT解析部80は、複数の受振センサ10Bからの受振電気信号を個別でFFT解析し、各受振センサ10Bと加振センサ10Aとの位置関係を使用して、タイルTで剥離が発生している部分を推定する。このとき、剥離が発生していると推定された位置や度合いなどに応じて、タイルTが健全に接着されているか否かを判定してもよい。表示部82は、FFT解析部80での解析結果などを表示するものであって、任意のディスプレイ装置が使用される。
【0038】
上記のような構成のタイル剥離検知器60は、使用時に、
図8に示されたようにベース部62に固定された複数の振動センサ10が、例えば
図8(b)に二点鎖線で示された位置を目安にしてタイルTへと押し付けられ、全ての振動センサ10の振動伝達子12がタイルTへ当接される。この状態で、振動入力部66の信号発生器68から
図9に示すような正弦半波90が発生され、それがパワーアンプ70によって増幅されて、加振センサ10Aへ印加される。加振センサ10は、印加された電気信号から振動を発生させ、それをタイルTへと加える。すると、タイルTの剥離が発生していない部分では、タイルTの接着先へも振動が伝搬するため、振動エネルギーが小さくなってタイルT内を伝搬し、タイルTの剥離が発生している部分では、タイルTの接着先へ伝搬する振動が小さいため、振動エネルギーの損失が少ない状態でタイルT内を伝搬する。このようにしてタイルT内を伝搬した振動が、各受振センサ10Bによって受けられ、それが電気信号へ変換されて解析部74へ送られる。解析部74では、チャージアンプ76によって複数の振動センサ10からの電気信号が増幅され、それがAD変換器78によってデジタル信号へと変換された後、FFT解析部80によってFFT解析され、タイルT剥離の推定などが行われる。
【0039】
ここで、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60の構成は、
図7の構成に限定されるものではなく、検査対象のタイルTや状況などに応じて、
図7に示した構成要素の一部が削除、変更、ないし適宜追加された構成であってもよい。例えば、複数の振動センサ10は、加振センサ10A及び受振センサ10Bの数量や位置関係が、タイルTの大きさなどに応じて変更されてもよく、一例として、
図8(b)の例における加振センサ10Aと受振センサ10Bとの数量及び位置が入れ替わってもよい。また、加振センサ10A又は受振センサ10Bを囲うようにして、4つや8つの受振センサ10B又は加振センサ10Aが配置されてもよく、加振センサ10Aと受振センサ10Bとの双方が複数含まれていてもよい。
【0040】
更に、加振センサ10Aの配線28の接続先と、受振センサ10Bの配線28の接続先とを入れ替えることで、加振センサ10Aと受振センサ10Bとの位置を物理的に交換することなく、振動を加える又は受ける役割のみを入れ替えてもよい。また、振動入力部66から加振センサ10Aへ入力する電気信号は、
図9に示したような正弦半波90に限定されるものではなく、他の形状の単発のパルス波やスウィープ波を入力してもよい。加えて、例えば、
図8に示したような1枚のタイルTに使用するための構成を、
図7の他の必要な構成要素も含めて複数セット用意し、それらを検査対象のタイルTの配列に合わせた位置関係で組み合わせて、複数枚のタイルTを同時に検査するようにしてもよい。
【0041】
一方、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60で使用される振動センサ10も、
図1~
図6の構成に限定されるものではなく、検査対象のタイルTや状況などに応じて、
図1~
図6に示した構成要素の一部が削除、変更、ないし適宜追加された構成であってもよい。また、振動伝達子12、ケース体32、摺動部材50、及び各ダンパ部材44、54、56の形状や大きさは、振動センサ10の用途や目的などに合わせて、任意に設定してよい。
【0042】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60は、
図7及び
図8に示すように、タイルTの剥離検査などに用いられるものであって、加振センサ10A、受振センサ10B、ベース部62、振動入力部66、及び解析部74を含んでいる。加振センサ10Aは、加振用圧電振動板18(
図1~
図3参照)を有しており、振動入力部66により印加される振動発生用電気信号から加振用圧電振動板18によって振動を発生し、その振動をタイルTへ加えるためのものであって、ベース部62へ固定される。受振センサ10Bは、受振用圧電振動板18(
図4~
図6参照)を有しており、上記のように加振センサ10AによりタイルTへ加えられた振動をタイルTを介して受けて、タイルTから受けた振動を受振用圧電振動板18によって受振電気信号へと変換するものであって、加振センサ10Aと同様にベース部62へ固定される。すなわち、加振センサ10A及び受振センサ10Bは、ベース部62に固定された状態で、タイルTに対して同時に当接されて使用される。
【0043】
解析部74は、受振センサ10Bからの受振電気信号、換言すれば、加振センサ10Aにより加えられてタイルT内を伝搬し、受振センサ10Bにより受けられた振動から変換された電気信号を解析するものである。ここで、加振センサ10AからタイルTへ加えられた振動は、タイルTがその接着先から剥離せずに接着している箇所においては、タイルTから接着先へと伝搬するため、受振センサ10Bにより受けられる振動エネルギーが大幅に減少する。これに対し、タイルTが接着先から剥離している箇所において、加振センサ10AからタイルTへ加えられた振動は、接着先へはほとんど伝搬せずにタイルT内を伝搬するため、受振センサ10Bにより損失が少ない状態で受けられる。解析部74では、これらのことを考慮しながら、受振センサ10Bから受けた受振電気信号を解析して、タイルT剥離の有無の判定などを行う。
【0044】
そして、発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60は、加振センサ10Aと受振センサ10Bとの少なくとも一方が、ベース部62に複数固定されているものである。このため、例えば
図7及び
図8のように受振センサ10Bが複数固定されている場合は、加振センサ10AからタイルTへ加えられた振動が複数の受振センサ10Bの各々によって受けられ、それらが個別に解析部74により分析される。また、加振センサ10Aが複数固定されている場合は、複数の加振センサ10Aの各々からタイルTへ加えられた振動が受振センサ10Bによって受けられ、それらが個別に解析部74により分析される。これにより、加振センサ10Aと複数の受振センサ10Bとの間や、複数の加振センサ10Aと受振センサ10Bとの間を、同時に検査することができるため、タイルT剥離の検査時間を大幅に短縮することが可能となる。しかも、加振センサ10A及び受振センサ10Bの数量や配置を、検査対象のタイルTの形状や大きさに合わせた数量及び配置に設定することで、タイルT全面を網羅することができるため、検査時間を短縮しながら、タイルT剥離の判定精度を向上させることもできる。更に、タイルTの剥離検知と同様の原理で、タイルT内を伝搬する振動の変化から、タイルTの罅割れを検知することも可能となる。
【0045】
また、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60は、振動入力部66から加振センサ10Aへ印加される振動発生用電気信号として、単発のパルス波が繰り返し印加されるものである。これにより、スウィープ波の電気信号を印加する場合と異なり、継続時間を長くする必要がなく、また、解析部74では適切なタイミングのパルス波による振動を解析すればよいため、検査時間をより一層短縮することが可能となる。更に、振動入力部66から加振センサ10Aへ繰り返し印加されるパルス波として、
図9に示すような正弦半波(ハーフサイン波)90が印加されるものである。ここで、加振センサ10Aへ印加されるパルス波には、使用する周波数帯域の中で可能な限り大きな加振力と平坦な周波数特性とが必要になるが、正弦半波90は、例えば矩形波パルスや2乗正弦波パルスといった他の形状のパルスと比較して、低駆動電圧及び継続時間の長さの点で有利であり、また、周波数のサンプリング位置による変動が少ないものである。従って、パルス波として正弦半波90を利用することで、使用電圧を抑制しながら、タイルT剥離の判定精度のより一層の向上を図ることができる。
【0046】
また、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60は、タイルTへ振動を加えるための加振センサ10Aと、タイルTから振動を受けるための受振センサ10Bとのうち、いずれか一方のセンサ10が、ベース部62の平面視における中央近傍に1つ固定されたものである。更に、加振センサ10Aと受振センサ10Bとのうち、上記の一方と異なる他方のセンサ10が、中央近傍に固定された一方のセンサ10を囲むようにしてベース部62に複数固定されている。これにより、
図8の例のようにベース部62の中央近傍に加振センサ10Aが固定される場合は、加振センサ10AからタイルTへ加えられた振動が、そのタイルTの振動が加えられた部分を囲うような位置で複数の受振センサ10Bの各々によって受けられる。
【0047】
また、ベース部62の中央近傍に受振センサ10Bが固定される場合は、複数の加振センサ10Aの各々によってタイルTへ加えられた振動が、複数の加振センサ10Aに囲われたそれらの中央近傍位置で受振センサ10Bによって受けられる。いずれの場合においても、一方のセンサ10を囲う複数の他方のセンサ10の配置位置により規定される領域全体を同時に検査することができるため、効率よくタイルT剥離の検査を行うことができ、更なる時間短縮を期待することができる。更に、上述した複数の他方のセンサ10により規定される領域が、
図8(b)に二点鎖線で示されるような検査対象の1枚のタイルT全体を略覆うように、加振センサ10Aや受振センサ10Bの配置間隔が設定されることで、タイルTに対するタイル剥離検知器60の位置変えなどを行う必要なく、1枚のタイルTを一度で検査することができるため、より効率よく検査を行うことが可能となる。
【0048】
更に、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60は、
図8に示すように、加振センサ10A及び受振センサ10Bの双方が、第3ダンパ部材44を介してベース部62に固定されているものである。ここで、加振センサ10Aにより発生された振動は、タイルTを経由して受振センサ10Bによって受けられるべきものであるが、タイルT経由ではなくベース部62を伝わって受振センサ10Bにより受けられて干渉する虞がある。そこで、上記のように第3ダンパ部材44が使用されることで、加振センサ10Aからベース部62へ伝わる振動と、ベース部62から受振センサ10Bへ伝わる振動との双方を抑制することができるため、ベース部62を介した振動の干渉を防止することが可能となる。
【0049】
また、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60は、
図7に示すように、振動入力部66が、振動発生用電気信号を発生する信号発生器68と、振動発生用電気信号を増幅するパワーアンプ70とを含み、信号発生器68により発生させてパワーアンプ70によって増幅させた振動発生用電気信号を、加振センサ10Aへ印加するものである。これにより、例えば、複数の加振センサ10Aや複数の受振センサ10Bがベース部62に搭載されることに起因して、従来よりも小型化された加振センサ10Aを使用する場合でも、それに対応して小型化された加振用圧電振動板18において、検査に必要な大きさの振動を発生し得るレベルの振動発生用電気信号を印加することができる。
【0050】
更に、本発明の実施の形態に係るタイル剥離検知器60は、解析部74が、チャージアンプ76、AD変換器78、及びFFT解析部80を含み、受振センサ10Bから受けた受振電気信号を、まずはチャージアンプ76によって増幅させるものである。ここで、例えば、複数の加振センサ10Aや複数の受振センサ10Bがベース部62に搭載されることに起因して、従来よりも小型化された受振センサ10Bを使用する場合に、それに対応して小型化された受振用圧電振動板18を使用すると、受振センサ10Bから得られる電気信号がレベル不足になることが想定される。そこで、上記のようにチャージアンプ76を用いることで、検査に必要なレベルまで受振電気信号を増幅させることができる。そして、チャージアンプ76において増幅された受振電気信号は、AD変換器78においてアナログからデジタルへ変換された後、FFT解析部80によりFFT解析される。これにより、受振電気信号が周波数成分に分解され、周波数成分毎の大きさが把握されるため、タイルT剥離の有無を精度よく判定することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
10A:加振センサ、10B:受振センサ、18:圧電振動板(加振用圧電振動板、受振用圧電振動板)、44:第3ダンパ部材、60:タイル剥離検知器、62:ベース部、66:振動入力部、68:信号発生器、70:パワーアンプ、74:解析部、76:チャージアンプ、78:AD変換器、80:FFT解析部、90:正弦半波、T:タイル