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特開2023-31627血中物質濃度測定装置、血中物質濃度測定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031627
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】血中物質濃度測定装置、血中物質濃度測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137238
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】517433898
【氏名又は名称】ライトタッチテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157325
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】山川 考一
(72)【発明者】
【氏名】小川 奏
(72)【発明者】
【氏名】山川 庸子
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK00
4C038KK10
4C038KL05
4C038KL07
4C038KX01
(57)【要約】
【課題】生体中の計測対象部分の深さの個体間変動よらず、精度の高い計測を安定して行う。
【解決手段】被検体部Mp0中の計測対象部分Mpを含む領域にレーザー光を照射する光照射部20と、レーザー光L1に基づく反射光L2を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出器30と、被検体部と光検出器30との間であって、被検体部中の特定領域Mpからの反射光L2を光検出器30上に結像可能な位置に配された第1のレンズ40と、反射光L2の強度に基づき特定領域Mpにおける血中物質の濃度を、計測対象部分Ppにおける血中物質の濃度として測定する測定制御部60を備え、光照射部20は、計測対象物質である第1の血中物質に吸収される対象測定用の第1のレーザー光と、リファレンス物質である第2の血中物質に吸収されるリファレンス測定用の第2のレーザー光とを選択的に照射可能に構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の被検体部の血液中に含まれる血中物質の濃度を測定する血中物質濃度測定装置であって、
前記被検体部中の計測対象部分を含む領域にレーザー光を照射する光照射部と、
照射された前記レーザー光に基づく反射光を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出器と、
前記被検体部と前記光検出器との間であって、前記被検体部中の特定領域からの前記反射光を光検出器上に結像可能な位置に配された第1のレンズと、
前記反射光の強度に基づき前記特定領域における前記血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記血中物質の濃度として測定する測定制御部を備え、
前記光照射部は、計測対象物質である第1の血中物質に吸収される対象測定用の第1のレーザー光と、リファレンス物質である第2の血中物質に吸収されるリファレンス測定用の第2のレーザー光とを選択的に照射可能に構成されている
血中物質濃度測定装置。
【請求項2】
前記リファレンス測定における、前記第2のレーザー光が前記第2の血中物質に吸収される吸収率は、前記対象測定において、前記第1のレーザー光が前記第1の血中物質に吸収される吸収率よりも大きい
請求項1に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項3】
前記リファレンス物質は、前記計測対象物質よりも血中における濃度の安定性が高い
請求項1又は2に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項4】
前記測定制御部は、前記第2のレーザー光の照射に基づいて、前記特定領域が前記被検体部中の血管領域に含まれている状態における、前記第2の血中物質の濃度を測定し、
前記第1のレーザー光の照射に基づいて、前記特定領域における前記第1の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第1の血中物質の濃度として測定可能に構成されている
請求項1から3の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項5】
前記光検出器を、前記被検体部から前記光検出器までの光路に沿って移動させることにより、前記特定領域の前記生体における深さが変更可能に構成されており、
前記第2の血中物質の濃度に基づき、前記特定領域が前記被検体部中の血管領域に含まれる状態になるように、前記光検出器の位置を前記光路に沿って調整可能に構成されている
請求項1から4の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項6】
前記光照射部は、前記レーザー光の波長を変調して、検出可能な血中物質の種類を異ならせる
請求項1から5の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項7】
前記光照射部は、前記第1のレーザー光を出射する光発信器と、前記第2のレーザー光を照射する光発信器とを有する
請求項1から6の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項8】
前記血中物質はグルコースであり、前記レーザー光の波長は、2.5μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である
請求項1から7の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項9】
前記血中物質はヘモグロビンであり、前記レーザー光の波長は、5.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である
請求項1から8の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項10】
前記レーザー光の光路における、前記光照射部と前記被検体部との間に位置し前記レーザー光を前記照射領域に集光させる第2のレンズと、前記光照射部と前記第2のレンズとの間に位置する絞りとを備えた
請求項1から9の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項11】
前記生体の表面が当接される対象載置部を備え、
前記対象載置部は、前記生体の表面が当接される領域内に貫通孔が開設されており、
前記レーザー光は、前記貫通孔を通して前記生体の表面に照射され、
前記反射光は、前記貫通孔を通して前記光検出器に受光される
請求項1から10の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項12】
前記生体の表面が当接される対象載置部を備え、
前記対象載置部は、前記生体の表面が当接される領域内に凹陥部が形成されており、
前記レーザー光は、前記対象載置部を透過して前記生体の表面に照射され、
前記反射光は、前記対象載置部を透過して前記光検出器に受光される
請求項1から10の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項13】
前記計測対象部分は、表皮より内方に位置する前記被検体部中の血管領域であり、
前記第1のレンズは、前記計測対象部分における前記レーザー光の照射領域を検出器の受光面上に転送させる
請求項1から12の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項14】
前記レーザー光の波長は、6.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である
請求項8に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項15】
前記血中物質は乳酸であり、前記レーザー光の波長は、5.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である
請求項1から7の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項16】
前記被検体部から前記光検出器までの光路における前記対象載置部から前記光検出器までの区間において、前記反射光は前記第1のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播し、
前記光照射部から前記被検体部までの光路における前記光照射部から前記対象載置部までの区間において、前記レーザー光は前記第2のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播する
請求項11又は12に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項17】
生体の被検体部の血液中に含まれる血中物質の濃度を測定する血中物質濃度測定方法であって、
光照射部から、前記被検体部中の計測対象部分を含む照射領域に計測対象物質である第1の血中物質に吸収される対象測定用の第1のレーザー光を照射し、
前記被検体部と光検出器との間に位置する第1のレンズを用いて、前記被検体部中の特定領域から反射された前記第1のレーザー光の反射光を前記光検出器上に結像させ、
前記光検出器により前記第1のレーザー光の反射光を受光して、当該反射光に基づく前記第1の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第1の血中物質の濃度として対象測定する血中物質濃度測定方法において、
前記対象測定に先立って、
前記光照射部から前記照射領域に、リファレンス物質である第2の血中物質に吸収されるリファレンス測定用の第2のレーザー光を照射し、
前記第1のレンズを用いて、前記特定領域から反射された前記第2のレーザー光の反射光を前記光検出器上に結像させ、
前記光検出器により前記第2のレーザー光の反射光を受光して、当該反射光に基づく前記第2の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第2の血中物質の濃度として測定するリファレンス測定を行う
血中物質濃度測定方法。
【請求項18】
前記リファレンス測定において、前記第2のレーザー光が前記第2の血中物質に吸収される吸収率は、前記対象測定において、前記第1のレーザー光が前記第1の血中物質に吸収される吸収率よりも大きい
請求項17に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項19】
前記リファレンス物質は、前記計測対象物質よりも血中における濃度の安定性が高い
請求項17又は18に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項20】
前記リファレンス測定では、
前記被検体部から前記光検出器までの光路に沿って前記光検出器の位置を異ならせて前記第2の血中物質の濃度を測定することにより、前記特定領域が前記被検体部中の血管領域に含まれる状態になるように、前記光検出器の位置を前記光路に沿って調整する
請求項17から19の何れか1項に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項21】
前記光照射部から前記被検体部までの光路における、前記光照射部と前記被検体部との間に位置し、前記第1のレーザー光及び前記第2のレーザー光を前記照射領域に集光させる第2のレンズと、前記光照射部と前記第2のレンズとの間に位置し、前記光照射部から照査された光を絞る絞りとを用いて、前記第1のレーザー光及び前記第2のレーザー光を前記照射領域に照射する
請求項17から20の何れか1項に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項22】
対象載置部に前記生体の表面を当接し、
前記第1のレーザー光及び前記第2のレーザー光を、前記対象載置部に開設された貫通孔を通して前記生体の表面に照射し、
前記反射光は、前記貫通孔を通して前記光検出器により受光する
請求項17から21の何れか1項に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項23】
(プログラム)
コンピュータに生体の被検体部の血液中に含まれる血中物質の濃度を測定する血中物質濃度測定処理を行わせるプログラムであって、
前記血中物質濃度測定処理は、
光照射部から、前記被検体部中の計測対象部分を含む照射領域に計測対象物質である第1の血中物質に吸収される対象測定用の第1のレーザー光を照射し、
前記被検体部と光検出器との間に位置する第1のレンズを用いて、前記被検体部中の特定領域から反射された前記第1のレーザー光の反射光を前記光検出器上に結像させ、
前記光検出器により前記第1のレーザー光の反射光を受光して、当該反射光に基づく前記第1の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第1の血中物質の濃度として対象測定する血中物質濃度測定方法において、
前記対象測定に先立って、
前記光照射部から前記照射領域に、リファレンス物質である第2の血中物質に吸収されるリファレンス測定用の第2のレーザー光を照射し、
前記第1のレンズを用いて、前記特定領域から反射された前記第2のレーザー光の反射光を前記光検出器上に結像させ、
前記光検出器により前記第2のレーザー光の反射光を受光して、当該反射光に基づく前記第2の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第2の血中物質の濃度として測定するリファレンス測定を行う
プログラム。
【請求項24】
前記リファレンス測定では、
さらに、前記被検体部から前記光検出器までの光路に沿って前記光検出器の位置を異ならせて前記第2の血中物質の濃度を測定することにより、前記特定領域が前記被検体部中の血管領域に含まれる状態になるように、前記光検出器の位置を前記光路に沿って調整する
請求項23に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体の血管内を流れる血液に含まれる物質の濃度を非侵襲式の測定方法により測定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病の予防・治療において、日常的に血糖値、血中脂質値等の血中物質状態を調べることは重要である。なかでも、生活習慣病の一つである糖尿病の患者に対して、合併症を防止するために、血液中に含まれるグルコースの濃度を測定して日常的な血糖値の管理が要求されており、患者から採血を行い血液中の化学分析を行う侵襲法が従来から行われている。
【0003】
これに対し、近年、採血を伴わず体内の血液中の状態を光学的する簡便な非侵襲法が提案されている。例えば、特許文献1には、高強度の中赤外光を導波路を介して生体に照射し、その反射光を導波路を介して光検出器に導光することにより、非侵襲かつ単純な構成で血中グルコース濃度を測定する血中物質濃度測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/117520号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の、導波路を用いた従来の血中物質濃度測定装置では、計測対象となる生体中における計測対象部分の深さの個体間の位置変動によって測定値が変動し、安定して正常な計測を行うことが難しいという課題があった。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、生体中における計測対象部分の深さの個体間変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる血中物質濃度測定装置、血中物質濃度測定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の一態様に係る血中物質濃度測定装置は、生体の被検体部の血液中に含まれる血中物質の濃度を測定する血中物質濃度測定装置であって、前記被検体部中の計測対象部分を含む領域にレーザー光を照射する光照射部と、照射された前記レーザー光に基づく反射光を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出器と、前記被検体部と前記光検出器との間であって、前記被検体部中の特定領域からの前記反射光を光検出器上に結像可能な位置に配された第1のレンズと、前記反射光の強度に基づき前記特定領域における前記血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記血中物質の濃度として測定する測定制御部を備え、前記光照射部は、計測対象物質である第1の血中物質に吸収される対象測定用の第1のレーザー光と、リファレンス物質である第2の血中物質に吸収されるリファレンス測定用の第2のレーザー光とを選択的に照射可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様に係る血中物質濃度測定装置、血中物質濃度測定方法及びプログラムによれば、計測対象の個体差にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る血中物質濃度測定装置1の構成を示す模式図である。
図2】(a)(b)は、図1のA部の拡大断面図である。
図3】血中物質濃度測定装置1における光照射部20の構成を示す模式図である。
図4】血中物質濃度測定装置1における受光側光路の概要を説明するための図である。
図5】血中物質濃度測定装置1における光照射部20から光検出器30までの光路の概要を示す模式図である。
図6】発明者が想起した比較例に係る血中物質濃度測定装置の構成における光路長の調整動作を説明するための模式図である。
図7】血中物質濃度測定装置1による、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路長の調整動作を説明するための模式図である。
図8】血中物質濃度測定装置1の実施例を用いて測定した光検出器の位置とヘモグロビン濃度の測定値の関係を示す図である。
図9】血中物質濃度測定装置1の実施例を用いて測定した光検出器の位置とグルコース濃度の測定値の関係を示す図である。
図10】(a)は、血中物質濃度測定装置1における、(b)は、比較例に係る光照射部20から被検体部Mp0を想定した光検出器PDまでの光路の概要を説明するための模式図である。
図11】(a)は、血中物質濃度測定装置1における、(b)は、比較例に係る血中物質濃度測定装置における血中物質濃度の測定結果のばらつきを示す図である。
図12】血中物質濃度測定装置1による血中物質濃度の測定における、生体表面におけるレーザー光照射位置を示す図である。
図13】(a)は、血中物質濃度測定装置1の実施例における、(b)は、比較例における血中物質濃度の測定結果のばらつきを示す図である。
図14】血中物質濃度測定装置1による血中物質測定動作の一態様を示すフローチャートである。
図15】血中物質濃度測定装置1による血中物質測定動作の別の態様を示すフローチャートである。
図16】血中物質濃度測定装置1Aによる血中物質測定動作のさらに別の態様を示すフローチャートである。
図17】従来の血中物質濃度測定装置1Xの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
近年、糖尿病の患者に対する日常的な血糖値の管理等のために、採血を伴わない非侵襲血中物質濃度測定法が提案されており、図17は、特許文献1に開示された、非侵襲法を用いた従来の血中物質濃度測定装置1X(以後、「装置1X」と記す場合がある)の構成を示す模式図である。
【0011】
図17に示すように、装置1Xは、検査対象である生体Obが載設される対象載置部10X、中赤外光からなるパルス状のレーザー光L1を照射する光照射部20X、貫通孔からなる入射側導波路91Xと出射側導波路92Xが開設された導光部90X、生体Obからの反射光LX2を受光して強度を検出する光検出器30X、これらの測定制御部60Xを備える。特許文献1には、装置1Xによれば、高強度の中赤外光を照射することにより、非侵襲かつ単純な構成で血中グルコース濃度を測定できることが記載されている。
【0012】
ところが、上述のとおり、非侵襲法を用いた装置1Xでは、計測対象となる生体の皮膚表面の状態や、照射されるレーザー光のわずかな条件の変化などによって測定値が変動し、安定して正常な計測を行うことが難しいことが、発明者らの実験により判明した。
【0013】
さらに、本来の測定対象である血糖が含まれる皮膚表面下方の生体内方部分の深度や位置が被験者によって異なることが、測定値変動の要因として考えられる。
【0014】
そして、これを解消するために、例えば、被験者の生体条件や測定条件に適合するように被験者や測定ごとに光学系を設定することが必要となる。
【0015】
しかしながら、生体ごとや測定のたびに光学系を適切に調整することは高度な技量を要し、患者自身が日常的に行う血糖値の測定において実施することは、非侵襲法による簡便性を大きく損ねるものとなる。
【0016】
そこで、発明者らは、非侵襲血中物質濃度測定法において、生体中における計測対象部分の深さの個体間変動やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して実現することができる光学系の構成について鋭意検討を行い、以下の実施の形態に至ったものである。
【0017】
≪本発明を実施するための形態の概要≫
本開示の実施の形態に係る血中物質濃度測定装置は、生体の被検体部の血液中に含まれる血中物質の濃度を測定する血中物質濃度測定装置であって、前記被検体部中の計測対象部分を含む領域にレーザー光を照射する光照射部と、照射された前記レーザー光に基づく反射光を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出器と、前記被検体部と前記光検出器との間であって、前記被検体部中の特定領域からの前記反射光を光検出器上に結像可能な位置に配された第1のレンズと、前記反射光の強度に基づき前記特定領域における前記血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記血中物質の濃度として測定する測定制御部を備え、前記光照射部は、計測対象物質である第1の血中物質に吸収される対象測定用の第1のレーザー光と、リファレンス物質である第2の血中物質に吸収されるリファレンス測定用の第2のレーザー光とを選択的に照射可能に構成されていることを特徴とする。
【0018】
係る構成により、計測対象の個体差にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる。
【0019】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記リファレンス測定において、前記第2のレーザー光が前記第2の血中物質に吸収される吸収率は、前記対象測定において、前記第1のレーザー光が前記第1の血中物質に吸収される吸収率よりも大きい構成としてもよい。
【0020】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記リファレンス物質は、前記計測対象物質よりも血中における濃度の安定性が高い構成としてもよい。
【0021】
係る構成により、リファレンス物質についてリファレンス測定を行った後に対象測定を行うことで、計測対象の測定精度を向上できる。
【0022】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記測定制御部は、前記第2のレーザー光の照射に基づいて、前記特定領域が前記被検体部中の血管領域に含まれている状態における、前記第2の血中物質の濃度を測定し、前記第1のレーザー光の照射に基づいて、前記特定領域における前記第1の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第1の血中物質の濃度として測定可能に構成されている構成としてもよい。
【0023】
係る構成により、特定領域が被検体部中の血管領域に含まれている状態において第1の血中物質の濃度を測定することができる。
【0024】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光検出器を、前記被検体部から前記光検出器までの光路に沿って移動させることにより、前記特定領域の前記生体における深さが変更可能に構成されており、前記第2の血中物質の濃度に基づき、前記特定領域が前記被検体部中の血管領域に含まれる状態になるように、前記光検出器の位置を前記光路に沿って調整可能に構成されている構成としてもよい。
【0025】
係る構成により、血管からの反射光が検出された検出器の位置で、光照射部から第1のレーザー光を照射して、検出器により特定領域からの反射光を受光することにより、被験者の皮膚表面からの深さ方向の血管位置の個体差によらず、第1の血中物質の濃度を常に確度の高い計測を安定して行うことができる。
【0026】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光照射部は、前記レーザー光の波長を変調して、検出可能な血中物質の種類を異ならせる構成としてもよい。あるいは、前記光照射部は、前記第1のレーザー光を出射する光発信器と、前記第2のレーザー光を照射する光発信器とを有する構成としてもよい。
【0027】
係る構成により、複数の種類の血中物質の測定を行うことができる。
【0028】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記血中物質はグルコースであり、前記レーザー光の波長は、2.5μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である構成としてもよい。このとき、前記第1のレーザー光の波長は、6.0μm以上12μm以下の範囲から選択される構成としてもよい。
【0029】
係る構成により、第1血中物質としてグルコースの濃度を測定することができる。
【0030】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記血中物質はヘモグロビンであり、前記レーザー光の波長は、5.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である構成としてもよい。
【0031】
係る構成により、生体の被検体部における血管領域を検出することができ、第1血中物質の計測対象部分となるべき特定領域が被検体部における血管領域に含まれるか否かを検出できる。
【0032】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記レーザー光の光路における、前記光照射部と前記被検体部との間に位置し前記レーザー光を前記照射領域に集光させる第2のレンズと、前記光照射部と前記第2のレンズとの間に位置する絞りとを備えた構成としてもよい。
【0033】
係る構成により、測定ごとの血中物質濃度の測定結果のばらつきを減少できる。
【0034】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記生体の表面が当接される対象載置部を備え、前記対象載置部は、前記生体の表面が当接される領域内に貫通孔が開設されており、前記レーザー光は、前記貫通孔を通して前記生体の表面に照射され、前記反射光は、前記貫通孔を通して前記光検出器に受光される構成としてもよい。
【0035】
係る構成により、生体Obの表面における全反射を抑制することができ、さらに、光照射部から照射されたレーザー光は、生体の表面に直接照射することができレーザー光の強度を向上できる。
【0036】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記生体の表面が当接される対象載置部を備え、前記対象載置部は、前記生体の表面が当接される領域内に凹陥部が形成されており、前記レーザー光は、前記対象載置部を透過して前記生体の表面に照射され、前記反射光は、前記対象載置部を透過して前記光検出器に受光される構成としてもよい。
【0037】
係る構成により、生体の表面における全反射を抑制することができ、対象載置部に開口していないことにより、光照射部等の光学系が存する雰囲気に塵や埃、水蒸気等が侵入することを防止でき、対象載置部に防塵機能を持たせることができる。
【0038】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記計測対象部分は、表皮より内方に位置する前記被検体部中の血管領域であり、前記第1のレンズは、前記計測対象部分における前記レーザー光の照射領域を検出器の受光面上に転送させる構成としてもよい。
【0039】
係る構成により、導波路を用いた従来の装置比較して、皮膚表面で散乱された反射光による偽信号(ノイズ)成分を減少することができ光計測におけるS/N比を向上できる。ことができる。
【0040】
係る構成により、近赤外光に比べてグルコースによる吸収が大きく、透過率が低いために表皮部分のみを観測することができ、血中グルコース濃度を安定して計測することができる。
【0041】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記血中物質は乳酸であり、前記レーザー光の波長は、5.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である構成としてもよい。このとき、前記第1のレーザー光の波長は、5.77μm、6.87μm、7.27μm、8.23μm、8.87μm、又は9.55μmから、-0.05μm以上+0.05μm以下の範囲である構成としてもよい。
【0042】
係る構成により、血中乳酸濃度を計測することができる
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記被検体部から前記光検出器までの光路における前記対象載置部から前記光検出器までの区間において、前記反射光は前記第1のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播し、前記光照射部から前記被検体部までの光路における前記光照射部から前記対象載置部までの区間において、前記レーザー光は前記第2のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播する構成としてもよい。
【0043】
係る構成により、導波路を用いた従来の装置比較して、皮膚表面で散乱された反射光による偽信号(ノイズ)成分を減少することができ光計測におけるS/N比を向上できる。ことができる。
【0044】
また、本実施の形態に係る血中物質濃度測定方法は、生体の被検体部の血液中に含まれる血中物質の濃度を測定する血中物質濃度測定方法であって、光照射部から、前記被検体部中の計測対象部分を含む照射領域に計測対象物質である第1の血中物質に吸収される対象測定用の第1のレーザー光を照射し、前記被検体部と光検出器との間に位置する第1のレンズを用いて、前記被検体部中の特定領域から反射された前記第1のレーザー光の反射光を前記光検出器上に結像させ、前記光検出器により前記第1のレーザー光の反射光を受光して、当該反射光に基づく前記第1の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第1の血中物質の濃度として対象測定する血中物質濃度測定方法において、前記対象測定に先立って、前記光照射部から前記照射領域に、リファレンス物質である第2の血中物質に吸収されるリファレンス測定用の第2のレーザー光を照射し、前記第1のレンズを用いて、前記特定領域から反射された前記第2のレーザー光の反射光を前記光検出器上に結像させ、前記光検出器により前記第2のレーザー光の反射光を受光して、当該反射光に基づく前記第2の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第2の血中物質の濃度として測定するリファレンス測定を行う構成としてもよい。
【0045】
係る構成により、計測対象の個体差にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる血中物質濃度測定方法を提供できる。
【0046】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記リファレンス測定において、前記第2のレーザー光が前記第2の血中物質に吸収される吸収率は、前記対象測定において、前記第1のレーザー光が前記第1の血中物質に吸収される吸収率よりも大きい構成としてもよい。
【0047】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記リファレンス物質は、前記計測対象物質よりも血中における濃度の安定性が高い構成としてもよい。
【0048】
係る構成により、吸収率が相対的に高いリファレンス物質についてリファレンス測定を行った後に対象測定を行うことで、計測対象の測定精度を向上できる。
【0049】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記第1の血中物質の濃度を検出に先立って、さらに、前記被検体部から前記光検出器までの光路に沿って前記光検出器の位置を異ならせて前記第2の血中物質の濃度を測定することにより、前記特定領域が前記被検体部中の血管領域に含まれる状態になるように、前記光検出器の位置を前記光路に沿って調整する構成としてもよい。
【0050】
係る構成により、血管からの反射光が検出された検出器の位置で、光照射部から第1のレーザー光を照射して、検出器により特定領域からの反射光を受光することにより、被験者の皮膚表面からの深さ方向の血管位置の個体差によらず、第1の血中物質の濃度を常に確度の高い計測を安定して行う方法を提供できる。
【0051】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光照射部から前記被検体部までの光路における、前記光照射部と前記被検体部との間に位置し、前記第1のレーザー光及び前記第2のレーザー光を前記照射領域に集光させる第2のレンズと、前記光照射部と前記第2のレンズとの間に位置し、前記光照射部から照査された光を絞る絞りとを用いて、前記第1のレーザー光及び前記第2のレーザー光を前記照射領域に照射する構成としてもよい。
【0052】
係る構成により、測定ごとの血中物質濃度の測定結果のばらつきを減少できる。
【0053】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、対象載置部に前記生体の表面を当接し、前記第1のレーザー光及び前記第2のレーザー光を、前記対象載置部に開設された貫通孔を通して前記生体の表面に照射し、前記反射光は、前記貫通孔を通して前記光検出器により受光する構成としてもよい。
【0054】
係る構成により、光照射部から照射されたレーザー光は、生体の表面に直接照射することができレーザー光の強度を向上できる。
【0055】
また、本実施の形態に係るプログラムは、コンピュータに生体の被検体部の血液中に含まれる血中物質の濃度を測定する血中物質濃度測定処理を行わせるプログラムであって、前記血中物質濃度測定処理は、光照射部から、前記被検体部中の計測対象部分を含む照射領域に計測対象物質である第1の血中物質に吸収される対象測定用の第1のレーザー光を照射し、前記被検体部と光検出器との間に位置する第1のレンズを用いて、前記被検体部中の特定領域から反射された前記第1のレーザー光の反射光を前記光検出器上に結像させ、前記光検出器により前記第1のレーザー光の反射光を受光して、当該反射光に基づく前記第1の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第1の血中物質の濃度として対象測定する血中物質濃度測定方法において、前記対象測定に先立って、前記光照射部から前記照射領域に、リファレンス物質である第2の血中物質に吸収されるリファレンス測定用の第2のレーザー光を照射し、前記第1のレンズを用いて、前記特定領域から反射された前記第2のレーザー光の反射光を前記光検出器上に結像させ、前記光検出器により前記第2のレーザー光の反射光を受光して、当該反射光に基づく前記第2の血中物質の濃度を、前記計測対象部分における前記第2の血中物質の濃度として測定するリファレンス測定を行う構成としてもよい。
【0056】
係る構成により、計測対象の個体差にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができるプログラムを提供できる。
【0057】
≪実施の形態1≫
本実施の形態に係る血中物質濃度測定装置1について、図面を用いて説明する。ここで、本明細書では、高さ方向の正方向を「上」方向、負方向を「下」方向とする場合があり、高さ方向の正方向に向いた面を「表」面、負方向に向いた面を「裏」面とする場合がある。また、各図面における部材の縮尺は必ずしも実際のものと同じであるとは限らない。また、本明細書において、数値範囲を示す際に用いる符号「~」は、その両端の数値を含む。また、本実施形態で記載している、材料、数値等は好ましいものを例示しているだけであり、それに限定されることはない。
【0058】
<全体構成>
血中物質濃度測定装置1(以下、「装置1」と記す場合がある)は、光源から特定の波長のレーザー光を生体Obの計測対象部分Mpに照射し、計測対象部分Mpにからの反射光の強度を検出することにより、計測対象部分Mpにおける生体Obの血中物質濃度を非侵襲に測定する医療機器である。レーザー光は、計測対象となる物質に吸収され得る特定の波長の光を用いる。血中物質濃度が高い場合には物質による吸収に伴い計測対象部分Mpからの反射光の強度が低下するため、装置1は、光検出器により反射光の強度を測定することにより、血中物質濃度を計測するものである。
【0059】
図1は、実施の形態1に係る装置1の構成を示す模式図である。図1に示すように、装置1は、対象載置部10、光照射部20、光検出器30、集光レンズ50、結像レンズ40、測定制御部60、光検出ユニット70、絞り80を有する。
【0060】
以下、装置1の各部構成について説明する。
【0061】
<各部構成>
(対象載置部10)
対象載置部10は、表面10aに生体Obの皮膚の表面が当接されることにより、生体Obにおける被検体部Mp0に含まれる計測対象部分Mpを、測定に適した規定の位置及び角度に規制するための板状ガイド部材である。対象載置部10を光照射部20等の光学系を筐体(不図示)によって覆い、対象載置部10を筐体の外郭部分に設けることにより、対象載置部10を内方からレーザー光L1が照射される照射窓(ウインドウ)として機能させることができる。
【0062】
対象載置部10は、計測に用いる特定の波長として中赤外光に対して透明な材料、例えばZnSe等で構成されており、表面に無反射コーティング層を備えていてもよい。対象載置部10の表面10aには、計測位置がマーキングされており、計測対象部分Mpを内包する生体Obを計測位置に合せた状態で、生体Obを所定の圧力で対象載置部10の表面10aに接触させることにより、生体Obの、例えば、真皮などの表皮より内方に位置する生体の部分である計測対象部分Mpを対象載置部10の表面10aから所定の距離に離間した状態に保持することができる。
【0063】
また、対象載置部10は、光照射部20から照射されたレーザー光L1が裏面10d側から入光するように配されており、表面10aが入射側の光軸L1の入射角θが所定の角度となるように、光照射部20との相対的な角度が規制されている。ここで、入射角θとは、対象載置部10における生体Obが載置される表面10aに対する法線を基準とする光軸L1の角度を指す。
【0064】
図2(a)(b)は、図1のA部の態様を示す拡大断面図である。生体Obの被検体部Mp0が対象載置部10に当接される部分を示した拡大図である。図2(a)に示すように、対象載置部10の表面10aには、生体Obの表面と接触する領域内に開口10bを形成してもよい。開口10bにより、光照射部20から照射されたレーザー光L1は、対象載置部10に開設された貫通孔10bを通して生体Obの表面に照射される。また、開口10bを設けたことにより、対象載置部10の表面10aと生体Obと接する部分に空気層を形成することができ、対象載置部10と接触させた場合と比較して、生体Obの表面における全反射を抑制することができる。また、開口10bを設けることにより、表面10aの開口10bの周囲において、生体Obを対象載置部10の表面10aにより密着しやすい構成にできる。本形態では、一例として、対象載置部10の厚さは500μm、開口10bの幅は700μmとしてもよい。
【0065】
あるいは、図2(b)に示すように、対象載置部10の表面10aには、生体Obとの間に空隙が形成されるような凹陥部10cを形成してもよい。この場合、光照射部20から照射されたレーザー光L1は、対象載置部10における凹陥部10cの底面部分を透過して生体Obの表面に照射される。対象載置部10に開口していないことにより、光照射部20等の光学系が存する雰囲気に塵や埃、水蒸気等が侵入することを防止でき、対象載置部10に防塵機能を持たせることができる。
【0066】
この場合も、凹陥部10cを設けたことにより、開口10bを設けた場合と同様に、対象載置部10の表面10aと生体Obとの間に空気層を形成し、対象載置部10と接触させた場合と比較して、生体Obの表面における全反射を抑制することができる。また、凹陥部10cを設けることにより、凹陥部を除く部分以外では、生体Obを対象載置部10の表面10aにより密着しやすい構成にできる。本実施の形態では、一例として、対象載置部10の厚さは500μm、凹陥部10cの幅は700μm、凹陥部10cの深さd1、すなわち、空気層の厚みは400μm程度としてもよい。
【0067】
(光照射部20)
光照射部20は、生体Obの被検体部Mp0に向けて特定の波長のレーザー光を生体に照射する光源である。光照射部20は、計測対象物質である第1の血中物質(以後、「第1の血中物質」と記す場合がある)に吸収される波長に発振する対象測定用のレーザー光(以後、「第1のレーザー光」と記す場合がある)を照射可能に構成されている。
【0068】
さらに、装置1では、光照射部20は、レーザー光の波長を変調して、リファレンス物質である第2の血中物質(以後、「第2の血中物質」と記す場合がある)に吸収される波長に発振するリファレンス測定用のレーザー光(以後、「第2のレーザー光」と記す場合がある)を、対象測定用のレーザー光と選択的に照射可能に構成されている。これにより、検出可能な血中物質の種類を異ならせる態様を採る。
【0069】
図2は、血中物質濃度測定装置1における光照射部20の構成を示す模式図である。図2に示すように、光照射部20は、パルス状の中赤外光よりも短波長のポンプ光L0を発振する光源21と、長波長に変換するとともに増幅してレーザー光L1として出射する光パラメトリック発振器22(OPO:Optical Parametric Oscillator)を有する。光パラメトリック発振器22では、内装する非線形光学結晶にポンプ光L0が入光されることにより、異なる2つの波長の光が発振され、短波長のシグナル光、長波長のアイドラー光が生成される。光照射部20では、このうち、アイドラー光をレーザー光L1として後段に出力し血糖値の測定に用いる。この光パラメトリック発振器22は、公知の文献、例えば、特開2010-281891号公報に記載の構成を用いてもよい。
【0070】
本実施の形態では、一例として、測定対象物質となる第1の血中物質として、例えば、グルコースを用いることができる。その場合、照射されるレーザー光は中赤外光から選択される波長の光であり、光パラメトリック発振によって発振される波長として、従来用いられていた近赤外光に比べてグルコースによる吸収が大きい波長として中赤外光を用い、2.5μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長としてもよい。より好ましくは、6.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である。具体的には、本実施の形態では、選択される波長を9.26μmとしている。例えば、9.26±0.05μm(9.21μm以上9.31μm以下)としてもよい。あるいは、波長は、7.05μm、7.42μm、8.31μm、8.7μm、9.0μm、9.57μm、9.77μm、10.04μm、又は10.92μmから、-0.05μm以上+0.05μm以下の範囲を選択してもよい。
【0071】
これより、被検体の血液中のグルコース濃度を血糖値として測定することができる。この場合、皮膚の内部の血管中のグルコース濃度を測定することが必要となり、体内の奥深くまで侵入しにくい中赤外光を皮膚内部の血管(毛細血管)に直接照射している。この中赤外光は従来、血糖値の測定に用いられていた近赤外光に比べて体内への透過率が低いために、皮膚内部の血管位置を特定して中赤外光を照射することによって、血管部分のみを観測することが可能になり、深部に存在する他の生体成分の影響を受けにくいという効果が得られる。また、中赤外光を用いることにより基準振動の倍音や結合音の重なりによる測定への悪影響が少なく、近赤外光よりもグルコースを正確に測定できるという効果も得られる。
【0072】
一方、リファレンス測定の対象となるリファレンス物質(第2の血中物質)は、計測対象物質よりもレーザー光の吸収率が高く、ゆえに測定の感度が高く、血中濃度の安定性が高く測定結果のばらつきが小さい血中物質が選択される。
【0073】
すなわち、リファレンス測定におけるレーザー光がリファレンス物質(第2の血中物質)に吸収される吸収率は、対象測定における対象測定用のレーザー光が計測対象物質(第1の血中物質)に吸収される吸収率よりも大きいことが好ましい。および/または、リファレンス物質(第2の血中物質)は、計測対象物質(第1の血中物質)よりも血中における濃度の安定性が高いことが好ましい。
【0074】
係る構成のリファレンス物質についてリファレンス測定を行った後に対象測定を行うことで、計測対象の測定精度を向上できる。
【0075】
本実施の形態では、リファレンス物質(第2の血中物質)として、一例として、ヘモグロビンを選択することができる。血管中のヘモグロビンを検出することにより、生体中における毛細血管の位置を検出することができ、計測対象物質(第1の血中物質)を測定する際の、生体Obにおける被検体部Mp0中の最適な計測対象部分Mpの位置を特定することができる。
【0076】
第1の血中物質又は第2の血中物質をヘモグロビンとするとき、測定のために照射すべきレーザー光は中赤外光から選択される波長の光であり、5.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である。具体的には、例えば、波長は、8.00±0.1μm(7.9μm以上8.1μm以下)としてもよい。あるいは、波長は、5.26μm以上6.76μm以下の範囲、7.17μmから-0.1μm以上+0.1μm以下の範囲、7.58μmから-0.1μm以上+0.1μm以下の範囲、7.58μm以上8.33μm以下の範囲、又は8.55μmから-0.1μm以上+0.1μm以下の範囲を選択してもよい。
【0077】
光源21には、QスイッチNd:YAGレーザー(発振波長1.064μm)やQスイッチYb:YAGレーザー(発振波長1.030μm)を備えていてもよい。これより、中赤外光よりも短波長のポンプ光L0をパルス状に発振することができる。ポンプ光L0は、例えば、パルス幅約8ns、周波数10Hz以上としてもよい。また、QスイッチNd:YAGレーザー、Yb:YAGレーザーによれば、過飽和吸収体を用いて受動的にスイッチング動作を行う受動Qスイッチとして動作するため、光源21を簡易かつ小型化できる。
【0078】
光パラメトリック発振器22は、図2に示すように入射側半透鏡221、出射側半透鏡222、非線形光学結晶223を備え、入射側半透鏡221と出射側半透鏡222とを対向させた光共振器の中に、非線形光学結晶223が配されている。入射側半透鏡221を透過した光L01は、非線形光学結晶223に入射し、非線形光学結晶223で定まる波長の光に変換され、かつ入射側半透鏡221と出射側半透鏡222との間で光パラメトリック増幅がされる。増幅された光は出射側半透鏡222を透過してレーザー光L1として出力される。
【0079】
非線形光学結晶223では、波長変換に適したAgGaSが位相整合の条件で使用される。非線形光学結晶223の種類や整合条件を調整することによって、発振されるレーザー光L1の波長を調整できる。非線形光学結晶には、GaSe、ZnGeP2、CdSiP2、LiInS2、LiGaSe2、LiInSe2、LiGaTe2等を用いてもよい。光パラメトリック発振器22から発せられるレーザー光L1は、ポンプ光L0に対応した繰り返し周波数、例えば約8nsのパルス幅となり、短いパルス幅により尖頭出力が10W~1kWと高強度を実現できる。
【0080】
このように、光照射部20では、光源21と光パラメトリック発振器22を用いたことにより、例えば、量子カスケード型レーザー等、従来の光源と比較して、103~105倍程度の高強度のレーザー光L1を得ることができる。
【0081】
光照射部20が発する光の波長を変更するためには、光照射部20の光パラメトリック発振器22の発振波長を異なる態様に変更して、光パラメトリック発振器22における非線形結晶223の位相整合条件を変更する、あるいは、非線形結晶223の位相整合条件が異なる光パラメトリック発振器22を変更することにより装置を実現することができる。
【0082】
係る構成により、体内への透過率が低い中赤外光による血糖測定が可能となる。
【0083】
光照射部20は、後述する測定制御部60と電気的に接続されており、測定制御部60からの制御信号に基づきレーザー光L1を出力する。
【0084】
(集光レンズ50)
光照射部20から、生体Obの被検体部Mp0に至るレーザー光L1の光路Op1には、図1に示すように、照射光を被検体部Mp0中の特定領域(計測対象部分Mp)に集光させるための集光レンズ50(本明細書において「第2のレンズ」と記す場合がある)が配されている。光路Op1上における、光照射部20から生体Obの表面に至る区間(図2(a)の構成を採る場合)、あるいは、光照射部20から対象載置部10の裏面10dに至る区間(図2(b)又は(a)の構成を採る場合)において、レーザー光L1は集光レンズ50を通過する区間を除いて、例えば、気体中などの空間中を伝播するように構成されている。
【0085】
集光レンズ50は、光照射部20から出射されたレーザー光L1が、対象載置部10の表面10aから所定の距離に離間した、生体Obの計測対象部分Mpとなる特定領域に該当する、例えば、真皮などの表皮より内方に位置する生体部分に相当する深度に集光されるよう光学設計がされている。計測対象部分Mpとなる特定領域へのレーザー光L1の入射角度θは、対象載置部10の表面10aに対する光照射部20の角度と、対象載置部10に入射したレーザー光L1の屈折角により定まる。入射角度θは、本実施の形態では、例えば、45度以上としてもよく、さらに、60度以上70度以下としてもよい。
【0086】
このとき、光照射部20と集光レンズ50との間には半透鏡で構成されたビームスプリッタ(不図示)を配してレーザー光L1の一部を基準信号として分岐し、モニタ用光検出器(不図示)を用いてレーザー光L1の強度変化を検出し、光検出器30における検出信号の正規化処理に利用してもよい。レーザー光L1の強度の変動に基づき、光検出器30の出力を補償することができる。
【0087】
集光レンズ50を通過したレーザー光L1は、対象載置部10を通過して生体Obに入射し、生体の上皮間質組織を通過して散乱あるいは拡散反射され反射光L2として、再び対象載置部10を通過し光検出器30に向けて放射される。
【0088】
(絞り80)
光照射部20から生体Obの被検体部Mp0に至るレーザー光L1の光路Op1における、光照射部20と集光レンズ50との間の区間に、絞り80が配されている。絞り80は、遮光性を有する板状部材から構成されており、中心部に開口80a(アパーチャー)が開設されている。
【0089】
開口80aの中心はレーザー光L1の光軸と一致する。また、開口80aによりレーザー光L1のビーム径は、例えば、1/3程度に絞られる構成としてもよい。また、集光レンズ50は、光照射部20と絞り80との間の距離を、集光レンズ50の焦点距離をf、1/f=1/a+1/bとしたとき、a:bに内分する位置に配される構成してもよい。
【0090】
このように、光路Op1における、光照射部20と集光レンズ50との間に絞り80を設けることにより、生体Obに照射されるレーザー光L1の照射位置のばらつきを低減することができる。
【0091】
(結像レンズ40)
図4は、血中物質濃度測定装置1における受光側光路の概要を説明するための図であって、生体Obの被検体部Mp0及び光検出器30のスクリーン30aを断面視した状態で描いた模式図である。図1及び図4に示すように、生体Obの被検体部Mp0から光検出器30に至る反射光L2の光路Op2には、被検体部Mp0中の特定領域において拡散反射された反射光L2を光検出器30上に結像させるための結像レンズ40(本明細書において「第1のレンズ」と記す場合がある)が配されている。光路Op2における、被検体部Mp0を含む生体Obの表面から光検出器30に至る区間(図2(a)の構成を採る場合)、あるいは、対象載置部10の裏面10dから光検出器30に至る区間(図2(b)又は(a)の構成を採る場合)において、反射光L2は集光レンズ50を通過する区間を除いて空間中を伝播するように構成されている。
【0092】
結像レンズ40は、被検体部Mp0中の計測対象部分Mpに相当する特定領域における像Im1が、拡散反射され反射光L2として結像レンズ40によって光検出器30のスクリーン30a上に結像Im2されるよう光学設計がされている。
【0093】
本実施の形態では、結像レンズ40の中心と生体Obの特定領域(計測対象部分Mp)の距離Op21と、光検出器30のスクリーン30aと結像レンズ40の中心との距離Op22を等価な長さとする。これにより、中赤外光が照射された被検体部Mp0中の特定領域(計測対象部分Mp)に相当する深度の像Im1が光検出器30のスクリーン30a上に等価な大きさの像Im2として転送されるような位置関係を実現している。
【0094】
ここで、特定領域(計測対象部分Mp)は、例えば、真皮などの表皮より内方に位置する生体の部分(以下「生体内方部分」と記す場合がある)に位置することが好ましい。このとき、結像レンズ40の焦点Fpに対し焦点距離をFとしたとき、距離Op21、距離Op22は、共に2Fとしてもよい。
【0095】
しかしながら、距離Op21、距離Op22の長さは上記に限定されるものではなく、中赤外光が照射された対象載置部10の像Im1が、光検出器30のスクリーン30a内に過不足なく収まるように、距離Op21、距離Op22の倍率を設定し、その倍率を達成するような結像レンズ40を設定してもよい。
【0096】
結像レンズ40への反射光L2の入射角度は、対象載置部10の表面10aに対する結像レンズ40の角度と、対象載置部10から出射される反射光L2の屈折角により定まる。本実施の形態では、例えば、0度以上40度以下、より好ましくは、20度以上30度以下としてもよい。
【0097】
(光検出ユニット70)
血中物質濃度測定装置1は、光照射部20からリファレンス測定用の第2のレーザー光を照射した状態で、検出器30を、被検体部Mp0から光検出器30に至る光路Op2に沿って移動させて、光検出器30の結像レンズ40からの距離を異ならせる構成を採る。そのため、光検出ユニット70は、図1に示すように、光検出器30と可動機構71を備える。以下、それぞれの構成について説明する。
【0098】
[光検出器30]
光検出器30は、照射されたレーザー光L1に基づく特定領域(計測対象部分Mp)からの反射光を受光して、反射光の強度を検出する近赤外線及び中赤外線センサである。光検出器30は、受光した反射光の強度に応じた電気信号を出力する。光検出器30には、反射光の強度を1次元の電圧値により出力する、例えば、単素子からなる赤外線センサを用いてもよい。
【0099】
血中物質濃度測定装置1では、光照射部20により、照射されたレーザー光L1の強度を高めるとともに、結像レンズ40により計測対象部分Mpから反射された反射光を光検出器30上において結像させることにより、光検出器30は、背景光に対し十分に高い強度の反射光を受光することができ、高いS/N比を実現し、高精度の測定が可能となる。このように、レーザー光L1及び反射光L2は単色かつ高強度であるため、光検出器30に必要な処理は光強度の検出のみとなり、量子カスケードレーザを用いた光音響光学法のように波長掃引に基づくスペクトルの分析や多変量解析等を行う必要がない。そのため、検出に求められる精度が緩和され、簡便に使用できる電子冷却方式等を用いることもできる。
【0100】
なお、光検出器30には、例えば液体窒素で冷却したHgCdTe赤外線検出器を用いてもよい。この際、液体窒素で77K程度まで冷却することによって、より高いS/N比で反射光L2の光強度を検出することができる。
【0101】
光検出器30は、後述する測定制御部60と電気的に接続されており、測定制御部60からの制御信号に基づき、受光した反射光の強度を1次元の電圧値により測定制御部60に出力する。
【0102】
[可動機構71]
可動機構71は、検出器30を、被検体部Mp0から光検出器30に至る光路Op2に沿って可逆的に移動可能な直線搬送機構である。可動機構71には、リニアモータ、ボールねじ、ラックアンドピニオン等の汎用の直線搬送機構を用いることができる。可動機構71は、後述する測定制御部60と電気的に接続されており、測定制御部60から供給される制御信号に基づき検出器30を所定の位置に搬送する。
【0103】
(測定制御部60)
測定制御部60は、光照射部20、光検出器30及び可動機構71と電気的に接続され、光照射部20の光源21を駆動してパルス状のポンプ光L0を発振させるとともに、光検出器30からの出力信号に基づき反射光L2の光強度を検出して、被検体部Mp0中の特定領域における血中物質濃度を算出する。
【0104】
あるいは、測定制御部60は、モニタ用光検出器の出力を入力し、上述のとおり、仮に光照射部20から出射されるレーザー光L1の強度が変動した場合でも、モニタ用光検出器の出力を用いて光検出器30の出力を正規化することにより、レーザー光L1の強度変動の影響を補償して血中物質濃度を算出してもよい。
【0105】
さらに、測定制御部60は、制御信号を可動機構71に出力して、可動機構71を駆動して検出器30を光路Op2に沿って所定の位置に搬送する。
【0106】
測定制御部60は、上記した、検出器30の搬送、光照射部20からのレーザー光L1の照射、光検出器30からの信号に基づき血中物質濃度の算出といった動作を、既定のプログラムに基づいて、後述する血中物質濃度測定処理を実施する。
【0107】
<血中物質濃度測定装置1による効果について>
(S/N比の向上について)
装置1の光学系による計測時のS/N比の向上について説明する。
【0108】
図5は、装置1における光照射部20から光検出器30までの光路の概要を示す模式図である。図5に示すように、装置1では、光照射部20から照射されたレーザー光L1は、被検体部Mp0中の特定領域(計測対象部分Mp)に向かう光路に沿って生体Obに入射角θで入光し、血中物質によって吸収され皮膚表面下方の生体内方部分における特定領域(計測対象部分Mp)からの反射光成分(Im11)に加えて、皮膚表面からの反射光成分(Im12)が発生する。
【0109】
しかしながら、装置1では、結像レンズ40によって、これらの反射光成分(Im11、Im12)のうち、主に生体内方部分における特定領域(計測対象部分Mp)からの反射光成分(Im11)が、光検出器30のスクリーン30aに結像されるように構成される。
【0110】
皮膚表面からの反射光成分(Im12)は結像レンズ40に入光されるが、結像レンズ40への入射角が生体内方部分における反射光成分(Im11)とは異なるために、光検出器30のスクリーン30aの範囲以外に導光されるか、あるいは、光検出器30のスクリーン30aの範囲内に導光されたとしても結像しない(ボケる)ことから光量が低下し、光検出器30によって検出される信号強度が低下する。
【0111】
その結果、ノイズとして検出される皮膚表面からの反射光成分(Im12)の光計測への影響度は小さなものとなる。
【0112】
すなわち、装置1では、主に計測対象となるべき皮膚表面下方の生体内方部分における特定領域(計測対象部分Mp)からの反射光成分(Im11)が、光検出器30のスクリーン30aに結像されて光検出器30による光計測に反映されることから、SMBG(SMBG:Self Monitoring of Blood Glucose)による血糖値の測定結果と相関性が高く、再現性が高い計測結果が得られる。
【0113】
このように、装置1では、導波路を用いた従来の装置1Xと比較して、皮膚表面で散乱された反射光による偽信号(ノイズ)成分を減少することができ光計測におけるS/N比を向上できる。
【0114】
(被検体部Mp0中の血管領域の検出について)
装置1の光学系による被検体部Mp0中の血管領域の検出に基づく測定精度の向上について説明する。
【0115】
図6は、発明者が想起した比較例に係る血中物質濃度測定装置の構成における、同様の光路長の調整動作を説明するための模式図である。
【0116】
図6に示すように、比較例に係る血中物質濃度測定装置では、計測対象部分Mpとなるべき特定領域に対する相対的な位置関係が、光検出器30と等価になるように配置可能に構成され、特定領域から反射された反射光を受光して、当該反射光に基づく像が結像しているか否かを検出する2次元撮像手段71Aを備えた構成を採る。
【0117】
2次元撮像手段71Aは、受光面71Aa上に中赤外光を検出可能な受光素子がマトリックス状に複数配された2次元赤外線撮像素子アレイである。図6に示すように、2次元撮像手段71Aは、光検出器30と一体化されて光検出ユニット70Aを構成されており、光検出ユニット70Aを被検体部Mp0から結像レンズ40に至る光路L2と垂直な方向にスライド可能に構成されている。そして、2次元撮像手段71Aが光路L2上に位置するときに、2次元撮像手段71Aの受光面71Aaの特定領域に対する相対的な位置関係が、特定領域に対する光検出器30のスクリーン30aの相対的な位置関係と等価となるように配置されている。
【0118】
係る構成により、比較例に係る血中物質濃度測定装置では、計測対象部分Mpとなるべき特定領域からの反射光を光検出器30上に結像させるための、特定領域から光検出器30までの光路長の調整工程を、光検出器30を2次元撮像手段71Aに置き換えて行うことが可能となり、光路長の調整を容易に行うことができる。
【0119】
一方、図7は、装置1による、特定領域(計測対象部分Mp)から光検出器30までの光路長の調整動作を説明するための模式図である。
【0120】
図7に示すように、装置1は、光照射部20からリファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)L1を照射した状態で、可動機構71によって検出器30を、被検体部Mp0から光検出器30に至る光路Op2に沿って移動させて、光検出器30の結像レンズ40からの距離を異ならせる構成を採る。
【0121】
係る構成により、検出器30のスクリーン30a上に結像される反射光が発生られる被検体部Mp0中の特定領域の位置を異ならせる機能を実現する。ここで、特定領域とは、結像レンズ40の焦点が合った被検体部Mp0中のフォーカス領域である。この機能により、計測対象物質(第1の血中物質)の測定に係る光検出器30の位置を、生体中における毛細血管の位置にフォーカスが合った状態に調整することができる。
【0122】
すなわち、装置1は、リファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)L1を照射した状態で、特定領域から反射された反射光L2を受光して、計測対象物質(第1の血中物質)よりもレーザー光の吸収率が高い、および/または、血中濃度の安定性が高い特性を有するリファレンス物質(第2の血中物質)の濃度を測定することにより、計測対象部分Mpとなるべき血管からの反射光に基づく像Im11が光検出器30に結像しているか否かを安定して計測できる。
【0123】
したがって、検出器30を漸動させながら、対象測定用のレーザー光(第1のレーザー光)の反射光に基づき血管からの反射光が検出することができる。
【0124】
図8は、装置1の実施例を用いて測定した光検出器の位置とヘモグロビン濃度の測定値の関係を示す図である。光照射部20からリファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)を照射した条件での実験結果である。図8において、横軸は特定領域の生体Obの皮膚表面からの深度であり、縦軸は検出器30が受光する反射光L2の強度の、光照射部20から照射されるレーザー光L1の絞り80通過後の強度に対する比率(以後、「入出力比」と記す場合がある)である。
【0125】
図8に示すように、特定領域の生体Obの皮膚表面からの深度が1.5mmにおいて、入出力比は極小値を示し、リファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)のヘモグロビンによる吸収が多い深度1.5mmに、ヘモグロビン濃度が高い値を呈する血管領域が存在していることがわかる。
【0126】
このように、血管からの反射光が検出された検出器30の位置で、光照射部20から対象測定用のレーザー光(第1のレーザー光)を照射して、検出器30により特定領域からの反射光を受光することにより、特定領域が被検体部中の血管領域に含まれている状態において計測対象物質(第1の血中物質)の濃度を測定できる(図8中の注釈を参照のこと)。
【0127】
次に、検証実験として、装置1の実施例を用いて計測対象物質となるグルコースの血中濃度を測定した。図9は、装置1の実施例を用いて測定した光検出器の位置(測定深度)とグルコース濃度の測定値の関係を示す図である。図9において、図8と同様に、横軸は特定領域の生体Obの皮膚表面からの深度であり、縦軸は検出器30が受光する反射光L2の強度のレーザー光L1(絞り80通過後)の強度に対する入出力比である。各被験者に対しカッコ内に示した数値は、レーザー計測と同時に行ったSMBG(自己採血計測)による血糖計測の結果である。
【0128】
図9に示すように、計測対象物質であるグルコースにおいても、図8に示した光検出器の位置とヘモグロビン濃度との関係と同様の結果が得られ、本試験では、グルコースにおいても、特定領域の生体Obの皮膚表面からの深度が1.5mmにおいて入出力比は極小値を示した。すなわち、本試験の結果によれば、ヘモグロビンにおいてリファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)の吸収が高い値を示した深度1.5mmに、グルコース濃度が高い値を呈する血管領域が存在しており、入出力比が極小値を示す深度は被験者によらず深度1.5mmで一定であることが見て取れる。
【0129】
なお、図9に示す結果では、入出力比が極小値を示す深度は何れの被験者においても深度1.5mmを示した。しかしながら、当該深度はランセットの穿刺深さや、例えば、幼児や高齢者といった被検体の個体差によって異なる可能性があり、その場合でもリファレンス測定によって、入出力比が極小値を示す深度を探索することにより、血管領域を検出することができる。
【0130】
また、被験者ごとのSMBGの測定結果とレーザー計測結果とから、SMBGによる血糖測定値が大きい被験者ほど、レーザー強度の入出力比の測定深度に対する変化量が大きく表れており、血糖値の値とレーザー受光強度の変化の大きさとの間に依存関係があることがわかる。
【0131】
その結果、被験者や測定ごとに変動する皮膚表面の状態や、皮膚表面からの深さ方向の血管位置の個体差によらず、常に確度の高い計測を安定して行うことが可能となる。さらに、光検出器の位置調整により受光側の光路長Lを変えて、皮膚の厚みが大きい測定対象にも対応することができるといった効果を得ることができる。
【0132】
(絞り80による測定ばらつきの低減について)
装置1の光学系による血中物質濃度の測定結果のばらつきの向上について検証した。
【0133】
図10(a)は、血中物質濃度測定装置1における、(b)は、比較例に係る光照射部20から被検体部Mp0を想定した光検出器PDまでの光路の概要を説明するための模式図である。
【0134】
装置1では、図10(a)に示すように、光照射部20から光検出器PDに至るレーザー光L1の光路における、光照射部20と集光レンズ50との間の区間に、絞り80が配されている。開口80aによりレーザー光L1のビーム径は、1/3に絞られる構成とし、集光レンズ50は、光照射部20と絞り80との間の距離を、集光レンズ50の焦点距離をf、1/f=1/a+1/bとしたとき、a:bに内分する位置に配される構成とした。
【0135】
他方、装置1では、図10(b)に示すように、コリメートされたレーザー光L1が集光レンズ50によって光検出器PDに集光される構成とした。
【0136】
図11(a)は、血中物質濃度測定装置1における、(b)は、比較例に係る血中物質濃度測定装置における血中物質濃度の測定結果のばらつきを示す図である。図10(a)(b)において、横軸は時刻を異ならせて行った測定イベントの区分であり、図中の各プロットは各測定イベントにおいて連続して4回行った測定データである。縦軸は光検出器PDが受光する反射光L1の強度の、光照射部20から照射されるレーザー光L1の絞り80通過後の強度に対する比率を正規化した数値である。
【0137】
図11(a)(b)に示すように、装置1では、比較例に比べて測定イベント内の計測結果のばらつきにおいて、14%から5.3%に減少し、測定イベント間の計測結果のばらつきにおいて、最大13%あったものがすべて3%以内に減少した。
【0138】
すなわち、光照射部20から光検出器PDに至る光路に絞り80を設けた装置1では、設けない比較例に比べて、測定イベント内、イベント間の両方において顕著な改善が見て取れた。
【0139】
その理由は、絞り80を設けたことにより、レーザー光L1の光照射部20の出射部のサイズのばらつきによらずビーム径が均一化されたこと、レーザー光L1の光軸の中心が集光レンズ50の光軸と一致したことによるものと考えられる。
【0140】
(生体Obの皮膚内部の計測による測定ばらつきの低減について)
装置1の光学系による生体Obの皮膚内部の計測による測定ばらつきの低減について検証した。
【0141】
装置1を用いて、特定領域を生体Obの皮膚表面に設定されるように光検出器30の位置を調整した実施例と、生体Obの皮膚内部に設定されるように光検出器30の位置を調整した比較例において、光検出器30におけるリファレンス物質(第2の血中物質)濃度を測定した。
【0142】
図12は、装置1による血中物質濃度の測定の際の、生体表面におけるレーザー光照射位置を示す図である。生体Obをして人差し指を用い、指先に向けた中心線、爪の根本からδだけ指元方向にずれた切断線及との測定位置1、中心線上で紙面上下に3mmずつオフセットされた測定位置2、3、切断線上で紙面左右に3mmずつオフセットされた測定位置4、5において、リファレンス物質濃度を測定した。
【0143】
図13(a)は、実施例における、(b)は、比較例におけるリファレンス物質濃度の測定結果のばらつきを示す図である。図13(a)(b)において、図12に示す測定位置の番号であり、図中の各プロットは各測定位置おいて連続して4回行った測定データである。縦軸は光検出器PDが受光する反射光L1の強度の、光照射部20から照射されるレーザー光L1の絞り80通過後の強度に対する比率を正規化した数値である。
【0144】
図13(a)(b)に示すように、実施例では、比較例に比べて測定イベント内の計測結果のばらつきにおいて、平均で40%であったものが、平均で9%、約32%に減少した。
【0145】
また、図13(a)(b)に示すように、実施例、比較例の両方において、測定位置4、5において、入出力比は小さい値を示し、レーザー光のヘモグロビンによる吸収が多い測定位置4、5に、ヘモグロビン濃度が高い値を呈する血管領域が存在していることがわかる。特に測定位置の入出力比の大小については、計測結果のばらつき実施例において比較例に比べて顕著な傾向が見て取れた。
【0146】
また、血管領域を示す反射光が検出される平面方向の測定位置において、光照射部20から対象測定用のレーザー光(第1のレーザー光)を照射して、検出器30によりその測定位置における反射光を受光することにより、平面方向の測定位置が被検体部中の血管領域に含まれている状態において計測対象物質の濃度を測定できる。
【0147】
その結果、被験者や測定ごとの平面方向の血管の位置の個体差によらず、常に確度の高い計測を安定して行うことが可能となる。
【0148】
<血中物質濃度測定装置1の動作>
次に、図14、14、15を用いて、血中物質濃度測定装置1の動作の概要を説明する。
【0149】
(特定領域が被検体部中の血管領域に属しているか否かを判定する動作)
図14は、装置1による血中物質測定動作の一態様を示すフローチャートである。
【0150】
図14において、ステップS11~ステップS12は、特定領域のリファレンス物質(第2の血中物質)の濃度を計測し、特定領域が被検体部中の血管領域に含まれているか否かを判定するリファレンス測定を行うステップである。
【0151】
ステップS21~ステップS22は、特定領域が被検体部中の血管領域に含まれている状態において、計測対象物質(第1の血中物質)の濃度を計測する対象測定のステップである。
【0152】
図14において、最初にリファレンス測定を実施するか否かを判定する(ステップS1)。この判定は、操作者からの操作入力や、被験者のIDなどの識別情報により行ってもよい。例えば、同じ被験者を日々繰り返し測定する場合などは、既に取得したリファレンス測定の結果を利用することができ、リファレンス測定を省略することができる。ステップS1の判定の結果、リファレンス判定を実施する場合(ステップS1:Yes)にはステップS11に進み、実施しない場合(ステップS1:No)には、ステップS21に進む。
【0153】
次に、ステップS11~ステップS12において、リファレンス測定を行う。先ず、測定制御部50は制御信号に基づき、光照射部20から特定領域にリファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)を照射して(ステップS11)、光検出器30により特定領域のリファレンス物質(第2の血中物質)の濃度測定を行い(ステップS12)、測定されたリファレンス物質の濃度が基準値以上であるか否かを判定する(ステップS12)。
【0154】
ステップS12において、基準値以上でない場合(ステップS12:No)には処理を終了し、基準値以上ある場合(ステップS12:Yes)には、特定領域が被検体部中の血管領域に含まれていると判定されるため、ステップS21~ステップS22において、計測対象物質(第1の血中物質)の濃度を計測する。具体的には、光照射部20から特定領域に対象測定用のレーザー光(第1のレーザー光)を照射して(ステップS21)、光検出器30により特定領域における計測対象物質の濃度測定(対象測定)を行い測定結果を出力して(ステップS22)、処理を終了する。
(光検出器の位置を前記光路に沿って調整する動作)
図15は、血中物質濃度測定装置1による血中物質測定動作の別の態様を示すフローチャートである。
【0155】
図15において、ステップS10~ステップS16は、リファレンス測定として特定領域のリファレンス物質(第2の血中物質)の濃度を計測し、特定領域におけるリファレンス物質の濃度に基づき、特定領域が被検体部中の血管領域に含まれる状態になるように、光検出器の位置を前記光路に沿って調整するステップである。
【0156】
ステップS21~ステップS22は、特定領域が被検体部中の血管領域に含まれている状態において、計測対象物質(第1の血中物質)の濃度を計測する対象測定のステップである。 図14と同じ処理には図14と同一の番号を付して表示する。
【0157】
図15において、ステップS1の判定の結果、リファレンス判定を実施する場合(ステップS1:Yes)には、ステップS10~ステップS16において、リファレンス測定を行う。先ず、測定制御部50は制御信号に基づき、可動機構71を駆動して光検出器30を始点位置に移動し(ステップS10)、光照射部20から特定領域にリファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)を照射して(ステップS11)、光検出器30により特定領域のリファレンス物質(第2の血中物質)の濃度測定を行う(リファレンス測定、ステップS12)。
【0158】
次に、光検出器30は終点位置にあるか否かを判定し(ステップS14)、終点位置にない場合には(ステップS14:No)、光検出器の位置を漸動させて(ステップS15)、ステップS11に戻り、終点位置にある場合には(ステップS14:Yes)、すべての光検出器の位置において特定領域におけるリファレンス物質の濃度測定が完了したものとして、ステップS16に進む。
【0159】
ステップS16では、すべての光検出器の位置における特定領域のリファレンス物質の濃度測定結果に基づき光検出器を、リファレンス物質の濃度が最も高い結果が得られたに最適位置に移動する。最適位置では特定領域が被検体部中の血管領域に含まれていると推定される。
【0160】
次に、ステップS21~ステップS22において、計測対象物質(第1の血中物質)の濃度を計測する。具体的には、光照射部20から特定領域に対象測定用のレーザー光(第1のレーザー光)を照射して(ステップS21)、光検出器30により特定領域の計測対象の濃度測定を行い、結果を出力して(対象測定、ステップS22)、処理を終了する。
(レーザー光L1の平面方向における照射位置を調整する動作)
図16は、血中物質濃度測定装置1による血中物質測定動作のさらに別の態様を示すフローチャートである。
【0161】
図16において、ステップS10A~ステップS16Aは、リファレンス測定としてレーザー光L1を照射する平面方向の位置を異ならせて特定領域のリファレンス物質(第2の血中物質)の濃度を計測し、異なる照射位置におけるリファレンス物質の濃度に基づき、照射位置が被検体部中の平面方向における血管領域に含まれる状態になるように、平面方向の照射位置を調整するステップである。
【0162】
ステップS21~ステップS22は、照射位置が被検体部中の平面方向における血管領域に含まれている状態において、計測対象物質(第1の血中物質)の濃度を計測する対象測定のステップである。
【0163】
図14、15と同じ処理には同一の番号を付して表示する。
【0164】
図16において、ステップS1の判定の結果、リファレンス判定を実施する場合(ステップS1:Yes)には、ステップS10A~ステップS16Aにおいて、リファレンス測定を行う。先ず、測定制御部50は制御信号に基づき、レーザー光L1を照射する平面方向の位置を始点位置に移動し(ステップS1A)、光照射部20から特定領域にリファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)を照射して(ステップS11)、光検出器30により特定領域のリファレンス物質(第2の血中物質)の濃度測定を行う(ステップS12)。
【0165】
次に、照射位置が終点位置にあるか否かを判定し(ステップS14)、終点位置にない場合には(ステップS14:No)、照射位置を変更して(ステップS15A)、ステップS11に戻り、終点位置にある場合には(ステップS14:Yes)、すべての照射位置において特定領域におけるリファレンス物質の濃度測定が完了したものとして、ステップS16Aに進む。
【0166】
ステップS16Aでは、すべての照射位置における特定領域のリファレンス物質(第2)
の血中物質の濃度測定結果に基づき、照射位置をリファレンス物質の濃度が最も高い結果が得られたに最適位置に変更する。最適位置では照射位置が被検体部の平面方向の血管領域に含まれていると推定される。
【0167】
次に、ステップS21~ステップS22において、計測対象物質(第1の血中物質)の濃度を計測する。具体的には、光照射部20から特定領域に対象計測用のレーザー光(第1のレーザー光)を照射して(ステップS21)、光検出器30により特定領域の計測対象の濃度測定を行い、結果を出力して(対象計測、ステップS22)、処理を終了する。
【0168】
<まとめ>
以上、説明したように、実施の形態に係る血中物質の濃度を測定する血中物質濃度測定装置1は、生体Obの被検体部Mp0の血液中に含まれる血中物質濃度測定装置1であって、被検体部中の計測対象部分Mpを含む領域にレーザー光を照射する光照射部20と、照射されたレーザー光L1に基づく反射光L2を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出器30と、被検体部Mp0と光検出器30との間であって、被検体部Mp0中の特定領域Mpからの反射光L2を光検出器30上に結像可能な位置に配された第1のレンズ40と、反射光L2の強度に基づき特定領域Mpにおける血中物質の濃度を、計測対象部分Ppにおける血中物質の濃度として測定する測定制御部60を備え、光照射部20は、計測対象物質(第1の血中物質)に吸収される対象測定用のレーザー光と、リファレンス物質(第2の血中物質)に吸収されるリファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)とを選択的に照射可能に構成されていることを特徴とする。
【0169】
また、リファレンス測定におけるのレーザー光(第2のレーザー光)が第2の血中物質に吸収される吸収率は、対象測定において、対象測定用のレーザー光が第1の血中物質に吸収される吸収率よりも大きい構成としてもよい。さらに、リファレンス物質は、計測対象物質よりも血中における濃度の安定性が高い構成としてもよい。
【0170】
また、測定制御部は60、リファレンス測定用のレーザー光(第2のレーザー光)の照射に基づいて、特定領域Mpが被検体部中の血管領域に含まれている状態におけるリファレンス物質(第2の血中物質)の濃度を測定し、対象測定用のレーザー光の照射に基づいて、特定領域Mpにおける計測対象物質(第1の血中物質)の濃度を測定可能に構成されていてもよい。
【0171】
また、光検出器30を、被検体部Mp0から光検出器30までの光路Op2に沿って移動させることにより、特定領域Mpの生体における深さが変更可能に構成されており、 ファレンス物質(第2の血中物質)の濃度に基づき、特定領域Mpが被検体部Mp0中の血管領域に含まれる状態になるように、光検出器30の位置を光路OP2に沿って調整可能に構成されていてもよい。
【0172】
係る構成により、生体中における計測対象部分の深さの個体間変動やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる。その結果、患者自身が日常的に行う血糖値の測定において、生体ごとや測定のたびに光学系を適切に調整するといった作業を排し、非侵襲かつ簡便な計測法を実現できる。
【0173】
≪変形例≫
以上、本開示の具体的な構成について、実施形態を例に説明したが、本開示は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。例えば、実施の形態に対して各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0174】
(1)上記実施の形態では、血中物質濃度測定装置の検出対象となる計測対象物質(第1の血中物質)として、グルコースを例に、実施の形態を示した。しかしながら、本開示に係る血中物質濃度測定装置の検出可能な血中成分は、上記に限定されるものではなく、血中成分の種類に応じて光照射部20が発するレーザー光L1の波長を異ならせることにより、他の検出対象に対しても広く装置を活用することができる。
【0175】
例えば、光照射部20が発するレーザー光L1の波長は8.23±0.05μm(8.18μm以上8.28μm以下)としてもよく、血中成分は乳酸である構成としてもよい。あるいは、波長は、5.77μm、6.87μm、7.27μm、8.87μm、又は9.55μmから、-0.05μm以上+0.05μm以下の範囲としてもよい。光照射部20が発する光の波長を8.23μmとしたときの光検出器による乳酸濃度の測定値は、自己採血による乳酸値の測定結果と概ね相関することが発明者らの実験により確認されている。
【0176】
(2)上記実施の形態では、リファレンス測定の検出対象となるリファレンス物質(第2の血中物質)として、ヘモグロビンを例に、実施の形態を示した。しかしながら、本開示に係るリファレンス物質は、上記に限定されるものではなく、リファレンス物質に用いる血中成分の種類に応じて光照射部20が発するレーザー光L1の波長を異ならせることにより、他のリファレンス物質に対しても活用することができる。
【0177】
(3)上記実施の形態では、光パラメトリック発振器22における、非線形光学結晶223の種類や整合条件を調整することによって、発振されるレーザー光L1の波長を切り替えて調整できる構成としている。
【0178】
しかしながら、光照射部20において、複数の光パラメトリック発振器22を選択的に利用可能として、複数の波長のレーザー光L1を選択的に照射可能な装置構成を採ることにより、複数の種類の血中成分を計測可能な装置としてもよい。異なる波長の光を発する複数の光パラメトリック発振器に対し光源21からの出射光を切り替えて入光させ、それぞれ光パラメトリック発振器から異なる波長の光を選択的に出射させ、それぞれの波長によりリファレンス測定と計測対象に対する本測定とを選択的に行える態様としてもよい。
【0179】
あるいは、異なる波長の光を発する複数の光照射部20を用い、光結合器、ミラー等を用いて2台の光照射部20からの光をレーザー光L1として選択的に出射させる構成としてもよい。このとき、光の波長によって光路の幅や厚み等が異なる光学系を採用する構成とは異なり、例えば、複数の血中成分に対する光学系において、集光レンズ50、対象載置部10、結像レンズ40、中赤外光を検出可能な光検出器30からなる光学系を共用することができる。
【0180】
(4)上記実施の形態では、光照射部20では、対象測定用の第1のレーザー光とリファレンス測定用の第2のレーザー光は、波長が異なる構成とした。しかしながら、対象測定用の第1のレーザー光が計測対象物質に吸収され、リファレンス測定用の第2のレーザー光がリファレンス物質に吸収される構成であればよく、第1のレーザー光と第2のレーザー光とは波長以外の照射条件を異ならせた構成としてもよい。例えば、第1のレーザー光と第2のレーザー光とで、照射部から出射される光の強度を異ならせた態様としてもよい。
【0181】
(5)上記実施の形態では、計測対象物質とリファレンス物質とは異なる血中物質からなる構成とした。しかしながら、計測対象物質と同じ物質を用いてリファレンス測定をお行う態様としてもよい。
【0182】
(6)上記実施の形態では、血中物質濃度測定装置は、計測対象部分Mpと光検出器30との間に結像レンズ40を備えた光学系を例に、実施の形態を示した。しかしながら、本開示に係る血中物質濃度測定装置は、生体Obの測対象部分Mpから反射された反射光L2を光検出器30上において結像させる結像させる構成であればよく、受光側光学系として別の態様に適宜、変更してもよい。例えば、複数のレンズを用いた構成や光路の途中にミラーを配した構成としてもよい。
【0183】
(7)実施の形態におけるステップが実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が、他のステップと同時(並列)に実行されてもよい。
【0184】
また、各実施の形態、及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。
【0185】
≪補足≫
以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていないものについては、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0186】
また、上記の方法が実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記方法の一部が、他の方法と同時(並列)に実行されてもよい。
【0187】
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0188】
また、上記で用いた数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本開示の一態様に係る血中物質濃度測定装置及び血中物質濃度測定方法は、生活習慣病の予防・治療において、日常的に血糖値、血中脂質値等の血中物質状態を測定する医療機器として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0190】
1 血中物質濃度測定装置
10、10X 対象載置部
20、20X 光照射部
21 光源
22 光パラメトリック発振器
221 入射側半透鏡
222 出射側半透鏡
223 非線形光学結晶
30 光検出器
40 結像レンズ(第1のレンズ)
50 集光レンズ(第2のレンズ)
60 測定制御部
70、70A 光検出ユニット
71 可動機構
71A 2次元撮像手段
80 絞り
80a 開口
図1
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