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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031647
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】口腔内バイオフィルム形成阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20230302BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 8/66 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230302BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230302BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20230302BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230302BHJP
   A23G 4/14 20060101ALI20230302BHJP
   A23G 4/06 20060101ALI20230302BHJP
   A23G 3/44 20060101ALI20230302BHJP
   A23G 3/36 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K38/48
A61K38/48 100
A61P1/02
A61P31/04
A61K8/66
A61K8/49
A61Q11/00
A61P43/00 121
A23L33/18
A23L33/10
A23G4/14
A23G4/06
A23G3/44
A23G3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137267
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】呉藤 伊織
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 怜
(72)【発明者】
【氏名】成澤 直規
(72)【発明者】
【氏名】竹永 章生
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4C083
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B014GB06
4B014GB07
4B014GB13
4B014GG15
4B014GL01
4B014GL03
4B014GL04
4B014GL09
4B014GL10
4B018LB01
4B018MD04
4B018MD08
4B018MD09
4B018MD20
4B018MD29
4B018MD32
4B018MD35
4B018MD42
4B018MD59
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF01
4C083AB292
4C083AB322
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC742
4C083AC782
4C083AC841
4C083AC842
4C083AC862
4C083AD272
4C083AD471
4C083AD472
4C083AD532
4C083BB48
4C083BB55
4C083CC41
4C083DD23
4C083DD41
4C083EE07
4C084AA02
4C084BA44
4C084DC03
4C084DC07
4C084MA02
4C084MA57
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA671
4C084ZB351
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA57
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA67
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】食品や植物由来の成分を有効成分とした安全性の高い口腔内バイオフィルム形成阻害及び口腔用組成物を提供する。
【解決手段】プロテアーゼ及びカテキン類を有効成分とする口腔内バイオフィルム形成阻害剤を提供する。また、前記プロテアーゼは、ナットウキナーゼ、パパイン及びブロメラインから成る群から選択される1種以上であってもよく、前記カテキン類は、ガレート型カテキンを含んでもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ及びカテキン類を有効成分とする口腔内バイオフィルム形成阻害剤。
【請求項2】
前記プロテアーゼが、パパイン、ブロメライン及びナットウキナーゼから成る群から選択される1種以上である、請求項1に記載の口腔内バイオフィルム形成阻害剤。
【請求項3】
前記カテキン類が、ガレート型カテキンを含む、請求項1又は2に記載の口腔内バイオフィルム形成阻害剤。
【請求項4】
ストレプトコッカス・ミュータンスの形成する口腔内バイオフィルムの形成阻害に用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の口腔内バイオフィルム形成阻害剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の口腔内バイオフィルム形成阻害剤を含む、口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内バイオフィルム形成阻害剤及びそれを含む口腔用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、煎茶のような一般的な茶飲料は、抗酸化作用や抗菌作用を有することが認められている。これらの効果は、茶に含まれるカテキン類に由来していることが知られているが、更にカテキン類には細菌によるバイオフィルムの形成を阻害する効果があることも知られている。
【0003】
バイオフィルムとは、細菌によって産生される多糖を主成分とする構造体であり、配管の詰まりや汚染の原因、流しや風呂のぬめり、あるいは医療用器具の汚染などの原因となる。このようなバイオフィルムに対し、例えば、特許文献1では、医療用器具の表面をカテキン類でコーティングすることにより、医療用器具の表面における細菌によるバイオフィルムの形成を阻害する技術が公開されている。
【0004】
ところで、ヒトの口腔内に存在し、う蝕の原因となる細菌も、口腔内でバイオフィルムを形成するが、このバイオフィルムが虫歯の主要な原因となる。そのため、これらの細菌によるバイオフィルムの形成を阻害することが虫歯の発生防止には有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-110744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、作用効果に優れながらも、食品や植物由来の成分を有効成分とした安全性の高い口腔内バイオフィルム形成阻害及び口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カテキン類とプロテアーゼとを有効成分とする口腔内バイオフィルム形成阻害剤が、う蝕の原因となる細菌のバイオフィルム形成に対して優れた阻害能を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
具体的には、本発明は以下の通りである。
〔1〕プロテアーゼ及びカテキン類を有効成分とする口腔内バイオフィルム形成阻害剤。
〔2〕前記プロテアーゼが、パパイン、ブロメライン及びナットウキナーゼから成る群から選択される1種以上である、〔1〕に記載の口腔内バイオフィルム形成阻害剤。
〔3〕前記カテキン類が、ガレート型カテキンを含む、〔1〕又は〔2〕に記載の口腔内バイオフィルム形成阻害剤。
〔4〕ストレプトコッカス・ミュータンスの形成する口腔内バイオフィルムの形成阻害に用いられる、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の口腔内バイオフィルム形成阻害剤。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の口腔内バイオフィルム形成阻害剤を含む、口腔用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、う蝕の原因となる細菌によるバイオフィルム形成に対し優れた阻害能を有しながらも、食品や植物などに由来する安全性の高い成分を有効成分とする口腔内バイオフィルム形成阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔口腔内バイオフィルム形成阻害剤〕
本発明に係るバイオフィルム形成阻害剤は、有効成分であるプロテアーゼとカテキン類の組み合わせが有する優れたバイオフィルム形成阻害作用を通じて、ヒトの口腔内において各種細菌がバイオフィルムを形成することを阻害することができる。ここで、バイオフィルムとは、上述したとおり、細菌によって産生される多糖を主成分とする構造体である。
【0011】
本実施形態に係るバイオフィルム形成阻害剤の対象となる細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)やストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)などのレンサ球菌、アクチノマイセス・ネスランディ(Actinomyces naeslundii)などのグラム陽性桿菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等の通性嫌気性グラム陽性球菌、歯周病菌(Porphyromonas gingivalis)等の偏性嫌気性グラム陰性細菌、カンジダ菌(Candida albicans)等の真菌等が挙げられる。中でもストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)及びストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)などは、本実施形態に係る口腔内バイオフィルム形成阻害剤の対象として特に好適である。
【0012】
〔有効成分〕
本発明の口腔内バイオフィルム形成阻害剤は、プロテアーゼとカテキン類を有効成分とするものである。当該口腔内バイオフィルム形成阻害剤は、有効成分として食品や植物に由来するプロテアーゼとカテキン類を含むことで、口腔内における細菌のバイオフィルム形成を十分に阻害しながらも、安全に使用することができるものである。
【0013】
〔プロテアーゼ〕
プロテアーゼ(protease)は、タンパク質をより小さなポリペプチドや単一のアミノ酸へ加水分解する酵素の総称である。
本発明の口腔内バイオフィルム形成阻害剤で使用されるプロテアーゼとしては、特に限定されず、例えば、パパイン、ブロメライン、ナットウキナーゼ、サーモリシン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン、スブリチン等が挙げられるが、本発明は、口腔内で使用されることを目的としているため、安全性の観点から食品や植物に由来するプロテアーゼが好ましい。食品や植物に由来するプロテアーゼとしては、パパイン、ブロメライン、及びナットウキナーゼが好ましく使用される。口腔内バイオフィルム形成阻害剤に含まれるプロテアーゼは1種類であってもよいし、2種類以上を含んでもよい。
【0014】
上述のプロテアーゼのうち、パパインは、パパイア科植物パパイア(学名:Carica papaya L. 英名:Papaya)の未成熟果実の乳汁等から抽出・精製して得られるプロテアーゼであり、ブロメラインは、パイナップルの根茎又は実などから搾汁精製されたプロテアーゼである。また、ナットウキナーゼは、納豆菌が産生するフィブリン分解作用を有するプロテアーゼである。
【0015】
本発明で使用されるプロテアーゼは、例えば、プロテアーゼを含む原材料から単離・精製する方法や、プロテアーゼをコードする遺伝子を組み込んだ形質転換体から得る方法、化学合成によって合成する方法等の公知の方法で得ることができるが、市販品を用いるのが簡便である。市販品のプロテアーゼとしては以下のものを挙げることができるが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
「ナットウキナーゼ」、「ブロメライン」、「パパイン」(以上、富士フィルム和光純薬社製)等。
【0016】
本発明の口腔内バイオフィルム形成阻害剤におけるプロテアーゼの含有量は、0.01~99.9質量%であることが好ましく、0.03~95質量%であることがより好ましく、0.05~90質量%であることが特に好ましい。プロテアーゼの含有量が上記の範囲にあることで、十分なバイオフィルム形成阻害効果を得ることができる。
【0017】
本実施形態のプロテアーゼの活性の程度は、当該プロテアーゼが口腔内バイオフィルム形成阻害剤に用いられた際に、口腔内バイオフィルム形成阻害剤が十分なバイオフィルム形成阻害効果を発揮することができれば、特に制限されない。なお、プロテアーゼ活性は、公知の方法により測定することができる。後述する実施例においては、アゾカゼインを基質とし、プロテアーゼによる加水分解でアゾカゼインから遊離したアゾ色素を測定することで求め、1分あたりに吸光度A440を0.001上昇させる活性を1unitとした。測定方法の詳細は後述する実施例に示す。
【0018】
〔カテキン類〕
本明細書において「カテキン類」とは、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)の8種をいうものとする。本明細書において、カテキン類の総含有量とは、これらの8種のカテキン類の含有量の総和を意味する。なお、上述した8種類のカテキン類のそれぞれの含有量は、紫外部波長で検出する高速液体クロマトグラフィーを用いた方法によって測定・定量することができる。
【0019】
本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤におけるカテキン類の総含有量は、0.01~99.9質量%であることが好ましく、0.03~95質量%であることがより好ましく、0.05~90質量%であることが更に好ましい。カテキン類の含有量が上記範囲にあることにより、十分なバイオフィルム阻害効果を得ることができる。
【0020】
(ガレート型カテキン)
本明細書において「ガレート型カテキン」には、上述の8種の「カテキン類」のうち、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)の4種が該当する。また、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)の4種を遊離型カテキンと呼ぶ。本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤に含まれるカテキン類は、バイオフィルムの形成阻害により有効であるという観点からガレート型カテキンを含むことが好ましい。
【0021】
本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤に含まれるガレート型カテキン類の総含有量は、0.01~99.9質量%であることが好ましく、0.03~95質量%であることがより好ましく、0.05~90質量%であることが更に好ましい。ガレート型カテキン類の含有量が上記範囲にあることにより、十分なバイオフィルム形成阻害能を得ることができる。
【0022】
(ガレート型カテキンの含有量とカテキン類の総含有量の比率)
本実施形態に係る口腔内バイオフィルム形成阻害剤中のガレート型カテキンの含有量をカテキン類の総含有量で除した、ガレート型カテキンの含有量とカテキン類の総含有量の比率(ガレート型カテキンの含有量/カテキン類の総含有量)は、0.2~1であることが好ましく、0.4~1であることが好ましく、0.5~1であることがより好ましい。当該比率が上記の範囲にあることにより、ガレート型カテキンが十分に含まれることとなり、より効果的にバイオフィルム形成阻害能を得ることができる。
【0023】
本発明で使用されるカテキン類は、例えば、下記に示す茶葉から抽出・精製する方法や、化学合成によって合成する方法等の公知の方法で得ることができる。また、カテキン類を含有する試料として市販されているものを用いることもでき、例えば、テアフラン90S(伊藤園社製、以下TF90S)やテアフラン30A(伊藤園社製)、テアビゴ(太陽化学社製)、サンフェノン(太陽化学社製)等が市販されている試料の例として挙げられる。
【0024】
〔カテキン類の抽出方法〕
カテキン類は、茶葉をそのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。
【0025】
茶葉からカテキン類を含んだ抽出液を抽出するための抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの溶媒を使用することで効率的に抽出液を得ることができる。
【0026】
茶葉からカテキン類を含んだ抽出液を抽出する際の抽出温度としては目的成分が抽出される限りにおいて特に限定されないが、大気圧下においては0℃~100℃であることが好ましく、5℃~100℃であることがより好ましく、10℃~99℃は更に好ましく、15℃~99℃であることが最も好ましい。上記の温度範囲で抽出を行うことで、効率的に抽出液を得ることができる。抽出pHとしては2.0~8.0で抽出することが好ましく、3.0~7.5で行うことが更に好ましい。
【0027】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0028】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3~4の低級脂肪族ケトンのような非プロトン性極性溶媒;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられるが、アルコール類を用いるのが好ましい。
【0029】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水とアルコール等(低級脂肪族アルコールや多価アルコールなど、水と混合可能なもの)の混合液を抽出溶媒として使用する場合には、任意の比率、すなわち0:100超、100:0未満(容量比)の間で混和して用いることができ、その比率は作業効率や、目的成分又は除去すべき成分の抽出効率を考慮するなどして、適切な混合比率を選択することができる。例えば、水とアルコールとの混合溶媒を使用する場合には、水とアルコールとの混合比を90:10(容量比,以下同様に表記)以上、更には70:30以上とすることができ、あるいは10:90以下、15:85以下とすることができる。また、低脂肪族ケトンなどの非プロトン性極性溶媒は、水、又は水とアルコールの混合溶媒に適宜混和することができる。混合比率は、作業効率や、目的成分又は除去すべき成分の抽出効率を考慮するなどして、適切な混合比率を選択する。
【0030】
抽出処理は、抽出原料である茶葉に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法、例えばバッチ式や連続式(ドリップ式)など、様々な方法に従って行うことができる。例えば、バッチ式の場合、抽出原料の10~50倍量(質量比)、好ましくは10~30倍量、更に好ましくは10~25倍量の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温、加温又は還流加熱下で攪拌又は静置して可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。
【0031】
得られた抽出液から溶媒を留去すると濃縮物が得られ、この濃縮物を更に乾燥すると乾燥物が得られる。抽出液を濃縮して濃縮物又は濃縮液を得るための方法としては、真空蒸発法、凍結濃縮法、逆浸透濃縮法などの公知の手段を用いることができる。また、抽出物、濃縮物又は濃縮液を乾燥して乾燥物を得るための方法としては、凍結乾燥法、真空乾燥法、噴霧乾燥法等の公知の手段を採用することができる。
【0032】
〔プロテアーゼの含有量とカテキン類の総含有量の比率〕
本実施形態に係る口腔内バイオフィルム形成阻害剤における、プロテアーゼの含有量をカテキン類の総含有量で除した、プロテアーゼの含有量とカテキン類の総含有量の比率(プロテアーゼの含有量/カテキン類の総含有量)は、0.001~1000であることが好ましく、0.01~800であることが好ましく、0.05~600であることがより好ましい。当該比率が上記の範囲にあることにより、バイオフィルムの形成を十分に阻害することができる。
【0033】
また、本実施形態に係る口腔内バイオフィルム形成阻害剤における、プロテアーゼの含有量をガレート型カテキンの含有量で除した、プロテアーゼの含有量とガレート型カテキンの含有量の比率(プロテアーゼの含有量/ガレート型カテキンの含有量)は、0.001~1000であることが好ましく、0.01~800であることが好ましく、0.05~600であることがより好ましい。当該比率が上記の範囲にあることにより、バイオフィルムの形成をより十分に阻害することができる。
【0034】
〔口腔内バイオフィルム形成阻害剤の用途〕
以下に本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤の用途を例示するが、本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤は、これらの例示以外にもプロテアーゼとカテキン類を有効成分とする口腔内バイオフィルム形成阻害剤が有するバイオフィルム形成阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0035】
本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。また、口腔内バイオフィルム形成阻害剤は、他の組成物に配合して使用することができる。
【0036】
本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤を製剤化した場合、口腔内バイオフィルム形成阻害剤の有効成分であるプロテアーゼとカテキン類の製剤における含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。なお、本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤は、必要に応じて、抗酸化作用又は抗菌作用などを有する他の天然抽出物等とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0037】
〔口腔用組成物〕
本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤は、口腔内における細菌のバイオフィルム形成を阻害することを目的とした口腔用組成物に配合することができる。この場合、口腔内バイオフィルム形成阻害剤をそのまま配合してもよいし、口腔内バイオフィルム形成阻害剤を製剤化したものを配合してもよい。
【0038】
口腔用組成物としては、例えば、練り歯磨き、液状歯磨き、泡状歯磨き等の歯磨き剤、入歯安定剤、歯肉マッサージクリーム、局所塗布剤、洗口剤、マウスウォッシュ、口中清涼剤、タブレット、口腔用ウエットティッシュ、口腔湿潤用ジェル剤等が挙げられる。
【0039】
口腔用組成物に含まれる口腔内バイオフィルム形成阻害剤の配合量としては、有効成分であるプロテアーゼが、0.005~5質量%となるように配合されることが好ましく、カテキン類が0.0003~3質量%となるように配合されることが好ましい。当該範囲にあることで、口腔用組成物のバイオフィルム形成阻害能がより十分なものとなり、また口腔用組成物の風味に影響を与えにくくなる。
【0040】
口腔用組成物の他の例としては、飲食品が挙げられる。ここで、飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品、機能性食品、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。本実施形態に係る飲食品は、当該飲食品又はその包装に、プロテアーゼ及びカテキン類を有効成分とする口腔内バイオフィルム形成阻害剤が有する好ましい作用を表示することのできる飲食品であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品及び医薬品であることが特に好ましい。
【0041】
本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤を飲食品に配合する場合は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる飲食品の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりのプロテアーゼ及びカテキン類がそれぞれ約0.1~1000mgになるように配合することが好ましい。
【0042】
本実施形態の飲食品は、口腔内バイオフィルム形成阻害剤をその活性を妨げないような任意の飲食品に配合したものでもよいし、これらの成分を主成分とする栄養補助食品であってもよい。
【0043】
本実施形態の飲食品を製造する際には、そのまま粉末化、あるいは水溶液として飲食品とすることもできるほか、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類などの任意の助剤を添加して任意の形状の飲食品にすることができる。
【0044】
本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤を配合し得る飲食品は特に限定されないが、その具体例としては、菓子、パン、キャンディー、チューインガム、グミ、ゼリー、チョコレート、錠菓、清涼飲料、その他種々の形態の健康・栄養補助食品、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などが挙げられる。これらの飲食品に口腔内バイオフィルム形成阻害剤を配合するときには、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0045】
なお、本実施形態の口腔内バイオフィルム形成阻害剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例0046】
以下、口腔内バイオフィルム形成阻害剤の製造例、試験例等を示すことにより本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態は下記の製造例、試験例等に何ら限定されるものではない。
【0047】
カテキン類を含有する試料として、市販のTF90S(伊藤園社製)と、下記の抽出方法で茶葉から抽出したTE1を用いた。
【0048】
〔TE1の抽出方法〕
荒茶の茶葉を粉砕した粉砕茶葉30gに、70%エタノール溶液300mlを加え、20分間、室温で抽出を行った。抽出後に遠心し、液体部分を回収した。この粉砕茶葉からの抽出及び液体部分の回収の作業を3回繰り返し、得られた液体を、ADVANTEC No.2フィルター(アドバンテック社)を用いて吸引濾過し、エバポレーターで減圧濃縮後、凍結乾燥機に付して乾燥物(TE1)を得た。TE1の抽出効率は36.0%であった。抽出効率は以下の計算式1より算出した。
(式1)
抽出効率(%)=可溶性固形分(Brix)(%)× 抽出液量 / 原料使用量(g)
なお、可溶性固形分(Brix)は、光学屈折率計(アタゴ社製、装置名RX-5000α-Bev)を用いて測定した。
【0049】
〔カテキン類の定量〕
TF90S及びTE1を5mgずつ蒸留水1mLに溶解させ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、TF90S及びTE1それぞれに含まれるカテキン類の含有量を測定した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は以下の条件で実施し、検量線法により定量して抽出物100mgあたりの含有量として求めた。TF90S及びTE1に含まれる各カテキン類等の含有量を表1に示す。なお、表1中のGカテキン総量は、ガレート型カテキンの合計量、カテキン類総量は8種のカテキン類の合計量、n.d.は検出限界以下を意味する。
(HPLC条件)
装置名:Waters Alliance 2695セパレーションモジュール
カラム : YMC J‘sphere ODS-H80 φ3.0×250mm(ワイエムシィ社製)
カラム温度:40℃
移動相A:水
移動相B:アセトニトリル
移動相C:1%リン酸
流速:0.43mL/min
検出器:Waters 2487 デュアル波長吸光度検出器 又は Waters 2996 PDA検出器
検出波長:230nm
グラジエントプログラム:
[送液開始 条件I(A相:B相:C相=82.7:7.3:10)]→
[0分~5分 条件I(A相:B相:C相=82.7:7.3:10)を維持]
[5分~10分 条件Iから条件IIへ直線的に変化]→
[10分 条件II(A相:B相:C相=80.5:9.5:10)]→
[10分~15分 条件II(A相:B相:C相=80.5:9.5:10)を維持]
[15分~25分 条件IIから条件IIIへ直線的に変化]→
[25分 条件III(A相:B相:C相=76:14:10)]→
[25分~40分 条件III(A相:B相:C相=76:14:10)を維持]
[40分~45分 条件IIIから条件IVへ直線的に変化]→
[45分 条件IV(A相:B相:C相=49:41:10)]→
[45~55分 条件IV(A相:B相:C相=49:41:10)を維持]
[55分~60分 条件IVから条件Vへ直線的に変化]→
[60分 条件V(A相:B相:C相=82.7:7.3:10)]→
[60~74分 条件V(A相:B相:C相=82.7:7.3:10)を維持]
【0050】
【表1】
【0051】
〔カテキン類溶液及びプロテアーゼ溶液の調製〕
TF90S及びTE1をそれぞれ蒸留水にて溶解し、0.22μmのフィルター(Minisart(登録商標)NMLシリンジフィルター、ザルトリウス社)にて濾過滅菌を行い、10mg/mlのTF90S溶液と、10mg/mlのTE1溶液を得た。また、プロテアーゼとして、パパイン、ブロメライン(いずれも富士フイルム和光純薬社)をそれぞれ蒸留水に溶解し、0.22μmのフィルター(Minisart(登録商標)NMLシリンジフィルター、ザルトリウス社)にて濾過滅菌を行い、20mg/mlのパパイン溶液と、10mg/mlのブロメライン溶液を得た。
【0052】
〔プロテアーゼ活性の測定〕
本試験に用いたパパイン溶液及びブロメライン溶液のプロテアーゼ活性の測定方法を以下の手順に従い行った。
基質溶液2%アゾカゼイン含有リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、100μL)に、パパイン溶液及びブロメライン溶液をそれぞれ表2及び3に示す濃度になるように添加し、反応(37℃、10分)させた後、トリクロロ酢酸溶液(153mM)600μLを加えて反応を停止した。その後、各反応液を遠心分離(14000rpm、10分、4℃)に供し、上清を回収し、440nmにおける吸光度を測定した。1分あたりに吸光度A440を0.001上昇させる活性を1unitとした結果を、それぞれ表2及び3に示す。表2及び3より、本試験に用いたパパイン及びブロメラインは十分なプロテアーゼ活性を有していたことが分かる。なお、表2中のN.T.は未試験(Not tested)を意味する。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】
【0055】
〔Human Saliva coat 96well plateの調製〕
96ウェルマイクロタイタープレートの1ウェルあたりにヒト唾液(コスモバイオ, Normal, Pooled Donors) 20μlを滴下し、4℃で一晩放置した。その後、PBSにて2回洗浄し、Human Saliva coat 96well plateとした。
【0056】
〔バイオフィルム形成阻害能の測定〕
まず、前培養したストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)UA159株の培養液を遠心した後に、前培養用の液体培地のみを取り除き、代わりに滅菌水を加え、OD660(optical density,光学密度)が0.2となるように菌液を調製した。
続いて、Human Saliva coat 96well plateの1ウェルあたりに、菌液を10μl、終濃度の2倍の濃度であるBrain Heart Infusion培地(BHI培地)を100μl加えた。なお、BHI培地には、終濃度が0.25%となるようにスクロースを加えた。
続いて、各ウェルにパパイン溶液、ブロメライン溶液、TE1溶液、TF90S溶液を、パパイン及びTE1の組み合わせ(表4)、パパイン及びTF90Sの組み合わせ(表5)、ブロメラインとTE1の組み合わせ(表6)、ブロメライン及びTF90Sの組み合わせ(表7)で、各表に示した濃度となるように加え、滅菌水で200μl/wellとなるように調製した。
続いて、37℃、5%COの条件で20時間、培養を行った。培養後、BHI培地を取り除き、細胞が付着している各ウェルの底部を蒸留水にて2回洗浄した。その後、各ウェルの底部に形成されたバイオフィルムをグラムサフラニン溶液(日本ベクトン・ディッキンソン社)で染色し、70%エタノールにより色素を抽出し、吸光度492nmを測定することにより、バイオフィルム形成量を測定した。測定にはマイクロプレートリーダー(SH-1000、コロナ電気社)を用いた。また、TF90S、TE1、パパイン、ブロメラインを含まない以外は上記と同様の条件で、ストレプトコッカス・ミュータンスを培養したものをコントロールとして用いた。
測定の結果を表4~7に示す。結果は、コントロールの測定結果を1としたときの相対値として示した。また、表中のPPはパパイン、BRはブロメラインを示す。なお、表中のN.T.は未試験(Not tested)を意味する。
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
(バイオフィルム形成阻害能の測定試験についての考察)
表4~7に示すように、プロテアーゼとカテキン類を組み合わせた場合の結果は、コントロールの結果、プロテアーゼを単独で用いた結果、カテキン類を含有する試料を単独で用いた結果と比して、バイオフィルムの形成量が低いという結果になった。当該結果より、プロテアーゼとカテキン類を組み合わせることで、バイオフィルムの形成を効果的に阻害できることが分かった。
また、表4及び表5、並びに表6及び表7において、TF90Sとプロテアーゼの組み合わせの結果と、TE1とプロテアーゼの組み合わせの結果とを比較すると、TF90SはTE1よりも1/10倍近く低い濃度であるにも関わらず、同等のバイオフィルムの形成阻害能を有している。ここで、表1を参照するとTF90SはTE1のおよそ4倍のガレート型カテキンを含んでいることが分かる。この点から、TE1よりも濃度が低いTF90Sが、TE1と同等のバイオフィルムの形成阻害能を有するのは、TE1と比べてTF90Sが多くのガレート型カテキンを含んでいることに起因すると考えられる。すなわち、バイオフィルムの形成を阻害するには、ガレート型カテキンが効果的であると考えられる。
【0062】
以下に、本発明の口腔内バイオフィルム形成阻害剤を含む口腔用組成物の配合例を示す。
【0063】
〔配合例1〕
常法により、下記の組成を有する口腔内バイオフィルム形成阻害用マウスウォッシュを製造した。
口腔内バイオフィルム形成阻害剤 1.0質量部
第二リン酸カルシウム 45.0質量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0質量部
グリセリン 20.0質量部
ラウリル硫酸ナトリウム 2.0質量部
香料 1.0質量部
グリチルリチン 0.1質量部
精製水 30.0質量部
【0064】
〔配合例2〕
常法により、下記の組成を有する口腔内バイオフィルム形成阻害用飴を製造した。
口腔内バイオフィルム形成阻害剤 1.0質量部
ショ糖 70.0質量部
水飴 30.0質量部
クエン酸 1.0質量部
香料 0.1質量部
水 20.0質量部
【0065】
〔配合例3〕
常法により、下記の組成を有する口腔内バイオフィルム形成阻害用チューインガムを製造した。
口腔内バイオフィルム形成阻害剤 1.0質量部
チューインガムベース 20.0質量部
キシリトール 55.0質量部
水飴 20.0質量部
軟化剤 4.0質量部
香料 0.8質量部
【0066】
〔配合例4〕
常法により、下記の組成を有する口腔内バイオフィルム形成阻害用練り歯磨きを製造した。
口腔内バイオフィルム形成阻害剤 2.0質量部
炭酸カルシウム 39.0質量部
ソルビトール 22.0質量部
カルボキシメチルセルロース 1.1質量部
ラウリル硫酸ナトリウム 1.3質量部
サッカリン 0.1質量部
香料 1.0質量部
塩酸クロルヘキシジン 0.01質量部
精製水 35.0質量部
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、食品や植物に由来するプロテアーゼとカテキン類を有効成分とした、安全に使用できる口腔内バイオフィルム形成阻害剤を提供することができる。