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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031805
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】トポロジカル光スイッチ
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/313 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
G02F1/313
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137523
(22)【出願日】2021-08-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」、「人工グラフェンに基づくトポロジカル状態創成と新規特性開発」、「トポロジカルフォトニクスの光通信デバイス応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 智宏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 祥
(72)【発明者】
【氏名】古月 暁
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA10
2K102AA21
2K102AA28
2K102BA01
2K102BA08
2K102BB04
2K102BC01
2K102BC04
2K102BC10
2K102BD01
2K102CA00
2K102DA09
2K102DA11
2K102DD07
2K102DD10
(57)【要約】
【課題】光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができるトポロジカル光スイッチを提供する。
【解決手段】トポロジカル光スイッチ100は、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152との交差位置に配置され、No bandgapのフォトニック構造体からなるX領域150と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカルエッジ171と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161およびX領域150との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカルエッジ172と、を有する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第1トポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)と、
前記第1トポロジカルフォトニック構造体に交差するように配置され、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第2トポロジカルフォトニック構造体と、
前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第2トポロジカルフォトニック構造体との交差位置に配置され、No bandgapのフォトニック構造体からなるX領域と、
前記第2トポロジカルフォトニック構造体および前記X領域の一方の側と前記第1トポロジカルフォトニック構造体との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第1フォトニック構造体(Trivial photonic structure)と、
前記第2トポロジカルフォトニック構造体および前記X領域の他方の側と前記第1トポロジカルフォトニック構造体との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第2フォトニック構造体と、
前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第1フォトニック構造体および前記第2フォトニック構造体との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカルエッジと、
前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第1フォトニック構造体および前記X領域との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカルエッジと、を有する
ことを特徴とするトポロジカル光スイッチ。
【請求項2】
内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第1トポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)と、
前記第1トポロジカルフォトニック構造体に交差するように配置され、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第2トポロジカルフォトニック構造体と、
前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第2トポロジカルフォトニック構造体との交差位置に配置され、フォトニック結晶の相状態を変化させる相変化材料が装荷されたフォトニック構造体からなるX領域と、
前記第2トポロジカルフォトニック構造体および前記X領域の一方の側と前記第1トポロジカルフォトニック構造体との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第1フォトニック構造体(Trivial photonic structure)と、
前記第2トポロジカルフォトニック構造体および前記X領域の他方の側と前記第1トポロジカルフォトニック構造体との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第2フォトニック構造体と、
前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第1フォトニック構造体および前記第2フォトニック構造体との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカルエッジと、
前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第1フォトニック構造体および前記X領域との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカルエッジと、を有する
ことを特徴とするトポロジカル光スイッチ。
【請求項3】
前記X領域は、入力される制御光と信号光の位相干渉をもとに信号光の出力方向を切り替える
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項4】
前記X領域は、入力される制御光と信号光の位相差に応じて信号光の出力方向を切り替える
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項5】
前記第2トポロジカルフォトニック構造体と前記第2フォトニック構造体との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第3トポロジカルエッジを有し、
前記X領域は、前記第3トポロジカルエッジに入力され光渦伝播した制御光と、前記第1トポロジカルエッジに入力され光渦伝播した信号光との位相差に応じて信号光の出力方向を切り替える
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項6】
前記X領域は、前記第3トポロジカルエッジに入力され光渦伝播した制御光と、前記第1トポロジカルエッジに入力され光渦伝播した信号光とが同位相である場合、この信号光を前記第1トポロジカルエッジの第1ポートに出力し、逆位相である場合、この信号光を前記第2トポロジカルエッジの第2ポートに出力するように信号光の出力方向を切り替える
ことを特徴とする請求項5に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項7】
トポロジカルフォトニック構造体またはフォトニック構造体は、蜂の巣格子状のセルとセルに配列されたC6v対称性を有するナノホールとを有するフォトニック結晶からなり、
蜂の巣格子のセルの中心からナノホールの中心までの距離Rと、ナノホールの1辺の長さLと、を設定する場合、
距離Rは、Trivial状態からTopological状態への推移を司る変数であり、
1辺の長さLは、バンド全体を上下させ、バンドギャップ中心の制御を司る変数であり、
前記フォトニック結晶は、
R<Period/3のとき、Trivial状態、
R=Period/3のとき、No bandgap状態、
R>Period/3のとき、Topological状態である
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項8】
前記X領域は、R=Period/3のフォトニック結晶である
ことを特徴とする請求項7に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項9】
前記X領域は、前記フォトニック結晶のトポロジーに変化を与えるバンドエンジリアリングを用いて入力される信号光の出力方向を切り替える
ことを特徴とする請求項2に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項10】
前記相変化材料は、前記フォトニック結晶に可逆的に物理特性を変化させる機能性材料である
ことを特徴とする請求項2に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項11】
前記相変化材料は、光誘起相転移させた場合、前記フォトニック結晶の単位胞において特定箇所の屈折率が、
Topological状態、
バンドギャップが消失するBand inversion状態、
Trivial状態のいずれかに前記フォトニック結晶の相状態が変化する
ことを特徴とする請求項2に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項12】
トポロジカルフォトニック構造体は、配列されたセル内で対称性を有する誘電体を備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項13】
トポロジカルフォトニック構造体は、C6v対称性を有するナノホールを含む誘電体が蜂の巣格子状セルに配列される構造を備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトポロジカル光スイッチ。
【請求項14】
トポロジカルフォトニック構造体は、Zトポロジーで表わされるトポロジカル構造である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトポロジカル光スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トポロジカルフォトニクスを利用したトポロジカル光スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
光ネットワークに用いられている各種光素子には、レーザ、変調器、多重化素子、光スイッチ等がある。光集積回路は、光通信で必須とされる種々の機能をワンチップ上に一括集積したものである。単一機能の光デバイスに比べて、実装コスト・消費電力・サイズなどの低減が可能なことから、数多くのモジュールが実用化されており、現在の光市場を席巻している。
一般的な光集積回路においては、伝播光のモードは、TEモード(Transverse Electric mode)またはTMモード(Transverse Magnetic mode)に固定される。そのため、光回路上に集積された各種デバイスは、それらのモードに対して動作するように設計されている。
【0003】
近年、光の自由度を積極的に利用した通信方式に関心が集まっている。特に、光渦(光の軌道角運動量)には、未開拓の領域が多く残っていることから研究が盛んになっている。光渦は、波面のらせん周期に情報を乗せることで、理論上無限チャネル多重化が可能であり、光通信との親和性が極めて良いとされている。
【0004】
特許文献1には、第1層と、第1層に対向する第2層とを備え、第1層は、各々が光学異方性を有する複数の第1構造体を含み、第2層は、第1層から入射した光を反射する際は、光の入射時と反射時とで光の偏光状態を維持したまま光を反射する、光学素子が記載されている。特許文献1の段落[0258]には、「光LT2は、光渦として出射される。光渦とは、特異点を有し、等位相面が螺旋面を形成する光のことである。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-84679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来型の光回路の一部をトポロジカルフォトニクス系に置き換えることで、光回路内において光渦伝播をはじめとした各種制御を行うことを目指している(TPICs : Topological Photonic Integrated Circuits)。
しかしながら、トポロジカルフォトニクス系において、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行う技術は実現されていない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができるトポロジカル光スイッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、本発明に係るトポロジカル光スイッチは、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第1トポロジカルフォトニック構造体と、前記第1トポロジカルフォトニック構造体に交差するように配置され、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第2トポロジカルフォトニック構造体と、前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第2トポロジカルフォトニック構造体との交差位置に配置され、No bandgapのフォトニック構造体からなるX領域と、前記第2トポロジカルフォトニック構造体および前記X領域の一方の側と前記第1トポロジカルフォトニック構造体との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第1フォトニック構造体と、前記第2トポロジカルフォトニック構造体および前記X領域の他方の側と前記第1トポロジカルフォトニック構造体との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第2フォトニック構造体と、前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第1フォトニック構造体および前記第2フォトニック構造体との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカルエッジと、前記第1トポロジカルフォトニック構造体と前記第1フォトニック構造体および前記X領域との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカルエッジと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができるトポロジカル光スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のトポロジカル光スイッチに用いるトポロジカルエッジ伝送路(Topological edge state waveguide)の構造を説明する図である。
図2】本発明のトポロジカル光スイッチにおけるC6v対称性を有するナノホールの構造を示すブリルアンゾーンの図である。
図3】本発明のトポロジカル光スイッチにおけるトポロジカルフォトニック結晶の特性を説明するためのC6v対称性を有するナノホールの構造を示す図である。
図4図3に示すトポロジカルフォトニック結晶を用いたトポロジカルエッジ伝送路のフォトニック構造体とトポロジカルフォトニック構造体の、Trivial状態とNo bandgap状態とTopological状態の各フォトニックバンド図である。
図5】本発明のトポロジカル光スイッチのトポロジカルフォトニック結晶を用いた光渦伝播を説明する図である。
図6A】本発明のトポロジカル光スイッチのトポロジカルフォトニック結晶を用いた光渦伝播を説明する図である。
図6B】本発明のトポロジカル光スイッチのトポロジカルフォトニック結晶を用いた光渦伝播を説明する図である。
図6C】本発明のトポロジカル光スイッチのトポロジカルフォトニック結晶を用いた光渦伝播を説明する図である。
図6D】本発明のトポロジカル光スイッチのトポロジカルフォトニック結晶を用いた光渦伝播を説明する図である。
図7A】本発明のトポロジカル光スイッチの外因的手法を用いたトポロジカル光スイッチの概念図である。
図7B】本発明のトポロジカル光スイッチの内因的手法を用いたトポロジカル光スイッチの概念図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル光スイッチの素子構造を示す図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル光スイッチのFDTD法により計算されたトポロジカル導波路での位相分布を示す図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル光スイッチの素子構造を示す図である。
図11】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル光スイッチのFDTD法により計算されたトポロジカル光スイッチの伝播モード分布を示す図であり、左図は、信号光に対し制御光が同位相(位相差0°)の場合の伝播モード分布を示し、右図は、信号光に対し制御光が逆位相(位相差180°)の場合の伝播モード分布を示す。
図12】本発明の第2実施形態に係るトポロジカル光スイッチの素子構造を示す図である。
図13】本発明の第2実施形態に係るトポロジカル光スイッチの相変化材料を装荷したトポロジカル結晶(PhC)の単位胞の一例を示す図である。
図14】本発明の第2の実施形態に係るトポロジカル光スイッチのフォトニック結晶(PhC)の単位胞において特定箇所の屈折率を変化させた際のフォトニックバンドギャップ幅の推移のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(原理説明)
トポロジカル絶縁体(Topological insulator)やワイル半金属(Weyl Semimetal)などにおける電子系のトポロジーをフォトンの系にトレースする試みは、トポロジカルフォトニクスと呼ばれ、近年急速に進展している。トポロジカル絶縁体は、バルクはエネルギーギャップを持つ絶縁体でありながら、エッジ(2次元系では端、3次元系では表面)にギャップレスの金属状態が生じている物質をいう。
【0012】
特に、C6v対称性(60°回転させると重なる対称性)を有する誘電体が蜂の巣格子状に配列された構造におけるZトポロジー(電子波動関数のもつトポロジカルな構造の分類における一つのクラス)の発現は、光渦の伝送が可能なトポロジカルエッジ状態の実現を可能にする。
【0013】
トポロジカルフォトニクスとは、電子系のトポロジー概念をフォトンの系にトレースする試みであり、特に、C6v対称性を有する誘電体が蜂の巣格子状に配列された構造においては、その「誘電体配置」を変化させることで、トポロジーの異なる2種類のフォトニック結晶(PhC)を作り出すことが可能となる。
【0014】
2種類のフォトニック結晶(PhC)は、Trivial Photonic Crystalと、Topological Photonic Crystalと、である。
Trivial Photonic Crystalは、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である「自明な」(普通の)フォトニック構造体である。Topological Photonic Crystalは、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であるが、そのエッジがバンドギャップレスの金属状態であるフォトニック構造体である。
【0015】
これら2つのフォトニック結晶(PhC)のPhC界面(Interface)には、光渦モードが伝播されることが知られており(トポロジカル伝送路)、光回路内において光渦を制御する上で有望な手法となる。
【0016】
<トポロジカルエッジ伝送路の設計>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル光スイッチに用いるトポロジカルエッジ伝送路(Topological edge state waveguide)20の構造を説明する図(Si-based topological edge state waveguide used in simulation)である。
図1に示すように、トポロジカルエッジ伝送路20は、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体であるフォトニック構造体(Trivial photonic structure)11と、トポロジカルエッジ伝送路20は、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)12と、フォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ(Topological edge)13と、を有する。
【0017】
<フォトニック構造体>
フォトニック構造体(Trivial PhC)11は、C6v対称性を有する第1誘電体111が蜂の巣格子状(例えば、周期a=800nm)に配列された構造である。
トポロジカルフォトニック構造体(Topological PhC)12は、C6v対称性を有する第2誘電体112が蜂の巣格子状(例えば、周期a=800nm)に配列された構造である。
【0018】
第1誘電体111は、SOI(Silicon-On-Insulator)ウェハ上に、C6v対称性を有するナノホール111aを蜂の巣格子状(周期a=800nm)のセル(unit cell)121(単位胞)に配列したナノ(nm,1nm=10-9m)構造を用いる。
第2誘電体112は、SOIウェハ(例えばSi膜厚220nm)131上に、C6v対称性を有するナノホール112aを蜂の巣格子状(周期a=800nm)のセル122(単位胞)に配列したナノ構造を用いる。
第1誘電体111のナノホール111aと第2誘電体112のナノホール112aは、蜂の巣格子のセル121,122中心からナノホール111a,112aの中心までの距離Rおよびナノホール1辺の長さLのパラメータがそれぞれ異なる(後記)。
【0019】
トポロジカルフォトニクス系では、誘電体がハチの巣状誘電体部の△の一辺の長さと、セルの中心からの距離がわずかに異なる2種類のフォトニック構造の界面にトポロエッジ状態が発生し、そこを光が伝播する。光渦の回転の向きにより、左か右の一方向のみにしか伝播しない。図1では、フォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界のトポロジカルエッジ13には、トポロジカルエッジモード(Topological edge mode)が発現している。
トポロジカルフォトニック構造体12によって作られた2つの領域の界面に生じる光状態(トポロジカルエッジ状態)は、特定の偏光・光渦を有する光のみを許容し、これら特定の偏光・光渦は伝播方向依存性を有する。
【0020】
<C6v対称性を有するナノホールの構造>
図2は、C6v対称性を有するナノホールの構造を示すブリルアンゾーン(Brillouin Zone)の図(Schematic image of a unit cell in the reciprocal space)である。フォトニック構造体11の第1誘電体111のナノホール111aを例に採る。トポロジカルフォトニック構造体12の第2誘電体112のナノホール112aについても同様の構造である。
図2の右図に示すように、蜂の巣格子のセル121の中心をブリルアンゾーンの中心(原点)Γ点とする。また、ブリルアンゾーンの高対称点として、M点(長方形面の中心)、K点(2つの長方形面をつなぐ辺の中心)、A点(六角形面の中心)、H点(端点)、L点(六角形面と長方形面をつなぐ辺の中心)がある。
【0021】
図2の左図に示すように、Si膜133は、蜂の巣格子状のセル121とセル121に配列されたC6v対称性を有するナノホール111aとが形成される。残存Si膜133と当該Si膜133に開孔したナノホール111aからなるフォトニック構造は、フォトニック構造体11の第1誘電体111を形成する。図2の左図は、フォトニック構造体11のセル121を上面手前の斜め上から見た図であり、開孔したナノホール111aの下のSiO絶縁膜132が露出している。
図2の左図のナノホール111aは、蜂の巣格子のセル121の中心(Γ点)からナノホール111aの中心までの距離R、ナノホール111aの1辺の長さLをパラメータとする。隣り合うナノホール111aのセル121の中心角は、π/3である。
フォトニック構造体11のナノホール111aの場合、例えばR=240nm,L=240nmである。
また、トポロジカルフォトニック構造体12のナノホール112aの場合、例えばR=290nm,L=250nmである。
さらに、図2の左図に示すように、隣り合う蜂の巣格子のセル121同士の中心(Γ点)間距離a1、a2は、同じ(ここでは、a1=a2=800nm≡a)である。
【0022】
<トポロジカルフォトニック結晶の特性>
図3は、トポロジカルフォトニック結晶の特性を説明するためのC6v対称性を有するナノホールの構造を示す図である。図2と同一構成部分には同一符号を付している。
図3に示すように、ナノホール111aは、蜂の巣格子のセル121(単位胞)の中心(Γ点)から三角ナノホール111aの中心(重心)までの距離R、ナノホール111aの1辺の長さLをパラメータとする。隣り合うナノホール111aのセル121の中心角は、π/3である。
フォトニック構造体11のナノホール111aの場合、例えばR=213nm,L=281nmである。
また、トポロジカルフォトニック構造体12のナノホール112aの場合、例えばR=264nm,L=284nmである。
また、隣り合う蜂の巣格子のセル121同士の中心(Γ点)間距離a(周期)は、同じ(ここでは、二次元解析のため、a=730nm)である。
【0023】
<トポロジカルフォトニック結晶のフォトニックバンド図>
図4は、図3に示すトポロジカルフォトニック結晶を用いたトポロジカルエッジ伝送路のフォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の、Trivial状態とNo bandgap状態とTopological状態の各フォトニックバンド図(Typical photonic bands for (left) trivial and (right) topological photonic crystals)である。図4の各フォトニックバンド図において、波長λ=1.55μmがバンドギャップ中心である(図4の破線参照)。
図4の各フォトニックバンド図の横軸にWave vector(2■/■)をとり、縦軸にNormalized frequency(ωa/2■c=■/λ)をとる。図4の各バンド図の横軸のWave vector(2■/■)のΓ点は、蜂の巣格子状のセル121(図3参照)のブリルアンゾーンの中心、K点は2つの長方形面をつなぐ辺の中心、M点は長方形面の中心である(図3参照)。
【0024】
図4はまた、図3に示すトポロジカルフォトニック結晶のフォトニックバンドの推移を表わしている。フォトニックバンドは、変数である、蜂の巣格子のセル121(単位胞)の中心(Γ点)から三角ナノホール111aの中心(重心)までの距離Rと、ナノホール111aの1辺の長さLと、により推移させることができる。
【0025】
変数Rは、主にTrivial状態からTopological状態への推移を司る。
R<Period/3のとき、図3に示すトポロジカルフォトニック結晶は、Trivial状態である(図4のTrivial状態における2つのバンド図参照。図4では「Period」を「a」と表記)。
R=Period/3のとき、No bandgap状態である(図4のNo bandgap状態におけるバンド図参照)。後記するX領域(図8および図10参照)には”No bandgap”の構造を用いる。
R>Period/3のとき、Topological状態である(図4のTopological状態における2つのバンド図参照)。
【0026】
変数Lは、主にバンド全体を上下させ、バンドギャップ中心の制御を司る。例えば、変数Lを変えると、バンドギャップ中心(バンド形状)は変わらずに、バンド全体を上下させることができる。
【0027】
<トポロジカルフォトニック結晶を用いた光渦伝播>
図5および図6A-Dは、トポロジカルフォトニック結晶を用いた光渦伝播を説明する図である。図1図4と同一構成部分には同一符号を付している。
図5の下図は、FDTD法(Finite-difference time-domain method:有限差分時間領域法)により計算されたトポロジカルエッジ伝送路(フォトニック構造体(Trivial PhC)11とトポロジカルフォトニック構造体(Topological PhC)12の境界(Interface))近傍の磁界分布(Hz)を示す図(Calculated magnetic field Hz)である。横軸にx軸(x axis)(μm)、縦軸にy軸(y axis)(μm)をとる。
図5および図6A-Dの濃淡は、磁界分布(Hz)の強度(濃いほど強度が大きい)を表わしている。図5の下図に示すように、電磁場は、フォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界のトポロジカルエッジ13に局在している。
【0028】
図5の上図は、図5の下図のトポロジカルエッジ伝送路(フォトニック構造体(Trivial PhC)11とトポロジカルフォトニック構造体(Topological PhC)12の境界(Interface))近傍の磁界分布(Hz)に対応するフォトニックバンド図である。図5の上図は、図4に対応している。
【0029】
図6Aは、図5の符号Aに示すTrivial状態におけるd±(電磁モード)のバンドギャップ磁界分布(Hz)を示す図、図6Bは、図5の符号Bに示すTrivial状態におけるp±(電磁モード)のバンドギャップ磁界分布(Hz)を示す図、図6Cは、図5の符号Cに示すTopological状態におけるd±,p±のバンドギャップ磁界分布(Hz)を示す図、図6Dは、図5の符号Dに示すTopological状態におけるd±,p±のバンドギャップ磁界分布(Hz)を示す図である。図6A-Dは、横軸にx軸(xaxis)(μm)、縦軸にz軸(z axis)(μm)をとる。
【0030】
図5の上図に示すように、フォトニック構造体(Trivial PhC)11とトポロジカルフォトニック構造体(Topological PhC)12のバンドの概形は、ほぼ同形状である。しかし、Γ点での電磁モードが反転(バンド反転)しており、物理的に異なる。
【0031】
図5の下図に示すように、フォトニック構造体(Trivial PhC)11とトポロジカルフォトニック構造体(Topological PhC)12のPhC界面(Interface)、すなわちバンドが閉じる界面(Interface)で、トポロジカル伝送路13が発現され、光渦モードが伝播される。
【0032】
<2種類のトポロジカル光スイッチのアプローチ>
トポロジカル光スイッチ実現のための2つのアプローチを提案する。光渦伝播の切り替え制御は、報告はなく、本発明者らがはじめて開示するものである。
図7A,Bは、2種類のトポロジカル光スイッチの概念図であり、図7Aは、外因的手法を用いたトポロジカル光スイッチの概念図、図7Bは、内因的手法を用いたトポロジカル光スイッチの概念図である。
【0033】
図7Aに示す外因的手法は、素子の構成要素であるフォトニック結晶(PhC)の外側で制御を行う手法である。外因的手法を用いたトポロジカル光スイッチ(外因性光渦スイッチ)100は、トポロジカル伝送路における位相干渉を利用する。すなわち、外因的手法は、Inputの部分で位相干渉させることで、OutputをPort1または Port2に切り替える。
外因的手法を用いたトポロジカル光スイッチ100については、第1実施形態(図8図11参照)で説明する。
【0034】
ちなみに、通常の光回路で用いられているマッハツェンダー干渉計では、光導波路中を伝播する光ビームを2本の光導波路に分岐させ、位相差を与えてから合流させる。マッハツェンダー干渉計は、2つの伝送路における光の位相差を変化させて、出力の切り替えを行う。図7Aに示す外因的手法は、トポロジカル伝送路において、マッハツェンダー干渉計と同じ現象を実現する。
【0035】
図7Bに示す内因的手法は、素子の構成要素であるフォトニック結晶(PhC)自体に制御を加える手法である。内因的手法を用いたトポロジカル光スイッチ(内因性光渦スイッチ)200は、相変化材料によりフォトニックバンドを制御し、フォトニック結晶(PhC)のトポロジーに変化を与えるバンドエンジリアリングを利用する。すなわち、内因的手法は、バンドエンジリアリングを用いてInputの1入力を2出力にする。
内因的手法を用いたトポロジカル光スイッチ200については、第2実施形態(図12図14参照)で説明する。
【0036】
(第1実施形態)
図8図11は、本発明の第1実施形態に係るトポロジカル光スイッチ100の素子構造を示す図(Schematic image of proposed device.)である。図8のトポロジカル光スイッチ100は、図7Aに示す外因的手法を用いたトポロジカル光スイッチ(外因性光渦スイッチ)である。
【0037】
[素子構造]
トポロジカル光スイッチ100は、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第1トポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)151と、第1トポロジカルフォトニック構造体151に交差するように配置され、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第2トポロジカルフォトニック構造体152と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152との交差位置に配置され、入力される制御光と信号光の位相差に応じて信号光の出力方向を切り替えるNo bandgapのフォトニック構造体からなるX領域150と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152およびX領域150の一方の側に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第1フォトニック構造体(Trivial photonic structure)161と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152およびX領域150の他方の側に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第2フォトニック構造体162と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカルエッジ171と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161およびX領域150の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカルエッジ172と、を有する。
【0038】
トポロジカル光スイッチ100は、第2トポロジカルフォトニック構造体152と第2フォトニック構造体162の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第3トポロジカルエッジ173と、を有し、X領域150は、第3トポロジカルエッジ173に入力され光渦伝播した制御光と、第1トポロジカルエッジ171に入力され光渦伝播した信号光とが同位相である場合、この信号光を第1トポロジカルエッジ171のPort1(第1ポート)に出力し、逆位相である場合、この信号光を第2トポロジカルエッジ172のPort2(第2ポート)に出力するように信号光の出力方向を切り替える。
【0039】
X領域150は、フォトニックバンドギャップ幅の閉じるNo bandgapのフォトニック構造体(フォトニック結晶(PhC))である。
また、別の定義をすれば、X領域150は、図4に示すR=Period/3のときのフォトニック構造体(フォトニック結晶(PhC))である。X領域150は、例えばフォトニック結晶(PhC)にPhotonic graphene(No bandgap)を用いることができ、図4に示すR=Period/3のとき、例えば(@1550 nm)の大きさである。
【0040】
X領域150のフォトニック構造体は、トポロジカルフォトニック構造体151,152とトリビアルフォトニック構造体161,162との中間的な構造である。すなわち、トポロジカルフォトニック構造体151,152とトリビアルフォトニック構造体161,162とは、例えば単位胞の中心から三角孔の中心までの距離がそれぞれ異なる。X領域150のフォトニック構造体は、トポロジカルフォトニック構造体151,152とトリビアルフォトニック構造体161,162の上記距離とはいずれも異なり、その中間的な距離である。
【0041】
X領域150のフォトニック構造体は、図8に示すように、ハニカム構造のセルの縦横4つ分(4×4)である。ここで、X領域150のセルを縦横2つ分(2×2)にすると、フォトニックバンドギャップ幅が完全には閉じきれず、スイッチングがうまくできない。X領域150のセルを縦横4つ分(4×4)より多くすると、トポロジカル伝送路(光渦伝送路)における伝播のロスが生じる。
【0042】
第1トポロジカルフォトニック構造体151および第2トポロジカルフォトニック構造体152は、例えば図1および図3に示すトポロジカルフォトニック構造体(Topological PhC)12である。第1トポロジカルフォトニック構造体151および第2トポロジカルフォトニック構造体152は、図4に示すR>Period/3のときのTopological状態であるバンド図で示される。
【0043】
第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162は、例えば図1および図3に示すフォトニック構造体(Trivial PhC)11である。第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162は、図4に示すR<Period/3のときのTrivial状態であるバンド図で示される。
【0044】
第1トポロジカルエッジ171、第2トポロジカルエッジ172および第3トポロジカルエッジ173は、例えば図1および図3に示すフォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ13である。
【0045】
<光の位相差の再現方法>
光の位相差の再現方法について説明する。遅延導波路30を用いる方法と位相シフタ40を用いる方法とがある。いずれも、図7Aに示す外因的手法(素子の構成要素であるPhCの外側で制御を行う手法)であり、トポロジカル伝送路における位相干渉を利用する。
【0046】
まず、遅延導波路30を用いる方法について述べる。
図9は、FDTD法により計算されたトポロジカル導波路での位相分布を示す図である。横軸にx軸(x axis)(μm)、縦軸にy軸(y axis)(μm)をとる。図8と同一構成部分には同一符号を付している。
図9の矢印aに示す光渦伝播方向に光渦(図9のセル内の回転矢印参照)が伝播される。遅延導波路30を用いることで、トポロジカル導波路中で位相遅延を生じさせることができる。図9の符号bで囲んだセルと図9の符号cで囲んだセル間は、8セルあり、トポロジカル導波路中での位相遅延が積算され、8セル分の位相差は180°(すなわち逆位相)である(180 °phase difference occurs in about 8 cells)。ここでは、8セル分の位相差が180°であることが分かっている。図9の遅延導波路30を用いる方法は、構造的に位相差を設ける方法である。
X領域150(図8参照)で合波する際の片経路に、図9に示す遅延導波路30を用いることで、光の位相差を再現している。
【0047】
次に、位相シフタ40を用いる方法について述べる。
図10は、トポロジカル光スイッチ100の素子構造を示す図である。図8と同一構成部分には同一符号を付している。
図10に示すように、トポロジカル光スイッチ100は、素子の構成要素であるフォトニック結晶(PhC)の外側で、制御光部分の経路に位相シフタ40を設ける。
位相シフタ40は、電気・熱光学効果(例えば、光導波路のpn接合にバイアスを与える/バイアスを与えない)を用いて、制御光の位相差を変化させる。ここでは、位相シフタ40は、電気・熱光学効果を用いて、制御光の位相差を180°(逆位相)または0°に変化させることで、動的に位相差を与えることができる。
【0048】
[光渦伝播の切り替え制御]
図11は、FDTD法により計算されたトポロジカル光スイッチ100の伝播モード分布(磁界分布(Hz))を示す図であり、図11の左図は、信号光に対し制御光が同位相(位相差0°)の場合の伝播モード分布を示し、図11の右図は、信号光に対し制御光が逆位相(位相差180°)の場合の伝播モード分布を示している。横軸にx軸(x axis)(μm)、縦軸にy軸(y axis)(μm)をとる。
図11の左図の符号e(●印)は、信号光の位相を模式的に示しており、符号f(●印)は、制御光の位相を模式的に示している。信号光に対し制御光が同位相(●印同士)である。領域X150に到達する際に信号光と制御光が同位相で重なり合わされる場合は、一方のトポロジカル伝送路171が支配的となり、Port1に信号光が出力される。
【0049】
一方、図11の右図の符号gに示すように、領域X150に到達する際に信号光と制御光が互いに逆位相(〇印)の場合は、他方のトポロジカル伝送路172が支配的となり、Port2に信号光が出力される。
【0050】
このように、トポロジカル光スイッチ100は、信号光と制御光が領域X150(図8および図10参照)に到達する際に同位相であればPort1(図8および図10参照)に信号光が出力され、逆位相であればPort2(図8および図10参照)に信号光が出力される。例えば、制御光の位相差を電気・熱光学効果を用いた位相シフタ40(図10参照)により変化させることで、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことが可能となる。
【0051】
以上説明したように、第1の実施形態に係るトポロジカル光スイッチ100は、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第1トポロジカルフォトニック構造体151と、第1トポロジカルフォトニック構造体151に交差するように配置され、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第2トポロジカルフォトニック構造体152と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152との交差位置に配置され、No bandgapのフォトニック構造体からなるX領域150と、第2トポロジカルフォトニック構造体152およびX領域150の一方の側と第1トポロジカルフォトニック構造体151との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第1フォトニック構造体161と、第2トポロジカルフォトニック構造体152およびX領域150の他方の側と第1トポロジカルフォトニック構造体151との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第2フォトニック構造体162と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカルエッジ171と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161およびX領域150との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカルエッジ172と、を有する。
【0052】
この構成により、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができるトポロジカル光スイッチ(外因性光渦スイッチ)を提供することができる。これにより、トポロジカルシリコン光回路(Topological photonic integrated circuits:TPICs)上に集積可能なトポロジカル光スイッチを実現することができる。光渦は、理論的に多重化の制約がないので、大容量伝送向けの光渦通信技術の有力な要素技術である。
トポロジカル光スイッチ100は、トポロジカル特性の光回路への応用が可能である。光渦の伝送を用いたトポロジカル光スイッチは、半導体基板(シリコン,InPなど)上に形成することができ、半導体レーザや大容量伝送のキーコンポーネントであるマルチコアファイバとの整合性にも優れていることから光通信との親和性の向上も期待できる。
【0053】
トポロジカル光スイッチ100において、X領域150は、入力される制御光と信号光の位相干渉をもとに信号光の出力方向を切り替える。
【0054】
この構成により、位相干渉をもとに信号光の出力方向を切り替えることができ、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができる。
【0055】
トポロジカル光スイッチ100において、X領域150は、入力される制御光と信号光の位相差に応じて信号光の出力方向を切り替える。
【0056】
この位相差は、例えば、素子の構成要素であるフォトニック結晶(PhC)の外側で、制御光部分の経路に位相シフタ40を設ける。位相シフタ40は、電気・熱光学効果を用いて、制御光の位相差を180°(逆位相)または0°に変化させることで、動的に位相差を与えることができ、光渦モードを維持したまま出力方向を動的に切り替えることができる。
また、トポロジカル導波路中での位相遅延が積算する遅延導波路30を用いることで、トポロジカル導波路中で位相遅延を生じさせることができる。構造的に位相差を設けることができ、位相シフタ40が不要である。
【0057】
トポロジカル光スイッチ100において、第2トポロジカルフォトニック構造体152と第2フォトニック構造体162との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第3トポロジカルエッジ173を有し、X領域150は、第3トポロジカルエッジ173に入力され光渦伝播した制御光と、第1トポロジカルエッジ171に入力され光渦伝播した信号光との位相差に応じて信号光の出力方向を切り替える。
【0058】
この構成により、第3トポロジカルエッジ173に入力され光渦伝播した制御光の位相を変化させることで、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができる。
【0059】
トポロジカル光スイッチ100において、X領域150は、第3トポロジカルエッジ173に入力され光渦伝播した制御光と、第1トポロジカルエッジ171に入力され光渦伝播した信号光とが同位相である場合、この信号光を第1トポロジカルエッジ171のPort1(第1ポート)に出力し、逆位相である場合、この信号光を第2トポロジカルエッジ172のPort2(第2ポート)に出力するように信号光の出力方向を切り替える。
【0060】
この構成により、位相差に応じて信号光の出力方向を切り替えることができ、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができるトポロジカル光スイッチを提供することができる。
【0061】
トポロジカル光スイッチ100において、トポロジカルフォトニック構造体またはフォトニック構造体は、蜂の巣格子状のセル121とセル121に配列されたC6v対称性を有するナノホール111aとを有するフォトニック結晶からなり、蜂の巣格子のセル121(単位胞)の中心(Γ点)からナノホール111aの中心までの距離Rと、ナノホール111aの1辺の長さLと、を設定する場合、距離Rは、Trivial状態からTopological状態への推移を司る変数であり、1辺の長さLは、バンド全体を上下させ、バンドギャップ中心の制御を司る変数であり、フォトニック結晶は、
R<Period/3のとき、Trivial状態、
R=Period/3のとき、No bandgap状態、
R>Period/3のとき、Topological状態である。
【0062】
X領域150は、R=Period/3のフォトニック結晶である。
【0063】
この構成により、X領域150が、R=Period/3のフォトニック結晶であることで、No bandgapのフォトニック構造体を配置することができる。
【0064】
(第2実施形態)
図12図14は、本発明の第2実施形態に係るトポロジカル光スイッチ200の素子構造を示す図である。図12のトポロジカル光スイッチ200は、図7Bに示す内因的手法を用いたトポロジカル光スイッチ(内因性光渦スイッチ)である。図8と同一構成部分には同一符号を付している。
【0065】
[素子構造]
トポロジカル光スイッチ200は、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第1トポロジカルフォトニック構造体151と、第1トポロジカルフォトニック構造体151に交差するように配置され、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第2トポロジカルフォトニック構造体152と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152との交差位置に配置され、フォトニック結晶(PhC)の相状態を変化させる相変化材料250aが装荷されたフォトニック構造体からなるX領域250と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152およびX領域250の一方の側に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第1フォトニック構造体161と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152およびX領域250の他方の側に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第2フォトニック構造体162と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカルエッジ171と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161およびX領域250の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカルエッジ172と、を有する。
【0066】
X領域250は、No bandgapのフォトニック構造体であり、例えば、図4に示すR=Period/3のときのPhotonic graphene(No bandgap)(@1550 nm)である。
X領域250のフォトニック構造体は、トポロジカルフォトニック構造体151,152とトリビアルフォトニック構造体161,162との中間的な構造である。すなわち、トポロジカルフォトニック構造体151,152とトリビアルフォトニック構造体161,162とは、例えば単位胞の中心から三角孔の中心までの距離が異なるが、X領域250のフォトニック構造体は、トポロジカルフォトニック構造体151,152とトリビアルフォトニック構造体161,162の上記距離とはいずれも異なり、その中間的な距離である。
【0067】
X領域250のフォトニック構造体上部に、フォトニック結晶(PhC)の相状態を変化させる相変化材料250a(Functional material)を装荷する。
図13は、相変化材料250aを装荷したトポロジカル結晶(PhC)の単位胞の一例を示す図である。
相変化材料250aは、フォトニック結晶(PhC)に対して、PhC自体に可逆的に物理特性を変化させる機能性材料の一つである。相変化材料250aは、例えば、GeSbTeをはじめとするGeSbTe系カルコゲン化合物(GST)が利用される。GSTは、異なる大きさの電圧パルスを印加してジュール加熱することで可逆的に相変化する相変化材料である。GSTは、7~8Vのパルス電圧印加で結晶化して3kΩ程度の低抵抗・リセット状態,2~4Vでアモルファス・105Ωの高抵抗・セット状態になる。GSTのメリットは、相変化の高速性(数十ns)にある。
【0068】
第1トポロジカルフォトニック構造体151および第2トポロジカルフォトニック構造体152は、例えば図1および図3に示すトポロジカルフォトニック構造体(Topological PhC)12である。第1トポロジカルフォトニック構造体151および第2トポロジカルフォトニック構造体152は、図4に示すR>Period/3のときのTopological状態であるバンド図で示される。
【0069】
第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162は、例えば図1および図3に示すフォトニック構造体(Trivial PhC)11である。第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162は、図4に示すR<Period/3のときのTrivial状態であるバンド図で示される。
【0070】
第1トポロジカルエッジ171、第2トポロジカルエッジ172および第3トポロジカルエッジ173は、例えば図1および図3に示すフォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ13である。
【0071】
図14は、フォトニック結晶(PhC)の単位胞において特定箇所の屈折率を変化させた際のフォトニックバンドギャップ幅の推移のシミュレーション結果を示す図である。横軸に屈折率(Refractive index)、縦軸にフォトニックバンドギャップ幅(Photonic bandgap width(△a/λ))をとる。
図14に示すように、フォトニック結晶(PhC)の単位胞において特定箇所の屈折率4.40~5.18辺りがTopological状態のフォトニックバンドギャップ幅をもつ(図14のTopological state参照)。屈折率が4.40の状態から徐々にバンドギャップ幅が狭まっていき(図14のTopological state参照)、屈折率5.1~5.4の辺りでバンドギャップが消失する(図14のBand inversion参照)。屈折率5.4でバンド反転が発生し、屈折率が5.4から大きくなるに従って再度バンドギャップ幅が拡がっていく(図14のTrivial state参照)。ここでは、Trivial状態である。
例えば、GeSbTe系カルコゲン化合物(GST)に代表される相変化材料を光誘起相転移させた場合、屈折率は約4.4(アモルファス状態)から約7.2(結晶状態)へと可逆的な変化をする。このため、この相変化材料250aを用いた場合、フォトニック結晶(PhC)自体のトポロジーを切り替えることが可能となる。
【0072】
トポロジカル光スイッチ200は、X領域250(図12参照)のフォトニック結晶(PhC)に、機能性材料として相変化材料250aを装荷する。GeSbTe系カルコゲン化合物(GST)を利用する場合、異なる大きさの電圧パルスを印加してジュール加熱することで、GSTを可逆的に相変化させ、フォトニック結晶(PhC)自体に変化を与える。例えば、X領域250(図12参照)をTrivialからTopological構造へ変化させることが可能である。
【0073】
トポロジカル光スイッチ200は、X領域250(図12参照)のフォトニック結晶(PhC)の相変化材料250aの相状態が切り替わることで、一方のトポロジカル伝送路が支配的になり、対応する経路に光渦信号が伝送される。
例えば、X領域250が、Trivial(図14の屈折率5.4~7.20のTrivial state参照):InputからPort2へ光渦信号が伝送される。
X領域250が、No Bandgap(図14の屈折率5.18~5.20のBand inversion参照):InputからPort1とPort2へ光渦信号が伝送される。
X領域250が、Topological(図14の屈折率4.40~5.18のTopological state参照):InputからPort1へ光渦信号が伝送される。
【0074】
以上説明したように、第2の実施形態に係るトポロジカル光スイッチ200は、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第1トポロジカルフォトニック構造体151と、第1トポロジカルフォトニック構造体151に交差するように配置され、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態である第2トポロジカルフォトニック構造体152と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第2トポロジカルフォトニック構造体152との交差位置に配置され、フォトニック結晶(PhC)の相状態を変化させる相変化材料250aが装荷されたフォトニック構造体からなるX領域250と、第2トポロジカルフォトニック構造体152およびX領域250の一方の側と第1トポロジカルフォトニック構造体151との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第1フォトニック構造体161と、第2トポロジカルフォトニック構造体152およびX領域250の他方の側と第1トポロジカルフォトニック構造体151との間に配置され、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体である第2フォトニック構造体162と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161および第2フォトニック構造体162との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカルエッジ171と、第1トポロジカルフォトニック構造体151と第1フォトニック構造体161およびX領域250との境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカルエッジ172と、を有する。
【0075】
この構成により、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができるトポロジカル光スイッチ(内因性光渦スイッチ)を提供することができる。これにより、トポロジカルシリコン光回路(Topological photonic integrated circuits:TPICs)上に集積可能なトポロジカル光スイッチを実現することができる。
【0076】
トポロジカル光スイッチ200において、X領域250は、フォトニック結晶(PhC)のトポロジーに変化を与えるバンドエンジリアリングを用いて入力される信号光の出力方向を切り替える。
【0077】
この構成により、バンドエンジリアリングを用いてフォトニック結晶(PhC)のトポロジーに変化を与えることができ、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができる。
【0078】
トポロジカル光スイッチ200において、相変化材料250aは、フォトニック結晶(PhC)に可逆的に物理特性を変化させる機能性材料である。
【0079】
この構成により、相変化材料250aが、フォトニック結晶(PhC)自体に可逆的に物理特性を変化させることができ、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができる。例えば、GeSbTe系カルコゲン化合物(GST)を用いることで、相変化を高速(数十ns)に行うことができ、高速なスイッチングを実現することができる。
【0080】
トポロジカル光スイッチ200において、相変化材料250aは、光誘起相転移させた場合、フォトニック結晶(PhC)の単位胞において特定箇所の屈折率が、Topological状態、バンドギャップが消失するBand inversion状態、Trivial状態のいずれかにフォトニック結晶(PhC)の相状態が変化する。
【0081】
この構成により、フォトニック結晶(PhC)の相状態を変化させることで、単位胞において特定箇所の屈折率を変化させ、これにより、フォトニック結晶(PhC)をTopological状態、Band inversion状態、Trivial状態のいずれかに変化させることができる。これにより、光渦モードを維持したまま出力方向の切り替えを行うことができる。
【0082】
本発明は、上記各実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0083】
11 フォトニック構造体(Trivial photonic structure)
12 トポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)
13 トポロジカルエッジ(Topological edge)
20 トポロジカルエッジ伝送路
30 遅延導波路
40 位相シフタ
100 トポロジカル光スイッチ(外因性光渦スイッチ)
111 第1誘電体
111a,112a ナノホール
112 第2誘電体
121 フォトニック構造体のセル(単位胞)
122 トポロジカルフォトニック構造体のセル(単位胞)
151 第1トポロジカルフォトニック構造体
152 第2トポロジカルフォトニック構造体
150,250 X領域
161 第1フォトニック構造体
162 第2フォトニック構造体
171 第1トポロジカルエッジ
172 第2トポロジカルエッジ
173 第3トポロジカルエッジ
200 トポロジカル光スイッチ(内因性光渦スイッチ)
250a 相変化材料(機能性材料:Functional material)
図1
図2
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図6A
図6B
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