(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031901
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】金属箔を用いた絵画の製造方法及び金属箔を用いた絵画
(51)【国際特許分類】
B44D 2/00 20060101AFI20230302BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230302BHJP
B44C 3/06 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B44D2/00 Z
B32B27/00 E
B44C3/06
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137668
(22)【出願日】2021-08-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】521377993
【氏名又は名称】株式会社インタレスター
(74)【代理人】
【識別番号】100166073
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】松田 辰也
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB33B
4F100AD11D
4F100AD11E
4F100AK01E
4F100BA02
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100DG10A
4F100DG10C
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100HB00
(57)【要約】
【課題】動物等を描いた場合に迫力ある躍動感を表現することができる手段を提供する。
【解決手段】 下絵を描いたベース紙に、トレーシングペーパを重ねて、下絵をトレーシングペーパにトレースした後で、前記ベース紙に、金属箔を重ね貼りし、該重ね貼りした金属箔の上に、当て紙を載せ、熱圧着することで、ベース紙と金属箔とを一体化し、熱圧着した金属箔の上に、下絵をトレースしたトレーシングペーパを配置した後に、該トレーシングペーパの上から、「彫り込み」により、下絵による微細な凹状部を、ベース紙と一体となった金属箔に形成し、該凹状部に基づいて、鉛筆3によって対象物を表現する
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下絵を描いたベース紙に、トレーシングペーパを重ねて、下絵をトレーシングペーパにトレースした後で、
前記ベース紙に、金属箔を重ね貼りし、
該重ね貼りした金属箔の上に、当て紙を載せ、熱圧着することで、ベース紙と金属箔とを一体化し、
熱圧着した金属箔の上に、下絵をトレースしたトレーシングペーパを配置した後に、該トレーシングペーパの上から、「彫り込み」により、下絵による微細な凹状部を、ベース紙と一体となった金属箔に形成し、
該凹状部に基づいて、鉛筆によって対象物を表現することを特徴とする、金属箔を用いた絵画の製造方法。
【請求項2】
前記鉛筆による対象物の表現は、
下絵による微細な凹状部を形成した金属箔に、シーラーを塗布した後に、鉛筆で描くことを、複数回繰り返すことを特徴とする、請求項1に記載の金属箔を用いた絵画の製造方法。
【請求項3】
ベース紙に金属箔を重ね貼りして一体化し、
該重ね貼りした金属箔に対して、「彫り込み」により形成されている微細な凹状部に基づいて、鉛筆によって対象物が表現されていることを特徴とする、金属箔を用いた絵画。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔を用いた絵画の製造方法及び金属箔を用いた絵画に関する。
【背景技術】
【0002】
絵画は、色の組合せの鮮やかさ等により、大きく印象が変わるものであり、例えば、特許文献1に記載の技法により、表現されたものが存在する。
該特許文献1には、第1層と、前記第1層が接合する第2層とを含み、前記第1層は色素が付く繊維質材料で形成され、前記第1層の接合側の表面に前記色素が付き、前記第1層はそれの内側まで光反射性を有し、前記光反射性は、水性絵の具が浸透し前記水性絵の具の染料又は顔料が付着しやすい繊維質でできていることにより得られ、前記第1層と前記第2層とから形成される貼合紙を用いて絵画を製造する絵画の製造方法であり、前記第2層に絵柄を線描すること、前記線描により形成される前記第2層の分割領域に切れ目を入れてその分割領域を取り除くこと、前記分割領域が取り除かれて露出する前記第1層の露出面に色付き溶液で色付けして第1色塗り層を形成すること、前記第1色塗り層の表面側に第2色塗り層を形成すること、前記第2色塗り層を研磨することとを含む絵画の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の絵画は、色に深みがあって透明感があり、且つ、繊細であって鮮明である絵画を容易に作成できるものであるが、例えば、動物等を描いた場合に、迫力ある躍動感を表現することが困難であった。
そこで、本発明の解決しようとする課題は、例えば、動物等を描いた場合に、迫力ある躍動感の表現を可能にした絵画を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
【0006】
第1に、
第1工程(トレース工程)として、下絵を描いたベース紙に、0.056ミリメートルの厚さのトレーシングペーパを重ねて、下絵をトレーシングペーパにトレースした後で、
第2工程(マスキング工程)として、該ベース紙に、必要箇所のマスキングを行い、
第3工程(金属箔貼工程)として、前記ベース紙に、金属箔を、接着剤としての膠を用いて重ね貼りし、
第4工程(熱圧着工程)として、該重ね貼りした金属箔の上に、当て紙を載せ、当て紙の表面温度が40~60℃、好ましくは45~55℃、より好ましくは48~52℃、更に好ましくは50℃で熱圧着することで、ベース紙と金属箔とを一体化し、
第5工程(「彫り込み」工程)として、乾燥させた後で、熱圧着した金属箔の上に、下絵をトレースしたトレーシングペーパを配置した後に、該トレーシングペーパの上から、例えば剣先0.8~2.0ミリメートルの磨きヘラで行う「彫り込み」により、下絵による微細な凹状部を、ベース紙と一体となった金属箔に形成し、
第6工程(鉛筆表現工程)として、該凹状部に基づいて、鉛筆によって対象物を表現することを特徴とする、金属箔を用いた絵画の製造方法。
第2に、
前記第6工程(鉛筆表現工程)における鉛筆による対象物の表現は、
下絵による微細な凹状部を形成した金属箔に、シーラーを塗布した後に、鉛筆で描くことで行うものであることを特徴とする、上記第1に記載の金属箔を用いた絵画の製造方法。
第3に、
前記第6工程(鉛筆表現工程)における鉛筆による対象物の表現は、
下絵による微細な凹状部を形成した金属箔に、シーラーを塗布した後に、鉛筆で描くことを、複数回繰り返すことを特徴とする、上記第1に記載の金属箔を用いた絵画の製造方法。
第4に、
前記第6工程(鉛筆表現工程)における鉛筆による対象物の表現は、
下絵による微細な凹状部を形成した金属箔に、シーラーを塗布した後に、鉛筆で下描きを行い、
該下描き後に、更にシーラーを塗布した後に、鉛筆で中描きを行い、
該中描き後に、更にシーラーを塗布した後に、鉛筆で上描きを行うことで行うことを特徴とする、上記第1に記載の金属箔を用いた絵画の製造方法。
第5に、
ベース紙に金属箔を、接着剤としての膠を用いて重ね貼りして一体化し、
該重ね貼りした金属箔に対して、例えば剣先0.8~2.0ミリメートルの磨きヘラで「彫り込み」により形成されている微細な凹状部に基づいて、鉛筆によって対象物が表現されていることを特徴とする、金属箔を用いた絵画。
第6に、
前記鉛筆による対象物の表現は、下絵による微細な凹状部を形成した金属箔に、シーラーを塗布した後に、鉛筆で描くことを複数回繰り返したものであることを特徴とする、上記第5に記載の金属箔を用いた絵画。
第7に、
前記鉛筆による対象物の表現は、下絵による微細な凹状部を形成した金属箔に、シーラーを塗布した後に、鉛筆で下描きを行い、
該下描き後に、更にシーラーを塗布した後に、鉛筆で中描きを行い、
該中描き後に、更にシーラーを塗布した後に、鉛筆で上描きを行うものであることを特徴とする、上記第5に記載の金属箔を用いた絵画。
【0007】
前記第5工程(「彫り込み」工程)におけるトレーシングペーパの上から行う、例えば剣先0.8~2.0ミリメートルの磨きヘラを用いた「彫り込み」は、トレーシングペーパ自体を彫って破いたり、積層された金属箔自体を削るものではなく、ベース紙と一体化された金属箔に対して、トレッシングペーパの下絵に基づき、例えば磨きヘラの先端を微細線状に押し込むことによって、微細な凹状部を形成するものである。
【0008】
「彫り込み」に使用する道具としては、例えば剣先0.8~2.0ミリメートルに加工した超硬金属による磨きヘラを用いるのが望ましいが、鉄筆等を用いることもできる。
ここで、剣先が0.8ミリメートル未満だと、トレッシングペーパが破れるリスクが高くなり、2.0ミリメートルより大きいと、微細な表現が困難になる。
【0009】
金属箔としては、厚さの異なる金箔、銀箔、プラチナ箔等を使用することができる。
トレッシングペーパの厚みが、0.056ミリメートルより大きい場合には、微細な凹状部をベース紙と一体化した金属箔に形成するのが困難となり、0.056ミリメートル未満の場合には、「彫り込み」工程において、トレッシングペーパが破れるリスクが高くなる。
【0010】
ベース紙としては、360キログラムのケント紙を使用することが望ましい。
ケント紙を用いるのは、色鉛筆書きが鮮明となるためである。
また、360キログラムの特厚のケント紙を用いるのは、例えば剣先0.8~2.0ミリメートルの磨きヘラによる彫り込み深さを、細かく調整することが可能となり、鉛筆による濃淡が鮮明となり、より深みのある表現が可能となるためである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
【0012】
ベース紙に重ね貼りした金属箔が一体化し、対象物を「彫り込み」と鉛筆で表現することで、対象物の輪郭や表面の質感を立体的なものとして表現することができるので、例えば、哺乳動物等を描いた場合に、体表の毛の向きを表す毛流が極めて自然なものとなり、迫力ある躍動感を表現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例の第1工程(トレース工程)を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例の第2工程(マスキング工程)を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例の第3工程(金属箔貼工程)を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例の第4工程(熱圧着工程)を示す図である。
【
図5】本発明の一実施例の第5工程(「彫り込み」工程)を示す図である。
【
図6】本発明の一実施例の第6工程(鉛筆表現工程)を示す図である。
【
図7】本発明の一実施例の第7工程(錆止工程)を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例の第8工程(最終工程)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ具体的に説明する。
ここで、添付図面において同一の部材には同一符号を付しており、また重複した説明は省略されている。
なお、ここでの説明は本発明が実施される一形態であることから、本発明は該当形態に限定されるものではない。
【実施例0015】
[第1工程](トレース工程)(
図1参照)
鉛筆3で虎の下絵を描いたベース紙1の上に、0.056ミリメートルの厚さのトレーシングペーパ2を載せてて、その上から、0.8~2.0ミリメートルの範囲の複数本の磨きヘラを用いて下絵をなぞることで、トレーシングペーパ2のベース紙1面側に下絵を転写するようにトレースする。
ここで、ベース紙としては、360キログラムの特厚のケント紙を用いる。
図1中、10は虎の目、11は虎の鼻を表し、この部分については、第8工程(最終工程)で、ベース紙1に、色鉛筆を用いて直接描くものとする。
【0016】
[第2工程](マスキング工程)(
図2参照)
第1工程を終えたベース紙1に、金属箔の貼り付けを除外する部分として、目10、鼻11の部分について、マスキングを行う。
マスキング後、ドーサ液を刷毛4を用いて数回塗布し、3~4時間乾燥させることで完了する。
【0017】
[第3工程](金属箔貼工程)(
図3参照)
前記第2工程を終えたマスキング後のベース紙に、金属箔を、接着剤としての膠を用いて重ね貼りする。
具体的には、膠をベース紙全体に塗った後で、1枚目の金箔、銀箔を貼り、2~3時間乾燥させる。
その上から、膠を塗り、2枚目の金箔、銀箔を貼り、2~3時間乾燥させる。
更にその上から、膠を塗り、3枚目の金箔、銀箔を貼り、2~3時間乾燥させる。
【0018】
[第4工程](熱圧着工程)(
図4参照)
前記第3工程を終えた重ね貼りした金属箔の上に、当て紙を載せ、その上から180℃に設定したアイロン5を当てることで、紙の表面温度が50℃となる条件で、熱圧着することで、ベース紙1と積層した金属箔を一体化する。
ここで、熱圧着により、膠等の影響により生じたベース紙1の曲がりが無くなるので、平面状のものとして一体化する。
なお、膠の融点60℃~70℃だと接着力が落ちることが、試験により確認されている。
熱圧着後、1日以上乾燥させる。
【0019】
[第5工程](「彫り込み」工程)(
図5参照)
前記第4工程を終えた金属箔と一体化したベース紙の上に、下絵をトレースしたトレーシングペーパを、下絵側を金属箔側に対向させて配置する。
その後、該トレーシングペーパの上から、超硬金属で、剣先0.8~2.0ミリメートルの範囲の複数本の磨きヘラ6を適宜用いて被毛の「彫り込み」を行うことで(左上図参照)、下絵による微細な凹状部により表現される被毛を、ベース紙と一体となった金属箔に形成する(右下図参照)。
【0020】
[第6工程](鉛筆表現工程)(
図6参照)
前記第5工程を終えた、被毛が微細な凹状部で表現されたベース紙と一体となった金属箔に、シーラー7としてアメリカーナシーラー(商品名)を第1層として塗布することで(左上図参照)、つや出しを行った後に、鉛筆3で薄く下描きを行う(右上図参照)。
次に、アメリカーナシーラー(商品名)を第2層として塗布することでつや消しを行った後に、鉛筆で中描きを行う(左下図参照)。
最後、アメリカーナシーラー(商品名)を第3層として塗布することでつや出しを行った後に、鉛筆で上描きを行う(右下図参照)。
前述の複数回のシーラーの塗布及び鉛筆書きによる重層処理を、微細な凹状部に施すことにより、虎の被毛が立体的に躍動感をもって表現されることになる。
【0021】
[第7工程](錆止工程)(
図7参照)
前記第6工程を終えたものに、ミスターカラー薄め液(商品名)にて、鉛筆成分を溶かす。
その後、筆塗りで仕上げた後に、錆止め剤を塗布する。
【0022】
[第8工程](最終工程)(
図8参照)
前記第7工程を終えたものに、目10、鼻11の部分(左上図参照)を、色鉛筆を用いて描き、グラフィックスを塗布して調整する。
その後、サインを入れ、その上にグラフィックスを塗布しすることで、金属箔による絵画が完成する(右下図参照)。