(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031948
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】電動機及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/12 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
H02K1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137747
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000104630
【氏名又は名称】キヤノンプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(72)【発明者】
【氏名】小泉 新也
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA09
5H601AA22
5H601AA23
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601DD25
5H601EE12
5H601GA02
5H601GD02
5H601GD08
5H601JJ04
5H601KK14
(57)【要約】
【課題】良品率と生産性を向上させながら、コギングトルク及びモータ特性の低下を抑制可能な電動機及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】電動機は、ステータ部と、ロータ部とを有し、ステータ部は、コイルと、バックヨークとを備え、ロータ部は、磁石と、回転軸とを備え、バックヨークは、折り曲げ可能な連結部と、第1係合部と第2係合部とが係合されることで構成される締結部とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ部と、ロータ部とを有し、
前記ステータ部は、コイルと、バックヨークとを備え、
前記ロータ部は、磁石と、回転軸とを備え、
前記バックヨークは、折り曲げ可能な連結部と、第1係合部と第2係合部とが係合されることで構成される締結部とを含むことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記連結部の前記バックヨークの外周上の位置と前記回転軸の軸中心とを結ぶ直線と前記締結部の前記バックヨークの外周上の位置と前記軸中心とを結ぶ直線とのなす角度は、119度以上125度未満であることを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記連結部は、前記電動機の径方向に対して所定の角度だけ傾斜した2つの傾斜面と、前記2つの傾斜面を接続する接続部とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項4】
前記所定の角度は、10度以上70度未満であることを特徴とする請求項3に記載の電動機。
【請求項5】
前記接続部には、逃げ部が設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の電動機。
【請求項6】
前記第1係合部と前記第2係合部は、スナップフィット方式で係合されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の電動機。
【請求項7】
前記第1係合部と前記第2係合部は、摩擦抵抗で係合されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の電動機。
【請求項8】
前記第1係合部と前記第2係合部は、接合部材で係合されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の電動機。
【請求項9】
前記第1係合部と前記第2係合部は、溶接で係合されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の電動機。
【請求項10】
前記締結部を押さえる押え部材を更に有することを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の電動機。
【請求項11】
前記連結部は、2つの連結部からなることを特徴とする請求項1乃至10の何れか一項に記載の電動機。
【請求項12】
前記コイルは、亀甲巻コアレスコイルであることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の電動機。
【請求項13】
コイルと、第1係合部、第2係合部、及び折り曲げ可能な連結部を含むバックヨークとを備える電動機の製造方法であって、
円弧状の前記バックヨークの内側に前記コイルを挿入するステップと、
前記コイルを前記バックヨークに対して所定の位置で固定するステップと、
前記連結部を折り曲げ、前記バックヨークが円環状となるように前記第1係合部と前記第2係合部とを係合するステップとを有することを特徴とする電動機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コギングトルクを低減させるための電動機及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亀甲巻コアレスコイルを用いたコアレススロットレス型の電動機が提案されている。特許文献1には、バックヨークをコイルの巻線の中央帯幅部付近に装着するモータが開示されている。特許文献2には、バックヨークとして複数の弧状コア片からなるリング状積層コアを備えるモータが開示されている。特許文献3には、複数の円環状部品が、継ぎ目部分が軸方向に平行に並ばないように軸方向に沿って積層されたバックヨークを有するモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-171735号公報
【特許文献2】特開平08-140294号公報
【特許文献3】特開2013-062969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のモータでは、コイルエンドによって、コイルに傷がついてしまい、バックヨークを装着することができない場合がある。また、特許文献2のモータでは、大きなコギングトルクが発生してしまう。また、特許文献3のモータでは、コギングトルクの発生を抑制可能であるが、モータ特性が低下し、更には組立が複雑である。
【0005】
本発明は、良品率と生産性を向上させながら、コギングトルク及びモータ特性の低下を抑制可能な電動機及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての電動機は、ステータ部と、ロータ部とを有し、ステータ部は、コイルと、バックヨークとを備え、ロータ部は、磁石と、回転軸とを備え、バックヨークは、折り曲げ可能な連結部と、第1係合部と第2係合部とが係合されることで構成される締結部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良品率と生産性を向上させながら、コギングトルク及びモータ特性の低下を抑制可能な電動機及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】コアレススロットレス型の電動機の断面図である。
【
図3】バックヨークにコイルを挿入する工程を示す図である。
【
図4】第1係合部と第2係合部とを係合する工程を示す図である。
【
図8】コギングトルク特性のFEM解析の結果を示す図である。
【
図9】TNI特性のFEM解析の結果を示す図である。
【
図10】コギングトルクのピーク値を比較した図である。
【
図11】バックヨークの設置角度によるトルク定数を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、コアレススロットレス型の電動機50の断面図である。電動機50は、外筒1、ステータ部20、及びロータ部30を有する。
【0011】
ステータ部20は、バックヨーク2及び亀甲巻コアレスコイル(以下、コイル)3を備える。バックヨーク2は、コイル3の外周に設けられ、折り曲げ可能な連結部21と、第1係合部22aと第2係合部22bとが係合されることで構成される締結部22とを含み、外筒1に固着される。コイル3は、バックヨーク2に固着される。バックヨーク2は主に鉄にケイ素を添加した電磁鋼板等の磁性材料で構成されるが、外筒1はアルミニウム合金やナイロン等の非磁性材料で構成されてもよい。
【0012】
ロータ部30は、磁石4、鉄心5、及び回転軸6を備える。磁石4は、コイル3との間に所定の隙間が形成された状態で配置される。なお、磁石4と回転軸6とを直結させてもよい。この場合、鉄心5を設けなくてもよい。
【0013】
以下、電動機50の製造方法について説明する。
図2は、初期状態のバックヨーク2を示す図である。初期状態のバックヨーク2は、第1係合部22aと第2係合部22bとが係合されておらず、円弧状に構成されている。ここで、円弧状とは、厳密に円弧状である場合だけでなく、実質的に円弧状(略円弧状)である場合も含んでいるものとする。
【0014】
まず、
図3に示されるように、初期状態のバックヨーク2の内側にコイル3を挿入する。このとき、
図3(a)に示されるように、バックヨーク2とコイル3との間には、所定の隙間10が形成されている。
【0015】
次に、コイル3をバックヨーク2に対して所定の位置で固定する。
【0016】
最後に、
図4に示されるように、連結部21を折り曲げ、バックヨーク2が円環状となるように第1係合部22aと第2係合部22bとを係合する。第1係合部22aと第2係合部22bとを結合することで、締結部22が構成される。本実施形態では、第1係合部22aと第2係合部22bは、スナップフィット方式で係合される。
【0017】
なお、第1係合部22aと第2係合部22bは、
図5に示されるように、摩擦抵抗で係合されてもよい。また、第1係合部22aと第2係合部22bは、接着剤等の接合部材で係合されてもよいし、溶接で係合されてもよい。また、押え部材で締結部22のスプリングバックを押さえる構成を採用してもよい。押え部材として例えば、外筒1を用いてもよい。
【0018】
上記方法でコイル3の外側にバックヨーク2を装着すると、コイル3に擦れや傷が付かずに、容易にステータ部20を製造することが可能である。
【0019】
以下、
図6を参照して、コイル3の成形方法について説明する。まず、
図6(a)に示されるように、成形前のコイル3を平形に成形する。次に、
図6(b)に示されるように成形前のコイル3を成形治具40の内径に倣わせてカーリングし、コイル3を
図6(d)に示されるように円筒状に成形する。
図6(c)に示されるように、コイル3では、コイル重なり部3bの外径がコイルストレート部3cの外径よりも大きい。コイルストレート部3cに特許文献1に開示されている円筒状のバックヨークを装着することで、磁石4からコイルストレート部3cが受ける鎖交磁束を通りやすくして電動機50の発生トルクの要因であるローレンツ力を効率よく得ることができる。しかしながら、コイル重なり部3bによりコイルストレート部3cに円筒状のバックヨークを装着することができないため、製造が困難であったり、コイル重なり部3bに擦れや傷が付き絶縁不良を起こしたりする場合がある。本実施形態では、上述した方法でバックヨーク2をコイル3に装着するため、円筒状のバックヨークをコイル3に装着することで生じる問題が発生することはない。
【0020】
図7は、連結部21の応力分布を示すFEM(有限要素法:Finite Element Method)解析の結果を示す図である。
図7(a)は、V字形状で構成された連結部21を折り曲げた際のFEM解析の結果を示している。
図7(b)は、R形状で構成された連結部21を折り曲げた際のFEM解析の結果を示している。
【0021】
図7(a)では、V字形状の底に応力が集中している。そのため、締結部22が構成された際に、バックヨーク2が綺麗な円環状になる。一方、
図7(b)では、応力が集中せず分散している。締結部22が構成された際に、バックヨーク2が綺麗な円環状にならない。そのため、連結部21は、V字形状で構成する(電動機50の径方向に対して所定の角度だけ傾斜した2つの傾斜面と2つの傾斜面を接続する接続部とを含む)ことが好ましい。
【0022】
なお、V字形状の2つの傾斜面を接続する接続部に逃げ部21aが設けられていてもよい。逃げ部21aの大きさや形状は、適宜FEM解析による最適化を図るとよい。
【0023】
また、本実施形態では、連結部21は2つ設けられているが、本発明はこれに限定されない。ただし、連結部21が1つだけ設けられている場合、コギングトルクが大きくなってしまうため、好ましくない。連結部21が3つ以上設けられている場合、バックヨーク2を綺麗な円環状にするためには連結部21を折り曲げた際に、コイル3に接触させ倣わせる必要があり、コイル3に擦れや傷が付いてしまう問題が発生する場合があるため、好ましくない。したがって、連結部21は、2つ設けられていることが好ましい。なお、連結部21が3つ以上設けられている場合、コイル3の内径側に円筒形状を維持する棒状の治具等を挿入し、コイルストレート部3cの外径に外径側に巻かれた絶縁材を介して、バックヨーク2の内側を倣わせることで、上記問題を防ぐことができる。
【0024】
以下、本実施形態の構成の具体的な効果について説明する。
図8は、コギングトルク特性のFEM解析の結果を示す図である。
図8では、
図1と
図5のバックヨーク2、
図12(a)の締結部がスリット形状で構成されたバックヨーク、
図12(b)の連結部が設けられていないバックヨーク、及び
図13(a)の特許文献3のバックヨークを使用したモデルが比較されている。
図8に示されるように、
図1と
図5のバックヨーク2を使用したモデルでは、コギングトルクのピーク値が他のモデルよりも低くなっている。
【0025】
図9は、TNI特性のFEM解析の結果を示す図である。
図9(a)では、
図1のバックヨーク2及び
図13(b)の特許文献1のバックヨークを使用したモデルが比較されている。
図9(b)は、
図9(a)のFEM解析の結果を数字で比較した表である。
図9(b)に示されるように、
図1のバックヨーク2を使用したモデルのTNI特性は、特許文献1のバックヨークを使用したモデルとほぼ同じである。
【0026】
図10は、
図1のバックヨーク2を使用したモデルのコギングトルクのピーク値と
図13(a)のバックヨークを使用したモデルのコギングトルクのピーク値との比較図である。
【0027】
図10(a)の横軸は、
図1に示される連結部21のバックヨーク2の外周上の位置と回転軸6の軸中心とを結ぶ直線と締結部22のバックヨーク2の外周上の位置と軸中心とを結ぶ直線とのなす所定の角度Aである。なお、外周上の位置とは、各部のバックヨーク2の周方向における中心位置のことである。
図10(a)に示されるように、
図1のバックヨーク2を使用したモデルのコギングトルクのピーク値は、所定の角度Aが119度以上125度未満である場合に、
図13(a)のバックヨークを使用したモデルのコギングトルクのピーク値を下回っている。
図1のバックヨーク2では、所定の角度Aは122度が最適である。
【0028】
連結部21は、本実施形態ではV字形状である。すなわち、連結部21は、
図1に示されるように、電動機50の径方向に対して所定の角度Bだけ傾斜した2つの傾斜面を含む。
図10(b)の横軸は、所定の角度Bである。
図10(b)に示されるように、
図1のバックヨーク2を使用したモデルのコギングトルクのピーク値は、所定の角度Bが10度以上70度未満である場合に、
図13(a)のバックヨークを使用したモデルのコギングトルクのピーク値を下回っている。
図1のバックヨーク2では、所定の角度Bは30度が最適である。
【0029】
図11(a)は、コイル3の角度は固定でバックヨーク2の設置角度C(
図11(b参照)を5度ずつ回転移動させた際の、トルク定数と、初期位置(設置角度Cが0度)のトルク定数を基準にした際のトルク定数の変化率とを比較した図である。
図11(a)に示されるように、トルク定数は、設置角度Cに関係なく、ほぼ一定の値となるため、電動機50の生産性は良いと言える。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0031】
2 バックヨーク
21 連結部
22 締結部
22a 第1係合部
22b 第2係合部
3 亀甲巻コアレスコイル(コアレスコイル)
4 磁石
6 回転軸
20 ステータ部
30 ロータ部
50 電動機