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特開2023-31955液体揮散体、液体揮散体の製造方法、及び、液体揮散器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031955
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】液体揮散体、液体揮散体の製造方法、及び、液体揮散器
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/20 20060101AFI20230302BHJP
   A61L 9/12 20060101ALI20230302BHJP
   B65D 83/00 20060101ALI20230302BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230302BHJP
   C09J 11/02 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
A01M1/20 C
A61L9/12
B65D83/00 F
C09J201/00
C09J11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137757
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000109440
【氏名又は名称】テイボー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 倫弘
【テーマコード(参考)】
2B121
4C180
4J040
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121CA02
2B121CA15
2B121CA16
2B121CA46
2B121CA53
2B121CC02
2B121CC13
2B121CC31
2B121EA01
2B121EA14
2B121FA20
4C180AA02
4C180AA07
4C180CA06
4C180GG17
4C180GG19
4C180HH10
4J040EF001
4J040KA35
4J040LA09
4J040MA10
4J040MB02
4J040NA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液体揮散体の表面に施された意匠が色落ちせず、かつ、液体の揮散量の調整がしやすく、また、多くの揮散量を確保することが可能な液体揮散体、及び、該液体揮散体の製造方法を提供する。
【解決手段】液体揮散体1は、多孔質材料の基体2と、基体の表面の一部又は全体に接着剤が塗布された接着剤部3と、接着剤部の表面に、複数の繊維材が植毛された植毛部4と、を備え、接着剤には顔料が含まれることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料の基体と、
前記基体の表面の一部又は全体に接着剤が塗布された接着剤部と、
前記接着剤部の表面に、複数の繊維材が植毛された植毛部と、
を備え、
前記接着剤には顔料が含まれる、液体揮散体。
【請求項2】
前記接着剤部は、硬化前に導電性を有する材料である、請求項1に記載の液体揮散体。
【請求項3】
前記植毛部の前記繊維材は、合成樹脂繊維、無機繊維、及び、天然繊維のうち1以上から選択される請求項1又は2に記載の液体揮散体。
【請求項4】
前記植毛部の前記繊維材の径は0.5デニール以上20デニール以下であり、前記繊維材の長さは前記繊維材の前記径の30倍以上60倍以下である、請求項1~3いずれか一項に記載の液体揮散体。
【請求項5】
前記基体は、板状である、請求項1~4いずれか一項に記載の液体揮散体。
【請求項6】
多孔質材料の基体の表面の一部又は全部に、接着剤を塗布するステップと、
前記接着剤に繊維材を植毛するステップと、
前記植毛された前記接着剤が塗布された前記基体を乾燥させるステップと、
を含み、
前記接着剤には顔料が含まれる、液体揮散体の製造方法。
【請求項7】
前記接着剤は、硬化前に導電性を有する材料である、請求項6に記載の液体揮散体の製造方法。
【請求項8】
前記接着剤を塗布するステップにおいて、塗布する接着剤の膜厚は、30μm以上300μm以下である、請求項6又は7に記載の液体揮散体の製造方法。
【請求項9】
前記植毛するステップは、前記接着剤と電極との間に静電界を形成し、前記静電界に前記繊維材を通過させることによって行う、請求項6~8いずれか一項に記載の液体揮散体の製造方法。
【請求項10】
前記接着剤を塗布するステップの前に、接着剤を塗布しない部分にマスキングを行うステップを含む、請求項6~9いずれか一項に記載の液体揮散体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~5いずれか一項に記載の液体揮散体を用いた、液体揮散器。
【請求項12】
請求項6~10いずれか一項に記載の液体揮散体の製造方法で製造された液体揮散体を用いた、液体揮散器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液等の液体を揮散させるのに用いる液体揮散体、液体揮散体の製造方法、及び、液体揮散器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主に芳香、消臭、防臭、殺菌、殺虫等の目的で、薬液等の液体を揮散させる手法や容器が開発され、応用されてきた。
【0003】
特許文献1には、容器に液状芳香剤を収容し、吸い上げ芯体で該芳香剤を吸い上げ、上部の畜香揮散体に芳香剤を畜香し、容器を開閉することにより必要な芳香の発生をさせることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、任意の形状の絵柄を局所的に表出できることが可能な薬剤揮散器が開示されている。具体的には、絵柄表示領域の植毛領域の先端部に処方液の色素が蓄積されることにより、絵柄を浮かび上がせるものである。
【0005】
特許文献3には、吸上揮散体の表面の少なくとも一部に微細凹凸加工が施され、容器内に収容された液体に該吸上揮散体の一部が接触するように配置された揮散装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭56-146947
【特許文献2】特開2011-72608
【特許文献3】特開2015-104409
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の薬剤揮散体の場合、太い畜香揮散体の表面から薬液を揮散させることから、揮散量を効果的に高めることや、揮散量を調整することが難しいという課題があった。
【0008】
特許文献2記載の薬剤揮散器の場合、絵柄表示領域の植毛領域の先端部に処方液中の不揮発性成分である色素が蓄積され、濃縮されるため、薬剤揮散器の使用時間により徐々に色合いが変化してしまうという課題があった。
【0009】
また、特許文献3記載の揮散装置の場合、微細凹凸加工部分が薬液で濡れることによって透明性が変化することで、絵柄や図形の意匠を施すことができるものの、揮散量を効果的に高めることや、揮散量を調整することが難しいという課題があった。また、かかる絵柄や図形の意匠は、吸上揮散体の透明性の変化で表されるものであり、吸上揮散体の色と異なる色で着色することはできないという制約があった。
【0010】
さらに、従来技術として、染料で着色した繊維材、あるいは、原料に染料を配合して作成した繊維材を植毛する方法もあるが、揮散体の使用時間の経過に伴い、色落ちしたり、植毛領域以外に色移りしたりするといった課題があった。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、液体揮散体の表面に施された意匠が色落ちせず、かつ、液体の揮散量の調整がしやすく、また、多くの揮散量を確保することが可能な液体揮散体、及び、該液体揮散体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の液体揮散体は、多孔質材料の基体と、前記基体の表面の一部又は全体に接着剤が塗布された接着剤部と、前記接着剤部の表面に、複数の繊維材が植毛された植毛部と、を備え、前記接着剤には顔料が含まれることを特徴とする。
【0013】
前記接着剤部は、硬化前に導電性を有する材料からなることが望ましい。
【0014】
前記植毛部の前記繊維材は、合成樹脂繊維、無機繊維、及び、天然繊維のうち1以上から選択されることが好ましい。
【0015】
前記植毛部の前記繊維材の径は0.5デニール以上20デニール以下であり、前記繊維材の長さは前記繊維材の前記径の30倍以上60倍以下であることが好ましい。
【0016】
前記基体は、板状であってもよい。
【0017】
本発明の液体揮散体の製造方法は、多孔質材料の基体の表面の一部又は全部に、接着剤を塗布するステップと、前記接着剤に繊維材を植毛するステップと、前記植毛された前記接着剤が塗布された前記基体を乾燥させるステップと、を含み、前記接着剤には顔料が含まれることを特徴とする。
【0018】
液体揮散体の製造方法の前記接着剤は、硬化前に導電性を有する材料であることが望ましい。
【0019】
前記接着剤を塗布するステップにおいて、塗布する接着剤の膜厚は、30μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0020】
前記植毛するステップは、前記接着剤と電極との間に静電界を形成し、前記静電界に前記繊維材を通過させることによって行ってもよい。
【0021】
前記接着剤を塗布するステップの前に、接着剤を塗布しない部分にマスキングを行うステップを含んでもよい。
【0022】
本発明の液体揮散器は、上記液体揮散体を用いたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液体揮散体によれば、液体揮散体の表面に施された意匠が使用中に色落ちにしにくく、また、液体の揮散量の調整がしやすく、特に多くの揮散量を確保することが可能な液体揮散体、及び、該液体揮散体の製造方法を提供することが可能となる。
また、顔料を含む接着剤の使用は、着色された繊維材を使用する場合よりもコストを抑えることができる。
さらに、接着剤部の位置やデザインを制御することにより、自由に模様や絵柄、図形を描くことが可能となる。描かれた模様や絵柄、図形は、植毛部そのものではなく、植毛部の繊維材を固着した接着剤部から安定して発色するため、色の劣化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】液体揮散体の全体写真の例を示す。
図2】液体揮散体の正面図、側面図、拡大図の例を示す。
図3】植毛するステップの例を示す。
図4】植毛部の有無による揮散量を比較したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(液体揮散体)
本発明の液体揮散体1は、基体2と、接着剤部3と、植毛部4を備えるものであり、図1図3に例を示す。以降、符号を付して説明するが、発明内容を限定するものではない。
【0026】
液体揮散体1は、一部分が液体に浸漬され、液体揮散体1の毛細管力により該液体を吸い上げ、該一部分ではない部分から該液体を揮散するものである。本発明においては、液体を浸漬する部分を浸漬部分、浸漬部分のある側を浸漬部側とし、液体を揮散する部分を揮散部分、揮散部分がある側を揮散部側とする。
浸漬部分は液体揮散体1の下方であり、揮散部分は液体揮散体1の中央又は上方である場合も多いが、その位置関係に限定されない。浸漬部分から液体が吸い上げられて揮散部分から揮散すればよく、浸漬部分と揮散部分が左右に配置されても、また、浸漬部分が揮散部分より上方に配置されてもよい。
【0027】
液体揮散体1の形状は、特に限定されないが、表面に絵柄や模様を施しやすいように、広めの平らな表面を有することが好ましいという観点からは、板状であることが好ましい。なお、液体揮散体1が板状である場合、上面視は円形、楕円形、三角形や四角形等の多角形、団扇形、扇子形、動物や植物の形、あるいはそれらを連接したような形でもよい。たとえば、浸漬部分は棒状あるいは短冊状であり、揮散部分は円形や多角形等を含む自由な形状であり、それらが連接した形でもよい。
【0028】
さらに、板状ではなく、ある程度厚みを有する立方体、直方体、円柱のような形状であってもよい。1つ以上の表面の一部又は全部に絵柄や模様を施すために接着剤部を設けることができる。
【0029】
(基体)
基体2は多孔質材料からなり、浸漬部分に浸漬した液体を、毛細管力で揮散部側に吸い上げることができる。
よって、多孔質材料としては、毛細管力で液体を吸い上げることができるものであれば特に限定されず、合成樹脂、合成繊維、焼結体、ポリオレフィン系フォーム、葦等の乾燥した植物、動物毛のフェルト、合繊のフェルト等が例示される。
合成樹脂の場合、熱可塑性樹脂を溶融押出成形により所要の断面形状及び寸法に成形したものである。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(商標登録)、ABS樹脂、AS樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエステルエラストマー等の各種エラストマー、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が例示される。また、目的に応じ、充填剤、各種添加剤等が配合されてもよい。
合成繊維の場合、長手方向に繊維を束ねた繊維束を熱硬化性樹脂等で接着したものでもよいし、ある合成繊維に対し、その合成繊維の融点より低い融点を有する合成繊維を混合して溶融することによって、融点の高い合成繊維同士を接着してもよい。合成繊維としては、ナイロン(登録商標)等のポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等が例示され、熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が例示される。
焼結体の場合、金属粉末の焼結体や熱可塑性樹脂粉末の焼結体が例示される。熱可塑性樹脂粉末の焼結体は、熱可塑性樹脂製の各粒状粒子が互いに部分的に融着し、かつ、各粒状粒子間に相互に連通状の連続気孔を形成する焼結法で成形されたものであり、熱可塑性樹脂としては、UHMW-PE(超高分子量ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレンビニルアセテート)、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の樹脂等が例示される。
ポリオレフィン系フォームは、相互に連通状の連続気孔を有する立体網目構造で、かつ、保形性と適度な可撓性を備えた、熱可塑性生成物である。
合繊のフェルトの場合、合成繊維をニードルパンチ加工したフェルトをさらに熱接着又は樹脂加工したものでもよく、合成繊維としては、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維等の不織布が例示される。
【0030】
基体2が板状の場合、上に例示された多孔質板は、合繊芯板、焼結板、ポリオレフィン系フォーム板、フェルト板等となる。
【0031】
基体2の色は、多孔質材料そのものの色の他、接着剤部3の接着剤に含まれる顔料との兼ね合いで適宜設定されることが望ましい。
【0032】
基体2の気孔率は、5%~75%の範囲が好ましく、10%~65%の範囲がより好ましい。気孔率を高くすると、ある程度までは揮散量を多くすることが可能であるが、気孔率が高すぎると毛細管力が弱くなってくる。
【0033】
(接着剤部)
接着剤部3は、基体2の表面の一部又は全部に接着剤が塗布されて形成される。
【0034】
接着剤は、硬化前に導電性を有する材料が好ましい。たとえば、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂等の水系の接着剤が挙げられる。
さらに、接着剤には、顔料が含まれる。顔料は、発色させたい色により適宜選択されるが、有機顔料、無機顔料(天然鉱物顔料、合成無機顔料)、蓄光顔料等の特殊顔料等が例示される。
【0035】
接着剤部3は、後述する植毛部4の繊維材4fを接着するために形成される。
接着剤は水を含む溶媒により希釈され、ロールコート、ディッピング、エアレススプレー、エアスプレー、静電スプレー、手描き等で、基体2の表面の一部又は全部に塗布される。接着剤の濃度は特に限定されないが、30質量%~70質量%程度が好ましく、40質量%~60質量%程度がより好ましい。
塗布する接着剤の膜厚は、繊維材4fの接着性との関係で、30μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0036】
接着剤部3は、絵柄や模様の位置やデザインにしたがって、顔料を含む接着剤を塗布することにより形成される。
また、揮散部分の植毛部4も、植毛部4でない部分も、吸い上げられた液体を揮散するが、植毛部4には液体を一旦蓄えることができるため、揮散量を高めることができる。よって、液体揮散効率のためには、接着剤部3の面積、すなわち、これに固着される植毛部4の面積を大きくすることが望ましい。
【0037】
接着剤を塗布して接着剤部3を形成するとき、接着剤を塗布しない部分にシルクスクリーン等のマスキングを行ってもよい。また、顔料の異なる複数の接着剤を用いて、接着剤部3の場所により色を変えてもよい。
【0038】
さらに、接着剤部3を、揮散部分に配置した上、浸漬部分にも配置してもよい。浸漬部分に配置された接着剤部3及びこれに固着されて形成した植毛部4は、液体揮散量には寄与しないが、デザインの観点から好ましい場合がある。
【0039】
(植毛部)
植毛部4は、接着剤部3の表面に、複数の繊維材4fが植毛されたものである。
【0040】
植毛部4の繊維材4fの材料は、ナイロン(登録商標)等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル等の合成樹脂、カーボン樹脂、ガラス繊維等の無機繊維、アセテート、レーヨン等の再生繊維、綿、絹、羊毛等の天然繊維等が例示される。
植毛部4の繊維材4fとして、上記繊維材料を単体で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
植毛部4の繊維材4fの径と長さの関係は、液体の蓄えやすさや揮散量等により適宜調整されることが望ましい。
繊維材4fの径は、0.5デニール以上20デニール以下であることが好ましい。繊維材4fの径が大きくなると繊維材4f同士の間隙が大きくなり、蓄えられる液体の量は増えるものの液体の保持力は弱いため、揮散量が多くなりやすい。
繊維材4fの長さは繊維材4fの径の30倍以上60倍以下であることがより好ましい。繊維材4fが短すぎると蓄えられる液体の量が少なくなる。一方、繊維材4fが長すぎると繊維材4fが立毛せずに寝てしまうため、やはり蓄えられる液体の量が少なくなり、かつ、揮散量も低下する。また、後述する静電植毛で繊維材4fを接着剤部3に接着する場合、繊維材4fの投錨性が低下しやすくなる。さらに、繊維材4fが長すぎると、発色している接着剤部3が繊維材4fに覆われることにより、色が効果的に認識しにくくなる。
【0042】
植毛部4は、繊維材4fを接着剤部3の表面上に植毛することにより形成される。植毛方法に限定はないが、静電植毛により植毛することが望ましい。
【0043】
図3に静電植毛の概要を示す。
接着剤が塗布され接着剤部3(硬化前)を有する基体2は、電極5に対して5cm~15cm程度の間隔をおいて配置される。硬化前の接着剤部3には分散媒として水が含まれ、該接着剤部3はアース6に接地される。
高電圧発生器7を用いて、電極5に対して20kva~30kva程度の電圧をかけることにより、電極5とアース6(接着剤部3)との間に静電界が形成される。
静電界を通過させるように、接着剤部3に向けて繊維材4fを撒布することにより、静電界を通過する繊維材4fは、電界と平行に向きが揃い、接着剤部3の表面に対して一定方向に植毛される。植毛時間は、たとえば1分以内、たとえば10秒~20秒程度である。
【0044】
植毛後、基体2、接着剤部3、植毛部4を乾燥させ、接着剤部3に含まれる水等の分散媒を除去し硬化させることにより、繊維材4fは接着剤部3の表面に固着される。乾燥条件は、接着剤の種類、濃度、厚み、繊維材4fの種類、植毛の量等により適宜設定される。たとえば50℃~80℃、20分以上程度である。
【0045】
乾燥後、余分な繊維材4fを除去し、仕上げることが望ましい。
【0046】
(液体揮散体と液体揮散量)
上述したように、液体揮散体1は、浸漬部分を液体Lに浸漬し、該液体を基体の毛細管力で揮散側に吸い上げて、揮散部分から揮散する。特に揮散部分の植毛部4においては、一旦該液体を蓄えることができ、該蓄えられた液体を植毛部4からより多くの液体を揮散させることができる。
液体揮散量は、植毛部4の繊維材4fの種類、長さ、径や、植毛面積(接着剤部3の表面積)により調整される。このとき、液体揮散体1の揮散用途により、揮散量のみならず、全体的な見た目である意匠性も考慮されることが望ましい。なお、基体2の形状によっては、植毛部4とそれを固着する接着剤部3を、基体2の表面全体に設けてもよい。
【0047】
(液体揮散器)
液体揮散器は、液体揮散体1を用いた、液体を揮散する器具である。容器に収容された液体に液体揮散体1の浸漬部分を浸漬し、液体揮散体1の揮散部分から該液体を揮散させる。
容器の形状は、丸底フラスコ状、三角フラスコ状、試験管状、アルコールランプ状、一輪挿し状、花瓶状、バット状等が例示されるが、これに限定されない。
液体は、用途により、芳香成分、消臭成分、防臭成分、殺菌成分、殺虫成分等が含まれる溶液(水溶液、アルコール溶液等)が用いられるが、これに限定されない。
さらに、液体揮散器は、液体揮散体、容器、液体の他、設置のために必要な部材、安定化のための部材、装飾のための部材、吊るす等設置のために必要な部材等が含まれていてもよい。
【実施例0048】
(評価試験1)
基体2(材料:フェルト、構成繊維:PET(3デニール)(50%)及び低融点PET(2デニール)(50%)、ニードルパンチフェルトを熱プレスしたもの。気孔率:50%、厚さ:2mm、揮散する円形部分の直径:80mm、容器に挿入される柄の部分:25mm×90mm、)、接着剤部3(接着剤材料:水系ウレタン)、植毛部4(繊維材4f:ナイロン、繊維材長さ:0.8mm、繊維材直径:3デニール)の液体揮散体1を作成した。なお、揮散部分の面積5024mm2に対し、接着剤部3(植毛部4)の面積合計は853mm2であった。
接着剤部3は、塗布しない部分をシルクスクリーンでマスキング後、接着剤をロールコートすることにより形成した。
接着剤が塗布され接着剤部3(硬化前)を有する基体2を、電極5に対して15cm程度の間隔をおいて配置し、該接着剤部3はアース6に接地した。
高電圧発生器7を用いて、電極5に対して30kva程度の電圧をかけることにより、電極5とアース6(接着剤部3)との間に静電界を形成した。
静電界を通過させるように、接着剤部3に向けて繊維材4fを撒布した。植毛時間は、10秒~20秒程度とした。
植毛後、基体2を乾燥させた。乾燥条件は、80℃、30分とした。
得られた液体揮散体1を、実施例1として評価した。図2(a)に実施例1の正面図、図2(b)に実施例1の側面図、図2(c)に実施例1の拡大図を示す。
【0049】
上記実施例のうち、接着剤部3及び植毛部4を形成しない液体揮散体を比較例1として評価に用いた。
【0050】
実施例1の液体揮散体1を芳香剤(Sawaday 香るStick PARFUME BLANC)に浸漬し、経過日数ごとの累積揮散量を計測した。
比較例1の液体揮散体を芳香剤(Sawaday 香るStick PARFUME BLANC)に浸漬し、経過日数ごとの累積揮散量を計測した。
累積揮散量の結果を表1及び図4に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1及び図4より、植毛部4を有する液体揮散体1は、植毛部を有さない比較例に比べ、揮散量を多くすることが可能であることが確認された。
【0053】
(評価試験2)
実施例1の液体揮散体のうち、接着剤部の接着剤を顔料なしのものに変更し、植毛部の繊維材を黒色染料で染色したナイロンに変更し、得られた液体揮散体を比較例2として、色の耐久性を評価した。
【0054】
実施例1と比較例2の液体揮散体を液体に浸漬してから色落ちの経時変化を確認した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2より、黒色染料で染色した繊維材を植毛した比較例2では、液体揮散体を液体に浸漬して1日後から色落ちが確認され、植毛以外の部分にも色が移行し汚くなっていくことがわかった。一方、黒顔料を含む接着剤を用いた実施例1では、液体揮散体を液体に浸漬して1ヶ月を経過しても、色落ちは確認されなかった。
【符号の説明】
【0057】
1 液体揮散体
2 基体
3 接着剤部
4 植毛部
4f 繊維材
5 電極
6 アース
7 高電圧発生器
L 液体
図1
図2
図3
図4