(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032021
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20230302BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20230302BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20230302BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230302BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20230302BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20230302BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20230302BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230302BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230302BHJP
C09D 181/02 20060101ALI20230302BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230302BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230302BHJP
【FI】
C08L101/12
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
H01B5/14 A
C08K5/05
C08L101/02
C09D7/20
C09D7/61
C09D181/02
C09D201/00
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137866
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝則
【テーマコード(参考)】
4J002
4J004
4J038
5G301
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4J002AA031
4J002AA032
4J002BB201
4J002BC101
4J002BE042
4J002BG011
4J002CE002
4J002DE026
4J002EC026
4J002GQ00
4J002HA03
4J004AA10
4J004AA17
4J004AB01
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4J004CC03
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4J038CC022
4J038CG141
4J038DD001
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4J038PC08
5G301DA28
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5G307FC10
5G323BA05
5G323BB01
5G323BB02
5G323BB06
(57)【要約】
【課題】イソプロパノールと併存する導電性複合体の分散性が向上した導電性高分子含有液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒とを含有する導電性高分子含有液であり、前記分散媒は、水と、イソプロパノールとを含み、前記導電性高分子含有液の総質量に対する鉄イオンの含有量が0.200ppm以下である、導電性高分子含有液。前記分散媒の総質量に対する前記イソプロパノールの含有量が、90質量%以上であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒とを含有する導電性高分子含有液であり、
前記分散媒は、水と、イソプロパノールとを含み、
前記導電性高分子含有液の総質量に対する鉄イオンの含有量が0.200ppm以下である、導電性高分子含有液。
【請求項2】
前記分散媒の総質量に対する前記イソプロパノールの含有量が、90質量%以上である、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項3】
前記分散媒の総質量に対する前記水の含有量が、1質量%以上10質量%以下である、請求項1又は2に記載の導電性高分子含有液。
【請求項4】
前記分散媒の総質量に対する前記イソプロパノールと前記水の合計の含有量が、90質量%以上である、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項5】
バインダ成分をさらに含有する、請求項1~4の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項6】
前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、請求項1~5の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項7】
ポリアニオンと、水系分散媒と、π共役系導電性高分子を形成するモノマーと、鉄イオンとを含む反応液で、前記モノマーを重合することにより、
前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記水系分散媒と、前記鉄イオンとを含む導電性高分子分散液(A)を得る工程と、
前記導電性高分子分散液(A)に陽イオン交換樹脂を添加し、前記鉄イオンの少なくとも一部を吸着させた後、前記陽イオン交換樹脂を除去して導電性高分子分散液(B)を得る工程と、
前記導電性高分子分散液(B)に、少なくともイソプロパノールを添加して導電性高分子含有液を得る工程とを含み、
前記導電性高分子分散液(B)の総質量に対する前記鉄イオンの含有量が5ppm以下であり、前記導電性高分子含有液の総質量に対する前記鉄イオンの含有量が0.200ppmである、導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項8】
フィルム基材と、前記フィルム基材の一方の面に形成された、請求項1~6の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体。
【請求項9】
前記フィルム基材の他方の面に粘着剤層をさらに備えた、請求項8に記載の導電性積層体。
【請求項10】
基材の少なくとも一部の面に、請求項1~6の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料又はその成分として、π共役系導電性高分子にポリアニオンがドープした導電性複合体を含む導電性高分子分散液を使用することがある。例えば、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は水に対して分散し難いが、これにポリスチレンスルホン酸がドープしてPEDOT-PSSを形成することにより、水に対する分散性が高まる。特許文献1には、導電性複合体を水に分散させた後、180日以上経過させることにより、導電性複合体の親水性を向上させたり、エポキシ化合物に対する反応性を向上させたりする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、導電性複合体にエポキシ化合物を反応させた後、有機溶剤に溶解した塗料とすることにより、疎水性のフィルム基材に対する濡れ性を高めている。
一方、導電性複合体をエポキシ化合物との反応によって疎水化しない場合、導電性高分子分散液にメタノールやエタノールを添加して、基材に対する濡れ性を向上する試みがある。しかし、必ずしも満足できる濡れ性は得られない。また、濡れ性の更なる向上を図るべく、導電性高分子分散液にイソプロパノールを添加した場合、導電性複合体の分散性が悪化し、直ぐに沈殿して塗工できなくなることがある。
【0005】
本発明者は、導電性高分子分散液に含まれる鉄イオンの含有量を著しく低減すると、イソプロパノールに対する導電性複合体の分散性が向上し、塗工可能な導電性高分子含有液が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、イソプロパノールと併存する導電性複合体の分散性が向上した導電性高分子含有液及びその製造方法を提供する。また、その導電性高分子含有液を用いて形成した導電性積層体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒とを含有する導電性高分子含有液であり、前記分散媒は、水と、イソプロパノールとを含み、前記導電性高分子含有液の総質量に対する鉄イオンの含有量が0.200ppm以下である、導電性高分子含有液。
[2] 前記分散媒の総質量に対する前記イソプロパノールの含有量が、90質量%以上である、[1]に記載の導電性高分子含有液。
[3] 前記分散媒の総質量に対する前記水の含有量が、1質量%以上10質量%以下である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子含有液。
[4] 前記分散媒の総質量に対する前記イソプロパノールと前記水の合計の含有量が、90質量%以上である、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[5] バインダ成分をさらに含有する、[1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[6] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[7] ポリアニオンと、水系分散媒と、π共役系導電性高分子を形成するモノマーと、鉄イオンとを含む反応液で、前記モノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記水系分散媒と、前記鉄イオンとを含む導電性高分子分散液(A)を得る工程と、前記導電性高分子分散液(A)に陽イオン交換樹脂を添加し、前記鉄イオンの少なくとも一部を吸着させた後、前記陽イオン交換樹脂を除去して導電性高分子分散液(B)を得る工程と、前記導電性高分子分散液(B)に、少なくともイソプロパノールを添加して導電性高分子含有液を得る工程とを含み、前記導電性高分子分散液(B)の総質量に対する前記鉄イオンの含有量が5ppm以下であり、前記導電性高分子含有液の総質量に対する前記鉄イオンの含有量が0.200ppmである、導電性高分子含有液の製造方法。
[8] フィルム基材と、前記フィルム基材の一方の面に形成された、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体。
[9] 前記フィルム基材の他方の面に粘着剤層をさらに備えた、[8]に記載の導電性積層体。
[10] 基材の少なくとも一部の面に、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性高分子含有液の製造方法によれば、導電性複合体の分散性に優れた導電性高分子含有液を容易に製造することができる。
本発明の導電性高分子含有液は分散性に優れ、プラスチック等の疎水性の基材に対する濡れ性にも優れる。
本発明の導電性積層体の製造方法によれば、使用する導電性高分子含有液の分散性が優れ、基材に対する濡れ性も優れるので、導電性積層体を容易に製造できる。本発明の導電性積層体は導電性が良好な導電層を備える。
【0009】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【0011】
≪導電性高分子含有液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒とを含有する導電性高分子含有液である。前記分散媒は、水と、イソプロパノールとを含む。前記導電性高分子含有液の総質量に対する鉄イオンの含有量が0.200ppm以下である。
本態様の導電性高分子含有液において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよく、特に明記しない限り両者を区別しない。
【0012】
<π共役系導電性高分子>
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
<ポリアニオン>
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記導電性複合体を構成する前記ポリアニオンは1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0015】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性が高く、後述のように鉄イオン含有量を調整しない限りは有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0016】
本態様の導電性高分子含有液において、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられ、所定の鉄イオン含有量において導電性複合体を、イソプロパノールを含む分散媒に分散させることが容易になる。
【0017】
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対するπ共役系導電性高分子及びポリアニオンの含有量としては、0.001質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましく、0.03質量%以上0.05質量%以下が特に好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子含有液を塗布して形成する導電層の導電性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子含有液における導電性複合体の分散性を高め、均一な導電層を形成することができる。
【0018】
<分散媒>
本態様の導電性高分子含有液に含まれる分散媒は、前述した導電性複合体を分散又は溶解する液剤である。本明細書において、分散と溶解とを区別せずに単に分散ということがあり、分散媒と溶媒とを区別せずに単に分散媒ということがある。よって、前記分散媒を溶媒と言い換えてもよい。
【0019】
本態様の分散媒は、水とイソプロパノールを含む。
本態様の分散媒の総質量に対するイソプロパノールの含有量は、例えば、90質量%以上、より高くは92質量%以上、さらに高くは94質量%以上、さらに一層高くは96質量%以上とすることができる。このように高含有量であっても、導電性複合体の分散性を充分に高めることができる。
本態様の分散媒の総質量に対する水の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、1.5質量%以上5質量%以下がより好ましく、2質量%以上4質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の分散性が一層高まる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子含有液の基材に対する濡れ性が一層高まる。
本態様の分散媒の総質量に対するイソプロパノールと水の合計の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、導電性複合体の分散性がより一層高まり、導電性高分子含有液の基材に対する濡れ性が一層高まる。
【0020】
本態様の分散媒は、水及びイソプロパノール以外の溶剤(他の溶剤)を含んでいても構わない。
他の溶剤としては、水溶性有機溶剤であることが好ましい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤である。
【0021】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤(アルコール)としては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(鉄イオン含有量)
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対する鉄イオンの含有量は、0.200ppm以下であり、0.150ppm以下が好ましく、0.120ppm以下がより好ましく、0.090ppm以下がさらに好ましく、0.050ppm以下が特に好ましく、0.0030ppm以下であってもよく、0.010ppm以下であってもよく、0ppmであってもよい。
上記の好適な範囲であると、導電性複合体の分散性がより一層高まる。
本態様の導電性高分子含有液に含まれる鉄イオンの含有量は、ICP発光分析により求められる。なお、鉄イオンは、Fe2+とFe3+を区別せず、両者の合計量を鉄イオン含有量とする。
【0023】
<バインダ成分>
本態様の導電性高分子含有液は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0024】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
本態様の導電性高分子含有液が含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0025】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。
【0026】
本態様の導電性高分子含有液を基材に塗工した塗膜の強度が高くなることから、バインダ樹脂は、エポキシ基を有する樹脂を含むことが好ましく、エポキシ基を有するアクリル樹脂を含むことがより好ましく、エポキシ基を有するアクリル樹脂のエマルションを含むことがさらに好ましい。
【0027】
本態様の導電性高分子含有液を基材に塗工した塗膜の強度が高くなることから、バインダ樹脂は、ポリエステル樹脂を含むことが好ましく、ポリエステル樹脂のエマルションを含むことがより好ましい。特に、ポリエステルフィルム基材に塗工する場合、基材に対する塗膜の密着性が高くなるのでポリエステル樹脂又はそのエマルションを含むことが好ましい。
上記のアクリル樹脂とポリエステル樹脂を併用すると、塗膜の強度と密着性がより一層高まるので好ましい。
【0028】
また、水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。
水分散性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0029】
バインダ成分は、硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。なお、質量平均分子量が1万を超えるポリマーは、硬化性を有さない。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。バインダ成分としてオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを用いた場合には、導電層に離型性(非粘着性)を付与することができる。
【0030】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。また、オルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを含む場合には、硬化用の白金触媒を含むことが好ましい。
【0031】
本態様の導電性高分子含有液におけるバインダ成分の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上20000質量部以下が好ましく、500質量部以上10000質量部以下がより好ましく、1000質量部以上5000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であれば、本態様の導電性高分子含有液を基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であれば、導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0032】
(その他の添加剤)
本態様の導電性高分子含有液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0033】
≪導電性高分子含有液の製造方法≫
本発明の第二態様は、次の第一工程~第三工程を含む。本態様の製造方法により、第一態様の導電性高分子含有液が得られる。
第一工程は、ポリアニオンと、水系分散媒と、π共役系導電性高分子を形成するモノマーと、鉄イオンとを含む反応液で、前記モノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記水系分散媒と、前記鉄イオンとを含む導電性高分子分散液(A)を得る工程である。
第二工程は、前記導電性高分子分散液(A)に陽イオン交換樹脂を添加し、前記鉄イオンの少なくとも一部を吸着させた後、前記陽イオン交換樹脂を除去して導電性高分子分散液(B)を得る工程である。
第三工程は、前記導電性高分子分散液(B)に、少なくともイソプロパノールを添加して導電性高分子含有液を得る工程である。
第二工程で得る前記導電性高分子分散液(B)の総質量に対する前記鉄イオンの含有質量は5ppm以下であることが好ましい。
第三工程で得る導電性高分子含有液の総質量に対する前記鉄イオンの含有量は0.200ppm以下であることが好ましく、第一態様で説明した好適な含有量であることがより好ましい。
【0034】
(第一工程)
第一工程で用いるポリアニオンは、第一態様のポリアニオンと同様であるので、ここで重複する説明は省略する。第一工程で用いる前記モノマーは前述のπ共役系導電性高分子を形成する公知のモノマーを適用することができる。
【0035】
前記反応液を構成する水系分散媒は、ポリアニオンと前記モノマーを溶解する溶媒であり、少なくとも水を含み、さらに水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。水溶性有機溶剤の具体例は前述と同様である。
前記水系分散媒の総質量に対する水の含有割合は、60質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下がさらに好ましく、90質量%以上100質量%以下が特に好ましい。
上記の好適な範囲であると前記モノマーの重合反応を安定に進めることができる。
【0036】
前記反応液に含まれる鉄イオンは、前記モノマーの重合反応の触媒として機能し得る。従って、前記反応液には鉄イオンを含む触媒が含まれることが好ましい。触媒の具体例としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等が挙げられる。なかでも、室温におけるモノマーの重合が安定に進むことから、硫酸第二鉄が好ましい。
前記触媒の含有量は、前記反応液の総質量に対して、0.001質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1.0質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると重合反応を安定に進められる。
【0037】
前記反応液には前記触媒とともに、酸化剤を含有させることが好ましい。酸化剤は、前記モノマーを重合させることができる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。
前記酸化剤は予めイオン交換水に溶解した酸化剤溶液として、前記反応液にゆっくり添加することが好ましい。
前記酸化剤溶液の濃度は、0.5質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0038】
前記酸化剤溶液を添加し終えて得られた反応液の温度は、5~30℃に保ち、重合反応を行うことが好ましい。
前記反応液における反応終了までに要する反応時間の目安は4~12時間であり、6~10時間で反応終了することが好ましい。重合反応の終了は、ガスクロマトグラフィーによって前記モノマーが全て消費されていることを確認して知ることができる。
【0039】
(第二工程)
第一工程で得た導電性高分子分散液(A)には鉄イオンが含まれている。
本工程で鉄イオンの少なくとも一部を除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に導電性高分子分散液(A)を接触させ、鉄イオンをイオン交換樹脂に吸着させる方法、導電性高分子分散液(A)を限外ろ過することにより水系分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂のうち少なくとも陽イオン交換樹脂を使用することが好ましい。陰イオン交換樹脂は、鉄イオンのカウンターアニオンを吸着することができる。
【0040】
本工程において鉄イオンの少なくとも一部を除去した導電性高分子分散液(B)を得る。導電性高分子分散液(B)の総質量に対する鉄イオンの含有量は、好ましくは5ppm以下、より好ましくは4ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、特に好ましくは2ppm以下、最も好ましくは1ppm以下とすることが望ましい。
上記の好適な範囲であると、後段で得る導電性高分子含有液における鉄イオンの含有量を所望の範囲とすることがより容易となる。
【0041】
(第三工程)
第二工程で得た導電性高分子分散液(B)に、少なくともイソプロパノールを添加することにより、第一態様の導電性高分子含有液を得ることができる。
添加するイソプロパノールの配合量や配合比は、第一態様で説明した含有量や含有比となるようにすることが好ましい。また、他の溶剤をさらに添加しても構わない。
【0042】
得られた導電性高分子含有液を攪拌して導電性複合体の分散処理を施すことが好ましい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高圧ホモジナイザー等の高剪断力の分散機を用いて攪拌してもよいが、分散性を高める観点から高圧ホモジナイザー等を用いることが好ましい。
【0043】
(任意成分の添加)
得られた導電性高分子含有液に、さらにバインダ成分やその他の添加剤を添加してもよい。
【0044】
≪導電性積層体≫
本発明の第三態様は、基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された、第一態様の導電性高分子含有液の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体である。
【0045】
[導電層]
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。
基材がフィルム基材である場合、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0046】
前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
導電層の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0047】
[粘着剤層]
フィルム基材の一方の面に導電層が形成されている場合、フィルム基材の他方の面に粘着剤層が備えられていてもよい。つまり、粘着剤層はあってもよく、なくてもよい任意の層である。
前記粘着剤層の平均厚みとしては、例えば、1nm以上1000μm以下が好ましく、5nm以上500μm以下がより好ましく、10nm以上100μm以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、充分な粘着性が得られ、上記範囲の上限値以下であると、粘着剤層の基材に対する密着性がより向上する。
粘着剤層の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0048】
前記粘着剤が有する粘着性の程度は特に制限されず、貼付した後で、手で容易に剥離可能な程度の粘着性であってもよいし、貼付した後で剥離することが難しい程度の粘着性であってもよい。剥離することが困難な粘着性は接着性と言い換えることができる。つまり、粘着性は半永久的に接着することが可能な程度であってもよい。
【0049】
(アクリル系粘着剤)
前記粘着剤として、公知の粘着剤が適用でき、例えばアクリル系粘着剤が挙げられる。
アクリル系粘着剤は、同種又は異種の固体の面と面とを貼り合せて一体化させることができる。アクリル系粘着剤は、アクリル系樹脂(アクリル系重合体)を含む。
【0050】
アクリル系樹脂を形成するアクリルモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のアクリレート;テトラエチレングリコールジメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート;ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリロイルホルモリン、N-メチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド、アクリロイルピペリジン、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
前記アクリル系樹脂を形成するアクリルモノマーは1種類でもよいし、2種以上でもよい。アクリルモノマーを2種以上組み合わせることにより粘着性を調整することができる。
【0051】
アクリル系樹脂は、アクリルモノマーと、アクリルモノマー以外のビニル系モノマーとの共重合体であってもよい。
ビニル系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸等が挙げられる。
上記共重合体におけるアクリルモノマー単位の含有量は、50モル%以上100モル%未満であることが好ましく、70モル%以上98モル%以下であることがより好ましい。
アクリルモノマー単位の含有量が前記下限値以上であれば、粘着性を容易に発現できる。
上記共重合体におけるビニル系モノマー単位の含有量は、例えば、2モル%以上20モル%以下とすることができる。
【0052】
前記アクリル系樹脂のガラス転移温度は、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。ガラス転移温度が80℃を超えるアクリル系樹脂は、粘着性が低い。アクリル系樹脂のガラス転移温度は-80℃以上であり、それよりガラス転移温度が低いものを得ることは困難である。アクリル系樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定又は動的粘弾性測定により求めることができる。
アクリル系樹脂のガラス転移温度を低くする傾向を有するアクリルモノマーとして、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート(特にn-ブチルアクリレート)、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。アクリル系樹脂において、これらのモノマー単位の割合が多くなる程、ガラス転移温度が低くなる。
【0053】
アクリル系樹脂の質量平均分子量は1万以上200万以下であることが好ましく、3万以上100万以下であることがより好ましい。アクリル系樹脂の質量平均分子量が前記下限値以上であれば、充分な凝集力を確保できる。前記上限値以下であれば、粘着性をより向上させることができる。
【0054】
アクリル系樹脂が、反応性官能基を有するアクリルモノマー単位を有する場合には、硬化剤と反応させて硬化させてもよい。アクリル系樹脂を硬化させると、粘着剤層の凝集力が向上して強度を向上させることができる。また、凝集力を向上させることによって、接着と剥離を繰り返すことが可能な再剥離性の粘着剤層とすることもできる。
前記反応性官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、エポキシ基等が挙げられる。後述する多官能イソシアネートと反応させる場合には、反応性官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。
ヒドロキシ基を有するアクリルモノマーとしては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート等が挙げられる。
カルボキシ基を有するアクリルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。
アミノ基を有するアクリルモノマーとしては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
アミド基を有するアクリルモノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。
エポキシ基を有するアクリルモノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
硬化剤として多官能イソシアネートを用いる場合には、前記反応性官能基を有するアクリルモノマーのなかでも、硬化性及びコストを勘案すると、ヒドロキシ基を有するアクリルモノマーが好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートがより好ましい。
前記アクリル樹脂を形成する、前記反応性官能基を有するアクリルモノマーは、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0055】
(硬化剤)
前記硬化剤としては、1分子中にイソシアネート基を2つ以上有する多官能イソシアネート等のイソシアネート系硬化剤、1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物等のエポキシ系硬化剤等が挙げられる。これら硬化剤のなかでも、反応性の点から、多官能イソシアネートが好ましい。特に、粘着剤が、ヒドロキシ基を有するアクリルモノマー単位を有する場合には、硬化剤が多官能イソシアネートであることが好ましい。
【0056】
多官能イソシアネートとしては、脂肪族多官能イソシアネート、脂環族多官能イソシアネート及び芳香族多官能イソシアネートが挙げられる。
多官能イソシアネートの具体例としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジシクロメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタトリイソシアネート、トリメチルへキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
多官能イソシアネートは、前記ジイソシアネートを、NCO/OHモル比が2/1以上となるように変性した変性多官能イソシアネートより形成した変性ジイソシアネートであってもよい。
多官能イソシアネートは、変性ポリイソシアネートであってもよい。変性ポリイソシアネートしては、例えば、前記多官能イソシアネートを多価アルコールと反応させて得られるポリウレタンポリイソシアネート、多官能イソシアネートを重合させることによって得られる、イソシアヌレート環を含んだポリイソシアネート、多官能イソシアネートと水と反応させて得られる、ビュレット結合を含んだポリイソシアネート等が挙げられる。
前記粘着剤層の硬化に用いられる硬化剤の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0057】
[基材]
前記基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0058】
(フィルム基材)
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はポリエステル樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0059】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、前記導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0060】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0061】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0062】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下が好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0063】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第四態様は、基材の少なくとも一部の面に第一態様の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性積層体の製造方法である。本態様の製造方法により第三態様の導電性積層体が得られる。
【0064】
導電性高分子含有液を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0065】
導電性高分子含有液の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0066】
基材上に塗工した導電性高分子含有液からなる塗膜を乾燥させて、分散媒の少なくとも一部を除去し、硬化させることにより、導電層を形成することができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
乾燥後にUV照射を行い、塗膜に含まれるバインダ成分を硬化させてもよい。
【0067】
フィルム基材の一方の面に導電層を形成し、他方の面に粘着剤層を形成する場合、粘着剤を含む塗料を他方の面に塗工することにより、導電層と同様に粘着剤層を形成することができる。粘着剤を含む塗料は特に制限されず、公知の塗料を適用できる。例えば、前述のアクリル系粘着剤を含む塗料が挙げられる。
【実施例0068】
[製造例1]ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0069】
[製造例2]鉄イオンを含む導電性高分子分散液の製造A
0.5gの3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、1.5gのポリスチレンスルホン酸を15.0gのイオン交換水に溶かしたPSS水溶液とを20℃で混合した。次に、イオン交換水89.5gを添加した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、0.3gの硫酸第二鉄を4.7gのイオン交換水に溶かした触媒溶液と、1.1gの過硫酸アンモニウムを8.9gのイオン交換水に溶かした酸化剤溶液とをゆっくり添加し、得られた反応液を24時間攪拌して反応させた。
上記反応により、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸を含む導電性複合体(PEDOT-PSS)と、分散媒である水と、硫酸第二鉄に由来する鉄イオンとを含む導電性高分子分散液を得た。
この導電性高分子含有液にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)13.2gとデュオライトA368MS(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂)13.2gを加え、濾過してイオン交換樹脂を除き、前記酸化剤、前記触媒の少なくとも一部が除去された導電性高分子分散液(不揮発成分濃度1.3質量%)を得た。
次に高圧ホモジナイザーを用いて分散し、得られた導電性高分子分散液の鉄イオン量をICP発光分析によって測定した結果、10ppmであった。
【0070】
[製造例3]鉄イオンを含む導電性高分子分散液の製造B
製造例2においてデュオライトC255LFHを26.4gに変更したこと以外は製造例2と同様にして導電性高分子分散液(不揮発成分濃度1.3質量%)を得た。
次に高圧ホモジナイザーを用いて分散して、得られた導電性高分子分散液の鉄イオン量をICP発光分析によって測定した結果、3ppmであった。
【0071】
[製造例4]鉄イオンを含む導電性高分子分散液の製造C
製造例2においてデュオライトC255LFHを33.0gに変更したこと以外は製造例2と同様にして導電性高分子分散液(不揮発成分濃度1.3質量%)を得た。
次に高圧ホモジナイザーを用いて分散して、得られた導電性高分子分散液の鉄イオン量をICP発光分析によって測定した結果、1ppmであった。
【0072】
[実施例1]
製造例4の導電性高分子分散液10gと、イソプロパノール290gとを混合し、高圧ホモジナイザーを用いて分散し、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.033ppm)を得た。その後、#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、120℃で1分間乾燥し、導電性フィルムを得た。この導電性フィルムの表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
本例で得た導電性高分子含有液のPETフィルムに対する濡れ性は良好であり、はじきは無かった。
【0073】
[実施例2]
製造例4の導電性高分子分散液10gと、イソプロパノール140gとを混合し、高圧ホモジナイザーを用いて分散し、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.067ppm)を得た。その後、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
製造例4の導電性高分子分散液10gを、製造例3の導電性高分子分散液10gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電性高分子含有液(鉄イオン量:0.100ppm)及び導電性フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
製造例4の導電性高分子分散液10gを、製造例3の導電性高分子分散液10gに変更したこと以外は実施例2と同様にして、導電性高分子含有液(鉄イオン量:0.200ppm)及び導電性フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例1]
製造例4の導電性高分子分散液10gを、製造例2の導電性高分子分散液10gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.333ppm)を得たが、直ぐに沈殿が発生したため、導電性フィルムは作製できなかった。
【0077】
[比較例2]
製造例4の導電性高分子分散液10gを、製造例2の導電性高分子分散液10gに変更したこと以外は実施例2と同様にして、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.667ppm)を得たが、直ぐに沈殿が発生したため、導電性フィルムは作製できなかった。
【0078】
[比較例3]
実施例1においてイソプロパノールをメタノールに変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.033ppm)及び導電性フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例4]
実施例1においてイソプロパノールをエタノールに変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.033ppm)及び導電性フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例5]
実施例2においてイソプロパノールをメタノールに変更したこと以外は実施例2と同様にして、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.067ppm)及び導電性フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0081】
[比較例6]
実施例2においてイソプロパノールをエタノールに変更したこと以外は実施例2と同様にして、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.067ppm)及び導電性フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0082】
[表面抵抗値の測定]
各例で作製した導電性フィルムについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。表中、「2.0E+08」は「2.0×108」を意味し、他も同様である。
【0083】
【0084】
(実施例5)
製造例4の導電性高分子分散液10gと、イソプロパノール280gとを混合し、高圧ホモジナイザーを用いて分散し、さらにペスレジンA-645GH(高松油脂社製、エポキシ基含有アクリル樹脂とポリエステル樹脂液、固形分30%、水分散エマルション)10gを混合し、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.033ppm)を得た。その後、#4のバーコーターを用いてPETフィルムに塗布し、120℃で1分間乾燥し、導電性フィルムを得た。この導電性フィルムの表面抵抗値を測定した結果を表2に示す。
本例で得た導電性高分子含有液のPETフィルムに対する濡れ性は良好であり、はじきは無かった。
【0085】
(実施例6)
実施例5において、製造例4の導電性高分子分散液10gを、製造例3の導電性高分子分散液10gに変更し、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.100ppm)を得たこと以外は実施例5と同様にして導電性フィルムを作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0086】
(比較例7)
実施例5において、製造例4の導電性高分子分散液10gを、製造例2の導電性高分子分散液10gに変更し、導電性高分子含有液(鉄イオン量:約0.333ppm)を得たが、直ぐに沈殿が発生したため、導電性フィルムは作製できなかった。
【0087】
【0088】
(実施例7)
アクリル系粘着剤(綜研化学社製、SKダイン1499M、固形分濃度35質量%、酢酸エチル・酢酸ブチル混合溶液)60gと、硬化剤であるトルエンジイソシアネート-トリメチロールプロパン付加物(綜研化学社製、L-45、固形分濃度45質量%、トルエン・酢酸エチル混合溶液)1.62gと、メチルエチルケトン40gとを混合して、粘着剤溶液を得た。
得られた粘着剤溶液を、実施例1で得た導電性フィルムの導電層側とは逆の面に#16のバーコーターを用いて塗布し、100℃で1分間乾燥した。この時の粘着剤層側の粘着力を測定したところ0.13N/cmであった。
【0089】
<結果>
本発明に係る各実施例の導電性高分子含有液において、鉄イオン量が0.200ppm以下であることにより、イソプロパノールを含む分散媒に対して導電性複合体が充分に分散した。この結果、導電層の導電性も良好であった。
比較例1,2,7では導電性高分子含有液に含まれる鉄イオン量が多いため、導電性複合体の分散性が悪く、沈殿し、塗布できる状態にならなかった。
比較例3~6では導電性高分子含有液がイソプロパノールを含まないため、フィルム基材に対する濡れ性が悪く、均一な膜厚の導電層を大面積で又は所望の面積で形成することは困難であった。