(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032076
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/06 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137970
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真司
(57)【要約】
【課題】励消磁時における発生磁場の遅延を抑制できる超電導コイルを提供する。
【解決手段】超電導コイル100は、超電導線材10が巻回された巻線部30を備える。巻線部30は、超電導線材10の少なくとも一方の端を起点として2回以上周回する端部導通領域21,22と、端部導通領域21,22に連なる絶縁領域23と、を有する。前記端を含む端領域10A,10Bは、被接続部25,35に接続可能である。端部導通領域21,22は、巻線部30の径方向に隣り合う超電導線材10が全長にわたって導通可能に互いに接触する。絶縁領域23は、巻線部30の径方向に隣り合う超電導線材10どうしの間に絶縁材が介在している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材が巻回された巻線部を備え、
前記巻線部は、
前記超電導線材の少なくとも一方の端を起点として2回以上周回する端部導通領域と、
前記端部導通領域に連なる絶縁領域と、を有し、
前記端を含む端領域は、被接続部に電気的に接続可能であり、
前記端部導通領域は、前記巻線部の径方向に隣り合う前記超電導線材が導通可能に互いに接触し、
前記絶縁領域は、前記巻線部の径方向に隣り合う前記超電導線材どうしの間に絶縁材が介在している、
超電導コイル。
【請求項2】
前記超電導線材は、接続端を有する一対の線体どうしが接続された中間接続部を備え、
前記巻線部は、一対の前記線体の接続端を起点としてそれぞれ1回以上周回する中間導通領域をさらに有する、
請求項1記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記端部導通領域の前記超電導線材の周回数は5回以下である、
請求項1または2に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記端部導通領域の前記超電導線材の長さは、前記巻線部の前記超電導線材の長さの1%以下である、
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の超電導コイルは、ボビンに巻回された超電導線材を備える。この超電導コイルでは、巻回された超電導線材の間に、部分的に絶縁物質が挿入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の超電導コイルでは、励消磁時に発生磁場の遅延が起きる可能性がある。
【0005】
本発明の一態様は、励消磁時における発生磁場の遅延を抑制できる超電導コイルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、超電導線材が巻回された巻線部を備え、前記巻線部は、前記超電導線材の少なくとも一方の端を起点として2回以上周回する端部導通領域と、前記端部導通領域に連なる絶縁領域と、を有し、前記端を含む端領域は、被接続部に電気的に接続可能であり、前記端部導通領域は、前記巻線部の径方向に隣り合う前記超電導線材が導通可能に互いに接触し、前記絶縁領域は、前記巻線部の径方向に隣り合う前記超電導線材どうしの間に絶縁材が介在している、超電導コイルを提供する。
【0007】
この構成によれば、径方向に隣り合う超電導線材が導通可能に互いに接触する端部導通領域を備えるため、超電導線材の端末部の超電導層が損傷を受けて超電導特性が低下した場合でも、径方向に隣り合う超電導線材どうしの導通を確保し、過電流をバイパスすることができる。そのため、超電導コイルを保護することができる。超電導コイルは、端部導通領域を備えるため、絶縁領域の超電導線材の長さを十分に確保できる。よって、励消磁時における発生磁場の遅延を抑制できる。
【0008】
前記超電導線材は、前記超電導線材は、接続端を有する一対の線体どうしが接続された中間接続部を備え、前記巻線部は、一対の前記線体の接続端を起点としてそれぞれ1回以上周回する中間導通領域をさらに有することが好ましい。
【0009】
前記端部導通領域の前記超電導線材の周回数は5回以下であることが好ましい。
【0010】
前記端部導通領域の前記超電導線材の長さは、前記巻線部の前記超電導線材の長さの1%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、励消磁時における発生磁場の遅延を抑制できる超電導コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の超電導コイルの正面図である。
【
図2】第1実施形態の超電導コイルの第1の端部導通領域を模式的に示す図である。
【
図3】第1実施形態の超電導コイルに用いられる酸化物超電導線材の断面図である。
【
図4】第1実施形態の超電導コイルの第1の端部導通領域の一部の断面図である。
【
図5】第1実施形態の超電導コイルの第2の端部導通領域を模式的に示す図である。
【
図6】第1実施形態の超電導コイルの第2の端部導通領域の一部の断面図である。
【
図7】第1実施形態の超電導コイルの概略構造を示す斜視図である。
【
図8】第2実施形態の超電導コイルの正面図である。
【
図9】第2実施形態の超電導コイルの中間導通領域を模式的に示す図である。
【
図10】第2実施形態の超電導コイルの中間導通領域の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0014】
[超電導コイル](第1実施形態)
図1は、第1実施形態の超電導コイル100の正面図である。
図2は、超電導コイル100の第1の端部導通領域21を模式的に示す図である。
図3は、超電導コイル100に用いられる酸化物超電導線材10の断面図である。
図4は、超電導コイル100の第1の端部導通領域21の一部の断面図である。
図5は、超電導コイル100の第2の端部導通領域22を模式的に示す図である。
図6は、超電導コイル100の第2の端部導通領域22の一部の断面図である。
図7は、超電導コイル100の概略構造を示す斜視図である。
【0015】
図1に示すように、超電導コイル100は、複数の巻線部30(
図7参照)を備える。
巻線部30は、酸化物超電導線材10(超電導線材)で構成される。巻線部30は、酸化物超電導線材10が、巻芯に複数回、巻回された多層巻きコイルである。「C」は、巻線部30の巻回軸である。巻線部30は、例えば、円環状のパンケーキコイルである。巻回軸C周りの方向は、巻線部30の周方向である。巻線部30は、酸化物超電導線材10と、絶縁テープとが共巻きされた構成であってもよい。巻線部30は、エポキシ樹脂などの樹脂が含浸されていてもよい。
複数の巻線部30は、巻回軸Cの方向に積層される(
図7参照)。
【0016】
図3に示すように、酸化物超電導線材10は、超電導積層体5と、安定化層6とを備えている。酸化物超電導線材10は、「超電導線材」の具体例である。
【0017】
超電導積層体5は、金属基板1と、中間層2と、酸化物超電導層3と、保護層4とを備える。超電導積層体5は、金属基板1上に中間層2を介して酸化物超電導層3および保護層4が形成された構造を有する。すなわち、超電導積層体5は、テープ状の金属基板1の一方の面に、中間層2、酸化物超電導層3、および保護層4がこの順に積層された構成を有する。
【0018】
酸化物超電導線材10は、テープ状に形成されている。Y方向は、酸化物超電導線材10の厚さ方向であり、金属基板1、中間層2、酸化物超電導層3、保護層4が積層される方向である。X方向は、酸化物超電導線材10の幅方向であり、酸化物超電導線材10の長さ方向および厚さ方向に直交する方向である。
【0019】
金属基板1は、金属で形成されている。金属基板1を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)などのニッケル合金;ステンレス鋼;ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。金属基板1の厚さは、目的に応じて適宜調整すればよく、例えば10~500μmの範囲である。金属基板1の一方の面(中間層2が形成された面)を第1主面1aといい、第1主面1aと反対の面を第2主面1bという。
【0020】
中間層2は、金属基板1と酸化物超電導層3との間に設けられる。中間層2は、金属基板1の第1主面1aに形成される。中間層2は、多層構成でもよく、例えば金属基板1側から酸化物超電導層3側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。なお、中間層2は、酸化物超電導線材10において必須な構成ではなく、金属基板1自体が配向性を備えている場合は中間層2が形成されていなくてもよい。
【0021】
拡散防止層は、金属基板1の成分の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層3側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層は、例えば、Si3N4、Al2O3、GZO(Gd2Zr2O7)等から構成される。拡散防止層の厚さは、例えば10~400nmである。
【0022】
拡散防止層の上には、金属基板1と酸化物超電導層3との界面における反応を低減し、その上に形成される層の配向性を向上するためにベッド層を形成してもよい。ベッド層の材質としては、例えばY2O3、Er2O3、CeO2、Dy2O3、Eu2O3、Ho2O3、La2O3等が挙げられる。ベッド層の厚さは、例えば10~100nmである。
【0023】
配向層は、その上のキャップ層の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層の材質としては、例えば、Gd2Zr2O7、MgO、ZrO2-Y2O3(YSZ)、SrTiO3、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Zr2O3、Ho2O3、Nd2O3等の金属酸化物を例示することができる。配向層はIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法で形成することが好ましい。
【0024】
キャップ層は、上述の配向層の表面に成膜されて、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなる。キャップ層の材質としては、例えば、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、ZrO2、YSZ、Ho2O3、Nd2O3、LaMnO3等が挙げられる。キャップ層の厚さは、50~5000nmの範囲が挙げられる。
【0025】
酸化物超電導層3は、酸化物超電導体から構成される。酸化物超電導体としては、特に限定されないが、例えば一般式REBa2Cu3OX(RE123)で表されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体(REBCO系酸化物超電導体)が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。中でも、Y、Gd、Eu、Smの1種か、又はこれら元素の2種以上の組み合わせが好ましい。一般に、Xは、7-x(酸素欠損量x:約0~1程度)である。酸化物超電導層3の厚さは、例えば0.5~5μm程度である。この厚さは、長手方向に均一であることが好ましい。酸化物超電導層3は、中間層2の主面2a(金属基板1側とは反対の面)に形成されている。
【0026】
保護層4は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層3と保護層4の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制する等の機能を有する。保護層4の材質としては、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、金と銀との合金、その他の銀合金、銅合金、金合金などが挙げられる。保護層4は、少なくとも酸化物超電導層3の主面3a(中間層2側とは反対の面)を覆っている。保護層4の厚さは、特に限定されないが、例えば1~30μm程度が挙げられる。
【0027】
5aは超電導積層体5の第1主面(保護層4の主面4a)である。第1主面5aは、超電導積層体5の、酸化物超電導層3が形成された側の面である。5bは超電導積層体5の側面(金属基板1の側面、中間層2の側面、酸化物超電導層3の側面、および保護層4の側面)である。5cは、第1主面5aとは反対の面であって、超電導積層体5の第2主面(金属基板1の第2主面1b)である。第2主面5cは、超電導積層体5の、金属基板1が形成された側の面である。
【0028】
安定化層6は、超電導積層体5の第1主面5a、側面5b,5bおよび第2主面5cを覆う。安定化層6は、超電導積層体5を囲んで形成されている。安定化層6は、酸化物超電導層3が常電導状態に転移した時に発生する過電流を転流させるバイパス部としての機能を有する。
安定化層6の構成材料としては、銅、銅合金(例えばCu-Zn合金、Cu-Ni合金等)、アルミニウム、アルミニウム合金、銀等の金属が挙げられる。安定化層6の厚さは、例えば10~300μm程度である。安定化層6は、めっき(例えば電解めっき)によって形成することができる。
【0029】
巻線部30(
図1参照)は、酸化物超電導線材10が、金属基板1を外周側に向け、酸化物超電導層3を内周側に向けた姿勢で巻回されていることが望ましい。
【0030】
図1に示すように、巻線部30は、n回(nは、例えば6以上の整数)にわたって巻回された酸化物超電導線材10で構成される。巻線部30は、n個の周回部分を有する。これらの周回部分を、内周側から外周側にかけて、第1周回部分31、第2周回部分32、第3周回部分33(
図4参照)、・・・第n-2周回部分43(
図6参照)、第n-1周回部分42、第n周回部分41と呼ぶ。
【0031】
巻線部30は、第1の端部導通領域21と、第2の端部導通領域22と、絶縁領域23とを備える。第1の端部導通領域21および第2の端部導通領域22は「端部導通領域」の具体例である。絶縁領域は非導通領域ともいう。
【0032】
図1および
図2に示すように、第1の端部導通領域21は、酸化物超電導線材10の内周端10aを含む領域である。内周端10aは、巻線部30を構成する酸化物超電導線材10の一方の端である。
【0033】
図2に示すように、第1の端部導通領域21は、例えば、内周端10aを起点として2周回する酸化物超電導線材10からなる。第1の端部導通領域21は、第1周回部分31と、第2周回部分32とを有する。第1周回部分31は、内周端10aから延出し、1周回して、径方向から見て内周端10aと重なる第1中間点31aに至る部分である。第2周回部分32は、第1中間点31aから延出し、1周回して、径方向から見て第1中間点31aと重なる第2中間点32aに至る部分である。第2周回部分32は、第1周回部分31の外周面に重ねられる。第1周回部分31と第2周回部分32とは、巻線部30の径方向に隣り合う。
【0034】
第1周回部分31のうち、内周端10aを含む端領域10Aには、シート状の被接続部25が接続可能である。被接続部25は、他の巻線部30に接続された接続体、または電極である。被接続部25は、金属などの導電体によって形成されている。端領域10Aの内周面は、被接続部25の一方の面に、半田などの接合材26(
図4参照)によって接合され、被接続部25と電気的に接続されている。
【0035】
図4に示すように、第1周回部分31の酸化物超電導線材10と、第2周回部分32の酸化物超電導線材10とは、全長にわたって接触している。第1周回部分31と第2周回部分32とは電気的に導通可能である。
【0036】
図1および
図5に示すように、第2の端部導通領域22は、酸化物超電導線材10の外周端10bを含む領域である。外周端10bは、巻線部30を構成する酸化物超電導線材10の他方の端である。
【0037】
図5に示すように、第2の端部導通領域22は、例えば、外周端10bを起点として2周回する酸化物超電導線材10からなる。第2の端部導通領域22は、第n周回部分41と、第n-1周回部分42とを有する。第n周回部分41は、外周端10bから延出し、1周回して、径方向から見て外周端10bと重なる第1中間点41aに至る部分である。第n-1周回部分42は、第1中間点41aから延出し、1周回して、径方向から見て第1中間点41aと重なる第2中間点42aに至る部分である。第n-1周回部分42は、第n周回部分41の内周面に重ねられる。第n周回部分41と第n-1周回部分42とは、巻線部30の径方向に隣り合う。
【0038】
第n周回部分41のうち、外周端10bを含む端領域10Bには、シート状の被接続部35が接続可能である。被接続部35は、他の巻線部30に接続された接続体、または電極である。被接続部35は、金属などの導電体によって形成されている。端領域10Bの外周面は、被接続部35の一方の面に、半田などの接合材26(
図6参照)によって接合され、被接続部35と電気的に接続されている。
【0039】
図6に示すように、第n周回部分41の酸化物超電導線材10と、第n-1周回部分42の酸化物超電導線材10とは、全長にわたって接触している。そのため、第n周回部分41と第n-1周回部分42とは電気的に導通可能である。
【0040】
第1の端部導通領域21および第2の端部導通領域22の酸化物超電導線材10の長さは、巻線部30を構成する酸化物超電導線材10の長さの1%以下であることが望ましい。
酸化物超電導線材10に対する端部導通領域21,22の酸化物超電導線材10の長さ比率が1%以下であると、絶縁領域23の酸化物超電導線材10の長さを十分に確保できるため、励消磁時における発生磁場の遅延を抑制できる。
【0041】
図4および
図6に示すように、絶縁領域23は、第3周回部分33から第n-2周回部分43までの酸化物超電導線材10からなる。第3周回部分33~第n-2周回部分43のうち、隣り合う周回部分の間には、絶縁材60(スペーサ)が介在する。絶縁材60は、例えば、シート状に形成され、ポリイミド等の樹脂などの絶縁材料で形成される。
【0042】
図4に示すように、第3周回部分33と第4周回部分34との間には、周回部分33,34の全長にわたって絶縁材60が介在する。
図6に示すように、第n-3周回部分44と第n-2周回部分43との間には、周回部分43,44の全長にわたって絶縁材60が介在する。そのため、絶縁領域23では、巻線部30の径方向に隣り合う酸化物超電導線材10は、径方向については導通していない。
【0043】
図4に示すように、第1の端部導通領域21の最外周の周回部分(第2周回部分32)と、絶縁領域23の最内周の周回部分(第3周回部分33)との間には、周回部分32,33の全長にわたって絶縁材60が介在する。そのため、第2周回部分32と第3周回部分33とは、径方向については導通していない。
図6に示すように、絶縁領域23の最外周の周回部分(第n-2周回部分43)と、第2の端部導通領域22の最内周の周回部分(第n-1周回部分42)との間には、周回部分42,43の全長にわたって絶縁材60が介在する。そのため、第n-2周回部分43と第n-1周回部分42とは、径方向については導通していない。
【0044】
絶縁領域23は、第1の端部導通領域21および第2の端部導通領域22から連なる酸化物超電導線材10によって形成されている。
【0045】
被接続部25,35が他の巻線部30に接続された接続体である場合には、酸化物超電導線材10は、被接続部25,35を介して他の巻線部30(例えば、
図7において積層方向に隣接する巻線部30)と接続される。被接続部25,35が電極である場合には、酸化物超電導線材10は、この電極を介して通電可能となる。
【0046】
[第1実施形態の超電導コイルが奏する効果]
超電導コイル100に大きな電流を流すと、超電導コイル100に径方向外側への電磁力が加えられ、酸化物超電導線材10に引張力が作用することがある。そのため、被接続部25,35と酸化物超電導線材10とが接続された端末部では、酸化物超電導線材10の酸化物超電導層3に大きな応力がかかる可能性がある。
【0047】
超電導コイル100は、径方向に隣り合う酸化物超電導線材10が導通可能に互いに接触する第1の端部導通領域21および第2の端部導通領域22を備える。そのため、前述の引張力によって端末部の酸化物超電導層3が損傷を受けて酸化物超電導線材10の超電導特性が低下した場合でも、径方向に隣り合う酸化物超電導線材10どうしの導通を確保し、過電流をバイパスすることができる。そのため、超電導コイル100を保護することができる。
超電導コイル100は、端部導通領域21,22を備えるため、絶縁領域23の酸化物超電導線材10の長さを十分に確保できる。よって、励消磁時における発生磁場の遅延を抑制できる。
【0048】
第1の端部導通領域21(
図2参照)、および第2の端部導通領域22(
図5参照)は、それぞれ、2周回する酸化物超電導線材10で形成されているが、端部導通領域を構成する超電導線材の周回数は特に限定されない。端部導通領域を構成する超電導線材の周回数は、2回以上、5回以下であることが好ましい。周回数が2回以上であることによって、端部導通領域において隣り合う超電導線材の間の十分な導通を確保できる。周回数が5回以下であることによって、絶縁領域23の酸化物超電導線材10に十分な長さを与えることができる。よって、発生磁場の遅延を抑制できる。
【0049】
[超電導コイル](第2実施形態)
図8は、第2実施形態の超電導コイル200の正面図である。
図9は、超電導コイル200の中間導通領域24を模式的に示す図である。
図10は、超電導コイル200の中間導通領域24の一部の断面図である。第1実施形態との共通構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0050】
図8に示すように、超電導コイル200は、巻線部30(
図1参照)に代えて、巻線部130を備える。巻線部130は、酸化物超電導線材110(超電導線材)で構成される。
【0051】
巻線部130は、第1の端部導通領域21と、第2の端部導通領域22と、絶縁領域23と、中間導通領域24とを備える。巻線部130は、中間導通領域24を有する点で、
図1に示す巻線部30と異なる。
【0052】
酸化物超電導線材110は、2つの線体111(一対の線体)どうしが接続体112を介して互いに接続されている。線体111どうしが接続体112を介して接続された箇所を中間接続部113という。線体111および接続体112は、例えば、酸化物超電導線材10(
図3参照)と同様の構成であってよい。2つの線体111は、接続端111aどうしを向かい合わせて配置されている。接続体112は、2つの線体111の一方の面にそれぞれ接合され、これらの線体111と電気的に接続されている。そのため、2つの線体111は、接続体112を介して互いに電気的に接続されている。2つの線体111のうち内周側の線体111を第1線体111Aという。2つの線体111のうち外周側の線体111を第2線体111Bという。
【0053】
図9に示すように、中間導通領域24は、第1線体111Aの接続端111aを起点として内周側に1周回する酸化物超電導線材110と、第2線体111Bの接続端111aを起点として外周側に1周回する酸化物超電導線材110とからなる。
【0054】
第1線体111Aの接続端111aから内周側に1周回する周回部分を「第k周回部分51」という(kは、例えば4以上、n-4以下の整数)。第2線体111Bの接続端111aから外周側に1周回する周回部分を「第k+1周回部分52」という。中間導通領域24を構成する酸化物超電導線材110の周回数は合計で2である。
【0055】
第k+1周回部分52は、第k周回部分51の外周面に重ねられる。第k周回部分51と第k+1周回部分52とは、巻線部130の径方向に隣り合う。第k周回部分51の酸化物超電導線材110と、第k+1周回部分52の酸化物超電導線材110とは、全長にわたって接触している。第k周回部分51と第k+1周回部分52とは電気的に導通可能である。
【0056】
図10に示すように、中間導通領域24の最内周の周回部分である第k周回部分51と、第k周回部分51の内周側に隣り合う第k-1周回部分50との間には、周回部分50,51の全長にわたって絶縁材60が介在する。そのため、第k-1周回部分50と第k周回部分51とは、径方向については導通していない。
中間導通領域24の最外周の周回部分である第k+1周回部分52と、第k+1周回部分52の外周側に隣り合う第k+2周回部分53との間には、周回部分52,53の全長にわたって絶縁材60が介在する。そのため、第k+1周回部分52と第k+2周回部分53とは、径方向については導通していない。
【0057】
[第2実施形態の超電導コイルが奏する効果]
超電導コイル200は、第1の端部導通領域21および第2の端部導通領域22を備えるため、前述の引張力によって端末部において酸化物超電導線材110の超電導特性が低下した場合でも、超電導コイル200を保護することができる。
超電導コイル200は、端部導通領域21,22を備えるため、絶縁領域23の酸化物超電導線材10の長さを十分に確保できる。よって、励消磁時における発生磁場の遅延を抑制できる。
【0058】
超電導コイル200は、中間導通領域24を備えるため、中間接続部113において、前述の引張力によって酸化物超電導層3が損傷を受けて酸化物超電導線材110の超電導特性が低下した場合でも酸化物超電導線材110どうしの導通を確保し、過電流をバイパスすることができる。よって、超電導コイル200を保護することができる。
【0059】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
例えば、
図1に示す超電導コイル100は、第1の端部導通領域21および第2の端部導通領域22を備えるが、超電導コイルは、第1の端部導通領域21および第2の端部導通領域22のうちいずれか一方のみを有していてもよい。
端部導通領域を構成する超電導線材の周回数は、2回以上であればよい。中間導通領域を構成する超電導線材の周回数は、2回以上であればよい。
【0060】
図8に示す超電導コイル200は、線体111どうしが接続された中間接続部113を含む中間導通領域24を備えるが、実施形態の超電導コイルの構成はこれに限定されない。実施形態の超電導コイルは、酸化物超電導線材が中間接続部を備える場合でも、中間導通領域が形成されていなくてもよい。
超電導線材の超電導積層体の構造は、前述の構造に限定されない。超電導積層体は、保護層を備えていなくてもよい。超電導積層体には、金属基板、中間層、酸化物超電導層、および保護層以外の層が含まれていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…酸化物超電導線材(超電導線材)、10A,10B…端領域、21…第1の端部導通領域、22…第2の端部導通領域、23…絶縁領域、24…中間導通領域、25,35…被接続部、30,130…巻線部、100,200…超電導コイル、111…線体、111a…接続端、113…中間接続部。