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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032167
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】制動機構
(51)【国際特許分類】
   F16D 55/30 20060101AFI20230302BHJP
   B60T 7/06 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
F16D55/30
B60T7/06 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138118
(22)【出願日】2021-08-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】500259902
【氏名又は名称】ウィズワン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】宮城 潔
【テーマコード(参考)】
3D124
3J058
【Fターム(参考)】
3D124AA12
3D124BB02
3D124BB19
3D124CC31
3D124CC56
3D124DD06
3D124DD40
3J058AA43
3J058AA47
3J058AA88
3J058BA12
3J058BA67
3J058CA42
3J058CC06
3J058CC07
3J058CC14
3J058CC66
3J058CC72
3J058FA19
3J058FA50
(57)【要約】
【課題】簡単か且つコンパクトな構成であり高い耐久性と良好な制動機能を有する制動機構を提供する。
【解決手段】車輪1を軸支する脚部2に取り付けられた基体部Kと、車輪1に取り付けられた制動板4と、制動板4と一体回転するよう制動板4に当接配置される少なくとも一つの制動片3と、基体部Kに設けられ、制動片3の一体回転を許容する姿勢あるいは制動片3の一体回転を規制して制動片3を制動板4に摺接させる姿勢に切り替え可能な切替部材6と、切替部材6の姿勢を変更する操作部材5とを備える制動機構B。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を軸支する脚部に取り付けられた基体部と、
前記車輪に取り付けられた制動板と、
前記制動板と一体回転するよう前記制動板に当接配置される少なくとも一つの制動片と、
前記基体部に設けられ、前記制動片の前記一体回転を許容する姿勢あるいは前記制動片の一体回転を規制して前記制動片を前記制動板に摺接させる姿勢に切り替え可能な切替部材と、
前記切替部材の姿勢を変更する操作部材と、を備える制動機構。
【請求項2】
前記制動板が磁性部材であり、前記制動片が磁石である請求項1に記載の制動機構。
【請求項3】
前記基体部は、前記制動片に当接した前記制動片の回転を案内する環状溝を備えている請求項1または2に記載の制動機構。
【請求項4】
前記環状溝として、前記車輪の軸を中心とした直径の異なる第1環状溝と第2環状溝とを備えている請求項3に記載の制動機構。
【請求項5】
少なくとも一つの前記制動片を保持しつつ前記環状溝に配置される環状部材を備え、
前記環状部材に、前記切替部材が係合して前記環状部材の回転を阻止する複数の凹部が、前記環状部材の周方向に沿って設けられている請求項3または4に記載の制動機構。
【請求項6】
前記切替部材を前記環状溝に突出する方向に付勢する付勢部材が設けられ、
前記操作部材が、前記基体部に揺動可能に支持されると共に、前記切替部材に係合する爪部を備えており、
前記車輪を制動しない状態では、前記爪部が前記切替部材を前記環状溝から引退する方向に操作し、
前記車輪を制動する状態では、前記切替部材に対する前記爪部の操作を解除して、前記付勢部材により、前記切替部材が前記環状溝に突出するように構成してある請求項5に記載の制動機構。
【請求項7】
前記切替部材が、一方の端部が前記環状溝に突出引退し、他方の端部には前記爪部が係合可能な膨出部を備えたピン部材である請求項6に記載の制動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行車や荷物運搬台車等の各種車両において、走行中に車体のみが進むのを防止するべく、使用者によるブレーキの持続操作を要さず車輪に一定の制動力を付与し得る制動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような制動機構としては例えば特許文献1に示すものがある(〔0021〕~〔0022〕および図1図4参照)。
【0003】
この制動機構は、手押し車100の車輪400にリング状の内歯歯車である駆動歯車410が設けられ、この駆動歯車410には従動歯車500が歯合している。従動歯車500にはリラクタンスモータ600及び抵抗素子700が接続されている。車輪400の回転に伴い、従動歯車500を介してリラクタンスモータ600が回転する。これにより、リラクタンスモータ600を構成する永久磁石610とステータ(金属部材620)との間に渦電流が発生する。
【0004】
一方、リラクタンスモータ600には抵抗素子700が接続してあり、生じた渦電流に対して抵抗となり駆動歯車410にトルク抵抗が発生する。この結果、制動機構には一定の減速緩衝効果が発生する。
【0005】
当該特許文献1の記載によれば、このような抵抗を利用する制動機構であれば、別途電力により駆動する部材が不要となる。また、駆動歯車410がホイールリムを代替し高い汎用性を有する。さらに、従動歯車500は車輪軸210の一側に設けられるため、ホイールリム内に直接収容することができ、手押し車100の車輪400の体積が大幅に増えることがないとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6568987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の制動機構にあっては、車輪と一体にリング状の内歯歯車を設け、当該内歯歯車に歯合する従動歯車を設ける必要があるため制動機構が複雑となる。また、様々な車輪の走行条件において、歯車どうしの歯合回転が健全に維持されるだけの耐久性が必要となる。リラクタンスモータにおいても、有効な制動力を得るべく所定の渦電流を発生させるためには比較的高い回転速度が必要であり、高い耐久性が要求される。
【0008】
走行に際しては、従動歯車とモータが常に回転しており、車輪には定常的に一定の回転抵抗が作用する。このため、制動が不要なフラットな路面を走行する場合には走行の円滑さが損なわれる。しかも、従動歯車からは一定の騒音が生じ、走行の快適性も損なわれる。
【0009】
さらに、車輪に従動歯車を付加するほか、モータを保護するケース等が必要となるなど機構部の体格が大きくなる。特に、大きな制動力を発揮し得るモータを用いる場合には全体の体格は更に大きくなる。この結果、制動機構が使用者の脚と干渉し易くなる。また、これら構成部品にコストが掛かり安価な制動機構の提供が困難となる。
【0010】
このように、従来の制動機構では種々の解決すべき課題を有しており、簡単か且つコンパクトな構成でありながら高い耐久性と良好な制動機能を有する制動機構の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(特徴構成)
本発明に係る制動機構の特徴構成は、
車輪を軸支する脚部に取り付けられた基体部と、
前記車輪に取り付けられた制動板と、
前記制動板と一体回転するよう前記制動板に当接配置される少なくとも一つの制動片と、
前記基体部に設けられ、前記制動片の前記一体回転を許容する姿勢あるいは前記制動片の一体回転を規制して前記制動片を前記制動板に摺接させる姿勢に切り替え可能な切替部材と、
前記切替部材の姿勢を変更する操作部材と、を備えた点にある。
【0012】
(効果)
本構成の制動機構では、車輪に取り付けた制動板に対して少なくとも一つの制動片が一体回転可能に当接する。この制動片には切替部材が作用し、制動板と制動片とが共に一体回転する状態と、制動片の一体回転を規制して制動板が制動片に対して摺動し摩擦力を生じさせる状態とに切り替え可能である。この切り替えは操作部材により容易に行われる。
【0013】
例えばこのような制動機構を歩行車に備えることで、使用者がブレーキレバー等を操作し続けることなく一定の制動力が発揮される。その結果、坂道を下る場合など、使用者は単にハンドルに手を添えたままで一定車速が維持され、快適に歩行車を走行させることができる。
【0014】
また、本構成の如く、制動板に対して一体回転する制動片を設けること、および、当該制動片の回転許容および回転規制を行う切替部材を設けることは比較的簡易であり、コンパクトに形成可能である。よって、歩行車等の車輪に対する搭載性に優れ、耐久性のある制動機構を得ることができる。
【0015】
本発明に係る制動機構にあっては、前記制動板を磁性部材で構成し、前記制動片を磁石で構成することができる。
【0016】
(効果)
本構成の場合、磁石である制動片は常に制動板に吸着保持される。つまり、一般の制動機構にあるような制動板とは別の部材に支持された制動片が制動板に作用するものとは構成が異なる。本構成では、制動板と制動片に生じる吸着力は略一定となり、発生する制動力の大きさが極めて安定的なものとなる。
【0017】
仮に制動片が制動板とは別に支持されている場合、制動板に回転振れが存在すると制動板と制動片との当接力が周期的に変動し、制動効果が不安定となる。しかし、本構成では、仮に制動板に回転振れがある場合でも、制動片は制動板に当接したまま回転するから制動力の大きさが変動しない。
【0018】
制動板を磁性部材とし制動片を磁石とすることで、これ等の構成が極めて間便なものとなる。また、用いる磁石の磁力の強さや個数を適宜設定することで、発生させる制動力の設定が自在となる。よって、制動機能の設定自由度が高い制動機構を得ることができる。
【0019】
本発明に係る制動機構にあっては、前記基体部が、前記制動片に当接した前記制動片の回転を案内する環状溝を備えたものであれば好都合である。
【0020】
(効果)
制動片が基体部に形成した環状溝によって案内されることで、制動片の移動領域が限定される。よって、制動片に対して切替部材を当接させ易く、制動機能が安定的に発揮される。
【0021】
また、車輪軸から制動片までの距離が一定となり、一つの制動片が発生させる摩擦力の大きさが固定され、制動片の設置個数など制動条件の決定が容易となる。
【0022】
さらに、基体部に形成する環状溝は、例えば、断面形状が矩形の単なる円環状に構成することができ、加工工数が少なく加工コストも安価である。
【0023】
本発明に係る制動機構にあっては、前記環状溝として、前記車輪の軸を中心とした直径の異なる第1環状溝と第2環状溝とを設けることができる。
【0024】
(効果)
本構成であれば、双方の環状溝において用いる制動片を同じとした場合に、車輪の軸からの距離が遠い環状溝において高い制動力が発揮される。制動力は、第1環状溝および第2環状溝の夫々において設定されるから、夫々の制動力を例えば選択的に利用することで、下り勾配の大きさに応じて適切な制動力の設定が可能となる。
【0025】
また、第1環状溝による制動効果と第2環状溝による制動効果を個別に用いることの他に、双方の環状溝を同時に用いてより大きな制動効果を得ることもできる。このように、環状溝を複数設けることで制動力の設定の自由度が高まる。
【0026】
本発明に係る制動機構にあっては、少なくとも一つの前記制動片を保持しつつ前記環状溝に配置される環状部材を備え、前記環状部材に、前記切替部材が係合して前記環状部材の回転を阻止する複数の凹部が、前記環状部材の周方向に沿って設けられていると好都合である。
【0027】
(効果)
本構成の環状部材を備えることで、一つまたは複数の制動片を環状部材の定位置に保持することができる。特に、複数の制動片を備える場合には、夫々の制動片を円周方向に沿って均等間隔に配置可能となる。このため、夫々の制動片は、制動板に対して車輪軸を中心に円周方向に均等に摩擦力を付与することができ、車輪の回転動作が安定すると共に、一定の制動力を発生させることができる。
【0028】
例えば歩行車に用いられる車輪は樹脂製のものが多く、また車輪と軸との間には所定のガタ付きが存在することが多い。複数の制動片が、単に環状溝に配置されている場合、切替部材によって回転規制を受ける制動片は、制動板との摺動によって制動板の一箇所に集まることとなる。この結果、車輪の回転バランスが崩れ、車輪に回転振れが生じる可能性がある。その場合に、一箇所に集まった制動片を規制すると、車輪の回転振れに乗じて、制動片と制動板との摩擦力が増減し、制動機構の走行速度が不安定になる可能性がある。
【0029】
その点、環状部材を設けることで、車輪の回転バランスが安定し、発生する制動力の大きさが一定となって極めて円滑な制動運転を行うことができる。
【0030】
さらに、環状部材に対して、切替部材が係合する凹部を複数個所に設けておくことができる。これにより、切替部材の操作時に、切替部材が何れかの凹部に直ちに係合することができる。よって、切替部材が制動片に当接して制動片の回転を規制する場合に比べて、環状部材および制動片を瞬時に規制することができ、制動力を早期に発生させることができる。
【0031】
本発明に係る制動機構にあっては、前記切替部材を前記環状溝に突出する方向に付勢する付勢部材が設けられ、前記操作部材が、前記基体部に揺動可能に支持されると共に、前記切替部材に係合する爪部を備えており、前記車輪を制動しない状態では、前記爪部が前記切替部材を前記環状溝から引退する方向に操作し、前記車輪を制動する状態では、前記切替部材に対する前記爪部の操作を解除して、前記付勢部材により前記切替部材が前記環状溝に突出するように構成することができる。
【0032】
(効果)
本構成のように、揺動する操作部材を用いて切替部材の規制状態を設定し、付勢部材が切替部材を環状溝に突出させるものとすれば、使用者による制動操作が極めて容易となる。
【0033】
つまり、歩行車等の使用者が制動走行を希望する場合、切替部材を付勢部材に抗って退避させている状態から、操作部材を操作して切替部材を環状溝に突出させる。使用者がこの操作を一度行うと、付勢部材によって切替部材が突出動作する。仮に、切替部材の頭部が制動片に当接して突出できない場合でも、車輪および制動板が回転することで制動片が従動回転し、制動片が移動したあとに切替部材が突出状態となる。よって、次にこの位置に至る制動片が回転規制され制動力が発揮される。このように本構成であれば、操作部材を一度だけ操作すればよく制動操作が極めて容易となる。
【0034】
本発明に係る制動機構にあっては、前記切替部材が、一方の端部が前記環状溝に突出引退し、他方の端部には前記爪部が係合可能な膨出部を備えたピン部材であれば好都合である。
【0035】
(効果)
切替部材をピン部材で構成すれば、環状溝への突出引退動作が極めて簡便なものとなる。また、ピン部材の材質や太さを適宜選択することで、必要な強度を有する切替部材を容易にかつ安価に構成することができる。よって、本構成であれば、所定の制動機能を発揮する制動機構を合理的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施形態に係る制動機構を備えた車両の外観を示す説明図
図2】本発明の実施形態に係る車輪の制動機構を示す分解斜視図
図3】本発明の実施形態に係る車輪の制動機構を示す斜視図
図4】本発明の実施形態に係る車輪の制動機構を示す断面図
図5】本発明の別実施形態に係る車輪の制動機構を示す分解斜視図
図6】本発明の別実施形態に係る車輪の制動機構を示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔第1の実施形態〕
(概要)
本発明に係る制動機構Bは、例えば、歩行車や荷物運搬用の台車等、特に使用者がその車両に乗車せずに走行させる車両Sの車輪1に好適に取り付けられる。この制動機構Bは、例えば、車両Sが長い下り坂を走行する場合に、使用者がブレーキレバー等を操作し続けなくとも一定の制動力を発生させ得るものである。以下、本発明に係る車両Sの実施形態を図1乃至図4を参照しつつ説明する。
【0038】
図1および図2に示すように、本実施形態の制動機構Bは、車両Sの脚部2に基体部Kが取り付けられ、この基体部Kに、車輪1を制動する少なくとも一つの制動片3が設けられる。この制動片3は、車輪1に取り付けられた制動板4に当接し、通常走行時には、制動片3は制動板4と一体回転する。
【0039】
車両Sが下り道を走行する場合には、使用者は基体部Kに設けられた操作部材5を操作し、同じく基体部Kに設けられた切替部材6を制動片3の回転を規制する位置に移動させる。これにより、制動板4と制動片3との間に摩擦力が発生し、定常的な制動機能が発揮される。
【0040】
(基体部)
図2に示す如く、基体部Kは、例えば、車両Sの脚部2を挿入した状態に取り付けられる。基体部Kは、脚部2に取り付けられる第1基体部K1と、制動片3の回転移動を案内する円盤状の第2基体部K2とを備えている。第1基体部K1と第2基体部K2とは本実施形態では各種の樹脂材料などを用いて一体に形成してある。ただし、別体に構成したものを互いに接続するものであっても良い。
【0041】
第2基体部K2には、少なくとも一つの制動片3の移動通路となる環状溝7が形成してある。環状溝7の一部には、後述の切替部材6を出退させるガイド孔8が形成されている。このガイド孔8の内径は、切替部材6が出退する際に、あるいは、切替部材6が制動片3に当接する際に、切替部材6が過度に軸振れしないように所定の寸法に構成してある
【0042】
第2基体部K2の中央には車軸9を挿通する車軸孔10が構成してある。さらに、この車軸孔10を中心として環状溝7が形成してある。環状溝7は、例えば断面が矩形状の円形溝であり、ここに少なくとも一つの制動片3が配置される。環状溝7の延出方向に沿った両側部には外壁部7aと内壁部7bが設けられている。図4に示すように、外壁部7aおよび内壁部7bのうち車輪1の軸心Xに沿った端部は、後述の制動板4に近接対向するように構成してある。これにより、車両Sの走行中に小石などの異物が環状溝7に侵入するのを防止している。
【0043】
環状溝7によって制動片3の移動領域を規定することで、後述の切替部材6を制動片3に対して確実に作用させることができる。また、車軸9から制動片3までの距離が安定するから、一つの制動片3が発生させる摩擦力の大きさが安定し、制動片3の設置個数など制動条件の決定が容易となる。さらに、環状溝7は、例えば、断面形状が矩形の単なる円環状にフライス構成することができ、加工工数が少なく加工コストも安価である。
【0044】
(制動片)
図2に示すように、環状溝7には少なくとも一つの制動片3が配置される。制動片3は例えば外径に対して高さの低い円柱状に構成し、磁石3aの外周をカップ状のケース3bで覆ってある。ケース3bは、鋼材などの磁性材料で構成され、磁石3aから生じる磁束を集中させて磁力を高めると共に、磁石3aの保護機能を発揮する。また、制動片3のうち制動板4に当接する部位には、耐久性のある摺接部材3cとしてカーボンの薄板が貼り付けてある。
【0045】
制動片3の個数は任意である。また、制動片3は環状溝7のどの位置に配置しても良い。例えば、2個の制動片3を車軸9に対して互いに反対の位置に配置したとする。車輪1および制動板4と共に制動片3が回転している状態で、切替部材6を突出させると、先ず一方の制動片3が規制されて停止し、この制動片3に対して制動板4は摺動しつつ回転する。その後、もう一方の制動片3が回転移動し、先に規制されている制動片3に当接して回転規制される。このあとは二つの制動片3が互いに接触したまま制動板4との間で摩擦力を発生させる。制動操作を解除すべく、切替部材6が環状溝7から引退操作されると、二つの制動片3は互いに接触し制動板4に吸着した状態での回転が再開される。
【0046】
このように、環状溝7に対する制動片3の配置位置は任意である。ただし、制動片3の個数は、発生させる制動力の大きさを決めるから、設置する車両Sの特性に応じて使用個数を選択すると良い。
【0047】
本実施形態で用いた制動片3は円柱状のものであるが、この形状であれば、制動片3が環状溝7の内部を移動する際に回転が可能となる。制動片3が回転することで、制動板4に対するカーボンの表面の摺接方向が適宜変化し、カーボンの摩耗程度が均等化される。
【0048】
(制動板)
図1および図2に示す如く、車輪1の側面には制動板4が取り付けられる。制動板4は、少なくとも制動片3と当接する環状領域を備えた板部材である。制動板4は、制動片3が吸着できるように例えば磁性部材である鋼材で構成する。制動板4は、ネジ11などによって車輪1に取り付ける他、接着する等しても良い。
【0049】
制動板4を磁性部材とし、制動片3を磁石3aとすることで、これ等の構成を極めて容易に得ることができる。磁石3aの磁力の強さを選択することや、磁石3aの個数を変更することで、制動板4との間に生じる摩擦力を任意に設定することができる。よって、制動機能の設定自由度を高めることができる。
【0050】
また、本構成の如く制動板4に対して一体回転する制動片3を設ける構成、および、当該制動片3の回転許容および回転規制を行う切替部材6の構成は比較的簡易であり、コンパクトに形成可能である。よって、各種の車両Sの車輪1に対する搭載性に優れ、耐久性のある制動機構Bを得ることができる。
【0051】
(切替部材)
制動片3の回転動作を規制し解除する切替部材6は、図1に示す如く円柱形状のピン部材6aで構成する。ピン部材6aは二つの外径を備えており、環状溝7への突出側の外径を大きく構成してある。図4に示すように、ガイド孔8によるピン部材6aの出退案内は大径部により行われる。
【0052】
一方、ピン部材6aの小径部位には付勢部材12が設けられる。ここでは付勢部材12としてコイルスプリング12aを用いる。図4に示すように、コイルスプリング12aの一端はピン部材6aの段部6bに当接し、他端はガイド孔8の底部8aに当接する。コイルスプリング12aを縮めつつピン部材6aをガイド孔8に押し込み、ピン部材6aの小径側の端部が第1基体部K1から突出した状態で、ピン部材6aの端部に形成したピン固定孔6cに操作ピン13aを嵌入する。
【0053】
(操作部材)
操作ピン13aを嵌入した部位は膨出部13となり、ここには図3に示すように操作部材5の爪部5aが係合する。爪部5aは例えばフォーク状に構成してある。操作部材5は、例えば鋼板を折り曲げて形成してあり、爪部5aの他に、一対の軸受部5bと、操作用のケーブル14を接続する作用部5cを備えている。軸受部5bには軸ピン15が挿通される。軸受部5bは、第1基体部K1の背面に形成した軸受凹部K1aに挿入配置し、第1基体部K1の両側面に亘って貫通形成した軸ピン固定孔K1bに軸ピン15を嵌入して固定する。
【0054】
また、作用部5cにはケーブル14を挿通するケーブル孔5dが設けてあり、ケーブル14を下から挿通する。車両Sの通常走行時において、操作部材5は作用部5cを上方に引き上げた状態で固定される。これにより、ピン部材6aは爪部5aによって環状溝7から引き出される。車輪1を制動する際には、ケーブル14の引き操作を緩め、爪部5aを第1基体部K1の側に戻す。これにより、ピン部材6aが付勢部材12によって環状溝7に押し出される。
【0055】
このようなケーブル14の操作は、車両Sのハンドル16の近傍に取り付けられた操作スイッチ17により行う。操作スイッチ17には例えばトグル式の切替レバー17aが設けられており、この切替レバー17aの位置を選択することで、ピン部材6aの突出・引退状態を容易に切り替えることができる。
【0056】
このように、切替部材6をピン部材6aで構成することで、環状溝7への突出引退動作が極めて簡便なものとなる。また、ピン部材6aの材質や太さを適宜選択することで、必要な強度を有する切替部材6を容易にかつ安価に構成することができる。よって、所定の制動機能を発揮する制動機構Bを合理的に得ることができる。
【0057】
また、揺動する操作部材5を用いて切替部材6の規制状態を設定し、付勢部材12が切替部材6を環状溝7に突出させるものとすれば、車両Sの使用者による制動操作が極めて容易となる。
【0058】
つまり、使用者が制動走行を希望する場合、切替部材6を付勢部材12に抗って引退させている状態から、操作部材5を操作して切替部材6を環状溝7に突出させる状態に切り替える。操作者がこの操作を一度だけ行うと、切替部材6が付勢部材12によって突出動作する。仮に、切替部材6の頭部が制動片3の円形面に当接して制動片3を規制できない場合でも、車輪1および制動板4がさらに回転することで制動片3が移動し、切替部材6が突出して制動片3を規制可能な状態となる。このあと、この位置に至る最初の制動片3が回転規制され、制動力が発生する。本構成であれば、制動操作が容易で、制動状態への切替が確実な制動機構Bを得ることができる。
【0059】
〔第2の実施形態〕
本発明の制動機構Bとしては、図5に示すように、制動片3を車軸9に対して二重に構成することができる。例えば、第2基体部K2に径の小さな第1環状溝71と径の大きな第2環状溝72とを同芯状に形成する。これら二つの環状溝7に夫々所定個数の制動片3を配置する。その他の切替部材6や操作部材5は第1実施形態と同じものを配置する。
【0060】
例えば、同じ形状の制動片3を夫々の環状溝7に同数ずつ配置した場合には、車軸9からの距離が長い第2環状溝72において高い制動力が発揮される。このように個々の環状溝7で発生させる制動力を設定したうえで、夫々の環状溝7における制動力の発生操作を個別に行い、多段の制動力を発揮させることができる。よって、下り勾配の大きさに応じて適切な制動力の設定が可能となる。尚、図示は省略してあるが、第1環状溝71の制動片3と第2環状溝72の制動片3を同時に規制できるようにケーブル14の配設を工夫しても良い。
【0061】
第1環状溝71或いは第2環状溝72における切替部材6と操作部材5の設置位置は、図5に示す如く、車軸9を挟んで、前後方向に設定するのが好ましい。この位置であれば、脚部2に干渉することなく操作部材5の設置が可能であるし、車両Sのハンドル16の近傍に設けた操作スイッチ17からこれら操作部材5の位置までの距離が等しくなり、ケーブル14の部品管理や設置作業が容易となる。
【0062】
〔第3の実施形態〕
図6に示すように、制動機構Bの別の実施形態として、少なくとも一つの制動片3を保持しつつ環状溝7に配置される環状部材18を備え、この環状部材18に、切替部材6が係合して環状部材18の回転を阻止する複数の凹部18aを環状部材18の周方向に沿って設けておくことができる。
【0063】
特に、制動片3が複数の場合には、夫々の制動片3を円周方向に沿って均等間隔となる状態で保持するとよい。この場合、環状部材18には、切替部材6が係合して環状部材18の回転を阻止する凹部18aを環状部材18の周方向に沿って複数設けておく。尚、環状部材18は例えば樹脂材料で構成し、制動片3は環状部材18に設けられた位置決め孔18bに単に嵌め込むだけで良い。
【0064】
環状部材18は、環状溝7の外壁部7aあるいは内壁部7bに当接するように構成すると、環状部材18が環状溝7の内部において安定して回転する。
【0065】
また、本構成であれば、夫々の制動片3は、位置決め孔18bの内部において自身の軸心X2の周りに回転自在となる。これにより、制動板4に対する制動片3の摺接姿勢が変化し、摺接部材3cの片減りを防止することができる。
【0066】
さらに、夫々の制動片3は、環状部材18の周方向に沿って、環状部材18に対してある程度の距離だけ移動可能に構成することもできる。要するに、環状部材18の周方向に沿って制動片3が位置決めされ、あるいは複数の制動片3どうしが所定の間隔をあけて分散されるものであれば何れの取付態様であっても良い。
【0067】
環状部材18の両面のうち、制動片3を設けた位置とは異なる位置に、複数個所に切替部材6が係合する凹部18aを設けておく。凹部18aの数が多いほど、切替部材6を突出操作から係合までの時間が短くなる。この凹部18aは、図6に示すように貫通孔であっても良いし、環状部材18の背面に加工した凹部でもよい。
【0068】
本構成の環状部材18を備えることで、一つの制動片3が環状部材18に対して位置決めされ、あるいは、複数の制動片3が円周方向に沿って均等間隔に配置可能となる。これにより、切替部材6を突出させた際に、切替部材6が何れかの凹部18aに直ちに係合し、制動効果を早期に発揮することができる。
【0069】
特に、複数個の制動片3が環状部材18に保持されている場合には、夫々の制動片3は、制動板4に対して車軸9を中心に円周方向に均等に摩擦力を付与することができ、車輪1の回転動作が安定化し、一定の制動力が発揮されることとなる。
【0070】
通常、制動機構B等の車輪1は樹脂製のものが多く、また車輪1と車軸9との間には所定のガタ付きが存在することが多い。複数の制動片3が、単に環状溝7に配置されている場合、切替部材6によって回転規制を受ける制動片3は、制動板4との摺動によって制動板4の一箇所に集まってしまう。この結果、車輪1の回転バランスが崩れ、車輪1が軸振れする可能性がある。その場合に、一箇所に集まった制動片3を規制すると、車輪1の振れに乗じて制動片3と制動板4との摩擦力が増減し、車両Sの走行速度が不安定になる可能性がある。
【0071】
その点、環状部材18を設けることで、車輪1の回転バランスが高まり、発生する制動力の大きさが一定となって極めて円滑な制動運転を行うことができる。
【0072】
〔その他の実施形態〕
制動板4に対する制動片3の当接は、磁力を用いるものの他に、各種形状のばね等の付勢部材を利用するものであっても良い。
【0073】
図示は省略するが、環状部材18を用いる場合で、図5に示すような制動片3の位置を二重に配置する場合には、環状溝7を一つだけ構成しておき、径の異なる二枚の環状部材18を用いることができる。この場合、二枚の環状部材18を同心円状かつ同一平面状に配置し、夫々の環状部材18の内外の縁部どうしを当接させることで、二枚の環状部材18を所期の状態で回転させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の制動機構Bは、歩行車や荷物運搬用の台車等の車両S、特に使用者がその車両に乗車せずに走行させるものに好適に適用可能である。また、その他にも使用者が乗車する自転車や自動車などの車両に搭載することができる。さらに、車両に限らず、回転体の回転を定常的に制動する必要のある装置に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 車輪
2 脚部
3 制動片
3a 磁石
4 制動板
5 操作部材
5a 爪部
6 切替部材
6a ピン部材
7 環状溝
12 付勢部材
13 膨出部
18 環状部材
18a 凹部
B 制動機構
K 基体部
図1
図2
図3
図4
図5
図6