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特開2023-3218温熱環境制御装置、温熱環境制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003218
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】温熱環境制御装置、温熱環境制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/63 20180101AFI20221228BHJP
   F24F 11/61 20180101ALI20221228BHJP
   F24F 11/56 20180101ALI20221228BHJP
【FI】
F24F11/63
F24F11/61
F24F11/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104267
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 友樹
(72)【発明者】
【氏名】天野 健太郎
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260BA02
3L260CA02
3L260CA04
3L260CA05
3L260CA12
3L260CA13
3L260CA15
3L260EA02
3L260EA09
3L260FA01
3L260HA01
3L260JA18
(57)【要約】
【課題】対象者の行動に起因する生理量情報を加味して温熱環境を制御する。
【解決手段】温熱環境制御装置10は、対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と、対象者の周囲の環境状態を示す環境情報と、を用いて、所定時間経過後における対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測する予測部11Dと、予測部11Dによって予測された生理量情報に基づいて温熱環境調節手段(空調装置60)を制御する制御部11Fと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と、前記対象者の周囲の環境状態を示す環境情報と、を用いて、所定時間経過後における前記対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測する予測部と、
前記予測部によって予測された前記生理量情報に基づいて温熱環境調節手段を制御する制御部と、
を備えた温熱環境制御装置。
【請求項2】
前記対象者情報を、前記対象者が携帯する携帯端末から取得する対象者情報取得部を更に備えた、請求項1に記載の温熱環境制御装置。
【請求項3】
前記対象者情報取得部は、前記対象者が前記温熱環境調節手段を利用する前と、利用している間と、の双方において、前記対象者情報を取得する、
請求項2に記載の温熱環境制御装置。
【請求項4】
前記環境情報は、
温度、湿度、及び風速の少なくとも1つを含み、
前記対象者情報は、
前記対象者の位置情報を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の温熱環境制御装置。
【請求項5】
前記対象者の着衣の量を示す着衣量情報を取得する着衣量情報取得部を更に備え、
前記予測部は、前記対象者情報及び前記環境情報に加えて、前記着衣量情報取得部によって取得された着衣量情報を用いて、前記生理量情報を予測する、
請求項1~4の何れか1項に記載の温熱環境制御装置。
【請求項6】
前記温熱環境調節手段における風量及び温度の少なくとも一方の入力を受け付ける受付部と、
前記受付部によって受け付けられた入力情報を記憶する記憶部と、を更に備え、
前記制御部は、前記生理量情報に加えて前記記憶部に記憶された前記入力情報に基づいて前記温熱環境調節手段の作動を調整する、
請求項1~5の何れか1項に記載の温熱環境制御装置。
【請求項7】
対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と、前記対象者の周囲の環境状態を示す環境情報と、を用いて、所定時間経過後における前記対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測し、
予測した前記生理量情報に基づいて温熱環境調節手段を制御する、
温熱環境制御方法。
【請求項8】
コンピュータを、
対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と、前記対象者の周囲の環境状態を示す環境情報と、を用いて、所定時間経過後における前記対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測する予測部と、
前記予測部によって予測された前記生理量情報に基づいて温熱環境調節手段を制御する制御部と、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温熱環境制御装置、温熱環境制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、個人の好みに合った空調環境を自動的に設定できる空気調和システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-323600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の空気調和システムにおいては、制御部が、磁気カードリーダからそのエリアを使用する作業者の個人情報に含まれる条件であってその人が快適と感ずる空調環境条件を読み取る。そして、その条件に合った空調吹き出し条件を駆動部を介して自動的に設定する。また、パーソナルセンサによって作業者が外出から帰った状態にあることを知った場合には、その作業者の環境対応能力に応じた条件を加味しつつその作業者が早めに快適と感ずるように空調吹き出し条件を設定する。
【0005】
この個人情報としては、性別、生年月日、身長、体重、健康情報(血圧、脈拍等)病歴や、暑がり、寒がり、暑さに強い、寒さに強い、汗かきなどの情報が含まれる。しかしながら、作業者(対象者)が屋外で負荷の大きい作業を行った場合と、歩行のみを行った場合とでは、対象者が快適と感じる空調環境は異なる。このため、対象者の行動に起因する生理量情報を加味することなく、これらの情報のみで温熱環境を制御しても、対象者の熱的不快感を迅速に低減することが難しい場合もある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、対象者の行動に起因する生理量情報を加味して温熱環境を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の温熱環境制御装置は、対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と、前記対象者の周囲の環境状態を示す環境情報と、を用いて、所定時間経過後における前記対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測する予測部と、前記予測部によって予測された前記生理量情報に基づいて温熱環境調節手段を制御する制御部と、を備える。
【0008】
請求項1に記載の温熱環境制御装置によると、予測部が、対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と環境情報とを用いて、所定時間経過後における、対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測する。
【0009】
そして、制御部が、予測部によって予測された前記生理量情報に基づいて、空調装置などの温熱環境調節手段を制御する。例えば、対象者が温熱環境調節手段を利用する前の行動に起因する代謝量や心拍数や、対象者が晒されていた環境情報を踏まえ、制御部が温熱環境調節手段を制御する。
【0010】
すなわち、この温熱環境制御装置によると、対象者の行動に起因する生理量情報を加味して温熱環境を制御することができる。これにより、対象者の熱的不快感を迅速に低減することができる。
【0011】
請求項2の温熱環境制御装置は、請求項1に記載の温熱環境制御装置において、前記対象者情報を、前記対象者が携帯する携帯端末から取得する対象者情報取得部を更に備える。
【0012】
請求項2に記載の温熱環境制御装置によると、対象者情報取得部が、対象者が携帯する携帯端末から対象者情報を取得する。このため、対象者情報を逐次取得することができる。これにより、予測部は生理量情報を逐次予測できる。したがって、対象者情報を逐次取得できない場合と比較してきめ細かく温熱環境の制御を行うことができる。
【0013】
請求項3の温熱環境制御装置は、請求項2に記載の温熱環境制御装置において、前記対象者情報取得部は、前記対象者が前記温熱環境調節手段を利用する前と、利用している間と、の双方において、前記対象者情報を取得する。
【0014】
請求項3に記載の温熱環境制御装置は、対象者情報取得部は、対象者が温熱環境調節手段を利用する前と、利用している間と、の双方において、対象者情報を取得する。これにより、まず、対象者が温熱環境調節手段を利用する前の行動に起因する代謝量及び心拍数や、対象者が晒されていた環境情報を踏まえ、制御部が温熱環境調節手段を制御する。そして、対象者が温熱環境調節手段を利用している間に、対象者が熱的中立状態に近づくと、風量を減らすなどの制御を実施できる。これにより、対象者にとって好ましい温熱環境を維持できる。
【0015】
請求項4の温熱環境制御装置は、請求項1~3の何れか1項に記載の温熱環境制御装置において、前記環境情報は、温度、湿度、及び風速の少なくとも1つを含み、前記対象者情報は、前記対象者の位置情報を含む。
【0016】
請求項4に記載の温熱環境制御装置は、温度、湿度、及び風速の少なくとも1つを含む情報と、対象者の位置情報と、を用いて、生理量情報を予測する。
【0017】
位置情報と温度とを用いれば、例えば低温環境や高温環境において温度の影響を受けた生理量情報を予測し、温熱環境を制御できる。
【0018】
また、位置情報と湿度とを用いれば、例えば乾燥環境や湿潤環境において湿度の影響を受けた生理量情報を予測し、温熱環境を制御できる。
【0019】
さらに、位置情報と風速を用いれば、例えば無風環境や強風環境において風速の影響を受けた生理量情報を予測し、温熱環境を制御できる。
【0020】
またさらに、位置情報と温度、湿度、及び風速とを組み合わせて用いれば、これらの複合的な影響を受けた生理量情報を予測し、温熱環境を制御できる。
【0021】
請求項5の温熱環境制御装置は、請求項1~4の何れか1項に記載の温熱環境制御装置において、前記対象者の着衣の量を示す着衣量情報を取得する着衣量情報取得部を更に備え、前記予測部は、前記対象者情報及び前記環境情報に加えて、前記着衣量情報取得部によって取得された着衣量情報を用いて、前記生理量情報を予測する。
【0022】
請求項5に記載の温熱環境制御装置は、対象者の着衣量も用いて、生理量情報を予測する。これにより、生理量情報の予測精度を向上させることができる。
【0023】
請求項6の温熱環境制御装置は、請求項1~5の何れか1項に記載の温熱環境制御装置において、温熱環境調節手段における風量及び温度の少なくとも一方の入力を受け付ける受付部と、前記受付部によって受け付けられた入力情報を記憶する記憶部と、を更に備え、前記制御部は、前記生理量情報に加えて前記記憶部に記憶された前記入力情報に基づいて前記温熱環境調節手段の作動を調整する。
【0024】
請求項6に記載の温熱環境制御装置は、受付部が受け付け、記憶部に記憶された風量及び温度の少なくとも一方の入力情報に基づいて、制御部が温熱環境調節手段を調整する。これにより、機械的に取得された対象者情報や環境情報だけでなく、例えば対象者の主観を踏まえて温熱環境を制御できる。このため、対象者の好みに合わせて温熱環境を制御できる。
【0025】
請求項7の温熱環境制御方法は、対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と、前記対象者の周囲の環境状態を示す環境情報と、を用いて、所定時間経過後における前記対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測し、予測した前記生理量情報に基づいて温熱環境調節手段を制御する。
【0026】
請求項7に記載の温熱環境制御方法では、対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と環境情報とを用いて、所定時間経過後における、対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測する。
【0027】
そして、予測した生理量情報に基づいて、空調装置などの温熱環境調節手段を制御する。例えば、対象者が温熱環境調節手段を利用する前の行動に起因する代謝量や心拍数や、対象者が晒されていた環境情報を踏まえ、温熱環境調節手段を制御する。
【0028】
すなわち、この温熱環境制御方法によると、対象者の行動に起因する生理量情報を加味して温熱環境を制御することができる。これにより、対象者の熱的不快感を迅速に低減することができる。
【0029】
請求項8のプログラムは、コンピュータを、対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と、前記対象者の周囲の環境状態を示す環境情報と、を用いて、所定時間経過後における前記対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測する予測部と、前記予測部によって予測された前記生理量情報に基づいて温熱環境調節手段を制御する制御部と、として機能させる。
【0030】
請求項8に記載のプログラムによると、予測部が、対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方を含む対象者情報と環境情報とを用いて、所定時間経過後における、対象者の体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を含む生理量情報を予測する。
【0031】
そして、制御部が、予測部によって予測された前記生理量情報に基づいて、空調装置などの温熱環境調節手段を制御する。例えば、対象者が温熱環境調節手段を利用する前の行動に起因する代謝量や心拍数や、対象者が晒されていた環境情報を踏まえ、制御部が温熱環境調節手段を制御する。
【0032】
すなわち、この温熱環境制御プログラムによると、対象者の行動に起因する生理量情報を加味して温熱環境を制御することができる。これにより、対象者の熱的不快感を迅速に低減することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、対象者の行動に起因する生理量情報を加味して温熱環境を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態に係る温熱環境制御装置の電気的な構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る温熱環境制御装置の機能的な構成を示す機能ブロック図である。
図3】(A)は実施形態に係る個人情報データベースの構成の一例を示す模式図であり(B)は予測関連情報データベースの構成の一例を示す模式図であり、(C)は入力情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図4】実施形態に係る温熱環境制御処理の一例を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る温熱環境調整処理の一例を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る温熱環境調整処理の別の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態に係る温熱環境制御装置、温熱環境制御方法及びプログラムについて、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する、又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0036】
<温熱環境制御システム>
図1には、本発明の実施形態に係る温熱環境制御システム80の全体構成が示されている。温熱環境制御システム80は、執務者が執務室へ出勤した際、暑熱環境での作業者が作業後に執務室や休憩室へ入室した際、運動後や入浴後の人等が休憩室へ入室した際などにおいて、当該執務者、作業者等(以下、「対象者」と称す)毎に、適した温熱環境を提供するシステムである。
【0037】
温熱環境制御システム80は、温熱環境制御装置10、環境センサ20、位置情報センサ30、ウェアラブルセンサ40、着衣量センサ50及び空調装置60を含んで構成されている。
【0038】
(温熱環境制御装置)
温熱環境制御装置10は、環境センサ20、位置情報センサ30、ウェアラブルセンサ40及び着衣量センサ50から取得した各種情報並びに入力部14を介して入力された情報に基づいて、後述する「生理量情報」を予測し、予測された当該生理量情報に基づいて、空調装置60を制御する装置である。温熱環境制御装置10の構成の詳細については後述する。
【0039】
(環境センサ)
環境センサ20は、対象者が存在する領域の環境状態に関する諸情報(以下、この諸情報を総称して「環境情報」と称す)を検知する検知機器の総称である。環境センサ20は、対象者が存在する領域内の各所に設置される。
【0040】
ここで、「対象者が存在する領域」とは、対象者が出勤する執務者の場合、最寄駅から執務室までの経路や、駐車場から執務室までの経路である。また、対象者が暑熱環境での作業者の場合、作業を実施する屋内外の作業現場である。さらに、「対象者が存在する領域」には、空調装置60が設置される執務室や休憩室も含まれる。環境センサ20を設置する場所は、対象者の行動範囲に応じて適宜決定することができる。
【0041】
環境センサ20で検知される諸情報には、一例として、温度(気温)(℃)、グローブ温度(℃)、相対湿度(%RH)、気流速度(m/s)等がある。環境センサ20は、これらの環境情報を断続的に(所定時間(例えば30秒)経過毎に)検知する。温度を検知するセンサは温度計である。相対湿度を検知するセンサは湿度計である。また、気流速度を検知するセンサは風速計である。環境センサ20によって検知された「環境情報」は、温熱環境制御装置10に送信される。
【0042】
(位置情報センサ)
位置情報センサ30は、環境センサ20と同様に、対象者が存在する領域内の各所に設置される。位置情報センサ30は、対象者情報として対象者の位置情報を特定するセンサである。位置情報センサ30は、一例として、ビーコンを含んで構成される。
【0043】
ビーコンは、対象者が存在する領域内の各所に設置される発信機であり、対象者が携帯する受信機と組み合わせて用いられる。位置情報センサ30としてビーコンを用いる場合、ビーコンが発した信号を受信器が検知することで、対象者の位置情報を把握することができる。
【0044】
なお、対象者が携帯する受信機は、対象者の保有するスマートフォン、時計及び社員証等、各種の端末に実装させることができるほか、後述するウェアラブルセンサ40と一体化させることもできる。
【0045】
(ウェアラブルセンサ)
ウェアラブルセンサ40は、対象者が身体に装着した状態で用いる携帯端末である。ウェアラブルセンサ40は、対象者の肌に接触させて使用する。
【0046】
ウェアラブルセンサ40としては各種の形状を採用することができるが、一例として腕時計形状とすることが好ましい。すなわち、平板状に形成されたウェアラブルセンサ40を、手首に巻き付けるための帯体と一体化させることが好ましい。
【0047】
ウェアラブルセンサ40は、対象者固有の活動量に関する諸情報(以下、この諸情報を総称して「対象者情報」と称す)を断続的に(所定時間(例えば10秒、1秒等)経過毎に)検知する。ウェアラブルセンサ40で検知される諸情報には、一例として、ウェアラブルセンサ40を装着した対象者の代謝量(W/m)、心拍数(bpm)、加速度(mG)等がある。ウェアラブルセンサ40によって検知された「対象者情報」は、温熱環境制御装置10に送信される。なお、上述したように、対象者の位置情報も、「対象者情報」に含まれる。
【0048】
(着衣量センサ)
着衣量センサ50は、対象者の着衣量(clo)を示す「着衣量情報」を検知する検知機器である。着衣量センサ50は、例えばサーモカメラを含んで構成されている。このサーモカメラが対象者を撮影すると、着衣量センサ50に組み込まれた推定装置が、撮影された熱画像から対象者の着衣量を推定する。着衣量センサ50によって検知された「着衣量情報」は、温熱環境制御装置10に送信される。着衣量センサ50のサーモカメラは、対象者が存在する領域内で、対象者を撮影可能な位置に設置される。
【0049】
なお、着衣量センサ50は省略することもできる。着衣量センサ50を省略する場合、別途測定された「着衣量情報」を後述する入力部14を介した入力によって温熱環境制御装置10に取得させることができる。
【0050】
(空調装置)
空調装置60は、本発明における温熱環境調節手段の一例である。空調装置60は、執務室や休憩室において、対象者が着席する座席毎に設けられるパーソナル空調装置である。
【0051】
対象者が着席する座席が対象者毎に決められている場合は、空調装置60は、各対象者の専用装置である。一方、対象者が着席する座席が対象者毎に決められていない場合(所謂フリーアドレスの場合)は、空調装置60は、複数の対象者の共用装置である。
【0052】
空調装置60は、対象者へ調温された風を送風する送風部62と、対象者が送風部62から送風される風の強度を入力可能な入力部64と、を備えている。
【0053】
送風部62は、例えばモーターで駆動するファンである。送風部62を駆動させるモーターは、温熱環境制御装置10によって制御されると共に、対象者が入力部64を介して制御することも可能である。
【0054】
送風部62は、例えば「強」及び「弱」の2種類の駆動強度で駆動させることができる。「駆動強度」とは、送風部62の風量を示している。具体的には、駆動強度が「強」の場合は、単位時間あたりに送風できる風量が、「弱」の場合と比較して相対的に多い。「強」及び「弱」のそれぞれの駆動強度に対応した送風量は、予め設定することができる。
【0055】
入力部64は、タッチパネルを備えたディスプレイ等(以下、単に「タッチパネル」と称す)によって構成されている。対象者は、入力部64の操作を介して、送風部62の駆動を開始すること、停止すること及び駆動強度の切り替えを実施できる。駆動強度の切り替えは、例えば「強」と表示された入力ボタン(不図示)や「弱」と表示された入力ボタン(不図示)を手指で触れることで実施できる。
【0056】
対象者による入力部64への入力によって、送風部62の駆動が制御されると共に、入力された情報(「入力情報」)が、温熱環境制御装置10の受付部11E(図2参照)へ送信される。
【0057】
<温熱環境制御装置の電気的な構成>
図1には、温熱環境制御装置10の電気的な構成を示すブロック図が示されている。温熱環境制御装置10は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16、通信インタフェース(I/F)部18及び外部I/F部19を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16、通信I/F部18及び外部I/F部19はバスB1を介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0058】
(記憶部)
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、温熱環境制御プログラム13Aが記憶されている。温熱環境制御プログラム13Aは、温熱環境制御プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの温熱環境制御プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。CPU11は、温熱環境制御プログラム13Aを記憶部13から読み出してメモリ12に展開し、温熱環境制御プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。
【0059】
記憶部13には、対象者の生理量情報(「体内深部温度」及び「皮膚温度」)を算出するための各種演算式が記憶される。また、記憶部13には、個人情報データベース13B、予測関連情報データベース13C及び入力情報データベース13Dが記憶される。個人情報データベース13B、予測関連情報データベース13C、入力情報データベース13D及び各種演算式については、詳細を後述する。
【0060】
(入力部)
入力部14では、ユーザによって、温熱環境制御プログラム13Aを開始及び終了するための操作が実行される。ユーザとは、一例として、温熱環境制御システム80の管理者である。
【0061】
また、入力部14では、ユーザによって、対象者の「個人情報」が入力される。入力部14を介して入力された個人情報は、記憶部13における個人情報データベース13Bに記憶される(図3(A)参照)。入力部に入力される個人情報としては、年齢(歳)、性別、身長(cm)、体重(kg)、体組成(体脂肪率(%))及び平均血圧[拡張期血圧+{(収縮期血圧-拡張期血圧)/3}]がある。
【0062】
なお、個人情報は、対象者の携帯端末、例えばウェアラブルセンサ40を介して入力してもよい。また、温熱環境制御装置10とは異なるコンピュータを介して入力してもよい。対象者のウェアラブルセンサ40や温熱環境制御装置10とは異なるコンピュータを介して入力された個人情報は、温熱環境制御装置10に送信される。
【0063】
(表示部)
表示部15には、温熱環境制御プログラム13Aを開始及び終了するための情報(例えば入力ボタン)が表示される。また、対象者が複数存在する場合、対象者の一覧が表示される。
【0064】
<温熱環境制御装置の機能的な構成>
次に、図2を参照して、本実施形態に係る温熱環境制御装置10の機能的な構成について説明する。図2に示すように、温熱環境制御装置10は、環境情報取得部11A、着衣量情報取得部11B、対象者情報取得部11C、予測部11D、受付部11E及び制御部11Fを含む。温熱環境制御装置10のCPU11が温熱環境制御プログラム13Aを実行することで環境情報取得部11A、着衣量情報取得部11B、対象者情報取得部11C、予測部11D、受付部11E及び制御部11Fとして機能する。
【0065】
(環境情報取得部)
環境情報取得部11Aは、対象者が存在する領域の環境状態を示す「環境情報」を取得する。本実施形態においては、環境情報取得部11Aは、複数の環境センサ20から送信された温度(℃)、相対湿度(%RH)、気流速度(m/s)等を取得する。
【0066】
(着衣量情報取得部)
着衣量情報取得部11Bは、対象者の着衣の量を示す「着衣量情報」を取得する。本実施形態においては、着衣量情報取得部11Bは、着衣量センサ50から送信された着衣量情報を取得する。なお、着衣量センサ50を省略する場合、着衣量情報取得部11Bを省略してもよい。
【0067】
(対象者情報取得部)
対象者情報取得部11Cは、対象者の代謝量及び心拍数の少なくとも一方の計測結果を示す「対象者情報」を取得する。本実施形態においては、対象者情報取得部11Cは、ウェアラブルセンサ40から送信された代謝量(W/m)、心拍数(bpm)、加速度(mG)等を含む対象者情報を取得する。
【0068】
また、対象者情報取得部11Cは、対象者情報として、対象者の「位置情報」も取得する。本実施形態においては、対象者情報取得部11Cは、位置情報センサ30から送信された対象者の位置情報を取得する。この位置情報とは、複数の対象者から特定の対象者を特定する情報と、当該対象者の位置を示す情報と、を含む情報である。
【0069】
(予測部)
予測部11Dは、環境情報取得部11Aによって取得された「環境情報」及び対象者情報取得部11Cによって取得された「対象者情報」(位置情報を含む)を用いて、所定時間経過後の対象者の「体内深部温度」及び「皮膚温度」を含む「生理量情報」を予測する。
【0070】
なお、予測部11Dは、対象者の「位置情報」と、複数の環境センサ20から取得された「環境情報」とを紐づける。そして予測部11Dは、対象者に最も近い場所にある環境センサ20から取得された「環境情報」を用いて、「生理量情報」を予測する。
【0071】
(受付部)
受付部11Eは、空調装置60における駆動強度(風量)の入力を受け付ける。具体的には、受付部11Eは、空調装置60の入力部64を介して対象者が入力した「強」又は「弱」等の駆動強度(風量)の入力情報を受け付ける。受付部11Eが受け付けた入力情報は、記憶部13における入力情報データベース13Dに記憶される(図3(C)参照)。
【0072】
また、受付部11Eは、対象者情報取得部11Cから、対象者の位置情報を受け付ける。これにより、空調装置60に入力された駆動強度と当該駆動強度を入力した対象者とを紐づけて、入力情報データベース13Dに記憶することができる。
【0073】
(制御部)
制御部11Fは、予測部11Dによって予測された生理量情報に基づいて、空調装置60の送風部62を制御する。上述したように、送風部62は、「強」及び「弱」の間で駆動強度を切替可能とされている。このため、制御部11Fは、送風部62の駆動強度を「強」及び「弱」の何れかに切替可能である。また、制御部11Fは、送風部62の駆動の開始及び停止を制御できる。
【0074】
また、制御部11Fは、記憶部13における入力情報データベース13Dに記憶された駆動強度に基づいて、空調装置60の送風部62を制御する。
【0075】
なお、送風部62の駆動強度は、「強」及び「弱」の2種類だけでなく、無段階に設定する態様としてもよい。この場合、制御部11Fによる送風部62の制御は、無段階に調整可能となる。また、空調装置60の入力部64を介した送風部62の制御は、例えば入力部64を形成するタッチパネルに1から100までの整数で駆動強度を表示させ、対象者が任意の整数を入力することで実施してもよい。
【0076】
(データベース)
図3(A)に示すように、個人情報データベース13Bには、対象者の氏名(又は識別番号)と、各種個人情報とが関連付けられて記憶される。本実施形態において、個人情報データベース13Bに記憶される各種個人情報としては、年齢(歳)、性別、身長(cm)、体重(kg)、体組成(体脂肪率(%))等がある。
【0077】
図3(B)に示すように、予測関連情報データベース13Cには、対象者の氏名(又は識別番号)と、予測部11Dが後述する各種演算式を用いて算出した対象者毎の各種生理量情報とが、算出された日時と関連付けられて記憶される。本実施形態において、予測関連情報データベース13Cに記憶される各種生理量情報は、体内深部温度(℃)及び皮膚温度(℃)である。
【0078】
各種生理量情報の算出時間の間隔は任意であるが、本実施形態においては1秒毎に算出される。また、本実施形態においては、各種生理量情報を同じタイミングで算出しているが、生理量情報の種類毎に算出タイミング及び算出頻度を変えてもよい。
【0079】
図3(C)に示すように、入力情報データベース13Dには、対象者の氏名(又は識別番号)と、空調装置60の入力部64を介して対象者が入力した「強」又は「弱」等の駆動強度とが、入力された日時と関連付けられて記憶される。
【0080】
また、入力情報データベース13Dには、対象者が空調装置60の入力部64を介して入力した直前に予測部11Dが予測した生理量情報である体内深部温度(℃)及び皮膚温度(℃)が記憶される。
【0081】
<生理量情報の予測>
温熱環境制御装置10においては、所定時間経過後の各種生理量情報(「体内深部温度」及び「皮膚温度」)を予測するために、一例として記憶部13に記憶された以下の演算式を用いる。
【0082】
(演算式)
記憶部13には、「体内深部温度」及び「皮膚温度」を算出するための各種演算式(公知の演算式)が記憶されている。
【0083】
「体内深部温度」は、対象者の身体の特定部位(例えば頭部)における中心部(体内深部)の温度である。この体内深部温度は、予測部11Dによって、当該中心部における単位時間毎の「熱収支」から算出される。
【0084】
また、体内深部温度を所定回数(本実施形態では少なくとも3回)取得することで、当該取得した期間における体内深部温度の変化の推移が導出される。これにより、所定時間経過後の体内深部温度を予測(線形予測)することができる。
【0085】
「皮膚温度」は、以下に示す(4)外環境への顕熱損失量を算出する過程で算出される「皮膚表面温度」である。
【0086】
「熱収支」は、対象者における以下の(1)~(5)に示される熱収支の総和によって算出することができる。
(1)エネルギー産生による産熱量
(2)血流による熱交換量
(3)熱伝導によって体内深部から外側へ移動する熱量
(4)外環境への顕熱損失量(呼吸及び皮膚表面の対流放射による顕熱損失量)
(5)外環境への潜熱損失量(呼吸及び皮膚表面の発汗による潜熱損失量)
【0087】
上記(1)のエネルギー産生による産熱量は、「基礎代謝による産熱量」、「活動による産熱量」及び「ふるえによる産熱量」の和で算出される。
【0088】
「基礎代謝による産熱量」は、一例として、対象者の個人情報(性別、身長、体重、年齢等)から公知の方法によって算出することができる。
【0089】
また、「活動による産熱量」は、一例として、対象者情報(加速度、心拍数)から公知の方法によって算出することができる。
【0090】
さらに、「ふるえによる産熱量」は、一例として、身体の各部位における対象環境暴露時の温度と熱的中立時の温度差から公知の方法によって算出することができる。
【0091】
上記(2)の血流による熱交換量は、基礎血流量と皮膚血流量、筋肉血流量等との和として算出される「血流量」、「血液の比熱」及び「熱的中立時との温度差」の積から公知の方法によって算出される。
【0092】
「血流量」のうち、基礎血流量は、全身の体表面積、心係数(「個人情報」(年齢)から算出)から算出することができる。また、皮膚血流量は、身体の各部位における基礎血流量、身体の各部位における対象環境暴露時の温度と熱的中立時の温度差から算出することができる。また、筋肉血流量は活動量の関数として表され、公知の方法(例えば、「温熱環境評価のための65分割体温調整モデルに関する研究」 日本建築学会計画系論文集 第541号,9-16,2001年3月 9~15頁における式(9))によって算出される。
【0093】
上記の(3)熱伝導によって体内深部から外側へ移動する熱量は、「個人情報」(体組成、身長、体重)から公知の方法によって算出することができる。
【0094】
上記の(4)外環境への顕熱損失量は、対流熱伝達率(環境情報(風速)、対象者情報(代謝量)から算出)、皮膚表面と環境の対流及び放射熱交換量(着衣量情報から算出)、皮膚表面温度(上記の「熱収支」((1)~(5)に示される熱収支の総和)で得られた熱収支量[J]を各部位熱容量[J/℃]で除すことで算出)と外気温(環境情報(温度))との温度差から算出することができる。なお、この(4)外環境への顕熱損失量の算出には、単位時間毎に算出される熱収支において、1ステップ前に算出された熱収支の値を用いる。
【0095】
上記の(5)外環境への潜熱損失量は、皮膚表面温度から算出された飽和水蒸気圧と、外気の水蒸気圧(環境情報(気温、相対湿度)から算出)との差から公知の方法によって算出することができる。
【0096】
<作用>
次に、図4及び図5を参照して、本実施形態に係る温熱環境制御システム80の作用を説明する。ユーザからの入力部14を介した実行指示等に応じて、温熱環境制御装置10のCPU11が温熱環境制御プログラム13Aを実行することにより、図4に示す温熱環境制御処理が実行される。
【0097】
錯綜を避けるため、ここでは、対象者が一人のみの場合、かつ、個人情報データベース13Bが予め構築されている場合について説明する。また、ここでは、制御部11Fが、予測部11Dによって予測された生理量情報のみに基づいて空調装置60を制御する場合について説明する。制御部11Fが入力情報データベース13Dに記憶された入力情報に基づいて空調装置60を制御する場合については、後述する。
【0098】
(温熱環境制御処理)
温熱環境制御プログラム13Aの実行が開始されると、ステップ200で、CPU11は、個人情報データベース13Bに記憶されている「個人情報」を読み出す。
【0099】
ステップ202で、CPU11は、環境センサ20から、対象者が存在する領域の「環境情報」を取得する。また、CPU11は、着衣量センサ50から、対象者毎の「着衣量情報」を取得する。さらに、CPU11は、位置情報センサ30及びウェアラブルセンサ40から、対象者の「対象者情報」を取得する。
【0100】
ステップ204で、CPU11は、記憶部13に記憶された各種演算式を用いて、各種情報(個人情報、環境情報、着衣量情報及び対象者情報)から各種生理量情報を算出する。
【0101】
ステップ206で、CPU11は、各種演算式を用いて算出された生理量情報を、予測関連情報データベース13Cに記憶する。CPU11は、これらの生理量情報を、算出された時間と関連付けて予測関連情報データベース13Cに記憶する。
【0102】
ステップ208で、CPU11は、生理量情報が所定回数算出されたか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ210へ移行する。一方、ステップ208において否定判定となった場合はステップ202へ戻る。
【0103】
ステップ210で、CPU11は、所定時間経過後における各種生理量を予測する。
【0104】
ステップ220で、CPU11は、温熱環境調整処理を実施する。温熱環境調整処理の詳細については後述するが、ここでは、CPU11が、対象者の生理量に応じた空調装置60の送風部62の駆動強度を決定する。
【0105】
ステップ230で、CPU11は、対象者の位置情報に基づいて、空調装置60が設置された場所に対象者が在席中か否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ232へ移行する。一方、ステップ230において否定判定となった場合はステップ202へ戻る。
【0106】
ステップ232で、CPU11は、直前のステップ220で決定された駆動強度に応じて、空調装置60の送風部62の運転切替を実行する。「運転切替」には、送風部62の駆動強度を「強」及び「弱」の何れかに切り替える制御の他、送風部62の駆動の開始及び停止の制御も含まれる。
【0107】
ステップ234で、CPU11は、対象者による空調装置60の送風部62への入力情報を受け付けたか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ236へ移行する。一方、否定判定となった場合は、ステップ238へ移行する。
【0108】
ステップ236で、CPU11は、対象者の離席待ちを行う。具体的には、CPU11は、空調装置60が設置された場所から対象者が離籍したか否かを判定する。肯定判定となった場合はステップ240へ移行して、CPU11は、空調装置60の送風部62の運転を停止する。一方、否定判定となった場合は、CPU11は、肯定判定となるまで、ステップ236を繰り返し実行する。
【0109】
なお、対象者が、空調装置60の送風部62へ駆動強度を入力した場合、送風部62の駆動強度は、対象者が入力した入力情報によって制御される。
【0110】
ステップ238で、CPU11は、空調装置60が設置された場所から対象者が離席したか否かを判定する。肯定判定となった場合はステップ240へ移行して、CPU11は、空調装置60の送風部62の運転を停止する。一方、否定判定となった場合はステップ202へ戻る。
【0111】
すなわち、空調装置60が設置された場所に対象者が在席している間、CPU11は、環境情報及び対象者情報等を随時取得して、生理量予測処理を実行し、適宜送風部62の運転切替を実行する。
【0112】
ステップ242で、CPU11は、温熱環境制御処理の終了タイミングが到来したか否かを判定し、肯定判定となった場合は温熱環境制御処理を終了する。この終了タイミングは、一例として、対象者がウェアラブルセンサ40の装着を解除することにより到来する。ウェアラブルセンサ40の装着解除は、ウェアラブルセンサ40が検知する加速度が変化することによって検知される。別の一例として、この終了タイミングは、対象者や温熱環境制御システム80の管理者が入力部14を介して温熱環境制御処理の終了を入力することによって到来する。ステップ242で否定判定となった場合はステップ202へ戻る。
【0113】
(温熱環境調整処理)
図5に示すように、ステップ220で示した温熱環境調整処理が開始されると、ステップ221で、制御部11Fは、予測部11Dによって予測された生理量情報のうち、体内深部温度が所定の閾値T1(℃)以上か否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ222へ移行する。
【0114】
ステップ221で否定判定となった場合はステップ223へ移行して、皮膚温度が所定の閾値K1(℃)以上か否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ222へ移行する。
【0115】
なお、本実施形態においては閾値T1=37(℃)、K1=36(℃)とされているが、季節や対象者に応じてこの閾値は適宜変更できる。
【0116】
ステップ222で、制御部11Fは、空調装置60における送風部62の駆動強度を「強」に設定し、温熱環境調整処理を終了する。温熱環境調整処理の終了後は、図4に示すステップ230へ移行する。
【0117】
ステップ223で否定判定となった場合はステップ224へ移行し、体内深部温度が所定の閾値T2(℃)以上か否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ225へ移行する。
【0118】
ステップ224で否定判定となった場合はステップ226へ移行し、皮膚温度が所定の閾値K2(℃)以上か否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ225へ移行する。
【0119】
なお、本実施形態においては閾値T2=36.5(℃)、K2=35.5(℃)とされているが、季節や対象者に応じてこの閾値は適宜変更できる。
【0120】
ステップ225で、制御部11Fは、空調装置60における送風部62の駆動強度を「弱」に設定し、温熱環境調整処理を終了する。温熱環境調整処理の終了後は、図4に示すステップ230へ移行する。
【0121】
ステップ226で否定判定となった場合はステップ227へ移行し、制御部11Fは、空調装置60における送風部62の駆動強度を「停止」に設定し、温熱環境調整処理を終了する。温熱環境調整処理の終了後は、図4に示すステップ230へ移行する。
【0122】
(入力情報に基づく制御)
上記の説明においては、制御部11Fが、予測部11Dによって予測された生理量情報のみに基づいて空調装置60を制御する場合について説明したが、制御部11Fは、生理情報に加えて、入力情報データベース13Dに記憶された入力情報に基づいて空調装置60を制御することもできる。
【0123】
制御部11Fが当該入力情報に基づいて空調装置60を制御する場合は、図6に示すように、温熱環境調整処理において、ステップ222、225及び227の後、ステップ228に移行する。
【0124】
ステップ228では、制御部11Fが、入力情報データベース13Dにおける入力情報の有無を判定する。
【0125】
具体的には、制御部11Fは、図4に示すステップ210の生理量予測処理によって予測された生理量(体内深部温度及び皮膚温度)の組み合わせに「近い」生理量の組み合わせが、図3(C)に示す入力情報データベース13Dに記憶されているか否かを判定する。
【0126】
そして、予測された生理量の組み合わせに「近い」生理量の組み合わせが入力情報データベース13Dに記憶されている場合、ステップ228は肯定判定となり、ステップ229へ移行する。
【0127】
ステップ229では、生理量予測処理によって予測された生理量の組み合わせに「近い」生理量の組み合わせとなった時点における入力情報を、送風部62の駆動強度として設定し、温熱環境調整処理を終了する。
【0128】
ステップ228で否定判定となった場合、ステップ229へ移行して、温熱環境調整処理を終了する。つまり、この場合、制御部11Fは、空調装置60における送風部62の駆動強度を、入力情報データベース13Dに記憶された入力情報ではなく、ステップ222、225及び227で設定された駆動強度に設定する。
【0129】
なお、生理量の組み合わせが「近い」とは、入力情報データベース13Dに記憶された体内深部温度及び皮膚温度の「少なくとも一方」が、ステップ210で予測された体内深部温度及び皮膚温度と、±0.2(℃)以内であることを示している。または、入力情報データベース13Dに記憶された体内深部温度及び皮膚温度の「双方」が、ステップ210で予測された体内深部温度及び皮膚温度と、±0.2(℃)以内であることを示している。
【0130】
<効果>
以上説明したように、本実施形態に係る温熱環境制御装置10によると、図2に示す予測部11Dが、対象者の代謝量及び心拍数を含む対象者情報と環境情報とを用いて、所定時間経過後における、対象者の体内深部温度及び皮膚温度を含む生理量情報を予測する。
【0131】
そして、制御部11Fが、予測部11Dによって予測された生理量情報に基づいて、空調装置60を制御する。例えば、対象者が空調装置60を利用する前の行動に起因する代謝量や心拍数や、対象者が晒されていた環境情報を踏まえ、制御部11Fが空調装置60を制御する。
【0132】
すなわち、この温熱環境制御装置10によると、対象者の行動に起因する生理量情報を加味して温熱環境を制御することができる。これにより、対象者の熱的不快感を迅速に低減することができる。
【0133】
また、本実施形態に係る温熱環境制御装置10によると、対象者情報取得部11Cが、対象者が携帯する携帯端末であるウェアラブルセンサ40から対象者情報を取得する。このため、対象者情報を逐次取得することができる。これにより、予測部11Dは生理量情報を逐次予測できる。したがって、対象者情報を逐次取得できない場合と比較してきめ細く温熱環境の制御を行うことができる。
【0134】
また、本実施形態に係る温熱環境制御装置10は、図4を用いて説明したように、対象者情報取得部11Cが、対象者が空調装置60を利用する前と、利用している間と、の双方において、対象者情報を取得する。
【0135】
これにより、まず、対象者が空調装置60を利用する前の行動に起因する代謝量及び心拍数や、対象者が晒されていた環境情報を踏まえ、制御部11Fが空調装置60を制御する。そして、対象者が空調装置60を利用している間に、対象者が熱的中立状態に近づくと、風量を減らすなどの制御を実行できる。これにより、対象者にとって好ましい温熱環境を維持できる。
【0136】
また、本実施形態に係る温熱環境制御装置10は、温度、湿度、及び風速を含む情報と、対象者の位置情報と、を用いて、生理量情報を予測する。
【0137】
位置情報と温度とを用いるため、例えば低温環境や高温環境において温度の影響を受けた生理量情報を予測し、温熱環境を制御できる。
【0138】
また、位置情報と湿度とを用いるため、例えば乾燥環境や湿潤環境において湿度の影響を受けた生理量情報を予測し、温熱環境を制御できる。
【0139】
さらに、位置情報と風速を用いるため、例えば無風環境や強風環境において風速の影響を受けた生理量情報を予測し、温熱環境を制御できる。
【0140】
またさらに、位置情報と温度、湿度、及び風速とを組み合わせて用いるため、これらの複合的な影響を受けた生理量情報を予測し、温熱環境を制御できる。
【0141】
また、本実施形態に係る温熱環境制御装置10は、対象者の着衣量も用いて、生理量情報を予測する。これにより、生理量情報の予測精度を向上させることができる。
【0142】
また、本実施形態に係る温熱環境制御装置10は、対象者が入力し、受付部11Eが受け付け、記憶部13に記憶された駆動強度(風量)に基づいて、制御部が温熱環境調節手段を調整する。これにより、機械的に取得された対象者情報や環境情報だけでなく、対象者の主観を踏まえて温熱環境を制御できる。このため、対象者の好みに合わせて温熱環境を制御できる。
【0143】
<その他の実施形態>
上記で説明したように、制御部11Fは、空調装置60の駆動強度を制御する。また、対象者は、入力部64を介して、空調装置60の駆動強度を入力する。これらの駆動強度は、送風部62の風量としているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0144】
制御部11Fは、空調装置60の駆動強度として、風量に代えて又は加えて温度を制御してもよい。すなわち、制御部11Fは、空調装置60の風量及び温度の少なくとも一方を制御するものとすればよい。
【0145】
同様に、対象者は、空調装置60の駆動強度として、風量に代えて又は加えて温度を入力してもよい。対象者が温度を入力する場合、受付部11Eは、当該温度の入力情報を受け付ける。すなわち、受付部11Eは、対象者からの風量及び温度の少なくとも一方の入力を受け付けるものとすればよい。
【0146】
また、記憶部13における入力情報データベース13Dも、対象者が入力した風量及び温度の少なくとも一方の入力情報を記憶するものとすればよい。
【0147】
また、本実施形態においては、制御部11Fが制御する温熱環境調節手段を、対象者が着席する座席毎に設けられるパーソナル空調装置としての空調装置60としているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0148】
例えば温熱環境調節手段は、対象者の着衣に取付けたファン等としてもよい。この場合、制御部11Fによる温熱環境調節手段の制御は、対象者の作業中に実行することができる。
【0149】
また、温熱環境調節手段は、休憩室全体の温熱環境を調節する空調機としてもよい。休憩室には複数の対象者が在室する場合がある。この場合には、制御部11Fは、例えばそれぞれの対象者に応じた駆動強度の「平均強度」によって、温熱環境調節手段を制御する。
【0150】
また、本実施形態においては、位置情報センサ30によって対象者情報としての位置情報を取得しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば位置情報センサ30を省略し、対象者の位置情報を取得しない態様としてもよい。このような態様は、対象者の行動範囲が時間毎に決められている場合等に適用できる。
【0151】
なお、本実施形態においては、生理量情報として体内深部温度及び皮膚温度の双方を予測しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば体内深部温度及び皮膚温度の少なくとも一方を生理量情報として予測すればよい。これらの生理量情報の何れか一方を予測することでも、対象者の行動に起因する生理量情報を加味して温熱環境を制御して、対象者の熱的不快感を迅速に低減することができる。
【0152】
また、本実施形態においては、対象者情報として代謝量、心拍数、加速度を測定しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、対象者情報として心拍数と加速度とを測定し、代謝量は心拍数及び加速度の関数として公知の方法(例えば3次元加速度と心拍数による日常生活時のエネルギー消費量の推定 日本家政学会誌 Vol.59 No.4 221~229 (2008))を用いて算出してもよい。
【0153】
また、代謝量は、例えば作業内容に応じた値を予め記憶部13に記憶しておいてもよい。この場合、対象者の作業内容を入力部14に入力する。そして、予測部11Dが入力内容に応じて記憶部13に記憶された値を読み込んで、生理量を予測する。さらに、対象者の作業内容は、カメラ等を用いて撮像した画像から予測部11Dが予測して特定してもよい。
【0154】
また、本実施形態においては、環境情報として温度、湿度、及び風速の全てを用いて、生理量情報を予測しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、環境情報として温度、湿度、及び風速の少なくとも1つを用いて生理量情報を予測してもよい。
【0155】
温度を用いれば、例えば低温環境や高温環境において温度の影響を受けた生理量情報(体内温度)を予測し、対象者の予防行動を支援できる。
【0156】
また、湿度を用いれば、例えば乾燥環境や湿潤環境において湿度の影響を受けた生理量情報(体内温度)を予測し、対象者の予防行動を支援できる。
【0157】
さらに、風速を用いれば、例えば無風環境や強風環境において風速の影響を受けた生理量情報(体内温度)を予測し、対象者の予防行動を支援できる。
【0158】
また、本実施形態においては、対象者情報取得部11Cは、ウェアラブルセンサ40から対象者情報を取得するが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば対象者情報取得部11Cは、対象者が携帯する端末(対象者情報を測定できるセンサを備えた専用測定器やスマートフォン等)であって必ずしも身体に装着しない端末から、対象者情報を取得してもよい。この場合、対象者が所定時間毎に対象者情報を測定できるように、当該所定時間をブザー音で報知することが好ましい。
【0159】
また、本実施形態において、例えば、環境情報取得部11A、着衣量情報取得部11B、対象者情報取得部11C、予測部11D、受付部11E及び制御部11Fの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0160】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0161】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0162】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。このように、本発明は様々な態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0163】
10 温熱環境制御装置
11 CPU
11A 環境情報取得部
11B 着衣量情報取得部
11C 対象者情報取得部
11D 予測部
11E 受付部
11F 制御部
13 記憶部
13A 温熱環境制御プログラム
13B 個人情報データベース
13C 予測関連情報データベース
13D 入力情報データベース
20 環境センサ
30 位置情報センサ
40 ウェアラブルセンサ
50 着衣量センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6