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  • 特開-オキシトシンシグナル増強剤 図1
  • 特開-オキシトシンシグナル増強剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032206
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】オキシトシンシグナル増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/366 20060101AFI20230302BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230302BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230302BHJP
【FI】
A61K31/366
A61P43/00 111
A61P17/00
A61Q19/00
A61K8/49
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138191
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】井上 かおり
(72)【発明者】
【氏名】スッチノント チャワパン
(72)【発明者】
【氏名】鈴野 由紀
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 裕子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD20
4B018ME14
4C083AC841
4C083AC842
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC23
4C083CC38
4C083DD08
4C083DD12
4C083DD15
4C083DD16
4C083DD17
4C083DD21
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE12
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC02
(57)【要約】
【課題】新規なオキシトシンシグナル増強剤を提供する。
【解決手段】本発明は、デヒドロカワイン誘導体及びその塩から選択される1種又は複数種を有効成分として含有するオキシトシンシグナル増強剤を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デヒドロカワイン誘導体及びその塩から選択される1種又は複数種を有効成分として含有する、オキシトシンシグナル増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオキシトシンシグナル増強剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
オキシトシンは「愛情ホルモン」「幸せホルモン」とも呼ばれるペプチドホルモンであり、神経ホルモンあるいは神経伝達物質あるいは神経制御物質として働いている。作用としては抗不安、ストレス緩和、絆形成、摂食抑制、鎮痛などが知られている。オキシトシン受容体は、中枢神経、子宮、乳腺、皮膚、脂肪、腎臓、心臓、胸腺、膵臓等の全身の様々な組織で発現が確認され身体の各所で、生理的役割を果たしている。
【0003】
皮膚に着目すると皮膚にもオキシトシンが存在する報告がある(非特許文献1、特許文献1)。そして皮膚へのオキシトシンの直接作用については、シワ及び皮膚柔軟性の改善作用があること(特許文献2)、線維芽細胞に作用することによって弾力を高める成分の産生を増やすこと(特許文献3)、間接作用については生体中のオキシトシン量の増加が肌質感を改善させること(特許文献4)、等が報告されている。これらの発見より、皮膚においてオキシトシンの作用を高めると肌改善をもたらすことが推測できる。
【0004】
皮膚のオキシトシンの量を増加させるための様々な手段が探索されている。例えば、特許文献2には、ローズ油、エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール、メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール、及びヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピランを含有するオキシトシン産生促進剤が開示されている。特許文献1にはマッサージなどの刺激により皮膚オキシトシン量を増加させることが開示されている。特許文献3には、ケイヒエキスにより線維芽細胞におけるオキシトシン受容体の数を増加することが開示されている。しかしながらオキシトシンの反応を増幅させるような手段を提供するものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-117232号公報
【特許文献2】特開2011-98898号公報
【特許文献3】特開2020-200240号公報
【特許文献4】特開2019-105619号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Exp Dermatol 2012 Jul;21(7):535-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、オキシトシンシグナル増強剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、DDKをはじめとするデヒドロカワイン誘導体に高いオキシトシンシグナル増強効果があることを見出し、以下の発明を完成するに至った:
(1)デヒドロカワイン誘導体及びその塩から選択される1種又は複数種を有効成分として含有する、オキシトシンシグナル増強剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オキシトシンシグナル増強剤を含有する薬剤を提供することができる。オキシトシンシグナルが増強できれば皮膚をはじめとする各種組織における状態や疾患を予防・改善することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例においてDDKを添加した場合の蛍光強度の変化を示す。蛍光強度の値の変化は、細胞内カルシウムイオン濃度の変動を表す。横軸は時間(秒)、縦軸は蛍光強度(F/F0比)を示す。試験開始から30秒後にコントロール単独又は各濃度のDDK単独の添加を行い、180秒後にコントロール単独又はオキシトシン単独の添加を行った。
図2図2は、実施例においてオキシトシン添加有又は無の状態で各濃度のDDKを添加した場合の蛍光強度の変化を示すグラフである。白抜きバーはオキシトシンの添加有(OT(+))、黒塗りバーはオキシトシンの添加無(OT(-))を示す。縦軸は、オキシトシン有無それぞれについてのDDK無添加の場合(0nM)の蛍光強度(F/F0比)の変化量を100%として、各濃度(0~25nM)のDDK添加を行った場合の蛍光強度(F/F0比)の変化量の割合(%)を示す。横軸はDDKの各濃度(nM)を示す。(シェッフェ多重間比較検定、**;P<0.01)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、デヒドロカワイン誘導体に高いオキシトシンシグナル増強効果があることを発見した。本発明はかかる発見に基づき、デヒドロカワイン誘導体及びその塩から選択される1種又は複数種を有効成分として含有する、オキシトシンシグナル増強剤を提供する。
【0012】
オキシトシン(CAS番号:50-56-6)は、9個のアミノ酸からなるペプチドホルモン(Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly)である。下垂体後葉ホルモンの一つである。
【0013】
オキシトシンシグナル増強とは、オキシトシンによる応答を増強させることであり、例えば細胞内カルシウムイオン測定試薬(fura-2, fluo-3, fluo-4, fluo-8等)などを用いて蛍光強度変化を経時的に測定することで調べることができる(https://www.dojindo.co.jp/technical/beginner/calcium1.pdf)。蛍光強度を測定できる顕微鏡やハイスループットカルシウムイメージング法により細胞内カルシウムイオン濃度変化を測定することにより決定することができる。例えば、実施例に記載のように、オキシトシンのみを付与した状態(コントロール)に比べて、オキシトシンシグナル増強剤を付与した場合にオキシトシン誘発細胞内カルシウムイオン濃度が増加する場合、オキシトシンシグナル増強作用があると判断できる。カルシウムイオン濃度の増加は、候補薬剤を添加した場合に、有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば、シェッフェ多重間比較検定、スチューデントのt検定等)をもって亢進していること、あるいは、例えば5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、又は500%以上亢進していることを意味し得る。カルシウムイオンの流入は、任意の公知技術、例えば、限定されないものの、細胞内カルシウムイメージング等の別の方法によって測定してもよい。
【0014】
このようなオキシトシンシグナル増強作用は、in vivo、in vitro、ex vivo等を含む各種方法で測定できる。例えば、被験物質を角化細胞又は線維芽細胞といった皮膚細胞、中枢神経細胞、子宮細胞、乳腺細胞、脂肪細胞等の細胞に投与し、その細胞における細胞内カルシウムイオン濃度変化を求めることによりオキシトシンシグナル増強作用を決定できる。あるいは、例えば、哺乳動物に投与した後に皮膚、中枢神経、子宮、乳腺、脂肪などの組織/モデルなどの試料における細胞内カルシウムイオン濃度変化を測定するといったin vivoやex vivoの方法を採用してもよい。しかしながら測定方法は上記方法に限定されず、他の任意の方法を採用してもよい。
【0015】
本発明で用いられるデヒドロカワイン誘導体は、下記一般式(I)で表される化合物を指す。
【化1】

(式中、R1は水素原子、水酸基、又はメトキシ基を表し、R2は、水素原子又はメチル基を表す)
【0016】
デヒドロカワイン誘導体として、例えば、ジヒドロ-5,6-デヒドロカワイン(DDK)、5,6-デヒドロカワイン(DK)、p-ヒドロキシ-5,6-デヒドロカワイン、6-(3,4-ジヒドロキシスチリル)-4-ヒドロキシ-2-ピロン、6-(3,4-ジメトキシスチリル)-4-メトキシ-2H-ピラン-2-オン、6-(3,4-ジメトキシフェネチル)-4-メトキシ-2H-ピラン-2-オン、6-(3,4-ジヒドロキシフェネチル)-4-ヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン等が挙げられる。
【0017】
デヒドロカワイン誘導体は、チロシナーゼ阻害作用、毛乳頭細胞増殖促進及び肺ガン細胞成長抑制作用(特開2017-75122号公報)、p21活性化キナーゼ阻害作用(国際公開第2016/103450号)、抗肥満作用(特開2016-20341号公報)等が知られている。しかしながら、オキシトシンシグナル増強作用があることは報告されていない。
【0018】
デヒドロカワイン誘導体は合成しても、市販のものを用いてもよい。例えば、ジヒドロ-5,6-デヒドロカワイン(dihydro-5,6-dehydrokawain:DDK、CAS番号:3155-51-9)および5,6-デヒドロカワイン(5,6-dehydrokawain:DK、CAS番号:15345-89-8)は、月桃、カヴァ等の植物に含まれるため、これらの植物から単離してもよく抽出物の形態として使用してもよい。本発明において、上記デヒドロカワイン誘導体は1種を使用しても複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
一般式(I)で表されるデヒドロカワイン誘導体の塩は、特に限定されないが、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、メチル硫酸塩やp-トルエンスルホン酸塩等のアルキル硫酸塩、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の酸塩、ベタイン塩、グリシン塩、アラニン塩、セリン塩、タウリン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸類との塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩等が挙げられるが、本発明はこれに限らない。
【0020】
抽出物を用いる場合、上述の植物から公知の方法により容易に乾燥、精製、抽出ができ、また市販品を容易に入手可能である。生のままでも乾燥したものでも使用することができるが、抽出物、乾燥物、乾燥粉末、原料の粉末物、搾汁液等として用いることもでき、いずれの形態を用いるかは適宜選択することができ、必要に応じて殺菌等の処理を施してもよい。
【0021】
上記エキスや抽出物の抽出方法は例えば溶媒抽出により行うことができる。溶媒抽出の場合には、植物の全体又は部分を必要に応じて乾燥させ、更に必要に応じて細断又は粉砕した後、水性抽出剤、水、例えば冷水、温水、又は沸点若しくはそれより低温の熱水、あるいは無水又は含水有機溶媒、有機溶媒、例えばエタノール、メタノール、エーテル、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等を原料の性質や組成物の用途等により好ましい溶媒を適宜選択して常温で又は加熱して用いることにより抽出される。しかしながら、抽出方法は溶媒抽出に限定されず、当業界で知られている常用の手法によってもよく、本発明で用いる抽出物の抽出方法や抽出物の形態は、本発明の効果を損なわない限り任意である。上記抽出物の形態は、抽出液自体だけでなく、常用の手法により適宜希釈又は濃縮したものであってもよく、更に、抽出液を乾燥することによって得られる粉状あるいは塊状の固体であってもよい。
【0022】
本発明で用いる抽出物の抽出方法や形態は本発明の効果を損なわない限り、任意であるが、本発明に用いられる抽出溶媒は、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が好ましく、特に水、あるいはメタノール、エタノール又は1,3-ブチレングリコール等の低級アルコールが好ましい。低級アルコールは、例えば、含水低級アルコールであってもよく、その場合の含水率は、例えば0~10v/v%、10~40v/v%、20~30v/v%、30~50v/v%、50~80v/v%、80~99.5v/v%等であってもよい。低級アルコールは、例えば、C1~C5の低級アルコールであってもよい。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。
【0023】
本発明のオキシトシンシグナル増強剤(以下、本発明の剤と称することがある)は、経皮剤又は経口剤といった任意の形態でありうるが、皮膚のオキシトシンシグナルを増強する観点から、経皮剤が好ましい。本発明の剤は、経皮、経口等各種投与経路で投与でき、月桃葉エキス及び/又はショウキョウエキスを本発明の効果が十分発揮されるような量で適用することが好ましく、その配合量は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。
【0024】
また、本願は、本発明の剤を含む組成物も提供する。本発明の組成物は、化粧品組成物又は食品組成物であってもよい。本発明の組成物は、例えば、オキシトシンシグナルを増強するためあるいはかかる作用を介した皮膚状態改善のための組成物であってもよい。
【0025】
また、本願は、本発明の剤又は組成物を対象に投与することにより、オキシトシンシグナルを増強するためあるいはかかる作用を介した皮膚状態改善のための美容方法も提供する。本発明の方法は、美容を目的とする方法であり、医師や医療従事者による治療ではないことがある。
【0026】
本発明の剤又は組成物は、外用投与または経口投与など任意の経路により投与できる。外用投与の形態としては、例えば、クリーム、乳液、液体、シート、スプレー、ゲルなど任意に選択することができる。経口投与の形態としては、例えば、錠剤、サプリメント、飲料、粉末など任意に選択することができる。
【0027】
本発明の化粧品組成物は、乳液、クリーム、美容液、ローション、パック、洗顔料、石鹸、ボディソープ、シャンプー等の各種化粧品であってもよく、液状、乳液状、クリーム状、固形状、シート状、スプレー状、ゲル状、泡状、パウダー状等の様々な形態であり得る。また、本発明の食品組成物は、粉末、飲料、または錠剤であってもよく、粉末状、液状、固形状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状等の様々な形態であり得る。
【0028】
また、投与頻度は、4週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、都度投与等任意に選択できるがこれらに限定されない。
【0029】
本発明の剤又は組成物におけるデヒドロカワイン誘導体及びその塩から選択される1種又は複数種の配合量は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、デヒドロカワイン誘導体及びその塩から選択される1種又は複数種の配合量は、本発明剤又は組成物の総重量当たり0.0001~100重量%、0.0001~90重量%、0.001~50重量%、0.01~5重量%、0.01~1重量%、0.01~0.5重量%、0.05~0.2重量%、0.1重量%、等とすることができるが、本発明の効果が発揮されれば限定されない。
【0030】
本発明の剤及び組成物は、その剤形に応じ、賦形剤、担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で、常法を用いて製造することができる。必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、pH調整剤等については、公知のものを適宜選択して使用できる。
【実施例0031】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0032】
実施例:
実験1:試料の調製
候補試料として、化粧品素材ライブラリーの中からToronto Research Chemicals Incより購入したジヒドロ-5,6-デヒドロカワイン(DDK、CAS番号:3155-51-9)、その他各種化合物、植物の抽出物といった合成成分や天然由来成分を含め、約300種類の候補試料を選択しスクリーニングを行った。これらの試料はDMSOを用いて調整し、実験時に細胞外液(NaCl 150 mM, KCl 5 mM,CaCl2 1.8 mM,MgCl2 1.2 mM ,D-glucose 10 mM, HEPES 25 mMを超純水に溶かし、NaOHでpHを7.4に調整した水溶液)を用いて0~25nMの各濃度に希釈した。コントロールとして上記と同じ細胞外液を用いた。オキシトシン(CAS番号:50-56-6)は、ペプチド研究所より購入し、超純水で溶解後、上記と同じ細胞外液を用いて、濃度5μMに希釈した。
【0033】
実験2:細胞の培養
クラボウより購入した正常ヒト表皮角化細胞を用いた。無血清基礎培地(Epilife(Thermo Fisher Scientific社)又はHumedia KG2(クラボウ社))に、添加因子(ハイドロコルチゾン0.67 mg/mL、ウシ脳下垂体エキス0.4%、インスリン10 mg/mL、EGF 0.1 μg/mL)(HumediaKG増殖因子セットなど(クラボウ))を加え、操作手順書に従いこれらの細胞を培養した。
【0034】
実験3:細胞内カルシウムイオンハイスル―プットスクリーニング
上述の方法で培養した表皮角化細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を測定することによりオキシトシンシグナル増強物質のスクリーニングを行った。具体的には、FDSS/μCELL創薬スクリーニング支援システム(Functional drug screening system, 浜松ホトニクス)により、カルシウム感受性蛍光色素であるCalcium Kit II-Fluo4(同仁化学)を用いた細胞内カルシウムイオンハイスル―プットスクリーニングを行った。コラーゲンで表面処理した黒ガラス96ウェルプレートに細胞を付着させた後に、上記キットの手順書に従い、蛍光指示薬Fluo 4-AMを5μg/mLの濃度で含むloading bufferをウェルに添加した。この蛍光色素を室温で、60分間インキュベーションを行い、培養表皮角化細胞内への取込みを行った。取込み終了後、上記FDSS/μCELLを使用し、中心波長470nmの励起光を細胞に照射し、励起波長に応じ細胞から放出される光量の蛍光(中心波長540nm)をFDSSソフトウェアにより、測定・算出することで蛍光強度を測定した。分注自動設定により測定開始から30秒後にコントロール単独又は実験1で調整した各濃度の試験物質を加えた。測定開始から約50秒後に試験物質等の添加による蛍光強度のわずかな反応が見られた。試験開始から180秒後に2回目の分注を行う設定とし、反応が収まった時点でコントロール単独又はオキシトシン単独添加を行うようにし、300秒で測定を終了した。
【0035】
上記ハイスル―プットスクリーニングの結果、DDKに高いオキシトシンシグナル増強効果が見られた。各濃度のDDKを添加した場合の反応の様子を図1に示す。オキシトシンの単独添加により細胞内カルシウムイオン濃度が増加し、DDKを添加すると濃度特異的に更なる増加を示した。図1の結果について、オキシトシン(5μM)添加有無それぞれの場合について、DDK無添加の場合の蛍光強度の変化量(F/F0比)を100%とし、各濃度のDDKの添加により得られた応答を%換算して算出した結果を図2に示す。データはシェッフェ多重間比較検定を行うことで統計処理し、平均値±標準偏差で表記した(N=9~12)。2.5nM及び25nMのDDKを添加した場合DDK無添加の場合と比べて有意な増加が観察された。
【0036】
以上の結果により、DDKをはじめとするデヒドロカワイン誘導体にはオキシトシンによるシグナルを増強する効果があることが示唆される。
図1
図2