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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032232
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】井戸
(51)【国際特許分類】
   F24T 10/17 20180101AFI20230302BHJP
【FI】
F24T10/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138237
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 敏巳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】土屋 信明
(57)【要約】
【課題】地盤掘削を伴う地下工事で用いる建設工事用井戸の多機能化を図ることである。
【解決手段】地盤掘削を伴う地下工事で用いる建設工事用の井戸であって、
地下水を集水する集水部を備えたケーシング管と、該ケーシング管内の前記集水部に配置される排水管を備える水中ポンプと、該水中ポンプを囲うように配置され、熱媒体が循環する複数の採熱管を備える地中熱交換器と、を備え、前記ケーシング管は、山留め壁の壁内もしくは背面側の地中に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤掘削を伴う地下工事で用いる建設工事用の井戸であって、
地下水を集水する集水部を備えたケーシング管と、
該ケーシング管内の前記集水部に配置される排水管を備える水中ポンプと、
該水中ポンプを囲うように配置され、熱媒体が循環する複数の採熱管を備える地中熱交換器と、を備え、
前記ケーシング管は、山留め壁の壁内もしくは背面側の地中に設けられていることを特徴とする井戸。
【請求項2】
請求項1に記載の井戸において、
前記排水管に、該排水管から分岐する注水管が設置され、
該注水管の開口端部が、前記ケーシング管内の上端部に配置されることを特徴とする井戸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤掘削を伴う地下工事で用いる建設工事用の井戸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、再生可能エネルギーである地中熱を建物の空調や給湯等に利用する地中熱利用システムが開発されている。例えば、特許文献1には、地中に構築した深井戸と貯水穴を用いた熱交換システムが開示されている。
【0003】
具体的には、地上に設置したヒートポンプから送り出される液体が循環する循環管を貯水穴に挿入したのち、深井戸から汲み上げられた地下水を貯水穴の浅い位置に注入するとともに、貯水穴内の深い位置から貯留する地下水を排水する。こうして、貯水穴内で上方から下方に向かう対流を生じさせた地下水と循環管内の液体との間で、熱交換を行うシステムである。
【0004】
特許文献1によれば、貯水穴内の水位を地下水位の変動に影響されることなく常時一定に維持することが可能となるため、貯水穴に挿入された循環管内を流下する液体は、地下水との間で安定して熱交換を行うことができる。ところが、熱交換システムを構築するにあたり、地盤中に深井戸及び貯水穴を構築する作業は、多大な初期費用が必要となる。
【0005】
このような中、例えば特許文献2には、工事期間中に地下水位を低下させる対象となる地盤に設置したケーシング管を利用して、地下水との熱交換により熱エネルギーを得る地下水利用システムを構築し、工事完成後の構造物に、この地下水利用システムで得た熱エネルギーを供給する地下水利用方法が開示されている。
【0006】
具体的には、山留め壁で囲繞された領域内にストレーナーを備えたケーシング管を設置したのち、工事期間中は、ケーシング管に揚水ポンプを挿入して地下水を排水し、地下水位を低下させながら構造物の建設工事を行う。そして、工事完了後には、ケーシング管から揚水ポンプを引き抜き、採熱管を挿入して地下水利用システムを構築する。採熱管に供給される熱交換媒体は、ケーシング管内で地下水との熱交換を行ったのち、地上に設置したヒートポンプ内で熱交換を行い、完成後の構造物の空調機等に利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5959035号
【特許文献2】特許第6907596号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2によれば、工事期間中に揚水ポンプが挿入されていたケーシング管を利用して、地下水との熱交換により熱エネルギーを得る地下水利用システムを構築する。このように、地盤を削孔する作業を省略できれば、地下水利用システムの構築に係る工費を大幅に削減することができる。しかし、地下水利用システムを構築する際に揚水ポンプが撤去されることから、ケーシング管には地下水を集水する能力が備わっているにもかかわらず、工事完了後には、この集水能力を活用することができない。このため、ケーシング管よりなる建設工事用井戸の、集水能力を活かした更なる活用が望まれている。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、地盤掘削を伴う地下工事で用いる建設工事用井戸の多機能化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため本発明の井戸は、地盤掘削を伴う地下工事で用いる建設工事用の井戸であって、地下水を集水する集水部を備えたケーシング管と、該ケーシング管内の前記集水部に配置される排水管を備える水中ポンプと、該水中ポンプを囲うように配置され、熱媒体が循環する複数の採熱管を備える地中熱交換器と、を備え、前記ケーシング管は、山留め壁の壁内もしくは背面側の地中に設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の井戸によれば、ケーシング管を、山留壁内に構築される新設構造物と干渉することのない、山留め壁の壁内もしくは背面側の地中に設置するとともに、ケーシング管内に、水中ポンプと地中熱交換器を併設する。これにより、工事期間中に建設工事用として利用しつつ、地中熱交換器を備えた地中熱利用システムと兼用させた建設工事用井戸を、工事完了後には、地中熱利用システムだけでなく、揚水井戸として利用できる。これにより、例えば非常災害用井戸への転用を図ることができ、建設工事用井戸の多機能化を実現することが可能となる。
【0012】
また、建設工事用の井戸として、注水能力を高めることを目的に大口径かつ長大なケーシング管を用いることで知られるリチャージ工法で用いる注水井戸を採用すれば、ケーシング管内に配置する採熱管の本数を増加する、また、管長の長大化を図ることができる。これにより、地中熱交換器を備えた地中熱利用システムにおいて、地下水との熱交換をより効率よく行うことが可能となる。
【0013】
さらに、地中熱交換器を利用した地中熱利用システムは、工事完了後の新設構造物や周辺構造物だけでなく、工事期間中に開設している工事事務所や作業詰め所の冷暖房や給湯などに利用できる。これにより、工事期間中も、地中熱利用システムを利用することによる節電・省エネルギー効果やCO2の排出量削減効果を享受することが可能となる。
【0014】
また、水中ポンプに備えた排水管にヒートポンプを組み合わせると、水中ポンプで揚水した地下水をヒートポンプで熱交換する、いわゆる直接型揚水利用の地中熱利用システムを構築することもできる。これにより、地中熱交換器を用いた間接型循環利用の地中熱利用システムと直接型揚水利用の地中熱利用システムとを、併設かつ同時に利用することも可能となる。
【0015】
本発明の井戸は、前記排水管に、該排水管から分岐する注水管が設置され、該注水管の開口端部が、前記ケーシング管内の上端部に配置されることを特徴とする。
【0016】
本発明の井戸によれば、水中ポンプで揚水した地下水を注水管を介して、ケーシング管の上端部近傍に注水することができる。これにより、ケーシング管内では地下水に、上端部から下端部に向かう対流を生じさせることができ、採熱管を循環する熱媒体と地下水との熱交換効率をより向上させることが可能となる。
【0017】
また、注水管を閉塞すれば、水中ポンプを稼働させてケーシング管内の地下水を揚水する動作と、水中ポンプを停止させる動作とを繰り返すことにより、井戸内洗浄を行うこともできる。したがって、これらの動作を定期的に行うことにより、ストレーナー部及び充填砂利の目詰まりを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水中ポンプと地中熱交換器を備えたケーシング管を、山留め壁の壁内もしくは背面側の地中に設置することで、工事期間中に建設工事用として利用しつつ、地中熱交換器を備えた地中熱利用システムと兼用させた建設工事用井戸を、工事完了後に、水中ポンプを利用した揚水井戸、例えば非常災害用井戸への転用を図ることができ、建設工事用井戸の多機能化を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態における注水井戸の概略を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における工事完了後の注水井戸を地中熱利用システム及び非常用災害井戸に転用した様子を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における注水井戸の上部(図1のB部)の拡大図である。
図4】本発明の実施の形態における注水井戸の下部(図1のA部)の拡大図である。
図5】本発明の実施の形態における地中熱交換器のセンタライザーを示す図である。
図6】本発明の実施の形態における地中交換器のスペーサーを示す図である(採熱管が4本の場合)。
図7】本発明の実施の形態における山留め壁の背面側に設けたディープウェル工法の深井戸を地中熱利用システム及び非常用災害井戸に転用する事例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における山留め壁の壁内にディープウェル工法の深井戸を地中熱利用システム及び非常用災害井戸に転用する事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、地盤掘削を伴う地下工事で用いる建設工事用の井戸について、非常災害用井戸への転用や地中熱利用システムとの兼用を図るなど多機能化を実現し、工事期間中だけでなく工事完了後も有効に活用しようとするものである。以下に、建設工事用の井戸として、リチャージ工法で用いる注水井戸を事例に挙げ、詳細を説明する。
【0021】
≪≪≪リチャージ工法≫≫≫
図1で示すように、リチャージ工法を水替え工事の補助工法として採用する地下工事現場では、山留め壁Rで囲まれた掘削領域Sに、地下水Gwを揚水するための揚水井戸2が設けられている。また、揚水した地下水Gwを強制的に地盤に還元するための注水井戸1が、山留め壁Rの背面側に設けられている。
【0022】
揚水井戸2は、地盤中に設けた地中孔H2内に配置されたケーシング管21と、ケーシング管21に挿入された揚水ポンプ24と、揚水ポンプ24に基端が接続された揚水管25とを備える。ケーシング管21には、透水層P2と接する高さ範囲にストレーナー部22が設けられ、ストレーナー部22の外周面は充填砂利23で被覆されている。また、揚水管25は、揚水ポンプ24で吸引した地下水Gwを注水井戸1へ排水するべく、先端に設けられた排水口251が、注水井戸1に挿入されている。
【0023】
≪≪≪注水井戸≫≫≫
注水井戸1は、地盤中に設けた地中孔H1に配置されたケーシング管11を備え、ケーシング管11には、少なくとも透水層P1と接する高さ範囲にストレーナー部12が設けられている。また、ストレーナー部12の外周面は、充填砂利13で被覆されている。これにより、注水井戸1は、揚水井戸2で揚水した地下水Gwが揚水管25の排水口251からケーシング管11内に供給されると、ストレーナー部12及び充填砂利13を介して透水層P1へ注水することができる。
【0024】
≪≪井戸内洗浄設備≫≫
また、ケーシング管11には、図1で示すように、水中ポンプ14と排水管15が備えられている。排水管15はケーシング管11内で鉛直状に延在し、上方端に設けられた排水口151がケーシング管11の上端より外方に配置され、下方端が水中ポンプ14に接続されている。水中ポンプ14はストレーナー部12の高さ範囲(その近傍を含む)に配置され、これら水中ポンプ14と排水管15は、注水井戸1において、ストレーナー部12や充填砂利13の強制排水による洗浄装置として機能する。
【0025】
その手順は、水中ポンプ14を稼働してケーシング管11内の地下水Gwを揚水する動作と、稼働する水中ポンプ14を停止する動作とを繰り返して行う。こうすると、ケーシング管11の内外双方向の水流が交互に発生するため、ストレーナー部12や充填砂利13に目詰まりを生じさせる物質を除去することができる。このとき、排水管15に設けた電磁バルブ16aは開状態とし、注水管17に設けた電磁バルブ16bは閉状態としている。これら電磁バルブ16a、16b及び注水管17については、後述する。
【0026】
≪≪地下水を水資源として利用するための設備(非常災害用井戸)≫≫
このような構成を有する注水井戸1は、山留め壁Rの背面側に設置されているから、山留め壁R内の掘削領域Sに新設構造物が構築されても、この新設構造物と干渉することがない。したがって、図2で示すように、工事完了後には閉塞せずに、注水井戸1の洗浄設備として利用した水中ポンプ14と排水管15を残置しておくことにより、例えば、建設工事完了後の建物供用中にも非常災害用井戸への転用を図ることが可能となる。
【0027】
例えば、排水管15の上方端に設けられた排水口151を、図1で示すように、貯水設備18に対向して配置しておく。こうすると、水中ポンプ14を稼働することによりケーシング管11内の地下水Gwが、排水管15を介して貯水設備18内へ排水されるから、この地下水Gwを水資源として活用することができる。
【0028】
≪≪地下水を対流させる設備≫≫
また、排水管15には電磁バルブ16aが装着されているとともに、電磁バルブ16aの上流側には排水管15から分岐して注水管17が設けられている。注水管17は、先端開口をケーシング管11の上端部近傍に挿入され、その管路には、電磁バルブ16bが装着されている。
【0029】
電磁バルブ16a、16bを含む電磁バルブ16は、図3で示すように、これらを制御する制御盤161を備え、制御盤161は、インターネットや専用通信回線等の通信ネットワーク20を介して、コンピュータシステムもしくはクラウド上の制御サーバ30、及び管理者端末40と相互にデータ送信が可能になっている。また、管理者端末40は、通信ネットワーク20を介して制御サーバ30との間でデータ通信が可能となっている。
【0030】
これにより、現場管理者と施設管理者は、管理者端末40を用いて遠隔操作により電磁バルブ16aの開度を制御し、排水管15の流量調整を行うことができる。つまり、現場管理者と施設管理者が管理者端末40に流量に関する調整情報を入力すると、通信ネットワーク20を介して制御サーバ30から調整情報が制御盤161に送信される。制御盤161はこの調整情報に基づいて、電磁バルブ16の開度を制御する。これにより、排水管15の流量を遠隔操作により、行政で定められた常時揚水量を超過しないようコントロールすることができる。
【0031】
上記の流量調整だけでなく、電磁バルブ16の開閉操作に係る情報を管理者端末40を入力すると上記と同様の手順で、排水口151側を開状態とする、もしくは注水管17側を開状態とするなど、電磁バルブ16a、16bの開閉操作を行うこともできる。このように、現場管理者と施設管理者は管理者端末40を用いて遠隔操作により、電磁バルブ16の開閉操作を実行することも可能となる。なお、管理者端末40は通信ネットワーク20を介して制御サーバ30との間でデータ通信が可能であれば、ノートPCやタブレット端末、スマートフォン等いずれを採用するものであってもよい。
【0032】
これら電磁バルブ16について、排水管15の電磁バルブ16aは閉状態、また、注水管17の電磁バルブ16bは開状態にして水中ポンプ14を稼働すると、排水管15に流入した地下水Gwが、注水管17からケーシング管11の上端部近傍に注水される。すると、図2で示すように、ケーシング管11内で滞留する地下水Gwに対して、上方から下方に向かう対流を生じる。
【0033】
これにより、注水井戸1のケーシング管11内で滞留する地下水Gwと、ケーシング管11内に挿入した地中熱交換器42内を循環する熱媒体Fとの熱交換効率を向上させることができる。次に、これらケーシング管11内に挿入した地中熱交換器42を用いた間接型循環利用の地中熱利用システム4と、排水管15を用いた直接型揚水利用の地中熱利用システム3について説明する。
【0034】
≪≪地下水を熱資源として利用するための設備≫≫
≪直接型揚水利用≫
注水井戸1に備えた排水管15は、図2及び図3で示すように、排水口151の手前管路に設けられたヒートポンプ31が設けられて、直接型揚水利用の地中熱利用システム3を構成している。ヒートポンプ31は、排水管15を介して揚水された地下水Gwとの間で熱交換を行い、交換した熱を冷暖房や給湯などの住環境設備8へ利用可能にする装置である。これにより、地下水Gwの熱を熱資源として利用することができる。
【0035】
≪間接型循環利用≫
また、地下水Gwで満たされた状態にある注水井戸1のケーシング管11内には、水中ポンプ14及び排水管15を取り囲むように配置される地中熱交換器42が挿入され、地上に設置されたヒートポンプ41とともに、間接型循環利用の地中熱利用システム4を構成している。ヒートポンプ41は、地上に配置され、地中熱交換器42内を循環する熱媒体Fとの間で熱交換を行い、交換した熱を冷暖房や給湯などの住環境設備8へ利用可能にする装置である。
【0036】
つまり、注水井戸1には、排水管15を流下する地下水Gwとの間で熱交換を行う直接型揚水利用の地中熱利用システム3と、地中熱交換器42内を循環し、地下水Gwとの間で熱交換を行った熱媒体Fとの間で熱交換を行う間接型循環利用の地中熱利用システム4が併設されている。
【0037】
≪地中熱交換器≫
ところで、図4(a)で示すように、間接型循環利用の地中熱利用システム4に用いる地中熱交換器42は、いわゆる分岐管型を採用しており、並列に配置された複数の採熱管43と、採熱管43の下端に設けられる接続治具44とを備えている。
【0038】
採熱管43は、水や不凍液もしくは空気等の流体よりなる熱媒体Fの循環流路を形成するもので、採熱管43の本数はいずれでもよいが、ここでは図4(b)~(d)の断面図で示すように、3本の採熱管43を採用する場合を事例に挙げている。3本の採熱管43のうち、1本は熱媒体Fを地上に位置するヒートポンプ41側へ戻す還り管43aであり、他の2本は熱媒体Fをヒートポンプ41から掘削孔H1側へ送る送り管43bとして利用する。これらは、下端部どうしが接続治具44により連通状態で接続されている。
【0039】
接続治具44は、円錐形状に形成された中空体を下方に向けて凸となるように配置したもので、円錐形状の平面部(一般には、底面に相当)を貫通して送り管43b及び還り管43aの下端部が挿入されている。したがって、2本の送り管43bをそれぞれ流下した熱媒体Fは、接続治具44の中空部で一旦合流したのち、還り管43aに流入する態様となる。このように、接続治具44を介して採熱管43を循環する過程で熱媒体Fは、ケーシング管11内を満たす地下水Gwとの間で熱交換を行う。
【0040】
なお、採熱管43のうち、送り管43bは還り管43aより採熱効率が高いことが知られている。このため、送り管43bの本数を還り管43aよりも多く組み合わせることで還り管43aの流速を速めて、採熱管43全体の採熱効率を向上させている。
【0041】
また、分岐管型の地中熱交換器42では、図4(a)で示すように、還り管43aと送り管43bの間隔を保持する複数のスペーサー6を、例えば1~2mの配置間隔で装着し、還り管43aと送り管43bの距離を一定に保つことで、採熱効率を高めている。これら複数のスペーサー6に加えて、ケーシング管11の略中央に位置決めするセンタライザー5及び地中熱交換器42の浮き上がりを防止するおもり部材7を装着し、地中熱交換器42をケーシング管11内に設置している。
【0042】
これにより、水中ポンプ14をケーシング管11内で略中央に配置しつつ、還り管43aと送り管43bの間隔を適正な間隔(必ずしも均等な間隔でなくてもよい)に保持することができる。センタライザー5及びスペーサー6の詳細を以下に説明するが、これらはいずれも防錆処理を施した金属材料やステンレス、もしくはFRP(繊維強化プラスチック)などの非金属性材料を採用すると良い。
【0043】
≪≪センタライザー≫≫
センタライザー5は、図4(a)及び(d)で示すように、採熱管43を束ねてケーシング管11の略中央に配置する部材であり、接続治具44の上方に配置される。図5(a)で示すように、半円形状の分割片51を2体と、ボルト等の締結具53とを備え、締結具53を介して2体の分割片51を接合すると、図4(d)で示すようなドーナツ形状の円盤となる。その外径はケーシング管11の内径よりやや小さく、また、内径は3本の採熱管43と棒状のおもり部材7を収納可能な大きさを有する。
【0044】
さらに、図5(a)及び(b)で示すように、分割片51には各々対向する面に連続する立上がり部52が設けられ、この立上がり部52に貫通孔が形成される。したがって、図5(b)で示すように、おもり部材7を中心にして束ねた3本の採熱管43を2つの分割片51で挟み込み、対向する立上がり部52の貫通孔を利用して締結具53で接合する。これにより、センタライザー5は、3本の採熱管43に挟持する態様で装着される。また、立上がり部52が採熱管43の保護部材のごとく機能し、センタライザー5が装着されることで、採熱管43に折れ曲がりや損傷を生じることを防止している。
【0045】
≪≪スペーサー≫≫
スペーサー6は、図3(b)で示すような排水管部スペーサー63と、図4(b)(c)で示すような、ポンプ部スペーサー62及び下部スペーサー61とを備え、地中熱交換器42に設置される高さ位置に応じて、水中ポンプ14や排水管15を保持する機能も併せ持つ。
【0046】
≪下部スペーサー≫
下部スペーサー61は、図4(c)で示すように、センタライザー5の上方であって水中ポンプ14の下方に配置されるリング状の部材であり、その外周部に、送り管43bと還り管43aを挟持する挟持部611が、周方向に採熱管43の数だけ等間隔に設けられている。
【0047】
≪ポンプ部スペーサー≫
ポンプ部スペーサー62は、図4(b)で示すように、水中ポンプ14を中央で把持しつつその外周に等間隔で採熱管43を保持する部材であり、水中ポンプ14を外方から囲繞する一対の半割バンド621を備える。
【0048】
一対の半割バンド621はボルトなどの締結具624を介して接合され、水中ポンプ14の外周面に装着されるとリング形状に形成される。また、半割バンド621の外周面にはリング形状となった際、等間隔となる位置に採熱管43を挟持する挟持部622が連結部材623を介して設けられている。さらに、挟持部622に採熱管43を挟持させた際に孔壁などに接して損傷することを防止するべく、採熱管43を保護する保護カバー625が着脱自在に設けられている。
【0049】
≪排水管部スペーサー≫
排水管部スペーサー63は、図3(b)で示すようにポンプ部スペーサー62と同様の構造を有しており、一対の半割バンド631と、半割バンド631を接合する締結具634を備える。また、半割バンド631の外周面には、採熱管43を挟持する挟持部632と、半割バンド631と挟持部632とを連結する連結部材633と、を備える。
【0050】
これらポンプ部スペーサー62及び排水管部スペーサー63はともに、半割バンド631、632に対して連結部材623、633を介して挟持部622、633を設けている。このように連結部材623、633を設けることで、その長さを適宜変更することにより、隣り合う採熱管43の離間距離や、採熱管43と水中ポンプ14もしくは排水管15との距離を調整することが可能となっている。
【0051】
≪≪地中熱交換器及び水中ポンプの設置方法≫≫
上記のスペーサー6及びセンタライザー5を装着した地中交換器42及び、排水管15を備えた水中ポンプ14は、次の手順でケーシング管11内に配置される。その大きさはいずれでもよいが、図1及び図2の事例では、ケーシング管の管径は400mm、水中ポンプ14の外径は270mm、排水管の管径は89mm、採熱管43の管径は25mmを採用している。
【0052】
まず、採熱管43に、センタライザー5と下部スペーサー61を取り付けた状態で、段階的にケーシング管11内に挿入する。次に、所定の深度に到達したところで、ポンプ部スペーサー62と、排水管部スペーサー63を装着しながら、採熱管43と水中ポンプ14及び排水管15とを組み合わせる。これらを地中孔H1の所定深さまで挿入し、水中ポンプ14及び排水管15と地中交換器42とをケーシング管11内に据え付ける。
【0053】
もしくは予め地上で、採熱管43に、センタライザー5と下部スペーサー61を取り付けるとともに、ポンプ部スペーサー62及び排水管部スペーサー63を介して、水中ポンプ14及び排水管15を併せて装着する。こうして、水中ポンプ14及び排水管15と地中交換器42と組み合わせたのち、これらをケーシング管11に挿入し所定の深さ位置に据え付けてもよい。
【0054】
このように、地中交換器42及び、排水管15を備えた水中ポンプ14は、スペーサー6及びセンタライザー5を用いることにより、ケーシング管11の略中央に対して容易に位置決めし設置することができる、また、ポンプ部スペーサー62及び排水管部スペーサー63はともに、締結具624、634を取り外すことにより、水中ポンプ14及び排水管15から取り外すことができる。したがって、水中ポンプ14に故障が生じたり点検が必要な場合には、ケーシング管11から排水管15を備えた水中ポンプ14を地中交換器42とともに引き抜き、ポンプ部スペーサー62と排水管部スペーサー63とを、取り外せばよい。
【0055】
≪≪井戸の利用方法≫≫
こうして、地中交換器42及び排水管15を備えた水中ポンプ14が装備された注水井戸1は、工事期間中及び工事完了後に、以下のように利用することができる。
【0056】
≪工事期間中≫
図1で示すように、揚水井戸2から揚水管25を介して注水井戸1に地下水Gwが排水されると、注水井戸1は、この地下水Gwをストレーナー部12及び充填砂利13を介して透水層P1へ注水することができる。また、定期的に排水管15を備えた水中ポンプ14を利用して前述の手順で井戸内洗浄を行うことにより、ストレーナー部12及び充填砂利13の目詰まりを防止することができる。このとき、排水管15の排水口151側が開状態となるよう電磁バルブ16を操作しておく。
【0057】
また、間接型循環利用の地中熱利用システム4を利用して得た熱を、工事事務所や作業詰め所の冷暖房や給湯などの住環境設備8に利用できる。これにより、工事期間中も、地中熱利用システムを利用することによる節電・省エネルギー効果やCO2の排出量削減効果を享受することが可能となる。
【0058】
≪工事完了後≫
掘削領域Sでの地下工事が完了したのち、揚水井戸2は閉塞されるが、注水井戸1は前述したように、山留め壁Rの背面側に設けられているから掘削領域Sに構築された新設構造物と干渉しない。したがって、図2で示すように、閉塞せずに水中ポンプ14と排水管15を、地中熱交換器42とともに残置しておく。
【0059】
工事完了後も注水井戸1のケーシング管11内は地下水Gwで満たされた状態となっているから、間接型循環利用の地中熱利用システム4を利用して地下水Gwから採熱できる。したがって、地下水Gwから得た熱を、掘削領域Sに構築した新設構造物もしくは掘削領域S近傍の建物の冷暖房や給湯などの住環境設備8へ利用することが可能となる。
【0060】
このとき、排水管15の注水管17側が開状態となるよう電磁バルブ16を操作するとともに、水中ポンプ14を稼働させる。こうして、ケーシング管11内の地下水Gwを、前述したように上下方向に対流させて、地中熱交換器42内を循環する熱媒体Fと地下水Wとの熱交換効率を向上させる。
【0061】
また、水中ポンプ14を稼働させた状態で、定期的に、排水管15の排水口151側が開状態となるよう電磁バルブ16を切り替え、井戸内洗浄を行う。これにより、注水井戸1は工事完了後も目詰まりを生じることなく健全な状態で維持される。したがって、非常時には、水中ポンプ14及び排水管15を揚水設備として稼働させ、非常災害用井戸として利用する。
【0062】
水中ポンプ14及び排水管15により揚水した地下水Gwは、排水管15の排水口151側が開状態となるよう電磁バルブ16を操作することにより、貯水設備18に供給される。したがって、貯水設備18に供給された地下水Gwを、掘削領域Sに構築した新設構造物もしくは掘削領域S近傍の建物などの、雑用水や発電機の冷却水などに使用すればよい。
【0063】
また、水中ポンプ14及び排水管15を揚水設備として利用している期間は、排水管15とヒートポンプ31による直接型揚水利用の地中熱利用システム3が機能する。したがって、この地中熱利用システム3を利用して地下水Gwから得た熱を、間接型循環利用の地中熱利用システム4で得た熱とともに、掘削領域Sに構築した新設構造物もしくは掘削領域S近傍の建物の冷暖房や給湯などの住環境設備8へ利用することができる。
【0064】
このように、注水井戸1を利用して、地盤削孔する工程を省略しつつ、直接型揚水利用の地中熱利用システム3及び間接型循環利用の地中熱利用システム4、さらには、非常災害用井戸を構築することができるため、設置費用を大幅に削減することが可能となる。したがって、地中熱利用システム3、4や非常災害用井戸を設けることの経済的効果を、最大限に引き出すことが可能となる。
【0065】
また、建設工事用の井戸として事例に挙げたリチャージ工法の注水井戸1は、注水能力を高めることを目的に大口径かつ長大なケーシング管11を用いる場合が多く、例えば、ケーシング管11の口径は400~600mm程度、管長は100m程度に達する場合がある。すると、ケーシング管11が長大な場合には、その内方に配置する地中交換器42の採熱管43も長大化を図ることができ、熱交換効率を向上することが可能となる。
【0066】
また、大口径のケーシング管11を採用する場合には、採熱管43の本数を増設することも可能である。図6は、採熱管43を3本から4本に増設した事例を示しているが、ケーシング管11の口径に応じてさらに増設することも可能である。このように、採熱管43の本数を3本から4本に増設した場合には、1本を還り管43aとし、残りの3本の送り管43bとして利用すると良い。また、図6(a)~(c)で示すように、排水管部スペーサー63、ポンプ部スペーサー62及び下部スペーサー61は、採熱管43を挟持する挟持部611、622、632を増設し、図6(d)で示すように、センタライザー5は、4本の採熱管43に挟持する態様で装着される。
【0067】
≪≪ディープウェル工法の深井戸を利用する事例≫≫
本実施の形態では、リチャージウェル工法で用いる注水井戸1を事例に挙げたが、これに限定するものではない。山留め壁Rもしくは山留め壁Rの背面側に設置される建設工事用の井戸であれば、いずれを採用することもでき、例えばディープウェル工法で用いる揚水井戸2を利用することもできる。
【0068】
図7は、山留め壁Rの背面側に配置した揚水井戸2を事例に挙げており、ケーシング管21内には、揚水ポンプ24及び揚水管25を取り囲むように配置される地中熱交換器42が挿入され、地上に設置されたヒートポンプ41とともに、間接型循環利用の地中熱利用システム4を構成している。また、揚水管25の管路にヒートポンプ31が設けられて、直接型揚水利用の地中熱利用システム3を構成している。
【0069】
また、揚水管25には電磁バルブ26aが装着されているとともに、電磁バルブ26aの上流側には揚水管25から分岐して注水管27が設けられている。注水管27は、先端開口をケーシング管21の上端部近傍に挿入され、その管路には、電磁バルブ26bが装着されている。このような装備を有する揚水井戸2は、工事期間中及び工事完了後に、以下のように利用することができる。
【0070】
≪工事期間中≫
図7で示すように、揚水ポンプ24及び揚水管25を介して地下水Gwを揚水することにより、山留め壁Rを挟んで隣り合う掘削領域Sの地下水位Gを低下させる。このとき、揚水管25の排水口251側が開状態となるよう、揚水管25の電磁バルブ26a及び注水管27側の電磁バルブ26bを含む電磁バルブ26を操作しておく。
【0071】
また、揚水管25に流入した地下水Gwが、排水口251側に向かう途中でヒートポンプ31を通過するため、熱交換が行われて、揚水管25を利用した直接型揚水利用の地中熱利用システム3が機能する。したがって、地中熱交換器42を備えた間接型循環利用の地中熱利用システム4とともに、これらを利用して地下水Gwから得た熱を、工事事務所や作業詰め所の冷暖房や給湯などの住環境設備8に利用することができる。
【0072】
≪工事完了後≫
掘削領域Sでの地下工事完了後は、注水井戸1を事例に挙げて説明したように、揚水井戸2を閉塞せずに揚水ポンプ24と揚水管25を、地中熱交換器42とともに残置しておく。これにより、間接型循環利用の地中熱利用システム4で地下水Gwから得た熱を、掘削領域Sに構築した新設構造物もしくは掘削領域S近傍の建物の冷暖房や給湯などの住環境設備8へ利用することができる。
【0073】
このとき、揚水管25の注水管27側が開状態となるよう電磁バルブ26を操作するとともに揚水ポンプ24を稼働させ、ケーシング管21内の地下水Gwを上下方向に対流させる。また、揚水ポンプ24を稼働させた状態で、定期的に、揚水管25の排水口251側が開状態となるよう電磁バルブ26を切り替え、井戸内洗浄を行う。そして、非常時には、揚水ポンプ24を稼働させ、非常災害用井戸として利用する。
【0074】
揚水した地下水Gwは、揚水管25の排水口251側が開状態となるよう電磁バルブ26を操作することにより、貯水設備28に供給される。したがって、貯水設備28に供給された地下水Gwを、掘削領域Sに構築した新設構造物もしくは掘削領域S近傍の建物の、雑用水や発電機の冷却水などに使用することができる。
【0075】
図8で示す揚水井戸2は、図7で示した揚水井戸2と同様の構造を備えているが、その設置場所が山留め壁Rの壁内である点が異なるのみである。
【0076】
本発明によれば、山留め壁Rの壁内もしくは背面側の地中に設置した注水井戸1や揚水井戸2などの建設工事用の井戸を、工事期間中に、直接型揚水利用の地中熱利用システム3や、間接型循環利用の地中熱利用システム4として兼用することが可能となる。工事完了後にはさらに、非常災害用井戸として転用することもでき、建設工事用井戸の多機能化を図ることが可能となる。
【0077】
本発明の井戸は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0078】
例えば、本実施の形態では、分岐管型の地中熱交換器42を1つのみ配置したが、ケーシング管11の口径が十分大きい場合には、地中熱交換器42を複数配置してもよい。
【0079】
また、地中熱交換器42は分岐管型に限定されるものではなく、例えば、Uチューブ型の採熱管など、掘削孔Hを利用するボアホール方式の地中熱利用システムで一般に採用され、熱媒体Fを循環させることのできる構造を有していれば、いずれを採用してもよく、またその数量も何ら限定されるものではない。
【0080】
さらに、多段式ポンプなどの外径のスリムな水中ポンプ14を採用すると、採熱管43どうしの間隔やこれらと水中ポンプ14との間隔を適正に確保でき、熱効率を向上させることができるとともに、採熱管43の本数を増設することも可能となる。
【符号の説明】
【0081】
1 注水井戸
11 ケーシング管
12 ストレーナー部(集水部)
13 充填砂利
14 水中ポンプ
15 排水管
151 排水口
16 電磁バルブ
16a 電磁バルブ(排水管用)
16b 電磁バルブ(注水管用)
161 制御盤
17 注水管
18 貯水設備
2 揚水井戸
21 ケーシング管
22 ストレーナー部(集水部)
23 充填砂利
24 揚水ポンプ(水中ポンプ)
25 揚水管(排水管)
251 排水口
26 電磁バルブ
26a 電磁バルブ(排水管用)
26b 電磁バルブ(注水管用)
27 注水管
28 貯水設備
3 地中熱利用システム(オープンループ)
31 ヒートポンプ
4 地中熱利用システム(クローズドループ)
41 ヒートポンプ
42 地中熱交換器
43 採熱管
43a 還り管
43b 送り管
44 接続治具
5 センタライザー
51 分割片
52 立上がり部
53 締結具
6 スペーサー
61 下部スペーサー
611 挟持部
62 ポンプ部スペーサー
621 半割バンド
622 挟持部
623 連結部材
624 締結具
625 保護カバー
63 排水管部スペーサー
631 半割バンド
632 挟持部
633 連結部材
634 締結具
7 おもり部材
8 住環境設備
20 通信ネットワーク
30 制御サーバ
40 管理者端末
H1 地中孔
H2 地中孔
Gw 地下水
S 掘削領域
R 山留め壁
F 熱媒体
P1 透水層
P2 透水層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8