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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032259
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/00 20060101AFI20230302BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20230302BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20230302BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20230302BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20230302BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230302BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20230302BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230302BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20230302BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230302BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
C10M171/00
C10M101/02
C10M107/02
C10N20:00 A
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:25
C10N40:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138277
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】594185134
【氏名又は名称】シェル インターナショナル リサーチ マートシャピー ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】羽生田 清志
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA05
4H104PA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】 耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題手段】 基油を含む潤滑油組成物であって、前記基油のアニリン点が120~130℃であり、 前記潤滑油組成物の25℃動粘度が20~60mm/sであり、前記潤滑油組成物の100℃動粘度が3.0~6.0mm/sである、潤滑油組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油を含む潤滑油組成物であって、
前記基油のアニリン点が120~130℃であり、
前記潤滑油組成物の25℃動粘度が20~60mm/sであり、
前記潤滑油組成物の100℃動粘度が3.0~6.0mm/sである
ことを特徴とする、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記基油としてグループ3基油及び/又はグループ4基油を含む、請求項1記載の潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
内燃機関においては、高荷重下で摺動する基材同士が繰り返し接触することで、部材の摩耗が発生する。内燃機関に適用される潤滑油組成物は、このような部材の摩耗を防止する役割も担う。また、摩耗防止の性能を向上させるために、潤滑油組成物に摩耗防止剤等を添加することが一般的に行われている。
【0002】
特許文献1では、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)等の添加剤を含み、エンジン摩耗を低減可能な潤滑剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-227448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
潤滑油組成物は、省燃費性の向上等を目的とした低粘度化が行わる場合もある。しかしながら、低粘度化させた潤滑油組成物は、金属間の接触が増大し、耐摩耗性が悪化する場合があった。そのため、従来技術に係る潤滑油組成物は、上記のような添加剤の添加だけでは十分な耐摩耗性が得られない場合があった。
【0005】
そこで本発明は、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、基油が特定の性状を充足することで前記課題を解消可能なことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0007】
本発明は、
基油を含む潤滑油組成物であって、
前記基油のアニリン点が120~130℃であり、
前記潤滑油組成物の25℃動粘度が20~60mm/sであり、
前記潤滑油組成物の100℃動粘度が3.0~6.0mm/sである
ことを特徴とする、潤滑油組成物である。
前記基油としてグループ3基油及び/又はグループ4基油を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を提供することができる。
【0009】
以下、本発明に係る潤滑油組成物の、成分、物性/性質、製造方法、用途等について説明する。
【0010】
<<<潤滑油組成物の成分>>>
潤滑油組成物は、基油と、所望の性質に応じて添加されるその他の成分と、を含む。
【0011】
<<基油>>
基油のアニリン点は120~130℃であり、好ましくは121~127℃である。基油のアニリン点をこのような範囲とし、後述する動粘度を所定範囲とすることで、添加剤を潤滑油中に十分に溶解させながらも、金属面への添加剤の供給(例えば、金属面での添加剤の析出等)を効率的に行うことができるため、省燃費性を維持しながらも、耐摩耗性を向上させることができる、と推測される。
【0012】
アニリン点は、基油のパラフィン分や芳香族分など構造に起因する極性を制御することで調整される。
【0013】
アニリン点は、JIS K2256:2013に準拠して測定された値を意味する。
【0014】
基油は、上記性状を満たす限りにおいて特に限定されず、鉱油、合成油、動植物油、これらの混合油を適宜使用することができる。具体例としては、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3、グループ4、グループ5等に属する基油を、単独又は混合物として使用してもよい。
【0015】
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろう等の精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。
【0016】
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろう等の精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。
【0017】
グループ3基油及びグループ2プラス基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)により得られたGTL基油がある。GTL基油は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性と低温における粘度特性に優れる。
【0018】
合成油としては、例えば、ポリオレフィン、二塩基酸のジエステル、トリメリット酸のトリエステル、ポリオールエステル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン等が挙げられる。上記ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物又はこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα-オレフィン等が挙げられる。ポリオレフィンの製造にあたっては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリ-α-オレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンはグループ4基油である。
【0019】
基油は、グループ3基油及び/又はグループ4基油を含むことが好ましい。また、基油は、グループ3基油及びグループ4基油(合計)を基油全体の50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することが好ましい。
別の観点では、基油は、グループ3基油を含むことが好まく、また、グループ3基油を基油全体の50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することが好ましい。
【0020】
<<その他の成分>>
潤滑油組成物は、使用目的に応じて上述した公知の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、摩擦調整剤(例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン)、金属系清浄剤、耐摩耗剤、分散剤、消泡剤、流動点降下剤、金属不活性剤、酸化防止剤などの添加剤や、粘度指数向上剤が挙げられる。
【0021】
潤滑油組成物中のその他の成分の含有量は、特に限定されないが、潤滑油組成物全体を基準として、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上又は5質量%以上等とすることができ、また、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下又は10質量%以下等とすることができる。
【0022】
なお、潤滑油組成物は、炭化堆積物(デポジット)を抑制できることから、粘度指数向上剤を含まないことが好ましい。より具体的には、潤滑油組成物中の粘度指数向上剤の含有量は、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満又は0質量%(ただし、痕跡量の含有は許容する。)とすることができる。
【0023】
<<<潤滑油組成物の物性/性質>>>
<<動粘度>>
潤滑油組成物の、JIS K 2283に準じて測定される25℃における動粘度は、好ましくは20~60mm/sであり、より好ましくは30~60mm/sであり、さらに好ましくは40~60mm/sである。
【0024】
潤滑油組成物の、JIS K 2283に準じて測定される40℃動粘度は、好ましくは10~50mm/sであり、より好ましくは15~45mm/sであり、さらに好ましくは20~40mm/sである。
【0025】
潤滑油組成物の、JIS K 2283に準じて測定される100℃動粘度は、好ましくは3.0~6.0mm/sであり、より好ましくは4.0~6.0mm/sであり、さらに好ましくは4.5~6.0mm/sである。
【0026】
潤滑油組成物の25℃動粘度、40℃動粘度、100℃動粘度は、動粘度や粘度指数の異なる基油(例えば、分子量や分岐構造の異なる基油)を組み合わせたり、粘度指数向上剤を組み合わせることによって調整することができる。
【0027】
<<粘度指数>>
潤滑油組成物の粘度指数(Viscosity Index;VI)は、好ましくは100以上であり、より好ましくは120以上であり、更に好ましくは130以上である。
【0028】
<<耐圧特性>>
<WL(融着荷重)>
融着荷重(融着荷重)は、160N以上であることが好ましく、200N以上であることがより好ましい。
【0029】
<LWI(荷重摩耗指数)>
荷重摩耗指数(荷重摩耗指数)は、42N以上であることが好ましく、45N以上であることがより好ましく、50N以上であることが特に好ましい。
【0030】
<<LNL(最大非焼付荷重)>>
潤滑油組成物のLNL(最大非焼付荷重)は、100N以上であることが好ましく、126N以上であることがより好ましい。
【0031】
WL(融着荷重)、LWI(荷重摩耗指数)、LNL(最大非焼付荷重)は、シェル式四球EP試験により、ASTM D 2783に準拠して測定される。
(試験条件)
回転数 :1760±40rpm
荷重 :規定のステップ荷重
(6kgf 8kgf 10kgf 13kgf 16kgf 20kgf 24kgf 32kgf 40kgf 50kgf 63kgf 80kgf 100kgf 126kgf 160kgf 200kgf 250kgf 315kgf 400kgf 500kgf 620kgf 800kgf)
温度 :室温(18.3~35.0℃)
時間 :約10秒
【0032】
LNL(最大非焼付荷重)は測定した摩耗痕径が、そのときの試験荷重における補償摩耗痕径(試験規格に記載)の105%を超えない最大試験荷重。
WL(融着荷重)は回転軸に固定した1個の試験鋼球が、固定球に融着する最低の荷重。
LWI(荷重摩耗指数)は加えられた荷重範囲における潤滑油の耐荷重能を示す指数。規定荷重を試料容器中に固定した3個の試験鋼球にかけて、融着を生じるまでに10回の試験を行い、以下に示す計算式より求める。
LWI=A/10
AはLNLとWLの間の試験の補正荷重の合計である。補正荷重は以下の計算式より求めることができる。
補正荷重=L・Dh/X
ここで、Lは試験荷重(kgf)、Dhはヘルツ直径(mm)、Xは平均摩耗痕径(mm)であるが、Dh/Xは試験荷重の値を用いてASTM D2783のTABLE 1のColumn4から求めることができる。
またAは、ISLとWLを用いてASTM D2783のTABLE 2から求めることもできる。
【0033】
<<<潤滑油組成物の製造方法>>>
潤滑油組成物は、公知の方法に従って製造することができ、各成分を適宜混合すればよく、その混合順序は特に限定されるものではない。添加剤は、複数種が混合されたパッケージ品として添加されてもよい。
【0034】
<<<潤滑油組成物の用途>>>
本発明に係る潤滑油組成物は、内燃機関用とする他にも、油圧作動油、工業用ギヤ油、軸受油、圧縮機油、しゅう動面油、熱媒体油、真空ポンプ油等、種々の用途に使用可能である。
【実施例0035】
<<<潤滑油組成物の製造>>>
以下の原料を、表に示す配合量(質量%)となるように配合し、各実施例及び各比較例に係る潤滑油組成物を製造した。
【0036】
<<基油>>
<基油A>
40℃動粘度:9.7mm/s、100℃動粘度:2.7mm/s、粘度指数:112、アニリン点:113.0℃
<基油B>
40℃動粘度:18.5mm/s、100℃動粘度:4.1mm/s、粘度指数:126、アニリン点:122.0℃
<基油C>
40℃動粘度:44.4mm/s、100℃動粘度:7.6mm/s、粘度指数:138、アニリン点:133.7℃
<基油D>
40℃動粘度:19.1mm/s、100℃動粘度:4.2mm/s、粘度指数:124、アニリン点:116.4℃
<基油E>
40℃動粘度:46.6mm/s、100℃動粘度:7.6mm/s、粘度指数:129、アニリン点:125.7℃
<<その他の成分>>
<パッケージ添加剤>
高度精製鉱物油、コハク酸イミド系分散剤、カルシウム系金属清浄剤、ZnDTP、アミン系酸化防止剤の混合物
<摩擦調整剤>
Sakuralube 165(MoDTC(Molybdenum Dithioc arbamate)、株式会社ADEKA製)
【0037】
<<<潤滑油組成物の物性/評価>>>
前述の方法に基づき、各潤滑油組成物の、動粘度(25℃、40℃、100℃)及び粘度指数、WL(融着荷重)、LWI(荷重摩耗指数)、LNL(最大非焼付荷重)を測定した。測定結果を表に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】