(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032287
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】低誘電性接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 153/02 20060101AFI20230302BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20230302BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230302BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20230302BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J11/08
C09J11/06
C09J7/35
H05K1/03 610L
H05K1/03 610J
H05K1/03 630H
H05K1/03 670
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138324
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】沖村 祐弥
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】平川 真
(72)【発明者】
【氏名】石原 稔久
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA06
4J004AA13
4J004AB05
4J004CA03
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC02
4J004FA05
4J004FA08
4J040DM011
4J040EC262
4J040GA07
4J040JA01
4J040JB02
4J040KA16
4J040KA29
4J040LA01
4J040LA02
4J040LA06
4J040LA09
4J040MA02
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】誘電性が低く、接着性が良好なだけでなく、湿熱はんだ耐熱性やレーザー加工性にも優れた低誘電性接着剤組成物を提供する。
【解決手段】スチレン系エラストマー(A)と、特定構造の脂環式骨格を含有する脂環式骨格含有樹脂(B)と、エポキシ樹脂(C)とを含有し、硬化物の誘電率が、2.5未満であることを特徴とする接着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマー(A)と、脂環式骨格含有樹脂(B)と、エポキシ樹脂(C)とを含有する接着剤組成物であって、
前記脂環式骨格含有樹脂(B)の重量平均分子量が67,000~70,000、ガラス転移温度が140~150℃、酸価が9.0~10.0mgKOH/gであり、
該脂環式骨格含有樹脂(B)が、環状ポリオレフィン(b)の不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸無水物による変性体である変性環状ポリオレフィンであり、
該環状ポリオレフィン(b)が、芳香族ビニルモノマーに由来するポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を3個と、共役ジエンモノマーに由来するポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を2個有し、環状ポリオレフィン(b)中の、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が62~68モル%、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が32~38モル%であり、
該接着剤組成物を硬化させた場合の硬化物の誘電率が2.5未満であることを特徴とする、接着剤組成物。
【請求項2】
前記スチレン系エラストマー(A)および前記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量の合計が、接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部以上であり、
前記エポキシ樹脂(C)の含有量が、前記スチレン系エラストマー(A)および前記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量の合計100質量部に対して1~20質量部である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記スチレン系エラストマー(A)と前記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量比が、質量比で[スチレン系エラストマー(A)]:[脂環式骨格含有樹脂(B)]=5:95~95:5である、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
周波数1GHzで測定した前記硬化物の誘電正接が、0.01未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマー(A)がカルボキシル基及び/又はその誘導体を含有し、該スチレン系エラストマーの酸価が、0.1~50mgKOH/gである請求項1~4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記スチレン系エラストマー(A)が、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレンプロピレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体、およびスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂(C)が、ジシクロペンタジエン骨格を含有する多官能のエポキシ樹脂である、請求項1~6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
温度85℃および湿度85%にて12時間加湿処理した後のはんだ耐熱性の温度が260℃以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
さらに、紫外線吸収剤を含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
フレキシブル銅張積層板用である、請求項1~9のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
フレキシブルフラットケーブル用である、請求項1~9のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いて得られた接着性層が、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、TPXフィルム、およびフッ素系樹脂フィルムより選択される1種のフィルムの少なくとも片面に形成されてなることを特徴とするカバーレイフィルム。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いて得られた接着性層が、離型性フィルムの少なくとも片面に形成されてなることを特徴とするボンディングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電性が低く、接着性が良好なだけでなく、湿熱はんだ耐熱性やレーザー加工性にも優れた低誘電性接着剤組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、電子部品等の接着用途、特に、フレキシブルプリント配線板(以下、「FPC」ともいう)の関連製品の製造に適した接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化等に伴い、電子部品等の接着用途は多様化し、接着剤層付き積層体の需要は増大している。例えば、電子部品の一つであるFPCの関連製品としては、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルム等に銅箔を貼り合わせたフレキシブル銅張積層板、フレキシブル銅張積層板に電子回路を形成したフレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板と補強板を貼り合せた補強板付きフレキシブルプリント配線板、フレキシブル銅張積層板およびフレキシブルプリント配線板を重ねて接合した多層板、基材フィルムに銅配線を貼り合わせたフレキシブルフラットケーブル(以下、「FFC」ともいう)等があり、これらの電子部品を製造する場合に接着剤層付き積層体が使用される。
【0003】
具体的には、上記FPCを製造する場合、配線部分を保護するために、通常、「カバーレイフィルム」と呼ばれる接着剤層付き積層体が用いられる。このカバーレイフィルムは、絶縁樹脂層と、その表面に形成された接着剤層とを備え、絶縁樹脂層の形成には、ポリイミド樹脂組成物が広く用いられている。そして、例えば、熱プレス等を利用して、配線部分を有する面に、接着剤層を介してカバーレイフィルムを貼り付けることにより、フレキシブルプリント配線板が製造される。このとき、カバーレイフィルムの接着剤層は、配線部分および基材フィルムの両方に対して、強固な接着性が必要である。また、近年需要が急速に拡大している携帯電話や、情報機器端末などの移動体通信機器においては、大量のデータを高速で処理する必要があるため、信号の高周波数化が進んでいる。信号速度の高速化と、信号の高周波数化に伴い、FPC関連製品に用いる接着剤には、高周波数領域での電気特性(低誘電率および低誘電正接)が求められている。
【0004】
このような電気特性の要求に応えるため、例えば、特許文献1には、オリゴフェニレンエーテルのようなビニル化合物、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック共重合体、エポキシ樹脂、および硬化触媒よりなるカバーレイフィルムが開示されている。また、特許文献2には、カルボキシル基含有スチレン系エラストマーとエポキシ樹脂とを含有し、このスチレン系エラストマーとエポキシ樹脂の含有量を所定範囲内とすることにより、周波数1GHzで測定した接着剤硬化物の誘電率を3.0未満とした接着剤組成物が開示されている。また、特許文献3には、未変性のポリオレフィン樹脂をα,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体を含む変性剤でグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂とエポキシ樹脂とを含有し、これら2つの樹脂の含有量を所定範囲内とすることにより、周波数1GHzで測定した接着剤硬化物の誘電率を2.5未満とした接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-68713号公報
【特許文献2】国際公開第2016/017473号公報
【特許文献3】国際公開第2016/047289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載された接着剤カバーレイフィルムは、低誘電性や接着性は比較的良いものの、湿熱はんだ耐熱性やレーザー加工性が悪いという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、誘電性が低く、接着性が良好なだけでなく、湿熱はんだ耐熱性やレーザー加工性にも優れた低誘電性接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、樹脂成分としてスチレン系エラストマー(A)と、特定構造の脂環式骨格を含有する脂環式骨格含有樹脂(B)と、エポキシ樹脂(C)とを含有する接着剤組成物を使用することにより、誘電性が低く、接着性が良好なだけでなく、湿熱はんだ耐熱性やレーザー加工性にも優れた接着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の各局面によれば、下記の接着剤組成物が提供される。
1.スチレン系エラストマー(A)と、脂環式骨格含有樹脂(B)と、エポキシ樹脂(C)とを含有する接着剤組成物であって、
前記脂環式骨格含有樹脂(B)の重量平均分子量が67,000~70,000、ガラス転移温度が140~150℃、酸価が9.0~10.0mgKOH/gであり、
該脂環式骨格含有樹脂(B)が、環状ポリオレフィン(b)の不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸無水物による変性体である変性環状ポリオレフィンであり、
該環状ポリオレフィン(b)が、芳香族ビニルモノマーに由来するポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を3個と、共役ジエンモノマーに由来するポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を2個有し、環状ポリオレフィン(b)中の、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が62~68モル%、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が32~38モル%であり、
該接着剤組成物を硬化させた場合の硬化物の誘電率が2.5未満であることを特徴とする、接着剤組成物。
2.前記スチレン系エラストマー(A)および前記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量の合計が、接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部以上であり、
前記エポキシ樹脂(C)の含有量が、前記スチレン系エラストマー(A)および前記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量の合計100質量部に対して1~20質量部である、上記1.に記載の接着剤組成物。
3.前記スチレン系エラストマー(A)と前記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量比が、質量比で[スチレン系エラストマー(A)]:[脂環式骨格含有樹脂(B)]=5:95~95:5である、上記1.又は2.に記載の接着剤組成物。
4.周波数1GHzで測定した前記硬化物の誘電正接が、0.01未満である、上記1.~3.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
5.前記スチレン系エラストマー(A)がカルボキシル基及び/又はその誘導体を含有し、該スチレン系エラストマーの酸価が、0.1~50mgKOH/gである上記1.~4.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
6.前記スチレン系エラストマー(A)が、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレンプロピレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体、およびスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である上記1.~5.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
7.前記エポキシ樹脂(C)が、ジシクロペンタジエン骨格を含有する多官能のエポキシ樹脂である、上記1.~6.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
8.温度85℃および湿度85%にて12時間加湿処理した後のはんだ耐熱性の温度が260℃以上である、上記1.~7.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
9.さらに、紫外線吸収剤を含有する、上記1.~8.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
10.フレキシブル銅張積層板用である、上記1.~9.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
11.フレキシブルフラットケーブル用である、上記1.~9.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
12.上記1.~9.のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いて得られた接着性層が、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、TPXフィルム、およびフッ素系樹脂フィルムより選択される1種のフィルムの少なくとも片面に形成されてなることを特徴とするカバーレイフィルム。
13.上記1.~9.のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いて得られた接着性層が、離型性フィルムの少なくとも片面に形成されてなることを特徴とするボンディングシート。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物は、樹脂成分としてスチレン系エラストマー(A)と、特定構造の脂環式骨格を含有する脂環式骨格含有樹脂(B)と、エポキシ樹脂(C)とを含有しているので、誘電性が低く、接着性が良好なだけでなく、湿熱はんだ耐熱性やレーザー加工性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
1.接着剤組成物
本発明の接着剤組成物は、スチレン系エラストマー(A)と、特定構造の脂環式骨格を含有する脂環式骨格含有樹脂(B)と、エポキシ樹脂(C)とを含有する接着剤組成物であって、硬化物の誘電率が、2.5未満であることを特徴とする。以下に本発明を特定する事項について、具体的に説明する。
【0013】
1-1.スチレン系エラストマー(A)
上記スチレン系エラストマー(A)は、接着剤組成物の主要な成分の1つであり、接着性や硬化物の柔軟性に加えて、電気特性を与える成分である。このスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロックおよびランダム構造を主体とする共重合体、ならびにその水素添加物が挙げられる。このスチレン系エラストマーは、酸変性してカルボキシル基及び/又はその誘導体を含有させることが好ましい。ここで、上記「その誘導体」には、2つのカルボキシル基から水分子を取り去って互い結合した酸無水物の形態の他、酸ハライド、アミド、イミド、エステル等のカルボキシル基から誘導されたその他の形態も包含されるが、好ましい誘導体は酸無水物である。なお、本明細書において、カルボキシル基及び/又はその誘導体を含有するスチレン系エラストマーを「酸変性されたスチレン系エラストマー」、「変性スチレン系エラストマー」又は「カルボキシル基含有スチレン系エラストマー」と称することもある。
芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p-第3ブチルスチレン等が挙げられる。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等を挙げることができる。なお、スチレン系エラストマー(A)は後で説明する脂環式骨格含有樹脂(B)及びエポキシ樹脂(C)を包含するものではない。
【0014】
スチレン系エラストマー(A)の酸変性は、例えば、スチレン系エラストマーを不飽和カルボン酸で変性することにより得ることができる。より具体的には、スチレン系エラストマーの重合時に、不飽和カルボン酸を共重合させることにより行うことができる。また、スチレン系エラストマーと不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うこともできる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等を挙げることができる。不飽和カルボン酸による変性量は、0.1~20質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましく、0.3~5質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
酸変性されたスチレン系エラストマー(A)の酸価は、0.1~50mgKOH/gであることが好ましく、0.1~20mgKOH/gであることがより好ましく、5~20mgKOH/gであることが更に好ましく、7~15mgKOH/gであることが特により好ましい。この酸価が0.1mgKOH/g以上であると、接着剤組成物の硬化が十分であり、良好な接着性、およびはんだ耐熱性が得られる。一方、前記酸価が50mgKOH/g以下であると、接着強さおよび電気特性に優れる。
【0016】
また、スチレン系エラストマー(A)の重量平均分子量は、1~50万であることが好ましく、3~30万であることがより好ましく、5~20万であることが更に好ましい。重量平均分子量が1~50万の範囲内であれば、優れた接着性および電気特性を発現することができる。なお、本明細書において、重量平均分子量とは、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう)により測定した分子量をポリスチレン換算した値である。
【0017】
スチレン系エラストマー(A)の具体例としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレンプロピレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体およびスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられ、変性スチレン系エラストマー(A)の具体例としては、これらのブロック共重合体を不飽和カルボン酸で酸変性されたものが挙げられる。これらの各種スチレン系エラストマーは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、変性スチレン系エラストマー(A)と未変性のスチレン系エラストマー(A)を併用してもよい。前記共重合体の中でも、接着性および電気特性の観点から、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体およびスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体が好ましい。また、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体におけるスチレン/エチレンブチレンの質量比、およびスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体におけるスチレン/エチレンプロピレンの質量比は、10/90~50/50であることが好ましく、20/80~40/60であることがより好ましい。当該質量比がこの範囲内であれば、優れた接着特性を有する接着剤組成物とすることができる。
【0018】
スチレン系エラストマー(A)と脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量の合計は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましい。この含有量が50質量部以上であると、接着剤層の柔軟性が良好となり、積層体に反りが生じるのを抑制できる。なお、スチレン系エラストマー(A)と脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量の合計は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して99質量部以下であることが好ましい。
また、スチレン系エラストマー(A)と脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量比は、質量比で[スチレン系エラストマー(A)]:[脂環式骨格含有樹脂(B)]=5:95~95:5であることが好ましく、[スチレン系エラストマー(A)]:[脂環式骨格含有樹脂(B)]=10:90~90:10であることがより好ましい。含有量比がこの範囲にあると、湿熱はんだ耐熱性の高い改善効果が得られる。
【0019】
1-2.脂環式骨格含有樹脂(B)
脂環式骨格含有樹脂(B)は特定構造の脂環式骨格を含有する樹脂である。脂環式骨格含有樹脂(B)は、環状ポリオレフィン(b)の不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸無水物による変性体である、変性脂環式骨格含有樹脂である。
【0020】
<環状ポリオレフィン(b)>
脂環式骨格含有樹脂(B)の原料となる環状ポリオレフィン(b)は、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
そして、該環状ポリオレフィン(b)は、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を3個と、水素化共役ジエンポリマーブロック単位を2個有する。
【0021】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0022】
【化1】
ここでRは水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
前記アルキル基はハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換又は多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は1~6がよい。
また、前記のArは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0024】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンからなる単位が挙げられ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンからなる単位が挙げられる。
そして、環状ポリオレフィン(b)の好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化ペンタブロックコポリマーが挙げられ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0025】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(b)に対して62~68モル%であり、好ましくは64~66モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が上記下限値未満であると剛性が低下するおそれがある。また、上記上限値を超えると脆性が悪化するおそれがある。
【0026】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(b)に対して32~38モル%であり、好ましくは34~36モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が上記下限値未満であると脆性が悪化するおそれがある。また、上記上限値を超えると剛性が低下するおそれがある。
【0027】
本発明の環状ポリオレフィン(b)はSBSBS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、BはポリブタジエンそしてIはポリイソプレンを意味する。)のようなペンタブロックコポリマーの水素化によって製造される。
本発明の環状ポリオレフィン(b)はそれぞれの末端及び中央部に水素化芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含むため、3個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有する。そして、この3個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間に、2つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
【0028】
環状ポリオレフィン(b)の水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上であり、より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上であり、更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上であり、特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
このように高レベルの水素化は、硬化物の誘電率を低減させるために好ましい。
尚、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。
【0029】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルと水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0030】
本発明の環状ポリオレフィン(b)としては、市販のものを用いることができる。具体的には三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)CPシリーズが挙げられる。
【0031】
<脂環式骨格含有樹脂(B)>
脂環式骨格含有樹脂(B)は、上記環状ポリオレフィン(b)の不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸無水物による変性体である。
【0032】
脂環式骨格含有樹脂(B)は、環状ポリオレフィン(b)に由来する部分と、変性剤に由来するグラフト部分とを有する樹脂であり、好ましくは、環状ポリオレフィン(b)の存在下に変性剤をグラフト重合することにより得ることができる。グラフト重合による脂環式骨格含有樹脂(B)の製造は、公知の方法で行うことが可能であり、製造の際にはラジカル開始剤を用いてもよい。
ここで変性剤とは、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸無水物である。
【0033】
脂環式骨格含有樹脂(B)の製造方法としては、例えば、環状ポリオレフィン(b)をトルエン等の溶剤に加熱溶解し、変性剤及びラジカル開始剤を添加する溶液法や、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を使用して環状ポリオレフィン(b)、変性剤及びラジカル開始剤を溶融混練する溶融法が挙げられる。環状ポリオレフィン(b)、変性剤及びラジカル開始剤の使用方法は、特に限定されず、これらを反応系に一括添加しても、逐次添加してもよい。脂環式骨格含有樹脂(B)を製造する場合には、変性剤のグラフト効率を向上させるための変性助剤、樹脂安定性の調整のための安定剤等を更に使用することができる。
【0034】
不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、アコニット酸、ノルボルネンジカルボン酸が挙げられる。
また、不飽和カルボン酸無水物としては、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水アコニット酸、無水シトラコン酸が挙げられる。
これらの内では、無水マレイン酸が、接着性の点で特に好ましい。
【0035】
変性剤を用いる場合、不飽和カルボン酸及び不飽和カルボン酸無水物から選ばれる1種以上であればよく、不飽和カルボン酸1種以上と不飽和カルボン酸無水物1種以上の組み合わせ、不飽和カルボン酸2種以上の組み合わせ、または、不飽和カルボン酸無水物2種以上の組み合わせとすることができる。
【0036】
上記のラジカル開始剤は公知のものから適宜選択できるが、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0037】
上記の変性助剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、ヘキサジエン、ジシクロペンタジエンが挙げられる。
上記の安定剤としては、例えば、ヒドロキノン、ベンゾキノン、ニトロソフェニルヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0038】
脂環式骨格含有樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)の下限値は、67,000以上であり、好ましくは68,000以上である。また、Mwの上限値は、70,000以下であり、好ましくは69,000以下である。
Mwが上記下限値未満であると機械強度が低下するおそれがある。また、上記上限値を超えると成形加工性が悪化するおそれがある。
【0039】
本明細書のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて決定される。
【0040】
脂環式骨格含有樹脂(B)の酸価は、9.0~10.0mgKOH/gであり、好ましくは9.2~9.8mgKOH/gである。酸価がこの範囲にあると、接着剤組成物が十分に硬化し、良好な接着性、湿熱はんだ耐熱性が得られる。
【0041】
脂環式骨格含有樹脂(B)のガラス転移温度は、140~150℃であり、好ましくは142~148℃である。ガラス転移温度がこの範囲にあると、湿熱はんだ耐熱性が向上する。
【0042】
本発明の脂環式骨格含有樹脂(B)は樹脂単体で熱可塑性を示し、非晶性であるものが挙げられる。脂環式骨格含有樹脂(B)は後で説明するエポキシ樹脂(C)を包含するものではない。
【0043】
本発明の脂環式骨格含有樹脂(B)としては、市販のものを用いることができる。具体的には三菱ケミカル(株)製:テファブロック(商標登録)MC940APが挙げられる。
【0044】
本発明における脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量は、スチレン系エラストマー(A)について上記したとおりである。
【0045】
1-3.エポキシ樹脂(C)
次に、上記接着剤組成物のもう一つの成分であるエポキシ樹脂(C)について説明する。エポキシ樹脂は(C)は、上記カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)および/または上記脂環式骨格含有樹脂(B)中のカルボキシ基と反応し、被着体に対する高い接着性や、接着剤硬化物の耐熱性を発現させる成分である。
【0046】
エポキシ樹脂(C)の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、またはそれらに水素添加したもの;オルトフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p-ヒドロキシ安息香酸グリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、テトラフェニルグリシジルエーテルエタン、トリフェニルグリシジルエーテルエタン、ソルビトールのポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールのポリグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定するものではない。また、フェノールノボラックエポキシ樹脂、o-クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂も用いることができる。
【0047】
更に、エポキシ樹脂(C)の例として臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ターシャリーブチルカテコール型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等を用いることができる。これらのエポキシ樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記エポキシ樹脂の中でも、グリシジルアミノ基を有しないエポキシ樹脂が好ましい。接着剤層付き積層体の貯蔵安定性が向上するからである。また、電気特性に優れた接着剤組成物が得られることから、脂環骨格を有するエポキシ樹脂が好ましく、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂がより好ましい。
【0048】
本発明に用いるエポキシ樹脂としては、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)および/または脂環式骨格含有樹脂(B)との反応で架橋構造を形成し、高い耐熱性を発現させることができるからである。また、エポキシ基が2個以上のエポキシ樹脂を用いた場合、カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)および/または脂環式骨格含有樹脂(B)との架橋度が十分であり、十分な耐熱性が得られる。したがって、特に好ましいエポキシ樹脂は、ジシクロペンタジエン骨格を有する多官能のエポキシ樹脂である。
【0049】
上記エポキシ樹脂(C)の含有量は、上記スチレン系エラストマー(A)および上記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量の合計100質量部に対して1~20質量部であることが好ましい。前記含有量は、3~15質量部であることがより好ましい。この含有量が上記範囲内であると、十分な接着性と耐熱性が得られ、はく離接着強さや電気特性の低下も防止される。
【0050】
1-4.接着剤組成物の電気特性
本発明に係る接着剤組成物は、スチレン系エラストマー(A)、脂環式骨格含有樹脂(B)およびエポキシ樹脂(C)を含有し、周波数1GHzで測定した接着剤硬化物の誘電率(ε)が2.5未満であることを特徴としている。当該誘電率が2.5未満であれば、FPC関連製品への利用に好適である。また、周波数1GHzで測定した接着剤硬化物の誘電正接(tanδ)が、0.01未満であることが好ましい。当該誘電正接が0.01未満であれば、電気特性に優れるFPC関連製品を製造することができる。誘電率および誘電正接は、接着剤組成物中のスチレン系エラストマー(A)、前記脂環式骨格含有樹脂(B)およびエポキシ樹脂(C)の割合に応じて調整できるので、用途に応じて、種々の構成の接着剤組成物を設定することができる。なお、誘電率および誘電正接の測定方法は後述する。
【0051】
1-5.接着剤組成物の湿熱はんだ耐熱性
本発明に係る接着剤組成物は、スチレン系エラストマー(A)、脂環式骨格含有樹脂(B)およびエポキシ樹脂(C)を含有し、スチレン系エラストマー(A)および前記脂環式骨格含有樹脂(B)の少なくとも一方がカルボキシル基及び/又はその誘導体を含有するため、温度85℃および湿度85%にて12時間加湿処理した後のはんだ耐熱性の温度を高めることができ、好ましくは240℃以上にすることができる。スチレン系エラストマー(A)または前記脂環式骨格含有樹脂(B)の両方がカルボキシル基及び/又はその誘導体を含有する場合は、上記はんだ耐熱性の温度をより高めることができ、特に、スチレン系エラストマー(A)と前記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量比[スチレン系エラストマー(A)]:[脂環式骨格含有樹脂(B)]を5:95~95:5とした場合は、上記はんだ耐熱性の温度を240℃以上にすることができる。
【0052】
1-6.その他の成分
上記接着剤組成物には、スチレン系エラストマー(A)、脂環式骨格含有樹脂(B)およびエポキシ樹脂(C)に加えて、スチレン系エラストマー(A)および前記脂環式骨格含有樹脂(B)以外の他の熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、粘着付与剤、難燃剤、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、熱老化防止剤、レベリング剤、消泡剤、無機充填剤、顔料、および溶媒等を、接着剤組成物の機能に影響を与えない程度に含有することができる。
【0053】
上記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂およびポリビニル系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記粘着付与剤としては、例えば、クマロン-インデン樹脂、テルペン樹脂、テルペン-フェノール樹脂、ロジン樹脂、p-t-ブチルフェノール-アセチレン樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂、石油系炭化水素樹脂、水素添加炭化水素樹脂、テレピン系樹脂等を挙げることができる。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
上記難燃剤は、有機系難燃剤および無機系難燃剤のいずれでもよい。有機系難燃剤としては、例えば、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニジン、ポリリン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸アミドアンモニウム、ポリリン酸アミドアンモニウム、リン酸カルバメート、ポリリン酸カルバメート、トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスメチルエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ビスジエチルホスフィン酸亜鉛、ビスメチルエチルホスフィン酸亜鉛、ビスジフェニルホスフィン酸亜鉛、ビスジエチルホスフィン酸チタニル、テトラキスジエチルホスフィン酸チタン、ビスメチルエチルホスフィン酸チタニル、テトラキスメチルエチルホスフィン酸チタン、ビスジフェニルホスフィン酸チタニル、テトラキスジフェニルホスフィン酸チタン等のリン系難燃剤;メラミン、メラム、メラミンシアヌレート等のトリアジン系化合物や、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、トリアゾール系化合物、テトラゾール化合物、ジアゾ化合物、尿素等の窒素系難燃剤;シリコーン化合物、シラン化合物等のケイ素系難燃剤等が挙げられる。また、無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化ニッケル等の金属酸化物;炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、ホウ酸亜鉛、水和ガラス等が挙げられる。これらの難燃剤は、2種以上を併用することができる。
【0056】
上記硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。アミン系硬化剤としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のメラミン樹脂、ジシアンジアミド、4,4’-ジフェニルジアミノスルホン等が挙げられる。また、酸無水物としては、芳香族系酸無水物、および脂肪族系酸無水物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、5~70質量部であることがより好ましい。
【0057】
上記硬化促進剤は、カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)および/または脂環式骨格含有樹脂(B)とエポキシ樹脂との反応を促進させる目的で使用するものであり、第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤およびイミダゾール系硬化促進剤等を使用することができる。
【0058】
第三級アミン系硬化促進剤としては、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、テトラメチルグアニジン、トリエタノールアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン等が挙げられる。
【0059】
第三級アミン塩系硬化促進剤としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセンの、ギ酸塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、o-フタル酸塩、フェノール塩またはフェノールノボラック樹脂塩や、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネンの、ギ酸塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、o-フタル酸塩、フェノール塩またはフェノールノボラック樹脂塩等が挙げられる。
【0060】
イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
接着剤組成物が硬化促進剤を含有する場合、硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、0.5~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。硬化促進剤の含有量が前記範囲内であれば、優れた接着性および耐熱性を有する。
【0062】
また、上記カップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプ
ロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトシキシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イミダゾールシラン等のシラン系カップリング剤;チタネート系カップリング剤;アルミネート系カップリング剤;ジルコニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
上記熱老化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノ-ル系酸化防止剤;ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-ジチオプロピオネート等のイオウ系酸化防止剤;トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記熱老化防止剤の含有量は、上記スチレン系エラストマー(A)および上記脂環式骨格含有樹脂(B)の含有量の合計100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。この含有量が上記範囲内であることにより、電気特性および耐熱性を向上させることができる。
【0064】
上記無機充填剤としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、カーボンブラック、シリカ、タルク、銅、および銀等からなる粉体が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
上記接着剤組成物は、スチレン系エラストマー(A)、脂環式骨格含有樹脂(B)、エポキシ樹脂(C)(但しスチレン系エラストマー(A)および前記脂環式骨格含有樹脂(B)およびその他成分を混合することにより製造することができる。混合方法は特に限定されず、接着剤組成物が均一になればよい。接着剤組成物は、溶液または分散液の状態で好ましく用いられることから、通常は、溶媒も使用される。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。接着剤組成物が溶媒を含む溶液または分散液(樹脂ワニス)であると、基材フィルムへの塗工および接着剤層の形成を円滑に行うことができ、所望の厚さの接着剤層を容易に得ることができる。
【0066】
接着剤組成物が溶媒を含む場合、接着剤層の形成を含む作業性等の観点から、固形分濃度は、好ましくは3~80質量%、より好ましくは10~50質量%の範囲である。固形分濃度が80質量%以下であると、溶液の粘度が適度であり、均一に塗工し易い。
【0067】
2.接着剤層付き積層体
本発明によれば、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層と、該接着剤層の少なくとも一方の面に接する基材フィルムとを備えた接着剤層付き積層体が得られ、前記接着剤層がBステージ状であることが好ましい。ここで、接着剤層がBステージ状であるとは、接着剤組成物の一部が硬化し始めた半硬化状態をいい、加熱等により、接着剤組成物の硬化が更に進行する状態をいう。
【0068】
本発明の接着剤組成物を用いて得られる接着剤層付き積層体の一態様として、カバーレイフィルムが挙げられる。カバーレイフィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の表面に接着剤層が形成されているものであり、基材フィルムと接着剤層のはく離が困難な積層体である。
【0069】
接着剤層付き積層体がカバーレイフィルムの場合の基材フィルムとしては、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、TPXフィルム、およびフッ素系樹脂フィルム等が挙げられる。これらの中でも、接着性および電気特性の観点から、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、および液晶ポリマーフィルムが好ましく、ポリイミドフィルムおよび液晶ポリマーフィルムがさらに好ましい。
【0070】
このような基材フィルムは市販されており、ポリイミドフィルムについては、東レ・デュポン(株)製「カプトン(登録商標)」、東洋紡績(株)製「ゼノマックス(登録商標)」、宇部興産(株)製「ユーピレックス(登録商標)-S」、(株)カネカ製「アピカル(登録商標)」等を使用することができる。また、ポリエチレンナフタレートフィルムについては、帝人デュポンフィルム(株)製「テオネックス(登録商標)」等を用いることができる。更に、液晶ポリマーフィルムについては、(株)クラレ製「ベクスター(登録商標)」、(株)プライマテック製「バイアック(登録商標)」等を用いることができる。基材フィルムは、該当する樹脂を所望の厚さにフィルム化して用いることもできる。
【0071】
カバーレイフィルムを製造する方法としては、例えば、上記接着剤組成物および溶媒を含有する樹脂ワニスを、ポリイミドフィルム等の基材フィルムの表面に塗布して樹脂ワニス層を形成した後、該樹脂ワニス層から前記溶媒を除去することにより、Bステージ状の接着剤層が形成されたカバーレイフィルムを製造することができる。
前記溶媒を除去するときの乾燥温度は、40~250℃であることが好ましく、70~170℃であることがより好ましい。乾燥温度が40℃以上であることにより、溶剤の残存による電気特性の悪化を防止し易くなり、250℃以下であることにより、Bステージ状の接着剤層を得易くなる。乾燥は、接着剤組成物が塗布された積層体を、熱風乾燥、遠赤外線加熱、および高周波誘導加熱等がなされる炉の中を通過させることにより行われる。
なお、必要に応じて、接着剤層の表面には、保管等のため、離型性フィルムを積層してもよい。前記離型性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、シリコーン離型処理紙、ポリオレフィン樹脂コート紙、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、フッ素系樹脂フィルム等の公知のものが用いられる。
【0072】
接着剤層付き積層体の別の態様としては、ボンディングシートが挙げられる。ボンディングシートも、基材フィルムの少なくとも一方の表面に上記接着剤層が形成されたものであるが、基材フィルムは離型性フィルムが用いられる。また、ボンディングシートは、2枚の離型性フィルムの間に接着剤層を備える態様であってもよい。ボンディングシートを使用するときに、離型性フィルムをはく離して使用する。離型性フィルムは、上記と同様なものを用いることができる。
【0073】
このような離型性フィルムも市販されており、東レフィルム加工(株)製「ルミラー(登録商標)」、東洋紡績(株)製「東洋紡エステル(登録商標)フィルム」、旭硝子(株)製「アフレックス(登録商標)」、三井化学東セロ(株)製「オピュラン(登録商標)」等を用いることができる。
【0074】
ボンディングシートを製造する方法としては、例えば、離型性フィルムの表面に上記接着剤組成物および溶媒を含有する樹脂ワニスを塗布し、上記カバーレイフィルムの場合と同様にして乾燥する方法がある。
【0075】
基材フィルムの厚さは、接着剤層付き積層体を薄膜化するため、5~100μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましく、5~30μmであることが更に好ましい。
【0076】
Bステージ状の接着剤層の厚さは、5~100μmであることが好ましく、10~70μmであることがより好ましく、10~50μmであることが更に好ましい。
上記基材フィルムおよび接着剤層の厚さは用途により選択されるが、電気特性を向上させるために基材フィルムはより薄くなる傾向にある。一般的に基材フィルムの厚さが薄く、接着剤層の厚さが厚くなると、接着剤層付き積層体に反りが生じやすくなり、作業性が低下するが、本発明の接着剤層付き積層体は、基材フィルムの厚さが薄く、接着剤層の厚さが厚い場合でも、積層体の反りがほとんど生じない。本発明の接着剤層付き積層体において、接着剤層の厚さ(A)と、基材フィルムの厚さ(B)との比(A/B)は、1以上、10以下であることが好ましく、1以上、5以下であることがより好ましい。更に、接着剤層の厚さが、基材フィルムの厚さより厚いことが好ましい。
【0077】
接着剤層付き積層体の反りは、FPC関連製品の製造工程における作業性に影響するため、できるだけ少ない方が好ましい。具体的には、正方形状の接着剤層付き積層体を、接着剤層を上にして水平面上に載置したときに、前記積層体の端部の浮き上がり高さ(H)と、前記積層体の一辺の長さ(L)との比(H/L)が、0.05未満であることが好ましい。この比は、0.04未満であることがより好ましく、0.03未満であることが更に好ましい。当該比(H/L)が、0.05未満であると、積層体が反ったり、カールしたりすることをより抑制できるため、作業性に優れる。
また、上記H/Lの下限値は、Hが0である場合、すなわち0である。
【0078】
上記積層体の接着剤層を硬化させた後、周波数1GHzで測定した接着剤層付き積層体の誘電率(ε)が3.0未満であり、かつ、該誘電正接(tanδ)が0.01未満であることが好ましい。前記誘電率は、2.9以下であることがより好ましく、誘電正接は、0.005以下であることがより好ましい。誘電率が3.0未満であり、かつ、誘電正接が0.01未満であれば、電気特性の要求が厳しいFPC関連製品にも好適に用いることができる。誘電率および誘電正接は、接着剤成分の種類および含有量、ならびに基材フィルムの種類等により調整できるので、用途に応じて種々の構成の積層体を設定することができる。
また、上記積層体の接着剤層を硬化させた後、周波数1GHzで測定した接着剤層付き積層体の誘電率(ε)が2.2以上であり、かつ、該誘電正接(tanδ)が0以上であることが好ましい。
【0079】
3.フレキシブル銅張積層板
本発明によれば、フレキシブル銅張積層板は、上記接着剤層付き積層体を用いて、基材フィルムと銅箔とを貼り合わせることにより得られる。即ち、得られたフレキシブル銅張積層板は、基材フィルム、接着層および銅箔の順に構成される。なお、接着層および銅箔は、基材フィルムの両面に形成されていてもよい。本発明の接着剤組成物は、銅を含む物品との接着性に優れるので、本発明により得られるフレキシブル銅張積層板は、一体化物として安定性に優れる。
【0080】
上記フレキシブル銅張積層板を製造する方法としては、例えば、上記積層体の接着剤層と銅箔とを面接触させ、80℃~150℃で熱ラミネートを行い、更にアフターキュアにより接着剤層を硬化する方法がある。アフターキュアの条件は、例えば、100℃~200℃、30分~4時間とすることができる。なお、前記銅箔は、特に限定されず、電解銅箔、圧延銅箔等を用いることができる。
【0081】
4.フレキシブルフラットケーブル(FFC)
本発明によれば、上記接着剤層付き積層体を用いて、基材フィルムと銅配線とを貼り合わせることにより、フレキシブルフラットケーブルが得られる。即ち、得られたフレキシブルフラットケーブルは、基材フィルム、接着層および銅配線の順に構成されたものである。なお、接着層および銅配線は、基材フィルムの両面に形成されていてもよい。本発明の接着剤組成物は、銅を含む物品との接着性に優れるので、本発明により得られるフレキシブルフラットケーブルは、一体化物として安定性に優れる。
【0082】
上記フレキシブルフラットケーブルを製造する方法としては、例えば、上記積層体の接着剤層と銅配線とを接触させ、80℃~150℃で熱ラミネートを行い、更にアフターキュアにより接着剤層を硬化する方法がある。アフターキュアの条件は、例えば、100℃~200℃、30分~4時間とすることができる。上記銅配線の形状は、特に限定されず、所望に応じ、適宜形状等を選択すればよい。
【実施例0083】
本発明を、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、下記において、部および%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0084】
1.評価方法
(1)重量平均分子量
下記の条件で、GPC測定を行い、スチレン系エラストマー(A)および脂環式骨格含有樹脂(B)のMwを求めた。Mwは、GPCにより測定したリテンションタイムを標準ポリスチレンのリテンションタイムを基準にして換算した。
・装置:東ソー(株)製 GPC HLC-832GPC/HT
・検出器:MIRAN社製 1A赤外分光光度計(測定波長、3.42μm)
・カラム:昭和電工(株)製:AD806M/S 3本(カラムの較正は東ソー製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/ml溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。
・測定温度:135℃
・濃度 :20mg/10mL
・注入量:0.2ml
・溶媒 :o-ジクロロベンゼン
・流速 :1.0ml/分
【0085】
(2)酸価
スチレン系エラストマー(A)または脂環式骨格含有樹脂(B)0.5g程度を秤量し、キシレン溶媒70ml投入後、60℃にて30min攪拌し完全に溶解させ、室温に放冷後(析出物無し)、指示薬滴定を行った。指示薬は、水酸化ナトリウム(NaOH)ベンジルアルコールを使用し、結果は水酸化カリウム(KOH)当量(分子量56.11をかけた値)として算出した(水酸化カリウムはベンジルアルコールに溶解しないため)。
【0086】
(3)ガラス転移温度
厚さ38μmの離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、その一方の表面に、脂環式骨格含有樹脂(B)の有機溶剤溶液を、ロ-ル塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させて厚さ25μmの被膜を形成し、ボンディングシートを得た。次に、得られた積層フィルムからPETフィルムを剥がして、これをガラス転移温度測定用の試験片とした。この試験片を、動的粘弾性測定装置「EXSTAR DMS6100」(エスアイアイ・ナノテクノロジー製)により、昇温速度2℃/min、周波数1Hzの条件にて、引張モードで測定に供した。得られた曲線の損失正接の最大値をガラス転移温度(Tg)とした。
【0087】
(4)はく離接着強さ
厚さ38μmの離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、その一方の表面に、表1に記載の液状接着剤組成物を、ロ-ル塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させて厚さ25μmの被膜(接着性層)を形成し、ボンディングシートを得た。次に、厚さ62μmの片面銅張積層板(LCPフィルム50μm、圧延銅箔12μm)を用意し、LCP表面と前記ボンディングシートの接着剤層とを面接触するように重ね合わせ、温度150℃、圧力0.4MPa、および速度0.5m/分の条件でラミネ-トを行い、接着剤層付き片面銅張積層板を得た。その後、厚さ35μmの圧延銅箔と、接着剤層付き片面銅張積層板の接着剤層とを面接触するように重ね合わせ、温度150℃、圧力0.4MPa、および速度0.5m/分の条件でラミネ-トを行った。次いで、この積層体(片面銅張積層板/接着剤層/銅箔)を温度180℃、および圧力3MPaの条件で30分間加熱圧着し、フレキシブル銅張積層板Aを得た。このフレキシブル銅張積層板Aを切断して、所定の大きさの接着試験片を作製した。
接着性を評価するために、JIS C 6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、温度23℃および引張速度50mm/分の条件で、各接着試験片の銅箔をLCPフィルムから剥がすときの90゜はく離接着強さ(N/mm)を測定した。測定時の接着試験片の幅は10mmとした。
【0088】
(5)はんだ耐熱性
JIS C 6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、次の条件で試験を行った。フレキシブル銅張積層板Aを20mm角に裁断し試験片を作製した。その後、試験片について85℃、85%、12hrの湿熱負荷処理を行った。その後、リフローシミュレーターに片面銅張積層板の面を上にして試験片を投入し、接着試験片表面の発泡が見られる温度を観察した。
<評価基準>
○:260℃以上
△:240~260℃
×:240℃以下
【0089】
(6)レーザー加工性
フレキシブル銅張積層板Aについて、ESI社製UV-YAGレーザー Model5335を使用し、銅張積層板から接着剤層と圧延銅箔の境界までビア加工を行った。その後、ビア部の断面を光学顕微鏡にて観察し、接着剤層のケズレ長さを測定した。
<評価基準>
○:ケズレ長さ10μm以下
×:ケズレ長さ10μm以上
【0090】
(7)電気特性(誘電率および誘電正接)
厚さ38μmの離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、その一方の表面に、表1に記載の液状接着剤組成物を、ロ-ル塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させて厚さ50μmの被膜(接着性層)を形成し、ボンディングシートを得た。次に、このボンディングシートをオーブン内に静置して、180℃、30min加熱処理をした。その後、前記離型フィルムを剥がして、試験片(150×120mm)を作製した。誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)は、ネットワークアナライザー85071E-300(アジレント社製)を使用し、スプリットポスト誘電体共振器法(SPDR法)で、温度23℃、周波数1GHzの条件で測定した。
【0091】
2.エラストマー
(1)スチレン系エラストマーa1
旭化成ケミカルズ社製の商品名「タフテックM1913」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は10mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は15万である。
【0092】
(2)スチレン系エラストマーa2
旭化成ケミカルズ社製の商品名「タフテックH1041」(スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は0mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は15万である。
(3)オレフィン系エラストマー
メタロセン触媒を重合触媒として製造した、プロピレン単位97モル%およびエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸1.0質量部、メタクリル酸ラウリル0.5質量部およびジ-t-ブチルパーオキサイド0.8質量部を、シリンダー部の最高温度を170℃に設定した二軸押出機を用いて混練反応した。その後、押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去して、変性オレフィン系エラストマーを製造した。この変性オレフィン系エラストマーは、重量平均分子量が15万、酸価が10mgKOH/gであった。
【0093】
3.脂環式骨格含有樹脂
(1)脂環式骨格含有樹脂B
三菱ケミカル社製の商品名「テファブロックMC940AP」を用いた。この脂環式骨格含有樹脂のMwは68,000であり、ガラス転位温度は146℃であり、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を3個と、水素化共役ジエンポリマーブロック単位を2個有し、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が65モル%、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が35モル%であり、酸価は9.6mgKOH/gであった。
【0094】
4.その他接着剤組成物の原料
4-1.エポキシ樹脂
(1)エポキシ樹脂c1
DIC社製 商品名「EPICLON HP-7200」(ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂)を用いた。
(2)エポキシ樹脂c2
DIC社製 商品名「EPICLON N-655EXP」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)を用いた。
【0095】
4-2.添加剤
(1)硬化促進剤
四国化成社製 商品名「キュアゾールC11-Z」(イミダゾール系硬化促進剤)を用いた。
(2)熱老化防止剤
ADEKA製 商品名「アデカスタブ AO-60」を用いた。
(3)紫外線吸収剤
BASF製 商品名「Uvinul3049」を用いた。
【0096】
4-3.有機溶剤
メチルシクロヘキサン150質量部、トルエン200質量部、およびメチルエチルケトン50質量部を混合して用いた。
【0097】
5.接着剤組成物の製造
撹拌装置付き1000mlフラスコに、上記の原料を表1に示す割合で添加し、室温下で6時間撹拌して溶解することにより、液状接着剤組成物を調製し評価した。結果を表1に示す。
【0098】
6.接着剤層付き積層体の製造および評価
上記接着剤組成物を用いて、接着剤層付き積層体を製造し評価した。結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
上記表1の結果より、実施例1~8の接着剤組成物は、接着性、湿熱はんだ耐熱性、および電気特性に優れたものであることが分かる。また、実施例1と実施例8との対比から、紫外線吸収剤を含有する場合、レーザー穴あけ加工性にも優れることが分かる。一方、比較例1のように、接着剤組成物が脂環式骨格含有樹脂(B)を含有しない場合には、湿熱はんだ耐熱性が劣る。また、比較例2のように、接着剤組成物がスチレン系エラストマー(A)を含有しない場合には、接着性および湿熱はんだ耐熱性が劣る。また、比較例3のように、接着剤組成物がエポキシ樹脂(C)を含有しない場合には、湿熱はんだ耐熱性が劣る。また、比較例4のように、接着剤組成物がスチレン系エラストマー(A)および脂環式骨格含有樹脂(B)の代わりにカルボキシル基を含有するオレフィン系エラストマーを含有する場合には、接着性は向上するが、湿熱はんだ耐熱性が劣る。