(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003229
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】フッ素樹脂コーティング構造体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20221228BHJP
B32B 3/02 20060101ALI20221228BHJP
B32B 1/02 20060101ALI20221228BHJP
A47J 36/02 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B3/02
B32B1/02
A47J36/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104283
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】東邦化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳志子
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
(72)【発明者】
【氏名】白石 麻佑子
【テーマコード(参考)】
4B055
4F100
【Fターム(参考)】
4B055AA01
4B055BA14
4B055CA01
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4B055FB36
4F100AB10A
4F100AK01B
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4F100EH46B
4F100EH46C
(57)【要約】
【課題】高温・高湿等の過酷な条件で使用され、強い衝撃力が加わっても、フッ素樹脂が剥離し難いフッ素樹脂コーティング構造体を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂コーティング構造体であって、底部、該底部から延在する側壁部、および該側壁部の上端から外周方向に延在するフランジ部を有する容器状基材と、前記底部および前記側壁部の内表面を被覆する第1コーティング層と、前記第1コーティング層を被覆し、かつ、フッ素樹脂を含む第2コーティング層とを含み、前記第1コーティング層が、前記第2コーティング層の被覆領域の全周から露出している、フッ素樹脂コーティング構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂コーティング構造体であって、
底部、該底部から延在する側壁部、および該側壁部の上端から外周方向に延在するフランジ部を有する容器状基材と、
前記底部および前記側壁部の内表面を被覆する第1コーティング層と、
前記第1コーティング層を被覆し、かつ、フッ素樹脂を含む第2コーティング層と
を含み、前記第1コーティング層が、前記第2コーティング層の被覆領域の全周から露出している、フッ素樹脂コーティング構造体。
【請求項2】
前記第2コーティング層の上端が、前記フランジ部の上面より下側に位置する、請求項1に記載のフッ素樹脂コーティング構造体。
【請求項3】
前記第1コーティング層が、前記フランジ部の上面のうち、少なくとも前記側壁部の内表面に隣接した領域を更に被覆する、請求項1または2に記載のフッ素樹脂コーティング構造体。
【請求項4】
前記フランジ部の上面において、前記第1コーティング層で被覆された領域と、前記第1コーティング層から露出した領域とが存在する、請求項1~3のいずれかに記載のフッ素樹脂コーティング構造体。
【請求項5】
前記第1コーティング層が、エンジニアリングプラスチックを含む、請求項1~4のいずれかに記載のフッ素樹脂コーティング構造体。
【請求項6】
前記エンジニアリングプラスチックが、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載のフッ素樹脂コーティング構造体。
【請求項7】
前記第1コーティング層が、フッ素樹脂を更に含む、請求項5または6に記載のフッ素樹脂コーティング構造体。
【請求項8】
前記第1コーティング層が、2層以上の積層構造を有する、請求項1~7のいずれかに記載のフッ素樹脂コーティング構造体。
【請求項9】
業務用調理器具である、請求項1~8のいずれかに記載のフッ素樹脂コーティング構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂コーティング構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂コーティングは、フッ素樹脂に由来する離型性、滑り性、安定性などを利用して、調理器具などに広範に使用されている。フッ素樹脂コーティングが施された構造体(本明細書において「フッ素樹脂コーティング構造体」と言う)として、従来、炊飯窯が知られている。炊飯窯では、米飯の付着防止等のため、容器状の基材の内表面にフッ素樹脂コーティングが施されている(特許文献1~2参照)。
【0003】
フッ素樹脂コーティングは、少なくともその表面部分が、米飯の付着防止等の所望の効果を発揮し得る程度にフッ素樹脂を含むものであればよい。特許文献1には、フッ素樹脂を含むトップ層と基材との間に、他のコーティング層(例えばプライマー層)を設けて、密着強度を向上させることが記載されている。
【0004】
業務用の炊飯窯の場合、フッ素樹脂コーティングを、容器状の基材のフランジ部の上面にまで施すと、高温(場合により高圧)で水蒸気の多い過酷な炊飯条件で1日に数回~十数回も使用され、更に、炊飯前後での蓋の着脱時にフランジ部が蓋と接触することにより、フッ素樹脂が剥離して、異物として米飯に混入する問題が起こり得る。特許文献2には、かかる問題に対処すべく、フッ素樹脂コーティングの被覆領域を、基材の内周面の所定の幅の上端縁を除いた領域とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-159836公報
【特許文献2】特開2008-119035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献2のように基材の内周面の所定の幅の上端縁を除いてフッ素樹脂コーティングを施すに際して、特許文献1のように、他のコーティング層(第1コーティング層)の上に、フッ素樹脂を含むコーティング層(第2コーティング層)を積層することについて検討した。
【0007】
通常、第1コーティング層の被覆領域の上端と、第2コーティング層の被覆領域の上端とが互いに一致するように、マスキング治具を用いて上記所定の幅の上端縁をマスクして、第1コーティング層および第2コーティング層を順次形成することが考えられ得る。しかしながら、かかる方法では、実際には、例えばフッ素樹脂の粉体の廻り込みなどに起因して、第2コーティング層が第1コーティング層から部分的にはみ出て、基材の表面上に直接形成される場合があることが判明した。第2コーティング層は、第1コーティング層に比べて、基材に対する密着強度が小さい。また、業務用の炊飯窯に対して使用される蓋は、ゴムパッキンなどの緩衝材なしに、基材のフランジ部に対して比較的大きい衝撃力で機械的に当接させている。よって、上記の場合において、業務用炊飯窯として、高温(場合により高圧)で水蒸気の多い過酷な炊飯条件で1日に数回~十数回も使用され、更に、炊飯前後での蓋の着脱時にフランジ部が蓋と接触して大きい衝撃力が繰り返し加わると、基材の表面上に直接形成された第2コーティング層(フッ素樹脂を含む)が剥離して、異物として米飯に混入する問題が起こり得る。
【0008】
本発明は、高温・高湿等の過酷な条件で使用され、強い衝撃力が加わっても、フッ素樹脂が剥離し難いフッ素樹脂コーティング構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様によれば、フッ素樹脂コーティング構造体であって、
底部、該底部から延在する側壁部、および該側壁部の上端から外周方向に延在するフランジ部を有する容器状基材と、
前記底部および前記側壁部の内表面を被覆する第1コーティング層と、
前記第1コーティング層を被覆し、かつ、フッ素樹脂を含む第2コーティング層と
を含み、前記第1コーティング層が、前記第2コーティング層の被覆領域の全周から露出している、フッ素樹脂コーティング構造体が提供される。
【0010】
本発明の1つの態様において、前記第2コーティング層の上端が、前記フランジ部の上面より下側に位置し得る。
【0011】
本発明の1つの態様において、前記第1コーティング層が、前記フランジ部の上面のうち、少なくとも前記側壁部の内表面に隣接した領域を更に被覆し得る。
【0012】
本発明の1つの態様において、前記フランジ部の上面において前記第1コーティング層で被覆された領域と、前記第1コーティング層から露出した領域とが存在し得る。
【0013】
本発明の1つの態様において、前記第1コーティング層が、エンジニアリングプラスチックを含み得る。
【0014】
本発明の1つの態様において、前記エンジニアリングプラスチックが、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド、およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。
【0015】
本発明の1つの態様において、前記第1コーティング層が、フッ素樹脂を更に含み得る。
【0016】
本発明の1つの態様において、前記第1コーティング層が、2層以上の積層構造を有し得る。
【0017】
本発明の1つの態様において、前記フッ素樹脂コーティング構造体が、業務用調理器具であり得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、容器状基材とフッ素樹脂を含む第2コーティング層との間に第1コーティング層を設け、かつ、第1コーティング層が、第2コーティング層の被覆領域の全周から露出することにより、フッ素樹脂を含む第2コーティング層が基材と直接接触することを確実に防止できるので、高温・高湿等の過酷な条件で使用され、強い衝撃力が加わっても、フッ素樹脂が剥離し難いフッ素樹脂コーティング構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の1つの実施形態におけるフッ素樹脂コーティング構造体を説明する図であって、(a)はフッ素樹脂コーティング構造体の概略模式断面図を示し、(b)は(a)にて一点鎖線にて囲まれた領域の概略模式拡大断面図を示す。
【
図2】
図1の実施形態の1つの改変例におけるフッ素樹脂コーティング構造体を説明する図であって、
図1(b)に対応する領域の概略模式拡大断面図を示す。
【
図3】
図1の実施形態のもう1つの改変例におけるフッ素樹脂コーティング構造体を説明する図であって、
図1(b)に対応する領域の概略模式拡大断面図を示す。
【
図4】
図1の実施形態の更にもう1つの改変例におけるフッ素樹脂コーティング構造体を説明する図であって、
図1(b)に対応する領域の概略模式拡大断面図を示す。
【
図5】
図1の実施形態の更にもう1つの改変例におけるフッ素樹脂コーティング構造体を説明する図であって、
図1(b)に対応する領域の概略模式拡大断面図を示す。
【
図6】比較例におけるフッ素樹脂コーティング構造体を説明する図であって、
図1(b)に対応する領域の概略模式拡大断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の1つの実施形態におけるフッ素樹脂コーティング構造体について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
【0021】
図1を参照して、本実施形態のフッ素樹脂コーティング構造体20は、底部1、底部1から延在する側壁部3、および側壁部3の上端から外周方向に延在するフランジ部5を有する容器状基材9を有する。
【0022】
基材1は、全体として容器状の構造を有する。底部1の内表面2および側壁部3の内表面4は、容器の内表面を構成する。フランジ部5は、平坦な上面6を有し得、フランジ部5の上面6が、蓋(図示せず)と接触して、容器の内部空間を封止し得る。底部1、側壁部3およびフランジ部5が一体的に形成されている場合、これらの境界は、必ずしも明確でなくてよいが、添付の図面において便宜的に点線にて示す。基材1は、任意の適切な材料から成り得、フッ素樹脂コーティング構造体20が加熱調理器具である場合には、熱導電性の材料、代表的には金属から成り得る。例えば、フッ素樹脂コーティング構造体20が炊飯窯である場合、基材1は、アルミ製であってよい。
【0023】
フッ素樹脂コーティング構造体20は、底部1および側壁部3の内表面を被覆する第1コーティング層11を更に有する。より詳細には、第1コーティング層11は、底部1の内表面2の全部と、側壁部3の内表面4の少なくとも一部とを連続的に被覆するものであってよい。
図1に示す態様において、第1コーティング層11の上端12が、フランジ部5の上面6より下側、より詳細には距離Bだけ低い位置にある(よって、フランジ部5の上面6の全部および側壁部3の内表面4の上端側領域が、第1コーティング層11から露出している)が、このことは本発明に必須でない。
【0024】
第1コーティング層11は、基材9と第2コーティング層13とを適切に接合し得、第2コーティング層13に比べて基材9から剥離し難い(耐久性が高い)ものである限り、任意の適切な材料から成り得る。例えば、第1コーティング層11は、任意の適切な樹脂から成っていても、任意の適切な樹脂を主成分とするものであってもよい。
【0025】
より具体的には、第1コーティング層11は、エンジニアリングプラスチックを含むものであってよい。これにより、第1コーティング層11は、基材9に高い密着強度で積層され、かつ、高い硬度を有することができる。
【0026】
エンジニアリングプラスチックは、フッ素樹脂以外のもの、例えば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリサルフォン(PSU)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、およびポリエーテルイミド(PEI)からなる群より選択される少なくとも1つであってよい。
【0027】
第1コーティング層11は、エンジニアリングプラスチックに加えて、フッ素樹脂を更に含むものであってよい。これにより、フッ素樹脂を含む第2コーティング層13を高い密着強度で、第1コーティング層11に積層させることができる。
【0028】
第1コーティング層11に含まれ得るフッ素樹脂は、後述する第2コーティング層13に含まれるフッ素樹脂と同じであっても、異なっていてもよい。第1コーティング層11に含まれ得るフッ素樹脂は、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP)、クロロトリフルオロエチレン重合体(PCTFE)、およびテトラフルオロエチレン重合体(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1つであってよい。
【0029】
第1コーティング層11は、単層であっても、2層以上の積層構造を有していてもよい。例えば、第1コーティング層11が2層の積層構造を有する場合、第1コーティング層11は、基材11上に形成されるプライマー層と、その上に積層して形成されるミドル層とから構成されていてよい。プライマー層は、エンジニアリングプラスチックを含み、フッ素樹脂を含んでいなくてよく、ミドル層は、エンジニアリングプラスチックおよびフッ素樹脂を含んでいてよい。
【0030】
第1コーティング層11の厚さは特に限定されないが、例えば1μm以上1000μm以下であり得る。
【0031】
フッ素樹脂コーティング構造体20は、第1コーティング層11を被覆し、かつ、フッ素樹脂を含む第2コーティング層13を更に有する。
図1に示す態様において、第2コーティング層13の上端14が、フランジ部5の上面6より下側、より詳細には距離Aだけ低い位置にあるが、このことは本発明に必須でない。
【0032】
第2コーティング層13は、所望の効果(例えば炊飯窯の場合は米飯の付着防止等)を発揮し得る程度にフッ素樹脂を含むものであればよい。例えば、第2コーティング層13は、フッ素樹脂から成っていても、フッ素樹脂を主成分とするものであってもよい。
【0033】
第2コーティング層13に含まれるフッ素樹脂は、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP)、クロロトリフルオロエチレン重合体(PCTFE)、およびテトラフルオロエチレン重合体(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1つであってよい。
【0034】
第2コーティング層13は、フッ素樹脂コーティングの最表面層、すなわち、トップ層として理解され得る。第2コーティング層13は、食品分野において、食品を離型させる離型層として好適に利用され得る。
【0035】
第2コーティング層13の厚さは特に限定されないが、例えば1μm以上1000μm以下であり得る。
【0036】
本実施形態において、第1コーティング層11は、第2コーティング層13の被覆領域の全周から露出する。より詳細には、第2コーティング層13は、第1コーティング層11の内表面の一部を連続的に被覆し、かつ、第1コーティング層11は、第2コーティング層13の被覆領域の全外周から露出するものであってよい。
図1に示す態様において、第2コーティング層13の上端14に対して、第1コーティング層11の上端12が距離Cだけ高い位置にあり、よって、第2コーティング層13の上端14(換言すれば、第2コーティング層13の被覆領域の外周)から、第1コーティング層11が、距離Cに対応する幅で周状に露出している。
【0037】
距離Cは、例えば1mm以上200mm以下、特に50mm以下であり得る。本発明に必須でないが、距離Aは、例えば1mm以上200mm以下、特に50mm以下であり得、距離Bは、例えば0mm以上199mm以下であり得る。
【0038】
第1コーティング層11が、第2コーティング層13の被覆領域の全周から露出することにより、第2コーティング層13が基材9と直接接触することを確実に防止できる。よって、本実施形態のフッ素樹脂コーティング構造体20によれば、高温・高湿等の過酷な条件で使用され、強い衝撃力が加わっても、第2コーティング層13(フッ素樹脂を含む)が剥離することを効果的に防止でき、よって、コーティング寿命が長い(耐久性に優れた)フッ素樹脂コーティング構造体20が実現される。
【0039】
本実施形態のフッ素樹脂コーティング構造体20は、食品分野において食品の離型が望まれる物品であり得、例えば加熱調理器具および/または業務用調理器具であってよい。業務用調理器具では、金属製であってよい蓋(図示せず)を、ゴムパッキンなどの緩衝材なしに、基材9のフランジ部5の上面6に対して比較的大きい衝撃力で機械的に当接させてよい。業務用加熱調理器具は、例えば業務用炊飯窯であり得る。フッ素樹脂コーティング構造体20を業務用炊飯窯として、高温(場合により高圧)で水蒸気の多い過酷な炊飯条件で1日に数回~十数回も使用し、更に、炊飯前後での蓋の着脱時にフランジ部5の上面6が蓋と接触して大きい衝撃力が繰り返し加わっても、第2コーティング層(フッ素樹脂を含む)13が剥離することを効果的に防止でき、異物として米飯に混入する問題を解消できる。
【0040】
本発明のフッ素樹脂コーティング構造体は、上述した実施形態に限らず、様々な改変が可能である。
【0041】
1つの改変例として、
図2を参照して、フッ素樹脂コーティング構造体21においては、第1コーティング層11’が、フランジ部5の上面6のうち、少なくとも側壁部3の内表面4に隣接した領域6aを更に被覆している。フランジ部5の上面6において、第1コーティング層11’で被覆された領域6aと、第1コーティング層11’から露出した領域6bとが存在してよい。
図2に示す態様では、第1コーティング層11’が、フランジ部5の上面6のうち、側壁部3の内表面4に隣接した領域(内周領域)6aを被覆し、領域6aから外周方向に延在する領域(外周領域)6bは被覆していない。第1コーティング層11’の端部12’の位置は、特に限定されない。
【0042】
もう1つの改変例として、
図3を参照して、フッ素樹脂コーティング構造体23においては、第1コーティング層11’が、フランジ部5の上面6のうち、少なくとも側壁部3の内表面4に隣接した領域6aを更に被覆する。更に、第2コーティング層13’が、フランジ部5の上面6に達して、第1コーティング層11’を被覆している。第2コーティング層13’の端部14’の位置は、特に限定されない。
【0043】
更にもう1つの改変例として、
図4を参照して、フッ素樹脂コーティング構造体25は、フランジ5の上面6の縁部にて上面6から突出した突出部7を有し、第1コーティング層11’’は、その端部12’’が突出部7の内表面(側壁部)に達するように、フランジ部5の上面6にて延在している。第2コーティング層13の端部14の位置は、特に限定されない。第2コーティング層13は、図示するようにフランジ部5の上面6に達していなくても、あるいは、フランジ部5の上面6に達して第1コーティング層11’’を被覆していてもよい。突出部7は、例えば、容器状基材9が、蓋(図示せず)と嵌合するための嵌合部であってよいが、これに限定されない。
【0044】
更にもう1つの改変例として、
図5を参照して、フッ素樹脂コーティング構造体27は、フランジ5の上面6の縁部にて上面6から突出した突出部7を有し、第1コーティング層11’’’は、その端部12’’’が突出部7の上面8付近に達するように、フランジ部5の上面6および突出部7の内表面(側壁部)にて延在している。第2コーティング層13’’の端部14’’の位置は、特に限定されない。第2コーティング層13’’は、図示するようにフランジ部5の上面6に達して、第1コーティング層11’’’を被覆していても、あるいは、フランジ部5の上面6に達していなくてもよい。突出部7は、例えば、容器状基材9が、蓋(図示せず)と嵌合するための嵌合部であってよいが、これに限定されない。
【0045】
図2~5に示したいずれの改変例におけるフッ素樹脂コーティング構造体21、23、25、27においても、第1コーティング層11’、11’’、11’’’、が、第2コーティング層13、13’、13’’の被覆領域の全周から露出することにより、第2コーティング層13、13’、13’’が基材9と直接接触することを確実に防止できる。なお、第1コーティング層11’、11’、11’’’は、第2コーティング層13、13’、13’’に比べて、基材9により高い密着強度で積層されているので、領域6aおよび場合により突出部7の内表面(側壁部)上にある第1コーティング層11’、11’’、11’’’に、蓋(図示せず)が、ゴムパッキンなどの緩衝材なしに比較的大きい衝撃力で機械的に当接したとしても、第1コーティング層11’、11’’、11’’’が剥離する懸念は実質的に無視し得ると考えて差し支えない。よって、フッ素樹脂コーティング構造体21、23、25、27は、上述したフッ素樹脂コーティング構造体20と同様の効果を奏し得る。
【0046】
これに対して、
図6に示す比較例のフッ素樹脂コーティング構造体60では、第1コーティング層61と第2コーティング層63とを、等しい被覆領域で、フランジ部5の上面6から距離Dだけ低い位置まで被覆して形成しようとした場合に、第1コーティング層61の上端62より、第2コーティング層63の上端64が上側にはみ出て、基材の表面(
図6に示す例では側壁部3の内表面)上に直接形成される。第2コーティング層63の上端64が上側にはみ出ることなく第2コーティング層63を形成することは困難である(例えば、第2コーティング層63を静電塗装により形成する場合、マスキング治具と被塗装物との間に、フッ素樹脂の粉体が廻り込んで侵入し得る)。かかるフッ素樹脂コーティング構造体60は、基材と直接接触している第2コーティング層63の部分が、剥離し易い。フッ素樹脂コーティング構造体60を業務用炊飯窯として、高温(場合により高圧)で水蒸気の多い過酷な炊飯条件で1日に数回~十数回も使用し、更に、炊飯前後での蓋の着脱時にフランジ部5の上面6が蓋と接触して大きい衝撃力が繰り返し加わると、第2コーティング層(フッ素樹脂を含む)63が剥離して、異物として米飯に混入する問題が起こり得る。
【0047】
なお、改変例および比較例のフッ素樹脂コーティング構造体につき、特段説明のない限り、上記実施形態における説明が当て嵌まり得る。
【実施例0048】
(実施例1)
実施例1は、
図1に示すフッ素樹脂コーティング構造体20を作製した例に関する。
【0049】
まず、基材9は、アルミダイキャストにブラスト処理を施して作製した(アルマイト処理および加熱処理を行っても、行わなくてもよい)。
【0050】
その後、PEEKを溶媒中に含む液状組成物を、フランジ部の上面および側壁面の内表面の距離Bに対応する領域をマスキング治具でマスクした状態で、スプレーし、マスキング治具を除去して、乾燥(溶媒除去)および焼成した。
【0051】
次に、PESおよびPTFEを溶媒中に含む液状組成物を、上記と同様にマスキング治具でマスクした状態で、スプレーし、マスキング治具を除去して、乾燥(溶媒除去)した。
【0052】
次に、PFAの粉体を、フランジ部の上面および側壁面の内表面の距離Aに対応する領域をマスキング治具でマスクした状態で、静電塗装し、マスキング治具を除去して、焼成した。
【0053】
以上により、実施例1のフッ素樹脂コーティング構造体サンプルを得た。実施例1において、距離B=約0mmおよび距離A=約10mm(よって、距離C=約10mm)とした。第1コーティング層の厚さは約15μm、第2コーティング層の厚さは約45μmであった。
【0054】
得られたフッ素樹脂コーティング構造体のサンプルを目視で確認したところ、第1コーティング層が、第2コーティング層の被覆領域の全周から露出していた。第2コーティング層が第1コーティング層からはみ出ている部分は認められなかった。
本発明のフッ素樹脂コーティング構造体は、例えば調理器具、特に業務用の調理器具として利用可能であるが、本発明のフッ素樹脂コーティング構造体の用途は、これに限定されず、幅広く様々な用途に利用され得る。