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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032343
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/323 20060101AFI20230302BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20230302BHJP
【FI】
H01S5/323 610
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138405
(22)【出願日】2021-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】川口 靖利
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真治
(72)【発明者】
【氏名】岡口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】中澤 崇一
(72)【発明者】
【氏名】林 茂生
(72)【発明者】
【氏名】畑 雅幸
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AF44
5F173AF54
5F173AF55
5F173AF58
5F173AH22
5F173AJ04
5F173AJ13
5F173AP05
5F173AR25
5F241AA03
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA49
5F241CA57
5F241CA65
(57)【要約】
【課題】発光層へのMgの熱拡散による混入を抑制し、かつ、発光層への正孔の注入効率を高めることができる窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】n側半導体層30と、n側半導体層30の上方に配置される1以上の発光層55と、1以上の発光層55の上方に配置され、Alを含む第1障壁層51と、第1障壁層51の上方に配置され、Alを含む第2障壁層52と、第2障壁層52の上方に配置され、第2障壁層52よりもAl組成比の小さいp側ガイド層61と、p側ガイド層61の上方に配置され、Mgを含み、第2障壁層52よりもAl組成比の大きい電子障壁層62と、電子障壁層62の上方に配置されるp側半導体層70とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n側半導体層と、
前記n側半導体層の上方に配置される1以上の発光層と、
前記1以上の発光層の上方に配置され、Alを含む第1障壁層と、
前記第1障壁層の上方に配置され、Alを含む第2障壁層と、
前記第2障壁層の上方に配置され、第2障壁層よりもAl組成比の小さいp側ガイド層と、
前記p側ガイド層の上方に配置され、Mgを含み、前記第2障壁層よりもAl組成比の大きい電子障壁層と、
前記電子障壁層の上方に配置されるp側半導体層とを備える
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記第2障壁層のAl組成比は、前記第1障壁層のAl組成比よりも大きい
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記p側ガイド層は、Mgを含む
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記p側ガイド層における平均Mg濃度は、前記電子障壁層における平均Mg濃度よりも低い
請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記p側ガイド層の前記第2障壁層に近い方の界面付近におけるMg濃度は、前記p側ガイド層の前記第2障壁層から遠い方の界面付近におけるMg濃度より低い
請求項1~4のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記第2障壁層は、前記第1障壁層の膜厚より薄い
請求項1~5のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記電子障壁層のAl組成比は、前記p側半導体層のAl組成比より大きい
請求項1~6のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
前記1以上の発光層は、Inを含み、
前記窒化物半導体発光素子の発光波長は、390nm以下である
請求項1~7のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、青色光を出射する窒化物半導体発光素子が知られているが(例えば、特許文献1など参照)、より短波長の光(つまり、波長が390nm以下の光)を出射する高出力かつ高効率の窒化物半導体発光素子が求められている。以下では、波長が390nm以下の光を出射する窒化物半導体発光素子のことを、短波長窒化物半導体発光素子とも称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-335052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
青色光を出射する窒化物半導体発光素子では、例えば、光ガイド層においてInGaN系材料が用いられる。これに対して、短波長窒化物半導体発光素子では、光ガイド層においてInGaNよりバンドギャップエネルギーが大きいAlGaN系材料が用いられるため、短波長窒化物半導体発光素子の電気抵抗は、青色光を出射する窒化物半導体発光素子の電気抵抗より大きくなる。また、p型AlGaN層にアクセプタ不純物として添加されるMgの活性化率がAl組成比の増加とともに低下するため、Al組成比の高いp型AlGaN層では発光層への正孔の注入効率が低下する。p型AlGaN層から発光層への正孔の注入効率を高めるために、発光層の近くまでMgを添加すると、Mgが熱拡散により発光層に混入する。このため、発光層における非発光再結合中心が増加し、発光効率が低下する。
【0005】
本開示は、このような課題を解決するものであり、発光層へのMgの熱拡散による混入を抑制し、かつ、発光層への正孔の注入効率を高めることができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る窒化物半導体発光素子の一態様は、n側半導体層と、前記n側半導体層の上方に配置される1以上の発光層と、前記1以上の発光層の上方に配置され、Alを含む第1障壁層と、前記第1障壁層の上方に配置され、Alを含む第2障壁層と、前記第2障壁層の上方に配置され、第2障壁層よりもAl組成比の小さいp側ガイド層と、前記p側ガイド層の上方に配置され、Mgを含み、前記第2障壁層よりもAl組成比の大きい電子障壁層と、前記電子障壁層の上方に配置されるp側半導体層とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、発光層へのMgの熱拡散による混入を抑制し、かつ、発光層への正孔の注入効率を高めることができる窒化物半導体発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子の全体構成を示す模式的な側面図である。
図2図2は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子の成長方向における伝導帯のバンドダイアグラムの概要を示すグラフである。
図3図3は、実施の形態1に係る第1障壁層からp側ガイド層までの伝導帯のバンドダイアグラム及び格子定数を模式的に示す図である。
図4図4は、比較例に係る第1障壁層からp側ガイド層までの伝導帯のバンドダイアグラム及び格子定数を模式的に示す図である。
図5図5は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子の製造工程における時間と、温度及び供給ガスとの関係を示す図である。
図7図7は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子の積層方向における組成分布の概要を示すグラフである。
図8図8は、実施の形態1の変形例に係る窒化物半導体発光素子の全体構成を示す模式的な側面図である。
図9図9は、実施の形態6に係る窒化物半導体発光素子の全体構成を示す模式的な側面図である。
図10図10は、実施の形態6に係る窒化物半導体発光素子の第2障壁層からp側クラッド層までにおけるMg濃度分布を示すグラフである。
図11図11は、実施の形態6に係る窒化物半導体発光素子の第2障壁層からp側クラッド層までにおけるMg濃度分布の他の第1例を示すグラフである。
図12図12は、実施の形態6に係る窒化物半導体発光素子の第2障壁層からp側クラッド層までにおけるMg濃度分布の他の第2例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、及び、構成要素の配置位置や接続形態などは、一例であって本開示を限定する主旨ではない。
【0010】
また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺等は必ずしも一致していない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0011】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔をあけて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに接する状態で配置される場合にも適用される。
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子について説明する。
【0013】
[1-1.全体構成]
まず、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の全体構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の全体構成を示す模式的な側面図である。図2は、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の成長方向における伝導帯のバンドダイアグラムの概要を示すグラフである。図2の横軸及び縦軸は、それぞれ、窒化物半導体発光素子10の積層方向における位置、及び、エネルギーを示す。図2の横軸において、左から右に向かう向きが、積層方向の下方から上方に向かう向き(つまり、結晶成長の向き)に対応する。
【0014】
図1に示されるように、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10は、基板20と、n側半導体層30と、第1n側ガイド層41と、第2n側ガイド層42と、第3障壁層53と、発光層55と、第1障壁層51と、第2障壁層52と、p側ガイド層61と、電子障壁層62と、p側半導体層70とを備える。
【0015】
基板20は、窒化物半導体発光素子10の基台となる板状部材である。本実施の形態では、基板20は、n型GaN基板である。
【0016】
n側半導体層30は、基板20の上方に配置される窒化物半導体層である。本実施の形態では、n側半導体層30は、基板20の上方側の主面に直接積層される。n側半導体層30は、下地層31と、歪緩和層32と、キャップ層33と、n側クラッド層34を有する。
【0017】
下地層31は、基板20の上方に配置されるn型の窒化物半導体層である。本実施の形態では、下地層31は、膜厚1.5μmのn型Al0.02Ga0.98N層である。下地層31には、不純物としてSiが添加されている。なお、n側半導体層30は、下地層31を有さなくてもよい。
【0018】
歪緩和層32は、基板20の上方に配置されるn型の窒化物半導体層である。本実施の形態では、歪緩和層32は、下地層31の上方に配置される膜厚0.2μmのn型In0.03Ga0.97N層である。歪緩和層32には、不純物としてSiが添加されている。なお、n側半導体層30は、歪緩和層32を有さなくてもよい。
【0019】
キャップ層33は、基板20の上方に配置されるn型の窒化物半導体層である。本実施の形態では、キャップ層33は、歪緩和層32の上方に配置される膜厚10nmのn型Al0.08Ga0.92N層である。キャップ層33には、不純物としてSiが添加されている。なお、n側半導体層30は、キャップ層33を有さなくてもよい。
【0020】
n側クラッド層34は、基板20の上方に配置されるn型の窒化物半導体層である。本実施の形態では、n側クラッド層34は、キャップ層33の上方に配置される膜厚0.8μmのn型Al0.08Ga0.92N層である。n側クラッド層34には、不純物としてSiが添加されている。n側クラッド層34は、発光層55、第1障壁層51、第2障壁層52、及び第3障壁層53より屈折率が低い。これにより、n側クラッド層34は、発光層55で発生した光がn側クラッド層34を透過して基板20に到達することを抑制する。なお、n側クラッド層34は、AlInGaN層であっても、AlInN層であってもよい。また、n側クラッド層34は、組成が一様な一つの層で構成されてもよいし、複数の互いに異なる組成を有する層を有してもよい。例えば、n側クラッド層34は、超格子構造を有してもよい。具体的には、n側クラッド層34は、複数のAlGaN層の各々と、複数のAlInGaN層又は複数のAlInN層の各々とが交互に積層された構成を有してもよい。また、n側クラッド層34は、Al組成比が互いに異なる2種類のAlGaN層が交互に積層された構成を有してもよい。
【0021】
第1n側ガイド層41は、n側半導体層30の上方に配置される窒化物半導体層である。第1n側ガイド層41は、n側クラッド層34より屈折率が高い。本実施の形態では、第1n側ガイド層41は、膜厚0.12μmのn型Al0.03Ga0.97N層である。第1n側ガイド層41には、不純物としてSiが添加されている。
【0022】
第2n側ガイド層42は、n側半導体層30の上方に配置される窒化物半導体層である。第2n側ガイド層42は、n側クラッド層34より屈折率が高い。本実施の形態では、第2n側ガイド層42は、第1n側ガイド層41の上方に配置される膜厚18nmのアンドープAl0.02Ga0.98N層である。なお、第2n側ガイド層42には、不純物としてSiが添加されていてもよい。
【0023】
第3障壁層53は、n側半導体層30の上方に配置される窒化物半導体層であり、下方障壁層とも称される。第3障壁層53は、発光層55と隣り合う位置に配置される。本実施の形態では、第3障壁層53は、第2n側ガイド層42と、発光層55との間に配置される膜厚5nmのアンドープAl0.05Ga0.95N層である。
【0024】
発光層55は、n側半導体層30の上方に配置される窒化物半導体層であり、光を発する。本実施の形態では、発光層55は、第3障壁層53と、第1障壁層51との間に配置される膜厚10nmのアンドープIn0.01Ga0.99N層である。発光層55は、390nm以下の波長の光を生成する。このように、発光層55は、Inを含み、窒化物半導体発光素子10の発光波長は、390nm以下である。窒化物半導体発光素子10の発光波長は、350nm以上であってもよい。また、窒化物半導体発光素子10の発光波長は、365nm以上385nm以下であってもよい。
【0025】
第1障壁層51は、発光層55の上方に配置され、Alを含む窒化物半導体層であり、上方障壁層とも称される。第1障壁層51の組成の一例は、Al組成比X1を用いて、AlX1Ga1-X1Nと表される。本実施の形態では、第1障壁層51は、発光層55と、第2障壁層52との間に配置される膜厚5nmのアンドープAl0.05Ga0.95N層である。第1障壁層51と、第3障壁層53と、発光層55とによって量子井戸構造が形成されてもよい。
【0026】
第2障壁層52は、第1障壁層51の上方に配置され、Alを含む窒化物半導体層であり、拡散抑制層とも称される。第2障壁層52の組成の一例は、Al組成比X2を用いて、AlX2Ga1-X2Nと表される。第2障壁層52のAl組成比X2は、第1障壁層51のAl組成比X1よりも大きい。つまり、不等式X2>X1が成り立つ。これにより、図2に示されるように、第2障壁層52のバンドギャップエネルギーは、第1障壁層51のバンドギャップエネルギーより大きくなる。本実施の形態では、第2障壁層52は、第2障壁層52と、p側ガイド層61との間に配置される膜厚3nmのアンドープAl0.07Ga0.93N層である。
【0027】
第2障壁層52は、第1障壁層51より薄い。これにより、第2障壁層52における電気抵抗の増大を抑制できる。本実施の形態では、第2障壁層52の膜厚は、1nm以上4nm以下であってもよい。また、第2障壁層52のAl組成比は、6%以上であってもよい。また、第2障壁層52における電気抵抗の増大を抑制するために、第2障壁層52のAl組成比は、10%以下であってもよい。さらに、Al組成比X2は0.01≦X2-X1≦0.06の関係を満たしてもよい。
【0028】
p側ガイド層61は、第2障壁層52の上方に配置され、第2障壁層52よりもAl組成比の小さい窒化物半導体層である。つまり、p側ガイド層61のAl組成比Xpgと、第2障壁層52のAl組成比X2との間に、不等式Xpg<X2が成り立つ。
【0029】
p側ガイド層61は、p側半導体層70より屈折率が高い。本実施の形態では、p側ガイド層61は、第2障壁層52と電子障壁層62との間に配置される膜厚50nmのp型Al0.05Ga0.95N層である。p側ガイド層61は、不純物としてMgを含む。本実施の形態では、p側ガイド層61の成長工程においてMgが添加される。p側ガイド層61における平均Mg濃度は、電子障壁層62における平均Mg濃度よりも低くてもよい。例えば、p側ガイド層61に含まれる平均Mg濃度は、電子障壁層62に含まれる平均Mg濃度の1/10以下であってもよい。また、p側ガイド層61の電子障壁層62から遠い方の界面付近におけるMg濃度は、p側ガイド層61の電子障壁層62に近い方の界面付近におけるMg濃度より低くてもよい。言い換えると、p側ガイド層61の発光層55に近い方の界面付近におけるMg濃度は、p側ガイド層61の発光層55から遠い方の界面付近におけるMg濃度より低くてもよい。これにより、p側ガイド層61の発光層55に近い方の界面付近におけるMg濃度を低減できるため、発光層55に熱拡散により混入するMgの量を低減できる。したがって、発光層55における非発光再結合中心の増加を抑制できるため、発光効率の低下を抑制できる。
【0030】
電子障壁層62は、p側ガイド層61の上方に配置され、Mgを含み、第2障壁層52よりもAl組成比の大きい窒化物半導体層である。電子障壁層62の組成の一例は、Al組成比Xeを用いて、AlXeGa1-XeNと表される。電子障壁層62は、発光層55を通過した電子がp側半導体層70へ移動することを抑制する機能を有する。これにより、電子を発光層55付近に閉じ込めることができる。本実施の形態では、電子障壁層62は、p側ガイド層61と、p側半導体層70との間に配置される膜厚5nmのp型Al0.36Ga0.64N層である。電子障壁層62には、不純物としてMgが添加されている。電子障壁層62のAl組成比Xeは、p側半導体層70のAl組成比Xpより大きい。つまり、不等式Xe>Xpが成り立つ。これにより、図2に示されるように、電子障壁層62のバンドギャップエネルギーは、p側半導体層70のバンドギャップエネルギーより大きくなる。
【0031】
p側半導体層70は、電子障壁層62の上方に配置される窒化物半導体層である。本実施の形態では、p側半導体層70は、p側クラッド層71と、コンタクト層72とを有する。
【0032】
p側クラッド層71は、電子障壁層62の上方に配置される窒化物半導体層である。本実施の形態では、p側クラッド層71は、電子障壁層62とコンタクト層72との間に配置される膜厚0.5μmのp型Al0.08Ga0.92N層である。p側クラッド層71には、不純物としてMgが添加されている。p側クラッド層71は、発光層55、第1障壁層51、第2障壁層52、及び第3障壁層53より屈折率が低い。これにより、p側クラッド層71は、発光層55で発生した光がp側クラッド層71を透過することを抑制する。なお、p側クラッド層71は、AlInGaN層であっても、AlInN層であってもよい。また、p側クラッド層71は、組成が一様な一つの層で構成されてもよいし、複数の互いに異なる組成を有する層を有してもよい。例えば、p側クラッド層71は、超格子構造を有してもよい。具体的には、p側クラッド層71は、複数のAlGaN層の各々と、複数のAlInGaN層又は複数のAlInN層の各々とが交互に積層された構成を有してもよい。また、p側クラッド層71は、Al組成比が互いに異なる2種類のAlGaN層が交互に積層された構成を有してもよい。
【0033】
コンタクト層72は、p側クラッド層71の上方に配置される窒化物半導体層である。コンタクト層72上には導電膜が配置され、当該導電膜とオーミック接触する。本実施の形態では、コンタクト層72は、膜厚10nmのp型GaN層である。また、コンタクト層72は、Alを含有してもよい。コンタクト層72のAl組成比は、p側クラッド層71のAl組成比より小さい。コンタクト層72は、例えば、Al0.02Ga0.98N層などでもよい。
【0034】
なお、図1などには示されないが、窒化物半導体発光素子10は、基板20の下方の主面(つまり、窒化物半導体発光素子10の主面のうち、n側半導体層30が積層される主面の裏側の主面)に、n側電極が形成されてもよい。また、コンタクト層72の上方にp側電極が形成されてもよい。
【0035】
[1-2.効果]
次に、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の効果について、図3を用いて説明する。図3及び図4は、それぞれ、本実施の形態及び比較例に係る第1障壁層51からp側ガイド層61までの伝導帯のバンドダイアグラム及び格子定数を模式的に示す図である。図3及び図4のグラフ(a)は、成長方向における伝導帯のバンドダイアグラムの概要を示すグラフである。図3及び図4の模式図(b)は、各層の格子定数及び各層で発生する応力を模式的に示す図である。各模式図(b)において、格子の大きさ(横幅)が各層の格子定数の大きさを表し、実線矢印が応力の向きを示す。また、各模式図(b)には、Mgの熱拡散による移動の範囲が破線矢印で併せて示されている。図4に示される比較例の窒化物半導体発光素子は、第2障壁層52を備えない点において、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10と相違し、その他の点において一致する。
【0036】
図4に示されるように、第2障壁層52を備えない窒化物半導体発光素子においては、第1障壁層51とp側ガイド層61とのAl組成比及びバンドギャップエネルギーが等しいため、第1障壁層51とp側ガイド層61との格子定数が等しい。したがって、第1障壁層51とp側ガイド層61との界面付近において、第1障壁層51とp側ガイド層61との格子定数の差に起因する応力が発生しない。このため、p側ガイド層61に含まれるMgは、熱拡散により第1障壁層51へ移動する。また、第1障壁層51に移動したMgは、さらに、熱拡散により第1障壁層51の下方に配置される発光層55へ移動する。このため、発光層55における非発光再結合中心が増加し、発光効率が低下する。
【0037】
一方、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10は、p側ガイド層61と、第1障壁層51との間に、p側ガイド層61及び第1障壁層51よりAl組成比及びバンドギャップエネルギーが大きい第2障壁層52を備える。この場合、図3の模式図(b)に示されるように、第2障壁層52の方が、p側ガイド層61及び第1障壁層51より、格子定数が小さくなる。このため、p側ガイド層61と第2障壁層52との界面付近において応力が発生する。p側ガイド層61の第2障壁層52との界面付近においては、圧縮応力が発生し、第2障壁層52のp側ガイド層61との界面付近においては、伸張応力が発生する。また、第2障壁層52の第1障壁層51との界面付近においては、伸張応力が発生し、第1障壁層51の第2障壁層52との界面付近においては、圧縮応力が発生する。
【0038】
この場合、p側ガイド層61に含まれるMgから見て、p側ガイド層61と第2障壁層52との界面(ヘテロ界面)付近のように、圧縮応力領域、伸張応力領域の順に配置されている領域においては、Mgの拡散が抑制されることが一般に知られている。これにより、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10においては、p側ガイド層61に含まれるMgが第1障壁層51及び発光層55へ熱拡散により移動することを抑制できる。したがって、発光層55における非発光再結合中心の増加を抑制できるため、発光効率の低下を抑制できる。
【0039】
なお、上記比較例では、第1障壁層51とp側ガイド層61とのAl組成比及びバンドギャップエネルギーが等しいが、第1障壁層51の方がp側ガイド層61よりAl組成比及びバンドギャップエネルギーが小さくても、Mgは、熱拡散により、p側ガイド層61から第1障壁層51及び発光層55へ移動する。つまり、p側ガイド層61に含まれるMgから見て、伸張応力領域、圧縮応力領域の順に配置されている領域においては、Mgの拡散は抑制されない。
【0040】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の第2障壁層52は、第1障壁層51より薄いため、Mgが含まれるp側ガイド層61と発光層55との距離を低減できる。つまり、発光層55付近にまでMgを添加することができる。したがって、発光層55への正孔の注入効率を高めることができる。また、第2障壁層52を薄くすることで、第2障壁層52の電気抵抗の増大を抑制できる。これにより、窒化物半導体発光素子10の直列抵抗を低減することができる。
【0041】
以上のように、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10によれば、発光層55へのMgの熱拡散による混入を抑制し、かつ、発光層55への正孔の注入効率を高めることができる。
【0042】
[1-3.製造方法]
次に、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の製造方法例を図5及び図6を用いて説明する。図5は、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の製造方法の流れを示すフローチャートである。図6は、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の製造工程における時間と、温度及び供給ガスとの関係を示す図である。
【0043】
図5に示されるように、まず、基板20を準備し(S20)、結晶成長装置内に基板20をセットする。本実施の形態では、基板20として、GaN基板を準備する。また、本実施の形態では、結晶成長装置として、MOCVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)装置を用いる。続いて、基板20がセットされた結晶成長装置内にNH及びHを供給し、基板20の温度を1150℃まで昇温する(図6の時点t0から時点t1まで参照)。
【0044】
続いて、n側半導体層30を形成する(S30)。n側半導体層30のうち下地層31を最初に形成する(S31)。本実施の形態では、結晶成長装置内にTMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、及びSiHを供給することで、基板20上に膜厚1.5μmのn型Al0.02Ga0.98Nからなる下地層31を成長させる(図6の時点t1から時点t2まで参照)。次に、歪緩和層32を形成する(S32)。具体的には、下地層31の形成完了後に、TMG、TMA、SiH、及びHの供給を停止し、かつ、Nの供給を開始する。また、基板20の温度を850℃まで降温する(図6の時点t2から時点t3まで参照)。続いて、結晶成長装置内にTMG、TMI(トリメチルインジウム)、及びSiHを供給することで、下地層31上に膜厚0.2μmのn型In0.03Ga0.97Nからなる歪緩和層32を成長させる(図6の時点t3から時点t4まで参照)。次に、キャップ層33を形成する(S33)。具体的には、歪緩和層32の形成完了後に、TMIの供給を停止し、かつ、TMAの供給を開始することで、歪緩和層32上に膜厚10nmのn型Al0.08Ga0.92Nからなるキャップ層33を成長させる(図6の時点t4から時点t5まで参照)。次に、n側クラッド層34を形成する(S34)。具体的には、キャップ層33の形成完了後に、結晶成長装置へのTMG、TMA、SiH、Nの供給を停止し、Hの供給を開始する。また、基板20の温度を1150℃まで昇温する(図6の時点t5から時点t6まで参照)。続いて、結晶成長装置内にTMG、TMA、及びSiHを供給することで、キャップ層33上に膜厚0.8μmのn型Al0.08Ga0.92Nからなるn側クラッド層34を成長させる(図6の時点t6から時点t7まで参照)。
【0045】
続いて、第1n側ガイド層41を形成する(S41)。具体的には、結晶成長装置へのTMAの供給量を減らし、n側クラッド層34上に膜厚0.12μmのn型Al0.03Ga0.97Nからなる第1n側ガイド層41を成長させる(図6の時点t7から時点t8まで参照)。
【0046】
続いて、第2n側ガイド層42を形成する(S42)。具体的には、結晶成長装置へのTMAの供給量をさらに減らし、かつ、SiHの供給を停止して、第1n側ガイド層41上に膜厚18nmのアンドープAl0.02Ga0.98Nからなる第1n側ガイド層41を成長させる(図6の時点t8から時点t9まで参照)。
【0047】
続いて、第3障壁層53を形成する(S51)。具体的には、結晶成長装置へのTMG、TMA、及びHの供給を停止し、Nの供給を開始する。また、基板20の温度を950℃まで降温する(図6の時点t9から時点t10まで参照)。続いて、結晶成長装置内にTMG及びTMAを供給することで、第2n側ガイド層42上に膜厚5nmのアンドープAl0.05Ga0.95Nからなる第3障壁層53を成長させる(図6の時点t10から時点t11まで参照)。
【0048】
続いて、発光層55を形成する(S52)。具体的には、結晶成長装置へのTMAの供給を停止し、TMIの供給を開始することで、第3障壁層53上に膜厚10nmのアンドープIn0.01Ga0.99Nからなる発光層55を成長させる(図6の時点t11から時点t12まで参照)。
【0049】
続いて、第1障壁層51を形成する(S53)。具体的には、結晶成長装置へのTMIの供給を停止し、TMAの供給を開始することで、発光層55上に膜厚5nmのアンドープAl0.05Ga0.95Nからなる第1障壁層51を成長させる(図6の時点t12から時点t13まで参照)。
【0050】
続いて、第2障壁層52を形成する(S54)。具体的には、結晶成長装置へのTMAの供給量を増やし、基板20の温度を1000℃まで昇温しながら第1障壁層51上に膜厚3nmのアンドープAl0.07Ga0.93Nからなる第2障壁層52を成長させる(図6の時点t13から時点t14まで参照)。
【0051】
続いて、p側ガイド層61を形成する(S61)。具体的には、結晶成長装置へのTMG及びTMAの供給を停止する。さらに、Nの供給を停止し、直ちにHの供給を開始する。続いて、TMG、TMA、及びCpMgの供給を開始することで、第2障壁層52上に膜厚50nmのp型Al0.05Ga0.95Nからなるp側ガイド層61を成長させる(図6の時点t14から時点t15まで参照)。
【0052】
続いて、電子障壁層62を形成する(S62)。具体的には、結晶成長装置へのTMAの供給量を増やすことで、p側ガイド層61上に膜厚5nmのp型Al0.36Ga0.64Nからなる電子障壁層62を成長させる(図6の時点t15から時点t16まで参照)。
【0053】
続いて、p側半導体層70を形成する(S70)。p側半導体層70のうちp側クラッド層71を最初に形成する(S71)。具体的には、結晶成長装置へのTMAの供給量を減らすことで、電子障壁層62上に膜厚0.5μmのp型Al0.08Ga0.92Nからなるp側クラッド層71を成長させる(図6の時点t16から時点t17まで参照)。次に、コンタクト層72を形成する(S72)。具体的には、結晶成長装置へのTMAの供給を停止し、CpMgの供給量を増やすことで、p側クラッド層71上に膜厚10nmのp型GaNからなるコンタクト層72を成長させる(図6の時点t17から時点t18まで参照)。続いて、NH及びHを供給しながら、基板20を室温まで降温した後(図6の時点t18から時点t19まで参照)、結晶成長装置から、各半導体層が積層された基板20を取り出す。
【0054】
以上のように、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10を製造することができる。
【0055】
なお、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の製造方法はこれに限定されない。例えば、基板20としてGaN基板を準備したが、AlGaN基板などの他の窒化物半導体基板を準備してもよい。
【0056】
また、歪緩和層32の形成時に、結晶成長装置にTMAを併せて供給することで、n型In0.03Al0.02Ga0.95Nからなる歪緩和層32を形成してもよい。
【0057】
また、発光層55の形成時に、結晶成長装置にTMAを併せて供給することで、アンドープIn0.01Al0.02Ga0.97Nからなる発光層55を形成してもよい。
【0058】
また、窒化物半導体発光素子10のキャップ層33の形成を省略してもよい。この場合、歪緩和層32の形成後に、結晶成長装置へのTMG、TMA、SiH、及びNの供給を停止し、H2の供給を開始する。続いて、基板20を1150℃まで昇温した後、上記製造方法と同様に、n側クラッド層34を形成する。
【0059】
また、上記製造方法においては、第2障壁層52を、基板20を昇温しながら形成したが、第2障壁層52を形成した後に、基板20を昇温してもよいし、基板20を昇温した後に第2障壁層52を形成してもよい。具体的には、第1障壁層51の形成後に、結晶成長装置へのTMAの供給量を増やすことで、膜厚3nmのアンドープAl0.07Ga0.93Nからなる第2障壁層52を形成し、その後に、基板20を1000℃まで昇温してもよい。又は、第1障壁層51の形成後に、結晶成長装置へのTMG、TMA、及びNの供給を停止し、Hの供給を開始してもよい。続いて、基板20を1000℃まで昇温した後に、結晶成長装置にTMG及びTMAを供給することで、膜厚3nmのアンドープAl0.07Ga0.93Nからなる第2障壁層52を形成してもよい。
【0060】
また、以上で説明した製造方法における基板20の温度は一例であり、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の製造方法における基板20の温度は上記各温度に限定されない。
【0061】
[1-4.組成分布]
次に、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の積層方向における組成分布について、図7を用いて説明する。図7は、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の積層方向における組成分布の概要を示すグラフである。図7には、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて測定されたAl及びInに対応する二次イオン強度と、Mg濃度とが示されている。図7の横軸は窒化物半導体発光素子10の積層方向における位置を示し、左側の縦軸は二次イオン強度を示し、右側の縦軸は濃度を示す。二次イオン強度は、Al及びInの組成比に対応する。
【0062】
図7に示されるInの二次イオン強度が最大となっている位置が、発光層55に対応し、Alの二次イオン強度及びMg濃度が最大となっている位置が電子障壁層62に対応する。本実施の形態では、電子障壁層62における平均Mg濃度は、1×1019[cm-3]程度であり、p側ガイド層61における平均Mg濃度は、1×1017[cm-3]以上3×1018[cm-3]以下程度である。p側クラッド層71における平均Mg濃度は、8×1018[cm-3]程度である。第1障壁層51及び第2障壁層52における平均Mg濃度は、p側ガイド層61における平均Mg濃度より低く、p側クラッド層71における平均Mg濃度の1/10未満である。
【0063】
このように、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10においては、第2障壁層52によって、p側ガイド層61から第1障壁層51へMgが熱拡散によって移動することを抑制できる。
【0064】
(実施の形態1の変形例)
実施の形態1の変形例に係る窒化物半導体発光素子について説明する。本変形例に係る窒化物半導体発光素子は、複数の発光層を備える点において実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と相違する。以下、本変形例に係る窒化物半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10との相違点を中心に図8を用いて説明する。
【0065】
図8は、本変形例に係る窒化物半導体発光素子10aの全体構成を示す模式的な側面図である。図8に示されるように、本変形例に係る窒化物半導体発光素子10aは、基板20と、n側半導体層30と、第1n側ガイド層41と、第2n側ガイド層42と、第3障壁層53と、発光層55a、55b及び55cと、第4障壁層54a及び54bと、第1障壁層51と、第2障壁層52と、p側ガイド層61と、電子障壁層62と、p側半導体層70とを備える。
【0066】
発光層55a~55cは、n側半導体層30の上方に配置される窒化物半導体層であり、光を発する。発光層55aは、第3障壁層53と、第4障壁層54aとの間に配置される膜厚5nmのアンドープIn0.01Ga0.99N層である。発光層55bは、第4障壁層54aと、第4障壁層54bとの間に配置される膜厚5nmのアンドープIn0.01Ga0.99N層である。発光層55cは、第4障壁層54bと、第1障壁層51との間に配置される膜厚5nmのアンドープIn0.01Ga0.99N層である。
【0067】
第4障壁層54a及び54bは、n側半導体層30の上方に配置される窒化物半導体層であり、中間障壁層とも称される。第4障壁層54a及び54bの各々は、発光層55a~55cのうち隣り合う二つの発光層の間に配置される。本変形例では、第4障壁層54aは、発光層55aと発光層55bとの間に配置される膜厚5nmのアンドープAl0.05Ga0.95N層である。第4障壁層54bは、発光層55bと発光層55cとの間に配置される膜厚5nmのアンドープAl0.05Ga0.95N層である。
【0068】
本変形例に係る発光層55a~55cと、第1障壁層51と、第3障壁層53と、第4障壁層54a及び54bとは、多重量子井戸構造を形成する。
【0069】
以上のような構成を有する窒化物半導体発光素子10aによっても、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の効果が奏される。
【0070】
次に、本変形例に係る窒化物半導体発光素子10aの製造方法について説明する。
【0071】
発光層55a~55cは、実施の形態1に係る発光層55と同様に形成される。また、第4障壁層54a及び54bは、実施の形態1に係る第1障壁層51と同様に形成される。
【0072】
具体的には、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様に、n側半導体層30から第3障壁層53までの各層を形成する。続いて、第3障壁層53を形成する際に結晶成長装置に供給していたTMAの供給を停止し、TMIの供給を開始することで、第3障壁層53上に膜厚5nmのアンドープIn0.01Ga0.99Nからなる発光層55aを成長させる。
【0073】
続いて、結晶成長装置へのTMIの供給を停止し、TMAの供給を開始することで、発光層55a上に膜厚3nmのアンドープAl0.03Ga0.97Nからなる第4障壁層54aを成長させる。
【0074】
続いて、結晶成長装置へのTMAの供給を停止し、TMIの供給を開始することで、第4障壁層54a上に膜厚5nmのアンドープIn0.01Ga0.99Nからなる発光層55bを成長させる。
【0075】
続いて、結晶成長装置へのTMIの供給を停止し、TMAの供給を開始することで、発光層55b上に膜厚3nmのアンドープAl0.03Ga0.97Nからなる第4障壁層54bを成長させる。
【0076】
続いて、結晶成長装置へのTMAの供給を停止し、TMIの供給を開始することで、第4障壁層54b上に膜厚5nmのアンドープIn0.01Ga0.99Nからなる発光層55cを成長させる。
【0077】
以下、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様に、第1障壁層51などを形成することで、本変形例に係る窒化物半導体発光素子10aを製造することができる。
【0078】
なお、発光層55a~55cの形成時に、結晶成長装置にTMAを併せて供給することで、アンドープIn0.01Al0.02Ga0.97Nからなる発光層55a~55cを形成してもよい。
【0079】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る窒化物半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、p側ガイド層の組成において、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10との相違点を中心に説明する。
【0080】
本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、p側ガイド層の組成以外は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の構成を有する。実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10においては、p側ガイド層61のAl組成比は、第1障壁層51のAl組成比と等しかったが、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子では、p側ガイド層のAl組成比は、第1障壁層のAl組成比と異なる。本実施の形態に係るp側ガイド層は、膜厚50nmのp型Al0.06Ga0.94N層である。このように、p側ガイド層のAl組成比は、第2障壁層のAl組成比より小さければよく、第1障壁層のAl組成比と異なっていてもよい。
【0081】
このようにp側ガイド層のAl組成比と、第1障壁層51のAl組成比とが異なる窒化物半導体発光素子においても、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の効果が奏される。
【0082】
なお、以上では、p側ガイド層のAl組成比が、第1障壁層51のAl組成比より大きい例を示したが、p側ガイド層のAl組成比は、第1障壁層51のAl組成比より小さくてもよい。p側ガイド層は、例えば、膜厚50nmのp型Al0.06Ga0.94N層であってもよい。
【0083】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る窒化物半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、第2障壁層の構成において、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10との相違点を中心に説明する。
【0084】
本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、第2障壁層の構成以外は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の構成を有する。
【0085】
本実施の形態に係る第2障壁層は、膜厚1nmのアンドープAl0.10Ga0.90N層である。このように第2障壁層のAl組成比は、実施の形態1に係る第2障壁層52のAl組成比(0.07)に限定されない。本実施の形態に係る第2障壁層のように、実施の形態1に係る第2障壁層52よりA組成比が大きい場合には、実施の形態1に係る第2障壁層52より膜厚を小さくしてもよい。これにより、第2障壁層における電気抵抗の増大を抑制できる。
【0086】
以上のような構成を有する本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子においても、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の効果が奏される。
【0087】
(実施の形態4)
実施の形態4に係る窒化物半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、p側ガイド層の構成において、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10との相違点を中心に説明する。
【0088】
本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、p側ガイド層の構成以外は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の構成を有する。
【0089】
本実施の形態に係るp側ガイド層は、実施の形態1に係るp側ガイド層61と同様に、膜厚50nmのp型Al0.05Ga0.95N層である。本実施の形態に係るp側ガイド層は、形成方法において、実施の形態1に係るp側ガイド層61と相違する。本実施の形態では、p側ガイド層の結晶成長時にCpMgなどのMgを含むガスを供給することなく、電子障壁層からの熱拡散により、p側ガイド層にMgが供給される。これにより、電子障壁層より低い平均Mg濃度を有するp側ガイド層を形成できる。また、本実施の形態に係るp側ガイド層においても、実施の形態に係るp側ガイド層61と同様に、p側ガイド層の電子障壁層から遠い方の界面付近におけるMg濃度は、p側ガイド層の電子障壁層に近い方の界面付近におけるMg濃度より低い。また、p側ガイド層における平均Mg濃度は、例えば、電子障壁層の平均Mg濃度の1/10未満であってもよい。
【0090】
以上のような構成を有する本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子においても、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の効果が奏される。
【0091】
(実施の形態5)
実施の形態5に係る窒化物半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、第2障壁層の構成において、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10との相違点を中心に説明する。
【0092】
本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、第2障壁層の構成以外は、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の構成を有する。
【0093】
本実施の形態に係る第2障壁層は、膜厚3nmのAlX2Ga1-X2N層である。本実施の形態に係る第2障壁層においては、Al組成比が一様でない。本実施の形態に係る第2障壁層のAl組成比X2は、p側ガイド層に近づくにしたがって増大する。本実施の形態では、第2障壁層のp側ガイド層から遠い方の界面付近におけるAl組成比X2は0.05(5%)であり、p側ガイド層に近い方の界面付近におけるAl組成比X2は0.07(7%)である。なお、第2障壁層のAl組成比X2は、積層方向の位置に対して一様な変化率で変化してもよいし、ステップ状に変化してもよい。また、第2障壁層の構成は、第2障壁層の全体においてAl組成比X2が一様でない構成に限定されず、第2障壁層の一部の領域のAl組成比X2だけが一様でない構成であってもよい。つまり、第2障壁層は、Al組成比X2が一様でない領域を含んでもよい。例えば、第2障壁層は、p側ガイド層に近づくにしたがってAl組成比X2が増大する領域を含んでもよい。
【0094】
以上のような構成を有する本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子においても、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の効果が奏される。
【0095】
(実施の形態6)
実施の形態6に係る窒化物半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子は、p側ガイド層のMg濃度分布において、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10との相違点を中心に図9及び図10を用いて説明する説明する。
【0096】
図9は、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子110の全体構成を示す模式的な側面図である。図10は、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子110の第2障壁層52からp側クラッド層71までにおけるMg濃度分布を示すグラフである。図10の横軸は窒化物半導体発光素子110の積層方向における位置を示し、縦軸はMg濃度を示す。
【0097】
図9に示されるように、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子110は、基板20と、n側半導体層30と、第1n側ガイド層41と、第2n側ガイド層42と、第3障壁層53と、発光層55と、第1障壁層51と、第2障壁層52と、p側ガイド層161と、電子障壁層62と、p側半導体層70とを備える。
【0098】
本実施の形態に係るp側ガイド層161は、実施の形態1に係るp側ガイド層61と同様に、膜厚50nmのp型Al0.05Ga0.95N層であり、p側ガイド層161における平均Mg濃度は、電子障壁層62における平均Mg濃度よりも低い。
【0099】
本実施の形態に係るp側ガイド層161は、Mg濃度分布において、実施の形態1に係るp側ガイド層61と相違する。本実施の形態に係るp側ガイド層161のMg濃度は、図10に示されるように、積層方向において一様である。ここで、Mg濃度が一様な構成には、p側ガイド層161にMgが完全に一様に分布している構成に限定されず、実質的に一様な構成も含まれる。例えば、Mg濃度が一様な構成には、Mg濃度の変動幅が、p側ガイド層161の平均Mg濃度の10%未満である構成も含まれてもよい。
【0100】
以上のような構成を有する本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子110においても、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の効果が奏される。
【0101】
なお、p側ガイド層161におけるMg濃度分布は、上述した例に限定されない。以下、p側ガイド層161におけるMg濃度分布の他の例について、図11及び図12を用いて説明する。図11及び図12は、それぞれ、本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子110の第2障壁層52からp側クラッド層71までにおけるMg濃度分布の他の例を示すグラフである。
【0102】
図11に示されるように、p側ガイド層161のMg濃度は、電子障壁層62に近づくにしたがってステップ状に増大してもよい。
【0103】
また、図12に示されるように、p側ガイド層161の電子障壁層62から遠い方の界面付近Mg濃度は、電子障壁層62に近い方の界面付近のMg濃度より高くてもよい。図12に示される例では、p側ガイド層161のMg濃度は、電子障壁層62に近づくにしたがってステップ状に減少している。
【0104】
図11及び図12に示されるようなMg濃度分布を有するp側ガイド層161を備える窒化物半導体発光素子110においても、実施の形態1に係る窒化物半導体発光素子10と同様の効果が奏される。
【0105】
(変形例など)
以上、本開示に係る窒化物半導体発光素子について、各実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【0106】
例えば、上記各実施の形態及び変形例に係る窒化物半導体発光素子は、下地層31、歪緩和層32、及びキャップ層33を備えたが、これらの層は、いずれも必須の構成要素ではない。本開示に係る窒化物半導体発光素子は、これらの層のうち少なくとも一つの層を備えなくてもよい。
【0107】
また、上記各実施の形態及び変形例に係る窒化物半導体発光素子は、光共振器を備える半導体レーザ素子であってもよいし、光共振器を備えない発光ダイオードであってよいし、スーパールミネッセントダイオードであってもよい。
【0108】
また、上記各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本開示に係る窒化物半導体発光素子は、例えば、高出力かつ高効率な短波長光源として露光用の光源などの様々な用途の光源に適用できる。
【符号の説明】
【0110】
10、10a、110 窒化物半導体発光素子
20 基板
30 n側半導体層
31 下地層
32 歪緩和層
33 キャップ層
34 n側クラッド層
41 第1n側ガイド層
42 第2n側ガイド層
51 第1障壁層
52 第2障壁層
53 第3障壁層
54a、54b 第4障壁層
55、55a、55b、55c 発光層
61、161 p側ガイド層
62 電子障壁層
70 p側半導体層
71 p側クラッド層
72 コンタクト層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12