IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人同志社の特許一覧 ▶ 堺化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図1
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図2
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図3
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図4
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図5
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図6
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図7
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図8
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図9
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図10
  • 特開-抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032389
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】抗菌性酸化亜鉛粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/00 20060101AFI20230302BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20230302BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20230302BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20230302BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230302BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C01G9/00 B
C01G9/02 A
A01N59/16 Z
A01N59/00 C
A01P3/00
A01N25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138501
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 健
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 桃佳
【テーマコード(参考)】
4G047
4H011
【Fターム(参考)】
4G047AA04
4G047AB01
4G047AC03
4G047AD03
4H011AA01
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA02
4H011DC05
(57)【要約】
【課題】優れた抗菌性能を有する酸化亜鉛粉体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛(ZnO)粉体を準備し(工程A)、前記酸化亜鉛粉体のZnに対して、0.05~12原子%のリチウム(Li)を、炭酸リチウム又は酸化リチウムとして添加・混合し、大気中又は酸素中にて550~650℃の温度で0.5~2時間、熱処理する(工程B)ことにより、ZnOのZnの一部がLiで置換された化学構造を有する抗菌性酸化亜鉛粉体が製造できる。Liは、ZnOのZnに対して0.05~12原子%の割合で置換されていることが好ましい。前記工程Aにおいては、ZnO粉体として、金属亜鉛を加熱して、溶融・気化させた亜鉛蒸気を空気酸化させることにより製造されたものを用いることが好ましく、工程Bにおいては、酸化リチウムを添加することが好ましく、熱処理は酸素中にて行うことが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性を有する酸化亜鉛粉体を製造するための方法であって、当該方法が、以下の工程:
工程A:酸化亜鉛粉体を準備する工程、及び
工程B:前記酸化亜鉛粉体のZnに対して、0.05~12原子%のLiを、炭酸リチウム又は酸化リチウムとして添加・混合し、大気中又は酸素中にて550~650℃の温度で0.5~2時間、熱処理する工程
を含むことを特徴とする、抗菌性酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項2】
前記工程Bにおいて、酸化リチウムを添加し、熱処理を酸素中にて行うことを特徴とする請求項1に記載の抗菌性酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項3】
前記工程Bにおいて、酸化亜鉛粉体のZnに対してLiを2~6原子%添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌性酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項4】
前記工程Aにおいて、前記酸化亜鉛粉体が、金属亜鉛を加熱して、溶融・気化させた亜鉛蒸気を空気酸化させることにより製造されたものであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項5】
酸化亜鉛(ZnO)のZnの一部がリチウム(Li)で置換された化学構造を有することを特徴とする抗菌性酸化亜鉛粉体。
【請求項6】
前記酸化亜鉛に対して、Liが0.05~12原子%の割合で置換されていることを特徴とする請求項5に記載の抗菌性酸化亜鉛粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗菌性能を有する酸化亜鉛粉体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中でCovid-19の大流行があり、大腸菌をはじめとして遮光下でも細菌やウイルス除去に効果を有する無機の抗菌性(抗ウイルス性)物質が求められている。
酸化亜鉛(ZnO)粉体については、遮光下にて、大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、耐性菌等に対して殺菌効果(抗菌性)があることが、例えば下記の非特許文献1に開示されている。
又、出発原料や水熱処理条件、熱処理方法によって抗菌力の強さが異なることも報告されており、例えば下記の特許文献1には、ZnO粉体を硝酸亜鉛水溶液中で水熱処理することで、遮光下でも持続的に抗菌性を有する暗所抗菌性ZnO粉体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6388293号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】粉体および粉体冶金、66[9](2019)434-441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、未処理のZnO粉体の場合には抗菌性を更に改善する必要があり、水熱処理を行う上記特許文献1の技術の場合にはコストや量産化の点で課題があった。
【0006】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、短時間に低コストで大量生産が可能な抗菌性酸化亜鉛粉体の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、酸化亜鉛粉体に少量のLi(好ましくはLi2O)を添加して酸素中550~650℃で熱処理することで、遮光下で抗菌性をもたらす活性酸素種(ROS)の生成量が出発原料の約2倍になることを見出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
優れた抗菌性を有する抗菌性酸化亜鉛粉体を製造するための本発明の製法は、以下の工程:
工程A:酸化亜鉛粉体を準備する工程、及び
工程B:前記酸化亜鉛粉体のZnに対して、0.05~12原子%のLiを、炭酸リチウム(Li2CO3)又は酸化リチウム(Li2O)として添加・混合し、大気中又は酸素中にて550~650℃の温度で0.5~2時間、熱処理する工程
を含むことを特徴とする。
【0008】
又、本発明は、上記の特徴を有した製造方法の前記工程Bにおいて、酸化リチウムを添加し、熱処理を酸素中にて行うことを特徴とするものである。
【0009】
又、本発明は、上記の特徴を有した製造方法の前記工程Bにおいて、Znに対してLiを2~6原子%添加することを特徴とするものである。
【0010】
又、本発明は、上記の特徴を有した製造方法の前記工程Aにおいて、前記酸化亜鉛粉体が、金属亜鉛を加熱して、溶融・気化させた亜鉛蒸気を空気酸化させることにより製造されたもの(この製造法を「フランス法」と言う)であることを特徴とするものでもある。
【0011】
又、優れた抗菌性を有する本発明の抗菌性酸化亜鉛粉体は、酸化亜鉛(ZnO)のZnの一部がリチウム(Li)で置換された化学構造を有することを特徴とする。
【0012】
又、本発明は、上記の特徴を有した抗菌性酸化亜鉛粉体において、前記酸化亜鉛に対して、Liが0.05~12原子%の割合で置換されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、従来の水熱合成して調製した暗所抗菌性ZnOよりも、製造プロセスが簡単で生産コストも低減でき、量産化も可能である。例えば高額な水熱合成装置が不要であり、水熱合成して中間生成物の再酸化処理時に発生する二酸化窒素やNOxガスの除害装置が不要であり、短時間に低コストで大量生産が可能となる。さらに従来の暗所抗菌性ZnOよりも微粒子で比表面積が高く、本発明の抗菌性ZnOを使用するにあたっては、少量で抗菌性が期待される。
又、この抗菌性酸化亜鉛粉体は単独で使用されても、各種素材に添加した複合体として使用されてもよく、比較的簡単な工程によって製造できるので、粉体メーカーにて容易に量産可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例で用いた本発明の抗菌性酸化亜鉛粉体の製造方法(実験方法)の手順を示すフローチャートである。
図2】(a)は、Li2Oの添加量を変化させ、上記〔0010〕で記載したフランス法で合成したZnO(以後「F‐ZnO」と称することがある)である微細酸化亜鉛Cを大気中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物のXRDパターンをまとめたものであり、(b)は、Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物のXRDパターンをまとめたものである。
図3】Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物の格子定数a,c、格子体積V、結晶子径Xsの変化を示すグラフである。
図4】Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物のBET粒子径Ps(μm)の変化を示すグラフである。
図5】Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物の表面を観察した際の、走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、上段の写真は、大気中で熱処理することにより得られた粉体の表面を観察した際のSEM画像であり、下段の写真は、酸素中で熱処理することにより得られた粉体の表面を観察した際のSEM画像である。
図6】Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた酸化亜鉛の結晶格子間に存在する格子間亜鉛(interstitial Zn: Zniと表記する)Zniの量δの変化を示すグラフである。
図7】Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物におけるLi添加量と残存量をICP(誘導結合プラズマ)により分析した結果を示すグラフであり、Li2CO3をLi添加量3.0原子%にて添加した際の分析値も示されている。
図8】本明細書の実施例において用いたルミノール化学発光強度の測定条件及び方法を示す図であり、本明細書における化学発光(CL)積算値はいずれも、120秒後にルミノール液を注入した後、600秒までの発光強度の積算値である。
図9】Li2O又はLi2CO3をそれぞれ3.0原子%Liとして添加し、大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物(ZnO粉体)のCL積算値を比較したグラフである。
図10】各種ZnO(微細酸化亜鉛C,六角板状酸化亜鉛”XZ-100F”,超微粒子酸化亜鉛”FINEX-50”)に対する3.0原子%Li添加(Li2Oを使用、酸素中で熱処理)の効果をまとめたグラフであり、i)はLiを添加せずに熱処理(600℃/1時間)を行った場合のCL積算値を示しており、ii)は3.0原子%Liを添加した後に熱処理を行った場合のCL積算値を示している。ここでSAは粉体の比表面積の値(m2/g)を示す。
図11】Li2Oの添加量を変化させて、大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物についてのCL積算値を示すグラフであり、ヒドロキシラジカル・OHの捕捉剤である2‐プロパノールを添加した際のCL積算値も併記されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
優れた抗菌性を有する抗菌性酸化亜鉛粉体を製造するための本発明の製造方法における各工程について説明する。
図1は、本発明の製造方法における手順の一例を示すフローチャートであり、実施例にて用いた原料や条件等も記載されている。
最初の工程(工程A)においては、原料粉体として酸化亜鉛粉体を準備する。特に、金属亜鉛を加熱し、溶融・気化させた亜鉛蒸気を空気酸化させることにより合成(フランス法で合成)された酸化亜鉛F‐ZnOを準備することが好ましい。このような酸化亜鉛粉体又はF‐ZnOとしては、市販品を広く使用することができ、粒径が50~500nm程度のものを使用することが好ましい。
【0016】
そして、工程B(熱処理工程)では、前記酸化亜鉛粉体のZnに対して、0.05~12原子%(好ましくは2~6原子%)のLiを、炭酸リチウム(Li2CO3)又は酸化リチウム(Li2O)として添加・混合し、大気中又は酸素中にて550~650℃の温度で0.5~2時間(好ましくは580~620℃で0.75~1.25時間)熱処理する。本発明では、上記の熱処理を行う前に、酸化亜鉛と、炭酸リチウム又は酸化リチウムと湿式混合し、110~130℃程度の温度で10~15時間程度乾燥を行うことが好ましい。
本発明では、Li添加の際、Li2CO3を添加した場合には、加熱時にCO3の分解と共にLiが気化する懸念があるが、Li2Oを添加することによって、高い化学発光(CL)積算値を示す抗菌性ZnOが製造できる。
【0017】
上記の製造方法を用いて得られる、優れた抗菌性を有する本発明の抗菌性酸化亜鉛粉体は、酸化亜鉛(ZnO)のZnの一部がリチウム(Li)で置換された化学構造を有し、前記酸化亜鉛のZnに対するLiの置換割合は0.05~12原子%であることが好ましく、2~6原子%がより好ましく、3~5原子%が特に好ましい。
不定比化合物であるZnOは、Zn1+δO(0<δ<1)の化学式で表され、Zn1+δのδは、Oに対してZnが過剰にあり、Zn原子がZnO結晶の格子間位置に存在するZniの量を表している。
そして、格子間に存在するZniからZni→2e-+Zni ・・のように2個の電子2e-と2+の格子間亜鉛Zni ・・が生成し、ZnO表面でO2やH2Oと反応して、・O2 -や・OHが生成し、暗所においても殺菌性(抗菌特性)が発現する。
【0018】
ZnOのZnがLiで置換された固溶体である本発明の抗菌性酸化亜鉛粉体は、Znに対してLiが0.05~12原子%置換された固溶体の場合、以下の化学式:
Lix 1+Znx 3+Zn1+δ-x 2+O (式中、0.0005≦x≦0.12、0<δ<1)
として表すことができ、xはLiの置換量であり、Liは1価が安定で、酸素中熱処理ではZn3+が生成しやすい。
【実施例0019】
以下、実施例に基づいて本発明の製造方法を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
以下の実験に用いた出発原料の酸化亜鉛は、以下の3種類である。
・微細酸化亜鉛C(フランス法で合成した酸化亜鉛粉体、商品名:微細酸化亜鉛C、堺化学工業株式会社製、粒径150nm、BET比表面積7.03m2/g)
・酸化亜鉛(湿式法で合成した六角板状酸化亜鉛粉体、商品名:XZ-100F、堺化学工業株式会社製、板径100nm、厚さ30nm、BET比表面積7.83m2/g)
・微粒子酸化亜鉛(湿式法で合成した酸化亜鉛粉体、商品名:FINEX-50、堺化学工業株式会社製、粒子径20nm、BET比表面積50m2/g)
【0020】
I.Li2Oの添加量を変化させた際の、大気中又は酸素中で熱処理することにより得られた生成物のXRD解析
図2(a)は、Li2Oの添加量を変化(0~1.5原子%)させ、上記の微細酸化亜鉛Cを大気中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物のXRDパターン(X線回折装置(XRD)、リガク製、RINT2200を用いて測定)をまとめたものであり、Li2Oの添加量を変化させても大きな差は見られなかった。
又、図2(b)は、Li2Oの添加量を変化(0~3.0原子%)させ、上記の微細酸化亜鉛Cを酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物のXRDパターンをまとめたものであり、この場合にも、Li2O添加量の違いによる大きな差は見られなかった。
【0021】
II.Li2Oの添加量を変化させた際の、大気中又は酸素中で熱処理することにより得られた生成物の格子定数a,c、格子体積V、結晶子径Xsの変化
図3には、Li2Oの添加量を変化(0~6原子%)させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物の格子定数a,c、格子体積V、結晶子径Xsの変化を示すグラフが示されている。
図3のグラフから、Li2Oの添加量を変化させた際、格子定数a,c、格子体積Vについては大きな変化は見られなかったが、結晶子径Xsについては、大気中の熱処理の場合には結晶子径Xsは大きく変化しないが、酸素中の熱処理の場合にはLi2Oの添加量が増加するにつれて結晶子径Xsが大きくなることが確認された。
【0022】
III.Li2Oの添加量を変化させた際の、大気中又は酸素中で熱処理することにより得られた生成物のBET粒子径Ps(μm)の変化
図4には、Li2Oの添加量を変化(0~6原子%)させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物のBET粒子径Ps(μm)の変化を示すグラフが示されている。
図4のグラフから、Li2Oの添加量を変化させた際、大気中の熱処理の場合にはBET粒子径Psはほとんど変化しないが、酸素中の熱処理の場合には、Li2Oの添加量が3原子%を超えるとBET粒子径Psが大きくなることがわかった。
【0023】
IV.Li2Oの添加量を変化させた際の、大気中又は酸素中で熱処理することにより得られた生成物の形状及び表面状態の観察
図5には、Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物の表面を、走査型電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子製、JSM7001F)にて観察した際のSEM画像が示されている。このSEM画像の倍率は30,000倍であり、画像中の白線の長さが1μmである。
図5のSEM画像から、大気中で熱処理しても酸素中で熱処理しても、Li2O添加量の違いによる粉体表面の状態の大きな差は見られなかった。
【0024】
V.Li2Oの添加量を変化させた際の、格子間Zni量δの変化
図6は、Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物中の、格子間Zniの量δの変化を示すグラフであり、このグラフから、Li2Oの添加量1原子%付近でδの値が小さくなるが、1原子%を超えるとδの値は大きくなり、Li2O添加量2.5~6原子%の範囲ではLi2Oを添加しない場合(0原子%)よりもδの値が大きくなることがわかった。
【0025】
VI.Li2Oの添加量を変化させた際の、熱処理後の生成物中のLi残存量測定
図7には、Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物におけるLi添加量と残存量の関係を示す、ICP(誘導結合プラズマ、Inductively Coupled Plasma)分析結果が示されており、Li2CO3をLi添加量3.0原子%にて添加した際の分析値も示されている。
図7のグラフから、Li2Oを添加してもLi2CO3を添加してもLi残存量に大きな差はないが、Li2O添加量が3.0原子%を超えると、Li添加量とLi残存量が比例せず、熱処理時にLiが気化している可能性が示唆された。
【0026】
VII.熱処理後の生成物(ZnO粉体)の化学発光積算値の測定
Li2OをLi添加量3.0原子%にて添加量にて添加し、大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより生成物を得、得られた各酸化亜鉛粉体のCL積算値を測定した。
図8には、実施例で用いたルミノール化学発光強度の測定条件及び方法が示されており、このルミノール化学発光強度の測定には、化学発光計測装置CLA-FS3(東北電子産業製)を使用した。以下に記載される化学発光(CL)積算値はいずれも、120秒後にルミノール液を注入した後、600秒までの発光強度の積算値である。
図9には、Li2O又はLi2CO3をそれぞれ3.0原子%Liの添加量にて添加した際の、大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)して得られたZnO粉体のCL積算値を比較したグラフが示されており、このグラフから、Li2Oを添加し、酸素中で熱処理を行った場合に、最も大きなCL積算値となることが確認された。
【0027】
VIII.各種ZnOに対する3.0原子%Li添加の効果(CL積算値)の比較
出発原料として、前記の3種類の酸化亜鉛(微細酸化亜鉛C、XZ-100F、FINEX-50)を用い、Liを添加せずに酸素中で熱処理(600℃/1時間)を行った場合のCL積算値と、3.0原子%のLi(Li2O)を添加した後に酸素中で熱処理を行った場合のCL積算値を、前述の測定方法により測定し、各測定値を比較した。
図10には、上記のZnOに対する3.0原子%Li添加の効果をまとめたグラフが示されており、i)が、Liを添加せずに熱処理を行った場合のCL積算値で、ii)が、3.0原子%Liを添加した後に熱処理を行った場合のCL積算値である。
図10に示されるように、いずれの酸化亜鉛を用いた場合にも、ZnOに対して3.0原子%のLiを添加するとCL積算値が大きくなっており、最も大きなCL積算値は、出発原料として微細酸化亜鉛C(F‐ZnO)を用いた場合に得られ、Li添加によってCL積算値は2.4倍大きくなることがわかった。
暗所抗菌性ZnOの抗菌性の発現は、ZnO結晶の格子間に存在するZni (interstitial Zn)イオンに由来すると考えられるため、ZnO粉体の製造当初からZni を含む可能性があるフランス法で合成したF‐ZnOにより、高い抗菌性が実現できると考えられる。
【0028】
IX.Li2Oの添加量を変化させた際の、大気中又は酸素中で熱処理することにより得られた生成物のCL積算値の測定
Li2Oの添加量を変化させ、微細酸化亜鉛Cを大気中又は酸素中で熱処理(600℃/1時間)することにより得られた生成物(ZnO粉体)についてのCL積算値を、前記と同様の方法で測定した。図11には、その結果が示されている。
図11に示されるように、酸素中で熱処理を行うことにより得られたZnO粉体の方が、大気中で熱処理を行ったZnO粉体よりも、大きなCL積算値を有していることがわかった。又、Li2Oの添加量を0.05~12.0原子%の範囲で変化させた際のCL積算値から、Li2O添加量の好ましい範囲は2~6原子%であり、特に好ましい範囲は3~5原子%であることがわかった。
更に、酸素中で熱処理を行うことにより得られたZnO粉体について、ヒドロキシラジカル・OHについての捕捉剤(スカベンジャー)である2‐プロパノールを添加してCL積算値を測定した場合にCL積算値が著しく低下したことから、活性酸素種(ROS)のうち、最も抗菌性が強いヒドロキシラジカル・OHが生成していることが確認された。
【0029】
〔本発明の抗菌性酸化亜鉛の抗菌メカニズム〕
本発明における殺菌力(抗菌特性)発現のメカニズムとしては、Li添加によりLix 1+Znx 3+Zn1+δ-x 2+Oで表される固溶体が生成し、更にZn3+がZn2+になるときに生成する正孔h+がZnO粉体表面で水と反応して・OHが生成すると考えられる。
【0030】
X.抗菌性試験
試験菌として、黄色ぶどう球菌と大腸菌を用い、以下の試験方法にて抗菌性試験を行った。
*抗菌性試験 JIS Z 2801(フィルム密着法)
試験菌種:黄色ぶどう球菌 Staphylococcus aureus NBRC 12732
大腸菌 Escherichia coli NBRC 3972
菌液調製溶液:1/500NB培地
試験菌液接種量:0.4ml
加工試料:ZnOに6.0at%Li添加物(プレート:10g/m2)あり(加工品)
無加工試料:ZnOに6.0at%Li添加物(プレート:10g/m2)なし(未加工品)
試験片の清浄化:試験片の全面を、純度99%以上のエタノールを吸収させた局法ガーゼで軽く拭いた後、十分に乾燥させた。
試験結果を以下の表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
上記の試験結果から、本発明の抗菌性酸化亜鉛粉体は優れた抗菌性を有するものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法により製造された酸化亜鉛粉体は、遮光下であっても優れた抗菌性能を発揮し、化粧品、抗菌性が必要なデオドラント商品、衣類等に広く利用できるが、これらの用途に限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11