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特開2023-32390潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定装置及び方法
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  • 特開-潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032390
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/30 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
G01N33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138504
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】517436615
【氏名又は名称】シェルルブリカンツジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真二
(72)【発明者】
【氏名】篠田 憲明
(57)【要約】
【課題】本発明は、潤滑油がエンジンや駆動系においてどのように挙動しているかを簡便な装置及び方法により解明できるようにする。
【課題手段】潤滑油の試料を充填することができるチャンバーを設け、このチャンバーの少なくとも一側面に透視窓を形成する。この透視窓から透視できる上記チャンバー内に一組の小型のベベルギヤを横方向に向けて配置し、このベベルギヤを回転制御して潤滑油のブリーザ漏れ現象などの挙動の簡易判定装置とする。
少量の潤滑油試料を上記チャンバー内のベベルギヤの一部が漬かる高さまで充填してベベルギヤを回転する。潤滑油は掻き上げられ、泡も発生して潤滑油中に保持されるようになり、こうした状態を上記透視窓から目視することによって判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油試料を充填することができるチャンバーを有し、該チャンバーの一側面に透視窓を形成し、該透視窓から透視できる上記チャンバー内に一組の小型のベベルギヤを横方向に向けて配置し、該ベベルギヤを回転制御可能にするモーターを具備する潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定装置。
【請求項2】
上記チャンバーは四角形の角筒状の容器に形成され、一側面に当たる正面に透視窓を形成している請求項1に記載の潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定装置。
【請求項3】
上記透視窓にはチャンバー内に充填された潤滑油試料の液面高さを測定できるゲージが設けられている請求項1又は2に記載の潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定装置。
【請求項4】
潤滑油を充填するチャンバーと、チャンバーの一側面に設けた透視窓と、チャンバー内で透視窓から透視できる位置に設けた一組の小型のベベルギヤと、該ベベルギヤを回転制御するモーターを備えたブリーザ漏れ現象の簡易判定装置を有し、このチャンバー内に上記ベベルギヤの一部が漬かるように潤滑油試料を充填し、上記ベベルギヤを回転し、潤滑油を掻き上げ、混合することによって生ずる潤滑油試料の挙動及び泡の発生状態を上記透視窓から観察して評価する潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定方法。
【請求項5】
上記のベベルギヤを回転したときの潤滑油面の高さ及び潤滑油の掻き上げ高さを評価することを特徴とする請求項4に記載の潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油、特にエンジンや駆動系の潤滑油が使用によって生ずるブリーザ漏れ現象を簡易に判定することができる装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の省燃費化が進んでおり、エンジン油や駆動系潤滑油には更なる燃費向上を目的として低粘度の潤滑油が使用されるようになってきた。
こうした潤滑油の低粘度化によって燃費を向上させることができるが、その一方で耐摩耗性や耐焼付性が悪化することが知られている他、潤滑油の泡立ちの増加も問題の一つとして取り上げられるようになっている。
【0003】
特に駆動系装置におけるブリーザからの潤滑油(オイル)漏れは、漏れた潤滑油により環境に対して悪影響を及ぼすだけでなく、駆動系装置内における油量低下を招いて装置ユニットに損傷を起こすことが危惧される。
こうしたことから、低粘度潤滑油の開発においては、ブリーザ漏れ現象を簡易に判定することにより、潤滑油の開発に活かす必要性が高まっている。
【0004】
従来、ブリーザ漏れ現象は、潤滑油における泡立ちが主要な要因の1つであると考えられてきた。
潤滑油の泡立ち性の評価については、JIS K2518が広く用いられている。(非特許文献1)
このJIS K2518法においては、潤滑油試料を試験容器(メスシリンダー)に採り、24℃、あるいは93.5℃に加温した後に、ディフューザから空気を導入し、94±5ml/minの割合で5分間送気を行って、泡沫の体積を測定している。
【0005】
即ち、JIS K2518のシーケンスIでは、潤滑油試料の温度が24±0.5 ℃に達したら、94±5ml/minの流量の乾燥空気をディフューザから5分間吹き込み、直ちに試験容器(容量1000ml)の中を観察し,全体積から液体の体積を減じて泡末の体積を10ml単位で読み取り,泡立ち度を測定する。その後、10分間放置し,再び泡末の体積を10ml単位で読み取り,泡安定度として測定する。
【0006】
シーケンスIIでは試料の温度が93±1℃に達したら、シーケンスIと同様に泡立ち度と泡安定度を測定する。
シーケンスIIIでは、シーケンスIIの測定後に試料に残っている泡末を静かにかき混ぜて完全に消した後、水浴から取り出し,空気中に放置して試料を43.5℃まで放冷し、シーケンスIと同様に泡立ち度と泡安定度を測定するものである。
【0007】
このように、上記JIS法では、乾燥空気を強制的に吹き込んで泡を発生させた後に、泡沫の発生量とその安定度を静的な条件下で評価するものであり、実機において潤滑油に起こっている現象を正しく反映しているかどうか疑問となる点が多く存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献1】JIS K2518
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、実機を使用して潤滑油試料についてブリーザ漏れ現象の測定をすれば良いけれども、潤滑油の試作品の夫々についてその都度実機のアクスルユニットを用意する必要があり、こうした実機では多量の潤滑油試料を必要とするから試作品の試験には向かないし、廃油の量も増加し、環境負荷も大きくなって、簡単に試験、測定を行うことができない。
【0010】
本発明は、潤滑油試料がどのように挙動しているのかを解明し、ブリーザ漏れ現象について比較的に少量の試作品によって、簡便な装置及び方法により判定できるようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、潤滑油の試料を充填することができるチャンバーを設け、このチャンバーの少なくとも一側面に透視窓を形成する。そして、この透視窓から透視できる上記チャンバー内に一組の小型のベベルギヤを横方向に向けて配置し、このベベルギヤを回転制御することができるようにして潤滑油のブリーザ漏れ現象の簡易判定装置とする。
【0012】
上記装置のチャンバーには、潤滑油の試料を上記一組のベベルギヤの一部が漬かる高さまで充填し、実機の速度に準じてベベルギヤを回転し、ベベルギヤの回転によって潤滑油が掻き上げられるようになる。これに伴って泡も発生して潤滑油中に保持されるようになり、こうした状態を上記透視窓から目視することによって判定するようにする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、比較的に簡便な装置及び方法によって、チャンバー中で連続的に発生する潤滑油の掻き上げ状態、泡の発生、油中への泡の抱き込みによる潤滑油の体積の増加、油中の泡の放出などを観測することができる。これにより、ブリーザ漏れ現象の原因となる泡立ち、潤滑油の挙動をブリーザ漏れの起こり難い高性能の潤滑油の開発、検証に広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例を示す正面図である。
図2図1の一部を省略した平面図である。
図3】試料1の試験時の潤滑油面の状態を示す説明写真である。
図4】試料2の試験時の潤滑油面の状態を示す説明写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本簡易判定装置1には鋼板などで形成されたチャンバー2がある。
図示するチャンバー2は四角形の筒状に形成されていて、上面3には蓋(図示略)を被せることができるようにしている。このチャンバー2の一側面には透明性のガラス板またはアクリル板を嵌めたりして形成されている透視窓5が設けられている。
【0016】
この透視窓5から透視できるチャンバー2の中には、横方向を向いた一組の小型のベベルギヤ6を設けている。
このベベルギヤ6は、上記チャンバー2の外に設けたモーター8に連結されて任意の速度で回転できるようにされている。
【0017】
この装置によって判定試験を行う場合、上記チャンバー2内に潤滑油試料11を充填するが、上記ベベルギヤ6の下方の一部が漬かるような高さまで潤滑油試料を充填するようにする。
こうした状態でベベルギヤ6を回転させると、ベベルギヤによって潤滑油試料11は掻き上げられ、ベベルギヤ全体を潤滑できるようになる。
【0018】
上記ベベルギヤ6の回転に伴って、潤滑油試料11は掻き上げられ、攪拌・混合され、これに伴って気泡が試料中に抱き込まれるようになる。気泡を抱き込んだ潤滑油試料は更に掻き上げられ攪拌・混合されて潤滑油試料中の気泡は微細化され、気泡量も増えて潤滑油試料の体積が増加する。
【0019】
そして潤滑油試料中の気泡の一部は泡沫となって潤滑油試料11の油面から上方に抜けて消えたり、消えることなく残って油面上に存在するようにもなる。これらの動きを透視窓5から目視し、試験開始前、試験中、試験直後の潤滑油試料の油面の高さ、潤滑油試料が掻き上げられる高さ、などを測定して、掻き上げ現象、起泡現象及びこれと同時的に起こっている消泡現象の程度を把握、測定することができる。
【実施例0020】
以下、本発明のブリーザ漏れ現象の簡易判定装置及び評価方法についての実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0021】
簡易判定装置1のチャンバー2は、一辺の内径が50mmの正方形で、高さが120mmの角筒状である鋼板製の容器であって、上面3には蓋(図示略)を被せることができるようになっている。
上記チャンバー2の一側面(正面板)には底面から10mmの位置から上方に縦90mm、横25mmの開口が作られており、この開口は透明で丈夫なガラス板又はアクリル板で塞がれていて、透視窓5となっている。
【0022】
上記チャンバー2内には、軸中心が底面から25mmの位置になる一組の小型のベベルギヤ6を備えたギヤボックス7(Kyouiku Gear Industry製のBE55L-001)を固定しており、このベベルギヤ6を透視窓5から透視することができる。
この透視窓5には、チャンバー2の内底面からの高さを示すスケール目盛(mm単位)9を設けている。
上記一組のベベルギヤ6の一方のギヤ軸は、上記チャンバー2の外に配置したモーター8によって任意の回転数で回転できるようになっている。
【0023】
室温状態(約21℃)の潤滑油試料11を上記チャンバー2内に底面より30mmの高さまで充填し(油量は75ml)、上記ベベルギヤ6の回転数を3000rpmとして5min動かした。
上記ベベルギヤ6の回転の開始により潤滑油試料11は掻き上げられて落下することを繰り返し、気泡も発生するので、その状態を透視窓から観察して、判定した。
【0024】
〔試験〕
上記実施例の装置、方法についてその性能を知るために以下の試験を行った。
試験の試料として以下のものを用意した。
【0025】
試料1:鉱油系デファレンシャル用潤滑油(性状:40℃の動粘度が64.92mm2/s、100℃の動粘度が9.33mm2/s、VIが122)
試料2:鉱油系デファレンシャル用潤滑油(性状:40℃の動粘度が336.6mm2/s、100℃の動粘度が25.80mm2/s、VIが100)
【0026】
(試験内容)
試料1を上記実施例に記載した簡易判定装置のチャンバー内に、75mlを充填し、油面高さが30mmになってベベルギヤの一部分が漬かるようにして、ギヤの回転数を3000rpmにして5min間動かし、駆動中の試料1の油面の高さや、試料1の跳ね上がりの高さについて測定した。
試料2についても、上記試料1と同様にして測定した。
【0027】
(試験結果)
試料1についての試験開始前の状態、試験中の状態、試験停止直後の状態は図3の写真に示すとおりである。
また、試料2についての試験開始前の状態、試験中の状態、試験停止直後の状態は図4の写真に示すとおりである。
【0028】
試料1の図3に示す状態及び試料2の図4に示す状態を油面の高さを数値(mm)で表示したものを下記表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
(比較例の試験内容)
試料1及び試料2について、JIS K2518の方法によりシーケンスI、シーケンスII、シーケンスIIIについて泡立ち度及び泡安定度について試験をした。
【0031】
(比較例の試験結果)
比較例の試験結果を下記の表2に表示した。
【0032】
【表2】
【0033】
(試験結果の考察)
図3及び表1に示すように、試料1の動粘度の低いものでは、試験開始前の油面の高さが30mmであったが、試験中の油面の高さが23mmであり、油面の上達高さが80mmとなっており、試験停止直後の油面高さは30mmに戻っている。
一方、試料2の動粘度の高いものでは、試験開始前の油面の高さが同じく30mmであるが、試験中の油面の高さが25mmであり、油面の上達高さが46mmとなっており、試験停止直後の油面高さは34mmとなっている。
【0034】
このように試料1の粘度の低いものでは、試料2の粘度の高いものに比較して攪拌試験中に試料が高くまで掻き上げられているので、ブリーザ漏れを生じる危険性が大きいことが判る。また、試料1では試験終了直後に油面が試験開始前と同じに戻っているが、試料2では油面が試験開始前よりも高くなっているので、試料が多くの気泡を抱き込んで未だ油面高さが元に戻っていないものと考えられる。
【0035】
一方、比較例におけるJIS法による泡立ち試験によれば、表2に示すようにシーケンスI、シーケンスII、シーケンスIIIについて泡立ち度及び泡安定度において、試料1と試料2の間には実質的な差は見られず、ブリーザ漏れが発生する危険性の有無について評価することが出来ないことが判る。
【0036】
こうした試験の結果によれば、この簡易判定装置及び方法によって潤滑油の種類により気泡の程度、ブリーザ漏れが発生する危険性があるか否かを簡便に予測することが可能であることが判る。このように試作油の性能試験などに効果的に用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 簡易判定装置
2 チャンバー
3 上面
5 透視窓
6 ベベルギヤ
9 スケール
11 潤滑油試料
図1
図2
図3
図4