(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003244
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】静電容量型センサ、変形検出システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
G01B7/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104313
(22)【出願日】2021-06-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和二年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『運動の生活カルチャー化により活力ある未来をつくるアクティブ・フォー・オール拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 成弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡田 志麻
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063BA29
2F063BB01
2F063BD11
2F063CA09
2F063CA10
2F063CC07
2F063DA02
2F063DA05
2F063DC08
2F063DD02
2F063EC03
2F063EC07
2F063EC14
2F063EC15
2F063EC24
(57)【要約】
【課題】計測対象の変形の阻害を抑制しつつ、計測対象の変形を計測することができる静電容量型センサを提供する。
【解決手段】静電容量型センサ10は、積層方向の第1の端部に配置されると共に弾性変形可能なシート状の第1導電層11と、積層方向の第2の端部に配置されると共に弾性変形可能なシート状の第2導電層12と、第1導電層11と第2導電層12との間に配置されると共に弾性変形可能なシート状の第3導電層13と、第1導電層11と第3導電層13との間に配置されており、弾性変形可能なシート状の第1絶縁層14と、第2導電層12と第3導電層13との間に配置されており、弾性変形可能なシート状の第2絶縁層15とを備え、第1導電層11と第3導電層13と第1絶縁層14によって第1コンデンサ21が構成されており、第2導電層12と第3導電層13と第2絶縁層15によって第2コンデンサ22が構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向の第1の端部に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第1導電層と、
積層方向の第2の端部に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第2導電層と、
前記第1導電層と前記第2導電層との間に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第3導電層と、
前記第1導電層と前記第3導電層との間に配置されており、弾性変形可能なシート状の絶縁体からなる、第1絶縁層と、
前記第2導電層と前記第3導電層との間に配置されており、弾性変形可能なシート状の絶縁体からなる、第2絶縁層と
を備え、
前記第1導電層と前記第3導電層と前記第1絶縁層によって第1コンデンサが構成されており、
前記第2導電層と前記第3導電層と前記第2絶縁層によって第2コンデンサが構成されている静電容量型センサ。
【請求項2】
変形前の状態において、
前記第1コンデンサの静電容量と、前記第2コンデンサの静電容量とが同じである請求項1に記載の静電容量型センサ。
【請求項3】
前記第1導電層と前記第2導電層は、同一の材料で構成される請求項1又は請求項2に記載の静電容量型センサ。
【請求項4】
前記導電層と前記絶縁層の伸長率が120%以上に設定される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の静電容量型センサ。
【請求項5】
前記導電層と前記絶縁層の積層方向の厚さが0.5mm以下に設定される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の静電容量型センサ。
【請求項6】
前記導電層の表面抵抗率が100Ω/sq.以下に設定される請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の静電容量型センサ。
【請求項7】
前記絶縁層の誘電率が3以上に設定される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の静電容量型センサ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の静電容量型センサと、
前記第1コンデンサの静電容量の変化と、前記第2コンデンサの静電容量の変化に基づいて変形を計測する計測部と
を備えた変形検出システム。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の静電容量型センサを使用した変形検出方法であって、
前記第1コンデンサの静電容量の変化量を算出し、
前記第2コンデンサの静電容量の変化量を算出し、
前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量のそれぞれの変化量に基づいて変形を検出する変形検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型センサ、変形検出システム及び変形検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量型センサとして、シート状に形成された一対のコンデンサを積層させて、それぞれの静電容量の変化に基づいて曲げを検出するように構成したものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基準部材に対して積層方向の一方側と他方側とにシート状のコンデンサを一対に設け、一対のコンデンサの静電容量の変化に基づいて曲げ変形を検出する静電容量型センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の静電容量型センサのうち、特に、生体の形状変化等を計測対象とした場合、センサを計測対象例えば、皮膚や衣類等に貼り付けた際に、計測対象の変形が阻害されることを抑制するために、計測対象と同等もしくはそれ以上の柔軟性(弾性変形のしやすさ)を有することが望まれる。
【0006】
特許文献1に開示された静電容量型センサでは、一対のコンデンサが積層されているため、静電容量型センサが1つのコンデンサで構成される場合に比べて、剛性が高くなり柔軟性が低下して計測対象に拘束感を与える虞がある。
【0007】
本発明は、計測対象の変形の阻害を抑制しつつ計測対象の変形を計測することができる静電容量型センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、積層方向の第1の端部に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第1導電層と、
積層方向の第2の端部に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第2導電層と、
前記第1導電層と前記第2導電層との間に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第3導電層と、
前記第1導電層と前記第3導電層との間に配置されており、弾性変形可能なシート状の絶縁体からなる、第1絶縁層と、
前記第2導電層と前記第3導電層との間に配置されており、弾性変形可能なシート状の絶縁体からなる、第2絶縁層と
を備え、
前記第1導電層と前記第3導電層と前記第1絶縁層によって第1コンデンサが構成されており、
前記第2導電層と前記第3導電層と前記第2絶縁層によって第2コンデンサが構成されている静電容量型センサを提供する。
【0009】
本発明によれば、静電容量型センサは、第1コンデンサと第2コンデンサとが、第3導電層を共有して構成されているので、第1コンデンサと第2コンデンサとを個別に設ける場合に比べて、基準部材と基準部材の一方側に配置される導電層との2つの部材が不要になるので、静電容量型センサの厚みが低減する。その結果、静電容量型センサの剛性が低減されて、計測対象の変形への追従性を向上できる(計測対象の変形が阻害されることが抑制される)。また、部材の削減によって、コストも低減できる。
【0010】
さらに、第1コンデンサと第2コンデンサとは、第3導電層を共有しているため、例えば、第1コンデンサと第2コンデンサの静電容量の差分から曲げ変形を計測する場合に、第1コンデンサと第2コンデンサとの間に基準部材を設ける場合に比べて、第1及び第2コンデンサの特性を合わせやすく、コンデンサのばらつきが抑制されるので、コンデンサのばらつきを較正するためのコストを削減できる。
【0011】
変形前の状態において、前記第1コンデンサの静電容量と、前記第2コンデンサの静電容量とが同じであってもよい。
【0012】
変形後の第1コンデンサの静電容量と、第2コンデンサの静電容量との差から変形を検出できるので、変形前に第1コンデンサと第2コンデンサの静電容量の差がある場合に比して、変形量の算出が簡素化できる。変形前後の第1コンデンサの静電容量の変化及び第2コンデンサの静電容量の変化を求める必要がない。
【0013】
前記第1導電層と前記第2導電層は、同一の材料で構成されてもよい。
【0014】
本構成によれば、第1コンデンサと、第2コンデンサの特性を一致させることができるので、第1コンデンサと第2コンデンサのばらつきによるコストの増大が回避できる。
【0015】
前記導電層と前記絶縁層の伸長率が120%以上に設定されてもよい。
【0016】
本構成によれば、計測対象に対する追従性が得られる。
【0017】
前記導電層と前記絶縁層の積層方向の厚さが0.5mm以下に設定されてもよい。
【0018】
本構成によれば、静電容量型センサの剛性が過度に増大することによる計測対象の変形を阻害しにくい。
【0019】
前記導電層の表面抵抗率が100Ω/sq.以下に設定されもよい。
【0020】
本構成によれば、導電層内に配合される導電性フィラーの配合量が多いほど導電性フィラー同士の接触が増加し、導電層内の電荷の分布の偏りを抑制できるので、計測精度を向上できる。また、導電層内での導電性フィラー間での静電容量型の結合が抑制されて、応答性と計測精度を確保できる。
【0021】
前記絶縁層の誘電率が3以上に設定されてもよい。
【0022】
本構成によれば、誘電率を高めることで、静電容量を増大させることができるので、変形時の静電容量が計測しやすく、計測対象の変形を計測しやすい。
【0023】
本発明の第2の態様は、前記静電容量型センサと、
前記第1コンデンサの静電容量の変化と前記第2コンデンサの静電容量の変化に基づいて変形を計測する計測部と
を備えた変形検出システムを提供する。
【0024】
本発明によれば、前記静電容量型センサで得られる効果が変形検出システムでも得られる。
【0025】
本発明の第3の態様は、前記静電容量型センサを使用した変形検出方法であって、
前記第1コンデンサの静電容量の変化量を算出し、
前記第2コンデンサの静電容量の変化量を算出し、
前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量のそれぞれの変化量に基づいて変形を検出する変形検出方法を提供する。
【0026】
本発明によれば、前記静電容量型センサで得られる効果が変形検出方法でも得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、計測対象の変形の阻害を抑制しつつ、計測対象の変形を計測することができる静電容量型センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る変形検出システムのブロック図。
【
図2】静電容量型センサの使用例を説明するための図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る静電容量型センサの斜視図。
【
図4】
図3におけるIV-IV線に沿った静電容量型センサの断面図。
【
図5】静電容量型センサが凸状変形した状態における変形検出システムのブロック図。
【
図6】静電容量型センサが凹状変形した状態における変形検出システムのブロック図。
【
図7】静電容量型センサについて、曲げ変形時の実測値と静電容量値の変化量に基づいた計測値とを比較して示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の一実施形態として静電容量型センサ10を備えた変形検出システム1が示されている。
【0030】
変形検出システム1は、全体として曲げ変形可能な静電容量型センサ10を備える。静電容量型センサ10は、
図2に示されているように例えば、人体9の膝部分91(計測対象)の皮膚もしくは衣服に貼り付けられた状態で膝部分91の伸び変形(長さ)及び曲げ変形(角度)が検出されるようになっている。
【0031】
変形検出システム1では、静電容量型センサ10で検出される静電容量Cまたは静電容量の変化量ΔCから伸び変形(長さ)及び曲げ変形(角度)を変形量として計測するようになっている。なお、
図1~6では、静電容量型センサ10の構造をわかりやすくするために要部を誇張して示しており、各部材や各部位の寸法や形状を正確に表すものでない。
【0032】
静電容量型センサ10は、
図3に示すように、積層方向の第1の端部(
図3において上端部)に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第1導電層11と、積層方向の第2の端部(
図3において下端部)に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第2導電層12と、第1導電層11と第2導電層12との間に配置されると共に弾性変形可能なシート状導体からなる第3導電層13と、第1導電層11と第3導電層13との間に配置されており、弾性変形可能なシート状の絶縁体からなる、第1絶縁層14と、第2導電層12と第3導電層13との間に配置されており、弾性変形可能なシート状の絶縁体からなる、第2絶縁層15とを備える。
【0033】
静電容量型センサ10の製造方法は、以下のようにして製造することができる。まず、第1~第3導電層11,12,13、第1及び第2絶縁層14,15、及び、各導電層及び各絶縁層11~15を接着するためのホットメルトシート(図示せず)を準備する。
【0034】
次に、各導電層及び各絶縁層11~15とホットメルトシートを所定の大きさに切り出し、各導電層及び各絶縁層11~15をそれぞれ当接させて積層する(
図3参照)。このとき、本実施形態においては、各導電層及び各絶縁層11~15間にホットメルトシートを挟んでおく。
【0035】
その後、積層された各導電層及び各絶縁層11~15とホットメルトシートの積層方向の一方側から、熱圧着機等によって、圧力をかけながら加熱することで、各導電層及び各絶縁層11~15とホットメルトシートが接着されて、静電容量型センサ10が完成する。
【0036】
第1導電層11、第1絶縁層14、第3導電層13により第1コンデンサ21が形成され、第2導電層12、第2絶縁層15、第3導電層13により第2コンデンサ22が形成されている。第1コンデンサ21と第2コンデンサ22は、厚み方向に積層されている。
【0037】
第1~3導電層11,12,13及び第1~2絶縁層14,15は、伸縮性及び柔軟性(フレキシブル性)を有するエラストマによって形成されている。計測対象としての人体の関節部分、背中部分、胸部等に貼付けられた状態で、人体の動き(変形)を阻害せずに容易に弾性変形し得るような伸縮性を備える。
【0038】
例えば、各導電層11,12,13及び各絶縁層14,15の伸び率(伸長率)は、120%以上に設定されている。具体的には、例えば、伸縮性及び柔軟性を有するエラストマとして、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、天然ゴムが用いられる。なお、伸び率は、引張試験において各導電層及び各絶縁層(試験片)が破断するまでに、試験片上の標線間に生じた伸びと標線間距離との比である。また、例えば、人体を計測する上では、各導電層11,12,13及び各絶縁層14,15の柔軟性は高い方が好ましく、柔軟性と置き換え可能な弾性率(ヤング率)は、120MPa以下に設定されている。
【0039】
各導電層11,12,13及び各絶縁層14,15の材料はこれに限られるものではなく、各導電層11,12,13及び各絶縁層14,15の断面形状や断面積、長さなどの具体的形状を考慮して曲げ変形の特性を設定することができる。例えば、計測対象とされる人体の筋力や装用する部位などに応じて、耐久性や変形への追従性などを考慮して、材料は適宜に設定できる。
【0040】
図2に示すように、計測対象の膝部分の曲げ変形を測定する場合においては、膝部分の変形の検出感度を向上させるために、所定の幅を有する薄肉の一定断面で長さ方向(
図2の上下方向)に延びる略矩形の短冊状とされることが好ましい。静電容量型センサ10の剛性によって膝部分の曲げ変形が阻害されないように、各導電層11,12,13及び各絶縁層14,15の膜厚(積層方向厚さ)が0.5mm以下に設定されている。
【0041】
ここで、導電層の面積S、導電層間距離(=絶縁層の厚さ)d、絶縁層の誘電率εとすると、静電容量C=ε・(S/d)の関係があり、導電層間の距離dが短くなると静電容量は増大し、導電層間の距離dが長くなると静電容量は減少する。導電層の面積Sが大きくなると静電容量は増大し、導電層の面積Sが小さくなると静電容量は減少する。検出精度の向上のために、各絶縁層14,15の誘電率が3以上に設定されている。
【0042】
上述のように、各導電層11,12,13は、エラストマ製とされるが、導電性を付与するために、炭素材料や金属等の微粒子からなる導電性フィラーとの混合物からなるエラストマ組成物で形成される。導電性フィラーとしては、例えば、銀粉末やカーボン粉末が採用され、各導電層11,12,13の伸縮性等を確保しつつ所望の導電性を備えさせるために、例えば各導電層11,12,13の質量を100%とした場合の10~70%以下の配合量で、導電性フィラーがエラストマ材料に混合される。
【0043】
検出精度を高めるために、変形前の状態における第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の静電容量を一致させることが好ましい。少なくとも第1導電層11及び第2導電層12は、同一の材料及び配合量で構成されている。例えば、第1導電層11と第2導電層12の導電性フィラーを炭素材料とし、第3導電層13の導電性フィラーを導電性の高い金属材料(例えば、銀)とした場合、高価かつ導電性の高い導電性フィラーを最小限にしつつ、第1コンデンサ21及び第2コンデンサ22の静電容量を一致させると共に各導電層に炭素材料の導電性フィラーを用いる場合に比べて精度を向上させやすい。
【0044】
表面抵抗率が高くなることによる導電層内の電荷の分布の偏りを抑制することによって検出精度を確保するために、各導電層11,12,13の電気抵抗(表面抵抗率)は100Ω/sq.以下であることが望ましい。また、導電層内導電性フィラー間での静電容量型の結合を抑制することで、応答性と計測精度を向上できる。
【0045】
次に、静電容量型センサ10が曲げ変形した場合における静電容量型センサ10の動きについて
図4を参照しながら説明する。
【0046】
図4(b)に示すように、第1導電層11と第2導電層12のいずれか一方の面、例えば第1導電層11が凸となるように静電容量センサ10が湾曲変形すると、第1導電層11の表面が凸状に湾曲し、第2導電層12の表面が凹状に湾曲する。このとき、曲げの中立面が第3導電層13の厚み内にある場合、第3導電層13を基準にすると、凸状に湾曲する第1導電層11及び第1絶縁層14は湾曲頂部から周辺に向けて引っ張り力(矢印A1)が作用して相対的に層厚が薄くなるように変形する。
【0047】
一方で、凹状に湾曲する第2導電層12及び第2絶縁層15は周辺から湾曲底部に向けて圧縮力(矢印A2)が作用して相対的に層厚が厚くなると共に表面積が減少するように変形する。その結果、第1コンデンサ21の静電容量C1が増大する一方で、第2コンデンサ22の静電容量C2が減少するので、この静電容量の変化に基づいて曲げを検出できる。
【0048】
一方、
図4(c)に示すように第1導電層11が凹となるように静電センサが湾曲変形した場合についても、第1導電層11が凸となるように静電容量センサ10が湾曲変形した場合と同様に、静電容量の変化に基づいて曲げを検出することができる。第1導電層11が凹となるように静電容量センサ10が湾曲変形すると、第2導電層12が凸状に湾曲する。
【0049】
このとき、曲げの中立面が第3導電層13の厚み内にある場合、第3導電層13を基準にすると、凹状に湾曲する第1導電層11及び第1絶縁層14は周辺から湾曲底部に向けて圧縮力(矢印B1)が作用して相対的に層厚が厚くなると共に表面積が減少するように変形し、凸状に湾曲する第2導電層12及び第2絶縁層15は湾曲頂部から周辺に向けて引っ張り力(矢印B2)が作用して相対的に層厚が薄くなると共に表面積が増大するように変形する。その結果、第1コンデンサ21の静電容量C1が減少する一方で、第2コンデンサ22の静電容量C2が増大するので、この静電容量の変化に基づいて曲げを検出できる。
【0050】
また、厚み方向に積層された第1及び第2コンデンサ21,22の湾曲変形時に変化する静電容量(C1,C2)の差(ΔC=C1-C2)に基づいて曲げ角度を算出するようにしてもよい。例えば、予め求めた静電容量の差ΔCを変数とする所定の関数に基づいて曲げ角度を算出し、或いは容量の差ΔCに対応して予め設定した角度テーブルに基づいて曲げ角度を求めることができる。所定の関数は、静電容量の差ΔCを、カメラを使ってマーカーの位置をトラッキングするモーションキャプチャで計測した計測対象の曲げ角度を用いて較正する場合、線形の関数を用いることができる。
【0051】
第1及び第2コンデンサ21,22の湾曲変形時に変化する静電容量(C1,C2)は、凸状に湾曲する側の静電容量が凹状に湾曲変形する側の静電容量よりも大きくなるため、第1及び第2コンデンサ21,22の湾曲変形時に変化する静電容量(C1,C2)の差(ΔC=C1-C2)の正負によって、湾曲方向を特定できる。静電容量(C1,C2)の差ΔCが正であった場合は第1コンデンサ21側が凸状に湾曲変形し、静電容量(C1,C2)の差ΔCが負であった場合は第1コンデンサ21側が凹状に湾曲変形していると判断できる。
【0052】
第3導電層13の厚み内に曲げの中立面が位置する場合について説明したが、曲げの中立面が静電容量型センサ10の積層方向の外側に位置する場合においても同様に曲げ及び/又は曲げ角度を検出できる。例えば、中立面が第2導電層12よりも積層方向の外側に位置すると共に、第1導電層11が凸状に変形し第2導電層12が凹状に変形する場合、第1導電層11、第1絶縁層14、第2導電層12、第2絶縁層15は湾曲頂部から周辺に向けて引っ張り力が作用して変形前の状態よりも膜厚が薄くなるように変形する。
【0053】
したがって、第1コンデンサ21の静電容量C1及び第2コンデンサ22の静電容量C2は、共に変形前の静電容量よりも大きくなるが、第1コンデンサ21は、第2コンデンサ22よりも凸側に位置するため、より薄く伸長されるため、第1コンデンサ21の静電容量C1が第2コンデンサ22の静電容量C2よりも大きくなる。その結果、上述のように静電容量(C1,C2)の差(ΔC=C1-C2)の正負および絶対値の大きさに基づいて曲げの方向及び角度を検出できる。
【0054】
図1には、変形検出システム1の信号処理回路の一例を示すブロック図が示されている。変形検出システム1は、例えば1kHz程度の矩形波信号として基準電圧Vsをコンデンサ21,22に出力する交流電源41と、第1コンデンサ21及び第2コンデンサ22の静電容量C1,C2の差ΔCを算出する差分部42と、差分部42で算出された静電容量の差ΔCに基づいて曲げ角度及び方向を算出する演算部43と、演算部43で算出された曲げ角度を表示する表示部44とを備える。
【0055】
差分部42と演算部43と表示部44とは、第1コンデンサ21の静電容量C1の変化と第2コンデンサ22の静電容量C2の変化に基づいて変形を計測する計測部40を構成する。
【0056】
交流電源41から出力された基準電圧Vsは、第1導電層11及び第2導電層12に印加されると共に、第3導電層13がグラウンドに接続されている。差分部42には、参照信号として、第1コンデンサ21の電圧(第1導電層11と第3導電層13の電位差)V1及び第2コンデンサ22の電圧(第2導電層12と第3導電層13の電位差)V2が入力される。静電容量はコンデンサの電圧波形の時間積分値に比例するため、差分部42では、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の静電容量C1,C2の差ΔCを算出するために、参照電圧波形V1,V2の時間積分値の差ΔVが算出される。
【0057】
具体的には、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22からは、それぞれのコンデンサの抵抗によって、基準電圧Vsに対して歪んだ出力電圧波形V1,V2が出力される。
図1のように静電容量型センサ10が変形前の状態では、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の静電容量が一致するように設定されているため、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の出力電圧波形V1及びV2は一致する。したがって、差分部42で算出される第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の出力電圧波形の時間積分値の差ΔVはゼロとなって、変形されていないことが検出される。
【0058】
図5のように静電容量型センサ10の第1コンデンサ21側が凸状となるように湾曲変形した状態では、第1コンデンサ21の静電容量C1が第2コンデンサ22の静電容量C2よりも大きくなるため、第1コンデンサ21の出力電圧波形V1は第2コンデンサ22の出力電圧波形V2よりも相対的に大きくなる。したがって、差分部42で算出される第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の出力電圧波形の時間積分値の差ΔVが正となって、第1コンデンサ21側が凸状となるように変形されていることが検出される。
【0059】
図6のように静電容量型センサ10の第1コンデンサ21側が凹状となるように湾曲変形した状態では、第1コンデンサ21の静電容量C1が第2コンデンサ22の静電容量C2よりも小さくなるため、第1コンデンサ21の出力電圧波形V1は第2コンデンサ22の出力電圧波形V2よりも相対的に小さくなる。したがって、差分部42で算出される第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の出力電圧波形の時間積分値の差ΔVが負となって、第1コンデンサ21側が凸状となるように変形されていることが検出される。
【0060】
演算部43には、算出された出力電圧波形の時間積分値の差ΔVと、所定の関数またはテーブルとに基づいて曲げ変形の角度が算出され、算出された角度は表示部44としてのディスプレイ等に表示されるようになっている。
【0061】
このような構造とされた静電容量型センサは、
図2に示すように人体に装用された状態では、膝部分の屈曲に伴って湾曲変形されることとなり、
図2の例示では人体の膝部分の動きによって発生する膝部分の変化に伴って、静電容量型センサ10が湾曲変形するようになっている。なお、静電容量型センサ10は、積層方向が人体の前後方向とされて、静電容量センサ10の長さ方向に直交する曲率半径で湾曲変形するように貼り付けられる。
【0062】
また、静電容量型センサ10は、人体の姿勢の変化(膝部分の屈曲)に伴う外力の作用により、その長さ方向の両端に曲げモーメントが生じることで円弧形状に弾性変形されるようになっている。具体的には、
図2に示されているように、センサとして機能する全長Lに亘る曲げ変形領域の長さ方向の両端P1,P2が入力点とされることで、長さ方向の中央点P0が屈曲点となる膝部分91と略一致するように設定されている。
【0063】
具体的には、人体の表面に密着状態で装着された衣服において、体側に沿って膝部分P0を跨いで延びるように配された静電容量型センサ10の一端P1が大腿骨側に固着されると共に、他端P2が脛骨側に固着されることにより、膝部分91が屈曲すると静電容量型センサ10の両端P1,P2を通じて曲げモーメントが静電容量型センサ10の全体に作用する。
【0064】
これにより、
図2(a)に示された膝部分の伸長状態から、
図2(b)に示されているように前方に踏み出した屈曲状態をとることで、静電容量型センサ10には、両端P1, P2間で円弧状の湾曲が生じる。そして、この湾曲状態の曲率半径Rが、膝部分91の屈曲角度θに対応した値となる。
【0065】
上述のように、変形検出システム1によって、計測対象に貼付けられた静電容量型センサ10の静電容量を検出し、計測対象の屈曲に伴って曲げ変形が生じる静電容量型センサ10の静電容量の初期形状からの変化量を求めることで、静電容量の変化量から静電容量型センサ10の曲げ角度θを算出することができる。
【0066】
なお、本実施形態では、静電容量型センサ10の長さ方向の中央点P0が膝部分91と一致するように設定したが、これに限られるものではなく、静電容量型センサ10の曲率と計測部分の曲率とが一致していればよい。具体的には、静電容量型センサ10が膝部分91を十分に跨いだ状態で張り付けられていればよい。
【0067】
図7は、
図1に示された本実施形態の静電容量型センサ10を人体の膝部分に貼付け、モーションキャプチャによって実測された膝部分の湾曲変形角度と、静電容量変化量の検出値とを示すグラフである。このグラフは横軸に時間(s)をとり、縦軸に湾曲変形角度及び静電容量変化量をとっている。モーションキャプチャによって実測された膝部分の湾曲変形角度を破線で示し、静電容量変化量の検出値を実線で示している。
【0068】
なお、各絶縁層は、エラストマ製の厚さが約0.1mm、誘電率5、伸び率100%のシートを採用した。また、各導電層としては、エラストマ製の厚さが約0.1mm、表面抵抗率1Ω/sq.、伸び率100%、導電性フィラー配合量50~60質量%のシートを採用した。
【0069】
図7のグラフに示された実験結果から、本発明の静電容量型センサ10を備えた変位検出システム1が、人体の変形を精度よく検出できることがわかる。
【0070】
以上の構成により、本発明によれば、静電容量型センサ10は、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22とが、第3導電層13を共有して構成されているので、第1コンデンサ11と第2コンデンサ12とを個別に設ける場合に比べて、基準部材と基準部材の一方側に配置される導電層との2つの部材が不要になるので、静電容量型センサ10の厚みが低減する。その結果、静電容量型センサ10の剛性が低減されて、計測対象の変形への追従性を向上できる。(計測対象の変形が阻害されることが抑制できる。)また、部材の削減によって、コストも低減できる。
【0071】
さらに、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22とは、第3導電層13を共有しているため、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の静電容量の差分から曲げ変形を計測する場合に、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22との間に基準部材を設ける場合に比べて、第1及び第2コンデンサ21,22の特性が合わせやすく、コンデンサ21,22のばらつきが抑制されるので、コンデンサ21,22のばらつきを較正するためのコストを削減できる。
【0072】
変形前の状態において、第1コンデンサ21の静電容量C1と、第2コンデンサ22の静電容量C2とが同じになるように設定されているので、変形後の第1コンデンサ21の静電容量C1と、第2コンデンサ22の静電容量C2との差ΔCから変形を検出できるので、変形前に第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の静電容量に差がある場合に比して、変形量の算出が簡素化できる。変形前後の第1コンデンサ21の静電容量の変化量及び第2コンデンサ22の静電容量の変化量を求める必要がない。
【0073】
第1導電層11と第2導電層12は、同一の材料で構成されているので、第1コンデンサ21と、第2コンデンサ22の特性を一致させやすく、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22のばらつきによるコストの増大が回避できる。
【0074】
各導電層11,12,13と各絶縁層14,15の伸長率が120%以上に設定されているので、計測対象に対する良好な追従性が得られる。
【0075】
各導電層11,12,13と各絶縁層14,15の厚さが0.5mm以下に設定されているので、静電容量型センサ10の剛性が計測対象の変形を阻害することがない。
【0076】
各導電層11,12,13の表面抵抗率が100Ω/sq.以下に設定されているので、導電層内に配合される導電性フィラーの配合量が多いほど導電性フィラー同士の接触が増加し、導電層内の電荷の分布の偏りが抑制されて計測精度を向上できる。また、導電層内導電性フィラー間での静電容量型の結合が抑制されて、応答性と計測精度を確保できる。
【0077】
各絶縁層14,15の誘電率が3以上に設定されているので、誘電率を高めることで、静電容量を増大させることができるので、変形時の静電容量が計測しやすく、計測対象の変形を計測しやすい。
【0078】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0079】
実施形態においては、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の変形前状態の静電容量が一致しており、第1及び第2コンデンサ21,22の湾曲変形時に変化する静電容量(C1,C2)の差(ΔC=C1-C2)に基づいて曲げ角度を算出することを例に説明したが、これに限られるものではない。
【0080】
例えば、第1コンデンサ21と第2コンデンサ22の変形前の状態の静電容量に差があってもよい。この場合、変形時の第1及び第2コンデンサ21,22の静電容量(C1,C2)から予めコンデンサ21,22の仕様によって設定されている変形前の各静電容量C10,C20を除いた変化量(ΔC1=C1-C10,ΔC2=C2-C20)の差(ΔC1-ΔC2)から曲げを検出してもよい。
【0081】
また、本実施形態では、静電容量型センサ10の製造方法として、各導電層及び各絶縁層を予め所定の大きさに切り出した後に熱圧着する構成を説明したが、これに限られるものではない。例えば、既製品の各導電層及び各絶縁層を積層させて熱圧着させた後に所定の大きさに切り出して製造してもよい。
【0082】
また、本実施形態では、静電容量型センサ10の製造方法として、各導電層及び各絶縁層のそれぞれを接着するためのホットメルトシートを用いる構成を説明したが、これに限られるものではない。例えば、各導電層及び各絶縁層を未加硫の状態で積層し、所定の条件下でプレスして加硫接着してもよい。この場合、各導電層及び各絶縁層とは、ホットメルトシートを用いずに、互いの粘着力により接着されてもよい。
【0083】
また、例えば、静電容量型センサ10を構成する絶縁層13と一対の導電層11,12を複数積層することも可能であり、静電容量の変化量を大きくして測定精度の向上を図ることもできる。
【0084】
実施形態では、膝部分の変形を検出する静電容量型センサ10を備えた変形検出システム1に本発明を適用したものを例示したが、これに限られるものではなく、背中部分、肩、肘、胸部、股関節等の人体の変形を検出する静電容量型センサ10として、いずれも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明によれば、計測対象の変形の阻害を抑制しつつ、計測対象の変形を計測することができる静電容量型センサを提供することができるから、静電容量型センサ関連産業の分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0086】
1 変形検出システム
10静電容量型センサ。
11 第1導電層
12 第2導電層
13 第3導電層
14 第1絶縁層
15 第2絶縁層と
21 第1コンデンサ
22 第2コンデンサ