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特開2023-32488部分放電検出方法及び部分放電検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032488
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】部分放電検出方法及び部分放電検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20230302BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138648
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】額賀 淳
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆浩
【テーマコード(参考)】
2G015
2G036
【Fターム(参考)】
2G015AA07
2G015AA09
2G015AA10
2G015AA11
2G015BA04
2G015CA01
2G036AA13
2G036AA20
2G036BA05
2G036CA08
2G036CA10
(57)【要約】
【課題】
本発明は、気中放電と部分放電とが混在する状況下において、気中放電と部分放電とを分離し、好適に部分放電を検出する部分放電検出方法を提供する。
【解決手段】
本発明の部分放電検出方法は、タンクの内部に設置される機器における部分放電の発生の有無を検出するため、過渡接地電圧を検出し、一方は接地の第1TEVセンサであり、他方は非接地の第2TEVセンサである、2つのTEVセンサから、2つの時間信号を取得し、2つの時間信号を、フーリエ変換によって、2つの周波数信号に変換し、2つの周波数信号に基づいて、差分成分の周波数信号を取得し、差分成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、差分成分の時間信号に変換し、差分成分の時間信号に基づいて、部分放電信号を取得することを特徴とする。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクの内部に設置される機器における部分放電の発生の有無を検出するため、過渡接地電圧を検出し、一方は接地の第1TEVセンサであり、他方は非接地の第2TEVセンサである、2つのTEVセンサから、2つの時間信号を取得し、前記2つの時間信号を、フーリエ変換によって、2つの周波数信号に変換し、前記2つの周波数信号に基づいて、差分成分の周波数信号を取得し、前記差分成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、差分成分の時間信号に変換し、前記差分成分の時間信号に基づいて、部分放電信号を取得することを特徴とする部分放電検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載する部分放電検出方法であって、
少なくとも非接地の第2TEVセンサに金属板を設置することを特徴とする部分放電検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載する部分放電検出方法であって、
前記金属板の形状をボウタイアンテナ形状とすることを特徴とする部分放電検出方法。
【請求項4】
請求項1に記載する部分放電検出方法であって、
前記第1TEVセンサを、タンクの側面の金属部分に、直接、設置することを特徴とする部分放電検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載する部分放電検出方法であって、
前記第1TEVセンサを、少なくとも3つ以上設置し、それぞれの第1TEVセンサにおける部分放電の到達時間から、部分放電発生源とそれぞれの第1TEVセンサとの間の距離を取得し、部分放電発生源の位置を特定することを特徴とする部分放電検出方法。
【請求項6】
請求項2に記載する部分放電検出方法であって、
前記2つのTEVセンサを、前記金属板に設置する切り替えスイッチによって実現することを特徴とする部分放電検出方法。
【請求項7】
タンクの内部の機器における部分放電の発生の有無を検出するため、過渡接地電圧を検出し、一方は接地の第1TEVセンサであり、他方は非接地の第2TEVセンサである、2つのTEVセンサと、
前記2つのTEVセンサから、2つの時間信号を取得し、前記2つの時間信号を、フーリエ変換によって、2つの周波数信号に変換し、前記2つの周波数信号に基づいて、差分成分の周波数信号を取得し、前記差分成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、差分成分の時間信号に変換し、前記差分成分の時間信号に基づいて、部分放電信号を取得する信号検出装置と、
を有することを特徴とする部分放電検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧装置における、気中放電と高電圧装置の内部で発生する放電(以下、「部分放電」と称する場合がある)を好適に分離する部分放電検出方法及び部分放電検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配電盤、スイッチギヤ、変圧器、開閉器などの高電圧装置は、設置されてから長期間使用され、それに伴い絶縁性能の低下(絶縁異常)などの経年劣化が発生する。高電圧装置において、絶縁性能が低下すると、高電圧装置の内部で、部分放電が発生することが一般的に知られている。特に、高電圧装置の内部で、繰返し部分放電が発生すると、絶縁破壊に至り、火災などの災害につながる恐れがある。そこで、高電圧装置を安全に運用するためには、部分放電を検出することが重要である。
【0003】
こうした技術分野にける背景技術として、例えば、特開09-068556号公報(以下、特許文献1と称する)や特開10-210647号公報(以下、特許文献2と称する)がある。
【0004】
特許文献1には、電気機器の絶縁異常に伴って発生する部分放電によって発生する電磁波を検出し、絶縁異常を判定する電気機器用絶縁診断装置が記載され、電気機器として多相交流用電気機器を対象とし、電気機器の各相に設置され、各相の電磁波を検出する検出手段と、各相の検出手段の出力レベルを監視比較し、多相の内、1相以上の出力レベルが基準レベルを超え、かつ、多相の内、1相のみが特異的に出力レベルが高い場合に、絶縁異常が発生したと判定する判定手段と、を有する電気機器用絶縁診断装置が記載されている(特許文献1の要約参照)。
【0005】
また、特許文献2には、部分放電による電磁波と外来ノイズとを判定する電気機器の絶縁異常診断装置が記載され、ノイズアンテナによって外来ノイズを検出し、300~1000MHzの診断周波数帯で、外来ノイズが少ない周波数を所定数選択し、これらを診断周波数として決定し、診断処理時に、異常電磁波検出アンテナが検出した信号の内、診断周波数の検出信号を使用し、絶縁異常の有無を判定する判定部を有する電気機器の絶縁異常診断装置が記載されている(特許文献2の要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09-068556号公報
【特許文献2】特開平10-210647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、外来ノイズの影響を受けずに、部分放電によって発生する電磁波を検出する電気機器用絶縁診断装置が記載され、特許文献2には、部分放電によって発生する電磁波と外来ノイズとを判定する電気機器の絶縁異常診断装置が記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1や特許文献2には、気中放電と部分放電とが混在する状況下において、気中放電と部分放電とを分離し、好適に部分放電を検出する部分放電検出方法及び部分放電検出装置は記載されていない。
【0009】
そこで、本発明は、気中放電と部分放電とが混在する状況下において、気中放電と部分放電とを分離し、好適に部分放電を検出する部分放電検出方法及び部分放電検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するため、本発明の部分放電検出方法は、タンクの内部に設置される機器における部分放電の発生の有無を検出するため、過渡接地電圧を検出し、一方は接地の第1TEVセンサであり、他方は非接地の第2TEVセンサである、2つのTEVセンサから、2つの時間信号を取得し、2つの時間信号を、フーリエ変換によって、2つの周波数信号に変換し、2つの周波数信号に基づいて、差分成分の周波数信号を取得し、差分成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、差分成分の時間信号に変換し、差分成分の時間信号に基づいて、部分放電信号を取得することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の部分放電検出装置は、タンクの内部の機器における部分放電の発生の有無を検出するため、過渡接地電圧を検出し、一方は接地の第1TEVセンサであり、他方は非接地の第2TEVセンサである、2つのTEVセンサと、2つのTEVセンサから、2つの時間信号を取得し、2つの時間信号を、フーリエ変換によって、2つの周波数信号に変換し、2つの周波数信号に基づいて、差分成分の周波数信号を取得し、差分成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、差分成分の時間信号に変換し、差分成分の時間信号に基づいて、部分放電信号を取得する信号検出装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気中放電と部分放電とが混在する状況下において、気中放電と部分放電とを分離し、好適に部分放電を検出する部分放電検出方法及び部分放電検出装置を提供することができる。
【0013】
なお、上記した以外の課題、構成及び効果については、下記する実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する説明図である。
図2】実施例1に記載するタンク4において検出したTEVセンサ1aとTEVセンサ1bとの検出信号を説明する説明図である。
図3】検出信号のフーリエ変換による周波数信号を説明する説明図である。
図4】周波数信号を演算処理した演算結果を説明する説明図である。
図5】演算結果の逆フーリエ変換による時間信号を説明する説明図である。
図6】実施例1に記載する信号検出装置3における信号処理のフローを説明する説明図である。
図7】実施例1に記載する部分放電の電荷量を同定する校正データを説明する説明図である。
図8】実施例1に記載する金属板2を説明する説明図である。
図9】実施例2に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する説明図である。
図10】実施例3に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する説明図である。
図11】実施例4に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を使用し、本発明の実施例を説明する。なお、各図面において、実質的に同一又は類似の構成については、同一の符号を使用し、説明する。各図面において、説明が重複する場合には、重複する説明を省略する場合がある。
【実施例0016】
先ず、実施例1に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する。
【0017】
図1は、実施例1に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する説明図である。
【0018】
実施例1では、模式的に、高電圧装置は、部分放電12の発生の有無を検出したい機器を内部に有するタンク4と、タンク4の内部の機器に、印加線13及び高電圧ブッシング6を介して、高電圧を供給する外部電源7と、有し、タンク4の内部の機器は、絶縁物5と、絶縁物5が絶縁する絶縁対象9と、を有する。
【0019】
そして、絶縁対象9の一方は高圧ブッシング6に接続され、絶縁対象9の他方は接地される。
【0020】
タンク4の内部の機器には、印加線13及び高電圧ブッシング6を介して、外部電源7から、高電圧が供給される。この際、高電圧ブッシング6の気中部分において、高電圧ブッシング6から気中放電11が頻繁に発生する。
【0021】
一方、タンク4の内部の機器が長期間使用された場合、それに伴い絶縁物5に、絶縁性能の低下などの経年劣化が発生する。つまり、絶縁物5の内部にボイド10が発生し、絶縁物5の絶縁性能が低下する。そして、タンク4の内部の機器に高電圧が供給されると、絶縁物5の内部に発生したボイド10に起因し、タンク4の内部において、絶縁物5から部分放電12が発生する。
【0022】
一般的に、気中放電11と部分放電12とは、ほぼ同じタイミングで発生するため、通常のアンテナによる放電信号検出では、気中放電信号と部分放電信号とが重畳し、部分放電信号のみを検出することは困難である。
【0023】
そこで、実施例1では、過渡接地電圧(Transient Earth Voltage、以下、TEVと称する)を検出する2つのTEVセンサ1(TEVセンサ1a及びTEVセンサ1b)を使用する。
【0024】
そして、TEVセンサ1a及びTEVセンサ1bには、それぞれ金属板2が設置される。TEVセンサ1a及びTEVセンサ1bは、それぞれ金属板2の表面に誘起される表面電流を電圧信号(検出信号)として検出し、出力する。
【0025】
金属板2を有するTEVセンサ1a及び金属板2を有するTEVセンサ1bは、いずれも、タンク4の外部(外側)に設置され、部分放電を検出したい機器の周囲(タンク4の周囲)に設置される。
【0026】
そして、一方の、例えば、金属板2を有するTEVセンサ1aの金属板2には、接地線8を接続し、他方の、例えば、金属板2を有するTEVセンサ1bの金属板2には、接地線8を接続しない。なお、接地線8は、絶縁対象9の他方が接地し、タンク4に接続する接地線に接続される。
【0027】
つまり、TEVセンサ1aは接地電位となり、TEVセンサ1bは浮遊電位となる。
【0028】
TEVセンサ1aは、絶縁物5から発生する部分放電信号を、タンク4に接続する接地線とTEVセンサ1aの金属板2とを接続する接地線8を介して、検出する。同時に、TEVセンサ1aは、気中放電信号をアンテナとして検出する。
【0029】
なお、TEVセンサ1aは、気中放電信号及び部分放電信号を同時に検出する。但し、気中放電信号は、電磁波としてTEVセンサ1aに到達するため、接地線8を介して到達する部分放電信号よりも、早く検出される。
【0030】
一方、TEVセンサ1bは、気中部分を伝搬する気中放電信号をアンテナとして検出する。
【0031】
そして、TEVセンサ1a及びTEVセンサ1bは、それぞれ、計測線14を介して、信号検出装置3と接続する。また、信号検出装置3は、表示装置15と接続する。信号検出装置3は、TEVセンサ1a及びTEVセンサ1bが検出する電圧信号の到達時刻と信号強度とを記憶する。なお、TEVセンサ1a及びTEVセンサ1bの電圧信号の検出タイミングを同期させる。また、表示装置15は、後述する図2図3図4図5図7などを表示する。
【0032】
次に、実施例1に記載するタンク4において検出したTEVセンサ1aとTEVセンサ1bとの検出信号を説明する。
【0033】
図2は、実施例1に記載するタンク4において検出したTEVセンサ1aとTEVセンサ1bとの検出信号を説明する説明図である。
【0034】
図2は、時間(例えば、μ秒)と信号強度(例えば、mV)との関係を示すものであり、信号強度とは、TEVセンサ1aとTEVセンサ1bとが検出した検出信号であり、電圧信号である。
【0035】
また、図2の上段は、TEVセンサ1bが検出した検出信号(非接地)を示し、図2の下段は、TEVセンサ1aが検出した検出信号(接地)を示す。
【0036】
図2に示すように、タンク4において検出した、TEVセンサ1aの検出信号(出力信号)とTEVセンサ1bの検出信号(出力信号)とは、相違する。TEVセンサ1aの検出信号(下段)には、気中放電信号成分と部分放電信号成分とが含まれるため、信号強度は大きく、TEVセンサ1bの検出信号(上段)には、気中放電信号成分のみが含まれるため、信号強度は小さい。
【0037】
なお、TEVセンサ1aにおいては、気中放電信号及び部分放電信号を同時に検出する。気中放電信号は、電磁波としてTEVセンサ1aに到達するため、接地線8を介して到達する部分放電信号よりも、早く検出される。
【0038】
次に、検出信号のフーリエ変換による周波数信号を説明する。
【0039】
図3は、検出信号のフーリエ変換による周波数信号を説明する説明図である。
【0040】
図3(a)は、図2と同様の図面であり、図3(b)は、図3(a)の下段をフーリエ変換した図面(接地)であり、図3(c)は、図3(a)の上段をフーリエ変換した図面(非接地)である。なお、図3(b)及び図3(c)は、周波数(例えば、Hz)と信号強度(例えば、無次元:エネルギー相対比)との関係を示すものである。
【0041】
TEVセンサ1aの検出信号(接地)及びTEVセンサ1bの検出信号(非接地)の時間領域の信号を、フーリエ変換によって、それぞれの周波数領域の信号に変換する。つまり、接地及び非接地のそれぞれ時間信号(検出信号)を、フーリエ変換によって、接地及び非接地のそれぞれの周波数信号に変換する。
【0042】
図3(b)及び図3(c)に示すように、接地電位としたTEVセンサ1aの周波数スペクトル(気中放電信号成分及び部分放電信号成分を含む)には、低周波成分を多く含み、浮遊電位としたTEVセンサ1bの周波数スペクトル(気中放電信号成分のみを含む)には、高周波成分を多く含む。
【0043】
これは、TEVセンサ1aの検出信号には、重畳した気中放電信号と部分放電信号とが検出され、TEVセンサ1bの検出信号には、気中放電信号のみが検出されるためである。
【0044】
つまり、TEVセンサ1aの検出信号は、接地線8を介して検出されるため、接地線8を伝搬する際に、接地線8の対地静電容量の影響によって、ローパスフィルターと同等の効果が発生し、低周波成分が多くなる。
【0045】
次に、周波数信号を演算処理した演算結果を説明する。
【0046】
図4は、周波数信号を演算処理した演算結果を説明する説明図である。
【0047】
図4(a)は、図3(b)と同様の図面であり、図4(b)は、図3(c)と同様の図面である。
【0048】
そして、図4(a)に示す接地の周波数スペクトル(周波数信号)と図4(b)に示す非接地の周波数スペクトル(周波数信号)とに基づいて、演算処理(論理演算)し、AND成分と差分成分とを抽出する。
【0049】
つまり、2つの周波数スペクトルにおける周波数信号から、AND成分(AND成分の演算処理スペクトル)を抽出することによって、気中放電の周波数スペクトルを抽出し、差分成分(差分成分の演算処理スペクトル)を抽出することによって部分放電の周波数スペクトルを抽出する。
【0050】
なお、AND成分の演算は、接地の周波数信号と非接地の周波数信号とを比較して、小さい周波数信号を抽出する演算であり、差分成分の演算は、接地の周波数信号から非接地の周波数信号を減算し、減算された周波数信号の絶対値を抽出する演算である。
【0051】
次に、演算結果の逆フーリエ変換による時間信号を説明する。
【0052】
図5は、演算結果の逆フーリエ変換による時間信号を説明する説明図である。
【0053】
図5(a)は、図4(c)と同様の図面であり、図5(b)は、図4(d)と同様の図面である。図5(c)は、図5(a)を逆フーリエ変換した図面(気中放電)であり、図5(d)は、図5(b)の逆フーリエ変換した図面(部分放電)である。なお、図5(c)及び図5(d)は、時間(例えば、μ秒)と信号強度(例えば、mV)との関係を示すものである。
【0054】
このように、逆フーリエ変換によって、周波数領域の信号を時間領域の信号に変換する。つまり、AND成分及び差分成分のそれぞれ周波数信号を、逆フーリエ変換によって、気中放電及び部分放電のそれぞれの時間信号に変換する。
【0055】
これにより、気中放電の時間信号と部分放電の時間信号とが検出される。
【0056】
そして、部分放電における時間と信号強度との関係(図5(d))に基づいて、絶縁物5の内部に発生したボイド10に起因した、タンク4の内部の機器における部分放電12の発生の有無を検出することができる。つまり、タンク4の内部の機器の絶縁状態を把握することができる。
【0057】
次に、実施例1に記載する信号検出装置3における信号処理のフローを説明する。
【0058】
図6は、実施例1に記載する信号検出装置3における信号処理のフローを説明する説明図である。
【0059】
(1)S101において、TEVセンサ1a(第1TEVセンサ)及びTEVセンサ1b(第2TEVセンサ)を使用し、接地の検出信号及び非接地の時間信号(時間に対する信号強度の信号)を取得する(図2参照)。
【0060】
(2)S102において、TEVセンサ1aの検出信号(接地)の時間信号を、フーリエ変換によって、周波数信号に変換し、TEVセンサ1bの検出信号(非接地)の時間信号を、フーリエ変換によって、周波数信号(周波数に対する信号強度の信号)に変換する(図3参照)。
【0061】
(3)S103において、接地の周波数信号と非接地の周波数信号とに基づいて、演算処理し、AND成分の周波数信号と差分成分の周波数信号とを取得する(図4参照)。つまり、2つの周波数信号の共通の信号成分(AND成分)を、気中放電成分とし、2つの周波数信号の残った信号成分(差分成分)を、部分放電成分とする。
【0062】
(4)S104において、AND成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、AND成分の時間信号に変換し、差分成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、差分成分の時間信号に変換する(図5参照)。
【0063】
(5)S105において、AND成分の時間信号に基づいて、気中放電信号を取得し、差分成分の時間信号に基づいて、部分放電信号を取得する(図5参照)。
【0064】
このように、実施例1に記載する部分放電検出方法は、タンク4の内部に設置される機器における部分放電12の発生の有無を検出するため、タンク4の周囲に設置され、過渡接地電圧を検出し、一方は接地のTEVセンサ1a(第1TEVセンサ)であり、他方は非接地のTEVセンサ1b(第2TEVセンサ)である、2つのTEVセンサ1から、2つの時間信号を取得し、これら2つの時間信号を、フーリエ変換によって、2つの周波数信号に変換し、これら2つの周波数信号に基づいて、差分成分の周波数信号を取得し、この差分成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、差分成分の時間信号に変換し、差分成分の時間信号に基づいて、部分放電信号を取得する。
【0065】
また、実施例1に記載する部分放電検出装置は、タンク4の内部に設置される機器における部分放電12の発生の有無を検出するため、タンク4の周囲に設置され、過渡接地電圧を検出し、一方は接地のTEVセンサ1a(第1TEVセンサ)であり、他方は非接地のTEVセンサ1b(第2TEVセンサ)である、2つのTEVセンサ1と、2つのTEVセンサ1から、2つの時間信号を取得し、これら2つの時間信号を、フーリエ変換によって、2つの周波数信号に変換し、これら2つの周波数信号に基づいて、差分成分の周波数信号を取得し、この差分成分の周波数信号を、逆フーリエ変換によって、差分成分の時間信号に変換し、差分成分の時間信号に基づいて、部分放電信号を取得する信号検出装置3と、を有する。
【0066】
これにより、気中放電信号と部分放電信号とが検出され、タンク4の内部の機器における部分放電12の発生の有無を検出することができる。そして、部分放電信号に基づいて、タンク4の内部の機器の絶縁状態を把握することができる。
【0067】
このように、実施例1によれば、部分放電12を検出する際に、高電圧ブッシング6など気中に露出する箇所で発生する気中放電11(ラジオ波などの電磁波の外来ノイズを含む)が、検出対象である機器で発生する部分放電12に重畳するが、この部分放電12のみを検出することができる。
【0068】
また、実施例1によれば、TEVセンサ1を使用し、部分放電12を検出する際に、周波数を所定数選択する必要がなく、診断周波数を決定する必要もなく、部分放電12のみを検出することができる。
【0069】
つまり、実施例1によれば、接地と非接地との2つのTEVセンサ1を使用し、これら2つのTEVセンサ1からの出力信号を信号処理することによって、気中放電11と部分放電12とが混在する状況下において、気中放電11と部分放電12とを分離し、外来ノイズが大きな環境においても、好適に部分放電12を検出することができる。
【0070】
次に、実施例1に記載する部分放電の電荷量を同定する校正データを説明する。
【0071】
図7は、実施例1に記載する部分放電の電荷量を同定する校正データを説明する説明図である。
【0072】
ここでは、検出した部分放電12の電荷量の大きさを同定する。
【0073】
先ず、検出した部分放電12の電荷量の大きさを同定するため、校正データを取得する。
【0074】
図7に示す校正データは、横軸が検出信号強度(mV)であり、縦軸が校正信号強度(pC)である。
【0075】
この校正データは、以下の手順によって、取得する。
(1)先ず、事前に、放電電荷量が既知の放電発生装置又は信号発生装置を、機器に接続し、放電又は信号を発生させる。
(2)次に、TEVセンサ1a及びTEVセンサ1bを使用し、接地の検出信号及び非接地の時間信号を取得する。そして、上記した信号処理のフローに則って、部分放電信号を取得する。
(3)これを数種類の大きさの放電電荷量で実施し、検出信号強度と校正信号強度との特性曲線(校正データ)を取得する。
(4)そして、この校正データを使用し、或る時間における、部分放電12の信号強度(検出信号強度)に基づいて、検出した部分放電12の電荷量の大きさ(校正信号強度)を同定する。
【0076】
これにより、検出した部分放電12の電荷量の大きさを同定することができる。
【0077】
次に、実施例1に記載する金属板2を説明する。
【0078】
図8は、実施例1に記載する金属板2を説明する説明図である。
【0079】
ここでは、TEVセンサ1a及びTEVセンサ1bに設置する、例えば、アルミニウムやステンレスからなる金属板2の形状をボウタイアンテナ形状とする。つまり、金属板2は、同形状の2枚の二等辺三角形板からなり、それぞれの二等辺三角形板の頂角が対向するように設置される。
【0080】
なお、気中放電11は、GHz帯域となることが多いため、ボウタイアンテナの周波数特性における中心周波数がGHz帯域となるように、アンテナ長さ及びアンテナ開き角を設定することが好ましく、特に、アンテナ長さを10cm以上及びアンテナ開き角を30度以上とすることが好ましい。実施例1では、アンテナ長さを10cm及びアンテナ開き角を30度とする。
【0081】
これにより、周波数特性を広帯域とすることができ、受信感度を向上させることができる。
【実施例0082】
次に、実施例2に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する。
【0083】
図9は、実施例2に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する説明図である。
【0084】
実施例2では、TEVセンサ1aを、タンク4の側面の金属部分に、直接、設置する。これにより、実施例1と同様の効果を取得することができる。
【0085】
なお、タンク4の内部において発生する放射状の電磁波である部分放電12は、タンク4の壁面の金属部分に誘起し、表面電流を発生する。
【0086】
そして、実施例2によれば、この金属部分に誘起される表面電流を検出することによって、部分放電の信号強度を増加させることができる。
【0087】
なお、実施例2では、TEVセンサ1aに金属板3は設置しない。
【実施例0088】
次に、実施例3に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する。
【0089】
図10は、実施例3に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する説明図である。
【0090】
実施例3では、3つのTEVセンサ1aを、タンク4の側面の金属部分の3箇所に、直接、設置する。これにより、実施例1と同様の効果を取得することができる。
【0091】
また、タンク4の側面の金属部分に設置する3箇所は、それぞれ離した位置とする。具体的には、例えば、タンク4の側面に一つ、タンク4の側面に対向する側面の上端に一つ、及び、タンク4の側面に対向する側面の下端に一つを、設置する。
【0092】
なお、それぞれ離した位置の3箇所にTEVセンサ1aを設置する場合には、部分放電12の電磁波の到達時間が、相違する。そして、3つのTEVセンサ1aの検出信号の第1波の到達時間を比較する。
【0093】
部分放電発生源からTEVセンサ1aまでの距離が短いほど、この到達時間が早くなる。
【0094】
また、部分放電12の電磁波の速度は一定であるため、それぞれのTEVセンサ1aにおける部分放電12の電磁波の到達時間から、部分放電発生源とそれぞれのTEVセンサ1aとの間の距離を取得することができる。
【0095】
そして、実施例3によれば、TEVセンサ1aを3箇所に設置するため、部分放電発生源の位置を特定することができる。つまり、それぞれのTEVセンサ1aから部分放電発生源までの距離を半径とし、それぞれのTEVセンサ1aを中心とした円で示すことができ、この円の重なる部分が、部分放電発生源の位置となる。
【0096】
なお、実施例3では、3つのTEVセンサ1aを3箇所に設置したが、3つ以上のTEVセンサ1aを3箇所以上に設置してもよい。
【0097】
なお、実施例3では、3つのTEVセンサ1aに金属板3は設置しない。
【実施例0098】
次に、実施例4に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する。
【0099】
図11は、実施例4に記載する部分放電検出装置を模式的に説明する説明図である。
【0100】
実施例4では、TEVセンサ1に設置する金属板2に、切り替えスイッチ16を設置する。切り替えスイッチ16の一端は、金属板2に接続し、切り替えスイッチ16の他端は接地線8を接続し、切り替えスイッチ16のON、OFFによって、TEVセンサ1の接地(ON)と非接地(OFF)とを切り替える。つまり、2つのTEVセンサ1を、金属板2に設置する切り替えスイッチ16によって、1つのTEVセンサ1で実現する。これにより、実施例1と同様の効果を取得することができる。
【0101】
そして、実施例4によれば、1つのTEVセンサで接地と非接地とを切り替え、接地と非接地との検出信号を取得することができる。つまり、切り替えスイッチ16を接地とした際には、部分放電信号と気中放電信号とを取得し、切り替えスイッチ16を非接地とした際には、気中放電信号のみを取得する。
【0102】
なお、本発明は下記する実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、下記する実施例は本発明を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されるものではない。
【0103】
また、ある実施例の構成の一部を、他の実施例の構成の一部に置換することもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を追加することもできる。また、各実施例の構成の一部について、それを削除し、他の構成の一部を追加し、他の構成の一部と置換することもできる。
【符号の説明】
【0104】
1…TEVセンサ
2…金属板
3…信号検出装置
4…タンク
5…絶縁物
6…高電圧ブッシング
7…外部電源
8…接地線
9…絶縁対象
10…ボイド
11…気中放電
12…部分放電
13…印加線
14…計測線
15…表示装置
16…切り替えスイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11