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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032495
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】地盤推定方法及び地盤推定システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/02 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
E02D1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138659
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 徹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 国春
(72)【発明者】
【氏名】稲川 雄宣
(72)【発明者】
【氏名】重野 桂子
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA01
2D043AB04
2D043AC01
2D043BA01
(57)【要約】
【課題】削孔地点の地盤情報を、削孔時の削孔データに基づいて高い精度で効率よく取得することである。
【解決手段】削孔地点の地盤情報を削孔時の回転トルクに基づいて推定する地盤推定方法であって、地盤情報のうちの地盤強度を、予め取得したN値推定式を利用して推定し、N値推定式は、実測深度ごとの実測N値が既知の調査地点近傍に設定した基準地点を削孔し、回転トルクを取得する削孔情報取得工程と、基準地点の深度ごとの土質に、任意の土質判定値を付与して基準地点の土質判定結果を取得する土質判定工程と、基準地点の回転トルクについて、深度方向の速度を一定にする速度補正を行ったのち実測深度に対応する代表値を、分析用回転トルクとして算定し、また、基準地点の土質判定結果から実測深度に対応する代表値を、分析用土質判定値として算定する分析準備工程と、実測N値を目的変数とし、分析用回転トルク及び分析用土質判定値を説明変数とする回帰分析を行う推定式取得工程と、により算定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔地点の地盤情報を削孔時の回転トルクに基づいて推定する地盤推定方法であって、
前記地盤情報のうちの地盤強度を、予め取得したN値推定式を利用して推定し、
前記N値推定式は、
実測深度ごとの実測N値が既知の調査地点近傍に設定した基準地点を削孔し、回転トルクを取得する削孔情報取得工程と、
前記基準地点の深度ごとの土質に、任意の土質判定値を付与して前記基準地点の土質判定結果を取得する土質判定工程と、
前記基準地点の回転トルクについて、深度方向の速度を一定にする速度補正を行ったのち前記実測深度に対応する代表値を、分析用回転トルクとして算定し、また、
前記基準地点の土質判定結果から前記実測深度に対応する代表値を、分析用土質判定値として算定する分析準備工程と、
前記実測N値を目的変数とし、前記分析用回転トルク及び前記分析用土質判定値を説明変数とする回帰分析を行う推定式取得工程と、
により算定されることを特徴とする地盤推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤推定方法において、
前記分析準備工程で、前記分析用回転トルクを、
速度補正を行った前記実測深度に対応する代表値に、深度方向の変化幅を前記実測N値の変化幅と同等にする変化幅補正を行って取得することを特徴とする地盤推定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地盤推定方法において、
前記土質判定工程で、前記基準地点の深度ごとの土質を、
前記調査地点の既知の土質区分と前記基準地点の回転トルクとを比較して設定した回転トルクの土質判定閾値と、前記基準地点の回転トルクに基づいて判定することを特徴とする地盤推定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の地盤推定方法において、
前記回転トルクの土質判定閾値に、平均の閾値及び分散の閾値を備え、
前記平均の閾値は、前記基準地点の回転トルクから深度方向に設定した統計処理区間ごとに算定した平均と、前記調査地点の既知の土質区分とに基づいて設定し、
前記分散の閾値は、前記基準地点の回転トルクから前記統計処理区間ごとに算定した分散と、前記調査地点の既知の土質区分とに基づいて設定することを特徴とする地盤推定方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の地盤推定方法において、
前記削孔地点の前記地盤情報のうち土質区分を、前記削孔地点の回転トルクと前記土質判定閾値とに基づいて判定することを特徴とする地盤推定方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の地盤推定方法で採用する地盤推定システムであって、
前記削孔地点及び前記基準地点を削孔する地盤削孔機と、
少なくとも前記N値推定式を算定する地盤推定装置とを備え、
前記地盤推定装置は、
前記地盤削孔機から出力される回転トルクを取得する削孔情報取得部と、
前記基準地点における深度ごとの土質に、任意の土質判定値を付与して前記基準地点の土質判定結果を取得する土質判定部と、
前記削孔情報取得部で取得した前記基準地点の回転トルクから前記分析用回転トルクを算定し、前記土質判定部で取得した前記基準地点の土質判定結果から前記分析用土質判定値を算定する分析準備部と、
前記分析準備部で算定した前記分析用回転トルク及び前記分析用土質判定値を説明変数とし、前記実測N値を目的変数とする回帰分析を行い、前記N値推定式を算定する推定式取得部と、
を備えることを特徴とする地盤推定システム
【請求項7】
請求項6に記載の地盤推定システムにおいて、
前記地盤削孔機が、地盤改良削孔機であることを特徴とする地盤推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、削孔地点の地盤情報を取得するための地盤推定方法、及び地盤推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、地盤に振動や衝撃を与えることなく施工できる地盤改良工法として、薬液注入工法やジェットグラウト工法、静的圧入締固め工法等が広く採用されている。いずれも、地中不可視部にロッドを挿入して地盤改良材を供給し、改良体を造成することにより地盤強化を図る方法である。これらの工法を採用する地盤改良工事では、事前に施工箇所の地盤調査を行って地盤構成や地盤強度を推定し改良仕様を決定する。
【0003】
事前調査としては、調査用ボーリングマシンによる地盤調査を実施する場合が多い。具体的には、施工対象範囲を例えば複数の工区に分割したうえで、工区ごとに地盤調査を実施し、得られた土質データに基づいて専門業者が工区内もしくは施工対象範囲全体の地盤構成やN値を推定する。
【0004】
しかし、ボーリングマシンによる事前調査は、調査時間など様々な制約により工区ごとに1~2本程度と施工本数が限られる場合が多い。すると、推定した調査結果と実際の地盤との間に齟齬が生じやすく、地盤改良体の出来形が不足する等の不具合を招く恐れがある。このため、地盤改良工事では特に、施工対象範囲全体の面的な地盤構成や地盤情報を、精度よく取得できる手段が望まれている。
【0005】
このような中、一般の地質調査法と併用して地盤の分類や相対強度を判定する、掘削パラメータを用いた土質調査方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1に開示されているエンパソルシステムは、削孔機に対して各種センサ類を取付け、これらセンサ類により削孔時のデータを測定し、コンピュータにより解析処理することによって地盤の分類、硬軟等の地盤情報を得るシステムである。
【0006】
具体的には、送水圧(削孔時スライム除去に要する圧力)と削孔速度のパラメータとの組合せにより地層判別を行う。また、回転速度、掘進速度、ビット推力、回転トルクの4つのパラメータから回転エネルギーを得て、地盤強度の評価を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9―242459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されているエンパソルシステムは、ロータリーパーカッションドリルやドリリングマシンなどの削孔能力に優れた削孔機を使用するため、調査速度が速く、また調査孔を利用して様々な注入工事を行うこともできる。したがって、地盤改良工事に採用すれば、施工対象範囲に設定された造成位置で地層判別や地盤強度の評価を行ったのち、調査孔を利用して地盤改良液の注入作業を行うことも可能である。しかし、地盤改良工事の施工現場に調査用の削孔機を搬入して地層判別や地盤強度の評価を行ったのち、地盤改良機との入れ替えを造成位置ごとに繰り返す作業は煩雑であり、多大な作業手間を要する。
【0009】
その一方で、地盤改良工事で使用される地盤改良削孔機とエンパソルシステムを組み合わせる方法も考えられる。しかし、地盤改良削孔機は、地盤改良液の注入作業に用いるロッドを挿入するためのガイド孔を地盤に形成することを目的としているため、ケーシングにリングビットを備えた構造である場合が多い。リングビットは地盤との接触面が小さく、大きな回転トルクを生じない。
【0010】
してみると、回転速度、掘進速度、ビット推力、回転トルクの4つのパラメータから回転エネルギーを得て地盤強度の評価を行うエンパソルシステムとの組み合わせは、必ずしも適しているとはいえず、地盤強度の推定方法に課題が生じる。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、削孔地点の地盤情報を、削孔時の削孔データに基づいて高い精度で効率よく取得することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため本発明の地盤推定方法は、削孔地点の地盤情報を削孔時の回転トルクに基づいて推定する地盤推定方法であって、前記地盤情報のうちの地盤強度を、予め取得したN値推定式を利用して推定し、前記N値推定式は、実測深度ごとの実測N値が既知の調査地点近傍に設定した基準地点を削孔し、回転トルクを取得する削孔情報取得工程と、前記基準地点の深度ごとの土質に、任意の土質判定値を付与して前記基準地点の土質判定結果を取得する土質判定工程と、前記基準地点の回転トルクについて、深度方向の速度を一定にする速度補正を行ったのち前記実測深度に対応する代表値を、分析用回転トルクとして算定し、また、前記基準地点の土質判定結果から前記実測深度に対応する代表値を、分析用土質判定値として算定する分析準備工程と、前記実測N値を目的変数とし、前記分析用回転トルク及び前記分析用土質判定値を説明変数とする回帰分析を行う推定式取得工程と、により算定されることを特徴とする。
【0013】
本発明の地盤推定方法は、前記分析準備工程で、前記分析用回転トルクを、
速度補正を行った前記実測深度に対応する代表値に、深度方向の変化幅を前記実測N値の変化幅と同等にする変化幅補正を行って取得することを特徴とする。
【0014】
本発明の地盤推定方法は、前記土質判定工程で、前記基準地点の深度ごとの土質を、前記調査地点の既知の土質区分と前記基準地点の回転トルクとを比較して設定した回転トルクの土質判定閾値と、前記基準地点の回転トルクに基づいて判定することを特徴とする。
【0015】
本発明の地盤推定方法は、前記回転トルクの土質判定閾値に、平均の閾値及び分散の閾値を備え、前記平均の閾値は、前記基準地点の回転トルクから深度方向に設定した統計処理区間ごとに算定した平均と、前記調査地点の既知の土質区分とに基づいて設定し、前記分散の閾値は、前記基準地点の回転トルクから前記統計処理区間ごとに算定した分散と、前記調査地点の既知の土質区分とに基づいて設定することを特徴とする。
【0016】
本発明の地盤推定方法は、前記削孔地点の前記地盤情報のうち土質区分を、前記削孔地点の回転トルクと前記土質判定閾値とに基づいて判定することを特徴とする。
【0017】
本発明の地盤推定システムは、本発明の地盤推定方法で採用する地盤推定システムであって、前記削孔地点及び前記基準地点を削孔する地盤削孔機と、少なくとも前記N値推定式を算定する地盤推定装置とを備え、前記地盤推定装置は、前記地盤削孔機から出力される回転トルクを取得する削孔情報取得部と、前記基準地点における深度ごとの土質に、任意の土質判定値を付与して前記基準地点の土質判定結果を取得する土質判定部と、前記削孔情報取得部で取得した前記基準地点の回転トルクから前記分析用回転トルクを算定し、前記土質判定部で取得した前記基準地点の土質判定結果から前記分析用土質判定値を算定する分析準備部と、前記分析準備部で算定した前記分析用回転トルク及び前記分析用土質判定値を説明変数とし、前記実測N値を目的変数とする回帰分析を行い、前記N値推定式を算定する推定式取得部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の地盤推定システムは、前記地盤削孔機が、地盤改良削孔機であることを特徴とする。
【0019】
本発明の地盤推定方法及び地盤推定システムによれば、地盤強度及び土質区分が既知の調査地点近傍に基準地点を設定し、この基準地点を削孔して取得した回転トルクと既知の地盤強度及び土質区分に基づいて、N値推定式を算定し、また土質判定閾値を設定する。
【0020】
これにより、基準地点の削孔に使用した地盤削孔機を採用すれば、削孔地点の削孔作業時に取得した回転トルクとN値推定式とに基づいて、削孔地点の推定N値を算定することができる。また、削孔作業時に取得した回転トルクと土質判定閾値とに基づいて、削孔地点の土質区分を判定することができる。したがって、いずれの地盤削孔機を採用しても、削孔地点の地盤情報を、削孔時の削孔データに基づいて高い精度で効率よく取得することが可能となる。
【0021】
このように、地盤削孔機になんら制約がなく高い汎用性を有するため、例えば地盤との接触面積が小さいリングビットを採用した削孔機を利用することもできるなど、削孔作業を伴う様々な工事で利用でき、取得した地盤情報を実施予定の工事に反映させることが可能となる。
【0022】
例えば、地盤削孔機として地盤改良削孔機を採用した場合には、削孔地点となる造成地点の土質区分及び地盤強度を、削孔作業と同時に推定することができる。これにより、薬液注入工法やジェットグラウト工法、静的圧入締固め工法等の地盤改良工事で用いると、造成地点の実地盤に応じた改良仕様で地盤改良材を地盤に供給し、改良体を造成することができる。このため、出来形不足などの不具合が生じにくく、改良体品質の向上に寄与することが可能となる。
【0023】
また、地盤改良範囲に設定された造成地点ごとに土質区分及び地盤強度を推定できることから、この推定結果に基づいて地盤改良範囲全域の地盤情報を面的に把握することが可能となる。これにより、任意の造成地点で改良体の造成作業を実施する場合に、地盤改良液の流亡など不具合が生じる可能性のある個所を早期の段階で確認できる。したがって、効果的な対策を迅速に実施し、地盤改良工事の施工性を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、地盤情報が既知の調査地点近傍に設定した基準地点で地盤削孔を行って、地盤強度の推定に用いるN値推定式、及び土質区分を判定する土質判定閾値を取得するため、基準地点で使用した地盤削孔機を用いることで、削孔地点の地盤情報を、削孔時の削孔データに基づいて高い精度で効率よく取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態における地盤推定システムを示す図である。
図2】本発明の実施の形態における柱状図と回転トルクの関係を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における回転トルクの平均・分散と土質判定閾値による土質判定結果を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における回帰分析結果を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における回転トルクの速度補正及び変化幅補正に係るグラフを示す図である。
図6】本発明の実施の形態における地盤推定装置を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における地盤改良工事の施工現場を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における地盤推定方法の流れを示す図である。
図9】本発明の実施の形態における分析用回転トルク及び分析用土質判定値の取得手順を示す図である。
図10】本発明の実施の形態における回帰分析に用いる調査地点のN値(実測N値)、分析用回転トルクT及び分析用土質判定値Dの一覧を示す図である。
図11】本発明の実施の形態における造成地点の推定N値の算出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、地盤を削孔する際に連続して取得可能な削孔データから、深度方向の土質区分及び地盤強度を推定しようとするものである。機械削孔であればいずれの手段による地盤削孔にも適用可能であるが、特に地盤接触面が小さいリングビットを備えたケーシング削孔に効果を発揮する方法及びシステムである。
【0027】
以下に、地盤改良体の造成地点で地盤情報を推定する場合を事例に挙げ、図1図11を参照しつつ地盤推定方法及び地盤推定システムの詳細を説明する。これに先立ち、地盤改良工事で採用する地盤改良削孔機について説明する。
【0028】
≪≪地盤改良削孔機≫≫
薬液注入工法やジェットグラウト工法、静的圧入締固め工法等の地盤改良工事では、地盤に挿入した注入ロッドを介して地盤改良材を供給し、図1で示すような改良体40を造成する。このため、事前に注入ロッドを挿入するためのガイド孔41を、地盤改良削孔機20を用いて削孔する。
【0029】
地盤改良削孔機20は、削孔機本体21より回転力と推進力を付与される削孔ケーシング27と、その先端に装着されるリングビット271とを備える。また、削孔機本体21には、リングビット271の地中深度を測定する変位量センサ24と、削孔ケーシング27の回転トルク、フィード圧、チャック圧等を測定する圧力センサ25とを備える。
【0030】
さらに、削孔時に生じるスライムを排出するべく削孔ケーシング27内に削孔水を送水する送水ポンプ22と、送水圧を測定する圧力センサ23と、各種センサ(23、24、25)各々が取得する情報を読み取るデータロガー26が設置されている。データロガー26は、読み取った情報を時刻ごとに収集整理し、これらを後述する地盤推定装置30に削孔データとして出力する。データロガー26より出力される削孔データは少なくとも、削孔深度、削孔時間、フィード速度、回転トルク、フィード圧を含む。
【0031】
≪≪地盤推定方法の概略≫≫
上記の地盤改良削孔機20を用いて、調査ボーリングを実施した調査孔の近傍を削孔したところ、地盤との接触面が小さいリングビット271によるケーシング削孔であっても深度方向に土質が変化する様子が回転トルクの変化に表れる、といった知見を得た。図2に、調査ボーリングを実施して入手した柱状図と、調査孔の近傍を削孔した際に取得した回転トルクのデータを示す。
【0032】
図2を見ると、調査孔近傍の地盤は、砂質土と粘性土とが深度方向に複数の層をなす土質構成であり、深度方向にN値が大きくなっている様子がわかる。そして、この土質構成と調査孔の近傍を削孔して得た回転トルクを比較すると、砂質土で回転トルクが増大し、粘性土で回転トルクが減少する様子がわかる。また、N値と回転トルクを比較すると、回転トルクもN値に対応して増大している様子がわかる。
【0033】
そこで、地盤推定方法では、図1で示すような削孔ケーシング27を貫入した位置、つまり改良体40の造成地点Gの土質区分及び地盤強度(N値)を、造成地点Gの削孔時に取得した回転トルクを利用して推定する。
【0034】
土質区分の判定は、予め土質判定閾値を取得しておき、この土質判定閾値と造成地点Gの回転トルクに基づいて行う。また、地盤強度(N値)は、予めN値推定式を取得しておき、このN値推定式と造成地点Gの回転トルク及び土質判定結果に基づいて行う。これら土質判定閾値とN値推定式は、調査地点Rの近傍に基準地点Cを設定し、基準地点Cを削孔して取得した回転トルクを利用してキャリブレーションを行うことにより取得する。
【0035】
土質判定閾値の取得作業としては、まず、図1で示すように、調査地点Rの近傍に基準地点Cを設定する。調査地点Rは、過去に調査ボーリングを実施して土質区分及び地盤強度(N値)が既知の地点である。この調査地点Rの近傍に設定した基準地点Cで地盤改良削孔機20による削孔を実施し、削孔データを取得する。
【0036】
次に、基準地点Cの削孔により取得した深度方向に連続する回転トルクを、図3(a)(b)で示すように適宜整理して統計処理を行う。この統計処理した回転トルクと調査地点の土質区分とを比較し、統計処理した回転トルクから精度よく砂質土と粘性土とを判別可能な土質判定閾値を決定する。
【0037】
一方、図4で示すようなN値推定式は、目的変数を実測N値、説明変数を分析用土質判定値Dと分析用回転トルクTとする重回帰分析により取得する。このため、まず、分析用土質判定値Dと分析用回転トルクTとを取得する。
【0038】
分析用土質判定値Dの取得作業は、基準地点Cにおいて、上述の土質判定閾値を利用して所定の深度ごとに土質を判定したのち、図3(c)で示すように土質ごとに任意の土質判定値を付与し、これを基準地点Cの土質判定結果として取得する。この土質判定結果から、調査地点RのN値(実測N値)を取得した実測深度に対応する代表値(例えば、平均値、中央値、最頻値等)を算定し、分析用土質判定値Dを取得する。
【0039】
分析用回転トルクTの取得作業は、基準地点Cの削孔により取得した深度方向に連続する回転トルクについて速度補正及び比率補正を行ったのち、実測深度に対応する代表値を算出する。次に、この代表値に変化幅の補正を行って分析用回転トルクTを取得する。ここで用いる速度補正や比率補正、変化幅補正等の補正方法について、詳細は後述するが、速度補正及び変化幅補正は、次の知見により実施するものである。
【0040】
速度補正は、深度方向に連続する回転トルクを速度一定の条件下で評価することを目的に行う補正である。地盤削孔の特性として、例えばN値の大きい砂礫層を削孔すると削孔速度が低下するであろうことが予測できる。してみると、深度方向に連続して取得した回転トルクであっても、削孔速度が異なる場合にはその変化を精度よく捉えることができない。
【0041】
このため、土質区分及び地盤強度(N値)の推定にあたっては、地盤改良削孔機20側で削孔速度が一定となるよう制御しつつ地盤削孔を行って、深度方向に速度一定の回転トルクを取得する。しかし、地盤改良削孔機20側の設定削孔速度に基づいて速度一定に削孔しても、図5(a)で示すように、削孔速度の実測値を見ると速度低下を生じる場合がある。このため、削孔速度の変化を十分に考慮する必要がある地盤強度(N値)の推定では、速度補正等を行う。
【0042】
また、変化幅補正は、速度補正及び比率補正を行ったのちに算出する実測深度に対応する代表値(以降、「比率補正回転トルクの平均値T」という)について、深度方向の変化幅が、調査地点RのN値(実測N値)の深度方向の変化幅との間で、1:1の関係となるように行う補正である。図5(b)に、比率補正回転トルクの平均値Tについて、変化幅補正を行った場合と行わない場合の、調査地点RのN値(実測N値)との相関を表すグラフを示す。
【0043】
図5(b)では、調査地点RのN値(実測N値)が深度方向に1~100程度の変化幅を有し、比率補正回転トルクの平均値Tが深度方向に1~10程度の変化幅を有する場合を事例に挙げている。決定係数Rをみると、比率補正回転トルクの平均値Tについて、変化幅補正を行ったTの場合は0.8037と、変化幅補正を行わない場合を大きく上回り、当てはまりの良い様子がわかる。したがって、比率補正回転トルクの平均値Tに対して変化幅補正を行って、分析用回転トルクTを取得する。
【0044】
上記のとおり、地盤推定方法では、地盤強度(N値)及び土質区分が既知の調査地点R近傍に基準地点Cを設定し、この基準地点Cを削孔して取得した回転トルクと既知の地盤強度及び土質区分に基づいて、N値推定式を算定し、また土質判定閾値を設定する。
【0045】
これにより、基準地点Cの削孔に使用した地盤改良削孔機20を採用すれば、造成地点Gの削孔作業時に取得した回転トルクとN値推定式とに基づいて、造成地点Gの推定N値を算定することができる。また、削孔作業時に取得した回転トルクと土質判定閾値とに基づいて、造成地点Gの土質区分を判定することができる。
【0046】
したがって、薬液注入工法やジェットグラウト工法、静的圧入締固め工法等の地盤改良工事で用いると、造成地点Gの実地盤に応じた改良仕様で地盤改良材を地盤に供給し、改良体40を造成することができる。このため、出来形不足などの不具合が生じにくく、改良体品質の向上に寄与することが可能となる。
【0047】
また、地盤改良削孔機20のような、接触の面積が小さいリングビット271を採用したケーシング削孔機を利用することもできるなど、地盤削孔機になんら制約がなく高い汎用性を有する。したがって、削孔作業を伴う様々な工事で利用できるとともに、取得した地盤情報を実施予定の工事に反映させることが可能となる。
地盤調査を実施することが可能となる。
【0048】
≪≪≪地盤推定システム≫≫≫
上記の土質区分及び地盤強度(N値)を推定する地盤推定方法は、図1で示す地盤推定システム10を用いて実施すると良い。地盤推定システム10は、前述した地盤改良削孔機20と、地盤推定装置30とを備えている。
【0049】
≪≪地盤推定装置≫≫
地盤推定装置30は、図1及び図6で示すように、上述した地盤改良削孔機20のデータロガー26と有線、無線等いずれかの手段で接続されており、入力装置31、出力装置32、中央演算処理装置33、ファイル装置34、及びメインメモリ35を備えている。
【0050】
入力装置31は、例えばキーボード、スキャナー、タッチパネル等が挙げられ、出力装置32は、ディスプレイやプリンター等が挙げられる。また、中央演算処理装置33は、CPU、GPU、ROM、RAM及びハードウェアインタフェース等を有するコンピュータである。
【0051】
ファイル装置34は、半導体メモリ又はハードディスクドライブ等からなる記憶装置である。詳細は後述するが少なくとも、調査地点Rの地盤情報等が格納される調査データファイル341、基準地点Cに係るデータ等が格納される削孔データファイル342、重回帰分析に使用するデータが格納される分析用データファイル343、回帰分析結果ファイル344、及び造成地点Gに係るデータ等が格納される推定用データファイル345を備える。
【0052】
メインメモリ35は、中央演算処理装置33によって実行可能なプログラムやデータを一時的に格納するものである。詳細は後述するが少なくとも、調査情報取得部351、削孔情報取得部352、土質判定部353、分析準備部354、推定式取得部355、及びN値推定部356を備えている。
【0053】
≪≪≪地盤推定方法の手順≫≫≫
上記の地盤推定システム10を用いた地盤推定方法の手順を、図7で示すような、地盤改良工事の施工現場で実施する場合を事例に挙げ、図6及び図8を参照しつつ地盤推定システム10の詳細とともに説明する。なお、図8は、地盤推定方法のフローとデータの流れを示している。
【0054】
図7は、広域にわたる地盤改良工事の施工対象範囲を区割りした複数ブロックのうちの1つである。その範囲内には、複数地点(A1~A11)で改良体40の造成が予定されている。また、このブロックは2つの小ブロック(A-1BL、A-2BL)に区割りされ、各々に設けられた調査地点Rに、地盤調査が実施された調査ボーリング孔跡(A-1、A-2)が存在している。
【0055】
本実施の形態では、改良体40の造成を予定する複数地点(A1~A11)のうち、地点A1を、土質区分及び地盤強度を推定する造成地点Gに設定し、地盤推定方法の手順及び地盤推定システムの詳細を、以下に説明する。
【0056】
≪≪事前準備≫≫
まず、図7で示すように、調査ボーリング孔跡(A-1)が存在する調査地点Rに近接して、所望の地点に基準地点Cを設定する。また、調査地点Rで実施した調査ボーリングにより得られた地盤情報を入手しておく。なお、過去に地盤改良ブロックAの近隣で地盤調査が実施された経緯があるなど、既知の地盤情報が入手できる場合にはこれを採用し、その調査地点R近傍に基準地点Cを設定してもよい。また、基準点Cは、調査地点Rが近ければ、改良体40の造成を予定している複数地点(A1~A11)の何れかと、併用することも可能である。
【0057】
≪≪調査情報取得工程≫≫
調査地点Rの地盤情報を入手したところで、地盤推定装置30の中央演算処理装置33は調査情報取得部351の指令を受け、入手した地盤情報を入力装置31を介して取得し、ファイル装置34の調査データファイル341に格納する。
【0058】
≪地盤情報の取得≫
地盤情報は、図8で示すように、少なくとも、「深度(実測深度)、土質性状、N値(実測N値)、及び柱状図」を取得する。深度は標準貫入試験を実施した「実測深度」、N値は標準貫入試験で取得した実測深度の「実測N値」であり、柱状図(土質区分を含む)は画像データを取り込めばよい。また、これら地盤情報と併せて調査ボーリング孔跡(A-1)の孔口標高を取得しておき、実測深度に標高値を付与するとよい。これらの地盤情報等は、孔名称(A-1)と関連付けを行って、ファイル装置34の調査データファイル341に格納しておく。
【0059】
≪推定条件の設定≫
また、地盤情報の格納作業と前後して、地盤推定装置30の入力装置31を介して推定条件を設定入力し、調査データファイル341に格納する。設定入力が必要となる推定条件としては、図8で示すように、「平均化処理設定」、「回転トルク補正設定」、「土質判定値設定」、「土質判定閾値設定」が挙げられる。
【0060】
「平均化処理設定」は、地盤改良削孔機20のデータロガー26より連続的に取得される削孔データから、大まかな地盤状態を深度方向に把握するために、指定した区間のデータの平均化処理を行うための設定である。「移動平均設定」と「推定深度比較平均設定」がある。「移動平均設定」は、任意の基準深度(標高値)を中央値として、データを集計する前後区間の距離を設定する。なお、基準深度は、実測深度より狭小な間隔で設定するとよい。「推定深度比較平均設定」は、基準地点Cもしくは造成地点Gで取得した回転トルクと調査地点Rの実測N値及び土質区分とを比較するためのデータ区間であり、実測深度を中央値としてデータを集計する前後区間の距離を設定する。
【0061】
「回転トルク補正設定」は、地盤改良削孔機20側で設定した削孔速度に対する実際の削孔速度の速度変化比に応じて、回転トルク補正を行うための設定である。詳細は後述するが、設定削孔速度(地盤改良削孔機20側)、空転時トルク、比率補正値を設定する。
【0062】
「土質判定値設定」は、土質判定により判定された土質に任意の数値(土質判定値)を付与する設定であり、「土質判定閾値設定」は、深度方向に連続して取得される回転トルクを整理し統計処理を行った結果に基づいて、深度方向の土質を判定する際に用いる回転トルクの閾値の設定であり、平均の閾値と分散の閾値を設定する。
【0063】
≪≪削孔情報取得工程≫≫
地盤改良削孔機20を、図7で示す調査地点Rに隣接する基準地点Cに据え付け、削孔ケーシング27の貫入に伴う削孔を実施する。基準地点Cでの地盤削孔中に、深度方向に連続的に取得される削孔データは、データロガー26から入力装置31を介して地盤推定装置30に入力される。
【0064】
すると、中央演算処理装置33は削孔情報取得部352の指令を受け、削孔時間と深度に基づいて所定時間(Δt)ごとの瞬間削孔速度を算出する。そのうえで、所定時間(Δt)ごとに整理した、回転トルク、深度(掘削下端深度)、瞬間削孔速度を、ファイル装置34の削孔データファイル342に格納する。こののち、データに欠損があるなど、不要なデータが存在する場合には、適宜これらを削除しておく。
【0065】
なお、前述したように、削孔速度の変化が地盤強度(N値)の推定に影響を与えることを考慮し、地盤改良削孔機20側で一定速度で地盤を削孔するよう速度制御を行う。地盤改良削孔機20側で制御する速度は「設定削孔速度」として、上記の推定条件における回転トルク補正設定に設定入力されている。
【0066】
≪≪土質判定工程≫≫
削孔データを取得すると、中央演算処理装置33は土質判定部353の指令を受け、基準地点Cにおける深度方向の土質を判定する。土質を判定した基準深度には、図3(c)で示すように粘性土もしくは砂質土に対応する「土質判定値」を付与し、これらと基準深度との関連付けを行って、削孔データファイル342に格納する。
【0067】
≪土質判定の手順≫
土質判定は、削孔データファイル342に格納された所定時間(Δt)ごとの回転トルクと、調査データファイル341に格納された「土質判定閾値」に基づいて行う。その手順は、図9で示すように、まず、調査データファイル341に格納した「移動平均設定」で設定した複数の基準深度と、基準深度を中央値とする前後区間の距離とにより統計処理区間を設定する。
【0068】
次に、統計処理区間ごとに、回転トルクの移動平均を算出して回転トルクのばらつきを平均化する。また、回転トルクの分散を算出して回転トルクのばらつきを示す。なお、回転トルクの平均は土質区分の参考値となり、回転トルクの分散は、回転トルクのばらつき度合から土層の変化や均質性を評価できる。
【0069】
これら統計処理区間ごとの回転トルクの平均及び分散と、調査データファイル341に格納された「土質判定閾値設定」で設定した平均及び分散の閾値とを比較する。例えば図3(a)(b)では、平均の閾値を1.25に設定し、分散の閾値を0.01に設定した場合を例示している。平均及び分散の閾値は、調査データファイル341の「土質判定閾値設定」で予め設定した初期値を利用してもよいし、適宜調整し設定し直してもよい。
【0070】
調整は、回転トルクの平均及び分散のグラフと調査データファイル341に格納された調査地点Rの柱状図とを、例えばディスプレイ等の出力装置32に出力し、施工管理者が目視で両者を比較しながら行うことができる。この場合、調整した閾値に係る情報は、マウスやキーボード等の入力装置31を介して地盤推定装置30に入力し、「土質判定閾値設定」で設定された初期値を修正しても良し、閾値を追加格納してもよい。
【0071】
こうして閾値が設定されたのち、図3(a)(b)で示すように、まず、回転トルクの平均及び分散ごとに、閾値を超えない基準深度は粘性土であると仮定し、閾値を超える基準深度は砂質土であると仮定する。そのうえで、回転トルクの平均及び分散ともに閾値を超えない基準深度は粘性土であり、それ以外の基準深度は砂質土であると判定する。これは前述したように、回転トルクが砂質土で大きく粘性土で小さい、また、回転トルクのばらつき(変化量)が粘性土で小さく砂質土で大きいとの知見による。
【0072】
≪土質判定値の付与≫
こうして土質を判定した基準深度には、調査データファイル341に格納された「土質判定値設定」で設定した「土質判定値」に倣って、粘性土もしくは砂質土に対応する「土質判定値」が付与される。図3(c)では、粘性土に“0”を付与し、砂質土に“2”を付与している。「土質判定値」は、予め設定した初期値を利用してもよいし、適宜調整して設定し直してもよい。
【0073】
≪≪分析準備工程≫≫
土質判定工程が終了したところで、中央演算処理装置33は分析準備部354の指令を受け、図9で示すような、N値推定式を取得する際に目的変数として用いる調査地点Rの実測N値を実測深度とともに、調査データファイル341より抽出しファイル装置34の分析用データファイル343に格納する。
【0074】
また、N値推定式を取得する際に説明変数として用いる分析用土質判定値D及び分析用回転トルクTを算定し、算定結果をファイル装置34の分析用データファイル343に格納する。分析用土質判定値D及び分析用回転トルクTを算定する手順を、図8及び図9を参照しつつ、次に説明する。
【0075】
≪分析用土質判定値Dの算定≫
分析用土質判定値Dの算定手順は、図9で示すように、まず、調査データファイル341に格納した「推定深度比較平均設定」に基づいて、比較区間を設定する。比較区間は、実測深度と、「推定深度比較平均設定」で設定した実測深度から深度方向の距離とにより設定する。
【0076】
次に、比較区間ごとで、土質判定工程で算出した基準深度ごとの土質判定値の平均値を算出し、これを分析用土質判定値Dに設定する。算定した分析用土質判定値Dは、実測深度と関連付けを行って分析用データファイル343に格納する。なお、基準深度ごとの土質判定値は、削孔データファイル342に格納されており、実測深度は、調査データファイル341に地盤情報として格納されている。
【0077】
≪分析用回転トルクTの算定≫
分析用回転トルクTの算定手順は、図9で示すように、まず、削孔データファイル342に格納した所定時間(Δt)ごとの回転トルクに対して速度補正を行う。こののち、比率補正を行って、所定時間(Δt)ごとの比率補正回転トルクを算定する。
【0078】
速度補正は、図5(a)で説明したように、地盤改良削孔機20側の設定削孔速度に対して、所定時間(Δt)ごとの瞬間削孔速度(削孔速度の実測値)が低下している場合に行う。速度補正回転トルクは、所定時間(Δt)ごとの回転トルクに、瞬間削孔速度に対する地盤改良削孔機20で設定した設定削孔速度の比を乗ずることで算定され、算定結果はファイル装置34の削孔データファイル342に格納する。
【0079】
比率補正は、上記の速度補正回転トルクに、回転トルク上昇値及び比率補正値を乗じて比率補正回転トルクを算定するものである。比率補正値は、調査データファイル341に格納された「回転トルク補正設定」で設定され、回転トルク上昇値は、所定時間(Δt)ごとの回転トルクから「空転時トルク」を控除することにより算出する。「空転時トルク」は調査データファイル341に格納された「回転トルク補正設定」で設定されている。こうして算定した比率補正回転トルクは、ファイル装置34の削孔データファイル342に格納する。
【0080】
こののち、上記の所定時間(Δt)ごとの比率補正回転トルクについて、比較区間ごとに平均値を比率補正回転トルクの平均値Tとして算出する。算定した比率補正回転トルクの平均値Tは、調査地点Rの実測深度と関連付けを行って分析用データファイル343に格納する。比較区間は、分析用土質判定値Dの算定で説明したとおりである。
【0081】
こうして実測深度に対応する比率補正回転トルクの平均値Tを算出したのち、比率補正回転トルクの平均値Tの深度方向の変化幅と、調査地点RのN値(実測N値)の深度方向の変化幅を1:1とする変化幅補正を行う。変化幅補正は、比率補正回転トルクの平均値Tを底とするXの指数関数を分析用回転トルクTとし、次の(1)式によりXを算定する。算定した分析用回転トルクTは、実測深度と関連付けを行って分析用データファイル343に格納する。
【0082】
【0083】
≪≪N値推定式取得工程≫≫
上記の分析準備工程により、図10で例示するように、ファイル装置34の分析用データファイル343には、N値推定式を取得する際、目的変数とする調査地点Rの実測N値、説明変数とする分析用土質判定値D及び分析用回転トルクTが格納される。すると、中央演算処理装置33は推定式取得部355の指令を受け、上記のデータを用いて重回帰分析を実施する。図4に一例として、重回帰分析の結果と土質判定結果とを併せて、ディスプレイ等の出力装置32に出力した様子を示す。
【0084】
上記の工程を経て、次の(2)式で示すようなN値推定式を取得したのち、基準地点Cを削孔した際に使用した地盤改良削孔機20を、図1で示すように、土質区分及び地盤強度を推定しようとする造成地点Gに据え付け、削孔作業を行う。
【0085】
【0086】
≪≪造成地点Gの推定N値取得工程≫≫
造成地点Gの削孔データを取得したのち、まず、削孔データとして取得した回転トルクを用いて、削孔情報取得工程及び土質判定工程を経て土質判定結果を取得する。その手順は、上記の基準起点Cの土質判定結果を取得した手順と同様であり、統計処理区間ごとに回転トルクの平均及び分散を算定する。こののち、基準起点Cの土質判定で用いた土質判定閾値(平均及び分散の閾値)に基づいて基準深度ごとの土質を判定し、土質を判定した基準深度に土質判定値を付与する。
【0087】
次に、分析準備工程を実施して、推定用土質判定値D’及び推定用回転トルクT’を取得する。その手順は、上記の分析用土質判定値D及び分析用回転トルクTを取得する手順と同様である。推定用土質判定値D’及び推定用回転トルクT’をはじめ、削孔情報取得工程から分析準備工程を実施して取得した情報は、ファイル装置34の推定用データファイル345に格納しておく。
【0088】
推定用土質判定値D’及び推定用回転トルクT’を取得したところで、中央演算処理装置33はN値推定部356の指令を受け、回帰分析結果ファイル344に格納されたN値推定式に、推定用土質判定値D’及び推定用回転トルクT’を代入し、造成地点Gの推定N値を算定する。推定結果は、造成地点Gを設定した地点番号(A1)と関連付けを行って、ファイル装置34の推定用データファイル345に格納する。
【0089】
図11に一例として、造成地点Gにおける推定N値の算定結果を、ディスプレイ等の出力装置32出力した様子を示す。このように、地盤改良削孔機20を用いた造成地点Gにガイド孔41を設けるための削孔作業と同時に、造成地点Gの土質区分及び地盤強度を推定することが可能となる。なお、図11で併記されているN値は、調査地点Rの実測N値である。
【0090】
これにより、造成地点Gの実地盤に応じた改良仕様で地盤改良材を地盤に注入し、改良体40を造成することができるため、出来形不足などの不具合が生じにくく、改良体品質の向上に寄与することが可能となる。
【0091】
≪≪地盤改良ブロックAの面的な地盤推定≫≫
例えば、図7で示す地盤改良ブロックAのように、改良範囲が小ブロック(A-1BL、A-2BL)に区分けされ、各々に調査ボーリング孔跡が存在する場合、小ブロック(A-1BL、A-2BL)ごとに、N値推定式(A-1、A-2)を取得してもよい。
【0092】
こののち、改良体40の造成を予定する地点(A1~A11)各々で、地盤改良削孔機20を用いた削孔作業を実施するとともに、上記のN値推定式(A-1、A-2)を適宜選択しつつ、土質区分及び地盤強度を推定する。こうすると、図7で示すような地盤改良ブロック全域で、土質区分及び地盤強度の推定結果を面的に取得することが可能となる。
【0093】
これにより、改良体40の造成を予定する地点(A1~A11)で、造成作業を実施する場合に、地盤改良液の流亡など不具合が生じる可能性のある個所を早期の段階で確認できる。したがって、効果的な対策を迅速に実施し、地盤改良工事の施工性を向上することが可能となる。
【0094】
なお、地点(A1~A11)においてN値推定式(A-1、A-2)の選択は、小ブロック(A-1BL)に位置する場合はN値推定式(A-1)を、また、小ブロック(A-2BL)に位置する場合はN値推定式(A-2)を採用してもよいし、適宜検証したうえで、いずれが好適な推定式を選択してもよい。
【0095】
本発明の地盤推定方法及び地盤推定システム10は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0096】
本実施の形態では、調査地点Rに対して基準地点Cが1つのみの場合を事例したが、調査地点Rに対して基準地点Cを複数設けてもよい。
【0097】
また、本実施の形態では、所定時間(Δt)ごとの回転トルクに対して速度補正を行うとともに比率補正を行って所定時間(Δt)ごとの比率補正回転トルクを算定する。こののち、実測深度に対応する比率補正回転トルクの平均値Tを算出し、これに変化幅補正を行って分析用回転トルクTを算出している。
【符号の説明】
【0098】
10 地盤推定システム
20 地盤改良削孔機
21 削孔機本体
22 送水ポンプ
23 圧力センサ
24 変位量センサ
25 圧力センサ
26 データロガー
27 削孔ケーシング
271 リングビット
30 地盤推定装置
31 入力装置
32 出力装置
33 中央演算処理装置
34 ファイル装置
341 調査データファイル
342 削孔データファイル
343 分析用データファイル
344 回帰分析結果ファイル
345 推定用データファイル
35 メインメモリ
351 調査情報取得部
352 削孔情報取得部
353 土質判定部
354 分析準備部
355 推定式取得部
356 N値推定部
40 改良体
41 ガイド孔
G 造成地点(削孔地点)
R 調査地点
C 基準地点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11