(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032518
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20230302BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20230302BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20230302BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20230302BHJP
H01G 9/10 20060101ALI20230302BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/145
H01G9/15
H01G9/035
H01G9/028 F
H01G9/10 E
H01G9/00 290H
H01G9/00 290Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138696
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】595122132
【氏名又は名称】サン電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿熊 健二
(57)【要約】
【課題】長期間にわたり安定したコンデンサ特性を有する固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【解決手段】有底筒状のケースに収納されるコンデンサ素子と、を有する固体電解コンデンサである。コンデンサ素子は、陽極体の表面と陰極体の表面に設けられた水溶性の第1ポリマーと、第1ポリマーが設けられた陽極体の表面及び陰極体の表面に配置された水分散性の第2ポリマーと、を有する。第2ポリマーは、陽極体と陰極体とを電気的に接続する。陽極体の表面と陰極体の表面との間、及び、ケースの内面とコンデンサ素子の外面との間には、第1の温度以下のとき固体で、第1の温度よりも高い第2の温度以上に昇温されると溶融する溶媒に、電解質を溶解させた常温固体物質が配置される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する有底筒状のケースと、
陽極体と陰極体とをセパレータを介して巻回されるとともに前記ケースに収納されるコンデンサ素子と、
前記開口部を封口する封口体と、を有し、
前記コンデンサ素子は、
前記陽極体の表面と前記陰極体の表面に配置される水溶性の第1ポリマーと、
前記第1ポリマーが設けられた前記陽極体の表面及び前記第1ポリマーが設けられた前記陰極体の表面に配置される水分散性の第2ポリマーと、を有し、
前記第2ポリマーは、前記陽極体の表面と前記陰極体の表面とを電気的に接続し、
前記コンデンサ素子の陽極体の表面と陰極体の表面との間、及び、前記ケースの内面と前記コンデンサ素子の外面との間には、第1の温度以下のとき固体で、前記第1の温度よりも高い第2の温度以上に昇温されると溶融する溶媒に、電解質を溶解させた常温固体物質が配置される固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1ポリマーは、前記陽極体の表面と、前記陰極体の表面と、前記セパレータの表面と、に設けられる請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第1の温度は、30℃である請求項1又は請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記溶媒として、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル及び糖類の少なくとも一つを含む請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記溶媒は、前記第2の温度が50℃である請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記溶媒は、
PEG2000、PEG4000、PEG6000、PEG10000、PEG20000、1.2-ドデカンジオール、1.12-ドデカンジオール、ステアリン酸ポリグリセリル-6、トリステアリン酸ポリグリセリル-6、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-4、 デカステアリン酸ポリグリセリル-10、ヘプタ(ベヘン酸/ステアリン酸)ポリグリセリル-10、キシリトール、及び、ソルビトールの少なくとも一つを含む請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記溶媒は、前記第2の温度が100℃である請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
記溶媒は、エリスリトール、ラクチトール及びグルコースの少なくとも一つを含む請求項7に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項9】
前記電解質は、
マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、タルトロン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、酒石酸、フタル酸、ニトロフタル酸、クエン酸、トリカルバニル酸、ピロメリット酸、 ホウ酸、リン酸、ボロジサリチル酸、ボロジグリコール酸、トリニトロフェノール、ヒドロキシニトロフェノール、ヒドロキシニトロ安息香酸及びスルホサリチル酸の少なくとも一つの酸を含む、
又は、
アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ベンジルアミン、ナフチルアミン、モルホリン、アニリン、アセトアニリド、フェナントロリン、カフェイン及びイミダゾールの少なくとも一つの塩基を含む請求項1から8のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項10】
前記封口体が、ゴム製又は樹脂製である請求項1から9のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項11】
ケースに収納されるコンデンサ素子と、第1の温度以下のとき固体で、前記第1の温度よりも高い第2の温度以上に昇温されると溶融する溶媒に、電解質を溶解させた常温固体物質とをケースに収容するとともに前記ケースの開口部を封口する封口体を備えた固体電解コンデンサの製造方法であって、
陽極体と陰極体とをセパレータを介して巻回して形成されたコンデンサ成型体を水溶性の第1ポリマー及び水分散性の第2ポリマーを含む溶液内に浸漬させる工程と、前記溶液内から前記コンデンサ成型体を引き上げて乾燥させる工程とを実行して前記コンデンサ素子を製造するコンデンサ素子製造工程と、
前記コンデンサ素子を、前記第2の温度以上に昇温されて溶融された前記常温固体物質を収納した前記ケース内に挿入し、溶融された前記常温固体物質の一部を、前記コンデンサ素子内に浸透させる挿入工程と、を有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
ケースに収納されるコンデンサ素子と、第1の温度以下のとき固体で、前記第1の温度よりも高い第2の温度以上に昇温されると溶融する溶媒に、電解質を溶解させた常温固体物質とをケースに収容するとともに前記ケースの開口部を封口する封口体を備えた固体電解コンデンサの製造方法であって、
陽極体と陰極体とをセパレータを介して巻回して形成されたコンデンサ成型体を水溶性の第1ポリマーを含む溶液内に浸漬させる工程と、前記溶液内から前記コンデンサ成型体を引き上げて乾燥させる工程と、乾燥後の前記コンデンサ成型体を水分散性の第2ポリマーを含む溶液内に浸漬させる工程と、前記溶液内から前記コンデンサ成型体を引き上げて乾燥させる工程と、を実行して前記コンデンサ素子を製造するコンデンサ素子製造工程と、
前記コンデンサ素子を、前記第2の温度以上に昇温されて溶融された前記常温固体物質を収納した前記ケース内に挿入し、溶融された前記常温固体物質の一部を、前記コンデンサ素子内に浸透させる挿入工程と、を有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項13】
ケースに収納されるコンデンサ素子と、第1の温度以下のとき固体で、前記第1の温度よりも高い第2の温度以上に昇温されると溶融する溶媒に、電解質を溶解させた常温固体物質とをケースに収容するとともに前記ケースの開口部を封口する封口体を備えた固体電解コンデンサの製造方法であって、
陽極体と陰極体とをセパレータを介して巻回して形成されたコンデンサ成型体を水分散性の第2ポリマーを含む溶液内に浸漬させる工程と、前記溶液内から前記コンデンサ成型体を引き上げて乾燥させる工程と、乾燥後の前記コンデンサ成型体を水溶性の第1ポリマーを含む溶液内に浸漬させる工程と、前記溶液内から前記コンデンサ成型体を引き上げて乾燥させる工程と、を実行して前記コンデンサ素子を製造するコンデンサ素子製造工程と、
前記コンデンサ素子を、前記第2の温度以上に昇温されて溶融された前記常温固体物質を収納した前記ケース内に挿入し、溶融された前記常温固体物質の一部を、前記コンデンサ素子内に浸透させる挿入工程と、を有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
固体の前記常温固体物質を、粉状に粉砕する粉砕工程と、
粉体の前記常温固体物質を、前記ケース内に投入後、前記ケースごと前記常温固体物質を加熱して常温固体物質を溶融させる再溶融工程と、をさらに有し、
前記粉砕工程及び前記再溶融工程は、前記挿入工程の前に実行される請求項11から請求項13のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンデンサは、例えば、素子挿入用の開口部が設けられたケースと、ケース内に収納されたコンデンサ素子と、開口部に装着された封口体と、を有する。前記コンデンサ素子は、セパレータを介して対向配置された長尺状の陽極と長尺状の陰極が巻回された構成となっている。
【0003】
また、前記陽極と陰極の、それぞれの対極側表面のうち、少なくとも陽極の対極側表面が酸化膜となっている。さらに、前記陽極と陰極間に水分散性の導電性ポリマーが配置された構成となっている。また、前記陽極と陰極間には、一般的には、電解液を設けている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のコンデンサでは、使用環境おいて、熱、振動などがコンデンサ素子に加わり、長期使用している間に電解液が封口体部分を介して蒸散し、その結果として、コンデンサ特性が劣化するという課題があった。
【0006】
本発明は、長期間にわたり安定したコンデンサ特性を有する固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の固体電解コンデンサは、開口部を有する有底筒状のケースと、陽極体と陰極体とをセパレータを介して巻回されるとともに前記ケースに収納されるコンデンサ素子と、前記開口部を封口する封口体と、を有する。前記コンデンサ素子は、前記陽極体の表面と前記陰極体の表面に設けられた水溶性の第1ポリマーと、前記第1ポリマーが設けられた前記陽極体の表面及び前記第1ポリマーが設けられた前記陰極体の表面には水分散性の第2ポリマーと、を有する。前記第2ポリマーは、前記陽極体の表面と前記陰極体の表面との間を電気的に接続する。前記コンデンサ素子の陽極体の表面と陰極体の表面との間、及び、前記ケースの内面と前記コンデンサ素子の外面との間には、第1の温度以下のとき固体で、前記第1の温度よりも高い第2の温度以上に昇温されると溶融する溶媒に、電解質を溶解させた常温固体物質が配置される。
【0008】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記第1ポリマーは、前記陽極体の表面と、前記陰極体の表面と、前記セパレータの表面と、に設けられてもよい。
【0009】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記第1の温度は、30℃である。
【0010】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記溶媒として、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル及び糖類の少なくとも一つを含む。
【0011】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記溶媒は、前記第2の温度が50℃である。
【0012】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記溶媒は、PEG2000、PEG4000、PEG6000、PEG10000、PEG20000、1.2-ドデカンジオール、1.12-ドデカンジオール、ステアリン酸ポリグリセリル-6、トリステアリン酸ポリグリセリル-6、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-4、 デカステアリン酸ポリグリセリル-10、ヘプタ(ベヘン酸/ステアリン酸)ポリグリセリル-10、キシリトール、及び、ソルビトールの少なくとも一つを含む。
【0013】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記電解質は、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、タルトロン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、酒石酸、フタル酸、ニトロフタル酸、クエン酸、トリカルバニル酸、ピロメリット酸、 ホウ酸、リン酸、ボロジサリチル酸、ボロジグリコール酸、トリニトロフェノール、ヒドロキシニトロフェノール、ヒドロキシニトロ安息香酸及びスルホサリチル酸の少なくとも一つ、を含む、又は、アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ベンジルアミン、ナフチルアミン、モルホリン、アニリン、アセトアニリド、フェナントロリン、カフェイン及びイミダゾールの少なくとも一つ、を含む。
【0014】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記封口体が、ゴム製又は樹脂製である。
【0015】
上記目的を達成するために本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、陽極体と陰極体とをセパレータを介して巻回して形成されたコンデンサ成型体を水溶性の第1ポリマー及び水分散性の第2ポリマーを含む溶液内に浸漬させる工程と、溶液内からコンデンサ成型体を引き上げて乾燥させる工程とを実行してコンデンサ素子を製造するコンデンサ素子製造工程と、コンデンサ素子を、第2の温度以上に昇温されて溶融された常温固体物質を収納したケース内に挿入し、溶融された常温固体物質の一部を、コンデンサ素子内に浸透させる挿入工程と、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、長期間にわたり安定したコンデンサ特性を有する固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態にかかる固体電解コンデンサの側面断面図である。
【
図2】
図1に示す固体電解コンデンサのコンデンサ素子を展開した斜視図である。
【
図3】浸漬工程に用いられる溶液を示す概略図である。
【
図6】常温固体物質を加熱して溶融させる溶融工程を示す図である。
【
図7】冷却して常温固体物質を固体化する固体化工程を示す図である。
【
図8】固体化した常温固体物質を粉砕する粉砕工程を示す図である。
【
図10】内部に常温固体物質の粉体が収容されたケースの断面図である。
【
図11】液体の常温固体物質が収容されたケースの断面図である。
【
図12】液体の常温固体物質が収容されたケースにコンデンサ素子を収容する状態を示す断面図である。
【
図13】内部に固体化された常温固体物質及びコンデンサ素子が収容された状態のケース1を示す断面図である。
【
図14】ケースに封口体を取り付ける工程を示す断面図である。
【
図15】封口体を取り付けたケースに凹部を形成した状態の断面図である。
【
図17】本発明の他の実施形態の固体電解コンデンサを示す図である。
【
図18】第1実施例の固体電解コンデンサにおける酸化膜の修復能力を確認する実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の一実施形態の固体電解コンデンサについて図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる固体電解コンデンサの側面断面図である。
図2は、
図1に示す固体電解コンデンサのコンデンサ素子3を展開した斜視図である。
【0019】
固体電解コンデンサAは、ケース1と、コンデンサ素子3と、封口体4とを有する。ケース1は、アルミニウム等の金属により断面円形の有底筒状である。ケース1は、底部1aと、筒部1bとを有する。底部1aは、円板状である。筒部1bは、底部1aの径方向外縁に接続し、軸方向に延びる。なお、底部1aに対して、筒部1bが接続される側を上側とする。そして、筒部1bは、上端に開口部1cを有する。つまり、ケース1は、筒部1bの一端を底部1aにより閉塞して他端に開口部1cを開口する。
【0020】
コンデンサ素子3は、ケース1に収納され、陽極として用いられる陽極体8と、陰極として用いられる陰極体9(
図2参照)とを有する。そして、陽極体8及び陰極体9には、それぞれ陽極リード端子10及び陰極リード端子11が接続される。コンデンサ素子3は、円柱状であり、陽極リード端子10及び陰極リード端子11は、軸方向一方側の端部より軸方向に延出される。
【0021】
封口体4はゴム等の絶縁体の弾性材料の成形品により円板状に形成される。封口体4は、一対の貫通孔4a、4bを有する。ケース1の開口部1cに封口体4を配した状態でケース1の周面に絞り加工を施して凹部5が形成される。これにより、封口体4が固定される。さらに、ケース1の開口端を内方に折り曲げて。当接部6を形成する。
【0022】
封口体4は、凹部5及び当接部6によってケース1の開口部1cに固定される。つまり、ケース1の開口部1cは、封口体4により封口される。封口体4には、厚み方向に貫通する貫通孔4a、4bが形成される。ケース1にコンデンサ素子3を収容するとき、コンデンサ素子3の陽極リード端子10及び陰極リード端子11が、貫通孔4a、4bに挿通される。これにより、コンデンサ素子3はケース1に固定される。
【0023】
図1に示すように、固体電解コンデンサAにおいて、陽極体8と陰極体9との間には常温固体物質2が配される。さらに詳しく説明すると、常温固体物質2は、陽極体8の表面と陰極体9の表面との間、セパレータ7の表面及びケース1の内面とコンデンサ素子3の外面との間に配される。
【0024】
次に、コンデンサ素子3の詳細について説明する。
図2に示すように、コンデンサ素子3は、長尺状の陽極体8と長尺状の陰極体9とを絶縁体のセパレータ7を介して巻回して形成される。コンデンサ素子3では、最外周にセパレータ7が配置されており、セパレータ7がテープ12によって固定される。なお、本実施形態にかかるコンデンサ素子3において、陽極体8は陽極であり、陰極体9は陰極である。
【0025】
例えば、陽極体8及び陰極体9は、アルミニウム製である。陽極体8及び陰極体9表面には、それぞれ酸化膜(図示せず)が配される。陽極体8側の酸化膜及び陰極体9の酸化膜はともに、アルミニウム製の電極体を電解液中で陽極酸化する処理(化成処理)により得られ、膜厚は印加された電圧に比例する。なお、陽極体8の酸化膜の膜厚を、陰極体9の酸化膜の膜厚よりも厚くしている。また、少なくとも、陽極体8の表面に酸化膜が形成されていればよく、陰極体9の表面には、酸化膜が形成されていなくてもよい。
【0026】
上述したとおり、陽極リード端子10は、陽極体8に電気的、機械的に接続される。また、陰極リード端子11は、陰極体9に電気的、機械的に接続される。
【0027】
常温固体物質2は、例えば、常温で固体の常温固体物質である。ここで、常温は、例えば、30℃としている。さらに詳しく説明すると、常温固体物質2は、第1温度(例えば、常温:ここでは、30℃)以下では固体で、第1温度よりも高い第2温度を超えた所定温度(融点)に昇温されると溶融する溶媒21と、溶媒に溶解した電解質22とを有する(
図6参照)。常温固体物質2の詳細については、後述する。
【0028】
固体電解コンデンサAは以上示した構成を有する。次に、固体電解コンデンサAの製造手順について図面を参照して説明する。
図3は、浸漬工程に用いられる溶液14を示す概略図である。
図4は、浸漬工程を示す概略図である。
図5は、乾燥工程を示す概略図である。
【0029】
図2に示すとおり、外側から順に、セパレータ7、陰極リード端子11が接続された陰極体9、セパレータ7及び陽極リード端子10が接続された陽極体8を重ねて並べ、陽極体8を内側にして巻く。その後、最も外側に配置されたセパレータ7の外周部に巻き止めテープ12を張り付けて、円柱状のコンデンサ成型体31が成型される。
【0030】
このように成型したコンデンサ成型体31を水溶性の第1ポリマー141と、水分散性の第2ポリマー142とを含む溶液14に浸漬する(浸漬工程、
図4参照)。この浸漬工程は、減圧下で行われる。これにより、コンデンサ成型体31の内部に溶液14が浸透する。
【0031】
溶液14の詳細について説明する。
図3に示すように、溶液14は、水溶性の第1ポリマー141と、水分散性の第2ポリマー142とを容器13に収めて、撹拌したものである。溶液14における第1ポリマー141の割合を10%~90%とすることで、コンデンサ素子3の静電容量を大きくでき、好適である。さらに、溶液14における第1ポリマー141の割合を15%~85%とすることで、ESRも小さくでき、より好適である。
【0032】
なお、第1ポリマー141は、水溶性導電性高分子、さらに詳しくは、自己ドープ型水溶性導電性高分子であり、例えば、東ソー株式会社製のセルフトロンを挙げることができる。第2ポリマー142は、例えば、水分散性を有する、ポリマー分散液を挙げることができる。第2ポリマー142として、例えば、テイカ株式会社製のテイカトロン、信越ポリマー株式会社製のセブルジーダ及びヘレウス株式会社製のクレビオスを挙げることができる。
【0033】
そして、
図5に示すように、コンデンサ成型体31は容器13から取り出される。そして、コンデンサ成型体31を125℃の雰囲気中に30分放置する乾燥工程にて、乾燥を行うことでコンデンサ素子3が製造される(第1コンデンサ素子製造工程)。なお、
図5に示す乾燥工程では、送風して乾燥させているが、送風を行わずに乾燥が行われる場合もある。
【0034】
溶液14を浸漬させ乾燥させることで形成されたコンデンサ素子3の陽極体8の表面及び陰極体9の表面には、水溶性の第1ポリマー141が層状に付着した状態となっている。第1ポリマー141は、セパレータ7の表面、第2ポリマー142の表面にも付着する。
【0035】
第2ポリマー142は粒状である。複数の粒状の第2ポリマー142は、第1ポリマー141が付着した陽極体8の表面及び第1ポリマー141が付着した陰極体9の表面に付着する。また、第2ポリマー142は、第1ポリマー141が付着したセパレータ7にも付着する。以上のことから、複数の粒状の第2ポリマー142が陽極体8の表面とセパレータ7の表面及び陰極体9の表面とセパレータ7の表面との間に橋架状に配置される。これにより、第2ポリマー142が、陽極体8と、陰極体9とを電気的に接続する。
【0036】
次に、固体電解コンデンサAのケース1の内部に配置される常温固体物質2について説明する。常温固体物質2は、第1温度(例えば、30℃)以下のとき固体であり、第1温度を超えた第2温度(融点)に昇温すると溶融する溶媒に、電解質が溶解してなる。
【0037】
常温固体物質2に含まれる溶媒として、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル及び糖類の少なくとも一つが用いられる。なお、第1温度が30℃で第2温度が50℃の溶媒として、例えば、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル及び糖類を挙げることができる。また、第1温度が30℃で第2温度が100℃の溶媒として、例えば、糖類を挙げることができる。
【0038】
第1温度が30℃で第2温度が50℃のポリエチレングリコールとして、例えば、PEG2000(融点51℃) 、PEG4000(融点56℃) 、PEG6000 (融点58℃) 、PEG10000(融点62℃) 、PEG20000(融点63℃) を用いることができる。ここで、PEG2000とは、平均分子量が2000のポリエチレングリコールを示す。PEG4000、PEG6000、PEG10000、PEG20000も同様である。
【0039】
第1温度が30℃で第2温度が50℃の多価アルコールとして、例えば、1,2-ドデカンジオール(融点56~60℃)、1,12-ドデカンジオール(融点79~81℃) の少なくとも一つを挙げることができる。
【0040】
第1温度が30℃で第2温度が50℃のグリセリン脂肪酸エステルとして、例えば、ステアリン酸ポリグリセリル-6(融点60~70℃)、トリステアリン酸ポリグリセリル-6(融点50~60℃)、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-4(融点50~60℃)、 デカステアリン酸ポリグリセリル-10(融点50~60℃)、ヘプタ(ベヘン酸/ステアリン酸)ポリグリセリル-10(融点70~80℃) を挙げることができる。
【0041】
第1温度が30℃で第2温度が50℃の糖類として、例えば、キシリトール(融点92℃) 、 ソルビトール(融点95℃) を挙げることができる。
【0042】
第1温度が30℃で第2温度が100℃の糖類として、例えば、エリスリトール(融点121℃)、ラクチトール(融点146℃)、グルコース(融点150℃)を挙げることができる。
【0043】
また、常温固体物質2に含まれる電解質として、酸又は塩基を挙げることができる。常温固体物質2に含まれる電解質である酸として、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、タルトロン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、酒石酸、フタル酸、ニトロフタル酸、クエン酸、トリカルバニル酸、ピロメリット酸、 ホウ酸、リン酸、ボロジサリチル酸、ボロジグリコール酸、トリニトロフェノール 、ヒドロキシニトロフェノール、ヒドロキシニトロ安息香酸、スルホサリチル酸を挙げることができる。
【0044】
常温固体物質2に含まれる電解質である塩基として、例えば、アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ベンジルアミン、ナフチルアミン、モルホリン、アニリン、アセトアニリド、フェナントロリン、カフェイン、イミダゾールを挙げることができる。
【0045】
ここで、常温固体物質2の製造方法について、
図6~
図8を参照して説明する。
図6は、常温固体物質2を加熱して溶融させる溶融工程を示す図である。
図7は、冷却して常温固体物質2を固体化する固体化工程を示す図である。
図8は、固体化した常温固体物質2を粉砕する粉砕工程を示す図である。
【0046】
図6に示すように、容器15に溶媒21を入れて、容器15を融点以上に加熱する。なお、融点は、上述のとおり、溶媒によって異なる。そして、液体化した溶媒21に電解質22を投入する。溶媒21に電解質22が均一に溶解した溶液を作成する(溶融工程)。
図6では、加熱状態を示すために容器15の下部を加熱している構成としているが、これに限定されない。溶融工程において、容器15の加熱は、ヒータを用いてもよいし、高周波加熱装置を用いてもよい。
【0047】
そして、容器15の加熱を停止し、第1温度(例えば、ここでは、30度:常温とする)まで冷却して、固体化する(固体化工程:
図7参照)。これにより、常温固体物質2が生成される。なお、常温固体物質2では、固体化した溶媒21の内部に電解質22が分散して配置される。
【0048】
図8に示すように、固体化工程で固体化した常温固体物質2を粉砕する(粉砕工程)。粉砕工程によって、常温固体物質2は、粉体になる。このように、溶融工程、固体化工程及び粉砕工程を経て、常温固体物質の粉体20が製造される。
【0049】
次にコンデンサ素子3及び常温固体物質2をケース1に収容する手順について
図9~
図15を参照して説明する。
図9は、加熱治具16の斜視図である。
図10は、内部に常温固体物質の粉体20が収容されたケース1の断面図である。
図11は、液体の常温固体物質2が収容されたケース1の断面図である。
図12は、液体の常温固体物質2が収容されたケース1にコンデンサ素子3を収容する状態を示す断面図である。
図13は、内部に固体化された常温固体物質2及びコンデンサ素子3が収容された状態のケース1を示す断面図である。
図14は、ケース1に封口体4を取り付ける工程を示す断面図である。
図15は、封口体4を取り付けたケース1に凹部5を形成した状態の断面図である。
【0050】
固体電解コンデンサAの製造工程では、ケース1に常温固体物質の粉体20を収容し、ケース1を第2温度以上に加熱して常温固体物質2を溶融した後、コンデンサ素子3をケース1に挿入した後、冷却する。
【0051】
この製造工程では、ケース1を保持するとともにケース1の加熱を行う、加熱治具16を用いる。加熱治具16は、例えば、鉄鋼、真鍮等、剛性及び熱伝導率が高い材料で形成される。
図9に示す加熱治具16は、直方体状の部材である。加熱治具16の上面には、複数個、ここでは、5個の凹穴161が設けられる。
【0052】
凹穴161は、ケース1を収容可能な形状であり、ここでは、円筒状である。そして、加熱治具16では、凹穴161に収容されたケース1を加熱する。なお、加熱治具16の加熱方法は、電気抵抗を利用した加熱、高周波誘導加熱等電気的に加熱する方法を挙げることができるが、これに限定されない。例えば、凹穴161に常温固体物質の粉体20が収容されたケース1を収容した加熱治具16をオーブン等の高温雰囲気中に配置して、ケース1及び常温固体物質2を加熱してもよい。
【0053】
図10に示すとおり、加熱治具16の凹穴161に収容されたケース1には、常温固体物質の粉体20が収容される。常温固体物質2を粉砕工程で粉体に構成することで、常温において常温固体物質2をケース1の内部に収容しやすい。
【0054】
そして、加熱治具16を介してケース1を加熱して常温固体物質2を第2温度まで昇温することで、常温固体物質2が溶融される(再溶融工程)。これにより、
図11に示すように、ケース1の内部の常温固体物質2は、液化される。
【0055】
そして、
図12に示すように、コンデンサ素子3を陽極リード端子10及び陰極リード端子11を上側として、液体の常温固体物質2が収容されたケース1に挿入する(挿入工程)。液体の常温固体物質2は、毛細管現象でコンデンサ素子3の内部に浸入する。その結果、陽極体8の表面と陰極体9の表面との間、セパレータ7の表面及びケース1内面とコンデンサ素子3の外周のセパレータ7のとの間に、液体の常温固体物質2が設けられる(再固体化工程)。
【0056】
その後、加熱治具16によるケース1の加熱を停止し、ケース1を冷却する。冷却によりケース1の内部の常温固体物質2の温度が第1温度(常温:ここでは、30℃)以下に降下されると、ケース1の内部には、固体の常温固体物質2が配置される。このとき、陽極体8の表面と陰極体9の表面との間、セパレータ7の表面及びケース1内面とコンデンサ素子3の外周のセパレータ7のとの間に、第1温度(常温:30℃)以下の温度のとき固体で、第1温度よりも高い第2温度に昇温されたときに液化する常温固体物質2が配置される。
【0057】
十分に冷却した後、ケース1を加熱治具16より取り出す。そして、ケース1の開口部1cに封口体4を取り付ける(封口工程:
図14参照)。封口体4には、貫通孔4a及び4bが設けられている。そして、陽極リード端子10が貫通孔4aを貫通し、陰極リード端子11が貫通孔4bを貫通する。これにより、ケース1の開口部1cが封口される。なお、陽極リード端子10及び陰極リード端子11が、貫通孔4a及び4bを貫通するときに、内部の気密を維持可能に封口体4と密着する。
【0058】
図15に示すように、ケース1の開口部1cに封口体4を配した状態でケース1の周面に絞り加工を施して凹部5を形成する。さらに、ケース1の開口端を内側に折り曲げて、当接部6を形成し、当接部6が封口体4と当接する。これにより、封口体4がケース1からずれることを抑制する。以上の製造手順で、固体電解コンデンサAが完成する。
【0059】
本実施形態にかかる固体電解コンデンサAにおいて、コンデンサ素子3の陽極体8の表面には、第1ポリマー141が付着している。また、コンデンサ素子3の陰極体9の表面には、第1ポリマー141が付着している。そして、第1ポリマーが付着した陽極体8の表面と陰極体9の表面との間には、陽極体8の表面と陰極体9の表面との間を電気的接続するように、第2ポリマー142が配置される。そのため、固体電解コンデンサAでは、電解液を用いなくても、陽極と陰極とが導通する。これにより、固体電解コンデンサAのESRを低い状態に保つことができる。また、本実施形態の固体電解コンデンサAでは、ケース1内に電解液が封入されていないため、電解液の蒸散によるコンデンサ特性の劣化が抑制される。すなわち、固体電解コンデンサAのコンデンサ特性を長期間にわたり維持することができる。
【0060】
また、固体電解コンデンサAの使用時において、陽極体8の表面の酸化膜に亀裂、剥離が発生すると、その部分に漏れ電流が発生し、漏れ電流が流れる部分の温度が上昇する。この温度上昇によって、常温固体物質2の溶媒21が液状化する。そして、常温固体物質2に含有される電解質22によって酸化膜が修復される。そして、酸化膜が修復されると漏れ電流が抑制される。これにより、周囲の温度が低下し、常温固体物質2が再び固体に戻る。このことからも、長期間にわたり固体電解コンデンサAのコンデンサ特性の劣化を抑制できる。
【0061】
さらに、ケース1内面とコンデンサ素子3外面との間には、常温固体物質2が配置される。そのため、コンデンサ素子3は常温固体物質2によってケース1内面に保持される。その結果として、固体電解コンデンサAに作用する衝撃又は振動等の外部からの力が、コンデンサ素子3に伝達されにくく、コンデンサ素子3の外力による劣化が抑制される。これにより、長期間にわたり固体電解コンデンサAのコンデンサ特性の劣化を抑制できる。
【0062】
なお、固体電解コンデンサAが高温環境下で使用される場合がある。この場合、固体電解コンデンサAのケース1内部の温度が、第2温度(溶媒21の融点)以上になることがある。この場合において、常温固体物質2は溶融されて液化する。液化した常温固体物質2は、従来の電解液よりも粘度が高い。そのため、温度上昇により、ケース1内部の常温固体物質2が液化した場合であっても、振動、衝撃等の外部からの力がコンデンサ素子3に伝達することを抑制できる。すなわち、固体電解コンデンサAに作用する衝撃又は振動等の外部からの力が、コンデンサ素子3に伝達されにくく、コンデンサ素子3の外力による劣化が抑制される。これにより、長期間にわたり固体電解コンデンサAのコンデンサ特性の劣化を抑制できる。
【0063】
例えば、常温固体物質2の溶媒21として、PEG6000 (融点58℃)について説明する。PEG6000の80℃における動粘度は約1000mm2/sで、水(電解液の成分)の80℃における動粘度(約1mm2/s)の約1000倍である。このことから、固体電解コンデンサAの使用環境において、ケース1内温度が第2温度以上になっても、コンデンサ素子3が外力による振動に対して、リード端子が破断しにくい。
【0064】
図16は、エージング処理を示す図である。コンデンサでは、特性を安定化させるために、エージング処理が行われる。以下に、エージング処理について説明する。
図16に示すように、固体電解コンデンサAを陽極リード端子10及び陰極リード端子11が下方となるように保持する。そして、固体電解コンデンサAを常温固体物質2の溶媒21が溶融する第2温度以上の温度に昇温する。この状態で、陽極リード端子10及び陰極リード端子11に所定電圧を所定時間印加する。
【0065】
このようなエージング処理において、固体電解コンデンサAの常温固体物質2の温度が第2温度になると、常温固体物質2の溶媒21が溶融し封口体4側に流下する。そして、エージング処理後に、固体電解コンデンサAが冷却され、常温固体物質2の温度が第1温度(常温)以下に下がると、常温固体物質2は封口体4の近傍で固体化する(
図16参照)。
【0066】
つまり、固体電解コンデンサAは、製造直後、つまり、エージング処理を行う前、常温固体物質2は、
図1に示すように、ケース1の底部1a側に位置する。そして、エージング処理を行った後、常温固体物質2はケース1の封口体4側に移動する。このとき、コンデンサ素子3の外周面は、常温固体物質2によってケース1の内面に保持される。その結果、衝撃、振動等の外部からの力がコンデンサ素子3に伝達されにくく、コンデンサ素子3の外力による劣化が抑制される。これにより、長期間にわたり固体電解コンデンサAのコンデンサ特性の劣化を抑制できる。
【0067】
なお、上述のとおり、コンデンサ素子3の内部には、常温固体物質2が浸入している。エージング処理によって、コンデンサ素子3内部に浸入している常温固体物質2は溶融され、常温固体物質2は、液化される。液化された常温固体物質2は、コンデンサ素子3を構成するセパレータ7、陽極体8及び陰極体9による毛細管現象によってコンデンサ素子3の内部に保持され、コンデンサ素子3の外部への流出が抑制される。このため、陽極体8の酸化膜の修復が阻害されにくい。つまり、固体電解コンデンサAでは、エージング処理の有無にかかわらず、長期間にわたりコンデンサ特性の劣化が抑制される。
【0068】
図17は、本発明の他の実施形態の固体電解コンデンサA1を示す図である。
図17に示す固体電解コンデンサA1のように、ゴム製の封口体4に替えて、ケース1の開口部1cから樹脂を流し込み、樹脂製の封口体40としてもよい。ケース1内に電解液を収容していないため、樹脂製の封口体40でもケース1の開口部1cの封口を十分に行うことができる。
【0069】
<実施例>
以上示した構成を備えた固体電解コンデンサAの具体例(実施例1~実施例4)について、説明する。
【0070】
(実施例1)
ます、
図6に示すように容器15に溶媒21としてPEG10000(融点62℃)を入れる。そして、溶媒21を溶媒21の融点以上の80℃に加熱し、その後、溶融して液状となった溶媒21内に、電解質22としてボロジサリチル酸トリメチルアミンを、投入、撹拌し溶媒21に電解質22を略均一に溶解させて、液状の常温固体物質2を生成する。なお、常温固体物質2は、電解質22の濃度が15%の溶液である。つまり、液体の常温固体物質2において、濃度が15%となる量の電解質22を溶媒21に投入する。
【0071】
そして、
図7に示すように、容器15の加熱を止め、常温(例えば30℃)以下に冷却し、固形状態の常温固体物質2とする。次に、
図8に示すように、容器15内の常温固体物質2を粉砕し、常温固体物質の粉体20を作成した。
【0072】
また、コンデンサ素子3は、以下の手順で作成した。まず、セパレータ7、陽極体8及び陰極体9を重ねた。その後、陽極体8が内側になるように巻き、外側のセパレータ7をテープ12で固定したコンデンサ成型体31を作成した。そして、コンデンサ成型体31を化成液層中のアジピン酸アンモニウム水溶液に浸漬するとともに、陽極リード端子10と化成液の間に60Vの電圧を15分間印加した。これにより、陽極体8の表面の酸化膜を修復し、その後125℃で30分乾燥した。この状態で、コンデンサ成型体31は、35V―270μFのコンデンサとしての能力を有する。
【0073】
そして、このコンデンサ成型体31を、第1ポリマー141としての自己ドープ型導電性高分子水溶液(東ソ-株式会社製SELFTRON)25部と、第2ポリマー142を含む物質としてチオフェン系導電性高分子水分散体(ヘレウス株式会社製)75部と、と混合したポリマー溶液に浸漬させた。そして、コンデンサ成型体31をポリマー溶液から引き上げ、125℃の雰囲気中で30分乾燥した。これにより、セパレータ7、陽極体8及び陰極体9の表面に第1ポリマー141及び第2ポリマー142が付着したコンデンサ素子3が作製された。
第1、第2のポリマーを形成した。
【0074】
その後、直径10mm、高さ10.5mmのケース1の内部に、常温固体物質の粉体20を120mg投入する。そして、常温固体物質の粉体20を内部に収容したケース1を加熱治具16の凹穴161にセットする。そして、ケース1を80℃に加熱し、ケース1内部の常温固体物質2を溶融させた。このとき、ケース1には、液体の常温固体物質2が収容されている。
【0075】
そして、ケース1の開口部1cから、コンデンサ素子3を挿入する。このとき、コンデンサ素子3の一部が、液体の常温固体物質2に浸かるように、コンデンサ素子3を支持する。そして、加熱を停止によって温度降下させケース1の内部の常温固体物質2が固体化する。その後、ブチルゴムからなる封口体4の貫通孔4a及び貫通孔4bに陽極リード端子10及び陰極リード端子11を挿入する。そして、ケース1に凹部5及び当接部6を形成して、固体電解コンデンサAが完成する。
【0076】
その後、完成した固体電解コンデンサAを、陽極リード端子10及び陰極リード端子11が、下方となるように保持する。その状態で、約125℃の雰囲気中に配置し、陽極リード端子10及び陰極リード端子11に所定電圧を1時間印加し、エージング処理を行って、実施例1の固体電解コンデンサA1を作製した。
【0077】
このように作製した、固体電解コンデンサAであっても、ケース1の内面とコンデンサ素子3の外面との間には、常温固体物質2が介在するため、コンデンサ素子3は、ケース1に確実に保持される。また、ケース1とコンデンサ素子3との間に常温固体物質2が介在するため、ケース1に付与された衝撃、振動等に基づく外力のコンデンサ素子3への伝達が抑制される。これにより、コンデンサ素子3の外力による劣化が抑制される。
【0078】
また、実施例1の固体電解コンデンサAの陽極体8の表面の酸化膜の修復能力を確認する実験を行った。
図18は、実施例1の固体電解コンデンサAにおける酸化膜の修復能力を確認する実験結果を示すグラフである。
【0079】
まず、実験の方法及び詳細について説明する。上述したとおり、固体電解コンデンサAにおいて、陽極体8の表面の酸化膜が損傷している状態のとき、酸化膜の損傷部分から集中して漏れ電流LCが発生する。つまり、大きな漏れ電流LCが発生する。漏れ電流が流れている状態で一定期間経過すると、酸化膜の損傷部位の近傍の温度が上昇し、常温固体物質2が昇温され液体に状態変化する。そして、液体の常温固体物質2のうち、電解質22によって酸化膜の修復が実行される。酸化膜の修復が進むことで、漏れ電流LCが小さくなる。
【0080】
このような現象が発生することに基づいて、固体電解コンデンサAの漏れ電流を検出し、漏れ電流LCの変化に基づいて、陽極体8の表面の酸化膜の修復を確認できる。そこで、本実験では、所定の電圧を印加した状態で、漏れ電流を検出し、酸化膜の修復による漏れ電流の変化を確認した。
【0081】
本実験では、固体電解コンデンサAのコンデンサ素子3の陽極体8の端部の酸化膜を修復していないもの、つまり、陽極体8が露出したのものを用意した。そして常温で、陽極リード端子10、陰極リード端子11間に電圧25Vを印加する。そして、電圧を印加した状態を維持しつつ、漏れ電流LCを測定する。そして、漏れ電流LCの変化に基づいて、陽極体8の酸化膜の修復を判断する。
【0082】
図18のグラフは、縦軸は漏れ電流LC(μA)である。また、横軸は実験開始からの経過時間である。なお、
図18に示すグラフは、縦軸が対数軸となっている。実験開始時において、大きな漏れ電流LC(
図18において、約70000μA)が流れていることがわかる。そして、およそ30秒経過するまでの間、大きな漏れ電流LCが流れ続ける。そして、実験開始からおよそ30秒後から漏れ電流が急激減少し、さらに時間が経過するとともに一定の電流量に収束している。
【0083】
このことについて説明すると、実験開始直後は、陽極体8の一部が露出した状態であるため陽極体8の露出している部分に集中して漏れ電流LCが発生する。そのため、実験開始直後には、大きな漏れ電流LCが流れる。実験開始直後において、この大きな漏れ電流LCによるジュール熱で陽極体8が昇温される。そして、陽極体8の温度上昇に伴って、常温固体物質2の温度も上昇する。その後、常温固体物質2の温度が第2温度に昇温されると、常温固体物質2の溶媒21が溶融し、液体の常温固体物質2に変化する。実験開始から常温固体物質2が溶融し、液体の常温固体物質2に変化するまでの時間がおよそ30秒であると考えられる。
【0084】
液体の常温固体物質2に含まれる電解質22によって陽極体8の表面の酸化膜が修復される。陽極体8の表面の酸化膜が修復されると、陽極体8の露出部分が小さくなるため漏れ電流が減少する。つまり、実験開始から約30秒後から、液体の常温固体物質2の電解質22により陽極体8の表面の酸化膜が修復され始めていると考えられる。
【0085】
そして、時間が経過するごとに、つまり、修復が進むにつれて漏れ電流LCが減少する。漏れ電流LCの減少によって陽極体8の温度が低下し、常温固体物質2の温度も低下する。時間の経過とともに漏れ電流LCが減少し、陽極体8の発熱量が低くなる。これにより、常温固体物質2も冷却され、常温固体物質2が第1温度以下まで冷却されると、固体化される。酸化膜が修復されるとともに常温固体物質2が固体化することで、漏れ電流LCが低く抑えられる。
【0086】
以上示したとおり、固体電解コンデンサAでは、陽極体8の酸化膜が損傷して、陽極体8が露出しても、常温固体物質2に含まれる電解質22によって、酸化膜が修復されていることがわかった。これにより、固体電解コンデンサAでは、長期間にわたってコンデンサ特性の劣化が抑制される。
【0087】
(実施例2)
実施例2では、常温固体物質2の溶媒21としてペンタステアリン酸ポリグリセリル-4(融点50℃~60℃)用いた。そして、溶媒21を溶媒21の融点以上の100℃に加熱し、その後、溶融して液状となった溶媒21内に、電解質22としてボロジサリチル酸トリメチルアミンを、投入、撹拌し溶媒21に電解質22を略均一に溶解させて、液状の常温固体物質2を生成する。なお、常温固体物質2は、電解質22の濃度が15%の溶液である。つまり、液体の常温固体物質2において、濃度が15%となる量の電解質22を溶媒21に投入する。それ以外は、実施例1と同様に構成した。このように構成した、実施例2の固体電解コンデンサは、実施例1と同様の効果を有することがわかった。
【0088】
(実施例3)
実施例3では、常温固体物質2の溶媒21としてソルビトール(融点95℃)用いた。そして、溶媒21を溶媒21の融点以上の115℃に加熱し、その後、溶融して液状となった溶媒21内に、電解質22としてボロジサリチル酸トリメチルアミンを、投入、撹拌し溶媒21に電解質22を略均一に溶解させて、液状の常温固体物質2を生成する。なお、常温固体物質2は、電解質22の濃度が15%の溶液である。つまり、液体の常温固体物質2において、濃度が15%となる量の電解質22を溶媒21に投入する。それ以外は、実施例1と同様に構成した。このように構成した、実施例2の固体電解コンデンサは、実施例1と同様の効果を有することがわかった。
【0089】
(実施例4)
実施例4では、常温固体物質2の溶媒21としてグルコース(融点150℃)用いた。そして、溶媒21を溶媒21の融点以上の170℃に加熱し、その後、溶融して液状となった溶媒21内に、電解質22としてボロジサリチル酸トリメチルアミンを、投入、撹拌し溶媒21に電解質22を略均一に溶解させて、液状の常温固体物質2を生成する。なお、常温固体物質2は、電解質22の濃度が15%の溶液である。つまり、液体の常温固体物質2において、濃度が15%となる量の電解質22を溶媒21に投入する。それ以外は、実施例1と同様に構成した。このように構成した、実施例2の固体電解コンデンサは、実施例1と同様の効果を有することがわかった。
【0090】
上述した実施の形態においてコンデンサ素子3は、以下の製造方法(ここでは、第1の製造方法とする)で製造される。コンデンサ成型体31への第1ポリマー141と、水分散性の第2ポリマー142の形成は、第1ポリマー141と、第2ポリマー142とを攪拌した溶液に14浸漬し、その後、コンデンサ成型体31を溶液14外に引き上げ、125℃の雰囲気中で、30分乾燥させることによってコンデンサ素子3を形成する。このコンデンサ素子3の製造方法を第1の製造方法とする。
【0091】
コンデンサ素子3の他の製造方法として、第1の製造方法とは異なる第2の製造方法を採用することも可能である。すなわち、第2の製造方法では、コンデンサ成型体31を、第1ポリマー141を含む溶液14に浸漬する。その後、コンデンサ成型体31を溶液14外に引き上げ、125℃の雰囲気中で、30分乾燥させる。次に、乾燥させたコンデンサ成型体31を第2ポリマー142が含まれる溶液14に浸漬する。その後、コンデンサ素子3を溶液14外に引き上げ、125℃の雰囲気中で、30分乾燥させる。このように構成することで、製造工程が2段階となるが、第2の製造方法でもコンデンサ素子3に第1ポリマー141及び第2ポリマー142を形成できる。
【0092】
さらに、コンデンサ素子3の他の製造方法として、第1の製造方法及び第2の製造方法とは異なる第3の製造方法を採用することも可能である。すなわち、第3の製造方法では、コンデンサ成型体31を、第2ポリマー142を含む溶液14に浸漬する。その後、コンデンサ成型体31を溶液14外に引き上げ、125℃の雰囲気中で、30分乾燥させる。次に、乾燥させたコンデンサ成型体31を第1ポリマー141が含まれる溶液14に浸漬する。その後、コンデンサ素子3を溶液14外に引き上げ、125℃の雰囲気中で、30分乾燥させる。このように構成することで、製造工程が2段階となるが、第2の製造方法でもコンデンサ素子3に第1ポリマー141及び第2ポリマー142を形成できる。
【0093】
以上示した3つの製造方法によって形成したコンデンサ素子3を用いても、固体電解コンデンサAの代表的な特性(静電容量、tanδ、ESR)は、いずれも良好であった。以上示した3つの製造方法でも、第1ポリマー141が、コンデンサ素子3の陽極体8の表面と陰極体9の表面に層状に付着した状態となっている。そして、第2ポリマー142が、第1ポリマー141が層状に付着した陽極体8の表面と陰極体9との表面との間に、陽極体8の表面と陰極体9の表面と間を電気的に接続した状態で存在することがわかる。その結果として、固体電解コンデンサAの代表的な特性(静電容量、tanδ、ESR)は、何れも良好な状態を示す。
【0094】
以上のことから、固体電解コンデンサAのコンデンサ素子3は、第1ポリマー141が、コンデンサ素子3の陽極体8の表面と陰極体9の表面に層状に付着した状態となっていることである。そして、そして、第2ポリマー142が、第1ポリマー141が層状に付着した陽極体8の表面と陰極体9との表面との間に、陽極体8の表面と陰極体9の表面と間を電気的に接続した状態で存在することが重要であることがわかる。
【符号の説明】
【0095】
A 固体電解コンデンサ
A1 固体電解コンデンサ
1 ケース
1a 底部
1b 筒部
1c 開口部
2 常温固体物質
20 常温固体物質の粉体
21 溶媒
22 電解質
3 コンデンサ素子
31 コンデンサ成型体
4 封口体
4a、4b 貫通孔
40 封口体
5 凹部
6 当接部
7 セパレータ
8 陽極体
9 陰極体
10 陽極リード端子
11 陰極リード端子
12 テープ
13 容器
14 溶液
141 第1ポリマー
142 第2ポリマー
15 容器
16 加熱治具
161 凹穴