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特開2023-3253非特異反応の発生の検出方法、分析方法、分析装置、及び非特異反応の発生の検出プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003253
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】非特異反応の発生の検出方法、分析方法、分析装置、及び非特異反応の発生の検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20221228BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20221228BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20221228BHJP
   G01N 21/59 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G01N33/53 Z
G01N33/483 C
G01N21/3577
G01N21/59 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104323
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 有香
(72)【発明者】
【氏名】木村 考伸
(72)【発明者】
【氏名】西 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】熊野 穣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健史
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G045FA13
2G045FA14
2G045FB03
2G045GC10
2G045GC11
2G045JA01
2G059AA06
2G059BB04
2G059BB06
2G059BB13
2G059CC17
2G059DD01
2G059DD13
2G059EE01
2G059EE11
2G059FF04
2G059GG02
2G059GG03
2G059HH01
2G059HH02
2G059JJ17
2G059KK01
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】
抗原抗体反応を利用した分析系において非特異反応の発生を検出することを課題とする。
【解決手段】
生体試料に含まれる抗原又は抗体の、前記抗原又は前記抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原を含む測定試薬を用いた分析における、非特異反応の発生の検出方法に関する。前記非特異反応の発生の検出方法は、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と、前記測定試薬に含まれる前記抗体又は前記抗原との抗原抗体反応の進行に関するデータ群を生成し、前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力し、前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づき、非特異反応の発生に関する情報を生成する、前記非特異反応の発生の検出方法により、課題を解決する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料に含まれる抗原又は抗体の、前記抗原又は前記抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原を含む測定試薬を用いた分析における、非特異反応の発生の検出方法であって、
前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と、前記測定試薬に含まれる前記抗体又は前記抗原との抗原抗体反応の進行に関するデータ群を生成し、
前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力し、
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づき、非特異反応の発生に関する情報を生成する、
前記非特異反応の発生の検出方法。
【請求項2】
前記データ群の生成において、所定期間光が照射された前記測定試料を介して検出した検出光の強度を示す検出情報を受信し、受信した前記検出情報から前記データ群を生成する、
請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記データ群に含まれる各データは、前記所定期間における各測定時点の前記検出光の強度を反映する、
請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記データ群に含まれる各データは、前記測定試料を透過した光の強度、前記測定試料が吸収した光の強度、又は前記測定試料により散乱した光の強度を示す、
請求項3に記載の検出方法。
【請求項5】
前記検出情報は、互いに波長が異なる複数種の光が順に照射された前記測定試料を介して検出した前記検出光の強度を示し、
前記データ群の生成において、前記検出情報からそれぞれの前記光に対応した複数の前記データ群を生成し、
前記データ群の深層学習アルゴリズムへの入力において、複数の前記データ群を前記深層学習アルゴリズムに入力する、
請求項2から4のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項6】
生体試料に含まれる抗原又は抗体を、前記抗原又は前記抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原を含む測定試薬を用いて分析する分析方法であって、
前記生体試料と前記測定試薬とを含む測定試料を調製し、
前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体を分析し、
請求項1に記載の前記非特異反応の発生の検出方法を実行する、
前記分析方法。
【請求項7】
前記測定試料に光を所定期間照射し、前記測定試料を介して検出した検出光の強度を示す検出情報を出力する、ことを更に含み、
前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体の分析において、
前記検出情報に基づき、前記抗原又は前記抗体を分析する、
請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
前記データ群の生成において、
前記検出情報から前記データ群を生成し、
前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体の分析において、
前記検出情報から生成された前記データ群に基づき、前記抗原又は前記抗体を分析する、
請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体を分析した結果が第1条件を満たしたとき、前記非特異反応の発生の検出方法を実行する、
請求項6から8のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項10】
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果が第2条件を満たしたとき、前記非特異反応の発生に関する情報を出力する、
請求項6から9のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項11】
前記非特異反応の発生に関する情報の出力において、
前記生体試料を採取した被検者の過去の生体試料の分析結果、及び/又は前記被検者を診察して得られた臨床情報に関する情報をさらに出力する、
請求項10に記載の分析方法。
【請求項12】
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果が前記第2条件を満たしたとき、前記生体試料の再分析を示唆するメッセージを出力する、ことを更に含む、
請求項10又は11に記載の分析方法。
【請求項13】
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果が前記第2条件を満たしたとき、前記生体試料の再分析の実行指示を受け付け、
前記実行指示を受け付けると、前記生体試料の再分析を実行する、ことを更に含む、
請求項12に記載の分析方法。
【請求項14】
前記実行指示の受け付けにおいて、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と異なる種類の抗原又は抗体の分析の実行指示を受け付ける、
請求項13に記載の分析方法。
【請求項15】
前記実行指示の受け付けにおいて、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と同じ種類の抗原又は抗体を、前記測定試料における希釈倍率よりも高い希釈倍率で前記生体試料を希釈し、分析する実行指示を受け付ける、
請求項13又は14に記載の分析方法。
【請求項16】
生体試料に含まれる抗原又は抗体を、前記抗原又は前記抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原を含む測定試薬を用いて分析する分析装置であって、
前記生体試料と前記測定試薬とを含む測定試料を調製する試料調製部と、
前記測定試料に光を照射する光照射部と、
前記光照射部から照射された光を、前記測定試料を介して検出し、検出した光に対応する検出情報を出力する検出部と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体を分析し、
前記測定試料における非特異反応の発生を検出し、
前記非特異反応の発生の検出は、
前記検出情報に基づいて、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と、前記測定試薬に含まれる前記抗体又は前記抗原との抗原抗体反応の進行に関するデータ群を生成し、
前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力し、
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づき、非特異反応の発生に関する情報を生成する、ことを含む、
前記分析装置。
【請求項17】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と、前記測定試薬に含まれる前記抗体又は前記抗原との抗原抗体反応の進行に関するデータ群を生成するステップと、
前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力するステップと、
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づき、非特異反応の発生に関する情報を生成するステップと、
を実行させる、前記非特異反応の発生の検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非特異反応の発生の検出方法、分析方法、分析装置、及び非特異反応の発生の検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
抗原や抗体を測定するための方法として、抗原抗体反応を利用した免疫学的測定法が、血液や尿などを含む生物由来の測定試料の検査において一般的に用いられている。免疫学的測定法を用いる検査では、血液や尿などの生体試料中に混在するリウマチ因子や補体成分C1q等により、非特異反応が進行し、検査結果が偽陽性となることが一般的に知られている。特許文献1は、そのような非特異反応による影響を抑制するための方法を開示している。
【0003】
特許文献1では、このような非特異反応が生じる原因と考えられる、抗体のアミノ酸配列が高い類似度を示す定常部位(Fc portion)を、ブロック剤によりブロックした抗体を用いることで、非特異反応を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州公開公報0566205明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法を用いたとしても、免疫学的測定法において、非特異反応の発生を完全に抑制することは困難である。非特異反応が発生すると検査結果が偽陽性となるため、非特異反応の発生を検出し、偽陽性の検査結果を報告しないようにすることが求められている。
【0006】
本発明は、抗原抗体反応を利用した分析系において非特異反応の発生を検出することが可能な、非特異反応の発生の検出方法、分析方法、分析装置、及び非特異反応の発生の検出プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体試料に含まれる抗原又は抗体の、前記抗原又は前記抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原を含む測定試薬を用いた分析における、非特異反応の発生の検出方法に関する。前記非特異反応の発生の検出方法は、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と、前記測定試薬に含まれる前記抗体又は前記抗原との抗原抗体反応の進行に関するデータ群を生成し、前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力し、前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づき、非特異反応の発生に関する情報を生成する。
【0008】
本発明は、生体試料に含まれる抗原又は抗体を、前記抗原又は前記抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原を含む測定試薬を用いて分析する分析方法に関する。前記分析方法は、前記生体試料と前記測定試薬とを含む測定試料を調製し、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体を分析し、前記非特異反応の発生の検出方法を実行する。
【0009】
本発明は、生体試料に含まれる抗原又は抗体を、前記抗原又は前記抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原を含む測定試薬を用いて分析する分析装置(1)に関する。分析装置(1)は、前記生体試料と前記測定試薬とを含む測定試料を調製する試料調製部(20)と、前記測定試料に光を照射する光照射部(10)と、前記光照射部から照射された光を、前記測定試料を介して検出し、検出した光に対応する検出情報を出力する検出部(230)と、制御装置(70)と、を備え、制御装置(70)は、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体を分析し、前記測定試料における非特異反応の発生を検出し、前記非特異反応の発生の検出は、前記検出情報に基づいて、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と、前記測定試薬に含まれる前記抗体又は前記抗原との抗原抗体反応の進行に関するデータ群を生成し、前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力し、前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づき、非特異反応の発生に関する情報を生成する。
【0010】
本発明は、コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、前記生体試料に含まれる前記抗原又は前記抗体と、前記測定試薬に含まれる前記抗体又は前記抗原との抗原抗体反応の進行に関するデータ群を生成するステップと、前記データ群を深層学習アルゴリズムに入力するステップと、前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づき、非特異反応の発生に関する情報を生成するステップと、を実行させる、非特異反応の発生の検出プログラムに関する。
【0011】
前記非特異反応の発生の検出方法、分析方法、分析装置、及び非特異反応の発生の検出プログラムによれば、抗原抗体反応を利用した分析系において非特異反応の発生を検出することができる。
【発明の効果】
【0012】
抗原抗体反応を利用した分析系において非特異反応の発生を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】分析装置1の外観例を示す。
図2】分析装置1のハードウエア構成例を示す。
図3】記憶装置202の構成例を示す。
図4】光照射部10の構成例を示す。
図5】検出部230の構成例を示す。
図6】分析装置1の制御装置70が実行する分析処理のフローを示す。
図7】測定プログラム202aに基づいて制御装置70が実行する測定処理のフローを示す。
図8】被検物質分析・非特異反応検出プログラム202bに基づいて制御装置70が実行する被検物質分析・非特異反応検出処理のフローを示す。
図9A】抗原抗体反応の進行に関するデータ群の例を示す。
図9B】縦軸(Y軸)は、吸光度を示し、横軸(X軸)は、検出情報の出力開始からの経過時間(秒:sec)を示すグラフに、図9Aに例示したデータ群のうち、第1光源321から出射された波長(第1波長)に対応するデータ群D11をプロットした図を示す。
図10】メッセージボックスMB1の構成例を示す。
図11】深層学習アルゴリズムの訓練の概要を示す。
図12】深層アルゴリズムを用いた分析の一例を示す。
図13】メッセージボックスMB1’の構成例を示す。
図14】制御装置70が実行する再分析処理のフローを示す。
図15】オペレータに再分析の選択を入力させるためのダイアログボックスMB3の出力例を示す。
図16】再分析項目データベースDB3の例を示す。
図17】メッセージボックスMB1’’の構成例を示す。
図18】再分析結果データベースDB4の例を示す。
図19A】訓練装置5の外観例を示す。
図19B】訓練装置5のハードウエア構成例を示す。
図20】非特異反応の発生確率を算出する別の方法を示すフローチャートである。
図21】非特異反応が発生しない生体試料群のS値分布の例を示す。
図22】深層学習アルゴリズムから出力された非特異反応が発生した確率(0.0~1.0)を横軸とし、横軸を0.05毎に分割し、各分割範囲に属する生体試料の頻度を縦軸とするヒストグラムを示す。
図23図22で示した生体試料にROC解析を行った結果得られたROC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.分析装置1
図1から図12を用いて、本実施形態の分析装置(以下、単に「分析装置1」とする)を説明する。
【0015】
分析装置1は、免疫比濁法により生体試料を測定する。免疫比濁法は、生体試料中の抗原又は抗体と、該抗原又は抗体と特異的に結合する、測定試薬中の抗体又は抗原とが、抗原抗体反応する過程を測定する測定法である。分析装置1の分析対象は、フィブリン分解産物であるDダイマー;又は、フィブリン及び/又はフィブリノーゲン分解産物であるFDPを含む。
【0016】
Dダイマーを測定する場合には、測定試薬として、Dダイマーを認識する抗体を固定した担体粒子を含む測定試薬を使用できる。Dダイマーの測定試薬として、例えば、シスメックス株式会社製のリアスオート(登録商標)・Dダイマー ネオ、積水メディカル株式会社のナノピア(登録商標) Dダイマー、株式会社LSIメディエンスのLPIAジェネシス(登録商標) Dダイマーを使用できる。
【0017】
FDPを測定する場合には、測定試薬として、FDPを認識する抗体を固定した担体粒子を含む測定試薬を使用できる。例えば、FDPの測定試薬としてシスメックス株式会社製のリアスオート(登録商標) P-FDP、積水メディカル株式会社のナノピア(登録商標) P-FDP、株式会社LSIメディエンスのエルピア(登録商標) FDP-Pを使用できる。
【0018】
分析装置1は、免疫比濁法による測定には限定されず、例えば、免疫比ろう法により生体試料を分析してもよい。分析装置1の分析対象は、Dダイマー又はFDPには限定されず、例えば、可溶性フィブリンモノマー複合体(以下、「FMC」と略記することがある);フォンヴィレブランド因子抗原量(以下、「VWF:Ag」と略記することがある);イムノグロブリンのIgG、IgA、IgM;補体マーカーであるC3、C4;抗ストレプトリジン-O;バンコマイシン;μ-アルブミン;プレアルブミン(P-Alb);リポ蛋白(a);アデノシン5’-二リン酸(ADP);コラーゲン;エピネフリン;又はCRP等であってもよい。
【0019】
分析装置1が測定する生体試料は、血漿である。分析装置1が測定する生体試料は、血漿には限定されず、全血又は血清である血液試料であってもよいし、尿、胸水、腹水、リンパ液、細胞間質液、脳脊髄液等であってもよい。
【0020】
1-1.分析装置1のハードウエア構成
分析装置1は、生体試料に、生体試料中の抗原又は抗体と特異的に結合する(すなわち、抗原抗体反応する)抗体又は抗原を含む測定試薬を添加することにより測定試料を調製し、調製した測定試料に光を照射し、測定試料から透過した光を検出し、検出した光に基づいて生体試料に含まれる抗原又は抗体を分析し、測定試料における非特異反応の発生を検出することが可能な装置である。分析装置1の外観例を図1に示す。分析装置1は、測定試料に所定期間光を照射し、該測定試料を透過した光の強度を示す検出情報を取得するための測定装置2と、データの入出力が可能な入出力装置4と、を備えている。
【0021】
分析装置1のハードウエア構成例を図2に示す。分析装置1の測定装置2は、制御装置70と、検出装置80とを備える。制御装置70は、データ処理を行う演算処理装置201と、データ処理の作業領域に使用する記憶装置203と、記憶装置203に転送される情報を保存する記憶装置202と、各装置の間でデータを伝送するバス209と、外部機器とのデータの入出力を行うインタフェース(I/F)206a、206bとを備えている。制御装置70は、ネットワーク99を介して電子カルテシステム1000と接続されている。
【0022】
演算処理装置201は、CPU(Central Processing Unit)である。入出力装置4はインタフェース(I/F)206aに接続されており、ネットワーク99はインタフェース(I/F)206bに接続されている。インタフェース(I/F)206aはUSBであり、インタフェース(I/F)206bはイーサネットである。記憶装置203は、DRAM及びSRAMである。記憶装置202は、ソリッドステートドライブである。入出力装置4は、タッチパネル式のディスプレイであり、ディスプレイへの接触によりオペレータからの入力を受け付けるとともに、ディスプレイに情報を表示する。測定装置内の信号の伝送は、バス209を介して行われる。制御装置70の構成は、上記の構成に限定されず、例えば、インタフェース(I/F)206a又はインタフェース(I/F)206bとして、例えばIEEE1394を用いてもよいし、記憶装置202として、例えばハードディスクを用いてもよい。入出力装置4は、入力装置としてのキーボード及び/又はマウス、及び出力装置としての液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイであってもよい。
【0023】
図3は、記憶装置202が記憶している情報を示す図である。記憶装置202は、測定装置200が測定処理を行い、検出情報を出力するための測定プログラム202aと、該検出情報からデータ群を生成し、解析する被検物質分析・非特異反応検出プログラム202bと、解析に使用する深層学習アルゴリズムを格納する深層学習アルゴリズムデータベースDB1と;個々の測定項目に対応する検量線、個々の測定項目に対応する高濃度判定用の閾値、及び個々の測定項目に対応する非特異反応判定用の閾値を格納する検量線・閾値データベースDB2と;非特異反応の発生が疑われるために再分析が必要となった場合に実行する再分析項目の情報を格納する再分析項目データベースDB3と;再分析により、非特異反応の発生があること、又はないことが特定された各生体試料の抗原抗体反応の進行に関するデータ群に、生体試料の識別情報(サンプルNo.等)、及び非特異反応の発生の有無を紐付けて格納した再分析結果データベースDB4を記憶する。
【0024】
図2に戻り、検出装置80は、試料調製部20と、光照射部10と、検出部230と、を備える。
【0025】
図4に光照射部10の構成を示す。光照射部10は、5つの光源321、322、323、324及び325と、5つの光源321~325に対応して設けられた5つの光ファイバ部330a、330b、330c、330d及び330eと、光源321~325と光ファイバ部330a~330eの入射端331とを保持するための1つの保持部材340とを含んでいる。光源321~325、光ファイバ部330a~330e及び保持部材340は、金属製のハウジング310内に収容されている。光源321~325は、いずれもLEDにより構成され、第1光源321は、660nm(第1波長)の光を発生する。第2光源322は、405nm(第2波長)の光を発生する。第3光源323は、800nm(第3波長)の光を発生する。第4光源324は、340nm(第4波長)の光を発生する。第5光源325は、575nm(第5波長)の光を発生する。第1光源321~第5光源325は、後述するように、制御装置70からの制御により、第1光源321~第5光源325のうちの1つの光源が順に、所定期間(例えばT秒間(Tは、0.1未満))光を出射することを、光照射の開始から所定時間(例えば、200秒)が経過するまで繰り返す。
【0026】
光ファイバ部330a~330eは、それぞれ、1本のコアを有する光ファイバ素線を束ねたケーブルとして構成されている。光ファイバ部330a~330eは、中間部333において1つに束ねられ、1つに束ねられた光ファイバ部330a~330eは、2つの束に分けられ、それぞれの束の出射端332が、ハウジング310に設けられた取出口311によって保持されている。取出口311には、光照射部10と検出部230を接続する光ファイバ21の入射端352も保持されている。光ファイバ部330a~330eの出射端332と光ファイバ21の入射端352の間には、出射端332から出射した光の強度分布を均一化するための均一化部材350が設けられている。均一化部材350は、入射面351から入射した光を内部で多重反射させる部材であり、例えば、多角柱状のロッドホモジナイザーである。
【0027】
図5(A)及び(B)に検出部230の構成を示す。なお、検出部230は、光照射部10に接続された各光ファイバ21に設けられているが、光ファイバ21と検出部230の接続の構成、及び、検出部230のハードウエア構成は、全ての検出部230について同一であるため、ここでは1つの検出部230について説明する。図5(A)は、測定試薬と生体試料を混合するための透明な容器15を保持していない状態の検出部230を示す図である。検出部230には、入射端352(図4)が光照射部10の取出口311に保持された光ファイバ21の他端353が挿入される穴22bが形成されている。さらに、検出部230には、穴22bを、容器15を保持するための保持部22aに連通させる連通孔22cが形成されている。
【0028】
穴22bの径は、連通孔22cの径よりも大きい。穴22bの端部には、光ファイバ21からの光を集光するレンズ22dが配置されている。さらに、保持部22a内壁面には、連通孔22cに対向する位置に孔22fが形成されている。この孔22fの奥に、受光部22gが配置されている。受光部22gは、例えばフォトダイオードであり、受光光量に応じた電気信号を出力する。レンズ22dを透過した光は、連通孔22c、保持部22a及び孔22fを介して、受光部22gの受光面に入射する。光ファイバ21は、端部353が穴22bに挿入された状態で、板ばね22eによって固定されている。
【0029】
図5(B)は、容器15を保持している状態の検出部230を示す図である。保持部22aに容器15が保持されると、レンズ22dによって集光された光は、容器15及び容器15に収容された測定試料を透過して、受光部22gに入射する。測定試料において抗原抗体反応が進むと、測定試料の濁度が上昇する。これに伴い、測定試料を透過する光の光量(透過光量)が減少し、受光部22gから出力される電気信号のレベルが低下する。受光部22gから出力される電気信号は、A/D変換器22hによりデジタル信号に変換され、I/F206(図2参照)を介して制御装置70に送信される。受光部22gから出力され、A/D変換器22hにより変換された信号は、透過光量を反映したデジタルデータである。なお、検出部230は、受光部22gを、レンズ22dと受光部22gとを結ぶ直線に交差する直線上に配置し、測定試料によって散乱した光を検出するようにしてもよい。
【0030】
試料調製部20は、容器15に生体試料と測定試薬を分注し、生体試料と測定試薬とが混合された測定試料を収容した容器15を、検出部230の保持部22aに移送する。
【0031】
光照射部10、試料調製部20および検出部230として、例えば、米国特許第10、048、249号公報に記載の装置が使用でき、当該公報は参照により本明細書に組み込まれる(U.S. Patent No. 10,048,249 is hereby incorporated by reference)。
【0032】
1-2.分析処理(測定・被検物質分析・非特異反応検出処理)
図6に、制御装置70による分析処理(測定・被検物質分析・非特異反応検出処理)の流れを示す。制御装置70は、ステップS1において、測定プログラム202aに基づいて測定処理を実行する。次に、制御装置70は、ステップS2において、被検物質分析・非特異反応検出プログラム202bに基づいて被検物質分析・非特異反応検出処理を実行する。測定処理は、オペレータが入出力装置4から入力する処理開始指令を制御装置70が受け付けることにより、開始する。
【0033】
1-3.測定プログラムの処理
図7に測定プログラム202aに基づいて制御装置70が実行する測定処理の流れを示す。制御装置70は、ステップS11において、オペレータが入出力装置4から入力した情報に基づき、各生体試料についてオーダーされた測定項目の情報を生体試料ごとに取得する。なお制御装置70は、測定項目の情報を、ネットワーク99を介して、例えば医療施設の電子カルテシステム1000から取得してもよい。生体試料と測定項目の情報は、例えば検査依頼時に発行される識別子により紐付けることができる。
【0034】
制御装置70は、ステップS12において、容器15に生体試料を分注するよう試料調製部20を制御する。制御装置70は、ステップS13において、ステップS11において取得した測定項目に対応する測定試薬を容器15に分注し、測定試料を調製するよう試料調製部20を制御する。
【0035】
制御装置70は、ステップS14において、ステップS13において測定試料が調製された容器15に対して、光照射を開始するよう光照射部10を制御する。具体的には、第1光源321~第5光源325のうちの1つの光源が順に、所定期間(例えばT秒間(Tは、0.1未満))光を出射することを、光照射の開始から所定時間(例えば、200秒)が経過するまで繰り返す。検出部230は、容器15を介して受光した光の強度(すなわち、透過光強度)に応じた電気信号(デジタルデータ)を、前記所定期間(例えばT秒間)に1つずつ出力する。出力されたデジタルデータは、測定試料を透過した光の強度を示す。出力されたデジタルデータのセットは、検出情報として制御装置70に送信される。これにより、各検出情報の各データは、光照射の開始から所定時間(例えば、200秒)が経過するまでの各測定時点の透過光強度を反映する。
【0036】
1-4.被検物質分析・非特異反応検出プログラム202bの処理
i.被検物質分析・非特異反応検出処理
図8に被検物質分析・非特異反応検出プログラム202bに基づいて制御装置70が実行する被検物質分析・非特異反応検出処理の流れを示す。
【0037】
制御装置70は、ステップS21において、検出情報を検出部230から受信し、受信した検出情報から抗原抗体反応の進行に関するデータ群を生成する。具体的には、制御装置70は、ステップS21において、検出情報を検出部230から受信し、受信した検出情報を、第1光源321~第5光源325ごと(すなわち、光源から出射された光の波長ごと)に分類し、記憶装置202に記憶する。また制御装置70は、記憶した検出情報の各デジタルデータを、吸光度に換算し、換算した吸光度を時系列に配列し、抗原抗体反応の進行に関するデータ群として、記憶装置202に記憶する。検出情報の各デジタルデータは透過光強度を示すため、例えば、検出情報の各デジタルデータの逆数を常用対数により表すことにより、検出情報を吸光度に換算することができる。図9Aに、抗原抗体反応の進行に関するデータ群の一例を示す。図9Aに示すように、データ群D11~D15は、光源から出射された光の波長ごとに生成され、検出部230から出力された順に配列された吸光度を含む。データ群D11の各データは、光照射の開始から所定時間(例えば、200秒)が経過するまでの各測定時点の吸光度を反映する。同様に、データ群D12~D15の各データも、光照射の開始から所定時間(例えば、200秒)が経過するまでの各測定時点の吸光度を反映する。
【0038】
図9Bは、縦軸(Y軸)は、吸光度を示し、横軸(X軸)は、検出情報の出力開始からの経過時間(秒:sec)を示すグラフに、図9Aに例示したデータ群のうち、第1光源321から出射された波長(第1波長)に対応するデータ群D11をプロットした図である。生体試料中に被検物質である抗原又は抗体(以下、分析対象の抗原又は抗体を、「被検物質」とよぶ)が存在すると、該抗原又は抗体と、担体粒子に固定された抗体又は抗原との抗原抗体反応が進行することにより担体粒子が凝集し、容器15内の測定試料の濁度が増加する。従って、生体試料中に被検物質が存在すると、その濃度に応じて、吸光度が増加する。
【0039】
制御装置70は、図8に示すステップS22において、被験物質を分析する。すなわち、制御装置70は、測定項目に応じた波長に対応するデータ群(例えば、データ群D11)と、検量線・閾値データベースDB2に格納された検量線と、に基づいて、生体試料における被検物質の濃度を取得する。具体的には、制御装置70は、データ群から吸光度の変化量または変化率を算出する。吸光度の変化量または変化率はRate法、又はVLin法によりデータ群から算出できる。Rate法は、あらかじめ開始点と終了点を設定し、両時点間に含まれるデータ群について、直線回帰により1分間あたりの吸光度変化量を算出する方法である。VLin法は、データ群について、吸光度変化量が最大、かつ直線近似が最適となる開始点と終了点を設定し、両時点間に含まれるデータ群について、直線回帰により1分間あたりの吸光度変化量を算出する方法である。変化量または変化率の算出がRate法によるか、VLin法によるかは、制御装置70が、測定項目に応じて決定する。なお、吸光度の変化量または変化率を算出する前に、データ群に対して、スムージング、シャープネス、又はケービング等の前処理を実行してもよい。
【0040】
検量線は、被検物質の濃度が既知である標準物質を異なる希釈倍率で希釈し、それぞれの希釈標準物質を測定することによって吸光度の変化量または変化率を取得し、それらを、縦軸が吸光度の変化量または変化率であり、横軸が被検物質の濃度であるグラフにプロットし、直線回帰することによって得られる。制御装置70は、データ群から得られた吸光度の変化量または変化率を検量線に適用し、生体試料における被検物質の濃度を取得する。
【0041】
図8に示すステップS23において、制御装置70は、ステップS22で取得した濃度が、検量線・閾値データベースDB2に格納された高濃度判定用の閾値を超えたか否かを判定する。ステップS22で取得した被検物質の濃度が閾値以下の場合(ステップS23が「No」の場合)は、ステップS27に進みステップS22で取得した被検物質の濃度を入出力装置4に出力して処理を終了する。ステップS22で取得した濃度が閾値を超えた場合(ステップS23が「Yes」の場合)は、制御装置70は、処理をステップS24に進める。制御装置70は、ステップS24及びS25の処理により、測定試料における非特異反応の発生を検出する。
【0042】
ここで、図12に示す深層学習アルゴリズム60の生成方法を説明する。深層学習アルゴリズム60は、ニューラルネットワーク構造を有するアルゴリズムである限り制限されない。深層学習アルゴリズム60は、畳み込みニューラルネットワーク、フルコネクトニューラルネットワークおよびこれらの組み合わせ等を含み得る。深層学習アルゴリズム60は、訓練前の深層学習アルゴリズム50(図11)を訓練することにより生成される。図11に深層学習アルゴリズムの訓練の概要を示す。深層学習アルゴリズムの訓練は、後述する訓練装置5により実行する。
【0043】
深層学習アルゴリズム50を訓練するための訓練データには、非特異反応が発生したか否かが既知である生体試料から取得した、抗原抗体反応の進行に関するデータ群を、第1訓練データとして使用する。第1訓練データは、図8に示すステップS21に記載した方法にしたがって生成することができる。図11に示すとおり、第1訓練データは、第1波長に対応する第1データ群D1、第2波長に対応する第2データ群D2、第3波長に対応する第3データ群D3、第4波長に対応する第4データ群D4、および第5波長に対応する第5データ群D5、を含む。データ群D1は、吸光度を示す複数のデータd11、d12、d13・・・を含む。データ群D2~データ群D5も同様に、吸光度を示す複数のデータを含む。第1訓練データを、図11に示すニューラルネットワーク50の入力層50aに入力する。また、入力した第1訓練データに対応する非特異反応の発生有無を示すラベル(図11の例では「非特異反応の発生の有/無」)を、第2訓練データとして出力層である50bに入力する。これらの入力により、各生体試料について、第1訓練データと第2訓練データを紐付け、ニューラルネットワーク50の中間層50cの各層の重みを算出する。第1訓練データ及び第2訓練データの入力と、中間層50cの各層の重みの算出と、を多数の生体試料について実行することにより、図12に示す訓練された深層学習アルゴリズム60を生成する。深層学習アルゴリズム60の出力層60bには、ソフトマックス関数を適用する。これにより、深層学習アルゴリズム60から、非特異反応が発生した確率を示す数値が出力される。
【0044】
図12を参照し、図8に示すステップS24において、制御装置70は、ステップS21において取得した、第1光源321から出射された波長(第1波長)に対応するデータ群D11と、第2光源322から出射された波長(第2波長)に対応するデータ群D12と、第3光源323から出射された波長(第3波長)に対応するデータ群D13と、第4光源324から出射された波長(第4波長)に対応するデータ群D14と、第5光源325から出射された波長(第5波長)に対応するデータ群D15と、を深層学習アルゴリズムデータベースDB1に格納されている深層学習アルゴリズム60の入力層60aに入力する。深層学習アルゴリズム60は、入力されたデータ群D11~D15を中間層60cにおいて処理し、非特異反応が発生した確率(図12の例では、98.4%)を出力層60bから出力する。なお、確率を示す数値は、必ずしも百分率により示す必要はなく、相対値により表してもよい。本明細書では、百分率や相対値等の確率を示す数値を反映する情報を、確率を示す情報と呼ぶ。
【0045】
「非特異反応が発生した確率」とは、実際に分析対象の測定試料に非特異反応が発生した確率を示し、例えば、非特異反応が発生した確率が80%である場合、実際にその測定試料に非特異反応が発生した確率が80%であることを示す。換言すると、非特異反応が発生した確率が80%とは、非特異反応が発生した確率が80%である測定試料が100検体ある場合に、実際に非特異反応が発生した測定試料は80検体であり、残りの20検体には、非特異反応は発生しなかったことを示す。
【0046】
図11及び図12に示すように、第1訓練データにおけるデータ群の構成と、ステップS21において取得するデータ群の構成とは、同一であることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1訓練データにおける第1波長~第5波長と、ステップS21において取得するデータ群における第1波長~第5波長とは同一であるが、第1訓練データにおけるデータ群、及び/又は、ステップS21において取得するデータ群において一部の波長のみを使用してもよい。また、第1訓練データにおける各データ群のデータ数と、ステップS21において取得するデータ群における各データ群のデータ数とは同一であるが、第1訓練データにおける各データ群のデータ数と、ステップS21において取得するデータ群における各データ群のデータ数と、が異なっていても良い。
【0047】
また、第1訓練データにおけるデータ群の構成、及びステップS21において取得するデータ群は、必ずしも複数の波長について取得する必要は無く、1つの波長について取得し、取得したデータ群を、深層学習アルゴリズム50又は深層学習アルゴリズム60に入力してもよい。
【0048】
深層学習アルゴリズム60は、複数の測定項目に共通に使用されるように生成されたものであってもよいし、測定項目ごとに生成されたものであったものでもよい。深層学習アルゴリズム60が測定項目ごとに生成されたものである場合には、図8に示すステップS24において、制御装置70は、ステップS11で取得した測定項目に応じて、入力先の深層学習アルゴリズム60を、複数の深層学習アルゴリズムから選択する。
【0049】
図8に示すステップS25において、制御装置70は、ステップS24で深層学習アルゴリズム60から出力された非特異反応が発生した確率が、検量線・閾値データベースDB2に格納された非特異反応判定用の閾値を超えたか否かを判定する。ステップS24で出力された非特異反応が発生した確率が閾値以下の場合(ステップS25が「No」の場合)は、ステップS27に進みステップS22で取得した被検物質の濃度を入出力装置4に出力して処理を終了する。ステップS24で出力された非特異反応が発生した確率が閾値を超えた場合(ステップS25が「Yes」の場合)は、制御装置70は、処理をステップS26に進める。制御装置70は、ステップS26において、ステップS22で取得した濃度を入出力装置4に出力する。また制御装置70は、ステップS26において、非特異反応の発生に関する情報を生成し、入出力装置4に出力する。
【0050】
なお、深層学習アルゴリズム60を、出力層60bから、非特異反応が発生しなかった確率を出力するように生成してもよい。この場合、制御装置70は、ステップS24で深層学習アルゴリズム60から出力された非特異反応が発生しなかった確率が、検量線・閾値データベースDB2に格納された非特異反応判定用の閾値より小さいか否かを判定する。制御装置70は、ステップS24で出力された非特異反応が発生しなかった確率が閾値より小さい場合はステップS27に処理を進め、閾値以上の場合はステップS26に処理を進める。
【0051】
図10に、ステップS26において生成され、入出力装置4に出力される、非特異反応の発生に関する情報を出力するメッセージボックスMB1の例を示す。メッセージボックスMB1は、測定日、測定時刻、生体試料識別子(生体試料ID)、及び測定結果等を含む測定項目情報を示す測定項目情報領域MB11と、測定結果に関する非特異反応の発生に関する情報を示すメッセージ領域MB12を備える。測定項目情報領域MB11の測定結果には、図8のステップS22において取得した測定対象の被検物質の濃度が表示される。図14の例では、Dダイマー濃度(DD C)、及びFDP濃度(FDP C)が示されている。メッセージ領域MB12には、測定項目(DD C)と、非特異反応の疑いを定性的に示す出力ラベル(+++)と、確率を示す情報(98.4%)が示されている。確率を示す情報は、ステップS24で深層学習アルゴリズム60から出力された非特異反応が発生した確率である。出力ラベルとしては、確率と、非特異反応判定用の閾値との差の大きさに応じて、“+”、“++”、“+++”等が用いられる。なお、“+”、“++”、“+++”に代えて、“低”、“中”、“高”等を用いてもよい。
【0052】
図13に、メッセージボックスMB1の変形例として、メッセージボックスMB1’を示す。メッセージボックスMB1’では、測定項目情報領域MB11’に、非特異反応が発生した確率が閾値を超えた測定項目について、同一被検者の前回の測定結果が表示される。同一被検者の前回の測定結果は、生体試料IDをキーとして、電子カルテシステム1000から取得することができる。なお、測定項目情報領域MB11’には、非特異反応が発生した確率が閾値を超えた測定項目について、過去の測定結果の履歴を表示してもよいし、当該測定項目とは異なる測定項目の前回の測定結果を表示してもよい。また、メッセージボックスMB1’では、メッセージ領域MB12’に、ステップS22で取得した被検物質の濃度と、他の被検物質の濃度、又は被検者の臨床情報との間に不一致がある場合に、測定項目情報領域MB11’に表示された濃度は非特異反応による偽高値が疑われることを示すメッセージが表示される。これにより、オペレータは再分析の必要性をより明確に把握できる。また、メッセージボックスMB1’では、臨床情報領域MB13に、同一被検者の臨床情報が表示される。臨床情報は、生体試料IDをキーとして、電子カルテシステム1000から取得することができる。臨床情報は、被検者を診察して得られる情報であり、CT検査結果、MRI検査結果、超音波検査結果、血管造影検査結果、又は投薬履歴等の情報を含む。治療履歴は、抗凝固薬を使用しているか等の投薬履歴の情報を含む。
【0053】
なお、測定項目情報領域MB11及び/又は測定項目情報領域MB11’において、非特異反応が発生した確率が閾値を超えた測定項目についての測定結果は非表示としてもよい。また、測定項目情報領域MB11及び/又は測定項目情報領域MB11’において、非特異反応が発生した確率が閾値を超えた測定項目についての測定結果は、参考値又は確認が必要な値であることを示すラベルとともに表示してもよい。前記ラベルは、「参考値」、「要確認」等のテキストワードであってもよく、「*」、「!」等の記号であってもよい。
【0054】
図8に示すステップS24の処理は、ステップS22において取得した被検物質の濃度が閾値を超えていない場合(ステップS23「No」の場合)であっても、実行してもよい。被検物質の濃度が閾値を超えていない場合にステップS24の処理を実行しないようにすれば、演算量の増加に伴う制御装置70の処理速度の低下を抑止できる。一方、被検物質の濃度が閾値を超えていない場合にもステップS24の処理を実行するようにすれば、非特異反応の発生をより確実に検出することができる。
【0055】
ii.再分析処理
分析装置1は、以下に示す再分析処理を実行可能に構成してもよい。分析装置1を、再分析処理を実行可能に構成する場合、制御装置70は、図8に示すステップS26の後に、図14に示す再分析処理を実行する。制御装置70は、ステップS28において、オペレータに再分析の選択を入力させるためのダイアログボックスMB3を入出力装置4に出力する。図15に示すように、ダイアログボックスMB3は、オペレータに再分析を実行するか否かを尋ねるメッセージを含むメッセージ領域MB31と、再分析項目をオペレータに選択させるための選択領域MB33を備える。選択領域MB33は、非特異反応が発生した可能性がある測定項目(図15の例では、Dダイマー)と同じ測定項目を再分析することを選択するための選択領域MB331と、非特異反応が発生した可能性がある測定項目(図15の例では、Dダイマー)と異なる測定項目(図15の例では、FDP)の分析をすることを選択するための選択領域MB332と、非特異反応が発生した可能性がある測定項目(図15の例では、Dダイマー)と同じ測定項目について、生体試料を希釈して再分析することを選択するための選択領域MB333と、再分析を行わないことを選択するための選択領域MB334とを備える。
【0056】
選択領域MB332に表示される測定項目は、再分析項目データベースDB3に格納されている。図16に示すように、再分析項目データベースDB3は、初回測定の測定項目と、再分析の測定項目を対応付けて格納する。再分析の測定項目は、初回測定の測定項目と関連する項目であることが好ましい。例えば、初回測定の測定項目が血栓・線溶系の測定項目である場合、再分析の測定項目は、初回測定の測定項目とは異なる血栓・線溶系の測定項目を選択することが好ましい。図16において、初回測定の測定項目がDダイマーである場合、再分析の測定項目は、FDPである。初回測定の測定項目がFDPである場合、再分析の測定項目は、Dダイマーである。初回測定の測定項目がFMCである場合、再分析の測定項目は、可溶性フィブリン(SF)、トロンビン・アンチトロンビンIII複合体(TAT)、及びプロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)である。初回測定の測定項目がVWF:Agである場合、再分析の測定項目は、フォンヴィレブランド因子活性リストセチン コファクター(VWF:RCo)、リストセチン存在下におけるリコンビナントGPIbに対するVWF結合能(VWF:GPIbR)、リコンビナントGPIb変異体(gain-of-function)に対するVWF結合能(VWF:GPIbM)、及びVWFのA1ドメインに対するモノクローナル抗体結合能(VWF:Ab)である。初回測定の測定項目に対応する再分析の測定項目が複数ある場合は、制御装置70は、各測定項目について1つずつ、選択領域MB332を入出力装置4に表示する。
【0057】
制御装置70は、図14に示すステップS29において、オペレータにより選択領域MB334が選択されたか否かを判定する。選択領域MB334が選択された場合(ステップS29「Yes」の場合)、制御装置70は、図8に示す被検物質分析・非特異反応検出処理に処理を戻す。選択領域MB334が選択されなかった場合(ステップS29「No」の場合)、制御装置70は、処理をステップS30に進める。制御装置70は、ステップS30において、選択領域MB331が選択されたか否かを判定する。選択領域MB331が選択された場合(ステップS30「Yes」の場合)、制御装置70は、処理を図7に示すステップS12に進め、ステップS11で取得した測定項目について、測定処理を実行する。選択領域MB331が選択されなかった場合(ステップS30「No」の場合)、制御装置70は、処理をステップS31に進める。制御装置70は、ステップS31において、選択領域MB332が選択されたか否かを判定する。選択領域MB332が選択された場合(ステップS31「Yes」の場合)、制御装置70は、処理を図7に示すステップS11に進め、選択領域MB332において指定されている測定項目(図15の例ではFDP)を取得し、当該測定項目について、測定処理を実行する。選択領域MB332が選択されなかった場合(ステップS31「No」の場合)、制御装置70は、処理をステップS32に進める。制御装置70は、S32において、選択領域MB333が選択されたか否かを判定する。選択領域MB333が選択された場合(ステップS32「Yes」の場合)、制御装置70は、処理をステップS12’に進め、生体試料を容器15に分注し、希釈するように試料調製部20を制御する。次に、制御装置70は、処理を図7に示すステップS13に進め、ステップS11で取得した測定項目について、測定処理を実行する。選択領域MB333が選択されなかった場合(ステップS32「No」の場合)、制御装置70は、図8に示す被検物質分析・非特異反応検出処理に処理を戻す。なお、図8に示す被検物質分析・非特異反応検出処理において、処理がステップS27に進んだ場合(ステップS23又はステップS25「No」の場合)、制御装置70は、再分析処理を実行しない。
【0058】
なお、選択領域MB331~選択領域MB334は、オペレータにより選択される必要はなく、初期設定又はオペレータによる測定開始前の設定に基づき、制御装置70が選択してもよい。また制御装置70は、選択領域MB331~選択領域MB334を、図8に示すステップ24で出力された非特異反応が発生した確率の大きさに基づいて選択してもよい。
【0059】
なお、初回測定の測定項目と同一の測定項目についての再分析は、初回測定と同じバイアルの測定試薬を使用してもよいし、初回測定と異なるバイアルの測定試薬を使用してもよい。初回測定と異なるバイアルの測定試薬を使用する場合、初回測定と同一ロットの他のバイアルの測定試薬を使用してもよいし、初回測定とロットの異なる他のバイアルの測定試薬を使用してもよい。また、初回測定と異なるバイアルの測定試薬を使用する場合、初回測定と異なる企業が開発・製造した同一測定項目の測定試薬を使用してもよい。
【0060】
図17は、再分析の処理において、図8に示すステップS27で入出力装置4に表示されるメッセージボックスMB1’’の一例を示す。メッセージボックスMB1’’では、測定項目情報領域MB11’’に、再分析で取得された濃度と、初回測定で取得された濃度と、初回測定で取得された濃度が参考値である旨のメッセージが示される。メッセージ領域MB12’’には、表示されている情報が再分析の結果に関するものであることを示すメッセージが示される。
【0061】
再分析により、オペレータが、非特異反応の発生があること、又はないことを特定した場合には、オペレータが入出力装置4から、非特異反応の発生の有無に関する情報を入力する。制御装置70は、入力された非特異反応の発生の有無に関する情報を、その生体試料の識別情報と、当該生体試料について図8に示すステップS21で取得した抗原抗体反応の進行に関するデータ群と、に関連付けて記憶装置202の再分析結果データベースDB4に記憶してもよい。図18に、再分析結果データベースDB4の例を示す。再分析結果データベースDB4に格納された情報は、深層学習アルゴリズム60を更に訓練するための第1訓練データ及び第2訓練データの元データとして使用することができ、深層学習アルゴリズム60の解析精度を更に向上させることができる。
【0062】
2.訓練装置
深層学習アルゴリズム50を訓練する訓練装置5(以下、単に「訓練装置5」とする)の外観例を図19(A)に示す。訓練装置5は、入力装置511と、出力装置512と通信可能に接続されている。訓練装置5としては、汎用コンピュータを用いることができる。
【0063】
図19(B)に、訓練装置5のハードウエア構成例を示す。訓練装置5は、制御装置500を備える。制御装置500は、演算処理装置501と、記憶装置502と、記憶装置503と、インタフェース(I/F)506と、バス510を備えている。演算処理装置501は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。入力装置511、出力装置512、及びネットワーク99は、インタフェース(I/F)506に接続されている。インタフェース(I/F)506は、例えばUSB、IEEE1394又はイーサネットである。記憶装置502は、例えばソリッドステートドライブ又はハードディスクドライブである。記憶装置502は、前述した深層学習アルゴリズム50の訓練を実行する訓練プログラム502bを記憶している。記憶装置503は、例えばDRAM又はSRAMである。入力装置511は、例えばキーボード又はマウスであり、出力装置512は、例えば液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである。訓練装置5内の信号の伝送は、バス510を介して行われる。
【0064】
訓練装置5は、ネットワーク99を介して、分析装置1と接続されている。これにより、ネットワーク99を介して、訓練済みの深層学習アルゴリズム60を分析装置1に送信したり、分析装置1の再分析結果データベースDB4に格納された情報を、分析装置1から受信し、深層学習アルゴリズム60を更に訓練したりすることができる。
【0065】
3.変形例
抗原抗体反応における非特異反応の発生に関する情報は、前述のとおり深層学習アルゴリズム60を用いて取得する方法に加え、又は深層学習アルゴリズム60を用いて取得する方法に代えて、以下の方法により取得することができる。すなわち、本変形例の方法は、図20に示すように、制御装置70は、ステップS81において、非特異反応が発生しない複数の生体試料から得られた抗原抗体反応の進行に関するデータ群について、所定の関数に基づき、該関数から得られる算出値(S値)の分布を生成する。制御装置70は、ステップS82において、分析対象の生体試料から得られた抗原抗体反応の進行に関するデータ群について、所定の関数に基づき、該関数から得られる算出値(S値)を取得する。制御装置70は、ステップS83において、ステップS81において生成した分布と、ステップS82において分析対象の生体試料について取得した算出値とに基づいて、非特異反応の発生に関する情報を取得する。
【0066】
具体的には、制御装置70は、ステップS81において、抗原抗体反応が発生しない生体試料について、図6に示すステップS1及び図8に示すステップS21の処理を実行し、抗原抗体反応の進行に関するデータ群を取得する。制御装置70は、取得したデータ群に基づき、下記数式1に示すS値を算出する。
【0067】
【数1】
(ここで、式(1)においてαは前記抗原抗体反応の進行に関するデータ群によって描かれる波形の振幅を示す。);
【0068】
【数2】
(ここで、式(2)においてα、β、γ、及びtは、それぞれ、前記抗原抗体反応の進行に関する抗原抗体反応の進行に関するデータ群によって描かれる波形における振幅、波形の傾き、y軸方向の移動、及びx軸方向の移動を表す。)。
【0069】
取得された抗原抗体反応の進行に関するデータ群に対して式(2)をフィッティングすることによってα1が決定される。このようにして決定された式(2)中のα1が式(1)に代入される。式(1)に含まれる吸光度の最大値および最小値は、取得された抗原抗体反応の進行に関するデータ群から決定される。これらの値に基づき式(1)からS値が算出される。
【0070】
制御装置70は、他の多数の抗原抗体反応が発生しない生体試料についても同様に、S値を算出し、図21に示すように、縦軸が生体試料数であり、横軸がS値であるヒストグラムを作成する。そして、S値の分布における最頻値(図21の例では、S値=2.25)を非特異的反応が生じている可能性を0%とし、S値の最大値(図21の例では、S値=3.9)を非特異的反応が生じている可能性を100%とする。
【0071】
制御装置70は、ステップS82において、分析対象の生体試料から得られた抗原抗体反応の進行に関するデータ群について、数式1の関数に基づきS値を算出する。制御装置70は、ステップS83において、ステップS82で取得したS値を、分析対象の生体試料において非特異反応が発生した確率に換算する。S値は、例えば、S値の分布における最頻値・確率(=0%)と、S値の分布における最大値・確率(=100%)と、から生成した直線回帰式に、S値をあてはめることにより非特異反応が発生した確率に換算することができる。
【0072】
4.効果の検証
Dダイマーの測定において、非特異反応の発生の有無を免疫グロブリン吸収試験により確認した。免疫グロブリン吸収試験により非特異反応の発生が確認された生体試料39件と、確認されなかった生体試料77件を用いて、本分析方法による予測精度を評価した。深層学習アルゴリズムには、第1波長に対応するデータ群D11、第2波長に対応するデータ群D12、第3波長に対応するデータ群D13、及び第5波長に対応するデータ群D15からなるデータ群のセットを入力した。図22図23にその結果を示す。図22は、深層学習アルゴリズムから出力された非特異反応が発生した確率(0.0~1.0)を横軸とし、横軸を0.05毎に分割し、各分割範囲に属する生体試料の頻度を縦軸とするヒストグラムを示す。灰色バーの高さは、免疫グロブリン吸収試験により非特異反応の発生が確認された生体試料の頻度を示し、白色バーの高さは、免疫グロブリン吸収試験により非特異反応の発生が確認されなかった生体試料の頻度を示す。図23は、図22で示した生体試料にROC解析を行った結果得られたROC曲線を示す。
【0073】
ROC解析の結果、AUC=0.899であった。例えば、非特異反応判定用の閾値を0.65とした場合、感度62%、特異度96%で非特異反応の発生を予測することができた。これらの結果から、本発明により非特異反応の発生を検出することができることが示された。
【符号の説明】
【0074】
1 分析装置
70 制御装置
230 検出部
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