(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003259
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221228BHJP
G03G 21/20 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G03G15/20 505
G03G21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104331
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義博
【テーマコード(参考)】
2H033
2H270
【Fターム(参考)】
2H033AA02
2H033AA06
2H033AA18
2H033AA20
2H033BA02
2H033BA04
2H033BA08
2H033BA25
2H033BA26
2H033BA27
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB08
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB21
2H033BB22
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BE00
2H033CA02
2H033CA27
2H270KA04
2H270KA09
2H270KA13
2H270KA28
2H270KA35
2H270KA65
2H270KA72
2H270LA25
2H270LA64
2H270LA90
2H270MA35
2H270MB46
2H270MC44
2H270MH09
2H270NC01
2H270SA09
2H270ZC04
2H270ZC05
2H270ZC08
(57)【要約】
【課題】環状ベルトに熱を安定させて伝達することができ、画像品位を向上させることができるようにする。
【解決手段】環状ベルトと、加熱部材と、蓄熱部材とを有する。該蓄熱部材の熱容量が0.04〔J/K・cm
2〕以上にされ、前記加熱部材から媒体に供給される熱量が、76.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下にされ、前記熱量をxとし、前記熱容量をyとしたときの熱容量が、y=0.0163x+1.13で表される値以上にされる。媒体が定着部を通過する間に環状ベルトの熱が媒体に奪われても、蓄熱部材の熱を安定させて環状ベルトに伝達することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)環状ベルトと、
(b)該環状ベルト内において環状ベルトの内周面と対向させて配設された加熱部材と、
(c)該加熱部材における前記環状ベルトと対向する面と反対側の面と対向させて配設された蓄熱部材とを有するとともに、
(d)該蓄熱部材の熱容量が0.04〔J/K・cm2〕以上にされ、前記加熱部材から媒体に供給される熱量が、76.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下にされ、
(e)前記熱量をxとし、前記熱容量をyとしたとき、熱容量は、
y=0.0163x+1.13
で表される値以上にされることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記蓄熱部材の熱容量が0.14〔J/K・cm2〕以下にされる請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記蓄熱部材の熱拡散率は、0.183×10-6〔m2/s〕以上、かつ、0.302×10-6〔m2/s〕以下にされる請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記蓄熱部材は、前記加熱部材上に耐熱性を有する樹脂を積層することによって形成される請求項1~3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記加熱部材と前記環状ベルトとの間に、環状ベルトの内周面と対向させて熱拡散部材が配設される請求項1~4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【請求項7】
(a)媒体の種類を設定する媒体設定処理部と、
(b)前記加熱部材の出力を制御する電源制御部と、
(c)媒体の比熱容量に応じて、前記加熱部材から媒体に供給される熱量を算出する供給熱量算出処理部と、
(d)該供給熱量算出処理部によって算出された熱量に応じて加熱部材の出力を変更する出力変更処理部とを有する請求項6に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンタ、複写機、ファクシミリ装置等の画像形成装置、例えば、プリンタにおいては、帯電ローラによって一様に帯電させられた感光体ドラムの表面がLEDヘッドによって露光されて静電潜像が形成され、該静電潜像が現像ローラによって現像されてトナー像が形成される。そして、用紙カセットから給紙され、前記感光体ドラムと転写ローラとの間に供給された用紙に、前記トナー像が転写ローラによって転写される。トナー像が転写された用紙は定着装置としての定着器に送られ、該定着器においてトナー像が用紙に定着させられ、画像が形成されて印刷が行われる。
【0003】
ところで、環状ベルトとしての定着ベルト及び加圧ローラが配設され、定着ベルト内にヒータが配設され、加圧ローラが定着ベルトを介してヒータに押し付けられている定着器においては、ヒータによって発生させられた熱が定着ベルトを介して用紙に伝達され、用紙上のトナー像が定着させられるようになっているので、用紙が定着ベルトと加圧ローラとの間のニップ部を通過する間に定着ベルトの熱が用紙に奪われ、定着ベルトの温度が低くなってしまう。
【0004】
そこで、ヒータによって発生させられた熱を定着ベルトに伝達しやすくし、定着ベルトの温度が低くなるのを防止するために、ヒータと定着ベルトとの間に、定着ベルトの内周面と対向させて熱拡散部材が配設された定着器が提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の定着器においては、高速で印刷を行う場合、定着ベルトに安定させて熱を伝達することができず、トナー像を安定させて用紙に定着させることができなくなってしまう。その結果、用紙に形成された画像において光沢度(グロス)の差が生じ、画像品位が低下してしまう。
【0007】
本発明は、前記従来の定着器の問題点を解決して、環状ベルトに熱を安定させて伝達することができ、画像品位を向上させることができる定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明の定着装置においては、環状ベルトと、該環状ベルト内において環状ベルトの内周面と対向させて配設された加熱部材と、該加熱部材における前記環状ベルトと対向する面と反対側の面と対向させて配設された蓄熱部材とを有する。
【0009】
そして、該蓄熱部材の熱容量が0.04〔J/K・cm2〕以上にされ、前記加熱部材から媒体に供給される熱量が、76.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下にされる。
【0010】
また、前記熱量をxとし、前記熱容量をyとしたとき、熱容量は、
y=0.0163x+1.13
で表される値以上にされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、定着装置においては、環状ベルトと、該環状ベルト内において環状ベルトの内周面と対向させて配設された加熱部材と、該加熱部材における前記環状ベルトと対向する面と反対側の面と対向させて配設された蓄熱部材とを有する。
【0012】
そして、該蓄熱部材の熱容量が0.04〔J/K・cm2〕以上にされ、前記加熱部材から媒体に供給される熱量が、76.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下にされる。
【0013】
また、前記熱量をxとし、前記熱容量をyとしたとき、熱容量は、
y=0.0163x+1.13
で表される値以上にされる。
【0014】
この場合、前記蓄熱部材の熱容量が0.04〔J/K・cm2〕以上にされ、前記加熱部材から媒体に供給される熱量が、76.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下にされ、前記熱量をxとし、前記熱容量をyとしたときの熱容量が、
y=0.0163x+1.13
で表される値以上にされるので、媒体が定着部を通過する間に環状ベルトの熱が媒体に奪われても、蓄熱部材の熱を安定させて環状ベルトに伝達することができる。
【0015】
したがって、現像剤像を安定させて容器に定着させることができ、媒体に形成された画像に光沢度差が生じるのを抑制することができる。
【0016】
その結果、画像品位を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態における定着器の要部断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるプリンタの概念図である。
【
図3】本発明の実施の形態における定着器の要部斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態における定着器の要部正面図である。
【
図6】本発明の実施の形態における定着器の要部分解斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態におけるヒータの平面図である。
【
図8】本発明の実施の形態における定着ベルトの断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態における加圧ローラの斜視図である。
【
図11】ポリイミドフィルムの枚数を異ならせたときの蓄熱部材の特性を説明するための図である。
【
図12】光沢度の測定方法を説明するための図である。
【
図13】ポリイミドフィルムの単位面積当たり熱容量と光沢度差との関係を示す図である。
【
図14】ポリイミドフィルムの単位面積当たり熱容量とヒータ裏昇温速度との関係を示す図である。
【
図15】本発明の実施の形態における定着器の概念図である。
【
図16】用紙がニップ部を通過したときのベルト表面温度、ニップ部通過前後の用紙の温度差及び単位時間当たり供給熱量の例を示す図である。
【
図17】ベルト表面温度と単位時間当たり供給熱量との関係を示す図である。
【
図18】ヒータから用紙への単位時間当たり供給熱量及び単位面積当たり熱容量を異ならせて画像を形成したときの画像の評価結果を示す図である。
【
図19】各画像の評価結果におけるヒータから用紙への単位時間当たり供給熱量と単位面積当たり熱容量との関係を示す図である。
【
図20】画像品位が高くなる単位時間当たり供給熱量及び単位面積当たり熱容量の範囲を示す図である。
【
図21】本発明の実施の形態における蓄熱部材の熱拡散率の測定方法を説明するための図である。
【
図22】本発明の実施の形態におけるプリンタの制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この場合、定着装置としての定着器及び画像形成装置としてのプリンタについて説明する。
【0019】
図2は本発明の実施の形態におけるプリンタの概念図である。なお、図において、X軸正方向はプリンタ10における後方向であり、X軸負方向はプリンタ10における前方向であり、Y軸正方向はプリンタ10における左方向であり、Y軸負方向はプリンタ10における右方向であり、Z軸正方向はプリンタ10における上方向であり、Z軸負方向はプリンタ10における下方向である。
【0020】
図において、10はプリンタ、Csは該プリンタ10の外装である筐体、Bdはプリンタ10の本体、すなわち、装置本体である。
【0021】
該装置本体Bdの下部には、媒体収容部としての用紙カセット11が配設され、該用紙カセット11に、媒体としての用紙Pが積載された状態で収容される。また、前記用紙カセット11の前端に隣接させて、用紙Pを給紙する図示されない給紙機構が配設され、該給紙機構に媒体搬送路としての用紙搬送路Rt1が接続される。
【0022】
該用紙搬送路Rt1に、給紙された用紙Pを搬送する第1の搬送部材としての搬送ローラ対m1が配設され、該搬送ローラ対m1より下流側に画像形成部Q1が配設される。
【0023】
該画像形成部Q1は、複数の色、本実施の形態においては、ブラック、イエロー、マゼンダ及びシアンの4色の画像形成ユニット16Bk、16Y、16M、16C、露光装置としてのLEDヘッド23、転写ユニットu1等から成り、各画像形成ユニット16Bk、16Y、16M、16Cは、現像剤としてのトナーが収容される現像剤収容部としてのトナーカートリッジCt、回転自在に配設された像担持体としての感光体ドラム21、該感光体ドラム21に当接させて回転自在に配設された帯電装置としての帯電ローラ22、前記感光体ドラム21に当接させて回転自在に配設された現像剤担持体としての現像ローラ24、先端を感光体ドラム21に当接させて配設された第1のクリーニング部材としてのクリーニングブレード25等を備える。
【0024】
また、前記転写ユニットu1は、第1のローラとしての駆動ローラr1、第2のローラとしての従動ローラr2、駆動ローラr1と従動ローラr2との間に走行自在に張設され、搬送される用紙Pを保持するベルト部材としての転写ベルト26、該転写ベルト26を介して前記各感光体ドラム21と対向させて回転自在に配設された転写部材としての転写ローラ28、転写ベルト26に先端を当接させて配設された第2のクリーニング部材としてのクリーニングブレード29等を備える。前記転写ベルト26は、転写用の駆動源としての図示されないベルトモータが駆動され、駆動ローラr1が回転させられるのに伴って走行させられる。
【0025】
前記用紙搬送路Rt1における画像形成部Q1より下流側には、定着装置としての定着器31が配設される。該定着器31は、第1の定着部材としての定着ベルトユニット32、及び該定着ベルトユニット32と対向させて配設された対向部材としての、かつ、第2の定着部材としての加圧ローラ33を備える。
【0026】
そして、定着器31より下流側に第2の搬送部材としての排出ローラ対m2が配設される。
【0027】
次に、前記プリンタ10の動作について説明する。
【0028】
プリンタ10に、図示されない外部装置としての、かつ、上位装置としてのホストコンピュータから印刷データ及び印刷指示が送られると、用紙Pが、前記給紙機構によって1枚ずつ分離させられて用紙搬送路Rt1に給紙され、搬送ローラ対m1によって用紙搬送路Rt1上を搬送され、画像形成部Q1に送られる。
【0029】
該画像形成部Q1においては、帯電ローラ22によって一様に帯電させられた感光体ドラム21の表面がLEDヘッド23によって露光されて潜像としての静電潜像が形成され、トナーカートリッジCtから供給されたトナーが現像ローラ24によって感光体ドラム21に付着させられて静電潜像が現像され、各感光体ドラム21の表面に、可視像である、現像剤像としての各色のトナー像が形成される。
【0030】
そして、画像形成部Q1に送られてきた用紙Pが、転写ベルト26の走行に伴って各画像形成ユニット16Bk、16Y、16M、16Cの感光体ドラム21と転写ローラ28との間の転写部を搬送される間に、各色のトナー像が転写ローラ28によって用紙Pに順次重ねて転写され、用紙P上にカラーのトナー像が形成される。
【0031】
なお、各色のトナー像が用紙Pに転写された後に感光体ドラム21上に残留したトナーは、クリーニングブレード25によって掻き取られ、除去される。また、転写ベルト26に付着したトナー、異物等は、クリーニングブレード29によって掻き取られ、除去される。
【0032】
カラーのトナー像が形成された用紙Pは定着器31に送られ、用紙Pが、定着ベルトユニット32の、環状ベルトとしての後述される定着ベルト39(
図1)と加圧ローラ33との間の定着部としてのニップ部Np(
図1)を通過する(搬送される)間に、用紙P上のカラーのトナー像が、定着ベルトユニット32によって加熱され、溶融させられ、加圧ローラ33によって加圧されて、用紙Pに定着させられる。
【0033】
このようにして、カラーのトナー像が定着させられた用紙Pが、排出ローラ対m2によって装置本体Bd外に排出され、筐体Csの頂壁Wtに形成されたスタッカskに積載される。
【0034】
次に、前記定着器31について説明する。
【0035】
図1は本発明の実施の形態における定着器の要部断面図、
図3は本発明の実施の形態における定着器の要部斜視図、
図4は本発明の実施の形態における定着器の要部正面図、
図5は
図4のA-A断面図、
図6は本発明の実施の形態における定着器の要部分解斜視図である。なお、
図3~5において、X軸正方向はプリンタ10(
図2)における後方向であり、X軸負方向はプリンタ10における前方向であり、Y軸正方向はプリンタ10における左方向であり、Y軸負方向はプリンタ10における右方向であり、Z軸正方向はプリンタ10における上方向であり、Z軸負方向はプリンタ10における下方向である。
【0036】
図において、31は定着器、FLは、プリンタ10の左方向に配設され、定着器31の外装体を構成するフレーム、FRは、プリンタ10の右方向に配設され、定着器31の外装体を構成するフレーム、LvはX軸-Z軸平面上で各フレームFL、FRに対して揺動自在に配設されたレバー、32は、該各レバーLv間に架設され、レバーLvと共に各フレームFL、FRに対して揺動自在に配設された前記定着ベルトユニット、33は、該定着ベルトユニット32の下方において、フレームFL、FR間に架設され、フレームFL、FRによって回転自在に支持された前記加圧ローラである。
【0037】
前記各フレームFL、FRは、互いに対向する面側が開放された箱状体から成り、主プレートPm、並びに該主プレートPmの前方向、後方向、上方向及び下方向の各縁において直角の方向に曲折させて形成された前片Pf、後片Pr、上片Pt及び下片Pbを備える。各下片Pbを、固定部材としてのねじbt1によって装置本体Bdの本体フレームFBdに固定することにより、定着器31が装置本体Bdにおける所定の位置に配設される。
【0038】
前記各フレームFL、FRにおいて、主プレートPm、前片Pf、後片Pr、上片Pt及び下片Pbによって包囲された収容空間内に、前記主プレートPmにおける後片Pr及び下片Pbのコーナ部の近傍に配設された軸体sh1を揺動中心にして前記レバーLvが揺動自在に配設され、各レバーLv間に前記定着ベルトユニット32が架設される。
【0039】
レバーLvは、各フレームFL、FRの上片Ptの近傍において前後方向に延在させて配設された付勢部材としてのスプリングSpによって所定の付勢力で前片Pf側に付勢される。スプリングSpは、後端Sprが各フレームFL、FRの後片Prに取り付けられ、前端Spfが、レバーLvの前縁から上方に向けて立ち上げて形成された係止部Lvtに取り付けられる。
【0040】
定着器31において定着が行われない場合、各レバーLvは、スプリングSpを付勢力に抗して圧縮させた状態で、図示されないレバー固定部材によって各フレームFL、FRに係止され、所定の位置に置かれる。
【0041】
また、前記各フレームFL、FRの主プレートPmにおける下片Pbの近傍に、前記加圧ローラ33が、定着ベルトユニット32に当接させて回転自在に支持される。前記各フレームFL、FRのうちのフレームFRの外側には、ギヤgr1~gr3が互いに噛合させて配設され、ギヤgr1が加圧ローラ33の支持軸sh2に取り付けられ、ギヤgr3に前記ベルトモータからの回転が伝達される。
【0042】
定着器31において定着が行われる場合、前記ベルトモータからの回転が、ギヤgr3に伝達され、ギヤgr2を介してギヤgr1に伝達されると、ギヤgr1~gr3の動作に応じて前記レバー固定部材による各フレームFL、FRへの係止が解除され、レバーLvは、スプリングSpの付勢力によって、
図5に示されるフレームFL側において時計回り方向(フレームFR側において反時計回り方向)に回動させられる。
【0043】
これにより、レバーLv間に架設された定着ベルトユニット32が加圧ローラ33に押し付けられ、用紙Pが、定着ベルトユニット32及び加圧ローラ33によって挟持され、加圧ローラ33の回転に伴って、
図3の矢印方向に搬送される。
【0044】
前記定着ベルトユニット32は、定着ベルトユニット32の加熱源を構成する加熱ユニット38、及び環状体から成り、加熱ユニット38を包囲するとともに、加圧ローラ33の回転に伴って走行させられる定着ベルト39を備える。
【0045】
前記加熱ユニット38は、用紙P上のトナー像を加熱するために長手方向(Y軸方向)に延在させられ、両端がレバーLvに固定されたステー41、該ステー41に沿って長手方向に延在させられ、ステー41に取り付けられた保持部材43、並びに該保持部材43によって保持され、いずれも、長手方向に延在させられ、帯状の形状を有する蓄熱部材45、加熱部材としてのヒータ46及び熱拡散部材47を備える。
【0046】
本実施の形態において、ヒータ46は、熱を発生させ、定着ベルト39を介して用紙P上のトナー像を加熱し、熱拡散部材47は、ヒータ46が発生させた熱を定着ベルト39に伝達し、該定着ベルト39を介して用紙P上のトナー像を加熱する。ヒータ46及び熱拡散部材47は定着ベルト39の内周面Siと対向させて配設され、前記蓄熱部材45は、ヒータ46における定着ベルト39と対向する面と反対側の面と対向させて配設される。
【0047】
前記ステー41は、樹脂材料から成り、
図6に示されるように、下端が開放された箱状の形状を有し、上板部41t、該上板部41tの前縁から垂下させて形成された前脚部41f、及び上板部41tの後縁から垂下させて形成された後脚部41rを備え、加熱ユニット38を包囲して走行させられる定着ベルト39の円弧部分の形状を維持する。また、前記ステー41は、両端においてレバーLvに形成された開口部Wnを貫通してフレームFL、FR側に突出させられ、突出させられた部分が、前記開口部Wnの上縁からレバーLv側に曲折させて形成されたフラップLvpに固定部材としてのねじbt2によって固定される。
【0048】
前記保持部材43は、金属材料から成り、上端が開放された箱状の形状を有し、下板部43b、該下板部43bの前縁から立ち上げて形成された前腕部43f、及び下板部43bの後縁から立ち上げて形成された後脚部43rを備え、前腕部43f及び後脚部43rを下方から前記ステー41内に嵌入することによって、ステー41に取り付けられる。
【0049】
そして、前記保持部材43の下面には、定着ベルト39の内周面Siに臨ませて、かつ、加圧ローラ33と対向させて凹部が形成され、該凹部によって、前記蓄熱部材45、ヒータ46及び熱拡散部材47を上方から順に重ねて収容する収容空間51が形成される。
【0050】
また、前記保持部材43の下板部43bには、ヒータ46の温度を検出するための、第1の温度検出部としての、かつ、第1の非接触式の温度検出素子としてのサーミスタThが収容空間51に臨ませて配設される。なお、本実施の形態において、サーミスタThは、蓄熱部材45を挟んで間接的にヒータ46の温度を検出するようになっているが、サーミスタThを接触式の温度検出素子としてヒータ46に当接させて配設し、ヒータ46の温度を直接検出するようにすることもできる。
【0051】
そして、定着ベルト39の表面の温度を検出するために、レバーLvにおける前記軸体sh1の近傍に、定着ベルト39と対向させて、第2の温度検出部としての、かつ、第2の非接触式の温度検出素子としてのサーモパイルTH1が配設される。該サーモパイルTH1は、定着ベルト39の表面から放射される赤外線を受光し、赤外線の光量を温度に変換する。サーモパイルTH1によって検出された温度、すなわち、ベルト表面温度Tbと、定着ベルト39を加熱するための目標温度Teとの差分に基づいてヒータ46の制御が行われる。
【0052】
前記蓄熱部材45及びヒータ46は、いずれも平坦な形状を有し、熱拡散部材47は、定着ベルト39の前記内周面Siに当接するように形成された当接部47b、並びに該当接部47bの前縁及び後縁から立ち上げて形成された第1、第2の係止部としての立上片47f、47rを備える。また、前記保持部材43の下板部43bにおける立上片47f、47rと対応する箇所に、下方に向けて開放させて、第1、第2の被係止部としての溝53f、53rが形成される。
【0053】
したがって、熱拡散部材47は、前記立上片47f、47rを、溝53f、53r内にそれぞれ挿入することによって、蓄熱部材45及びヒータ46を包囲した状態で上下方向に移動自在に配設される。なお、蓄熱部材45及びヒータ46も、保持部材43と熱拡散部材47との間で、保持部材43及び熱拡散部材47によって阻止されることなく上下方向において移動自在にされる。
【0054】
定着ベルトユニット32が加圧ローラ33に押し付けられると、熱拡散部材47の当接部47bが定着ベルト39に当接させられ、熱拡散部材47と加圧ローラ33との間に、定着ベルト39を介して定着部としてのニップ部Npが形成される。
【0055】
熱拡散部材47は、ヒータ46の熱を定着ベルト39に効率よく伝達するために、金属材料、例えば、ステンレス、アルミニウム、アルミ合金、鉄等によって板状に形成され、熱拡散部材47における定着ベルト39の内周面Siと対向する表面には、定着ベルト39の内周面Siを構成する、後述される基材層39a(
図8)と擦れて変形することがないように、ガラス、フッ素樹脂、ポリアミドイミド等の、摩擦係数が小さく、かつ、耐摩耗性の高い材料によるコーティング、又は硬質クロムメッキが施される。なお、基材層39aに摺動性の高い材料が使用されていれば、熱拡散部材47にコーティングを施さなくてもよい。
【0056】
本実施の形態においては熱拡散部材47がアルミニウムによって形成される。アルミニウムは硬度が低く、変形しやすく、摩耗しやすいので、熱拡散部材47の表面にフッ素樹脂によるコーティングが施される。
【0057】
前記蓄熱部材45に保持された熱を定着ベルト39に効率よく伝達するために、熱拡散部材47の熱拡散率は、蓄熱部材45の熱拡散率より高く、本実施の形態においては、4.56×10-6〔m2/s〕にされる。
【0058】
前記ヒータ46と熱拡散部材47との間には、ヒータ46の熱を熱拡散部材47に効率よく伝達するために、熱伝導性の高いグリス、すなわち、熱伝導グリスが塗布される。なお、蓄熱部材45とヒータ46との間にも熱伝導グリスを塗布することができる。また、熱拡散部材47と定着ベルト39との摺動部には、摺動性を高くし、摩耗するのを抑制するためのグリス、すなわち、摺動グリスが塗布される。
【0059】
次に、前記ヒータ46について説明する。
【0060】
図7は本発明の実施の形態におけるヒータの平面図である。
【0061】
図において、46はヒータ、55は該ヒータ46の一方の端部に配設されたコネクタ、56はヒータ46の基材、Ari(i=1、2、3)は、基材56の複数箇所、本実施の形態においては、5箇所に印刷又は埋込みによって形成された発熱部、57は、各発熱部Ariにおいて蛇行させて配設され、通電されることによって熱を発生させる通電発熱体、58は、該各通電発熱体57の両端とコネクタ55との間に配設され、発熱部Ariに電力を供給するための導線である。
【0062】
前記発熱部Ariのうちの発熱部Ar1はヒータ46の長手方向における中央部に配設され、発熱部Ar2は発熱部Ar1の両側に配設され、発熱部Ar3は発熱部Ar2の両側に配設され、用紙P(
図2)の幅に応じて各発熱部Ariに電力が選択的に供給される。例えば、葉書のように幅の狭い用紙Pを搬送して印刷を行う場合は、中央部の発熱部Ar1だけに電力が供給され、A4判の用紙Pを横送りで(又はA3判の用紙Pを縦送りで)搬送する場合のように、幅の広い用紙Pを搬送して印刷を行う場合は、すべての発熱部Ar1~3に電力が供給される。すなわち、使用する用紙Pに応じて発熱部Ariが選択されるので、無駄に電力が消費されるのを抑制することができる。
【0063】
なお、本実施の形態においては、各発熱部Ari間の継ぎ目の位置がヒータ46の長手方向において傾斜させられているので、各発熱部Ariと継ぎ目との間に温度差が生じるのを抑制することができる。
【0064】
次に、前記定着ベルト39について説明する。
【0065】
図8は本発明の実施の形態における定着ベルトの断面図である。
【0066】
図において、39は定着ベルトであり、該定着ベルト39は、基材層39a、該基材層39aの上に形成された弾性層39b及び表面層39cの少なくとも3層から成る。
【0067】
前記基材層39aは、定着ベルト39を破断させることなく寿命になるまで走行させることができるように、機械的強度が高くされるだけでなく、繰り返し屈曲、座屈等を受けた場合の耐久性が高くされる。
【0068】
そのために、本実施の形態においては、基材層39aとして、直径が30〔mm〕で厚さが80〔μm〕のポリイミド樹脂(PI)から成る環状体が使用される。なお、基材層39aの基材として、定着温度に耐えることができるように耐熱性が高く、屈曲、座屈等を受けた場合の耐久性が高く、所定の値のヤング率を有する、SUS430、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等を使用することもでき、必要に応じて摺動性、熱伝導性等を高くするために、基材に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化ホウ素等のフィラーを添加することができる。また、導電性を維持することができるように、基材に、カーボンブラック、亜鉛等の金属元素を含んだ導電性フィラーを添加することもできる。
【0069】
弾性層39bは、前記ニップ部Np(
図1)を形成するために、また、加熱ユニット38から伝達された熱を、放散されるのを抑制しながら定着ベルト39の外周面(トナー接触面)Soに効率よく伝達するために、適切なゴム硬度及び膜厚を有する必要がある。弾性層39bの膜厚が大きいと、均一なニップ部Npを形成することはできるが、熱容量がその分大きくなるので、熱損失が大きくなってしまう。したがって、弾性層39bの膜厚は、50〔μm〕以上、かつ、500〔μm〕以下されるのが好ましく、弾性層39bのゴム硬度は、ニップ部Npが均一に形成されるように、20〔度〕以上、かつ、60〔度〕以下にされるのが好ましい。本実施の形態においては、弾性層39bの膜厚が300〔μm〕にされ、ゴム硬度が20〔度〕にされる。そして、弾性層39bとして、定着温度に耐えうる耐熱性を有するシリコーンゴムが使用される。なお、弾性層39bとして、シリコーンゴムに代えて、定着温度に耐えうる耐久性を有するフッ素ゴム等を使用することもできる。
【0070】
表面層39cは、弾性層39bの変形に対応することができるように薄くされる必要があるが、薄すぎると、加圧ローラ33、用紙P等と擦れて表面にシワが発生してしまう。したがって、表面層39cの膜厚は、15〔μm〕以上、かつ、50〔μm〕以下にされるのが好ましい。本実施の形態においては、表面層39cの膜厚が20〔μm〕にされる。また、表面層39cは、定着温度に耐えることができるように耐熱性が高くされる必要があるだけでなく、用紙Pに定着させられたトナー像のトナーが付着しにくくなるように離型性が高くされる必要がある。本実施の形態においては、表面層39cとして、フッ素置換された材料である、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体が使用される。
【0071】
次に、前記加圧ローラ33について説明する。
【0072】
図9は本発明の実施の形態における加圧ローラの斜視図、
図10は
図9のB-B断面図である。
【0073】
図において、33は加圧ローラであり、該加圧ローラ33は、両端に支持軸sh2を突出させて形成されたシャフト33a、並びに該シャフト33aの外側に形成された弾性層33b、該弾性層33bの外側に形成された接着層33c、及び該接着層33cの外側に形成された外周表面層33dの少なくとも3層から成る。なお、必要に応じてシャフト33aと弾性層33bとの間に接着層33cを形成することができる。
【0074】
本実施の形態においては、加圧ローラ33の外径が40〔mm〕にされ、逆クラウンの形状の寸法が-0.2〔mm〕にされ、硬度が50〔度〕以上、かつ、65〔度〕以下にされる。
【0075】
前記シャフト33aとしては、定着時の圧力に耐えうる材料、本実施の形態においては、中空のステンレス鋼(SUS304)から成るシャフトが使用される。なお、シャフト33aとして中実のシャフトを使用することもできる。
【0076】
前記弾性層33bは、前記定着ベルト39(
図1)の弾性層39b(
図8)と同様にニップ部Npを形成するために適切なゴム硬度及び膜厚を有する必要があるだけでなく、定着ベルト39から用紙P及びトナー像に伝達された熱が放散するのを抑制するために十分な蓄熱性を有する必要がある。弾性層33bとして、定着ベルト39の弾性層39bと同様にシリコーンゴムを使用することができるが、定着温度に耐えうる耐久性を有する必要があることから、本実施の形態においては、発泡セルを有するシリコーンスポンジが使用される。弾性層33bに使用されるシリコーンスポンジは、ニップ部Npにおいて加圧された状態でもニップ痕が残存しないように、発泡セルのセル径が小さく、平均セル径が、20〔μm〕以上、かつ、250〔μm〕以下であることが好ましい。本実施の形態においては、弾性層33bとして、約100〔μm〕の平均セル径を有するシリコーンスポンジが使用される。なお、前記平均セル径は、カミソリ等でシリコーンスポンジを厚み方向に切断し、CCD顕微鏡で観察し、観察視野角内での10〔個〕のセルのセル径を測定したときの平均値である。また、弾性層33bのシリコーンスポンジの厚さは4〔mm〕にされる。さらに、本実施の形態においては、連続印刷が行われるのに伴って加圧ローラ33に電荷が蓄積することで静電的に紙粉等が付着するのを抑制するために、弾性層33bのシリコーンスポンジには導電剤が添加される。なお、弾性層33bを、導電性を有する材料で形成する必要はない。
【0077】
前記接着層33cは、外周表面層33dが弾性層33bから剥離し、シワ等が発生するのを抑制するために形成され、本実施の形態においては、接着層33cとして、接着力が大きく、定着温度に耐えうるシリコーン接着剤が使用される。なお、連続印刷が行われるのに伴って加圧ローラ33に紙粉等が付着するのを抑制するために、接着層33cのシリコーン接着剤に導電剤を添加したり、接着層33cとして非導電性の接着剤を使用したりすることができる。
【0078】
前記外周表面層33dは、弾性層33bの変形に対応することができるように薄くされる必要があるが、薄すぎると加圧ローラ33、用紙P、定着ベルト39等と擦れて表面にシワが発生してしまう。したがって、外周表面層33dの膜厚は、15〔μm〕以上、かつ、50〔μm〕以下にされるのが好ましい。本実施の形態においては、外周表面層33dの膜厚が30〔μm〕にされる。また、外周表面層33dは、定着温度に耐えることができるように耐熱性が高くされる必要があるだけでなく、用紙Pに定着させられたトナー像のトナーが付着しにくくなるように離型性が高くされる必要がある。本実施の形態においては、外周表面層33dとして、フッ素置換された材料である、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体が使用される。
【0079】
ところで、前述されたように、本実施の形態においては、ヒータ46によって発生させられた熱が定着ベルト39を介して用紙Pに伝達されて用紙P上のトナー像が定着させられるので、用紙Pがニップ部Npを通過する間に、定着ベルト39の熱が用紙Pに奪われ、定着ベルト39の温度が低くなってしまう。
【0080】
そこで、本実施の形態においては、ヒータ46によって発生させられた熱を定着ベルト39に伝達しやすくするとともに、定着ベルト39の温度が低くなるのを防止するために、ヒータ46と定着ベルト39との間に、定着ベルト39の内周面Siと対向させて前記熱拡散部材47が配設されるようになっている。
【0081】
ところが、高速で印刷を行う場合において、ヒータ46から定着ベルト39に熱が十分に伝達されないと、1周目と2周目とで定着ベルト39の温度が変化し、用紙Pにおける、1周目で形成された画像と2周目で形成された画像との光沢度(グロス)の差、すなわち、光沢度差が生じ、画像品位が低下してしまう。
【0082】
また、定着ベルト39の熱容量が大きいと、ヒータ46における消費電力が大きくなるだけでなく、ヒータ46のウォームアップ時間が長くなり、プリンタ10の電源をオンにしてから印刷が開始されるまでの待機時間が長くなってしまうので、定着ベルト39の弾性層39bの厚さを小さくすることによって熱容量を小さくすることが考えられるが、定着ベルト39の熱容量を小さくすると、定着ベルト39の熱の保持力が弱くなってしまう。その結果、1周目と2周目とで定着ベルト39の温度が一層変化し、画像における光沢度差が一層大きくなってしまう。
【0083】
そこで、本実施の形態においては、ヒータ46に重ねて(ヒータ46における定着ベルト39と対向する面と反対側の面と対向させて)前記蓄熱部材45が配設され、蓄熱部材45によって、用紙PがニップNpを通過するのに伴って温度が低くなる定着ベルト39に熱が伝達されることにより、蓄熱部材45に十分な熱が補充され、保持されるようになっている。
【0084】
次に、蓄熱部材45について説明する。
【0085】
本実施の形態において、蓄熱部材45は、膜厚が約70〔μm〕の、耐熱性が高い樹脂、本実施の形態においては、ポリイミド樹脂のフィルム(以下「ポリイミドフィルム」という。)(スリーエムジャパン社製「耐熱ポリイミドテープ」)をヒータ46上に積層、すなわち、重ねて貼着することによって形成され、少なくともヒータ46の各発熱部Ari(
図7)を覆うことができるように、ヒータ46の基材56より小さくされ、長手方向の寸法が250〔mm〕に、短手方向の寸法が15〔mm〕にされる。なお、重ねて貼着する前記ポリイミドフィルムの枚数を多くすることによって蓄熱部材45の熱容量を大きくすることができる。
【0086】
次に、ポリイミドフィルムの枚数を異ならせたときの蓄熱部材45の特性について説明する。
【0087】
図11はポリイミドフィルムの枚数を異ならせたときの蓄熱部材の特性を説明するための図、
図12は光沢度の測定方法を説明するための図、
図13はポリイミドフィルムの単位面積当たり熱容量と光沢度差との関係を示す図、
図14はポリイミドフィルムの単位面積当たり熱容量とヒータ裏昇温速度との関係を示す図である。なお、
図13において、横軸に単位面積当たり熱容量Hcを、縦軸に光沢度差を、
図14において、横軸に単位面積当たり熱容量Hcを、縦軸にヒータ裏昇温速度を採ってある。
【0088】
図11においては、ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕、3〔枚〕、4〔枚〕、5〔枚〕、10〔枚〕、15〔枚〕及び20〔枚〕にしたときの、蓄熱部材45(
図1)の熱容量、単位面積当たり熱容量Hc、画像における光沢度差、ヒータ46のウォームアップ時間及びヒータ裏昇温速度が示される。
【0089】
蓄熱部材45の熱容量は、示差走査熱量計(日立ハイテク社製「DSC6220」)を使用し、DSC法による測定を行うことによってDSC曲線を得て、ポリイミドフィルムの比熱容量Cpsを算出し、該比熱容量Cpsに蓄熱部材45の重量を乗算することによって算出した。
【0090】
なお、前記測定においては、標準物質としてアルミナを使し、アルミナの測定重量を10.3〔mg〕とし、ポリイミドフィルムの測定重量を11.9〔mg〕として、ポリイミドフィルムの比熱容量Cpsを次の式によって算出した。
【0091】
Cps=(H/h)・(mr/ms)・Cpr
H:ポリイミドフィルムと空容器とのDSC曲線の差
h:アルミナと空容器とのDSC曲線の差
mr:アルミナの質量
ms:ポリイミドフィルムの質量
Cpr:アルミナの比熱容量
これにより、プリンタ10を放置する環境における室温が25〔℃〕であるときの、ポリイミドフィルムの比熱容量Cpsは1.03〔J/g・K〕になり、ポリイミドフィルム1〔枚〕当たりの重量は0.34〔g〕で、ポリイミドフィルムの大きさは250〔mm〕×15〔mm〕であるので、ポリイミドフィルム1〔枚〕当たりの単位面積当たり熱容量Hcは0.0093〔J/K・cm2〕になる。
【0092】
したがって、ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕、3〔枚〕、4〔枚〕、5〔枚〕、10〔枚〕、15〔枚〕~18〔枚〕及び20〔枚〕にしたときの、蓄熱部材45の熱容量は、それぞれ、0.35〔J/K〕、1.05〔J/K〕、1.40〔J/K〕、1.75〔J/K〕、3.50〔J/K〕、5.25〔J/K〕、5.60〔J/K〕、5.95〔J/K〕、6.30〔J/K〕及び7.00〔J/K〕になる。また、単位面積当たり熱容量Hcは、それぞれ、0.01〔J/K・cm2〕、0.03〔J/K・cm2〕、0.04〔J/K・cm2〕、0.05〔J/K・cm2〕、0.09〔J/K・cm2〕、0.14〔J/K・cm2〕、0.15〔J/K・cm2〕、0.16〔J/K・cm2〕、0.17〔J/K・cm2〕、0.19〔J/K・cm2〕になる。
【0093】
画像における光沢度差については、A4判(297〔mm〕×210〔mm〕)の1〔枚〕の用紙P(沖データ社製「エクセレントホワイトC835」80〔g/m
2〕)を縦送り162〔mm/s〕の速度で搬送し、画像密度200〔%〕blue(マゼンダの画像密度100〔%〕+シアンの画像密度100〔%〕)による印刷を行って光沢度を測定した。光沢度は、光沢度計(BYK-Gardner社製「micro-gloss75°」)を使用し、75°鏡面光沢度の測定方法(JIS P8142)に従って、
図12に示されるように、用紙P上の6個の測定位置Stj(j=1、2、…、6)で測定した。
【0094】
本実施の形態においては、定着器31(
図2)に直径が30〔mm〕の定着ベルト39が使用されるので、用紙Pの先端Egfから94〔mm〕離れた箇所に横方向に延びる境界線LHを想定したときの用紙Pの先端Egfから境界線LHまでが、定着ベルト39の1周目の領域となり、境界線LHから後端Egr側が定着ベルト39の2周目の領域となる。
【0095】
そこで、用紙Pの左右の縁Egs1、Egs2から105〔mm〕離れた箇所に縦方向に延びる中央線LVを想定し、境界線LHより前端Egf側に10〔mm〕離れた箇所における、中央線LVから左方に45〔mm〕離れた箇所、中央線LV上、及び中央線LVから右方に45〔mm〕離れた箇所に測定位置St1~St3を設定し、境界線LHより後方に10〔mm〕離れた箇所における、中央線LVから左方に45〔mm〕離れた箇所、中央線LV上及び中央線LVから右方に45〔mm〕離れた箇所に測定位置St4~St6を設定した。
【0096】
そして、測定位置St1~St3において測定された光沢度の平均値を、定着ベルト39の1周目で形成された画像の第1の光沢度とし、測定位置St4~St6において測定された光沢度の平均値を、定着ベルト39の2周目で形成された画像の第2の光沢度とし、第1、第2の光沢度の差を光沢度差とした。
【0097】
ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕、3〔枚〕、4〔枚〕、5〔枚〕、10〔枚〕及び15〔枚〕にしたときの光沢度差は、それぞれ、6.5、5.8、6.1、4.8、2.5及び1.0であり、ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕、3〔枚〕及び4〔枚〕にすると光沢度差が大きく、5〔枚〕、10〔枚〕及び15〔枚〕にすると光沢度差が小さくなることが分かった。
【0098】
したがって、ポリイミドフィルムの枚数を多くすると、蓄熱部材45の熱容量が大きくなるので、蓄熱部材45はヒータ46から受けた熱を一層多く保持する。そして、定着ベルト39の1周目において定着ベルト39の熱が用紙Pに奪われても、蓄熱部材45に保持された熱がヒータ46を介して定着ベルト39に伝達されるので、定着ベルト39の2周目においても用紙Pに熱が安定させて伝達される。
【0099】
また、ヒータ46のウォームアップ時間については、前記サーモパイルTH1(
図5)によって定着ベルト39のベルト表面温度Tbを検出し、該ベルト表面温度Tbが、ヒータ46がオンにされたときの室温である30〔℃〕以下の温度から、トナー像を用紙Pに定着させるのに適した温度である140〔℃〕になるまでの時間を測定した。
【0100】
すなわち、蓄熱部材45を構成するポリイミドフィルムの枚数を変化させたときの、サーモパイルTH1によって検出されたベルト表面温度Tbに基づいてウォームアップ時間を測定した。そのために、サーモパイルTH1に、データ監視装置としてマルチ入力データロガー(キーエンス社製「NR―500」)を取り付け、定着ベルト39の温度を検出するとともに、ウォームアップ時間を測定した。
【0101】
ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕、10〔枚〕及び15〔枚〕にしたときのウォームアップ時間は、それぞれ、7.73〔秒〕、7.53〔秒〕、7.40〔秒〕であった。
【0102】
ところで、ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕にしたときより10〔枚〕にしたときのほうが、蓄熱部材45の厚さが大きくなり、蓄熱部材45の断熱性が高くなるので、仮に、蓄熱部材45の断熱効果によってヒータ46の熱が定着ベルト39に伝達されやすくなるのであれば、ポリイミドフィルムの枚数を10〔枚〕にしたほうが、ヒータ46の熱が速く定着ベルト39に伝達され、ウォームアップ時間が短くなると考えられる。
【0103】
ところが、ウォームアップ時間は、ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕にしたときが7.73〔秒〕であり、ポリイミドフィルムの枚数を10〔枚〕にしたときが7.53〔秒〕であり、ほぼ同じである。
【0104】
このことから、蓄熱部材45の断熱効果によってヒータ46の熱が定着ベルト39に伝達されやすくなるとは言えない。
【0105】
また、例えば、光沢度差が5.0である場合、操作者は、用紙Pに形成された画像における光沢度差を視認することができる。
図11から分かるように、ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕にしたときは、光沢度差が6.5であり、ウォームアップ時間が7.73〔秒〕であり、ポリイミドフィルムの枚数を10〔枚〕にしたときは、光沢度差が2.5であり、ウォームアップ時間が7.53〔秒〕である。このことから、光沢度差が異なっても、ウォームアップ時間はほぼ等しい値を採ることが分かる。すなわち、前述されたような蓄熱部材45による断熱効果ではなく、蓄熱部材45による、ヒータ46から伝達された熱の蓄熱効果によって光沢度差が適正な値になると考えられる。
【0106】
これは、1周目で定着ベルト39の温度が低下しても、蓄熱部材45によって、ヒータ46の温度が低下するのが抑制されるだけでなく、蓄熱部材45から熱を受けてヒータ46から大きな量の熱が定着ベルト39に伝達されるからであると考えられる。このことから、光沢度差が生じる要因が、定着ベルト39の温度の低下だけでなく、ヒータ46の温度の低下にもあることが分かる。
【0107】
次に、ヒータ裏昇温速度について説明する。
【0108】
ヒータ裏昇温速度は、ヒータ46の裏の温度、すなわち、前記サーミスタThによって検出された温度の上昇速度であり、ヒータ46によって保持部材43が過剰に加熱されて破損するのを防止するために監視される。
【0109】
ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕、10〔枚〕、15〔枚〕~18〔枚〕及び20〔枚〕にしたときのヒータ裏昇温速度は、それぞれ、22.1〔℃/秒〕、13.8〔℃/秒〕、8.8〔℃/秒〕、6.8〔℃/秒〕、5.0〔℃/秒〕、4.0〔℃/秒〕及び2.9〔℃/秒〕であった。
【0110】
ポリイミドフィルムの枚数を1〔枚〕、10〔枚〕、15〔枚〕~17〔枚〕、18〔枚〕及び20〔枚〕にして枚数を多くすると、ヒータ46からサーミスタThに熱が伝達されにくくなり、ヒータ裏昇温速度が低くなることが分かる。
【0111】
ヒータ裏昇温速度は、保持部材43が過剰に加熱されて破損するのを防止するために監視されるが、ヒータ46が動作しているかどうかを確認するためにも監視される。ヒータ裏昇温速度が低すぎると、ヒータ46が動作しているかどうかを確認することができないので、ヒータ裏昇温速度を少なくとも5.0〔℃/秒〕以上にする必要がある。
【0112】
以上のことから、ポリイミドフィルムの枚数を異ならせたときの、単位面積当たり熱容量Hc及び光沢度差の各値をプロットすると、
図13において線L1で示されるような、単位面積当たり熱容量Hcをxとし、光沢度差をyとする指数関数
y=7.8433e
-13.97x
を得ることができる。
【0113】
また、単位面積当たり熱容量Hc及びヒータ裏昇温速度の各値をプロットすると、
図14において線L2で示されるような、単位面積当たり熱容量Hcをxとし、ヒータ裏昇温速度をyとする一次関数
y=-106.87x+23.366
を得ることができる。
【0114】
光沢度差を視認することができなくなるようにするには、光沢度差を5.0以下にする必要があり、ヒータ46が動作しているかどうかを確認することができるようにするには、ヒータ裏昇温速度を5.0〔℃/秒〕以上にする必要がある。
【0115】
そこで、本実施の形態においては、蓄熱部材45の単位面積当たり熱容量Hcが、0.04〔J/K・cm2〕以上、かつ、0.16〔J/K・cm2〕以下にされる。
【0116】
ところで、前述されたように、蓄熱部材45の単位面積当たり熱容量Hcを、0.04〔J/K・cm2〕以上、かつ、0.16〔J/K・cm2〕以下にすると、光沢度差が5.0以下になるので、定着ベルト39に熱を安定させて伝達することができるが、ヒータ46によって定着ベルト39を加熱する際に単位時間当たりヒータ46から用紙Pに供給される熱量、すなわち、単位時間当たり供給熱量Hvが適正値より大きいと、用紙P上のトナー像が過剰に溶融させられ、溶融したトナーが定着ベルト39に付着してホットオフセットが発生することがあり、単位時間当たり供給熱量Hvが適正値より少ないと、用紙P上のトナー像が十分に溶融させられず、コールドオフセットが発生することがあり、ホットオフセット及びコールドオフセットのどちらが発生しても、トナー像を十分に用紙Pに定着させることができない。
【0117】
そこで、本実施の形態においては、ホットオフセット及びコールドオフセットが発生することがないように、ヒータ46から用紙Pへの単位時間当たり供給熱量Hvが設定されるようになっている。
【0118】
次に、ヒータ46から用紙Pへの単位時間当たり供給熱量Hvを設定する方法について説明する。
【0119】
図15は本発明の実施の形態における定着器の概念図、
図16は用紙がニップ部を通過したときのベルト表面温度、ニップ部通過前後の用紙の温度差及び単位時間当たり供給熱量の例を示す図、
図17はベルト表面温度と単位時間当たり供給熱量との関係を示す図である。なお、
図15において、X軸正方向はプリンタ10における後方向であり、X軸負方向はプリンタ10における前方向であり、Y軸正方向はプリンタ10における左方向であり、Y軸負方向はプリンタ10における右方向であり、Z軸正方向はプリンタ10における上方向であり、Z軸負方向はプリンタ10における下方向である。また、
図17において、横軸にベルト表面温度Tbを、縦軸に単位時間当たり供給熱量Hvを採ってある。
【0120】
図において、31は定着器、Rt1は用紙搬送路、32は定着ベルトユニット、33は加圧ローラ、39は定着ベルト、41はステー、43は保持部材、45は蓄熱部材、46はヒータ、47は熱拡散部材、Npはニップ部である。
【0121】
また、図において、Thはサーミスタ、TH1は、用紙搬送路Rt1における定着器31より上流側において定着ベルト39と対向させて配設され、用紙Pがニップ部Npを通過する直前における定着ベルト39の外周面の温度を検出する前記サーモパイル、TH2は、用紙搬送路Rt1における定着器31より上流側において用紙搬送路Rt1と対向させて配設され、ニップ部Npを通過する直前の用紙Pの表面の温度を検出する第3の温度検出部としての、かつ、非接触式の第3の温度検出素子としてのサーモパイル、TH3は、用紙搬送路Rt1における定着器31より下流側において用紙搬送路Rt1と対向させて配設され、ニップ部Npを通過した直後の用紙Pの表面の温度を検出する第4の温度検出部としての、かつ、非接触式の第4の温度検出素子としてのサーモパイルである。
【0122】
用紙Pがニップ部Npを通過する間に、用紙Pはヒータ46から熱を受けて温度が上昇する。サーモパイルTH2によって検出された用紙Pの表面温度をTIとし、サーモパイルTH3によって検出された用紙Pの表面温度をTOとすると、用紙Pの表面の温度の上昇値である、ニップ部通過前後の用紙Pの温度差ΔT
ΔT=TO-TI
を算出することができる。
【0123】
該温度差ΔTは用紙Pの比熱容量Cpにだけ依存するので、温度差ΔT及び比熱容量Cpに基づいてヒータ46から用紙Pに供給される熱量を算出することができる。
【0124】
そこで、用紙Pとして、モンディ社製「mondi Color Copy250」を使用し、トナー像が転写されていない用紙Pを所定の印刷速度でニップ部Npを通過させ、ベルト表面温度Tb、表面温度TI、TOを測定し、単位時間当たり供給熱量Hvを算出した。
図16にベルト表面温度Tb、温度差Δ及び単位時間当たり供給熱量Hvを示す。
【0125】
なお、前記印刷速度は線速で210〔mm〕にした。また、用紙Pの比熱容量Cpは、前記示差走査熱量計(日立ハイテク社製「DSC6220」)を使用し、蓄熱部材45の比熱容量Cpsと同様の方法で算出した。比熱容量Cpは1.55〔J/g・K〕であった。
【0126】
また、前記ベルト表面温度Tb及び単位時間当たり供給熱量Hvの各値をプロットすると、
図17において線L3で示されるような、ベルト表面温度Tbをxとし、単位時間当たり供給熱量Hvをyとする一次関数
y=0.383x+18.25
を得ることができる。
【0127】
これにより、ベルト表面温度Tbと単位時間当たり供給熱量Hvとに相関があることが分かる。したがって、ベルト表面温度Tbの測定結果に基づいて単位時間当たり供給熱量Hvを算出することができる。
【0128】
次に、ホットオフセット及びコールドオフセットが発生して画像品位が低下することがないように、ヒータ46の出力を変更して画像を形成したときの画像を評価結果について説明する。
【0129】
図18はヒータから用紙への単位時間当たり供給熱量及び単位面積当たり熱容量を異ならせて画像を形成したときの画像の評価結果を示す図、
図19は各画像の評価結果におけるヒータから用紙への単位時間当たり供給熱量と単位面積当たり熱容量との関係を示す図である。なお、
図19において、横軸に単位時間当たり供給熱量Hvを、縦軸に単位面積当たり熱容量Hcを採ってある。
【0130】
この場合、ヒータ46の出力を変化させることによってヒータ46から用紙Pへの単位時間当たり供給熱量Hvを、74〔J/g〕以上、かつ、85〔J/g〕以下の範囲で変化させ、蓄熱部材45の単位面積当たり熱容量Hcを、0.00〔J/K・cm2〕以上、かつ、0.14〔J/K・cm2〕以下の範囲で変化させ、光沢度差を測定し、ホットオフセットの発生の有無及びコールドオフセットの発生の有無を目視で観測し、画像を評価した。光沢度は、前述されたように、光沢度計(BYK-Gardner社製「micro-gloss75°」)を使用し、75°鏡面光沢度の測定方法(JIS P8142)に従って測定した。
【0131】
なお、蓄熱部材45が配設されていない状態では、単位面積当たり熱容量Hcが0.00〔J/K・cm2〕になる。
【0132】
図18に示されるように、光沢差が5.00以下であり、ホットオフセット及びコールドオフセットのいずれも発生していない場合、画像品位が高いので、評価結果を○にし、光沢度差が5.0より大きいか、又はホットオフセット及びコールドオフセットの少なくとも一方が発生した場合、画像品位が低いので、評価結果を×にした。
【0133】
単位面積当たり熱容量Hcについては、前述されたように0.16〔J/K・cm2〕以下にすると、ヒータ裏昇温速度が5.0〔℃/秒〕以上になり、ヒータ46が動作しているかどうかを確認することができるが、例えば、単位面積当たり熱容量Hcを0.16〔J/K・cm2〕にすると、ホットオフセットが発生するので、上限値を0.14〔J/K・cm2〕にした。また、単位面積当たり熱容量Hcを0.04未満にすると、光沢度差が5.0より大きくなるので、下限値を0.04〔J/K・cm2〕にした。
【0134】
また、ヒータ46から用紙Pへの単位時間当たり供給熱量Hvについては、単位時間当たり供給熱量Hvが83.4〔J/g〕より大きい場合に、定着ベルト39の1周目においてヒータ46から用紙Pに過剰に熱が伝達され、ホットオフセットが発生し、これに伴って、2周目で形成された画像の光沢度が大きくなり、光沢度差が負の値になって画像の光沢がなくなってしまうので、上限値を83.4〔J/g〕にした。また、単位時間当たり供給熱量Hvが76.1〔J/g〕より小さい場合、光沢度差を5.0以下に小さくすることができず、しかも、単位時間当たり供給熱量Hvが76.1〔J/g〕より小さい場合、コールドオフセットが発生し、トナー像を用紙Pに十分に転写させることができなくなるので、下限値を76.1〔J/g〕にした。なお、単位時間当たり供給熱量Hvが下限値の76.1〔J/g〕である場合、単位面積当たり熱容量Hcを十分に大きくし、0.09〔J/K・cm2〕以上にしないと、光沢度差を5.0以下に小さくすることができない。
【0135】
したがって、単位面積当たり熱容量Hcを、0.04〔J/K・cm2〕以上、かつ、0.14〔J/K・cm2〕以下にし、単位時間当たり供給熱量Hvを、76.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下にすると、画像品位を良好にすることができる。
【0136】
次に、画像品位が高くなる単位時間当たり供給熱量Hv及び単位面積当たり熱容量Hcの適正範囲について説明する。
【0137】
図20は画像品位が高くなる単位時間当たり供給熱量及び単位面積当たり熱容量の範囲を示す図である。なお、図において、横軸に単位時間当たり供給熱量Hvを、縦軸に単位面積当たり熱容量Hcを採ってある。
【0138】
図において、Ar1は、画像品位が高くなる単位時間当たり供給熱量Hv及び単位面積当たり熱容量Hcの適正範囲、Lc1は単位面積当たり熱容量Hcの上限値を示す線、Lc2は単位面積当たり熱容量Hcの下限値を示す線、Lv1は単位時間当たり供給熱量Hvの上限値を示す線、Lv2は単位時間当たり供給熱量Hvの下限値を示す線である。
【0139】
ところで、前述されたように、単位時間当たり供給熱量Hvが下限値の76.1〔J/g〕である場合、単位面積当たり熱容量Hcを十分に大きくし、0.09〔J/K・cm2〕以上にしないと、光沢度差を5.0以下に小さくすることができない。すなわち、単位時間当たり供給熱量Hvが、76.1〔J/g〕以上、かつ、線Leで表される79.1〔J/g〕未満である場合、単位時間当たり供給熱量Hvを、線Lfで表される値より大きくする必要がある。
【0140】
前記線Lfは、単位時間当たり供給熱量Hvをxとし、単位面積当たり熱容量Hcをyとする一次関数
y=0.0163x+1.13
で表される。
【0141】
したがって、単位時間当たり供給熱量Hvが、76.1〔J/g〕以上、かつ、79.1〔J/g〕未満である場合、単位面積当たり熱容量Hcを、前記線Lfで表される値以上、かつ、0.14〔J/K・cm2〕以下にし、単位時間当たり供給熱量Hvが、79.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下である場合、単位面積当たり熱容量Hcを、0.04〔J/K・cm2〕以上、かつ、0.14〔J/K・cm2〕以下にすることによって、画像品位を確実に向上させることができる。
【0142】
このように、本実施の形態においては、蓄熱部材45の単位面積当たり熱容量Hcが、0.04〔J/K・cm2〕以上、かつ、0.14〔J/K・cm2〕以下であり、ヒータ46から用紙Pに供給される単位時間当たり供給熱量Hvが、76.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下であり、前記単位時間当たり供給熱量Hvをxとし、単位面積当たり熱容量Hcをyとしたとき、単位面積当たり熱容量Hcが、
y=0.0163x+1.13
で表される値以上にされるので、用紙PがニップNpを通過する間に、定着ベルト39の熱が用紙Pに奪われても、蓄熱部材45の熱を安定させて定着ベルト39に伝達することができる。
【0143】
したがって、用紙Pに形成された画像に光沢度差が生じるのを抑制することができ、画像品位を向上させることができる。
【0144】
なお、本実施の形態においては、用紙Pとして、モンディ社製「mondi Color Copy250」が使用され、ベルト表面温度Tb及び表面温度TI、TOが測定され、単位時間当たり供給熱量Hvが算出され、単位時間当たり供給熱量Hvを、76.1〔J/g〕以上、かつ、83.4〔J/g〕以下にすることによって、画像品位が向上させられるが、用紙Pとして、沖データ社製の、薄紙「エクセレントペーパーA4、64〔g/m2〕(55〔kg〕紙)」、普通紙「エクセレントホワイトA4、80〔g/m2〕(70〔kg〕紙)」等を使用した場合においても、用紙Pに応じて単位時間当たり供給熱量Hvを同様に設定することによって、画像品位を向上させることができる。
【0145】
ところで、本実施の形態においては、前述されたように、蓄熱部材45によって、用紙PがニップNpを通過するのに伴って温度が低くなる定着ベルト39に熱を伝達するとともに、蓄熱部材45の熱拡散率を定着ベルト39の熱拡散率より低くすることによって、蓄熱部材45に十分な熱が保持されるようになっている。
【0146】
図21は本発明の実施の形態における蓄熱部材の熱拡散率の測定方法を説明するための図である。
【0147】
図において、45は蓄熱部材、71は熱拡散率の測定装置、73は温度検出器である。
本実施の形態において、前記測定装置71としては、ベテルハドソン研究所製「サーモウェーブアナライザ TA35」が使用され、距離変化法によって蓄熱部材45の厚さ方向の熱拡散率が測定される。また、温度検出器73としてはInSbが使用される。そして、定着器31(
図2)において、蓄熱部材45におけるヒータ46(
図1)と対向する面が照射面Faとされ、サーミスタThと対向する面が検出面Fbとされる。
【0148】
蓄熱部材45の表面にグラファイトスプレーが噴射され、黒化処理が施された後、所定の測定位置P0において測定装置71が蓄熱部材45と対向させて置かれ、加熱光εが照射面Faに照射される。この場合、加熱光εとして、波長が808〔nm〕の半導体レーザ光が、10〔μs〕~100〔μs〕のパルス幅で、ビーム角が48〔度〕になるように照射される。
【0149】
また、温度検出器73が前記測定位置P0において検出面Fbと対向させて置かれ、半導体レーザ光の周波数を3.6〔Hz〕~14.0〔Hz〕の範囲で変化させたときの、周波数ごとの位相差が算出され、該位相差に基づいて熱拡散率が算出される。
【0150】
本実施の形態においては、蓄熱部材45が、ポリイミドフィルムをヒータ46に重ねて貼着することによって形成されるので、蓄熱部材45の熱拡散率は、フィルムの材料であるポリイミドの熱拡散率になり、枚数に係わらず、0.302×10-6〔m2/s〕にされる。
【0151】
一方、定着ベルト39の表面層39c(
図8)には四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体が使用されるので、定着ベルト39の熱拡散率は、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体の熱拡散率になり、0.410×10
-6〔m
2/s〕になる。
【0152】
したがって、前記定着ベルト39の熱拡散率と前記蓄熱部材45の熱拡散率との差は0.108×10-6〔m2/s〕以上にされるのが好ましい。
【0153】
ところで、前記定着ベルト39の熱拡散率と前記蓄熱部材45の熱拡散率との差が 0.108×10-6〔m2/s〕より小さい場合、蓄熱部材45に保持された熱が定着ベルト39の1周目で放熱され、蓄熱部材45に保持された熱がヒータ46を介して伝達される熱量が、定着ベルト39の2周目で少なくなり、光沢度差が大きくなることがある。したがって、前記定着ベルト39の熱拡散率と前記蓄熱部材45の熱拡散率との差は0.108×10-6〔m2/s〕以上にされるのが好ましい。
【0154】
また、熱拡散率が定着ベルト39の熱拡散率より低く、かつ、耐熱性を有する樹脂材料として、例えば、ポリアミド系の樹脂であるポリアミド6(PA6)を蓄熱部材45として使用することができるが、ポリアミド6の熱拡散率は0.183×10-6〔m2/s〕であり、ポリアミド6を蓄熱部材45として使用する場合は、ポリアミド6の厚さを調整して、単位面積当たりの熱容量を、0.03〔J/K・cm2〕以上、かつ、0.17〔J/K・cm2〕以下にするのが好ましい。
【0155】
なお、蓄熱部材45としてポリアミド6を使用した場合でも、前記定着ベルト39の熱拡散率と前記蓄熱部材45の熱拡散率との差が0.108×10-6〔m2/s〕より小さい場合、蓄熱部材45に保持された熱が定着ベルト39の1周目で放熱されてしまい、蓄熱部材45に保持された熱がヒータ46を介して伝達される熱量が、定着ベルト39の2周目で減ってしまい、光沢度差が大きくなる恐れがあるので、前記定着ベルト39の熱拡散率と前記蓄熱部材45の熱拡散率との差は0.108×10-6〔m2/s〕以上にされるのが好ましい。
【0156】
したがって、蓄熱部材45の熱拡散率が、0.183×10-6〔m2/s〕以上、かつ、0.302×10-6〔m2/s〕である場合に、定着ベルト39の熱拡散率との差を0.108×10-6〔m2/s〕以上にするためには、定着ベルト39の材料、例えば、基材層39aの樹脂を適宜変更することによって、定着ベルト39の熱拡散率を、0.291×10-6〔m2/s〕以上、かつ、0.410×10-6〔m2/s〕以下にする必要がある。
【0157】
本実施の形態においては、ヒータ46の出力を変更することによって単位時間当たり供給熱量Hvが変更されるようになっているが、使用される用紙Pの種類によってヒータ46の出力を変更するようにすることもできる。
【0158】
図22は本発明の実施の形態におけるプリンタの制御ブロック図である。
【0159】
図において、10はプリンタ、80はプリンタ10の全体の制御を行う制御部、81は不揮発性メモリから成る第1の記憶部としてのROM、82は揮発性メモリから成る第2の記憶部としてのRAM、91は操作部としての操作パネル、92は電源制御部、46はヒータである。なお、本実施の形態においては、ROM81として、書換え可能なフラッシュROM等が使用される。
【0160】
前記制御部80は、図示されない演算装置としてのCPU、タイマ、入出力ポート等を備え、ROM81に記録されたプログラムに基づいて各種の処理を行う。
【0161】
前記RAM82には、上位装置としての図示されないホストコンピュータから送信された印刷データに基づいて生成された、通常の印刷を行うための画像データのほかに、各種の制御用のデータが一時的に記録される。
【0162】
また、前記制御部80は、媒体設定処理部としての用紙設定処理部Pr1、供給熱量算出処理部Pr2、出力変更処理部Pr3等を有する。
【0163】
操作者が操作パネル91等を操作して、印刷に使用される用紙Pの種類を選択すると、用紙設定処理部Pr1は使用される用紙Pの種類を設定し、続いて、供給熱量算出処理部Pr2は、用紙Pの種類ごとの比熱容量をROM81から読み出し、読み出した比熱容量に基づいて単位時間当たり供給熱量Hvを算出する。
【0164】
出力変更処理部Pr3は、電源制御部92によってヒータ46の出力を調整する。
【0165】
このように、本実施の形態においては、単位時間当たり供給熱量Hvを設定することによって画像品位を向上させることができるだけでなく、用紙搬送路Rt1に用紙Pの厚さを検出するセンサを配設し、検出された用紙Pの厚さに応じてヒータ46の出力を変更し、単位時間当たり供給熱量Hvを設定することによって、画像品位を向上させることができる。
【0166】
また、本実施の形態においては、ヒータ46の出力を変更することによって単位時間当たり供給熱量Hvが変更されるようになっているが、用紙の搬送速度を変更することによって、単位時間当たり供給熱量Hvが変更されるようにすることもできる。
【0167】
本実施の形態においては、プリンタ10について説明しているが、本発明を複写機、ファクシミリ装置、複合機等の画像形成装置に適用することができる。
【0168】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0169】
31 定着器
39 定着ベルト
45 蓄熱部材
46 ヒータ
P 用紙
Si 内周面