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特開2023-32616プレス機械及びプレス機械の異常診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032616
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】プレス機械及びプレス機械の異常診断方法
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/28 20060101AFI20230302BHJP
   B30B 15/00 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B30B15/28 K
B30B15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138858
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000100861
【氏名又は名称】アイダエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100143513
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 数規
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】原田 康宏
【テーマコード(参考)】
4E088
4E089
【Fターム(参考)】
4E088JJ02
4E088JJ04
4E088JJ09
4E089GA01
4E089GB01
4E089GC05
(57)【要約】
【課題】ユーザに作業負担をかけることなく異常診断の診断精度を向上させることが可能なプレス機械等を提供すること。
【解決手段】プレス機械は、スライドの昇降運動を制御するプレス制御部と、プレス機械に備わるセンサからのデータに基づいてプレス機械の異常診断を行い、診断結果を出力する異常診断部とを含み、異常診断部は、スライドがプレス無負荷の状態で下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間にセンサから取得したデータに基づいて異常診断を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転をスライドの往復直線運動に変換して被加工材料に対してプレス加工を行うプレス機械であって、
前記スライドの昇降運動を制御するプレス制御部と、
プレス機械に備わるセンサからのデータに基づいてプレス機械の異常診断を行い、診断結果を出力する異常診断部とを含み、
前記異常診断部は、
前記スライドがプレス無負荷の状態で下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータに基づいて前記異常診断を行うことを特徴とする、プレス機械。
【請求項2】
請求項1において、
前記異常診断部は、
金型交換時に、金型が取り付けられた前記スライドが上死点から下死点まで所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータ、金型が取り付けられていない前記スライドが下死点から上死点まで所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータ、金型が取り付けられていない前記スライドが上死点から下死点まで所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータ、及び、金型が取り付けられた前記スライドが下死点から上死点まで所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータの少なくとも1つのデータに基づいて前記異常診断を行うことを特徴とする、プレス機械。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記プレス制御部は、
前記スライドの移動が正常に完了しなかった場合に、前記異常診断部に異常完了通知を出力し、
前記異常診断部は、
前記異常完了通知を受信した場合に、前記診断結果を出力しないことを特徴とする、プレス機械。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記異常診断部は、
予め正常時に前記スライドが下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータと、金型交換時に前記センサから取得したデータとに基づいて、前記異常診断を行うことを特徴とする、プレス機械。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記センサは、前記モータの軸受の振動を検出するセンサであることを特徴とする、プレス機械。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、
前記センサは、前記スライドをガイドするスライドガイドの振動を検出するセンサであることを特徴とする、プレス機械。
【請求項7】
モータの回転をスライドの往復直線運動に変換して被加工材料に対してプレス加工を行うプレス機械の異常診断方法であって、
前記スライドの昇降運動を制御するプレス制御ステップと、
プレス機械に備わるセンサからのデータに基づいてプレス機械の異常診断を行い、診断結果を出力する異常診断ステップとを含み、
前記異常診断ステップでは、
前記スライドがプレス無負荷の状態で下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータに基づいて前記異常診断を行うことを特徴とする、プレス機械の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械及びプレス機械の異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機械の摺動部(例えば、メインモータの軸受けやスライドガイド等)の齧りやフレームのヒビ・ワレ等が発生すると復旧作業(解体・修理・再組付)に多大な時間を要し、その間生産ラインが停止してしまうと大きな損失となるため、異常の予兆を捉える手段をプレス製造者と製品生産者の両者で模索している状況にある。特許文献1~3には、振動からプレスの作動状況を監視する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006-509631号公報
【特許文献2】特開2000-190096号公報
【特許文献3】特開平11-320198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の装置は、生産中に振動を測定するものであり、製品や金型の故障を監視することを目的としている。プレス機械の場合、生産中の加工負荷によってフレームに生じた振動が大きな外乱となり正常時との比較が難しいという問題がある。生産中にプレス機械を正常な運転の基準となる無負荷の状況にするためには、例えば、トランスファプレスの場合、トランスファフィーダをプレスとの干渉外位置に退避させ、全てのステージの材料を金型外へ退避させる。更に、スライドが上死点から下死点に下降する間に上型と下型の部材同士が干渉しないように、スライド調節機構を駆動させスライドの高さ位置を調節(スライド調節)して、ようやく異常診断の運転が可能な状態となる。この状態で無負荷運転(カラ回し)を行い、測定した振動を正常時の振動と比較して異常診断を行い、診断完了後に、スライドを生産するための高さ位置にスライド調節し、材料を各ステージに置き直し、トランスファフィーダを送り開始位置へ移動し、プレスとトランスファフィーダの連動運転になるようにセレクタスイッチを変更する。このように、生産中に無負荷の状況でプレス機械の異常診断を行う場合、ユーザの作業負担が過大になってしまう。
【0005】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ユーザに作業負担をかけることなく異常診断の診断精度を向上させることが可能なプレス機械及びプレス機械の異常診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るプレス機械は、モータの回転をスライドの往復直線運動に変換して被加工材料に対してプレス加工を行うプレス機械であって、前記スライドの昇降運動を制御するプレス制御部と、プレス機械に備わるセンサからのデータに基づいてプレス機械の異常診断を行い、診断結果を出力する異常診断部とを含み、前記異常診断部は、前記スライドがプレス無負荷の状態で下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータに基づいて前記異常診断を行うことを特徴とするプレス機械である。ここで、プレス無負荷の状態とは、プレス機械に加工負荷がかからない状態、すなわち、金型が取り付けられていない状態、又は金型が取り付けられている場合であっても、スライドが下死点と上死点との間を移動する間に金型の上型と下型の部材同士が接触しない状態をいう。
【0007】
また本発明に係るプレス機械の異常診断方法は、モータの回転をスライドの往復直線運動に変換して被加工材料に対してプレス加工を行うプレス機械の異常診断方法であって、前記スライドの昇降運動を制御するプレス制御ステップと、プレス機械に備わるセンサからのデータに基づいてプレス機械の異常診断を行い、診断結果を出力する異常診断ステップとを含み、前記異常診断ステップでは、前記スライドがプレス無負荷の状態で下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータに基づいて前記異常診断を行うことを特徴とするプレス機械の異常診断方法である。
【0008】
本発明によれば、スライドがプレス無負荷の状態で下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間に取得したデータに基づいて異常診断を行うことで、無負荷の状態にするための作業負担をユーザに負わせることなく、外乱による影響を排除して診断精度を向上させることができる。
【0009】
(2)本発明に係るプレス機械では、前記異常診断部は、金型交換時に、金型が取り付けられた前記スライドが上死点から下死点まで所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータ、金型が取り付けられていない前記スライドが下死点から上死点まで所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータ、金型が取り付けられていない前記スライドが上死点から下死点まで所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータ、及び、金型が取り付けられた前記スライドが下死点から上死点まで所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータの少なくとも1つのデータに基づいて前記異常診断を行ってもよい。なお、金型が取り付けられた状態でスライドが下死点と上死点との間を移動する際、下死点近傍において、金型の上型と下型の部材同士(例えば、金型に内蔵されたガスクッション、ストリッパプレート、下死点ストッパ等)が接触することによって、プレス機械に負荷がかかることがある。この場合は、自動的にスライド調節し、スライドを上型と下型の部材同士が接触しない高さ位置まで上昇させる、又は、上型と下型の部材同士が接触している間に取得したデータを除外して異常診断を行ってもよい。
【0010】
本発明によれば、金型の交換に伴ってスライドが移動する(金型を取り外すためにスライドを下降させる、次の金型を搬入するためにスライドを上昇させる、次の金型を取り付けるためにスライドを下降させる、生産を開始するためにスライドを上昇させる)際にセンサからデータを取得して異常診断を行うことで、異常診断のための作業負担をユーザに負わせることなく、異常診断を行うことができる。
【0011】
(3)本発明に係るプレス機械では、前記プレス制御部は、前記スライドの移動が正常に完了しなかった場合に、前記異常診断部に異常完了通知を出力し、前記異常診断部は、前記異常完了通知を受信した場合に、前記診断結果を出力しないようにしてもよい。
【0012】
本発明によれば、正常な診断が行われる状態にないときに診断結果が出力されてしまうことを防止することができる。
【0013】
(4)本発明に係るプレス機械では、前記異常診断部は、予め正常時に前記スライドが下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間に前記センサから取得したデータと、金型交換時に前記センサから取得したデータとに基づいて、前記異常診断を行ってもよい。
【0014】
(5)本発明に係るプレス機械では、前記センサは、前記モータの軸受の振動を検出するセンサであってもよい。
【0015】
(6)本発明に係るプレス機械では、前記センサは、前記スライドをガイドするスライドガイドの振動を検出するセンサであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るプレス機械の構成の一例を示す図。
図2】金型交換を自動で行う場合のプレス制御部の処理の流れを示すフローチャート。
図3】金型交換を自動で行う場合のプレス制御部の処理の流れを示すフローチャート。
図4】金型交換を自動で行う場合の異常診断部の処理の流れを示すフローチャート。
図5】正常時データの一例を示す図。
図6】金型交換を手動で行う場合のプレス制御部の処理の流れを示すフローチャート。
図7】金型交換を手動で行う場合のプレス制御部の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係るプレス機械(サーボプレス機械)の構成の一例を示す図である。プレス機械1は、回転運動を直線運動に変換する偏心機構によってサーボモータ10の回転をスライド17の上下往復運動(往復直線運動、昇降運動)に変換し、スライド17の上下往復運動を利用して被加工材料に対してプレス加工を施す。プレス機械1は、サーボモータ10、エンコーダ11、ドライブシャフト12、ドライブギア13、メインギア14、クランクシャフト15、コネクティングロッド16、スライド17、ボルスタ18、制御装置100、操作部110、表示部120、記憶部130を有する。プレス機械はサーボプレス機械に限らず、例えば、フライホイールを用いたメカプレスでもよいし、ボールねじを用いた直動式プレスでもよい。この場合、エンコーダはクランクシャフト15の軸端やボールねじの軸端に設けてもよい。
【0019】
サーボモータ10の回転軸にはドライブシャフト12が接続され、ドライブシャフト12にはドライブギア13が接続される。ドライブギア13にはメインギア14が噛み合わされ、メインギア14にはクランクシャフト15が接続され、クランクシャフト15にはコネクティングロッド16が接続される。ドライブシャフト12やクランクシャフト15等の回転軸は適宜設けられた軸受け(図示せず)によって支持される。クランクシャフト15とコネクティングロッド16とで偏心機構が形成される。この偏心機構によって、コネクティングロッド16に接続されたスライド17は、静止側のボルスタ18に対して昇降可能になる。スライド17は、スライドガイド19によってガイドされる。スライド17には上金型20が装着され、ボルスタ18には下金型21が装着される。コネクティングロッド16とスライド17同士の接続部分には、スライド調節機構(図示せず)を有する。また、コネクティングロッド16とスライド17同士は、直接接続せずにプランジャ(図示せず)を介して接続してもよい。この場合は、プランジャを垂直方向に案内するためのプランジャガイド(図示せず)が設けられる。
【0020】
サーボモータ10には、サーボモータ10の軸受の振動を検出するセンサ22が設けられ、スライドガイド19には、スライドガイド19の振動を検出するセンサ23が設けられている。センサ22、23としては、例えば加速度センサを用いることができる。センサ22、23で検出されたデータは、制御装置100に出力される。
【0021】
制御装置100は、プレス制御部101、異常診断部102を含む。プレス制御部101は、記憶部130に記憶された所定のスライドモーションに基づいてスライド17の昇
降運動を制御する。より詳細には、プレス制御部101は、スライドモーションで規定されるスライド17の位置や速度の指令からモータ回転位置指令値を演算し、回転位置指令に基づいて、サーボモータ10の回転位置、回転速度及び電流の制御を行う。サーボモータ10の回転位置はサーボモータ10に取り付けられたエンコーダ11で検出される。
【0022】
また、プレス制御部101は、被加工材料を搬送する搬送装置(例えば、トランスファフィーダ)の動作を制御する。また、プレス機械1が、金型(上金型20、下金型21)を搬送する手段と金型をクランプ・アンクランプする手段とを有する自動金型交換装置を備える場合、プレス制御部101は、自動金型交換装置の動作を制御する。
【0023】
異常診断部102は、スライド17が下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間にセンサ22、23からのデータを取得する。なお、「スライド17が下死点と上死点との間を移動する」とは、スライド17が上死点から下死点まで移動することや、スライド17が下死点から上死点まで移動することであってもよいし、スライド17が上死点付近(上死点よりも低い所定位置)から下死点付近(下死点よりも高い所定位置)まで移動することや、スライド17が下死点付近から上死点付近まで移動することであってもよい。スライド17の位置は、エンコーダ11の出力から検出することができる。異常診断部102は、センサ22、23から取得したデータに基づいてプレス機械1の異常診断を行い、診断結果をプレス制御部101に出力する。プレス制御部101は、この診断結果を表示部120に出力する。記憶部130には、予め正常時にスライド17が下死点と上死点との間を所定の速度で移動する間にセンサ22、23から取得したデータ(正常時データ)が記憶されている。なお、「正常時」とは、機械製造時の試運転中や、ユーザにおいて機械納入後に初めて金型を取り付けて運転するときなど、プレス機械が新しい状態にあるときをいう。異常診断部102は、診断時にセンサ22、23から取得したデータ(測定データ)を正常時データと比較することで、異常診断を行う。ユーザは、センサ22からの測定データに基づく異常診断の診断結果からサーボモータ10の軸受の異常(齧り等)の予兆を捉えることができ、センサ23からの測定データに基づく異常診断の診断結果からスライドガイド19の異常の予兆を捉えることができる。
【0024】
本実施形態のプレス機械1では、加工時の負荷がかからない金型交換時に異常診断を実行する。具体的には、金型(現型)を取り外すためにスライド17を上死点から下死点まで下降させるとき、次の金型(次型)を搬入するためにスライド17を下死点から上死点まで上昇させるとき、次の金型を取り付けるためにスライド17を上死点から下死点まで下降させるとき、及び、生産を開始するためにスライド17を下死点から上死点まで上昇させるときのそれぞれにおいて、センサ22、23からデータを取得して異常診断を行う。
【0025】
図2図4は、金型交換を自動で行う場合(プレス機械1が自動金型交換装置を備える場合)の金型交換処理と異常診断処理の流れを示すフローチャートである。図2図3は、プレス制御部101の処理の流れを示すフローチャートであり、図4は、異常診断部102の処理の流れを示すフローチャートである。なお、金型交換の開始時において、スライド17は上死点で停止しているものとする。
【0026】
ユーザによって操作部110で「金型交換」の運転が選択され(図2のステップS10)、動作ボタン「スタート」が操作されると(ステップS11)、プレス制御部101は、搬送装置を干渉外へ退避させる制御を行う(ステップS12)。次に、プレス制御部101は、スライド17の下降を開始し(ステップS13)、異常診断部102に診断開始要求を出力する(ステップS14)。次に、プレス制御部101は、スライド17の下降が正常に完了した(スライド17が上死点から下死点まで所定の速度で移動し下死点で停止した)か否かを判断し(ステップS15)、下降が正常に完了した場合(ステップS1
5のY)には、異常診断部102に正常完了通知を出力し(ステップS16)、下降が正常に完了しなかった(例えば、ユーザの操作により下死点の手前で停止した)場合(ステップS15のN)には、異常診断部102に異常完了通知を出力し(ステップS17)、スライド17を下死点まで移動させ停止させる(ステップS18)。
【0027】
異常診断部102は、診断開始要求を受信する(図4のステップS50のY)と、センサ22、23からのデータ(測定データ)の取得を開始する(ステップS51)。次に、異常診断部102は、正常完了通知を受信したか否かを判断し(ステップS52)、正常完了通知を受信した場合(ステップS52のY)には、測定データの取得を終了し(ステップS53)、取得した測定データと正常時データとを比較して異常診断を行い(ステップS54)、診断結果をプレス制御部101に出力する(ステップS55)。正常完了通知を受信していない場合(ステップS52のN)には、異常診断部102は、異常完了通知を受信したか否かを判断し(ステップS56)、正常完了通知を受信した場合(ステップS56のY)には、取得した測定データを破棄して(ステップS57)、診断結果を出力しない。
【0028】
ここで、図5に示すように、記憶部130には、移動方向(上死点から下死点への移動、下死点から上死点への移動)、金型の有無と種類、及び、センサの種類(モータ軸受の振動を検出するセンサ22、センサ23)別の正常時データが記憶されている。図5に示す例において、正常時データ「001」は、正常時に金型「A」が取り付けられたスライド17が上死点から下死点まで移動する間にセンサ22から取得したデータであり、正常時データ「002」は、同様の状況でセンサ23から取得したデータであり、正常時データ「003」は、正常時に金型が取り付けられていないスライド17が下死点から上死点まで移動する間にセンサ22から取得したデータであり、正常時データ「004」は、同様の状況でセンサ23から取得したデータであり、正常時データ「005」は、正常時に金型が取り付けられていないスライド17が上死点から下死点まで移動する間にセンサ22から取得したデータであり、正常時データ「006」は、同様の状況でセンサ23から取得したデータであり、正常時データ「007」は、正常時に金型「B」が取り付けられたスライド17が下死点から上死点まで移動する間にセンサ22から取得したデータであり、正常時データ「008」は、同様の状況でセンサ23から取得したデータである。
【0029】
ステップS13で下降を開始するスライド17に上金型「A」が取り付けられているとすると、ステップS54において、異常診断部102は、診断開始要求(ステップS14)で取得を開始し正常完了通知(ステップS16)で取得を終了したセンサ22からの測定データ(金型「A」が取り付けられたスライド17が上死点から下死点まで移動する間にセンサ22で取得されたデータ)を、測定条件が同じ図5の正常時データ「001」と比較して異常診断を行い、同様に取得したセンサ23からの測定データ(金型「A」が取り付けられたスライド17が上死点から下死点まで移動する間にセンサ23で取得されたデータ)を図5の正常時データ「002」と比較して異常診断を行う。測定データおよび正常時データは、センサ値の時系列データであり、異常診断においては、例えば、測定データと正常時データのそれぞれに複数の区間を設定して区間毎に両者の差を求め、両者の差が所定値以上の区間が所定数以上ある場合に、異常があると診断し、それ以外の場合に、異常がないと診断する。また、測定データと正常時データをそれぞれ高速フーリエ変換(FFT)し、周波数帯毎に両者の差を求め、両者の差が所定値以上の周波数帯が所定数以上ある場合に、異常があると診断し、それ以外の場合に、異常がないと診断してもよい。また、正常時データや正常時データのFFT解析結果などを機械学習(教師あり学習)して学習済みモデルを生成し、測定データを学習済みモデルに入力することで異常診断を行うようにしてもよい。
【0030】
図2の説明に戻ると、プレス制御部101は、ステップS16で正常完了通知を出力し
た後、又は、ステップS18でスライド17を下死点で停止させた後、自動金型交換装置を制御して、上金型20(金型「A」)をアンクランプさせる(ステップS19)。次に、プレス制御部101は、スライド17の上昇を開始し(ステップS20)、異常診断部102に診断開始要求を出力する(ステップS21)。次に、プレス制御部101は、スライド17の上昇が正常に完了した(スライド17が下死点から上死点まで所定の速度で移動し上死点で停止した)か否かを判断し(ステップS22)、上降が正常に完了した場合(ステップS22のY)には、異常診断部102に正常完了通知を出力し(ステップS23)、上降が正常に完了しなかった(例えば、ユーザの操作により上死点の手前で停止した)場合(ステップS22のN)には、異常診断部102に異常完了通知を出力し(ステップS24)、スライド17を上死点まで移動させ停止させる(ステップS25)。
【0031】
このときの異常診断部102の処理は図4の通りであるが、ステップS54において、異常診断部102は、診断開始要求(ステップS21)で取得を開始し正常完了通知(ステップS23)で取得を終了したセンサ22からの測定データ(金型が取り付けられていないスライド17が下死点から上死点まで移動する間にセンサ22で取得されたデータ)を図5の正常時データ「003」と比較して異常診断を行い、同様に取得したセンサ23からの測定データ(金型が取り付けられていないスライド17が下死点から上死点まで移動する間にセンサ23で取得されたデータ)を図5の正常時データ「004」と比較して異常診断を行う。
【0032】
図2の説明に戻ると、プレス制御部101は、ステップS23で正常完了通知を出力した後、又は、ステップS25でスライド17を上死点で停止させた後、自動金型交換装置を制御して、金型「A」を搬出し(ステップS26)、次の金型の高さに合わせてスライド調節を行い(図3のステップS27)、次の金型(金型「B」とする)を搬入する(ステップS28)。次に、プレス制御部101は、スライド17の下降を開始し(ステップS29)、異常診断部102に診断開始要求を出力する(ステップS30)。次に、プレス制御部101は、スライド17の下降が正常に完了したか否かを判断し(ステップS31)、下降が正常に完了した場合(ステップS31のY)には、異常診断部102に正常完了通知を出力し(ステップS32)、下降が正常に完了しなかった場合(ステップS31のN)には、異常診断部102に異常完了通知を出力し(ステップS33)、スライド17を下死点まで移動させ停止させる(ステップS34)。
【0033】
このときの異常診断部102の処理は図4の通りであるが、ステップS54において、異常診断部102は、診断開始要求(ステップS30)で取得を開始し正常完了通知(ステップS32)で取得を終了したセンサ22からの測定データ(金型が取り付けられていないスライド17が上死点から下死点まで移動する間にセンサ22で取得されたデータ)を図5の正常時データ「005」と比較して異常診断を行い、同様に取得したセンサ23からの測定データ(金型が取り付けられていないスライド17が上死点から下死点まで移動する間にセンサ23で取得されたデータ)を図5の正常時データ「006」と比較して異常診断を行う。
【0034】
図3の説明に戻ると、プレス制御部101は、ステップS32で正常完了通知を出力した後、又は、ステップS34でスライド17を下死点で停止させた後、自動金型交換装置を制御して、次の上金型20(金型「B」)をクランプさせる(ステップS35)。次に、プレス制御部101は、スライド17の上昇を開始し(ステップS36)、異常診断部102に診断開始要求を出力する(ステップS37)。次に、プレス制御部101は、スライド17の上昇が正常に完了したか否かを判断し(ステップS38)、上降が正常に完了した場合(ステップS38のY)には、異常診断部102に正常完了通知を出力し(ステップS39)、上降が正常に完了しなかった場合(ステップS38のN)には、異常診断部102に異常完了通知を出力し(ステップS40)、スライド17を上死点まで移動
させ停止させる(ステップS41)。
【0035】
このときの異常診断部102の処理は図4の通りであるが、ステップS54において、異常診断部102は、診断開始要求(ステップS37)で取得を開始し正常完了通知(ステップS39)で取得を終了したセンサ22からの測定データ(金型「B」が取り付けられたスライド17が下死点から上死点まで移動する間にセンサ22で取得されたデータ)を図5の正常時データ「007」と比較して異常診断を行い、同様に取得したセンサ23からの測定データ(金型「B」が取り付けられたスライド17が下死点から上死点まで移動する間にセンサ23で取得されたデータ)を図5の正常時データ「008」と比較して異常診断を行う。
【0036】
図3の説明に戻ると、プレス制御部101は、ステップS39で正常完了通知を出力した後、又は、ステップS41でスライド17を上死点で停止させた後、生産を開始する(ステップS42)。
【0037】
図6図7は、金型交換を手動で行う場合のプレス制御部101の処理の流れを示すフローチャートである。なお、異常診断部102の処理については金型交換を自動で行う場合(図4)と同様であるから説明を省略する。また、プレス制御部101の処理についても金型交換を自動で行う場合と同様の部分については適宜説明を省略する。
【0038】
ユーザによって、操作部110で「寸動」の運転が選択され(ステップS60)、運転ボタン「ON」が操作されると(ステップS61)、プレス制御部101は、スライド17の下降を開始し(ステップS62)、異常診断部102に診断開始要求を出力する(ステップS63)。ステップS64~S67については、図2のステップS15~S18と同様であるから説明を省略する。
【0039】
次に、ユーザによって、上金型20(金型「A」)がアンクランプされ(ステップS68)、運転ボタン「ON」が操作されると(ステップS69)、プレス制御部101は、スライド17の上昇を開始し(ステップS70)、異常診断部102に診断開始要求を出力する(ステップS71)。ステップS72~S75については、図2のステップS22~S25と同様であるから説明を省略する。
【0040】
次に、ユーザによって、金型「A」が搬出され(ステップS76)、次の金型の高さに合わせてスライド調節が行われ(図7のステップS77)、次の金型(金型「B」とする)が搬入され(ステップS78)、運転ボタン「ON」が操作されると(ステップS79)、プレス制御部101は、スライド17の下降を開始し(ステップS80)、異常診断部102に診断開始要求を出力する(ステップS81)。ステップS82~S85については、図3のステップS31~S34と同様であるから説明を省略する。
【0041】
次に、ユーザによって、次の上金型20(金型「B」)がクランプされ(ステップS86)、運転ボタン「ON」が操作されると(ステップS87)、プレス制御部101は、スライド17の上昇を開始し(ステップS88)、異常診断部102に診断開始要求を出力する(ステップS89)。ステップS90~S94については、図3のステップS38~S42と同様であるから説明を省略する。
【0042】
本実施形態によれば、加工時の負荷がかからない金型交換時に、金型の交換に伴ってスライド17が移動する(金型を取り外すためにスライド17を下降させる、次の金型を搬入するためにスライド17を上昇させる、次の金型を取り付けるためにスライド17を下降させる、生産を開始するためにスライド17を上昇させる)際にセンサ22、23から取得した測定データに基づいて異常診断を行うことで、異常診断のための作業負担をユー
ザに負わせることなく、外乱による影響を排除して異常診断の診断精度を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、スライド17の移動方向及び金型の有無の組み合わせが異なる4つの状況それぞれで異常診断を行うことで、異常の予兆をより捉え易くすることができる。なお、4つの状況のうち一部の状況のみで異常診断を行うようにしてもよい。例えば、金型が取り付けられていないスライド17が上死点から下死点まで(或いは下死点から上死点まで)所定の速度で移動する間に取得した測定データに基づく異常診断のみを行い、金型が取り付けられたスライド17が上死点から下死点まで(或いは下死点から上死点まで)所定の速度で移動する間に取得した測定データに基づく異常診断を行わないようにすることで、金型の種類別の正常時データを予め用意する必要をなくすことができる。
【0044】
なお、異常診断で用いるセンサは、サーボモータの軸受とスライドガイドに限らず、プレス機械のクランクシャフトを支持する軸受等の他の回転摺動部や、プランジャガイド等の他の往復摺動部に設けてもよい。また、異常診断で用いるセンサは、振動を検出するセンサに限らず、例えば、サーボモータ10の電流値を測定するセンサ(サーボアンプの出力電流を検出する電流センサ)であってもよいし、プレス機械1の摺動部(モータ軸受、スライドガイド等)で発生する音を測定するセンサであってもよい。
【0045】
センサの取り付けについては、診断対象の摺動部が軸受のような回転部であれば、軸に対してラジアル方向とスラスト方向にセンサを取り付けてもよい。また、診断対象の摺動部がスライドガイドのような往復直線摺動部であれば、スライドガイド又はスライドガイドと接するフレームに対してX軸Y軸Z軸方向にセンサを取り付けてもよい。
【0046】
金型交換時に自動で診断を行うことが主たる目的ではあるが、作業者が生産中に違和感を覚えた時(正常時と比べ音や振動等が異なると感じた時)など、異常診断を行いたい場合は、金型が取り付いている状態或いは外れている状態、共に、外乱のない運転状態であれば、同様の異常診断を行うことが可能である。
【0047】
なお、上記のように本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。
【符号の説明】
【0048】
1…プレス機械、10…サーボモータ、11…エンコーダ、12…ドライブシャフト、13…ドライブギア、14…メインギア、15…クランクシャフト、16…コネクティングロッド、17…スライド、18…ボルスタ、19…スライドガイド、20…上金型、21…下金型、22…センサ、23…センサ、100…制御装置、101…プレス制御部、102…異常診断部、110…操作部、120…表示部、130…記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7