(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032642
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】絶縁導体の製造方法、電着装置及び絶縁導体製造装置
(51)【国際特許分類】
C25D 13/22 20060101AFI20230302BHJP
H01B 13/16 20060101ALI20230302BHJP
C25D 13/24 20060101ALI20230302BHJP
C25D 13/16 20060101ALI20230302BHJP
C25D 13/04 20060101ALI20230302BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230302BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230302BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20230302BHJP
C25D 13/06 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C25D13/22 305
H01B13/16 A
C25D13/24 301A
C25D13/16 A
C25D13/04
C09D201/00
C09D7/20
C09D179/08 A
C09D179/08 B
C25D13/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138900
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】漆原 誠
(72)【発明者】
【氏名】濱 大祐
(72)【発明者】
【氏名】工藤 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】飯田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和彦
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
【テーマコード(参考)】
4J038
5G325
【Fターム(参考)】
4J038DJ021
4J038DJ051
4J038JB32
4J038KA06
4J038LA05
4J038MA06
4J038NA21
4J038NA24
4J038PA04
4J038PB09
4J038PC02
5G325KA05
5G325KB01
5G325KB07
5G325KB18
5G325KD03
(57)【要約】
【課題】膜厚が均一で、高い絶縁性を有する絶縁皮膜を有する絶縁導体を、連続的に安定して製造することができる絶縁導体の製造方法、その方法の実施に有利に利用することができる電着装置及び絶縁導体製造装置を提供する。
【解決手段】絶縁導体の製造方法は、絶縁樹脂粒子と有機溶媒とを含む電着液に、前記導体を浸漬して、前記絶縁樹脂粒子を前記導体の表面に電着させることによって電着膜を形成する電着工程と、前記電着膜が形成された前記導体を、前記電着液から取り出して加熱し、前記電着膜を前記導体に焼き付けることにより前記導体を絶縁皮膜で被覆する焼付工程と、前記絶縁樹脂粒子と前記有機溶媒とを含み、前記絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液よりも高い補給液を、前記電着液に加える補給工程と、を有し、前記電着液の温度が設定温度に対して±1℃以内に調整されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁皮膜で被覆した絶縁導体の製造方法であって、
絶縁樹脂粒子と有機溶媒とを含む電着液に、前記導体を浸漬して、前記絶縁樹脂粒子を前記導体の表面に電着させることによって電着膜を形成する電着工程と、
前記電着膜が形成された前記導体を、前記電着液から取り出して加熱し、前記電着膜を前記導体に焼き付けることにより前記導体を絶縁皮膜で被覆する焼付工程と、
前記絶縁樹脂粒子と前記有機溶媒とを含み、前記絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液よりも高い補給液を、前記電着液に加える補給工程と、を有し、
前記電着液の温度が設定温度に対して±1℃以内に調整されている絶縁導体の製造方法。
【請求項2】
前記電着液の設定温度が5℃以上35℃以下の範囲内とされている請求項1に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項3】
前記電着液の絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液の絶縁樹脂粒子の設定濃度に対して±0.1質量%以内に調整されている請求項1または2に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項4】
前記補給液の絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液の絶縁樹脂粒子の設定濃度に対して2倍以上とされている請求項1~3のいずれか1項に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項5】
前記補給液の絶縁樹脂粒子の設定濃度が10質量%以下とされていて、前記電着液の絶縁樹脂粒子の濃度が1.5質量%以上とされている請求項1~4のいずれか1項に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項6】
電着槽と、補給液タンクと、を有し、
前記電着槽は、絶縁樹脂粒子と有機溶媒とを含む電着液が貯留されるように構成されていて、
前記電着槽の内部には、電極と、液温調整器とが備えられ、
前記補給液タンクは、前記絶縁樹脂粒子と前記有機溶媒とを含み、前記絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液よりも高い補給液が貯留されていて、前記補給液を、前記電着槽に供給するように構成されている電着装置。
【請求項7】
さらに、濃縮器を有し、
前記濃縮器は、前記電着槽から前記電着液の一部を取り出して、取り出した前記電着液を濃縮し、得られた濃縮液を前記電着槽に戻すように構成されている請求項6に記載の電着装置。
【請求項8】
前記濃縮器は、限外ろ過膜を有する限外ろ過器である請求項7に記載の電着装置。
【請求項9】
前記限外ろ過膜が、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜である請求項8に記載の電着装置。
【請求項10】
前記有機溶媒が、N-メチル-2-ピロリドンを含む請求項6~9のいずれか1項に記載の電着装置。
【請求項11】
前記絶縁樹脂粒子が、ポリイミド樹脂粒子またはポリアミドイミド樹脂粒子を含む請求項6~10のいずれか1項に記載の電着装置。
【請求項12】
請求項6~11のいずれか1項に記載の電着装置と、前記電着装置の後段に配置された加熱炉とを有する絶縁導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁導体の製造方法、電着装置及び絶縁導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅線などの導体を絶縁皮膜で被覆した絶縁導体は、モータや変圧器などの各種電気機器用の電気コイルに使用されている。絶縁導体の絶縁皮膜の材料としては、例えば、ポリアミドイミドが広く利用されている。
【0003】
絶縁導体の製造方法として、電着法が知られている。電着法は、電荷を有する絶縁樹脂粒子が分散されている電着液に導体と電極とを浸漬し、この導体と電極との間に直流電圧を印加することによって、導体の表面に絶縁樹脂粒子を電着させて電着膜を形成し、次いで電着膜を加熱して、電着膜を導体に焼き付ける方法である。
【0004】
電着法により均一な膜厚の絶縁皮膜を形成する方法として、特許文献1には、電着法によって製膜した絶縁皮膜の厚みを確認後、電着電圧を変更する方法が開示されている。この特許文献1には、さらに電着液に溶剤を加えることによって膜厚制御する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、有機溶剤含有率が0.5重量%以下であるカチオン電着塗料を厚膜に塗装する方法として、浴温度を約30~約45℃、好ましくは約34~40℃の温度に調整する方法が開示されている。この特許文献2によると、上記の方法を利用することによって、膜厚が15μm以上の厚膜であって、平滑性の優れた塗膜を形成させることが可能となるとされている。
【0006】
特許文献3には、形成する絶縁皮膜の厚膜化が容易で、保存安定性にも優れた水分散型絶縁皮膜形成用電着液として、ポリマー粒子、有機溶媒、塩基性化合物及び水を含有する水分散型絶縁皮膜形成用電着液において、ポリマー粒子は主鎖中にアニオン性基を有しないポリアミドイミド及び/又はポリエステルイミドからなり、ポリマー粒子は個数基準のメジアン径(D50)を0.05~0.5μmとし、かつメジアン径(D50)の粒子径の±30%以内にある粒子を全粒子の50%(個数基準)以上とすることが記載されている。
【0007】
特許文献4には、絶縁皮膜の絶縁破壊電圧と可撓性が高い絶縁導体を製造する方法として、熱硬化性樹脂粒子と熱可塑性フッ素樹脂粒子とを含む電着液を用いる絶縁導体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5852439号公報
【特許文献2】特開2000-309899号公報
【特許文献3】特許第5994955号公報
【特許文献4】特開2019-96606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電気コイルでは、絶縁導体を何重にも巻回する。絶縁導体の直径にばらつきがあると、巻き連れや部分的に膨れた形状となるおそれがある。このため、絶縁導体の絶縁皮膜は、膜厚が均一で、部分的な欠損が少なく絶縁性が高いことが要求される。しかしながら、本発明者の検討によると、従来の電着液を用いた絶縁導体の製造方法では、電着膜の形成時に電着液の組成や温度が変動することによって、形成される電着膜の膜厚が不均一になりやすくなり、最終的に得られる絶縁導体の絶縁皮膜の膜厚が不均一となることがある。
【0010】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、膜厚が均一な電着膜を、連続的に安定して形成することができる絶縁導体の製造方法、その方法の実施に有利に利用することができる電着装置及び絶縁導体製造装置を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の絶縁導体の製造方法は、導体を絶縁皮膜で被覆した絶縁導体の製造方法であって、絶縁樹脂粒子と有機溶媒とを含む電着液に、前記導体を浸漬して、前記絶縁樹脂粒子を前記導体の表面に電着させることによって電着膜を形成する電着工程と、前記電着膜が形成された前記導体を、前記電着液から取り出して加熱し、前記電着膜を前記導体に焼き付けることにより前記導体を絶縁皮膜で被覆する焼付工程と、
前記絶縁樹脂粒子と前記有機溶媒とを含み、前記絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液よりも高い補給液を、前記電着液に加える補給工程と、を有し、前記電着液の温度が設定温度に対して±1℃以内に調整されている。
【0012】
本発明の絶縁導体の製造方法によれば、補給工程において、補給液を電着液に加えるので、電着液の絶縁樹脂粒子の濃度の変動を抑えることができ、電着液の絶縁樹脂粒子の濃度が安定する。また、電着工程において、電着液の温度を設定温度に対して±1℃以内に調整するので、電着液の絶縁樹脂粒子を導体に電着させる際の電着速度が変動しにくい。よって、本発明の絶縁導体の製造方法によれば、電着工程において、絶縁樹脂粒子を導体の表面に均一かつ安定して電着させることができるので、膜厚が均一な電着膜を形成することが可能となる。そして、焼付工程において、電着膜が形成された導体を加熱して、電着膜を導体に焼き付けることにより、膜厚が均一で、高い絶縁性を有する絶縁皮膜を有する絶縁導体を、連続的に安定して製造することができる。
【0013】
ここで、本発明の絶縁導体の製造方法においては、前記電着液の設定温度が5℃以上35℃以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、電着液の設定温度が5℃以上であるので、絶縁樹脂粒子の凝集や電着液の凝固が起こりにくく、また、設定温度が35℃以下であるので、溶媒の揮発による電着液の組成の変動を抑制することかできる。このため、電着工程において、絶縁樹脂粒子を導体の表面により均一かつ安定して電着させることができるので、膜厚がより均一な電着膜を形成することができる。
【0014】
また、本発明の絶縁導体の製造方法においては、前記電着液の絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液の絶縁樹脂粒子の設定濃度に対して±0.1質量%以内に調整されていることが好ましい。
この場合、電着液の絶縁樹脂粒子濃度が設定濃度に対して±0.1質量%以内に調整されているので、絶縁樹脂粒子の電着速度がより安定する。よって、電着工程において、膜厚がより均一な電着膜を形成することが可能となるので、より膜厚が均一で、高い絶縁性を有する絶縁皮膜を有する絶縁導体を、連続的に安定して製造することができる。
【0015】
また、本発明の絶縁導体の製造方法においては、前記補給液の絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液の絶縁樹脂粒子の設定濃度に対して2倍以上とされていることが好ましい。
この場合、電着液の絶縁樹脂粒子の濃度と補給液の絶縁樹脂粒子の濃度の差が大きいので、電着工程で消費された電着液中の絶縁樹脂粒子を、補給工程によって効率よく補給することが可能となる。
【0016】
また、本発明の電着装置においては、前記補給液の絶縁樹脂粒子濃度が10質量%以下であって、前記電着液の絶縁樹脂粒子濃度が1.5質量%以上である構成とされていてもよい。
この場合、補給液の絶縁樹脂粒子濃度が10質量%以下であるので、補給液の絶縁樹脂粒子が凝集体を形成しにくく、補給液の組成が安定する。また、電着液の絶縁樹脂粒子濃度が1.5質量%以上とされているので、電着膜形成時の電着速度を速くすることができる。
【0017】
本発明の電着装置は、電着槽と、補給液タンクと、を有し、前記電着槽は、絶縁樹脂粒子と有機溶媒とを含む電着液が貯留されるように構成されていて、前記電着槽の内部には、電極と、液温調整器とが備えられ、前記補給液タンクは、前記絶縁樹脂粒子と前記有機溶媒とを含み、前記絶縁樹脂粒子の濃度が、前記電着液よりも高い補給液が貯留されていて、前記補給液を、前記電着槽に供給するように構成されている。
【0018】
本発明の電着装置は、電着槽が液温調整器を備えるので、電着液の液温を長期間にわたって一定に維持することができる。また、本発明の電着装置は、補給液タンクと濃縮器とを有するので、電着膜を形成しながら、電着膜の形成によって消費された電着液中の絶縁樹脂粒子を効率よく電着液に補給することができ、電着液の絶縁樹脂粒子濃度を長期間にわたって一定に維持することが可能となる。このため、本発明の絶縁導体製造装置によれば、導体の表面に膜厚が均一な電着膜を安定して形成することができる。
【0019】
ここで、本発明の電着装置においては、さらに、濃縮器を有し、前記濃縮器は、前記電着槽から前記電着液の一部を取り出して、取り出した前記電着液を濃縮し、得られた濃縮液を前記電着槽に戻すように構成されていることが好ましい。
この場合、濃縮器によって、濃縮された電着液を再利用するので、電着膜の形成によって消費された電着液中の絶縁樹脂粒子を効率よく電着液に補給することが可能となる。
【0020】
本発明の電着装置においては、前記濃縮器が限外ろ過膜を有する限外ろ過器である構成とされていてもよい。
この場合、濃縮器が限外ろ過器であるので、濃縮器において、取り出した電着液を効率よく濃縮することができる。このため、電着膜の形成によって消費された電着液中の絶縁樹脂粒子をより効率よく電着液に補給することが可能となる。
【0021】
また、本発明の電着装置においては、前記限外ろ過膜がポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜である構成とされていてもよい。
この場合、限外ろ過膜が、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜であり、化学的に安定であるので、種々の電着液を効率よく濃縮することができる。
【0022】
また、本発明の電着装置においては、前記有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドンを含む構成とされていてもよい。
この場合、有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドンを含むので、種々の絶縁樹脂粒子を用いることができる。
【0023】
また、本発明の電着装置においては、前記絶縁樹脂粒子がポリイミド樹脂粒子またはポリアミドイミド樹脂粒子を含む構成とされていてもよい。
この場合、絶縁樹脂粒子がポリイミド樹脂粒子またはポリアミドイミド樹脂粒子を含むので、耐熱性が高い絶縁導体を製造することができる。
【0024】
本発明の絶縁導体製造装置は、上記本発明の電着装置と、前記電着装置の後段に配置されて加熱炉とを有する。
本発明の絶縁導体製造装置は、上記本発明の電着装置を有するので、導体の表面に膜厚が均一な電着膜を安定して形成することができる。よって、本発明の絶縁導体製造装置によれば、膜厚が均一で、高い絶縁性を有する絶縁皮膜を含む絶縁導体を、連続的に安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、膜厚が均一な電着膜を、連続的に安定して形成することができる絶縁導体の製造方法、その方法の実施に有利に利用することができる電着装置及び絶縁導体製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁導体製造装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る絶縁導体製造装置の別の一例を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る絶縁導体製造装置のさらに別の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の一実施形態である絶縁導体製造装置および絶縁導体の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0028】
[絶縁導体製造装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁導体製造装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示す絶縁導体製造装置101は、搬送ローラ10と、電着槽20と、補給液タンク25と、濃縮器26とを有する電着装置と、加熱炉40とを備える。絶縁導体製造装置101は、搬送ローラ10によって、導体ロール1Rから巻き出された導体1aに絶縁皮膜を形成して絶縁導体を製造するための装置である。導体1aの材料としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金を用いることができる。導体1aの形状は特に制限はなく、丸線であってもよいし、角線であってもよい。
【0029】
電着槽20は、電着液2が貯留されている。この電着液2に、導体1aを浸漬して、絶縁樹脂粒子を導体の表面に電着させることによって電着膜を形成して、電着膜付き導体1bを製造する。
【0030】
電着液2は、例えば、絶縁樹脂粒子と、有機溶媒と、水と、疎水性塩基とを含んでいてもよい。絶縁樹脂粒子は正または負の電荷を有する。絶縁樹脂粒子は負の電荷を有することが好ましい。絶縁樹脂粒子としては、例えば、ポリイミド系樹脂粒子、フッ素樹脂粒子を用いることができる。ポリイミド系樹脂粒子の例としては、ポリアミドイミド樹脂粒子およびポリイミド樹脂粒子を挙げることができる。フッ素樹脂粒子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)粒子、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)粒子を挙げることができる。絶縁樹脂粒子は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。絶縁樹脂粒子は、ポリイミド系樹脂粒子、あるいはポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂との混合物であることが好ましい。ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂との混合物は、フッ素樹脂粒子を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。絶縁樹脂粒子の粒子径に特に制限はないが、例えば、メジアン径が50nm以上500nm以下の範囲内にある。電着液2の絶縁樹脂粒子の含有率は特に制限はないが、例えば、1.5質量%以上10質量%以下の範囲内であり、好ましくは1.5質量%以上5質量%以下の範囲内である。
【0031】
電着液2の有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)などの極性溶剤を用いることができる。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。また、疎水性塩基は、有機溶媒に対して親和性を有することが好ましい。疎水性塩基の例としては、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジベンジルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ヘキシルアミン、ジアミルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミントリアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリベンジルアミン、アニリン等を挙げることができる。これらの疎水性塩基は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。有機溶媒と水との合計量に対する有機溶媒の含有率は、例えば、70質量%以上87質量%以下の範囲内にある。疎水性塩基の含有率は、例えば、電着液に対して0.02質量%以上0.1質量%以下の範囲内である。
【0032】
ポリアミドイミド樹脂粒子分散液は、例えば、次にようにして製造することができる。先ず、ポリアミドイミドと、ポリアミドイミドを溶解可能な有機溶媒とを含むポリアミドイミドワニスを調製する。次いで、ポリアミドイミドワニスに疎水性塩基を添加した後、ポリアミドイミドワニスを撹拌しながら、ポリアミドイミドの貧溶媒である水を加えて、ポリアミドイミド樹脂粒子を析出させる。
【0033】
電着槽20の内部には、電極21と、液温調整器22とが備えられている。電着液2の絶縁樹脂粒子が負の電荷を有する場合、電極21は直流電源30のマイナス端子と接続し、直流電源30のプラス端子は導体1aに接続している。直流電源30のプラス端子は導電線31と搬送ローラ10とを介して、導体1aに接続している。
【0034】
液温調整器22は、電着槽20に貯留された電着液2の液温を設定温度に調整する装置である。液温調整器22は、電着液2に浸漬されている冷却・加温器23と、冷却・加温器23を制御する制御器24とを有する。
【0035】
補給液タンク25は、絶縁樹脂粒子濃度が電着液2よりも高い補給液が貯留されるように構成されている。補給液は、電着槽20に供給される。電着槽20への補給液の補給は、連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。補給液の絶縁樹脂粒子濃度は、電着液2の絶縁樹脂粒子濃度に対して2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。補給液の絶縁樹脂粒子濃度は、電着液2の絶縁樹脂粒子濃度に対して5倍以下であってもよい。補給液の絶縁樹脂粒子濃度は、10質量%以下であってもよい。
【0036】
濃縮器26は、電着槽20から電着液2の一部を取り出して、取り出した電着液2を濃縮して、絶縁樹脂粒子濃度が高められた濃縮液を電着槽20の電着液2に戻すように構成されている。濃縮器26は、例えば、限外ろ過膜を有する限外ろ過器であってもよい。限外ろ過器は限外ろ過膜によって、絶縁樹脂粒子を含む電着液から溶媒のみを分離する。濃縮器26で分離された溶媒は、例えば、電着液の原料として、また導体の洗浄液として利用することができる。限外ろ過器の限外ろ過膜としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜を用いることができる。濃縮器26において、電着槽20から電着液2の一部を取り出す方法としては、補給液の供給によるオーバーフローを用いる方法、ポンプを用いる方法を用いることができる。
【0037】
電着槽20は、補給液タンク25から供給された補給液と、濃縮器26から戻される濃縮液とによって、電着液2の絶縁樹脂粒子濃度が一定となる。電着槽20は攪拌器が備えられていて、電着液2を撹拌しながら、補給液と濃縮液とが供給されるように構成されていてもよい。
【0038】
加熱炉40は、電着槽20で得られた電着膜付き導体1bを加熱して、電着膜を導体に焼き付けることにより絶縁導体1cを製造する。加熱炉40としては、電気炉を用いることができる。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁導体製造装置101は、電着槽20が液温調整器22を備えるので、電着液2の液温を長期間にわたって一定に維持することができる。また、絶縁導体製造装置101は、補給液タンク25と濃縮器26とを有するので、電着膜を形成しながら、電着膜の形成によって消費された電着液2中の絶縁樹脂粒子を効率よく電着液2に補給することができ、電着液2の絶縁樹脂粒子濃度を長期間にわたって一定に維持することが可能となる。このため、電着槽20において、導体の表面に膜厚が均一な電着膜が形成された電着膜付き導体1bを安定して形成することができる。そして加熱炉40で、電着膜付き導体1bを加熱するので、膜厚が均一で、高い絶縁性を有する絶縁皮膜を含む絶縁導体を連続的に安定して製造することができる。
【0040】
本実施形態の絶縁導体製造装置101において、濃縮器26が限外ろ過膜を有する限外ろ過器である場合、濃縮器26において、電着液2を効率よく濃縮することができる。このため、電着膜の形成によって消費された電着液2中の絶縁樹脂粒子をより効率よく電着液2に補給することが可能となる。また、限外ろ過膜が、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜である場合は、化学的に安定であるので、種々の電着液を効率よく濃縮することができる。
【0041】
本実施形態の絶縁導体製造装置101において、電着液2の有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドンを含む場合は、種々の絶縁樹脂粒子を用いることができる。また、絶縁樹脂粒子がポリイミド樹脂粒子またはポリアミドイミド樹脂粒子を含む場合は、耐熱性が高い絶縁導体1cを製造することができる。
【0042】
本実施形態の絶縁導体製造装置101において、補給液の絶縁樹脂粒子濃度が電着液2の絶縁樹脂粒子濃度に対して2倍以上である場合、電着液2の絶縁樹脂粒子の濃度と補給液の絶縁樹脂粒子の濃度の差が大きいため、電着膜の形成によって消費された電着液2中の絶縁樹脂粒子をさらに効率よく補給することが可能となる。
【0043】
本実施形態の絶縁導体製造装置101において、補給液の絶縁樹脂粒子濃度が10質量%以下である場合、補給液の絶縁樹脂粒子が凝集体を形成しにくく、補給液の組成が安定する。また、電着液2の絶縁樹脂粒子の濃度が1.5質量%以上である場合、電着膜形成時の電着速度を速くすることができる。
【0044】
絶縁導体製造装置101においては、電着槽20から濃縮器26に電着液2の一部が直接取り出され、濃縮液が濃縮器26から電着槽20に直接戻されるように構成されているが、濃縮器26の構成は、これに限定されるものではない。例えば、電着槽20と濃縮器26との間に電着液貯留タンクを設けて、電着液の量が所定量となった時点で濃縮器26による濃縮を行うようにしてもよい。また、濃縮液を、補給液タンク25に送り、補給液タンク25を介して、電着槽20に戻されるようにしてもよい。
【0045】
図2は、本発明の一実施形態に係る絶縁導体製造装置の別の一例を示す概略構成図である。
図2に示す絶縁導体製造装置102では、電着槽20と濃縮器26との間に電着液貯留タンク27が設けられている。電着槽20から電着液貯留タンク27に電着液2の一部が直接取り出され、電着液貯留タンク27内の電着液の量が所定量となった時点で濃縮器26による濃縮を行うようにされている。また、絶縁導体製造装置102では、濃縮液が補給液タンク25に送られて、補給液タンク25を介して、電着槽20に戻されるようにされている。以上の構成以外は、
図1に示す絶縁導体製造装置101と同様であるので、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0046】
以上のような構成とされた絶縁導体製造装置102では、電着槽中の樹脂濃度を一定に保ちながら、廃液に移行することで失われる樹脂を極力低減させることで、樹脂材料の利用効率を高めることが可能である。
【0047】
図3は、本発明の一実施形態に係る絶縁導体製造装置のさらに別の一例を示す概略構成図である。
図3に示す絶縁導体製造装置103は、導体部品3の絶縁皮膜形成用の装置である。絶縁導体製造装置103は、導体部品3を、電着装置の直流電源30のプラス端子に直接接続するように構成されている。
以上の構成以外は、
図1に示す絶縁導体製造装置101と同様であるので、共通する部分は同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0048】
絶縁導体製造装置103を用いて、絶縁導体は次にようにして製造される。
まず、電着装置の直流電源30のプラス端子に導体部品3を接続し、導体部品3を電着液2に浸漬させる。次いで、導体部品3と電極21との間に直流電圧を印加することによって、絶縁樹脂粒子を導体部品3の表面に電着させることによって電着膜を形成する。そして、電着膜が形成された導体部品3を電着液2から取り出して、加熱炉(不図示)を用いて加熱し、電着膜を導体部品3に焼き付けることにより導体部品3を絶縁皮膜被覆する。電着膜の形成時は、電着液2の液温は液温調整器22によって一定に維持され、電着液2の絶縁樹脂粒子濃度は補給液タンク25と濃縮器26によって一定に維持される。
【0049】
[絶縁導体の製造方法]
次に、本実施形態の絶縁導体の製造方法を説明する。本実施形態では、絶縁導体製造装置として、
図1に示す絶縁導体製造装置101を用いた場合を例に取って説明する。本実施形態の絶縁導体の製造方法は、電着工程と、焼付工程と、補給工程、濃縮工程とを有する。
【0050】
(電着工程)
電着工程では、電着槽20の電着液2に、導体1aを浸漬して、電着液2の絶縁樹脂粒子を導体1aの表面に電着させることによって電着膜を形成して電着膜付き導体1bを製造する。具体的には、直流電源30を作動させて、電着液2を通過する導体1aと電極21との間に直流電圧を印加することによって、絶縁樹脂粒子を導体1aの表面に電着させる。直流電圧を印加することによって、導体1aは陽極として、電極21は陰極として作用し、電着液2中の負の電荷を有する絶縁樹脂粒子は導体1aの表面に電着して、電着膜が形成される。導体1aと電極21との間に印加する直流電圧の電圧は、例えば、1V以上600V以下の範囲内にある。このような条件で導体1aと電極21との間に直流電圧を印加することによって、導体1aの表面に、厚さが均一な電着膜を形成することができる。電着膜の厚さは、目的とする絶縁皮膜の厚さによっても異なるが、通常は、5μm以上60μm以下の範囲内である。
【0051】
(焼付工程)
焼付工程では、電着膜が形成された電着膜付き導体1bを電着液2から取り出して、電着膜付き導体1bを加熱炉40を用いて加熱して、電着膜を導体に焼き付けることにより導体を絶縁皮膜で被覆して絶縁導体1cを製造する。電着膜付き導体1bの加熱温度及び時間は、電着膜が硬化して絶縁皮膜を生成する範囲であれば特に制限はない。加熱温度(加熱炉40の設定温度)は、例えば、200℃以上450℃以下の範囲内である。加熱時間は、例えば、30秒以上500秒以下の範囲内である。
【0052】
(補給工程)
補給工程では、補給液タンク25に貯留された絶縁樹脂粒子の濃度が電着液2よりも高い補給液を、電着槽20の電着液2に供給する。
【0053】
(濃縮工程)
濃縮工程では、電着槽20の電着液2の一部を取り出して、取り出した電着液2を、濃縮器26を用いて濃縮して、得られた濃縮液を電着槽20の電着液2に戻す。
【0054】
電着工程では、電着液2の絶縁樹脂粒子濃度は設定濃度に対して±0.1質量%以内に調整されている。設定濃度は、例えば、1.5質量%以上である。設定濃度は、好ましくは1.5質量%以上10質量%以下の範囲内であり、より好ましくは1.5質量%以上5質量%以下の範囲内である。電着液2の絶縁樹脂粒子濃度は、補給工程と濃縮工程によって調整される。具体的には、まず、電着槽20の電着液2をサンプリングして、電着液2の絶縁樹脂粒子(固形分)の含有率を測定する。絶縁樹脂粒子の含有率は、例えば、電着液2の加熱残分を測定し、得られた加熱残分を電着液の絶縁樹脂粒子の含有率とする方法によって測定することができる。次いで、得られた絶縁樹脂粒子含有率が所定の数値となった時点で、電着槽20に補給液タンク25から補給液を供給する。また、濃縮器26で得られた濃縮液を電着槽20に供給する。電着液2の絶縁樹脂粒子含有率の測定は、例えば、定期的に行ってもよいし、不定期的に行ってもよい。
【0055】
また、電着工程では、電着液2の液温は、設定温度に対して±1℃以内に調整されている。設定温度は、例えば、5℃以上35℃以下の範囲内である。設定温度は、好ましくは10℃以上30℃以下の範囲内であり、より好ましくは150℃以上25℃以下の範囲内である。電着液2の液温は、電着槽20の内部に備えられた液温調整器22によって調整する。具体的には、電着槽20内の電着液2の液温を温度計(不図示)にて測定し、その温度に基づいて制御器24が冷却・加温器23を作動させることによって電着液の液温が、予め設定された設定温度に対して±1℃の範囲内となるように調整する。
【0056】
本実施形態の絶縁導体の製造方法によれば、電着工程において、電着液2の絶縁樹脂粒子濃度が設定濃度に対して±0.1質量%以内に調整され、かつ電着液2の液温が設定温度に対して±1℃以内に調整されているので、電着液の絶縁樹脂粒子を導体に電着させる際の電着速度が変動しにくい。よって、電着工程において、絶縁樹脂粒子を導体の表面に均一かつ安定して電着させることができるので、膜厚が均一な電着膜を形成することが可能となる。そして、焼付工程において、電着膜が形成された導体を加熱して、電着膜を導体に焼き付けることにより、膜厚が均一で、高い絶縁性を有する絶縁皮膜を有する絶縁導体を、連続的に安定して製造することができる。
【0057】
本実施形態の絶縁導体の製造方法において、電着液2の設定濃度が1.5質量%以上である場合、電着膜形成時の電着速度を速くすることができる。
【0058】
本実施形態の絶縁導体の製造方法において、電着液2の液温の設定温度が5℃以上である場合、絶縁樹脂粒子の凝集や電着液の凝固が起こりにくく、また、電着液の液温の設定温度が35℃以下である場合、有機溶媒の揮発による電着液の組成の変動を抑制することかできる。よって、電着液2の液温の設定温度を5℃以上35℃以下の範囲内とすることにより、絶縁樹脂粒子を導体の表面により均一かつ安定して電着させることができるので、膜厚がより均一な電着膜を形成することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0060】
[本発明例1]
(PAIワニスの合成)
先ず、撹拌機、冷却管、窒素ガス導入管及び温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコ内を用意した。次いで、四つ口フラスコ内に窒素ガスを導入しながら、有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)747g、イソシアネート成分として4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート298g(1.19モル)、及び酸成分として無水トリメリット酸227g(1.18モル)を投入し、混合した。得られた混合液を撹拌しながら、130℃まで昇温させ、この温度で約4時間反応させることにより、ポリアミドイミド(PAI)を生成させた。次いで、室温(25℃)まで放冷した後、NMPを加えて、PAI(不揮発分)の濃度が20質量%となるように希釈して、PAIワニス(PAI:NMP=20質量%:80質量%)を得た。得られたPAIの数平均分子量は、17000であった。
【0061】
(補給液の調製)
PAIワニス5kgに、NMP11.2kgを加えて更に希釈し、次いで塩基性化合物であるトリ-n-プロピルアミン10gを加えて混合した。得られた混合液を、室温下、撹拌速度10000rpmで撹拌しながら、混合液に水を3.79kg添加して、PAI粒子を生成させた。これにより、PAI粒子補給用の補給液(PAI粒子:NMP:水:トリ-n-プロピルアミン=5.0質量%:76質量%:18.95質量%:0.05質量%)を得た。
【0062】
(電着液の調製)
PAIワニス2kgに、NMP14.2kgを加えて更に希釈し、次いで塩基性化合物であるトリ-n-プロピルアミン10gを加えて混合した。得られた混合液を、室温下、撹拌速度10000rpmで撹拌しながら、混合液に水を3.79kg添加して、PAI粒子を生成させた。これにより、電着液(PAI粒子:NMP:水:トリ-n-プロピルアミン=2.0質量%:76質量%:18.95質量%:0.05質量%)を得た。
【0063】
(絶縁銅線の製造)
図1に示す絶縁導体製造装置101を用意した。濃縮器は、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜を用いたろ過器を使用した。電着槽20に電着液を投入し、補給液タンク25に補給液を投入した。電着槽20の電着液の固形分濃度(PAI粒子濃度)と補給液タンク25の補給液の固形分濃度を測定したところ、電着液の固形分濃度は1.6質量%、補給液の固形分濃度は4.3質量%であった。
【0064】
導体1aとして、幅2mm、厚み0.4mmの銅線を用いた。銅線を一定速度で送り出し、洗浄した後、電着槽20にて、銅線の表面にPAI粒子を電着させることにより電着膜を形成した。次いで、電着膜付き導線を加熱炉40にて加熱して、電着膜を銅線に焼き付けて、絶縁銅線を製造した。絶縁銅線の製造中、電着液2(液温調整器22)の設定温度は下限を20.0℃で、上限を20.5℃とした。電着液2の固形分(PAI粒子)濃度の設定濃度は下限が1.55質量%、上限が1.60質量%として、補給液タンク25から電着槽20に補給液を補給し、かつ濃縮器26を作動させた。さらに、電着槽20の電極21の電圧は、100Vに設定し、絶縁銅線の製造中は、電圧値を一定に維持した。絶縁銅線の製造は、全長1000mを過ぎた時点で終了した。
【0065】
[本発明例2]
絶縁銅線の製造中、電着液2の液温の設定温度を、下限19.0℃、上限21.0℃としたこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を製造した。
【0066】
[本発明例3]
絶縁銅線の製造中、電着液2の固形分濃度の設定濃度を、下限1.50質量%、上限1.7質量%としたこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を製造した。
【0067】
[本発明例4]
絶縁銅線の製造中、電着液2の液温の設定温度を、下限19.0℃、上限21.0℃とし、電着液の固形分濃度の設定濃度を、下限1.5質量%、上限1.7質量%としたこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を製造した。
【0068】
[本発明例5]
絶縁銅線の製造中、電着液2の液温の設定温度を、下限20.0℃、上限21.0℃とし、電着液の固形分濃度の設定濃度を、下限1.6質量%、上限1.8質量%としたこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を製造した。
【0069】
[本発明例6]
絶縁銅線の製造中、電着液2の液温の設定温度を、下限20.0℃、上限21.0℃とし、電着液の固形分濃度の設定濃度を、下限1.4質量%、上限1.6質量%としたこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を製造した。
【0070】
[比較例1]
絶縁銅線の製造中、電着液2の液温を調整しなかったこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を製造した。
【0071】
[比較例2]
絶縁銅線の製造中、電着液2の固形分濃度を調整しなかったこと以外は、本発明例1と同様にして、絶縁銅線を製造した。
【0072】
[比較例3]
絶縁銅線の製造中、電着液2の液温と固形分濃度を調整しなかったこと以外は、本発明例1と同様にして、絶縁銅線を製造した。
【0073】
[評価]
本発明例1~4および比較例1~3において、絶縁銅線の製造時の電着液2の液温と固形分濃度を測定した。また、得られた絶縁銅線の絶縁皮膜の厚さを、赤外線を用いた分光干渉膜厚測定器にて測定した。絶縁皮膜の厚さは、連続的に絶縁銅線の長辺の中央付近を測定した。絶縁銅線の製造開始直後(開始時)と、絶縁銅線を500m製造した時点(500m製造時点)と絶縁銅線を1000m製造した時点(1000m製造時点)とにおける、電着液2の温度と固形分濃度および絶縁銅線の絶縁皮膜の膜厚を測定した。その結果を、表1に示す。
【0074】
【0075】
電着液2の液温および固形分濃度を、本発明の範囲内で調整した本発明例1~4においては、得られた絶縁銅線の絶縁皮膜の膜厚は31μmで安定していた。この本発明例1~4の結果から、本発明よれば、膜厚が均一で、高い絶縁性を有する絶縁皮膜を有する絶縁導体を、連続的に安定して製造することが可能となることが確認された。
【0076】
これに対して、絶縁銅線の製造中に、電着液2の液温を調整しなかった比較例1では、時間の経過と共に、電着液2の温度が上昇し、その温度の上昇と伴って得られた絶縁銅線の絶縁皮膜の膜厚が厚くなった。また、絶縁銅線の製造中に、電着液2に補給液を補給せず、かつ電着液を濃縮しなかった比較例2では、時間の経過と共に、電着液2の固形分濃度が減少し、その固形分濃度の減少と伴って得られた絶縁銅線の絶縁皮膜の膜厚が薄くなった。さらに、絶縁銅線の製造中に、電着液2の温度を調整せず、電着液2に補給液を補給せず、かつ電着液を濃縮しなかった比較例3では、時間の経過と共に、電着液2の温度が上昇すると共に固形分濃度が減少し、これらに伴って得られた絶縁銅線の500mmの製造時は絶縁皮膜の膜厚が厚くなった。
【0077】
[本発明例7]
図3に示す絶縁導体製造装置103を用意した。濃縮器は、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜を用いたろ過器を使用した。電着槽20に電着液を投入し、補給液タンク25に補給液を投入した。電着槽20の電着液の固形分濃度(PAI粒子濃度)と補給液タンク25の補給液の固形分濃度を測定したところ、電着液の固形分濃度は1.6質量%、補給液の固形分濃度は4.3質量%であった。なお、PAIワニスの合成、補給液の調製、電着液の調製については、本発明例1と同様に実施した。
【0078】
導体部品3として、幅4mm、厚み2mm、長さ600mmの平角銅線をU字状に曲げ加工した導体を用意した。導体部品3を洗浄槽にて洗浄し、水洗槽にて洗浄液を除去した後、電着槽20にて、導体の両端50mmを除く表面にPAI粒子を電着させることにより電着膜付き導体部品を製造した。電着膜付き導体部品の製造中、電着液2(液温調整器22)の設定温度は下限を20.0℃で、上限を20.5℃とした。電着液2の固形分(PAI粒子)の設定濃度は下限が1.55質量%、上限が1.60質量%として、補給液タンク25から電着槽20に補給液を補給し、かつ濃縮器26を作動させた。さらに、電着槽20の電極21の電圧は、100Vに設定し、電着膜付き導体部品の製造中は、電圧値を一定に維持した。この導体を200体電着し、成膜した皮膜の長さが100m相当となった。
次いで、電着膜付き導体部品を電着槽20から取り出して、加熱炉に投入し、その加熱炉にて加熱して、電着膜を導体部品に焼き付けて、絶縁導体部品を製造した。
【0079】
絶縁銅線の製造中、電着液2の液温の設定温度を、下限20.0℃、上限21.0℃とし、電着液の固形分濃度の設定濃度を、下限1.4質量%、上限1.6質量%としたこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を製造した。
【0080】
[本発明例8]じっし
電着膜付き導体部品の製造中、電着液2の液温の設定温度を、下限20.0℃、上限21.0℃とし、電着液2の固形分濃度の設定濃度を、下限1.6質量%、上限1.8質量%としたこと以外は、本発明例6と同様にして絶縁導体部品を製造した。
【0081】
[本発明例9]
電着膜付き導体部品の製造中、電着液2の液温の設定温度を、下限20.0℃、上限21.0℃とし、電着液2の固形分濃度の設定濃度を、下限1.4質量%、上限1.6質量%としたこと以外は、本発明例6と同様にして絶縁導体部品を製造した。
【0082】
[比較例4]
電着膜付き導体部品の製造中、電着液2の液温の設定温度は下限を19.0℃、上限を22.0℃としたこと以外は、本発明例6と同様にして、絶縁導体部品を製造した。
【0083】
[比較例5]
電着膜付き導体部品の製造中、電着液2の液温の設定温度を、下限20.0℃、上限22.0℃とし、電着液2の固形分濃度の設定濃度を、下限1.45質量%、上限を1.75質量%としたこと以外は、本発明例6と同様にして、絶縁導体部品を製造した。
【0084】
本発明5、比較例4~5において、1体製造時点、50体製造時点、200体製造時点の各時点の電着液の液温と、固形分濃度と、絶縁導体部品の絶縁皮膜の膜厚を測定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0085】
【0086】
表2の結果から、絶縁導体部品についても、電着液2の液温および固形分濃度を本発明の範囲内で調整した本発明例5においては、絶縁皮膜の膜厚が31μmで安定することが確認された。