(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032663
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】撮像レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 13/04 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
G02B13/04 D
G02B13/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138927
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】柴田裕輝
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087LA03
2H087MA04
2H087PA05
2H087PA06
2H087PA07
2H087PA17
2H087PA18
2H087PB06
2H087PB07
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA12
2H087QA17
2H087QA21
2H087QA22
2H087QA26
2H087QA32
2H087QA41
2H087QA46
2H087RA04
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA42
2H087RA43
2H087RA44
(57)【要約】
【課題】 長いバックフォーカス及び十分な明るさと広い画角を確保するとともに、高性能化と小型コンパクト化を確保した撮像レンズを提供する。
【解決手段】 第1レンズ群Gfに、少なくとも一枚の負のパワーを有する第一レンズL1を含めて構成するとともに、第2Bレンズ群Gsbを、物体OBJ側から順に、物体OBJ側に凹面を有する負のパワーを有する第2レンズL2,二枚の正のパワーを有する第3レンズL3及び最終レンズLeを含めて構成し、第1レンズ群Gfの最も物体OBJ側のレンズ面から像IMG面までの距離をLA,第2レンズ群Gsの最終のレンズ面から像IMG面までの距離をBF,第一レンズL1のd線のアッベ数をνd1,第二レンズL2のd線の屈折率をnd2及びアッベ数をνd2としたとき、νd1>52,nd2>1.84,νd2<31,0.4<(BF/LA)<0.6を満たすように構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ全系を、物体側から順に、負のパワーを有する第1レンズ群と正のパワーを有する第2レンズ群により構成するとともに、前記第2レンズ群を、物体側から順に、正のパワーを有する第2Aレンズ群と正のパワーを有する第2Bレンズ群により構成し、かつ前記第2Aレンズ群と前記第2Bレンズ群の間に、開口絞りを配して構成した撮像レンズであって、前記第1レンズ群に、少なくとも一枚の負のパワーを有する第1レンズを含めて構成するとともに、前記第2Bレンズ群を、物体側から順に、物体側に凹面を有する負のパワーを有する第2レンズ,二枚の正のパワーを有する第3レンズ及び最終レンズを含めて構成し、前記第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から像面までの距離をLA,前記第2レンズ群の最終のレンズ面から像面までの距離をBF,前記第1レンズのd線のアッベ数をνd1,前記第2レンズのd線の屈折率をnd2及びアッベ数をνd2としたとき、以下の〔条件1〕乃至〔条件4〕を満たすことを特徴とする撮像レンズ。
νd1>52 … 〔条件1〕
nd2>1.84 … 〔条件2〕
νd2<31 … 〔条件3〕
0.4<(BF/LA)<0.6 … 〔条件4〕
【請求項2】
前記レンズ全系の全体が光軸方向へ移動するフォーカス調整機能を備えることを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項3】
前記第1レンズ群は、物体側が凸面となる負メニスカスレンズにより構成した前記第一レンズを備えることを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項4】
前記第1レンズ群は、前記第一レンズに対して、物体側に配した補正用の凸レンズを備えることを特徴とする請求項1又は3記載の撮像レンズ。
【請求項5】
前記第1レンズ群は、非球面レンズにより構成した前記第一レンズを備えることを特徴とする請求項1又は3記載の撮像レンズ。
【請求項6】
前記第2Aレンズ群は、凹レンズと凸レンズを接合した一つの接合レンズにより構成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項7】
前記第2Bレンズ群は、物体側から順に、少なくとも、凹レンズ,二枚の凸レンズを含めて構成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項8】
前記第2Bレンズ群は、最も像側に位置する最終レンズを、像側が凸面となる正メニスカスレンズを用いた非球面レンズにより構成することを特徴とする請求項1又は7記載の撮像レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルスチルカメラ等に使用する交換レンズとして用いて好適な撮像レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、デジタルスチルカメラ等に使用する交換レンズ(撮像レンズ)は、レンズタイプのバリエーションが広がっているとともに、撮像素子における写真フイルムと同等サイズの大型化及び写真フイルム以上の高性能化(高精細化)が進んでいる。また、カメラ本体の小型化により、交換レンズにも小型化が求められ、ユーザサイドからは、ある程度の明るさと広い画角を有するとともに、高性能を確保した小型コンパクトな交換レンズが望まれている。
【0003】
従来、この種の撮像レンズとしては、特許文献1に開示されるレトロフォーカス型撮影レンズが知られている。この撮影レンズは、諸収差を良好に補正すると共に、リアフォーカス式によるフォーカス時においてもフォーカス群がレンズシャッター機構に干渉することのないよう、機構上、十分な空間を待ったレトロフォーカス型撮影レンズの提供を目的としたものであり、具体的には、物体側より順に、第lレンズ群と第2レンズ群とを備え、第lレンズ群は、物体側より順に、全体として負の屈折力を有する前側第1レンズ群と、全体として正の屈折力を有する後側第1レンズ群とから構成され、全体として正の屈折力を有して構成されるとともに、第2レンズ群は、1枚以上の正レンズと負レンズとを含み、全体として正の屈折力を有して構成され、前側第1レンズ群および後側第lレンズ群は、それぞれ1枚以上の正レンズと2枚の負レンズとを含んで構成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に開示される従来の撮像レンズ(レトロフォーカス型撮影レンズ)は、次のような課題も存在した。
【0006】
一般に、撮像レンズにおいて、レンズ枚数を少なくして効果的な収差補正を行う場合、開口絞りを挟んで配した物体側の前レンズ群と像側の後レンズ群がそれぞれ正のパワーとなるレイアウト構成が有利になるが、反面、複数の凸レンズを用いる必要があるため、広角側における周辺光量を確保するとともに、明るいFナンバを確保することが容易でない難点がある。このため、上述した特許文献1におけるレトロフォーカス型撮影レンズでは、前レンズ群を負のパワーとし、後レンズ群を正のパワーとすることにより、周辺光量を確保するとともに、長いバックフォーカスを確保しているが、このような従来のレトロフォーカス型撮影レンズでは、リアフォーカス機構により全体が大型化する。このため、十分な明るさと広い画角を確保し、併せて、高性能化と小型コンパクト化を確保することにより、ユーザニーズに応えることができる撮像レンズ(交換レンズ)を実現する観点からは、更なる改善すべき点も存在した。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した撮像レンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するため、レンズ全系100を、物体OBJ側から順に、負のパワーを有する第1レンズ群Gfと正のパワーを有する第2レンズ群Gsにより構成するとともに、第2レンズ群Gsを、物体OBJ側から順に、正のパワーを有する第2Aレンズ群Gsaと正のパワーを有する第2Bレンズ群Gsbにより構成し、かつ第2Aレンズ群Gsaと第2Bレンズ群Gsbの間に、開口絞りSTOを配した撮像レンズ1を構成するに際して、第1レンズ群Gfに、少なくとも一枚の負のパワーを有する第一レンズL1を含めて構成するとともに、第2Bレンズ群Gsbを、物体OBJ側から順に、物体OBJ側に凹面を有する負のパワーを有する第2レンズL2,二枚の正のパワーを有する第3レンズL3及び最終レンズLeを含めて構成し、第1レンズ群Gfの最も物体OBJ側のレンズ面から像IMG面までの距離をLA,第2レンズ群Gsの最終のレンズ面から像IMG面までの距離をBF,第一レンズL1のd線のアッベ数をνd1,第二レンズL2のd線の屈折率をnd2及びアッベ数をνd2としたとき、次の〔条件1〕乃至〔条件4〕、即ち、νd1>52…〔条件1〕,nd2>1.84…〔条件2〕,νd2<31…〔条件3〕,0.4<(BF/LA)<0.6…〔条件4〕の各条件を満たすように構成したことを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、フォーカス調整機能Mfとして、レンズ全系100の全体を光軸方向Fcへ移動させるフォーカス調整機構により構成することができる。また、第1レンズ群Gfは、第一レンズL1を物体OBJ側が凸面となる負メニスカスレンズにより構成することができるとともに、この第一レンズL1に対して、物体OBJ側に補正用の凸レンズLp1を配して構成することができる。なお、この凸レンズLp1を配する代わりに、第一レンズL1を非球面レンズにより構成することもできる。一方、第2Aレンズ群Gsaは、凹レンズLn1と凸レンズLp2を接合した一つの接合レンズJ1により構成することができる。さらに、第2Bレンズ群Gsbは、物体OBJ側(開口絞りSTO)から順に、少なくとも、凹レンズL2,二枚の凸レンズL3及びLeを含めて構成できるとともに、この第2Bレンズ群Gsbにおける最も像側に位置する最終レンズLeは、像IMG側が凸面となる正メニスカスレンズを用いた非球面レンズにより構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
このような構成を有する本発明に係る撮像レンズ1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0011】
(1) 第1レンズ群Gfに、少なくとも一枚の負のパワーを有する第一レンズL1を含めて構成するとともに、第2Bレンズ群Gsbを、物体OBJ側から順に、物体OBJ側に凹面を有する負のパワーを有する第2レンズL2,二枚の正のパワーを有する第3レンズL3及び最終レンズLeを含め、かつ上述した〔条件1〕乃至〔条件4〕を満たすように構成したため、長いバックフォーカス,及び十分な明るさと広い画角、更には高性能化と小型コンパクト化を確保することができる。これにより、ユーザニーズに応え得る撮像レンズ1(交換レンズ)を実現することができる。加えて、バックフォーカス長の確保により一眼レフでの使用のみならず、マウントアダプターを介したミラーレスカメラでの使用も可能になるなど、汎用性及び発展性に優れた撮像レンズ1として提供できる。
【0012】
(2) 好適な態様により、フォーカス調整機能Mfを、レンズ全系100の全体を光軸方向Fcへ移動させるフォーカス調整機構により構成すれば、従来のようなリアフォーカス機構を使用しないため、撮像レンズ1全体の更なる大口径化及び小型化に寄与することができる。
【0013】
(3) 好適な態様により、第1レンズ群Gfに備える第1レンズL1を、物体OBJ側が凸面となる負メニスカスレンズにより構成すれば、少ないレンズ枚数により第1レンズ群Gfの全体のパワーを負にすることにより周辺光量及びバックフォーカス長を確保することができる。
【0014】
(4) 好適な態様により、第1レンズ群Gfを構成するに際し、第1レンズL1に対して、物体OBJ側に、凸レンズLp1を配して構成すれば、第1レンズL1によりディストーションが発生する場合であっても一枚の凸レンズの追加により容易に補正することができる。
【0015】
(5) 好適な態様により、第1レンズ群Gfを構成するに際し、第1レンズL1を非球面レンズにより構成すれば、第1レンズL1によりディストーションが発生する場合であっても非球面レンズにより補正できるため、最少のレンズ枚数により、第1レンズ群Gfを構築することができる。
【0016】
(6) 好適な態様により、第2Aレンズ群Gsaを、凹レンズLn1と凸レンズLp2を接合した一つの接合レンズJ1により構成すれば、色収差を良好に補正しつつ撮像レンズ1全体の実質的な小型化及び軽量化に寄与することができる。
【0017】
(7) 好適な態様により、第2Bレンズ群Gsbを構成するに際し、物体OBJ側から順に、少なくとも、凹レンズL2,二枚の凸レンズL3及びLeを含めて構成すれば、第1レンズ群Gfにより周辺光量及びバックフォーカス長を確保しつつ、撮像レンズ1の小型化、更には収差補正が良好な光学系を構築することができる。
【0018】
(8) 好適な態様により、第2Bレンズ群Gsbを構成するに際し、最も像IMG側に位置する最終レンズLeを、像IMG側が凸面となる正メニスカスレンズを用いた非球面レンズにより構成すれば、最終レンズLeを通過する光線の入出射特性を非球面により設定できるため、最終段階における収差補正を良好に行うことができる。特に、バックフォーカスの確保に伴い、射出瞳位置が像面に対して離れるため、像面の前方にフィルター等を配した場合にも性能の劣化を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好適実施形態に係る実施例1の撮像レンズの構成図、
【
図2】本発明の好適実施形態に係る実施例1-3の各条件数値表、
【
図3】同実施例1の撮像レンズの無限遠時の縦収差図、
【
図4】本発明の好適実施形態に係る実施例2の撮像レンズの構成図、
【
図5】同実施例2の撮像レンズの無限遠時の縦収差図、
【
図6】本発明の好適実施形態に係る実施例3の撮像レンズの構成図、
【
図7】同実施例3の撮像レンズの無限遠時の縦収差図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態である実施例1-3を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0021】
まず、本実施形態に係る実施例1の撮像レンズ1について、
図1-
図3を参照して具体的に説明する。
【0022】
最初に、
図1を参照して、実施例1(本実施形態)に係る撮像レンズ1について説明する。なお、この撮像レンズ1は、デジタルスチルカメラ用交換レンズに適用することを想定できる。
図1中、OBJは物体(被写体)を示し、IMGは像(撮像素子)を示している。したがって、物体OBJ側が光軸Dc方向の前方となり、像IMG側が光軸Dc方向の後方となる。
【0023】
実施例1に係る撮像レンズ1は、
図1に示すように、物体OBJ側から順に、全体として負のパワーを有する第1レンズ群Gfと、全体として正のパワーを有する第2レンズ群Gsを備えるとともに、第2レンズ群Gsを、物体OBJ側から順に、正のパワーを有する第2Aレンズ群Gsaと正のパワーを有する第2Bレンズ群Gsbにより構成し、かつ第2Aレンズ群Gsaと第2Bレンズ群Gsbの間に、開口絞りSTOを配することにより、基本となるレンズ全系100を構成する。なお、必要により、像IMGの前面(前方)には波長カットフィルタや防塵ガラス等の平行平面板を設けることができる。
【0024】
第1レンズ群Gfは、物体OBJ側から、物体OBJ側のレンズ面(i=1)が凸面となる正メニスカスレンズを用いた凸レンズLp1,この凸レンズLp1に対して像IMG側に配した負のパワーを有する第一レンズL1を備える。実施例1では、負のパワーを有する第一レンズL1に対して、物体OBJ側に凸レンズLp1を設けたため、第1レンズL1によりディストーションが発生する場合であっても画角に応じた一枚の凸レンズLp1の追加により容易に補正することができる。なお、凸レンズLp1を追加する代わりに、第一レンズL1を非球面レンズ(実施例3の場合)により構成しても同様の補正を行うことができる。
【0025】
第一レンズL1は、物体OBJ側が凸面となる負メニスカスレンズにより構成する。このように、物体OBJ側が凸面となる負メニスカスレンズにより構成すれば、少ないレンズ枚数により第1レンズ群Gfの全体のパワーを負にすることにより周辺光量及びバックフォーカス長を確保することができる。また、第1レンズL1のd線のアッベ数をνd1としたとき、次の条件を満たすレンズを用いる。
νd1 > 52 … 〔条件1〕
【0026】
この〔条件1〕において、νd1が52以下の場合には、倍率色収差が劣化し、色にじみが発生する。
【0027】
一方、第2レンズ群Gsは、物体OBJ側から順に、正のパワーを有する第2Aレンズ群Gsaと正のパワーを有する第2Bレンズ群Gsbにより構成するとともに、第2Aレンズ群Gsaと第2Bレンズ群Gsbの間に、開口絞りSTOを配して構成する。この場合、第2Aレンズ群Gsaは、一つの接合レンズJ1により構成する。即ち、物体OBJ側に位置する両凹レンズLn1と像IMG側に位置する両凸レンズLp2を接合した接合レンズJ1を用いる。このように、一つの接合レンズJ1により第2Aレンズ群Gsaを構成すれば、撮像レンズ1全体の実質的な小型化及び軽量化に寄与することができる。
【0028】
第2Bレンズ群Gsbは、物体OBJ側から順に、OBJ側に凹面を有する負メニスカスレンズを用いた第2レンズL2,像IMG側に凸面を有する正メニスカスレンズを用いた第3レンズL3,像IMG側に凸面を有する正メニスカスレンズを用いた最終レンズLeを備えて構成する。この場合、第2レンズL2は、d線の屈折率をnd2及びアッベ数をνd2としたとき、次の条件を満たすレンズを用いる。
nd2 > 1.84 … 〔条件2〕
νd2 < 31 … 〔条件3〕
【0029】
この〔条件2〕において、nd2が1.84以下の場合、第2レンズL2はより強い曲率半径が必要になるため、コマ収差や非点収差を含む諸収差の発生が大きくなる。また、〔条件3〕において、νd2が31以上の場合には、倍率色収差が劣化し、レンズの周辺部側ほど色にじみが発生してしまう。
【0030】
さらに、第2Bレンズ群Gsbを構成するに際し、最も像側に位置する最終レンズLeを、像IMG側が凸面となる正メニスカスレンズを用いた非球面レンズにより構成すれば、最終レンズLeを通過する光線の入出射特性を非球面により設定できるため、最終段階における収差補正を良好に行うことができる。特に、バックフォーカスの確保に伴い、射出瞳位置が像面に対して離れるため、像面の前方にフィルター等を配した場合にも性能の劣化を少なくすることができる。
【0031】
他方、レンズ全系100を構成するに際し、
図1に示すように、第1レンズ群Gfの最も物体OBJ側のレンズ面(i=1)から像IMG面までの距離をLA〔mm〕,第2レンズ群Gsの最終のレンズ面(i=14A)から像IMG面までの距離をBF〔mm〕としたき、次の条件を満たすように設定する。
0.4 < (BF/LA) < 0.6 … 〔条件4〕
【0032】
この〔条件4〕において、(BF/LA)が0.4以下の場合、収差補正には有利であり高性能化を見込めるが、レンズ全系100の大型化を招き、携帯性が損なわれるとともに、他方、(BF/LA)が0.6以上の場合には、球面収差の補正が不十分になり、フレアの発生によりぼやけた描写になる。したがって、撮像レンズ1を構成するに際しては、〔条件1〕,〔条件2〕,〔条件3〕及び〔条件4〕の各条件を満たすように設定することが望ましい。
【0033】
また、
図1中、Mfは、フォーカス調整機能を示す。このフォーカス調整機能Mfは、レンズ全系100の全体を光軸方向Fcへ移動させる機能を有する。このようなフォーカス調整機能Mfを採用すれば、従来のようなリアフォーカス機構を使用しないため、撮像レンズ1全体の更なる大口径化及び小型化に寄与することができる。
【0034】
表1は、実施例1の撮像レンズ1におけるレンズ全系のレンズデータを示す。無限物点時のレンズ全系は、焦点距離f:29.4〔mm〕,Fナンバー:F2.88,像高:21.63〔mm〕である。
【0035】
【0036】
表1の「面のデータ」は、物体OBJ側から数えたレンズ面の面番号をiで示し、この面番号iは、
図1に示した符号(数字)に一致する。これに対応して、レンズ面の曲率半径R(i)、軸上面間隔D(i)、レンズの屈折率nd(i)、レンズのアッベ数νd(i)、レンズの焦点距離FL(i)をそれぞれ示す。nd(i)及びνd(i)はd線(587.6〔nm〕)に対する数値である。軸上面間隔D(i)は相対向する面と面間のレンズ厚或いは空気空間を示す。なお、曲率半径R(i)と面間隔D(i)の単位は〔mm〕である。面番号のOBJは物体、STOは開口絞り、IMGは像の位置を示す。曲率半径R(i)のInfinityは平面であり、面番号iの後にAが付いた面は面形状が非球面であることを示す。屈折率nd(i)とアッベ数νd(i)の空欄は空気であることを示す。
【0037】
また、表1の「非球面係数」は、面の中心を原点とし、光軸Dc方向をZとした直交座標系(X,Y,Z)において、ASPを非球面の面番号としたとき、Zは数1により表される。数1において、Rは中心曲率半径、A4,A6,A8,A10…は、それぞれ4次,6次,8次,10次…の非球面係数、Hは光軸上の原点からの距離である。なお、表1において、「E」は「×10」を意味する。
【0038】
【0039】
図2に一覧表で示すように、実施例1の場合、〔条件1〕の結果は81.6であり、「νd1>52」の〔条件1〕を満たしている。〔条件2〕の結果は1.85であり、「nd2>1.84」の〔条件2〕を満たしている。〔条件3〕の結果は23.8であり、「νd2<31」の〔条件3〕を満たしている。また、BFは38.50mm,LAは69.15mmであり、BF/LAは、0.56となる。したがって、「0.4<(BF/LA)<0.6」の〔条件4〕を満たしている。なお、表1の「フォーカス可変間隔」において、ZD14は、最終レンズ面(i=14A)から像IMGまでの距離(光軸長)となる。
【0040】
図3に、実施例1の撮像レンズ1における無限遠時に対応する縦収差図を示す。各縦収差図は、左側から、球面収差(656.3nm,587.6nm,435.8nm)、非点収差(587.6nm)、歪曲収差(587.6nm)を示す。各スケールは、±0.50mm,±0.50mm,±3.0%である。同図から明らかなように、実施例1の撮像レンズ1は、いずれの縦収差も、良好な収差特性、即ち、撮像性能(光学性能)が得られていることを確認できる。
第1レンズ群Gfは、負のパワーを有する第一レンズL1を備える。この第一レンズL1は、物体OBJ側が凸面となる負メニスカスレンズにより構成する。このように、物体OBJ側が凸面となる負メニスカスレンズにより構成すれば、少ないレンズ枚数により第1レンズ群Gfの全体のパワーを負にすることにより周辺光量及びバックフォーカス長を確保することができる。また、第1レンズL1のd線のアッベ数をνd1としたとき、前述した〔条件1〕を満たすレンズを用いる点は実施例1と同じである。
なお、実施例2では、負のパワーを有する第一レンズL1に対して、物体OBJ側に凸レンズLp1を設けていない。即ち、実施例1の場合、第一レンズL1により発生するディストーションを補正するため、一枚の凸レンズLp1を追加した例を示したが、実施例2では、凸レンズLp1の追加を省略した。実施例1のような凸レンズLp1の追加,又は第一レンズL1を非球面レンズにより構成することによる補正は、画角に応じて採用することができ、必須の要素となるものではない。したがって、全体のレンズ枚数は、実施例1に対して実施例2が1枚少なくなり、全体のレンズ枚数は五枚(接合レンズJ1は一枚)となる。
一方、実施例2の第2レンズ群Gsは、物体OBJ側から順に、正のパワーを有する第2Aレンズ群Gsaと正のパワーを有する第2Bレンズ群Gsbにより構成するとともに、第2Aレンズ群Gsaと第2Bレンズ群Gsbの間に、開口絞りSTOを配して構成する。この場合、第2Aレンズ群Gsaは、一つの接合レンズJ1により構成する。即ち、物体OBJ側に位置する両凸レンズLp2と像IMG側に位置する両凹レンズLn1を接合した接合レンズJ1を用いる。したがって、実施例1及び実施例2は、接合レンズJ1を用いる点は同じであるが、両凸レンズLp2と両凹レンズLn1の前後の位置関係は反対となる。このように、一つの接合レンズJ1により第2Aレンズ群Gsaを構成すれば、撮像レンズ1全体の実質的な小型化及び軽量化に寄与することができる。
第2Bレンズ群Gsbは、物体OBJ側から順に、OBJ側に凹面を有する負メニスカスレンズを用いた第2レンズL2,両凸レンズを用いた第3レンズL3,像IMG側に凸面を有する正メニスカスレンズを用いた最終レンズLeを備えて構成する。この場合、第2レンズL2におけるd線の屈折率をnd2及びアッベ数をνd2としたとき、前述した〔条件2〕及び〔条件3〕を満たすレンズを用いる点は実施例1と同じである。
また、実施例2(実施例1及び実施例3も同様)では、第2Bレンズ群Gsbを構成するに際し、物体OBJ側から順に、少なくとも、凹レンズL2,二枚の凸レンズ、即ち、凸レンズL3及び凸レンズLeを含ませて構成する。このように構成すれば、第1レンズ群Gfにより周辺光量及びバックフォーカス長を確保しつつ、撮像レンズ1の小型化、更には収差補正が良好な光学系を構築することができる。
表2は、実施例2の撮像レンズ1におけるレンズ全系のレンズデータを示す。無限物点時のレンズ全系は、焦点距離f:36.0〔mm〕,Fナンバー:F2.83,像高:21.63〔mm〕である。