(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032672
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】軌道パッド飛び出し量異常検出システムおよび異常検出方法
(51)【国際特許分類】
E01B 35/10 20060101AFI20230302BHJP
E01B 9/68 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
E01B35/10
E01B9/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138948
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住田 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】大下 敦毅
(72)【発明者】
【氏名】秋山 哲也
【テーマコード(参考)】
2D056
2D057
【Fターム(参考)】
2D056AD00
2D057AB02
(57)【要約】
【課題】補修対象の軌道パッドの数を減らし補修作業の負担を減少させることができる軌道パッド飛び出し量異常検出システムを提供する。
【解決手段】収集した画像データおよび温度データに基づいて軌道パッドの飛び出し量の異常を検出する異常検出システムにおいて、異常検出装置は、画像収集装置が収集した画像データを画像処理して軌道パッドの移動量を算出する手段と、検出対象のレール可動区間の位置に関する情報および所定期間における軌道パッドの複数の移動量を温度と移動量を座標軸とする座標上に時系列に表記した軌跡線に基づいて予め設定された判定基準となる軌跡ループ線を記憶する記憶手段と、レール可動区間にある軌道パッドの移動量が基準となる軌跡ループ線の外側にあるか否かを判定する移動量判定手段を有し、レール可動区間にある軌道パッドの移動量が判定基準となる軌跡ループ線の外側にあると判定した場合に異常を出力するようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された撮像装置により走行しながらレール近傍を撮影した画像のデータを収集する画像収集装置と、レール長手方向に沿ったレール各部の温度を計測しレール温度のデータを収集するレール温度収集装置と、前記画像収集装置が収集した画像データおよび前記レール温度収集装置が収集した温度データに基づいて軌道パッドの飛び出し量の異常を検出する異常検出装置とを備えた軌道パッド飛び出し量異常検出システムであって、
前記異常検出装置は、
前記画像収集装置が収集した画像データを画像処理して軌道パッドの移動量を算出する移動量算出手段と、
検出対象のレール可動区間の位置に関する情報および前記移動量算出手段から得られた所定期間における軌道パッドの複数の移動量を温度と移動量を座標軸とする座標上に時系列に表記した軌跡線に基づいて予め設定された判定基準となる軌跡ループ線を記憶する記憶手段と、
前記移動量算出手段から得られたレール可動区間にある軌道パッドの移動量が基準となる前記軌跡ループ線の外側にあるか内側にあるかを判定する移動量判定手段と、
判定対象の画像に含まれる軌道パッドがレール可動区間にあるかレール不動区間にあるかを判定する区間判定手段と、を有し、
前記移動量判定手段が、前記区間判定手段によりレール可動区間にあると判定された軌道パッドに関して、前記移動量算出手段から得られた移動量が判定基準となる前記軌跡ループ線の外側にあると判定した場合に異常を出力することを特徴とする軌道パッド飛び出し量異常検出システム。
【請求項2】
前記記憶手段には、軌道パッドの飛び出し量の上限値が記憶され、
前記移動量判定手段が、前記移動量算出手段から得られた軌道パッドの移動量が基準となる前記軌跡ループ線の外側にありかつ前記上限値を超えていると判定した場合に第1の異常状態として出力し、
前記移動量判定手段が、前記移動量算出手段から得られた軌道パッドの移動量が基準となる前記軌跡ループ線の外側にありかつ前記上限値を超えていないと判定した場合に第2の異常状態として出力することを特徴とする請求項1に記載の軌道パッド飛び出し量異常検出システム。
【請求項3】
前記移動量判定手段は、前記区間判定手段によりレール不動区間にあると判定された軌道パッドに関して、前記移動量算出手段から得られた移動量が前記上限値よりも小さな所定のしきい値を超えていると判定した場合に異常を出力することを特徴とする請求項2に記載の軌道パッド飛び出し量異常検出システム。
【請求項4】
車両に搭載され走行しながら撮像装置によりレール近傍を撮影した画像のデータおよびレール長手方向に沿ったレール各部の温度のデータを収集し、収集した画像データおよび温度データに基づいて軌道パッドの飛び出し量の異常を検出する軌道パッド飛び出し量異常検出方法であって、
少なくとも6か月の所定期間にわたって所定の日数をおいて検出対象のレール可動区間のレール近傍を撮影した前記画像データおよび温度データを複数回にわたって収集する工程と、
収集されたレール可動区間の画像データを画像処理して軌道パッドの移動量を算出し、算出された前記所定期間における軌道パッドの複数の移動量を、温度と移動量を座標軸とする座標上に時系列に表記した軌跡線に基づいて基準となる軌跡ループ線を予めレール可動区間ごとに設定する工程と、
車両に搭載された撮像装置が撮影したレール近傍の画像データを画像処理して軌道パッドの移動量を算出する工程と、
判定対象の画像に含まれる軌道パッドがいずれのレール可動区間にあるか判定する工程と、
レール可動区間にある軌道パッドに関して算出された移動量が、当該軌道パッドに対応して設定された前記軌跡ループ線の外側にあるか内側にあるかを判定し、移動量が前記軌跡ループ線の外側にある場合に異常を出力する工程と、
を有することを特徴とする軌道パッド飛び出し量異常検出方法。
【請求項5】
レール可動区間にある軌道パッドに関して算出された前記移動量が、当該軌道パッドに対応して設定された前記軌跡ループ線の外側にありかつ予め設定された軌道パッドの飛び出し量の上限値を超えていると判定した場合に第1の異常状態として出力し、
レール可動区間にある軌道パッドに関して算出された前記移動量が、当該軌道パッドに対応して設定された前記軌跡ループ線の外側にありかつ前記上限値を超えていないと判定した場合に第2の異常状態として出力することを特徴とする請求項4に記載の軌道パッド飛び出し量異常検出方法。
【請求項6】
前記所定期間は9カ月以上であり、
前記軌跡ループ線は、
前記所定期間における軌道パッドの複数の移動量を、温度と移動量を座標軸とする座標上に時系列に表記した軌跡線に外接する平行四辺形であることを特徴とする請求項5に記載の軌道パッド飛び出し量異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道軌道のレールの下に設置される軌道パッドの飛び出し量の異常を検出する軌道パッド飛び出し量異常検出システムおよび異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スラブ軌道においては、軌道に沿って敷設されたレールをレールの伸縮に伴って滑動させるため、鋼板付軌道パッド(以下、単に、軌道パッドと呼ぶ。)がレールの下に設置されている。このような軌道パッドは、レールの繰り返し伸縮によって、レールの長手方向にずれて外れてしまうことがある。
そこで、軌道パッドの飛び出し量を測定するようにした軌道パッド飛び出し量測定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されている軌道パッド飛び出し量測定装置は、レールの締結部分を構成する軌道パッド以外の部品(締結用のボルト等)を検出することにより軌道パッドの設置位置を検出する位置検出部と、一方のレールの締結部分の画像を他方のレールの側から撮影する撮影部とを設け、位置検出部の出力に同期して撮影部を制御して画像を撮影させ、画像を画像処理して軌道パッドの飛び出し量を算出することにより、レールの長手方向にずれた状態の軌道パッドの飛び出し量を測定するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、軌道パッドの保守管理においては、上記のような軌道パッド飛び出し量測定装置により測定された飛び出し量が、予め設定された値を超えると、一律に補修する作業が行われている。このようにすることで、定期的な補修が不要となり、状態に応じた補修が可能となる。しかしながら、上記のように同一の条件で飛び出し量が異常であると判断して補修する方法にあっては、安全性を確保するために判断の基準(しきい値)を低めに設定する必要があるので、補修対象であると判断される軌道パッドの数が多くなり、補修作業の負担が大きくなるといった課題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、本当に補修が必要な対象を見逃すことなく補修対象の軌道パッドの数を減らし、補修作業の負担を低減させることができる軌道パッド飛び出し量異常検出システムおよび異常検出方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、軌道パッドの位置の整正または交換という大掛かりな補修が必要な異常と、レール締結装置の調整等の比較的簡単な補修作業で済む異常とを区別して検出することができる軌道パッド飛び出し量異常検出システムおよび異常検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に先立って本発明者らは、全区間において同一の条件で軌道パッドの飛び出し量が管理値以上のものを補修するのではなく、軌道の状態や環境等に応じて異なる条件で判定をすることで効率的に軌道パッドを管理し補修することができないか検証するため、ある線区で過去2年間に検出した軌道パッドのずれの発生回数を調べた。そして、調査によって得られたレール100mごとのパッドずれの発生回数を
図4(A)に示すグラフにて表わした。
【0008】
その結果、軌道パッドのずれは所定の区間に集中して発生していることが分かった。そこで、発生回数の多い区間と発生回数の少ない区間はそれぞれどのような場所であるのか調べた。その結果、
図4(B)に示すように、発生回数の多い区間は伸縮継目伸縮継目が介在し、温度変化に伴いレールが伸縮するロングレール可動区間であり、発生回数の少ない区間はレール軸力と道床縦抵抗力がつり合いレールが伸縮しないロングレール不動区間であることが明らかになった。また、発生回数が非常に少ない区間はトンネル区間であった。なお、伸縮継目用締結装置に関しては、例えば特開2020-16010号公報に記載されている発明がある。
【0009】
そこで、レール可動区間で起きている現象を詳しく知るため、伸縮継目が設けられている地点のレールと軌道パッドの移動量をレール温度と共に数カ月にわたって調査してみた。レールとパッドの移動量は、車両の下部に設置したカメラで数週間おきに所定の時刻で撮影した画像を処理して画素数から算出し、レール温度は調査対象箇所である伸縮継目付近のレール温度を非接触式温度計にて測定した。また、レールに沿って所定の間隔をおいて既に設置されているレール温度の測定器のうち移動量測定箇所に最も近い温度測定器で測定された温度を参考に取得した。その結果を
図5および
図6に示す。
【0010】
図5(A),(B)および
図6の各グラフはそれぞれ異なる3つのレール可動区間の「レール」、「軌道パッド」の絶対移動量を測定した結果を表わしたものであり、グラフの横軸はレール温度を時系列的に並べたもの、縦軸は測定された移動量である。また、棒グラフはパッド移動量、折れ線グラフはレール移動量を表わす。
図5および
図6より、パッドの動きはレールの動きとほぼ一致している。また、レールの動きは、温度に関連していることが分かる。なお、車両の下部に設置したカメラで撮影した画像を処理して画素数から軌道パッドの移動量を算出する方法に関しては、例えば前述の特許文献1に記載されており、同様な方法を使用することができる。
【0011】
次に、本発明者らは、測定されたレール移動量を横軸に温度、縦軸に軌道パッド移動量をとった座標にプロットして各点を時系列で結んだ変動軌跡を図示してみた。その結果を
図7に示す。なお、
図7は、冬の始めから夏の終わりにかけての約9カ月間の測定値に基づくものであり、各軌跡線A,B,Cはそれぞれ異なる箇所の測定値の変動軌跡である。
図7より、パッド移動量の変動軌跡はヒステリシス曲線に類似していることが分かる。このようにパッド移動量の変動軌跡がヒステリシス特性を示すのは、レールの伸縮に応じて軌道パッドが移動するが、レールは春から夏にかけて徐々に伸び量が増加し、秋から冬にかけて徐々に縮むこととなる。
【0012】
そして、レールの伸びによってその下の軌道パッドが正の方向へ移動し、レールの縮みによって軌道パッドが負の方向へ移動するが、それぞれの方向へ連続して移動し、夏または冬に最大となる。そして、温度変化の反転で逆方向へ移動を開始した直後は移動速度が速くなり、その後、移動速度は徐々に遅くなる。
このような考え方に従うと、
図7に示す各軌跡線A,B,Cの不足している部分すなわち測定値のない期間(秋)においては、概ね始点と終点を結んだ線に沿って変化する、すなわち全体としてヒステリシス曲線に似たループ線に沿って変化すると推定することができる。
【0013】
また、
図7のグラフより、例えば軌跡線Aは移動量が最大で40mmまで増加しているが、その後減少に転じて他の軌跡線B,Cと同程度まで減少しており、設置条件と季節的な要因で増加と減少を繰り返しているだけであり、特に異常な移動を呈しているわけではないと推定することができる。しかるに、従来の上限値(例えば30mm)を用いた異常判定では、このような軌道パッドまで異常と判定して無駄な補修作業を行う事態を招くこととなっていた。
【0014】
一方、本発明者らが行なった前記検証の結果、検出対象の軌道パッドがレール可動区間のパッドの場合には、上記のような挙動を示すことを明らかとなったので、かかる軌道パッドに関しては上限値を従来よりも大きな値(例えば41mm)とすることで、補修作業の対象から外すことができることが分かった。
【0015】
本発明は、上記のような知見に基づいてなされたもので、前記課題を達成するため、
車両に搭載された撮像装置により走行しながらレール近傍を撮影した画像のデータを収集する画像収集装置と、レール長手方向に沿ったレール各部の温度を計測しレール温度のデータを収集するレール温度収集装置と、前記画像収集装置が収集した画像データおよび前記レール温度収集装置が収集した温度データに基づいて軌道パッドの飛び出し量の異常を検出する異常検出装置とを備えた軌道パッド飛び出し量異常検出システムにおいて、
前記異常検出装置は、
前記画像収集装置が収集した画像データを画像処理して軌道パッドの移動量を算出する移動量算出手段と、
検出対象のレール可動区間の位置に関する情報および前記移動量算出手段から得られた所定期間における軌道パッドの複数の移動量を温度と移動量を座標軸とする座標上に時系列に表記した軌跡線に基づいて予め設定された判定基準となる軌跡ループ線を記憶する記憶手段と、
前記移動量算出手段から得られたレール可動区間にある軌道パッドの移動量が基準となる前記軌跡ループ線の外側にあるか内側にあるかを判定する移動量判定手段と、
判定対象の画像に含まれる軌道パッドがレール可動区間にあるかレール不動区間にあるかを判定する区間判定手段と、を有し、
前記移動量判定手段が、前記区間判定手段によりレール可動区間にあると判定された軌道パッドに関して、前記移動量算出手段から得られた移動量が判定基準となる前記軌跡ループ線の外側にあると判定した場合に異常を出力するように構成した。
【0016】
上記構成を有する軌道パッド飛び出し量異常検出システムによれば、レール可動区間にあると判定された軌道パッドの移動量が、判定基準となる軌跡ループ線の外側にあると判定した場合に異常を出力するので、レール不動区間にある軌道パッドの移動量の異常判定基準と異なる基準により異常を検出することができ、それによって本当に補修が必要な対象を見逃すことなく補修対象の軌道パッドの数を減らし、補修作業の負担を低減させることができる。
【0017】
また、望ましくは、前記記憶手段には、軌道パッドの飛び出し量の上限値が記憶され、
前記移動量判定手段が、前記移動量算出手段から得られた軌道パッドの移動量が基準となる前記軌跡ループ線の外側にありかつ前記上限値を超えていると判定した場合に第1の異常状態として出力し、
前記移動量判定手段が、前記移動量算出手段から得られた軌道パッドの移動量が基準となる前記軌跡ループ線の外側にありかつ前記上限値を超えていないと判定した場合に第2の異常状態として出力するように構成する。
かかる構成によれば、軌道パッドの位置の修正または交換のような大掛かりな補修作業が必要な異常と、レール締結装置の調整等の比較的簡単な補修作業で済む異常とを区別して検出することができる。
【0018】
さらに、望ましくは、前記移動量判定手段は、前記区間判定手段によりレール不動区間にあると判定された軌道パッドに関して、前記移動量算出手段から得られた移動量が前記上限値よりも小さな所定のしきい値を超えていると判定した場合に異常を出力するように構成する。
かかる構成によれば、レール不動区間にある軌道パッドに関しては従来と同じ異常判定基準に従って異常を検出することができるので、整合性のある軌道パッドの保守管理を実現することができる。
【0019】
また、本出願の他の発明に係る構成を有する軌道パッド飛び出し量異常検出方法は、
車両に搭載され走行しながら撮像装置によりレール近傍を撮影した画像のデータおよびレール長手方向に沿ったレール各部の温度のデータを収集し、収集した画像データおよび温度データに基づいて軌道パッドの飛び出し量の異常を検出する軌道パッド飛び出し量異常検出方法において、
少なくとも6か月の所定期間にわたって所定の日数をおいて検出対象のレール可動区間のレール近傍を撮影した前記画像データおよび温度データを複数回にわたって収集する工程と、
収集されたレール可動区間の画像データを画像処理して軌道パッドの移動量を算出し、算出された前記所定期間における軌道パッドの複数の移動量を、温度と移動量を座標軸とする座標上に時系列に表記した軌跡線に基づいて基準となる軌跡ループ線を予めレール可動区間ごとに設定する工程と、
車両に搭載された撮像装置が撮影したレール近傍の画像データを画像処理して軌道パッドの移動量を算出する工程と、
判定対象の画像に含まれる軌道パッドがいずれのレール可動区間にあるか判定する工程と、
レール可動区間にある軌道パッドに関して算出された移動量が、当該軌道パッドに対応して設定された前記軌跡ループ線の外側にあるか内側にあるかを判定し、移動量が前記軌跡ループ線の外側にある場合に異常を出力する工程と、
を有するようにしたものである。
【0020】
上記工程を有する軌道パッド飛び出し量異常検出方法によれば、レール可動区間にあると判定された軌道パッドの移動量が、判定基準となる軌跡ループ線の外側にあると判定した場合に異常を出力するので、レール不動区間にある軌道パッドの移動量の異常判定基準と異なる基準により異常を検出することができ、それによって本当に補修が必要な対象を見逃すことなく補修対象の軌道パッドの数を減らし、補修作業の負担を低減させることができる。
【0021】
また、望ましくは、レール可動区間にある軌道パッドに関して算出された前記移動量が、当該軌道パッドに対応して設定された前記軌跡ループ線の外側にありかつ予め設定された軌道パッドの飛び出し量の上限値を超えていると判定した場合に第1の異常状態として出力し、
レール可動区間にある軌道パッドに関して算出された前記移動量が、当該軌道パッドに対応して設定された前記軌跡ループ線の外側にありかつ前記上限値を超えていないと判定した場合に第2の異常状態として出力するようにする。
かかる方法によれば、軌道パッドの位置の修正または交換のような大掛かりな補修作業が必要な異常と、レール締結装置の調整等の比較的簡単な補修作業で済む異常とを区別して検出することができる。
【0022】
さらに、望ましくは、前記所定期間は9カ月以上であり、
前記軌跡ループ線は、前記所定期間における軌道パッドの複数の移動量を、温度と移動量を座標軸とする座標上に時系列に表記した軌跡線に外接する平行四辺形であるようにする。
かかる方法によれば、比較的効率よくかつ良好な異常検出精度が得られる判定基準としての軌跡ループ線を設定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る軌道パッド飛び出し量異常検出システムおよび異常検出方法によれば、補修対象の軌道パッドの数を減らし、補修作業の負担を減少させることができる。また、軌道パッドの位置の整生または交換という大掛かりな補修が必要な異常と、レール締結装置の調整等の比較的簡単な補修作業で済む異常とを区別して検出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態に係る軌道パッド飛び出し量測定システムの構成の一例を示す概略構成図である。
【
図2】実施形態のシステムにおける軌道パッドの移動量の異常判定基準となる軌跡ループ線の一例を示すグラフである。
【
図3】実施形態における軌道パッド飛び出し量異常検出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】(A)はある線区で過去2年間に検出した軌道パッドのずれの発生回数をレール100mごとに表したグラフ、(B)は(A)の軌道パッドのずれの発生回数の可動区間と不動区間との関係を表したグラフである。
【
図5】(A)は伸縮継目が設けられているある地点のレールと軌道パッドの移動量をレール温度と共に数カ月にわたって調査した結果を表したグラフ、(B)は他の地点のレールと軌道パッドの移動量をレール温度と共に数カ月にわたって調査した結果を表したグラフである。
【
図6】さらに他の地点のレールと軌道パッドの移動量をレール温度と共に数カ月にわたって調査した結果を表したグラフである。
【
図7】3つのレール可動区間にて測定されたレール移動量を横軸に温度、縦軸に移動量をとった座標にプロットして各点を時系列で結んだ変動軌跡を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態である軌道パッド飛び出し量異常検出システムおよび異常検出方法について詳細に説明する。
先ず、
図1を用いて、本発明の軌道パッド飛び出し量異常検出システムの一実施形態について説明する。
図1は、異常検出システムを機能ブロック図として表した概略構成図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の軌道パッド飛び出し量異常検出システムは、軌道の状態を検査する計測車等の車両に搭載された制御装置11および軌道パッド部位を含むレール近傍を撮影するCCDカメラやCMOSカメラ等の撮像装置12を備えた画像収集装置10と、軌道に沿って所定の距離をおいて設置されレールの温度を計測する複数の温度測定器21と、画像収集装置10からの画像データおよび温度測定器21により測定された温度データを収集する温度データ収集装置22、温度データ収集装置22が収集した温度データを受信してこれらのデータに基づいて軌道パッドの移動量の異常を検出するデータ処理装置からなる異常検出装置30により構成されている。
【0027】
撮像装置12は、車両の下部に設けられた一対のカメラを備え、特許文献1に記載されているように、軌道パッド部位(レールの締結部分)を斜め方向から撮影するため、撮影する軌道パッドのあるレールと反対側のレール上方に配置するとよい。また、撮影タイミングは、レーザ変位計等を用いて軌道上の締結用ボルト等の部品を検出して決定したタイミングとすることができる。
画像収集装置10は、上記撮像装置12により撮影された画像等のデータを記憶する記憶装置13と、車両位置を把握するための速度発電機などの位置検出器14と、現在時刻を計時するタイマ15と、無線通信装置16などを備える。異常検出装置30は、演算処理装置31と、無線通信装置32と、記憶装置33、表示装置34などを備える。
【0028】
画像収集装置10の制御装置11および異常検出装置30の演算処理装置31は、CPU(中央演算処理装置)やROM、RAMなどを有する通常のマイクロプロセッサやマイクロコンピュータにより構成することができ、ROMに記憶されたプログラムとCPUとの協働により各部を統括制御する機能を有する。また、演算処理装置31は、軌道パッドをカメラで撮影した画像データに基づいて、画素数からパッド飛び出し量(移動量)を算出する機能を有するようにプログラムが構成されている。
画像収集装置10の制御装置11は、位置検出器14からの情報に基づいて自車両の位置を把握し、レール可動区間にさしかかると、撮像装置12により軌道パッド部位を撮影し、撮影した画像のデータをタイマ15の時刻データと共に記憶装置13に記憶する機能を有するようにプログラムが構成されている。
【0029】
また、画像収集装置10の記憶装置33には、レール可動区間の位置情報やレール可動区間ごとに設定された
図2に示すような基準軌跡ループ線Lが記憶されている。ここで、基準軌跡ループ線Lは、予め半年以上かけて収集した軌道パッドの画像データに基づいて算出したパッド移動量に基づいて、変動量の変動軌跡線の外接平行四辺形を描画することで形成したものである。
なお、
図2の変動軌跡線Tは、
図7の変動軌跡線Aに相当する。
図7の軌跡B,C,Dのようにループが小さいものに関しては、移動量軌跡の外接平行四辺形の上辺の位置を移動量の異常を判定するための上限値(判定しきい値)maxまで、また下辺の位置を下限値minまで移動させるように拡大した平行四辺形を基準軌跡ループ線として設定するようにしても良い。
【0030】
なお、
図2に●印で示されるように、上限値maxを超えると軌道パッドが抜け易くなるので、軌道パッドを元の位置に戻したり交換したりするなどの補修作業を行うことで対応する。パッド移動量の上限値maxは、従来は例えば30mmのような値に設定されていたが、本実施形態においては、40mmのような値に設定される。これにより、異常判定がなされるパッドの数を減らし、パッドの位置の整正または交換のような大掛かりな補修作業の実施頻度を低減することができる。
さらに、本実施形態の異常検出システムにおいては、検出されたパッド移動量が上限値maxを超えていなくても、
図2に▲印で示されるように、基準軌跡ループ線Lの外側にある場合には異常と判定する機能を備えている。
【0031】
従来から、パッドを支持する可変パッドの劣化やスラブ下部のCAモルタルの劣化及び橋梁におけるアオリや突発的な地震、スラブの温度変化による反りなどの要因で通常よりも短い期間に軌道パッドの移動量が、上限値maxを超えない範囲で突然増加する現象が知られていた。また、上記現象がなくても軌道パッドの移動量が急激に増加することがあり、その原因を調査するとレール締結装置のボルトの緩みが発生していることがあった。
そのような場合、パッド移動量が
図2の▲印で示されるような値になる。そのため、本実施形態の異常検出システムにおいては、
図2に▲印で示されるように上限値maxを超えないが変動量の変動軌跡線Tの外側に大きく外れている場合にも、基準軌跡ループ線Lにより異常と判定することができる。そして、パッドの位置がずれた原因を調べて、例えば原因がレール締結装置のボルトの緩みであれば、ボルトを締めるなどの補修作業を行うこととなる。異常の原因がレール締結装置のボルトの緩みでない場合にも、原因を除去する作業を行う。
【0032】
次に、
図3のフローチャートを用いて、本発明の実施形態である軌道パッド飛び出し量異常検出方法について詳細に説明する。
本実施形態の軌道パッド飛び出し量異常検出方法においては、先ず半年(6か月)以上望ましくは9カ月~1年をかけて、所定の期間(例えば1週間~1か月)ごとに、各レール可動区間において、毎回ほぼ同じ所定時刻に前記画像収集装置10により、レール可動区間の移動端側で軌道パッド部位の画像を撮影して画像データを蓄積する(ステップS1)。また、これと並行して、温度データ収集装置22によって、軌道に沿って配設された温度測定器21により測定されたレール温度データを収集する。
【0033】
次に、ステップS1で蓄積された軌道パッドの画像データを画像処理して軌道パッドの移動量を算出し、算出した移動量および温度データ収集装置22によって収集されたレール温度データの中から画像データの撮影時刻に近くかつ撮影した可動区間に最も近い温度測定器の測定データを取り出して、
図2に示すような、温度-移動量座標に測定データをプロットする。そして、プロットした点を時系列的に結んだ変動量の変動軌跡線Tを描画する(ステップS2)。続いて、変動量の変動軌跡線Tに外接する平行四辺形を描き、基準軌跡ループ線Lとして設定する(ステップS3)。
【0034】
その後、画像収集装置10を搭載した車両を走行させて、上記と同じ時刻に、各レール可動区間において、画像収集装置10により移動端側の軌道パッド部位の画像を撮影して画像データおよび撮影位置情報(可動区間情報)を蓄積する(ステップS4)。全区間の撮影が終了すると、画像収集装置10は蓄積したデータを異常検出装置30へ送信する(ステップS5)。すると、異常検出装置30は画像データを受信し、対応する時刻であって可動区間の近傍の各レール温度データを温度データ収集装置22から読み込む(ステップS6)。
【0035】
次に、異常検出装置30は、着目する可動区間ごとに画像データから軌道パッドの移動量を算出する(ステップS7)。そして、算出した移動量が
図2に示す基準軌跡ループ線Lの外側にあるか判定する(ステップS8)。ここで、Noすなわち算出した移動量が
図2に示す基準軌跡ループ線Lの内側にあると判定すると、ステップS7へ戻って、次の可動区間について画像データから軌道パッドの移動量を算出する。
また、異常検出装置30は、ステップS8で、Yesすなわち算出した移動量が
図2に示す基準軌跡ループ線Lの外側にあると判定するとステップS9へ進み、算出した移動量が上限値maxを超えているか否か判定する。
【0036】
ステップS9において、移動量が上限値maxを超えている(Yes)と判定するとステップS10へ進み、パッド位置の修正、交換等の補修が必要な異常であることを該当箇所の位置情報(キロ程)と共に表示装置34に表示する。また、ステップS9において、移動量が上限値maxを超えていない(No)と判定するとステップS11へ進み、レール締結装置の調整(ボルトの締付け)等が必要な異常であることを該当箇所の位置情報(キロ程)と共に表示装置34に表示する。
その後、ステップS12へ進んで、すべてのレール可動区間の軌道パッドについて処理が終了したか否か判定し、処理が終了していない(No)と判定するとステップS7へ戻って上記処理を繰り返す。一方、ステップS12で、すべてのレール可動区間の軌道パッドについて処理が終了した(Yes)と判定すると、異常検出処理を終了する。
【0037】
以上説明したように、上記異常検出処理によると、パッド位置の大幅な修正、交換等が必要な重大な異常とレール締結装置の調整(ボルトの締付け等)が必要な軽微な異常を区別して検出し、それぞれの異常に対応した補修内容を作業者に指示することができる。
また、上限値maxとして、従来よりも大きな値を設定することにより、レール可動区間において、パッド位置の大幅な整正、交換等が必要な重大な異常が発生していると判定する頻度を減らし、補修作業部門の負担を軽減することができる。
【0038】
なお、上記異常検出処理はレール可動区間の軌道パッドに関するもので、レール不動区間の軌道パッドに関しては従来のようにレール可動区間の判定用の上限値maxよりも小さな値(例えば30mm)をしきい値として判定することとなる。異常検出装置30の記憶装置33にはレール可動区間の位置情報が記憶されており、演算処理装置31は読み込んだ画像の軌道パッドの位置がレール可動区間であると判定した場合には
図3のフローチャートに従って異常検出処理を行い、画像の軌道パッドの位置がレール可動区間以外の場合には不動区間の軌道パッドと判定して、従来のしきい値を用いて異常の有無の判定を行う。
【0039】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、軌道パッド飛び出し量測定装置10において、カメラ(12)により撮影した軌道パッドの画像を距離データおよび時刻データと共に記憶すると説明したが、測定を開始した時刻や測定を終了した時刻あるいは一連の測定で取得した画像データは1つのファイルに格納する場合にはファイルを作成した時刻もしくは更新した時刻を、当該軌道パッドの画像の取得時間として画像データと共に異常検出装置30へ送信するようにしても良い。
【0040】
上記のようにした場合、異常検出装置30は、受信した時刻データと距離データとから各軌道パッドの画像の撮影時刻を算出して、その時刻における対象軌道パッドに近い温度計測器21が計測した温度情報をレール温度収集装置22より取得し、それによって
図3に示す異常検出処理と同様にして軌道パッドの移動量の異常検出を行うことができる。
また、前記実施形態では、軌道に沿って所定の間隔でレールに設置された温度計測器21でレールの温度を検出するようにしていると説明したが、赤外線等を利用した赤外放射温度センサのような非接触の温度計測器を車両下部に搭載し、その温度計測器を用いて、軌道パッドの撮影タイミングで当該軌道パッドの近傍のレールの側部等の温度を計測するようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 画像収集装置
11 制御装置(制御手段)
12 撮像装置(撮影手段)
13 記憶装置(記憶手段)
14 位置検出器(位置検出手段)
15 計時用のタイマ
16 無線通信装置
21 温度計測器(レール温度検出手段)
22 温度データ収集装置(レール温度収集装置)
30 異常検出装置
31 演算処理装置
32 無線通信装置
33 記憶装置
34 表示装置