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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032687
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】装具
(51)【国際特許分類】
   A43B 7/1455 20220101AFI20230302BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20230302BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230302BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20230302BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230302BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20230302BHJP
   A43B 17/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61F 2/78 20060101ALI20230302BHJP
   A43B 7/1425 20220101ALN20230302BHJP
   A43B 7/144 20220101ALN20230302BHJP
【FI】
A43B7/1455
B29C64/106
B33Y80/00
B33Y50/00
B33Y10/00
B29C64/386
A43B17/00 Z
A61F2/78
A43B7/1425
A43B7/144
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138968
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 淳
(72)【発明者】
【氏名】安藤 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】小松 敏
(72)【発明者】
【氏名】松村 一輝
【テーマコード(参考)】
4C097
4F050
4F213
【Fターム(参考)】
4C097AA02
4C097BB02
4C097BB09
4C097CC15
4C097DD02
4C097DD03
4C097MM03
4C097MM09
4F050EA01
4F050HA85
4F050KA08
4F213AH67
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL45
4F213WL85
(57)【要約】
【課題】用途に応じた適切な物性を有する装具を提供することである。
【解決手段】本発明の装具は、所定の形状を一単位とする単位構造が平面的に複数配列された層が複数積層され、複数の前記層のうち第1層に配列される第1単位構造は、前記第1層とは異なる第2層に配列される第2単位構造とは異なる。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状を一単位とする単位構造が平面的に複数配列された層が複数積層され、
複数の前記層のうち第1層に配列される第1単位構造は、前記第1層とは異なる第2層に配列される第2単位構造とは異なる、
装具。
【請求項2】
前記第1単位構造は、前記第1単位構造を構成する複数の構造柱の断面積、及び、当該複数の構造柱の配置パターンのうち少なくとも一方が、前記第2単位構造とは異なる、
請求項1に記載の装具。
【請求項3】
前記複数の層は、上層から下層に向かって荷重がかかるように配置される、
請求項1又は2に記載の装具。
【請求項4】
前記第1層は、前記第2層より下層に配置され、
前記第1層に配列される第1単位構造を構成する複数の構造柱の断面積は、前記第2層に配列される第2単位構造を構成する複数の構造柱の断面積より大きい、
請求項3に記載の装具。
【請求項5】
前記第1層は、前記第1単位構造を構成する複数の構造柱が第1配置パターンで配置され、
前記第2層は、前記第2単位構造を構成する複数の構造柱が第2配置パターンで配置され、
前記複数の層は、前記第1層と前記第2層とが交互に積層される、
請求項1~4のいずれか一つに記載の装具。
【請求項6】
前記単位構造は、n(nは3以上の整数)角柱形状の空間を一単位とする単位構造である、
請求項1~5のいずれか一つに記載の装具。
【請求項7】
前記層に配列される複数の単位構造のうち少なくとも一つは、前記空間の中心と、前記n角柱形状を形成する2n個の頂点のうちp(pは2≦p≦(2n-1)を充たす整数)個の頂点とを接続するp本の構造柱を有する、
請求項6に記載の装具。
【請求項8】
前記2n個の頂点のうち前記構造柱が接続されない頂点に隣接する頂点は、前記構造柱が接続される、
請求項7に記載の装具。
【請求項9】
前記2n個の頂点のうち前記構造柱が接続されない頂点に対して前記中心を挟んで対向する頂点は、前記構造柱が接続される、
請求項7に記載の装具。
【請求項10】
前記単位構造は、(n/2)本以上の構造柱を有する、
請求項7~9のいずれか一つに記載の装具。
【請求項11】
前記層に配列される複数の単位構造のうち少なくとも一つは、断面積がa1である第1構造柱と、断面積がa2(a2≠a1)である第2構造柱とを含む複数の構造柱を有する、
請求項6に記載の装具。
【請求項12】
前記複数の構造柱それぞれは、前記空間の中心と、前記n角柱形状を形成する2n個の頂点それぞれとを接続する、
請求項11に記載の装具。
【請求項13】
前記単位構造は、前記空間の上面に対して荷重がかかるように配置され、
前記複数の構造柱のうち、前記空間の下面を形成する複数の頂点それぞれに接続される構造柱は、前記第1構造柱であり、
前記複数の構造柱のうち、前記空間の上面を形成する複数の頂点それぞれに接続される構造柱は、前記第2構造柱である、
請求項12に記載の装具。
【請求項14】
前記第1構造柱の断面積a1は、前記第2構造柱の断面積a2より大きい、
請求項13に記載の装具。
【請求項15】
前記単位構造は、荷重方向において非対称性を有する、
請求項7~14のいずれか一つに記載の装具。
【請求項16】
前記n角柱形状は、四角柱形状又は六角柱形状である、
請求項6~15のいずれか一つに記載の装具。
【請求項17】
前記複数の単位構造のうち少なくとも一つは、複数の構造柱を有し、
前記構造柱は、円柱形状又は多角柱形状である、
請求項1~16のいずれか一つに記載の装具。
【請求項18】
前記単位構造は、光硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂により造形される、
請求項1~17のいずれか一つに記載の装具。
【請求項19】
インソールである、
請求項1~18のいずれか一つに記載の装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、装具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体(三次元構造体)には、耐久性、硬さ、反発性、衝撃吸収性、フィット性など、様々な力学物性(以下、単に「物性」とも記載する)がある。物体に求められる物性は、例えば、医療用製品、建築用資材等、その用途に応じて多種多様である。このため、特定用途の物体を製造する場合、例えば、その用途に応じて様々な物性の材料を組み合わせることが行われる。
【0003】
例えば、医療分野では、病気や怪我等により身体機能が低下したり失われたりした際に、その機能を補ったり患部を保護したりするために、対象者(患者)の身体に装着される装具が利用されている。医療用の装具の一例としては、対象者の足裏と靴の中底との間に敷かれるインソール(医療用インソール)がある。インソールは、患部の位置や症状に応じて様々な物性を有する材料を組み合わせることで、患者一人一人に合わせて製造される。なお、装具は、医療目的に限らず、スポーツや日常生活における身体機能の補助や保護のためにも利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-012751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、用途に応じた物性を実現することが難しい場合があった。例えば、医療用製品、建築用資材等、その用途に応じて外形が規定される場合には、その外形を変えずに所望の物性を実現する必要がある。また、物体を3次元プリンタ(3D-Printer)等、製造方法によって材料の選択肢が限られる場合には、その限られた材料の中で所望の物性を実現する必要がある。このように、外形や材料に制約がある場合には、用途に応じた物性を実現することが難しい場合があった。
【0006】
本発明は、用途に応じた適切な物性を有する装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、所定の形状を一単位とする単位構造が平面的に複数配列された層が複数積層され、複数の前記層のうち第1層に配列される第1単位構造は、前記第1層とは異なる第2層に配列される第2単位構造とは異なる、装具である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態のインソール10の構造の一例を示す図である。
図2図2は、第1の実施形態の単位構造について説明するための図である。
図3図3は、第1の実施形態の単位構造について説明するための図である。
図4A図4Aは、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明するための図である。
図4B図4Bは、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明するための図である。
図4C図4Cは、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明するための図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図6A図6Aは、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図6B図6Bは、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図7図7は、第1の実施形態の比較例に係る層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図8図8は、第1の実施形態の比較例に係る層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図9図9は、第1の実施形態に係る半球圧縮における応力の分散について説明するための図である。
図10A図10Aは、第2の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明するための図である。
図10B図10Bは、第2の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明するための図である。
図10C図10Cは、第2の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明するための図である。
図11A図11Aは、第2の実施形態に係る構造柱の断面積の段階的変化による層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図11B図11Bは、第2の実施形態に係る構造柱の断面積の段階的変化による層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図12図12は、第2の実施形態の比較例に係る層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図13図13は、第2の実施形態の比較例に係る層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。
図14図14は、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。
図15A図15Aは、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。
図15B図15Bは、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。
図15C図15Cは、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。
図15D図15Dは、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。
図15E図15Eは、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。
図16図16は、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化と物性の関係について説明するための図である。
図17図17は、第4の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。
図18A図18Aは、第4の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化と物性の関係について説明するための図である。
図18B図18Bは、第4の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化と物性の関係について説明するための図である。
図19図19は、比較例に係る荷重方向における物体の非対称化と物性の関係について説明するための図である。
図20図20は、比較例に係る荷重方向における物体の非対称化と物性の関係について説明するための図である。
図21A図21Aは、変形例1に係る層構造の不均一化について説明するための図である。
図21B図21Bは、変形例1に係る層構造の不均一化について説明するための図である。
図21C図21Cは、変形例1に係る層構造の不均一化について説明するための図である。
図22A図22Aは、変形例2に係る層構造の不均一化について説明するための図である。
図22B図22Bは、変形例2に係る層構造の不均一化について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る装具の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、装具の一例として医療用のインソールについて説明する。ただし、実施形態はインソールに限定されるものではなく、例えば、手、肘、膝、肩、頭部等、人体の各部位に当てて利用される装具に広く適用可能である。また、実施形態は医療用の装具に限定されるものではなく、例えば、スポーツや日常生活における身体機能の補助や保護のために利用される装具に広く適用可能である。なお、インソールは、中敷き、中底等とも呼ばれる。
【0011】
図1は、第1の実施形態のインソール10の構造の一例を示す図である。図1の左図には、右足用のインソール10を人体の各部位と直接的または間接的に接触する当接面側から見た平面図を例示する。図1の右図には、左図の側面図を例示する。なお、図1の上側にインソール10のつま先側を示し、図1の下側にインソール10の踵側を示す。
【0012】
図1に示すように、第1の実施形態のインソール10は、領域R1、領域R2、及び領域R3を有する。領域R1は、インソール10の全体的な外形を構成する領域である。領域R2は、踵骨付近の部位が接する領域である。領域R3は、母指の中足指関節付近の部位が接する領域である。
【0013】
第1の実施形態に係る領域R1、領域R2、及び領域R3は、互いに異なる単位構造により構成される。すなわち、インソール10は、互いに異なる単位構造により構成される領域を少なくとも2つ有するのが好適である。
【0014】
なお、図1に示した内容はあくまで一例であり、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、インソール10を構成する各領域の数、位置、大きさ、形状、及び厚みについては、装着する人の使用目的や症状に応じて任意に変更可能である。また、インソール10は、個別の領域を有さず、全体として均一な物性で製造されても良い。
【0015】
図2及び図3を用いて、単位構造について説明する。図2及び図3は、第1の実施形態の単位構造について説明するための図である。
【0016】
図2には、単位構造が一単位とする空間形状を例示する。図2に示すように、単位構造は、6つの正方形の面により構成される立方体形状の空間(単位空間)を一単位とする。単位構造は、頂点に対応する8つの点P1~点P8を有する。
【0017】
ここで、単位構造における線及び面の表記方法について説明する。第1の実施形態では、線及び面を表記する場合、その線又は面を構成する頂点を括弧書きで示す。例えば、「線(P1,P2)」という表記は、点P1と点P2とを結ぶ線を表す。また、「線(P1,P7)」という表記は、点P1と点P7とを結ぶ線(対角線)を表す。また、「面(P1,P2,P3,P4)」という表記は、点P1、点P2、点P3、及び点P4を頂点とする面(底面)を表す。
【0018】
第1の実施形態に係る単位構造は、複数の点P1~点P8のうち2点を接続する構造柱を複数備える。つまり、図2の空間形状は、単位構造の形状に対応する。構造柱の数及び方向(配置方向)については、例えば、単位格子モデルにより予め規定されている。なお、単位格子モデルにより規定される単位構造を、単位格子構造とも記載する。
【0019】
図3には、単位構造の基本的な骨格形状を示す単位格子モデルを例示する。図3において、破線は、一単位に相当する立方体形状の空間(図2の空間)を示す。また、実線は、構造柱の存在を示す。なお、図3に例示の単位格子モデルは、その配置方向が図3の鉛直下方向に装具にかかる荷重方向と一致するようにインソール10の各領域に配置されるのが好適である。なお、装具にかかる荷重方向とは人体の各部位から受けた荷重が加わる方向である。
【0020】
図3に示すように、例えば、単位格子モデルは、モデルA、モデルB、モデルC、モデルD、モデルE、及びモデルFを含む。ここで、モデルA、モデルB、及びモデルCは、立方体形状の空間の中心に構造柱の交差部を有する。また、モデルD及びモデルEは、立方体形状を構成する複数の面のうち少なくとも1つの面の中心に構造柱の交差部を有する。
【0021】
モデルAは、立方体形状の対角線に沿って配置される4本の構造柱を備える単位格子モデルである。具体的には、モデルAは、線(P1,P7)、線(P2,P8)、線(P3,P5)、及び線(P4,P6)上に、それぞれ構造柱を有する。
【0022】
モデルBは、モデルAと同様の4本の線に加えて、立方体形状を構成する底面及び上面を囲む複数の辺に沿って配置される8本の線上に更に構造柱を備える単位格子モデルである。具体的には、モデルBは、モデルAが有する4本の線上に構造柱を有する。更に、モデルBは、底面(P1,P2,P3,P4)を囲む4本の線(P1,P2)、線(P2,P3)、線(P3,P4)、及び線(P4,P1)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルBは、上面(P5,P6,P7,P8)を囲む4本の線(P5,P6)、線(P6,P7)、線(P7,P8)、及び線(P8,P5)上に、それぞれ構造柱を有する。
【0023】
モデルCは、モデルBと同様の12本の線に加えて、荷重方向に沿って配置される4本の線上に更に構造柱を備える単位格子モデルである。具体的には、モデルCは、モデルBが有する12本の線上に構造柱を有する。更に、モデルCは、インソールにかかる荷重方向に沿って配置される4本の線(P1,P5)、線(P2,P6)、線(P3,P7)、及び線(P4,P8)上に、それぞれ構造柱を有する。
【0024】
つまり、モデルBとモデルCとの差異は、荷重方向に沿って配置される4本の線(P1,P5)、線(P2,P6)、線(P3,P7)、及び線(P4,P8)上に、構造柱を有するか否かである。
【0025】
モデルDは、6つの面それぞれの対角線に沿って配置される12本の線上に構造柱を備える単位格子モデルである。具体的には、モデルDは、底面(P1,P2,P3,P4)の対角線に対応する2本の線(P1,P3)及び線(P2,P4)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルDは、上面(P5,P6,P7,P8)の対角線に対応する2本の線(P5,P7)及び線(P6,P8)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルDは、側面(P1,P2,P5,P6)の対角線に対応する2本の線(P1,P6)及び線(P2,P5)を有する。また、モデルDは、側面(P2,P3,P6,P7)の対角線に対応する2本の線(P2,P7)及び線(P3,P6)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルDは、側面(P3,P4,P7,P8)の対角線に対応する2本の線(P3,P8)及び線(P4,P7)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルDは、側面(P1,P4,P5,P8)の対角線に対応する2本の線(P1,P8)及び線(P4,P5)上に、それぞれ構造柱を有する。
【0026】
モデルEは、モデルDと比較して底面及び上面の対角線上に構造柱を備えず、底面及び上面を囲む複数の辺に対応する8本の線上に更に構造柱を備える単位格子モデルである。具体的には、モデルEは、側面(P1,P2,P5,P6)の対角線に対応する2本の線(P1,P6)及び線(P2,P5)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルEは、側面(P2,P3,P6,P7)の対角線に対応する2本の線(P2,P7)及び線(P3,P6)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルEは、側面(P3,P4,P7,P8)の対角線に対応する2本の線(P3,P8)及び線(P4,P7)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルEは、側面(P1,P4,P5,P8)の対角線に対応する2本の線(P1,P8)及び線(P4,P5)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルEは、底面(P1,P2,P3,P4)を囲む4本の線(P1,P2)、線(P2,P3)、線(P3,P4)、及び線(P4,P1)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルEは、上面(P5,P6,P7,P8)を囲む4本の線(P5,P6)、線(P6,P7)、線(P7,P8)、及び線(P8,P5)上に、それぞれ構造柱を有する。
【0027】
つまり、モデルD及びモデルEの差異は、底面及び上面に配置された線上の構造柱の有無である。具体的には、底面及び上面の対角線に沿った4本の線(P1,P3)、線(P2,P4)、線(P5,P7)、及び線(P6,P8)上に構造柱を有するのが、モデルDである。また、底面及び上面を囲む8本の線(P1,P2)、線(P2,P3)、線(P3,P4)、線(P4,P1)、線(P5,P6)、線(P6,P7)、線(P7,P8)、及び線(P8,P5)上に構造柱を有するのが、モデルEである。
【0028】
なお、図3では、モデルD及びモデルEの構造柱を2種類の太さの実線によって図示したが、これは実際の構造柱の太さを示すものではなく、図示の明瞭化を意図したものである。つまり、太い方の実線は、立方体形状の空間を箱に見立てた場合に、「箱の手前側に見える面」に含まれる構造柱を示す。また、細い方の実線は、立方体形状の空間を箱に見立てた場合に、「箱の奥側に見える面」にのみ含まれる構造柱を示す。なお、「箱の手前側に見える面」とは、上面(P5,P6,P7,P8)、側面(P1,P2,P5,P6)、及び側面(P1,P4,P5,P8)である。また、「箱の奥側に見える面」とは、底面(P1,P2,P3,P4)、側面(P2,P3,P6,P7)、及び側面(P3,P4,P7,P8)である。
【0029】
モデルFは、図2に示した単位構造が一単位とする空間形状の各辺に対応する12本の線上に構造柱を備える単位格子モデルである。具体的には、モデルFは、底面(P1,P2,P3,P4)を囲む4本の線(P1,P2)、線(P2,P3)、線(P3,P4)、及び線(P4,P1)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルFは、上面(P5,P6,P7,P8)を囲む4本の線(P5,P6)、線(P6,P7)、線(P7,P8)、及び線(P8,P5)上に、それぞれ構造柱を有する。また、モデルFは、インソールにかかる荷重方向に沿って配置される4本の線(P1,P5)、線(P2,P6)、線(P3,P7)、及び線(P4,P8)上に、それぞれ構造柱を有する。
【0030】
このように、領域R1、領域R2、及び領域R3は、互いに異なる単位構造により構成される。すなわち、インソール10の各領域は、複数の単位構造が繰り返し連続して配列された構造である。具体的には、インソール10の各領域は、複数の単位構造が同一平面上に配列された層を少なくとも1つ有し、この層が積層されて構成される。なお、構造柱の断面形状は、四角形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形等、任意の形状が適用可能である。
【0031】
なお、図2及び図3に示した内容はあくまで一例であり、図示の内容に限定されるものではない。例えば、図2に示した立方体形状の空間はあくまで一例であり、単位構造が一単位とする空間形状は、多角柱形状であっても良い。この場合、単位構造は、例えば、三角柱形状、四角柱形状、及び六角柱形状のうちいずれか1つの形状の空間を一単位とすることが好適である。三角柱形状としては正三角柱形状が好適である。また、四角柱形状としては上述した立方体形状以外に直方体形状が好適である。また、六角柱形状としては正六角柱形状が好適である。また、構造柱は、多角柱形状又は円柱形状等の柱状である。また、構造柱の短手方向とは、構造柱の軸方向に直交する方向である。
【0032】
また、領域R1~領域R3それぞれを構成する単位構造は、一定の空間形状であるのが好適である。例えば、領域R1を構成する単位構造は三角柱形状で統一され、領域R2を構成する単位構造は四角柱形状で統一され、領域R3を構成する単位構造は六角柱形状で統一される。
【0033】
また、各領域R1~領域R3を構成する単位構造は、境界部では一部が欠けた(切除された)構造となる場合がある。ここで、境界部とは、インソール10の輪郭面、領域R1と領域R2との間の境界面、及び領域R1と領域R3との間の境界面などに対応する。このような境界部は、単位構造の外面とは必ずしも一致しないため、境界部の形状に合わせて単位構造を一部切除した構造にすることとなる。なお、境界部は、単位構造(又は切除された単位構造)が露出していても良いし、任意の厚みの膜などで覆われていても良い。
【0034】
また、図3に示したモデルはあくまで一例であり、単位格子モデルは任意の位置に構造柱を備えていても良い。ただし、単位構造は、多角柱形状の空間を構成する全ての頂点をいずれかの構造柱が通るように、複数の構造柱を備えるのが好適である。
【0035】
ここで、第1の実施形態に係るインソール10は、異なる層の交互配置によって層構造の不均一化を導入したことにより、用途に応じた適切な物性を有する。すなわち、インソール10は、所定の形状を一単位とする単位構造が平面的に複数配列された層が複数積層される。また、インソール10において、複数の層のうち第1層に配列される第1単位構造は、第1層とは異なる第2層に配列される第2単位構造とは異なる。なお、単位構造は、n(nは3以上の整数)角柱形状の空間を一単位とする単位構造であるのが好適である。また、n角柱形状は、四角柱形状又は六角柱形状であるのが好適である。
【0036】
図4A図4B、及び図4Cを用いて、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明する。図4A図4B、及び図4Cは、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明するための図である。図4A図4Cでは、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に5個ずつ、合計125個の単位構造が並んだ集合体(三次元構造体)において、層構造の不均一化を導入した場合を例示する。この集合体は、インソール10の領域R1~領域R3のうち、少なくとも一つを構成する。図4A図4Cにおいて、Y軸は荷重方向の逆方向に対応し、X軸はY軸に直交し、Z軸はX軸及びY軸に直交する。図4Aは、集合体をZ軸の負の方向から見た図である。図4Bは、集合体の1層目をY軸の正の方向から見た図である。図4Cは、集合体の2層目をY軸の正の方向から見た図である。
【0037】
図4A図4Cに示す集合体は、XZ平面に25個の単位構造が配列された層が、Y軸方向に5層積層された層構造を有する。ここで、1層目、3層目、及び5層目は、複数の構造柱がモデルFの配置パターンで配置される。また、2層目、及び4層目は、複数の構造柱がモデルAの配置パターンで配置される。すなわち、1層目、3層目、及び5層目の単位構造は、2層目、及び4層目の単位構造とは複数の構造柱の配置パターンが異なる。なお、集合体の各層は、上層(図4Aの5層目側)から下層(図4Aの1層目側)に向かって荷重がかかるように配置される。また、集合体に含まれる単位構造の構造柱の太さは一定である。
【0038】
具体的には、1層目には、モデルFの単位構造がX軸方向及びZ軸方向に5個ずつ配列される。2層目には、モデルAの単位構造がX軸方向及びZ軸方向に5個ずつ配列される。3層目には、1層目と同様に、モデルFの単位構造がX軸方向及びZ軸方向に5個ずつ配列される。4層目には、2層目と同様に、モデルAの単位構造がX軸方向及びZ軸方向に5個ずつ配列される。5層目には、1層目と同様に、モデルFの単位構造がX軸方向及びZ軸方向に5個ずつ配列される。このように、第1の実施形態に係る層構造(複数の層)は、モデルFの単位構造が配列された層と、モデルAの単位構造が配列された層とが交互に積層される。
【0039】
なお、図4A図4Cにて説明した内容はあくまで一例であり、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図4A図4Cでは、125個の単位構造が集合体を形成する場合を説明したが、集合体を形成する単位構造の数は任意に設定可能である。また、図4A図4Cでは、集合体が立方体形状となる場合を説明したが、集合体は、任意の形状(例えば、インソール10の領域R1~領域R3などの形状)に形成可能である。
【0040】
また、図4A図4Cでは、モデルA及びモデルFを用いて層構造を構成する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、層構造を構成する単位構造としては、例えば図3に示したように、任意の単位格子モデルを適用可能である。また、同一の単位格子モデルであっても、例えば構造柱の太さを異ならせることにより、異なる層の交互配置は実現可能である。交互に配置する各層の単位格子モデルがいずれもモデルAであるが、太い構造柱の層と細い構造柱の層とを交互に配置することにより、不均一な層構造を構成しても良い。
【0041】
また、図4A図4Cでは、2つの異なる層(モデルAの層とモデルFの層)を交互に積層する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、モデルAの層、モデルFの層、及びモデルDの層など、3つ以上の異なる層を繰り返し順番に積層しても良い。また、複数の層を積層する順番は、必ずしも一定でなくても良く、例えば、ランダムな順序で積層しても良い。
【0042】
また、図4A図4Cでは、2層目及び4層目にモデルAが配列されると説明したが、この層は、実質的にモデルB(図3)が配列されたものと同一である。これは、モデルAの層の上下にモデルFの層が配置された結果である。例えば、モデルAの層の上下にモデルDの層が配置された場合には、モデルBと同一にはならない。
【0043】
次に、図5図6A、及び図6Bを用いて、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化と物性の関係について説明する。図5図6A、及び図6Bは、第1の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。図5には、平面圧縮と球面圧縮の説明図を示す。図6Aには、図4A図4Cに示した層構造を有する物体の圧縮特性を、平面圧縮により計測した曲線を例示する。図6Bには、図4A図4Cに示した層構造を有する物体の圧縮特性を、球面圧縮により計測した曲線を例示する。圧縮特性とは、物体に印加された応力[MPa](又は荷重[N])と、物体の圧縮比率[%](変位)との関係を表した曲線(グラフ)である。
【0044】
まず、図5を用いて、平面圧縮と球面圧縮について説明する。図5に示すように、平面圧縮とは、三次元構造体の上面を覆う大きさを有する平面圧子を用いて、荷重方向に三次元構造体を圧縮する方法である。平面圧縮では、例えば、足裏からインソール10へ全体的にかかる荷重についての圧縮特性を検討できると考えられる。また、球面圧縮とは、半球面を有する球面圧子を用いて、荷重方向に三次元構造体を圧縮する方法である。足裏に腫瘍、イボ、瘤など、何らかの疾患部がある場合、インソール10の表面に対して球面的に接触していると考えられる。つまり、球面圧縮では、足裏の疾患部からインソール10へ局所的にかかる荷重についての圧縮特性を検討できると考えられる。
【0045】
図6Aでは、各物体に対して重力方向(荷重方向)に平面圧縮することにより圧縮特性を計測した。図6Aにおいて、グラフの縦軸は応力[MPa]に対応し、グラフの横軸は応力に対する圧縮比率[%]に対応する。「F10-A10_円」は、構造柱が円柱形状であり、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合のモデルFの構造柱の太さが「10」であり、モデルAの構造柱の太さが「10」である物体の圧縮時の曲線を示す。「F15-A10_円」は、構造柱が円柱形状であり、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合のモデルFの構造柱の太さが「15」であり、モデルAの構造柱の太さが「10」である物体の圧縮時の曲線を示す。「F10-A10_角」は、構造柱が角柱形状であり、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合のモデルFの構造柱の太さが「10」であり、モデルAの構造柱の太さが「10」である物体の圧縮時の曲線を示す。「F15-A10_角」は、構造柱が角柱形状であり、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合のモデルFの構造柱の太さが「15」であり、モデルAの構造柱の太さが「10」である物体の圧縮時の曲線を示す。「100-7」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「7」であるモデルAの単位構造の圧縮時の曲線を示す。「100-10」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「10」であるモデルAの単位構造の圧縮時の曲線を示す。「100-12」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「12」であるモデルAの単位構造の圧縮時の曲線を示す。
【0046】
図6Bでは、各物体に対して重力方向(荷重方向)に球面圧縮することにより圧縮特性を計測した。図6Bにおいて、グラフの縦軸は荷重[N]に対応し、グラフの横軸は荷重に対する圧縮比率[%]に対応する。「F10-A10_角」は、構造柱が角柱形状であり、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合のモデルFの構造柱の太さが「10」であり、モデルAの構造柱の太さが「10」である物体の圧縮時の曲線を示す。「F15-A10_角」は、構造柱が角柱形状であり、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合のモデルFの構造柱の太さが「15」であり、モデルAの構造柱の太さが「10」である物体の圧縮時の曲線を示す。「F10-A15_角」は、構造柱が角柱形状であり、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合のモデルFの構造柱の太さが「10」であり、モデルAの構造柱の太さが「15」である物体の圧縮時の曲線を示す。「F15-A15_角」は、構造柱が角柱形状であり、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合のモデルFの構造柱の太さが「15」であり、モデルAの構造柱の太さが「15」である物体の圧縮時の曲線を示す。
【0047】
平面圧縮の場合、図6Aに示すように、モデルFの層とモデルAの層とを交互に積層した層構造では、構造柱の太さに応じて圧縮初期(圧縮比率0~10%程度)の傾きや、圧縮後期(圧縮比率50%以上)のグラフ形状、グラフの面積(積分値)などが大きく異なっていた。ここで、圧縮初期の傾きは、インソール10の「フィット感」に寄与する。また、圧縮後期のグラフ形状は、インソール10の「応力(硬さ)」に寄与する。また、グラフの面積は、インソール10の「衝撃吸収性」に寄与する。このことから、各構造柱の太さが同一であるモデルAの単位構造では、構造柱の太さを変更しただけで、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性などの物性がともに大きく変化することが示唆された。
【0048】
例えば「100-10」と比較した場合、「100-12」では構造柱を太くすることで応力(硬さ)及び衝撃吸収性が向上する一方、圧縮初期の傾きも大きく変化しており、フィット感が損なわれる可能性を示唆している。一方、構造柱を細くすると「100-7」のグラフが示すように応力(硬さ)及び衝撃吸収性が低下する。このことから、モデルAの単位構造で構造柱の太さを変更しただけでは、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性などの物性が連動して変化してしまうことが示唆された。すなわち、モデルAの単位構造で構造柱の太さを変更しただけでは、フィット感、応力(硬さ)、及び衝撃吸収性などの物性を個別に所望の範囲にコントロールすることは難しいことが示唆された。
【0049】
これに対し、第1の実施形態に係る不均一な層構造では、図6Aの「F10-A10_円」、「F15-A10_円」、「F10-A10_角」、及び「F15-A10_角」の曲線に示すように、圧縮中期(圧縮比率10~40%程度)における傾きが概ね平坦(フラット)になった。圧縮中期の傾きが平坦になると面積が増大することから「衝撃吸収性」に寄与する。また、不均一な層構造では、圧縮後期におけるグラフの立ち上がりやグラフの面積が異なっていた。このことから、異なる太さの構造柱を有する単位構造で構造柱の太さを変更することで、一定変位時の応力(硬さ)及び衝撃吸収性を所望の範囲にコントロールできることが示唆された。
【0050】
また、図6Aに示すように、圧縮中期(圧縮比率10~40%程度)における傾きが概ね平坦(フラット)になる場合には、ヒステリシスロス(圧縮時の曲線と解放時の曲線との差分)が増大することが予想される。ヒステリシスロスは、解放時の反発性(密着性)に寄与する。このことから、異なる太さの構造柱を有する単位構造で構造柱の太さを変更することで、反発性を所望の範囲にコントロールできることが期待される。なお、ヒステリシスロスに関する説明は、後述する図18Bの説明と同様である。
【0051】
したがって、均一な層構造に比べ、不均一な層構造では、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性、反発性をより柔軟にコントロールでき、設計の自由度が向上することが示唆された。
【0052】
また、球面圧縮の場合、不均一な層構造では、図6Bの「F10-A10_角」、「F15-A10_角」、「F10-A15_角」、及び「F15-A15_角」の曲線に示すように、圧縮初期の傾きが緩やかであり、圧縮中期の傾きが概ね平坦(フラット)になった。圧縮中期の傾きが平坦になると面積が増大することから「衝撃吸収性」に寄与する。また、不均一な層構造では、圧縮後期におけるグラフの立ち上がりが緩やかであった。このことから、不均一な層構造では、フィット感を得つつ、足裏の疾患部への負荷が緩和する可能性が示唆された。
【0053】
ここで、図7及び図8を用いて、第1の実施形態の比較例に係る層構造の不均一化と物性の関係について説明する。図7及び図8は、第1の実施形態の比較例に係る層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。図7には、第1の実施形態の比較例に係る物体の圧縮特性を例示する。図8には、図7の圧縮特性の計測に用いられる物体(三次元構造体)の一例を示す。図8の物体には、図中の鉛直下方向に荷重がかけられる。
【0054】
図7では、物体(三次元構造体)に対して重力方向に球面圧縮することにより圧縮特性を計測した。図7において、グラフの縦軸は荷重[N]に対応し、グラフの横軸は荷重に対する圧縮比率[%]に対応する。「F15/A15_角」は、図8に示すように、構造柱が角柱形状であり、下層にモデルAの単位構造「100-15」が積層され、上層にモデルFの単位構造「100-15」が積層された三次元構造体の圧縮時の曲線を示す。ここで、単位構造「100-15」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「15」である単位構造である。
【0055】
すなわち、図6A及び図6Bの物体(三次元構造体)は、異なる層を交互に配置することによって層構造を不均一化したものであり、図7の物体は、異なる層を単純に上下に配置することによって層構造を不均一化したものである。
【0056】
図7に示すように、球面圧縮の場合、比較例に係る物体では、圧縮初期から圧縮中期(圧縮比率0~40%程度)の傾きが緩やかであるが、圧縮中期以降(圧縮比率40%以上)におけるグラフの立ち上がりが急峻であった。このことから、異なる層を単純に上下に配置しただけでは、フィット感は得られるものの、足裏の疾患部への負荷が大きい可能性が示唆された。
【0057】
すなわち、異なる層を交互に配置することによって層構造を不均一化した場合(図6B)には、図9の左図の網掛け領域に示すように、局所的な荷重を層ごとに段階的に分散させることができると考えられる。一方、異なる層を単純に上下に配置することによって層構造を不均一化した場合(図7)には、図9の右図の網掛け領域に示すように、局所的な荷重が局所的に伝わり、分散し難いと考えられる。なお、図9は、第1の実施形態に係る半球圧縮における応力の分散について説明するための図である。
【0058】
上述してきたように、第1の実施形態に係るインソール10は、所定の形状を一単位とする単位構造が平面的に複数配列された層が複数積層される。また、インソール10において、複数の層のうち第1層に配列される第1単位構造は、第1層とは異なる第2層に配列される第2単位構造とは異なる。これにより、第1の実施形態のインソール10は、用途に応じた適切な物性を有する。例えば、インソール10は、外形や材料に制約がある場合にも、異なる層の交互配置による層構造の不均一性を有することにより、用途に応じた適切な物性を有する。つまり、本実施形態によれば、用途に応じた外形と物性を兼ね備える三次元構造体を提供することができる。
【0059】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、異なる層の交互配置によって層構造の不均一化を導入した場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、インソール10は、構造柱の断面積の段階的変化(グラデーション)によって層構造の不均一化が導入されても良い。そこで、第2の実施形態では、構造柱の断面積の段階的変化によって層構造の不均一化を導入した場合を説明する。
【0060】
なお、構造柱の断面積は、単位構造内の各構造柱の太さを比較するために用いたパラメータである。例えば、構造柱の断面積は、構造柱の軸に対する直交断面の面積であるが、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、構造柱の軸に対して予め規定された傾きの断面の面積であっても良い。また、円柱形状の構造柱であれば直交断面の直径や周の長さであっても良いし、角柱形状の構造柱であれば直交断面の一辺の長さであっても良い。ただし、円柱形状及び角柱形状のいずれの形状の構造柱においても比較可能なパラメータとしては、「断面積」を用いるのが好適であると考えられる。なお、以下の説明で構造柱の「太さ」について言及した箇所は、太さの数値を言及する場合を除き、構造柱の「断面積」と読み替え可能である。
【0061】
なお、第2の実施形態に係るインソール10の構造は、構造柱の断面積の段階的変化によって層構造の不均一化が導入される点を除き、第1の実施形態にて説明した内容と基本的に同様である。そこで、第2の実施形態では、第1の実施形態の内容と異なる点について説明することとし、第1の実施形態と同様の内容については説明を省略する。
【0062】
図10A図10B、及び図10Cを用いて、第2の実施形態に係る構造柱の断面積の段階的変化による層構造の不均一化について説明する。図10A図10B、及び図10Cは、第2の実施形態に係る異なる層の交互配置による層構造の不均一化について説明するための図である。図10A図10Cでは、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に5個ずつ、合計125個の単位構造が並んだ集合体(三次元構造体)において、層構造の不均一化を導入した場合を例示する。この集合体は、インソール10の領域R1~領域R3のうち、少なくとも一つを構成する。図10A図10Cにおいて、Y軸は荷重方向の逆方向に対応し、X軸はY軸に直交し、Z軸はX軸及びY軸に直交する。図10Aは、集合体をZ軸の負の方向から見た図である。図10Bは、集合体の1層目をY軸の正の方向から見た図である。図10Cは、集合体の2層目をY軸の正の方向から見た図である。
【0063】
図10A図10Cに示す集合体は、XZ平面に25個の単位構造が配列された層が、Y軸方向に5層積層された層構造を有する。この層構造における各層の単位構造は、単位構造を構成する複数の構造柱の断面積が、上層ほど小さく、下層ほど大きい。
【0064】
具体的には、1層目~5層目の各層には、モデルAの単位構造がX軸方向及びZ軸方向に5個ずつ配列される。この層構造おいて、1層目の構造柱の断面積は、2層目の構造柱の断面積より大きい。また、2層目の構造柱の断面積は、3層目の構造柱の断面積より大きい。また、3層目の構造柱の断面積は、4層目の構造柱の断面積より大きい。また、4層目の構造柱の断面積は、5層目の構造柱の断面積より大きい。このように、第2の実施形態に係る層構造において、各層に配列される単位構造を構成する複数の構造柱の断面積は、各層の上層に配列される単位構造を構成する複数の構造柱の断面積より大きい。
【0065】
なお、図10A図10Cにて説明した内容はあくまで一例であり、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図10A図10Cでは、125個の単位構造が集合体を形成する場合を説明したが、集合体を形成する単位構造の数は任意に設定可能である。また、図10A図10Cでは、集合体が立方体形状となる場合を説明したが、集合体は、任意の形状(例えば、インソール10の領域R1~領域R3などの形状)に形成可能である。
【0066】
また、図10A図10Cでは、モデルAを用いて層構造を構成する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、層構造を構成する単位構造としては、例えば図3に示したように、任意の単位格子モデルを適用可能である。
【0067】
次に、図11A及び図11Bを用いて、第2の実施形態に係る構造柱の断面積の段階的変化による層構造の不均一化と物性の関係について説明する。図11A及び図11Bは、第2の実施形態に係る構造柱の断面積の段階的変化による層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。図11Aには、図10A図10Cに示した層構造を有する物体の圧縮特性を、平面圧縮により計測した曲線を例示する。図11Bには、図10A図10Cに示した層構造を有する物体の圧縮特性を、球面圧縮により計測した曲線を例示する。
【0068】
図11Aでは、各物体に対して重力方向(荷重方向)に平面圧縮することにより圧縮特性を計測した。図11Aにおいて、グラフの縦軸は応力[MPa]に対応し、グラフの横軸は応力に対する圧縮比率[%]に対応する。「7-12gr」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の最上層の構造柱の太さが「7」、最下層の構造柱の太さが「12」となるように、各層の構造柱の太さを段階的に異ならせた物体の圧縮時の曲線を示す。「7-15gr」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の最上層の構造柱の太さが「7」、最下層の構造柱の太さが「15」となるように、各層の構造柱の太さを段階的に異ならせた物体の圧縮時の曲線を示す。なお、「100-7」、「100-10」、及び「100-12」の曲線は、図6Aと同様であるので説明を省略する。
【0069】
図11Bでは、各物体に対して重力方向(荷重方向)に球面圧縮することにより圧縮特性を計測した。図11Bにおいて、グラフの縦軸は荷重[N]に対応し、グラフの横軸は荷重に対する圧縮比率[%]に対応する。なお、「7-12gr」、及び「7-15gr」の曲線は、球面圧縮により計測された圧縮特性の曲線である点を除き、図11Aと同様であるので説明を省略する。
【0070】
平面圧縮の場合、構造柱の太さを段階的に異ならせた不均一な層構造では、図11Aの「7-12gr」、及び「7-15gr」の曲線に示すように、圧縮初期(圧縮比率0~10%程度)の傾きは概ね一致していたのに対し、圧縮中期以降(圧縮比率20%以上)の傾きやグラフの面積は異なっていた。このことから、構造柱の太さを段階的に異ならせた層構造において構造柱の太さを変更することで、フィット感をほぼ一定に保ったまま、一定変位時の応力(硬さ)及び衝撃吸収性を所望の範囲にコントロールできることが示唆された。したがって、均一な層構造に比べ、不均一な層構造では、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性、反発性をより柔軟にコントロールでき、設計の自由度が向上することが示唆された。
【0071】
また、球面圧縮の場合、構造柱の太さを段階的に異ならせた不均一な層構造では、図11Bの「7-12gr」、及び「7-15gr」の曲線に示すように、圧縮初期から圧縮後期にかけて緩やかに傾きが大きくなった。また、不均一な層構造では、圧縮後期におけるグラフの立ち上がりが緩やかであった。このことから、不均一な層構造では、フィット感を得つつ、足裏の疾患部への負荷の増大が緩やかである可能性が示唆された。
【0072】
ここで、図12及び図13を用いて、第2の実施形態の比較例に係る層構造の不均一化と物性の関係について説明する。図12及び図13は、第2の実施形態の比較例に係る層構造の不均一化と物性の関係について説明するための図である。図12には、第2の実施形態の比較例に係る物体の圧縮特性を例示する。図13には、図12の圧縮特性の計測に用いられる物体(三次元構造体)の一例を示す。図13の物体には、図中の鉛直下方向に荷重がかけられる。
【0073】
図12では、物体(三次元構造体)に対して重力方向に球面圧縮することにより圧縮特性を計測した。図12において、グラフの縦軸は荷重[N]に対応し、グラフの横軸は荷重に対する圧縮比率[%]に対応する。「A7/A15」は、図13に示すように、下層にモデルAの単位構造「100-15」が積層され、上層にモデルAの単位構造「100-7」が積層された三次元構造体の圧縮時の曲線を示す。ここで、単位構造「100-15」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「15」である単位構造である。また、単位構造「100-7」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「7」である単位構造である。また、「A7/A12」は、下層にモデルAの単位構造「100-12」が積層され、上層にモデルAの単位構造「100-7」が積層された三次元構造体の圧縮時の曲線を示す。ここで、単位構造「100-12」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「12」である単位構造である。
【0074】
すなわち、図11A及び図11Bの物体(三次元構造体)は、構造柱の太さを段階的に異ならせることによって層構造を不均一化したものであり、図12の物体は、構造柱の太さが異なる層を単純に上下に配置することによって層構造を不均一化したものである。
【0075】
図12に示すように、球面圧縮の場合、比較例に係る物体では、圧縮初期から圧縮中期(圧縮比率0~30%程度)の傾きが緩やかであるが、圧縮中期以降(圧縮比率30%以上)におけるグラフの立ち上がりが急峻であった。このことから、構造柱の太さが異なる層を単純に上下に配置しただけでは、フィット感は得られるものの、足裏の疾患部への負荷が急激に大きくなる可能性が示唆された。
【0076】
つまり、構造柱の太さが異なる層を単純に上下に配置した層構造(図12)では、球面圧縮による負荷が着装初期(圧縮初期)には小さいものの、着装後(圧縮中期~後期)に急激に大きくなることから、疾患部に対する刺激(痛み)が大きいと考えられる。これに対し、構造柱の太さを段階的に異ならせた不均一な層構造(図11B)では、球面圧縮による負荷が着装初期から徐々に大きくなるものの、着装後にも急激には大きくならない。このように、構造柱の太さを段階的に異ならせた不均一な層構造では、疾患部に対する負荷の明確な高低変化がないため、疾患部に対する刺激(痛み)が小さいと考えられる。
【0077】
上述してきたように、第2の実施形態に係るインソール10において、第1層は、第2層より下層に配置され、第1層に配列される第1単位構造を構成する複数の構造柱の断面積は、第2層に配列される第2単位構造を構成する複数の構造柱の断面積より大きい。これにより、第2の実施形態のインソール10は、用途に応じた適切な物性を有する。例えば、インソール10は、外形や材料に制約がある場合にも、構造柱の断面積の段階的変化による層構造の不均一性を有することにより、用途に応じた適切な物性を有する。つまり、本実施形態によれば、用途に応じた外形と物性を兼ね備える三次元構造体を提供することができる。
【0078】
すなわち、第1の実施形態及び第2の実施形態によれば、インソール10において、各層に配列される単位構造は、その単位構造を構成する複数の構造柱の断面積、及び、複数の構造柱の配置パターンのうち少なくとも一方が、他の層に配列される単位構造とは異なる。
【0079】
なお、第2の実施形態にて説明した、構造柱の断面積の段階的変化によって層構造の不均一化を導入する構成は、単位空間が三角柱形状(n=3)である場合に好適である。例えば、単位空間が三角柱形状である場合には、単位空間を構成する頂点の数が少ないので、選択可能な単位格子モデルのバリエーションが少ない。このため、単位空間が三角柱形状である場合には、異なる層として交互配置可能な単位格子モデルの選択肢が少ないので、構造柱の断面積の段階的変化によって層構造の不均一化を導入するのが好適である。
【0080】
(第3の実施形態)
上記の実施形態では、層構造における不均一化を導入した場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、インソール10は、構造柱の欠失(deletion)による荷重方向における単位構造の非対称化が導入されても良い。そこで、第3の実施形態では、構造柱の欠失によって荷重方向における単位構造の非対称化を導入した場合を説明する。
【0081】
なお、第3の実施形態に係るインソール10の構造は、構造柱の欠失によって荷重方向における単位構造の非対称化が導入される点を除き、第1の実施形態にて説明した内容と基本的に同様である。そこで、第3の実施形態では、第1の実施形態の内容と異なる点について説明することとし、第1の実施形態と同様の内容については説明を省略する。
【0082】
すなわち、インソール10は、n(nは3以上の整数)角柱形状の空間を一単位とする単位構造が複数配列される。また、インソール10において、複数の単位構造のうち少なくとも一つは、空間の中心と、n角柱形状を形成する2n個の頂点のうちp(pは2≦p≦(2n-1)を充たす整数)個の頂点とを接続するp本の構造柱を有する。なお、n角柱形状は、四角柱形状又は六角柱形状であるのが好適である。
【0083】
図14図15A図15B図15C図15D、及び図15Eを用いて、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明する。図14図15Eは、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。なお、図14図15Eでは、図3のモデルAの単位構造に構造柱の欠失を導入した場合を例示して説明する。図14図15Eにおいて、点P1~点P8は、図2に示した点P1~点P8にそれぞれ対応する。点P9は、単位構造が一単位とする空間の中心点(モデルAの交差部)に対応する。また、図14図15Eにおいて、Y軸は荷重方向の逆方向に対応し、X軸はY軸に直交し、Z軸はX軸及びY軸に直交する。つまり、インソール10において、単位構造は、n角柱形状の空間の上面に対して荷重がかかるように配置される。
【0084】
図14には、欠失が無いモデルAの単位構造(対称な単位構造)において、欠失対称となり得る各構造柱について説明する。図14において、構造柱L1は、点P1と点P9とを結ぶ線上に配置された構造柱である。構造柱L2は、点P2と点P9とを結ぶ線上に配置された構造柱である。構造柱L3は、点P3と点P9とを結ぶ線上に配置された構造柱である。構造柱L4は、点P4と点P9とを結ぶ線上に配置された構造柱である。構造柱L5は、点P5と点P9とを結ぶ線上に配置された構造柱である。構造柱L6は、点P6と点P9とを結ぶ線上に配置された構造柱である。構造柱L7は、点P7と点P9とを結ぶ線上に配置された構造柱である。構造柱L8は、点P8と点P9とを結ぶ線上に配置された構造柱である。
【0085】
図15Aでは、1本の構造柱の欠失による非対称化について説明する。図15Aに例示の単位構造「D1」は、構造柱L1が欠失した構造である。つまり、単位構造「D1」は、構造柱L2、構造柱L3、構造柱L4、構造柱L5、構造柱L6、構造柱L7、及び構造柱L8を有する構造である。
【0086】
図15B図15Dでは、2本の構造柱の欠失による非対称化について説明する。図15Bに例示の単位構造「D2A」は、構造柱L1及び構造柱L7が欠失した構造である。つまり、単位構造「D2A」は、構造柱L2、構造柱L3、構造柱L4、構造柱L5、構造柱L6、及び構造柱L8を有する構造である。図15Cに例示の単位構造「D2B」は、構造柱L1及び構造柱L2が欠失した構造である。つまり、単位構造「D2B」は、構造柱L3、構造柱L4、構造柱L5、構造柱L6、構造柱L7、及び構造柱L8を有する構造である。図15Cに例示の単位構造「D2C」は、構造柱L1及び構造柱L3が欠失した構造である。つまり、単位構造「D2C」は、構造柱L2、構造柱L4、構造柱L5、構造柱L6、構造柱L7、及び構造柱L8を有する構造である。
【0087】
図15Eでは、4本の構造柱の欠失による非対称化について説明する。図15Eに例示の単位構造「D4」は、構造柱L1、構造柱L3、構造柱L6、及び構造柱L8が欠失した構造である。つまり、単位構造「D4」は、構造柱L2、構造柱L4、構造柱L5、及び構造柱L7を有する構造である。
【0088】
なお、単位構造のうちいずれかの構造柱を欠失させたとしても、各単位構造が3次元的に配列されると、各頂点にはいずれかの単位構造の構造柱が存在することになるので、各頂点には構造物が残存することになる。このため、例えば図15Aに示したように、構造柱L1が欠失した場合にも、点P1には球状の構造物が残存することとなる。なお、図15Bの点P1及び点P7、図15Cの点P1及び点P2、図15Dの点P1及び点P3、図15Eの点P1、点P3、点P6、及び点P8の各点の球状の構造物についても同様である。
【0089】
このように、図15A図15Eに示したモデルAの単位構造は、8本の構造柱L1~構造柱L8のうち、少なくとも1本の構造柱が欠失した非対称な構造を有する。そして、この非対称な単位構造がX軸、Y軸、及びZ軸方向に複数配列されることにより、用途に応じた適切な物性を有するインソール10が造形可能となる。
【0090】
なお、図14図15Eに示した内容はあくまで一例であり、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、欠失させる構造柱の本数は、欠失の無い単位構造における構造柱の総数のうち半数以下であれば任意に欠失可能である。つまり、モデルAの単位構造では、8本の構造柱L1~構造柱L8のうち4本以下であれば構造柱を欠失させることが可能である。言い換えると、単位構造は、(n/2)本以上の構造柱を有するのが好適である。
【0091】
また、欠失させる構造柱の位置は、任意に設定可能である。例えば、1本の構造柱を欠失させる場合には、8本の構造柱L1~構造柱L8のうち任意の1本を欠失させることが可能である。
【0092】
また、図14図15Eでは、構造柱が円柱形状である場合を示したが、多角柱形状であっても良い。つまり、構造柱は、円柱形状又は多角柱形状であるのが好適である。
【0093】
次に、図16を用いて、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化と物性の関係について説明する。図16は、第3の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化と物性の関係について説明するための図である。図16には、物体の圧縮特性を例示する。圧縮特性とは、物体に印加された応力[MPa]と、その応力による物体の圧縮比率[%](変位)との関係を表した曲線(グラフ)である。図16では、各単位構造により造形された物体に対して重力方向に平面圧縮することにより圧縮特性を計測した。
【0094】
図16において、グラフの縦軸は応力[MPa]に対応し、グラフの横軸は圧縮比率[%]に対応する。「D4 100-15」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「15」である単位構造「D4」(図15E)の圧縮時の曲線を示す。「D2A 100-12」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「12」である単位構造「D2A」(図15B)の圧縮時の曲線を示す。「D2B 100-12」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「12」である単位構造「D2B」(図15C)の圧縮時の曲線を示す。「100-7」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「7」であるモデルAの単位構造(欠失無し)の圧縮時の曲線を示す。「100-10」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「10」であるモデルAの単位構造(欠失無し)の圧縮時の曲線を示す。「100-12」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「12」であるモデルAの単位構造(欠失無し)の圧縮時の曲線を示す。
【0095】
図16に示すように、構造柱の欠失の無いモデルAの単位構造では、構造柱の太さに応じて圧縮初期(圧縮比率0~10%程度)の傾きや、圧縮後期(圧縮比率50%以上)のグラフ形状、グラフの面積(積分値)などが大きく異なっていた。ここで、圧縮初期の傾きは、インソール10の「フィット感」に寄与する。また、圧縮後期のグラフ形状は、インソール10の「応力(硬さ)」に寄与する。また、グラフの面積は、インソール10の「衝撃吸収性」に寄与する。このことから、構造柱の欠失の無いモデルAの単位構造では、構造柱の太さを変更しただけで、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性などの物性がともに大きく変化することが示唆された。
【0096】
例えば「100-10」と比較した場合、「100-12」では構造柱を太くすることで応力(硬さ)及び衝撃吸収性が向上する一方、圧縮初期の傾きも大きく変化しており、フィット感が損なわれる可能性を示唆している。一方、構造柱を細くすると「100-7」のグラフが示すように応力(硬さ)及び衝撃吸収性が低下する。このことから、モデルAの単位構造で構造柱の太さを変更しただけでは、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性などの物性が連動して変化してしまうことが示唆された。すなわち、モデルAの単位構造で構造柱の太さを変更しただけでは、フィット感、応力(硬さ)、及び衝撃吸収性などの物性を個別に所望の範囲にコントロールすることは難しいことが示唆された。
【0097】
これに対し、第3の実施形態に係る単位構造「D4」、単位構造「D2A」及び単位構造「D2B」では、圧縮初期の傾きは概ね一致していたのに対し、圧縮後期の傾きやグラフの面積は異なっていた。このことから、構造柱が欠失した単位構造で構造柱の太さを変更することで、フィット感をほぼ一定に保ったまま、一定変位時の応力(硬さ)及び衝撃吸収性を所望の範囲にコントロールできることが示唆された。したがって、構造柱の欠失の無い単位構造のみを用いた場合に比べ、構造柱の欠失を含む単位構造を併用する場合には、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性をより柔軟にコントロールでき、設計の自由度が向上することが示唆された。
【0098】
上述してきたように、第3の実施形態のインソール10は、n(nは3以上の整数)角柱形状の空間を一単位とする単位構造が複数配列される。また、インソール10において、複数の単位構造のうち少なくとも一つは、空間の中心と、n角柱形状を形成する2n個の頂点のうちp(pは2≦p≦(2n-1)を充たす整数)個の頂点とを接続するp本の構造柱を有する。これにより、第3の実施形態のインソール10は、用途に応じた適切な物性を有する。例えば、インソール10は、外形や材料に制約がある場合にも、単位構造に構造柱の欠失を導入したことにより、用途に応じた適切な物性を有する。つまり、本実施形態によれば、用途に応じた外形と物性を兼ね備える三次元構造体を提供することができる。
【0099】
なお、図16において、単位構造「D4」及び単位構造「D2A」は、単位構造「D2B」と比較してグラフ形状に歪みが少なかった。単位構造「D4」及び単位構造「D2A」は、構造柱L1が欠失した頂点P1に隣接する3つの頂点P2、頂点P4、及び頂点P5に構造柱が接続される構造である。つまり、2n個の頂点のうち構造柱が接続されない頂点に隣接する頂点は、構造柱が接続されるのが好適である。
【0100】
また、単位構造「D2C」及び単位構造「D4」は、構造柱L1が欠失した頂点P1に対して中心点(点P9)を挟んで対向する頂点P7は、構造柱L7が接続される。つまり、2n個の頂点のうち構造柱が接続されない頂点に対して中心を挟んで対向する頂点は、構造柱が接続されるのが好適である。
【0101】
また、インソール10は、1種類の単位構造によって造形されても良いし、複数種類の単位構造(対称な単位構造及び非対称な単位構造を含む)によって造形されても良い。例えば、インソール10の全体が単位構造「D1」によって造形されても良い。また、全体が単位構造「D1」によって造形されたインソール10において、領域Aが他の単位構造(例えば、単位構造「D2A」)によって造形されても良い。
【0102】
なお、第3の実施形態にて記載した「欠失」は、例えば、「欠陥」、及び「欠損」などと言い換え可能である。なお、「欠失」、「欠陥」、及び「欠損」などの記載は、元の単位格子モデルと比較して一部の構造柱が除外された構造であることを表す意図であり、最終製品としての装具の機能が劣っているという意図ではない。
【0103】
また、第3の実施形態では、構造柱の欠失によって荷重方向における単位構造の非対称化を導入した場合を説明したが、第3の実施形態の内容は、上述した実施形態の内容と適宜組み合わせ可能である。例えば、インソール10を構成する層構造において、任意の層に配列される複数の単位構造のうち少なくとも一つは、単位構造が一単位とする空間の中心と、n角柱形状を形成する2n個の頂点のうちp(pは2≦p≦(2n-1)を充たす整数)個の頂点とを接続するp本の構造柱を有する。
【0104】
(第4の実施形態)
第3の実施形態では、構造柱の欠失による荷重方向における単位構造の非対称化が導入される場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、インソール10は、構造柱の太さの変更(多様化)による荷重方向における単位構造の非対称化が導入されても良い。そこで、第4の実施形態では、構造柱の太さの変更によって荷重方向における単位構造の非対称化を導入した場合を説明する。
【0105】
なお、第4の実施形態に係るインソール10の構造は、構造柱の太さの変更によって荷重方向における単位構造の非対称化が導入される点を除き、第1の実施形態にて説明した内容と基本的に同様である。そこで、第4の実施形態では、第1の実施形態の内容と異なる点について説明することとし、第1の実施形態と同様の内容については説明を省略する。
【0106】
すなわち、第4の実施形態に係るインソール10は、所定の形状を一単位とする単位構造が複数配列される。また、インソール10において、複数の単位構造のうち少なくとも一つは、断面積がa1である第1構造柱と、断面積がa2(a2≠a1)である第2構造柱とを含む複数の構造柱を有する。なお、単位構造は、n(nは3以上の整数)角柱形状の空間を一単位とする単位構造であるのが好適である。また、n角柱形状は、四角柱形状又は六角柱形状であるのが好適である。
【0107】
図17を用いて、第4の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明する。図17は、第4の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化について説明するための図である。なお、図17では、図3のモデルAの単位構造において、構造柱の太さの変更(多様化)による荷重方向における非対称化を導入した場合を例示して説明する。図17において、点P1~点P8は、図2に示した点P1~点P8にそれぞれ対応する。点P9は、単位構造が一単位とする空間の中心点(モデルAの交差部)に対応する。また、図17において、Y軸は荷重方向の逆方向に対応し、X軸はY軸に直交し、Z軸はX軸及びY軸に直交する。つまり、インソール10において、単位構造は、n角柱形状の空間の上面に対して荷重がかかるように配置される。
【0108】
ここで、各構造柱の太さが同一であるモデルAの単位構造(対称な単位構造)は、図14に示した単位構造と同様である。つまり、n角柱形状の単位構造において、複数の構造柱それぞれは、n角柱形状の空間の中心と、n角柱形状を形成する2n個の頂点それぞれとを接続する。図14において、8本の構造柱L1~構造柱L8の太さは違い(変化)が無く、同一(一定)である。なお、図14に示した構造柱L1~構造柱L8のうち、構造柱L1、構造柱L2、構造柱L3、及び構造柱L4は、単位空間の下面を形成する複数の頂点それぞれに接続される。また、構造柱L1~構造柱L8のうち、構造柱L5、構造柱L6、構造柱L7、及び構造柱L8は、単位空間の上面を形成する複数の頂点それぞれに接続される。なお、構造柱L1、構造柱L2、構造柱L3、及び構造柱L4は、第1構造柱の一例である。また、構造柱L5、構造柱L6、構造柱L7、及び構造柱L8は、第2構造柱の一例である。
【0109】
図17では、荷重方向における単位構造の非対称化について説明する。図17に例示の単位構造は、構造柱L1、構造柱L2、構造柱L3、及び構造柱L4の太さが、構造柱L5、構造柱L6、構造柱L7、及び構造柱L8の太さより太い構造である。つまり、第1構造柱の断面積a1は、第2構造柱の断面積a2より大きい。これにより、図17に例示の単位構造は、荷重方向における下側が上側よりも高密度となるため、荷重方向において非対称となる。
【0110】
ここで、荷重方向において単位構造を非対称としたのは、荷重方向における物体の密度が不均一になると、物体の力学特性が変化するという知見を得たからである。つまり、荷重方向において非対称な単位構造がX軸、Y軸、及びZ軸方向に複数配列されることにより形成された物体は、荷重方向における密度が不均一になるため、その力学特性が変化すると考えられる。
【0111】
このように、図17に示したモデルAの単位構造は、異なる太さの構造柱を有することにより、荷重方向において非対称な構造を有する。そして、荷重方向において非対称な単位構造がX軸、Y軸、及びZ軸方向に複数配列されることにより、用途に応じた適切な物性を有するインソール10が造形可能となる。
【0112】
なお、図17に示した内容はあくまで一例であり、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、太さが変更される構造柱の本数、位置、太さは、任意に設定可能である。例えば、単位構造を設計する者は、8本の構造柱L1~構造柱L8の中から任意の構造柱を任意数選択し、太さを任意に設定することができる。また、図17の例では、構造柱の太さが太さa1及び太さa2の2段階に設定される場合を説明したが、3段階以上に設定されても良い。ただし、単位構造は、荷重方向において非対称性を有するのが好適である。
【0113】
また、図17では、構造柱が円柱形状である場合を示したが、多角柱形状であっても良い。つまり、構造柱は、円柱形状又は多角柱形状であるのが好適である。
【0114】
次に、図18A及び図18Bを用いて、第4の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化と物性の関係について説明する。図18A及び図18Bは、第4の実施形態に係る荷重方向における単位構造の非対称化と物性の関係について説明するための図である。図18A及び図18Bには、物体の圧縮特性を例示する。圧縮特性とは、物体に印加された応力[MPa]と、その応力による物体の圧縮比率[%](変位)との関係を表した曲線(グラフ)である。
【0115】
図18Aでは、各単位構造により造形された物体に対して重力方向(荷重方向)に平面圧縮することにより圧縮特性を計測した。図18Aにおいて、グラフの縦軸は応力[MPa]に対応し、グラフの横軸は圧縮比率[%]に対応する。「100-7/10」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「10」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の圧縮時の曲線を示す。「100-7/15」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「15」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の圧縮時の曲線を示す。「100-7/20」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「20」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の圧縮時の曲線を示す。「100-7」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「7」であるモデルAの単位構造の圧縮時の曲線を示す。「100-10」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「10」であるモデルAの単位構造の圧縮時の曲線を示す。「100-12」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「12」であるモデルAの単位構造の圧縮時の曲線を示す。
【0116】
図18Bでは、各単位構造により造形された物体に対して重力方向に平面圧縮した時の圧縮特性と、圧縮後に解放した時の圧縮特性(解放特性)を計測した。図18Bにおいて、グラフの縦軸は応力[MPa]に対応し、グラフの横軸は圧縮比率[%]に対応する。「100-7/10C」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「10」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の圧縮(Compression characteristics)時の曲線を示す(つまり、図18Aの「100-7/10」と同じ)。「100-7/10R」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「10」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の解放(Release characteristics)時の曲線を示す。「100-7/15C」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「15」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の圧縮時の曲線を示す(つまり、図18Aの「100-7/15」と同じ)。「100-7/15R」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「15」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の解放時の曲線を示す。「100-7/20C」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「20」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の圧縮時の曲線を示す(つまり、図18Aの「100-7/20」と同じ)。「100-7/20R」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の第1構造柱の太さが「20」であり、第2構造柱の太さが「7」である単位構造の解放時の曲線を示す。
【0117】
図18Aに示すように、各構造柱の太さが同一であるモデルAの単位構造では、構造柱の太さに応じて圧縮初期(圧縮比率0~10%程度)の傾きや、圧縮後期(圧縮比率50%以上)のグラフ形状、グラフの面積(積分値)などが大きく異なっていた。ここで、圧縮初期の傾きは、インソール10の「フィット感」に寄与する。また、圧縮後期のグラフ形状は、インソール10の「応力(硬さ)」に寄与する。また、グラフの面積は、インソール10の「衝撃吸収性」に寄与する。このことから、各構造柱の太さが同一であるモデルAの単位構造では、構造柱の太さを変更しただけで、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性などの物性がともに大きく変化することが示唆された。
【0118】
例えば「100-10」と比較した場合、「100-12」では構造柱を太くすることで応力(硬さ)及び衝撃吸収性が向上する一方、圧縮初期の傾きも大きく変化しており、フィット感が損なわれる可能性を示唆している。一方、構造柱を細くすると「100-7」のグラフが示すように応力(硬さ)及び衝撃吸収性が低下する。このことから、モデルAの単位構造で構造柱の太さを変更しただけでは、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性などの物性が連動して変化してしまうことが示唆された。すなわち、モデルAの単位構造で構造柱の太さを変更しただけでは、フィット感、応力(硬さ)、及び衝撃吸収性などの物性を個別に所望の範囲にコントロールすることは難しいことが示唆された。
【0119】
これに対し、第4の実施形態に係る荷重方向において非対称な単位構造では、図18Aの「100-7/10」、「100-7/15」、及び「100-7/20」の曲線に示すように、圧縮中期(圧縮比率10~40%程度)における傾きが概ね平坦(フラット)になった。圧縮中期の傾きが平坦になると面積が増大することから「衝撃吸収性」に寄与する。また、荷重方向において非対称な単位構造では、圧縮後期におけるグラフの立ち上がりやグラフの面積が異なっていた。また、荷重方向において非対称な単位構造では、対称な単位構造と比較して圧縮初期の傾きの違いが小さかった。このことから、異なる太さの構造柱を有する単位構造で構造柱の太さを変更することで、一定変位時の応力(硬さ)及び衝撃吸収性を所望の範囲にコントロールできる一方で、フィット感への影響を抑えられることが示唆された。
【0120】
また、第4の実施形態に係る荷重方向において非対称な単位構造では、図18Bの「100-7/10R」、「100-7/15R」、及び「100-7/20R」の曲線に示すように、ヒステリシスロス(それぞれの圧縮時の曲線との差分)が増大していた。ヒステリシスロスは、解放時の反発性(密着性)に寄与する。このことから、異なる太さの構造柱を有する単位構造で構造柱の太さを変更することで、反発性を所望の範囲にコントロールできることが示唆された。
【0121】
したがって、各構造柱の太さが同一である単位構造のみを用いた場合に比べ、異なる太さの構造柱を有する単位構造を併用する場合には、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性、反発性をより柔軟にコントロールでき、設計の自由度が向上することが示唆された。
【0122】
ここで、図19及び図20を用いて、比較例に係る荷重方向における物体の非対称化と物性の関係について説明する。図19及び図20は、比較例に係る荷重方向における物体の非対称化と物性の関係について説明するための図である。図19には、比較例に係る物体の圧縮特性を例示する。図20には、図19の圧縮特性の計測に用いられる物体(三次元構造体)の一例を示す。図20の物体には、図中の鉛直下方向に荷重がかけられる。
【0123】
図19では、物体(三次元構造体)に対して重力方向に平面圧縮することにより圧縮特性を計測した。図19において、グラフの縦軸は応力[MPa]に対応し、グラフの横軸は圧縮比率[%]に対応する。「100-7_100-10」は、図20に示すように、下層に単位構造「100-10」が積層され、上層に単位構造「100-7」が積層された三次元構造体の圧縮時の曲線を示す。ここで、単位構造「100-10」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「10」であるモデルAの単位構造である。また、単位構造「100-7」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「7」であるモデルAの単位構造である。また、「100-7_100-12」は、図示しないが、下層に単位構造「100-12」が積層され、上層に単位構造「100-7」が積層された三次元構造体の圧縮時の曲線を示す。ここで、単位構造「100-12」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「12」であるモデルAの単位構造である。また、「100-7_100-15」は、図示しないが、下層に単位構造「100-15」が積層され、上層に単位構造「100-7」が積層された三次元構造体の圧縮時の曲線を示す。ここで、単位構造「100-15」は、単位空間の一辺の長さを「100」とした場合の構造柱の太さが「15」であるモデルAの単位構造である。なお、「100-7」、「100-10」、及び「100-12」は、図18Aと同様であるので説明を省略する。
【0124】
すなわち、図18A及び図18Bの物体(三次元構造体)は、内部に異なる太さの構造柱を有する単位構造によって形成されたものであり、図19の物体は、構造柱の太さが異なる2種類の単位構造によって形成されたものである。
【0125】
図19に示すように、比較例に係る物体では、圧縮初期から圧縮中期(圧縮比率0~30%程度)ではグラフの傾きや形状に大きな差異は無く、圧縮中期以降(圧縮比率30%以上)に大きくグラフが立ち上がっていた。このことから、構造柱の太さが異なる2種類の単位構造によって形成された物体では、圧縮中期以降の圧縮特性はある程度コントロール可能であるものの、圧縮初期から圧縮中期の物性を個別にコントロールすることは難しいことが示唆された。この結果、第4の実施形態に係る物体は、異なる太さの構造柱を有する単位構造によって形成されたことにより、構造柱の太さが異なる2種類の単位構造によって形成された物体と比較して、フィット感、応力(硬さ)、衝撃吸収性、反発性をより柔軟にコントロールでき、設計の自由度が向上することが示唆された。
【0126】
上述してきたように、第4の実施形態のインソール10は、所定の形状を一単位とする単位構造が複数配列される。また、インソール10において、複数の単位構造のうち少なくとも一つは、断面積がa1である第1構造柱と、断面積がa2(a2≠a1)である第2構造柱とを含む複数の構造柱を有する。これにより、第4の実施形態のインソール10は、用途に応じた適切な物性を有する。例えば、インソール10は、外形や材料に制約がある場合にも、異なる太さの構造柱を有することにより、用途に応じた適切な物性を有する。つまり、本実施形態によれば、用途に応じた外形と物性を兼ね備える三次元構造体を提供することができる。
【0127】
なお、インソール10は、1種類の単位構造によって造形されても良いし、複数種類の単位構造(対称な単位構造及び非対称な単位構造を含む)によって造形されても良い。例えば、インソール10の全体が図17の単位構造によって造形されても良い。また、全体が図17の単位構造によって造形されたインソール10において、領域Aが他の単位構造(例えば、図14の単位構造)によって造形されても良い。
【0128】
また、第4の実施形態では、構造柱の太さの変更によって荷重方向における単位構造の非対称化を導入した場合を説明したが、第4の実施形態の内容は、上述した実施形態の内容と適宜組み合わせ可能である。例えば、インソール10を構成する層構造において、任意の層に配列される複数の単位構造のうち少なくとも一つは、断面積がa1である第1構造柱と、断面積がa2(a2≠a1)である第2構造柱とを含む複数の構造柱を有していても良い。
【0129】
(変形例)
なお、本実施形態に係る層構造は、上記の実施形態にて説明した層構造に限定されるものではない。例えば、以下の変形例1又は変形例2に示す層構造であっても良い。
【0130】
図21A図21B、及び図21Cを用いて、変形例1に係る層構造の不均一化について説明する。図21A図21B、及び図21Cは、変形例1に係る層構造の不均一化について説明するための図である。図21A図21Cでは、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に5個ずつ、合計125個の単位構造が並んだ集合体において、層構造の不均一化を導入した場合を例示する。この集合体は、インソール10の領域R1~領域R3のうち、少なくとも一つを構成する。図21A図21Cにおいて、Y軸は荷重方向の逆方向に対応し、X軸はY軸に直交し、Z軸はX軸及びY軸に直交する。図21Aは、集合体をZ軸の負の方向から見た図である。図21Bは、集合体の1層目をY軸の正の方向から見た図である。図21Cは、集合体の2層目をY軸の正の方向から見た図である。
【0131】
図21A図21Cに示す層構造において、各層には、モデルA及びモデルFの単位構造が格子状に配列される。つまり、モデルA及びモデルFの単位構造は、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のいずれの方向においても互いに隣接しないように交互に配列される。
【0132】
また、図22A及び図22Bを用いて、変形例2に係る層構造の不均一化について説明する。図22A及び図22Bは、変形例2に係る層構造の不均一化について説明するための図である。図22A及び図22Bでは、各層の荷重方向(Y軸方向)の長さを変更(多様化)することにより、層構造の不均一化を導入した場合を例示する。この集合体は、インソール10の領域R1~領域R3のうち、少なくとも一つを構成する。図22A及び図22Bにおいて、Y軸は荷重方向の逆方向に対応し、X軸はY軸に直交し、Z軸はX軸及びY軸に直交する。図22Aは、集合体をZ軸の負の方向から見た図である。図22Bは、集合体の1層目~3層目をY軸の正の方向から見た図である。
【0133】
図22A及び図22Bに示す集合体は、XZ平面に25個の単位構造が配列された層が、Y軸方向に3層積層された層構造を有する。ここで、1層目の荷重方向の長さと、2層目の荷重方向の長さと、3層目の荷重方向の長さとは、互いに異なる。図22Aの例では、1層目の荷重方向の長さを「1」とした場合、2層目の荷重方向の長さは「1.5」であり、3層目の荷重方向の長さは「2.5」である。また、各層では、モデルAの単位構造がZ軸方向に5個並んだ列と、モデルFの単位構造がZ軸方向に5個並んだ列とが、X軸方向に交互に配列される。
【0134】
このように、本実施形態に係る層構造は、例えば、上記の変形例1又は変形例2に示す層構造が実現可能である。なお、層構造は、図21A図22Bに図示した内容に限定されるものでもない。層構造において、各層に配列される単位構造を構成する各構造柱の断面積、各構造柱の配置パターン、各構造柱の形状、各層の荷重方向の長さなどは、任意に設定可能である。
【0135】
(装具の製造方法)
上記の実施形態で説明した物体(インソール10)は、3次元プリンタ(3D-Printer)によって造形(製造)されるのが好適である。3次元プリンタによるインソール10の造形方法としては、光造形方式や粉末造形方式が適用可能である。
【0136】
光造形方式としては、例えば、SLA(Stereolithography)方式やDLP(Digital Light Projector)方式、LCD(Liquid Crystal Display)方式が適用可能である。SLA方式は、液体状の光硬化性樹脂に対して選択的にレーザーを照射して造形部位を一層ずつ光硬化させて積層していく造形方法である。また、DLP方式は、液体状の光硬化性樹脂に対してプロジェクタを用いて平面的に露光して高速に造形する造形方法である。また、LCD方式は、液体状の光硬化性樹脂に対して、紫外光をバックライトにして液晶パネル(LCD)に表示させた画像を投影させる造形方法である。
【0137】
また、粉末造形方式としては、例えば、粉末焼結積層造形方式や粉末樹脂の熱融合による方式が適用可能である。粉末焼結積層造形方式は、粉末状の樹脂に対して選択的にレーザーを照射して造形部位を焼結させる造形方法である。また、粉末樹脂の熱融合による方式は、粉末状の樹脂に対して選択的に溶融促進剤を噴射し、次いで加熱することで造形部位を融着させて積層していく造形方式である。
【0138】
ここで、光造形方式では光硬化性樹脂が利用され、粉末造形方式では熱可塑性樹脂が利用される。つまり、上記の実施形態で説明した単位構造は、光硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂により造形される。
【0139】
なお、上述した製造方法はあくまで一例であり、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、物体(装具)に要求される物性を有する材料を、単位構造の形成に要求される位置精度で造形可能な方法であれば、任意の造形方法が適用可能である。
【0140】
また、インソール10は、それぞれの領域(領域R1、領域R2、及び領域R3)が一体として造形(成形)可能である。一体として造形することにより、一度にインソール10全体を造形でき、また、各領域の境界部分の強度を保ち易い。
【0141】
また、インソール10は、それぞれの領域(領域R1、領域R2、及び領域R3)のパーツが個別に造形されても良い。個別に造形する場合、各領域の境界部分は互いに嵌合可能な形状に造形され、造形後に各領域のパーツが互いに嵌合されることでインソール10が製造される。個別に造形することにより、各領域のパーツを部分的に交換することができる。例えば、物性が異なる領域R2のパーツを複数造形しておき、対象者の状態(症状、病状など)に応じて領域R2のパーツを交換することで、物性を変更することができる。また、例えば、破損した領域のパーツのみを造形し、交換することもできる。
【0142】
(荷重方向)
上記の実施形態では、例えば図3に示すように荷重方向が図中の鉛直下方向に対応する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、装具内での単位構造の方向は、製造者の任意により適宜設定可能である。例えば、手に装着する装具であれば、手と装具との接点における法線方向を荷重方向として定義してもよい。この場合、図3の単位構造は、図中の鉛直下方向が人体との接点における法線方向に対応するように装具内に配列される。
【0143】
以上説明した実施形態によれば、用途に応じた適切な物性を有する装具を提供することができる。
【符号の説明】
【0144】
10 インソール
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21A
図21B
図21C
図22A
図22B