(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032710
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】マウスピース
(51)【国際特許分類】
A61F 5/56 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
A61F5/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138993
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】雪田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】崔 東一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 在
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA02
4C098BB15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】装着感が良好であり、かつ破損や変形が生じにくく、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースの相対的な位置決めを精度よく行えるマウスピースを提供する。
【解決手段】マウスピース100は、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120と、前記上顎マウスピースと前記下顎マウスピースを連結し、かつ前記下顎マウスピースの後方への変位を規制する左右一対の歯科連結部材160とを有する。上顎マウスピースは、前記歯科連結部材の一方の端部を支持する上支持部170を有し、下顎マウスピースは、前記歯科連結部材の他方の端部を支持する下支持部180を有し、上支持部および下支持部の少なくとも一方には、歯列に装着される装着部190、200が着脱可能に取り付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎マウスピースおよび下顎マウスピースと、
前記上顎マウスピースと前記下顎マウスピースを連結し、かつ前記下顎マウスピースの後方への変位を規制する左右一対の歯科連結部材と
を有し、
前記上顎マウスピースは、前記歯科連結部材の一方の端部を支持する上支持部を有し、
前記下顎マウスピースは、前記歯科連結部材の他方の端部を支持する下支持部を有し、
前記上支持部および前記下支持部の少なくとも一方には、歯列に装着される装着部が着脱可能に取り付けられる、
マウスピース。
【請求項2】
前記上支持部および前記下支持部の双方に、歯列に装着される装着部が着脱可能に取り付けられる、
請求項1に記載のマウスピース。
【請求項3】
前記装着部の曲げ弾性率は、前記上支持部および前記下支持部の曲げ弾性率よりも低い、
請求項1または2に記載のマウスピース。
【請求項4】
前記装着部の曲げ弾性率は、50~500MPaである、
請求項3に記載のマウスピース。
【請求項5】
前記上支持部または前記下支持部は、前記装着部を固定する固定部を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のマウスピース。
【請求項6】
前記上支持部または前記下支持部の前記装着部との接触部は、前記装着部の前記上支持部または前記下支持部との接触部に対して相補的な凹凸形状を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のマウスピース。
【請求項7】
前記装着部は、歯列全体を覆うように設けられている、
請求項1~6のいずれか一項に記載のマウスピース。
【請求項8】
前記上支持部または前記下支持部は、歯列全体を覆うように設けられている、
請求項1~7のいずれか一項に記載のマウスピース。
【請求項9】
前記上支持部および前記下支持部の少なくとも一方は、歯列の一部を覆う左右一対の支持部からなる、
請求項1~7のいずれか一項に記載のマウスピース。
【請求項10】
前記左右一対の支持部を連結する連結部材をさらに有する、
請求項9に記載のマウスピース。
【請求項11】
前記上支持部および前記下支持部はいずれも、左右一対のワイヤ部材を有する、
請求項1~7のいずれか一項に記載のマウスピース。
【請求項12】
前記上支持部および前記下支持部の少なくとも一方に着脱可能に取り付けられ、歯列に装着される前記装着部を有する、
請求項1~11のいずれか一項に記載のマウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
閉塞型睡眠時無呼吸症候群は、下顎が下がって気道を閉塞することが主な原因であるといわれている。そこで、閉塞型睡眠時無呼吸症候群を改善するために様々なマウスピースが提案されている。これらのマウスピースは、使用者の下顎の後方への変位を規制し、気道を広く保つことで睡眠時の無呼吸やいびきを改善する。
【0003】
たとえば、特許文献1には、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースと、これらを繋ぐ金属製の連結部材とを有するマウスピースが提案されている。当該マウスピースでは、連結部材によって、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースの相対的な位置を調整し、これを装着した使用者の下顎を前方に変位させる。上顎マウスピースおよび下顎マウスピースは、硬質な材料で構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースと、これらを繋ぐ連結部材とを有するマウスピースが記載されている。当該マウスピースでは、連結部材によって、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースの相対的な位置を調整し、使用者の下顎の後方への変位を規制する。当該マウスピースでは、たとえば、軟質な材料で構成された上顎マウスピースおよび下顎マウスピースに、硬質な材料で構成された支持部が接合され、当該支持部で連結部材を支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0224567号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/230152号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のマウスピースは、いずれも上顎マウスピースや下顎マウスピースを直接歯列に装着して使用される。しかしながら、特許文献1に示されるマウスピースでは、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースは、硬質な材料で構成されるため、装着した使用者に違和感を生じさせやすい。一方で、装着感を高めるために、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースの全体を軟質な材料で構成すると、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースの歯列と接触する部分が摩耗したり、連結部材近傍で上顎マウスピースおよび下顎マウスピースが破損または変形したりし、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースの相対的な位置の調整ができない(位置決めできない)などの問題があった。
【0007】
これに対し、特許文献2に示されるマウスピースでは、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースは軟質な材料で、支持部は相対的に硬質な材料で構成することができ、かつこれらは一体化されている。そのようなマウスピースでは、上記のような問題はないものの、たとえば歯ぎしりやクライチングなどによりマウスピースに大きな力(荷重)がかかった場合に、その力が分散されることなく上顎マウスピースや下顎マウスピースに伝達されやすいため、上顎マウスピースや下顎マウスピースの内部に局所的な応力が発生して変形し、精度よく位置決めできない場合があった。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明はなされたものである。具体的には、装着感が良好であり、かつ破損や変形が生じにくく、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースの相対的な位置決めを精度よく行うことができるマウスピースの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下のマウスピースを提供する。
上顎マウスピースおよび下顎マウスピースと、前記上顎マウスピースと前記下顎マウスピースを連結し、かつ前記下顎マウスピースの後方への変位を規制する左右一対の歯科連結部材とを有し、前記上顎マウスピースは、前記歯科連結部材の一方の端部を支持する上支持部を有し、前記下顎マウスピースは、前記歯科連結部材の他方の端部を支持する下支持部を有し、前記上支持部および前記下支持部の少なくとも一方には、歯列に装着される装着部が着脱可能に取り付けられる、マウスピース。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装着感が良好であり、かつ破損や変形が生じにくく、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースの相対的な位置決めを精度よく行えるマウスピースが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマウスピースの模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るマウスピースの模式的な分解斜視図である。
【
図3】
図3Aは、
図1の上顎マウスピースの3A-3A線の模式的な断面図であり、
図3Bは、
図1の下顎マウスピースの3B-3B線の模式的な断面図である。
【
図4】
図4Aは、
図1に示すマウスピースの閉口時の模式的な側面図であり、
図4Bは、
図1に示すマウスピースの開口時の模式的な側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の施形態に係るマウスピースの模式的な斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るマウスピースの模式的な分解斜視図である。
【
図7】
図7AおよびBは、本発明の第2の実施形態におけるマウスピースの変形例を示す模式的な斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施形態におけるマウスピースの変形例を示す模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、複数の実施形態を用いて、本発明のマウスピースを説明する。なお、以下の説明において、「前方」および「後方」は、それぞれ、マウスピースを装着した使用者の前方に向かう方向(口腔内で舌体から見て口唇側に向かう方向)および使用者の後方に向かう方向(口腔内で舌体から見て喉側に向かう方向)を意味する。また、「下方」は、マウスピースを装着した使用者の下方に向かう方向(使用者が直立したときに頭頂から足下へ向かう方向)を意味し、「左右方向」は、マウスピースを装着した使用者の上顎の正中を基準として、使用者に前方に向かって左右の方向(具体的には上顎の正中からみて両側の頬に向かう方向)を意味する。「外側」および「内側」は、それぞれ、マウスピースを装着した使用者の体表に近い側および体表から遠い側を意味する。
【0013】
また、以下の説明において、マウスピースを装着した使用者が閉口しているときを「閉口時」といい、マウスピースを装着した使用者が開口しているときを「開口時」という。閉口時には、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースは、互いの対向面が略平行となるように配置され、開口時には、下顎マウスピースが円弧状の軌道上を移動することにより、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースは、互いの対向面が最大で約45°程度の角度を有するように非平行に配置される。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマウスピース100の模式的な斜視図であり、
図2は、マウスピース100の模式的な分解斜視図である。
図3Aは、
図1の上顎マウスピースの3A-3A線の模式的な断面図であり、
図3Bは、
図1の下顎マウスピースの3B-3B線の模式的な断面図である。
図4Aは、マウスピース100の閉口時の模式的な側面図であり、
図4Bは、マウスピース100の開口時の模式的な側面図である。
【0015】
図1および2に示されるように、本実施形態のマウスピース100は、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120と、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120を連結し、下顎マウスピース120の後方への変位を規制するための左右一対の歯科連結部材160とを有する。
【0016】
上顎マウスピース110は、歯科連結部材160の一方の端部を支持する上支持部170を有し、下顎マウスピース120は、歯科連結部材160の他方の端部を支持する下支持部180を有する。そして、上支持部170および下支持部180には、それぞれ歯列に装着される装着部190および200が着脱可能に取り付けられる。
【0017】
本実施形態のマウスピース100では、歯科連結部材160によって、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120の相対的な位置が決定され、使用者の上顎に対する下顎の位置が適切に調整される。したがって、睡眠時に気道が広く保たれ、無呼吸やいびきが改善される。
【0018】
そして、装着部190および200は、それぞれ上支持部170および下支持部180に着脱可能に取り付けられる。それにより、両者が一体となっている場合と比べて、マウスピース100にかかる力が装着部190および200全体に分散して伝達されやすくなるため、変形などを生じにくい。それにより、装着感を良好にしつつ、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120の相対的な位置決めを精度よく行うことができる。すなわち、両者が一体となっている場合、マウスピースの硬質な部材にかかった力は、分散されることなく、そのまま軟質な部材に伝達されやすいため、軟質な部材の内部に応力が局所的に発生して変形などを生じる場合がある。これに対し、両者が別体となっている場合、マウスピースの上支持部170および下支持部180にかかった力は、装着部190および200全体に分散して伝達されやすいため、装着部190および200の内部に局所的な応力が発生しにくく、変形などを抑制しうる。
また、繰り返しの使用により装着部190および200が摩耗しても、装着部190および200を取り換えて使用できるため、使い勝手を良くすることもできる。また、装着部190および200の曲げ弾性率を、上支持部170および下支持部180の曲げ弾性率よりも低くすることで、装着感をさらに良好にすることができる。
【0019】
以下、本実施形態の各構成について説明する。
【0020】
1.上顎マウスピースおよび下顎マウスピース
上顎マウスピース110は、上記の通り、歯科連結部材160の一方の端部を支持する上支持部170を有する。下顎マウスピース120は、上記の通り、歯科連結部材160の他方の端部を支持する下支持部180を有する。
【0021】
1-1.上支持部および下支持部
上支持部170および下支持部180は、装着部190および200がそれぞれ着脱可能に取り付けられるように構成される。たとえば、上支持部170および下支持部180は、それぞれ装着部190および200を収容可能な凹部172および182を有する(
図1~3参照)。
【0022】
上支持部170および下支持部180は、装着部190および200を取り付けたときに、装着部190および200の少なくとも歯列の底面側または上面側、および外側面側を覆うように構成されてもよいし、歯列の内側面側、底面側または上面側、および外側面側を覆うように構成されてもよい。中でも、上支持部170および下支持部180は、装着部190および200を取り付けたときに、装着部190および200の歯列の内側面側、底面側または上面側、および外側面側を覆うようなアーチ状に構成されることが好ましい(
図3AおよびB参照)。それにより、装着部190および200をより安定に固定できるだけでなく、荷重も分散されやすく、歯科連結部材160を強固に支持しうる。
【0023】
上支持部170および下支持部180は、歯列全体を覆うように設けられてもよいし、歯列の一部のみを覆うように設けられてもよい。上支持部170および下支持部180は、後述する装着部190および200を固定しやすくする観点では、歯列全体を覆うように設けられることが好ましい(
図1および2参照)。
【0024】
また、上支持部170および下支持部180は、装着部190および200を取り付けたときに、装着部190および200の歯茎側の端部が、上支持部170および下支持部180で覆われないように(はみ出すように)設けられてもよい(
図1参照)。それにより、装着部190および200の着脱を容易にしうる。また、装着部190および200が上支持部170および下支持部180よりも大きいと、装着部190および200の弾性により、上支持部170および下支持部180を歯列から外しやすくしうるだけでなく、上支持部170および下支持部180の製造(成形)も容易となる。装着部190および200の歯茎側の端部のはみだし量は、歯列の内側のほうを歯列の外側よりも多くしうる(
図3AおよびB参照)。
【0025】
上支持部170は、装着部190を固定する固定部174を有することが好ましく(
図3A参照)、下支持部180は、装着部200を固定する固定部184を有することが好ましい(
図3B参照)。
【0026】
固定部174および184は、装着部190または200との接触部に設けられた凹凸形状や摩擦面(粗面など)、凹部172および182の内壁面の傾斜などでありうる。たとえば、上支持部170の装着部190との接触部(本実施形態では、上支持部170の凹部172の内壁面)は、固定部174として、装着部190の上支持部170との接触部(本実施形態では、装着部190の外表面194)に対して相補的な凹凸形状を有する(
図3A参照)。下支持部180の装着部200との接触部(本実施形態では、下支持部180の凹部182の内壁面)は、固定部184として、装着部200の下支持部180との接触部(本実施形態では、装着部200の外表面204)に対して相補的な凹凸形状を有する(
図3B参照)。凹凸形状は、歯列に対応する形状に限定されない。固定部174および184は、接触部の全体に設けられてもよいし、一部のみに設けられてもよい。
【0027】
マウスピース100にかかる力を装着部190および200全体に分散して伝達させやすくする観点、または、使用時に装着部190および200を外れにくくする観点では、上支持部170および下支持部180と、装着部190および200との接触部の面積を大きくすることが好ましく、上支持部170の凹部172の内壁面(外側の内壁面172a、内側の内壁面172b、底面172c)および下支持部180の凹部182の内壁面(外側の内壁面182a、内側の内壁面182b、上面182c)の全体に凹凸形状を設けることが好ましい。
【0028】
特に、応力を分散させやすくする観点では、上支持部170の凹部172の外側の内壁面172aと装着部190の外表面194との接触面積、および、下支持部180の凹部182の外側の内壁面182aと装着部200の外表面204との接触面積を大きくすることが好ましい。たとえば、上支持部170および下支持部180の外側の内壁面172aおよび182aの全体に凹凸形状を設けたり、外側の内壁面172aおよび182aの高さを、内側の内壁面172bおよび182bの高さよりも高くしたりすることが好ましい。上支持部170および下支持部180の凹部172および182の外側の内壁面172aおよび182aの高さは、全体にわたって略均一であっても均一でなくてもよいが、応力を分散させやすくする観点では、全体にわたって略均一であることが好ましい(
図2参照)。
【0029】
また、異物感を少なくする観点では、上支持部170および下支持部180の内側の内壁面172bおよび182bの高さは、たとえば、外側の内壁面172aおよび182aの高さよりも低いことが好ましい(
図1、2、3AおよびB参照)。
【0030】
使用時に、装着部190および200が上支持部170および下支持部180から外れにくくする観点では、前方側(たとえば第1~3歯)における、上支持部170および下支持部180の外側の内壁面172aおよび182a、内側の内壁面172bおよび182bは、それぞれ歯の先端から歯茎側に向かうにつれて(歯列面に対して)後方に傾斜していることが好ましい(
図2参照)。
【0031】
さらに、装着部190および200を取り付けやすくする観点、または、上支持部170および下支持部180が直接、歯茎などに触れにくくする観点などから、上支持部170および下支持部180の内側の内壁面172bおよび182bの(歯列面に対する)傾斜角度は、外側の内壁面172aおよび182aの傾斜角度よりも大きいことが好ましい(
図4AおよびB参照)。
【0032】
上支持部170および下支持部180の後方端部は、開放されていることが好ましい(
図4AおよびB参照)。それにより、装着部190および200を、上支持部170および下支持部180を後方から取り付けやすくしうる。
【0033】
また、上支持部170および下支持部180の後方端部は、装着部190および200の後方端部の少なくとも一部を覆わないように(装着部190および200の後方端部がはみ出るように)設けられることが好ましい(
図4AおよびB参照)。それにより、たとえば、相対的に高い曲げ弾性率を有する上支持部170および下支持部180が、直接、後方の歯茎などに触れにくくし、異物感を低減できる。
【0034】
上支持部170および下支持部180の厚みは、歯科連結部材160を支持可能な強度を有し、かつ使用者がマウスピース100を装着したときに、頬側や舌側、対向する下顎や上顎側に過度に突出しない厚みであれば、特に制限されない。たとえば、歯科連結部材160を支持する強度を十分に確保する観点では、装着部190および200の厚みよりも厚いことが好ましい。あるいは、異物感の低減を重視する観点では、上支持部170および下支持部180の厚みは、装着部190および200の厚みよりも薄くしてもよい。
【0035】
上支持部170および下支持部180の厚みは、全体に均一であってもよいし、均一でなくてもよい。たとえば、使用者が感じる異物感を少なくする観点では、上支持部170および下支持部180の前方側(切歯側、たとえば第1歯~第3歯)の厚みは、後方側(臼歯側、たとえば第4歯~第8歯)よりも薄いことが好ましい(
図2参照)。また、歯科連結部材160を強固に支持する観点では、歯科連結部材160の上保持部130または下保持部140が設けられる部分の厚みは、他の部分よりも厚いことが好ましい(
図2参照)。
【0036】
上支持部170および下支持部180は、装着部190および200とは異なる曲げ弾性率を有する材料を含む。たとえば、上支持部170および下支持部180は、後述する装着部190および200に含まれる熱可塑性樹脂組成物よりも曲げ弾性率の高い高弾性材料、または、曲げ弾性率の低い低弾性材料を含みうる。中でも、歯科連結部材160を支持するための十分な強度を担保する観点では、上支持部170および下支持部180は、装着部190および200に含まれる熱可塑性樹脂組成物よりも曲げ弾性率の高い高弾性材料を含むことが好ましい。
【0037】
すなわち、上支持部170および下支持部180の曲げ弾性率は、装着部190および200の曲げ弾性率よりも高いことが好ましい。具体的には、上支持部170および下支持部180の曲げ弾性率と装着部190および200の曲げ弾性率との差の下限は、特に限定されないが、1000MPa以上であることが好ましく、1500MPa以上であることがより好ましく、上限は、特に限定されないが、9500MPa以下であることが好ましく、9000MPa以下であることがより好ましい。曲げ弾性率は、JIS T6501に準じて測定される。
【0038】
上支持部170および下支持部180は、必要に応じて、高弾性材料や低弾性材料以外の他の材料(充填材や添加剤など)をさらに含んでもよい。上支持部170および下支持部180の総質量に対する高弾性材料や低弾性材料の量は、50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましく、80~100質量%であることが特に好ましい。たとえば、高弾性材料の量が上記範囲であると、上支持部170および下支持部180が十分に高い曲げ弾性率を有するため、歯科連結部材160を支持しやすい。
【0039】
高弾性材料や低弾性材料は、曲げ弾性率が上記関係を満たすものであれば、特に制限されない。高弾性材料の例には、金属材料や(メタ)アクリル樹脂が含まれる。
【0040】
金属材料は、人体に影響を及ぼしにくい金属であればよく、その例には、チタン、鉄(ステンレスを含む鋼など)、金、銀、白金、コバルト、クロムやその合金が含まれる。金属材料は、化成皮膜などで耐食性を高めたものであってもよい。
【0041】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリレート由来の単位((メタ)アクリレート単位)を主に含む樹脂であればよい。(メタ)アクリル樹脂の構造単位の総量に対して、(メタ)アクリレート単位の含有量が、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%である。(メタ)アクリル樹脂は、メタクリレートの単独重合体でもよく、メタクリレートとアクリレートの共重合体であってもよい。
【0042】
(メタ)アクリレート単位は、アルキル(メタ)アクリレート単位であることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート単位のアルキル部の炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2、特に好ましくは1である。アルキル(メタ)アクリレート単位の(メタ)アクリレート部は、好ましくはメタクリレートである。
【0043】
(メタ)アクリル樹脂は、必要に応じて、(メタ)アクリレート単位以外の構造単位をさらに含んでもよい。(メタ)アクリレート単位以外の構造単位の例には、(メタ)アクリル酸(好ましくはメタクリル酸)に由来する構造単位、α-オレフィン(好ましくは、エチレン、プロピレンまたはブチレン)に由来する構造単位が含まれる。
【0044】
(メタ)アクリル樹脂は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)またはメチルメタクリレート-メタクリル酸共重合体(MMA-MAA共重合体)であることが好ましく、PMMAであることがより好ましい。
【0045】
(メタ)アクリル樹脂の質量平均分子量(Mw)は、10000~1000000であることが好ましく、20000~800000であることがより好ましく、50000~500000であることがさらに好ましい。質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値であり、ポリメチルメタクリレート換算値である。
【0046】
1-2.装着部
装着部190は、上顎の歯列に装着されるものであり、上支持部170に着脱可能に取り付けられる。装着部200は、下顎の歯列に装着されるものであり、下支持部180に着脱可能に取り付けられる(
図2参照)。
【0047】
装着部190および200は、歯列の全体を覆うように設けられてもよいし、一部のみを覆うように設けられてもよい。歯ぎしりやクライチングなどによりマウスピースにかかる力を装着部190および200に分散して伝達させやすくする観点では、装着部190および200は、歯列の全体を覆うように設けられることが好ましい(
図1および2参照)。
【0048】
装着部190および200は、歯列を収容可能な凹部を有する。本実施形態では、装着部190および200は、それぞれ使用者の歯列に対応する歯列型取部192および202(凹部)を有するが、凹部は必ずしも歯列の形状に対応していなくてもよい。
【0049】
装着部190の外表面194(外側面194a、内側面194b、底面194c)および装着部200の外表面204(外側面204a、内側面204b、上面204c)は、それぞれ、全体にわたって歯列の形状に対応した凸凹形状を有しうる(
図2参照)。凹凸形状は、上記の通り、上支持部170の凹部172および下支持部180の凹部182の内壁面と相補する形状であればよく、歯列の形状に対応した凹凸形状でなくてもよい。
【0050】
上記の通り、マウスピース100にかかる力を装着部190および200に分散して伝達させやすくする観点、または、使用時に装着部190および200を外れにくくする観点では、装着部190および200と上支持部170および下支持部180との接触部の面積を大きくすることが好ましく、装着部190および200の外表面194および204の全体に凹凸形状を設けることが好ましい。
【0051】
特に、装着部190の外側面194aと上支持部170の凹部172の外側の内壁面172aとの接触面積、および、装着部200の外側面204aと下支持部180の凹部182の外側の内壁面182aとの接触面積を大きくすることが好ましく、装着部190および200の外側面194aおよび204aの全体に凹凸形状を設けたり(
図2参照)、外側面194aおよび204aの高さを、内側面194bおよび204bの高さよりも高くしたりすることが好ましい(
図3AおよびB参照)。
【0052】
装着部190および200の厚みは、所望の強度や使用者の歯列の形状、装着性を考慮して適宜選択される。たとえば、異物感を少なくし、装着感を高める観点では、装着部190および200の厚みは、上支持部170および下支持部180の厚みよりも薄いことが好ましい。
【0053】
装着部190および200の厚みは、全体にわたって均一であってもよいし、均一でなくてもよい。たとえば、上支持部170または下支持部180で覆われる領域が過度に厚くならないようにし、装着感を良くする観点では、装着部190および200の、上支持部170または下支持部180で覆われる領域(たとえば、歯の先端側)の厚みは、上支持部170または下支持部180で覆われない領域(たとえば、歯茎側)の厚みよりも薄いことが好ましい。また、異物感をさらに少なくする観点では、装着部190および200の前方側の厚みは、後方側の厚みよりも薄いことが好ましい(
図2参照)。
【0054】
装着部190および200は、主に熱可塑性樹脂組成物で構成されることが好ましい。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含んでいればよく、必要に応じて充填材や添加剤などをさらに含んでもよい。また、強度を付与するための金属製のワイヤやプレートなどが、熱可塑性樹脂組成物中に埋め込まれていてもよい。
【0055】
装着部190および200の総質量に対する熱可塑性樹脂組成物の量は、50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましく、80~100質量%であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂組成物の量が上記範囲であると、マウスピース100の総質量が小さくなり、装着感が良好になりやすい。また、マウスピース100が適度な硬度になりやすく、装着感が高まりやすい。
【0056】
装着部190および200に含まれる熱可塑性樹脂組成物の曲げ弾性率は、上支持部170または下支持部180に含まれる材料の曲げ弾性率よりも高くてもよいし、低くてもよいが、装着感を良好にする観点では、上支持部170または下支持部180に含まれる材料の曲げ弾性率よりも低いことが好ましい。
【0057】
すなわち、装着部190および200(またはそれに含まれる熱可塑性樹脂組成物)の曲げ弾性率は、上支持部170および下支持部180(またはそれに含まれる高弾性材料)の曲げ弾性率よりも低いことが好ましく、たとえば50~500MPaであることが好ましく、50~300MPaであることがより好ましく、50~250MPaであることがさらに好ましい。装着部190および200の曲げ弾性率が、50MPa以上であると、適度な強度を有するため、マウスピース100にかかる力を装着部190および200の全体に分散させやすく、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120の相対的な位置決めを行いやすい。装着部190および200の曲げ弾性率が500MPa以下であると、装着部190および200の歯列への追従性や装着性が損なわれにくい。
【0058】
装着部190および200(またはそれに含まれる熱可塑性樹脂組成物)の引張強度は、150N以上2000N未満であることが好ましく、150~500Nであることがより好ましい。引張強度が上記範囲であると、装着部190および200の歯列への追従性が高まりやすい。引張強度は、ニッシン標準模型を用いて作製したマウスピース(厚さ3mm)の装着部190および200の歯列6番にφ1.5mmの穴を開け、臼歯方向(後方)に引張試験をした際に、装着部190および200が裂けた強度を意味する。
【0059】
熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の例には、ポリエステル樹脂や、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂などが含まれる。なお、(メタ)アクリルは、アクリル、メタクリル、またはこれらの両方を意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタクリレート、またはこれらの両方を意味する。
【0060】
ポリエステル樹脂は、たとえばジカルボン酸などの多価カルボン酸とジオールなどのポリアルコールとの重縮合体であり、その例には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが含まれる。ポリカーボネート樹脂は、公知の樹脂を用いることができる。
【0061】
ポリアミド樹脂の例には、脂肪族ポリアミド樹脂(脂環式ポリアミド樹脂も含む)や半芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂が含まれる。脂肪族ポリアミド樹脂は、アミド結合を含み、かつ芳香環を含まない構造単位(芳香環を含まないアミド結合含有構造単位)を主成分として含む樹脂である。「芳香環を含まないアミド結合含有構造単位を主成分として含む」とは、芳香環を含まないアミド結合含有構造単位を、アミド結合含有構造単位の全モル数に対して80モル%以上、好ましくは90~100モル%含むことをいう。
【0062】
脂肪族ポリアミド樹脂(脂環式ポリアミド樹脂も含む)の例には、炭素原子数2~14の脂肪族ジカルボン酸と炭素原子数4~12の脂肪族ジアミンとを重縮合反応させた樹脂;炭素原子数6~12の脂肪族アミノカルボン酸を重縮合反応させた樹脂;炭素原子数6~12のラクタムを開環重合反応させた樹脂;炭素原子数2~14の脂肪族ジカルボン酸と脂環式構造を1つ以上有するジアミンとを重縮合反応させた樹脂;脂環式構造を1つ以上有する脂肪族ジカルボン酸と炭素原子数4~12の脂肪族ジアミンとを重縮合反応させた樹脂;脂環式構造を1つ以上有するジカルボン酸と脂環式構造を1つ以上有するジアミンとを重縮合反応させた樹脂が含まれる。
【0063】
脂肪族ポリアミド樹脂の例には、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド4・6、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド6・14、ポリアミド6・13、ポリアミド6・15、ポリアミド6・16、ポリアミド9・2、ポリアミド9・10、ポリアミド9・12、ポリアミド9・13、ポリアミド9・14、ポリアミド9・15、ポリアミド6・16、ポリアミド9・36、ポリアミド10・10、ポリアミド10・12、ポリアミド10・13、ポリアミド10・14、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド12・10、ポリアミド12・12、ポリアミド12・13、ポリアミド12・14、およびこれらの共重合体が含まれる。なお、脂肪族ポリアミド樹脂は市販品であってもよく、その例には、ダイセル・デグサ社製のトロガミドCX7323等が含まれる。これらの中でも、上述の曲げ弾性率等の観点で、ポリアミド11、ポリアミド12、脂肪族ジカルボン酸と脂環式構造を有するジアミンとの重合体が特に好ましい。
【0064】
半芳香族ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを重縮合して得られる、芳香環および脂肪族構造を含むポリアミド樹脂である。
【0065】
半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸構造単位は、テレフタル酸構造単位を含むことが好ましい。テレフタル酸構造単位の量は、半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸構造単位の合計100モル%に対して、35~100モル%が好ましく、40~100モル%がより好ましい。
【0066】
半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸構造単位は、テレフタル酸構造単位と、イソフタル酸構造単位や、炭素原子数4~10の脂肪族ジカルボン酸構造単位を含むことも好ましい。
【0067】
テレフタル酸構造単位と、イソフタル酸構造単位と、炭素原子数4~10の脂肪族ジカルボン酸構造単位との合計を100モル%としたとき、テレフタル酸構造単位の含有量は、35~50モル%が好ましく、40~50モル%がより好ましい。イソフタル酸構造単位の含有量は、25~40モル%が好ましく、30~40モル%がより好ましい。炭素原子数4~10の脂肪族ジカルボン酸構造単位の含有量は、15~35モル%が好ましく、20~30モル%がより好ましい。
【0068】
テレフタル酸構造単位と、イソフタル酸構造単位とのモル比は、65/35~50/50が好ましい。一方、脂肪族ジカルボン酸構造単位とイソフタル酸構造単位とのモル比は、30/70~50/50が好ましい。脂肪族ジカルボン酸構造単位を上述の範囲含むと、半芳香族ポリアミド樹脂が非晶性となり、成形加工性が高まる。一方で、イソフタル酸構造単位によれば、半芳香族ポリアミド樹脂の耐熱性を維持したまま、成形性を高められる。
【0069】
半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸構造単位は、必要に応じて前述のジカルボン酸以外のジカルボン酸由来の構造単位をさらに含んでいてもよい。他のジカルボン酸の例には、2-メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の他の芳香族ジカルボン酸;2,5-フランジカルボン酸等のフランジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が含まれる。
【0070】
半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジアミン構造単位は、炭素原子数4~12の脂肪族ジアミン構造単位を含むことが好ましい。脂肪族ジアミンは、直鎖脂肪族ジアミンであってもよく、側鎖を有する鎖状脂肪族ジアミンであってもよい。脂肪族ジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどの直鎖脂肪族ジアミン;2-メチル-1,5-ジアミノペタン、2-メチル-1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、2-メチル-1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,10-ジアミノデカン、2-メチル-1,11-ジアミノウンデカン等の側鎖を有する鎖状脂肪族ジアミンが含まれる。脂肪族ジアミンは、好ましくは炭素原子数6~9のジアミンであり、より好ましくはヘキサメチレンジアミンまたはノナンジアミンである。
【0071】
脂肪族ジアミン構造単位の量は、半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジアミン構造単位の合計100モル%に対して、60~100モル%が好ましく、80~100モル%がより好ましい。
【0072】
半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジアミン構造単位は、必要に応じて前述の脂肪族ジアミン以外の他のジアミン由来の構造単位をさらに含んでいてもよい。他のジアミンの例には、メタキシレンジアミン等の芳香族ジアミン;1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン等の脂環族ジアミンが含まれる。
【0073】
芳香族ポリアミド樹脂の例には、パラ系アミド、メタ系アミドなどが含まれる。
【0074】
(メタ)アクリル樹脂の例には、(メタ)アクリル系熱可塑性エラストマーが含まれる。(メタ)アクリル系熱可塑性エラストマーは、ガラス転移温度(Tg)が異なる、ハードブロックとソフトブロックとを含むブロック共重合体が特に好ましい。
【0075】
当該ブロック共重合体において、ハードブロックのTgは、ソフトブロックのTgより高いことが好ましい。ハードブロックのTgは、30~200℃が好ましく、60~140℃がより好ましく、60~120℃が特に好ましい。ソフトブロックのTgは、-100~0℃が好ましく、-80~-20℃がより好ましく、-40~-50℃が特に好ましい。
【0076】
当該ブロック共重合体において、ハードブロックおよびソフトブロックは、ともにアルキル(メタ)アクリレートに由来の単位(アルキル(メタ)アクリレート単位)を有することが好ましい。この場合、ハードブロックのアルキル(メタ)アクリレート単位が含むアルキル基の炭素数(炭素数C1)は、ソフトブロックのアルキル(メタ)アクリレート単位が含むアルキル基の炭素数(炭素数C2)より少ないことが好ましい。
【0077】
ハードブロックにおけるアルキル(メタ)アクリレート単位のアルキル部の炭素数(炭素数C1)は1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。また、(メタ)アクリレート部は、メタクリレートであることが好ましい。つまり、ハードブロックは、メチルメタクリレート単位を含むことが特に好ましい。
【0078】
ソフトブロックにおけるアルキル(メタ)アクリレート単位のアルキル部の炭素数(炭素数C2)は、炭素数C1よりも多ければよい。炭素数C1と炭素数C2との差は1以上が好ましく、1~6がより好ましく、2~5がさらに好ましく、2~4が特に好ましい。
【0079】
(メタ)アクリレート部は、アクリレートであることが好ましい。ソフトブロックは、ブチルアクリレート単位を含むことが特に好ましい。
【0080】
ブロック共重合体において、ハードブロックおよびソフトブロックの合計質量に対するハードブロックの質量の比率は、(メタ)アクリル系熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率が上述の範囲となるように選択され、5~95質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましく、15~85質量%が特に好ましい。ハードブロックおよびソフトブロックの合計質量は、ブロック共重合体に対して80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。
【0081】
(メタ)アクリル樹脂(ブロック共重合体)の質量平均分子量(Mw)は、曲げ弾性率に応じて適宜選択され、10000~1000000が好ましく、20000~800000がより好ましく、50000~500000が特に好ましい。また、ハードブロックの質量平均分子量(Mw)は、10000~1000000が好ましく、20000~800000がより好ましく、50000~500000が特に好ましい。一方、ソフトブロックの質量平均分子量(Mw)は、10000~1000000が好ましく、20000~800000がより好ましく、50000~500000が特に好ましい。上記質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された値であり、ポリメチルメタクリレート換算値である。
【0082】
2.歯科連結部材
歯科連結部材160は、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120を連結し、かつ相対的な位置を調整し、下顎マウスピース120の後方への変位を抑制するための部材である。本実施形態では、歯科連結部材160が、上顎マウスピース110の上支持部170に取り付けられた上保持部130、下顎マウスピース120の下支持部180に取り付けられた下保持部140、およびこれらを繋ぐ連結部150を有する(
図1、4AおよびB参照)。
【0083】
上保持部130は、上支持部170と接合可能であり、かつ連結部150を保持可能に構成されている。たとえば、上保持部130は、上支持部170から外部方向に延出する上軸体132と、上軸体132のさらに外部方向に位置する上フランジ部134とを有する(
図1参照)。柱状の上軸体132は、一端が上支持部170に支持されている。上支持部170と上軸体132との接合方法は、特に制限されず、たとえば上支持部170に設けられた貫通孔に、上軸体132が挿入されて支持されていてもよいし、上支持部170に上軸体132が埋め込まれていてもよい。
【0084】
下保持部140は、下支持部180と接合可能であり、かつ連結部150を保持可能に構成されている。たとえば、下保持部140は、一方が下支持部180から外部方向に延出する下軸体142と、下軸体142のさらに外部方向に位置する下フランジ部144とを有する(
図1参照)。柱状の下軸体142は、一端が下支持部180に支持されている。下支持部180と下軸体142との接合方法は、上支持部170と上軸体132との接合方法と同様である。
【0085】
連結部150は、上保持部130および下保持部140を連結し、上保持部130および下保持部140を一定の距離に保持可能に構成されている。たとえば、連結部150は、上保持部130の上軸体132に一端を支持された筒状のアウター152と、下保持部140の下軸体142に一端を支持され、他端がアウター152内にスライド可能に収容されたインナー154と、アウター152内部に配置され、インナー154の伸縮幅を決定するためのストッパ(図示せず)とを有する(
図1参照)。連結部150では、インナー154がアウター152に対してスライド可能に収容されており、伸縮可能な構造となっている。また、ストッパの位置により上保持部130と下保持部140との距離、ひいては上顎マウスピース110および下顎マウスピース120の位置関係を調整できる。
【0086】
上記のように構成された歯科連結部材160では、下保持部140が上保持部130より前方に配置される。つまり、下顎マウスピース120を後方から前方に押し出す構造となっており、下顎マウスピース120の後方への変位が規制される。一方で、インナー154をアウター152から一定範囲引き出し可能であるため、下顎の移動が阻害されにくく、使用者の違和感を低減しやすい。なお、下顎の規制位置やスライド量は、連結部150が有するストッパ(図示せず)の位置によって調整される。また、連結部150の構造は上記構造に限定されず、たとえば、多段階の伸縮構造を有してもよい。
【0087】
歯科連結部材160を構成する材料は、特に制限されないが、その例には、チタン、鉄(ステンレスを含む鋼等)、金、銀、白金、コバルト、クロムやこれらの合金などの金属材料、ならびにJIS T6501に準じて測定される曲げ弾性率が1000~3000MPaである樹脂材料(たとえばポリカーボネート樹脂)が含まれる。金属材料は、化成皮膜などで耐食性が高められていてもよい。
【0088】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るマウスピースは、上支持部170および下支持部180が、歯列の一部を覆うように構成される以外は第1の実施形態に係るマウスピース100と同様に構成される。以下、第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0089】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るマウスピース100の模式的な斜視図であり、
図6は、マウスピース100の模式的な分解斜視図である。
【0090】
図5および6に示されるように、上支持部170は、上顎の歯列の一部を覆う左右一対の支持部170aおよび170bからなる。下支持部180は、下顎の歯列の一部を覆う左右一対の支持部180aおよび180bからなる。左右一対の支持部170aおよび170bは、上顎の歯列の左右の臼歯側を覆うように(または切歯を覆わないように)配置され、左右一対の支持部180aおよび180bは、下顎の歯列の左右の臼歯側を覆うように(または切歯を覆わないように)配置される。なお、
図5および6には示されていないが、第1の実施形態と同様、支持部170aおよび180aは、歯科連結部材160で連結されている。
【0091】
上支持部170および下支持部180の形状は、それぞれ左右対称であってもよいし、左右対称でなくてもよい。
【0092】
上支持部170および下支持部180の歯列に沿う方向の長さは、特に制限されず、歯科連結部材160の上保持部130や下保持部140の大きさや位置に応じて適宜選択される。上支持部170および下支持部180の歯列に沿う方向の長さは、同じであってもよいし、異なってもよい。たとえば、歯科連結部材160を安定に支持しやすくする観点では、上支持部170および下支持部180の歯列に沿う方向の長さは、同じであることが好ましい。
【0093】
装着部190および200の外表面194および204は、全体にわたって歯列の形状に対応した凸凹形状を有してもよいし(
図6参照)、上支持部170および下支持部180で覆われる部分のみに歯列の形状に対応した凹凸形状を有し、それ以外の部分は凹凸形状を有しなくてもよい。たとえば、上支持部170および下支持部180で覆われない部分が凹凸形状を有しないことで、舌触りを改善することができる。
【0094】
装着部190および200の厚みは、全体にわたって均一であってもよいし、均一でなくてもよい。たとえば、装着部190および200の、上支持部170または下支持部180で覆われる領域(本実施形態では前方側、たとえば第1歯~第3歯)の厚みは、上支持部170または下支持部180で覆われない領域(本実施形態では後方側、たとえば第4歯~第8歯)の厚みより薄いことが好ましい。それにより、上支持部170または下支持部180で覆われる領域(本実施形態では前方側)が過度に厚くなりにくく、装着感がさらに良好になる。
【0095】
上記構成により、上支持部170および下支持部180は、歯列の左右の一部に配置され、歯列の前方には配置されないため、異物感を低減し、装着感をより高めることができる。
【0096】
[変形例]
なお、上記第2の実施形態では、上支持部170および下支持部180が、歯列の一部を覆う形態として、
図5および6に示される形態を示したが、これに限定されず、種々の形態をとりうる。
【0097】
図7AおよびBは、本発明の第2の実施形態におけるマウスピース100の変形例を示す模式的な斜視図である。同図では、便宜上、装着部190および200の図示を省略する。たとえば、上顎マウスピース110は、左右一対の支持部170aおよび170bを連結する連結部材210をさらに有してもよく、下顎マウスピース120は、左右一対の支持部180aおよび180bを連結する連結部材220をさらに有してもよい。それにより、取り扱いやすくすることができる。
【0098】
連結部材210(または220)は、左右一対の支持部170aおよび170b(または左右一対の支持部180aおよび180b)の内側面同士を、歯列の内側面に沿って連結するアーチ状部材であってもよいし(
図7A参照)、使用者の口蓋側を橋渡しする橋かけ部材であってもよい(
図7B参照)。連結部材210および220は、それぞれ支持部170aおよび170b(または支持部170aおよび170b)と一体であってもよいし、別体であってもよい。
【0099】
連結部材210および220を構成する材料は、特に制限されず、上支持部170を構成する材料と同じであってもよいし、異なってもよい。連結部材210および220が別体である場合、連結部材210および220を構成する材料として、たとえばステンレス、金、銀などの金属材料を用いることができる。なお、上顎マウスピース110と下顎マウスピース120のどちらか一方のみが、連結部材210または220を有してもよい。
【0100】
また、上記第2の実施形態では、下支持部180は、歯列の内側面、底面または上面、外側面を覆うように設けられていたが、これに限定されず、ワイヤ部材を有する構造体であってもよい。
【0101】
図8は、本発明の第2の実施形態におけるマウスピース100の変形例を示す模式的な斜視図である。同図では、便宜上、下顎マウスピース120のみを図示している。
図8に示されるように、下支持部180は、左右一対のワイヤ部材186を有し、歯科連結部材160の下保持部140を支持可能に構成される(
図8参照)。たとえば、左右一対のワイヤ部材186に固定された基材188に、歯科連結部材160の下保持部140が取り付けられる(
図8参照)。
【0102】
ワイヤ部材186は、歯を取り囲む形状を有しうる。ワイヤ部材186の例には、ボールクラスプ、Cクラスプなどが含まれる。左右一対のワイヤ部材186は、上記と同様、連結部材(不図示)などで連結されてもよいし、舌側に配置されるレジン床(不図示)などで固定されてもよい。
【0103】
また、装着部200の、左右一対のワイヤ部材186との接触部には、左右一対のワイヤ部材186に対応する凹部(不図示)や摩擦面が設けられてもよい。それにより、ワイヤ部材186に対する装着部200の取り付けや固定がさらに容易になる。
【0104】
また、上記第1の実施形態では、上支持部170および下支持部180の双方が歯列全体を覆うように設けられ、上記第2の実施形態では、上支持部170および下支持部180の双方が左右の歯列の一部のみを覆うように設けられる例を示したが、たとえば、上支持部170および下支持部180の一方が、歯列全体を覆うように設けられ、他方が、左右の歯列の一部のみを覆うように設けられてもよい。
【0105】
また、上記第1および第2の実施形態では、上支持部170および下支持部180に、それぞれ装着部190および200が着脱可能に取り付けられる例を示したが、上支持部170および下支持部180の一方のみに、装着部190または200が着脱可能に取り付けられてもよい。たとえば、上支持部170は、装着部190が着脱可能に取り付けられるように構成され、下支持部180は、歯列に直接装着可能に構成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のマウスピースによれば、使用者の下顎の後方への変位を制限可能であり、睡眠時無呼吸症候群の予防および治療に非常に有効である。また、本発明のマウスピースは、従来よりも装着感が良好であり、かつ破損や変形が生じにくい。したがって、睡眠時無呼吸症候群の予防および治療のほか、顎関節症の予防および治療や歯ぎしりの抑制などにも使用可能である。
【符号の説明】
【0107】
100 マウスピース
110 上顎マウスピース
120 下顎マウスピース
130 上保持部
132 上軸体
134 上フランジ部
140 下保持部
142 下軸体
144 下フランジ部
150 連結部
152 アウター
154 インナー
160 歯科連結部材
170 上支持部
180 下支持部
170a、170b、180a、180b 支持部
172、182 凹部
172a、182a 外側の内壁面
172b、182b 内側の内壁面
172c、194c 底面
182c、204c 上面
174、184 固定部
186 ワイヤ部材
190、200 装着部
192、202 歯列型取部
194、204 外表面
194a、204a 外側面
194b、204b 内側面
210 連結部材