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特開2023-32771クラッチ機構およびクラッチ機構を備えた駆動装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032771
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】クラッチ機構およびクラッチ機構を備えた駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 11/10 20060101AFI20230302BHJP
   F16H 19/02 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
F16D11/10 B
F16H19/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139079
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 研一朗
【テーマコード(参考)】
3J056
3J062
【Fターム(参考)】
3J056AA05
3J056CC33
3J062AA01
3J062AB12
3J062AC01
3J062CA03
3J062CA06
3J062CA33
(57)【要約】
【課題】本発明は、駆動力伝達可能状態から駆動力伝達遮断状態への移行をより確実に行なうことが可能なクラッチ機構を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のクラッチ機構CMは、伝動部材5と係合可能な係合部材8と、係合部材8を係合位置から係合解除位置へ付勢方向BDに沿って付勢する付勢部材9と、係合部材8に対して付勢方向BDの側に配置される移動部材10と、貫通孔11aが設けられた壁部11と、貫通孔11aを通して移動部材10の移動部材側連結部10eに連結され、移動部材10を係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動させるためのアクチュエータ12とを備え、壁部11には、移動部材10が係合補助位置から係合解除補助位置に向かって移動する際に移動部材10が貫通孔11aの周壁に当接しない位置で、移動部材10と直接または間接的に当接することで移動部材10の移動を停止させる停止部14が設けられている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部から駆動対象に駆動力を伝達する駆動装置において、伝動部材が前記駆動対象に前記駆動力を伝達可能な駆動力伝達可能状態と、前記伝動部材による前記駆動対象への前記駆動力の伝達を遮断する駆動力伝達遮断状態とを切り替えるためのクラッチ機構であって、
前記伝動部材と係合可能な係合部材であって、前記伝動部材と係合することで前記伝動部材を前記駆動力伝達可能状態とする係合位置と、前記伝動部材から係合解除して前記伝動部材を前記駆動力伝達遮断状態とする係合解除位置との間で移動可能な係合部材と、
前記係合部材を前記係合位置から前記係合解除位置へ付勢方向に沿って付勢する付勢部材と、
前記係合部材に対して前記付勢方向の側に配置され、前記係合部材を前記係合位置へ移動させる係合補助位置と、前記係合部材の前記係合解除位置への移動を許容する係合解除補助位置との間で移動可能な移動部材と、
前記移動部材に対して前記付勢方向の側に配置され、貫通孔が設けられた壁部と、
前記貫通孔を通して前記移動部材の移動部材側連結部に直接または間接的に連結され、前記移動部材を前記係合補助位置と前記係合解除補助位置との間で移動させるためのアクチュエータと
を備え、
前記移動部材側連結部は、前記移動部材が前記係合解除補助位置にあるときに、前記貫通孔に少なくとも部分的に進入するように配置され、
前記壁部には、前記移動部材が前記係合補助位置から前記係合解除補助位置に向かって移動する際に前記移動部材が前記貫通孔の周壁に当接しない位置で、前記移動部材と直接または間接的に当接することで前記移動部材の移動を停止させる停止部が設けられている、
クラッチ機構。
【請求項2】
前記クラッチ機構は、前記アクチュエータによって移動するリンク部材を備え、
前記リンク部材は、前記リンク部材の移動によって前記移動部材を前記係合補助位置と前記係合解除補助位置との間で移動可能に前記貫通孔を通して前記移動部材側連結部に連結され、
前記停止部は、前記移動部材とは前記付勢部材による付勢方向において前記壁部を挟んで反対方向となる前記壁部から突出し、前記リンク部材と当接することで、前記移動部材の移動を停止させるように配置される、
請求項1に記載のクラッチ機構。
【請求項3】
前記リンク部材は、前記壁部に対して回転可能に設けられており、前記リンク部材の回転軸から径方向外側に延びるように形成され、
前記リンク部材の径方向外側の先端に前記移動部材側連結部と連結するリンク部材側連結部が設けられ、
前記停止部は、前記回転軸と前記リンク部材側連結部との間の位置で、前記リンク部材に当接するように配置される、
請求項2に記載のクラッチ機構。
【請求項4】
前記移動部材は、前記リンク部材を介して前記アクチュエータによって回転移動可能に構成され、
前記移動部材の回転軸と前記リンク部材の回転軸とが同軸上に配置される、
請求項2または3に記載のクラッチ機構。
【請求項5】
前記リンク部材の前記停止部との当接箇所が略平坦に形成され、
前記停止部の前記リンク部材との当接箇所が略平坦に形成され、
前記停止部は、前記リンク部材に当接する際に前記リンク部材に面接触するように配置される、
請求項2~4のいずれか1項に記載のクラッチ機構。
【請求項6】
牽引部材と、
牽引部材を巻き取りおよび繰り出し可能な巻取部材と、
前記巻取部材を回転させるための駆動力を生成する駆動部と、
前記巻取部材に前記駆動力を伝達する伝動部材と、
前記駆動部と前記伝動部材との間に配置され、前記駆動部から前記伝動部材に前記駆動力を伝達する伝動機構と、
請求項1~5のいずれか1項に記載のクラッチ機構と
を備えた駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ機構およびクラッチ機構を備えた駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動部から駆動対象に駆動力を伝達する駆動装置において、駆動対象に駆動力を伝達可能な駆動力伝達可能状態と、駆動対象への駆動力の伝達を遮断する駆動力伝達遮断状態とを切り替えるために、例えば特許文献1に開示されたクラッチ機構が用いられている。このクラッチ機構は、駆動力伝達可能状態において、駆動部の駆動力によって回転するクラッチピンが、駆動対象に駆動力を伝達する伝達ギヤに設けられた貫通孔に伝達ギヤの軸方向で挿入され、伝達ギヤの軸周り方向で伝達ギヤと係合することで、伝達ギヤを回転させる。また、駆動力伝達遮断状態において、クラッチピンが伝達ギヤの貫通孔から抜出されることで、クラッチピンと伝達ギヤとの係合が解除され、伝達ギヤは独自に回転することが可能となっている。
【0003】
より具体的には、特許文献1のクラッチ機構は、駆動対象に駆動力を伝達するための伝達ギヤと、駆動部によって回転し、軸周りに回転するとともに、伝達ギヤに向かって、または伝達ギヤから離れるように軸方向に移動可能なクラッチピンと、クラッチピンを軸方向で伝達ギヤから離れる方向に付勢する付勢部材と、クラッチピンとハウジングの壁部との間に配置され、ソレノイドアームに連結されて軸周りに回転移動可能なクラッチレバーとを備えている。クラッチレバーは、ハウジングの内部と外部とを連通させる貫通孔を経由して、ソレノイドアームと連結されている。クラッチレバーは、ソレノイドの作動および作動解除によって、軸周りに回転する。クラッチレバーは、ソレノイドの作動によって軸周りで一方に回転したとき、ハウジングの壁部において突出して設けられた傾斜した摺動面と、ハウジングの壁部において突出して設けられた傾斜した摺動面に滑合するようにクラッチレバーに設けられた摺動面とが相互作用し、クラッチピンを付勢部材の付勢力に抗して伝達ギヤに向かって軸方向に移動させ、伝達ギヤとクラッチピンとを係合させる。また、クラッチレバーが、軸周りで他方に回転したときには、クラッチピンとともに付勢部材の付勢力によって伝達ギヤから離れる方向に移動し、伝達ギヤとクラッチピンとの係合が解除される。
【0004】
ここで、特許文献1に開示されたクラッチ機構を備えた駆動装置は、車椅子を牽引するためのウインチ装置として用いられる。このウインチ装置は、クラッチピンを伝達ギヤに係合させることで伝達ギヤに駆動力を伝達可能とする駆動力伝達可能状態にし、駆動力伝達可能状態で駆動部を作動させることによって、駆動力が車椅子へと伝達可能となって車椅子を牽引することができる。また、駆動力伝達可能状態から伝達ギヤへの駆動力の伝達を遮断する駆動力伝達遮断状態へと移行させるための操作が行われると、クラッチピンの伝達ギヤへの係合を解除するためにソレノイドが作動解除され、ソレノイドアームの動作に伴い、クラッチレバーおよびクラッチピンは軸周りに回転移動し、付勢部材の付勢力によって伝達ギヤから離れる方向に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-4135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、例えば、車椅子を牽引している最中にその牽引を解除した場合など、クラッチピンに伝達ギヤから負荷がかかったままの状態、すなわちクラッチピンが伝達ギヤに強固に軸周り方向で係合した状態である場合、クラッチレバーおよびクラッチピンは、付勢部材の付勢力によって伝達ギヤから離れる方向に移動できない場合がある。そうすると、クラッチレバーのソレノイドアームとの連結部がハウジングの貫通孔を通ってハウジングの外部に露出した正常な軸方向の位置に戻ることができずに、ハウジングの壁部の下側に潜り込んでしまう。クラッチレバーの連結部がハウジングの壁部の下側に潜り込んでしまうと、その後に伝達ギヤからクラッチピンに加わる負荷が軽減されたとしても、ハウジングの壁部が障壁となって、クラッチレバーおよびクラッチピンは正常な軸方向の位置に戻ることができず、駆動力伝達遮断状態への移行が行なわれない。
【0007】
本発明は、駆動力伝達可能状態から駆動力伝達遮断状態への移行をより確実に行なうことが可能なクラッチ機構、およびそのクラッチ機構を備えた駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のクラッチ機構は、駆動部から駆動対象に駆動力を伝達する駆動装置において、伝動部材が前記駆動対象に前記駆動力を伝達可能な駆動力伝達可能状態と、前記伝動部材による前記駆動対象への前記駆動力の伝達を遮断する駆動力伝達遮断状態とを切り替えるためのクラッチ機構であって、前記伝動部材と係合可能な係合部材であって、前記伝動部材と係合することで前記伝動部材を前記駆動力伝達可能状態とする係合位置と、前記伝動部材から係合解除して前記伝動部材を前記駆動力伝達遮断状態とする係合解除位置との間で移動可能な係合部材と、前記係合部材を前記係合位置から前記係合解除位置へ付勢方向に沿って付勢する付勢部材と、前記係合部材に対して前記付勢方向の側に配置され、前記係合部材を前記係合位置へ移動させる係合補助位置と、前記係合部材の前記係合解除位置への移動を許容する係合解除補助位置との間で移動可能な移動部材と、前記移動部材に対して前記付勢方向の側に配置され、貫通孔が設けられた壁部と、前記貫通孔を通して前記移動部材の移動部材側連結部に直接または間接的に連結され、前記移動部材を前記係合補助位置と前記係合解除補助位置との間で移動させるためのアクチュエータとを備え、前記移動部材側連結部は、前記移動部材が前記係合解除補助位置にあるときに、前記貫通孔に少なくとも部分的に進入するように配置され、前記壁部には、前記移動部材が前記係合補助位置から前記係合解除補助位置に向かって移動する際に前記移動部材が前記貫通孔の周壁に当接しない位置で、前記移動部材と直接または間接的に当接することで前記移動部材の移動を停止させる停止部が設けられている。
【0009】
本発明の駆動装置は、牽引部材と、牽引部材を巻き取りおよび繰り出し可能な巻取部材と、前記巻取部材を回転させるための駆動力を生成する駆動部と、前記巻取部材に前記駆動力を伝達する伝動部材と、前記駆動部と前記伝動部材との間に配置され、前記駆動部から前記伝動部材に前記駆動力を伝達する伝動機構と、前記クラッチ機構とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、駆動力伝達可能状態から駆動力伝達遮断状態への移行をより確実に行なうことが可能なクラッチ機構、およびそのクラッチ機構を備えた駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るクラッチ機構を備えた駆動装置が車椅子に接続された状態を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係るクラッチ機構を備えた駆動装置の斜視図である。
図3図2の駆動装置を背面側から見た斜視図である。
図4図2の駆動装置からハウジングを取り除いた状態を示す斜視図である。
図5図2の駆動装置の一部の構成要素の分解斜視図である。
図6図2の駆動装置の伝動部材およびラチェット機構の上面図である。
図7図2の駆動装置の伝動機構の上面図である。
図8A図2の駆動装置の移動部材の斜視図である。
図8B図2の駆動装置の係合部材の斜視図である。
図9図2の駆動装置のハウジングを裏面側から見た斜視図である。
図10A】本発明の一実施形態に係るクラッチ機構の駆動力伝達可能状態を説明する説明図である。
図10B図10Aの状態のクラッチ機構の概略上面図である。
図11A】本発明の一実施形態に係るクラッチ機構の駆動力伝達遮断状態を説明する説明図である。
図11B図11Aの状態のクラッチ機構の概略上面図である。
図12A】停止部を備えない比較例のクラッチ機構の状態を説明する説明図である。
図12B図12Aの状態のクラッチ機構の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るクラッチ機構およびクラッチ機構を備えた駆動装置を説明する。ただし、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明のクラッチ機構および駆動装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明のクラッチ機構は、以下に示す駆動装置に限定されることはなく、他の駆動装置にも適用可能である。
【0013】
本実施形態の駆動装置1は、図1に示されるように、車椅子WCなどの駆動対象を牽引する装置である。駆動装置1は、たとえば、車両V内に取り付けられ、駆動対象である車椅子WCを牽引して車両V内に導くウインチ装置として用いられる。車椅子WCは、駆動装置1により牽引されて、車両Vに設けられたスロープSLを通って、車両V内の荷台LPに導かれる。ただし、駆動装置1は、車椅子WCに限定されることはなく、他の駆動対象を牽引するために使用することもできる。
【0014】
駆動装置1は、図2図4に示されるように、牽引部材2と、牽引部材2を巻き取りおよび繰り出し可能な巻取部材3と、巻取部材3を回転させるための駆動力を生成する駆動部4と、巻取部材3に駆動力を伝達する伝動部材5(図4参照)と、駆動部4と伝動部材5との間に配置され、駆動部4から伝動部材5に駆動力を伝達する伝動機構TM(図4参照)と、クラッチ機構CMとを備えている。駆動装置1は、本実施形態では、巻取部材3が取り付けられる支持部材SMと、支持部材SMに固定されて、支持部材SMとともに、伝動機構TM、クラッチ機構CMおよび伝動部材5を少なくとも部分的に収容するハウジングHとを備えている。駆動装置1は、駆動部4で生成した駆動力を伝動機構TM、クラッチ機構CMおよび伝動部材5を介して巻取部材3に伝達して、牽引部材2を巻取部材3によって巻き取ることにより、駆動対象である車椅子WCを牽引する。
【0015】
牽引部材2は、駆動対象である車椅子WCを牽引する長尺の部材である。牽引部材2は、図1図3に示されるように、一方の端部が巻取部材3に接続され、他方の端部がたとえばフックFなどを介して車椅子WCに接続されて、駆動装置1と車椅子WCとを接続する。牽引部材2は、巻取部材3に巻回可能な柔軟性を有し、車椅子WCを牽引する際に破損等が抑えられる強度を有していれば、特に限定されることはなく、たとえばベルト、ロープ、ワイヤなどにより構成することができる。
【0016】
巻取部材3は、牽引部材2を巻き取りおよび繰り出す部材である。巻取部材3は、図2図4に示されるように、軸Xを中心に一方向(以下では、「第1方向D1」という)に回転することで牽引部材2を巻き取り、牽引部材2が繰り出されることで他方向(以下では、「第2方向D2」という)に回転するように構成される。巻取部材3は、本実施形態では、回転中心に固定された回転軸部材RS(図5参照)が支持部材SMの対向する側壁SM1、SM1に回転可能に固定されることで、対向する側壁SM1、SM1の間に回転可能に取り付けられる。また、巻取部材3は、伝動部材5とともに軸Xを中心に回転するように、回転軸部材RSを介して伝動部材5に固定される。なお、以下において、巻取部材3の第1方向D1への回転に関連して移動する他の部材の移動方向についても第1方向D1と呼び、巻取部材3の第2方向D2への回転に関連して移動する他の部材の移動方向についても第2方向D2と呼ぶ。
【0017】
駆動部4は、巻取部材3を回転させるための駆動力を生成する。駆動部4は、図4に示されるように、伝動機構TMに駆動力を伝達するように伝動機構TMに接続されている。駆動部4は、生成した駆動力を伝動機構TMに伝達することで、伝動機構TM、クラッチ機構CMおよび伝動部材5を介して巻取部材3を回転させる。駆動部4は、巻取部材3を回転させるための駆動力を生成し、伝動機構TMおよびクラッチ機構CMを介して、生成した駆動力を伝動部材5に伝達することができればよく、その構成は特に限定されない。本実施形態では、駆動部4は、図4に示されるように、モータ41と、モータ41の出力軸に接続されるウォームギヤ部42と、ウォームギヤ部42に接続される駆動力伝達軸43と、駆動力伝達軸43に固定され、伝動機構TMに接続される駆動力伝達ギヤ44とを備えている。ウォームギヤ部42は、モータ41の出力軸および駆動力伝達軸43のいずれか一方に固定されるウォーム(図示せず)と、モータ41の出力軸および駆動力伝達軸43の他方に固定されるウォームホイール(図示せず)とを備えている。駆動部4は、モータ41を作動させることでモータ41の出力軸を回転させ、それに伴ってウォームギヤ部42を介して駆動力伝達軸43および駆動力伝達ギヤ44を回転させる。駆動部4は、駆動力伝達ギヤ44を回転させることで伝動機構TMを回転させ、伝動機構TMおよびクラッチ機構CMを介して伝動部材5を回転させる。
【0018】
伝動部材5は、駆動部4の駆動力を駆動対象に伝達する部材である。本実施形態では、伝動部材5は、伝動機構TMおよびクラッチ機構CMを介して伝達された駆動部4の駆動力を巻取部材3に伝達し、巻取部材3および牽引部材2を介して駆動対象である車椅子WCに駆動力を伝達する。伝動部材5は、駆動部4の駆動力を駆動対象に伝達することができればよく、その構成は特に限定されない。本実施形態では、伝動部材5は、図5および図6に示されるように、回転中心に設けられた嵌合孔51に固定された回転軸部材RSを介して巻取部材3に接続され、巻取部材3とともに軸Xを中心に回転するように構成される。伝動部材5は、その回転軸部材RSを介して巻取部材3とともに支持部材SM(図4を参照)に回転可能に固定される。伝動部材5は、外周にラチェット歯RM1を有する略円形のラチェット歯車として具現化され、以下で述べるように、所定の状態で回転移動が制限されるように構成されている。ただし、伝動部材5は、巻取部材3を回転させるように駆動力を巻取部材3に伝達することができれば、本実施形態に限定されることはなく、たとえば外周に設けられたラチェット歯RM1を有さず、回転移動が制限されないように構成されてもよいし、たとえば巻取部材3にピニオンを設け、そのピニオンと係合しながら直線状に移動する線状ラックとして具現化され、直線移動するように構成されてもよい。
【0019】
伝動部材5は、図6に示されるように、後述するクラッチ機構CMの係合部材8と係合する被係合部52を備えている。伝動部材5は、クラッチ機構CMの係合部材8が伝動部材5の移動方向(本実施形態では回転方向)で被係合部52と係合することにより、クラッチ機構CMの係合部材8を介して伝動機構TMから駆動力が伝達されて、巻取部材3を介して駆動対象へ駆動力を伝達することができる。また、伝動部材5は、クラッチ機構CMの係合部材8の、被係合部52との係合が解除されることで、伝動機構TMからの駆動力の伝達が遮断されて、駆動対象への駆動力の伝達が遮断される。
【0020】
伝動部材5の被係合部52は、伝動部材5の移動方向でクラッチ機構CMの係合部材8と係合可能であればよく、その構成は特に限定されない。本実施形態では、被係合部52は、図6に示されるように、伝動部材5の軸X方向に沿って貫通する貫通孔53の周壁として構成される。貫通孔53は、後述する係合部材8の係合ピン82(図5および図8B参照)が挿入可能な大きさに形成されている。係合部材8の係合ピン82は、貫通孔53に挿入されることで、貫通孔53の周壁である被係合部52と係合可能となる。伝動部材5には、係合部材8の係合ピン82に対応して、伝動部材5の移動方向(本実施形態では回転方向)に沿って互いに離間して複数(本実施形態では6つ)の貫通孔53が設けられている。また、伝動部材5の軸X方向の係合部材8側の面には、貫通孔53の第2方向D2側に隣接して、係合ピン82を貫通孔53に案内する案内面54が設けられている。案内面54は、第1方向D1に向かうに従って、軸X方向の係合部材8側とは反対側(図6中、紙面裏側)に向かうように傾斜している。係合ピン82は、軸X方向で伝動部材5に向かって押圧されながら第1方向D1に移動させられる際に、係合ピン82の先端が案内面54に当接すると、この案内面54の傾斜によって係合ピン82の第1方向D1への移動が促進されて、貫通孔53に容易に挿入される。
【0021】
駆動装置1は、図4図6に示されるように、伝動部材5の第1方向D1への回転を許容し、伝動部材5の第2方向D2への回転を規制するラチェット機構RMを備えていてもよい。ラチェット機構RMは、本実施形態では、伝動部材5の第1方向D1への移動を許容し、伝動部材5の第2方向D2への移動を規制する第1機能状態(図6の状態)と、伝動部材5の第1および第2方向D1、D2への移動を許容する第2機能状態(図示せず)との間で移行可能である。ラチェット機構RMが第1機能状態にある際には、伝動部材5を第1方向D1へ移動させるための駆動力が伝動部材5に伝達されると、伝動部材5の第1方向D1への移動が許容されることで、伝動部材5とともに巻取部材3が第1方向D1に回転して牽引部材2を巻き取る。逆に、巻取部材3から牽引部材2が繰り出されようとすると、伝動部材5の第2方向D2への移動が規制されることで、巻取部材3の第2方向D2への回転が規制されて、牽引部材2の繰り出しが規制される。また、ラチェット機構RMが第2機能状態にある際には、伝動部材5の第1および第2方向D1、D2への移動が許容されることで、巻取部材3の回転も許容され、牽引部材2の繰り出しが可能となる。
【0022】
ラチェット機構RMは、上述した第1機能状態と第2機能状態との間で移行可能であれば、その構成は特に限定されない。本実施形態では、ラチェット機構RMは、図4および図6に示されるように、伝動部材5の外周に設けられたラチェット歯RM1と、ラチェット歯RM1と係合する係合位置とラチェット歯RM1と係合しない非係合位置との間で移動可能な歯止め部材RM2と、歯止め部材RM2を非係合位置から係合位置の方向に付勢する付勢部材(図示せず)と、歯止め部材RM2を第1機能状態となる位置と第2機能状態となる位置との間で移動させるラチェット機構用アクチュエータRM3とを備えている。歯止め部材RM2は、軸Xと略平行に延びる回転軸RM4を介して、支持部材SMの側壁SM1に回転可能に軸支される。歯止め部材RM2の一方側の端部RM21は、ラチェット機構用アクチュエータRM3に連結され、歯止め部材RM2の他方側の端部RM22は、ラチェット歯RM1と係合可能である。ラチェット機構用アクチュエータRM3は、本実施形態では公知のソレノイドによって構成される。ラチェット機構用アクチュエータRM3は、非作動状態で、歯止め部材RM2の他方側の端部RM22をラチェット歯RM1に隣接する位置(図6の位置)に位置付けて、歯止め部材RM2を第1機能状態とする。また、ラチェット機構用アクチュエータRM3は、作動状態で、歯止め部材RM2の他方側の端部RM22をラチェット歯RM1から離間する位置に位置付けて、歯止め部材RM2を第2機能状態とする。歯止め部材RM2は、第1機能状態において、ラチェット歯RM1に隣接した位置に配置され、付勢部材によって非係合位置から係合位置の方向に付勢されている。このとき、伝動部材5が第1方向D1に移動する際には、ラチェット歯RM1が、歯止め部材RM2の他方側の端部RM22を付勢部材の付勢力に抗して非係合位置に移動させるので、伝動部材5の第1方向D1への移動が許容される。一方、伝動部材5が第2方向D2に移動する際には、歯止め部材RM2の他方側の端部RM22が係合位置で保持されてラチェット歯RM1に係合するので、伝動部材5の第2方向D2への移動が規制される。また、歯止め部材RM2は、第2機能状態において、ラチェット歯RM1から離間した位置に配置され、付勢部材による付勢に関わらず、常に非係合状態とされる。したがって、伝動部材5の第1および第2方向D1、D2への移動が許容される。駆動装置1では、駆動対象である車椅子WCを牽引する際には、ラチェット機構用アクチュエータRM3を作動状態とすることで、伝動部材5の第1方向D1への移動を許容し、第2方向D2への移動を規制する第1機能状態とされる。また、牽引部材2を巻取部材3から繰り出す際には、ラチェット機構用アクチュエータRM3を非作動状態とすることで、伝動部材5の第2方向D2への移動を許容する第2機能状態とされる。
【0023】
伝動機構TMは、図4に示されるように、駆動部4に接続されることで駆動部4の駆動力が伝達され、クラッチ機構CMを介して伝動部材5に接続されることで駆動部4の駆動力を伝動部材5に伝達する。本実施形態では、伝動機構TMは、図5に示されるように、巻取部材3および伝動部材5に固定された回転軸部材RSに軸支され、軸Xを中心に回転可能に構成されている。伝動機構TMは、図4に示されるように、伝動機構TM(外周ギヤ6)の外周に設けられた歯列と、駆動部4の駆動力伝達ギヤ44の外周の歯列とが噛合うように、駆動部4に接続される。伝動機構TMは、駆動部4の駆動力伝達ギヤ44が回転すると、駆動力伝達ギヤ44の回転に伴って軸Xを中心に回転するように構成される。また、伝動機構TMは、クラッチ機構CMを介して伝動部材5に接続される。伝動機構TMは、駆動部4の駆動力が伝達されることで軸Xを中心に回転して、クラッチ機構CMを介して、軸Xを中心に伝動部材5を回転させる。ただし、伝動機構TMは、本実施形態では駆動部4の駆動力によって回転移動するように構成されているが、駆動部4の駆動力を伝動部材5に伝達することができれば、本実施形態に限定されることはなく、たとえば直線状に移動する線状ラックとして構成されて、直線移動するように構成されてもよい。
【0024】
伝動機構TMは、駆動部4と伝動部材5との間に配置され、駆動部4の駆動力を伝動部材5に伝達可能であればよく、その構成は特に限定されない。本実施形態では、伝動機構TMは、図5および図7に示されるように、軸Xを中心に回転可能な略環状の外周ギヤ6と、外周ギヤ6の内周の径方向内側に配置され、軸Xを中心に回転可能な内周ギヤ7とを備えている。外周ギヤ6と内周ギヤ7とは、以下で述べるように、内周ギヤ7に対する外周ギヤ6の第1方向D1への相対回転が規制され、外周ギヤ6の第2方向D2への相対回転が許容されるように構成されている。つまり、外周ギヤ6は、第1方向D1に回転する場合、内周ギヤ7とともに回転し、第2方向D2に回転する場合、内周ギヤ7に対して相対回転可能である。
【0025】
外周ギヤ6は、駆動部4に接続され、駆動部4から駆動力が伝達されるギヤである。外周ギヤ6は、図5に示されるように、内周ギヤ7を介して回転軸部材RSに回転可能に軸支される。外周ギヤ6の外周には、図4に示されるように、駆動部4の駆動力伝達ギヤ44の歯列と噛合可能な歯列が設けられている。外周ギヤ6は、駆動力伝達ギヤ44と噛合することで、駆動力伝達ギヤ44の回転と連動して回転するように構成されている。また、外周ギヤ6には、図7に示されるように、内周ギヤ7と係合可能な爪部材61が設けられている。爪部材61は、外周ギヤ6の内周面から径方向内側に突出する位置(図7の位置)と、外周ギヤ6の内周面よりも径方向外側の位置との間で移動可能に構成されている。さらに外周ギヤ6には、外周ギヤ6の内周面から径方向内側に突出する方向に爪部材61を付勢する付勢部材62が設けられている。外周ギヤ6の爪部材61に対応して、内周ギヤ7には、内周ギヤ7の外周から径方向内側に凹んだ凹部71が形成されている。凹部71は、凹部71の第1方向D1側の側壁に、外周ギヤ6の内周面から径方向内側に突出する位置にある爪部材61が係合するように形成されている。外周ギヤ6が第1方向D1に回転移動すると、付勢部材62によって付勢されて外周ギヤ6の内周から径方向内側に突出した爪部材61が内周ギヤ7の凹部71の第1方向D1側の側壁に係合して、外周ギヤ6とともに内周ギヤ7が回転する。外周ギヤ6が第2方向D2に回転移動すると、外周ギヤ6の爪部材61が、内周ギヤ7の凹部71の第2方向D2側の側壁に押圧されて、付勢部材62の付勢力に抗して、外周ギヤ6の内周面よりも径方向外側の位置まで移動することで、内周ギヤ7との係合が解除されるので、外周ギヤ6が内周ギヤ7に対して相対回転可能となる。
【0026】
内周ギヤ7は、外周ギヤ6の内周の径方向内側に配置され、外周ギヤ6を支持する。内周ギヤ7は、図5および図7に示されるように、略中心に設けられた挿通孔72に回転軸部材RSが挿通されることで、軸Xを中心に回転可能に回転軸部材RSに軸支される。また、内周ギヤ7は、図7に示されるように、後述するクラッチ機構CMの係合部材8と係合する被係合部73を備えている。伝動機構TMは、クラッチ機構CMの係合部材8が内周ギヤ7の被係合部73と伝動機構TMの移動方向(本実施形態では回転方向)で係合することにより、クラッチ機構CMの係合部材8に駆動部4の駆動力を伝達する。内周ギヤ7の被係合部73は、内周ギヤ7の移動方向でクラッチ機構CMの係合部材8と係合可能であればよく、その構成は特に限定されない。本実施形態では、被係合部73は、図7に示されるように、内周ギヤ7の軸X方向に貫通する貫通孔74の周壁として構成される。貫通孔74は、後述する係合部材8の係合ピン82が貫通可能な大きさに形成されている。係合部材8の係合ピン82は、貫通孔74に挿通されることで、貫通孔74の周壁である被係合部73と係合可能となる。内周ギヤ7には、係合部材8の係合ピン82に対応して、内周ギヤ7の移動方向(本実施形態では回転方向)に沿って互いに離間して複数(本実施形態では6つ)の貫通孔74が設けられている。
【0027】
クラッチ機構CMは、駆動装置1において、伝動部材5が駆動対象に駆動力を伝達可能な駆動力伝達可能状態(図10Aおよび図10Bの状態)と、伝動部材5による駆動対象への駆動力の伝達を遮断する駆動力伝達遮断状態(図11Aおよび図11Bの状態)とを切り替えるために使用される。本実施形態では、駆動装置1が駆動力伝達可能状態にされることで、駆動部4から伝動部材5に駆動力が伝達されて、伝動部材5から伝達される駆動力により巻取部材3に牽引部材2が巻き取られ、駆動対象である車椅子WCが牽引部材2によって牽引される。また、駆動装置1が駆動力伝達遮断状態にされることで、伝動部材5に駆動力が伝達されることはなく、それによって伝動部材5から巻取部材3および車椅子WCに駆動力が伝達されずに、車椅子WCが牽引されることはない。なお、クラッチ機構CMは、本実施形態の駆動装置1に限定されることはなく、駆動部から駆動対象に駆動力を伝達する他の駆動装置にも適用可能である。
【0028】
クラッチ機構CMは、駆動装置1において駆動力伝達可能状態と駆動力伝達遮断状態とを切り替えるという目的のために、図5に示されるように、伝動部材5と係合可能な係合部材8と、係合部材8を付勢する付勢部材9と、係合部材8に対して付勢方向BDの側に配置される移動部材10と、移動部材10に対して付勢方向BDの側に配置される壁部11と、移動部材10を移動させるためのアクチュエータ12とを備えている。クラッチ機構CMは、以下で詳しく述べるように、アクチュエータ12によって移動部材10を所定位置に移動させることで、付勢部材9の付勢力に抗して係合部材8を、伝動部材5との係合が可能な位置に移動させて、駆動装置1を駆動力伝達可能状態にする。また、クラッチ機構CMは、アクチュエータ12によって移動部材10を別の所定位置に移動させることで、付勢部材9の付勢力によって係合部材8を、伝動部材5との係合が解除可能な位置に移動させて、駆動装置1を駆動力伝達遮断状態にする。
【0029】
係合部材8は、伝動部材5と係合することで伝動部材5を駆動力伝達可能状態とする係合位置(図10Aの位置)と、伝動部材5から係合解除して伝動部材5を駆動力伝達遮断状態とする係合解除位置(図11Aの位置)との間で移動可能に構成される。係合部材8は、係合位置で伝動部材5と係合することで駆動部4の駆動力を伝動部材5に伝達し、係合解除位置で伝動部材5と係合解除することで駆動部4の駆動力の伝動部材5への伝達を遮断する。係合部材8は、係合位置と係合解除位置との間で移動可能であれば、その移動方向は特に限定されない。本実施形態では、係合部材8は、図10Aおよび図11Aに示されるように、軸Xに沿って移動するように構成され、軸Xに沿って伝動部材5に近付く方向に移動して伝動部材5と係合し、軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動して伝動部材5との係合が解除されるように構成される。
【0030】
係合部材8は、係合位置にあるときに伝動部材5と係合し、係合解除位置にあるときに伝動部材5と係合解除することができればよく、その構造は特に限定されない。本実施形態では、係合部材8は、図8Bに示されるように、基部81と、基部81から軸Xに沿って伝動部材5に近付く方向に延びる複数(本実施形態では6つ)の係合ピン82とを備えている。基部81は、軸Xに対して略垂直な平面内に拡張する略円板状に形成され、その略中心には、回転軸部材RSが挿通される挿通孔81aが設けられている。係合部材8は、基部81の挿通孔81aに回転軸部材RSが挿通されることで、軸Xに沿って移動可能に、かつ軸Xを中心に回転可能に回転軸部材RSに軸支される。複数の係合ピン82は、基部81の挿通孔81aの周囲に、軸Xを中心とした周方向に沿って略等間隔で設けられている。係合ピン82は、軸Xに沿って延びるロッド状に形成され、その側面に、伝動部材5の被係合部52と係合可能な係合部82aが形成されている。図10Aに示されるように、係合部材8が軸Xに沿って伝動部材5に近付く方向に移動することで、伝動部材5の貫通孔53に係合ピン82が挿入されて、係合部材8の係合部82aが伝動部材5の被係合部52と係合する。また、図11Aに示されるように、係合部材8が軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動することで、伝動部材5の貫通孔53から係合ピン82が抜き出されて、係合部材8の係合部82aと伝動部材5の被係合部52との係合が解除される。
【0031】
係合部材8は、伝動部材5と係合して、駆動部4から伝達された駆動力を伝動部材5に伝達し、伝動部材5と係合解除して、駆動部4から伝達された駆動力の伝動部材5への伝達を遮断することができればよく、駆動部4から係合部材8への駆動力の伝達方法は特に限定されない。本実施形態では、係合部材8は、伝動機構TMを介して駆動部4の駆動力が伝達される。係合部材8は、伝動機構TMの移動方向(本実施形態では回転方向)で伝動機構TMと係合することにより、伝動機構TMから駆動部4の駆動力が伝達されて、伝動機構TMとともに移動(本実施形態では回転移動)するように構成されている。より具体的に説明すると、係合部材8は、図10Aおよび図11Aに示されるように、上述した係合位置および係合解除位置に関わらず、係合部材8の係合ピン82が伝動機構TMの貫通孔74を貫通して配置されることで、係合部材8の係合部82aと伝動機構TMの被係合部73とが係合して、伝動機構TMとともに回転するように構成される。これにより、伝動機構TMは、係合部材8を介して伝動部材5に駆動力を伝達可能となる。なお、本実施形態の駆動装置1は、係合部材8が伝動機構TMを介して駆動部4の駆動力が伝達されるように構成されているが、駆動部4から係合部材8に直接駆動力が伝達されるように構成されてもよい。
【0032】
付勢部材9は、係合部材8を係合位置から係合解除位置へ付勢方向BDに沿って付勢する。付勢部材9は、本実施形態では、図10Aおよび図11Aに示されるように、軸X方向で伝動機構TM(内周ギヤ7)と係合部材8(基部81)との間に設けられ、伝動機構TMに対して軸X方向に伝動機構TMから離れる方向に係合部材8を付勢する。係合部材8は、付勢部材9によって、軸X方向で伝動部材5に接近した、伝動部材5と係合する係合位置から、軸X方向で伝動部材5から離れた、伝動部材5との係合が解除される係合解除位置に向かって付勢される。付勢部材9は、係合部材8を係合位置から係合解除位置へ付勢することができればよく、特に限定されることはないが、本実施形態ではコイルバネによって具現化されている。
【0033】
移動部材10は、係合部材8を係合位置へ移動させる係合補助位置(図10Aの位置)と、係合部材8の係合解除位置への移動を許容する係合解除補助位置(図11Aの位置)との間で移動可能に構成される。移動部材10は、係合補助位置に位置付けられることで、係合部材8を伝動部材5と係合させ、係合解除補助位置に位置付けられることで、係合部材8の伝動部材5との係合を解除させる。移動部材10は、図5に示されるように、係合部材8に対して付勢部材9の付勢方向BDの側に配置され、付勢部材9の付勢力によって、係合部材8を介して付勢方向BDに沿って付勢されている。移動部材10は、係合補助位置に移動することで、付勢部材9の付勢力に抗して係合部材8を係合位置へと移動させ、係合解除補助位置へと移動することで、付勢部材9による付勢力によって係合部材8が係合解除位置へと移動するのを許容する。
【0034】
移動部材10は、係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動可能であればよく、その移動方向は特に限定されない。本実施形態では、移動部材10は、図10Aおよび図11Aに示されるように、軸Xに沿って係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動するように構成される。移動部材10は、係合部材8に対して軸X方向の伝動部材5とは反対側において、係合部材8に直接または間接的に当接するように配置される。移動部材10は、係合解除補助位置よりも軸X方向で伝動部材5に近い位置である係合補助位置に位置することで、付勢部材9の付勢力に抗して係合部材8を軸Xに沿って伝動部材5に近い係合位置へと位置付ける。また、移動部材10は、係合補助位置よりも軸X方向で伝動部材5から遠い位置である係合解除補助位置に位置することで、付勢部材9による付勢力によって係合部材8が軸Xに沿って伝動部材5から遠い係合解除位置へと移動するのを許容する。ただし、係合補助位置および係合解除補助位置は、本実施形態では軸X方向に沿って設けられているが、そのような配置に限定されることはなく、たとえば軸Xに対して垂直方向に沿って設けることも可能である。
【0035】
移動部材10の上述した軸X方向の移動は、特に限定されることはないが、本実施形態では、軸Xを中心とした移動部材10の回転移動に伴って実現される。移動部材10は、軸Xを中心とした所定の回転位置に移動することで、付勢部材9の付勢力に抗して軸Xに沿って伝動部材5に近付く方向に移動して係合補助位置(図10Aの位置)に位置し、また、軸Xを中心とした別の所定の回転位置に移動することで、付勢部材9の付勢力によって軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動して係合解除補助位置(図11Aの位置)に位置するように構成される。その目的のために、本実施形態では、移動部材10は、図5に示されるように、軸X方向で係合部材8と壁部11との間に挟まれるように配置され、軸X方向の一方側で係合部材8に当接し、軸X方向の他方側で壁部11に当接している。移動部材10は、係合部材8を介して付勢部材9の付勢力を受けて、軸X方向で壁部11に対して押圧された状態で保持されている。
【0036】
ここで、移動部材10は、本実施形態では、図8Aに示されるように、略円環状の基部10aと、基部10aの内周面上に周方向に沿って設けられた複数(本実施形態では4つ)の摺動部10bとを備えている。移動部材10は、基部10aの軸X方向の係合部材8側の面(図8A中、下側の面)で係合部材8に当接し、摺動部10bの軸X方向の壁部11側の面(図8A中、上側の面)で壁部11に当接する。摺動部10bは、移動部材10が回転移動する際に、摺動部10bに対応するように壁部11に形成された摺動部11c(図9参照)に対して摺動する。摺動部10bは、軸Xに対して略垂直に、周方向に沿って延びる平面10cと、軸Xに対する垂直面から、周方向に沿って傾斜した傾斜面10dとを備えている。傾斜面10dは、軸Xを中心とした周方向の一方向である第3方向D3に向かうに従って軸X方向で壁部11側から係合部材8側(図8A中、上から下)に向かうように傾斜している。移動部材10は、移動部材10の傾斜面10dと、後述する壁部11の傾斜面11eとが当接した状態である図11Aに示された状態から第3方向D3に回転すると、移動部材10の傾斜面10dが壁部11の傾斜面11eに案内されて、付勢部材9の付勢力に抗して軸Xに沿って伝動部材5に近付く方向(図11A中、下方向)に移動して、移動部材10の平面10cと、後述する壁部11の平面11dとが当接した状態である図10Aに示された係合補助位置に位置付けられる。また、移動部材10は、図10Aに示された状態から、第3方向D3とは反対の第4方向D4に回転すると、移動部材10の傾斜面10dが壁部11の傾斜面11eに案内されて、付勢部材9の付勢力によって軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向(図10A中、上方向)に移動して、図11Aに示された係合解除補助位置に位置付けられる。
【0037】
移動部材10の係合補助位置と係合解除補助位置との間の移動は、アクチュエータ12によって行われる。本実施形態では、移動部材10は、アクチュエータ12によって軸Xを中心に回転させられることで、軸X方向に沿って係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動させられる。移動部材10は、図8Aに示されるように、アクチュエータ12との連結のために、アクチュエータ12に直接または間接的に連結される移動部材側連結部10eを備えている。移動部材側連結部10eは、移動部材10が係合解除補助位置にあるときに、後述する壁部11の貫通孔(以下、連結用貫通孔11aという)に少なくとも部分的に進入するように配置されている(図11A参照)。移動部材側連結部10eは、本実施形態では、図8Aに示されるように、基部10aから軸X方向に壁部11側に突出するように設けられている。
【0038】
移動部材10は、アクチュエータ12に直接または間接的に連結され、アクチュエータ12によって係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動させられればよく、アクチュエータ12との連結方法は特に限定されない。本実施形態では、移動部材10は、図4および図5に示されるように、クラッチ機構CMに備えられたリンク部材13を介して間接的にアクチュエータ12に連結される。移動部材10は、アクチュエータ12によって移動するリンク部材13に移動部材側連結部10eが連結されることで、リンク部材13を介して間接的にアクチュエータ12に駆動される。リンク部材13は、図2に示されるように、リンク部材13の移動によって移動部材10を係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動可能に、後述する壁部11の貫通孔(連結用貫通孔11a)を通して移動部材側連結部10eに連結される。
【0039】
リンク部材13は、アクチュエータ12によって移動し、移動部材10を係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動させることができればよく、リンク部材13の移動方向は特に限定されない。本実施形態では、リンク部材13は、壁部11に対して回転可能に設けられている。その目的のために、リンク部材13は、図5に示されるように、壁部11に回転可能に軸支されたリンク部材用回転軸13aに固定されている。移動部材10は、壁部11に対して回転可能なリンク部材13を介してアクチュエータ12によって回転移動可能に構成される。リンク部材13は、リンク部材用回転軸13aから径方向外側に延びるように形成され、リンク部材13の径方向外側の先端に移動部材側連結部10eと連結するリンク部材側連結部13bが設けられている。リンク部材13のリンク部材側連結部13bは、移動部材10がリンク部材13に対して軸X方向に相対移動可能であるように、移動部材10の移動部材側連結部10eに連結される。これにより、アクチュエータ12によりリンク部材13が回転移動した際に、移動部材10が回転移動しながら軸X方向に沿って移動することができる。リンク部材13のリンク部材側連結部13bは、図5に示されるように、軸X方向に沿って延びるロッド状に形成され、移動部材10の移動部材側連結部10eに設けられた、軸X方向に沿って貫通した挿通孔10f(図8A参照)に挿通される。リンク部材13は、アクチュエータ12によって軸Xを中心に回転し、移動部材10を、軸Xを中心に回転移動させることで、移動部材10を係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動させる。本実施形態では、上述したように、移動部材10の回転軸とリンク部材13の回転軸とが同軸上に配置されるが、それによって、移動部材10の回転移動がスムーズに行われる。
【0040】
壁部11は、図5に示されるように、移動部材10に対して付勢部材9の付勢方向BDの側に配置され、移動部材10が設けられる空間と、アクチュエータ12が設けられる空間との間に設けられる部位である。壁部11は、本実施形態では、図5および図9に示されるように、ハウジングHの一部として構成される。ただし、壁部11は、ハウジングHとは別に設けられてもよい。壁部11には、移動部材10とアクチュエータ12とを連結するための貫通孔(連結用貫通孔11a)が設けられている。本実施形態では、移動部材10の移動部材側連結部10eと、アクチュエータ12に連結されたリンク部材13のリンク部材側連結部13bとが連結用貫通孔11aを通して連結される。連結用貫通孔11aは、移動部材10が係合解除補助位置にあるときに移動部材側連結部10eが少なくとも部分的に進入するように配置されている(図11A参照)。また、壁部11は、リンク部材13を移動可能に接続するためのリンク部材用貫通孔11bを備えている。リンク部材用貫通孔11bに、リンク部材13のリンク部材用回転軸13aが回転可能に固定される。
【0041】
壁部11は、本実施形態では、軸X方向で移動部材10が当接し、付勢部材9の付勢力によって付勢される移動部材10に対して、軸X方向で付勢力に対する反力を加えるように構成される。壁部11は、図9に示されるように、移動部材10の摺動部10bと当接する摺動部11cを備えている。壁部11の摺動部11cは、軸Xを中心とした周方向に沿って形成されている。移動部材10の摺動部10bは、移動部材10が回転移動する際に、付勢部材9の付勢力によって軸X方向で壁部11の摺動部11c上に押圧されながら摺動する。壁部11の摺動部11cは、軸Xに対して略垂直に、周方向に沿って延びる平面11dと、軸Xに対する垂直面から、周方向に沿って傾斜した傾斜面11eとを備えている。壁部11の傾斜面11eは、移動部材10の傾斜面10dに対応するように、軸Xを中心とした周方向の一方向である第3方向D3に向かうに従って軸X方向で壁部11側から移動部材10側に向かうように傾斜している。上述したように、壁部11の傾斜面11eは、移動部材10が回転移動する際に移動部材10の傾斜面10dが摺動することにより、移動部材10が軸X方向に沿って移動するように移動部材10を案内する。また、壁部11の平面11dは、移動部材10の平面10cが当接することで、移動部材10を係合補助位置に位置付ける。
【0042】
壁部11には、図2図5図10A図11Bに示されるように、移動部材10と直接または間接的に当接することで移動部材10の移動を停止させる停止部14が設けられている。停止部14は、本実施形態では、図11Aおよび図11Bに示されるように、リンク部材13と当接することで、リンク部材13を介して移動部材10と間接的に当接し、移動部材10の移動を停止させるように設けられる。移動部材10は、移動部材10が係合補助位置(図10Aおよび図10Bの位置)から係合解除補助位置(図11Aおよび図11Bの位置)に向かって移動する際に、停止部14と直接または間接的に当接することで、移動部材10が壁部11の貫通孔(連結用貫通孔11a)の周壁に当接しない位置P(図11A参照)で停止させられる。これにより、本実施形態のクラッチ機構CMでは、移動部材10が壁部11の貫通孔(連結用貫通孔11a)の周壁に当接しない位置P(図11A参照)で停止することから、壁部11の下側に移動部材10が潜り込むことなく、移動部材10を係合補助位置から係合解除補助位置へとより確実に移動させ、駆動力伝達可能状態から駆動力伝達遮断状態への移行をより確実に行なうことができる。なお、停止部14は、移動部材10の移動を上述した所定位置で停止させることができればよく、移動部材10に直接当接するように設けられても構わない。
【0043】
停止部14は、移動部材10と直接または間接的に当接して、移動部材10の移動を上述した所定位置で停止させることができればよく、設けられる壁部11の位置は特に限定されない。本実施形態では、停止部14は、図5に示されるように、移動部材10とは付勢部材9による付勢方向BDにおいて壁部11を挟んで反対方向となる壁部11から突出している。軸X方向で移動部材10とは反対側の壁部11の表面から突出する停止部14は、図11Aおよび図11Bに示されるように、移動部材10に連結されたリンク部材13と当接することで、移動部材10の移動を停止させるように配置される。特に、停止部14は、リンク部材13のリンク部材用回転軸13aとリンク部材側連結部13bとの間の位置(径方向の位置)で、リンク部材13に当接するように配置される。これにより、たとえば、移動部材10の径方向外側に位置する基部10aに設けられた移動部材側連結部10eの近傍で移動部材10が停止部14に当接したり、リンク部材13の径方向外側の先端に位置するリンク部材側連結部13bの近傍でリンク部材13が停止部14に当接したりするのと比べると、移動部材側連結部10eやリンク部材側連結部13bよりも径方向内側に位置するリンク部材13の、停止部14との当接箇所の当接時の接線速度が小さくなるので、リンク部材13が停止部14に当接したときの衝突音を小さく抑えることができる。
【0044】
停止部14は、移動部材10に直接または間接的に当接して移動部材10の移動を停止させることができればよく、その構造は特に限定されない。本実施形態では、たとえば図11Aおよび図11Bに示されるように、停止部14のリンク部材13との当接箇所が略平坦に形成されている。同様に、リンク部材13の停止部14との当接箇所が略平坦に形成されている。そして、停止部14は、リンク部材13に当接する際にリンク部材13に面接触するように配置されている。リンク部材13と停止部14とが面接触して当接することで、リンク部材13が停止部14に当接する際の衝撃が小さくなり、当接時の衝撃音を小さく抑えることができるとともに、リンク部材13および停止部14の破損を抑制することができる。
【0045】
アクチュエータ12は、図2に示されるように、壁部11の貫通孔(連結用貫通孔11a)を通して移動部材10の移動部材側連結部10eに直接または間接的に連結され、移動部材10を係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動させる。アクチュエータ12は、移動部材10を係合補助位置と係合解除補助位置との間で移動させることができれば、特に限定されることはなく、公知のソレノイドにより構成することができる。ソレノイドであるアクチュエータ12は、本実施形態では、突出位置と引込位置との間で移動可能なプランジャ12a(図10Bおよび図11Bを参照)と、通電により磁界を発生させるコイル(図示せず)と、プランジャ12aを引込位置から突出位置へと付勢する付勢部材(図示せず)とを備えている。アクチュエータ12は、コイルが通電されない非作動状態では、付勢部材の付勢力によってプランジャ12aを突出位置に位置付け、コイルが通電される作動状態では、コイルの発生する磁界によってプランジャ12aを引込位置に位置付ける。アクチュエータ12は、非作動状態から作動状態に移行することで、プランジャ12aを突出位置から引込位置に移動させ、それによって、プランジャ12aに連結されたリンク部材13を第3方向D3に回転させ、移動部材10を係合補助位置に位置付ける(図11Aおよび図11Bに示された状態から図10Aおよび図10Bに示された状態)。逆に、アクチュエータ12は、作動状態から非作動状態に移行することで、プランジャ12aを引込位置から突出位置に移動させ、それによって、プランジャ12aに連結されたリンク部材13を第4方向D4に回転させ、移動部材10を係合解除補助位置に位置付ける(図10Aおよび図10Bに示された状態から図11Aおよび図11Bに示された状態)。
【0046】
つぎに、本実施形態のクラッチ機構CMおよびクラッチ機構CMを備えた駆動装置1の動作を、車椅子WCを牽引して車両V内に導く例を挙げて説明する。ただし、以下に示す動作は一例であり、本発明のクラッチ機構および駆動装置の動作は、以下の例に限定されるものではない。
【0047】
車椅子WCを牽引するために、図1に示されるように、駆動装置1から牽引部材2を車椅子WCまで引き延ばして、牽引部材2の他方の端部を、フックFを介して車椅子WCに接続する。このとき、牽引部材2を巻取部材3から繰り出すために、まず、図6に示されるラチェット機構RMにおいて、ラチェット機構用アクチュエータRM3を非作動状態から作動状態に切り替えて、歯止め部材RM2をラチェット歯RM1から離間する位置に位置付けて、歯止め部材RM2がラチェット歯RM1と係合しない第2機能状態とする。ラチェット機構RMを第2機能状態とすることで、伝動部材5の第2方向D2への回転が許容されて、伝動部材5とともに回転可能な巻取部材3も、牽引部材2を繰り出す第2方向D2への回転が可能となる。つぎに、クラッチ機構CMにおいて、アクチュエータ12を非作動状態にすることで、図10Aおよび図10Bの位置からリンク部材13を第4方向D4に回転させて、移動部材10を係合解除補助位置に位置付ける。移動部材10が係合解除補助位置に位置付けられることで、係合部材8が、付勢部材9によって付勢方向BDに付勢されて、係合解除位置に位置付けられる(図11Aの位置)。これにより、駆動装置1が駆動力伝達遮断状態となり、伝動部材5と伝動機構TMとの連結が解除されて、伝動部材5は、伝動機構TMに制約されることなく回転できる状態となる。それに伴って、巻取部材3の第2方向D2の回転が許容されるので、巻取部材3から牽引部材2を繰り出すことができ、車椅子WCの位置まで牽引部材2を引き延ばすことができる。
【0048】
つぎに、車椅子WCを牽引するために牽引部材2の巻取動作を行なうが、その前に、まず、図6に示されるラチェット機構RMにおいて、ラチェット機構用アクチュエータRM3を作動状態から非作動状態に切り替える。それにより、歯止め部材RM2をラチェット歯RM1に近付く位置に位置付けて、ラチェット機構RMを、歯止め部材RM2がラチェット歯RM1と係合可能な第1機能状態とする。ラチェット機構RMを第1機能状態とすることで、伝動部材5は、牽引部材2を巻き取る方向である第1方向D1への回転が許容されて、牽引部材2を繰り出す方向である第2方向D2への回転が規制される。これにより、たとえば車椅子WCを牽引中に車椅子WCから牽引部材2が引き操作されても、伝動部材5とともに巻取部材3の第2方向D2への回転が規制されるので、牽引部材2が駆動装置1から引き出されることが抑制される。つぎに、クラッチ機構CMのアクチュエータ12を非作動状態から作動状態に切り替えて、クラッチ機構CMを駆動力伝達遮断状態から駆動力伝達可能状態とする。ここでは、クラッチ機構CMのアクチュエータ12を非作動状態から作動状態に切り替えることで、図11Aおよび図11Bに示された状態から、リンク部材13が第3方向D3に回転し、移動部材10が第3方向D3に回転する。移動部材10が第3方向D3に回転すると、図10Aおよび図10Bに示されるように、移動部材10は、移動部材10の傾斜面10dが壁部11の傾斜面11eに案内されて、付勢部材9の付勢力に抗して、軸Xに沿って伝動部材5に近付く方向に移動する。移動部材10が軸Xに沿って伝動部材5に近付く方向に移動するのにともなって、係合部材8は、軸Xに沿って伝動部材5に近付く方向に移動して、係合部材8の係合ピン82が伝動部材5の貫通孔53に進入して、伝動部材5と係合可能な係合位置へと位置付けられる。係合部材8は、係合ピン82が、伝動機構TMの貫通孔74に挿通され、伝動部材5の貫通孔53に挿入されることで、駆動部4から伝達される駆動力を伝動機構TMから伝動部材5に伝達することができる。
【0049】
クラッチ機構CMを駆動力伝達可能状態とした後に、駆動部4を駆動して、牽引部材2を巻取部材3に巻き取り、車椅子WCを牽引する。ここでは、図4に示されるように、駆動部4のモータ41を作動させると、ウォームギヤ部42を介して駆動力伝達軸43および駆動力伝達ギヤ44が第1方向D1に回転する。駆動力伝達ギヤ44が第1方向D1に回転すると、駆動力伝達ギヤ44の回転に連動して伝動機構TMが第1方向D1に回転する。このとき、駆動力伝達ギヤ44の第1方向D1への回転に伴って、伝動機構TMの外周ギヤ6が第1方向D1に回転し、外周ギヤ6の爪部材61を介して外周ギヤ6に連結された内周ギヤ7が第1方向D1に回転する(図7参照)。伝動機構TMが第1方向D1に回転すると、クラッチ機構CMを介して伝動機構TMに連結された伝動部材5が第1方向D1に回転する。伝動部材5の第1方向D1の回転とともに巻取部材3が第1方向D1に回転して、巻取部材3が牽引部材2を巻き取る。このようにして、駆動装置1は、車椅子WCを牽引して車両V内に導くことができる。
【0050】
車椅子WCの牽引が完了した後に、駆動装置1の電源をオフにする。このとき、図6に示されるラチェット機構RMのラチェット機構用アクチュエータRM3は、非作動状態のままに維持される。この状態では、伝動部材5の第2方向D2への回転が規制されているので、それに伴って巻取部材3の第2方向D2への回転も規制されて、巻取部材3からの牽引部材2の繰り出しが抑制される。車椅子WCは、この状態の駆動装置1と接続されたままにすることによって車両V内で固定することができる。また、駆動装置1の電源をオフにすると、クラッチ機構CMのアクチュエータ12が作動状態から非作動状態に切り替わり、クラッチ機構CMが駆動力伝達可能状態から駆動力伝達遮断状態に切り替わる。このとき、クラッチ機構CMのアクチュエータ12が作動状態から非作動状態に切り替わることで、図10Aおよび図10Bに示された状態から、リンク部材13が第4方向D4に回転して、移動部材10が第4方向D4に回転する。移動部材10が第4方向D4に回転すると、図11Aおよび図11Bに示されるように、移動部材10は、移動部材10の傾斜面10dが壁部11の傾斜面11eに案内されて、付勢部材9の付勢力によって係合部材8とともに押圧されて、軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動する。移動部材10が軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動するのにともなって、係合部材8は、軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動して、係合部材8の係合ピン82が伝動部材5の貫通孔53から抜き出る。そして、係合部材8は、係合解除位置に位置付けられて、伝動部材5との係合が解除される。これにより、クラッチ機構CMは、駆動力伝達遮断状態になる。
【0051】
ここで、上述したように車椅子WCの牽引が完了して駆動装置1の電源をオフにする場合だけでなく、車椅子WCを牽引している最中に、たとえば車椅子WCの移動経路に障害物がある場合など、車椅子WCの牽引を中断する必要がある場合において、クラッチ機構CMを駆動力伝達可能状態から駆動力伝達遮断状態に切り替えるために、クラッチ機構CMのアクチュエータ12を作動状態から非作動状態に切り替える場合がある。このような場合において、係合部材8が係合位置にあるときに、係合部材8と伝動部材5とが強固に係合していて、付勢部材9の付勢力を受けても、係合部材8が、軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動できない場合がある。そうすると、クラッチ機構CMのアクチュエータ12を作動状態から非作動状態に切り替えて、リンク部材13および移動部材10を第4方向D4に回転させても、移動部材10もまた、軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動できない(図12A参照)。ここで、本実施形態のクラッチ機構CMは、移動部材10が、第4方向D4に移動して、係合補助位置(図10Aおよび図10Bの位置)から係合解除補助位置(図11Aおよび図11Bの位置)に向かって移動する際に、移動部材10の移動を停止させる停止部14を備えている。移動部材10は、リンク部材13を介してこの停止部14と当接することで、壁部11の連結用貫通孔11aの周壁に当接しない位置Pで停止する(図11A参照)。本実施形態のクラッチ機構CMは、このような停止部14を備えることで、移動部材10を第4方向D4に回転させた際に、上述したように、軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動できないことがあったとしても、停止部を備えていない場合を示している図12Aおよび図12Bのように、移動部材10の移動部材側連結部10eが壁部11の連結用貫通孔11aを越えて、壁部11の下に潜り込むことを抑制することができる。これにより、移動部材10が、リンク部材13を介して間接的に停止部14と当接した位置において、後に係合部材8と伝動部材5との間の強固な係合が解除されて、付勢部材9の付勢力によって係合部材8が軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動したとしても、移動部材10は、図11Aおよび図11Bに示される係合解除補助位置に移動することができる。対照的に、クラッチ機構CMが停止部14を備えない場合には、図12Aおよび図12Bに示された状態から、係合部材8と伝動部材5との間の強固な係合が解除されて、付勢部材9の付勢力によって係合部材8が軸Xに沿って伝動部材5から離れる方向に移動したとしても、移動部材10の移動部材側連結部10eが壁部11の連結用貫通孔11aに進入できずに壁部11に当接するので、移動部材10が係合解除補助位置に位置付けられることはない。このように、本実施形態のクラッチ機構CMでは、駆動力伝達可能状態から駆動力伝達遮断状態への移行をより確実に行なうことができる。
【符号の説明】
【0052】
1 駆動装置
2 牽引部材
3 巻取部材
4 駆動部
41 モータ
42 ウォームギヤ部
43 駆動力伝達軸
44 駆動力伝達ギヤ
5 伝動部材
51 嵌合孔
52 被係合部
53 貫通孔
54 案内面
6 外周ギヤ
61 爪部材
62 付勢部材
7 内周ギヤ
71 凹部
72 挿通孔
73 被係合部
74 貫通孔
8 係合部材
81 基部
81a 挿通孔
82 係合ピン
82a 係合部
9 付勢部材
10 移動部材
10a 基部
10b 摺動部
10c 平面
10d 傾斜面
10e 移動部材側連結部
10f 挿通孔
11 壁部
11a 貫通孔(連結用貫通孔)
11b リンク部材用貫通孔
11c 摺動部
11d 平面
11e 傾斜面
12 アクチュエータ
12a プランジャ
13 リンク部材
13a リンク部材用回転軸
13b リンク部材側連結部
14 停止部
BD 付勢方向
CM クラッチ機構
D1 第1方向
D2 第2方向
D3 第3方向
D4 第4方向
F フック
H ハウジング
LP 荷台
P 移動部材が壁部の貫通孔(連結用貫通孔)の周壁に当接しない位置
RM ラチェット機構
RM1 ラチェット歯
RM2 歯止め部材
RM21 一方側の端部
RM22 他方側の端部
RM3 ラチェット機構用アクチュエータ
RM4 回転軸
RS 回転軸部材
SL スロープ
SM 支持部材
SM1 側壁
TM 伝動機構
V 車両
WC 車椅子
X 軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B