(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032894
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】GaN基板の表面加工方法およびGaN基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 7/00 20060101AFI20230302BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230302BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230302BHJP
B24B 37/10 20120101ALI20230302BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20230302BHJP
B24D 3/14 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B24B7/00 Z
H01L21/304 631
H01L21/304 621D
H01L21/304 622Q
H01L21/304 622F
B24B37/00 H
B24B37/10
B24B1/00 A
B24D3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139256
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】大宮 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】會田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】片倉 春治
【テーマコード(参考)】
3C043
3C049
3C063
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C043BA07
3C043CC04
3C043CC07
3C043CC13
3C043DD02
3C049AA02
3C049AA07
3C049AA09
3C049AC04
3C049BA02
3C049BA04
3C049CB01
3C049CB03
3C063AA02
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3C063BB02
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3C063BB07
3C063BC05
3C063EE10
3C063EE15
3C158AA07
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3C158BA04
3C158CB01
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3C158ED02
3C158ED10
3C158ED12
5F057AA14
5F057BA12
5F057BB06
5F057CA11
5F057DA03
5F057DA08
5F057DA11
5F057EB17
5F057EB18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】GaN基板の表面加工を短時間で行うことができるGaN基板の表面加工方法およびGaN基板の製造方法を提供する。
【解決手段】GaN基板の表面加工方法は、研削および研磨によりGaN基板の表面加工を行うGaN基板の表面加工方法である。番手が#6000以上の研削砥石でGaN基板の表面を研削する高番手研削工程と、高番手研削工程によりGaN基板の表面を研削した後、GaN基板の表面をCMPで研磨するCMP研磨工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削および研磨によりGaN基板の表面加工を行うGaN基板の表面加工方法であって、
番手が#6000以上の研削砥石で前記GaN基板の表面を研削する高番手研削工程と、
前記高番手研削工程により前記GaN基板の表面を研削した後、前記GaN基板の表面をCMPで研磨するCMP研磨工程と
を備えることを特徴とするGaN基板の表面加工方法。
【請求項2】
前記高番手研削工程の前に、
番手が#6000未満の研削砥石で前記GaN基板を研削する粗研削工程、または、
平均粒径が0.5μmを超える遊離砥粒で前記GaN基板を研磨する機械研磨工程を備える、請求項1に記載のGaN基板の表面加工方法。
【請求項3】
更に、前記CMP研磨工程の後にGaN基板を洗浄する洗浄工程
を備える、請求項1または2に記載のGaN基板の表面加工方法。
【請求項4】
前記高番手研削工程に用いる前記研削砥石の番手は#8000より大きい、請求項1~3のいずれか1項に記載のGaN基板の表面加工方法。
【請求項5】
前記研削砥石はビトリファイドで結合されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のGaN基板の表面加工方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のGaN基板の表面加工方法を備えるGaN基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN基板の表面加工方法およびGaN基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN基板は次世代の半導体デバイス用の基板として市場拡大が期待されている。GaN基板をデバイスに用いるには、各種のバルク結晶成長過程により得られた結晶を切り出し、基板形状に成形し、最終的には基板表面を原子オーダーで平坦かつダメージのない無擾乱鏡面状態に仕上げなければならない。GaNは機械的に高硬度でかつ化学的に安定な高脆性材料であることから研磨が難しく、いわゆる難加工材料として知られている。
【0003】
近年の研究開発により、GaN基板表面の鏡面研磨は、ラッピングおよびポリッシングなどの機械研磨の後、コロイダルシリカ研磨液による化学機械研磨法(以下、単に「CMP」と称する。)が一般的に良く用いられる。しかし、ラッピングやポリッシングは、研磨液の経時変化により研磨条件が変化することにより、ウエハと定盤との間隔調整や平行度の調整に時間がかかる。また、CMPは依然として毎時数から数十ナノメートルの研磨効率しか得られていない。このため、高効率化に向けた新たな表面加工工程が望まれている。
【0004】
例えば特許文献1には、表面加工時間を短縮するため、CMPに供する基板に対して、粗研削、中研削、および仕上げ研削の3段階の研削工程を備える研削装置が開示されている。具体的には、同文献段落0070には、粗研削には番手が#250~500の砥石を用い、中研削には番手が#1200~1800の砥石を用い、仕上げ研削には#2500~3500の砥石を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1にはサファイヤ、SiC、GaN等の種々の基板に対応できるような装置が記載されているが、基板の研磨条件は基板の材質に大きく依存するため、材質に応じて表面加工工程の最適化が必要になる。ここで、特許文献1に記載の研削装置は、加工時間を短縮するため、種々の材質の基板において、一連の研削工程を1台の装置で対応することができる、とされている。つまり、特許文献1には、材質によらず汎用性の高い加工条件が記載されていることになる。近年は、電子部品の小型化にともない基板にはより高い表面品質が求められており、この要求に対応するためには各材質に応じた最適な表面加工工程が必要になるが、特許文献1ではこの要求に対応することが困難である。
【0007】
また、特許文献1には、上述のように3段階の研削が行われた後、CMPにより研磨を行うことが記載されている。しかし、3段階目の仕上げ研削でも#3500以下の番手である研削砥石が用いられており、基板の表面がCMPに供される状態にあるとは言い難い。このため、低い番手の砥石で研削を行った後に難加工材料として知られているGaNの表面加工がCMPにより行われると、CMPでの研磨時間が長時間に及ぶために総表面加工時間が長くなってしまう。また、CMPによる研磨時間が長くなると、CMPの研磨液が基板と基板の貼り付け盤との間に入り込み、基板の裏面に研磨液が固着しやすくなる。研磨液が固着すると、CMP後の洗浄工程でも除去しづらくなり、清浄な基板が得られないことが懸念される。
【0008】
CMPの研磨時間を短縮するためには、通常、CMPの研磨に供する基板の表面粗さを小さくする必要があると考えられている。このためには、番手が大きい研削砥石で研削を行うことが挙げられる。しかし、特許文献1に記載の手法を用いて表面粗さを小さくするためには、番手を徐々に上げる必要がある。このため、#3500より大きい番手で研削を行うためには、研削工程を4段以上に増やさなければならず、研削のために膨大な時間が必要になる。研削工程の増加によりCMPの加工時間が短くなったとしても、CMPの研磨が終了するまでの総表面加工時間は長くなってしまう。特に、GaNは表面加工時間が長時間に及び、特許文献1に記載の手法を用いて番手の大きさと段数を最適にするためには膨大な時間と工数を要するため、表面加工工程の最適化は困難である。
【0009】
上述の他、CMPに利用される研磨液の最適化によりCMPの研磨時間を短縮することも考えられる。例えば、遊離砥粒の材質や研磨液の化学成分等を、CMPに供する前での基板の表面状態を考慮して調整することが挙げられる。しかし、基板の表面状態はCMPの前工程での加工条件に応じて変化するため、最適な条件を見出すためには限りない検討を行う必要が生じる。前述のように、GaNは表面加工時間が長時間に及ぶため、最適な条件を見出すことは難しく、単に条件を変えて最適化を図ることは現実的ではない。
このように、GaNの表面加工工程は、研削と研磨の条件を手当たり次第に調整して最適化を図ることは難しく、GaN基板以外の基板の加工工程を転用することはできない。このため、GaNに特化した最適な最終表面加工条件は未だ見出されていない。
【0010】
そこで、本発明の課題は、GaN基板の表面加工を短時間に行うことができるGaN基板の表面加工方法およびGaN基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、研削時間が長くなったとしてもCMPの負荷を低減することにより総表面加工時間を短縮する方針で検討を行った。CMPを行う前の加工方法の最適化を図るため、従来からCMPの前工程で行われている機械研磨の問題点を検討した。詳細には、加工後の基板を非破壊で観察することができるカソードルミネセンス法(以下、適宜、「CL法」を用いて検討が行われた。CL法を用いて基板を観察したところ、加工変質層は主変質層と潜傷で構成される知見が得られた。そこで、本発明者らは、GaN基板の表面に形成される主変質層の厚み及び潜傷の深さと加工方法との関係を調査した。
【0012】
一般に、加工変質層の厚さは、砥粒の粒径により変動することが知られている。このため、砥粒の粒径が大きければ、加工変質層は厚くなると考えられる。本発明らは、機械研磨として一般的に用いられている平均粒径が0.5μmの遊離砥粒による研磨と、特許文献1に記載されているように、砥粒径(平均粒径)が3μmである#3000の砥石を用いた研削を行い、主変質層と潜傷の挙動について調査した。砥粒径が3μmである固定砥粒により研削されたGaN基板は、平均粒径が0.5μmである遊離砥粒により研磨されたGaN基板と比較して、予想外にも、主変質層が厚くなるものの潜傷が浅くなり、加工変質層が薄くなる知見が得られた。また、主変質層のダメージは、固定砥粒による研削の方が小さい知見も得られた。
【0013】
これは、CL法にて潜傷を観察することができるGaN基板でのみ得られる知見である。従来では切削によって基板表面の断面を観察していたが、切削により基板表面に応力が加わり、切削前の表面状態とは異なっていたためである。よって、従来の加工変質層やマイクロクラックは、本来観察すべきものとは異なっており、本検討により得られた主変質層や潜傷ではない。特に、難加工材料であるGaN基板を従来のように切削した後に観察する手法では、加工により大きな応力が加わるため、断面観察のために行われる切削前の主変質層や潜傷を観察することはできなかった。
【0014】
本発明者らは、主変質層が厚くなったとしても、潜傷を浅くすることにより加工変質層の厚さを低減することができる点に着目し、GaN基板において最適な研削条件の調査を行った。特許文献1に記載されている#3000の砥石を用いて研削された基板では、平均粒径が0.5μmの遊離砥粒により機械研磨された基板と比較して潜傷が浅くなったものの、CMPによる研磨を短時間で行うことができる程度には至らない知見が得られた。
【0015】
ここで、上記検討で用いた#3000の砥粒径(平均粒径)は3μmである。上記検討により、砥粒径に応じて加工変質層が厚くなるとは限らない結果が得られたが、本発明者らは、敢えて、砥粒径(平均粒径)が1.5μmである#6000の砥石を用いて研削を行い、基板の表面状態を観察した。この結果、#6000では、主変質層が薄くなると共に潜傷が大幅に浅くなる知見が得られた。また、主変質層のダメージも低減する知見が得られた。そして、CMPの加工時間が短縮され、最終的に総表面加工時間が短縮する知見が得らえた。さらには、番手によっては、主変質層の厚みと潜傷の深さとの差が小さくなり、CMPの加工時間がさらに短縮する知見も得られた。
これらの知見により完成された本発明は以下のとおりである。
【0016】
(1)研削および研磨によりGaN基板の表面加工を行うGaN基板の表面加工方法であって、番手が#6000以上の研削砥石でGaN基板の表面を研削する高番手研削工程と、高番手研削工程によりGaN基板の表面を研削した後、GaN基板の表面をCMPで研磨するCMP研磨工程とを備えることを特徴とするGaN基板の表面加工方法。
【0017】
(2)高番手研削工程の前に、番手が#6000未満の研削砥石でGaN基板を研削する粗研削工程、または、粒径が0.5μmを超える遊離砥粒でGaN基板を研磨する機械研磨工程を備える、上記(1)に記載のGaN基板の表面加工方法。
(3)更に、CMP研磨工程の後にGaN基板を洗浄する洗浄工程を備える、上記(1)または上記(2)に記載のGaN基板の表面加工方法。
(4)高番手研削工程に用いる研削砥石の番手は#8000より大きい、上記(1)~上記(3)のいずれか1項に記載のGaN基板の表面加工方法。
(5)研削砥石はビトリファイドで結合されている、上記(1)~上記(4)のいずれか1項に記載のGaN基板の表面加工方法。
【0018】
(6)上記(1)~上記(5)のいずれか1項に記載のGaN基板の表面加工方法を備えるGaN基板の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、GaN基板の製造工程の一例を示す工程図であり、
図1(a)は従来のGaN基板の製造工程の一例を示す工程図であり、
図1(b)は本実施形態に係るGaN基板の表面加工方法を適用したGaN基板の製造工程の一例を示す工程図である。
【
図2】
図2は、CMPを行う前の加工方法と基板表面の評価項目、及びCMPのスラリー条件と基板表面の評価項目を示す図である。
【
図3】
図3は、カソードルミネセンス像(以下、適宜、「CL像」と称する。)の撮影装置を示す概略図である。
【
図4】
図4は、0.5μmのダイヤ砥粒を用いて機械研磨を行った後にCMPを行った基板における、CMPの研磨時間とその時間での基板表面のCL像を示す図である。
【
図5】
図5は、CMPの研磨時間と黒線密度との関係を表す図である。
【
図6】
図6は、
図5においてCMPの研磨時間が420分以降における、CL像の視野を広げて黒線の存在を確認する手段の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、CMPを行う前の高番手研削工程での番手と表面粗さとの関係を示す表である。
【
図8】
図8は、番手が#8000である砥石を用いて研削を行った後にCMPを行った基板における、CMPの研磨時間とその時間での基板表面のCL像を示す図である。
【
図9】
図9は、番手が#30000である砥石を用いて研削を行った後にCMPを行った基板における、CMPの研磨時間とその時間での基板表面のCL像を示す図である。
【
図10】
図10は、主変質層の変質の程度と潜傷の深さとを示すイメージ図であり、
図10(a)は比較例1に記載されている0.5μmのダイヤ砥粒を用いて機械研磨を行った後における基板表面のダメージを表すイメージ図であり、
図10(b)は実施例3に記載されている番手が#30000である砥石を用いて研削を行った後における基板表面のダメージを表すイメージ図であり、
図10(c)は実施例2に記載されている番手が#8000である砥石を用いて研削を行った後における基板表面のダメージを表すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
1.本発明に係るGaN基板の製造方法の概要
図1は、GaN基板の製造工程の一例を示す工程図であり、
図1(a)は従来のGaN基板の製造工程の一例を示す工程図であり、
図1(b)は本実施形態に係るGaN基板の表面加工方法を適用したGaN基板の製造工程の一例を示す工程図である。
【0021】
図1(a)に示すように、従来のGaN基板(以下、単に、「基板」と称することがある。)の製造方法は、まず、例えばGaNの種結晶に気相エピタキシャル成長法や液相成長法を用いてGaN結晶を成長させる(S11)。次に、成長結晶を治具に固定して突起物を除去するために外径研削を行い(S12)、例えば100~3000μmの厚みになるように外径研削後の成長結晶をスライスし(S13)、GaN基板を得る。そして、スライスの際に生じたエッジを除去するために面取りを行い(S14)、GaN基板の表面の凹凸を除去するために粗研削を行う(S15)。
【0022】
その後、遊離砥粒を用いた機械研磨によりラッピングを行い(S16)、続いてダイヤモンド等の遊離砥粒を用いた精密研磨を行う(S17)。その後、基板の表面に形成された加工変質層を除去するため、CMPを行い(S18)、最後に基板を洗浄する(S19)。
【0023】
図1(a)のラッピング(S16)と精密研磨(S17)は、研磨液により定盤が摩耗し、また、長期間の使用により研磨液が変質することがある。研磨圧や定盤の回転数を上げると研磨時間は短縮されるが、定盤へのダメージが大きくなるため、定盤のメンテナンス頻度が高くなり、生産性が低下する。一方、加工変質層の形成を抑制するためには、ラッピング(S16)と精密研磨(S17)で用いる砥粒径を小さくする必要がある。しかし、砥粒径が小さくなるほど研磨時間が延び、また、粒径のばらつきを制御することが困難になる。このように、従来の表面加工方法では、総表面加工時間を短縮することは困難であった。
【0024】
これに対し、
図1(b)に示すように、本発明に係るGaN基板の表面加工方法を備えるGaN基板の製造方法は、
図1(a)のラッピング(S16)と精密研磨(S17)の代わりに、番手が#6000以上(砥粒の平均粒径が1.5μm以下)の砥粒を備える研削砥石を用いて高番手研削(S27)を行う。このため、総表面加工時間を短縮することができる。なお、
図1(b)において、高番手研削(S27)およびCMP研磨工程(S28)以外の工程は、概ね
図1(a)と同様に従来のGaN基板の製造条件でよい。本発明に係るGaN基板の表面加工方法について以下で詳述する。
【0025】
2.本発明に係るGaN基板の表面加工方法
本発明に係る表面加工方法は難加工材料であるGaNの基板に特化した方法であって、番手が#6000以上(砥粒の平均粒径が1.5μm以下)の研削砥石でGaN基板の表面を研削する高番手研削工程(S27)と、高番手研削工程(S27)によりGaN基板の表面を研削した後、GaN基板の表面をCMPで研磨するCMP研磨工程(S28)とを備える。各工程について詳述する。
【0026】
2-1.高番手研削工程
本発明の高番手研削工程(S27)では、#6000以上(砥粒の平均粒径が1.5μm以下)の研削砥石を用いてGaN基板の表面を研削する。
本発明の高番手研削工程(S27)は、通常の研削装置を用いて行われる。定盤に固定されている基板は、モーターに取り付けられた研削砥石で研削される。砥石の回転数や基板への押圧力などの研削条件は特に限定されないが、研削砥石の番手が以下で説明する範囲内であれば、回転数や押圧力、送り速度によらず加工変質層の厚さと潜傷の深さを低減することができる。本実施形態において、高番手研削工程の研削時間は1~20分が好ましく、1~5分がさらに好ましい。研削レートは5~60μm/minで行えばよく、5~20μm/minで行ってもよい。
【0027】
砥粒の番手は#6000以上(砥粒の平均粒径が1.5μm以下)である。番手が#6000以上であれば、基板へのダメージが少なく、主変質層が薄くなるとともに潜傷も深くならないため、CMPの研磨時間が短くなり、総表面加工時間を短縮することができる。また、機械研磨を機械研削に代替することで高番手研削工程の自動化製造が容易になり、総表面加工時間が短縮する。また、本発明において、砥粒の粒径とは、レーザー回折法、動的光散乱法、画像解析法、重力沈降法などによる粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0028】
砥粒の材質は特に限定されることはない。アルミナ、アルミナジルコニア、炭化ケイ素、CBN、ダイヤモンドなど、種々の砥粒を用いることができる。
【0029】
高番手研削工程(S27)に用いられる研削砥石の番手は、小さければ砥粒の粒径が大きいために研削が早く終了するが、基板のダメージが大きくなり潜傷が深くなる。このため、潜傷を除去するためにはCMP研磨工程(S28)の時間を長くする必要が生じる。一方、番手が大きければ研削時間が多少多くかかるものの、主変質層のダメージが小さく潜傷が浅くなるためにCMP研磨工程(S28)の時間が短くなる。機械研削に要する時間と比較してCMPによる研磨時間の方が大幅に長いため、CMPの研磨時間を短くすることにより総表面加工時間を短縮することができる。研削砥石の番手は、好ましくは#8000を超え(砥粒の平均粒径が1.0μm未満)、更に好ましくは#10000以上(砥粒の平均粒径が0.7μm以下)であり、最も好ましくは#13000以上(砥粒の粒径が0.5μm以下)である。特に、#13000以上もの高い番手を用いると、高番手研削においてGaNの場合には砥粒の粒径とGaNの硬さとの関係で研磨時間が長くなってしまい、従来では避けられていた。しかしながら、本発明では、後述するCMP研磨工程の研磨時間が短縮される知見が、GaNに対するCL法による観察により初めて得られた。これにともない、総加工時間は短縮された。
【0030】
上限は特に限定されないが、番手を上げれば研削工程で主変質層の厚みと潜傷の深さを低減することは可能であり、CMP研磨工程の時間を更に短縮することができる。一方で、番手を上げ過ぎると、短縮したCMPでの研磨時間より増加した研削時間が長くなってしまう。このため、単に番手を上げるだけで研削から研磨までの総表面加工時間が短縮されるとは限らない。この合計時間を短縮する観点から、好ましくは#50000以下(砥粒の平均粒径が0.1μm以上)であればよく、より好ましくは#30000以下(砥粒の平均粒径が0.2μm以上)である。
【0031】
研削砥石の結合剤は、通常用いられているものでよく、研削抵抗等に耐えられるとともに、砥粒が磨滅する際には研削抵抗の増加による破砕により砥粒が適度に自生することが必要である。例えば、レジノイド、ゴム、メタル、セラック、ビトリファイド等が挙げられるが、経時変化が少なく耐久性に優れる観点からビトリファイドが好ましい。
【0032】
表面加工された基板は、加工時の応力により表面に主変質層と潜傷が形成される。本発明の高番手研削工程(S27)により研削された基板は、主変質層における変質の程度(以下、適宜、「ダメージ」と称する。)が低減するように、従来から高番手の研削砥石を用いた研削が行われる。GaN基板では、高番手研削工程(S27)のように大きい番手の研削砥石を用いると、主変質層の厚みは700~1000nm程度になるものの、高番手の砥石で研削すると主変質層のダメージが少ないために変質の程度が緩く、潜傷が深くならない。潜傷の深さは基板の表面から1.0~2.0μm程度である。
【0033】
主変質層の厚みは、後述するCL像を用い、CMP研磨において潜傷以外のエリアについてCL像の輝度がAs-grown結晶の輝度と同等になった研磨時間と研磨レートを乗じて求めることができる。ここで、本発明におけるAs-grown結晶は、
図1(b)に示す結晶成長(S11)により得られる。このため、本発明では、得られたGaNの表面のCL画像を後述するSEMにより撮影し、SEMに付属している画像解析ソフト(sm-300 Series)を用いることにより、撮影したCL画像の平均輝度データ(画素値の平均値)をAs-grown結晶の輝度として予め取得しておく。主変質層の厚みは、CMP研磨を行うことによりこの輝度と同等になった時点での研磨時間と研磨レートを乗じて求めることができる。また、潜傷の深さは、CMP研磨の研磨時間と研磨レートを乗じて求められる。CMPの研磨レートについては後述する。
【0034】
また、高番手研削工程(S27)により研削された基板の表面粗さは好ましくは2.0nm以下であり、より好ましくは1.0nm以下であり、さらに好ましくは0.5nmであり、特に好ましくは0.1nm以下であり、最も好ましくは0.05nm以下である。本発明のようにGaN基板の表面加工を行う場合には、好ましくは高番手研削工程(S27)後の表面粗さが2.0nm以下であれば、ダメージが少なく潜傷が深くならない。このため、短時間のCMP研磨時間(S28)で表面加工終了後の表面粗さが0.1nm以下程度にすることは容易である。
【0035】
本発明に係るGaN基板の表面加工方法により加工されたGaN基板は、
図1(a)に示す従来の加工方法により加工されたGaN基板と比較して、表面に形成された潜傷の深さが30%以上低減し、好ましくは40%以上低減し、より好ましくは60%以上低減する。後述するCMP研磨工程(S28)の研磨能力に大きな差はみられないため、CMP研磨工程(S28)の研磨時間は潜傷が浅くなる程短くなることになる。表面研磨時間の大半はCMP研磨工程(S28)の研磨時間であるため、この研磨時間が短縮されることにより総表面加工時間も短縮されることになる。
【0036】
図2は、CMPを行う前の加工方法と基板表面の評価項目、及びCMPのスラリー条件と基板表面の評価項目を示す図である。
図2に示すように、従来のように機械研磨で研磨した基板の表面粗さは、SEM(Scanning Electron Microscope)、AFM(Atomic Force Microscope)、TEM(Transmission Electron Microscope)、CL(Cathodoluminescence)などで観察することができる。主変質層の厚み、および潜傷の深さはCL法を用いて観察することができる。
【0037】
2-2.CMP研磨工程
本発明のCMP研磨工程(S28)は、高番手研削工程(S27)により基板の表面を研削した後に行われる。
CMP研磨工程(S28)の一般的な方法は、キャリアに基板を貼り付け、研磨パッドに基板を押し付けるとともに基板と研磨パッドとの間に研磨液を供給しながら、基板と研磨パッドの双方を回転させて行う。
【0038】
CMP研磨工程(S28)に用いる研磨液は、一般にはアルミナやシリカなどの砥粒を有し、過酸化水素や過硫酸などの酸化剤で酸性に調整されており、酸化剤によって基板の表面を酸化し、その酸化皮膜を砥粒で除去することで研磨する。砥粒の粒径は100nm以下であり、砥粒の濃度は研磨液の全質量に対して20~60質量%であればよい。砥粒の粒径は、研削砥石の砥粒と同様の方法で測定をすることができる。
【0039】
CMP研磨工程(S28)の条件は特に限定されないが、キャリアの回転数は20~1000rpmであり、研磨液の供給量は50~1000ml/hであればよい。これらの条件であれば、研磨レートは所定の範囲になる。例えば、研磨レートは50~3000nm/hであればよい。得られた基板には潜傷が残存しているが、
図2に示すように、潜傷の有無はカソードルミネセンス像で確認をすることができる。研磨時間は、後述するカソードルミネセンス像にて確認できる黒線密度の密度が、例えば1cm
-2以下になると予想される時間であればよい。
【0040】
図3は、カソードルミネセンス像(以下、適宜、「CL像」と称する。)の撮影装置を示す概略図である。CL装置10は、電子線照射装置(電子線発生器)20、試料台30、(CL光)検出器40、および演算装置(制御装置)50を備える。電子線照射装置20(電子線発生器)は、試料台30に載置された基板60に電子線21を照射する。(CL光)検出器40は、基板60で発光したCL光22を検出する。演算装置(制御装置)50は、(CL光)検出器40で検出されたデータに基づいて種々の処理を行う。また、電子線照射装置(電子線発生器)20、試料台30、および演算装置(制御装置)50は、SEMに付設されているものを用いればよいため、CL装置10はSEMに内蔵されていてもよい。演算装置(制御装置)50は、種々の処理を行うCPU(Central ProcessingUnit)、メモリ、不揮発性の記憶装置、キーボードやマイク等の入力装置、モニタ、および入出力インタフェース等を備える。これらのハードウェアは、記憶装置に保存されているプログラムによる不図示の各機能により下記の演算を行うことができる。
【0041】
カソードルミネセンス(CL)法では、GaN結晶材料表面に電子線を照射すると、GaN結晶表面近傍における発光再結合過程に基づくCL光を観測する。CL法を用いた評価には、主にSEMに搭載されている電子線照射機能が用いられており、SEM像のようにCL光の強度マッピング像(以下、単に、「CL画像」と称する。)を得ることができる。このCL画像を用いれば、基板表面に存在する加工スクラッチではなく基板表面下に存在する潜傷を黒線として可視化することができる。そのため、GaN基板表面内に存在する加工ダメージの有無を判断する手法として極めて有効であり、例えば下記文献で報告されている(Hideo Aida, Hidetoshi Takeda, Koji Koyama,Haruji Katakura,Kazuhiko Sunakawa,and Toshiro Doi, “Chemical Mechanical Polishing of Galliumu Nitride with Colloidal Silica”, Jaournal of The Electrochemical Society, 158 (12) H1206-H1212 (2011).)。
CL像の時間変化からCMP研磨工程(S28)の研磨時間の算出する例を詳述する。
【0042】
CL法を用いることにより潜傷の有無を視覚的に評価することが可能である。CL画像の観察エリアは一般的に数十μm四方であることから、例えば基板全面といった広範囲で潜傷が存在しないことを担保することは難しい。また、潜傷は、CL画像において幅が0.5μmにも満たない極わずかな点線状に観察される。
【0043】
このように、従来の装置で実施可能な現実的視野で観察するとともに、極わずかな変質層を正確に観察可能にすることが必要になる。
例えば、加工中に加工を一時中断して効率的に画像取得が可能な一般的なCL画像サイズとして、35μm×50μm程度の大きさを想定する。CMPの開始直後は黒線を認識することができないが、加工の中盤に差し掛かると、CL観察エリア内に確認される黒線本数は数えることが可能な程度にまで低減する。そして、この観察エリア内に1本の黒線が観察できないところまで加工が進行すると、黒線密度はおよそ104cm-2程度になる。
【0044】
それ以降の観察は、黒線密度が104cm-2程度以下になりCL観察領域を広げる必要があるため、基板を載置した測定ステージを縦横に移動することによって観察エリアを広げて黒線密度を求めることができる。黒線密度は、観察エリア内で観察される黒線の本数を観察エリアの面積で除した値である。
【0045】
本発明では、加工の中盤から終盤において各CMP研磨時間での黒線密度をプロットする。そして、黒線密度が104cm-2以下になる範囲内での黒線密度情報に基づいて近似直線をひき、黒線密度が1cm-2になる時間をCMP研磨時間として研磨時間を推定し、CMPの研磨レートと研磨時間を乗じて潜傷の深さを求めることが可能になる。
【0046】
本発明では、黒線密度が106cm-2以下となった研磨時間から、一般的な観察エリアで観察可能である黒線密度を測定し、黒線密度が104cm-2から1cm-2に至るまでの研磨時間内において、研磨時間の経過にともなう黒線密度の減少を把握する。このようにしてCMP研磨時間を精度よく推定することができる。
【0047】
CMPによる研磨時間が短ければ、CMPの研磨液が基板と基板の貼り付け盤との間に入り込まず、基板の裏面に研磨液が固着することを抑制することができる。本実施形態では、CMP研磨工程の前に、GaN基板の加工に適した高番手研削工程が行われるため、CMPの研磨時間を短縮することができる。本実施形態において、CMPの研磨時間は1~30時間が好ましい。これは、従来の加工方法と比較して大幅に短い加工時間である。
【0048】
このように、黒線密度の減少傾向を把握することにより黒線密度が1cm
-2になる研磨時間および研磨量を見積もることができ、この研磨量が潜傷の深さに対応する。同様の手段により種々の番手を用いて
図1(b)の高番手研削(S27)を行うことにより、GaN基板における番手と潜傷の深さを正確に予測することができる。
【0049】
また、主変質層の厚みは、CL像を用いてCMP研磨における潜傷以外のエリアについて、CL像の輝度が前述のように得られたAs-grown結晶の輝度と同等になった研磨時間をCMP研磨の研磨レートに乗じることにより測定することができる。ただ、高番手研削(S27)で用いられる研削砥石の番手が#50000以下(砥粒の平均粒径が0.1μm以上)である場合には、潜傷の深さが主変質層の厚みと比較して同等以上になる。このため、前述のようにCL法により潜傷の深さが見積もられる場合には、主変質層の厚みを測定せずとも、潜傷を除去すれば主変質層も除去することができる。
【0050】
2-3.粗研削工程または機械研磨工程
本発明に係るGaN基板の表面加工方法は、高番手研削工程(S27)の前に、番手が#6000未満(砥粒の平均粒径が1.5μm超え)の研削砥石でGaN基板の表面を研削する粗研削工程(S25)を備えてもよい。粗研削工程(S25)は、高番手研削工程(S27)より小さい番手で研削を行うことができる。また、粗研削工程(S25)の代わりに、平均粒径が0.5μmを超える遊離砥粒でGaN基板を研磨する機械研磨工程(S25)を備えてもよい。
【0051】
粗研削工程(S25)は、高番手研削工程(S27)と同様に通常の研削装置を用いて行われる。粗研削工程(S25)では、主変質層の厚さと潜傷の深さを考慮する必要はない。研削条件は特に限定されないが、定盤の回転数は100~500rpmであり、研削砥石の回転数は200~1000rpmであり、送り速度は5~50μm/分であればよい。研削時間は、例えば基板の直径が2インチの場合には1~5分であればよく、基板の大きさに応じて適宜時間を定めればよい。
【0052】
粗研削工程(S25)の研削砥石に用いる砥粒の番手の上限は、好ましくは#6000未満(砥粒の平均粒径が1.5μm超え)であり、より好ましくは#4000以下(砥粒の平均粒径が2.0μm以上)であり、さらに好ましくは#3000以下(砥粒の平均粒径が3.0μm以上)である。砥粒の粒径は、高番手研削工程(S27)と同様である。砥粒の番手の下限は特に限定されないが、#240以上(砥粒の平均粒径が127μm以下)が好ましく、#400以上(砥粒の平均粒径が75μm以下)がより好ましく、さらに好ましくは#600以上(砥粒の平均粒径が30μm以下)である。
粗研削工程(S25)が行われると高番手研削工程(S27)の研削時間が短縮し、最終的に総表面加工時間が短縮することがある。
砥粒の材質、研削砥石の結合剤、および研削砥石中の砥粒の濃度は、高番手研削工程(S27)と同様である。
【0053】
機械研磨工程(S25)は、従来と同様に、キャリアに基板を貼り付け、研磨パッドに基板を押し付けるとともに基板と研磨パッドとの間に研磨液を供給しながら、基板と研磨パッドの双方を回転させて行う。機械研磨工程(S25)に用いる研磨液は、粒径が0.5μmを超える遊離砥粒を含有する。砥粒の材質は、例えばダイヤモンドやアルミナ、シリカであればよい。砥粒の濃度は研磨液の全質量に対して1~20質量%であればよい。砥粒の粒径は1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることが更に好ましい。上限は特に限定されないが、5μm以下であればよい。砥粒の粒径の定義は、研削砥石の砥粒と同様であり、篩目が最大粒径に相当する。研磨液において、砥粒以外の成分は従来と同様のものを用いればよい。
【0054】
機械研磨工程(S25)の条件は特に限定されないが、研磨レートが50~300nm/hであればよい。キャリアの回転数は20~2000rpmであり、研磨液の供給量は1~20ml/hであればよい。研磨レートは1~30μm/hであればよい。
【0055】
2-4.洗浄工程
本発明に係るGaN基板の表面加工方法は、CMP研磨工程(S28)の後にGaN基板を洗浄する洗浄工程(S29)を備えることができる。
CMP研磨工程(S28)後の洗浄においては、CMPに使用する研磨液が残存して基板を汚染してしまうことを抑制する点で好適に採用される。洗浄工程(S29)に使用する洗剤としては、基板と砥粒が静電的に反発し合うアルカリ性の洗浄液が一般に有効であるとされているが、これに限定されるものではない。
【0056】
基板の洗浄方法は従来と同様の方法でよく、例えば、CMP研磨工程(S28)後の基板をスピナーに載置し、洗浄液を50~300ml/min.程度の流量で基板に供給しながら20~60秒間スクラブ洗浄を行う。本洗浄方法では市販の洗浄機を用いればよい。本実施形態では、CMPによる研磨時間が短いため、CMPの研磨液が基板と基板の貼り付け盤との間に入り込まず、基板の裏面に研磨液が固着し難いため、本洗浄工程により容易に研磨液を除去することができ、清浄な基板が得られる。CMP研磨工程での研磨時間が長いと、研磨液が固着し始めるために上述の洗浄時間で洗浄することができない。本実施形態では、前述のように、CMP研磨工程の前工程である高番手研削工程がGaN基板に適しているため、CMP研磨工程の時間を短縮することができ、これにより洗浄時間も短時間で行うことが可能になる。
【実施例0057】
GaN基板に特化した表面研磨方法の実施例について説明する。
一例として、
図1及び
図2に基づいて、実施例および比較例の表面加工方法に費やした総表面加工時間を調査した。
【0058】
1.比較例1
1)GaN基板の準備
図1(a)に示すように、気相エピタキシャル成長法によりGaN結晶を成長させた(S11)。成長後のGaN結晶のCL画像は、CL光検出器が付属されている走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社トプコン社製:型番sm-300)を用い、加速電圧10kV、プローブ電流「90」、ワーキングディスタンス(W.D.)22.5mm、倍率2000倍で撮影された。撮影されたCL画像から、SEMに付属している画像解析ソフト(sm-300 Series)を用いることにより、CL画像の平均輝度データ(画素値の平均値)をAs-grown結晶の輝度として取得した。そして、外径研削(S12)の後にスライス(S13)し、エッジの面取りを行い(S14)、厚さが400μmで直径が2インチの円形GaN基板を準備した。
【0059】
2)粗研削
GaN基板を定盤に固定し、番手が#600(平均粒径:30μm)の研削砥石を用い、送り速度が20μm/分となるようにして5分間研削を行った(S15)。なお、砥石に用いた砥粒の平均粒径は、動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所製LB-500)を用いて砥粒の粒度分布を測定した。得られた粒度分布から平均粒径を算出した。
【0060】
3)ラッピング、精密研磨(機械研磨)
次に、平均粒径が3μmであるダイヤモンド砥粒の濃度が研磨液の全質量に対して10質量%である研磨液を用い、研磨液の供給量が10ml/hであり、研磨レートが20μm/hとなるようにして120分間ラッピング処理を行った(S16)。その後、平均粒径が0.5μmであるダイヤモンド砥粒の濃度が研磨液の全質量に対して10質量%である研磨液を用い、研磨レートが1μm/hとなるようにして180分間精密研磨を行った(S17)。なお、砥石に用いた砥粒の平均粒径は、上記装置を用いて同じ条件で測定した平均粒径である。
【0061】
4)基板表面の観察
CMP研磨を行う前の基板表面を観察した。基板表面の観察には、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、表面粗さ(Ra)と測定し、表面の凹凸を濃淡で表した。Raは0.4nmであり、表面の凹凸が少ないことがわかった。
【0062】
また、基板表面のCL像を撮影した。CL画像は、CL光検出器が付属されている走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社トプコン社製:型番sm-300)を用い、加速電圧10kV、プローブ電流「90」、ワーキングディスタンス(W.D.)22.5mm、倍率2000倍で観察した。結果を
図10(a)に示す。短い矢印は主変質層の厚み110を示し、長い矢印は潜傷の深さ120を示す。主変質層の厚みは200nm程度であったが、潜傷の深さは最大2.4μmにも及んだ。なお、潜傷の深さは、後述するCMPでの研磨量に相当し、後述するCMP研磨時間と研磨レートを乗じて得られる。主変質層の厚みは、CL像を用いてCMP研磨において潜傷以外のエリアについてCL像の輝度がAs-grown結晶の輝度と同等になった研磨時間とCMP研磨レートを乗じることにより得られた。
【0063】
5)CMP研磨
平均粒径が60nmであるシリカ砥粒の濃度が研磨液の全質量に対して35~45質量%であり、過酸化水素を加えて酸性にした研磨液を用い、キャリアの回転数が30rpmであり、研磨液の供給量を50ml/hとし、研磨レートが180nm/hとなるように研磨を行った(S18)。その後、
図4に示すように、所定の研磨時間毎に基板表面のCL像を撮影した。CL画像は、CL光検出器が付属されている走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社トプコン社製:型番sm-300)を用い、加速電圧10kV、プローブ電流「90」、ワーキングディスタンス(W.D.)22.5mm、倍率2000倍で観察した。なお、シリカ砥粒の粒径は、上記装置を用いて同じ条件で測定した平均粒径である。
【0064】
図4(a)~
図4(e)に示すように撮影した各CL像において、各々の黒線本数から黒線密度を求め、
図5に示すように、縦軸を黒線密度とし、横軸を研磨時間としてプロットした。CMP研磨時間が90分未満であり黒線密度が2×10
6cm
-2以上では、2000倍のCL像において黒線密度の計測は困難であった。CMP研磨時間が90分以上420分未満では黒線密度の計測が可能であった。そして、研磨時間が420分では観察エリアにおける黒線本数が1本となった。CMP研磨時間が420分を超えると2000倍のCL像では黒線がほとんど確認できなかったため、視野を拡大しながら黒線密度を計測した。
【0065】
CL画像上で黒線を観察するには、2000倍程度の倍率が必要である。そのため、広範囲をCLで観察し、黒線密度を正確に算出することは難しい。そこで、CL画像の倍率は2000倍のまま、その観察エリアを移動させ、任意の位置でCL画像の静止画を取り込んだ。得られた画像をもとに、広範囲での黒線密度を確認し、研磨時間を推察した。
図6の右側に示すCL像はいずれも2000倍とし、各CL像に記載のアルファベットは、各々
図6の左側に示すCMP研磨時間毎の視野内におけるCL像の撮影位置を示す。同様にして研磨時間毎の黒線密度を
図5に示すようにプロットした。黒線密度が10
4cm
-2以下のプロットを用いて直線でフィッティングを行った結果、黒線密度が1cm
-2以下となるCMP研磨工程(S18)での研磨時間は約800分(796分)であることが分かった。したがって、CMPの研磨により800分×180nm/h≒2400nmの厚さを研磨すればよいことがわかった。よって、潜傷の深さは約2400nmであると見積もることができる。
【0066】
主変質層の厚みは、CMP研磨時間の各々で、S11と同じ走査型電子顕微鏡を用いてCL像を撮影した。そして、撮影したCL像における潜傷以外のエリアについて、CL像の輝度がS11の後に得られたAs-grown結晶の輝度と同等になった研磨時間を、CMP研磨の研磨レートである180nm/hに乗じることにより算出した。この結果、比較例1の主変質層の厚みは200nmであった。
【0067】
6)洗浄
CMP研磨が終了した後、アルカリ性の洗浄液を用い、基板を洗浄した(S19)。
【0068】
2.実施例2
1)GaN基板の準備、粗研削
比較例1と同様の工程を経て粗研削後の基板を得た(S21~S25)。
【0069】
2)高番手研削
次に、粗研削後の基板に対して、番手が#8000(平均粒径:1.0μm)の研削砥石を用い、研削レートが10μm/minで2分間研削を行った(S27)。なお、砥石に用いた砥粒の平均粒径は、上記装置を用いて同じ条件で測定した平均粒径である。
【0070】
3)基板表面の観察
CMP研磨を行う前の基板表面を観察した。基板表面の観察には、zygo社製の非接触表面形状測定機NewView7300を用い、表面粗さ(Ra)と測定した。結果を
図7に示す。表面粗さRaは1.3nmであり、比較例1の表面粗さより大きいことがわかった。
【0071】
また、比較例1と同様に基板表面の主変質層の厚みと、潜傷の深さを測定した。結果を
図10(c)に示す。短い矢印は主変質層の厚み130を示し、長い矢印は潜傷の深さ140を示す。主変質層の厚みは900nm程度であり、比較例1より厚いことがわかった。一方、潜傷の深さは最大で1500nmであり、比較例1より4割程度低減した。このため、CMPの研磨時間が4割短縮されると考えられる。
【0072】
4)CMP研磨
比較例1と同様の工程でCMPによる研磨を行った。
図8(a)~
図8(e)に示すように、比較例1と同様に2000倍で撮影した各CL像において、各々の黒線本数から黒線密度を求め、縦軸を黒線密度とし、横軸を研磨時間としてプロットした。研磨時間が390分では観察エリアにおける黒線本数が1本となった。研磨時間を推察するため、比較例1と同様に観察視野を広げたCL画像を撮影し、研磨時間毎の黒線密度をプロットした。黒線密度が10
4cm
-2以下のプロットを用いて直線でフィッティングを行った結果、黒線密度が1cm
-2以下となる研磨時間は約500分であり、比較例1と比較して総表面加工時間が大幅に短縮することがわかった。
【0073】
5)洗浄
CMP研磨が終了した後、比較例1と同様に基板を洗浄した(S29)。
【0074】
3.実施例3
実施例2において、高番手研削の研削砥石を#8000の代わりに#30000(平均粒径:0.2μm)に変更したこと以外、実施例1と同様の工程を経て基板の表面加工を行った。なお、砥石に用いた砥粒の平均粒径は、上記装置を用いて同じ条件で測定した平均粒径である。
実施例2と同様にCMP研磨を行う前の基板表面を観察し、表面粗さ(Ra)を測定した。結果を
図7に示す。表面粗さRaは1.8nmであり、実施例2の表面粗さより大きいことがわかった。
【0075】
また、比較例1と同様に基板表面の主変質層の厚みと、潜傷の深さを測定した。結果を
図10(b)に示す。短い矢印は主変質層の厚み150を示し、長い矢印は潜傷の深さ160を示す。主変質層の厚みは700nm程度であり、比較例1より厚いことがわかった。一方、潜傷の深さは最大で1000nm程度であり、比較例1より6割程度低減した。このため、CMPの研磨時間も短縮される。このため、CMPの研磨時間が大幅に短縮すると考えられる。
【0076】
実施例2と同様の工程でCMPによる研磨を行った。
図9(a)~
図9(d)に示すように、比較例1と同様に2000倍で撮影した各CL像において、各々の黒線本数から黒線密度を求め、縦軸を黒線密度とし、横軸を研磨時間としてプロットした。研磨時間が300分では観察エリアにおける黒線本数が1本となった。研磨時間を推察するため、比較例1と同様に観察視野を広げたCL画像を撮影し、研磨時間毎の黒線密度をプロットした。黒線密度が10
4cm
-2以下のプロットを用いて直線でフィッティングを行った結果、黒線密度が1cm
-2以下となる研磨時間は330分であり、比較例1と比較して総表面加工時間が大幅に短縮することがわかった。
CMP研磨が終了した後、比較例1と同様に基板を洗浄した。
【0077】
4.実施例1
実施例2において、高番手研削の研削砥石を#8000の代わりに#6000(平均粒径:1.5μm)に変更したこと以外、実施例2と同様の工程を経て基板の表面加工を行った。なお、砥石に用いた砥粒の平均粒径は、上記装置を用いて同じ条件で測定した平均粒径である。
実施例2と同様にCMP研磨を行う前の基板表面を観察し、表面粗さ(Ra)を測定した。結果を
図7に示す。表面粗さRaは1.0nmであり、実施例2の表面粗さより小さいことがわかった。また、主変質層の厚みは1000nmであり、潜傷の深さは2000nmであった。比較例1と比較して潜傷の深さは大幅に浅くなった。
CMP研磨が終了した後、比較例1と同様に基板を洗浄した。
【0078】
5.比較例2
実施例2において、高番手研削の研削砥石を#8000の代わりに#3000(平均粒径:3.0μm)に変更したこと以外、実施例2と同様の工程を経て基板の表面加工を行った。なお、砥石に用いた砥粒の平均粒径は、上記装置を用いて同じ条件で測定した平均粒径である。
実施例2と同様にCMP研磨を行う前の基板表面を観察し、表面粗さ(Ra)を測定した。表面粗さRaは5.0nmであり、実施例2の表面粗さより大きいことがわかった。また、主変質層の厚みは2500nmであり、潜傷の深さは3000nmであった。いずれの実施例と比較して主変質層が厚く潜傷が深いことがわかった。
CMP研磨が終了した後、比較例1と同様に基板を洗浄した。
【0079】
図10は、主変質層の変質の程度と潜傷の深さとを示すイメージ図であり、
図10(a)は比較例1に記載されている平均粒径が0.5μmのダイヤ砥粒を用いて機械研磨を行った後における基板表面100のダメージを表すイメージ図であり、
図10(b)は実施例3に記載されている番手が#30000である砥石を用いて研削を行った後における基板表面100のダメージを表すイメージ図であり、
図10(c)は実施例2に記載されている番手が#8000である砥石を用いて研削を行った後における基板表面100のダメージを表すイメージ図である。これらの図では、基板の断面の表面近傍領域において、主変質層と潜傷を模式的に表すとともに、CL像の輝度に基づいて主変質層のダメージの大きさを濃淡で表した。また、ダメージの程度が認識しやすいようにダメージを、
図10(a)に対する相対比を用いて数値化した。
【0080】
図10(a)に示すように、従来の工程で表面加工を行った基板は、主変質層の厚みが薄いものの、CL像の輝度が低く、ダメージが大きいことがわかった。また、潜傷は、CL像の輝度が低く且つ黒線が基板表面100から深い位置まで観察され、大きなダメージが最も深くにまで到達していた。
【0081】
これに対し、
図10(c)に示すように、実施例2の工程で表面加工を行った基板は、主変質層の厚みが比較例1より3倍程度厚いものの、CL像の輝度が比較例1より低く、主変質層のダメージは小さかった。
図10(a)で示すダメージが1であると仮定すると、
図10(c)のダメージは0.4であった。また、潜傷の深さが大幅に低減することがわかった。
【0082】
また、
図10(b)に示すように、実施例3の工程で表面加工を行った基板は、主変質層の厚みが比較例1より2倍以上厚いものの、CL像の輝度が実施例2よりも更に低く、ダメージが大幅に低減した。
図10(b)で示すダメージが1であると仮定すると、
図10(b)のダメージは0.1であった。また、潜傷の深さも更に低減することがわかった。