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特開2023-32909シミュレーション方法、シミュレーション装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032909
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/04 20060101AFI20230302BHJP
   G01N 13/00 20060101ALI20230302BHJP
   B01D 19/02 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B01D19/04 A
G01N13/00
B01D19/02
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139280
(22)【出願日】2021-08-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大野 哲
【テーマコード(参考)】
4D011
【Fターム(参考)】
4D011BA20
4D011CA01
(57)【要約】
【課題】起泡液に、シリコーン系消泡剤を導入する消泡処理における、起泡液と消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、前記起泡液と前記消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法であって、起泡液及び消泡剤組成物の特性値を入力する第1工程と、時間発展条件を設定する第2工程と、初期の存在値を入力する第3工程と、時間発展条件に基づいて、起泡液、前記起泡液に泡を形成するための気体、および前記消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定する第4工程と、特性値と、初期の存在値と、導入量と、に基づいて、混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測する第5工程と、混合液中の泡数を出力する第6工程と、を含む、シミュレーション方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、前記起泡液と前記消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法であって、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の特性値を入力する第1工程と、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の時間発展条件を設定する第2工程と、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の初期の存在値を入力する第3工程と、
前記第2工程で設定した時間発展条件に基づいて、前記起泡液、前記起泡液に泡を形成するための気体、および前記消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定する第4工程と、
前記入力された特性値と、前記入力された初期の存在値と、前記決定された導入量と、に基づいて、前記混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測する第5工程と、
前記混合液中の泡数を出力する第6工程と、
を含む、シミュレーション方法。
【請求項2】
前記第5工程は、粒子径毎の消泡剤粒子数の変化量を予測する工程をさらに含む、請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
シミュレーションの終了可否を判定する第7工程をさらに有し、
前記第7工程における判定結果が終了可能となるまでは時間を次の時間に進めて、前記第4工程に戻って処理を繰り返し、
前記判定結果が終了可能となった場合にはシミュレーションを終了することにより、
前記混合液中の時刻t毎の泡数b(t)を予測する、請求項1ないし請求項2に記載のシミュレーション方法であって、
前記第6工程は、前記混合液中の時刻t毎の泡数b(t)をさらに出力する方法。
【請求項4】
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の特性値は、前記泡の一つを形成するために必要な前記起泡液の体積と、前記消泡剤の破泡能と、消泡作用が働いた際の消泡剤粒子の分裂数と、を含み、
前記起泡液および前記消泡剤組成物の初期の存在値は、前記起泡液のバルク体積と、前記起泡液に含まれる泡数と、前記消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子数を含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記起泡液及び消泡剤組成物の時間発展条件は、シミュレーションの時間刻みΔtと、時間毎の起泡液および消泡剤組成物の導入条件とを含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記第6工程は、消泡剤粒子径毎の粒子数をさらに出力する、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記泡数の、時刻tから時刻t+Δtの間の変化量Δb(t)は、時刻tにおける前記混合液中の泡数b(t)と、時刻tから時刻t+Δtの間の合計仮想破泡数H(t)と、の関係から求められ、
前記合計仮想破泡数H(t)は、時刻tから時刻t+Δtの間に前記消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子が破泡させ得る最大の泡数であり、
前記泡数b(t)よりも前記合計仮想破泡数H(t)が小さい場合には、下記式(1)により算出され、
前記泡数b(t)よりも前記合計仮想破泡数H(t)が大きい場合には、下記式(2)により算出される、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
Δb(t) = -H(t) ・・・(1)
Δb(t) = -b(t) ・・・(2)
【請求項8】
前記合計仮想破泡数H(t)は、泡膜中に存在する消泡剤の比率r(t)と、時間刻みΔt内に添字iで識別される直径を有する消泡剤が引き起こす仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)を使って、下記式(3)に従って算出される、請求項7に記載のシミュレーション方法。
H(t)= r(t)× Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt) ・・・(3)
(ここで消泡剤粒子数ai(t)は、添字iで識別される直径を有する消泡剤粒子数であり、破泡能Pは、添字iで識別される直径を有する消泡剤の有する破泡効果の強さを表す数値である)
【請求項9】
添字iで識別される直径を有する消泡剤粒子数ai(t)の時間刻みΔt内の変化量Δa(t)が、前記泡数の変化量Δb(t)ならびに前記仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)を用いて、下記式(4)により算出される、請求項8に記載のシミュレーション方法。
Δa(t) = Δb(t)× h(ai(t), Pi, Δt)/Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt)-Ni’× Δb(t)× h(ai’(t), Pi’, Δt)/Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt)・・・(4)
((4)式において、Niは、i で識別される直径を有する消泡剤粒子の破泡後の分裂数である。)
【請求項10】
前記仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)が、添字iで識別される直径を有する消泡剤粒子数ai(t)、添字iで識別される直径を有する消泡剤による泡の半減期Tiと、時間刻みΔtを使って、下記式(7)に従って算出される、請求項9に記載のシミュレーション方法。
h(ai(t), Pi, Δt)= ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}・・・(7)
【請求項11】
起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、前記起泡液と前記消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション装置であって、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の特性値を入力し、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の時間発展条件を設定し、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の初期値を入力し、
前記起泡液、前記混合液に泡を形成するための気体、および前記消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定し、
前記入力された特性値と、前記入力された初期の存在値と、前記決定された導入量と、前記設定された導入条件に基づいて、前記混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測するシミュレーション装置。
【請求項12】
コンピュータに、請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のシミュレーション方法を実行させるためのプログラム。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測する方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測し、その組成を決定したことを特徴とする消泡剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、前記起泡液と前記消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消泡剤は化学工業、食品工業、石油工業、製糸工業、織物工業、医薬品工業、廃水処理等の発泡を伴う工程において広く用いられており、シリコーン系消泡剤と、界面活性剤・ポリエーテル・高級アルコールなどの有機系消泡剤とに大別される。
特にシリコーン系消泡剤は速効性にすぐれた汎用消泡剤で、水性、非水性(油、溶液)いずれの発泡液に対しても有効であることから、様々な種類が開発されている。
【0003】
シリコーン系消泡剤には、オイル、コンパウンド、溶液、エマルジョン、自己乳化、粉体、固体の7 つのタイプがある。
また、シリコーン系消泡剤を導入するプロセスにより、起泡液に予め導入しておくタイプと、起泡液の泡が立った後に外部から適用するタイプの2 種類がある。このうち、前者が主流であると言われる。
起泡液に予め導入しておくタイプには、消泡剤の抑泡効果により起泡液の泡立ちを抑えるものと、消泡剤の破泡効果により泡だった起泡液の泡を消滅させるものの2種類がある。
【0004】
これまでは種々のポリオルガノシロキサンと、界面活性剤やシリカ等の成分とを組み合わせた消泡剤を実際に調整し、消泡剤の消泡効果、失活時間等を実験により検証することにより、消泡特性に優れた消泡剤組成物が開発されてきた。しかし近年の、様々な官能基で変成されたポリオルガノシロキサンの合成技術の確立、シリカ表面処理方法の多様化、ポリオルガノシロキサンとシリカのコンパウンディング技術の進歩、界面活性剤の多様化、に伴い、検証対象となる組み合わせのバリエーションが指数関数的な増加傾向にあり、迅速な消泡剤開発への要求も高まっていることから、効率の良い消泡剤の開発が求められている。
【0005】
消泡特性に関するメカニズムについての研究もおこなわれており、例えば非特許文献1には消泡剤による泡の破壊のメカニズムが記載されている。
非特許文献2には、泡の発生から安定化のメカニズム、および消泡剤の種類とその消泡メカニズムが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N. Denkov著 「Mechanisms of Foam Destruction by Oil-Based Antifoams」 Langmuir 2004年 6月24日、Vol. 20、p. 9463-9505
【非特許文献2】青木健二著 「泡の安定化と消泡機構に関する考察」 塗料の研究 2014年 10月、Vol.156、p. 26-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
消泡剤組成物の処方を開発するためには、膨大な数に上る消泡剤組成物の処方から、実験的手法により消泡効果等を検証することが必要であった。消泡剤の消泡特性に影響を与えるパラメータは多岐にわたるため、迅速に消泡剤組成物の処方を開発するためには、経験則や消泡メカニズム等の情報を元にして消泡特性に大きな影響を与えるパラメータを見極めたうえで、これらのパラメータに集中して実験を繰り返すしかなかった。
【0008】
しかし、消泡メカニズムを考慮して、消泡剤組成物の処方のバリエーションを絞ったとしても、様々な処方の調整が必要となる。例えば、エマルジョン型であれば安定な乳化状態を維持するために界面活性剤の種類や配合量を調整したり、乳化プロセスを最適化したりする必要がある。このような試行錯誤を経て得られた多数の消泡剤組成物について、様々な起泡液に対する消泡特性を検証するには膨大な時間と費用を費やさなければならない。
【0009】
さらに、消泡剤組成物が有する複数のパラメータは、影響の度合いはパラメータごとに異なる。しかし、パラメータは相互に影響を与えるものであり、実験的手法では複数のパラメータのうち1つのみを変化させてその影響を検証することは現在のあらゆる知識と技術を組み合わせても不可能である。例えば、エマルジョン型の消泡剤において、エマルジョンの侵入バリアを変更しようとすると、これに伴って消泡剤の粒子径分布、密度、破泡時の分裂数などあらゆるパラメータが変化することは当業者にとって自明であり、侵入バリアだけを変えることは不可能である。反対に、消泡剤の粒子径分布、密度、破泡時の分裂数を、侵入バリアに何らの影響を与えることなく変化させることも現在の技術では不可能である。すると実験的手法で消泡特性の変化が検出されても、複数のパラメータのうち、どれに起因して変化したのかを判断することができなくなってしまう。
【0010】
また、実験的手法によっては、起泡液における泡の発生や抑泡、破泡の効果を泡体積の変化によって観測可能であるが、消泡の過程において、消泡作用に寄与する消泡剤粒子の増減や粒子径分布の変化は確認することができない。消泡剤は消泡に伴って刻一刻と状態変化していくため、起泡液への導入後の消泡剤の変化を追うことが本質的に重要であり、初期の特性値のみを用いて消泡剤の善し悪しを議論することは困難である。しかし、起泡液に導入された消泡剤は極めて低い濃度に希釈されており、その特性値を実測することは困難である。仮に実施できたとしても、特性値の時間推移が追えるほど細かな時間刻みでサンプリングし実測するには、膨大な時間と費用を費やさなければならない。
【0011】
そこで、消泡剤の処方開発を実験的手法によらずに支援するシミュレータの登場が望まれている。
特に、起泡液にシリコーン系消泡剤を適用したときの泡数、その時間発展、消泡作用が進む中での消泡剤粒子数の増減を予測することができる方法が望まれている。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、起泡液に、シリコーン系消泡剤(すなわち、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物である)を導入する消泡処理における、起泡液と消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るシミュレーション方法は、起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、前記起泡液と前記消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法であって、
前記起泡液及び前 記消泡剤組成物の特性値を入力する第1工程と、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の時間発展条件を設定する第2工程と、
前記起泡液及び 前記消泡剤組成物の初期の存在値を入力する第3工程と、
前記第2工程で設定した時間発展条件に基づいて、前記起泡液、前記起泡液に泡を形成するための気体、および前記消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定する第4工程と、
前記入力された特性値と、前記入力された初期の存在値と、前記決定された導入量と、に基づいて、前記混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測する第5工程と、
前記混合液中の泡数を出力する第6工程と、
を含む、シミュレーション方法である。
【0014】
本シミュレーション方法は、消泡剤組成物の有効成分全体を100質量部とした場合の、ポリオルガノシロキサンの含有量が10質量部以上の消泡剤に適用され得る。ここで有効成分とは、消泡処理において消泡効果に直接寄与する成分をいい、例えば水中油型のエマルジョン型の消泡剤組成物においては水以外の成分であるポリオルガノシロキサンや界面活性剤を指し、オイル型の消泡剤組成物においてはポリオルガノシロキサンを指し、コンパウンド型の消泡剤組成物においてはポリオルガノシロキサンとシリカに代表される微粉末を指す。
オルガノポリシロキサンを含む消泡剤組成物は、泡膜の薄化過程において泡膜の両表面(気‐液界面)で不安定なブリッジが形成し、そのブリッジが泡膜の表面を引き延ばし破断させる「Bridging-Stretching機構」により起泡液中の泡を破泡させる。
この場合、消泡剤組成物中に含まれるポリオルガノシロキサンは、起泡液に添加されると粒子(油滴ともいわれる)状態で、起泡液と消泡剤組成物の混合液中の泡膜部分(泡を形成する部分)とバルク部分(泡膜部分以外の部分であって、泡のない液状部分をいう)に分散する。泡膜を破泡させるとポリオルガノシロキサンの粒子は、より小さい平均粒子径を有する粒子へ分裂する。
本シミュレーション方法はこのような消泡メカニズムを有する消泡処理に適用される。
【0015】
本発明におけるポリオルガノシロキサンは、ケイ素-酸素-ケイ素結合を骨格とする物であれば直鎖構造であっても、分岐構造を有していても、環状構造を有していてもよい。ケイ素原子に結合する直鎖状、分岐状、または環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、ポリエーテル基、及びそのハロゲン置換体、水素、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基、酸無水物基、カルボニル基、糖類、シアノ基、オキサゾリン基、イソイアナート基、等およびまたはこれらの基の炭化水素置換体を有していてもよい。
【0016】
上記シミュレーション方法において、第5工程は粒子径毎の消泡剤粒子数の変化量を予測する工程をさらに含むものであってもよい。
【0017】
上記シミュレーション方法は、シミュレーションの終了可否を判定する第7工程をさらに有し、前記第7工程における判定結果が終了可能となるまでは時間を次の時間に進めて、前記第4工程に戻って処理を繰り返し、前記判定結果が終了可能となった場合にはシミュレーションを終了することにより、前記混合液中の時刻t毎の泡数b(t)を予測するものとすることができる。予測した時刻t毎の泡数b(t)は、第6工程において出力することができる。
【0018】
上記シミュレーション方法において、起泡液及び消泡剤組成物の特性値は、泡の一つを形成するために必要な前記起泡液の体積(すなわち、泡膜を形成する体積である)と、消泡剤の破泡能と、消泡作用が働いた際の消泡剤粒子の分裂数とを含むことができる。
起泡液および消泡剤組成物の初期の存在値は、起泡液のバルク体積と、起泡液に含まれる泡数と、消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子数を含むことができる。初期の存在値には、さらに起泡液に含まれる泡の直径、泡の膜厚、消泡剤組成物中に含まれる固形分量、固形分に含まれる消泡剤粒子の粒子径等の値を含めることができる。消泡剤粒子の粒子径は、消泡剤粒子全体の平均粒子径としてもよく、粒子径分布としてもよい。
起泡液は、泡立った液体試料であり、泡の外縁を形成する泡膜部分と、泡以外のバルク部分からなる。起泡液のバルク体積とは、起泡液全体のうち、泡膜以外の部分の体積をいう。
【0019】
上記シミュレーション方法において、起泡液及び消泡剤組成物の時間発展条件は、シミュレーションの時間刻みΔtと、時間毎の起泡液および消泡剤組成物の導入条件と、を含むことができる。
【0020】
上記シミュレーション方法において、第6工程は、消泡剤粒子径毎の粒子数をさらに出力してもよい。
【0021】
上記シミュレーション方法において、泡数の時刻tから時刻t+Δtの間の変化量Δb(t)は、時刻tにおける混合液中の泡数b(t)と、時刻tから時刻t+Δtの間の合計仮想破泡数H(t)と、の関係から求められ、
合計仮想破泡数H(t)は、時刻tから時刻t+Δtの間に前記消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子が破泡させ得る最大の泡数であり
前記泡数b(t)よりも前記合計仮想破泡数H(t)が小さい場合には、下記式(1)により算出され、
前記泡数b(t)よりも前記合計仮想破泡数H(t)が大きい場合には、下記式(2)により算出されることができる。
Δb(t) = -H(t) ・・・(1)
Δb(t) = -b(t) ・・・(2)
ここで、前記合計仮想破泡数H(t)は、起泡液のバルク部分と泡膜部分に分散する消泡剤粒子のうち泡膜中に存在する消泡剤粒子の比率r(t)、時間刻みΔt、時刻tにおける消泡剤粒子径毎の粒子数、および第1工程で設定した消泡剤の破泡能に基づいて計算することができる。
つまり、系内の泡数が合計仮想破泡数よりも多い場合には、合計仮想破泡数と同数の泡が破泡されるのである(式(1))。一方、系内の泡数が合計仮想破泡数よりも少ない場合には実質的に系内の泡がすべて破泡されるため、破泡される泡数は、系内の泡数と同数となるのである(式(2))。
【0022】
以下、右下添字を粒子径の異なる消泡剤粒子間の識別に用いる。例えば、ai(t)は、時間tにおけるiで識別される直径を有する消泡剤粒子の数を示す。合計仮想破泡数H(t)は、泡膜中に存在する消泡剤の比率r(t)と、時間刻みΔt内に消泡剤が引き起こす仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)を使って、下記式(3)に従って算出してもよい。
H(t)= r(t)× Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt) ・・・(3)
(ここで破泡能Pは、消泡剤が有する破泡効果の強さを表す数値である)
【0023】
破泡能Pは様々な定義が考えられ、その中から適当なものを選べばよい。例えば、破泡能Piを半減期Tiと定義しても良い。その場合は、破泡能Piを、泡膜中に存在する1つの消泡剤粒子が、当該泡膜を開裂させることにより1つの泡を破泡する確率が50%となる時間Tiと定義しても良い。あるいは、破泡能Piを破泡確率Qiと定義しても良い。その場合は、破泡能Piを、泡膜中に存在する消泡剤粒子がその泡を所定時間内で割る確率Qiと定義しても良い。一般に半減期Tiは0.1秒~1時間の範囲であり、シリカのピン効果が有効に働き前記ブリッジ構造を取りやすい場合には0.1秒に近い小さい値となり、シリカ含有量が少なすぎるなどしてピン効果が得られない場合には1時間に近い大きい値となる。破泡確率Qiは、所定時間を1秒と設定した場合、一般に99.9%~0.02%の範囲であり、シリカのピン効果が有効に働き前記ブリッジ構造を取りやすい場合には99.9%に近い大きい値となり、シリカ含有量が少なすぎるなどしてピン効果が得られない場合には0.02%に近い小さい値となる。
【0024】
上記シミュレーション方法において、消泡剤粒子数ai(t)の時間刻みΔt内の変化量Δa(t)は、泡数の変化量Δb(t)を用いて、下記式(4)により算出されることができる。
Δa(t) = Δb(t)× h(ai(t), Pi, Δt)/Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt)-Ni’× Δb(t)× h(ai’(t), Pi’, Δt)/Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt)・・・(4)
((4)式において、Niは破泡後の消泡剤の分裂数であり、a(t)は消泡剤粒子の数であり、破泡能Pは消泡剤の有する破泡効果の強さを表す数値である)
式(4)において、iとi'の間には次の関係を仮定している。
直径di’の消泡剤が分裂し、Ni‘個の直径diの消泡剤を生成すると仮定している。diとdi’の間には下の関係となる。
i’^3=Ni’×di^3
【0025】
なお、泡数の変化量Δb(t)は、第4工程で決定した量に基づいて起泡液の導入が済んだ後の混合液で起こる泡数変化のみを考慮に入れており、つまり破泡プロセスのみを考慮に入れているため、負の値となるのが通常である。
【0026】
仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)は、消泡剤粒子数ai(t)と、消泡剤による泡の半減期Tiと、時間刻みΔtを使って、下記式(7)に従って算出されてもよい。
→h(ai(t), Pi, Δt)=h(ai(t), Ti, Δt)=ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}・・・(7)
((7)式における半減期Tは、泡膜中に存在する1つの消泡剤粒子が、当該泡膜を開裂させることにより1つの泡を破泡する確率が50%となる時間、である)
【0027】
合計仮想破泡数H(t)はまた、泡膜中に存在する消泡剤の比率r(t)と、消泡剤粒子数ai(t)と、消泡剤による泡の半減期Tiと、時間刻みΔtを使って、下記式(3’)に従って算出されてもよい。
H(t)= r(t)× Σi:消泡剤直径[ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}] ・・・(3’)
((3’)式における半減期Tは、泡膜中に存在する1つの消泡剤粒子が、当該泡膜を開裂させることにより1つの泡を破泡する確率が50%となる時間、である)
【0028】
上記シミュレーション方法において、消泡剤粒子数ai(t)の変化量Δa(t)は、泡数の変化量Δb(t)を用いて、下記式(10)により算出されることができる。
Δa(t) = Δb(t)× ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}/Σi:消泡剤直径[ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}]
-Ni’× Δb(t)× ai’(t)× {1-0.5^(Δt/Ti’)}/Σi:消泡剤直径[ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}]・・・(10)
((10)式において、Niは直径diを有する消泡剤粒子の破泡後の分裂数であり、a(t)は直径diの消泡剤粒子の数であり、半減期Tは、直径diの消泡剤粒子の1つが泡膜中に存在するとき、当該泡膜を開裂させることにより1つの泡を破泡する確率が50%となる時間、である)
式(10)において、iとi'の間には次の関係を仮定している。
直径di’の消泡剤が分裂し、Ni‘個の直径diの消泡剤を生成すると仮定している。diとdi’の間には下の関係となる。
i’^3=Ni’×di^3
【0029】
なお、泡数の変化量Δb(t)は、第4工程で決定した量に基づいて起泡液の導入が済んだ後の混合液で起こる泡数変化のみを考慮に入れており、つまり破泡プロセスのみを考慮に入れているため、負の値となるのが通常である。
【0030】
本発明に係るシミュレーション装置は、起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、起泡液と消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション装置であって、
起泡液及び消泡剤組成物の特性値を入力し、
起泡液及び消泡剤組成物の時間発展条件を設定し、
起泡液及び消泡剤組成物の初期値を入力し、
起泡液、混合液に泡を形成するための気体、および消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定し、
入力された特性値と、入力された初期の存在値と、決定された導入量と、設定された導入条件に基づいて、混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測する、シミュレーション装置である。
【0031】
本発明はまた、コンピュータに、上記のシミュレーション方法を実行させるためのプログラムである。
【0032】
本発明はまた、上記のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測する方法である。
【0033】
本発明はまた、上記のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測し、その組成を決定したことを特徴とする消泡剤組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、起泡液と消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法を提供できる。また、本発明に係るシミュレーション方法を利用することにより、実験的手法によらずに、消泡剤組成物の開発や使用において必要となる消泡特性に影響を与える因子に係る情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】シミュレーション方法を示すフローチャート。
図2】起泡液中の泡を模式的に示す図。
図3】シミュレーション方法を示すフローチャート。
図4】シミュレーション方法の第5工程の詳細を示すフローチャート。
図5】実施例2に係る結果を示すグラフ。
図6】実施例3に係る結果を示すグラフ。
図7】実施例4に係る結果を示すグラフ。
図8】実施例5に係る結果を示すグラフ。
図9】実施例6に係る結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。
【0037】
以下、図1 のフローチャートを参照して、シミュレーション装置によって実行され、本実施形態の起泡液と消泡剤組成物との混合液中の泡数を予想するシミュレーション方法を説明する。シミュレーション装置は、このフローチャートの各工程を実行するハードウェア要素の集合体として理解されうる。典型的には、フローチャートに対応するプログラムは、例えば、シミュレーションプログラムに含まれ、プロセッサによって実行されうる。
【0038】
第1工程は、起泡液および前記消泡剤組成物の特性値を入力する工程である。
起泡液の特性値としては、例えば、泡の一つを形成するために必要な起泡液の体積(すなわち、泡膜を形成する体積である)が挙げられる。
泡の一つを形成するために必要な起泡液の体積は、後述する泡の直径と膜厚に基づいて決めることができる。
上記特性値の入力は、任意に設定する値や予め測定した値を入力するものでもよく、測定装置により計測された値を入力するものとしてもよい。
【0039】
消泡剤組成物の特性値としては、例えば、消泡剤組成物の破泡能と、消泡作用が働いた際の消泡剤粒子の分裂数が挙げられる。これらの特性値の入力は、任意に設定する値や予め測定した値を入力するものでもよく、測定装置により計測された値を入力するものとしてもよい。
【0040】
消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子とは、すなわち消泡剤の固形分(有効成分ともいう)が粒状になって分散した物であり、代表的には消泡剤組成物中のポリオルガノシロキサンである。固形分は固体であってもよく、液体であってもよい。シリカやレジンや界面活性剤が含まれている場合にはそれらも固形分に含まれる。消泡処理に関与しない成分(例えば、エマルジョン型消泡剤組成物における水である)は固形分に含まれない。
起泡液に導入される消泡剤粒子数は、導入された消泡剤組成物の導入量、該消泡剤組成物中の固形分量、該消泡剤組成物中の固形分の密度、および消泡剤粒子の粒子径分布に基づいて算出することができる。
【0041】
消泡剤の分裂数は、消泡剤が働いて破泡が起きた際に、消泡剤が何個に分裂するかを表す変数であり、正の実数である。シリコーン系消泡剤は破泡の際、複数個に分裂することが知られている。分裂数は一定値を使っても良いし、消泡剤の粒子径に応じて異なる値を設定しても良い。分裂数として1以上の実数を設定すれば、破泡に伴う分裂を想定したことになる。一方、分裂数として0より大きい1未満の実数を設定すれば、破泡に伴って消泡剤粒子が合一する現象を想定したことになる。
【0042】
消泡剤の破泡能は、泡と接近した消泡剤粒子が当該泡を破泡する能力を表す。最も単純には一定値を使っても良いし、消泡剤の粒子径に応じて異なる値を設定しても良い。この際、ある粒子径以下では破泡が起きなくなるように破泡能の粒子径依存を設定しても良い。破泡能は後述する侵入バリアと関係が深い変数である。
【0043】
第2工程は、起泡液及び消泡剤組成物の時間発展条件を設定する工程である。時間発展条件には、例えば、シミュレーションで用いる時間刻み、時間毎の起泡液導入条件と導入量や、消泡剤組成物の導入条件と導入量が挙げられる。
【0044】
時間刻みを決定する際は、シミュレーションの結果が時間刻みに依存しなくなる程度に十分小さな値を設定する。そのためには、計算機の能力が許す範囲で極力小さな値を時間刻みとして採用すれば良い。
【0045】
時間発展条件には、導入を実施するか否かの判断基準を定めることと、導入を実施するならばその導入量の基準を定めること、が含まれていて良い。また、導入量は正の実数(すなわち系外から系内に添加することを意味する)であっても良いし、負の実数(すなわち系内から系外へ取り除くことを意味する)であっても良い。
【0046】
起泡液の導入とは、バルク体積を増やすことを含んでも良く、泡数を増やすことを含んでも良く、泡数を増やすと同時に泡膜体積に相当するバルク体積を減らすことで起泡液の総量を一定に保つことを含んでも良い。
【0047】
時間毎の起泡液導入条件は、予め設定された量の起泡液を導入する条件としてもよい。例えば、予め設定された開始時間から終了時間までの間、予め設定された一定量を導入する条件としてもよく、設定された時間に応じて導入量を変動させる条件としてもよい。
さらに、後述するシミュレーション方法により得られる時間毎の混合液中の泡数、消泡剤粒子数に代表されるパラメータのうち少なくともいずれか1つに応じて起泡液の導入要否や導入量を変化させる条件とすることもできる。
【0048】
消泡剤組成物の導入条件も同様に、予め設定された量の消泡剤組成物を導入する条件としてもよい。例えば、予め設定された開始時間から終了時間までの間、予め設定された一定量を導入する条件としてもよく、設定された時間に応じて導入量を変動させる条件としてもよい。
さらに、後述するシミュレーション方法により得られる時間毎の混合液中の泡数、消泡剤粒子数に応じて消泡剤組成物の導入要否や導入量を変化させる条件とすることもできる。
【0049】
例えば、第2工程では、泡数が予め設定された所定値bsetを下回ったときに、予め設定された量Vの起泡液を導入するという条件を設定することができる。この場合、第4工程では、bset>b(t)の関係が成立したら、起泡液の導入量をVと決定し、bset≦b(t)の関係が成立したら起泡液の導入量を0と決定することが考えられる。bsetは泡数が予め設定された所定値としても良いし、時間毎に変化する関数bset(t)としても良い。
第4工程において泡体積や消泡剤粒子数や起泡液の全体積や起泡液のバルク体積に基づいて、起泡液の導入量を決定する場合も同様である。また、第4工程において起泡液に泡を形成するための気体の導入量や、消泡剤組成物の導入量を決定する場合も同様である。ここで泡体積は、泡の直径と後述の第6工程で出力される泡数とから求めることができる。消泡剤粒子数は任意で第5工程において求めることができる。
例えば、第2工程で泡体積を基に起泡液の導入量を決定する場合は次のようにすることができる。時間tにおいて混合液に含まれる泡体積B(t)は、起泡液中の泡の直径をLとすると、混合液に含まれる泡数をb(t)を使って、B(t)=b(t)×4/3×π×(L/2)と近似的に表すことができる。B(t)の計算においては泡膜の厚みを考慮してもよく、泡の充填率を考慮することもできる。
【0050】
なお、起泡液、起泡液に泡を形成するための気体、および消泡剤組成物のうちいずれか一方の導入条件を一定量導入する条件として、他方をシミュレーションにより得られる情報に応じて変化させる条件としてもよい。いずれか1つ、2つあるいは全部を導入しない条件とすることもできる。
【0051】
第3工程は、起泡液及び消泡剤組成物の初期の存在値を入力する工程である。
起泡液の初期の存在値としては、例えば、シミュレーション開始前における、起泡液のバルク体積と、起泡液に含まれる泡数が挙げられる。泡数は予め設定された任意の数としてもよく、目視等により計測して得られた数としてもよい。泡を予め導入しない場合は「0」という初期の存在値を入力することができる。1つの泡の体積と、泡部分の全体積とを目視により計測し、(泡部分の全体積)÷(1つの泡の体積)を泡数とすることもできる。
消泡剤組成物の初期の存在値としては、例えば、シミュレーション開始前において起泡液に予め導入されている消泡剤粒子数や消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子数が挙げられる。消泡剤を予め導入しない場合は「0」という消泡剤粒子数を入力することができる。
初期の存在値には、さらに起泡液に含まれる泡の直径、泡の膜厚、起泡液の粘度や密度、消泡剤組成物中に含まれる固形分量、固形分に含まれる消泡剤粒子の粒子径等の値を含めることができる。
【0052】
起泡液中の泡の直径は、シミュレーションの対象となる実際の起泡液に含まれる泡について、目視または顕微鏡観察等により実測して求めた値であってもよい。泡の直径は、泡の平均直径としてもよく、大小の幅を持った直径分布データを用いてもよい。一般的な起泡液の平均的な直径を入力することもできる。図2は、起泡液中の泡を模式的に示した図である。一般にポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物により消泡処理される起泡液に含まれる平均的な泡の直径(図2中にLで示す)は0.1mm~40mmの範囲であることが多いとされる。
【0053】
起泡液中の泡の膜厚も、泡の直径と同様に目視または顕微鏡観察等により実測して求めた値であってもよく、平均的な膜厚を入力することもできる。なお、泡の膜厚とは、隣接する泡同士の間に存在する気体‐起泡液‐気体という構造における起泡液の厚さ(図2中に膜厚と記載した部分)をいう。
産業でシリコーン系消泡剤を利用する実用シーンにおいては、起泡液に含まれる平均的な泡の膜厚は0.1μm~5μmの範囲であることが多いとされる。
【0054】
起泡液のバルク体積は、予め設定された値を入力してもよく、消泡剤の使用を想定している工業プロセスでの起泡液量を調査して入力してもよく、実験的手法で用いる起泡液量と同一の値を入力してもよい。
【0055】
消泡剤の粒子径は、消泡剤粒子の平均直径としてもよく、大小の幅を持った直径分布データを用いてもよい。一般的なシリコーン系消泡剤の平均的な直径を入力することもできる。一般にポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物の平均的な粒子直径は0.1μm~100μmの範囲であることが多いとされる。
【0056】
第1工程、第2工程、および第3工程は、かならずしもその順に実施される必要はなく、異なる順序で実施されてもよい。
【0057】
第4工程は、時間毎の起泡液及び前記混合液に泡を形成するための気体、及び消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定する工程である。
時間毎の起泡液及び前記混合液に泡を形成するための気体、及び消泡剤組成物の導入量は、第2工程において予め設定された起泡液を導入する条件において定められた導入量となる。
起泡液の導入量を決定する場合において、起泡液のバルク部分を導入する量のみを決定してもよく、起泡液に泡を形成するための気体を導入する量のみを決定してもよく、その両方を決定してもよい。
【0058】
第5工程は、第1工程で入力された特性値と、第3工程で入力された初期の存在値と、第2工程で設定した時間発展条件に基づいて第4工程で決定された導入量と、に基づいて、前記混合液中の泡数の時刻tから時刻t+Δtの間の変化量Δb(t)ならびに時刻tから時刻t+Δtの間の消泡剤粒子数変化量Δai(t)を予測する工程である。詳細は後述する。
【0059】
第6工程は、第5工程で得られた予測値に基づいて、混合液中の泡数を出力する工程であり、任意で他の値、例えば消泡剤粒子径毎の粒子数や、泡体積を出力してもよい。出力形式は特に限定されず、例えば数値形式でも良く、グラフを生成する形式としてもよい。
【0060】
第7工程は、シミュレーションの終了可否を判定する工程である。
判定条件は特に限定されず、例えば、あらかじめ定めた時間を経過したときとしてもよく、混合液中の泡数があらかじめ定めた値を下回ったとき又は上回ったときとしてもよく、起泡液または消泡剤組成物の導入量があらかじめ定めた値に達したときとしてもよい。
第1工程から第5工程までを1回実行することによりある状態の泡数を予測する場合であって、工程を繰り返さない場合には第7工程は設けなくてもよく、第7工程の判定条件を各工程を1回実施したときとしてもよい。
図3に示すように、第7工程で終了可能と判定されるまでは第4工程に戻り、工程を繰り返す。
【0061】
以下に、図4を参照しながら第5工程の詳細を説明する。
第5工程における計算プロセスとしては、まず第4工程において決定された起泡液及び消泡剤組成物の導入量を、その時点での泡数ならびに消泡剤の粒子数に反映(第5-1工程)させてから、その値を使って消泡剤粒子による破泡数を決定(第5-2工程、第5-3工程)し、続いて破泡に伴う消泡剤粒子の数の変化量を計算(第5-4工程)し、最後に破泡に伴う起泡液と消泡剤組成物の変化量を反映(第5-5工程)させることにして良い。すなわち以下のように計算を進める。
【0062】
いま、図1のスキームに従って、第4工程に進んだ瞬間を考える。現時刻をtとする。第4工程において決定された泡の導入量がbinだったとすると、第5-1工程においてbinを現在の泡数b(t)に足す。従って第5-1工程を経ると、泡数はb(t)+binとなる。同様に、第4工程において決定された消泡剤の導入量がai inだったとすると、第5-1工程においてai inを現在の消泡剤粒子数ai(t)に足す。従って第5-1工程を経ると、消泡剤粒子数はai(t)+ai inとなる。
このように第5-1工程で更新されたb(t)及びai(t)に基づいて、第5-2工程で、現時刻tから時間刻みΔtの間に起こる仮想破泡数を計算する。
【0063】
消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子は、起泡液に導入されると、泡膜部分および泡膜以外のバルク部分に分散する。しかし破泡効果を発揮するのは泡膜部分に含まれる消泡剤粒子のみである。消泡剤粒子が泡膜部分とバルク部分に均等に分散すると仮定すれば、導入された消泡剤粒子全体のうち、破泡効果を発揮する消泡剤の比率r(t)は(泡膜の全体積)/(起泡液の全体積)と表すことができる。比率r(t)は0以上1以下の値となる。
【0064】
シリコーン系消泡剤による破泡機構は以下のように進むことが知られている。泡膜中の消泡剤粒子は、泡膜を構成する気体-起泡液-気体という構造の中で、当初は完全に起泡液に存在する。その状態から消泡剤粒子はまず起泡液を押しのけて、二つの気液界面のそれぞれに侵入し、気体-消泡剤-気体というブリッジ構造を作る。その後、消泡剤粒子は泡膜を形成する起泡液に引き伸ばされ、ある時点で消泡剤粒子が引きちぎれることで前記二つの気体領域を結合させ、破泡させる。
【0065】
以上の情報から、第5-2工程で合計仮想破泡数H(t)を式(3)により求めることができる。合計仮想破泡数とは、第2工程で入力した時間刻み内に混合液中の泡を破泡させることができる最大数である。消泡剤粒子の破泡能とは、消泡剤粒子が前記機構に従って破泡させる程度をいう。破泡能Pを持つa個の消泡剤粒子が無限個の泡を形成する泡膜に捕らわれている時に、時間刻みΔtの間に破られる泡数を仮想破泡数h(a, P,Δt)とする。すると合計仮想破泡数H(t)は、全ての粒子径に対する仮想破泡数の合計で表される。バルクではなく泡膜に存在する消泡剤の比率r(t)に注意すると、
H(t)= r(t)× Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt) ・・・(3)
で計算できる。
式(3)による合計仮想破泡数H(t)の計算においては、消泡剤が有限量の泡膜に取り込まれた状態を仮定した上で、泡数が有限であることをいったん無視している。「仮想」破泡数と称する所以である。
【0066】
第5-3工程で、実際の破泡数を決定する。混合液中の泡数b(t)が第5-2工程で計算した合計仮想破泡数H(t)を上回った場合には、合計仮想破泡数の通りの数の破泡が起きるとする。この場合、破泡数Δb(t)は式(1)で与えられる。逆に合計仮想破泡数が混合液中の泡数を上回っている場合には、混合液中の泡数以上の数の泡を破泡することはできないので、合計仮想破泡数の通りの数の破泡は起き得ず、全ての泡が消えるまで破泡が進むことにする。この場合、破泡数Δb(t)は式(2)で与えられる。
Δb(t) = -H(t) ・・・(1)
Δb(t) = -b(t) ・・・(2)
【0067】
以上のプロセスに従って第5-3工程で時刻tから時間刻みΔtの間に起こる破泡数Δb(t)が計算出来たら、第5-4工程で破泡に伴う消泡剤の分裂を考慮に入れて、消泡剤粒子数の変化量を計算する。ここで、消泡効果のシミュレーションをするためには、消泡剤粒子数は粒子径毎に計算することが求められる。
【0068】
消泡剤が働いて破泡すると、当該消泡剤が引きちぎれることは前述したとおりである。いま、直径di’の消泡剤粒子が破泡に伴いNi’個に等分され、直径diを有する消泡剤粒子になるとする。直径di’を有する消泡剤の粒子が働くことで、当該粒子は消失する一方で、直径diを有する消泡剤の粒子が新たにNi’個生じることが分かる。直径diとdi’の間には下記の関係がある。
i’ 3=Ni’×di 3・・・(8)
ここで、消泡剤の分裂数N iは、全ての消泡剤粒子径に対して一定の値を使っても良いし、消泡剤の粒子径毎に異なる値を設定しても良い。一般にポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物においては、破泡に伴って2~6個に分裂数することが多いとされる。しかし、現実の消泡剤における分裂は等分されるとは限らず、必ず不均等に分裂するであろう。本発明のシミュレーションでは現象を簡略してN個への等分を仮定している。より精確なシミュレーションとするためには、粒子径di毎に分裂の様子(個数、分裂後の粒子径の不均一性)を実際に観測し、それをシミュレーションの分裂数Nに反映させることが考えられる。
【0069】
破泡に伴う消泡剤粒子数の変化量を計算するには、消泡剤粒子径毎の破泡数を計算すれば良い。
混合液中の泡数b(t)が第5-2工程で計算した合計仮想破泡数H(t)を上回った場合には、直径diを有する消泡剤粒子による破泡数は仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)と一致する。これより、破泡に伴う消泡剤剤粒子数a(t)の変化量Δa(t)は、式(8)の関係にある直径di’を有する消泡剤粒子数ai’(t)を用いて、下記式(5)で計算される。
Δa(t) = -r(t)× h(ai(t), Pi, Δt) + Ni’× r(t)×h(ai’(t), Pi’, Δt) ・・・(5)
一方、合計仮想破泡数が混合液中の泡数を上回っている場合には、破泡数Δb(t)=-b(t)であるが、大小さまざまな直径を有する消泡剤による破泡への寄与はh(ai(t), Pi, Δt)に比例すると仮定すると、破泡に伴う消泡剤粒子数a(t)の変化量Δa(t)は、式(8)の関係にある直径di’を有する消泡剤粒子数ai’(t)を用いて、下記式(6)で計算される。
Δa(t) = -b(t)× h(ai(t), Pi, Δt)/Σi:消泡剤直径{h(ai(t), Pi, Δt)}+Ni’× b(t)× h(ai’(t), Pi’, Δt)}/Σi:消泡剤直径{h(ai(t), Pi, Δt)}・・・(6)
【0070】
第5-5工程では、第5-3工程で算出された破泡数を泡数に反映させ、また、第5-4工程で算出された消泡剤の粒子数変化を消泡剤粒子数に反映させる。
第5-1工程、第5-2工程、第5-3工程、第5-4工程、および第5-5工程は、かならずしもその順に実施される必要はなく、異なる順序で実施されてもよい。
【0071】
具体的には例えば破泡能Piを、前記泡膜中に存在する消泡剤粒子が、その泡を破泡する確率が50%となる時間、すなわち半減期Tiとして与えることにする。この場合、仮想破泡数h(ai(t), Ti, Δt)は下記式(7)で表される。
h(ai(t), Ti, Δt)= ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}・・・(7)
従って、前記合計仮想破泡数H(t)は前記r(t)を用いて式(3‘)で表される。
H(t)= r(t)× Σi:消泡剤直径[ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}] ・・・(3’)
破泡能の定義として他の形にした場合、例えば前記泡膜中に存在する消泡剤粒子がその泡を所定時間内で割る確率、などとした場合も、仮想破泡数を相応に立式して式(3)に代入すれば合計仮想破泡数H(t)は同じ値となる。
【0072】
具体的には例えば破泡能Piを、前記泡膜中に存在する消泡剤粒子が、その泡を破泡する確率が50%となる時間、すなわち半減期Tiとして与えることにする。
混合液中の泡数b(t)が第5-2工程で計算した合計仮想破泡数H(t)を上回った場合には、破泡に伴う消泡剤剤粒子数a(t)の変化量Δa(t)は、式(5)に式(7)を代入して、下記式(5’)で計算される。
Δa(t) = -r(t)× ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)} + Ni’× r(t)× ai’(t)× {1-0.5^(Δt/Ti’)} ・・・(5’)
【0073】
一方、合計仮想破泡数が混合液中の泡数を上回っている場合には、破泡に伴う消泡剤剤粒子数a(t)の変化量Δa(t)は、式(6)に式(7)を代入して、下記式(6’)で計算される。
Δa(t) = -b(t)× ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}/Σi:消泡剤直径[ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}]+Ni’× b(t)× ai’(t)× {1-0.5^(Δt/Ti’)}/Σi:消泡剤直径[ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}]・・・(6’)
ところで、消泡剤粒子径が一定程度以下になると破泡効果がなくなり、従ってさらなる分裂も起こさなくなることが知られている。破泡効果がなくなる限界は消泡剤粒子の特性により異なり、一般的には平均粒子径が1~5μmを下回ると破泡効果がなくなるといわれる。破泡効果がなくなった状態においては、泡を破泡する確率が50%となる時間は無限大となる。
【0074】
消泡剤の特性値を分析したい場合、比較的容易に実測できる特性値と、そうでない特性値がある。例えば消泡剤の固形分(有効成分量)や密度は前者であり、一方、分裂数や粒子径分布は後者である。後者を実測する場合、数日単位の時間を要する可能性もあり、あるいは短時間測定を可能とする設備を導入するのであれば設備投資が必要となる。本発明のシミュレーションを用いると、未知の消泡剤の特性値を短時間かつ低コストで推測することが可能である。
【0075】
その手順は例えば以下のようなものが考えられる。まず、消泡剤の消泡特性を実測する。ここでは既存の設備を使って、一般的な条件を用いて泡数の時間推移を測定すればよい。
続いて、シミュレーションにおいて、前記実測で得られた泡数の時間推移を再現する最適な変数セットを探索する。こうして得られた変数セットが、その消泡剤の特性値の推測値である。変数セットの最適化には、例えばモンテカルロ法を用いることが考えられる。
【0076】
一般の最適化と同様に、値が既知の特性値があるならばシミュレーションではその値を入力することが望ましく、容易に実測できる特性値については実測値を入力することが望ましく、未知の特性値については最大限の推察を持ってそれらしい値を入力することが望ましい。
発明者が開発したシミュレーターでは、変数セットを入力すると数秒で泡数の時間推移の出力が得られるため、特性値の推測は実測で導くよりも短時間で終了する。さらに、汎用のコンピューターで計算が可能であるため、投資額は極めて少ない。
【0077】
本発明はまた、上記に記載のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測し、その組成を決定したことを特徴とする消泡剤組成物の製造方法である。
上記シミュレーションでは固形分、粒子径、分裂数、破泡能等のパラメータを変化させて消泡特性を予測することが可能である。ある開発中消泡剤サンプルについて、各パラメーターが既知であるとする。このサンプルの消泡性能が不十分であった場合、上記シミュレーションにより処方内容を効率的に改善することが可能になり、ひいては短時間で最適な処方に辿り着くことができる。
例えばシミュレーションを用いて、消泡剤の固形分、粒子径、分裂数、破泡能等のパラメータを一つずつ、現在の値よりも10%大きい値に変更して泡数の時間推移を予測する。得られた複数の時間推移を検証し、消泡効果が最も高くなっているものを特定する。このようにして見出されたパラメータが、当該サンプルの消泡効果を改善するために最も注力すべきパラメータと言える。このようにシミュレーションを活用することで、消泡剤サンプルの試作やそれを適用した際の泡数の実測などに膨大な時間と労力を費やすことなく、消泡剤開発の方向を効率的に定めることができる。
【実施例0078】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
<実施例1>
起泡液に消泡剤組成物を20ppm添加した場合の泡立ちをシミュレーションする。消泡剤組成物はワッカー社製コンパウンド型消泡剤SILFOAM(登録商標) SC 124を10質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを10質量部含む、水中油型エマルジョン組成物である。
【0080】
第1工程‐特性値
起泡液全体積 100cc
泡直径5mm
1つの泡を形成するために必要な起泡液の体積 200μcc
分裂数 4個
破泡能(半減期) 消泡剤直径が5μm以上では1秒、それ以下では∞秒
消泡剤組成物中の固形分 20%
固形分の密度 1g/cc
平均粒子径 30μm
【0081】
第2工程―時間発展条件
時間刻み 1秒
起泡液導入条件 泡を46個/秒
消泡剤導入条件 0個
【0082】
第3工程‐初期値
泡 0個
消泡剤粒子 1.4×10^5個
【0083】
第1工程~第5工程を各1回のみ実施したのちに、第6工程を実施する、いわゆるワンパスのシミュレーションの結果、1秒以内に6個の泡が消され、39個の泡が残ることが分かった。
【0084】
<実施例2>
実施例1と同じ条件で、第7工程における判定条件を3600秒で停止として、判定結果が当該条件に到達するまで第4工程に戻って処理を繰り返した。
シミュレーションの結果、図5に示す結果が得られた。泡数は30秒付近で280個に達するがその後は減少に転じ、3000秒以降は50個程度に抑えられているという予測が得られた。
【0085】
<実施例3>
消泡剤粒子数を1.4×10^3個にし、それ以外は実施例2と同じ条件にした。
シミュレーションの結果、図6に示す結果が得られた。泡数は200秒付近で約6000個に達するがその後減少に転じた。2000秒付近から再度上昇が激しくなり、3000秒付近からは時間に対して線形に増加した。3600秒での泡数は45000個という予測が得られた。
【0086】
<実施例4>
実施例3と同じ条件で、粒子径5μm以上の消泡剤の粒子数の時間変化を計算した。粒子径5μm以上の粒子は半減期が∞秒でなく、従って有効な消泡剤である。以下、有効な消泡剤の粒子数を有効消泡剤粒子数という。
シミュレーションの結果、図7に示す結果が得られた。有効消泡剤粒子数は1000秒付近にピークを持ち、その時点では初期に添加した消泡剤粒子数の20倍近くに達していることが分かった。その後、有効消泡剤粒子数は徐々に低下し、3000秒付近で0個になることが分かった。有効消泡剤粒子数のこのような増減は、破泡の際に消泡剤が分裂することから理解される。実施例3での泡数のシミュレーション結果と比べると、泡数が200秒付近から減少に転じたのは、有効消泡剤粒子数が増加したためと分かった。また、3000秒付近から泡数が直線的に増加したのは、有効消泡剤粒子数が0個になったためと分かった。
【0087】
<実施例5>
繊維の精練に用いる洗剤を200倍に薄めた起泡液に消泡剤組成物を15ppm添加した場合の泡立ちをシミュレーションし、実測と比較する。泡数が25万個に達するのが500秒以上であれば合格、500秒未満であれば不合格という条件で、消泡剤組成物の消泡剤性能を評価した。消泡剤組成物は、ワッカー社製コンパウンド型消泡剤SILFOAM(登録商標) SC 132を10質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを7質量部含む、水中油型エマルジョン組成物である。よって変数は以下の通りである。
【0088】
第1工程‐特性値
起泡液全体積 100cc
1つの泡を形成するために必要な起泡液の体積 7.9μcc
泡直径 1mm
分裂数 3個
破泡能(半減期) 消泡剤直径が15μm以上では1秒、それ以下では∞秒
消泡剤組成物中の固形分 17%
固形分の密度 1g/cc
平均粒子径 60μm
【0089】
第2工程―時間発展条件
時間刻み 1秒
起泡液導入条件 泡を1146個/秒
消泡剤導入条件 0個
【0090】
第3工程‐初期値
泡 0個
消泡剤粒子 1.3×10^4個
【0091】
第6工程における判定条件を、泡数が25万個に達したら停止として、判定結果が当該条件に到達するまで第4工程に戻って処理を繰り返した。
シミュレーションの結果、図8に点線で示す結果が得られた。上記の起泡液及び消泡剤組成物を用いて泡数を実測した結果を図8に実線で示す。実測では326秒で泡数が25万個に達したのに対し、シミュレーションでは334秒であった。従って、実測でもシミュレーションでもこの消泡剤サンプルは不合格との評価で一致した。
実測とシミュレーションの泡数の時間推移は、共に上凸で、300秒付近からは泡数の増加がほぼ平坦になることを示した。以上のように、本発明のシミュレーションは実測と定性的にも定量的にも良い一致を示した。
【0092】
<実施例6>
実施例5と同じ条件で、第6工程における判定条件を2000秒で停止として、判定結果が当該条件に到達するまで第4工程に戻って処理を繰り返した。シミュレーションの結果、図9に示す結果が得られた。泡数は300秒以降、一度も減少することなく、400秒付近から増加に転じた。2000秒での泡数は180万個程度と予測された。一方、消泡剤粒子数は380秒で12万個に達した後、減少が始まり、1000秒でほぼ0個になると予測された。泡数の変化がほぼ見られない300秒から350秒の間、消泡剤粒子数は11万個以上存在することが分かった。
実施例5では、泡数は25万個付近において増加が緩やかであり、そのまま泡数の時間推移を測定した場合には減少に転ずるのではないか、との疑問があった。つまり、合格不合格の条件が少々違えば、この消泡剤サンプルは合格になるのではないか、との疑問があった。しかしシミュレーションから、泡数は25万個付近で高止まりするが減少はしないことが分かった。さらに、泡数が減少しないと断定できる理由として、消泡剤粒子数が11万個を割り込み、0に向かって一方的に減少するため、という理論的根拠も得られた。
【0093】
<実施例7>
実施例5の精錬工程において、消泡剤の初期値を0個、泡数の初期値を25万個とし、この起泡液に実施例5の消泡剤サンプルを添加し、消泡剤添加直後から泡数を減らすために必要となる消泡剤添加量を調べた。
【0094】
消泡剤の初期値を変化させ、その度に第1工程~第5工程を各1回のみ実施したのちに、第6工程を実施する、いわゆるワンパスのシミュレーションを行い、消泡剤添加から1秒後の泡数が25万個以下になる消泡剤初期値を調べた。その結果、75mgの消泡剤を添加すれば良いことが分かった。この添加量は消泡剤粒子数にして11.3万個であり、実施例6での観察とよく一致する。この分析に要した時間は5分であった。
一方、同じ調査を実測で行った場合は、10時間を要した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-04-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、前記起泡液と前記消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法であって、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の特性値を入力する第1工程と、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の時間発展条件を設定する第2工程と、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の初期の存在値を入力する第3工程と、
前記第2工程で設定した時間発展条件に基づいて、前記起泡液、前記起泡液に泡を形成するための気体、および前記消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定する第4工程と、
前記入力された特性値と、前記入力された初期の存在値と、前記決定された導入量と、に基づいて、前記混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測する第5工程と、
前記混合液中の泡数を出力する第6工程と、
を含む、シミュレーション方法。
【請求項2】
前記第5工程は、粒子径毎の消泡剤粒子数の変化量を予測する工程をさらに含む、請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
シミュレーションの終了可否を判定する第7工程をさらに有し、
前記第7工程における判定結果が終了可能となるまでは時間を次の時間に進めて、前記第4工程に戻って処理を繰り返し、
前記判定結果が終了可能となった場合にはシミュレーションを終了することにより、
前記混合液中の時刻t毎の泡数b(t)を予測する、請求項1ないし請求項2に記載のシミュレーション方法であって、
前記第6工程は、前記混合液中の時刻t毎の泡数b(t)をさらに出力する方法。
【請求項4】
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の特性値は、前記泡の一つを形成するために必要な前記起泡液の体積と、前記消泡剤の破泡能と、消泡作用が働いた際の消泡剤粒子の分裂数と、を含み、
前記起泡液および前記消泡剤組成物の初期の存在値は、前記起泡液のバルク体積と、前記起泡液に含まれる泡数と、前記消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子数を含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記起泡液及び消泡剤組成物の時間発展条件は、シミュレーションの時間刻みΔtと、時間毎の起泡液および消泡剤組成物の導入条件とを含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記第6工程は、消泡剤粒子径毎の粒子数をさらに出力する、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記泡数の、時刻tから時刻t+Δtの間の変化量Δb(t)は、時刻tにおける前記混合液中の泡数b(t)と、時刻tから時刻t+Δtの間の合計仮想破泡数H(t)と、の関係から求められ、
前記合計仮想破泡数H(t)は、時刻tから時刻t+Δtの間に前記消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子が破泡させ得る最大の泡数であり、
前記泡数b(t)よりも前記合計仮想破泡数H(t)が小さい場合には、下記式(1)により算出され、
前記泡数b(t)よりも前記合計仮想破泡数H(t)が大きい場合には、下記式(2)により算出される、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
Δb(t) = -H(t) ・・・(1)
Δb(t) = -b(t) ・・・(2)
【請求項8】
前記合計仮想破泡数H(t)は、泡膜中に存在する消泡剤の比率r(t)と、時間刻みΔt内に添字iで識別される直径を有する消泡剤が引き起こす仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)を使って、下記式(3)に従って算出される、請求項7に記載のシミュレーション方法。
H(t)= r(t)× Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt) ・・・(3)
(ここで消泡剤粒子数ai(t)は、添字iで識別される直径を有する消泡剤粒子数であり、破泡能Pは、添字iで識別される直径を有する消泡剤の有する破泡効果の強さを表す数値である)
【請求項9】
添字iで識別される直径を有する消泡剤粒子数ai(t)の時間刻みΔt内の変化量Δa(t)が、前記泡数の変化量Δb(t)ならびに前記仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)を用いて、下記式(4)により算出される、請求項8に記載のシミュレーション方法。
Δa(t) = Δb(t)× h(ai(t), Pi, Δt)/Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt)-Ni’× Δb(t)× h(ai’(t), Pi’, Δt)/Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt)・・・(4)
((4)式において、Niは、i で識別される直径を有する消泡剤粒子の破泡後の分裂数である。)
【請求項10】
前記仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)が、添字iで識別される直径を有する消泡剤粒子数ai(t)、添字iで識別される直径を有する消泡剤による泡の半減期Tiと、時間刻みΔtを使って、下記式(7)に従って算出される、請求項9に記載のシミュレーション方法。
h(ai(t), Pi, Δt)= ai(t)× {1-0.5^(Δt/Ti)}・・・(7)
【請求項11】
起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、前記起泡液と前記消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション装置であって、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の特性値を入力し、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の時間発展条件を設定し、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の初期の存在値を入力し、
前記起泡液、前記混合液に泡を形成するための気体、および前記消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定し、
前記入力された特性値と、前記入力された初期の存在値と、前記決定された導入量と、前記設定された時間発展条件に基づいて、前記混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測するシミュレーション装置。
【請求項12】
コンピュータに、請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のシミュレーション方法を実行させるためのプログラム。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測する方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測し、その組成を決定したことを特徴とする消泡剤組成物の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
上記シミュレーション方法において、起泡液及び消泡剤組成物の特性値は、泡の一つを形成するために必要な前記起泡液の体積(すなわち、泡膜を形成する体積である)と、消泡剤の破泡能と、消泡作用が働いた際の消泡剤粒子の分裂数とを含むことができる。
起泡液および消泡剤組成物の初期の存在値は、起泡液のバルク体積と、起泡液に含まれる泡数と、消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子数を含むことができる。特性値には、さらに起泡液に含まれる泡の直径、泡の膜厚、消泡剤組成物中に含まれる固形分量、固形分に含まれる消泡剤粒子の粒子径等の値を含めることができる。消泡剤粒子の粒子径は、消泡剤粒子全体の平均粒子径としてもよく、粒子径分布としてもよい。
起泡液は、泡立った液体試料であり、泡の外縁を形成する泡膜部分と、泡以外のバルク部分からなる。起泡液のバルク体積とは、起泡液全体のうち、泡膜以外の部分の体積をいう。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
本発明に係るシミュレーション装置は、起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、起泡液と消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション装置であって、
起泡液及び消泡剤組成物の特性値を入力し、
起泡液及び消泡剤組成物の時間発展条件を設定し、
起泡液及び消泡剤組成物の初期値を入力し、
起泡液、混合液に泡を形成するための気体、および消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定し、
入力された特性値と、入力された初期の存在値と、決定された導入量と、設定された時間発展条件に基づいて、混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測する、シミュレーション装置である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
第3工程は、起泡液及び消泡剤組成物の初期の存在値を入力する工程である。
起泡液の初期の存在値としては、例えば、シミュレーション開始前における、起泡液のバルク体積と、起泡液に含まれる泡数が挙げられる。泡数は予め設定された任意の数としてもよく、目視等により計測して得られた数としてもよい。泡を予め導入しない場合は「0」という初期の存在値を入力することができる。1つの泡の体積と、泡部分の全体積とを目視により計測し、(泡部分の全体積)÷(1つの泡の体積)を泡数とすることもできる。
消泡剤組成物の初期の存在値としては、例えば、シミュレーション開始前において起泡液に予め導入されている消泡剤粒子数や消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子数が挙げられる。消泡剤を予め導入しない場合は「0」という消泡剤粒子数を入力することができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0080
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0080】
第1工程‐特性値
泡直径5mm
1つの泡を形成するために必要な起泡液の体積 200μcc
分裂数 4個
破泡能(半減期) 消泡剤直径が5μm以上では1秒、それ以下では∞秒
消泡剤組成物中の固形分 20%
固形分の密度 1g/cc
平均粒子径 30μm
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0082
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0082】
第3工程‐初期の存在
泡 0個
消泡剤粒子 1.4×10^5個
起泡液全体積 100cc
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0088
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0088】
第1工程‐特性値
1つの泡を形成するために必要な起泡液の体積 7.9μcc
泡直径 1mm
分裂数 3個
破泡能(半減期) 消泡剤直径が15μm以上では1秒、それ以下では∞秒
消泡剤組成物中の固形分 17%
固形分の密度 1g/cc
平均粒子径 60μm
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0090
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0090】
第3工程‐初期の存在
泡 0個
消泡剤粒子 1.3×10^4個
起泡液全体積 100cc
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0093
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0093】
<実施例7>
実施例5の精錬工程において、消泡剤の初期の存在値を0個、泡数の初期の存在値を25万個とし、この起泡液に実施例5の消泡剤サンプルを添加し、消泡剤添加直後から泡数を減らすために必要となる消泡剤添加量を調べた。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0094
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0094】
消泡剤の初期の存在値を変化させ、その度に第1工程~第5工程を各1回のみ実施したのちに、第6工程を実施する、いわゆるワンパスのシミュレーションを行い、消泡剤添加から1秒後の泡数が25万個以下になる消泡剤初期の存在値を調べた。その結果、75mgの消泡剤を添加すれば良いことが分かった。この添加量は消泡剤粒子数にして11.3万個であり、実施例6での観察とよく一致する。この分析に要した時間は5分であった。
一方、同じ調査を実測で行った場合は、10時間を要した。

【手続補正書】
【提出日】2022-07-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起泡液に、ポリオルガノシロキサンを含む消泡剤組成物を導入する消泡処理における、前記起泡液と前記消泡剤組成物との混合液中の泡数を予測するシミュレーション方法であって、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の特性値を入力する第1工程と、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の時間発展条件を設定する第2工程と、
前記起泡液及び前記消泡剤組成物の初期の存在値を入力する第3工程と、
前記第2工程で設定した時間発展条件に基づいて、前記起泡液、前記起泡液に泡を形成するための気体、および前記消泡剤組成物のうち少なくとも1つの導入量を決定する第4工程と、
前記入力された特性値と、前記入力された初期の存在値と、前記決定された導入量と、に基づいて、前記混合液中の泡数の単位時間内の変化量を予測する第5工程と、
前記混合液中の泡数を出力する第6工程と、
を含む、シミュレーション方法であって、
前記特性値は、泡の直径と泡の膜厚から求められる泡の一つを形成するために必要な起泡液の体積と、消泡剤の破泡能である半減期と、消泡作用が働いた際の消泡剤粒子の分裂数とを含み、
前記時間発展条件は、シミュレーションの時間刻みΔtと、時間毎の起泡液および消泡剤組成物の導入条件と、を含み、
前記初期の存在値は、起泡液のバルク体積と、起泡液に含まれる泡数と、消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子数と、泡の直径、泡の膜厚と、を含み、
前記第5工程で予測される泡数の単位時間内の変化量は、
系内の泡数が合計仮想破泡数よりも多い場合には合計仮想破泡数と同数であり、
系内の泡数が合計仮想破泡数よりも少ない場合には系内の泡数と同数であり、
前記合計仮想破泡数は、泡膜中に存在する消泡剤の比率と、単位時間内の仮想破泡数に基づいて算出され、
前記消泡剤の比率は、泡を形成する起泡液の体積と、前記起泡液の体積との比率で表され、
前記仮想破泡数は前記消泡剤粒子数と、前記半減期と、前記時間刻みから算出される、方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシミュレーション方法であって、
前記第5工程において、前記泡数の、時刻tから時刻t+Δtの間の変化量Δb(t)は、時刻tにおける前記混合液中の泡数b(t)と、時刻tから時刻t+Δtの間の合計仮想破泡数H(t)と、の関係から求められ、
前記合計仮想破泡数H(t)は、時刻tから時刻t+Δtの間に前記消泡剤組成物中に含まれる消泡剤粒子が破泡させ得る最大の泡数であり、
前記泡数b(t)よりも前記合計仮想破泡数H(t)が小さい場合には、下記式(1)により算出され、
Δb(t) = -H(t) ・・・(1)
前記泡数b(t)よりも前記合計仮想破泡数H(t)が大きい場合には、下記式(2)により算出され、
Δb(t) = -b(t) ・・・(2)
前記合計仮想破泡数H(t)は、泡膜中に存在する消泡剤の比率r(t)と、時間刻みΔt内に添字iで識別される直径を有する消泡剤が引き起こす仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)を使って、下記式(3)に従って算出され、
H(t)= r(t)× Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt) ・・・(3)
(ここで消泡剤粒子数ai(t)は、添字iで識別される直径を有する消泡剤粒子数であり、破泡能Pは、添字iで識別される直径を有する消泡剤の有する破泡効果の強さを表す数値である)
添字iで識別される直径を有する消泡剤粒子数ai(t)の時間刻みΔt内の変化量Δa(t)が、前記泡数の変化量Δb(t)ならびに前記仮想破泡数h(ai(t), Pi, Δt)を用いて、下記式(4)により算出される、シミュレーション方法。
Δa(t) = Δb(t)× h(ai(t), Pi, Δt)/Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt)-Ni’× Δb(t)× h(ai’(t), Pi’, Δt)/Σi:消泡剤直径h(ai(t), Pi, Δt)・・・(4)
((4)式において、Niは、i で識別される直径を有する消泡剤粒子の破泡後の分裂数である。)
【請求項3】
前記第5工程は、粒子径毎の消泡剤粒子数の変化量を予測する工程をさらに含む、請求項1または請求項2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
シミュレーションの終了可否を判定する第7工程をさらに有し、
前記第7工程における判定結果が終了可能となるまでは時間を次の時間に進めて、前記第4工程に戻って処理を繰り返し、
前記判定結果が終了可能となった場合にはシミュレーションを終了することにより、
前記混合液中の時刻t毎の泡数b(t)を予測する、請求項1ないし請求項3に記載のシミュレーション方法であって、
前記第6工程は、前記混合液中の時刻t毎の泡数b(t)をさらに出力する方法。
【請求項5】
コンピュータに、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のシミュレーション方法を実行させるためのプログラム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測する方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のシミュレーション方法により、任意の消泡剤組成物の特性値を予測し、その組成を決定したことを特徴とする消泡剤組成物の製造方法。