(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003292
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】3端子静止形直流変圧器の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104379
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】500091520
【氏名又は名称】株式会社アイケイエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門 勇一
(72)【発明者】
【氏名】今井 尊史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隆雄
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730BB27
5H730BB57
5H730BB81
5H730DD04
5H730DD16
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE61
5H730EE73
5H730FD01
5H730FD11
5H730FG10
(57)【要約】
【課題】
直流端子間の電圧差が大きい場合においても、安全性が損なわれ、変換効率が低下するのを有効に防止し得る3端子静止形直流変圧器の制御装置を提案する。
【解決手段】
3端子静止形直流変圧器を駆動制御する3端子静止形直流変圧器の制御装置において、交流側の電圧をそれぞれ正電圧、ゼロ電圧及び負電圧の3レベルの矩形波とし、その矩形波はゼロ電圧で折り返すと、正電圧の矩形波が半周期で繰り返されるように時間変化させ、かつ、各第1、第2及び第3の自励式単相インバータの交流側電圧がゼロでない区間の長さと、第1、第2及び第3の直流端子間電圧との積が等しくなるように第1、第2及び第3の自励式単相インバータをそれぞれ駆動する演算部に設けるようにした。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ直流側に直流コンデンサが並列接続された第1、第2及び第3の自励式単相インバータが交流側で高周波変圧器を介して接続され、それぞれ対応する前記第1、第2又は第3の自励式単相インバータが接続された第1、第2及び第3の直流端子間で電力を融通するように構成された3端子静止形直流変圧器を駆動制御する3端子静止形直流変圧器の制御装置において、
前記交流側の電圧をそれぞれ正電圧、ゼロ電圧及び負電圧の3レベルの矩形波とし、その矩形波はゼロ電圧で折り返すと、正電圧の矩形波が半周期で繰り返されるように時間変化させ、かつ、各前記第1、第2及び第3の自励式単相インバータの前記交流側電圧がゼロでない区間の長さと、前記第1、第2及び第3の直流端子間電圧との積が等しくなるように前記第1、第2及び第3の自励式単相インバータをそれぞれ駆動する演算部
を備えることを特徴とする3端子静止形直流変圧器の制御装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記第1の自励式単相インバータが接続された前記第1の直流端子の電圧をV1、前記第2の自励式単相インバータが接続された前記第2の直流端子の電圧をV2、前記第3の自励式単相インバータが接続された前記第3の直流端子の電圧をV3、前記第1の自励式単相インバータの前記交流側の電圧の前記ゼロ電圧の時間をδ1、前記第2の自励式単相インバータの前記交流側の電圧の前記ゼロ電圧の時間をδ2、前記第3の自励式単相インバータの前記交流側の電圧の前記ゼロ電圧の時間をδ3として、次式
【数2】
を満たすように、前記第1、第2及び第3の自励式単相インバータをそれぞれ駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載の3端子静止形直流変圧器の制御装置。
【請求項3】
前記第1、第2及び第3の自励式単相インバータは、
ブリッジ回路を構成する第1、第2、第3及び第4の自己消弧素子を備え、
前記第1及び第2の自己消弧素子からなる第1の自己消弧素子ペアと、前記第3及び第4の自己消弧素子からなる第2の自己消弧素子ペアとが対応する前記第1、第2又は第3の直流端子間に並列に接続され、
前記演算部は、
前記第1、第2及び第3の自励式単相インバータについて、前記第1の自己消弧素子ペアを構成する前記第1及び第2の自己消弧素子にそれぞれ印加する点弧パルスと、前記第2の自己消弧素子ペアを構成する前記第3及び第4の自己消弧素子にそれぞれ印加する点弧パルスとの位相差を制御することにより、前記第1、第2及び第3の自励式単相インバータの前記交流側の電圧の前記ゼロ電圧の時間を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の3端子静止形直流変圧器の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3端子静止形直流変圧器の制御装置に関し、特に、各直流端子間の電位差が大きい3端子静止形直流変圧器を駆動制御する制御装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として太陽光発電エネルギーを代表とする再生可能エネルギーの利用が世界中で増加傾向にある。これに伴い、発電された再生可能エネルギーを蓄電するための蓄電池の需要も増えてきている。また天然ガスから発電する燃料電池の開発及び利用も進められている。
【0003】
加えて、欧州では、地球温暖化防止の観点からガソリン自動車の販売を禁止して、電気自動車の普及を国家レベルで進めようとしており、これに伴って電気自動車に搭載する充放電可能な蓄電池の大量生産による低コスト化と、高性能化とが進められている。
【0004】
太陽光発電装置、蓄電池及び燃料電池などは直流で電力を発電又は蓄積するため、これらから出力される電力はインバータにより交流に変換されて利用されている。
【0005】
しかしながら、近年ではLED照明や直流家電の普及も後押しして、交直流変換損失のない直流配電網の普及が期待されている。これは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などを代表とする自己消弧半導体素子の発展によりインバータが廉価で信頼性も高くなってきていることに起因するものであり、次世代配電網としての直流配電網の研究開発が進められている。
【0006】
直流配電網では、異電圧を接続する場合、直流を高周波交流に変換し、適当な巻線比の交流変圧器を介して昇圧又は降圧し、再度直流に変換する2端子型の静止形変圧器が用いられる。また様々な形状の直流配電網を構成する場合には、2端子ではなく接続の各調整がある3端子の静止形直流変圧器が必要となる。
【0007】
なお3静止形直流変換器に関する発明として、下記特許文献1には、それぞれ直流コンデンサが並列接続された3つ以上の自励式単相インバータが高周波変圧器を介して接続された静止形直流変圧器を駆動制御する制御装置について、1つの直流端子に直流電圧が印加されて当該直流端子が一定電圧に保たれた状態において、各直流端子の電圧をそれぞれ検出する検出器と、検出器の検出結果に基づいて、直流電圧が印加されていない直流端子のうち、電圧が最も低い直流端子を選択する最小電圧端子選択回路と、直流電圧が印加された直流端子の電圧と、最小電圧端子選択回路により選択された直流端子の電圧との差分に比例した大きさの交流電圧を、直流電圧が印加された自励式単相インバータに発生させる演算回路とを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、直流配電網に接続される、直流家電などの負荷装置や、電気自動車の充放電機器、蓄電池及び太陽電池などの動作電圧や出力電圧は様々である。例えば、直流配電網のバスライン電圧が380~400Vであるとすると、この直流配電網に接続される電気自動車の蓄電池は200~400V、LED照明機器は100V、直流家電は48Vといったように、電圧範囲が広く分散している。
【0010】
このように動作電圧や出力電圧が大きく異なる負荷装置や蓄電池とバスラインとを静止形直流変圧器で接続した場合、静止形直流変圧器の直流端子間に大きな電圧差が生じる。この結果、静止形直流変圧器の交流側の回路素子に流れる電流ピーク値及び実効電流値が大きくなって安全性が損なわれると共に、交流側間を循環して電力伝送に寄与しない循環電流の電流値が大きくなり変換効率が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、直流端子間の電圧差が大きい場合においても、安全性が損なわれ、変換効率が低下するのを有効に防止し得る3端子静止形直流変圧器の制御装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明においては、それぞれ直流側に直流コンデンサが並列接続された第1、第2及び第3の自励式単相インバータが交流側で高周波変圧器を介して接続され、それぞれ対応する前記第1、第2又は第3の自励式単相インバータが接続された第1、第2及び第3の直流端子間で電力を融通するように構成された3端子静止形直流変圧器を駆動制御する3端子静止形直流変圧器の制御装置において、前記交流側の電圧をそれぞれ正電圧、ゼロ電圧及び負電圧の3レベルの矩形波とし、その矩形波はゼロ電圧で折り返すと、正電圧の矩形波が半周期で繰り返されるように時間変化させ、かつ、各前記第1、第2及び第3の自励式単相インバータの前記交流側電圧がゼロでない区間の長さと、前記第1、第2及び第3の直流端子間電圧との積が等しくなるように前記第1、第2及び第3の自励式単相インバータをそれぞれ駆動する演算部を設けるようにした。
【0013】
本発明の3端子静止形直流変圧器の制御装置によれば、第1~第3の自励式単相インバータの交流側の電流のピーク値及び実効値を抑制することができると共に、これら交流側間を循環して電力伝送に寄与しない循環電流を最小化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、直流端子間の電圧差が大きい場合においても、安全性が損なわれ、変換効率が低下するのを有効に防止し得る3端子静止形直流変圧器の制御装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】3端子静止形直流変圧器の構成例を示す回路図である。
【
図2】
図1の3端子静止形直流変圧器を駆動制御する制御装置の一部構成を示すブロック図である。
【
図3】第1~第3の自励式単相インバータ回路の回路構成を示す回路図である。
【
図4】(A)は従来の第1及び第3の点弧パルスの波形例を示す波形図、(B)は従来の第2及び第4の点弧パルスの波形例を示す波形図であり、(C)は従来の制御方式による第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電圧の波形例を示す波形図である。
【
図5】(A)は本実施の形態の制御方式による第1及び第3の点弧パルスの波形例を示す波形図、(B)は本実施の形態の制御方式による第2及び第4の点弧パルスの波形例を示す波形図であり、(C)は本実施の形態の制御方式による第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電圧の波形例を示す波形図であり、(D)は本実施の形態の制御方式による第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電圧の負側をゼロ電圧で正側に折り返した波形を示す波形図である。
【
図6】(A)は本実施の形態の制御方式による第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電圧の1周期分の電圧波形を抜き出した波形図であり、(B)は(A)の波形の負側をゼロ電圧で正側に折り返した波形図である。
【
図7】本実施の形態の制御方式による第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電圧の時間的変化を示す波形図である。
【
図8】(A)は、従来方式による第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電圧の時間変化を示す波形図であり、(B)は、そのときの第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電流の時間変化を示す波形図である。
【
図9】(A)は、本実施の形態の制御方式による第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電圧の時間変化を示す波形図であり、(B)は、そのときの第1~第3の自励式単相インバータ回路の交流側電流の時間変化を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0017】
(1)本実施の形態による3端子静止形直流変圧器の構成
図1において、1は全体として本実施の形態による3端子静止形直流変圧器を示す。この3端子静止形直流変圧器1は、第1の直流ポート端子2Aを構成する第1及び第2の端子2AA,2AB間に並列に接続された第1の自励式単相インバータ回路3A及び第1の直流コンデンサ4Aと、第2の直流ポート端子2Bを構成する第1及び第2の端子2BA,2BB間に並列に接続された第2の自励式単相インバータ回路3B及び第2の直流コンデンサ4Bと、第3の直流ポート端子2Cを構成する第1及び第2の端子2CA,2CB間に並列に接続された第3の自励式単相インバータ回路3C及び第3の直流コンデンサ4Cと、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3C間を接続する3巻線高周波変圧器5とを備えて構成される。
【0018】
第1の自励式単相インバータ回路3Aは、第1~第4の自己消弧素子10A,11A,12A,13Aがブリッジ状に接続され、これら第1~第4の自己消弧素子10A~13Aにそれぞれ第1~第4のダイオード14A,15A,16A,17Aが並列に接続されて構成される。
【0019】
そして第1の自励式単相インバータ回路3Aは、第1及び第4の自己消弧素子10A,13Aの接続中点が第1の直流ポート端子2Aの第1の端子2AAに接続されると共に、第2及び第3の自己消弧素子11A,12Aの接続中点が第1の直流側ポート端子2Aの第2の端子2ABに接続されている。
【0020】
同様に、第2の自励式単相インバータ回路3Bは、第1~第4の自己消弧素子10B,11B,12B,13Bがブリッジ状に接続され、これら第1~第4の自己消弧素子10B~13Bにそれぞれ第1~第4のダイオード14B,15B,16B,17Bが並列に接続されて構成される。
【0021】
そして第2の自励式単相インバータ回路3Bは、第1及び第4の自己消弧素子10B,13Bの接続中点が第2の直流ポート端子2Bの第1の端子2BAに接続されると共に、第2及び第3の自己消弧素子11B,12Bの接続中点が第2の直流側ポート端子2Bの第2の端子2BBに接続されている。
【0022】
また第3の自励式単相インバータ回路3Cは、第1~第4の自己消弧素子10C,11C,12C,13Cがブリッジ状に接続され、これら第1~第4の自己消弧素子10C~13Cにそれぞれ第1~第4のダイオード14C,15C,16C,17Cが並列に接続されたブリッジ回路から構成される。
【0023】
そして第3の自励式単相インバータ回路3Cは、第1及び第4の自己消弧素子10C,13Cの接続中点が第3の直流ポート端子2Cの第1の端子2CAに接続されると共に、第2及び第3の自己消弧素子11C,12Cの接続中点が第3の直流側ポート端子2Cの第2の端子2CBに接続されている。
【0024】
3巻線高周波変圧器5は、鉄心18に巻回された第1~第3の巻線19A,19B,19Cを備えて構成される。そして第1の巻線19Aは、一端側が第1の外付けインダクタ20Aを介して第1の自励式単相インバータ回路3Aの第1及び第2の自己消弧素子10A,11Aの接続中点に接続されると共に、他端側が第3及び第4の自己消弧素子12A,13Aの接続中点に接続されている。
【0025】
また第2の巻線19Bは、一端側が第2の外付けインダクタ20Bを介して第2の自励式単相インバータ回路3Bの第1及び第2の自己消弧素子10B,11Bの接続中点に接続されると共に、他端側が第3及び第4の自己消弧素子12B,13Bの接続中点に接続されている。
【0026】
さらに第3の巻線19Cは、一端側が第3の外付けインダクタ20Cを介して第3の自励式単相インバータ回路3Cにおける第1及び第2の自己消弧素子10C,11Cの接続中点に接続されると共に、他端側が第3及び第4の自己消弧素子12C,13Cの接続中点に接続されている。
【0027】
図2は、かかる3端子静止形直流変圧器1の第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの動作を制御する本実施の形態による制御装置30の構成を示す。この制御装置30は、第1~第3の検出器31~33と、最小電圧端子検出回路34と、演算回路35とを備えて構成される。
【0028】
第1の検出器31は、第1の直流側ポート端子2Aの第1及び第2の端子2AA,2AB間の電位差を第1の直流側ポート電圧V1(
図1)として検出する電圧検出器であり、検出した第1の直流側ポート電圧V1の値を演算回路35に出力する。
【0029】
また第2の検出器32は、第2の直流側ポート端子2Bの第1及び第2の端子2BA,2BB間の電位差を第2の直流側ポート電圧V2(
図1)として検出する電圧検出器であり、検出した第2の直流側ポート電圧V2の値を最小電圧端子検出回路34に出力する。
【0030】
第3の検出器33は、第3の直流側ポート端子2Cの第1及び第2の端子2CA,2CB間の電位差を第3の直流側ポート電圧V3(
図1)として検出する電圧検出器であり、検出した第3の直流側ポート電圧V3の値を最小電圧端子検出回路34に出力する。
【0031】
最小電圧端子検出回路34は、第2の検出器32から与えられた第2の直流側ポート電圧V2の値と、第3の検出器33から与えられた第3の直流側ポート電圧V3の値とのうちのいずれか低い一方の値を選択し、選択した第2又は第3の直流側ポート電圧V2,V3の値を演算回路35に通知する。
【0032】
演算回路35は、第1の検出器31から与えられた第1の直流側ポート電圧V1の値と、最小電圧端子検出回路34から与えられた第2又は第3の直流側ポート電圧V2,V3の値とに基づいて、第1の自励式単相インバータ回路3Aの第1~第4の自己消弧素子10A~13Aにそれぞれ印加すべき第1~第4の点弧パルスPL1A,PL2A,PL3A,PL4Aと、第2の自励式単相インバータ回路3Bの第1~第4の自己消弧素子10B~13Bにそれぞれ印加すべき第1~第4の点弧パルスPL1B,PL2B,PL3B,PL4Bと、第3の自励式単相インバータ回路3Cの第1~第4の自己消弧素子10C~13Cにそれぞれ印加すべき第1~第4の点弧パルスPL1C,PL2C,PL3C,PL4Cとをそれぞれ生成する。
【0033】
そして演算回路35は、生成したこれらの第1~第4の点弧パルスPL1A~PL4A,PL1B~PL4B,PL1C~PL4Cを、それぞれ対応する第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの第1~第4の自己消弧素子10A~13A,10B~13B,10C~13Cに印加する。
【0034】
かくして、これら第1~第4の点弧パルスPL1A~PL4A,PL1B~PL4B,PL1C~PL4Cに基づいて第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの第1~第4の自己消弧素子10A~13A,10B~13B,10C~13Cがそれぞれスイッチング動作を実行し、この結果として第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3C間で電力伝送が行われる。
【0035】
なお、以下の説明においては、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cを区別する必要がない場合には、
図3に示すように、各構成要素の符号を添え字「A」~「C」をとった数字だけで表記する場合がある。ただし、第1~第3の直流ポート端子2A~2Cの第1の端子2AA~2CAについては第1の端子2A、第2の端子2AB~2CBについては第2の端子2Bと表記する場合がある。
【0036】
また第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cを区別する必要がない場合、
図4(A)及び(B)に示すように、第1の自己消弧素子10に印加する第1の点弧パルスPL1A~PL1CをPL1、第2の自己消弧素子11に印加する第2の点弧パルスPL2A~PL2CをPL2、第3の自己消弧素子12に印加する第2の点弧パルスPL3A~PL3CをPL3、第4の自己消弧素子13に印加する第2の点弧パルスPL4A~PL4CをPL4と表記する場合がある。
【0037】
(2)本実施の形態による3端子静止形直流変圧器の制御方式
ここで、
図3に示すように、第1~第3の自励式単相インバータ回路3において、第1及び第2の自己消弧素子10,11のペアを第1の自己消弧素子ペアLeg1、第3及び第4の自己消弧素子12,13のペアを第2の自己消弧素子ペアLeg2と呼ぶものとする。
【0038】
通常、第1の自己消弧素子10に印加する第1の点弧パルスPL1及び第3の自己消弧素子12に印加する第3の点弧パルスPL3は、
図4(A)に示すように、デューティ比が50%の同相の矩形波であり、第2の自己消弧素子11に印加する第2の点弧パルスPL2及び第4の自己消弧素子13に印加する第4の点弧パルスPL4は、
図4(B)に示すように、第1及び第3の自己消弧素子10,12に印加される点弧パルスPL1,PL3を反転したデューティ比が50%の同相の矩形波である。
【0039】
このとき第1~第3の自励式単相インバータ回路3の交流側の電圧ui(i=1,2,3)(
図1参照)の時間変化は、
図4(C)に示すように、正電圧(Vi(i=1,2,3))(
図1参照)と、負電圧(-Vi)とを振幅とするデューティ比が50%の矩形波となる。なお、u1,u2,u3は、それぞれ第1、第2、第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧である。
【0040】
これに対して、本実施の形態では、演算回路35(
図2)が第1~第3の自励式単相インバータ回路3に対して、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間に位相差Φi(i=1,2,3)をつけた第1~第4の点弧パルスPL1~PL4を第1~第4の自己消弧素子10~13にそれぞれ印加することを特徴とする。なおΦ1,Φ2,Φ3は、それぞれ第1、第2、第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cにおける第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間の位相差である。
【0041】
具体的に、演算回路35は、第1~第3の自励式単相インバータ回路3について、第1の自己消弧素子10に印加する第1の点弧パルスPL1に対して位相差Φiの第3の点弧パルスPL3を第3の自己消弧素子12に印加し、第1の点弧パルスPL1と逆相の第2の自己消弧素子11に印加する第2の点弧パルスPL2に対して位相差Φi(つまり第3の点弧パルスPL3の逆相)の第4の点弧パルスPL4を第4の自己消弧素子13に印加する。
【0042】
この結果、第1~第3の自励式単相インバータ回路3の交流側の電圧uiの時間変化は、
図5(C)に示すように、正電圧(Vi)、ゼロ電圧及び負電圧(-Vi)の3レベル電圧の動作となる。第1~第4の点弧パルスPL1~PL4のデューティ比を50%とすると、交流側の電圧uiが正電圧(V)である時間と、負電圧(-Vi)である時間とが等しく、ゼロ電圧となる区間(以下、これをゼロ電圧区間と呼ぶ)δi(i=1,2,3)は、その第1~第3の自励式単相インバータ回路3における第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間の位相差Φi(i=1,2,3)により制御可能な可変区間である。なおδ1,δ2,δ3は、それぞれ第1、第2、第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cにおける上述のゼロ電圧区間である。
【0043】
図6(A)は、かかる第1~第3の自励式単相インバータ回路3の交流側の電圧uiの1周期分の電圧波形を抜き出したものであり、
図6(B)は、この電圧波形の負側をゼロ電圧で正側に折り返したものである(
図5(D)も同様)。この
図6(A)に示す周期電圧波形のゼロ電圧区間δiは、
図5(A)~(C)からも明らかなように、第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間の位相差Φiに等しい。従って、ゼロ電圧区間δiの区間幅を、第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間の位相差Φiとして制御することができる。
【0044】
また
図1に示す本実施の形態の3端子静止形直流変圧器1において、第1~第3の直流側ポート電圧V1~V3の値が決まっている場合、各第1~第3の直流側ポート端子2A~2C間での電力伝送の向きと大きさは、第1の自励式単相インバータ回路3Aの第1~第4の自己消弧素子10A~13Aにそれぞれ印加する第1~第4の点弧パルスPL1A~PL4Aに対する第2及び第3の自励式単相インバータ回路3B,3Cの第1~第4の自己消弧素子10B~13B,10C~13Cに印加する第1~第4の点弧パルスPL1B~PL4B,PL1C~PL4Cの位相差φi(i=2,3)(
図7参照)で制御することができる。
【0045】
そこで本実施の形態の場合、制御装置30(
図2)の演算回路35(
図2)は、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧uiにおけるゼロ電圧区間δiを次の条件式を満たす様に決める。ここで、V1~V3は直流側ポート電圧である。
【数1】
を満たすように、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cにおける第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間の点弧パルス(第1及び第3の点弧パルスPL1,PL3と、第2及び第4の点弧パルスPL2,PL4)の位相を制御する。このようにすることによって、交流電流のピーク値と実効値とを低減でき、電力伝送に寄与しない循環電力を最小化することができる。以下、その理由について説明する。
【0046】
図7は、本実施の形態の3端子静止形直流変圧器1において、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間の位相差Φ1~Φ3によってセロ電圧区間δ1~δ3をそれぞれ設定した場合における第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧u1~u3の時間的変化を示している。
【0047】
ここでは、第1~第3のポート電圧Vi(i=1,2,3)の値がそれぞれ異なり、第1の自励式単相インバータ回路3Aの第1~第4の自己消弧素子10A~13Aにそれぞれ印加する第1~第4の点弧パルスPL1A~PL4Aに対して、第2の自励式単相インバータ回路3Bの第1~第4の自己消弧素子10B~13Bにそれぞれ印加する第1~第4の点弧パルスPL1B~PL4Bにφ2の位相差、第3の自励式単相インバータ回路3Cの第1~第4の自己消弧素子10C~13Cにそれぞれ印加する第1~第4の点弧パルスPL1C~PL4Cにφ3の位相差をそれぞれつけて電力伝送を行うことを想定している。
【0048】
なお
図7において、直線の波形は第1の自励式単相インバータ回路3Aの交流側の電圧u1に対応し、破線の波形は第2の自励式単相インバータ回路3Bの交流側の電圧u2に対応し、一点鎖線の波形は第3の自励式単相インバータ回路3Cの交流側の電圧u3に対応する。以下の
図8(A)及び(B)並びに
図9(A)及び(B)においても同様である。
【0049】
直流側ポート電圧に電圧差がある場合に、従来のように第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間の位相差がない点弧パルス方式で3端子静止形直流変圧器1を駆動した場合の、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧u1~u3の時間的変化を
図8(A)、3A~3Cの交流側の電流iL1~iL3の時間変化を
図8(B)にそれぞれ示す。
【0050】
図8(B)では、第1の自励式単相インバータ回路3Aの交流側の電圧u1を400V、第2の自励式単相インバータ回路3Bの交流側の電圧u2を300V、第3の自励式単相インバータ回路3Cの交流側の電圧u3を200Vとしている。このとき第1の自励式単相インバータ回路3Aの交流側の電流iL1に注目すると、そのピーク値は39.8A、実効値は20.9Aとなっている。第1の自励式単相インバータ回路の電圧(u1)と交流側のインダクタ電流iL1に注目すると、スイッチング時(-400V ⇒ 400V)時、インダクタ電流iL1は負側に大きく流れており、その後、正側に流れ始める。その結果、電流の正負の相殺が生じて、周期内における伝送電力量が減少している。更に、スイッチング時点から半周期間はインダクタ電流iL1が増え続けるので、ピーク値は39.8Aに達している。
【0051】
この
図8(A)及び(B)からも明らかなように、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電流iL1~iL3は、それぞれ対応する電圧u1~u3が正電圧から負電圧へ、また負電圧から正電圧へと切り替わるタイミングで上昇から下降へ又は下降から上昇へと切り替わっている。そして、上昇から下降へ又は下降から上昇へと切り替わった後の電流iL1~iL3の時間的な変化量は、切り替わる前後の電位差が大きければ大きいほど大きく、かつ切り替わる周期が長ければ長いほど大きくなる。
【0052】
そこで、
図9(A)に示す様に、従来では2レベルとなっている自励式単相インバータ回路の電圧uiにゼロ電圧となる区間δiを追加する。この方法によってインダクタ電流(iL1~iL3)は半周期ごとにゼロとなりピーク値の抑制になる。また、スイッチング時(例えば、-400V ⇒ 400V)の逆流電流をゼロにして、インバータ回路の電圧がゼロの時に、インダクタ電流がゼロとすれば、伝送電力に寄与しない損失となる循環電力を低減できる。
【0053】
本実施の形態のように第1及び第2の自己消弧素子ペアLeg1,Leg2間に位相差Φ1~Φ3を付けた点弧パルス方式を採用することで3レベル動作とし、ゼロ電圧区間δ1~δ3が上述の(1)式を満足するようにかかる位相差Φ1~Φ3を制御するようにして3端子静止形直流変圧器1を駆動したときの、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧u1~u3の時間的変化を
図9(A)、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電流iL1~iL3の時間変化を
図9(B)にそれぞれ示す。この循環電力をゼロにする条件は、スイッチング時(例えば、-400V→400V)の逆流電流をゼロにして、インバータ回路の電圧がゼロの時のインダクタ電流がゼロであれば、スイッチとインダクタのみを循環して電力伝送を行わない電流の抑制になる。この条件から、条件式(1)が導かれる。
【0054】
図9(B)に示すように、本実施の形態の点弧パルス方式によれば、第1の自励式単相インバータ回路3Aの交流側の電流iL1に注目すると、そのピーク値は29.5A、実効値は14.0Aに抑制される。
【0055】
これは本実施の形態のように3レベル動作とした場合、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧u1~u3が、正電圧からゼロ電圧へ、またゼロ電圧から負電圧へ、さらに負電圧からゼロ電圧へと2レベル動作のときの2倍の速さで切り替わるため、切り替わる前後の電位差が2レベル動作のときの半分となることに起因する。
【0056】
このように第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧u1~u3が2レベル動作の2倍の周期で切り替わり、さらに切り替わる前後の電位差も2レベル動作の半分となることにより、電流iL1~iL3の時間的な変化量も小さくなり、2レベル動作のときと比べて交流側の電流iL1~iL3のピーク値及び実効値が共に抑制される。
【0057】
また本実施の形態のように3レベル動作とした場合、
図7からも明らかなように、第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧u1~u3がすべてゼロとなる区間が発生する。そして、この区間では、3巻線高周波変圧器5(
図1)の第1~第3の巻線19A~19Cのいずれにも電流が流れておらず、循環電流が発生しない。
【0058】
よって、本実施の形態の点弧パルス方式を採用するに際しては、このように第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧u1~u3がすべてゼロとなる区間を最大化することで3巻線高周波変圧器5に発生する循環電流を最小化できる。
【0059】
この点について本実施の形態では、制御装置30の演算回路35が上述の(1)式を満たすように第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電圧u1~u3のゼロ電圧区間δ1~δ3を制御するため、かかる電圧u1~u3がすべてゼロとなる区間を最大化することができ、これによって3巻線高周波変圧器5に発生する循環電流を最小化することができる。
【0060】
(3)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態の3端子静止形直流変圧器1の制御方式によれば、3静止形直流変圧器1を構成する第1~第3の自励式単相インバータ回路3A~3Cの交流側の電流iL1~iL3のピーク値及び実効値を抑制することができると共に、交流側間を循環して電力伝送に寄与しない循環電流を最小化することができる。よって、本3端子静止形直流変圧器1の制御方式によれば、直流端子間の電圧差が大きい場合においても、安全性が損なわれ、変換効率が低下するのを有効に防止することができる。
【0061】
(4)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、制御装置30を
図2のように構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々の構成を広く適用することができる。
【0062】
また上述の実施の形態においては、制御装置30を
図2のように構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々の構成を広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、各直流端子間の電位差が大きい3端子静止形直流変圧器を駆動制御する制御装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1……3静止形直流変圧器、2,2A~2C……直流端子、3,3A~3C……自励式単相インバータ回路、4,4A~4C……直流コンデンサ、5……3巻線高周波変圧器、10~13,10A~13A,10B~13B,10C~13C……自己消弧素子、18……鉄心、14~17,14A~17A,14B~17B,14C~17C……ダイオード、19A~19C……巻線、20A~20C……外付けインダクタ、30……制御装置、31~33……検出器、34……最小電圧端子検出回路、35……演算回路、iL1~iL3……電流、Leg1,Leg2……自己消弧素子ペア、PL1~PL4,PL1A~PL4A,PL1B~PL4B,PL1C~PL4C……点弧パルス、u1,u2,u3……電圧、V1~V3……電圧、Φ1~Φ3,φ2,φ3……位相差、δ1~δ3……ゼロ電圧区間。