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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033000
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】発熱装置およびボイラー
(51)【国際特許分類】
   F22B 1/02 20060101AFI20230302BHJP
   F24V 30/00 20180101ALI20230302BHJP
【FI】
F22B1/02 Z
F24V30/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139433
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 美登
(72)【発明者】
【氏名】岩村 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 英樹
(57)【要約】
【課題】発熱体の温度均一化を図ることができる発熱装置およびボイラーを提供する。
【解決手段】発熱装置11は、水素を含む水素系ガスが導入される発熱容器15と、発熱容器15の内部に設けられ、かつ、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体14と、発熱体14により加熱される第1抜熱流体が流れる第1抜熱経路16と、第1抜熱流体が流れる方向と対向する方向に第2抜熱流体が流れる第2抜熱経路17とを備える。ボイラー10は、発熱装置11を備え、第1抜熱経路16には第1抜熱流体として水が供給され、水を発熱体14により加熱し、第1抜熱経路16から蒸気または温水を排出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む水素系ガスが導入される発熱容器と、
前記発熱容器の内部に設けられ、かつ、前記水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体と、
前記発熱体により加熱される第1抜熱流体が流れる第1抜熱経路と、
前記第1抜熱流体が流れる方向と対向する方向に第2抜熱流体が流れる第2抜熱経路とを備える発熱装置。
【請求項2】
前記第1抜熱経路は、前記発熱体の周りに螺旋状に設けられた高温抜熱配管を有し、
前記第2抜熱経路は、前記第1抜熱経路の周りに螺旋状に設けられた低温抜熱配管を有する請求項1に記載の発熱装置。
【請求項3】
前記発熱容器は、筒状の側壁部を有し、
前記高温抜熱配管は、前記側壁部の下端部に設けられた高温入口と、前記側壁部の上端部に設けられた高温出口とを有し、
前記低温抜熱配管は、前記上端部に設けられた低温入口と、前記下端部に設けられた低温出口とを有する請求項2に記載の発熱装置。
【請求項4】
前記発熱体は、筒状に形成されており、
前記第1抜熱経路は、前記発熱体の内部に設けられた高温抜熱配管を有し、
前記第2抜熱経路は、前記発熱体の外周に沿って設けられた複数の低温抜熱配管を有し、
前記高温抜熱配管と前記複数の低温抜熱配管とは、前記発熱体の軸方向に延びている請求項1に記載の発熱装置。
【請求項5】
前記発熱容器は、筒状の側壁部を有し、
前記高温抜熱配管は、前記側壁部の下端部に設けられた高温入口と、前記側壁部の上端部に設けられた高温出口とを有し、
前記複数の低温抜熱配管は、前記上端部に設けられた低温入口と、前記下端部に設けられた低温出口とを有し、
前記高温抜熱配管の前記高温入口と前記複数の低温抜熱配管の前記低温出口とが接続している請求項4に記載の発熱装置。
【請求項6】
前記発熱体は、伝導、対流および輻射から選択される少なくとも1種の加熱方式により前記第1抜熱流体を加熱する請求項1~5のいずれか1項に記載の発熱装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の発熱装置を備えるボイラーであって、
前記第1抜熱経路には前記第1抜熱流体として水が供給され、
前記水を前記発熱体により加熱し、前記第1抜熱経路から蒸気または温水を排出するボイラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱装置およびボイラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラーにおいては、熱源を囲むように水管を螺旋状に配置したり(例えば、特許文献1参照)、或いは、熱源を囲むように複数の水管を環状に配置したりするなど(例えば、特許文献2参照)、効率良く熱回収できるように構成したものが知られている。
【0003】
特許文献1では、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を用いた発熱体セルを熱源とし、発熱体セルを加熱させることでヒータの入力エネルギー以上に発熱させる。水の流れはボイラー下部から上部への一方向である。
【0004】
特許文献2では、火炎バーナーを熱源とし、水管を内側水管と外側水管とで構成し、内側水管と外側水管とを上下の管寄せで接続している。内側水管および外側水管に対し、下部管寄せから上部管寄せへ向けて上方向に水または水蒸気を流通させることで、水管が火炎バーナーから受ける熱を分散させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6795129号公報
【特許文献2】特開平3-70901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ボイラーからの蒸気量増減信号を受けた場合、発熱体セルの過剰熱量を変動(負荷変動)させる必要がある。負荷変動に応じて発熱体セルの過剰熱量を調整しようとした場合、以下のような課題が生じる。すなわち、水管入口側(ボイラー下部側)で発熱体セルの温度が低下し、過剰熱が発生しない領域が生じることがある。発熱体セルにおいて過剰熱が発生しない領域が生じることにより、ボイラーの下部から上部へ流れる水の加熱が不十分となり、蒸気を生成することができないことがある。また、水管出口側(ボイラー上部側)では発熱体セルの温度が極端に高い部分が生じて、発熱体セルが損壊することがある。なお、特許文献2のように水管が受ける熱を分散させる構成を応用しても、発熱体セルの部分的な温度低下または温度上昇が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、発熱体の温度均一化を図ることができる発熱装置およびボイラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る発熱装置は、水素を含む水素系ガスが導入される発熱容器と、前記発熱容器の内部に設けられ、かつ、前記水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体と、前記発熱体により加熱される第1抜熱流体が流れる第1抜熱経路と、前記第1抜熱流体が流れる方向と対向する方向に第2抜熱流体が流れる第2抜熱経路とを備える。
【0009】
本発明に係るボイラーは、上記の発熱装置を備えるボイラーであって、前記第1抜熱経路には前記第1抜熱流体として水が供給され、前記水を前記発熱体により加熱し、前記第1抜熱経路から蒸気または温水を排出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1抜熱流体と第2抜熱流体とが互いに対向する方向に流れることによって、発熱体の温度均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態のボイラーの概略図である。
図2】第1実施形態の第1抜熱経路と第2抜熱経路の構造を説明するための説明図である。
図3】発熱体の構造を示す断面図である。
図4】多層膜の構造を示す断面図である。
図5】過剰熱の発生を説明するための説明図である。
図6】第1層と第2層と第3層とを有する第1変形例の発熱体を説明するための説明図である。
図7】第1層と第2層と第3層と第4層とを有する第2変形例の発熱体を説明するための説明図である。
図8】第2実施形態のボイラーの概略図である。
図9】第2実施形態の第1抜熱経路と第2抜熱経路の構造を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
図1に示すように、ボイラー10は、発熱装置11と、水経路12と、図示しない制御部とを備える。ボイラー10は、発熱装置11で発生する熱により、水経路12を流れる水を加熱して蒸気または温水を生成するものである。ボイラー10は、蒸気を供給する用途に用いられる他、給湯機のように温水を供給する用途に用いられる。すなわち、本出願での「ボイラー」は給湯機を含む。
【0013】
発熱装置11は、発熱体14と、発熱容器15と、第1抜熱経路16と、第2抜熱経路17と、水素流通ライン18と、図示しない温度調節部とを備える。発熱体14は、発熱容器15の内部に設けられ、かつ、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する。発熱体14は、後述する温度調節部のヒータにより加熱される。発熱体14は、水素の吸蔵と放出とにより、ヒータの加熱温度以上の熱(以下、過剰熱と称する)を発生する。発熱体14は、この例では有底筒状に形成されている。発熱体14は、後述する発熱容器15の上底部22に取り付けられている。発熱体14の詳細な構成については別の図面を用いて後述する。
【0014】
発熱容器15には、水素を含む水素系ガスが導入される。発熱容器15は、中空の容器であり、内部に発熱体14を収容する。発熱容器15は、筒状の側壁部21と、側壁部21の上端部に設けられた上底部22と、側壁部21の下端部に設けられた下底部23とを有する。発熱容器15は、側壁部21の上端部の開口が上底部22により閉じられ、側壁部21の下端部の開口が下底部23により閉じられた密閉容器である。側壁部21は、本実施形態では円筒状に形成されているが、これに限られず、例えば楕円筒状や角筒状に形成されたものでもよい。図1において、発熱容器15(側壁部21)の軸方向は、紙面上下方向と平行である。
【0015】
発熱容器15は、発熱体14により仕切られた第1室25および第2室26を内部に有する。第1室25は、発熱体14の一方の面である表面(外面)と発熱容器15の内面とにより形成されている。第1室25は、後述する水素流通ライン18の導入ライン30と接続する。第1室25には導入ライン30から水素系ガスが導入される。第2室26は、発熱体14の他方の面である裏面(内面)により形成されている。第2室26は、後述する水素流通ライン18の導出ライン31と接続する。第2室26の水素系ガスは導出ライン31へ導出される。
【0016】
第1室25は、水素系ガスの導入により昇圧される。第2室26は、水素系ガスの導出により減圧される。これにより、第1室25の水素の圧力は、第2室26の水素の圧力よりも高くされる。第1室25の水素の圧力は、例えば100[kPa]とされる。第2室26の水素の圧力は、例えば1×10-4[Pa]以下とされる。第2室26は真空状態としてもよい。このように、第1室25と第2室26とは、水素の圧力が異なっている。このため、発熱容器15の内部は、発熱体14の両側に圧力差が生じた状態とされている。
【0017】
発熱体14の両側に圧力差が生じると、発熱体14のうち高圧側に配された一方の面である表面(外面)では、水素系ガスに含まれる水素分子が吸着し、その水素分子が2つの水素原子に解離する。解離した水素原子は、発熱体14の内部へ浸入する。すなわち、発熱体14に水素が吸蔵される。水素原子は、発熱体14の内部を拡散して通過する。発熱体14のうち低圧側に配された他方の面である裏面(内面)では、発熱体14を通過した水素原子が再結合し、水素分子となって放出される。すなわち、発熱体14から水素が放出される。
【0018】
このように、発熱体14は、高圧側から低圧側へ水素を透過させる。「透過」とは、発熱体の一方の面に水素が吸蔵され、発熱体の他方の面から水素が放出されることをいう。発熱体14は、詳しくは後述するが、水素を吸蔵することによって発熱し、また、水素を放出することによっても発熱する。したがって、発熱体14は、水素が透過することにより熱を発生する。なお、以降の説明において、発熱体について「水素が透過する」ことを「水素系ガスが透過する」と記載する場合がある。
【0019】
第1室25の内部には、当該第1室25の内部の圧力を検出する圧力センサ(図示なし)が設けられている。第2室26の内部には、当該第2室26の内部の圧力を検出する圧力センサ(図示なし)が設けられている。第1室25と第2室26に設けられた各圧力センサは、制御部(図示なし)と電気的に接続しており、検出した圧力に対応する信号を制御部に出力する。
【0020】
第1抜熱経路16は、一端が後述するセパレータ40の蒸気導入部40aと接続し、他端がセパレータ40の水排出部40cと接続している。また、第1抜熱経路16の他端には給水タンク38が接続している。第1抜熱経路16には第1抜熱流体が流れる。第1抜熱流体は、液体の水または気化した水(蒸気)である。
【0021】
第2抜熱経路17は、一端および他端が、第1抜熱経路16のうちの高温抜熱配管27の高温入口27a側に接続されている。第2抜熱経路17の一端と第1抜熱経路16との接続箇所は、第2抜熱経路17の他端と第1抜熱経路16との接続箇所よりも、第1抜熱経路16における上流側に位置している。このため、第2抜熱経路17の一端には、第1抜熱経路16を流れる第1抜熱流体(液体の水)の一部が流入する。第2抜熱経路17に流入した第1抜熱流体が、第2抜熱流体である。このため、第2抜熱流体は、液体の水である。第2抜熱経路17を流れる第2抜熱流体は、第2抜熱経路17の他端から第1抜熱経路16へ流入し、第1抜熱経路16を流れる第1抜熱流体と合流する。
【0022】
図2を用いて、第1抜熱経路16と第2抜熱経路17の詳細な構造について説明する。
【0023】
第1抜熱経路16は、発熱体14の周りに螺旋状に設けられた高温抜熱配管27を有する。高温抜熱配管27は、側壁部21の下端部に設けられた高温入口27aと、側壁部21の上端部に設けられた高温出口27bとを有する。高温抜熱配管27は、側壁部21の下端部から上端部へ向けて、側壁部21に沿って螺旋状に延びており、上下に隣合う高温抜熱配管27同士の間に隙間が無いように巻回されている。高温抜熱配管27の断面形状は、この例では円形であるが、特に限定されず、四角形などとすることができる。
【0024】
第1抜熱経路16では、高温入口27aから高温抜熱配管27に入った液体の水が、高温抜熱配管27内で発熱体14により加熱されて、気化した水(蒸気)として高温出口27bから出る。高温入口27aに入る液体の水の温度は、例えば90℃である。高温出口27bから出る気化した水(蒸気)の温度は、例えば100℃である。本実施形態では、高温出口27bまたは後述するセパレータ40の圧力を1気圧(0.1MPa)と想定し、第1抜熱経路16から100℃の蒸気を排出するように構成したが、高温出口27bまたは後述するセパレータ40の圧力を加圧することにより、第1抜熱経路16から100℃を超えた液体の水(温水)を排出することができる。
【0025】
第2抜熱経路17は、第1抜熱経路16の周りに螺旋状に設けられた低温抜熱配管28を有する。低温抜熱配管28は、側壁部21の上端部に設けられた低温入口28aと、側壁部21の下端部に設けられた低温出口28bとを有する。低温抜熱配管28は、側壁部21の上端部から下端部へ向けて、側壁部21に沿って螺旋状に延びており、上下に隣合う低温抜熱配管28同士の間に隙間が無いように巻回されている。低温抜熱配管28の断面形状は、この例では円形であるが、特に限定されず、四角形などとすることができる。
【0026】
第2抜熱経路17では、低温入口28aから低温抜熱配管28に入った液体の水が、低温抜熱配管28内で第1抜熱流体との熱交換により昇温されて、低温出口28bから出る。低温入口28aに入る液体の水の温度は、例えば25℃である。低温出口28bから出る液体の水の温度は、例えば90℃である。すなわち、第2抜熱経路17では、低温抜熱配管28に入った冷水が、第1抜熱流体との熱交換により昇温され、温水として低温抜熱配管28から出てくる。低温出口28bから出る液体の水(第2抜熱流体)は、第1抜熱経路16のうちの高温抜熱配管27の高温入口27a側を流れる液体の水(第1抜熱流体)と合流する。これにより、高温抜熱配管27の高温入口27aに入る液体の水(第1抜熱流体)が昇温される。
【0027】
第1抜熱経路16は、高温抜熱配管27が発熱体14の周りに設けられており、高温抜熱配管27内を流れる第1抜熱流体が発熱体14により加熱される。すなわち、第1抜熱経路16は、発熱体14により加熱される第1抜熱流体が流れるように構成されている。
【0028】
第1抜熱経路16の高温抜熱配管27は、側壁部21の下端部から上端部へ向けて、側壁部21に沿って螺旋状に延びている。第2抜熱経路17の低温抜熱配管28は、高温抜熱配管27とは逆に、側壁部21の上端部から下端部へ向けて、側壁部21に沿って螺旋状に延びている。すなわち、第2抜熱経路17は、第1抜熱流体が流れる方向と対向する方向に第2抜熱流体が流れるように構成されている。
【0029】
水素流通ライン18は、発熱容器15の外部に設けられ、一方の端部が発熱容器15の上底部22と接続し、他方の端部が発熱容器15の下底部23と接続している(図1参照)。水素流通ライン18は、発熱容器15の外部から内部に水素を含む水素系ガスを導入させるとともに、発熱容器15の内部から外部に水素系ガスを導出させる。
【0030】
水素流通ライン18は、導入ライン30と、導出ライン31と、水素タンク32と、フィルタ33とを有する。図1には図示していないが、発熱装置11は、水素タンク32に水素系ガスを供給するための供給ラインと、水素流通ライン18から水素系ガスを排気するための排気ラインとを備えており、例えば、発熱装置11の作動開始時に供給ラインから水素タンク32へ水素系ガスが供給され、発熱装置11の作動停止時に水素流通ライン18の水素系ガスが排気ラインへ排気される。
【0031】
導入ライン30は、水素タンク32と第1室25とを接続し、水素タンク32の水素系ガスを第1室25内へ導入する。導入ライン30は、圧力調整弁34を有する。圧力調整弁34は、水素タンク32から送られる水素系ガスを所定の圧力に減圧する。圧力調整弁34は、制御部と電気的に接続している。
【0032】
導出ライン31は、第2室26と水素タンク32とを接続し、第2室26内の水素系ガスを水素タンク32へ導出する。導出ライン31は、ポンプ35を有する。ポンプ35は、第2室26内の水素系ガスを導出ライン31へ導出させ、所定の圧力に昇圧して水素タンク32へ送る。ポンプ35としては、例えばメタルベローズポンプが用いられる。ポンプ35は、制御部と電気的に接続している。
【0033】
水素タンク32は、水素系ガスを貯留する。水素系ガスは、水素の同位体を含むガスである。水素系ガスとしては、重水素ガスと軽水素ガスとの少なくともいずれかが用いられる。軽水素ガスは、天然に存在する軽水素と重水素の混合物、すなわち、軽水素の存在比が99.985%であり、重水素の存在比が0.015%である混合物を含む。
【0034】
フィルタ33は、水素系ガスに含まれる不純物を除去するためのものである。ここで、水素が発熱体14を透過する透過量(以下、水素透過量という)は、発熱体14の温度、発熱体14の両面側の圧力差、および発熱体14の表面状態によって定められる。水素系ガスに不純物が含まれている場合、不純物が発熱体14の表面に付着し、発熱体14の表面状態が悪化することがある。発熱体14の表面に不純物が付着した場合は、発熱体14の表面での水素分子の吸着および解離が阻害され、水素透過量が減少する。
【0035】
発熱体14の表面での水素分子の吸着および解離を阻害するものとしては、例えば、水(水蒸気を含む)、炭化水素(メタン、エタン、メタノール、エタノール等)、C、S、および、Siが考えられる。水は、発熱容器15の内壁などから放出、あるいは発熱容器15の内部に設けられた部材に含まれる酸化皮膜が水素により還元されたものと考えられる。炭化水素、C、S、および、Siは、発熱容器15の内部に設けられた各種部材から放出されると考えられる。よって、フィルタ33は、不純物として、水(水蒸気を含む)、炭化水素、C、S、および、Siを少なくとも除去する。フィルタ33は、水素系ガスに含まれる不純物を除去することにより、発熱体14における水素透過量の減少を抑制する。
【0036】
図示しないが、温度調節部は、発熱体14の温度を調節し、発熱体14の温度を発熱に適正な温度に維持する。発熱体14において発熱に適正な温度は、例えば50℃以上1500℃以下の範囲内である。温度調節部は、温度センサとヒータとで構成される。温度センサは、発熱体14の温度を検出する。温度センサは、例えば熱電対であり、発熱容器15の内部に設けられている。温度センサは、制御部と電気的に接続しており、検出した温度に対応する信号を制御部に出力する。ヒータは、発熱体14を加熱する。ヒータは、例えば電気抵抗発熱式の電熱線であり、発熱体14の外周に巻き付けられている。ヒータは、電源と電気的に接続しており、電源から電力が入力されることにより発熱する。ヒータは、発熱体14の外周を覆うように配置される電気炉でもよい。
【0037】
水経路12は、第1抜熱経路16と、第2抜熱経路17と、給水タンク38と、水ポンプ39と、セパレータ40とを有する。第1抜熱経路16および第2抜熱経路17は、水経路12の一部を構成する。給水タンク38は、第1抜熱経路16に液体の水を供給するためのものである。水ポンプ39は、給水タンク38よりも下流側に設けられており、水経路12内の水が流れるようにするためのものである。
【0038】
セパレータ40は、高温抜熱配管27内で発熱体14により加熱されて気化した水(蒸気)を受け入れ、この蒸気に対して気水分離(当該蒸気に含まれるドレンの分離)を行うように構成されている。セパレータ40において気水分離された蒸気は、ボイラー10の外部へ供給される。セパレータ40は、第1抜熱経路16の一端と接続する蒸気導入部40aと、セパレータ40で分離した蒸気を取り出すための蒸気取出部40bと、第1抜熱経路16の他端と接続する水排出部40cとを有する。蒸気導入部40aと蒸気取出部40bはセパレータ40の上部に設けられ、水排出部40cはセパレータ40の下部に設けられている。蒸気導入部40aは、第1抜熱経路16からセパレータ40へ蒸気を導入させる。水排出部40cは、セパレータ40で分離された水を、第1抜熱経路16の他端側に還流させる。
【0039】
水経路12のうち、第1抜熱経路16の高温抜熱配管27よりも上流側の経路(発熱容器15と水排出部40cとの間)では、給水タンク38から供給された液体の水が流れ、第1抜熱経路16の高温抜熱配管27よりも下流側の経路(発熱容器15と蒸気導入部40aとの間)では、高温抜熱配管27内で加熱されて気化した水(蒸気)が流れる。
【0040】
制御部は、発熱装置11の各部の動作を制御する。制御部は、例えば、演算装置(Central Processing Unit)、読み出し専用メモリ(Read Only Memory)やランダムアクセスメモリ(Random Access Memory)などの記憶部などを主に備えている。演算装置では、例えば、記憶部に格納されたプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理を実行する。
【0041】
制御部は、圧力調整弁34、ポンプ35、温度センサ(図示なし)、および電源(図示なし)などと電気的に接続している。制御部は、発熱容器15の圧力、ヒータ(図示なし)の入力電力などを調整することにより、発熱体14が発生する過剰熱の出力の制御を行う。
【0042】
制御部は、温度センサが検出した温度に基づいて、ヒータの出力の制御を行う出力制御部としての機能を有する。制御部は、電源を制御してヒータへの入力電力を調節することにより、発熱体14を発熱に適正な温度に維持する。
【0043】
制御部は、第1室25と第2室26に設けられた各圧力センサ(図示なし)により検出された圧力に基づいて、圧力調整弁34およびポンプ35を制御することにより、第1室25と第2室26との間で発生する水素の圧力差を調整する。
【0044】
制御部は、発熱体14に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、発熱体14から水素を放出させる水素放出工程とを行う。本実施形態では、制御部は、第1室25と第2室26との間で水素の圧力差を発生させることによって、水素吸蔵工程と水素放出工程とを同時に行う。制御部は、導入ライン30から第1室25へ水素系ガスを導入させ、かつ、第2室26の水素系ガスを導出ライン31へ導出させることによって第1室25を第2室26よりも高圧とし、発熱体14の表面での水素の吸蔵と、発熱体14の裏面での水素の放出とが同時に行われる状態を維持する。
【0045】
本開示において同時とは、完全に同時、または、実質的に同時とみなせる程度に僅かな時間以内を意味する。水素吸蔵工程と水素放出工程とが同時に行われることにより、水素が発熱体14を連続的に透過するので、発熱体14において過剰熱を効率的に発生させることができる。なお、制御部は、水素吸蔵工程と水素放出工程とを交互に繰り返し行ってもよい。すなわち、制御部は、まず、水素吸蔵工程を行うことによって発熱体14に水素を吸蔵させ、その後、水素放出工程を行うことによって発熱体14に吸蔵されている水素を放出させてもよい。このように水素吸蔵工程と水素放出工程とを交互に繰り返し行うことによっても、発熱体14から過剰熱を発生させることができる。
【0046】
次に、図3および図4を用いて発熱体14の詳細な構造について説明する。図3に示すように、発熱体14は、一端が開口し、他端が閉塞した有底筒状に形成されている。発熱体14は、支持体61と多層膜62とを有し、支持体61の一方の面(例えば表面)に多層膜62が設けられている。発熱体14は、一端が開口し、かつ他端が閉塞した有底筒状に形成された支持体61の外周面および外底面に沿って多層膜62が形成されており、多層膜62も一端が開口し、かつ他端が閉塞した有底筒状に形成されている。発熱体14は、多層膜62が第1室25側(高圧側)に配され、支持体61が第2室26側(低圧側)に配される(図1参照)。第1室25と第2室26との間に生じる圧力差によって、第1室25に導入された水素は、発熱体14の内部を、多層膜62、支持体61の順に透過してゆき、第2室26へと移動する。すなわち、発熱体14の外面から内面へ向けて水素が透過する。これにより、発熱体14は、高圧側から低圧側へ水素が透過する過程で過剰熱を発生する。
【0047】
支持体61は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成される。支持体61は、この例では表面および裏面を有する板状に形成されている。多孔質体は、水素系ガスの通過を可能とするサイズの孔を有する。多孔質体は、例えば、金属、非金属、セラミックスなどにより形成される。多孔質体は、水素系ガスと多層膜62との反応(以下、発熱反応という)を阻害しない材料により形成されることが好ましい。水素透過膜は、例えば、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成される。水素吸蔵金属としては、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiなどが用いられる。水素吸蔵合金としては、LaNi5、CaCu5、MgZn2、ZrNi2、ZrCr2、TiFe、TiCo、Mg2Ni、Mg2Cuなどが用いられる。水素透過膜は、メッシュ状のシートを有するものを含む。プロトン導電体としては、BaCeO3系(例えばBa(Ce0.95Y0.05)O3-6)、SrCeO3系(例えばSr(Ce0.95Y0.05)O3-6)、CaZrO3系(例えばCaZr0.95Y0.05O3-α)、SrZrO3系(例えばSrZr0.9Y0.1O3-α)、β Al2O3、β Ga2O3などが用いられる。
【0048】
図4に示すように、多層膜62は、支持体61に設けられる。多層膜62は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成される第1層71と、第1層71とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスにより形成される第2層72とにより形成される。支持体61と第1層71と第2層72との間には、後述する異種物質界面73が形成される。多層膜62は、支持体61の一方の面(例えば表面)に、第1層71と第2層72がこの順で交互に積層されている。第1層71と第2層72とは、それぞれ5層とされている。なお、第1層71と第2層72の各層の層数は適宜変更してもよい。多層膜62は、支持体61の表面に、第2層72と第1層71がこの順で交互に積層されたものでもよい。多層膜62は、第1層71と第2層72をそれぞれ1層以上有し、異種物質界面73が1以上形成されていればよい。
【0049】
第1層71は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうち、いずれかにより形成される。第1層71を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第1層71を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0050】
第2層72は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうち、いずれかにより形成される。第2層72を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第2層72を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0051】
第1層71と第2層72との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第2層72(第2層72-第1層71)」として表すと、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coであることが好ましい。第2層72をセラミックスとした場合は、「第1層71-第2層72」が、Ni-SiCであることが好ましい。
【0052】
図5に示すように、異種物質界面73は水素原子を透過させる。図5は、面心立法構造の水素吸蔵金属により形成される第1層71および第2層72において、第1層71の金属格子中の水素原子が、異種物質界面73を透過して第2層72の金属格子中へ移動する様子を示した概略図である。水素は軽く、ある物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)をホッピングしながら量子拡散していくことが分かっている。このため、発熱体14に吸蔵された水素は、多層膜62の内部をホッピングしながら量子拡散する。発熱体14では、第1層71、異種物質界面73、第2層72を水素が量子拡散により透過する。
【0053】
第1層71の厚みと第2層72の厚みは、それぞれ1000nm未満であることが好ましい。第1層71と第2層72の各厚みが1000nm以上となると、水素が多層膜62を透過し難くなる。また、第1層71と第2層72の各厚みが1000nm未満であることにより、バルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。第1層71と第2層72の各厚みは、500nm未満であることがより好ましい。第1層71と第2層72の各厚みが500nm未満であることにより、完全にバルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。
【0054】
次に発熱体14の製造方法の一例を説明する。まず、有底筒状に形成された支持体61を準備する。次に、湿式成膜法を用いて支持体61の外面に多層膜62を形成する。これにより、有底筒状の発熱体14を製造できる。湿式成膜法としては、スピンコート法、スプレーコート法、ディッピング法などが用いられる。多層膜62は、ALD法(Atomic Layer Deposition)を用いて形成してもよいし、支持体61を回転させる回転機構を備えたスパッタリング装置を用いて、支持体61を回転させながら、支持体61に多層膜62を形成してもよい。多層膜62は、支持体61の外面に設ける場合に限られず、支持体61の内面、または支持体61の両面に設けてもよい。
【0055】
また、例えば支持体61を構成する材料を用いてシート状の台座を形成し、シート状の台座の表面に多層膜62を形成することにより発熱シートを準備し、この発熱シートを有底筒状に形成された支持体61の外面に巻き付けることで、有底筒状の発熱体14を製造できる。この場合、多層膜62は、例えば蒸着装置を用いて、第1層71や第2層72となる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を気相状態にして、凝集や吸着によってシート状の台座の表面に、第1層71および第2層72を交互に成膜することにより形成できる。なお、第1層71および第2層72は真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第2層72の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面73のみが形成される。蒸着装置としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を物理的な方法で蒸着させる物理蒸着装置が用いられる。物理蒸着装置としては、スパッタリング装置、真空蒸着装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置が好ましい。また、電気めっき法により、支持体61の表面に水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を析出させ、第1層71および第2層72を交互に成膜してもよい。
【0056】
発熱装置11は、第1抜熱流体と第2抜熱流体の流れる方向が互いに対向している。高温抜熱配管27の高温出口27b付近の発熱体14の一部(上部)は、第1抜熱流体(蒸気)を介して第2抜熱流体(冷水)により抜熱されることにより、異常昇温が抑制される。高温抜熱配管27の高温入口27a付近の発熱体14の一部(下部)は、第2抜熱流体(温水)により昇温されることにより、温度低下が抑制される。このように、発熱装置11は、発熱体14の温度均一化を図ることができる。発熱装置11は、発熱体14の温度が極端に高い部分が生じないため、発熱体14の損壊が防止されている。また、発熱体14を過剰熱発生温度範囲内で安定して使用することができる。
【0057】
発熱体14の過剰熱は、発熱容器15内の水素系ガスによる対流、および輻射により、高温抜熱配管27を介して第1抜熱流体に伝わる。ボイラー10は、発熱体14の過剰熱によって、高温抜熱配管27を流れる液体の水(第1抜熱流体)を加熱して気化させ、蒸気(第1抜熱流体)を生成することができる。
【0058】
発熱体14は、伝導、対流および輻射から選択される少なくとも1種の加熱方式により第1抜熱流体を加熱することができる。例えば、発熱体14と高温抜熱配管27とを接触させることにより、発熱体14の過剰熱は、伝導、水素系ガスによる対流、および輻射により、第1抜熱流体に伝わる。
【0059】
発熱体14は、水素を使用して発熱するので、二酸化炭素などの温室効果ガスが発生せずクリーンな熱エネルギー源といえる。また、使用する水素は、水から生成できるため安価である。さらに、発熱体14の発熱は、核分裂反応とは異なり、連鎖反応が無いので安全とされている。
【0060】
本発明は、上記第1実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。以下、第1実施形態の変形例について説明する。変形例の図面および説明では、上記第1実施形態と同一または同等の構成要素および部材に対し同一の符号を付する。上記第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、上記第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0061】
[第1変形例]
発熱装置11は、発熱体14の代わりに、図6に示す発熱体75を備えるものであってもよい。図6に示す発熱体75は、積層体の多層膜62が、第1層71と第2層72に加えて、第3層77をさらに有するものである。第3層77は、第1層71および第2層72とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。第3層77の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。図6では、第1層71と第2層72と第3層77は、支持体61の表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層77の順に積層されている。なお、第1層71と第2層72と第3層77は、支持体61の表面に、第1層71、第3層77、第1層71、第2層72の順に積層されてもよい。すなわち、多層膜62は、第2層72と第3層77の間に第1層71を設けた積層構造とされている。多層膜62は、第3層77を1層以上有していればよい。第1層71と第3層77との間に形成される異種物質界面78は、異種物質界面73と同様に、水素原子を透過させる。
【0062】
第3層77は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される。第3層77を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第3層77を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0063】
特に、第3層77は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77を有する発熱体75は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面73および異種物質界面78を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜62は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層71および第3層77は、真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第3層77の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面78のみが形成される。
【0064】
第1層71と第2層72と第3層77との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第3層77-第2層72」として表すと、Pd-CaO-Ni、Pd-Y2O3-Ni、Pd-TiC-Ni、Pd-LaB6-Ni、Ni-CaO-Cu、Ni-Y2O3-Cu、Ni-TiC-Cu、Ni-LaB6-Cu、Ni-Co-Cu、Ni-CaO-Cr、Ni-Y2O3-Cr、Ni-TiC-Cr、Ni-LaB6-Cr、Ni-CaO-Fe、Ni-Y2O3-Fe、Ni-TiC-Fe、Ni-LaB6-Fe、Ni-Cr-Fe、Ni-CaO-Mg、Ni-Y2O3-Mg、Ni-TiC-Mg、Ni-LaB6-Mg、Ni-CaO-Co、Ni-Y2O3-Co、Ni-TiC-Co、Ni-LaB6-Co、Ni-CaO-SiC、Ni-Y2O3-SiC、Ni-TiC-SiC、Ni-LaB6-SiCであることが好ましい。
【0065】
[第2変形例]
発熱装置11は、発熱体14の代わりに、図7に示す発熱体80を備えるものである。図7に示す発熱体80は、積層体の多層膜62が、第1層71と第2層72と第3層77に加えて、第4層82をさらに有するものである。第4層82は、第1層71、第2層72および第3層77とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。第4層82の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。図7では、第1層71と第2層72と第3層77と第4層82は、支持体61の表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層77、第1層71、第4層82の順に積層されている。なお、第1層71と第2層72と第3層77と第4層82は、支持体61の表面に、第1層71、第4層82、第1層71、第3層77、第1層71、第2層72の順に積層してもよい。すなわち、多層膜62は、第2層72、第3層77、第4層82を任意の順に積層し、かつ、第2層72、第3層77、第4層82のそれぞれの間に第1層71を設けた積層構造とされている。多層膜62は、第4層82を1層以上有していればよい。第1層71と第4層82との間に形成される異種物質界面83は、異種物質界面73および異種物質界面78と同様に、水素原子を透過させる。
【0066】
第4層82は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される。第4層82を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第4層82を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0067】
特に、第4層82は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82を有する発熱体80は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面73、異種物質界面78、および異種物質界面83を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜62は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層71および第4層82は、真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第4層82の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面83のみが形成される。
【0068】
第1層71と第2層72と第3層77と第4層82との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第4層82-第3層77-第2層72」として表すと、Ni-CaO-Cr-Fe、Ni-Y2O3-Cr-Fe、Ni-TiC-Cr-Fe、Ni-LaB6-Cr-Feであることが好ましい。
【0069】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では高温抜熱配管27と低温抜熱配管28を螺旋状に設けたが、第2実施形態では高温抜熱配管と低温抜熱配管を鉛直方向に設けている。
【0070】
図8に示すように、ボイラー100は、発熱装置101を備える。また、ボイラー100は、図示しないが、上記第1実施形態と同様に、水経路や制御部を更に備えており、発熱装置101で発生する熱により、水経路を流れる水を加熱して蒸気を生成するように構成されている。ボイラー100は、発熱装置101の構成が上記第1実施形態と異なり、他の構成は上記第1実施形態と同じである。
【0071】
発熱装置101は、発熱体104a,104bと、発熱容器105と、第1抜熱経路106と、第2抜熱経路107とを備える。発熱体104aと発熱体104bとの間にはヒータ108が設けられている。また、発熱装置101は、図示しないが、上記第1実施形態と同様に、温度調節部や水素流通ラインを更に備えており、温度調節部により発熱体104a,104bの温度が調整され、かつ、水素流通ラインにより発熱容器105内に水素系ガスが導入されるように構成されている。
【0072】
図9に示すように、発熱体104a,104bは、筒状に形成されている。発熱体104aと発熱体104bとは同心円状に配置されている。発熱体104aは発熱体104bの内部に設けられている。発熱体104a,104bの軸方向が鉛直方向である。第2実施形態では、図示しない制御部により、水素吸蔵工程と水素放出工程とを交互に繰り返し行うことによって、発熱体104a,104bから過剰熱を発生させる。すなわち、制御部は、まず、水素吸蔵工程を行うことによって発熱体104a,104bに水素を吸蔵させ、その後、水素放出工程を行うことによって発熱体104a,104bに吸蔵されている水素を放出させる。水素吸蔵工程では、発熱容器105の内部への水素系ガスの供給が行われる。水素放出工程では、発熱容器105の内部の真空排気と、ヒータ108による発熱体104a,104bの加熱とが行われる。このように水素吸蔵工程と水素放出工程とを交互に繰り返し行うことによって、発熱体104a,104bから過剰熱を発生させることができる。
【0073】
発熱容器105は、中空の容器であり、内部に発熱体104a,104bを収容する(図8参照)。発熱容器105は、筒状の側壁部111と、側壁部111の上端部に設けられた上底部112と、側壁部111の下端部に設けられた下底部113とを有する。発熱容器105は、側壁部111の上端部の開口が上底部112により閉じられ、側壁部111の下端部の開口が下底部113により閉じられた密閉容器である。側壁部111は、本実施形態では円筒状に形成されているが、これに限られず、例えば楕円筒状や角筒状に形成されたものでもよい。側壁部111は、上端部に上部管寄せ115を有し、下端部に下部管寄せ116を有している。上部管寄せ115および下部管寄せ116は、後述する第2抜熱経路107の一部を構成する。図8において、発熱容器105(側壁部111)の軸方向と発熱体104a,104bの軸方向は、紙面上下方向と平行である。
【0074】
第1抜熱経路106は、発熱体104a,104bにより加熱される第1抜熱流体が流れるように構成されている。第1抜熱経路106は、発熱体104aの内部に設けられた高温抜熱配管127を有する。高温抜熱配管127は、発熱体104a,104bの軸方向に延びている。この例では、高温抜熱配管127の外面と発熱体104aの内面とが接触している。高温抜熱配管127は、側壁部111の下端部に設けられた高温入口127aと、側壁部111の上端部に設けられた高温出口127bとを有する。高温入口127aは、下部管寄せ116と接続している。高温抜熱配管127の断面形状は、この例では円形であるが、特に限定されず、四角形などとすることができる。
【0075】
第1抜熱経路106では、高温入口127aから高温抜熱配管127に入った液体の水が、高温抜熱配管127内で発熱体104a,104bにより加熱されて、気化した水(蒸気)として高温出口127bから出る。なお、ボイラー100は、本実施形態では、高温出口127bまたは図示しないセパレータの圧力を1気圧(0.1MPa)と想定し、第1抜熱経路106から例えば100℃の蒸気を排出するように構成したが、高温出口127bまたは図示しないセパレータの圧力を加圧することにより、第1抜熱経路106から100℃を超えた液体の水(温水)を排出することができる。
【0076】
第2抜熱経路107は、第1抜熱流体が流れる方向と対向する方向に第2抜熱流体が流れるように構成されている。第2抜熱経路107は、発熱体104bの外周に沿って設けられた複数の低温抜熱配管128を有する。複数の低温抜熱配管128は、発熱体104a,104bの軸方向に延びている。複数の低温抜熱配管128は、上部管寄せ115と下部管寄せ116との間に配置されている。各低温抜熱配管128は、側壁部111の上端部に設けられた低温入口128aと、側壁部111の下端部に設けられた低温出口128bとを有する。低温入口128aは、上部管寄せ115と接続している。低温出口128bは、下部管寄せ116と接続している。各低温抜熱配管128の低温出口128bは、下部管寄せ116を介して、高温抜熱配管127の高温入口127aと接続している。各低温抜熱配管128の断面形状は、この例では円形であるが、特に限定されず、四角形などとすることができる。
【0077】
発熱装置101は、第1抜熱流体と第2抜熱流体の流れる方向が互いに対向している。すなわち、発熱装置101では、発熱体104a,104bの軸方向に沿って、第2抜熱流体が発熱容器105の上側から下側へ向けて流れ、第1抜熱流体が発熱容器105の下側から上側へ向けて流れるように構成されている。低温入口128aから低温抜熱配管128に入った第2抜熱流体(冷水)は、低温抜熱配管128内を流れる過程で発熱体104a,104bにより加熱され、昇温する。低温抜熱配管128内で加熱された第2抜熱流体(温水)は、低温出口128bから出て、第1抜熱流体(温水)として高温抜熱配管127の高温入口127aに入る。高温抜熱配管127内の第1抜熱流体(温水)は、発熱体104a,104bにより更に加熱されて、気化した水(蒸気)として高温出口127bから出る。高温抜熱配管127の高温出口127b付近の発熱体104a,104bの一部(上部)は、第2抜熱流体(冷水)により抜熱されることにより、異常昇温が抑制される。高温抜熱配管127の高温入口127a付近の発熱体104a,104bの一部(下部)は、第2抜熱流体(温水)により昇温されることにより、温度低下が抑制される。このように、発熱装置101は、上記第1実施形態と同様に、発熱体104a,104bの温度均一化を図ることができる。発熱装置101は、発熱体104a,104bの温度が極端に高い部分が生じないため、発熱体104a,104bの損壊が防止されている。また、発熱体104a,104bを過剰熱発生温度範囲内で安定して使用することができる。
【0078】
発熱体104a,104bの過剰熱は、伝導、水素系ガスによる対流、および輻射により、高温抜熱配管127を介して第1抜熱流体に伝わる。ボイラー100は、発熱体104a,104bの過剰熱によって、高温抜熱配管127を流れる液体の水(第1抜熱流体)を加熱して気化させ、蒸気(第1抜熱流体)を生成することができる。
【0079】
発熱装置101は、発熱体104aと発熱体104bとを備えているが、発熱体の数は適宜変更することができる。発熱体の形状は、筒状に限られず、板状などでもよい。
【符号の説明】
【0080】
10,100 ボイラー
11,101 発熱装置
14,75,80,104a,104b 発熱体
15,105 発熱容器
16,106 第1抜熱経路
17,107 第2抜熱経路
27,127 高温抜熱配管
28,128 低温抜熱配管
61 支持体
62 多層膜
71 第1層
72 第2層
77 第3層
82 第4層
73,78,83 異種物質界面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9