(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033002
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】測定システムおよび測定方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/15 20150101AFI20230302BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
H04B17/15
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139435
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久我 宣裕
(72)【発明者】
【氏名】桑田 昌佳
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA06
5J021JA07
5J021JA10
(57)【要約】
【課題】アンテナのIMの推定を簡易的な構成の測定システムで実現することができる。
【解決手段】第1測定システムのIM測定器は、送信した信号と、受信した信号とに基づいて、IM発生装置の特性を推定することとを実行し、第2測定システムの前記IM測定器は、受信した信号と、前記第1測定システムの前記IM測定器が推定した前記IM発生装置の特性とに基づいて、アンテナとセンシングアンテナとの間の結合損失を推定することとを実行し、第3測定システムの前記IM測定器は、受信した信号と、前記第2測定システムの前記IM測定器が推定した前記結合損失とに基づいて、前記アンテナにおいて発生した非線形性に起因するノイズを推定することとを実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IM測定器と、センシングアンテナと、測定対象であるアンテナと、IM発生装置とを備え、前記IM測定器、および当該IM測定器に接続される前記IM発生装置を有する第1測定システムと、前記IM測定器、当該IM測定器に接続される前記センシングアンテナ、前記アンテナ、および当該前記IM発生装置を有する第2測定システムと、前記IM測定器、当該IM測定器に接続される前記センシングアンテナ、および前記アンテナを有する第3測定システムとを構成可能な測定システムであって、
前記第1測定システムの前記IM測定器は、
周波数の異なる2つの信号を前記IM発生装置に送信する第1送信部と、
前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記IM発生装置において発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を受信する第1受信部と、
前記第1送信部が送信した信号と、前記第1受信部が受信した信号とに基づいて、前記IM発生装置の特性を推定する第1推定部と、
を備え、
前記第2測定システムの前記IM測定器は、
前記周波数の異なる2つの信号を前記センシングアンテナおよび前記アンテナを介して前記IM発生装置に送信する第2送信部と、
前記第2送信部が送信した前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記IM発生装置において発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を、前記アンテナおよび前記センシングアンテナを介して受信する第2受信部と、
前記第2受信部が受信した信号と、前記第1推定部が推定した前記IM発生装置の特性とに基づいて、前記アンテナと前記センシングアンテナとの間の結合損失を推定する第2推定部と、
を備え、
前記第3測定システムの前記IM測定器は、
前記周波数の異なる2つの信号を前記センシングアンテナを介して前記アンテナに送信する第3送信部と、
前記第3送信部が送信した前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記アンテナにおいて発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を、前記センシングアンテナを介して受信する第3受信部と、
前記第3受信部が受信した信号と、前記第2推定部が推定した前記結合損失とに基づいて、前記アンテナにおいて発生した非線形性に起因するノイズを推定する第3推定部と、
を備える測定システム。
【請求項2】
前記IM発生装置は、
電流が流れた場合に非線形性に起因するノイズを発生させるダイオードを備える、
請求項1に記載の測定システム。
【請求項3】
前記IM発生装置における終端状態および前記IM発生装置における前記ダイオードの配置は、
前記周波数の異なる2つの信号が前記IM発生装置に入力された場合に、前記ダイオードに電流が流れるように決定される、
請求項2に記載の測定システム。
【請求項4】
前記IM発生装置における前記ダイオードの配置は、
前記IM発生装置における終端に前記ダイオードの第1端子を接続し、前記ダイオードの第2端子を短絡するように決定される、
請求項3に記載の測定システム。
【請求項5】
前記アンテナは、アレーアンテナである、
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の測定システム。
【請求項6】
前記センシングアンテナは、
前記アンテナにおける各アンテナ間の最大距離がDである場合、前記最大距離Dの2乗に2を乗算し電波の波長で除算した値以上、前記アンテナから離れた位置に配置される、
請求項5に記載の測定システム。
【請求項7】
前記センシングアンテナは、
回転中心に対して前記アンテナと対称な構造を有するアンテナである、
請求項5に記載の測定システム。
【請求項8】
前記センシングアンテナは、
分岐点に分配器を備える、
請求項5から請求項7の何れか一項に記載の測定システム。
【請求項9】
前記IM測定器は、
送信と受信とを切り替えて信号の送受信を実現するデュプレクサと、
前記デュプレクサの送信信号または受信信号の少なくとも一方の位相を変更可能な移相器と、
を備える請求項1から請求項8の何れか一項に記載の測定システム。
【請求項10】
IM測定器と、センシングアンテナと、測定対象であるアンテナと、IM発生装置とを備え、前記IM測定器、および当該IM測定器に接続される前記IM発生装置を有する第1測定システムと、前記IM測定器、当該IM測定器に接続される前記センシングアンテナ、前記アンテナ、および当該前記IM発生装置を有する第2測定システムと、前記IM測定器、当該IM測定器に接続される前記センシングアンテナ、および前記アンテナを有する第3測定システムとを構成可能な測定システムが実行する測定方法であって、
前記第1測定システムの前記IM測定器は、
周波数の異なる2つの信号を前記IM発生装置に送信することと、
前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記IM発生装置において発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を受信することと、
送信した信号と、受信した信号とに基づいて、前記IM発生装置の特性を推定することと、
を実行し、
前記第2測定システムの前記IM測定器は、
前記周波数の異なる2つの信号を前記センシングアンテナおよび前記アンテナを介して前記IM発生装置に送信することと、
送信した前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記IM発生装置において発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を、前記アンテナおよび前記センシングアンテナを介して受信することと、
受信した信号と、前記第1測定システムの前記IM測定器が推定した前記IM発生装置の特性とに基づいて、前記アンテナと前記センシングアンテナとの間の結合損失を推定することと、
を実行し、
前記第3測定システムの前記IM測定器は、
前記周波数の異なる2つの信号を前記センシングアンテナを介して前記アンテナに送信することと、
送信した前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記アンテナにおいて発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を、前記センシングアンテナを介して受信することと、
受信した信号と、前記第2測定システムの前記IM測定器が推定した前記結合損失とに基づいて、前記アンテナにおいて発生した非線形性に起因するノイズを推定することと、
を実行する測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定システムおよび測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧と電流とが比例関係にある線形性を有する装置として設計した場合であっても、周波数の異なる2つの信号から前記2つの周波数と異なる周波数の信号(すなわち、IM(InterModulation)と呼ばれるノイズ、以下、IMという)が発生することがある。
特許文献1、および非特許文献1~6には、関連する技術として、IMの測定方法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.OGURA and N.KUGA、“Non-Contact PIM Evaluation Method usinga Standing-Wave Coaxial-Tube”、Proceedings of Asia-Pacific Microwave Conference 2007.
【非特許文献2】石橋大二郎、外3名、“定在波同軸管を用いたプリント基板の相互変調ひずみ測定の高感度化”、電子情報通信学会論文誌2012/11 Vol.J95-C No.11 pp.372-380.
【非特許文献3】INTERNATIONAL ELECTROTECHNICAL COMMISSION、“INTERNATIONAL STANDARD”、IEC 62037-1、Edition 1.0 2012-05.
【非特許文献4】Jonathan R. Wilkerson、et al.、“Passive Intermodulation Distortion in Antennas”、IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION、VOL.63、NO.2、FEBRUARY 2015、pp.474-482.
【非特許文献5】H.Suzuki and N.Kuga、“Non-contact PIM Measurement of Large Samples using a Small Anechoic Box”、2016 URSI Asia-Pacific Radio Science Conference、August 21-25、2016/Seoul、Korea、pp.1332-1333.
【非特許文献6】R.Okawa and N.Kuga、“Reverse-PIM Extraction in Non-Contact Antenna-PIM Measurement”、Proceedings of 2017 Asia Pacific Microwave Conference、pp.1163-1166.
【非特許文献7】君野理哉、外2名、“低電力PIMテスタを複数用いたアレーアンテナの非接触PIM測定法”、B-1. アンテナ・伝播C(アンテナシステム) 3月9日 9:00~11:45 Meeting 23 座長 紀平一成(三菱電機)、2021年 総合大会Webプログラム.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
受動回路のIMを測定する方法としては、測定器と測定対象とをコネクタなどを介して直接接続してIMを測定する直接測定と、測定器と測定対象を非接触で接続して(例えば、アンテナどうしを電波を介して接続して)IMを測定する非接触測定とがある。アンテナにおいて発生するIMを例えば上述の特許文献や非特許文献に記載の直接測定や非接触測定で実現する場合を考えると、直接測定ではコネクタの着脱を繰り返し行う必要があり、同一の状態での測定が困難である。そのため、測定の再現性が低下する可能性がある。よって、アンテナのIMの測定は、非接触測定で実現するのが一般的には望ましい。しかしながら、例えば、アンテナのIMを非特許文献5および6に記載の非接触測定で実現する場合、IMを測定するための測定器であるIM測定器のほかに、ネットワークアナライザが必要になる。また、IM測定器とネットワークアナライザの両方の機能を有する測定器も存在し、その測定器を使用すれば、IMの非接触測定を1つの測定器で実現することが可能であるが、そのような測定器は非常に高価である。そのため、アンテナのIMの推定を簡易的な構成の測定システムで実現することのできる技術が求められている。
【0006】
この発明は、上記の課題を解決することのできる測定システムおよび測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様によれば、測定システムは、IM測定器と、センシングアンテナと、測定対象であるアンテナと、IM発生装置とを備え、前記IM測定器、および当該IM測定器に接続される前記IM発生装置を有する第1測定システムと、前記IM測定器、当該IM測定器に接続される前記センシングアンテナ、前記アンテナ、および当該前記IM発生装置を有する第2測定システムと、前記IM測定器、当該IM測定器に接続される前記センシングアンテナ、および前記アンテナを有する第3測定システムとを構成可能な測定システムであって、前記第1測定システムの前記IM測定器は、周波数の異なる2つの信号を前記IM発生装置に送信する第1送信部と、前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記IM発生装置において発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を受信する第1受信部と、前記第1送信部が送信した信号と、前記第1受信部が受信した信号とに基づいて、前記IM発生装置の特性を推定する第1推定部と、を備え、前記第2測定システムの前記IM測定器は、前記周波数の異なる2つの信号を前記センシングアンテナおよび前記アンテナを介して前記IM発生装置に送信する第2送信部と、前記第2送信部が送信した前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記IM発生装置において発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を、前記アンテナおよび前記センシングアンテナを介して受信する第2受信部と、前記第2受信部が受信した信号と、前記第1推定部が推定した前記IM発生装置の特性とに基づいて、前記アンテナと前記センシングアンテナとの間の結合損失を推定する第2推定部と、を備え、前記第3測定システムの前記IM測定器は、前記周波数の異なる2つの信号を前記センシングアンテナを介して前記アンテナに送信する第3送信部と、前記第3送信部が送信した前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記アンテナにおいて発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を、前記センシングアンテナを介して受信する第3受信部と、前記第3受信部が受信した信号と、前記第2推定部が推定した前記結合損失とに基づいて、前記アンテナにおいて発生した非線形性に起因するノイズを推定する第3推定部と、を備える。
【0008】
本開示の第2の態様によれば、本開示の第1の態様の測定システムにおいて、前記IM発生装置は、電流が流れた場合に非線形性に起因するノイズを発生させるダイオードを備えるものであってもよい。
【0009】
本開示の第3の態様によれば、本開示の第2の態様の測定システムにおいて、前記IM発生装置における終端状態および前記IM発生装置における前記ダイオードの配置は、前記周波数の異なる2つの信号が前記IM発生装置に入力された場合に、前記ダイオードに電流が流れるように決定されるものであってもよい。
【0010】
本開示の第4の態様によれば、本開示の第3の態様の測定システムにおいて、前記IM発生装置における前記ダイオードの配置は、前記IM発生装置における終端に前記ダイオードの第1端子を接続し、前記ダイオードの第2端子を短絡するように決定されるものであってもよい。
【0011】
本開示の第5の態様によれば、本開示の第1の態様から第4の態様の何れか1つの測定システムにおいて、前記アンテナは、アレーアンテナであってもよい。
【0012】
本開示の第6の態様によれば、本開示の第5の態様の測定システムにおいて、前記センシングアンテナは、前記アンテナにおける各アンテナ間の最大距離がDである場合、前記最大距離Dの2乗に2を乗算し電波の波長で除算した値以上、前記アンテナから離れた位置に配置されるものであってもよい。
【0013】
本開示の第7の態様によれば、本開示の第5の態様の測定システムにおいて、前記センシングアンテナは、回転中心に対して前記アンテナと対称な構造を有するアンテナであってもよい。
【0014】
本開示の第8の態様によれば、本開示の第5の態様から第7の態様の何れか1つの測定システムにおいて、前記センシングアンテナは、分岐点に分配器を備えるものであってもよい。
【0015】
本開示の第9の態様によれば、本開示の第1の態様から第8の態様の何れか1つの測定システムにおいて、前記IM測定器は、送信と受信とを切り替えて信号の送受信を実現するデュプレクサと、前記デュプレクサの送信信号または受信信号の少なくとも一方の位相を変更可能な移相器と、を備えるものであってもよい。
【0016】
本開示の第10の態様によれば、測定方法は、IM測定器と、センシングアンテナと、測定対象であるアンテナと、IM発生装置とを備え、前記IM測定器、および当該IM測定器に接続される前記IM発生装置を有する第1測定システムと、前記IM測定器、当該IM測定器に接続される前記センシングアンテナ、前記アンテナ、および当該前記IM発生装置を有する第2測定システムと、前記IM測定器、当該IM測定器に接続される前記センシングアンテナ、および前記アンテナを有する第3測定システムとを構成可能な測定システムが実行する測定方法であって、前記第1測定システムの前記IM測定器は、周波数の異なる2つの信号を前記IM発生装置に送信することと、前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記IM発生装置において発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を受信することと、送信した信号と、受信した信号とに基づいて、前記IM発生装置の特性を推定することと、を実行し、前記第2測定システムの前記IM測定器は、前記周波数の異なる2つの信号を前記センシングアンテナおよび前記アンテナを介して前記IM発生装置に送信することと、送信した前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記IM発生装置において発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を、前記アンテナおよび前記センシングアンテナを介して受信することと、受信した信号と、前記第1測定システムの前記IM測定器が推定した前記IM発生装置の特性とに基づいて、前記アンテナと前記センシングアンテナとの間の結合損失を推定することと、を実行し、前記第3測定システムの前記IM測定器は、前記周波数の異なる2つの信号を前記センシングアンテナを介して前記アンテナに送信することと、送信した前記周波数の異なる2つの信号に起因して前記アンテナにおいて発生した前記周波数とは異なる周波数の信号を、前記センシングアンテナを介して受信することと、受信した信号と、前記第2測定システムの前記IM測定器が推定した前記結合損失とに基づいて、前記アンテナにおいて発生した非線形性に起因するノイズを推定することと、を実行する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の各態様によれば、アンテナのIMの推定を簡易的な構成の測定システムで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の第1実施形態による測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】本開示の第1実施形態によるIM測定器の構成の一例を示す図である。
【
図3】本開示の第1実施形態における第1測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図4】本開示の第1実施形態による第1測定システムが行う第1処理の処理フローの一例を示す図である。
【
図5】本開示の第1実施形態による第1測定システムが行う記憶部における記録の一例を示す図である。
【
図6】本開示の第1実施形態による送信部が送信した信号の電力と受信部が受信した信号の電力およびパワースロープとの関係を示す図である。
【
図7】本開示の第1実施形態による第2測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図8】本開示の第1実施形態による第2測定システムが行う第2処理の処理フローの一例を示す図である。
【
図9】本開示の第1実施形態による第2測定システムによる結合損失の推定値の一例を示す図である。
【
図10】本開示の第1実施形態による第3測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図11】本開示の第1実施形態による第3測定システムが行う第3処理の処理フローの一例を示す図である。
【
図12】本開示の第1実施形態による第3測定システムのIM発生装置の一例を示す図である。
【
図13】本開示の第1実施形態の実施例における比較結果を示す図である。
【
図14】本開示の第1実施形態の変形例によるIM発生装置の第1の例を示す図である。
【
図15】本開示の第1実施形態の変形例による測定システムの第1の例を示す図である。
【
図16】本開示の第1実施形態の変形例による測定システムの第1の例に対する結合損失の推定値と他の測定システムに対する結合損失の実験値との比較結果を示す図である。
【
図17】本開示の第1実施形態の変形例によるIM発生装置の第2の例を示す図である。
【
図18】本開示の第1実施形態の変形例による測定システムの第2の例を示す図である。
【
図19】本開示の第2実施形態による測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図20】本開示の第3実施形態による測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図21】本開示の第4実施形態による測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図22】本開示の第4実施形態による測定システムの測定における具体的な構成の第1の例を示す図である。
【
図23】本開示の第4実施形態による測定システムの測定における具体的な構成の第2の例を示す図である。
【
図24】本開示の第4実施形態による測定システムの測定における具体的な構成の第3の例を示す図である。
【
図25】本開示の第4実施形態による測定システムの推定値の一例を示す図である。
【
図26】本開示の第4実施形態による測定システムの推定値と実測値との比較の一例を示す図である。
【
図27】本開示の第5実施形態による測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図28】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態について説明する。まず、本開示の第1実施形態による測定システムについて説明する。
【0020】
(測定システムの構成)
図1は、本開示の第1実施形態による測定システム1の構成の一例を示す図である。測定システム1は、
図1に示すように、IM(InterModulation)測定器10、センシングアンテナ20、アンテナ30、IM発生装置40、終端器50、および有線LNを備える。IMは、素子の非線形特性に起因して発生する信号であり、例えば、素子に周波数の異なる2つの信号が入力された場合に発生する、それら2つの周波数と異なる周波数を有する信号のことである。有線LNの例としては、コネクタ、ケーブル、半田などが挙げられる。
【0021】
測定システム1は、測定対象であるアンテナ30において発生するIMを、非接触測定の測定結果から推定することのできる簡易的な構成のシステムである。これを実現するために、測定システム1は、第1測定、第2測定、第3測定を実施する。第1測定、第2測定は、IMの測定対象であるアンテナ30の非接触測定である第3測定を実現するための準備段階の測定である。第1測定、第2測定、第3測定の詳細については後述する。測定システム1は、第1測定、第2測定、第3測定を実施するために、それぞれ異なる構成の測定システムを実現する。以降、第1測定を実現する測定システム1を、第1測定システム1aと呼ぶ。また、第2測定を実現する測定システム1を、第2測定システム1bと呼ぶ。また、第3測定を実現する測定システム1を、第3測定システム1cと呼ぶ。
【0022】
IM測定器10は、アンテナ30において発生するIMを測定するための測定器である。
図2は、本開示の第1実施形態によるIM測定器10の構成の一例を示す図である。IM測定器10は、
図2に示すように、送信部101、受信部102、推定部103、および記憶部104を備える。
【0023】
送信部101は、周波数の異なる2つの信号を外部に送信する。受信部102は、外部から信号を受信する。推定部103は、受信部102が外部から受信した信号、後述するパワースロープC(P)、後述する測定範囲における線形近似可能な領域、および下記の式(1)に基づいて、後述する結合損失Scを推定し、推定した結合損失Scに基づいて、外部で発生したIMを推定する。なおこの式(1)は基本波2波で励振された3次IMを導出する式の例であり、条件が異なる場合には適宜係数を変更する必要がある。3次IMを導出する式(1)における2/3および1/3という係数は、一般式では、それぞれm/(m+n)、n/(m+n)となる。条件が異なる場合には、mおよびnが変化することにより係数を変更することになる。式(1)は、例えば、mが2、nが1の1つの条件(すなわち、3次IMが励振される条件)について成り立つ式である。
【0024】
【0025】
なお、単位がデシベルで表現される式(1)において、IM(非接触測定)は、本開示の第1実施形態による測定システム1の非接触測定によりIM測定器10で測定されるIMである。IM(IM発生装置)は、IM発生装置40において発生するIMである。C(P)は、パワースロープであり、送信部101が送信した信号の電力Pに対し、受信部102が受信した電力の増加率を表している。Sc.f1は、周波数f1の送信波の結合損失である。Sc.f2は、周波数f2の送信波の結合損失である。Sc.fIMは、IM発生装置40において発生するIMの結合損失である。
【0026】
記憶部104は、IM測定器10が行う処理に必要な種々の情報を記憶する。例えば、記憶部104は、送信部101が送信する周波数の異なる2つの信号、パワースロープC(P)、後述する測定範囲における線形近似可能な領域、式(1)、後述する結合損失Scの推定値などを記憶する。
【0027】
センシングアンテナ20は、送信部101が周波数の異なる2つの信号を外部に送信する場合、それら2つの信号に対応する電波を空間に放出する。また、センシングアンテナ20は、アンテナ30から空間に放出される電波を受信する。
【0028】
アンテナ30は、測定対象のアンテナである。アンテナ30は、センシングアンテナ20から空間に放出される電波を受信する。また、アンテナ30は、IM発生装置40において発生するIMに対応する電波を空間に放出する。
【0029】
IM発生装置40は、ハイレベルのIMを意図的に発生させる装置である。IM発生装置40は、例えば、ショットキーバリアダイオードなどのダイオードを用いてIMを発生させる。ただし、IM発生装置40は、ダイオードを用いてIMを発生させる装置に限定するものではない。例えば、IM発生装置40は、ニッケルメッキなどの磁性体の特性を用いてIMを発生させるものであってもよい。
【0030】
終端器50は、IM発生装置40を含む信号が伝播する経路におけるインピーダンスを整合させる。
【0031】
具体的には、IM測定器10の第1端子とセンシングアンテナ20の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。アンテナ30の第1端子とIM発生装置40の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。IM発生装置40の第2端子と終端器50の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。この構成の測定システム1場合、センシングアンテナ20とアンテナ30との間は非接触となるが、空間に放射される電波の一部しか伝播しない。つまり、センシングアンテナ20とアンテナ30との間で生じる損失が、結合損失である。なお、センシングアンテナ20とアンテナ30との間の距離はd[mm]である。
【0032】
なお、測定システム1における装置や機器間の有線LNを用いた接続では、以下に示すIMが発生する原因を可能な限り抑制することが望ましい。有線LNを用いた接続では、機械的な金属接点が不安定なIM源となる。具体的には、有線LNを用いた接続では、金属の種類が違う場合に(異種金属が接触する場合に)接触電位差が生じる。この接触電位差がIMが発生する原因の1つである。また、有線LNを用いた接続では、点接触により電流密度が上がった場合にIMが発生することが知られている。そのため、点接触がIMが発生する原因の1つである。また、点接触により電流密度が上がった場合に発熱が生じる。この発熱もIMが発生する原因の1つである。また、有線LNを用いた接続では、金属の表面に、酸化膜や硫化膜が形成され、その膜を介してコンデンサが形成される場合がある。そのため、金属の表面に形成される酸化膜や硫化膜がIMが発生する原因の1つである。また、有線LNを用いた接続では、金属の表面に、水の膜が形成される。大気中では、瞬間的にこの水の膜が形成される場合があり、この形成を回避することは困難である。この水の膜は非常に薄いため、トンネル効果が起き、トンネル電流が流れてIMが発生する。そのため、金属の表面に形成される水の膜がIMが発生する原因の1つである。また、有線LNを用いた接続では、コネクタの表面に腐食しないように金メッキをする場合がある。金メッキをする場合、通常その金メッキの下にニッケルメッキをする。このニッケルは磁性体であり、弱い磁性を持っており、磁気ヒステリシスを有する。この磁気ヒステリシスがIMが発生する原因の1つである。また、有線LNを用いた接続では、金属における錆や腐食などでもIMが発生する。そのため、金属における錆や腐食がIMが発生する原因の1つである。よって、有線LNを用いた接続は、注意深く行われるべきである。例えば、有線LNを用いた接続では、コネクタなどの接続をしっかりつけることにより、接触点数を増加させ、電流経路の電流密度を低減すれば、非線形性が低減するのでIMの発生を抑制することができる。
【0033】
(第1測定システム1aの構成)
非接触による測定の測定結果からアンテナ30において発生したIMを推定する場合、測定システム1により実現される第1測定システム1aは、アンテナ30において発生したIMを推定する準備として、IM発生装置40の特性を測定する第1測定を実行する。
図3は、本開示の第1実施形態における第1測定システム1aの構成の一例を示す図である。第1測定システム1aは、IM発生装置40の特性を測定する場合、
図3に示す構成となる。具体的には、IM測定器10の第1端子とIM発生装置40の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。IM発生装置40の第2端子と終端器50の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。この場合、IM発生装置40および前述の有線LNによる接続で発生するIMよりも十分に大きなIMを発生するものを選択することが望ましい。
【0034】
(第1測定システム1aが行う処理)
次に、本開示の第1実施形態による第1測定システム1aが行う処理について図を参照して説明する。
図4は、本開示の第1実施形態による第1測定システム1aが行う第1処理の処理フローの一例を示す図である。第1処理は、アンテナ30において発生したIMを推定する準備として
図3に示す構成の第1測定システム1aが行うIM発生装置40の特性を測定する処理である。
【0035】
第1測定システム1aにおいて、送信部101は、周波数の異なる2つの信号をIM発生装置40に送信する(ステップS1)。IM発生装置40は、周波数の異なる2つの信号に基づいてIMを発生させる(ステップS2)。IM発生装置40は、IM測定器10と終端器50のそれぞれに等しい電力で、発生させたIMを出力する(ステップS3)。受信部102は、IM発生装置40からIMを受信する(ステップS4)。この操作を送信部101から送信される電力を測定が可能な範囲内でスイープさせ繰り返し行う。記憶部104は、例えば
図5のように送信部101が送信する信号の強度(P101,n)、受信部102が受信するIM信号の強度(P102,n)、それぞれを対応付けて記憶する。また送信された電力に対するパワースロープ(Cn)も有限差分等によって計算し、前述の電力と対応させて記憶する(ステップS5)。
【0036】
図6は、本開示の第1実施形態による送信部101が送信した信号の電力と受信部102が受信した信号の電力およびパワースロープC(P)との関係を示す図である。
図6において横軸は、送信部101が送信した信号の電力を示している。また、左側の縦軸はIM測定器10が検出したIM(すなわち、受信部102が受信した信号の電力)である。なお、ここでは、2.05GHzの送信周波数f1、2.2GHzの送信周波数f2に対してfIMが1.9GHzで発生する3次のIMを評価した例を示す。
図6において左側の縦軸で表すIM発生装置40による直接測定(
図6ではHIMS IM-levelと記載)による測定結果は、ここに示す例では、送信した信号の電力を大きくし、送信部101が送信した信号の電力が-2dBmを超えると、グラフの線形性が劣化する。つまり、送信部101が送信した信号の電力が-2dBm以下となるような、送信部101が送信する電力が低い領域は、送信部101が送信した電力に対してパワースロープC(P)を定数C0として扱うことができる測定範囲と考えることができる。例えば、
図6の場合では、送信部101が送信した信号の電力が-2[dBm/tone]以下、受信部102が受信した信号の電力が-62[dBm]以下の領域であり、この場合のパワースロープC(P)は定数C0=3と見なすことができる。この場合、式(1)は、下記の式(2)のように書き直すことができる。
【0037】
【0038】
一方で、送信部101が送信した信号の電力が-2[dBm/tone]より大きくなる場合には、送信部101が送信した電力に対してパワースロープC(P)を定数と見なすことはできなくなる。すなわち、受信部102が受信した電力は送信部101が送信した電力に関する非線形関数として表されることになり、このような場合でも式(1)を用いれば、測定範囲全体で統一して取り扱うことができる。また測定範囲内で前述の線形近似が可能な範囲では式(2)を用い、それ以外の領域では式(1)を用いることも可能である。例えば、これを有限差分を用いてグラフ化したものが、
図6のPower slope Cで表される曲線であり、その値は
図6の右側の縦軸により表される。送信部101が送信した信号の電力が-2[dBm/tone]以下の領域ではパワースロープC(P)がC0=3とほぼ一定値であり、それ以外の領域では、パワースロープC(P)が送信部101が送信した信号の電力に依存して変化していることがわかる。
【0039】
上述のIMを推定する際、パワースロープC(P)が定数と見なせる測定範囲、すなわち線形近似可能な測定範囲は、実際に
図6のようなグラフを作成し、人が測定範囲や測定範囲における電力の上限を判定して決定するものであってもよい。この場合、人が判定して決定した測定範囲および測定範囲における線形近似可能な領域を、人がリーダライタなどの装置を操作して、記憶部104に書き込むものであってもよい。
【0040】
また、上述のIMを推定する際のパワースロープC(P)が定数と見なせる線形近似可能範囲は、人ではなく、IM測定器10が特定するものであってもよい。例えば、
図5のように、第n回目の試行において、推定部103は、記憶部104が1対1で関連付けて記憶する送信部101が送信した信号の電力P101,nと、受信部102が受信した信号の電力P102,nとを読み出す。そして、推定部103は、例えば、受信部102が受信した信号の電力P102,nの電力のデータを、
図6に示すグラフと同様に対数として扱い、例えば、送信部101が送信した信号の電力に対する前進差分等を計算すると、受信部102が受信した信号の電力の変化率を求めることができる。これがパワースロープCnとなる。パワースロープCnの試行回数に対する変化量が無視できない場合には、式(1)を用いればよい。なお、パワースロープCnの変化量が小さい場合には、パワースロープC(P)を定数近似した式(2)を用いることができる。
【0041】
推定部103は、パワースロープCnを記憶部104に記録する(ステップS6)。そして、推定部103は、
図6におけるHIMS IM-levelで示される曲線において、送信部101が送信した信号の電力が小さい領域の曲線部分を外挿し、その外挿した曲線から所定値以内にあると判定した電力までをIMを推定する際の線形近似が可能な測定範囲と判定する。また、推定部103は、判定した測定範囲における電力の上限値である受信部102が受信した信号の電力-62[dBm]と、その時の送信部101が送信した信号の電力-2[dBm]を特定する(ステップS7)。そして、推定部103は、判定した測定範囲における電力の上限値(この場合、受信部102が受信した信号の電力-62[dBm]と、その時の送信部101が送信した信号の電力-2[dBm])を記憶部104に記録するものであってもよい(ステップS8)。
【0042】
(第2測定システム1bの構成)
図7は、本開示の第1実施形態による第2測定システム1bの構成の一例を示す図である。測定システム1は、第2測定を行うために、
図7に示す第2測定システム1bの構成を実現する。具体的には、IM測定器10の第1端子とセンシングアンテナ20の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。アンテナ30の第1端子とIM発生装置40の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。IM発生装置40の第2端子と終端器50の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。
【0043】
(第2測定システム1bが行う処理)
次に、本開示の第1実施形態による第2測定システム1bが行う処理について図を参照して説明する。
図8は、本開示の第1実施形態による第2測定システム1bが行う第2処理の処理フローの一例を示す図である。第2処理は、非接触による測定の測定結果から、結合損失を推定する処理である。
【0044】
送信部101は、周波数の異なる2つの信号をセンシングアンテナ20に送信する(ステップS11)。このとき、送信部101は、送信した周波数の異なる2つの信号の強度を記憶部104に記録する。送信部101が周波数の異なる2つの信号をセンシングアンテナ20に送信する場合、センシングアンテナ20は、それら2つの信号に対応する電波を空間に放出する(ステップS12)。アンテナ30は、センシングアンテナ20から空間に放出される電波を受信する(ステップS13)。アンテナ30は、受信した電波を電気信号に変換し(ステップS14)、その電気信号をIM発生装置40に出力する(ステップS15)。IM発生装置40は、その電気信号を受信する(ステップS16)。IM発生装置40は、その電気信号からハイレベルのIMを発生させる(ステップS17)。IM発生装置40は、アンテナ30と終端器50のそれぞれに等しい電力で、発生させたIMを出力する(ステップS18)。アンテナ30は、IM発生装置40において発生するIMに対応する電波を空間に放出する(ステップS19)。センシングアンテナ20は、アンテナ30から空間に放出される電波を受信する(ステップS20)。センシングアンテナ20は、受信した電波を電気信号に変換し(ステップS21)、その電気信号をIM測定器10に出力する(ステップS22)。
【0045】
受信部102は、センシングアンテナ20から電気信号を受信する(ステップS23)。推定部103は、受信部102がセンシングアンテナ20から受信した電気信号、記憶部104が記憶するパワースロープC(P)、および式(1)に基づいて、結合損失Scを推定する(ステップS24)。
【0046】
例えば、推定部103は、記憶部104からパワースロープC(P)、および式(1)を読み出す。
図9は、本開示の第1実施形態による第2測定システム1bによる結合損失Scの推定値の一例を示す図である。
図9では、結合損失Scと共に受信部102が受信した信号の電力も示されている。
図7に示す第2測定システム1bによる受信部102が受信した信号の電力の測定結果が、
図9のIM-levelで表される測定結果であり、ここでは送信2波とIM波が近接した比較的狭帯域な通信、すなわちシングルバンド通信であると仮定している。シングルバンド通信であると仮定した場合、式(1)において、結合損失は、Sc.f1≒Sc.f2≒Sc.fIMとみなすことができる。よって、結合損失Sc.f1=Sc.f2=Sc.fIM=Scとして、式(1)を離散化すると、下記の式(3)のように、結合損失Scに関する超越方程式F(Sc)が得られる。なお、式(3)におけるΔP101,nは、式(4)のように定義される。また、式(3)におけるCnは、式(5)のように定義される。さらに測定範囲においてパワースロープC(P)が一定値C0と見なせる場合には、結合損失は下記の式(6)に示す様に、代数的に求めることもできる。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
このようにして推定部103が推定した結合損失Scが、
図9のScで示される曲線である。推定部103は、結合損失Scの推定値を記憶部104に記録する。なお、
図9のVNA Measurementで示される3つのプロットは、ベクトルネットワークアナライザを用いて測定した結合損失Scであり、本開示の手法により求めた推定値と近い値となっていることが確認できる。
【0052】
(第3測定システム1cの構成)
図10は、本開示の第1実施形態による第3測定システム1cの構成の一例を示す図である。測定システム1は、第3測定を行うために、
図10に示す第3測定システム1cの構成を実現する。具体的には、IM測定器10の第1端子とセンシングアンテナ20の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。アンテナ30の第1端子と終端器50の第1端子とは、有線LNを用いて接続される。
【0053】
(第3測定システム1cが行う処理)
次に、本開示の第1実施形態による第3測定システム1cが行う処理について図を参照して説明する。
図11は、本開示の第1実施形態による第3測定システム1cが行う第3処理の処理フローの一例を示す図である。第3処理は、非接触による測定の測定結果から、アンテナ30のIMを推定する処理である。
【0054】
送信部101は、周波数の異なる2つの信号をセンシングアンテナ20に送信する(ステップS31)。送信部101が周波数の異なる2つの信号をセンシングアンテナ20に送信する場合、センシングアンテナ20は、それら2つの信号に対応する電波を空間に放出する(ステップS32)。アンテナ30は、センシングアンテナ20から空間に放出される電波を受信する(ステップS33)。アンテナ30は、受信した電波を電気信号に変換し(ステップS34)、その電気信号により発生したIMを電波に変換し(ステップS35)、電波を空間に放出する(ステップS36)。センシングアンテナ20は、アンテナ30から空間に放出される電波を受信する(ステップS37)。センシングアンテナ20は、受信した電波を電気信号に変換し(ステップS38)、その電気信号をIM測定器10に出力する(ステップS39)。
【0055】
受信部102は、センシングアンテナ20から電気信号を受信する(ステップS40)。推定部103は、受信部102がセンシングアンテナ20から受信した電気信号、記憶部104が記憶する結合損失Scに基づいて、アンテナ30で発生したIMを推定する(ステップS41)。
【0056】
例えば、推定部103は、記憶部104から結合損失Scを読み出す。
図10に示すように、IM測定器10から外部へ送信する送信信号の電力をPin、アンテナ30が受信する電波の電力をPantとすると、電力Pantは、単位をデシベルで表した場合には、下記の式(7)のように表すことができる。
【0057】
【0058】
したがって、推定部103は、式(7)を用いて、アンテナ30が受信する電力Pantを予測することができる。
【0059】
また、IM測定器10によりアンテナ30を直接測定した場合のIMの測定結果をIM(アンテナ直接測定)とすると、
図10に示す第3測定システム1cにおいて、IM測定器10の受信部102が受信した信号の電力の測定結果をIM(非接触測定)とすると、推定部103は、IM(非接触測定)と結合損失Scとを用いて、単位をデシベルとした場合には、下記の式(8)に示すように、直接測定した場合のIMの測定結果IM(アンテナ直接測定)を推定することができる。
【0060】
【0061】
(実施例)
上述した式(8)を用いた推定部103によるアンテナ30のIMの推定が正しいことを確認するために、IM測定器10によるアンテナ30の直接測定の測定結果IM(アンテナ直接測定)と、
図10に示す第3測定システム1cによる非接触測定によるアンテナ30のIMの推定結果IM(アンテナ非接触測定)との比較を行った。
【0062】
図12は、本開示の第1実施形態による第3測定システム1cのIM発生装置40の一例を示す図である。本実施例におけるIM発生装置40は、PCB(Printed Circuit Board、プリント基板)40a上の特性インピーダンス(例えば、50オーム)を有する伝送線40bの途中に1つのダイオード40cを直列に挿入した回路である。
【0063】
また、本実施例におけるアンテナ30内部のIM源としては、
図12に示した1つのダイオードの代わりに、並列接続された2つのダイオードを用いた回路(後述する
図23、24参照)を用いている。2つのダイオードを並列接続することにより、IM発生装置40よりもレベルの低いIMを発生させることのできる回路とし、IMを発生させるアンテナ30を模している。
【0064】
図13は、本開示の第1実施形態の実施例における比較結果を示す図である。非接触測定では、センシングアンテナ20とアンテナ30との間の距離が110[mm]、150[mm]、210[mm]の3つの異なる条件の測定を行った。この結果を
図13のNCMで示される曲線として示す。また、この結果と本開示で示す手法により推定した直接測定の結果を、
図13のENCMで示される曲線として示す。
図13が示すように、直接測定による測定結果(DM)と、非接触測定による測定結果(ENCM)は良好に一致することがわかる。
【0065】
よって、本開示の第1実施形態による測定システム1によって第1測定システム1a、第2測定システム1b、第3測定システム1cを実現し、第1測定、第2測定、第3測定を含む非接触測定を行うことにより、直接測定と同等の結果を推定することができる。測定システム1による第1測定、第2測定、第3測定を含む非接触測定は、
図10からわかるように、測定対象であるアンテナ30を他のアンテナ30に変更する場合、終端器50との接続を変更すればよく、IM測定器10とセンシングアンテナ20との接続は変更する必要がない。よって、非接触測定の場合、アンテナ30を変更してもIM測定器10とアンテナ30との接続関係は一定に保たれる。それに対して、直接測定の場合、アンテナ30を変更する度に、IM測定器10とアンテナ30との接続を変更する必要がある。そのため、直接測定の場合、IM測定器10とアンテナ30との接続関係を一定に保つことは困難であり、IM測定器10とアンテナ30との接続状態が測定結果に対して大きく影響する結果となってしまう。
【0066】
(利点)
非特許文献5ないし6に記載されているように、一般的な非接触測定では、IM測定器の他にネットワークアナライザが必要となる。また、IM測定器とネットワークアナライザの両方の機能を有する1つの測定器が存在するが非常に高価である。それに対して、本開示の第1実施形態による測定システム1により実現される非接触測定では、ネットワークアナライザや高価な測定器は不要であり、簡易的な構成の測定システムにより、直接測定よりも高い再現性を有する測定結果を得ることができる。つまり、アンテナのIMの推定を簡易的な構成の測定システムで実現することができる。
【0067】
<第1実施形態の変形例>
次に、本開示の第1実施形態の変形例による測定システム1について説明する。本開示の第1実施形態による測定システム1では、IM発生装置40は、非線形素子であるダイオードを用いてIMを発生させる場合、
図12に示したように、伝送線40bの途中にダイオードを挿入するものとして説明した。また、IM発生装置40は、終端器50で終端されるものとして説明した。しかしながら、IM発生装置40においてダイオードを用いてIMを発生させる場合、必ずしも終端器50でIM発生装置40を終端させる必要はなく、ダイオードに電流が流れ、IMが発生すればよい。つまり、ダイオード40cが伝送線40bに直列に設けられる場合、アンテナ30が接続されるIM発生装置40の端子と逆側の端子に近いダイオード40cの端子またはそのダイオード40cの端子側の伝送線40bのどこかに短絡状態を作り出せばよい。
【0068】
図14は、本開示の第1実施形態の変形例によるIM発生装置40の第1の例を示す図である。
図15は、本開示の第1実施形態の変形例による測定システム1の第1の例を示す図である。
図15では、本開示の第1実施形態の変形例による測定システム1の具体例として、第3測定システム1cを示している。例えば、
図14、
図15に示すように、ダイオード40cが伝送線40bの途中ではなくアンテナ30が接続されるIM発生装置40の端子と逆側の端子に接続される場合、ダイオード40cを短絡することでダイオードに電流を流すことができる。この場合、ダイオード40cの特性に依存せず(すなわち、整合を気にすることなく)、IM発生装置40を容易に作製することができる。
図16は、本開示の第1実施形態の変形例による測定システム1の第1の例に対する結合損失Scの推定値と他の測定システムに対する結合損失Scの実験値との比較結果を示す図である。
図16に示すように、結合損失Scの推定値と結合損失Scの実験値とは良好に一致し、
図14に示すIM発生装置40および
図15に示す測定システム1が有効であることがわかる。
【0069】
図17は、本開示の第1実施形態の変形例によるIM発生装置40の第2の例を示す図である。
図18は、本開示の第1実施形態の変形例による測定システム1の第2の例を示す図である。
図18では、本開示の第1実施形態の変形例による測定システム1の具体例として、第3測定システム1cを示している。例えば、
図17に示すように、ダイオード40cが伝送線40bの途中に挿入される場合であっても、アンテナ30が接続されるIM発生装置40の端子と逆側の端子に近いダイオード40cの端子側の伝送線40bの長さLを調整することにより、アンテナ30が接続されるIM発生装置40の端子と逆側の端子に近いダイオード40cの端子またはそのダイオード40cの端子側の伝送線40bのどこかに短絡状態を作り出すことができる。例えば、ダイオード40c付近に電流定在波の腹が発生する様に長さLを設定すれば、
図17におけるダイオード40cの右側の端子を短絡状態にすることができる。なお、長さLを、ダイオード40c付近に電流定在波の節が発生する様な長さに設定すると、ダイオードからIMが発生しなくなるので、長さLは、このような現象を避けるように決定する必要がある。
【0070】
<第2実施形態>
次に、本開示の第2実施形態による測定システム1について説明する。本開示の第1実施形態による測定システム1では、測定対象のアンテナ30は1つであるが、本開示の第2実施形態による測定システム1では、測定対象のアンテナ30は複数である。ここでは本開示の第2実施形態による測定システム1における測定対象のアンテナ30は、基地局などで使用されるアレーアンテナであるものとし、本開示の第1実施形態による測定システム1について説明した非接触測定をアレーアンテナであるアンテナ30に適用することを考える。
【0071】
図19は、本開示の第2実施形態による測定システム1の構成の一例を示す図である。
図19では、本開示の第2実施形態による測定システム1の具体例として、第2測定システム1bを示している。アンテナ30がアレーアンテナであり、センシングアンテナ20がアンテナ30の近傍にある場合、センシングアンテナ20でアンテナ30の全体をセンシングすることは困難である。そこで、アレーアンテナが点波源としてみなすことのできる距離d1まで離れることで、本開示の第1実施形態によるアンテナ30に対して行った非接触測定を、本開示の第2実施形態によるアレーアンテナであるアンテナ30でも可能にする。アレーアンテナが点波源とみなすことのできる距離d1は、アレーアンテナを構成する各アンテナのうち、互いに最も離れたアンテナ間の距離をD、電波の波長をλとすると、例えば、下記の式(9)によって表すことができる。
【0072】
【0073】
なお、センシングアンテナ20は、高利得アンテナであることが望ましい。
【0074】
(利点)
以上、本開示の第2実施形態による測定システム1について説明した。本開示の第2実施形態による測定システム1によれば、アンテナ30がアレーアンテナのように複数のアンテナを備える場合であっても、アンテナ30が点波源とみなすことができる距離d1以上にセンシングアンテナ20とアンテナ30とを離すことにより、本開示の第1実施形態による測定システム1と同様に非接触測定を行うことができる。
【0075】
<第3実施形態>
次に、本開示の第3実施形態による測定システム1について説明する。本開示の第2実施形態による測定システム1では、アンテナ30が点波源とみなすことができる距離d1以上にセンシングアンテナ20とアンテナ30とを離す必要があるため、距離d1を確保することのできる広い測定環境が必要になる。また、距離d1は大きい値となることが考えられるため、その分電波強度が弱くなり感度が落ちることが考えられる。そのため、センシングアンテナ20を高利得アンテナにするなど、本開示の第1実施形態による測定システム1の構成に比べて、より高価な測定システムが必要になる。本開示の第3実施形態による測定システム1は、アンテナ30がアレーアンテナのように複数のアンテナである場合であっても、本開示の第2実施形態による測定システム1に比べて、省スペース化および高感度化を実現することのできるシステムである。
【0076】
図20は、本開示の第3実施形態による測定システム1の構成の一例を示す図である。
図20では、本開示の第3実施形態による測定システム1の具体例として、第2測定システム1bを示している。本開示の第3実施形態による測定システム1は、回転中心に対してアレーアンテナであるアンテナ30と対称な構造を有するセンシングアンテナ20を備える。センシングアンテナ20をこのような構造にすることにより、センシングアンテナ20とアンテナ30の対称性から、非接触測定(
図20の左側からの測定)と、直接測定(
図20の右側からの測定)とで、センシングアンテナ20とアンテナ30が同様の挙動となる。また、センシングアンテナ20とアンテナ30の対称性から、アンテナ30においてIMの発生源がどこにあろうと、非接触測定においてその発生源にかかる電力と、直接測定においてその発生源にかかる電力との差は、結合損失Scによって生じる差となる。そのため、本開示の第3実施形態による測定システム1では、式(7)および式(8)を用いて、非接触測定によるIMの推定値と、直接測定によるIMの測定値との間の換算が可能になる。
【0077】
(利点)
以上、本開示の第3実施形態による測定システム1について説明した。本開示の第3実施形態による測定システム1によれば、センシングアンテナ20を回転中心に対してアレーアンテナであるアンテナ30と対称な構造とすることにより、本開示の第2実施形態による測定システム1の非接触測定に比べて、省スペース化および高感度化を実現することができる。
【0078】
<第4実施形態>
次に、本開示の第4実施形態による測定システム1について説明する。本開示の第3実施形態による測定システム1では、アンテナ30とセンシングアンテナ20との間の干渉によりアンテナ30の特性が劣化することが考えられる。そこで、本開示の第4実施形態による測定システム1では、センシングアンテナ20を微小素子化(非共振化)することで、アンテナ30の特性への影響を低減している。また、センシングアンテナ20内で縦方向に並んでいるセンシング素子間の干渉を抑制する目的でウィルキンソン分配器60が設けられる。つまり、本開示の第4実施形態による測定システム1では、本開示の第3実施形態による測定システム1のセンシングアンテナ20として、微小ダイポールアンテナを適用するとともに、センシングアンテナ20内の隣接するセンシング素子間の給電回路側の干渉を低減する為に、センシングアンテナ20における分岐点にウィルキンソン分配器を備える。
【0079】
図21は、本開示の第4実施形態による測定システム1の構成の一例を示す図である。
図21では、本開示の第4実施形態による測定システム1の具体例として、第2測定システム1bを示している。本開示の第4実施形態による測定システム1は、本開示の第3実施形態による測定システム1のセンシングアンテナ20における分岐点にウィルキンソン分配器60を備え、センシングアンテナ20として微小ダイポールアンテナを適用した測定システムである。センシングアンテナ20における分岐点にウィルキンソン分配器60を備えることにより、センシングアンテナ20における各アンテナ間の干渉を低減することができる。また、センシングアンテナ20として微小ダイポールアンテナを適用することで、共振の発生を低減した測定系とすることができ、センシングアンテナ20によるアンテナ30の整合状態への影響を低減することができる。その結果、アンテナ30の特性を劣化させずに測定することができ、本開示の第4実施形態による測定システム1は、本開示の第3実施形態による測定システム1に比べて、IMをより正確に測定することができる。
【0080】
図22は、本開示の第4実施形態による測定システム1の測定における具体的な構成の一例を示す図である。
図22では、本開示の第4実施形態による測定システム1の具体例として、第2測定システム1bを示している。
図23は、
図22に示す測定システム1において用いられるアンテナ30とセンシングアンテナ20のみを抽出した第1の図である。また、
図24は、
図22に示す測定システム1において用いられるアンテナ30とセンシングアンテナ20のみを抽出した第2の図である。各図の異なる点は、第3測定システム1cとして評価する場合の被測定アンテナ内のIM源の存在する位置である。
図23と
図24とでは、共通して、アンテナ30内に存在するIM源として、2本のダイオードを並列配置したモデルを用いている。
図23は、アンテナ30内のIM源が、アンテナ素子70の給電線路70a内に存在する場合を示している。アンテナ素子70の例としては、プリントダイポールアンテナなどが挙げられる。これをmodel-2Aと呼ぶこととする。
図24は、アンテナ30内のIM源が、アンテナ30内給電回路基部、すなわち、終端器50の左端に存在する場合を示している。これをmodel-2Cと呼ぶこととする。
図25は、本開示の第4実施形態による測定システム1の推定値の一例を示す図である。本開示の第4実施形態による測定システム1の効果を確認するために、
図22に示す測定システム1の構成で、第1実施形態で説明した非接触測定を実行した。測定システム1の測定における具体的な構成は、
図22に示すように、ウィルキンソン分配器60とともに、アンテナ30の各アンテナ素子70、さらに、アンテナ30における分岐点にT型分配器80を備える。また、アンテナ素子70の裏面には、例えば、
図22において符号70aによって示されるパターンのアンテナが実装されている。
図22に示すセンシングアンテナ20とアンテナ30のそれぞれが2つのアンテナを備える測定システム1について、結合損失Scの推定を行った結果が、
図25に示す測定システム1の第1の測定結果である。
式(3)を用いて結合損失Scを求める場合、測定結果を式(3)に代入して
図25のように超越方程式がゼロとなる結合損失Scを求めることになる。そして、このように推定した結合損失Scとベクトルネットワークアナライザ(VNA)による実測値(Mea.)とを比較した結果、
図25の表に示すように、良好に一致し、
図21に示す測定システム1が有効であることがわかる。
【0081】
図26は、model-2Aとmodel-2Cについて、HIMSを用いた非接触測定と直接測定(DM)の結果を比較した図である。両モデルとも、HIMSを用いた非接触測定により得られたIM測定結果と、直接測定DMにより求められたIM測定結果は良く一致していることが確認できる。このように、本開示の手法の有効性が確認できる。
【0082】
(利点)
以上、本開示の第4実施形態による測定システム1について説明した。本開示の第4実施形態による測定システム1によれば、各アンテナ間の干渉を低減することができる。その結果、ウィルキンソン分配器60のような経路を分離し干渉を低減する機器や、微小ダイポールアンテナのような共振の発生を低減した測定系を実現可能なアンテナを用いない測定システムに比べて、本開示の第4実施形態による測定システム1は、アンテナ30により発生するIMをより精度よく推定することができる。
【0083】
<第5実施形態>
次に、本開示の第5実施形態による測定システム1について説明する。
図27は、本開示の第5実施形態による測定システム1の構成の一例を示す図である。
図27では、本開示の第5実施形態による測定システム1の具体例として、第2測定システム1bを示している。本開示の第5実施形態による測定システム1は、
図27に示すように、アンテナ30における各アンテナごとに、IM測定器10とセンシングアンテナ20とを備える。IM測定器10のそれぞれは、2つの信号発生器90、3つの移相器100、2つのパワーアンプ110、1つのデュプレクサ120、および1つのローノイズアンプ130を備える。なお、測定システム1は、各IM測定器10に共通の受信機140を備える。
【0084】
第1の信号発生器90は、周波数f1の送信信号を生成する。第2の信号発生器90は、周波数f2の送信信号を生成する。第1の移相器100は、周波数f1の送信信号の位相を調整する。なお、第1の移相器100による位相の調整量は、後述する第2の移相器100により位相の調整量と同一とする。第2の移相器100は、周波数f2の送信信号の位相を調整する。第1のパワーアンプ110は、第1の移相器100により位相が調整された送信信号を増幅する。第2のパワーアンプ110は、第2の移相器100により位相が調整された送信信号を増幅する。
【0085】
デュプレクサ120は、送信系統と受信系統が互いに干渉なくセンシングアンテナ20を共用できるように用いられる。デュプレクサ120は、信号の送信時にセンシングアンテナ20に信号を出力する。また、デュプレクサ120は、信号の受信時に第3の移相器100に信号を出力する。第3の移相器100は、デュプレクサ120の受信時の信号の位相を調整する。ローノイズアンプ130は、第3の移相器100により位相が調整された信号を増幅し、受信機140に出力する。受信機140からは、各IM測定器10から得た信号のベクトル和が出力される。よって、測定から結合損失Scを推定し、その結合損失Scと受信機140が得たIMと組み合わせることで、直接測定と非接触測定との間の換算が可能になる。また、デュプレクサ120の前段に第1の移相器100および第2の移相器100が存在するため、IM測定器10におけるIMの発生を抑制することができる。
【0086】
(利点)
以上、本開示の第5実施形態による測定システム1について説明した。本開示の第5実施形態による測定システム1によれば、直接測定と非接触測定との間の換算が可能となり、IM測定器10におけるIMの発生も抑えることができる。また、本開示の第5実施形態による測定システム1によれば、1つのIM測定器10から複数のアンテナを有するアンテナ30に電力を供給する場合に比べて、1つのIM測定器10におけるシステムノイズ仕様を緩和することができ、結果的に低コストでシステムを実現することができる。
【0087】
<第5実施形態の変形例>
次に、本開示の第5実施形態の変形例による測定システム1について説明する。
図27に示す測定システム1では、第3の移相器100による位相の調整量が未知である可能性がある。そのような場合、受信機140の入力点P(
図27における点P)における電力をモニターしながら第3の移相器100により位相を調整し、入力点Pにおける電力が最大になる位相に調整すればよい。
【0088】
(利点)
以上、本開示の第5実施形態の変形例による測定システム1について説明した。本開示の第5実施形態の変形例による測定システム1によれば、給電系の構成が未知であるアレーアンテナであっても、受信するIMを可能な限り大きくすることができ、測定精度を向上させることができる。その結果、推定部103によるIMの推定結果の精度も向上させることができる。
【0089】
なお、本発明の実施形態における処理は、適切な処理が行われる範囲において、処理の順番が入れ替わってもよい。
【0090】
本発明の実施形態について説明したが、上述の測定システム1、第1測定システム1a、第2測定システム1b、第3測定システム1c、IM測定器10、その他の制御装置は内部に、コンピュータシステムを有していてもよい。そして、上述した処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。コンピュータの具体例を以下に示す。
図28は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ5は、
図28に示すように、CPU6、メインメモリ7、ストレージ8、インターフェース9を備える。
例えば、上述の測定システム1、第1測定システム1a、第2測定システム1b、第3測定システム1c、IM測定器10、その他の制御装置のそれぞれは、コンピュータ5に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ8に記憶されている。CPU6は、プログラムをストレージ8から読み出してメインメモリ7に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU6は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ7に確保する。
【0091】
ストレージ8の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ8は、コンピュータ5のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インターフェース9または通信回線を介してコンピュータ5に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ5に配信される場合、配信を受けたコンピュータ5が当該プログラムをメインメモリ7に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ8は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0092】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現してもよい。さらに、上記プログラムは、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるファイル、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例であり、発明の範囲を限定しない。これらの実施形態は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、省略、置き換え、変更を行ってよい。
【符号の説明】
【0094】
1・・・測定システム
1a・・・第1測定システム
1b・・・第2測定システム
1c・・・第3測定システム
5・・・コンピュータ
6・・・CPU
7・・・メインメモリ
8・・・ストレージ
9・・・インターフェース
10・・・IM測定器
20・・・センシングアンテナ
30・・・アンテナ
40・・・IM発生装置
40a・・・PCB
40b・・・伝送線
40c・・・ダイオード
50・・・終端器
60・・・ウィルキンソン分配器
70・・・アンテナ素子
80・・・T型分配器
90・・・信号発生器
100・・・移相器
101・・・送信部
102・・・受信部
103・・・推定部
104・・・記憶部
110・・・パワーアンプ
120・・・デュプレクサ
130・・・ローノイズアンプ
140・・・受信機