IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小嶋工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-手持ち工具の製造方法 図1
  • 特開-手持ち工具の製造方法 図2
  • 特開-手持ち工具の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033032
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】手持ち工具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B25B 13/00 20060101AFI20230302BHJP
   B26F 1/40 20060101ALI20230302BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B25B13/00 A
B26F1/40 B
B29C70/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021157264
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】520112900
【氏名又は名称】小嶋工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】牧野 佑耶
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 和良
【テーマコード(参考)】
3C060
4F205
【Fターム(参考)】
3C060AA04
3C060BA03
3C060BB08
3C060BD01
3C060BF02
4F205AA37
4F205AB25
4F205AC05
4F205AD16
4F205AH81
4F205HA08
4F205HA22
4F205HA33
4F205HA36
4F205HB01
4F205HC08
4F205HC17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スパナやレンチなどの手持ち工具の軽量化と防爆を可能とし、金属並みの強度を実現する。
【解決手段】本発明は、カーボン繊維の樹脂材を溶解する溶解法によるリサイクルカーボン繊維であり、40~60w%のリサイクルカーボン繊維と60~40w%の熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂から成る溶液を容器内で分散混合させ、枠内で抄造し、枠内の抄造された混合液を枠内脱水し、脱水後の残渣により素形材が形成された後工具形状にトムソン刃で打抜き、乾燥後プレス機により加熱成形して脱型する手持ち工具の製造方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン繊維の樹脂材を溶解する溶解法によるリサイクルカーボン繊維であり、40~60w%のリサイクルカーボン繊維と、60~40w%の熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂から成る溶液を容器内で分散混合させ、抄造枠内で抄造し、抄造枠内の抄造された混合液を枠内脱水し、脱水後の残渣により素形材が形成された後工具形状にトムソン刃で打抜き、乾燥させプレス機により加熱成形して脱型する手持ち工具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モンキーレンチ、スパナやレンチなどの手持ち工具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記手持ち工具は、強度を考慮すると金属製にするしか方法がなかった。そのため重く、衝突による火花で爆発・火災の心配があるとともに、高所作業での工具の取り扱いが安全上大変であった。このため防爆工具としてベリリュウム銅合金を使用せざるを得なかった。そのため重いばかりでなくベリリュウムは毒性があり取り扱える業者が少ないこともあり高価なものとなっている。
【0003】
また、カーボン繊維の廃材は国内航空機メーカー1社で70t/月排出され、この利用方法の開発が喫緊の課題と成っている。
【0004】
しかし、上記の課題解決はリサイクルのため工程が多くなり高価なものであるとともに、利用分野が緩衝材や防音材等に利用しようとするため高価であるが故に利用されず、未だ利用がなされていない。
リサイクルカーボン繊維で抄造法による工具に利用できるものが無かった。
【0005】
上記の金属からの樹脂化による軽量化の課題は、抄造法によるものは無く、その解決策として発明された実用新案登録第第3225768号考案(特許文献1)があるが、この考案は上記問題を解決するものとして有用なものである。その概要は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂から成るものであり、極めて有用なるものであるが、成形上から熱可塑性樹脂を使用せざるを得ないこととなる。その結果、手持ち工具としてはやや強度不足であった。
また、ガラス繊維に熱硬化性樹脂によるものが特許番号第2907679号(特許文献2)として提案されている。またこの提案の従来例として炭素繊維エポキシ布地で工具表面を覆う方法も開示されているが、金属製の類似品の持つトルクの40%以下の強度しかないため利用が特定されてしまうとのことである。
【0006】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第第3225768号公報
【特許文献1】特許番号第2907679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カーボン繊維を利用することであり、出願人の所有する抄造法の特徴を活かした方法を確立することである。然しながら抄造法で利用するカーボン繊維の入手方法をどのようにするかにかかっている。
手持ち工具の軽量化と防爆化を実現するためにバージンのカーボン繊維は、すでに樹脂が付着しているため抄造法での成形ができない。
またリサイクルカーボン繊維は、その最終利用先が不織布による緩衝材や、防音材を目指したものとなっているため事前の抄造法での成形物の強度計測での結果は、強度不足であった。そのため本発明の解決課題は、抄造法での手持ち工具としての強度不足を解決する市販のカーボン繊維を見出すとともに満足する強度を有する手持ち工具を完成する製造方法の確立が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記に鑑み発明されたものであり、抄造法によるリサイクルカーボン繊維の金属並みの強度を有する手持ち工具は無かった。これは上述した通り多くの課題があったためである。この課題を解決した本発明は抄造法を利用してのものであり、手持ち工具の曲げ強さが500MPa以上であり、これを抄造法により実現したものである。材料としては、その成分割合が40~60w%のカーボン繊維と60~40w%の熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂から成ることを特徴とする手持ち工具であるが、ここで利用するカーボン繊維は、リサイクルカーボンを溶解法で成形したものであり、該カーボン繊維のサイズが5mmから12mmで、望ましくは、8mmから10mmのものである。
これにより本発明の手持ち工具は、軽量かつ引張荷重強度が鋼材並みの強度を有する手持ち工具を提供でき、樹脂による軽量化と、抄造法による強度の向上を達成するものである。その材料の特性から防爆工具が提供できることとなる。
【0010】
その方法は、溶解法による40~60w%のリサイクルカーボン繊維と60~40w%の熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂から成る溶液を容器内で分散混合させ、枠内で抄造し、枠内の抄造された混合液を枠内脱水し、脱水後の残渣により素形材が形成された後工具形状にトムソン刃で打抜き、水分調整を行った後、プレス機により加熱成形して脱型する手持ち工具の製造方法。
【0011】
本考案の手持ち工具は、一例として図1に示すレンチであり、その他のものとしてスパナやラチェトレンチなどの工具である。
【0012】
本発明の手持ち工具は、抄造法を利用するものであるが、この方法は図3に示すように一般的に知られた方法であり、その目的は繊維への樹脂の定着を効率的に行うことができるようにしたものである。詳細は特開2001-123386公報の通りである。
容器の中にカーボン繊維と樹脂を入れ分散混合させ、抄造、脱水し素形材を製作する。それに続いて、該素形材を打ち抜き、水分調整し、プレス機にて成形し完成させるものである。
図1からもわかるように縦軸は重量を示し、横軸は抄造された素形材を縦4、横5の20分割された各部位をナンバリングしたものであり、重量変化がなく略均一に分散していることがわかる。
【0013】
本考案の手持ち工具の抄造法による実施は、カーボンファイバー60w%と熱硬化性のフェノール樹脂40w%とを混錬し抄造法により成形するものであり、その厚さは素形材として50mmである。その後乾燥し、140℃で熱プレスにより成形し2mm厚の板材として成形するものである。
ここで利用するカーボン繊維は、リサイクルカーボン繊維が良く、曲げ強度の実験結果を次に示す。
バージンのカーボン繊維・・・上述の理由により成形不可、
バージンのカーボン繊維の製造時発生する不良カーボン繊維・・・433MPaの 強度であり、強度不足である。
燃焼法によるリサイクルカーボン繊維・・・402MPaである。
本発明に利用する溶解法では、575MPaであった。この種の金属製手持ち工具の500MPaに匹敵するものである。
また標準トルク表の一般締め付けトルクは呼び径がM12で42Nmであるが本発明によれば50Nmを達成できた。
【0014】
上記実施例では、2mm厚の成形を例示したが手持ち工具の厚みを8mm~10mm厚のものとする場合は、素形材を100mm程度に成形し、上記同様にプレス成型後、8mm~10mm厚に成形するものである。
【0015】
ここで、溶解法について説明すると、溶解法によるリサイクルカーボン繊維の製造方法は公知のものであり、一例として特開2020-37638に示されている。
この発明の溶解法は、カーボン繊維の樹脂材を溶解する溶解法によるリサイクルカーボン繊維であり、炭素繊維強化プラスチックが含有する樹脂材を溶解する樹脂溶解装置であって、温度及び濃度が管理されていると共に硫酸を含有する溶解液と、炭素繊維強化プラスチックと、が投入される、溶解槽と、前記溶解槽下面に配置されており、前記溶解槽内に設けられた処理空間にバブル用ガスを導入してバブルを発生させる、ガス導入部と、前記処理空間において前記ガス導入部を囲うように上方へ向かって延設されており、前記バブルに伴って上昇する前記溶解液をガイドする、ガイド壁と、を備え、前記炭素繊維強化プラスチックは、前記ガイド壁の外側に投入され、前記ガイド壁の前記溶解槽下面近傍には、前記炭素繊維強化プラスチックが含有するカーボン繊維が前記ガイド壁の内側に侵入することを防ぎつつ、前記処理空間において前記溶解液を対流させるための貫通孔が設けられている、樹脂溶解装置によりリサイクルカーボン繊維を作成する。
【発明の効果】
【0016】
鉄製の手持ち工具とほぼ同等の引張荷重強度を有し、4分の1~7分の1の重さの手持ち工具の提供が可能となり、防爆や、高所作業の安全性確保など有益なものである。
実測値として、リサイクルカーボンとフェノール樹脂の3mm厚とSUS1mm厚の比較では曲げ強さは、502MPaに対し578MPaで、引張荷重強度は、6433Nに対して6400MPaであった。ほぼ同等の強度が確認できたこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】 本発明の強度試験の結果を示す表である。
図2】 本発明の手持ち工具の一例を示す図面代用写真の斜視図である。
図3】 本発明で利用する抄造法のフローである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例を説明すると、カーボン繊維の樹脂材を溶解する溶解法によるリサイクルカーボン繊維であり、6mm長にカットされたカーボン繊維とフェノール樹脂とを6対4の割合で大量の水の中で混錬した後、脱水して素形材を成型する。その後、乾燥させるため80℃で3時間乾燥させた後、加圧加熱成形するものである。上記乾燥は水分量が10%程度で、加熱温度は140℃で、5mm厚の成形品を得るため150トンプレスで5分間プレスして成形するものである。
【0019】
上記実施例において、レンチの実施例を示したが、レンチなどの手持ち工具の大きさによりプレス圧や時間は調整するものである。
【0020】
本発明で実施する抄造法は従来公知の抄造法を利用しるものであり、一例として特開2001-123386公報に示されているもので、開閉可能な多数の抜水孔が底面に形成された貯水槽に、耐熱性繊維を分散させた分散水を貯留し、前記貯水槽の抜水孔を同時に開放して分散水を放出し、前記貯水槽の下方に配備された抄造槽で前記貯水槽から落下した分散水を収受したのち、前記抄造槽から水抜きすることにより、前記抄造槽内に配備された抄網で前記耐熱性繊維を抄き取ることを特徴とする繊維成型品抄造方法である。
【0021】
実施例を以下工程に従って説明すると、溶解液を用いる溶解法によるリサイクルカーボン繊維を用いて製造する。
▲2▼バケツに材料を投入。(消泡、分散、凝集剤以外)
▲3▼ディゾルバー(攪拌機)で材料を均一分散させる。(4000rpmで5分間)
▲4▼スラリー(分散後溶液)入りバケツを手動攪拌しながら分散剤を投入し20回攪拌する。
▲5▼▲4▼に手動攪拌しながら凝集剤を投入し10回程度攪拌する。
▲6▼抄造枠に下部10cm程度水を貯め、▲5▼のスラリーを投入する。
▲7▼抄造枠から水を抜く。
▲8▼真空ポンプかリングブロアで抄造シートからある程度の水を抜く。
▲9▼抄造枠からシートを取り出し、プレスで脱水する。(1cmあたり30~40kgの圧力で3分間)
▲10▼脱水したシートを油圧裁断機でトムソン刃を使用し打ち抜く。(以降シートではなく素形体と呼ぶ)
▲11▼打ち抜いた素形体を乾燥機に並べ乾燥させる。(現行条件:80℃×4.5時間)
▲12▼乾燥後素形体の重量を測定し分ける。
▲13▼重量分けした素形体を製品の重量に組み合わせる。
▲14▼組み合わせた素形体をタブレット(予備成型)する。(現行条件:1cmあたり100kgの圧力で80℃×1分)
▲15▼タブレットした素形体を成型する。(現行条件:1cmあたり1tの圧力で180℃×厚み1mmあたり1分)
▲16▼金型から取り出した成型品のバリを取る。
▲17▼完成
【0022】
本考案は、抄造法と熱硬化樹脂により、手持ち工具の軽量化と防爆機能の実現を達成できた極めて有益なるものであるばかりでなくリサイクルカーボンを利用できるため、鉄製やステンレス製などの工具を得るための千数百度の温度の溶融作業がないため二酸化炭素削減に大きく貢献できる。
【0023】
また従来、高所での作業において、工具類を腰に保持するため、その重量から腰を痛めることもあったが、軽量のため緩和が期待でき工具の落下による重大災害もない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、環境対策として、また防爆による火災防止、軽量化による大きな効果を有する極めて優れたものである。この工具を利用するガソリン化学工業、石油・ガス産業、爆薬製造工場、造船所、航空業界、医療業界などの産業で広く使われることが期待できる。
図1
図2
図3