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特開2023-33045フッ素不溶化剤及びベントナイト脱水ケーキを作成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033045
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】フッ素不溶化剤及びベントナイト脱水ケーキを作成する方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/143 20190101AFI20230302BHJP
   C09K 17/12 20060101ALI20230302BHJP
   C09K 17/08 20060101ALI20230302BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C02F11/143 ZAB
C09K17/12 P
C09K17/08 P
C09K17/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021160082
(22)【出願日】2021-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】321005766
【氏名又は名称】株式会社HALVOホールディングス
(72)【発明者】
【氏名】柳生 良太
【テーマコード(参考)】
4D059
4H026
【Fターム(参考)】
4D059AA09
4D059AA30
4D059BE04
4D059BE09
4D059BE15
4D059BE16
4D059BE26
4D059BE37
4D059BE55
4D059BJ00
4D059BK30
4D059DA06
4D059DA15
4D059DA17
4D059DA22
4D059DA70
4D059EB20
4H026CA03
4H026CA06
4H026CB03
4H026CC06
(57)【要約】
【課題】
掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキからのフッ素溶出量を環境基準値(0.8mg/リットル)以下にする。
【解決手段】掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキからのフッ素溶出量を環境基準値以下に低減するためのフッ素不溶化剤であって、
当該不溶化剤は、当該不溶化剤全体を100重量%とするとき、シラスを主成分とする無機系凝集剤10~50重量%及び助剤50~90重量%からなり、
当該凝集剤はシラスを焼成して得られたものであり、
当該助剤は、当該助剤全体を100重量%とするとき、水酸化アルミニウム30~45重量%、硫酸カルシウム半水和物25~35重量%、オキシ水酸化鉄15~25重量%、硫酸アルミニウム5~20重量%、硫酸カルシウム二水和物0~5重量%、硫酸カルシウム0~4重量%及び一酸化マンガン0~2重量%からなる、
ことを特徴とするフッ素不溶化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキからのフッ素溶出量を環境基準値(0.8mg/リットル)以下に低減するためのフッ素不溶化剤であって、
当該不溶化剤は、当該不溶化剤全体を100重量%とするとき、シラスを主成分とする無機系凝集剤10~50重量%及び助剤50~90重量%からなり、
当該凝集剤はシラスを焼成して得られたものであり、
当該助剤は、当該助剤全体を100重量%とするとき、水酸化アルミニウム30~45重量%、硫酸カルシウム半水和物25~35重量%、オキシ水酸化鉄15~25重量%、硫酸アルミニウム5~20重量%、硫酸カルシウム二水和物0~5重量%、硫酸カルシウム0~4重量%及び一酸化マンガン0~2重量%からなる、
ことを特徴とするフッ素不溶化剤。
【請求項2】
掘削土砂を含むベントナイト泥水を脱水することにより、「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキ」を作成する方法において、
凝集剤Aを「シラスを主成分とする無機系凝集剤であって当該凝集剤はシラスを焼成して得られたもの」とし、助剤Bを下記助剤とするとき、
当該泥水に凝集剤A及び助剤Bを添加混合し、その際、両者の割合を、両者合計を100重量%とするとき、凝集剤Aを10~50重量%、助剤Bを50~90重量%とし、次いで、脱水することを特徴とする、フッ素溶出量が環境基準値(0.8mg/リットル)以下である「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキ」を作成する方法。

水酸化アルミニウム30~45重量%、硫酸カルシウム半水和物25~35重量%、オキシ水酸化鉄15~25重量%、硫酸アルミニウム5~20重量%、硫酸カルシウム二水和物0~5重量%、硫酸カルシウム0~4重量%及び一酸化マンガン0~2重量%からなる助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素溶出量を環境基準値(0.8mg/L(Lはリットル、以下同じ))以下にすることができるベントナイト脱水ケーキのためのフッ素不溶化剤及び「フッ素溶出量が環境基準値以下であるベントナイト脱水ケーキ」を作成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下トンネルや立坑などを掘削する場合、しばしば、泥水シールド工法や連続地中壁工法などの泥水掘削工法が用いられる。この場合、泥水が掘削面の溝壁を安定させたり、掘削土砂をスムーズに地上に搬送したりするうえで重要な役割を果たす。泥水は、一般にベントナイトを(混練ミキサーなどを使って)水に溶かして作られる。この場合、水は現場又はその近くで採取された地下水又は湧水を使用することが多い。なお、ベントナイトとは、「モンモリロナイトを主成分とする粘土の総称」と言われているが、ここ(本明細書及び特許請求の範囲)では、広い意味で使っており、泥水掘削工法に使用されるベントナイト、粘土、トチクレー、クレーサンドなどを含めた広い意味である。
【0003】
作られた泥水は、ベントナイト泥水とも呼ばれ、掘削面(切羽面)に供給され、そして、(掘削で生じた土や岩盤、岩石などの)掘削土砂を取り込んで地上に搬出される。搬出されたベントナイト泥水は、掘削土砂を含んでいる。
簡単に言えば、この泥水に凝集剤を添加混合した後、フィルタープレス、ベルトプレスなどの脱水機により、水と脱水ケーキ(ここではこれを「ベントナイト脱水ケーキ」と呼ぶことがある)に固液分離し、ベントナイト脱水ケーキを作成する。
なお、実際には、この泥水は大容量土砂分離機(サンドコレクター)などで篩(ふるい)にかけられ岩石や砂分(一次処理土)と泥水に分離される。この分離された泥水は調整槽に送られ、比重及び粘性調整後、ベントナイト泥水として再び送泥管で坑内に送られ再利用されることが多い。この調整時、掘削土砂を含む濃度の高い泥水が余ることがあり、これを余剰泥水と呼ぶが、この余剰泥水も同様に凝集剤を添加混合した後、固液分離し、ベントナイト脱水ケーキを作成する。
【0004】
いずれもベントナイト脱水ケーキは、当然のことながら掘削土砂を含んでおり、日本の土や岩盤、岩石などには自然に蛍石(フッ化カルシウム)が含まれていることがあり、或いは、ベントナイト泥水を作る場合に使用される「現場又はその近くで採取された地下水又は湧水」に蛍石が含まれていることがあり、そのためベントナイト脱水ケーキは、自然的要因により、高濃度の溶出フッ素を含んでいることがある。
この場合、環境庁告示46号土壌環境基準に基づいて重金属など(フッ素を含む)の有害物質に関する溶出試験を行った結果、フッ素溶出量が環境基準値(0.8mg/L)以下でなければ、ベントナイト脱水ケーキを埋め立て、埋め戻し、盛り土などに再利用することができない。仮に環境基準値を超えた場合には脱水ケーキは産業廃棄物となり、再利用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5869371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、掘削土砂を含むベントナイト泥水に添加混合する凝集剤として、「シラスを主成分とする無機系凝集剤」に着目した。シラスを主成分とする無機系凝集剤は、特許文献1(特許5869371号公報)にも記載されている通り、広く知られており、市販もされており、シラスを焼成して得られる。シラスは鹿児島県に豊富に存在する無機の天然素材であり、環境負荷が小さく安全性も高い。
そこで、本発明者は、試みに、シラスを主成分とする無機系凝集剤をこの泥水に添加混合した後、脱水し、「ベントナイト脱水ケーキ」を作成した。そして、そのケーキについて、環境庁告示46号土壌環境基準に基づいて重金属など(フッ素を含む)の有害物質に関する溶出試験を行った結果、フッ素溶出量を低減することができることを見出した。即ち、シラスを主成分とする無機系凝集剤をベントナイト脱水ケーキのためのフッ素不溶化剤として使用できることを見出した。このことは未だ知られておらず、シラスを主成分とする無機系凝集剤の新しい用途として驚くべきことである。
【0007】
しかしながら、シラスを主成分とする無機系凝集剤は、単独では、ベントナイト脱水ケーキからのフッ素溶出量を環境基準値(0.8mg/L)以下に低減することができなかった。
本発明の目的は、シラスを主成分とする無機系凝集剤を改良して、フッ素溶出量を環境基準値以下に低減することができる「ベントナイト脱水ケーキのためのフッ素不溶化剤」を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、同じく、シラスを主成分とする無機系凝集剤を改良して、フッ素溶出量が環境基準値以下であるベントナイト脱水ケーキを作成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、シラスを主成分とする無機系凝集剤を改良すべく、これに何か別の無機系材料を混合して改良する研究を鋭意行った。その結果、驚くべきことに、シラスを主成分とする無機系凝集剤に特殊な無機系材料(ここでは「助剤」と称する)を所定量混合することで、当該凝集剤が「ベントナイト脱水ケーキ」からのフッ素溶出量を環境基準値(0.8mg/L)以下にすることができることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
即ち、本発明は第1に、
「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキからのフッ素溶出量を環境基準値(0.8mg/L)以下に低減するためのフッ素不溶化剤であって、
当該不溶化剤は、当該不溶化剤全体を100重量%とするとき、シラスを主成分とする無機系凝集剤10~50重量%及び助剤50~90重量%からなり、
当該凝集剤はシラスを焼成して得られたものであり、
当該助剤は、当該助剤全体を100重量%とするとき、水酸化アルミニウム30~45重量%、硫酸カルシウム半水和物25~35重量%、オキシ水酸化鉄15~25重量%、硫酸アルミニウム5~20重量%、硫酸カルシウム二水和物0~5重量%、硫酸カルシウム0~4重量%及び一酸化マンガン0~2重量%からなる、
ことを特徴とするフッ素不溶化剤」
(第1発明)を提供する。
【0010】
本発明は第2に、
「掘削土砂を含むベントナイト泥水を脱水することにより、「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキ」を作成する方法において、
凝集剤Aを「シラスを主成分とする無機系凝集剤であって当該凝集剤はシラスを焼成して得られたもの」とし、助剤Bを下記助剤とするとき、
当該泥水に凝集剤A及び助剤Bを添加混合し、その際、両者の割合を、両者合計を100重量%とするとき、凝集剤Aを10~50重量%、助剤Bを50~90重量%とし、次いで、脱水することを特徴とする、フッ素溶出量が環境基準値(0.8mg/L)以下である「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキ」を作成する方法」
(第2発明)を提供する。
第2発明において、助剤Bとは「水酸化アルミニウム30~45重量%、硫酸カルシウム半水和物25~35重量%、オキシ水酸化鉄15~25重量%、硫酸アルミニウム5~20重量%、硫酸カルシウム二水和物0~5重量%、硫酸カルシウム0~4重量%及び一酸化マンガン0~2重量%からなる組成物(混合物)」である。
なお、第2発明(特許請求の範囲の請求項2)において、凝集剤AのA、助剤BのBは、説明の都合上、用いたまでのことで、特別の意味はなく、第1発明の凝集剤、助剤と同じものである。
【発明の効果】
【0011】
掘削土砂を含むベントナイト泥水に本発明のフッ素不溶化剤(第1発明)を所定量添加混合するか、或いは、この泥水にシラスを主成分とする無機系凝集剤と前記助剤を所定量添加混合した後、脱水してベントナイト脱水ケーキを作成した場合(第2発明)、作成されたベントナイト脱水ケーキからのフッ素溶出量を環境基準値(0.8mg/L)以下にすることができる。そのため、ベントナイト脱水ケーキは産業廃棄物とならず再利用することができる。なお、この泥水を脱水できる性状にでき脱水ケーキを作成することができることも本発明の特徴(効果)の一つである。
その上、主成分であるシラスは、天然素材であり環境負荷が小さく安全性も高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)本発明のフッ素不溶化剤(第1発明)は、当該不溶化剤全体を100重量%とするとき、シラスを主成分とする無機系凝集剤10~50重量%(好ましくは20~40重量%)と助剤50~90重量%(好ましくは60~80重量%)からなる。
また、本発明の「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキ」を作成する方法(第2発明)においては、シラスを主成分とする無機系凝集剤と助剤を、掘削土砂を含むベントナイト泥水に添加混合する。この場合、両者の割合を、両者合計を100重量%とするとき、前記凝集剤を10~50重量%(好ましくは20~40重量%)及び助剤50~90重量%(好ましくは60~80重量%)とする。
【0013】
本発明で使用する凝集剤は、シラスを主成分とする無機系凝集剤である。「シラスを主成分とする」の意味は、凝集剤全体を100重量%とするときシラスが50重量%以上占めることを言う。そして、シラスを主成分とする無機系凝集剤は、蛍光X線分析により検出される成分として、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)5~25重量%、酸化アルミニウム(Al2O3)1~35重量%、酸化ナトリウム(Na2O)1~30重量%、酸化カルシウム(CaO)1~25重量%、そのほか、酸化鉄、酸化カリウム、酸化マグネシウムなどを合わせて0~10重量%程度を含むものである。前記数値範囲(~)は両端を含む意味である。「そのほか、酸化鉄、酸化カリウム、酸化マグネシウムなどを合わせて」ついては、0重量%でもよく、即ち無くともよい。
シラスを主成分とする無機系凝集剤は、例えば、天然シラスを粗い粒子を除去するために分級して所定の範囲の粒径分布とした後、600℃~900℃程度の温度で60分~120分程度焼成することにより得られる。シラスは粒径分布の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0014】
シラスを主成分とする無機系凝集剤は、砂のような外観形態を持つが、その砂を構成する粒子の平均粒径は、50~600μm、特に100μ~300μmであることが好ましい。
シラスを主成分とする無機系凝集剤は、主成分のシラス以外に、任意成分として、珪藻土、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム、ゼオライト、活性白土などを含んでいてもよい。
【0015】
助剤は、当該助剤全体を100重量%とするとき、水酸化アルミニウム30~45重量%、硫酸カルシウム半水和物25~35重量%、オキシ水酸化鉄15~25重量%、硫酸アルミニウム5~20重量%、硫酸カルシウム二水和物0~5重量%、硫酸カルシウム0~4重量%及び一酸化マンガン0~2重量%からなる組成物(混合物)である。前記数値範囲(~)は両端を含む意味である。即ち、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム及び一酸化マンガンについては、0重量%でもよく、即ち無くともよい。両端を含む点については、特許請求の範囲においても同じである。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「・・・からなる」の表現は、開放的表現であり、本発明のフッ素不溶化剤(第1発明)も助剤も、本発明の主旨を逸脱しない限り、他の第三成分を含んでいてもよい。
【0016】
助剤は、粉末のような外観形態を持つが、その粉末を構成する粒子の平均粒径は、0.2~600μm、特に1~300μmであることが好ましい。
本発明のフッ素不溶化剤は、砂のような外観形態を持つ「シラスを主成分とする無機系凝集剤」と粉末のような外観形態を持つ助剤とを常法により混合するだけで製造される。場合により、混合した後、更に粉砕機にかけて粉砕し所望の粒径範囲にしてもよい。
シラスを主成分とする無機系凝集剤と助剤との混合割合は、全体を100重量%とするとき、無機系凝集剤を10~50重量%(好ましくは20~40重量%)、助剤を50~90重量%(好ましくは60~80重量%)とすることが重要である。
【0017】
本発明のフッ素不溶化剤の使用方法は、掘削土砂を含んだベントナイト泥水に本発明のフッ素不溶化剤を単に添加混合し、次いで、常法に従い脱水機で脱水して脱水ケーキを作成すればよい。
この場合、本発明のフッ素不溶化剤をこの泥水に添加混合する割合は、重量基準で、本発明のフッ素不溶化剤を1としてこの泥水に対して7,000~30,000ppm程度、特に10,000~20,000ppm程度が好ましい。
本発明のフッ素不溶化剤を添加混合した泥水は、pHを6~11程度、特に7~10程度にすることが好ましい。仮に、泥水のpHが低い(酸性)場合は、場合により、泥水に生石灰や消石灰を添加してもよい。逆に泥水のpHが高い(アルカリ性)場合は、場合により、泥水に希硫酸、希塩酸などを添加してもよい。
【0018】
脱水機としては、特に限定される訳ではないが、例えば、フィルタープレス型脱水機、スクリュープレス型脱水機、真空脱水機、ベルトプレス型脱水機、遠心脱水機などが挙げられ、比較的低い含水率の脱水ケーキが得ることができる点から、フィルタープレス型脱水機又はスクリュープレス型脱水機が好ましい。
脱水機の前段に濃縮機を設けてもよい。濃縮機としては、例えば、大容量土砂分離機(サンドコレクター、回転ドラムスクリーン、傾斜スクリーン、ベルト濃縮機、遠心濃縮機などが挙げられる。
【0019】
脱水ケーキの含水率は、50重量%以下が好ましい。
本発明に従えば、脱水ケーキは、フッ素溶出量が環境基準値(0.8mg/L)以下となるので、埋め立て、埋め戻し、盛り土などに再利用することができる。
脱水機から排出される分離水は、仮に、pHが低い(酸性)場合は、場合により、分離水に生石灰や消石灰を添加し、逆にpHが高い(アルカリ性)場合は、場合により、分離水に希硫酸、希塩酸などを添加して中和した後、外部に排水として排出する。この場合、分離水もフッ素溶出量を環境基準値以下にする必要があるが、本発明のフッ素不溶化剤を使用すれば、環境基準値以下にすることができる。
【0020】
(2)本発明の「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキ」を作成する方法(第2発明)においては、シラスを主成分とする無機系凝集剤と助剤を、それぞれ掘削土砂を含むベントナイト泥水に添加混合するが、この場合、両者を同時に添加混合してもよいし、一方を先に他方を後に混合してもよい。
この場合、無機系凝集剤と助剤との割合は、全体を100重量%とするとき、無機系凝集剤を10~50重量%(好ましくは20~40重量%)、助剤を50~90重量%(好ましくは60~80重量%)とすることが重要である。
【0021】
そして、無機系凝集剤と助剤を、掘削土砂を含むベントナイト泥水に添加混合する割合は、重量基準で、両者合計を1としてこの泥水に対して7,000~30,000ppm程度、特に10,000~20,000ppm程度が好ましい。
両者を添加混合した泥水は、pHを6~11程度、特に7~10程度にすることが好ましい。仮に、泥水のpHが低い(酸性)場合は、場合により、泥水に生石灰や消石灰を添加してもよい。逆に泥水のpHが高い(アルカリ性)場合は、場合により、泥水に希硫酸、希塩酸などを添加してもよい。
【0022】
その上で、この泥水を脱水機で脱水して脱水ケーキを作成する。脱水機の例としては、上述(第1発明)の通りである。脱水機の前段に濃縮機を設けてもよい。
脱水ケーキの含水率は、50重量%以下が好ましい。脱水ケーキは、フッ素溶出量が環境基準値以下であるので、埋め立て、埋め戻し、盛り土などに再利用することができる。
脱水機から排出される分離水は、仮に、pHが低い(酸性)場合は、場合により、分離水に生石灰や消石灰を添加し、逆にpHが高い(アルカリ性)場合は、場合により、分離水に希硫酸、希塩酸などを添加して中和した後、外部に排水として排出する。この場合、分離水もフッ素溶出量を環境基準値(0.8mg/L)以下にする必要があるが、本発明のフッ素不溶化剤を使用すれば、環境基準値以下にすることができる。
【実施例0023】
1)シラスを主成分とする無機系凝集剤(平均粒径:300μm)を40単位用意した。ここでは、1単位を1gとし、以下、下記実施例及び比較例も含め同じ意味である。
用意した「シラスを主成分とする無機系凝集剤」は、蛍光X線分析により検出される成分として、二酸化ケイ素(SiO2)20重量%、酸化アルミニウム(Al2O3)29重量%、酸化ナトリウム(Na2O)25重量%、酸化カルシウム(CaO)19重量%、酸化鉄(Fe2O3)1重量%、酸化カリウム(K2O)2重量%、そのほか、酸化マグネシウム(MgO)などを合わせて4重量%含むものである。
2)助剤(平均粒径:50μm)を60単位用意した。助剤は、水酸化アルミニウム35重量%、硫酸カルシウム半水和物30重量%、オキシ水酸化鉄20重量%、硫酸アルミニウム10重量%、硫酸カルシウム二水和物3重量%、硫酸カルシウム1重量%及び一酸化マンガン1重量%を含むものである。
3)前記無機系凝集剤40単位と前記助剤60単位をスパチュラで混合することにより、本実施例1のフッ素不溶化剤100単位を調製した。
【実施例0024】
1)実施例1と同じ無機系凝集剤を20単位用意した。
2)助剤(平均粒径:50μm)を80単位用意した。助剤は、水酸化アルミニウム40重量%、硫酸カルシウム半水和物25重量%、オキシ水酸化鉄15重量%、硫酸アルミニウム15重量%、硫酸カルシウム二水和物2重量%、硫酸カルシウム2重量%及び一酸化マンガン1重量%を含むものである。
3)前記無機系凝集剤20単位と前記助剤80単位をスパチュラで混合することにより、本実施例2のフッ素不溶化剤100単位を調製した。
【0025】
[比較例1]
実施例1と同じ無機系凝集剤を100単位用意し、これを比較例1とした。
[比較例2]
実施例1と同じ助剤を100単位用意し、これを比較例2とした。
【0026】
≪≪フッ素溶出試験≫≫
1.模擬泥水:
栃木県山岳部で採取された湧水(フッ素濃度:6.0mg/L、pH7.2)を22.5L用意し、これにベントナイトとして、粘土12.5kg及びトチクレー1.5kgを加えて十分にかき混ぜ、模擬泥水(比重1.32)を作成した。
なお、この模擬泥水は、掘削土砂を含んでいないが、フッ素溶出試験用の模擬泥水として当該技術分野においては標準的なものであり、ベントナイト脱水ケーキも作成することができる。
2.フッ素調整液:
富士フィルム和光純薬株式会社から販売されている「ふっ素標準液(F 1mg/mL)」を用意、これをフッ素調整液とした。組成は、ふっ化ナトリウムが0.2重量%、水が99.8重量%である。
【0027】
3.模擬泥水のpH調整:
前記1の模擬泥水を第1、第2の2つに分け、希硫酸又は消石灰を添加して模擬泥水のpHを第1はpH7に、第2はpH10に調整した。
フッ素不溶化剤の効力又は性能を測るため、模擬泥水自体を「環境庁告示第46号に定める溶出試験における検液」とみなして、フッ素溶出量を測定(分析)したところ、pH7の模擬泥水(第1)のそれは1.8mg/L、pH10の模擬泥水(第2)のそれは1.5mg/Lであった。なお、当該技術分野においては、フッ素溶出量は、それが1mg/L以上の場合は、小数点以下1桁までを表示し、それが1mg/L未満の場合は、小数点以下2桁までを表示することになっている。
【0028】
4.フッ素調整液の添加:
模擬的に高濃度のフッ素を含有する模擬泥水を作成するため、pH調整後の前記3の2つの模擬泥水(pH7、pH10)をそれぞれ第1、第2の2つに分け、それぞれに前記2のフッ素調整液を第1は添加せず(0ppm)、第2は4,000ppm添加混合した。(模擬泥水は、2×2=4点になる。)
なお、4,000ppm添加混合した模擬泥水について、フッ素不溶化剤の効力又は性能を測るため、模擬泥水自体を「環境庁告示第46号に定める溶出試験における検液」とみなして、フッ素溶出量を測定(分析)したところ、pH7の模擬泥水のそれは2.4mg/L、pH10の模擬泥水のそれは2.3mg/Lであった。
【0029】
5.フッ素不溶化剤(実施例1)の添加:
前記4の模擬泥水4点のうちpH7のもの2点(フッ素調整液:0ppm、4,000ppm)をそれぞれ第1、第2、第3の3つに分け、実施例1のフッ素不溶化剤を第1は10,000ppm添加混合し、第2は15,000ppm添加混合し、第3は20,000ppm添加混合した。同じくpH10のもの2点(フッ素調整液:0ppm、4,000ppm)をそれぞれ第1、第2、第3の3つに分け、実施例1のフッ素不溶化剤を第1は10,000ppm添加混合し、第2は20,000ppm添加混合し、第3は30,000ppm添加混合した。(泥水試料は2×3+2×3=合計12点)
【0030】
6.フッ素不溶化剤(実施例2)の添加:
前記4の模擬泥水4点のうちpH7のもの2点(フッ素調整液:0ppm、4,000ppm)をそれぞれ第1、第2、第3の3つに分け、実施例1のフッ素不溶化剤を第1は10,000ppm添加混合し、第2は15,000ppm添加混合し、第3は20,000ppm添加混合した。同じくpH10のもの2点(フッ素調整液:0ppm、4,000ppm)をそれぞれ第1、第2、第3の3つに分け、それぞれに実施例1のフッ素不溶化剤を第1は10,000ppm添加混合し、第2は20,000ppm添加混合し、第3は30,000ppm添加混合した。(泥水試料は2×3+2×3=合計12点)
【0031】
7.比較例1(無機系凝集剤 単独)の添加:
前記4の模擬泥水4点のうちpH7に調整したものでフッ素調整液を添加しない(0ppm)もの1点を用意し、これを第1、第2、第3の3つに分け、それぞれに比較例1(無機系凝集剤単独)を第1は10,000ppm添加混合し、第2は15,000ppm添加混合し、第3は20,000ppm添加混合した。(泥水試料は合計3点)
【0032】
8.比較例2(助剤 単独)の添加:
前記4の模擬泥水4点のうちpH7のもの2点(フッ素調整液:0ppm、4,000ppm)をそれぞれ第1、第2、第3の3つに分け、それぞれに比較例2(助剤単独)を第1は10,000ppm添加混合し、第2は15,000ppm添加混合し、第3は20,000ppm添加混合した。同じくpH10のもの2点(フッ素調整液:0ppm、4,000ppm)をそれぞれ第1、第2、第3の3つに分け、それぞれに比較例2(助剤単独)を第1は10,000ppm添加混合し、第2は20,000ppm添加混合し、第3は30,000ppm添加混合した。(泥水試料は2×3+2×3=合計12点)
【0033】
9.ベントナイト脱水ケーキの作成:
フッ素不溶化剤(実施例1、2)及び比較例1、2を添加した前記5~8の泥水試料(12+12+3+12=合計39点)について、袋状の布製脱水フィルターに入れ、先端を紐で縛った後、ジャッキ型脱水機で脱水し、脱水ケーキを作成した。脱水ケーキの含水率は45~50重量%であった。
なお、比較例2の助剤だけを添加した泥水試料12点は、凝集せず脱水ケーキは作成できなかった。
【0034】
10.脱水ケーキのフッ素溶出量及びpH:
前記9で作成できた脱水ケーキ27点(39―12=27)について、公的試験資格を有する民間分析試験機関に分析(フッ素溶出試験)を依頼し、フッ素溶出量及びpHを測定した。なお、前記の「検液とみなして、フッ素溶出量を測定(分析)した」についても、同じ民間分析試験機関に分析依頼し測定(分析)した結果である。
その結果を以下の表1~表3に示す。
【実施例0035】
1)前記実施例1の「シラスを主成分とする無機系凝集剤」20単位と同じく助剤80単位を用意した。1単位を1gとした。
2)次いで、前記≪≪フッ素溶出試験≫≫で用意した「前記4の模擬泥水4点」のうちpH7のもの2点(フッ素調整液:0ppm、4,000ppm)について、それぞれ第1、第2、第3の3つに分け、第1では、シラスを主成分とする無機系凝集剤を2,000ppm添加混合し続いて助剤を8,000ppm添加混合し、第2では、シラスを主成分とする無機系凝集剤を3,000ppm添加混合し続いて助剤を12,000ppm添加混合し、第3では、シラスを主成分とする無機系凝集剤を4,000ppm添加混合し続いて助剤を16,000ppm添加混合した。これにより、第1では、両者合計で10,000ppm、第2では両者合計で15,000ppm、第3では両者合計で20,000ppm添加混合したことになる。
【0036】
次に、前記≪≪フッ素溶出試験≫≫で用意した「前記4の模擬泥水4点」のうちpH10のもの2点(フッ素調整液:0ppm、4,000ppm)について、それぞれ第1、第2、第3の3つに分け、第1では、シラスを主成分とする無機系凝集剤を2,000ppm添加混合し続いて助剤を8,000ppm添加混合し、第2では、シラスを主成分とする無機系凝集剤を4,000ppm添加混合し続いて助剤を16,000ppm添加混合し、第3では、シラスを主成分とする無機系凝集剤を6,000ppm添加混合し続いて助剤を24,000ppm添加混合した。これにより、第1では、両者合計で10,000ppm、第2では両者合計で20,000ppm、第3では両者合計で30,000ppm添加混合したことになる。(泥水試料は2×3+2×3=合計12点)
【0037】
3)次いで、前記≪≪フッ素溶出試験≫≫と同様にベントナイト脱水ケーキ12点を作成した。脱水ケーキの含水率は45~50重量%であった。
4)作成した脱水ケーキ12点について、前記≪≪フッ素溶出試験≫≫と同時にフッ素溶出量及びpHを測定した。その結果を以下の表4に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
なお、比較例1(凝集剤単独)では、表3の通り、フッ素濃度が低い模擬泥水(フッ素調整液の添加量:0ppm)に対し既に効果が著しく劣ることが判明したので、フッ素濃度が高い模擬泥水(同:4,000ppm)に対する実験は行わなかった。また、pH10の模擬泥水の実験は省略した。これは、過去の経験から、フッ素溶出量は、ほぼ同等か又は1.2mg/L以上と推測されるためである。
【0041】
【表4】
【0042】
以上の結果を総括する。表3を見ると、「比較例1(凝集剤単独)、pH7、フッ素調整液の添加量:0ppm」でも、もとの模擬泥水(凝集剤添加量:0ppm)のフッ素溶出量(みなし):1.8mg/Lに対し、10,000~20,000ppm添加でフッ素溶出量が1.2mg/Lと下がり、ある程度、フッ素不溶化の効力又は性能があることが分かる。しかし、環境基準値(0.8mg/L)は全く満たしていない。
それに対し、例えば、表2を見ると、「実施例2(フッ素不溶化剤)、pH7、フッ素調整液の添加量:0ppm」では、10,000ppm添加で、フッ素溶出量が0.49mg/Lと劇的に下がり、15,000ppm添加で同じく0.26mg/Lと劇的に下がり、20,000ppm添加で同じく0.17mg/Lと劇的に下がる。いずれも、環境基準値(0.8mg/L)を十分に満たしている。
【0043】
表3(比較例1=凝集剤単独)と表2(実施例1=凝集剤+助剤)を比較すると、10,000ppm添加でフッ素溶出量が「1.2⇒0.49」、15,000ppm添加で「1.2⇒0.26」、20,000ppm添加で「1.2⇒0.17」と、フッ素溶出量が劇的に下がることが分かる。もちろん、環境基準値(0.8mg/L)を十分に満たしている。
以上、本発明に従い、シラスを主成分とする無機系凝集剤に所定量の助剤を混合(併用)すれば、掘削土砂を含むベントナイト泥水を脱水できる性状にして脱水ケーキを作成することができ、そして、その脱水ケーキからのフッ素溶出量を環境基準値以下にすることができることが理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0044】
泥水掘削工法において発生する「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキ」が時として自然的要因でそのフッ素溶出量が環境基準値(0.8mg/L)を超えることがあり、その場合に、本発明のフッ素不溶化剤(第1発明)及び「掘削土砂を含むベントナイト脱水ケーキ」を作成する方法(第2発明)は、そのフッ素溶出量を環境基準値以下にすることができ、産業への利用、貢献は多大である。