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特開2023-33065リサイクルされるリチウムイオン電池のための充填材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033065
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】リサイクルされるリチウムイオン電池のための充填材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021214906
(22)【出願日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】17/412,742
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505348359
【氏名又は名称】ウスター ポリテクニック インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ワン
(72)【発明者】
【氏名】エリック,グラッツ
(72)【発明者】
【氏名】チナ,サ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンフェン,ジェン
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ,ヒーラン
(72)【発明者】
【氏名】キー-チャン,キム
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031BB09
5H031EE01
5H031HH06
5H031RR01
5H031RR02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有用な元素Co、Ni、Al及びMnを抽出するために消耗したリチウムイオン電池のカソード材料を溶液に溶解して新しい電池のための活性カソード材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】方法は、所望の材料の所望の割合または比に応じて、当該溶液に原料を添加して、新しいセルのためにリサイクルされるカソード材料のために混合された化合物の所望の比を達成する。所望の材料の広範囲な加熱または個々の化合物もしくは元素への分離を行うことなく所望の材料が溶液から沈殿する。得られる活性カソード材料は新しいセルに使用するための所定の比を有し、所望の材料が溶液中で混合されたままであるため有用な元素を分離するために典型的に必要とされる高熱を回避する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗した二次電池のリサイクル流において、リサイクルされる電池の製造に使用するために前記電池から充填材料をリサイクルする方法であって、
解体された電池に基づくリサイクル流から粒状の塊を受け取る工程であって、前記リサイクル流は前記解体された電池の電池化学物質によって定められる複数の充填材料を含み、前記複数の充填材料の各充填材料は金属によって定められ、かつ酸化状態を有し、前記電池化学物質はリサイクルされる電池に含めるための前記充填材料の比を定める工程と、
浸出液のpHを低下させるために浸出酸を前記粒状の塊に添加して前記充填材料を前記浸出液に溶解する工程であって、金属イオンの酸化状態に基づいて選択された前記浸出酸は前記浸出液に溶解されている前記充填材料を定め、
前記浸出液における前記充填材料の所定のモル比を達成するために前記充填材料の比調整を行う工程と、
前記pHを上げるために強塩基を前記浸出液に添加して前記充填材料の顆粒形態の化合物を沈殿させる工程であって、前記顆粒形態は前記リサイクルされる電池を形成するための焼結に応答する充填材料前駆体を定める工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記比調整は、前記浸出液における前記充填材料のモル比をサンプリングすること、および前記モル比が前記リサイクルされる電池のための前記所定のモル比と異なる場合に、前記浸出液に溶解されている前記充填材料の前記所定のモル比を達成するためにさらなる充填材料を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記さらなる充填材料は前記浸出酸に対応する化合物に基づいて選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記浸出液における前記金属イオンのそれぞれの前記酸化状態は前記浸出液における前記金属イオンのそれ以外の酸化状態と等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記充填材料を定める前記金属イオンのそれぞれの前記酸化状態は2+である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記浸出液において前記充填材料のために2+の酸化状態を達成するために還元剤を前記浸出液に添加することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記充填材料と組み合わせた前記還元剤の溶解度定数(ksp)に基づいて前記還元剤を選択することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
過酸化水素、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドラジン、一酸化炭素、一酸化窒素および二酸化硫黄からなる群から選択される還元剤を添加することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記浸出酸は、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、過塩素酸およびヨウ化水素酸のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記充填材料はNi、MnおよびCoを含み、かつ前記リサイクルされる電池の電池化学物質を定める、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記浸出酸を選択すること、および前記沈殿した充填材料の球状粒子を形成するために溶解度定数(ksp)に基づいて前記pHを調整することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記比調整はドープ剤を添加することをさらに含み、前記ドープ剤は前記充填材料の1%未満の体積を有し、かつ焼結された充填材料の得られる結晶構造の安定性に基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ドープ剤の少なくとも一部は前記リサイクル流に基づいて前記浸出液中に予め存在しており、かつ前記比調整は前記浸出液中の前記ドープ剤の割合を特定し、かつ前記予め存在しているドープ剤の割合に基づいてさらなるドープ剤を添加することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記浸出酸の前記添加後に、前記リサイクル流から生じる前記浸出液中の不純物を沈殿させるために前記浸出液のpHを調整すること、および
前記充填材料を溶液形態中に残すこと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記浸出液のpHを0~5の範囲に調整すること、
電着のために前記浸出液の中に電極を挿入すること、および
前記浸出液中に残っている銅の電着のために0.5~2.0vの電圧を前記電極に印加すること
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記銅の電着の前に、Fe、AlおよびCuなどの不純物を沈殿させるために前記pHを3.0~6.5の範囲に調整することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記浸出酸の添加後に前記浸出液からFeを沈殿させるために前記pHを3.0~5.0の範囲に調整することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記浸出酸の添加後に前記浸出液からCuを沈殿させるために前記pHを5.0~7.0の範囲に調整することをさらに含む、請求項14に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府資金による研究開発の記載
本発明は、アメリカ国立科学財団によって授与された契約番号NSF-1464535およびNSF-1343439の下で政府支援によってなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本特許出願は、「リサイクルされるリチウムイオン電池のための充填材料」という発明の名称の2018年10月19日に出願された米国特許出願第16/164,952号の一部継続出願であり、上記出願は「リチウムイオン電池をリサイクルするための方法および装置」という発明の名称の2016年11月22日に出願され、現在の米国特許第10,522,884号である米国特許出願第15/358,862号の一部継続出願(CIP)であり、上記出願は「リチウムイオン電池をリサイクルするための方法および装置」という発明の名称の2015年11月24日に出願された米国仮出願第62/259,161号の利益を主張し、かつ「リチウムイオン電池をリサイクルするための方法および装置」という発明の名称の2013年4月3日に出願され、現在の米国特許第9,834,827号である米国特許出願第13/855,994号の一部継続出願(CIP)であり、上記出願は35U.S.C.§119(e)の下で「リチウムイオン電池をリサイクルするための完全閉ループ」という発明の名称の2012年4月4日に出願された米国仮特許出願第61/620,051号の利益を主張するものであり、これら全ての内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
何十年もの間、携帯可能な電力供給は電気化学反応により電気エネルギーを放出する電池の形態をとっている。従来の「乾電池」すなわち懐中電灯用炭素電池および自動車において一般的な鉛蓄電池すなわち「湿」電池などの様々な化学電池が適切な携帯可能な電力を提供している。
【0004】
しかし、現代の電子機器の電池の寿命および質量に対する要求はかなり高くなっている。電池電力は従来より、十分な電流を生成するために充填材料のために必要とされる質量を重視してきた。従来の懐中電灯用電池は低い電流しか供給しない。強烈であるが短い高アンペア数の電流を始動電動機に供給するための自動車電池は非常に高密で大きい。携帯電話、計算装置および自動車などの現代の電子装置は、ホスト装置の携帯性を妨げるのを回避するのに十分な程に軽量かつ小型でありながらも、かなりの電流供給を要求する。
【0005】
充電式ニッケルカドミウム(NiCad)およびニッケル水素(NiMH)電池は、携帯可能な装置のための充電式電池として普及した。しかし最近では、リチウムイオン電池(LIB)が携帯可能な電子機器のための最も一般的な電力源となっており、陸軍、電気自動車および航空宇宙用途のためにも人気が高まっているため、その進歩が重要となっている。個人用電子機器、ハイブリッドおよび電気自動車の継続的開発により、Liイオン電池の需要が益々高まり続けることは確実である。
【発明の概要】
【0006】
消耗したLIBをケーシングおよびプラスチックなどの固体の電池構成要素を除去するために物理的分離プロセスに供し、混合されたカソード材料から有用な元素であるCo(コバルト)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)およびLi(リチウム)を抽出するために電極を溶液に溶解し、リサイクルされる元素を利用して新しい電池のために活性材料を製造する。本明細書における構成は部分的に、従来の手法が自動車用途(例えばTesla(商標)電気自動車)に使用されるLiNiCoAlOを含むLiイオン電池をリサイクルおよび回収しないという観察に基づいている。
【0007】
当該溶液は、使用済みセルの消耗したカソード材料からの化合物として溶解されているコバルト、ニッケルおよびマンガンなどの望ましい材料の化合物を含む。所望の材料の所望の割合または比に応じて当該溶液に原料を添加して、新しいセルのためにリサイクルされるカソード材料のために混合された化合物の所望の比を達成する。水酸化ナトリウムなどの強塩基は、所望の材料の広範囲な加熱または個々の化合物もしくは元素への分離を行わずに所望の材料が溶液から沈殿するようにpHを上げる。得られる活性カソード材料は新しいセルに使用するために所定の比を有しており、所望の材料が溶液中で混合されたままであって標的組成を達成するために少量の純粋な充填材料(Charge material)を添加することによる濃度(比)の変化しか受けていないため、有用な元素を分離するために典型的に必要とされる高熱を回避する。
【0008】
リチウムイオン電池は、それらの前身であるNiCd(ニッケルカドミウム)およびNiMH(ニッケル水素)のように有限の充電サイクル数を有する。従って、多くの電気自動車がそれらの寿命の終わりに達する際に、LIBは固体廃棄物流の重要な構成要素となることが期待される。リチウム電池内の充填材料をリサイクルすることにより廃棄物体積を減らすと共に、新しい電池のために活性充填材料が得られる。
【0009】
リサイクルにより、必要とされるリチウムの量を劇的に減少させることができる。リチウムイオン電池内の様々な化学物質としては、コバルト、マンガンおよびニッケルなどの価値のある金属が挙げられる。さらに電池を廃棄することによりカソード材料のために新しい金属を採掘することが必要となり、採掘は単純なリサイクルよりもさらに大きな環境への影響およびコストを有する。要するに、リチウムイオン電池のリサイクルは環境を守り、かつエネルギーを節約するだけでなく、新しい電池のための活性カソード材料の安価な供給を提供することにより電池製造業者に大きな利益をもたらす。
【0010】
Liイオンセルのための現在のリサイクル手順は一般に、LiCoOカソード材料に焦点が置かれている。より多くの種類のカソード材料をリサイクルする方法を発表したものもいるが、全てが複雑であり、必ずしも経済的でなかったり実用的でなかったりする。Liイオン電池を経済的かつ工業的実行可能性を有してリサイクルするために、高い効率を有する単純な方法論が提案されている。ここに開示されている手法により、リサイクルされる構成要素からカソード材料(特にLiイオン電池において価値がある)が合成される。従来の手法とは対照的に、ここに開示されている手法はNi、MnおよびCoを分離して取り出すことをしない。代わりに、カソード材料を新しい電池のために適した活性充填材料として合成するために均一な相の沈殿物が出発物質として用いられる。分析的な結果から、リサイクルプロセスは実践的であり、高い回収効率を有し、かつ商業的価値も有することが分かった。
【0011】
本明細書における構成は部分的に、携帯可能な電力源としてのリチウムイオンセルの人気の高まりにより、利用されたセルがそれらの有用な寿命の終わりに達した際に使用済みリチウム系カソード材料がそれに応じて増加するという観察に基づいてる。鉛供給の50パーセント超がリサイクルされる電池からのものであるように鉛蓄電池の97%がリサイクルされるが、リチウムイオン電池はまだ広くリサイクルされていない。リチウム需要の見込まれる増加はかなりであるが、リチウムの地質源ベースの分析から、Liイオン電池のみを唯一の拠り所にして必要とされる体積で電気自動車製造を維持するには、地殻において入手可能なリチウムでは不十分であることが分かっている。リサイクルは必要とされるリチウム量を劇的に減少させることができる。リサイクルインフラは、リチウムイオン電池を使用する車両の採用が炭酸リチウムの不足および世界的なリチウム埋蔵量の供給において豊富な国々への依存をもたらし得るという懸念を和らげる。
【0012】
残念なことに上記手法に対する従来の手法は、リサイクル手法がコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムの望ましい材料の化合物を分離するために高温プロセスを含むという欠点に悩まされている。この高温プロセスは分離のために化合物を破壊するが、新しい活性材料のためにそれらを再度結合する結果となる。従ってこの高温手法は望ましい材料を分離して再度結合させるためにかなりのエネルギー、支出および処理を必要とする。
【0013】
従って本明細書における構成は、少量のさらなる純粋な形態の望ましい材料と混合されている所望の化合物の低温溶液を生成して所望の活性充填材料の標的比を達成することにより、上記熱集中的な構成要素分離という記載されている欠点を実質的に克服する。望ましい材料を沈殿により抽出して、化合物を分離または破壊することなくリサイクルされる活性カソード材料を得、このようにして活性カソード材料を生成するためにより低い温度およびあまり高価でないプロセスを可能にする。
【0014】
本解決法は、新しいリチウムイオン電池のために新しい活性材料を調製するために使用することができる方法で、LiNiCoAlO化学物質を含むリチウムイオン電池から活性材料を回収することを含む。これまでの従来の手法は、高価な有機試薬を使用することなくLNiCoOまたはLiNiCoAlO電池のために遷移金属を使用して新しいカソード材料を調製することができるような形態で、LiNiCoAlOから遷移金属を回収することができない。回収された前駆体材料のNiCoAl(OH)またはNiCo(OH)は、新しいLiNiCoAlOまたはLiNiCoOカソード材料を調製するために使用することができる。これは、Al(OH)を沈殿した材料に添加すること、および/または硫酸Ni、CoまたはAlを沈殿前に当該溶液に添加することを含んでもよい。
【0015】
提案されている手法では、当該電池は単一流(single stream)化学物質(LiNiCoAlO)であることが望ましいが、LiMO(式中、MはマンガンならびにNi、AlおよびCoである)中に他の化学物質が存在する場合には、マンガンを溶液から除去することができる。Ni、CoおよびAlを使用して前駆体を沈殿させてカソード材料を合成することができる。
【0016】
以下により詳細に概説されている特許請求されている手法は、使用済みセルから凝集塊状電池材料の溶液を生成すること、および生成された溶液から不純物を沈殿させて充填材料前駆体を得ることを含む、Liイオン電池をリサイクルする方法を定めている。当該溶液を調整するために材料を添加して、新しいリサイクルされる電池の所望の化学物質に基づいて望ましい材料の所定の比を達成する。炭酸リチウムを導入し、かつ焼結させてLiNiCoAlの形態のカソード材料を形成する。望ましい材料を調整することは、Ni、CoまたはAlの少なくとも1つの添加を含み、典型的には望ましい材料の添加は塩またはイオンの形態である。還元剤を用いて溶液中の充填材料イオンの酸化状態を維持してもよく、アルミニウムおよび銅集電体などのリサイクル流からの付随的残物の除去ならびに物理的ケーシングおよび導体材料からのマグネシウムおよび鉄の除去のために、pH、酸化状態および電着のバランスを取ることにより不純物を除去してもよい。
【0017】
従って以下の開示されている手法では、Liイオン電池をリサイクルする方法は使用済みセルから凝集塊状電池材料の溶液を生成すること、および生成された溶液から混合物を沈殿させることを含む。リサイクル装置は当該溶液を調整して望ましい材料の所定の比を達成し、かつ所定の比で望ましい材料を沈殿させて、望ましい材料の所定の比を有する新しい電池のためにカソード材料を形成する。なお本明細書に開示されている方法および装置は一例としてLiイオン電池を用いているが、当該原理は例示であることを目的としており、他の電池化学物質(battery chemistry)に適した他の種類のカソード材料に適用することができる。
【0018】
上記および他の特徴は、添付の図面に図示されている本明細書に開示されている特定の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。図面では異なる図を通して同様の符号は同じ部分を指す。図面は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに本発明の原理を例示することに強調が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本明細書における構成と共に使用するのに適した電池リサイクル環境のコンテキスト図である。
図2図1の環境におけるリチウム電池のリサイクルのフローチャートである。
図3図1の電池の充電および放電中の電荷(電子)の流れの図である。
図4図1の電池の電池構造の図である。
図5図4の電池においてカソード材料をリサイクルする図である。
図6】リチウム-アルミニウムイオン電池をリサイクルするプロセスフロー図である。
図7】水酸化アルミニウムを使用するリチウム-アルミニウム電池をリサイクルする他の構成のためのプロセスフローである。
図8】任意の好適なモル比でのNi/Mn/Co(NMC)およびNi/Co/Al(NCA)電池の両方のための複合リサイクルプロセスのためのプロセスフロー図である。
図9図8のプロセスにおける不純物除去のために使用されるCu電着の電位-pH図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
リチウムイオン電池などの電池をリサイクルするための例示的な方法および装置が以下に記載されている。提案されている手法は一例であり、使用済み電池をリサイクルし、かつ新しい電池に使用するのに適した活性カソード材料を回収するために他のリチウムおよび非リチウム電池に適応可能である。図1は、本明細書における構成と共に使用するのに適した電池リサイクル環境100のコンテキスト図である。図1を参照すると、電池リサイクル環境100において、ラップトップ、自動車(ハイブリッドおよび純粋な電気自動車)、コンピュータ、スマートフォンおよび任意の他の種類の電池支援機器などの電子装置110は、ここに開示されている手法と共に使用するのに適している。当該電子装置は、本明細書で考察されているリサイクル手法に応答する原料を含む消耗したカソード材料122を有する使用済みセル120を提供する。物理的分離プロセス124は、通常は使用済み電池ケーシングおよびその中のセルを単に圧潰および粉砕することにより当該電池を解体して、粒子状の原料を含む消耗した電池材料の粒状の塊126を形成する。
【0021】
多くの場合に、磁性鋼を取り出す磁気分離による物理的分離を適用して電池ケース(プラスチック)および電極材料を除去する。リサイクル装置130は、典型的には撹拌された(圧潰された)使用済み電池からの粉末の形態をなしている使用済み充填材料からの残っている粒状の塊126を含む溶液141の物理的封じ込めを含む。さらなる原料142を添加して、溶液141において望ましい材料の所定の比を達成する。リサイクルプロセス後に、以下でさらに考察されているように活性充填材料134が得られ、リサイクルされるカソード材料132を含む新しいセル140を形成するために用いられる。次いで新しいセル140を、消耗した使用済みセル120を提供した様々な装置110に用いてもよい。リサイクル装置は、pH調整剤または改質剤および原料を溶液141に添加することができるように、溶液141を収容するための装置を備えていてもよい。
【0022】
図2は、図1の環境におけるリチウム電池リサイクルのフローチャートである。図1および図2を参照すると、本明細書に開示されているカソード材料122をリサイクルする方法は、工程200に示されているように消耗した電池セル120から得られたカソード材料から溶液141を生成することを含む。本方法は、さらなる原料142を組み合わせて溶液141中の材料の所定の比を達成し、従来のリサイクル手法において一般的な高温プロセスを回避するために溶液の温度を十分に低く維持する。溶液141は、沈殿した材料134が所定の比を有し、かつ新しい電池セル140のためにカソード材料132を合成するために使用するのに適した割合を有するように、溶液141のpHを上昇させることにより前駆体材料134を沈殿させる。例示的な構成では、望ましい材料は電池セルのカソード材料から抽出されたマンガン(Mn)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)を含む。溶液141において、望ましい材料は得られるカソード材料134が新しいセル140で利用するために正しい割合を有するように沈殿中に混合されたままである。
【0023】
図3は、図1の電池の充電および放電中の電荷(電子)の流れの図である。電池は一般に、アノードとカソードとの間での当該電池におけるイオンの対応する流れと合わさった電子の流れから電流を生じさせる電気化学反応により電子の流れを生成して電力を提供する。図1および図3を参照すると、リチウムイオン電池(LIB)140’は他の充電式電池と同様に、陰電子の流れ150を生成して電気負荷152に可逆的に(充填のために)電流を供給する。充電中に充電器170は、電子の流れ151’を反転させる電圧源を提供する。放電中にリチウムイオン154は負極160から正極162に移動し、充電の際に戻る。アノードタブ161は負荷152/充電器170への接続のために負極160に電気的に接続しており、カソードタブ163は正極162に接続している。電解質168はイオン154の移動を容易にするために電極を取り囲んでいる。セパレータはアノード160とカソード162との接触を防止して、アノードおよびカソード板が「短絡」しないように電解質168を介したイオンの移動を可能にする。正極162の半反応(カソード反応)は一例としてLiCoOを取り上げると、
であり、
負極160の半反応は、
であり、
セル全体の反応は、
である。
【0024】
充電中に、遷移金属のコバルトはCo3+からCo4+に酸化され、放電中にCo4+からCo3+に還元される。
【0025】
図4図1の電池構造の図である。図3および図4を参照すると、セル140の物理的構造は、負極160および正極162を画定する圧延シートからなる円筒形封入体である。
【0026】
リチウムイオン電池140の主要な機能部品は、アノード160、カソード162、電解質168およびセパレータ172である。LIBは電極材料としてインターカレートされるリチウム化合物を使用する。最も商業的に一般的なアノード160電極(負極)材料は、銅ホイル上に被覆されたグラファイト、炭素およびPVDF(ポリフッ化ビニリデン)バインダを含む。カソード162電極(正極)はアルミニウムホイル上に被覆されたカソード材料、炭素およびPVDFバインダを含む。カソード162材料は一般に3種類の材料、すなわち層状酸化物(コバルト酸リチウムまたはニッケル酸リチウムなど)、ポリアニオン(鉄リン酸リチウムなど)またはスピネル(マンガン酸リチウムなど)のうちの1つであり、本明細書に開示されているカソード材料122およびリサイクルされるカソード材料132を定める。あるいはカソード材料をリサイクルするためのここに開示されている手法は、アノードおよび電解質構成要素などの様々な電池構成要素における他の材料に適用してもよい。電解質168は典型的には有機炭酸塩の混合物であり、一般にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)などの非配位性アニオン塩を使用する。電解質168は電極間のイオン経路として機能する。外側の金属ケーシングはアノードタブ161に結合された負端子161’を定め、上部の蓋163’はカソードタブ163に接続している。ガスケット174および底部絶縁体176は有極部品間での電気分離を維持する。
【0027】
リサイクルのための従来の手法は使用済みLIB中のLiCoOに焦点を当てている。しかしリチウムイオン電池技術の開発により、現在ではLiCoO、LiFePO、LiMnO、LiNiCoAlおよびLiNiMnCoなどのリチウムイオン電池を製造するために異なるカソード材料が使用されている。リチウムイオン電池をその電池化学物質に基づいて選別するのは複雑であり得、従来の方法は活性カソード材料として再利用するためにそれぞれの化合物を分離するために異なる手順が必要とされるため、混合された化学物質によりリチウムイオン電池を効率的にリサイクルすることができない。
【0028】
商業的リチウムイオン電池において広く使用されているカソード材料としては、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiNiCoAl、LiNiMnCoおよびLiFePOが挙げられる。リチウムイオン電池を効率的にリサイクルするために、全ての様々な電池化学物質を検討することが有利である。従って、広く使用されている様々なLIBに一般に適応可能である、より単純であって環境的に許容されるリサイクルプロセスを開発することが有利である。本明細書に開示されている構成は、混合されたカソード材料からCo、Ni、MnおよびLiという望ましい元素を含む化合物を抽出するための例を提供し、リサイクルされる材料を利用して電池のための活性材料を製造する。ここに開示されている方法を用いて他の化学物質をリサイクルしてもよい。
【0029】
図5図4の電池においてカソード材料をリサイクルする図である。図1図4および図5を参照すると、工程1において放電されたLiイオン電池120を圧潰/細断する。工程1aに示されているように、外側ケースおよびシェルならびにプラスチック部分を分離するために機械的分離プロセスを前処理として適用する。
【0030】
篩にかけたカソード粉末は、工程2に示されているように4~5Mの硫酸(HSO)および29~32%の過酸化水素により70~80℃で約2~3時間浸出させる。また他の濃度の硫酸を用いてもよい。過酸化水素Hの添加によりFe2+をFe3+に変化させるだけでなく、他の金属イオンMn、Ni、Coを2+に変化させ、このようにして工程3において当該溶液のpHを制御することにより分離した鉄が得られる。濾過後に、工程2aに示されているように残留するLiFeOおよび炭素を遠心分離により分離することができる。工程2bに示されているように当該溶液の表面から他の不純物も除去する。
【0031】
工程3に示されているように、圧潰されたカソード材料原料が使用済みセルから凝集塊状電池材料の溶液を生成するために使用される粒状の塊126を形成した際に、目的の金属元素が水性溶液に移動する。これは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)およびLiの望ましい材料(図示されている例ではリチウムであり、他の電池化学物質を含む手法を用いて他の望ましい材料を用いてもよい)を含む。そのpHを調整してFe(OH)、Cu(OH)およびAl(OH)として鉄、銅およびアルミニウムを抽出する。これはpHを3.0~7.0の範囲に調整することを含む。それに応じてNaOH溶液を添加してpH値を調整してより低い溶解度定数を有するFe(OH)、Cu(OH)およびAl(OH)を沈殿させ、かつMn2+、Co2+、Ni2+を当該溶液中に維持し、次いでFe(OH)、Cu(OH)およびAl(OH)を濾過により分離する。なお上記プロセスは溶液141を40℃~80℃の温度に維持し、このようにして従来の手法で必要とされる高熱を回避することを含む。
【0032】
不純物除去のためのpH調整は一般に、除去が求められる特定の不純物に基づいてpHを調整する。例えば約3~5のpH範囲は鉄を溶液から沈殿させる。銅は約5~7のpHで沈殿する傾向がある。リサイクル流中の不純物の量および種類に応じて、不純物除去段階は異なるpH範囲を標的にしてもよい。充填材料金属(Ni、Mn、Co)が溶解されたら、そのpHは酸浸出の量および濃度に応じて約1~3まで低下しているであろう。純粋な形態でNMCを沈殿させるためにpHを上げる前に、以下でさらに考察されている還元剤を任意で添加することにより不純物を沈殿させることができる。言い換えると、pHを上げるために水酸化ナトリウムまたは他の強塩基を添加する間に不純物はより低いpHで沈殿し、その後にNMC水酸化物がより高いpHで沈殿する。
【0033】
次いで望ましい材料を溶液141に溶解する。望ましい材料の所定の標的比に基づいて、当該溶液を調整して望ましい材料の所定の比を達成する。例示的な手法では、これはコバルト、マンガンおよびニッケルの1:1:1の組み合わせであるが、あらゆる好適な比を用いることができる。従って当該溶液を調整することは、生成された溶液141から得られるリサイクルされるカソード材料に使用するための望ましい材料の所望の比を特定すること、原料がさらなる量の望ましい材料を含むように原料142を添加して所望の比を達成すること、およびその後に新しい原料を添加して所定の比を達成することを含む。原料の添加は、既に溶液形態の個々の望ましい材料を分離することなく、所望の比を達成するためにさらなる量の望ましい材料を添加することを含み、従って混合された望ましい材料(Co、Mn、Ni)は、通常は化合物の分子結合を破壊するために高熱を必要とする従来の手法のように別々に抜き出したり抽出したりすることを必要としない。さらに他の構成では、特定のカソード材料を合成するために使用することができる選択された金属元素を当該溶液から分離することができる。従って、望ましい材料の所定の比のために当該溶液を調整する前にpHを調整して1種以上の金属イオンまたは他の元素を抽出し、かつその後に残っている望ましい材料を所定の比で抽出してもよい。
【0034】
それどころか、当該溶液中のMn2+、Co2+、Ni2+の濃度を試験して、さらなるCoSO、NiSO、MnSOによりそれらの比を1:1:1または他の適した比に調整する。NaOH溶液を添加してpHを通常は10.0~13の範囲内で約11に上昇させ、このようにして新しい(リサイクルされる)充填材料のための望ましい材料が沈殿するように当該溶液のpHを調整する。工程4に示されているように、それぞれのモル比が1:1:1になるようにNi1/3Mn1/3Co1/3(OH)またはNi1/3Mn1/3Co1/3O(OH)あるいはそれらの混合物を共沈させることができる。NiMnCo(OH)またはNiMnCoO(OH)または異なる比のx、yおよびzを有する混合物も沈殿させることができる。工程5に示されているように、NaCOを当該溶液に添加してLiCOを沈殿させる。最後に、回収されたNi1/3Mn1/3Co1/3(OH)およびLiCOを焼結させてカソード材料を製造する。
【0035】
例示的な構成における望ましい材料は、使用済み電池セル120の充填材料122から抽出されたマンガン(Mn)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)を含み、ここでは望ましい材料は沈殿中に溶液141中で混合されたままである。pHを調整することは、望ましい材料が沈殿するようにpHを上げるためにNaOH(水酸化ナトリウム、アルカリ液または苛性ソーダともいう)などの物質を添加することを含むが、pHを上げるためのあらゆる好適な物質を用いることができる。最終的にpHの調整は、望ましい材料を定める個々の化合物を別々に沈殿させることなくカソード前駆体材料として使用するための望ましい材料の沈殿を可能にするために、pHを上げるために水酸化ナトリウムを添加することを含む。望ましい材料の沈殿は80℃未満の温度で生じ、従来の手法で必要とされる高熱を回避する。従来の手法とは対照的に、望ましい材料は組み合わせられた水酸化物(OH)、(OH)または炭酸塩(CO)として沈殿中に混合されたままであることにさらに留意すべきである。比を調整するためのさらなる充填材料の添加は、得られるリサイクルされる電池のために所望のモル比を達成する。中間体または前駆体形態は炭酸リチウムLiCOとの焼結後にリチウム酸化物形態となる。
【0036】
NaCOを当該溶液に添加して約40℃でLiCOを沈殿させる。濾過後に、LiCOを出発物質としてリサイクルして、工程5および5aに示されているように活性カソード材料LiNi1/3Mn1/3Co1/3を合成することができる。従って、本方法は沈殿した望ましい材料にリチウムを戻して新しい電池のために適した活性カソード材料を形成し、かつ望ましい材料を所定の比で沈殿させて、望ましい材料の所定の比を有する新しい電池140のために充填材料を形成する。
【0037】
工程6に示されているように、共沈させた材料Ni1/3Mn1/3Co1/3(OH)またはNi1/3Mn1/3Co1/3O(OH)あるいはそれらの混合物ならびにM(M=Ni1/3Mn1/3Co1/3)に対して1.1のモル比のLiでさらなるLiCOを含む回収されたLiCOを混合し、かつ乳鉢で粉砕した。混合物を任意の好適な処理によって再調合して新しい電池140のために活性カソード材料134を形成してもよい。例示的な手法では、混合物を900℃で15時間焼結させた。その後の新しいセル140への分配および再形成のために反応生成物を粉砕して粉末にしてもよい。LiNi1/3Mn1/3Co1/3を900℃で15時間の高温固相法により焼結させる。
【0038】
アルミニウム(Al)を含む電池化学物質は、LiNiCoAlOなどの化学物質を用いる電気自動車などの用途のために益々一般的になっている。新しいリチウムイオン電池のために新しい活性材料を調製するために使用できる方法で、化学物質LiNiCoAlOを含むリチウムイオン電池から活性材料を回収するための従来の手法は、いくつかの欠点に直面している。従来のプロセスは、高価な有機試薬を使用することなくLNiCoOまたはLiNiCoAlO電池のために新しいカソード材料を調製するために使用することができるような形態でLiNiCoAlOから遷移金属を回収することができない。回収された前駆体材料NiCoAl(OH)またはNiCo(OH)は、新しいLiNiCoAlOまたはLiNiCoOカソード材料を調製するために使用することができる。これは、Al(OH)を沈殿した材料に添加すること、および/または沈殿前に硫酸Ni、CoまたはAlを当該溶液に添加することを含んでもよい。1つの具体例では、ニッケルおよび硫酸コバルトの溶液をリサイクルされる材料から得た。Al出発物質としてのAl(SO・18HOを蒸留水に溶解した。その後に、キレート剤5-スルホサリチル酸を硫酸アルミニウム溶液に溶解した。遷移金属硫酸塩、硫酸アルミニウム、アンモニアおよびNaOHの溶液を連続撹拌タンク反応器にポンプで汲み込んだ。金属硫酸塩溶液の総濃度は1.5Mまたは他の濃度であった。キレート剤の濃度は0.05M~0.5Mである。pHを10pHに制御した。撹拌速度は500~1000rpmであり、温度を30~60℃に制御した。反応後に、NiCoAl(OH)共沈物を濾過し、洗浄および乾燥した。金属水酸化物共沈前駆体を5%過剰な炭酸リチウムと徹底的に混合した。この混合物を最初に空気中450℃で4~6時間か焼し、次いで酸素雰囲気または空気中750~850℃で15~20時間焼結させてLiNiCoAl粉末を得て、新しい電池に使用するのに適した充填材料を形成した。
【0039】
そのようなリサイクル作業のために、当該電池は単一流化学物質(LiNiCoAlO)であることが望ましいが、LiMO(式中、MはマンガンならびにNi、AlおよびCoである)中に他の化学物質が存在する場合、マンガンを溶液から除去することができる。Ni、CoおよびAlを使用して前駆体を沈殿させ、かつカソード材料を合成することができる。
【0040】
LiNiCoAlOの回収および合成のために、少なくとも2つの手法が存在する。図6はリチウムイオン電池をリサイクルするプロセスフロー図である。図7は、水酸化アルミニウムを用いてリチウムイオン電池をリサイクルする他の構成のためのプロセスフローである。
【0041】
図6を参照すると、回収プロセスに供するためにカソード粉末を当該電池/集電体から分離しなければならない。使用済みセル材料の物理的撹拌を使用して、工程601に示されているように密閉されたシステムまたは封じ込め容器において圧潰された使用済み電池材料を浸出させることによりカソード材料を抽出して溶液中の集電体を分離する。どのようにこれを行うことができるかの例示的な方法は、細断および選別によるものである。次いで、これらの粉末を硫酸および過酸化水素の組み合わせを用いる溶液の中に浸出させることができ、このような浸出は、過酸化水素および硫酸のうちの少なくとも一方の添加から溶液を形成することを含んでもよい。水酸化物を沈殿させて濾過することにより不純物を除去するために、当該溶液のpHを調整することにより不純物を除去することができる。工程602に開示されているように、これはpHを5~7に上昇させてそれぞれの水酸化物を沈殿させて濾過することにより行ってもよい。この工程において水酸化アルミニウムも除去してもよい。工程603では、好適な化学物質を添加することにより当該溶液中のMnイオンも除去することができる。溶液中のイオンの濃度を測定し、かつ工業的必要性に基づいて所望の比に調整する。工程604に示されているように、これは得られる回収された充填材料の所望の組成に基づいてNi、Coおよびアルミニウム塩のうちの少なくとも1つを添加することを含む。Al(SO4)またはAl(OH)または他のアルミニウム塩を当該溶液に添加する前にpHを7超まで上昇させることが望ましい場合がある。次いで工程605に示されているように、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのうちの少なくとも1つを用いて沈殿させることにより前駆体材料を回収してもよい。工程606および607に示されているように、回収された前駆体材料を炭酸リチウムと共に焼結させることにより活性カソード材料を形成する。工程605からの沈殿物を材料もしくは電池製造業者に販売することができ、次いで混合して炭酸リチウムと共に焼結させて活性LiNiCoAlOを形成することができる。
【0042】
図7に示されている他の構成では、沈殿後にアルミニウムを溶液に添加せず、Al(OH)を当該材料に添加し、混合した後にそれを炭酸リチウムと共に焼結させて活性材料を形成する。従って図7を参照すると、工程701~703は図6中のそれらの対応物として進行する。LiNiCoO材料を回収することが望ましい場合、当該手順は図6に従うが、アルミニウムを当該溶液または沈殿物の中に戻さない。従って当該プロセスは、工程704において回収された充填材料を沈殿させる前にNiまたはCoのみを添加することを含む。当該プロセスは、沈殿後(工程705)であって工程708において焼結させる前まで水酸化アルミニウムの添加(工程706)を遅らせる。一般に、図6および図7に示されているプロセスを用いて形成された活性充填材料は、LiNixCoxAlzOを含む(式中、x、yおよびzは得られる活性充填材料の組成を定める整数である)。Cu、Al、鋼、炭素、炭酸リチウムを含む他の材料および遷移金属を含む他の材料も回収することができる。
【0043】
他の構成では、上記手法は、pH変化の一般的な側面を認識し、かつ純粋な(未使用の)カソード材料と再結合させて新しいリサイクルされるカソード材料に対する化学的要求に基づくモル比を有する組み合わせられた前駆体を形成することにより、Ni/Mn/Co(NMC)およびNi/Co/Al(NCA)化学物質の両方を含む単一流リサイクルプロセスに集中している。
【0044】
図8は、あらゆる好適なモル比でのNi/Mn/CoおよびNi/Co/Al電池の両方のための組み合わせられたリサイクルプロセスのプロセスフロー図である。図8の手法では以下の利点が達成される。
【0045】
1.LiNiMnCoおよびLiNiCoAlの両方はLiイオン電池のためのカソード材料である。これらのカソード材料はリサイクルプロセスにおいて合成することができる。これらの回収されたカソード材料は未使用の材料と同様の性能を有し、新しい電池を作製するために使用することができる。
【0046】
2.図8のフローチャートでは、異なる比のNi、MnおよびCoを有するLiNiMnCoおよび異なる比のNi、CoおよびAlを有するLiNiCoAlの両方を回収する。LiNiMnCoおよびLiNiCoAlは、それらの炭酸塩または水酸化物をLiCOと共に焼結させることにより合成することができる。本発明者らの以前の特許では、LiNiMnCoはNiMnCo(OH)およびLiCOを焼結させることにより合成されている。なお元素組成(例えばNMCまたはNCA)およびそれらの元素のモル比の両方は、それぞれのモル比を明示する下付き文字x、y、zによって示されている浸出および浸出させた溶液への純粋な原料の添加後のモル比によって決定される。他の好適な電池化学物質はここに開示されている手法を用いて形成してもよい。
【0047】
3.リサイクル流に基づいて、LiNiMnCoまたはLiNiCoAlを合成することができる。リサイクル流がMn系電池を含むかMn化合物が添加される場合にLiNiMnCoが合成される。リサイクル流がMn系電池を含まないかMnが除去される場合にLiNiCoAlが合成される。
【0048】
4.LiNiMnCoおよびLiNiCoAlの両方のためにpHを5~7に上昇させ、それらの水酸化物を沈殿させて濾過することにより不純物を除去することができる。
【0049】
5.炭酸塩および水酸化物前駆体沈殿物は、当該溶液中のそれらの溶解度を制御することにより得ることができる。
【0050】
図8には、リサイクルされる電池のための新しい充填材料を生成するためのリサイクル流の処理が示されている。リチウムイオン電池をリサイクルするための方法は、消耗され、廃棄され、かつ/または使用済みのリチウムイオン電池のリサイクル流を工程801において受け取ること、および工程802に示されているように当該電池を撹拌し、物理的粉砕、細断および/または離脱により内部構成要素および充填材料を露出させて、液体曝露に開放される表面積を得ることを含む。
【0051】
工程803では、物理的篩分けおよび濾過によりケーシング、セパレータおよび大きい外部材料を除去し、酸浸出プロセスが工程804で開始される。工程804に示されているように、リチウム電池リサイクル流からの圧潰された電池材料を酸浸出剤および過酸化水素(H)と組み合わせることにより浸出させた溶液を形成して、カソード材料を溶解されていない材料から分離する。低pH溶媒浴、浸出液または他の好適な組み合わせは、Ni、Mn、CoおよびAlなどのカソード材料を溶解するためにリサイクル流の撹拌材料を浸す。酸浸出剤は2~7M(モル)の範囲の濃度の硫酸であってもよく、特定の構成では酸浸出剤は4Mの硫酸である。
【0052】
ここに開示されている手法の特定の特徴は、リサイクル流中の様々な未知の化学物質から提供されるリサイクルされる電池のための様々な標的化学物質に対する適応力である。設計または要求仕様は、リサイクルされる電池の充填材料の化学物質に対応するカソード材料のモル比および元素を特定することによりリサイクルされる電池のための材料パラメータを決定する。顧客によって指示される電池利用は、例えば電気自動車またはハイブリッド車の利用、携帯可能な電子装置などの最優先因子であってもよい。特定の元素およびモル比を指定する特定された電池化学物質により、ここに開示されている手法によって製造されるリサイクルされる電池の特定の電気特性が得られる。
【0053】
浸出液への溶解後に試験または試料を用いてそこに溶解されているイオンのモル比を特定し、このようにして投入されるリサイクル流の以前に知られていない1つにまとめられた組成を明らかにすることにより浸出液の組成を決定する。全ての充填材料が浸出液中で混合されたままであり、個々の元素の抽出または沈殿は必要とされなかったことを思い出されたい。
【0054】
決定された組成に基づいて、硫酸塩(xSO)中のNi、Co、MnまたはAl塩または水酸化物(xOH)形態を浸出液に添加して、浸出液中に溶解されているカソード材料の塩のモル比をリサイクルされる電池のために特定されたモル比に対応するように調整する。期待される電池化学物質に応じて、例えば1:1:1の比を有するNMC化学物質または代わりとして1:2:1の比を有するNCA化学物質を目的としてもよい。充填材料の任意の好適な比および組み合わせを選択してもよい。1つの特定の選択は、マンガン(Mn)を含めるか否か、またはNCAマンガン非含有調合物を用いるか否かの決定であってもよい。
【0055】
モル比を調整する前に、工程805に示されているように、決定された材料パラメータ外の不純物の水酸化物形態を沈殿させるためにpHが5.0~7.0の範囲になるまで水酸化ナトリウムを添加することにより不純物を浸出液から沈殿させてもよい。
【0056】
決定された電池化学物質および供給源リサイクル流により、工程805からの決定点が生じる。リサイクルされる電池のための化学物質がマンガン(Mn)を含む場合、工程806に示されているようにカソード材料の塩は水酸化物形態のNi、MnおよびCoを含む。そうではなくリサイクルされる電池がMnを含まない場合、工程809に示されているようにカソード材料の塩は水酸化物形態でNi、CoおよびAlを含む。Mn非含有調合物では、モル比を調整するために原料を添加する前に、マンガンイオンを浸出液から除去してもよい。
【0057】
工程805での分岐後に、一般にカソード材料の金属イオンを沈殿させて濾過するために浸出液のpHを少なくとも10に上げるために水酸化ナトリウムを添加して、リサイクルされる電池のために特定されたモル比に対応するモル比を有する組み合わせられた水酸化物(OH)、(OH)または炭酸塩(CO)として浸出液中に残っているNi、Co、MnおよびAl塩を共沈させることにより充填材料前駆体を形成し、充填前駆体材料は炭酸リチウム(LiCO)と共に焼結させた後に活性カソード材料を酸化物形態で形成するための焼結に応答する。
【0058】
いずれかの工程において、水酸化物充填材料を沈殿させるためにpHを10~13.0の範囲に上げることにより充填前駆体材料を生成し、より具体的には工程807および810に示されているように、水酸化ナトリウムを添加することによりpHを上げてpHを11.0に上昇させることを含んでもよい。工程808および811に示されているように、得られる充填材料前駆体はNiMnCo(OH)、NiMnCoCO、NiCoAl(OH)またはNiCoAlCOの形態を有し、式中、x、yおよびzによって定められるモル比はリサイクルされる電池の決定された材料パラメータに基づいている。
【0059】
より一般的な意味では、硫酸アルミニウムをキレート剤と混合し、硫酸アルミニウム溶液およびニッケル硫酸コバルト溶液をアンモニウム水および水酸化ナトリウムと共に反応器に添加する。pHモニターが常に監視し、さらなる水酸化ナトリウムを放出してpHを10.0または他の好適なpHに維持してNCA前駆体の共沈を生じさせる。
【0060】
図8の一般化されたプロセスは、Mnを含まないAl系電池化学物質に対応させるためのものであるが、適応可能な場合には工程806または809においてモル比を修正することにより、あらゆる好適な調合物のために使用してもよい。
【0061】
上に開示されている充填材料前駆体により、向上した特性を有する活性カソード材料が得られる。リサイクル流から得られた粒子および粉末は、得られる活性カソード材料における孔形成および累積孔体積を高める表面イオンを含む。
【0062】
リサイクル流において、粉砕および細断などの物理的撹拌により不均一な質量の電池材料が得られる。電池材料は消耗した使用済み充填材料だけでなく、リサイクル流で沈殿した電池製品の一部である関連する導電表面、コネクタおよびワイヤなどと共に物理的ケーシング、電極および集電体構成要素も含む。外部電池部品の物理的分離は限界を有し、得られる粉末または粒状の塊は鉄金属、銅および他の材料などの少量の不純物を必ず含む。典型的にはこの不純物の量は2%未満である。
【0063】
さらに、消耗した充填材料は従来の手法が用いる新しく精製された未使用の材料とは異なるイオンを粒子表面に示す。従来の手法は、Ni、Mn、CoおよびAlなどの新しく精製された粒子状の材料を用い、かつもっぱら未使用の材料を用いて活性充填材料を形成する。対照的に、本特許請求されている手法はリサイクル流からの粒子状の材料を用い、次いで必要に応じて未使用の材料を添加する。リサイクルされる材料中に残留する表面イオンは、累積孔体積を増加させるために孔形成を促進するイオンの存在を提供する。孔体積は、電解質がより大きい表面積に接触し、かつより高い放電率を促進するために充填材料の周りにより容易に広がるのを可能にする。
【0064】
リチウムイオン電池(LIB)の性能および製造能力は、当該電池内に使用される材料の選択によって影響される。電極材料の細孔径および形状、粒子径および形状、表面積および密度を制御するための能力は、LIB性能の最適化において重要である。LIB性能は、容量としても知られているエネルギー貯蔵および負荷または電力としても知られている電流供給によって特徴づけられる。エネルギーおよび電力特性は電極上の粒子径によって定められる。より大きい粒子は最大容量のために表面積を増加させ、細かい材料は高い電力のためにそれを減少させる。
【0065】
高表面積は電極内での拡散距離を減少させ、かつ電極と電解質との間でのイオン交換を促進するのを助け、電気化学反応の効率を高める。本明細書における構成では、リサイクルされる材料中に既にあるイオンは、未使用の材料よりも孔体積を増加させる。粉末または粒子の表面にあるイオンは得られる活性充填材料において孔体積を増加させる。
【0066】
逆に、粒子径を減少させることにより空隙を埋める電解質の存在を少なくする。セル内の電解質の体積は電池容量を決定する。粒子径を減少させることにより粒子間の空隙を減らし、それにより電解質含有量を下げる。あまりに少ない電解質はイオンの移動性を低下させ、性能に影響を与える。
【0067】
本明細書に開示されている構成では、電池寿命よりも電荷を素早く移動させるための能力および故に高い放電率が好ましい。典型的な業界標準では、電池の充電および放電率はCレートによって管理される。電池容量は一般に1Cと定められおり、これは1Ahと定められた完全に充電された電池が1時間で1Aを提供することを意味する。従ってCレートは、電池当たりの1時間当たりの1amp容量(amp/時間)に対する放電率を表す。
【0068】
リチウムイオン電池のためのここに開示されている活性カソード材料は、圧潰された処分された電池のリサイクル流から得られる充填材料前駆体を包含する。充填材料前駆体は、リサイクルされる電池化学物質およびリサイクル流から得られる不純物に基づく充填材料の比を有する。上で考察されているようにリサイクルされる電池化学物質は、残っている少量(典型的には2%未満)の不純物を含む得られるリサイクルされる電池における意図されたモル比の元素を定める。不純物としては典型的にはAl、CuおよびFeが挙げられる。
【0069】
充填材料前駆体は、充填材料の比を満たすために添加される必須元素からなる化合物の未使用のストックをさらに含む。未使用のストックは、充填材料に対応する未使用の形態の精製された元素をベースとする新しい必須元素からなる化合物を含む。この添加される未使用のストックは、仕上げられたリサイクルされる電池製品のために、この意図されたモル比に基づいて充填材料の割合を調整する。充填材料前駆体は、充填材料の比を達成するために必須元素からなる化合物の添加に基づくリサイクル流および未使用のストックの両方からの充填材料の組み合わせられた溶液の共沈から得られる。あらゆる量の未使用のストックをリサイクルされる充填材料と組み合わせてもよい。リサイクルの有効性が新しく精製された未使用のストックの量の増加と共に減少することは明らかになるはずである。典型的には未使用のストックは充填材料前駆体の10~90%である。
【0070】
リサイクル流からの充填材料は、典型的には多くの充電サイクルに耐えたものであるため、リサイクル流材料は前の充電サイクルから得られるイオンを有する。充填材料前駆体により、リサイクル流からのイオンに基づく累積孔体積が得られる。活性カソード材料は、充填材料前駆体を炭酸リチウムまたは同様の焼結化合物と共に焼結させて活性充填材料を形成することにより得られる。
【表1】
【0071】
イオンはリサイクルされる媒質から入ってきて表面に定着する傾向があり、それにより孔体積が増加する。累積孔体積は、リサイクル流中の原料の撹拌された塊りからの粒子表面にあるイオンに基づいて増加する。放電率の上昇は表1に示すように、特に5Cなどのより高い電流の流れにおいてリサイクルされる材料から生じる。一例では、充填材料前駆体により0.1Cの放電率で150~160mAh/gmの充電容量が得られる。リサイクルされる材料はそれぞれのCレートで測定された充電容量を示し、対照材料は従来すなわち未使用の充填材料の試験結果を示す。
【0072】
充填材料前駆体により、1.0Cの放電率を支持するために129.6~150mAh/gmの充電容量が得られる。その範囲の反対側では、5.0Cの放電率を支持するために76.2~120.8mAh/gmの充電容量が観察された。
【0073】
同試験は、充填材料前駆体により0.000120~0.000160c^3/gの累積孔体積を示し、いくつかの試料により0.000163c^3/gの累積孔体積が得られる。充填材料前駆体は、20.0~20.833Aの平均的な孔直径を有する粒子によって定められる。
【0074】
例示的な構成では、リサイクルされる電池化学物質はニッケル、マンガン、コバルト(NMC)であるが、上記Al系充填材料などの他の化学物質を用いてもよい。典型的なモル比としては、等しい割合のNi、Mn、Co、または50%のNi、30%のMn、20%のCo、または60%のNi、20%のMn、20%のCo、または80%のNi、10%のMn、10%のCoのうちの1つが挙げられるが、あらゆる好適な比を用いてもよい。
【0075】
なおさらに、他の構成は得られる充填材料の純度を高めることを目的とする。規定されている電池化学物質(すなわちNMC111、811、532)から逸脱している充填材料中の不純物は、充電容量および放電性能にマイナスの影響を与える。特にリサイクルされる電池材料を用いて作業する場合、前の世代の機能的電池を製造するのに使用された集電体、ケーシング、セパレータ、電気接点および他の製造された要素などの側面から生じる副生成物および付随的材料がリサイクル流中に存在する。特にアルミニウムおよび銅シートが頻繁にカソードおよびアノード集電体にそれぞれ使用される。マンガン(Mn)および鉄(Fe)が物理的ケーシングおよび電気接点などのための以前の電池構築物に用いられることが多い。
【0076】
電池材料は、混合された酸化状態の遷移金属であるNi+、Ni+、Co+、Co+などを含むため、還元的浸出により浸出の有効性を増加させることが分かっている。以前の出願は、リサイクルされる電池からのNiMnCo(OH)(x+y+z=1)(一般に前駆体NMC(OH)ともいう)の合成について記載している。本明細書に開示されている酸浸出を用いるリサイクルプロセスは、NMC充填材料を定める金属イオン(Ni、Mn、Coまたは他の金属イオン)の酸化状態に着目している。ここでは還元的浸出も有利である。この場合、還元剤は所望の金属イオンを溶液中に入れるのを助けるだけでなく、NMC(OH)の共沈に影響も与える。Ni+およびCo+は水性溶液中で定常状態の酸化状態であるが、Co+を特定の条件下で溶液の中に浸出させることができる。充填材料の金属イオンを特定の酸化状態に維持することにより、リサイクルされる充填材料ストックのために期待される得られる前駆体の純度は99.5%の純度を達成することができる。
【0077】
一般に還元剤(reducing agent)(還元剤(reductant)、還元剤(reducer)または電子供与体ともいう)は、レドックス化学反応において電子を失う、すなわち電子受容体(酸化剤(oxidizing agent)、酸化剤(oxidant)または酸化剤(oxidizer)ともいう)に電子を「供与する」元素または化合物である。還元剤の酸化状態は増加して酸化剤の酸化状態は減少するが、これは、還元剤は「酸化を受け」て「酸化」され、酸化剤は「還元を受け」て「還元」されると言うように表される。
【0078】
特定の例では、Co+を25℃で硫酸により1mg/hrの速度で溶液の中に浸出させることができる。従って特定の還元環境下では、Co+がCo|+に対して溶液の中に浸出する。Co+は、還元剤としてのHにより60℃で1時間後に99%の浸出有効性を有する。本明細書における例では、+3イオンが2+イオンに対して異なるpHで沈殿するので、金属イオンが2+酸化状態である場合にそれはリサイクルプロセスにとって有利である。望ましい材料を調製するためのpH範囲は所与のNMC組成の場合に<0.05ほどに非常に狭い場合があるため、溶液中の3+イオンの存在はサイズの厳格な制御による密な球状粒子の生成を難しくさせる。
【0079】
上で考察されているNMCリサイクル手法のさらなる改良は、還元剤を浸出プロセスに添加して酸化状態を維持することを含む。消耗した二次電池のリサイクル流において、リサイクルされる電池の製造に使用するために電池から充填材料をリサイクルする方法は、リサイクル流が解体された電池の電池化学物質によって定められる複数の充填材料を含むように、解体された電池をベースとするリサイクル流から粒状の塊を受け取ることをさらに含む。複数の充填材料の各充填材料は、電池化学物質がリサイクルされる電池に含めるための充填材料の比を定めるように、金属(Ni、MnまたはCoなど)によって定められ、かつ酸化状態を有する。金属イオンの酸化状態に基づいて選択された浸出酸が浸出液中に溶解された充填材料を定めるように、浸出液のpHを低下させて充填材料を浸出液に溶解するために浸出酸を粒状の塊に添加する。入ってくる流れの充填材料比および意図されたリサイクルされる電池化学物質に応じて、浸出液中の充填材料の所定のモル比を達成するために充填材料の比調整を行ってもよい。未使用のストックの添加により適切な充填材料比が達成されたら、pHを上げるために強塩基を浸出液に添加して、顆粒形態がリサイクルされる電池を形成するための焼結に応答する充填材料前駆体を定めるように充填材料の顆粒形態の化合物および好ましくは充填材料のみを沈殿させる。
【0080】
上の例では、NiMCo(OH)電池前駆体を電池廃棄物/スクラップから生成されたNi、MnおよびCoの溶液から調製し、ここではNi、MnおよびCoの酸化状態は電池前駆体の沈殿前に2+である。異なる酸化状態は異なる溶解度定数(ksp)を有するため、浸出液中のNiイオンは全て1つの酸化状態を有していなければならず、同様にCoは全て1つの酸化状態を有し、かつMnと同じ酸化状態でなければならない。理想的には、リサイクルされる電池のために必要とされる密な球状粒子を調製するために反応条件を厳密に制御する。
【0081】
比調整は、浸出液中の充填材料のモル比をサンプリングすることを含む。モル比がリサイクルされる電池のための所定のモル比とは異なる場合、浸出液中に溶解された充填材料の所定のモル比を達成するためにさらなる充填材料を添加してもよい。浸出酸が硫酸である場合、硫酸塩形態などの浸出酸に対応する化合物に基づいてさらなる充填材料を選択する。さらなる材料は典型的には、図示されている例では硫酸ニッケル、硫酸マンガンまたは硫酸コバルトなどの新しく提供された未使用の形態である。
【0082】
浸出液中の金属イオンのそれぞれの酸化状態が浸出液中の金属イオンのそれ以外の酸化状態と等しい場合により高い純度が生じる。Ni+はNi+に対して異なるkspを有するので、混合されたNi酸化状態を有する溶液を用いて電池グレードの前駆体を調製することは実行可能な手法になり得ない。同様に、Co+はCo+に対して異なるkspを有し、かつMn+またはMn+はMn+に対して異なるkspを有するので、純度は妥協される場合がある。従って充填材料を定める金属イオンのそれぞれの酸化状態が+2である場合、還元剤を浸出液に添加することにより浸出液中の充填材料のために2+の酸化状態を達成することが好ましい。
【0083】
一般に還元剤は、充填材料と組み合わせた還元剤の溶解度定数(ksp)に基づいて選択される。上の例では過酸化水素は実行可能な還元剤であることが分かっている。他の還元剤としては、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドラジン、一酸化炭素、一酸化窒素および二酸化硫黄が挙げられる。
【0084】
同様に、浸出酸は硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、過塩素酸およびヨウ化水素酸のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。例えばNi、MnおよびCoの対応する硫酸塩形態を用いた比調整を有する硫酸浸出は、有効な比調整を与える。
【0085】
浸出液中の金属イオンの酸化状態を維持することに加えて、還元剤も選択して不純物除去を容易にしてもよい。還元剤の慎重な選択と共にpHを調整することにより、後での沈殿のために溶液中に充填材料イオンを残しながら不純物の沈殿を可能にし、このようにして不純物をリサイクルされるストックから効率的に分離する。好ましくは、浸出酸の選択およびpHの調整は沈殿した充填材料の球状粒子を形成するための溶解度定数に基づいている。不純物除去は異なる段階で行ってもよいが、多くの場合に浸出酸の添加の後に行う。浸出液のpHの調整は、充填材料を溶液形態中に残しながらリサイクル流から得られる浸出液中の不純物を沈殿させるために行う。不純物、典型的には鉄、銅、アルミニウムおよびマグネシウムを沈殿させながら充填材料を溶液中に維持するためには微妙なバランスが存在する。
【0086】
いくつかの構成では、少量のマグネシウムがNMC結晶構造を安定化させる。従って、ドープ剤としての少量のマグネシウムを許容することは実際に有利である。比調整は、約1%未満の体積の充填材料を有し、かつ焼結された充填材料の得られる結晶構造の安定性に基づいて選択されたドープ剤を添加することを含んでもよい。Mgなどのドープ剤の少なくとも一部はリサイクル流に基づいて浸出液中に予め存在していてもよい。Mgは高Ni NMCのための一般的なドープ剤である。MgはLi層においてLi部位上に位置している。これはLi/Ni混合を防止する。Li/Ni混合はサイクリング安定性、速度能力、放電容量および熱安定性を下げるため、高Ni NMCにとって重要な問題である。MgはLi層中に位置し、かつ電気化学的に活性でないため、それは結晶格子のための構造柱として機能する。それは格子変形を減らし、かつ構造的可逆性を高める。従って、Mgでドープされた高Ni NMCはより長いサイクル寿命、より高熱安定性およびより良好な速度能力を有することが分かっている。
【0087】
従って比調整は、浸出液中のドープ剤の割合を特定し、かつ予め存在しているドープ剤の割合に基づいてさらなるドープ剤を添加することを含む。Al、BおよびTaなどの他のドープ剤を検討してもよい。
【0088】
不純物除去のための別の技術は銅の電着を含む。これは、浸出液のpHを0~5の範囲に調整すること、浸出液内への電着のために電極を挿入すること、および浸出液中に残っている銅の電着のために0.5~2.0vの電圧を電極に印加することを含む。図9は不純物除去のために使用されるCuの電位-pH図である。図9を参照すると、電圧に対するpHのグラフ900が軸901および902にそれぞれ示されている。Cu+は905として表示されている領域において堆積する傾向がある。上に示されているリサイクル順序では、銅の電着の前にFe、AlおよびCuなどの不純物を沈殿させるためにpHを3.0~6.5の範囲に調整することにより他の不純物を除去してもよい。上に示されているように、5~7の範囲のより低いpHはFeを標的にし、より高いpHは電着への追加または代替法としてCuを沈殿させる傾向がある。
【0089】
本明細書に定められているシステムおよび方法は特にそれらの実施形態を参照しながら図示および説明されているが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明における形態および細部において様々な変更をなすことができることが当業者によって理解されるであろう。

図1
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【外国語明細書】