IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-量子ドットの製造方法 図1
  • 特開-量子ドットの製造方法 図2
  • 特開-量子ドットの製造方法 図3
  • 特開-量子ドットの製造方法 図4
  • 特開-量子ドットの製造方法 図5
  • 特開-量子ドットの製造方法 図6
  • 特開-量子ドットの製造方法 図7
  • 特開-量子ドットの製造方法 図8
  • 特開-量子ドットの製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033157
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/08 20060101AFI20230302BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230302BHJP
   C09K 11/08 20060101ALN20230302BHJP
   C09K 11/88 20060101ALN20230302BHJP
   C09K 11/56 20060101ALN20230302BHJP
   C09K 11/54 20060101ALN20230302BHJP
   C09K 11/70 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
C01B25/08 A
B82Y40/00
C09K11/08 G ZNM
C09K11/08 A
C09K11/88
C09K11/56
C09K11/54
C09K11/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126546
(22)【出願日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021138959
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂上 知
(72)【発明者】
【氏名】中對 一博
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CC03
4H001CC07
4H001CF01
4H001XA08
4H001XA15
4H001XA16
4H001XA30
4H001XA34
4H001XA49
4H001XA52
(57)【要約】
【課題】発光スペクトルの半値全幅(FWHM)及び対称性に優れたInP系量子ドットを提供すること。
【解決手段】コアに少なくともリン源とインジウム源との反応により得られたInP系量子ドットを有し、シェルにInP系以外の被覆化合物を有するコアシェル構造の量子ドットを製造するための方法であって、前記コアに前記被覆化合物を被覆させるときの反応を、複数種のアミン誘導体を含有する溶媒中で行う量子ドットの製造方法である。前記被覆化合物は、少なくとも亜鉛源との反応により得られるものであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアに少なくともリン源とインジウム源との反応により得られたInP系量子ドットを有し、シェルにInP系以外の被覆化合物を有するコアシェル構造の量子ドットを製造するための方法であって、
前記コアに前記被覆化合物を被覆させるときの反応を、複数種のアミン誘導体を含有する溶媒中で行う量子ドットの製造方法。
【請求項2】
前記アミン誘導体が、カプリルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、モノデシルアミン、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノドデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジデシルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジベンジルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミン、トリヘキサデシルアミン及びトリベンジルアミンからなる群から選ばれる少なくとも2種以上である請求項1に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項3】
前記反応を、更に金属ハロゲン化合物を含む溶媒中で行う請求項1又は2に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項4】
前記金属ハロゲン化合物が、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛及びヨウ化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項3に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項5】
前記被覆化合物が少なくとも亜鉛源との反応により得られるものである請求項1又は2に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項6】
前記被覆化合物が、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTe、ZnSeTe、ZnTeS、ZnO、ZnOS、ZnSeO又はZnTeOである請求項1又は2に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項7】
前記リン源が、下記一般式(1)で表されるシリルホスフィン化合物である請求項又は2に記載の量子ドットの製造方法。
【化1】

(Rは、それぞれ独立に、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数6以上10以下のアリール基である。)
【請求項8】
前記インジウム源が、酢酸インジウム、ラウリン酸インジウム、ミリスチン酸インジウム、パルミチン酸インジウム、ステアリン酸インジウム及びオレイン酸インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1又は2に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項9】
前記InP系量子ドットが、リン源とインジウム源との反応を20℃以上150℃以下の温度により得られたInP量子ドット前駆体を、200℃以上350℃以下の温度に加熱して得られたものである請求項1又は2に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項10】
InP量子ドット前駆体と、リン源とインジウム源以外の元素源M(Mは、Be、Mg、Ca、Mn、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、N、As、Sb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種)を含む化合物と共に、200℃以上350℃以下の温度で加熱して得られたInP系量子ドットをコアとする請求項1又は2に記載の量子ドットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットの製造方法、特にコアにInP系量子ドットを有し、シェルにInP系以外の被覆化合物を有するコアシェル構造の量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光材料として量子ドット(quantum dots)の開発が進んでいる。代表的な量子ドットとして、優れた発光特性などからCdSe、CdTe、CdS等のカドミウム系量子ドットの開発が進められている。しかし、カドミウムの毒性及び環境負荷が高いことからカドミウムフリーの量子ドットの開発が期待されている。
【0003】
カドミウムフリーの量子ドットの一つとしてInP(インジウムリン)系量子ドットが挙げられる。InP系量子ドットは、Cd系の量子ドットに比べると、量子収率や発光ピークの半値全幅(Full Width at Half Maximum、以下FWHMともいう)の特性で劣る部分があるため、様々な改善手法が提案されている。例えば特許文献1では、オレイルアミンと酢酸亜鉛をコアとなるInP量子ドットに混合してZn系のシェルを形成することが開示されている。特許文献2では、InP量子ドットと、塩化亜鉛及びオレイルアミンを混合した後、Se源とS源を加えてSe/S系のシェルを形成することが開示されている。また、非特許文献1では、InP量子ドットコアにZnSシェルを形成するために、塩化亜鉛及び1-ドデカンチオールを用いたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0362241号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第108641720号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Halide-Amine Co-Passivated Indium Phosphide Colloidal Quantum Dots in Tetrahedral Shape, Angewandte Chemie, International Edition (2016), 55, 3714-3718
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の製造方法で得られるInP系量子ドットはFWHMや量子収率の面で優れた特性を示すものの、Cd系量子ドットと同等の性能を実現するためにはFWHMのさらなる改善と共に、発光スペクトルの対称性を改善する必要があった。発光スペクトルの対称性は、発光ピーク波長を中心として短波長側と長波長側のスペクトル形状が左右対称であればあるほど、発光色の色純度向上に資するものである。そして、発光スペクトルの対称性を向上するためには、発光ピーク波長からより離れた短波長側と長波長側に現れる傾斜の緩やかなスペクトル(テール)や、発光ピーク中に現れる変曲点を有するスペクトル(ショルダー)の発生を抑える必要があった。
【0007】
テールの発生原因としては、コアとなるInP系量子ドット表面に存在する欠陥が影響を及ぼしているものと考えられている。また、ショルダーの発生原因としては、表面処理に用いられる配位子が量子ドットの特定の結晶面に対して強く結合してシェルの形成を阻害することにより、速やかで均一なシェルの形成が行われず量子ドットサイズにばらつきが生じることによって引き起こされると考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シェル形成を複数種のアミン誘導体を含有する溶媒中で行うことでコアとなるInP系量子ドット表面に存在する欠陥を効果的に塞ぐことができるため、発光スペクトルのFWHM及び対称性が同時に改善されることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち本発明は、コアに少なくともリン源とインジウム源との反応により得られたInP系量子ドットを有し、シェルにInP系以外の被覆化合物を有するコアシェル構造の量子ドットを製造するための方法であって、
前記コアに前記被覆化合物を被覆させるときの反応を、複数種のアミン誘導体を含有する溶媒中で行うことを特徴とする量子ドットの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発光スペクトルのFWHM及び対称性に優れた量子ドットの製造方法を提供でき、発光スペクトルのFWHM及び対称性に優れているため色純度の高い高品質な量子ドットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
図2】実施例2で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
図3】実施例3で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
図4】実施例4で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
図5】実施例5で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
図6】比較例1で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
図7】比較例2で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
図8】比較例3で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
図9】比較例4で得られた量子ドット分散液の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、少なくともリン源とインジウム源との反応により得られたInP系量子ドットをコアとし、前記コアにInP系以外の被覆化合物を被覆してシェル層を有するコアシェル構造の量子ドットを製造するための方法であって、前記コアに前記被覆化合物を被覆するときの反応を、複数種のアミン誘導体を含有する溶媒中で行うことを特徴とする量子ドットの製造方法である。以下、本発明の量子ドットの製造方法の好ましい実施形態を説明する。
【0013】
(リン源)
本発明における量子ドットのコアとなるInP系量子ドットの製造で使用するリン源としては、採用する化学合成法に合わせて種々のものを用いることができ、例えば、シリルホスフィン化合物及びアミノホスフィン化合物等のホスフィン誘導体、ホスフィンガス等が挙げられる。量子ドットを得やすい観点や入手容易性、得られる量子ドットの粒径分布制御の観点から、下記一般式(1)で表されるシリルホスフィン化合物であることが好ましい。リン源として用いるシリルホスフィン化合物は3級、つまり、リン原子に3つのシリル基が結合した化合物である。
【0014】
【化1】

(Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数6以上10以下のアリール基である。)
【0015】
前記一般式(1)中のRで表される炭素原子数1以上5以下のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、iso-ブチル基、n-アミル基、iso-アミル基、tert-アミル基等が挙げられる。
【0016】
前記一般式(1)中のRで表される炭素原子数6以上10以下のアリール基としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、iso-プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、iso-ブチルフェニル基、メチルエチルフェニル基、トリメチルフェニル基等が挙げられる。
【0017】
これらのアルキル基及びアリール基は1又は2以上の置換基を有していてもよく、アルキル基の置換基としては、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基等が挙げられ、アリール基の置換基としては、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。アリール基がアルキル基やアルコキシ基で置換されていた場合、アリール基の炭素原子数に、これらアルキル基やアルコキシ基の炭素原子数を含めることとする。
【0018】
前記一般式(1)における複数のRは同一であっても異なっていてもよい。また、前記一般式(1)中に3つ存在するシリル基(-SiR3)も、同一であってもよく、異なっていてもよい。前記一般式(1)で表されるシリルホスフィン化合物としては、Rが炭素原子数1以上4以下のアルキル基又は無置換若しくは炭素原子数1以上4以下のアルキル基に置換されたフェニル基であるものが、合成反応時のリン源としてインジウム源などの他の分子との反応性に優れる点から好ましく、とりわけトリメチルシリル基が好ましい。
【0019】
(インジウム源)
前記InP量子ドットの製造で使用するインジウム源としては、採用する化学合成法に合わせて種々のものを用いることができる。量子ドットを得やすい観点や入手容易性、得られる量子ドットの粒径分布制御の観点から、有機カルボン酸インジウムが好適に挙げられる。例えば、酢酸インジウム、ギ酸インジウム、プロピオン酸インジウム、酪酸インジウム、吉草酸インジウム、カプロン酸インジウム、エナント酸インジウム、カプリル酸インジウム、ペラルゴン酸インジウム、カプリン酸インジウム、ラウリン酸インジウム、ミリスチン酸インジウム、パルミチン酸インジウム、マルガリン酸インジウム、ステアリン酸インジウム、オレイン酸インジウム、2-エチルヘキサン酸インジウムなどの飽和脂肪族インジウムカルボキシレート;オレイン酸インジウム、リノール酸インジウムなどの不飽和脂肪族インジウムカルボキシレートなどを好適に用いることができる。特に入手容易性、粒径分布制御の観点から、酢酸インジウム、ラウリル酸インジウム、ミリスチン酸インジウム、パルミチン酸インジウム、ステアリン酸インジウム、オレイン酸インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。特に好ましくは炭素原子数12以上18以下の高級カルボン酸のインジウム塩が好ましい。
【0020】
(リン源とインジウム源との反応)
前記InP量子ドットの化学合成法としては、例えば、ゾルゲル法(コロイド法)、ホットソープ法、逆ミセル法、ソルボサーマル法、分子プレカーサ法、水熱合成法、又は、フラックス法等が挙げられる。本発明においては、リン源とインジウム源とを混合して、20℃以上150℃以下の温度で反応させてInP量子ドット前駆体を得た後、200℃以上350℃以下の温度で反応させてInP系量子ドットを得ることが好ましい。
【0021】
(InP量子ドット前駆体の製造方法)
InP量子ドット前駆体は、リン源とインジウム源との反応により得られる数nmから数十nmの粒径を有するナノ粒子であるInP量子ドットを細分化したクラスターであり、溶媒中で優れた安定性を示す特定の構成原子数、例えば数個から数百の原子数からなるものである。InP量子ドット前駆体は、数十から数百の原子数からなるマジックサイズクラスターであってもよく、それよりも原子数の小さなものであってもよい。上記の通りInP量子ドット前駆体は、溶媒中で優れた安定性を示すことができるため、これを用いることで粒径分布の狭い量子ドットを得やすい利点がある。本発明においてInP量子ドット前駆体におけるInPとはIn及びPを含むことを意味し、In及びPがモル比1:1であることまでを要しない。InP量子ドット前駆体は通常In及びPからなるものであるが、その最外殻に位置するIn又はP原子に、原料であるリン源又はインジウム源に由来する配位子が結合していてもよい。そのような配位子としては、例えばインジウム源が有機カルボン酸のインジウム塩である場合の有機カルボン酸残基、添加物として用いるアルキルホスフィン等が挙げられる。
【0022】
反応時におけるリン源及びインジウム源の混合モル比は、首尾よくInP量子ドット前駆体を得る観点から、P:Inが1:0.5以上10以下であることが好ましく、1:1以上5以下であることがより好ましい。
【0023】
リン源とインジウム源との反応は、有機溶媒中で行うことが反応性、安定性の観点から好ましい。有機溶媒としては、リン源、インジウム源等の安定性の点から非極性溶媒が挙げられ、反応性、安定性の点で脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、トリアルキルホスフィン、トリアルキルホスフィンオキシド等の溶媒が好ましく挙げられる。脂肪族炭化水素としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカンが挙げられる。不飽和脂肪族炭化水素としては、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等が挙げられる。トリアルキルホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリドデシルホスフィン等が挙げられる。トリアルキルホスフィンオキシドとしては、トリエチルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリドデシルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0024】
溶媒は、使用前に脱水しておくことが、リン源及びインジウム源の分解及びそれによる不純物の生成を防止する観点から好ましい。当該溶媒中の水分量は、質量基準で20ppm以下であることが好ましい。また、溶媒は使用前に脱気し、酸素を除去しておくことも好ましい。脱気は反応器内を減圧状態にしたり、不活性雰囲気へ置換したりする等の任意の方法にて可能である。
【0025】
リン源及びインジウム源を混合した反応液におけるリン源、インジウム源の各濃度は、例えば反応液100gに対して、リン原子基準のリン源の濃度、及び、インジウム原子基準のインジウム源の濃度がそれぞれ0.1mmol以上10mmol以下の範囲であることが、反応性や安定性の点で好ましく、0.1mmol以上3mmol以上の範囲であることがより好ましい。
【0026】
リン源及びインジウム源を混合する方法としては、リン源及びインジウム源をそれぞれ有機溶媒に溶解させ、リン源を有機溶媒に溶解させた溶液と、インジウム源を有機溶媒に溶解させた溶液とを混合することが、InP量子ドット前駆体を生成しやすい点で好ましい。リン源を溶解させる溶媒と、インジウム源を溶解させる溶媒は、同じものを用いてもよく、異なっていてもよい。
【0027】
この場合、リン源を有機溶媒に溶解させた溶液におけるリン源のリン原子基準の濃度は20mmol/L以上2000mmol/L以下の範囲であることが、反応性や安定性の点で好ましく、80mmol/L以上750mmol以下の範囲であることがより好ましい。またインジウム源を有機溶媒に溶解させた溶液におけるインジウム原子基準の濃度は0.1mmol/L以上20mmol/L以下の範囲であることが、反応性や安定性の点で好ましく、0.2mmol/L以上10mmol/L以下の範囲であることがより好ましい。
【0028】
リン源及びインジウム源を含む反応液には、配位子となり得る添加剤を加えることが、得られるInP量子ドット前駆体及びInP系量子ドットの品質が改善する点で好ましい。本発明者らは、配位子となり得る添加剤がInに配位するか或いは反応場の極性を変化させることが、InP量子ドット前駆体及びInP系量子ドットの品質に影響するものと考えている。そのような添加剤としてはホスフィン誘導体、アミン誘導体、ホスホン酸等が挙げられる。
【0029】
前記ホスフィン誘導体としては、1級以上3級以下のアルキルホスフィンであることが好ましく、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のものが好ましく挙げられる。分子中のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状であるアルキルホスフィンとしては、具体的には、モノエチルホスフィン、モノブチルホスフィン、モノデシルホスフィン、モノヘキシルホスフィン、モノオクチルホスフィン、モノドデシルホスフィン、モノヘキサデシルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジブチルホスフィン、ジデシルホスフィン、ジヘキシルホスフィン、ジオクチルホスフィン、ジドデシルホスフィン、ジヘキサデシルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィンが挙げられる。中でも、得られるInP量子ドット前駆体及びInP系量子ドットの品質向上の点で、分子中のアルキル基の炭素原子数が4以上12以下のものが特に好ましく、トリアルキルホスフィンであるものが好ましく、トリオクチルホスフィンが最も好ましい。
【0030】
前記アミン誘導体としては、1級以上3級以下のアルキルアミンであることが好ましく、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状あるいは分岐鎖状アルキルアミン、及び炭素原子数が6以上12以下の芳香族アルキルアミンが好ましく挙げられる。分子中のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状であるアルキルアミンとしては、具体的には、モノエチルアミン、モノブチルアミン、モノデシルアミン、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノドデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジデシルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミン、トリヘキサデシルアミンが挙げられる。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の分岐鎖状アルキルアミンとしては、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、1-メチルブチルアミン、1-エチルプロピルアミン、2-エチルブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジ-イソプロピルアミン、ジ-イソブチルアミン、ジ-1-メチルブチルアミン、ジ-1-エチルプロピルアミン、ジ-2-エチルブチルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、トリ-イソプロピルアミン、トリ-イソブチルアミン、トリ-1-メチルブチルアミン、トリ-1-エチルプロピルアミン、トリ-2-エチルブチルアミンが挙げられる。アルキル基が炭素原子数6以上12以下の芳香族アルキルアミンとしては、具体的には、アニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、モノベンジルアミン、ジベンジルアミン、トリベンジルアミン、ナフチルアミン、ジナフチルアミン、トリナフチルアミンが挙げられる。また、前記ホスホン酸としては、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のアルキル基を有するモノアルキルホスホン酸であることが好ましい。
【0031】
リン源及びインジウム源を含む反応液における配位子となり得る添加剤の添加量は、1molのInに対し、0.2mol以上であることが、配位子となり得る添加剤を添加することによる、InP量子ドット前駆体及びInP系量子ドットの品質向上効果を高める点で好ましい。配位子となり得る添加剤の添加量は、1molのInに対し、20mol以下であることが、品質向上効果の点で好ましい。これらの点から、配位子となり得る添加剤の添加量は、1molのInに対し、0.5mol以上15mol以下であることがより好ましい。
【0032】
配位子となり得る添加剤の反応液への添加のタイミングは、配位子となり得る添加剤をインジウム源と混合させて混合液とし、この混合液をリン源と混合してもよいし、配位子となり得る添加剤をリン源と混合させて混合液とし、この混合液をインジウム源と混合してもよいし、配位子となり得る添加剤をリン源及びインジウム源の混合液と混合させてもよい。
【0033】
リン源を有機溶媒に溶解させた溶液と、インジウム源を有機溶媒に溶解させた溶液とは、混合前に後述する好ましい反応温度又はそれよりも低温又は高温に予備的に加熱してもよく、混合後に、後述する好ましい反応温度に加熱してもよい。予備的な加熱温度として、反応温度の±10℃以内であり且つ20℃以上の温度であることが反応性、安定性の観点から好ましく、反応温度の±5℃以内であり且つ30℃以上の温度であることがより好ましい。
【0034】
反応性、安定性の観点からリン源とインジウム源との反応温度は、20℃以上150℃以下が好ましく、40℃以上120℃以下がより好ましい。反応性、安定性の観点から前記反応温度における反応時間は0.5分以上180分以下が好ましく、1分以上80分以下がより好ましい。
以上の工程により、InP量子ドット前駆体を含む反応液が得られる。
【0035】
反応液中にInP量子ドット前駆体が生成していることは、例えば紫外線-可視光吸収スペクトル(UV-VISスペクトル)を測定することにより確認できる。In源及びP源を反応させた反応液において、InP量子ドット前駆体が形成されている場合、UV-VISスペクトルにおいて300nm以上460nm以下の範囲にピーク又はショルダーが観察される。ショルダーはピークほど明確に尖端形状を有していないが、明らかに変曲点を有するものをいう。ショルダーが観察される場合、300nm以上460nm以下、特に310nm以上420nm以下の範囲に一つ、又は二つ以上の変曲点を有することが好ましい。UV-VISスペクトルは、0℃以上40℃以下で測定されることが好ましい。サンプル液は、反応液をヘキサン等の溶媒で希釈して調整する。測定時におけるサンプル液中のIn量及びP量は、サンプル液100gに対して、リン原子及びインジウム原子でそれぞれ0.01mmol以上1mmol以下の範囲であることが好ましく、0.02mmol以上0.3mmol以下の範囲であることがより好ましい。反応液の溶媒としては、インジウム源及びリン源との反応に好適に使用できる溶媒として後述するものが挙げられる。後述するように、溶媒中のInP量子ドット前駆体を200℃以上350℃以下に加熱することでInP量子ドットに成長すると、通常、反応液のUV-VISスペクトルは450nm以上550nm以下の範囲にピークが観察されるが、加熱する前の反応液は450nm以上550nm以下の範囲にピークが観察されない。
【0036】
また、反応液中にInP量子ドット前駆体が生成していることは、UV-VISスペクトルに替えて、例えば反応液が黄緑色~黄色になっていることでも確認できる。この色の確認は目視によるものでよい。例えば、InPマジックサイズクラスターを含む反応液は黄色であり、In及びPからなり、マジックサイズクラスターよりも原子数が少ない前駆体を含む反応液は黄緑色であることが一般的である。
【0037】
(InP系量子ドットの製造方法)
InP系量子ドットは、少なくともIn及びPを含有し、量子閉じ込め効果(quantum confinement effect)を有する半導体ナノ粒子を指す。量子閉じ込め効果とは、物質の大きさがボーア半径程度となると、その中の電子が自由に運動できなくなり、このような状態においては電子のエネルギーが任意でなく特定の値しか取り得なくなることである。量子ドット(半導体ナノ粒子)の粒径は、一般的に数nm~数十nmの範囲にある。ただし上記量子ドットの説明に該当するもののうち、量子ドット前駆体に該当するものは本発明において、量子ドットの範疇に含めない。
【0038】
前記のInP量子ドット前駆体を含む反応液は、反応終了後の時点で、好ましくは20℃以上150℃以下、より好ましくは40℃以上120℃以下の温度であるが、この温度を維持したまま、或いは室温まで冷却したものを用いることができる。
【0039】
前記のInP量子ドット前駆体を含む反応液は、そのまま加熱するか、又は加熱した溶媒と混合することによりInP系量子ドットを得ることができる。前記のInP量子ドット前駆体を含む反応液をそのまま加熱する場合は、粒径制御の観点から好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下の温度で加熱することにより、InP系量子ドットを得ることができる。加熱の際の昇温速度は1℃/分以上50℃/分以下であることが時間効率及び粒径制御の点で好ましく、2℃/分以上40℃/分以下であることがより好ましい。また、粒径制御の観点から、当該温度における加熱時間は0.5分以上180分以下が好ましく、1分以上60分以下がより好ましい。
【0040】
前記のInP量子ドット前駆体を含む反応液を加熱した溶媒と混合する場合、いわゆるホットインジェクション法によりInP系量子ドットを得る場合は、粒径制御の観点から好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下の温度に加熱しておいた有機溶媒中に、InP量子ドット前駆体を含む反応液を急速に加えることにより、InP系量子ドットを得ることができる。前記有機溶媒としては、前記したリン源とインジウム源との反応で使用した有機溶媒と同じものを使用することができる。InP量子ドット前駆体を含む反応液と有機溶媒との混合は、200℃以上350℃以下、更には240℃以上330℃以下の温度に維持したまま、10分以下、更には0.1分以上8分以下で保持することが、粒径制御の観点から好ましい。
【0041】
溶媒中のInP量子ドット前駆体の安定性は熱力学的であり、InP量子ドット前駆体は加熱に反応する特性を有する。例えば、溶媒中のInP量子ドット前駆体は、好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下に加熱した場合、InP量子ドットに成長しうる。このことは、加熱後の反応液をUV-VISスペクトルの測定に供すると、長波長側へピークシフトが観察されることから確認できる。例えばIn及びP以外に量子ドットを構成する他の元素を添加せずに溶媒中のInP量子ドット前駆体を好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下に加熱した場合、UV-VISスペクトルにおいて、420nm以上590nm以下の範囲にピークが観察される。InP量子ドットにおけるInPとはIn及びPを含有することを意味し、In及びPのモル比が1:1であることまでを要しない。InP量子ドット前駆体を好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは240℃以上330℃以下に加熱して得られたInP量子ドットを含む液のUV-VISスペクトルは、目的とする色を得るためのInP量子ドット前駆体にもよるが、300nm以上800nm以下の範囲のうち、最もピーク高さの高い吸収ピークが420nm以上600nm以下の範囲に観察されることが好ましい。
【0042】
また、反応液中にInP量子ドットが生成していることは、例えば反応液が黄色~赤色になっていることでも確認できる。この色の確認は目視によるものでよい。
【0043】
上記のInP量子ドット前駆体を加熱した後の反応液のUV-VISスペクトルや反応液の色の記載は、典型的には、In及びP以外に量子ドットを構成する他の元素を添加せずに加熱した場合を指す。しかしながら、上述したように、本発明はInP量子ドット前駆体にそのような化合物を添加して加熱する場合を何ら排除するものではない。
本発明においては、In及びP以外の他の構成元素を含まない量子ドット、並びにIn及びP以外の他の構成元素を含む量子ドットを総称して「InP系量子ドット」という。
【0044】
得られたInP系量子ドットは、反応溶液中に副生成物や未反応の不純物を含んでいるため、後述する表面処理を行う前に精製処理を施してもよい。この精製処理は、InP系量子ドットを含む反応溶液に、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトン、アセトニトリル等の有機溶媒を添加してInP系量子ドットを沈降させ、不純物を含んだ溶液とInP系量子ドットとに分離し、分離したInP系量子ドットを、トルエン、ヘキサン等の有機溶媒に分散することで行うことができる。不純物を含んだ溶液とInP系量子ドットとの分離は、遠心分離、デカンテーション、吸引ろ過等の操作により行うことができる。
【0045】
本発明の製造方法により製造されるInP系量子ドットは、InとPに加えて、リンとインジウム以外の元素Mを有する複合化合物からなる量子ドット(InとPとMの複合量子ドットともいう)であってもよい。元素Mとしては、Be、Mg、Ca、Mn、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、N、As、Sb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが、量子収率向上の観点から好ましい。元素Mを含むInP系量子ドットの代表例としては、例えば、InGaP、InZnP、InAlP、InGaAlP、InNP、InAsP、InPSb、InPBi等が挙げられる。元素Mを含むInP系量子ドットを得るためには、InP量子ドット前駆体を含む液を加熱する際に元素Mを含む化合物を含む液を反応液へ添加してもよいし、元素Mを含む化合物を含む液を加熱する際にInP量子ドット前駆体を含む液を反応液へ添加してもよい。元素Mを含む化合物とは、元素MがBe、Mg、Ca、Mn、Cu、Zn、Cd、B、Al及びGaの場合においては、元素Mの塩化物、臭化物、ヨウ化物の形態、炭素原子数12以上18以下の高級カルボン酸塩の形態であり、高級カルボン酸塩の形態である場合、反応に用いるカルボン酸インジウムのカルボン酸と同じでもよいし、異なっていてもよい。元素MがN、As、Sb及びBiの場合においては、元素Mに3つのシリル基又はアミノ基が結合した形態の化合物を好適に用いることができる。
【0046】
本発明におけるInP系量子ドットは、量子収率を高める目的で、表面処理剤等で表面処理されていてもよい。InP系量子ドットの表面を表面処理することにより、InP系量子ドット表面の欠陥等が保護され、量子収率の向上が図れる。また、この表面処理に連続して、後述するシェル形成を行うことで、得られる量子ドットの発光スペクトルのFWHM及び対称性の向上を図ることもできる。好適な表面処理剤としては、金属カルボン酸塩、金属カルバミン酸塩、金属ハロゲン化物、金属チオカルボン酸塩、金属アセチルアセトナート塩及びこれらの水和物等の金属含有化合物、ハロゲン化アルカノイル化合物、第4級アンモニウム化合物のハロゲン化物、第4級ホスホニウム化合物のハロゲン化物、ハロゲン化アリール化合物及びハロゲン化第3級炭化水素化合物等のハロゲン含有化合物、カルボン酸、カルバミン酸、チオカルボン酸、ホスホン酸及びスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。これらのうち、より量子収率の向上が図れる観点から、金属カルボン酸塩、金属カルバミン酸塩又は金属ハロゲン化物であることが好ましい。
【0047】
前記金属カルボン酸塩は、無置換又はハロゲン原子等に置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状又は環状で飽和又は不飽和結合を含む炭素原子数1以上24以下のアルキル基を有していてもよく、分子中に複数のカルボン酸を有していてもよい。また、金属カルボン酸塩の金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、La、Ce、Sm等を挙げることができる。これらのうち、金属カルボン酸塩の金属は、InP系量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、Zn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。このような金属カルボン酸塩としては、酢酸亜鉛、トリフルオロ酢酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛及び安息香酸亜鉛等が挙げられる。
【0048】
前記金属カルバミン酸塩としては、InP系量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、前記した金属のうちZn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。具体的には、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛及びN-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0049】
前記金属ハロゲン化物としては、InP系量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、前記した金属のうちZn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。具体的には、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。
【0050】
InP系量子ドットを表面処理する方法としては、例えば、上記したInP系量子ドットを含む反応液に表面処理剤を加えることで行うことができる。InP系量子ドットを含む反応液に表面処理剤を加えるときの温度は、粒径制御や量子収率向上の観点から、好ましくは0℃以上350℃以下、更に好ましくは20℃以上250℃以下であり、処理時間は、好ましくは1分以上600分以下、更に好ましくは5分以上240分以下である。また、表面処理剤の添加量は、表面処理剤の種類にもよるが、InP系量子ドットを含む反応液に対して、0.001g/L以上1000g/L以下が好ましく、0.1g/L以上500g/L以下がより好ましい。
【0051】
前記表面処理剤の添加方法としては、反応液に表面処理剤を直接添加する方法、表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法が挙げられる。表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法で添加する場合の溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソバレロニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、フェノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸フェニル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1-デセン、1-オクタデセン、トリエチルアミン、トリn-オクチルアミン、オレイルアミン、ジオクチルアミン、ジベンジルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン及び水等を使用することができる。
【0052】
(コアシェル構造の量子ドットの製造)
本発明の製造方法により得られる量子ドットは、前記InP系量子ドットをコアとし、当該コアを被覆化合物で覆ったコアシェル構造を有するものである。コアの表面に、コアに比して広いバンドギャップをもつ第二の無機材料(シェル層)を成長させることにより、コア表面の欠陥等が保護され、電荷の再結合による無幅射失活が抑制され、量子収率や安定性を向上させることができる。好適な被覆化合物としては、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTe、ZnSeTe、ZnTeS、ZnO、ZnOS、ZnSeO、ZnTeO、GaP、GaNが挙げられる。本発明においては、被覆化合物が少なくとも亜鉛源との反応により得られるものであることが好ましい。
【0053】
InP系量子ドットをコアとし、これを被覆化合物で覆ったコアシェル構造の量子ドットを製造する場合において、発光スペクトルのFWHM及び対称性を優れたものにする観点から、前記したコアとなるInP系量子ドットの表面処理とシェル形成を、連続して行うことが好ましい。この表面処理で使用する表面処理剤としては、前記したInP系量子ドットの表面処理剤と同じものを使用することができる。なお、表面処理とシェル形成を連続して行うとは、コアとなるInP系量子ドットと、表面処理剤及び被覆化合物原料を反応液に同時に存在させることで、コアとなるInP系量子ドットの表面処理を所定の温度で行った後、続けて反応液を加熱することにより被覆化合物によるシェル形成を行うものである。
【0054】
InP系量子ドットをコアとし、これを被覆化合物で被覆するコアシェル構造の量子ドットを製造する場合において、被覆の形成方法としては、表面処理を施したInP系量子ドットを含む反応液と、被覆化合物原料とを混合するか、又はInP系量子ドットを含む反応液と被覆化合物原料と表面処理剤とを混合し、200℃以上350℃以下の温度にて反応させる方法が挙げられる。或いは、被覆化合物原料の一部(例えば、Zn等の金属源等)を同様の温度に加熱して、これを他の被覆化合物原料の添加前にInP系量子ドットを含む反応液に添加混合した後に20℃以上350℃以下、更には20℃以上330℃以下に加温しておき、残りの被覆化合物原料を添加して反応させてもよい。なお、Zn等の金属源を、InP系量子ドットを含む反応液と混合するタイミングは、他の被覆化合物原料の添加前に限定されず、添加後であってもよい。
【0055】
被覆化合物原料としては、Zn等の金属源として、そのハロゲン化物又は有機カルボン酸塩を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物としては、例えば、亜鉛源として、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。金属の有機カルボン酸塩としては、特に炭素原子数12以上18以下の長鎖脂肪酸塩が、粒径制御や粒径分布制御、量子収率向上の点で好ましい。これらの金属源のうち、後述するアミン誘導体との親和性に優れる観点から、金属ハロゲン化物が好ましく、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛又はヨウ化亜鉛であることがより好ましく、塩化亜鉛であることが特に好ましい。本発明においては、発光スペクトルのFWHM及び対称性に優れた量子ドットを得ることを目的としているが、金属ハロゲン化物とアミン誘導体との組合せは、その優れた親和性により溶媒となるアミン誘導体への金属ハロゲン化物の溶解性が高くなるため、コアとなるInP系量子ドット表面に存在する欠陥を保護する効果が高まり、発光ピーク波長からより離れた短波長側と長波長側に現れる傾斜の緩やかなスペクトル(テール)の発生を抑制できるものと本発明者らは考えている。
【0056】
また、硫黄源としては、ドデカンチオール等の炭素原子数8以上18以下の直鎖状又は分岐鎖状の長鎖アルカンチオールやトリオクチルホスフィンスルフィド等の炭素原子数4以上12以下のトリアルキルホスフィンスルフィド化合物が好ましく挙げられる。セレン源としてはトリオクチルホスフィンセレニド等の炭素原子数4以上12以下のトリアルキルホスフィンセレニド化合物が好ましく挙げられる。テルル源としてはトリオクチルホスフィンテルリド等の炭素原子数4以上12以下のトリアルキルホスフィンテルリド化合物が好ましく挙げられる。
【0057】
本発明の量子ドットの製造方法においては、InP系量子ドットと被覆化合物原料との反応、或いはInP系量子ドットと被覆化合物原料と表面処理剤との反応を、複数種のアミン誘導体を含有する溶媒中で行う。また、複数種のアミン誘導体の混合物を溶媒として用いることもできる。前記反応を行うための反応液は、予め前記被覆化合物原料と前記溶媒とを、又は前記被覆化合物原料及び前記表面処理剤と前記溶媒とを混合してからInP系量子ドットを混合する方法で調製することが好ましい。このような処理を行うことで、シェル形成時に均一な反応場が与えられて、サイズの均一なコアシェル型量子ドットを得ることができるため、発光ピーク中に現れる変曲点を有するスペクトル(ショルダー)の発生を抑制できるものと本発明者らは考えている。
【0058】
前記アミン誘導体としては、カプリルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、モノデシルアミン、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノドデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジデシルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジベンジルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミン、トリヘキサデシルアミン、トリベンジルアミン等が挙げられ、これらのアミン誘導体のうち少なくとも2種以上を組み合わせて用いることで、得られる量子ドットの発光スペクトルの対称性が優れたものとなる。発光スペクトルの短波長側のショルダー及び長波長側のテールを防止する観点から、1級アミン誘導体と2級又は3級アミン誘導体とを組み合わせて用いることが好ましい。特に、オレイルアミン、モノオクチルアミン、モノヘキサデシルアミンから選ばれる1種以上と、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン及びジベンジルアミンから選ばれる1種以上との組み合わせであることが好ましく、オレイルアミンと、ジオクチルアミン、ジベンジルアミン、又はジ-2-エチルヘキシルアミンとの組み合わせであることがより好ましい。
【0059】
アミン誘導体の使用量は、用いる被覆化合物原料及びアミン誘導体の種類にもよるが、質量比で、被覆化合物原料:アミン誘導体が1:0.5以上1:100以下であることが好ましく、1:1以上1:10以下であることがより好ましい。
【0060】
被覆化合物原料の使用量は、例えば、被覆化合物として亜鉛等の金属を用いる場合、InP系量子ドットを含む反応液中のインジウム1molに対して0.5mol以上100mol以下が好ましく、4mol以上50mol以下がより好ましい。硫黄源やセレン源としては、上記の金属量に対応する量を使用することが好ましい。
【0061】
表面処理剤の使用量は、表面処理剤の種類にもよるが、InP系量子ドットを含む反応液に対して、0.001g/L以上1000g/L以下が好ましく、0.1g/L以上500g/L以下がより好ましい。
【0062】
本発明においては、量子収率を高める目的で、前記InP系量子ドットの表面処理と同様に、表面処理剤等でコアシェル型の量子ドットの表面を処理してもよい。コアシェル型の量子ドットの表面を表面処理することにより、シェル層表面の欠陥等が保護され、量子収率の向上が図れる。好適な表面処理剤としては、金属カルボン酸塩、金属カルバミン酸塩、金属チオカルボン酸塩、金属ハロゲン化物、金属アセチルアセトナート塩及びこれらの水和物等の金属含有化合物、ハロゲン化アルカノイル化合物、第4級アンモニウム化合物のハロゲン化物、第4級ホスホニウム化合物のハロゲン化物、ハロゲン化アリール化合物及びハロゲン化第3級炭化水素化合物等のハロゲン含有化合物等が挙げられる。これらのうち、より量子収率の向上が図れる観点から、金属カルボン酸塩又は金属カルバミン酸塩であることが好ましい。
【0063】
前記金属カルボン酸塩は、無置換又はハロゲン原子等に置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状又は環状で飽和又は不飽和結合を含む炭素原子数1以上24以下のアルキル基を有していてもよく、分子中に複数のカルボン酸を有していてもよい。また、金属カルボン酸塩の金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、La、Ce及びSm等を挙げることができる。これらのうち、金属カルボン酸塩の金属は、コアシェル型の量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、Zn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。このような金属カルボン酸塩としては、酢酸亜鉛、トリフルオロ酢酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛及び安息香酸亜鉛等が挙げられる。
【0064】
前記金属カルバミン酸塩としては、コアシェル型の量子ドット表面の欠陥をより保護できる観点から、前記した金属のうちZn、Cd、Al及びGaであることが好ましく、Znであることがより好ましい。具体的には、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛及びN-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0065】
シェル層を表面処理する方法としては、例えば、コアシェル型の量子ドットを含む反応液に表面処理剤を加えることで行うことができる。コアシェル型の量子ドットを含む反応液に表面処理剤を加えるときの温度は、粒径制御や量子収率向上の観点から、好ましくは0℃以上350℃以下、更に好ましくは20℃以上300℃以下であり、処理時間は、好ましくは1分以上600分以下、更に好ましくは5分以上240分以下である。また、表面処理剤の添加量は、表面処理剤の種類にもよるが、コアシェル型の量子ドットを含む反応液に対して、0.01g/L以上1000g/L以下が好ましく、0.1g/L以上100g/L以下がより好ましい。
【0066】
前記表面処理剤の添加方法としては、反応液に表面処理剤を直接添加する方法、表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法が挙げられる。表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法で添加する場合の溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソバレロニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、フェノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸フェニル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1-デセン、1-オクタデセン、トリエチルアミン、トリn-オクチルアミン及び水等を使用することができる。
【0067】
得られたコアシェル型の量子ドットは、反応溶液中に副生成物や未反応の不純物を含んでいるため、精製処理を施してもよい。この精製処理は、コアシェル型量子ドットを含む反応溶液に、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトン、アセトニトリル等の有機溶媒を添加してコアシェル型量子ドットを沈降させ、不純物を含んだ溶液とコアシェル型量子ドットとに分離し、分離したコアシェル型量子ドットを、トルエン、ヘキサン等の有機溶媒に分散することで行うことができる。不純物を含んだ溶液とコアシェル型量子ドットとの分離は、遠心分離、デカンテーション、吸引ろ過等の操作により行うことができる。
【0068】
以上の方法で得られた本発明の量子ドットは、発光スペクトルの対称性に優れた高品質なものであり、単電子トランジスタ、セキュリティインク、量子テレポーテーション、レーザー、太陽電池、量子コンピュータ、バイオマーカー、発光ダイオード、ディスプレイ用バックライト、カラーフィルター等に好適に用いることができる。
【実施例0069】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、例中の特性は以下の方法により測定した。
(1)発光スペクトル、極大蛍光波長、半値全幅(FWHM)及び量子収率(PLQY)
絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス(株)製、Quantaurus-QY)にて励起波長400nm、測定波長200~1100nmの測定条件で、得られた量子ドットのオクタン分散液を測定した。
【0070】
[製造例1] InP量子ドット前駆体の合成
ミリスチン酸インジウム1.275gを、1-オクタデセン1.578gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して60℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、60℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン2.505gを加え、20分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
【0071】
[製造例2] InZnP量子ドットの合成
ミリスチン酸亜鉛0.0832gを、1-オクタデセン31.56gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して300℃まで昇温し、ミリスチン酸亜鉛の1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸亜鉛の1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、300℃の状態で、製造例1で得られたInP量子ドット前駆体を含む液5.4gを加えた後、270℃とした後、2分間保持してInZnP量子ドットを含む褐色の液を得た。
【0072】
[実施例1]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g、オレイルアミン0.813g及びジオクチルアミン0.799gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で得られたInZnP量子ドットの反応溶液0.925gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン0.7gに懸濁して、精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図1に示す。
【0073】
[実施例2]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g、オレイルアミン0.813g及びジベンジルアミン1.025gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で得られたInZnP量子ドットの反応溶液0.925gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジベンジルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジベンジルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン0.7gに懸濁して、精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図2に示す。
【0074】
[実施例3]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g、オレイルアミン0.813g及びジ-2-エチルヘキシルアミン0.805gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で得られたInZnP量子ドットの反応溶液0.925gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジ-2-エチルヘキシルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジ-2-エチルヘキシルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン0.7gに懸濁して、精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図3に示す。
【0075】
[実施例4]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g、オレイルアミン1.304g及びジベンジルアミン0.410gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で得られたInZnP量子ドットの反応溶液0.925gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジベンジルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジベンジルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン0.7gに懸濁して、精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図4に示す。
【0076】
[実施例5]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g、オレイルアミン0.650g、ジベンジルアミン0.820g及び1-オクタデセン0.316gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で得られたInZnP量子ドットの反応溶液0.925gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジベンジルアミン/1-オクタデセン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジベンジルアミン/1-オクタデセン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン0.7gに懸濁して、精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図5に示す。
【0077】
[比較例1]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g及び1-オクタデセン1.578gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で合成したInZnP量子ドットを含む液0.925gを加えて230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットの1-オクタデセン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットの1-オクタデセン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSeS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、オクタン0.7gに懸濁して精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図6に示す。
【0078】
[比較例2]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g及びオレイルアミン1.626gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で合成したInZnP量子ドットを含む液0.925gを加えて230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、オクタン0.7gに懸濁して精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図7に示す。
【0079】
[比較例3]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g及びジオクチルアミン1.599gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で合成したInZnP量子ドットを含む液0.925gを加えて230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットのジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのジオクチルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、オクタン0.7gに懸濁して精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図8に示す。
【0080】
[比較例4]
オレイン酸亜鉛0.1885g、塩化亜鉛0.102g、トリオクチルホスフィンセレニド0.112g、トリオクチルホスフィン0.332g及びトリオクチルアミン1.618gを10mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、製造例2で合成したInZnP量子ドットを含む液0.925gを加えて230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInZnP、シェルにZnSeを有するInZnP/ZnSe量子ドットのトリオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、ドデカンチオール0.423gを注入し、90分間保持することにより、コアにInZnPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのトリオクチルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSeS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン0.866gに懸濁してInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン15gを加えて撹拌し、遠心分離によりInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInZnP/ZnSe/ZnS量子ドットを、オクタン0.7gに懸濁して精製InZnP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた分散液の発光スペクトルを測定した結果を図9に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1の結果から、実施例1と比較例2のFWHM値は同等であるものの、実施例1の方が比較例2よりもPLQY値が高く優れていることが判る。実施例1と比較例1のPLQY値は同等であるものの、実施例1の方が比較例1よりもFWHM値が狭く優れていることが判る。比較例3は実施例1と比べてFWHM値及びPLQY値の両方で劣っていることが判る。また、図1図9から、実施例1~5の発光スペクトルは、比較例1~4の発光スペクトルと比べて、テールやショルダーが抑えられ、対称性に優れていることが判る。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9